説明

タンタル被覆鋼構造体を接合する方法

本発明は、タンタル被覆鋼構造物を接合するための方法に関する。この方法は広くは、a)第1のタンタル被覆区分を提供し、前記第1のタンタル被覆区分が、鋼の層の上にタンタル層を有しており、これらの間に選択的に接合層を備えており、縁部領域における前記鋼の層の一部が、前記タンタル層又は前記接合層によって被覆されておらず、b)第2のタンタル被覆区分を提供し、前記第2のタンタル被覆区分が、鋼の層の上にタンタル層を有しており、これらの間に選択的に接合層を備えており、縁部領域における前記鋼の層の一部が、前記タンタル層又は前記接合層によって被覆されておらず、c)前記鋼の縁部領域を互いに隣接して配置し、d)鋼の縁部領域を溶接し、e)タンタル粉体を、溶接された縁部領域と、前記縁部領域に隣接したタンタル層との上に低温噴霧し、これにより、タンタル被覆鋼区分を接合することを含む。本発明は、タンタル粉体を低温噴霧することによって形成されたタンタル溶接又は接合にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
タンタルは、高い耐食性を有する、バイオフレンドリーな金属である。その結果、タンタルは、化学的及び薬学的処理工業において反応器、熱交換器、管、及び同様のものにおいて広く使用されている。タンタルは極めて高価であるので、この機器において使用される構造的な部材はしばしば、処理流体との相互作用を回避するために、タンタルの薄いシートで被覆された、強度の目的のための鋼又はステンレス鋼区分から形成されている。タンタルシートが、容器全体のための腐食保護を提供するために、このようなシートは、単一の不透過性片になるように結合されなければならない。多くの技術が使用されてきたが、全ての技術は費用が高く、深刻な欠点を有しており、基本的なタンタル被覆鋼区分の費用を必要以上に高くさせる。本発明は、低費用で、化学的耐性のある、材料及び労働力効率のよい、タンタルシートを接合する手段を提供する。
【0002】
低温噴霧又は運動噴霧(米国特許第5302414号明細書、米国特許第6502767号明細書、及び米国特許第6759085号明細書参照)は、多くの産業上の製造取り組みを解決するために採用されている振興の産業技術である(例えば、米国特許第6924974号明細書、米国特許第6444259号明細書、米国特許第6491208号明細書、及び米国特許第6905728号明細書参照)。低温噴霧は、粉体粒子を高速に急速に加速させるために高速ガスジェットを使用し、粒子が表面に衝突すると、粒子は表面に付着し、一体的な、十分に結合された、高密度の塗膜を形成する。様々な基板(鋼を含む)へのタンタル粉体の低温噴霧は提案されている(例えば、"Analysis of Tantalum Coating Produced by the Kinetic Spray Process"、Van Steenkiste他、Journal of Thermal Spray Technology、第13巻、第2号、2004年6月、第265頁−第273頁;"Cold spraying - innovative layers for new applications"、Marx他、Journal of Thermal Spray Technology、第15巻、第2号、2006年6月、第177頁−第183頁;"The Cold Spray Process and Its Potential for Industrial Applications"、Gaertner他、Journal of Thermal Spray Technology、第15巻、第2号、2006年6月、第223頁−第232頁)。これは全て、従来の溶射プロセスの場合に行われるようにタンタル粉体を融点の近く又は融点よりも高く加熱する必要なく行われる。高密度の塗膜が低温で形成されることができることは、多くの利点を提供する。このような利点は、低減された酸化、高密度の堆積物、固体状態の圧縮、熱により誘発される応力の不在、及び特に、この場合、基板加熱の不在を含む。このことは決定的である。なぜならば、溶融Ta溶接プールにおけるような高温において、Taは、鋼及びステンレス鋼の基本的部材を融解させ、その結果、タンタルに、脆性でかつ耐食性でない相が形成されるからである。
