説明

タイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置及び製造方法

【課題】タイヤ又はタイヤ構成部材の製造において、ロボットアームによる物体の移動範囲を広くして、ロボットによる作業領域を拡大する。
【解決手段】ロボット1の一対のロボットアーム20を駆動してロボットハンド15を移動させ、ロボットハンド15により物体を保持して移動させる。ロボット本体10を、昇降装置30により上下方向に移動させ、かつ、移動装置40により水平面内の直交する2方向に移動させて、ロボット本体10に設けられたロボットアーム20を、互いに直交する3方向の各方向に移動させる。基部11を中心に胴体部12を旋回させて、ロボットアーム20を旋回させる。制御装置50により3方向への移動や旋回を制御して、ロボットアーム20を各方向に変位させ、ロボットハンド15をロボットアーム20の稼動範囲と変位範囲の任意の位置に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームにより物体を保持して移動させるロボットを用いて、タイヤ又はタイヤ構成部材を製造するタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤやタイヤ構成部材の製造工程では、物体を移動させるロボットアームを有するロボットが広く使用されている。また、このようなロボットとして、従来、一対のロボットアームにより、その各ハンドで部品を把持して移動させ、設定された各作業を行う産業用の双腕ロボットが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−188699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような従来のロボットでは、ロボットアームを稼動させて物体を移動させるため、物体の移動範囲がロボットアームの稼動範囲に制限され、ロボットによる作業領域も限定されて狭くなる傾向がある。その際、特に、高さ方向の移動範囲が制限され易く、高さ方向に大きな移動を伴う作業ができずに、例えば、部材を搬送して上下方向に順に積み込む作業や積み降ろす作業に適宜対応できないことがある。また、複数場所から部材を移動させ、或いは、複数場所へ部材を移動させる必要があるときにも、それら各移動場所の設定範囲が制限され、各作業に充分に対応できない虞もある。これに伴い、ロボットの周囲に配置される、物体の移動先や移動元の装置や台車等のレイアウトも制限されるため、スペースを有効に活用できない、という問題も生じる。
【0005】
本発明の目的は、タイヤ又はタイヤ構成部材の製造において、ロボットアームによる物体の移動範囲を広くして、その範囲の任意の位置に物体を移動可能にし、ロボットによる作業領域を拡大することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、物体を移動させるロボットアームを有するロボットを備えたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置であって、ロボットが、互いに直交する3方向の各方向に移動するための移動手段と、移動手段による各方向への移動を制御してロボットアームを変位させる移動制御手段と、を備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載されたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置において、ロボットが、前記3方向中の1方向に沿う旋回軸回りに旋回するための旋回手段と、旋回手段による旋回を制御してロボットアームを変位させる旋回制御手段と、を備えたことを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載されたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置において、ロボットが、一対のロボットアームを有することを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項3に記載されたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置において、ロボットが、環状部材に当接して支持する各ロボットアームに設けられた支持部材と、一対のロボットアームの支持部材を、環状部材を挟んで接近又は環状部材内で離間させ、各支持部材を環状部材に外側から又は内側から当接させて、支持部材により環状部材を支持する手段とを備え、一対のロボットアームにより環状部材を支持して移動させることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