説明

タンデム圧延機の動作制御方法及びこれを用いた熱延鋼板の製造方法

【課題】超微細粒鋼を製造することが可能なタンデム圧延機の動作制御方法、及び、これを用いた熱延鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】各スタンドの出側板厚を決定する出側板厚決定工程が、被圧延材の定常部を圧延するときの第1スタンドから第Nスタンドの出側板厚を決定する第1出側板厚決定工程(S11)と、被圧延材の先端圧延部を圧延するときの第1スタンドから第Nスタンドの出側板厚を決定する第2出側板厚決定工程(S12)とを含み、少なくとも被圧延材の最先端部が各スタンドに噛み込まれるまでは当該各スタンドの圧延潤滑剤を用いずに被圧延材を第2出側板厚決定工程で決定した出側板厚に圧延し、被圧延材の定常部は圧延潤滑剤を用いて第1出側板厚決定工程で決定した出側板厚に圧延する。但し第2出側板厚決定工程では、第1出側板厚決定工程よりも出側板厚が厚い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンデム圧延機の動作制御方法及びこれを用いた熱延鋼板の製造方法に関する。本発明は、例えば、熱間圧延ラインのタンデム仕上圧延機を構成する各スタンドの出側板厚を被圧延材の先端通板後に変更するタンデム圧延機の動作制御方法及びこれを用いた熱延鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延ラインにおける仕上圧延機等、複数の圧延機(スタンド)を備えるタンデム圧延機によって被圧延材を圧延する際、各スタンドの動作は、最終スタンド出側における被圧延材の板厚や板幅等が目標の条件を満たすように決定される。この各スタンドの動作条件は、ドラフトスケジュール(パススケジュール)と呼ばれ、製品の品質や生産性等に大きな影響を与える。そのため、製品に応じて適切なドラフトスケジュールを決定することが求められている。
【0003】
熱間圧延ラインにおけるタンデム仕上圧延機のドラフトスケジュールは、通常、最終製品に近い後段(被圧延材の移動方向下流側)のスタンドほど、ワークロール表面の肌荒れを低減して製品の表面性状を良好に保つために、圧延荷重が軽くなるように決定している。ここで、前段(被圧延材の移動方向上流側)スタンド及び後段スタンドの圧下率を同一に設定しても、板厚が薄い被圧延材を圧延する後段スタンドは、大きな圧延荷重が必要になるという圧延上の特性がある。そのため、通常のドラフトスケジュールでは、後段スタンドほど、圧下率が小さくなっている。
【0004】
一方、自動車用や構造材用等として用いられる鋼材は、強度、加工性、靭性といった機械的特性に優れることが求められ、これらの機械的特性を総合的に高めるには、熱延鋼板の結晶粒を微細化することが有効である。また、結晶粒を微細化すれば、合金元素の添加量を削減しても優れた機械的性質を具備した高強度熱延鋼板を製造することが可能になる。
【0005】
熱延鋼板の結晶粒の微細化方法としては、熱間仕上圧延の特に後段において、高圧下圧延(後段スタンドの圧下率を高めた仕上圧延)を行ってオーステナイト粒を微細化するとともに粒内に圧延歪を蓄積させ、仕上圧延直後に急冷することにより、得られるフェライト粒の微細化を図る方法が知られている。この方法で微細結晶粒を有する熱延鋼板(以下において、「微細粒鋼」という。)を製造するためには、熱間圧延ラインにおけるタンデム仕上圧延機の後段スタンドの圧下率を、従来よりも高める必要がある。それゆえ、微細粒鋼を製造するためには、従来とは異なるドラフトスケジュールを決定し、タンデム仕上圧延機の動作を従来とは異なる形態で制御することが必要になる。特に、従来より高い圧下率となる後段スタンドの負荷(圧延荷重、圧延トルク等)を設備上限値以内に抑えるとともにワークロール表面の肌荒れも軽減するためには圧延潤滑剤の使用が有効である。しかし、圧延潤滑剤の使用によってワークロールと被圧延材間の摩擦係数が低下すると、被圧延材のワークロールへの噛み込み性が悪化するため、先端通板に関する圧延機の動作制御技術が重要になる。