【0003】
上述のように、タンタルは、化学的に攻撃的な液体を処理する産業において、好適な耐食性材料である。厚い構造用部材として使用されるよりもむしろタンタルの高い費用により、タンタルは、鋼又はステンレス鋼における保護用被覆材として薄い層において頻繁に使用される。高温ろう付け(米国特許第4291104号明細書)、低温はんだ付け(米国特許第4011981号明細書)、拡散接合(米国特許第5693203号明細書)、爆発接合(米国特許第4291104号明細書)、フルオロエラストマ(米国特許第4140172号明細書)等の多くの技術が、タンタル被覆材を基板材料に付着させるために開発されている。
【0004】
しかしながら、プロセス反応器等の完全に機能的な容器を形成するために個々の被覆部材が接合されなければならない場合、製造の問題は困難でかつ高価になる。プロセス液体が鋼に接触するのを防止するために、被覆材は接合されなければならず、全体的な構造に強度を提供するために、鋼も融着されなければならない。融着工程の間のタンタルへの鋼の融解は、即座にタンタルの所望の特性を破壊する。したがって、全ての高温融着工程は、融着工程の間にタンタルが鋼と反応することを阻止するために、入念な接合設計及び製造技術を要求及び使用する。
【0005】
米国特許第4073427号明細書は、全ての接合されるべき構造部材の周囲全体に、機械加工された溝を提供することによって、シートを接合する問題を解決する。次いで、構造的な鋼は溶接され、タンタルが溶接された時にタンタルを鋼から隔離するために、機械加工されたタンタル当て板が溝に挿入される。次いで、タンタルシートは平らになるように曲げられることができ(タンタルシートは、当て板の挿入を許容するために最初は折り曲げられていなければならない)、最終的なタンタル溶接が行われる。さらに、伴われる高温により、最終タンタル溶接を保護するために不活性ガスを導入するために、鋼エレメントにパージ穴が設けられていなければならない。
【0006】
米国特許第4818629号明細書は、3つの当て板、すなわち1つの鋼当て板及び2つのタンタル当て板が使用されることを除き、同様のアプローチを提供する。このアプローチは、2つの溶接と、鋼裏当てシートに穿孔された複数のパージ穴とを必要とする。
【0007】
米国特許第5305946号明細書は、2つのタンタルシートの間の間隙を完全に充填する幅広の単一の当て板を提供し、次いで、タンタルシートの上部を横切ってタンタルクロージャを二重溶接することによって、上記工程を改良することを試みている。これまでに論じられた全ての引用文献は、平坦な区分を接合することの観点からこのように行われている。長い容器を形成するためにリングをリングに溶接する場合、又は管のための圧力閉鎖又はさらに容器貫通を提供するためにドームをリングに溶接する場合、問題はさらに困難になる。タンタルシートを円形パターンに曲げ、次いで、円の平面から90度曲げ、当て板を挿入し、再び平らになるように2つのタンタルシートを曲げることは、時間の浪費でありかつ困難である。
【0008】
米国特許第4459062号明細書は、タンタル保護層の汚染された溶接を被覆するためにプラズマアーク噴霧上塗りを使用する工程を説明している。まず、鋼がそれ自体に溶接され、次いで、タンタルがそれ自体に溶接される。タンタルは鋼と緊密に接触しているので、鋼はタンタル溶接を汚染し、溶接の耐食性が著しく低減される。高温プラズマアーク噴霧は、汚染された溶接上にタンタルの保護層を提供するために使用される。これらの接合は、大きな構造物において使用されるので、接合は通常空気中で行われなければならず、ひいては高温プラズマアークがプラズマの極めて高温によりタンタルシート及びタンタル粉体を酸化させる。その結果、酸素含有量の高い堆積物における多孔性の層状構造が生じる。多孔性及び多孔性結晶粒界は浸透効果により耐食性を低減し、高い酸素含有量は、き裂を生じやすくかつ運転中に破損するおそれがある(タンタルシートよりも)より延性でない堆積物を生ぜしめる。さらに、塗膜は高温で塗布され、タンタルの熱膨張率は鋼の熱膨張率のほぼ2倍であるので、構造物が冷却すると、脆性プラズマ噴霧堆積物が、引張り応力の状態に曝され、この応力は潜在的に塗膜のき裂及び破損につながるおそれがある。
【0009】
