タンデム型質量分析法のための分子活性化
【課題】タンデム型質量分析計で、断片化の過程の前に、イオンの分子を活性化する手段及び方法を提供する。
【解決手段】タンデム型質量分析計100は、質量分析器140の上流側に、分析物イオンを受け入れる第1の衝突セル124と、その下流に並置される第2の衝突セル128とを有する。第1の衝突セル124は、イオンが第2の衝突セル128に入る前に、分析物イオンの内部エネルギーを高めることができる。第1の衝突セル124で高められる内部エネルギーは、分析物イオンのうちの大部分を断片化するには十分でない程度とされる。
【解決手段】タンデム型質量分析計100は、質量分析器140の上流側に、分析物イオンを受け入れる第1の衝突セル124と、その下流に並置される第2の衝突セル128とを有する。第1の衝突セル124は、イオンが第2の衝突セル128に入る前に、分析物イオンの内部エネルギーを高めることができる。第1の衝突セル124で高められる内部エネルギーは、分析物イオンのうちの大部分を断片化するには十分でない程度とされる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析システムに関するものであり、特に、タンデム型質量分析計システムにおけるイオンの分子活性化を行うための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンデム型質量分析計(MS/MS)は、従来、分析物分子の構造を解明するために用いられている。通常のMS/MSシステムでは、親、すなわち「前駆体」分子は、まずイオン化され、その後、第1ステージの質量分析器を用いて分析物サンプルから選択・分離される。その後、前駆体イオンは、それらのイオンを励起する1つ又は複数の活性化作用にかけられる領域に輸送される。当該領域では、生成物イオン及び中性フラグメントへの前駆体イオンの断片化が引き起こされる。その後、生成物イオンは、第2ステージの質量分析器で分析されることができ、生成物イオンに関する分析結果としての質量スペクトルが、前駆体分子の構造についての多くの情報をもたらす。
【0003】
前駆体イオンが活性化領域を通って進行する時間の長さに比べて、生成物イオンが速い速度で断片化によって生成される場合に、その生成物イオンは、質量スペクトルで観測される。解離速度と呼ばれるところの断片化が生じる速度は、用いられる活性化技法に関係なく、前駆体イオンの内部エネルギー分布に依存することが知られている。図1は、質量分析計機器内の前駆体イオンの内部エネルギーの予想される分布を示す。この図によれば、内部エネルギーが高い前駆体イオンほど相対的に高い解離速度を有し、「不安定」であるように見えることが理解される。
【0004】
図1は、前駆体イオンの集団全体のうちの少数の部分だけが高い内部エネルギー及び解離速度を有することを示す。活性化方法を用いてイオンの全内部エネルギーを高めることができ、それによって、実際には曲線全体を右にシフトすることができるから、不安定なイオンの相対的な部分は必ずしも一定ではない。いくつかの活性化方法を利用することができるが、一般的に用いられる技法のうちの1つは衝突誘起解離(「CID」)である(衝突活性化解離(CAD)とも呼ばれる)。この場合、前駆体イオンは、2つの質量分析器ステージ間に配置されるチャンバ内で、中性粒子の原子との衝突を受ける。中性粒子は、通常、ヘリウム又はアルゴンのような、衝突中に前駆体イオンと化学的に相互作用しない不活性ガス、希ガスである。
【0005】
前駆体イオンが中性粒子と非弾性衝突をするとき、前駆体イオンの運動エネルギーの一部が内部エネルギーに変換され、これにより、通常、低い運動エネルギーにおける振動状態の励起が生じる。しかしながら、内部エネルギーに変換することができる運動エネルギーの量は、以下の式によって、イオン及び中性粒子(又は中性種)の相対質量に大きく依存する。
Econv=N/(mp+N)×KE (1)
ここで、Econvは変換のために利用することができる最大エネルギーであり、KEは前駆体イオンの運動エネルギーであり、N及びmpはそれぞれ、中性粒子及び前駆体イオンの質量を表す。式(1)から、衝突当たりで変換のために利用することができる全エネルギーは、イオンの運動エネルギーに比例すること、変換効率は、大きな質量の中性種を用いることによって高めることができること、及び変換効率は、対象の前駆体イオンの質量が増加するのに応じて減少することが明らかである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
大気中のイオン源で生成されるイオンは、通常、それらのイオンが下流の質量分析計の低圧領域に流れ込むときに超音速膨張を受ける。超音速膨張はイオンを冷却し、これらのイオンの運動エネルギーが高い状態にあっても、それらの内部エネルギーをかなり「冷えた」状態まで降下させ得る。イオンが衝突を受けるような場合には、衝突の運動エネルギーがイオンを徐々に熱運動化し、それらのイオンの内部温度が上昇して、それらのイオンの種々の内部振動モードにエネルギーを与える。イオンの内部温度が上昇すると、或る特定の振動モードが、保持することができるエネルギーよりも多くのエネルギーを得るので、前駆体イオンに初期の不安定状態を生じ得る。
【0007】
超音速膨張による冷却作用を一つの要因として、内部エネルギーが不十分なまま、前駆体イオンがこれらの機器の衝突セルに到着するという理由から、多くの場合、現在使用されるタンデム型質量分析計のための構成は、生成物イオンを生成するために効率的であるとはいえない。それゆえ、前駆体イオンが、イオンの断片化が生じるように設計される時間までに確実に熱運動化されるようにするための方法及び装置が必要とされている。さらに、前駆体イオンが断片化領域に入るのに応じて、前駆体イオンの内部エネルギーレベル(それと合わせて、それらのイオンの対応する振動モード、又は不安定性)を選択的に調整することによって断片化パターンを変形できるように、前駆体イオンの活性化過程を制御することが必要とされている。
【0008】
本発明は、タンデム型質量分析計で、断片化する前にイオンの分子を活性化する手段及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの態様によれば、本発明のタンデム型質量分析計は、内部エネルギーを有する分析物イオンを受け入れる第1の衝突セルと、当該第1の衝突セルの下流に配置される第2の衝突セルとを含み、第1の衝突セルは、イオンが第2の衝突セルに入る前に、分析物イオンの内部エネルギーを高める手段を備える。このとき、第1の衝突セルによって高められる内部エネルギーは、分析物イオンのかなりの部分を断片化するには不十分である程度とされる。
【0010】
別の態様によれば、本発明は、衝突セルと、衝突セルに隣接して配置される加熱素子とを備えるタンデム型質量分析計を備え得る。
【0011】
さらに、本発明は、タンデム型質量分析計における断片化過程を制御する方法を含む。当該方法は、質量分析計内の分析物イオンを高い温度まで加熱すること、及び当該高い温度で分析物イオンを断片化することを含む。このとき、当該高い温度は、それのみによっては、分析物イオンのかなりの部分の断片化を引き起こすほど十分な内部エネルギーは与えられない程度とされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、本発明の最適となる実施形態について、詳細に説明する。本発明を詳細に説明する前に、本明細書及び添付の特許請求の範囲の中で用いるときに、単数形で表される要素は、文脈上、他に明確に指示される場合を除いて、複数形の指示物も含み得ることに留意されたい。
【0013】
本明細書における説明で用いられるときに、用語「隣接する」は、近接していること、隣にあること、又は接触していること(adjoin)を意味する。隣接しているものは、別の構成要素と接触している場合があるか、他の構成要素を包囲している(すなわち、他の構成要素と同心を成している)場合があるか、他の構成要素から離隔している場合があるか、又は他の構成要素の一部を含む場合もある。
【0014】