【0006】
圧延機の動作制御に関する技術は、これまでにいくつか開示されてきている。例えば特許文献1には、複数のスタンドから構成される熱間仕上圧延機において、連設する各スタンドでの少なくとも1つのスタンドのワークロールのロールギャップを圧延板の板厚方向に拡げる拡幅を行う熱間仕上圧延方法であって、搬送される圧延板の先端部が、拡幅を行うスタンドのワークロールに到達すると、当該ワークロールのロールギャップの拡幅を開始する第一ステップと、該第一ステップで開始された拡幅を、予め設定されたロールギャップまで経時的かつ連続的に行うことで圧延板の先端部をテーパ状に圧延する第二ステップと、該第二ステップで予め設定されたロールギャップまで拡幅した後に、そのロールギャップを一定に保つことで圧延板の定常部を一定の板厚で圧延する第三ステップと、を有する熱間仕上圧延方法が開示されている。また、特許文献2には、圧延材の先端部がワークロールに噛み込んだ後に、ワークロールへの圧延潤滑油の塗布を開始し、圧延材の後端部の圧延が完了するまで潤滑圧延を行い、先行圧延材の圧延が終了してから後行圧延材がワークロールに噛み込むまでの間に、先行圧延材の圧延の際にワークロールに付着した圧延潤滑油を除去することを特徴とする熱間潤滑圧延方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4266185号公報
【特許文献2】特開2002−178011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されている技術と特許文献2に開示されている熱間潤滑圧延方法とを組み合わせると、被圧延材の先端部の板厚を被圧延材の定常部の板厚よりも薄くした熱間潤滑圧延を行うことになる。しかしながら、かかる形態では、タンデム仕上圧延機の後段スタンドの圧下率を、従来よりも高めることが困難になり、特に、超微細結晶粒(例えば、平均粒径が2μm以下の結晶粒をいう。以下において同じ。)を有する熱延鋼板(以下において、「超微細粒鋼」ということがある。)の製造が困難になるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、超微細粒鋼を製造することが可能なタンデム圧延機の動作制御方法、及び、これを用いた熱延鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするため、添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明の第1の態様は、N個(Nは2以上の整数)のスタンド(1、2、…、7)及び第N−m+1スタンド(mは1以上N以下の整数)から第Nスタンドに圧延潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段(5d、6d、7d)を備えるタンデム圧延機(10)の動作を制御する方法であって、第1スタンド(1)から第Nスタンド(7)までの各スタンドの出側板厚を決定する出側板厚決定工程(S1)を有し、該出側板厚決定工程は、被圧延材(8)の定常部を圧延するときの第1スタンドから第Nスタンドの出側板厚を決定する第1出側板厚決定工程(S11)、及び、被圧延材の先端圧延部を圧延するときの第1スタンドから第Nスタンドの出側板厚を決定する第2出側板厚決定工程(S12)、を含み、少なくとも被圧延材の最先端部が各スタンドに噛み込まれるまでは当該各スタンドの圧延潤滑剤を用いることなく被圧延材を第2出側板厚決定工程で決定した出側板厚に圧延するとともに、被圧延材の定常部は第N−m+1スタンドから第Nスタンドにおいて圧延潤滑剤を用いて第1出側板厚決定工程で決定した出側板厚に圧延し、第2出側板厚決定工程で決定された第N−m+1スタンドから第Nスタンドの出側板厚は、第1出側板厚決定工程で決定された同じスタンドの出側板厚よりも厚いことを特徴とする、タンデム圧延機の動作制御方法である。