米国特許第6749002号明細書は、物品を噴霧接合する方法を記載している。この特許は、低温噴霧及び多くのタイプの高温噴霧形成技術(例えばプラズマ及びツインワイヤアーク噴霧)が使用されることができることを示している。しかしながら、方法は、物品の少なくとも1つが、噴霧形成された鋼物品でなければならず、噴霧される粒子は鋼粒子でなければならないという点で、著しく制限されている。明らかにこの方法は、少なくとも1つの鋼部材を含む構造用鋼接合を形成するために使用される。以下に記載される発明において、構造用鋼接合は、従来の溶接技術によって提供される。実際には、噴霧された材料が鋼に接合するという要望又は要求は存在しない。本発明において、低温噴霧される材料、この場合タンタルが、タンタル表面塗膜を接合するために、及び2つ以上の共存するTaシートの間にタンタルの不透過性耐食性層を提供するために、使用される。
【0010】
米国特許第6258402号明細書は、溶射成形された鋼工具を修理するための方法を記載している点で、さらに制限されている。この発明もまた、鋼溶射形成された部分を必要とし、この部分に、鋼溶射成形された塗膜が、損傷された又は何らかの形式で侵食された領域を充填するために使用される。さらに、溶射成形が完了すると、溶射成形された充填物は溶融され、慣用の電気溶接工程を使用して融着される。以下の発明の目的は、接合工程の間のタンタルの加熱及び特に溶融を回避することである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】接合前のタンタル被覆区分を示している。
【図2】接合された区分を示している。
【図3】重ね接合が使用された、発明の別の実施形態を示している。
【図4】二重重ね接合が使用された、発明の別の実施形態を示している。
【図5】前の粒子境界を表すためにエッチングされたタンタル低温溶射成形接合の断面の顕微鏡写真である。
【図6】1150℃で1時間半焼きなましした後の、図5に示されたのと同じ断面図である。
【0012】
発明の説明
本発明は、広くは、タンタル被覆鋼構造体を接合するための方法に関し、この方法は:
a)第1のタンタル被覆区分を提供し、前記第1のタンタル被覆区分が、鋼の層の上にタンタル層を有しており、これらの間に選択的に接合層を備えており、縁部領域における前記鋼の層の一部が、前記タンタル層又は前記接合層によって被覆されておらず、
b)第2のタンタル被覆区分を提供し、前記第2のタンタル被覆区分が、鋼の層の上にタンタル層を有しており、これらの間に選択的に接合層を備えており、縁部領域における前記鋼の層の一部が、前記タンタル層又は前記接合層によって被覆されておらず、
c)前記鋼の縁部領域を互いに隣接して配置し、
d)鋼の縁部領域を溶接し、
e)タンタル粉体を、溶接された縁部領域と、前記縁部領域に隣接したタンタル層との上に低温噴霧し、これにより、タンタル被覆鋼区分を接合する。
【0013】
本発明は、タンタル溶接部又は接合部にも関し、この場合、溶接部又は接合部は、タンタル粉体を低温噴霧することによって形成されかつ、噴霧方向に対して垂直に細長い、細長いタンタル粉体粒子から成り、粉体化された粒子は不規則な結晶配列を有する。本発明は、タンタル溶接部又は接合部にも関し、この場合、溶接部又は接合部は、タンタル粉体を低温噴霧した後に熱処理することによって形成され、噴霧された粉体とほぼ同じ大きさ又はそれよりも小さな等軸結晶粒から成り、結晶粒は、不規則な結晶配列を有している。
【0014】
1つの実施形態において、両側重ね接合が使用されてよいが、片側重ね接合が使用されてもよい。
【0015】
1つの好適な実施形態において、それぞれのタンタル被覆区分は、縁部領域におけるそれぞれの鋼の層の一部が噴霧されず、ひいては露出させられたままであるようなパターンにおいて、タンタル粉体を個々の鋼の層に直接に低温噴霧することによって製造される。この実施形態は、接合層の使用を必要としない。
【0016】