また、本明細書で、タンデム型質量分析法の技術分野の熟練者がイオンについて言及する場合には、衝突セルで親イオン又は前駆体イオンとして様々に断片化される前のイオン、及び衝突によって生成されるところの断片である子イオン又は生成物イオンを指している。本明細書の説明では、用語「前駆体イオン」及び「生成物イオン」だけが用いられるが、これらの用語は、当業者によって類似の文脈で用いられるような親イオン及び子イオンと同じ意味を有する。
【0015】
図2は、前駆体イオンの分子の活性化及び熱運動化を提供する、本発明による1つの例示的なタンデム型質量分析計(MS/MS)システムの断面図を示す。前駆体イオンの用語「熱運動化」は、所与の温度で、前駆体イオンの内部状態が平衡状態になることをも指している。システム100は、イオン源110を備えており、イオン源110は、当該技術分野で既知である、分析物サンプルから前駆体イオンを生成するための任意の装置又は機構を含むことができ、例えば、エレクトロスプレー、APCI(大気圧化学イオン化)、APPI(大気圧光イオン化)、AP−MALDI等の大気圧イオン化機構、又は電子衝撃及びプラズマイオン化機構のような非大気圧イオン源等の手段が使用され得る。イオン源110によって生成される前駆体イオンは、1つ又は複数の真空ステージ112に繋がる毛管又はオリフィス内に誘導される。単純化のために、1つの真空ステージだけが示されるが、一般的には、イオン源110と第1ステージの質量分析器との間にいくつかの真空ステージを設けることができ、また、各真空ステージが、質量分析計の中心軸105に向かってイオンを集束するために、イオンガイド及び/又は集束レンズを備えることができる。真空ステージ間では、中性ガスが排気されるので、一般的に圧力の大きさが1桁以上降下するが、真空ステージ内のイオンガイド上に保持されるRF電界に起因して、イオンは概ね中心軸付近に集束されたままの状態で維持される。
【0016】
先に言及しように、イオン源110により大気圧下で生成されるイオンは、一般的に、まず第1の真空ステージ112に入り、その内部エネルギーを低いレベルまで降下させつつ、超音速膨張を生じる。それらのイオンが一連の真空ステージ中を進行し、圧力がさらに下がるとき、衝突の確率は低下し、イオンの低い内部エネルギー状態が保持される。しかしながら、イオンは電位差によって加速されることができ、これにより、イオンは運動エネルギーを獲得することができる。すなわち、イオンの運動エネルギーは、真空ステージ間の電位差、及び最後の真空ステージと第1の質量分析器との間の所定の電位差によって、高くすることができる。
【0017】
第1の質量分析器ステージ120は、四重極質量フィルタ、線形又は三次元(3D)イオントラップ、オービトラップ、飛行時間(TOF)又は当該技術分野で知られている任意の他の適当な質量分析器を備えることができる。第1ステージの質量分析器120にRF場及びDC場の両方が与えられて、m/z比の範囲を固定又は走査することによって、適当な前駆体イオンが選択される。質量分析器120の中を通り抜けることを許される前駆体イオンは、その後、衝突ステージ130に通される。図2に示す実施形態では、衝突ステージ130は、前駆体イオンをセル内に存在する衝突ガスとの衝突により活性化し、加熱する第1の衝突セル124と、当該第1の衝突セル124で活性化した前駆体イオンを断片化する第2の衝突セル128とを含む。
【0018】
断片化から生じる生成物イオンは、その後、検出器142を含む第2ステージの質量分析器140を用いて走査される。ここで記述される実験方法、生成物イオン走査は、たとえば前駆体イオン走査及び中性粒子損失走査を含む、本発明を適用可能な多数の実験方法のうちの1つにすぎない。
【0019】
第1の衝突セル124では、イオンは中性ガス分子との衝突を受ける。たとえば、Whitehouseらの米国特許第6,919,562号に説明されるように、一般的に、この過程では、衝突による冷却を生じ、これによりイオンの運動エネルギーは低減される。衝突による冷却は、イオン速度の径方向の成分を低減し、それゆえイオンは質量分析器の中心軸105に沿ってさらに厳密に集束されるという利点を有する。先に言及されたように、中性ガス原子又は分子との衝突中に、イオンの運動エネルギーのうちの或る量が内部エネルギーに変換される。この変換は、イオンが熱運動化されるまで、すなわちそれらのイオンの内部エネルギー状態分布が衝突セル内の背景衝突(background collision)ガス温度に一致するまで続くであろう。この背景温度は、たとえば、0〜500℃の範囲とすることができる。その温度は、電子的温度(熱)制御ユニット170を用いた閉ループ制御手段によって制御することができる。当該制御手段は、第1の衝突セル124に結合される温度センサ172をモニタするとともに、当該温度センサから受信される信号に応じて、設定温度を実現且つ/又は維持するように、セルに接続される加熱ユニット174を起動又は停止する。
【0020】
衝突速度は、衝突ガスの圧力及び第1の衝突セル124の長さの両方によっても影響を受け、それらはいずれも、輸送されるイオン当たりの衝突回数を決定するのに寄与する。一般的に、衝突ガスは約0.013Pa(0.1mtorr)〜6.666Pa(50mtorr)の圧力に保持することができるが、この範囲は特許請求された発明の範囲を制限するものではない。第1の衝突セル124及び第2の衝突セル128の両方の衝突ガスの圧力は、電子圧力制御ユニット180によって、圧力センサ182、184を用いて閉ループ制御で制御することができる。圧力制御ユニット180は、圧力センサ182、184から受信される信号に応答して、1つ又は複数のバルブを、それゆえガス流を制御することができる。圧力センサ182、184は、第1の衝突セル124、第2の衝突セル128のいずかの中に、又は衝突セルを封入するそれぞれのチャンバ120、130の中に配置することができる。チャンバ120、130内の圧力は通常、衝突セル124、128内の圧力よりもわずかに低い。センサがチャンバ120、130内に配置される場合には、圧力の読み値が線形な関係にあるので、その読み値をチャンバ内圧力に較正することができる。
【0021】
図示される実施形態では、第1の衝突セル124は多重極装置125(すなわち、四重極、六重極、八重極等)を備え、電極ロッドの組にRF電力のみが与えられる。他の場合に、第1の衝突セル124は、イオントラップ手段としての構成を含むこともできる。イオントラップ構成が用いられるときには、トラップしない構成と比較して、イオンが衝突チャンバ内にはるかに長時間にわたって留まる。すなわち、かかるイオントラップは、前駆体イオンを「ゆっくり加熱する」のに適している場合もある。線形イオントラップとしての役割を果たす第1の衝突セルを含む質量分析計の一実施形態が図3に示される。
【0022】
図示されるように、図3の実施形態内の第1の衝突セル124は、多重極装置155と、アパーチャ付きの電極152及び154とを備える。アパーチャ付きの電極152、154にかかる電圧は、指定された時間にわたってイオンをセル内に閉じ込めるように制御される。セルを満たすために、入口電極152の電位が下げられ、出口電極の電位を上げることができる。イオンが第1の衝突セル内に留まる時間は、アパーチャの電位によって決定されるから、イオンを閉じ込めることによりイオンの内部エネルギーと背景(温度又はエネルギー)レベルとを平衡状態にするために、その時間を比較的長いものとすることができる。
【0023】
図2及び図3の実施形態のうちの一方又は両方で、軸方向の電界を用いて、前駆体イオンの運動エネルギーを増加又は保持することができる。第1の衝突セル124で多重極装置が用いられるとき、多重極セットの軸に沿って約0.1〜約5V/cmの軸方向DC電界が内部で生成されるように、ロッドセットを構成することができる。Thomsonらの米国特許第5,847,386号は、多重極セットを用いて軸方向DC電界を生成するためのいくつかの技法を示している。本発明は、限定はしないが、その中に記述される技法のうちの任意のものを利用することができ、例えば、先細りの多重極ロッド、傾斜のある多重極ロッド、抵抗及び個別の電圧源を用いるセグメント化されたロッド、抵抗性の表面層を有する多重極ロッド間に配置される補助電極、抵抗性材料で多重極ロッドをコーティングしたり、さらに、多重極ロッドを導電性の帯で分割したりすることもできる。また、軸方向電界は交流にすることもでき、それにより衝突ガスの圧力を高めることなく、さらに多くの衝突を促すことができる。これは、多重極セットに対して振動する(すなわち正と負との間で入れ替わる)電位を印加することによって実現される。