【0012】
ここに、「第Nスタンド(7)」とは、タンデム圧延機(10)の最終スタンド、すなわち、タンデム圧延機(10)によって圧延される被圧延材(8)の移動方向の下流端に配置されたタンデム圧延機のスタンド(7)をいう。また、「第1スタンド(1)」とは、タンデム圧延機(10)によって圧延される被圧延材(8)の移動方向の上流端に配置されたタンデム圧延機のスタンド(1)をいう。また、本発明において、「被圧延材(8)の先端圧延部」とは、圧延潤滑剤を用いずに圧延される被圧延材(8)の先端側部分をいう。また、本発明において、「被圧延材(8)の定常部」とは、圧延潤滑剤を用いて圧延される被圧延材(8)の部分をいう。また、「第2出側板厚決定工程で決定された第N−m+1スタンドから第Nスタンドの出側板厚は、第1出側板厚決定工程で決定された同じスタンドの出側板厚よりも厚い」とは、第N−m+1スタンドから第Nスタンドまでの各スタンドの出側板厚は、それぞれ、第2出側板厚決定工程で決定された出側板厚の方が第1出側板厚決定工程で決定された出側板厚よりも厚くなるように決定されることをいう。
【0013】
また、上記本発明の第1の態様において、被圧延材(8)の先端圧延部を圧延するときの各スタンドの荷重が、被圧延材の定常部を圧延するときの同じスタンドの荷重と略等しくなるように、第2出側板厚決定工程(S12)で第1スタンドから第Nスタンドの出側板厚が決定されることが好ましい。
【0014】
ここに、「被圧延材(8)の先端圧延部を圧延するときの各スタンドの荷重が、被圧延材の定常部を圧延するときの同じスタンドの荷重と略等しくなる」とは、タンデム圧延機を構成する任意の一スタンドに着目した場合に、被圧延材の先端圧延部を圧延するときの圧延荷重が被圧延材の定常部を圧延するときの圧延荷重と略等しいことをいう。また、「略等しくなる」とは、完全に等しい場合のほか、ロールの撓み量の変化による被圧延材の形状変化を微小とみなすことができる1MNの差は許容する概念である。
【0015】
本発明の第2の態様は、上記本発明の第1の態様にかかるタンデム圧延機の動作制御方法によって動作を制御される熱間仕上圧延機列(20)を用いて鋼板(8)を圧延する工程を有することを特徴とする、熱延鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の態様では、被圧延材(8)の定常部は圧延潤滑剤を用いて圧延を行う一方、被圧延材(8)の先端圧延部では圧延潤滑剤を用いないので、被圧延材(8)の最先端部の通板を安定化させることが可能になる。また、本発明の第1の態様では、タンデム圧延機(10)における後段スタンド(5、6、7)の出側板厚が、被圧延材(8)の定常部を圧延するときよりも、被圧延材(8)の先端圧延部を圧延するときの方が厚くなるように決定されるので、圧延潤滑剤を用いない先端圧延部の圧延中においても、後段スタンド(5、6、7)の負荷(荷重、トルク等)が設備の上限値を超えたり、ワークロール表面の肌荒れが生じたりすることを防止することができる。また、本発明の第1の態様では、被圧延材(8)の定常部は圧延潤滑剤を用いて圧延するので、後段スタンド(5、6、7)の圧下率を従来よりも高めた仕上圧延を行っても、後段スタンド(5、6、7)の負荷制約(耐荷重制約、トルク制約等)内で、後段スタンドのワークロール表面の肌荒れを低減することが可能になり、被圧延材(8)の品質不良を抑制することが可能になる。したがって、本発明の第1の態様を、熱間仕上圧延機列(20)へと適用することにより、超微細粒鋼を製造することが可能なタンデム圧延機の動作制御方法を提供することができる。また、本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様にかかるタンデム圧延機の動作制御方法によって動作を制御される熱間仕上圧延機列(20)を用いて鋼板(8)を圧延する工程を有している。そのため、本発明の第2の態様によれば、超微細粒鋼を製造することが可能な、熱延鋼板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかるタンデム圧延機の動作制御方法の形態例を示すフローチャートである。