局所的な破損は、タンタル被覆容器において発生するおそれがあり、頻繁に発生する。局所的な破損は、被覆の大部分が良好であるが、小さなき裂又は微小孔が被覆に発生した場合に生じる。これは、製造の欠陥(例えば、えぐり取られたタンタル層、溶接の欠陥又は包含)、局所的な高温箇所又は不適切な工程化学から生じる可能性がある。通常の手順は、容器を入れ、欠陥を切り取り、次いで表面にパッチを溶接する。もちろん、これを行う場合、タンタル層を過熱させ、タンタル層を酸化させるか、又は溶接の下の鋼との望ましくない反応を生ぜしめる危険性がある。本発明の部分ではないが、低温噴霧は、前述のいずれの危険性をも生じることなくこれらの欠陥を修理するために使用されることができる。
【0017】
ここで使用されているように、"鋼"という用語は、鋼及びステンレス鋼を含むことが意図されている。
【0018】
本発明、すなわち低温噴霧技術を使用したタンタルシートの低温溶接は、上述の有害な相なしに高密度、低コスト、耐食性の接合を形成する。本発明はさらに、タンタル被覆対鋼結合剤は、低溶融温度はんだ付け、ろう付け材料又は構造用接着剤である。
【0019】
本発明に従うことによって、当て板が使用されないので、タンタル層及び鋼基板は、保護当て板の挿入のための位置を提供するための特別な機械加工を必要としない。明らかに、当て板又はその他の保護帯材の機械加工は必要とされない。
【0020】
好適な実施形態において、保護被覆は、被覆材を板に接合する前に所望の量の鋼基板が曝されるように、単に直線的な又は傾斜した縁部を備えて裁断されることができる。これは、溶接等の高温工程によって接合されなければならない被覆材を用いて使用される多くの折畳み及び開き作業を排除する。タンタルがどのように鋼に接合されるかに応じて、別個の接合又はろう接層は存在してもしなくてもよい。被覆区分は単に一緒に配置されてよく、単一のユニットを形成するように構造用鋼が突合せ溶接される。次いで、その結果として生じる継目が充填され、タンタル粉体を継目内及びタンタル被覆層の縁部上へ低温噴霧することによって低温溶接される。
【0021】
低温噴霧工程は低温で行われるので、低温噴霧されたタンタル接合部への鋼の有害な溶解が生じない。タンタル接合部は、完全に高密度であり、接合部性能を損なうおそれのある多孔質又は酸素ピックアップを備えない。さらに、製造後に接合部における熱により誘発された応力が存在せず、この応力は分離、座屈又はき裂につながるおそれがある。応力は、タンタル(LCTE=6.5×10-6cm(cm℃)-1と鋼(LCTE=11.7×10-6cm(cm℃)-1との間の熱膨張率の大きな相違により、全ての高温接合工程に関する問題である。運転中の熱応力を完全に排除するために、噴霧は、構成部材が250℃未満の作業温度に維持されたまま行われることができる。
【0022】
本発明は、基本的なタンタル被覆鋼部材の費用を著しく低減するための可能性をも高める。タンタル層の接合は低温において行われるので、融着接合を形成するために被覆材を溶融させる高温工程に関するような、被覆材の燃焼の可能性が存在しない。したがって、極めて小さな厚さのタンタル被覆材における確実な低温接合が可能である。本発明に従うことによって、約0.005インチ(0.127mm)(好適には約0.005インチ(0.127mm)〜約0.040インチ(1.016mm)、より好適には約0.005インチ(0.127mm)から約0.020(0.508mm)インチ、最も好適には約0.005インチ(0.127mm)から約0.010インチ(0.254mm))ほど小さなタンタルの厚さを使用することが可能である。これは、信頼できる"現場"溶接のための実質的により厚い被覆材を必要とする溶接技術と比較した場合、実質的により薄い被覆材の使用及び比例した費用節約を生じることができる(通常の溶接技術は、被覆材が約0.02インチ(0.508mm)であることを要求するのに対し、爆発接合は、0.04インチ(1.016mm)の厚さを要求する)。
【0023】
工程は比較的低温において作動するので、被覆材を鋼基板に接合するために低費用技術、例えば構造用接着剤及び非貴金属低温はんだ付け、が使用されることができる。これらのアプローチの両方は、大きな高温(〜1000℃)真空炉、大きな構造片を高温に加熱する付随するエネルギ及び労働費用、及び高価な貴金属ろう付け又は銀ろうの使用、の必要性を排除する。構造用接着剤は約300℃で分解し、低温はんだは約400℃で溶融する。溶接する必要性、すなわちタンタルの融点(2998℃)を超える必要性、又はプラズマアーク噴霧(最も低い温度は通常3000℃を超える)を使用する必要性は、鋼への被覆材の低温接合の使用を排除する。なぜならば、被覆材対被覆材のための高温工程は接合を破壊するからである。低温噴霧はこの問題を有さず、低費用被覆材料の完全な新たなクラスを接合するために使用されることができる。ほとんどのタンタル工程用途は、250℃未満の温度において作動し、ひいては、上述の接合剤の使用を許容する。