【0024】
イオンを下流に向けて加速するために、第1の衝突セル124と第2の衝突セル128との間にオフセット電圧が印加される。オフセット電圧を確立するために、個別の電圧源191、192を第1の衝突セル124及び第2の衝突セル128に接続することができるか、又は単一の電圧源を、分圧回路を通して両方の衝突セルに接続することができる。電圧源に電圧制御ユニット190を接続して、各衝突セル124、128上の電位を調整可能に設定することができる。この場合の用語「電圧源」は、幅広く解釈されるべきである。たとえば、電圧源は、実際の電源である必要はない。単にグランドに、又は一定の電位の別の導体に接続するだけでもよい。所与の電位差を得るために、絶対電位に関係なく、電界は同じである。したがって、「電圧源」という用語が本明細書の中で用いられるときには、それが接続されるものに電位を設定できるのであれば、具体的な手段は問わない。印加される電位の大きさを制御するために、電圧源は電子工学的に、又は手動で調整可能にすることができる。
【0025】
前駆体イオンが第1の衝突セル124から出るとき、イオンのかなりの部分が熱運動化され、それらのイオンの内部エネルギー分布及び温度が背景衝突ガスと平衡状態にある。したがって、第2の衝突セル128は、広い内部エネルギー状態の分布を有する概ね熱運動化されたイオンを取り込む。これらのイオンは、第2の衝突セルで、さらに衝突することにより、断片化する確率が高くなると考えられる。さらに、イオン内の異なる化学結合は、特定の支配的な振動/電子エネルギーモードに応じて異なるように断片化する傾向があるので、前駆体イオンの内部エネルギー状態の分布を制御することによって、生じる断片化のタイプを変えることができる。断片化する際に、前駆体イオンは、前駆体の内部エネルギー状態の集団に応じて、種々の生成物イオン及び中性種に分かれることができる。生成物イオンは、多重極ガイド129によって誘導される。
【0026】
検出器142を含む第2の質量分析器140は、四重極、イオントラップ、オービトラップ、TOF又はこれらの構成要素の組み合わせをタンデム配列で含むことができる。第1の質量分析器で用いられる走査モードと組み合わせて、第2の質量分析器で用いられるモードは、質量分析計100によって実行される分析調査の種類を決定する。詳細には、当該装置は、少なくとも4つの異なる組み合わせのモードを備えている。第1の質量分析器120によって選択されるm/z比が一定であり、第2の質量分析器140が走査される場合には、特定の前駆体イオンのための全範囲の生成物イオンが検出される(「生成物イオン走査」)。逆に、第1の質量分析器が走査され、第2の質量分析器が一定である場合には、或る範囲の前駆体が試験され、断片化によって前駆体のグループから特定の生成物を導出できるか否かが判定される(「前駆体イオン走査」)。第1の質量分析器及び第2の質量分析器の両方が走査される(オフセットあり)場合には、所定のオフセットを有する前駆体イオン及び生成物イオン対を分析することができる。第1の質量分析器及び第2の質量分析器の両方が一定である場合には、選択性反応監視モードが設定され、それにより、特定の前駆体イオンの断片化の結果として、特定の生成物イオンが生じるか否かが判定される。
【0027】
図4は、本発明によるタンデム型質量分析計のさらに別の実施形態を示している。当該装置では、衝突活性化の代わりに(又は衝突活性化に加えて)、電子捕獲活性化及び解離(それは、DEA又はECDとして省略形で参照される場合がある)を用いて前駆体イオンが断片化される。電子源160は、第2の衝突セル128の出口付近に配置される。電子源160は、電子源の長手方向のいずれかの側に配置されるレンズ素子163、164と同じ電位に保持されるハウジングを備えることができる。当該手段に関連して、先に示したWhitehouseらの米国特許第6,919,562号によれば、限定はしないが、本発明で、加熱されたフィラメント、間接的に加熱された陰極ディスペンサ、感光材料と組み合わせた光子源及び電子銃等を含む多数の異なるタイプの電子源を用いることができる。本発明では、第2の衝突セル内に電子を導入するための手段として、さらに他の手段を同様に用いることができ、上記したWhitehouseらの特許で説明される手法は、例示的なものにすぎない。
【0028】
電子源は、約0.2〜約5eVの範囲内の低エネルギー電子の大きな流束を生成することが好ましい。電子源160から放出される電子は、レンズ163と164との間にある無電界領域(field free region)に入る。その後、レンズ164に、レンズ163よりも大きな負の電圧パルスを印加することができ、レンズ163は、レンズ163の中を通る電子を、第2の衝突セル128の出口に向かってパルスとして再び放出する。その際、レンズ163と、第1の衝突セル128のオフセット電位との間の電位差が、電子を第2の衝突セルに引き寄せる。第1の衝突セル124及び第2の衝突セル128の両方で、衝突による冷却が前駆体イオンの運動エネルギーを低減し、それらのイオンを質量分析計の中心軸105に向かって集束する。その軸に沿ったイオンの濃度は、このエリア内に空間電荷効果を生み出し、それにより第2の衝突セル128に導入された電子が引き寄せられ、イオンの速度を減速することによって、電子捕獲作用の効率が高まる。
【0029】
電子捕獲は、通常振動又は回転による状態励起ではなく、電子状態相互作用を含む。したがって、ECDは、衝突誘起活性化とは異なる。低エネルギーの電子を捕獲した後に、イオンは、構造的に配列し直され、結果として構造的に不安定になるものと考えられる。電子捕獲によって引き起こされる構造的な不安定性は、衝突による活性化によって引き起こされるところの構造的な不安定性とは異なる可能性があり、結果として、用いられる活性化モードによっては、第2の衝突セル128における衝突から、異なる断片化パターンが現われる可能性がある。詳細には、ECDは、前駆体イオンの内部エネルギーによって大きく影響を受ける。したがって、イオンを加熱する結果として、結果的な断片化パターンに著しい差が生じる可能性がある。たとえば、電子捕獲はペプチドバックボーンアミン結合(Cα‐N結合)の断片化を促進するのに対して、衝突による活性化は多くの場合にそのような結合に大きく影響を及ぼさないことが確認されている。電子捕獲活性化は、そのような結合が研究されている場合に、衝突による活性化に対する少なくとも1つの良好な補足方法である。さらに、電子移動解離も同様に用いることができ、その場合、電子が中性分子内に注入され、第2の衝突セルの前に、又はその中で負のイオンを生成し、その後、化学イオン化によって、負のイオンが電子を他の分子に移動させる。
【0030】
図5は、本発明によるタンデム型質量分析計の他の実施形態の斜視図を示す。本実施形態では、前駆体イオンが主衝突セルに入る前の段階で、前駆体イオンを活性化するために第1の衝突セルを用いるのではなく、それに代えて、衝突セル128に隣接するように加熱素子(「ヒータ」)174を配置する。すなわち、本実施形態では、衝突セル128は、活性化及び断片化の両方が行われる単一の衝突セルを含む。ヒータ174は、種々の異なる構成及び幾何学的配列によって配置又は構成されることができる。図示される例示的な実施形態では、衝突セルの長さの一部を外周にわたって取り囲むスリーブの形状にして構成される。一般的に、ヒータ174は衝突セルに隣接することができるか、又は衝突セルを部分的に又は完全に取り囲むことができる。
【0031】
ヒータ174は、電子的制御ユニット170によって制御される電流を受け取る。制御ユニット170は、衝突セル128の外側表面と接触するか、又は単にヒータと接触する温度センサ172によって生成されるところの入力温度測定信号を受信する。閉ループ制御によって、制御ユニットは、温度センサ172から受信する温度信号に応じて、ヒータに供給される電流の量を調整し、所望の設定温度を実現することができる。ヒータ174は、衝突セル128内の温度を少なくとも0〜500℃まで上昇させるだけの十分な熱を与えることが好ましい。衝突セル(それには、金属のような熱伝導性材料を用いることができる)に加えられる熱は衝突ガスに伝達され、前駆体イオンの内部エネルギー状態が衝突ガスと徐々に平衡状態になる。