【図2】本発明にかかるタンデム圧延機の動作制御方法によって動作が制御されるタンデム圧延機10の形態例を示す図である。
【図3】本発明にかかるタンデム圧延機の動作制御方法によって動作が制御される仕上圧延機列20を備えた熱延鋼板の製造ライン100の形態例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
図1は、本発明にかかるタンデム圧延機の動作制御方法(以下において、「本発明の動作制御方法」ということがある。)の形態例を示すフローチャートである。図1に示す本発明の動作制御方法は、出側板厚決定工程(以下において「工程S1」ということがある。)を有し、該工程S1は、第1出側板厚決定工程(以下において「工程S11」ということがある。)と第2出側板厚決定工程(以下において「工程S12」ということがある。)とを含んでいる。すなわち、本発明の動作制御方法では、工程S11及び工程S12を有する工程S1を用いて、タンデム圧延機の動作を制御する。
【0020】
図2は、本発明の動作制御方法によって動作が制御されるタンデム圧延機10の形態例を示す図である。図2では、タンデム圧延機10の形態を簡略化して示している。図2に示すように、タンデム圧延機10は、第1スタンド1、第2スタンド2、…、及び、第7スタンド7の7つのスタンドを有しており、第1スタンド1から第7スタンド7までの7つのスタンドによって、被圧延材8(以下において、「鋼板8」ということがある。)を連続圧延可能なように構成されている。これら7つのスタンド1、2、…、7は、それぞれ、一対のワークロール及び一対のバックアップロールを備えており、これらの動作は制御装置によって制御されている。すなわち、例えば第1スタンド1は、一対のワークロール1a、1a、及び、一対のバックアップロール1b、1bを備え、ワークロール1a、1a、及び、バックアップロール1b、1bの動作は、制御装置1cによって制御されている。同様に、例えば第7スタンド7は、一対のワークロール7a、7a、及び、一対のバックアップロール7b、7bを備え、ワークロール7a、7a、及び、バックアップロール7b、7bの動作は、制御装置7cによって制御されている。また、図2に示すように、タンデム圧延機10において、第5スタンド5は潤滑剤供給手段5d、5dを備え、第6スタンド6は潤滑剤供給手段6d、6dを備え、第7スタンド7は潤滑剤供給手段7d、7dを備えている。潤滑剤供給手段5d、6d、7dは、それぞれ、ワークロール5a、6a、7aに向けて圧延潤滑剤(例えば、圧延潤滑油又は圧延潤滑油水溶液等)を噴射する装置であり、加圧された圧延潤滑剤を供給する配管とワークロールへ向けて圧延潤滑剤を噴射するノズルとを備えている。以下、図1及び図2を参照しつつ、本発明の一実施形態であるN=7及びm=3の場合について、本発明の動作制御方法を具体的に説明する。
【0021】
<出側板厚決定工程S1>
工程S1は、第1スタンドから第Nスタンドまで(Nは2以上の整数)の各スタンドの出側板厚をそれぞれ決定する工程である。すなわち、N=7及びm=3である場合、工程S1は、第1スタンド1から第7スタンド7までの7スタンドの出側板厚をそれぞれ決定する工程である。本発明の動作制御方法において、工程S1は、後述する工程S11及び工程S12を有していれば、その形態は特に限定されるものではない。
【0022】
<第1出側板厚決定工程S11>