項4に記載されたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置において、支持部材が、一方のロボットアームに少なくとも1つ、他方のロボットアームに少なくとも2つ設けられ、一対のロボットアームが、少なくとも3つの支持部材により環状部材を支持することを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載されたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置によりタイヤ又はタイヤ構成部材を製造する製造方法であって、ロボットアームによりタイヤ又はタイヤ構成部材又はタイヤ構成部材の素材を移動させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、タイヤ又はタイヤ構成部材の製造において、ロボットアームによる物体の移動範囲を広くして、その範囲の任意の位置に物体を移動させることができ、ロボットによる作業領域を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態のロボットを模式的に示す要部正面図である。
【図2】図1の左方から見たロボットの要部側面図である。
【図3】本実施形態のロボットが備える昇降装置の要部を示す斜視図である。
【図4】本実施形態のロボットが備える移動装置の要部を示す斜視図である。
【図5】本実施形態のタイヤ構成部材の製造装置を示す平面配置図である。
【図6】図5のタイヤ構成部材の製造装置の要部を示す斜視図である。
【図7】ロボットアームに設けられたロボットハンドを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置と製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態のタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置は、物体を保持して移動させる1又は複数のロボットアームを有するロボットを備え、ロボットを用いてタイヤやタイヤ構成部材を製造する。以下では、2つのロボットアームを有する産業用の双腕ロボットを備えた製造装置を例に採り、まず、ロボットについて説明する。
【0010】
図1は、本実施形態のロボットを模式的に示す要部正面図であり、図2は、図1の左方から見たロボットの要部側面図である。
ロボット1は、図示のように、ロボット本体10と、ロボット本体10が載置された昇降装置30と、昇降装置30の下側に設けられた移動装置40と、全体を制御するロボットコントローラである制御装置50とを備えている。
【0011】
ロボット本体10は、昇降装置30に固定された基部11と、基部11を中心に旋回(図1の矢印θ)する胴体部12と、胴体部12の頂部に設けられた、移動させる物体等の検知センサを有するセンサ部13と、胴体部12の両側部に設けられた一対の肩部14とを備えている。また、ロボット本体10は、肩部14に各々連結された一対のロボットアーム20と、その各先端部に設けられたロボットハンド15とを備え、ロボットアーム20を駆動して、ロボットハンド15により物体を掴む等して保持して移動させる。更に、ロボット本体10は、以上の各部をそれぞれに応じて駆動する各種アクチュエータや駆動機構、それらを作動させる駆動源等からなる各駆動手段(図示せず)を備えている。
【0012】
ロボットアーム20は、複数の関節を有する多関節アームであり、ここでは、肩部14から順に設けられた3つの関節21、22、23と、それらの間を順に連結する2つのリンク(腕部)24、25とを有する。また、このロボットアーム20は、各関節21、22、23(又は、その近傍)において、それぞれ互いに異なる2方向に回動(屈曲)や回転(ねじり)等が可能に構成され(図1、図2の矢印K1〜K6)、リンク24、25やロボットハンド15が合計6方向に回動や移動等する。各ロボットアーム20は、これら6軸の機構により6自由度を有しており、リンク24、25やロボットハンド15を各方向へ動かし、それらを適宜組み合わせて各部の座標や全体の姿勢を設定しつつ、ロボットハンド15を、移動可能範囲内の任意の位置に移動させて任意の状態に配置する。
【0013】
また、ロボット本体10は、昇降装置30により垂直方向(図1、図2のZ方向)に移動して昇降するとともに、昇降装置30と一体に、移動装置40により、水平面内で互いに直交する2方向(図1のX方向と図2のY方向)に移動する。本実施形態では、これら互いに直交するX、Y、Z方向を、それぞれロボット本体10の左右、前後、上下方向に対応させて設定し、ロボット本体10を各方向の移動軸(X、Y、Z軸)に沿って移動させる。従って、ロボット1は、一対のロボットアーム20の12軸(6軸+6軸)と、胴体部12の旋回による1軸と、X、Y、Z軸の3軸とにより合計16軸(16自由度)を有し、軸毎に制御されて各動作を実行する。その際、ロボット1は、昇降装置30と移動装置40とを独立に作動させ、各方向への移動を組み合わせて、ロボット本体10とロボットアーム20を任意の位置に変位させる。