【0032】
以上のように、具体的な実施形態を示して本発明を説明してきたが、当業者によって、さらなる変更及び変形が可能であることは明らかである。本発明は、添付の特許請求の範囲内に入るこのような全ての変更及び変形を含むことが意図されている。
【0033】
すなわち、本発明は、タンデム型質量分析計であって、内部エネルギーを有する分析物イオンを受け入れる第1の衝突セルと、該第1の衝突セルの下流に配置される第2の衝突セルとを備え、第1の衝突セルは、イオンが第2の衝突セルに入る前に、分析物イオンの内部エネルギーを、分析物イオンのうちの大部分を断片化するには十分でない程度に高めるようにしたことを特徴とするタンデム型質量分析計を提供する。
【0034】
好ましくは、第1の衝突セルは、衝突ガスを含む。このとき、第1の衝突セルに結合される衝突ガス圧力センサと、衝突ガス圧力バルブ及び衝突ガス圧力センサに接続され、第1の衝突セル内に必要とされる設定圧力を実現して分析物イオンの内部エネルギーを調整する衝突ガス圧力制御ユニットとをさらに備えても良い。
【0035】
好ましくは、第1の衝突セルは、軸方向電界を生じる。このとき、第1の衝突セルは、軸方向電界を生成するための多重極ロッドセットを備え得る。また、軸方向電界を用いて、分析物イオンの運動エネルギーを変更することができる。
【0036】
好ましくは、第1の衝突セルに接続され、該第1の衝突セルに制御可能なオフセット電圧を印加するための電圧制御ユニットをさらに備え、分析物イオンの運動エネルギーは、電圧制御ユニットを介してオフセット電圧を変更することによって調整されるようにしても良い。
【0037】
好ましくは、第1の衝突セルは、約0〜約500℃に加熱される。
【0038】
好ましくは、第1の衝突セル及び第2の衝突セルのうちの一方に結合される温度センサと、該温度センサに接続される温度制御ユニットと、第1の衝突セル及び第2の衝突セルのうちの一方に隣接し、温度制御ユニットに接続される加熱素子ユニットとをさらに備え、温度制御ユニットは、温度センサからの信号を受信するとともに、加熱素子に信号を送信し、閉ループで、対応する衝突セル内の温度を調節する。このとき、断片化が行われる第2の衝突セルに対して、温度センサが結合され、且つ加熱素子が隣接するようにしても良い。
【0039】
好ましくは、第2の衝突セルに隣接する電子源と、該電子源からの電子を第2の衝突セルに誘導するための手段とをさらに備える。
【0040】
さらに、本発明は、衝突セルと、該衝突セルに隣接して配置される加熱素子とを備えることを特徴とするタンデム型質量分析計を提供する。
【0041】
好ましくは、衝突セル内の温度を測定するための温度センサと、該温度センサ及び加熱素子に接続されるコントローラであって、温度センサからの測定値を受信するとともに、受信された該測定値に基づいて、設定温度に達するように加熱素子を制御するコントローラとをさらに備える。このとき、コントローラは、衝突セル内の温度を、約0〜約500℃の範囲内の設定値に調整し得る。
【0042】
好ましくは、加熱素子は、衝突セルの外側表面に結合される。このとき、加熱素子は、衝突セルを少なくとも部分的に取り囲む円筒形スリーブを含むようにしても良い。
【0043】
さらに、本発明は、タンデム型質量分析計であって、分析物イオンを高い温度の衝突ガスで加熱する手段と、高い温度で分析物イオンを断片化する手段とを備え、分析物イオンの加熱によって与えられる内部エネルギーは、分析物イオンの内の大部分を断片化するには十分でない程度とされることを特徴とするタンデム型質量分析計を提供する。
【0044】
好ましくは、分析物イオンを高い温度まで加熱するための手段は、第1の衝突セルを含み、高い温度で分析物イオンを断片化するための手段は、第1の衝突セルから下流に位置する第2の衝突セルを含む。
【0045】
好ましくは、分析物イオンを断片化するための手段は、衝突セルを含み、分析物イオンを高い温度まで加熱するための手段は、衝突セルに隣接して配置される加熱素子を含む。
【0046】
好ましくは、加熱素子は、衝突セルの外側表面に結合される。このとき、加熱素子は、衝突セルを取り囲む円筒形スリーブを含んでも良い。
【0047】
好ましくは、高い温度をモニタするための手段と、設定された高い温度に達するように加熱を制御するための手段とをさらに備える。
【0048】
さらに、本発明は、タンデム型質量分析計であって、分析物イオンを生成するためのイオン源と、該イオン源から下流に位置する第1の質量分析器と、該第1の質量分析器から下流に位置する第1の衝突セルと、該第1の衝突セルから下流に位置する第2の衝突セルと、該第2の衝突セルから下流に位置する第2の質量分析器と、該第2の質量分析器から下流に位置する検出器とを備え、第1の衝突セルは、分析物イオンが第2の衝突セルに入る前に、該分析物イオンの内部エネルギーを高めるようにしたことを特徴とするタンデム型質量分析計を提供する。
【0049】
好ましくは、第1の衝突セルは、約0〜約500℃の範囲内の温度を有する衝突ガスを含む。
【0050】
好ましくは、第1の衝突セルに結合される衝突ガス圧力センサと、該衝突ガス圧力センサに接続され、該衝突ガス圧力センサから受信される信号に応答して、第1の衝突セル内の衝突ガスの圧力を設定圧力に達するように制御するための衝突ガス圧力制御ユニットとをさらに備える。
【0051】
好ましくは、第1の衝突セルは、軸方向電界を含む。この場合、軸方向電界は交流とすることができる。
【0052】
さらに、本発明は、タンデム型質量分析計で断片化過程を制御する方法であって、質量分析計内の分析物イオンを高い温度まで加熱すること、及び高い温度で分析物イオンを断片化することを含み、分析物イオンを高い温度まで加熱して与えられる内部エネルギーは、分析物イオンの大部分の断片化を引き起こすのに十分でない程度とされる。
【0053】
好ましくは、分析物イオンを加熱することは、第1の衝突セルで実行され、断片化は、該第1の衝突セルから下流にある第2の衝突セルで実行されるようにする。
【0054】
好ましくは、断片化、及び分析物イオンを加熱することは、ともに衝突セルで実行される。
【0055】
好ましくは、高い温度をモニタすること、及び設定された高い温度に達するように加熱するのを制御することをさらに含む。
【0056】
好ましくは、第1の衝突セルで分析物イオンに軸方向電界をかけることをさらに含んでも良い。このとき、電位勾配が生成される軸を有する多重極ロッドセットを用いて、軸方向電界を与えることをさらに含み得る。軸方向電界は、交流とされても良い。また、第1の衝突セルの軸方向の端部に電位を与え、分析物イオンを閉じ込めるようにするようにしても良い。さらに、多重極ロッドセットに制御可能なオフセット電圧を印加することをさらに含み、分析物イオンの運動エネルギーを、オフセット電圧を変更することによって調整することができるようにしても良い。加えて、第1の衝突セル内の軸方向電界の大きさを制御することをさらに含み、衝突セルの中を進行する分析物イオンの運動エネルギーは、軸方向電界の大きさを変更することによって調整することができるようにしても良い。
【0057】
好ましくは、第2の衝突セル内に電子を導入することをさらに含み、該電子は、第2の衝突セル内で分析物イオンの一部の断片化を引き起こす。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】質量分析計機器内の前駆体イオンの内部エネルギーの予想される分布を示す1つの例示的なグラフである。
【図2】本発明によるタンデム型質量分析計の一実施形態の断面図である。
【図3】イオントラップ用衝突セルを含む、本発明によるタンデム型質量分析計の一実施形態の断面図である。
【図4】電子捕獲活性化のための電子源を含む、本発明によるタンデム型質量分析計の他の実施形態の断面図である。
【図5】本発明によるタンデム型質量分析計の他の実施形態の斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
100 タンデム型質量分析計
124 (第1の)衝突セル
128 (第2の)衝突セル
140 質量分析器
160 電子源