工程S11は、被圧延材8の定常部を圧延するときの第1スタンドから第Nスタンドの出側板厚を決定する工程である。すなわち、N=7である場合、工程S11は、被圧延材8の定常部を圧延するときの第1スタンド1から第7スタンド7の出側板厚h1〜h7を決定する工程である。本発明の動作制御方法において、被圧延材8の定常部とは、圧延潤滑剤を用いて圧延される被圧延材8の部分をいい、本来の製品のスペック(板厚、粒径)を得るための圧延条件で圧延される部分をいう。
【0023】
本発明の動作制御方法において、工程S11は、被圧延材8の定常部を圧延するときの第1スタンド1から第7スタンド7の出側板厚h1〜h7をそれぞれ決定する工程であれば、その形態は特に限定されるものではないが、超微細粒鋼を容易に製造可能な形態にする等の観点から、特に後段の3スタンド(第5スタンド5、第6スタンド6、第7スタンド7)の出側板厚は、少なくとも当該3スタンドによって鋼板8へと蓄積すべき累積歪み及び各後段スタンド5、6、7の負荷制約(耐荷重制約、トルク制約等)を考慮して決定することが好ましい。
【0024】
<第2出側板厚決定工程S12>
工程S12は、被圧延材8の先端圧延部を圧延するときの第N−m+1スタンド(mは1以上N以下の整数)から第Nスタンドの各後段スタンドの出側板厚が、被圧延材8の定常部を圧延するときの同じスタンドの出側板厚よりも厚くなるように、第1スタンドから第Nスタンドの出側板厚を決定する工程である。すなわち、N=7及びm=3である場合、工程S12は、工程S12で決定される第5スタンド5から第7スタンド7の各後段スタンドの出側板厚をそれぞれh5’、h6’、h7’とするとき、h5’>h5、h6’>h6、及び、h7’>h7となるように、第1スタンド1から第7スタンド7までの各スタンドの出側板厚h1’〜h7’をそれぞれ決定する工程である。本発明の動作制御方法において、被圧延材8の先端圧延部とは、圧延潤滑剤を用いずに圧延される被圧延材8の先端側部分をいう。
【0025】
本発明の動作制御方法において、工程S12は、h5’>h5、h6’>h6、及び、h7’>h7となるように、被圧延材8の先端圧延部を圧延するときの各スタンド1〜7の出側板厚を決定する工程であれば、その形態は特に限定されるものではなく、例えば、被圧延材8の先端圧延部を圧延するときの各スタンド1〜7の圧延荷重が、被圧延材8の定常部を圧延するときの同じスタンドの圧延荷重と略等しくなるように、各スタンド1〜7の出側板厚を決定する形態とすることが好ましい。かかる形態とすることにより、先端圧延部の出側板厚から定常部の出側板厚へ変更する際の各スタンド1〜7のワークロール1a、1a、…、7a、7aの撓み量の変化を防止することが可能になるので、被圧延材8の形状を安定化させることが可能になる。
【0026】
ここで、被圧延材8を圧延するタンデム圧延機10の動作は、次のようになる。まず、第1スタンド1から第7スタンド7の出側板厚が工程S12で決定した先端圧延部の出側板厚h1’〜h7’となるように制御装置1c〜7cを動作させてタンデム圧延機10をセットアップし、圧延を開始する。このときは、潤滑剤供給手段5d、5d、…、7d、7dは圧延潤滑剤を供給しない。最先端部が噛み込まれた後の所定のタイミングで、潤滑剤供給手段5d、5d、…、7d、7dは圧延潤滑剤の供給を開始するとともに、第1スタンド1から第7スタンド7の出側板厚が工程S11で決定した定常部の出側板厚h1〜h7になるように制御装置1c〜7cを作動させ、定常部の圧延に移行する。具体的な方法としては、例えば、圧延荷重と圧下位置の実績値から出側板厚を計算して、その出側板厚が目標板厚に一致するように圧下位置を操作するいわゆる絶対値AGCを各スタンドに適用し、その目標板厚をh1’〜h7’からh1〜h7に、それぞれ変更すればよい。
また、各後段スタンド5、6、7の圧延潤滑剤の供給を開始するタイミングとしては、該スタンドが被圧延材の最先端部を噛み込んだ後であれば任意のタイミングが可能であるが、例えば、各後段スタンド5、6、7において、最先端部が噛み込まれてから圧延潤滑剤の供給を開始するまでの時間を予め指定してもよいし、最終スタンドである第7スタンド7に最先端部が噛み込まれてから、すべての後段スタンド5、6、7の圧延潤滑剤の供給を開始するようにしてもよい。