【0014】
図3は、ロボット1が備える昇降装置30の要部を示す斜視図である。
昇降装置30は、市販の昇降リフターであり、図示のように、上下に対向して配置された矩形板状の上板31及び枠体32と、それらを連結する伸縮可能なリンク機構33と、リンク機構33を伸縮させる駆動手段34とを有する。昇降装置30は、駆動手段34(ここではピストン・シリンダ機構)を作動させて、シリンダ34Sからピストンロッド34Pを進退させ、リンク機構33の伸縮可能に連結された複数のリンク33Rに伸縮方向の力を作用させる。これにより、リンク機構33を伸縮させて、枠体32に対して上板31を接近、離間させ、上板31上のロボット本体10をZ方向の両方向に移動させる。また、昇降装置30は、駆動手段34によるピストンロッド34Pの進退量と、それに応じたリンク機構33の伸縮量が制御可能になっており、駆動手段34を作動及び停止させて、ロボット本体10をZ方向の任意の位置で停止させる。
【0015】
図4は、ロボット1が備える移動装置40の要部を示す斜視図である。
移動装置40は、ここでは、XYステージからなり、その上面上に設置された昇降装置30を、X、Y方向を含む水平面内で移動可能に支持する。また、この移動装置40は、架台41と、その上面にY方向に沿って配置された2本のガイドレール42と、各ガイドレール42上をY方向に移動自在なスライダ(図示せず)と、スライダに固定された第1の移動テーブル43とを有する。更に、移動装置40は、第1の移動テーブル43上にX方向に沿って配置された2本のガイドレール44と、各ガイドレール44上をX方向に移動自在なスライダ(図示せず)と、スライダに固定された第2の移動テーブル45とを有する。移動装置40は、昇降装置30を、第2の移動テーブル45とともにガイドレール44に沿ってX方向に移動させ、かつ、第1の移動テーブル43とともにガイドレール42に沿ってY方向に移動させる。
【0016】
加えて、移動装置40は、各移動テーブル45、43を、それぞれX方向とY方向に移動させて任意の位置で停止させるX方向駆動手段46とY方向駆動手段(図示せず)とを有する。X方向駆動手段46は、X方向に延びるネジ軸47と、第1の移動テーブル43に固定されてネジ軸47を両方向に回転させるステッピングモータ48と、ネジ軸47に螺号する、第2の移動テーブル45の下面に固定されたナット(図示せず)とからなる。X方向駆動手段46は、ステッピングモータ48によりネジ軸47を回転させて所定の回転数で停止させ、ナットを介して、第2の移動テーブル45をX方向に移動させて所定位置で停止させる。移動装置40は、このX方向駆動手段46と、同様に構成されるY方向駆動手段とにより、移動テーブル45、43を互いに独立して各方向に移動させ、昇降装置30とロボット本体10を、水平面内の任意の位置に連続して移動させる。
【0017】
ロボット1(図1、図2参照)は、これら昇降装置30と移動装置40とにより、互いに直交する異なる3方向の各方向に移動するための移動手段2を構成し、その3軸移動機構によりX、Y、Z方向にそれぞれ移動する。また、ロボット1は、上記した旋回θする胴体部12により、移動手段2の3方向中のいずれか1方向(ここではZ方向)に沿う旋回軸回りに旋回するための旋回手段3を構成し、移動手段2によるX、Y、Z方向の移動と独立して、旋回軸を中心に両方向に旋回する。その際、ロボット1は、制御装置50により制御されて、これら移動手段2や旋回手段3により移動や旋回しつつ、ロボット本体10の各部を作動させて、物体の移動動作や作業等を実行する。
【0018】
制御装置50は、ロボット本体10内に内蔵、又は外部に設置され、例えばマイクロプロセッサ(MPU)51、各種プログラムを格納するROM(Read Only Memory)52、及びMPU51が直接アクセスするデータを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)53が設けられたコンピュータを備えている。また、制御装置50は、接続手段を介し、ロボット1の各部が接続されて制御信号や各種データを送受信し、上記したロボット1が有する16軸を含む各部を制御して、予め設定されたタイミングや条件で関連動作させる。このようにして、制御装置50は、移動手段2(昇降装置30及び移動装置40)による各方向への移動を制御してロボットアーム20を移動させ、その3方向(X、Y、Z方向)の位置を全体として変更して、ロボットアーム20を、移動手段2による移動可能範囲内の任意の位置に変位させる。併せて、制御装置50は、旋回手段3(胴体部12)による旋回を制御してロボットアーム20を旋回させ、その旋回方向(θ方向)の位置を全体として変更して、ロボットアーム20を、旋回手段3による旋回可能範囲内の任意の位置に変位させる。