174 加熱ユニット又は電子温度制御ユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析システムに関するものであり、特に、タンデム型質量分析計システムにおけるイオンの分子活性化を行うための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンデム型質量分析計(MS/MS)は、従来、分析物分子の構造を解明するために用いられている。通常のMS/MSシステムでは、親、すなわち「前駆体」分子は、まずイオン化され、その後、第1ステージの質量分析器を用いて分析物サンプルから選択・分離される。その後、前駆体イオンは、それらのイオンを励起する1つ又は複数の活性化作用にかけられる領域に輸送される。当該領域では、生成物イオン及び中性フラグメントへの前駆体イオンの断片化が引き起こされる。その後、生成物イオンは、第2ステージの質量分析器で分析されることができ、生成物イオンに関する分析結果としての質量スペクトルが、前駆体分子の構造についての多くの情報をもたらす。
【0003】
前駆体イオンが活性化領域を通って進行する時間の長さに比べて、生成物イオンが速い速度で断片化によって生成される場合に、その生成物イオンは、質量スペクトルで観測される。解離速度と呼ばれるところの断片化が生じる速度は、用いられる活性化技法に関係なく、前駆体イオンの内部エネルギー分布に依存することが知られている。図1は、質量分析計機器内の前駆体イオンの内部エネルギーの予想される分布を示す。この図によれば、内部エネルギーが高い前駆体イオンほど相対的に高い解離速度を有し、「不安定」であるように見えることが理解される。
【0004】
図1は、前駆体イオンの集団全体のうちの少数の部分だけが高い内部エネルギー及び解離速度を有することを示す。活性化方法を用いてイオンの全内部エネルギーを高めることができ、それによって、実際には曲線全体を右にシフトすることができるから、不安定なイオンの相対的な部分は必ずしも一定ではない。いくつかの活性化方法を利用することができるが、一般的に用いられる技法のうちの1つは衝突誘起解離(「CID」)である(衝突活性化解離(CAD)とも呼ばれる)。この場合、前駆体イオンは、2つの質量分析器ステージ間に配置されるチャンバ内で、中性粒子の原子との衝突を受ける。中性粒子は、通常、ヘリウム又はアルゴンのような、衝突中に前駆体イオンと化学的に相互作用しない不活性ガス、希ガスである。
【0005】
前駆体イオンが中性粒子と非弾性衝突をするとき、前駆体イオンの運動エネルギーの一部が内部エネルギーに変換され、これにより、通常、低い運動エネルギーにおける振動状態の励起が生じる。しかしながら、内部エネルギーに変換することができる運動エネルギーの量は、以下の式によって、イオン及び中性粒子(又は中性種)の相対質量に大きく依存する。
Econv=N/(mp+N)×KE (1)
ここで、Econvは変換のために利用することができる最大エネルギーであり、KEは前駆体イオンの運動エネルギーであり、N及びmpはそれぞれ、中性粒子及び前駆体イオンの質量を表す。式(1)から、衝突当たりで変換のために利用することができる全エネルギーは、イオンの運動エネルギーに比例すること、変換効率は、大きな質量の中性種を用いることによって高めることができること、及び変換効率は、対象の前駆体イオンの質量が増加するのに応じて減少することが明らかである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
大気中のイオン源で生成されるイオンは、通常、それらのイオンが下流の質量分析計の低圧領域に流れ込むときに超音速膨張を受ける。超音速膨張はイオンを冷却し、これらのイオンの運動エネルギーが高い状態にあっても、それらの内部エネルギーをかなり「冷えた」状態まで降下させ得る。イオンが衝突を受けるような場合には、衝突の運動エネルギーがイオンを徐々に熱運動化し、それらのイオンの内部温度が上昇して、それらのイオンの種々の内部振動モードにエネルギーを与える。イオンの内部温度が上昇すると、或る特定の振動モードが、保持することができるエネルギーよりも多くのエネルギーを得るので、前駆体イオンに初期の不安定状態を生じ得る。
【0007】
超音速膨張による冷却作用を一つの要因として、内部エネルギーが不十分なまま、前駆体イオンがこれらの機器の衝突セルに到着するという理由から、多くの場合、現在使用されるタンデム型質量分析計のための構成は、生成物イオンを生成するために効率的であるとはいえない。それゆえ、前駆体イオンが、イオンの断片化が生じるように設計される時間までに確実に熱運動化されるようにするための方法及び装置が必要とされている。さらに、前駆体イオンが断片化領域に入るのに応じて、前駆体イオンの内部エネルギーレベル(それと合わせて、それらのイオンの対応する振動モード、又は不安定性)を選択的に調整することによって断片化パターンを変形できるように、前駆体イオンの活性化過程を制御することが必要とされている。
【0008】
本発明は、タンデム型質量分析計で、断片化する前にイオンの分子を活性化する手段及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの態様によれば、本発明のタンデム型質量分析計は、内部エネルギーを有する分析物イオンを受け入れる第1の衝突セルと、当該第1の衝突セルの下流に配置される第2の衝突セルとを含み、第1の衝突セルは、イオンが第2の衝突セルに入る前に、分析物イオンの内部エネルギーを高める手段を備える。このとき、第1の衝突セルによって高められる内部エネルギーは、分析物イオンのかなりの部分を断片化するには不十分である程度とされる。
【0010】
別の態様によれば、本発明は、衝突セルと、衝突セルに隣接して配置される加熱素子とを備えるタンデム型質量分析計を備え得る。
【0011】
さらに、本発明は、タンデム型質量分析計における断片化過程を制御する方法を含む。当該方法は、質量分析計内の分析物イオンを高い温度まで加熱すること、及び当該高い温度で分析物イオンを断片化することを含む。このとき、当該高い温度は、それのみによっては、分析物イオンのかなりの部分の断片化を引き起こすほど十分な内部エネルギーは与えられない程度とされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に添付図面を参照して、本発明の最適となる実施形態について、詳細に説明する。本発明を詳細に説明する前に、本明細書及び添付の特許請求の範囲の中で用いるときに、単数形で表される要素は、文脈上、他に明確に指示される場合を除いて、複数形の指示物も含み得ることに留意されたい。
【0013】
本明細書における説明で用いられるときに、用語「隣接する」は、近接していること、隣にあること、又は接触していること(adjoin)を意味する。隣接しているものは、別の構成要素と接触している場合があるか、他の構成要素を包囲している(すなわち、他の構成要素と同心を成している)場合があるか、他の構成要素から離隔している場合があるか、又は他の構成要素の一部を含む場合もある。
【0014】
また、本明細書で、タンデム型質量分析法の技術分野の熟練者がイオンについて言及する場合には、衝突セルで親イオン又は前駆体イオンとして様々に断片化される前のイオン、及び衝突によって生成されるところの断片である子イオン又は生成物イオンを指している。本明細書の説明では、用語「前駆体イオン」及び「生成物イオン」だけが用いられるが、これらの用語は、当業者によって類似の文脈で用いられるような親イオン及び子イオンと同じ意味を有する。
【0015】