【0027】
上記工程S11を含む工程S1によって決定した、被圧延材8の定常部を圧延するときの第1スタンド1から第7スタンド7の出側板厚[mm]の具体例を、各スタンドの圧下率、変形抵抗[MPa]、摩擦係数、荷重[MN]とともに表1に示す。表1は、定常部の板厚が2mmとなるように圧延された、平均粒径が2μm以下である超微細粒鋼を製造することを目的として、第1スタンド1の入側板厚が32mm、板幅が1250mmである被圧延材8の定常部を圧延するときのタンデム圧延機10のドラフトスケジュールであり、表1のF1〜F7は、それぞれ、第1スタンド1から第7スタンド7と対応している。
【0028】
【表1】

【0029】
また、上記工程S12を含む工程S1によって決定した、被圧延材8の先端圧延部を圧延するときの第1スタンド1から第7スタンド7の出側板厚[mm]の具体例を、各スタンドの圧下率、変形抵抗[MPa]、摩擦係数、荷重[MN]とともに表2に示す。第1スタンド1から第4スタンド4の先端圧延部の圧延条件は、定常部の圧延条件と圧延荷重を含めて全く同じである。表2は、定常部の板厚が2mmとなるように圧延された、平均粒径が2μm以下である超微細粒鋼を製造することを目的として、上記表1で示されるドラフトスケジュールの定常部の圧延を開始する前に、第1スタンド1の入側板厚が32mm、板幅が1250mmである被圧延材8の先端圧延部を圧延するときのタンデム圧延機10のドラフトスケジュールであり、表2のF1〜F7は、それぞれ、第1スタンド1から第7スタンド7と対応している。
【0030】
【表2】

【0031】
表1に示すように、圧延潤滑剤を用いて被圧延材8の定常部を圧延すると、第5スタンド5から第7スタンド7の摩擦係数が0.15になる。かかる条件下では、第5スタンド5から第7スタンド7の圧下率を高めても、第5スタンド5から第7スタンド7の荷重制約の範囲内で、被圧延材8を圧延することが可能になる。そこで、本発明の動作制御方法における工程S11では、被圧延材8の定常部を圧延する際の第5スタンド5から第7スタンド7の出側板厚を、それぞれ、4.082mm、2.857mm、2.000mmに決定した。第5スタンド5から第7スタンド7の出側板厚をこのように決定すると、第5スタンド5、第6スタンド6、及び、第7スタンド7の圧下率をともに0.300に設定することができ、高圧下圧延をすることができるので、超微細粒鋼を製造することが可能になる。
【0032】
これに対し、表2に示すように、圧延潤滑剤を用いずに被圧延材8の先端圧延部を圧延すると、第5スタンド5から第7スタンド7の摩擦係数が0.40になる。この条件下で、第5スタンド5から第7スタンド7の出側板厚を、被圧延材8の定常部を圧延する際の出側板厚(表1参照)と同等の出側板厚に設定すると、第5スタンド5から第7スタンド7の荷重制約をオーバーしてしまう。そこで、本発明の動作制御方法における工程S12では、第5スタンド5から第7スタンド7の荷重制約をオーバーしないように、被圧延材8の先端圧延部を圧延する際の第5スタンド5から第7スタンド7の出側板厚を、それぞれ、4.670mm、3.746mm、2.997mmに決定した。出側板厚をこのように決定することにより、各後段スタンド5、6、7の負荷制約内で、被圧延材8の先端圧延部を、圧延潤滑剤を用いずに圧延することが可能になる。
【0033】
また、表1及び表2に示す動作条件(ドラフトスケジュール)では、被圧延材8の先端圧延部を圧延する際も、被圧延材8の定常部を圧延する際も、第1スタンド1から第4スタンド4までは圧延荷重を含めて全く同じ圧延条件とし、さらに、第5スタンド5の圧延荷重は16.99MNで一定とし、第6スタンド6の圧延荷重は16.68MNで一定とし、第7スタンド7の圧延荷重は16.58MNで一定とした。このような条件でタンデム圧延機10を動作させることにより、各スタンド1〜7における圧延荷重の変化を無くすことができるので、各スタンド1〜7のワークロールの撓み量の変化を無くして出側板厚変更中における被圧延材8の形状を安定化させることが可能になる。