【0024】
技術分野において知られているように、低温噴霧工程において様々なガス/粉体速度が使用されることができる。概して、これらの速度は300〜2000メートル/秒である。粉体粒子は、蒸気における量において利用可能であると概して有利であり、これは、0.01〜100グラム/(秒cm2)、好適には0.01グラム/(秒cm2)から20グラム/(秒cm2)まで、最も好適には0.05グラム/(秒cm2)から17グラム/(秒cm2)までである粒子の流量密度を保証する。流量密度は公式F=m/[(π/4)・D2]に従って計算され、ここで、F=流量密度、D=cmで表したノズル直径、及びm=粉体供給量(グラム毎秒)である。
【0025】
概して、窒素等の安定したガス、又はアルゴン又はヘリウム等の不活性ガスが、金属粉体がガス/粉体混合物を形成するためのガスとして使用される。
【0026】
最後に、工程は、ニオビウム、チタン、ジルコニウム、モリブデン及びタングステン等の、保護被覆材として使用される多くの種類の金属を接合するために使用されてよい。
【0027】
図面において、同じ部材を表すために同じ番号が使用されている。図1において、2つの区分1及び2は互いに隣接して配置されている。各区分は、鋼層4上のタンタル層3を有しており、これらの間に接合又はろう付け層5が設けられている。各区分は、被覆されていない鋼層の部分(6及び7)を有している(これらの露出した区分は、図1においてのみ番号によって表されているが、各図面に示されている)。左側の区分において、部分は傾斜した縁部8を介して露出させられているのに対し、右側の区分において、部分は直線的な縁部9を介して露出させられている。傾斜縁部実施形態は概して好適である。
【0028】
タンタル被覆鋼の製造のための方法は技術分野において知られている。望まれるならば、タンタルは鋼に低温噴霧されることができる(したがって、接合又はろう付け層の必要性は排除される)。噴霧形式は、鋼の縁部が被覆されないままであるようなものであることができる。択一的に、タンタル層の部分と、存在するならば接合又はろう付け層とは、鋼縁部を露出させるために除去されることができる。
【0029】
図2に示されているように、鋼の露出した部分は溶接10されており、タンタル粉体11が、溶接された縁部及び、露出した部分に隣接したタンタル層の上に噴霧されている。
【0030】
図3は、片側重ね溶接(12)を示している。このアプローチは、溶接を形成するためにより少ないTa粉体を必要とするという利点を有するが(充填するための間隙が存在しない)、鋼構造物が溶接される場合、タンタルのより大きな(上側の)片が、曲げられ、タンタルの下側の(より小さな)片の上に、叩き付けられなければならない(別の労働作業)。
【0031】
図4は、両側重ね溶接(15)が使用された別の実施形態を示している。このアプローチは、図3に示された実施形態によって必要とされる曲げ及び叩き付け作業を排除するが、露出した鋼部分とタンタルシート14とによって形成された間隙を充填するために、2つのタンタル区分を接合するために、より多くの粉体を使用しかつタンタル当て板13を必要とする。
【0032】
反応器容器における2つのタンタル被覆鋼板の接合を実演するために、0.020インチ(0.508mm)の厚さのタンタルシートが、高温銀−銅共融ろう付けを使用して、公称3/8インチの鋼板に接合された(Bag−8、Lucas Milhaupt、ウィスコンシン州カダヒー、から市販されている)。次いで、鋼板の溶接後にタンタルシートの間に残されるであろう間隙を真似るために、タンタル被覆の長さに沿って約0.022インチ(0.5588mm)の深さ及び公称0.20インチ(5.05mm)幅に溝がミリングされた。3MPaの岐点圧で600℃に予熱された窒素ガスを使用して、寸法が15〜30ミクロンのタンタル粉体(Amperit#151, special grade, H.C.Starck Inc.