図2は、前駆体イオンの分子の活性化及び熱運動化を提供する、本発明による1つの例示的なタンデム型質量分析計(MS/MS)システムの断面図を示す。前駆体イオンの用語「熱運動化」は、所与の温度で、前駆体イオンの内部状態が平衡状態になることをも指している。システム100は、イオン源110を備えており、イオン源110は、当該技術分野で既知である、分析物サンプルから前駆体イオンを生成するための任意の装置又は機構を含むことができ、例えば、エレクトロスプレー、APCI(大気圧化学イオン化)、APPI(大気圧光イオン化)、AP−MALDI等の大気圧イオン化機構、又は電子衝撃及びプラズマイオン化機構のような非大気圧イオン源等の手段が使用され得る。イオン源110によって生成される前駆体イオンは、1つ又は複数の真空ステージ112に繋がる毛管又はオリフィス内に誘導される。単純化のために、1つの真空ステージだけが示されるが、一般的には、イオン源110と第1ステージの質量分析器との間にいくつかの真空ステージを設けることができ、また、各真空ステージが、質量分析計の中心軸105に向かってイオンを集束するために、イオンガイド及び/又は集束レンズを備えることができる。真空ステージ間では、中性ガスが排気されるので、一般的に圧力の大きさが1桁以上降下するが、真空ステージ内のイオンガイド上に保持されるRF電界に起因して、イオンは概ね中心軸付近に集束されたままの状態で維持される。
【0016】
先に言及しように、イオン源110により大気圧下で生成されるイオンは、一般的に、まず第1の真空ステージ112に入り、その内部エネルギーを低いレベルまで降下させつつ、超音速膨張を生じる。それらのイオンが一連の真空ステージ中を進行し、圧力がさらに下がるとき、衝突の確率は低下し、イオンの低い内部エネルギー状態が保持される。しかしながら、イオンは電位差によって加速されることができ、これにより、イオンは運動エネルギーを獲得することができる。すなわち、イオンの運動エネルギーは、真空ステージ間の電位差、及び最後の真空ステージと第1の質量分析器との間の所定の電位差によって、高くすることができる。
【0017】
第1の質量分析器ステージ120は、四重極質量フィルタ、線形又は三次元(3D)イオントラップ、オービトラップ、飛行時間(TOF)又は当該技術分野で知られている任意の他の適当な質量分析器を備えることができる。第1ステージの質量分析器120にRF場及びDC場の両方が与えられて、m/z比の範囲を固定又は走査することによって、適当な前駆体イオンが選択される。質量分析器120の中を通り抜けることを許される前駆体イオンは、その後、衝突ステージ130に通される。図2に示す実施形態では、衝突ステージ130は、前駆体イオンをセル内に存在する衝突ガスとの衝突により活性化し、加熱する第1の衝突セル124と、当該第1の衝突セル124で活性化した前駆体イオンを断片化する第2の衝突セル128とを含む。
【0018】
断片化から生じる生成物イオンは、その後、検出器142を含む第2ステージの質量分析器140を用いて走査される。ここで記述される実験方法、生成物イオン走査は、たとえば前駆体イオン走査及び中性粒子損失走査を含む、本発明を適用可能な多数の実験方法のうちの1つにすぎない。
【0019】
第1の衝突セル124では、イオンは中性ガス分子との衝突を受ける。たとえば、Whitehouseらの米国特許第6,919,562号に説明されるように、一般的に、この過程では、衝突による冷却を生じ、これによりイオンの運動エネルギーは低減される。衝突による冷却は、イオン速度の径方向の成分を低減し、それゆえイオンは質量分析器の中心軸105に沿ってさらに厳密に集束されるという利点を有する。先に言及されたように、中性ガス原子又は分子との衝突中に、イオンの運動エネルギーのうちの或る量が内部エネルギーに変換される。この変換は、イオンが熱運動化されるまで、すなわちそれらのイオンの内部エネルギー状態分布が衝突セル内の背景衝突(background collision)ガス温度に一致するまで続くであろう。この背景温度は、たとえば、0〜500℃の範囲とすることができる。その温度は、電子的温度(熱)制御ユニット170を用いた閉ループ制御手段によって制御することができる。当該制御手段は、第1の衝突セル124に結合される温度センサ172をモニタするとともに、当該温度センサから受信される信号に応じて、設定温度を実現且つ/又は維持するように、セルに接続される加熱ユニット174を起動又は停止する。
【0020】
衝突速度は、衝突ガスの圧力及び第1の衝突セル124の長さの両方によっても影響を受け、それらはいずれも、輸送されるイオン当たりの衝突回数を決定するのに寄与する。一般的に、衝突ガスは約0.013Pa(0.1mtorr)〜6.666Pa(50mtorr)の圧力に保持することができるが、この範囲は特許請求された発明の範囲を制限するものではない。第1の衝突セル124及び第2の衝突セル128の両方の衝突ガスの圧力は、電子圧力制御ユニット180によって、圧力センサ182、184を用いて閉ループ制御で制御することができる。圧力制御ユニット180は、圧力センサ182、184から受信される信号に応答して、1つ又は複数のバルブを、それゆえガス流を制御することができる。圧力センサ182、184は、第1の衝突セル124、第2の衝突セル128のいずかの中に、又は衝突セルを封入するそれぞれのチャンバ120、130の中に配置することができる。チャンバ120、130内の圧力は通常、衝突セル124、128内の圧力よりもわずかに低い。センサがチャンバ120、130内に配置される場合には、圧力の読み値が線形な関係にあるので、その読み値をチャンバ内圧力に較正することができる。
【0021】
図示される実施形態では、第1の衝突セル124は多重極装置125(すなわち、四重極、六重極、八重極等)を備え、電極ロッドの組にRF電力のみが与えられる。他の場合に、第1の衝突セル124は、イオントラップ手段としての構成を含むこともできる。イオントラップ構成が用いられるときには、トラップしない構成と比較して、イオンが衝突チャンバ内にはるかに長時間にわたって留まる。すなわち、かかるイオントラップは、前駆体イオンを「ゆっくり加熱する」のに適している場合もある。線形イオントラップとしての役割を果たす第1の衝突セルを含む質量分析計の一実施形態が図3に示される。
【0022】
図示されるように、図3の実施形態内の第1の衝突セル124は、多重極装置155と、アパーチャ付きの電極152及び154とを備える。アパーチャ付きの電極152、154にかかる電圧は、指定された時間にわたってイオンをセル内に閉じ込めるように制御される。セルを満たすために、入口電極152の電位が下げられ、出口電極の電位を上げることができる。イオンが第1の衝突セル内に留まる時間は、アパーチャの電位によって決定されるから、イオンを閉じ込めることによりイオンの内部エネルギーと背景(温度又はエネルギー)レベルとを平衡状態にするために、その時間を比較的長いものとすることができる。
【0023】
図2及び図3の実施形態のうちの一方又は両方で、軸方向の電界を用いて、前駆体イオンの運動エネルギーを増加又は保持することができる。第1の衝突セル124で多重極装置が用いられるとき、多重極セットの軸に沿って約0.1〜約5V/cmの軸方向DC電界が内部で生成されるように、ロッドセットを構成することができる。Thomsonらの米国特許第5,847,386号は、多重極セットを用いて軸方向DC電界を生成するためのいくつかの技法を示している。本発明は、限定はしないが、その中に記述される技法のうちの任意のものを利用することができ、例えば、先細りの多重極ロッド、傾斜のある多重極ロッド、抵抗及び個別の電圧源を用いるセグメント化されたロッド、抵抗性の表面層を有する多重極ロッド間に配置される補助電極、抵抗性材料で多重極ロッドをコーティングしたり、さらに、多重極ロッドを導電性の帯で分割したりすることもできる。また、軸方向電界は交流にすることもでき、それにより衝突ガスの圧力を高めることなく、さらに多くの衝突を促すことができる。これは、多重極セットに対して振動する(すなわち正と負との間で入れ替わる)電位を印加することによって実現される。
【0024】
イオンを下流に向けて加速するために、第1の衝突セル124と第2の衝突セル128との間にオフセット電圧が印加される。オフセット電圧を確立するために、個別の電圧源191、192を第1の衝突セル124及び第2の衝突セル128に接続することができるか、又は単一の電圧源を、分圧回路を通して両方の衝突セルに接続することができる。電圧源に電圧制御ユニット190を接続して、各衝突セル124、128上の電位を調整可能に設定することができる。この場合の用語「電圧源」は、幅広く解釈されるべきである。たとえば、電圧源は、実際の電源である必要はない。単にグランドに、又は一定の電位の別の導体に接続するだけでもよい。所与の電位差を得るために、絶対電位に関係なく、電界は同じである。したがって、「電圧源」という用語が本明細書の中で用いられるときには、それが接続されるものに電位を設定できるのであれば、具体的な手段は問わない。印加される電位の大きさを制御するために、電圧源は電子工学的に、又は手動で調整可能にすることができる。