【0034】
上記工程S1によってタンデム圧延機10の動作を制御する本発明の動作制御方法では、圧延潤滑剤を用いずに被圧延材8の先端圧延部を圧延するときの後段スタンド5、6、7の出側板厚が、圧延潤滑剤を用いて被圧延材8の定常部を圧延するときの後段スタンド5、6、7の出側板厚よりも厚くなるように、後段スタンド5、6、7の出側板厚を決定する。そのため、最終スタンドを含めた後段の複数スタンドの圧下率を従来よりも高く設定したドラフトスケジュールに基づいて、先端圧延部を、圧延潤滑剤を用いることなく安定して通板することができる。また、定常部では最終スタンドを含めた後段の複数スタンドの圧下率を従来よりも高めることにより、超微細粒鋼の製造が可能になるので、本発明によれば、超微細粒鋼を製造することが可能な、タンデム圧延機の動作制御方法を提供することができる。
【0035】
図3は、本発明の動作制御方法によって動作が制御される仕上圧延機列20を備えた熱延鋼板の製造ライン100の形態例を示す図である。図3では、熱延鋼板の製造ライン100の一部のみを抽出し、仕上圧延機列20に備えられる制御装置や潤滑剤供給手段等の記載を省略している。図3に示すように、熱延鋼板の製造ライン100は、粗圧延機30a、30b、…、30fを備える粗圧延機列30と、仕上圧延機20a、20b、…、20gを備える仕上圧延機列20と、冷却装置40と、を有し、冷却装置40は、仕上圧延機列20の最終スタンド20gで圧延された鋼板8を急冷可能なように(具体的には、最終スタンド20gによる圧延終了から0.2秒以内に600℃/s以上の冷却速度で鋼板8を急冷可能なように)配置されている。仕上圧延機列20は、第1スタンド20aから第7スタンド20gまでの7つのスタンドを有しており、仕上圧延機列20の動作は、上記工程S11及び工程S12を有する工程S1を経て制御される。そのため、仕上圧延機列20は、例えば、後段の3スタンド(第5スタンド20e、第6スタンド20f、及び、第7スタンド20g)の圧下率を、超微細粒鋼以外の鋼板を製造する際の圧下率よりも高めた形態で動作させることができ、これによって、鋼板8のオーステナイト粒を微細化するとともに粒内に圧延歪を蓄積させることが可能になる。そして、冷却装置40は、仕上圧延機列20の最終スタンド20gで圧延された鋼板8を急冷可能なように配置されているので、熱延鋼板の製造ライン100によれば、仕上圧延直後に鋼板8を急冷することにより、超微細粒鋼を製造することが可能になる。このように、熱延鋼板の製造ライン100における仕上圧延機列20の動作を、本発明の動作制御方法によって制御することにより、超微細粒鋼を製造することが可能になる。
以上より、本発明によれば、超微細粒鋼を製造することが可能なタンデム圧延機の動作制御方法、及び、超微細粒鋼を製造することが可能な熱延鋼板の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0036】
先端圧延部を表2のドラフトスケジュールで圧延潤滑剤を用いずに圧延し、第7スタンドに最先端部が噛み込まれてから1秒経過した後、第5スタンドから第7スタンドに圧延潤滑剤を使用しつつ表1のドラフトスケジュールで定常部を圧延し、仕上圧延の0.2秒後に、鋼板を830℃から1000℃/sの冷却速度で680℃まで冷却したときの定常部のフェライト平均粒径は2μmであり、超微細粒鋼を製造することができた(本発明例)。また、先端圧延部、定常部ともに、後段の第5スタンドから第7スタンドの圧延荷重が低く抑えられていたため、本発明例では、ワークロール表面の肌荒れによる鋼板の表面品質不良も生じなかった。
【0037】