【0019】
従って、制御装置50は、ロボットアーム20の移動や旋回による変位を制御する移動制御手段や旋回制御手段を構成し、ロボットアーム20を、移動手段2によるX、Y、Z方向及び旋回手段3によるθ方向のいずれか1方向に、又は、2以上の方向を適宜組み合わせて変位させる。ロボット1は、この変位とロボットアーム20自体の6軸の各動きとを組み合わせて、ロボットハンド15を周囲の空間の任意の位置に移動させて物体等にアクセスさせ、物体の保持や移動、又は、物体の移載等の動作を実行する。その際、ロボット1は、一方のロボットアーム20により、又は両方のロボットアーム20により同期して物体の移動等の動作を行うだけでなく、ロボットアーム20毎に異なる動作を行うことができる。
【0020】
次に、この一対のロボットアーム20を有するロボット1を、タイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置(以下、単に製造装置という)に設置し、ロボット1を用いてタイヤ又はタイヤ構成部材を製造する製造工程(製造方法)について説明する。また、以下では、タイヤ構成部材として、コード材料からなる環状のビードコアの外周に、ゴム材料からなるビードフィラを貼り付けて合体させ、ビードコアと半径方向外側に延びるビードフィラからなる環状のビード部材を製造する例を説明する。その際、ロボット1は、一対のロボットアーム20のロボットハンド15により、環状部材であるビードコアとビード部材を支持して移動させ、各工程に応じて所定位置に配置する。
【0021】
図5は、本実施形態の製造装置60を示す平面配置図であり、その概略構成を模式的に示している。
製造装置60は、図示のように、ロボット1と、複数のビードコア91をストックする2つのストック部61と、ビードコア91にビードフィラ(図示せず)を配置する2つの配置手段70と、製造後のビード部材90を積み込む積込台車(ブッキング台車)62とを備えている。この製造装置60では、ロボット1の移動装置40を囲んで、2つのストック部61をロボット1の左右両側に、かつ、積込台車62と配置手段70をロボット1の前側と後側に配置している。また、2つの配置手段70を、ロボット1の左右の後側に並べて配置するとともに、それらの隣に、各配置手段70にビードフィラを供給する供給手段80を配置している。
【0022】
製造装置60は、上記のようにロボット1を駆動して、そのロボットアーム20、ロボットハンド15、移動手段2、及び、旋回手段3を、ビード部材90の製造の各工程に応じて作動させる。これにより、ロボット本体10を移動装置40上の所定位置に移動させ、併せて、昇降や旋回動作を実行させて、ロボットアーム20を変位させつつロボットハンド15を移動させ、ロボットハンド15により、環状部材の保持や解除を含む後述する各作業を行う。このロボットハンド15で、ストック部61の1つのビードコア91を保持して配置手段70に移動させ、製造後のビード部材90を配置手段70から積込台車62のパレット(棚)62Pに移載する。その際、ロボット1は、2つのストック部61に交互にアクセスし、それぞれのビードコア91を、各ストック部61に隣接する側の配置手段70に移動させ、2つの配置手段70からビード部材90を交互に積込台車62に移動させる。次に、ロボット1により、一方のストック部61のビードコア91を移動させて、1つのビード部材90を製造する手順や動作を説明する。
【0023】
図6は、図5の製造装置60の要部を示す斜視図である。
製造装置60は、図示のように、ロボット1によりストック部61の支持梁61Aから1つのビードコア91を取り外し、ロボット1を移動させつつ旋回させて、ビードコア91を配置手段70まで移動させる。続いて、ビードコア91を、配置手段70に設けられた円盤状の回転体71に移載し、その上面に同芯状に取り付けて、ビードコア91を配置手段70により保持する。次に、供給手段80の繰出装置81から所定長さのビードフィラ92を繰り出し、ビードフィラ92を、複数の搬送ローラからなる搬送装置82により搬送して、回転体71上のビードコア91に向けて供給する。また、ビードフィラ92の供給に同期して、回転体71及びビードコア91を回転させ、貼付装置72により、ビードフィラ92を所定位置に案内して、回転するビードコア91の外周に沿って一周配置する。同時に、貼付装置72によりビードフィラ92をビードコア91に押し付け、ビードコア91の外周にビードフィラ92を圧着して貼り付け、それらを合体させてビード部材90を形成(製造)する。