から市販されている)が堆積された。ノズルの離間距離は30mmであり、粉体供給量は、約50g/minであった。鋼を被覆し、タンタル被覆の間隙を封止するために、0.040(1.016mm)〜0.060インチ(1.524mm)の低温噴霧された溶接が使用された。低温噴霧されたタンタルは、2つのシートの間の間隙を完全に充填し、鋼及びタンタルシートの両方の上にタンタルの連続した保護層を提供する。使用された低温噴霧ノズル又はガンは、Cold Gas Technology GmbH, Ampfing, Germanyから市販されているKintetiks4000であった。
【0033】
タンタルシートが不透過性の保護バリヤを提供することはよく知られているが、これは常に粉体塗装に当てはまるわけではない。粉体塗装が保護的であるために、粉体塗装は、それ自体が腐食攻撃抵抗性であるだけでなく、塗膜を通過する酸による浸透を回避するために十分に高密度(連続孔を有さない)でもなければならない。通常、塗膜が、連続孔を介した浸透を回避するために、塗膜は、95%以上の密度でなければならない。実施された試験において、低温噴霧されたタンタル塗膜の密度は通常97.5%以上であった。
【0034】
塗膜の不透過性をさらに証明するために、約0.015インチ(0.381mm)の厚さのタンタル塗膜が、公称2インチ(50.8mm)×2インチ(50.8mm)の軟鋼シート上に噴霧された。最終的な塗膜が約0.014インチ(0.3556mm)の厚さであったことを除いて、上で使用された同じ方法パラメータ及び機器が、これらの塗膜を形成するために使用された。鋼のタンタル塗装された側は、次いで、4週間、70℃に維持された20%塩酸溶剤に曝された。同じ期間、同じ酸に曝されたタンタルシートと比較して、低温噴霧されたタンタル塗膜は、タンタルシートと同様に酸に抵抗した。両方の場合において、シート及び塗膜のための測定された腐食速度は0.01mm/年であった。酸試験に曝した後、孔はほとんど存在せず、確かに連続しておらず、塗膜と鋼との間の腐食の完全な欠如によって証明されるように、塗膜は、酸に対する不透過性バリヤとして作用した。
【0035】
さらに、低温噴霧された接合部は、熱によって誘発される融着工程と比較して、溶接部の周囲に、熱影響域("HAZ")を発生しないという点において独特である。HAZは当業者によってよく知られており、理解される。熱によって誘発される融着接合において、実地は、過剰な指向性でかつ結晶学的に好適な粒子成長等の、HAZに関連した潜在的な有害作用を慎重に最小化することである。
【0036】
図5は、事前粒子境界("PPB")を露出させるためにエッチングされたタンタル低温噴霧接合部の断面の顕微鏡写真である。噴霧工程において使用された粉体は、(約1であるアスペクト比を有する粉体として定義される)塊状のほぼ等軸の粉体を生ぜしめる水素化/非水素化工程によって形成された。図5におけるPPBは等軸ではない。実際には、粉体は、噴霧方向に対して垂直な2〜3のアスペクト比を備えた形状において通常は細長い(将来は、より高いガス速度及びより高い粒子及びガス温度が使用されるので、6までのアスペクト比が得られてよいことが予想される)。さらに、電子ビーム後方散乱回折("EBSD")を使用することによって、溶接材料の結晶配列が完全に不規則であることが示されることができる。完全に不規則な結晶配列を有する、噴霧の方向に対して垂直な、細長い形状の粒子との、HAZの完全な不在の組み合わされた特性は、低温噴霧された接合の独特な特徴である。
【0037】
機械的応力の一部を解放するために又は粒子間結合強度を改良するために、噴霧された接合ポスト噴霧を熱処理することが望ましい幾つかの状況があってよい。この熱処理は、元の粉体粒子とほぼ同じ寸法の等軸晶を生じる再結晶を生じることができる。図6は、1.5時間、1150℃で焼きなましされた、図5に示されたのと同じ接合部の顕微鏡写真である。新たな等軸晶は、EBSD分析によって示されることができるように、噴霧された構造としてのオリジナルに示されたほぼ完全な不規則な結晶配列を保持する。再び、接合部は、不規則な結晶配列を有する微細な非指向性の等軸晶の独特の構造を有する。
【0038】