一方、比較例として、圧延潤滑剤を用いずに第5スタンドから第7スタンドの圧延荷重が表2と同等になるようにした、下記表3に示すドラフトスケジュールで圧延し、上記本発明例と同じ冷却条件を適用したときのフェライト平均粒径は2.6μmであり、超微細粒鋼を製造することができなかった。以上より、本発明方法によれば、定常部では圧延潤滑剤を用いて後段スタンドで高圧下率の圧延を実施することで超微細粒鋼を製造することができ、かつ、圧延潤滑剤を用いると被圧延材の噛み込み性が悪化する最先端部を含んだ先端圧延部では圧下率を低減することによって、圧延潤滑剤を用いることなく圧延荷重の上限値オーバーやワークロール表面の肌荒れが生じない通板が可能になる。
【0038】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のタンデム圧延機の動作制御方法、及び、熱延鋼板の製造方法は、超微細結晶粒を有する熱延鋼板の製造に用いることができる。また、超微細結晶粒を有する熱延鋼板は、自動車用、家電用、機械構造用、建築用等の用途に使用される素材として用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
1…第1スタンド
2…第2スタンド
3…第3スタンド
4…第4スタンド
5…第5スタンド
5d…潤滑剤供給手段
6…第6スタンド
6d…潤滑剤供給手段
7…第7スタンド
7d…潤滑剤供給手段
8…被圧延材(鋼板)
10…タンデム圧延機
20…仕上圧延機列
30…粗圧延機列
40…冷却装置
100…熱延鋼板の製造ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N個(Nは2以上の整数)のスタンド及び第N−m+1スタンド(mは1以上N以下の整数)から第Nスタンドに圧延潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段を備えるタンデム圧延機の動作を制御する方法であって、
第1スタンドから第Nスタンドまでの各スタンドの出側板厚を決定する出側板厚決定工程を有し、該出側板厚決定工程は、被圧延材の定常部を圧延するときの前記第1スタンドから前記第Nスタンドの出側板厚を決定する第1出側板厚決定工程、及び、前記被圧延材の先端圧延部を圧延するときの前記第1スタンドから前記第Nスタンドの出側板厚を決定する第2出側板厚決定工程、を含み、
少なくとも前記被圧延材の最先端部が各スタンドに噛み込まれるまでは当該各スタンドの圧延潤滑剤を用いることなく前記被圧延材を前記第2出側板厚決定工程で決定した出側板厚に圧延するとともに、前記被圧延材の定常部は前記第N−m+1スタンドから前記第Nスタンドにおいて前記圧延潤滑剤を用いて前記第1出側板厚決定工程で決定した出側板厚に圧延し、
前記第2出側板厚決定工程で決定された前記第N−m+1スタンドから前記第Nスタンドの出側板厚は、前記第1出側板厚決定工程で決定された同じスタンドの出側板厚よりも厚いことを特徴とする、タンデム圧延機の動作制御方法。
【請求項2】
前記被圧延材の先端圧延部を圧延するときの前記各スタンドの荷重が、前記被圧延材の定常部を圧延するときの同じスタンドの荷重と略等しくなるように、前記第2出側板厚決定工程で前記第1スタンドから前記第Nスタンドの出側板厚が決定されることを特徴とする、請求項1に記載のタンデム圧延機の動作制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタンデム圧延機の動作制御方法によって動作を制御される熱間仕上圧延機列を用いて鋼板を圧延する工程を有することを特徴とする、熱延鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−79038(P2011−79038A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235251(P2009−235251)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】