【0024】
続いて、製造装置60は、回転体71の回転を停止して、ロボット1によりビード部材90を回転体71から取り外し、ロボット1を移動させつつ旋回させて、ビード部材90を積込台車62まで移動させる。このビード部材90を、積込台車62のパレット62P上に平らに載置し、ロボット1によるビード部材90の保持を解除して、1つのビード部材90の製造を完了させる。また、製造装置60は、ロボット1により、左右のストック部61から交互にビードコア91を移動させて上記した各手順を繰り返し、ビード部材90を積込台車62の複数のパレット62Pに順次積み込む。その際、積込台車62の上下に並んだ複数のパレット62Pを下から順に倒して、ビード部材90を下から上に積み上げ、又は、複数のパレット62Pを上から順に起こして、ビード部材90を上から下に積み下げる。これに合わせて、ロボット1は、各パレット62Pの高さに応じて上下方向に移動する。また、ロボット1は、装置のレイアウトに応じて、各作業位置への移動時にも、X、Y、Z方向への移動と旋回とを行い、一対のロボットアーム20を適宜変位させる。
【0025】
ここで、ビード部材90は、外周にゴム材料であるビードフィラ92があるため、ロボットハンド15により内側(内周部)から保持されて、ロボットハンド15がビードフィラ92に接触することなく移動する。これに対し、ビードコア91は、単体では、内側からでも外側(外周部)からでも保持可能であり、いずれかの側(ここでは内側)からロボットハンド15により保持されて移動する。また、本実施形態のロボット1は、各ロボットアーム20の先端に支持部材を備え、このロボットアーム20に設けられた支持部材をロボットハンド15として使用し、各支持部材を環状部材に当接させて支持するようになっている。
【0026】
図7は、このロボットアーム20に設けられたロボットハンド15を示す模式図である。
ロボットハンド15(図7A参照)は、2つのロッド状の支持部材15Aと、それらの基端部同士を連結する基端部材15Bとを有し、2つの支持部材15Aが所定距離を隔てて平行に配置されている。ロボット1は、一対のロボットハンド15を環状部材(ここではビードコア91)の内側に配置し、それらを互いに離間させて、4つの支持部材15Aの所定位置(支持部S)を、ビードコア91の内周(図7B参照)に当接させる。これにより、ビードコア91を、4つの支持部Sにより、周方向に離れた4点で内側から均等に支持する。
【0027】
なお、ロボットハンド15(図7C参照)は、2つの支持部材15Aの突端部間を連結部材15Cにより連結して矩形枠状に形成してもよく、同様に支持部Sを有する三角形状や楕円形状等の他の形状に形成してもよい。また、ロボットハンド15は、ビードコア91を外側から支持するときには、一対のロボットハンド15を、ビードコア91を挟んで外側に配置し、一対のロボットハンド15をビードコア91に両側から接近させる。これにより、各支持部材15A(図7Bの点線参照)をビードコア91の外周に当接させて、4つの支持部Sによりビードコア91を外側から均等に支持する。
【0028】
このように、ロボット1は、支持部材15A等により環状部材の支持手段を構成し、一対のロボットアーム20に設けられた支持部材15Aを環状部材を挟んで接近させ、各支持部材15Aを環状部材に外側から当接させる。又は、一対のロボットアーム20の支持部材15Aを環状部材内で離間させ、各支持部材15Aを環状部材に内側から当接させる。ロボット1は、これら各支持部材15Aにより、環状部材を、変形等を抑制しつつ複数箇所で支持する。ただし、環状部材は、各ロボットハンド15の支持部材15Aの数を増減させて、3点や5点以上で支持する等、少なくとも3点で支持すればよい。即ち、支持部材15Aは、一方のロボットアーム20に少なくとも1つ、他方のロボット20に少なくとも2つ設ければよく、この場合には、一対のロボットアーム20は、少なくとも3つの支持部材15Aにより環状部材を支持する。
【0029】
以上説明したように、本実施形態では、ロボット1(図1、図2参照)に、互いに直交する3方向の各方向に移動するための移動手段2を設け、移動手段2により各方向への移動を制御してロボットアーム20を変位させる。そのため、ロボットハンド15を、ロボットアーム20自体の稼動範囲に加えて、移動手段2による各変位範囲にも移動させて任意の位置に配置でき、ロボットアーム20による物体の移動範囲や、ロボット1による作業領域を大きくすることができる。その際、高さ方向(Z方向)の移動範囲の制限を緩和して、高さ方向に大きな移動を伴う作業も容易に行えるため、例えば、部材を搬送して上下方向に順位積み込む作業や積み降ろす作業に適宜対応して、各作業を正確に実施できる。また、複数場所から部材を移動させ、或いは、複数場所へ部材を移動させる必要があるときにも、それら各移動場所の設定範囲の制限が小さく、各作業に充分に対応できる。これに伴い、ロボット1の周囲に配置される、物体の移動先や移動元の装置や台車等のレイアウトの制限も緩和され、スペースを有効活用できる。