【0025】
前駆体イオンが第1の衝突セル124から出るとき、イオンのかなりの部分が熱運動化され、それらのイオンの内部エネルギー分布及び温度が背景衝突ガスと平衡状態にある。したがって、第2の衝突セル128は、広い内部エネルギー状態の分布を有する概ね熱運動化されたイオンを取り込む。これらのイオンは、第2の衝突セルで、さらに衝突することにより、断片化する確率が高くなると考えられる。さらに、イオン内の異なる化学結合は、特定の支配的な振動/電子エネルギーモードに応じて異なるように断片化する傾向があるので、前駆体イオンの内部エネルギー状態の分布を制御することによって、生じる断片化のタイプを変えることができる。断片化する際に、前駆体イオンは、前駆体の内部エネルギー状態の集団に応じて、種々の生成物イオン及び中性種に分かれることができる。生成物イオンは、多重極ガイド129によって誘導される。
【0026】
検出器142を含む第2の質量分析器140は、四重極、イオントラップ、オービトラップ、TOF又はこれらの構成要素の組み合わせをタンデム配列で含むことができる。第1の質量分析器で用いられる走査モードと組み合わせて、第2の質量分析器で用いられるモードは、質量分析計100によって実行される分析調査の種類を決定する。詳細には、当該装置は、少なくとも4つの異なる組み合わせのモードを備えている。第1の質量分析器120によって選択されるm/z比が一定であり、第2の質量分析器140が走査される場合には、特定の前駆体イオンのための全範囲の生成物イオンが検出される(「生成物イオン走査」)。逆に、第1の質量分析器が走査され、第2の質量分析器が一定である場合には、或る範囲の前駆体が試験され、断片化によって前駆体のグループから特定の生成物を導出できるか否かが判定される(「前駆体イオン走査」)。第1の質量分析器及び第2の質量分析器の両方が走査される(オフセットあり)場合には、所定のオフセットを有する前駆体イオン及び生成物イオン対を分析することができる。第1の質量分析器及び第2の質量分析器の両方が一定である場合には、選択性反応監視モードが設定され、それにより、特定の前駆体イオンの断片化の結果として、特定の生成物イオンが生じるか否かが判定される。
【0027】
図4は、本発明によるタンデム型質量分析計のさらに別の実施形態を示している。当該装置では、衝突活性化の代わりに(又は衝突活性化に加えて)、電子捕獲活性化及び解離(それは、DEA又はECDとして省略形で参照される場合がある)を用いて前駆体イオンが断片化される。電子源160は、第2の衝突セル128の出口付近に配置される。電子源160は、電子源の長手方向のいずれかの側に配置されるレンズ素子163、164と同じ電位に保持されるハウジングを備えることができる。当該手段に関連して、先に示したWhitehouseらの米国特許第6,919,562号によれば、限定はしないが、本発明で、加熱されたフィラメント、間接的に加熱された陰極ディスペンサ、感光材料と組み合わせた光子源及び電子銃等を含む多数の異なるタイプの電子源を用いることができる。本発明では、第2の衝突セル内に電子を導入するための手段として、さらに他の手段を同様に用いることができ、上記したWhitehouseらの特許で説明される手法は、例示的なものにすぎない。
【0028】
電子源は、約0.2〜約5eVの範囲内の低エネルギー電子の大きな流束を生成することが好ましい。電子源160から放出される電子は、レンズ163と164との間にある無電界領域(field free region)に入る。その後、レンズ164に、レンズ163よりも大きな負の電圧パルスを印加することができ、レンズ163は、レンズ163の中を通る電子を、第2の衝突セル128の出口に向かってパルスとして再び放出する。その際、レンズ163と、第1の衝突セル128のオフセット電位との間の電位差が、電子を第2の衝突セルに引き寄せる。第1の衝突セル124及び第2の衝突セル128の両方で、衝突による冷却が前駆体イオンの運動エネルギーを低減し、それらのイオンを質量分析計の中心軸105に向かって集束する。その軸に沿ったイオンの濃度は、このエリア内に空間電荷効果を生み出し、それにより第2の衝突セル128に導入された電子が引き寄せられ、イオンの速度を減速することによって、電子捕獲作用の効率が高まる。
【0029】
電子捕獲は、通常振動又は回転による状態励起ではなく、電子状態相互作用を含む。したがって、ECDは、衝突誘起活性化とは異なる。低エネルギーの電子を捕獲した後に、イオンは、構造的に配列し直され、結果として構造的に不安定になるものと考えられる。電子捕獲によって引き起こされる構造的な不安定性は、衝突による活性化によって引き起こされるところの構造的な不安定性とは異なる可能性があり、結果として、用いられる活性化モードによっては、第2の衝突セル128における衝突から、異なる断片化パターンが現われる可能性がある。詳細には、ECDは、前駆体イオンの内部エネルギーによって大きく影響を受ける。したがって、イオンを加熱する結果として、結果的な断片化パターンに著しい差が生じる可能性がある。たとえば、電子捕獲はペプチドバックボーンアミン結合(Cα‐N結合)の断片化を促進するのに対して、衝突による活性化は多くの場合にそのような結合に大きく影響を及ぼさないことが確認されている。電子捕獲活性化は、そのような結合が研究されている場合に、衝突による活性化に対する少なくとも1つの良好な補足方法である。さらに、電子移動解離も同様に用いることができ、その場合、電子が中性分子内に注入され、第2の衝突セルの前に、又はその中で負のイオンを生成し、その後、化学イオン化によって、負のイオンが電子を他の分子に移動させる。
【0030】
図5は、本発明によるタンデム型質量分析計の他の実施形態の斜視図を示す。本実施形態では、前駆体イオンが主衝突セルに入る前の段階で、前駆体イオンを活性化するために第1の衝突セルを用いるのではなく、それに代えて、衝突セル128に隣接するように加熱素子(「ヒータ」)174を配置する。すなわち、本実施形態では、衝突セル128は、活性化及び断片化の両方が行われる単一の衝突セルを含む。ヒータ174は、種々の異なる構成及び幾何学的配列によって配置又は構成されることができる。図示される例示的な実施形態では、衝突セルの長さの一部を外周にわたって取り囲むスリーブの形状にして構成される。一般的に、ヒータ174は衝突セルに隣接することができるか、又は衝突セルを部分的に又は完全に取り囲むことができる。
【0031】
ヒータ174は、電子的制御ユニット170によって制御される電流を受け取る。制御ユニット170は、衝突セル128の外側表面と接触するか、又は単にヒータと接触する温度センサ172によって生成されるところの入力温度測定信号を受信する。閉ループ制御によって、制御ユニットは、温度センサ172から受信する温度信号に応じて、ヒータに供給される電流の量を調整し、所望の設定温度を実現することができる。ヒータ174は、衝突セル128内の温度を少なくとも0〜500℃まで上昇させるだけの十分な熱を与えることが好ましい。衝突セル(それには、金属のような熱伝導性材料を用いることができる)に加えられる熱は衝突ガスに伝達され、前駆体イオンの内部エネルギー状態が衝突ガスと徐々に平衡状態になる。
【0032】
以上のように、具体的な実施形態を示して本発明を説明してきたが、当業者によって、さらなる変更及び変形が可能であることは明らかである。本発明は、添付の特許請求の範囲内に入るこのような全ての変更及び変形を含むことが意図されている。
【0033】
すなわち、本発明は、タンデム型質量分析計であって、内部エネルギーを有する分析物イオンを受け入れる第1の衝突セルと、該第1の衝突セルの下流に配置される第2の衝突セルとを備え、第1の衝突セルは、イオンが第2の衝突セルに入る前に、分析物イオンの内部エネルギーを、分析物イオンのうちの大部分を断片化するには十分でない程度に高めるようにしたことを特徴とするタンデム型質量分析計を提供する。
【0034】