ある手順がここに示された又は説明されたが、ここでの基本的な教えから逸脱することなく変更が使用されることが認識されるであろう。
【符号の説明】
【0039】
1,2 区分、 3 タンタル層、 4 鋼層、 5 接合又はろう付け層、 6,7 被覆されていない鋼層の部分、 8 傾斜した縁部、 9 直線的な縁部、 10 溶接、 11 タンタル粉体、 12 片側重ね溶接、 13 タンタル当て板、 14 タンタルシート、 15 両側重ね溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタル被覆鋼構造体を接合するための方法において、
a)第1のタンタル被覆区分を提供し、該第1のタンタル被覆区分が、鋼の層の上にタンタル層を有しており、鋼の層とタンタル層との間に選択的に接合層を備えており、縁部領域における前記鋼の層の一部が、前記タンタル層又は前記接合層によって被覆されておらず、
b)第2のタンタル被覆区分を提供し、該第2のタンタル被覆区分が、鋼の層の上にタンタル層を有しており、鋼の層とタンタル層との間に選択的に接合層を備えており、縁部領域における前記鋼の層の一部が、前記タンタル層又は前記接合層によって被覆されておらず、
c)前記鋼の縁部領域を互いに隣接して配置し、
d)縁部領域を溶接し、
e)タンタル粉体を、溶接された縁部領域と、該縁部領域に隣接したタンタル層との上に低温噴霧し、これにより、タンタル被覆鋼区分を接合する
ことを特徴とする、タンタル被覆鋼構造体を接合するための方法。
【請求項2】
前記第1のタンタル被覆区分及び前記第2のタンタル被覆区分が、縁部領域におけるそれぞれの鋼の層の一部が前記粉体によって噴霧されないようなパターンにおいて、タンタル粉体を個々の鋼の層の上に低温噴霧することによって製造される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記タンタル層が、約0.005インチ〜約0.040インチの厚さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記タンタル層が、約0.005インチ〜約0.020インチの厚さを有する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記タンタル層が、約0.005インチ〜約0.010インチの厚さを有する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
タンタル溶接部又は接合部において、
溶接部又は接合部が、タンタル粉体を低温噴霧することによって形成されておりかつ、噴霧方向に対して垂直に細長い、細長いタンタル粉体粒子から成り、粉体化された粒子が、不規則な結晶配列を有することを特徴とする、タンタル溶接部又は接合部。
【請求項7】
粉体粒子が、2〜6のアスペクト比を有する、請求項6記載の溶接部又は接合部。
【請求項8】
前記アスペクト比が、2〜3である、請求項7記載の溶接部又は接合部。
【請求項9】
タンタル溶接部又は接合部において、
溶接又は接合が、タンタル粉体を低温噴霧することによって形成されておりかつ、噴霧された粉体とほぼ同じ大きさ又はそれよりも小さな等軸晶から成り、該等軸晶は、不規則な結晶配列を有することを特徴とする、タンタル溶接部又は接合部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−513712(P2010−513712A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541551(P2009−541551)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/087214
【国際公開番号】WO2008/076748
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(503153986)ハー ツェー シュタルク インコーポレイテッド (27)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck, Inc.
【住所又は居所原語表記】45 Industrial Place, Newton, MA 02461, USA
【Fターム(参考)】