【0030】
従って、本実施形態によれば、タイヤ又はタイヤ構成部材の製造において、ロボットアーム20による物体の移動範囲を広くして、その範囲の任意の位置に物体を移動させることができ、ロボット1による作業領域を拡大することができる。併せて、ここでは、旋回手段3による旋回を制御してロボットアーム20を変位させるため、旋回方向にも物体を移動させて、その移動範囲やロボット1の作業領域を一層拡大できる。また、このロボット1は、一対のロボットアーム20を有する双腕ロボットであり、ロボットアーム20の先端(ロボットハンド15)に複雑な機構や構成を採用しなくても、一対のロボットアーム20を使用して、それらの両端部で物体を挟む等して、物体を保持して移動させることができる。
【0031】
ここで、本実施形態のロボット1は、上記した部材を複数場所へ移動させつつ、上下方向(Z方向)へも移動させて高さを調整する必要があるタイヤ構成部材(又はタイヤ)の製造装置や製造工程に好適であり、特に、Z方向への移動に対して有効である。また、このロボット1は、タイヤ又はタイヤ構成部材の製造時に、製造工程の進行等に応じて、ロボットアーム20により、タイヤ、各種のタイヤ構成部材、又は、タイヤ構成部材の素材(形成中のタイヤ構成部材や中間体に加えて、タイヤ構成部材各部の材料や素材を含む)を移動させることができる。このように、ロボット1を用いることで、ビードコア91やビード部材90だけでなく、他の環状のコード材料やゴム材料、他のタイヤ構成部材やその素材、又は、未加硫や加硫済みのタイヤを、上記と同様に、人手によることなく各々移動させてパレットに積み込む等して、製造の各工程を自動化できる。
【0032】
また、この製造装置60では、一対のロボットアーム20に設けた支持部材15A(図7参照)をロボットハンド15として使用し、それらを環状部材に当接させて、環状部材を外側又は内側から支持する。そのため、ロボットハンド15を交換せずに、かつ複雑な動作を行うことなく、環状部材の種類や形状に応じて、それぞれ外側又は内側から支持できるとともに、複数サイズや多形状の環状部材を支持して移動させることができる。その際、少なくとも3つの支持部材15Aで環状部材を支持すれば、環状部材を充分に安定させて移動できるが、一対のロボットアーム20に計4つ又は5つ以上の支持部材15Aを設けて、環状部材を4点以上で支持するのがより望ましい。このようにすることで、環状部材をより安定させて支持しつつ移動させることができる。また、外周にビードフィラ92等のゴム部材が設けられた環状部材は、その内側に支持部材15Aを当接させて支持するのが望ましく、これにより、外周のゴム部材の変形を防止できる。
【0033】
なお、1台のロボット1に対し、1つのビード部材90を形成するための一連の形成装置を複数組み(図5では2組み)配置することで、1組みの形成装置によるビード部材90の形成作業の間に、ロボット1により他の作業や工程を実施できる。即ち、例えば、1つの配置手段70によるビードフィラ92の配置作業中に、ロボット1が他の形成装置に対し作業して、形成後のビード部材90のパレット62Pへの積み込みや、次のビードコア91の回転体71への移載が行える。このように、本発明は、複数の装置に対する作業や工程を1台のロボット1で行うときに、その効果がより顕著に発揮され、各作業等を適宜組み合わせることで、それらの合間の時間を有効活用して生産効率を向上できる。その際、上記(図5参照)のような複数組みの形成装置を、ロボット1を挟んで略対称に配置するときには、ロボット1により各形成装置での工程を略対称な動作で行えるため、ロボット1の動作範囲や時間の無駄を削減して、作業効率を一層向上できる。
【0034】
また、製造装置60(図6参照)によりビード部材90を製造するときには、供給手段80から、押出成形して冷却した後、一旦ストックした1枚のビードフィラ92をビードコア91に供給してもよく、供給手段80に設置した押出機から1枚のビードフィラ92を押し出しつつビードコア91に供給してもよい。また、これら1枚のコールドゴムやホットゴムではなく、ゴムストリップを供給してビードコア91の外周に順に巻き付けて、ビードフィラ92を形成するようにしてもよい。このようなビードフィラ92は、特開2001−179847号公報や特開2006−76200号公報に記載された方法や装置等を適用して形成できる。
【0035】
以上、ロボット1をタイヤ構成部材の製造装置60で使用する例を説明したが、このロボット1は、タイヤ構成部材の全てを包含するタイヤ製造にも適用可能である。また、本実施形態では、ロボット本体10(図1参照)の胴体部12を旋回させてロボットアーム20を変位させたが、ロボット本体10と昇降装置30との間に旋回手段を設ける等、胴体部12以外を旋回させるようにしてもよい。これに対し、ロボットアーム20は、ロボット1の使用環境や作業内容等に応じて、上記した6軸に限らず、より多い、又は少ない軸数にして、6自由度以外の自由度を有するようにしてもよい。ただし、ロボットアーム20は、物体の各移動や作業等に適切に対応させる観点から、6以上の自由度を有するように構成するのが望ましい。更に、ロボットアーム20は、ロボット1に1つ又は3つ以上設けてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1・・・ロボット、2・・・移動手段、3・・・旋回手段、10・・・ロボット本体、11・・・基部、12・・・胴体部、13・・・センサ部、14・・・肩部、15・・・ロボットハンド、20・・・ロボットアーム、21、22、23・・・関節、24、25・・・リンク、30・・・昇降装置、31・・・上板、32・・・枠体、33・・・リンク機構、33R・・・リンク、34・・・駆動手段、40・・・移動装置、41・・・架台、42・・・ガイドレール、43・・・第1の移動テーブル、44・・・ガイドレール、45・・・第2の移動テーブル、46・・・X方向駆動手段、47・・・ネジ軸、48・・・ステッピングモータ、50・・・制御装置、51・・・MPU、52・・・ROM、53・・・RAM、60・・・製造装置、61・・・ストック部、62・・・積込台車、62P・・・パレット、70・・・配置手段、71・・・回転体、72・・・貼付装置、80・・・供給手段、81・・・繰出装置、82・・・搬送装置、90・・・ビード部材、91・・・ビードコア、92・・・ビードフィラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を移動させるロボットアームを有するロボットを備えたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置であって、
ロボットが、互いに直交する3方向の各方向に移動するための移動手段と、移動手段による各方向への移動を制御してロボットアームを変位させる移動制御手段と、を備えたことを特徴とするタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置において、
ロボットが、前記3方向中の1方向に沿う旋回軸回りに旋回するための旋回手段と、旋回手段による旋回を制御してロボットアームを変位させる旋回制御手段と、を備えたことを特徴とするタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置において、
ロボットが、一対のロボットアームを有することを特徴とするタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置において、
ロボットが、環状部材に当接して支持する各ロボットアームに設けられた支持部材と、一対のロボットアームの支持部材を、環状部材を挟んで接近又は環状部材内で離間させ、各支持部材を環状部材に外側から又は内側から当接させて、支持部材により環状部材を支持する手段とを備え、一対のロボットアームにより環状部材を支持して移動させることを特徴とするタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載されたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置において、
支持部材が、一方のロボットアームに少なくとも1つ、他方のロボットアームに少なくとも2つ設けられ、
一対のロボットアームが、少なくとも3つの支持部材により環状部材を支持することを特徴とするタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載されたタイヤ又はタイヤ構成部材の製造装置によりタイヤ又はタイヤ構成部材を製造する製造方法であって、
ロボットアームによりタイヤ又はタイヤ構成部材又はタイヤ構成部材の素材を移動させる工程を有することを特徴とするタイヤ又はタイヤ構成部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−42024(P2011−42024A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193583(P2009−193583)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】