好ましくは、第1の衝突セルは、衝突ガスを含む。このとき、第1の衝突セルに結合される衝突ガス圧力センサと、衝突ガス圧力バルブ及び衝突ガス圧力センサに接続され、第1の衝突セル内に必要とされる設定圧力を実現して分析物イオンの内部エネルギーを調整する衝突ガス圧力制御ユニットとをさらに備えても良い。
【0035】
好ましくは、第1の衝突セルは、軸方向電界を生じる。このとき、第1の衝突セルは、軸方向電界を生成するための多重極ロッドセットを備え得る。また、軸方向電界を用いて、分析物イオンの運動エネルギーを変更することができる。
【0036】
好ましくは、第1の衝突セルに接続され、該第1の衝突セルに制御可能なオフセット電圧を印加するための電圧制御ユニットをさらに備え、分析物イオンの運動エネルギーは、電圧制御ユニットを介してオフセット電圧を変更することによって調整されるようにしても良い。
【0037】
好ましくは、第1の衝突セルは、約0〜約500℃に加熱される。
【0038】
好ましくは、第1の衝突セル及び第2の衝突セルのうちの一方に結合される温度センサと、該温度センサに接続される温度制御ユニットと、第1の衝突セル及び第2の衝突セルのうちの一方に隣接し、温度制御ユニットに接続される加熱素子ユニットとをさらに備え、温度制御ユニットは、温度センサからの信号を受信するとともに、加熱素子に信号を送信し、閉ループで、対応する衝突セル内の温度を調節する。このとき、断片化が行われる第2の衝突セルに対して、温度センサが結合され、且つ加熱素子が隣接するようにしても良い。
【0039】
好ましくは、第2の衝突セルに隣接する電子源と、該電子源からの電子を第2の衝突セルに誘導するための手段とをさらに備える。
【0040】
さらに、本発明は、衝突セルと、該衝突セルに隣接して配置される加熱素子とを備えることを特徴とするタンデム型質量分析計を提供する。
【0041】
好ましくは、衝突セル内の温度を測定するための温度センサと、該温度センサ及び加熱素子に接続されるコントローラであって、温度センサからの測定値を受信するとともに、受信された該測定値に基づいて、設定温度に達するように加熱素子を制御するコントローラとをさらに備える。このとき、コントローラは、衝突セル内の温度を、約0〜約500℃の範囲内の設定値に調整し得る。
【0042】
好ましくは、加熱素子は、衝突セルの外側表面に結合される。このとき、加熱素子は、衝突セルを少なくとも部分的に取り囲む円筒形スリーブを含むようにしても良い。
【0043】
さらに、本発明は、タンデム型質量分析計であって、分析物イオンを高い温度の衝突ガスで加熱する手段と、高い温度で分析物イオンを断片化する手段とを備え、分析物イオンの加熱によって与えられる内部エネルギーは、分析物イオンの内の大部分を断片化するには十分でない程度とされることを特徴とするタンデム型質量分析計を提供する。
【0044】
好ましくは、分析物イオンを高い温度まで加熱するための手段は、第1の衝突セルを含み、高い温度で分析物イオンを断片化するための手段は、第1の衝突セルから下流に位置する第2の衝突セルを含む。
【0045】
好ましくは、分析物イオンを断片化するための手段は、衝突セルを含み、分析物イオンを高い温度まで加熱するための手段は、衝突セルに隣接して配置される加熱素子を含む。
【0046】
好ましくは、加熱素子は、衝突セルの外側表面に結合される。このとき、加熱素子は、衝突セルを取り囲む円筒形スリーブを含んでも良い。
【0047】
好ましくは、高い温度をモニタするための手段と、設定された高い温度に達するように加熱を制御するための手段とをさらに備える。
【0048】
さらに、本発明は、タンデム型質量分析計であって、分析物イオンを生成するためのイオン源と、該イオン源から下流に位置する第1の質量分析器と、該第1の質量分析器から下流に位置する第1の衝突セルと、該第1の衝突セルから下流に位置する第2の衝突セルと、該第2の衝突セルから下流に位置する第2の質量分析器と、該第2の質量分析器から下流に位置する検出器とを備え、第1の衝突セルは、分析物イオンが第2の衝突セルに入る前に、該分析物イオンの内部エネルギーを高めるようにしたことを特徴とするタンデム型質量分析計を提供する。
【0049】
好ましくは、第1の衝突セルは、約0〜約500℃の範囲内の温度を有する衝突ガスを含む。
【0050】
好ましくは、第1の衝突セルに結合される衝突ガス圧力センサと、該衝突ガス圧力センサに接続され、該衝突ガス圧力センサから受信される信号に応答して、第1の衝突セル内の衝突ガスの圧力を設定圧力に達するように制御するための衝突ガス圧力制御ユニットとをさらに備える。
【0051】
好ましくは、第1の衝突セルは、軸方向電界を含む。この場合、軸方向電界は交流とすることができる。
【0052】
さらに、本発明は、タンデム型質量分析計で断片化過程を制御する方法であって、質量分析計内の分析物イオンを高い温度まで加熱すること、及び高い温度で分析物イオンを断片化することを含み、分析物イオンを高い温度まで加熱して与えられる内部エネルギーは、分析物イオンの大部分の断片化を引き起こすのに十分でない程度とされる。
【0053】
好ましくは、分析物イオンを加熱することは、第1の衝突セルで実行され、断片化は、該第1の衝突セルから下流にある第2の衝突セルで実行されるようにする。
【0054】
好ましくは、断片化、及び分析物イオンを加熱することは、ともに衝突セルで実行される。
【0055】
好ましくは、高い温度をモニタすること、及び設定された高い温度に達するように加熱するのを制御することをさらに含む。
【0056】
好ましくは、第1の衝突セルで分析物イオンに軸方向電界をかけることをさらに含んでも良い。このとき、電位勾配が生成される軸を有する多重極ロッドセットを用いて、軸方向電界を与えることをさらに含み得る。軸方向電界は、交流とされても良い。また、第1の衝突セルの軸方向の端部に電位を与え、分析物イオンを閉じ込めるようにするようにしても良い。さらに、多重極ロッドセットに制御可能なオフセット電圧を印加することをさらに含み、分析物イオンの運動エネルギーを、オフセット電圧を変更することによって調整することができるようにしても良い。加えて、第1の衝突セル内の軸方向電界の大きさを制御することをさらに含み、衝突セルの中を進行する分析物イオンの運動エネルギーは、軸方向電界の大きさを変更することによって調整することができるようにしても良い。
【0057】
好ましくは、第2の衝突セル内に電子を導入することをさらに含み、該電子は、第2の衝突セル内で分析物イオンの一部の断片化を引き起こす。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】質量分析計機器内の前駆体イオンの内部エネルギーの予想される分布を示す1つの例示的なグラフである。
【図2】本発明によるタンデム型質量分析計の一実施形態の断面図である。
【図3】イオントラップ用衝突セルを含む、本発明によるタンデム型質量分析計の一実施形態の断面図である。
【図4】電子捕獲活性化のための電子源を含む、本発明によるタンデム型質量分析計の他の実施形態の断面図である。
【図5】本発明によるタンデム型質量分析計の他の実施形態の斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
100 タンデム型質量分析計
124 (第1の)衝突セル
128 (第2の)衝突セル
140 質量分析器
160 電子源
174 加熱ユニット又は電子温度制御ユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンデム型質量分析計であって、
内部エネルギーを有する分析物イオンを受け入れる第1の衝突セルと、
該第1の衝突セルの下流に配置される第2の衝突セルとを備え、
前記第1の衝突セルは、前記イオンが前記第2の衝突セルに入る前に、前記分析物イオンの前記内部エネルギーを、前記分析物イオンのうちの大部分を断片化するには十分でない程度に高めるようにしたことを特徴とするタンデム型質量分析計。
【請求項2】
前記第1の衝突セルは衝突ガスを含むことを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項3】
前記第1の衝突セルに結合される衝突ガス圧力センサと、
衝突ガス圧力バルブ及び前記衝突ガス圧力センサに接続され、前記第1の衝突セル内に必要とされる設定圧力を実現して前記分析物イオンの前記内部エネルギーを調整する衝突ガス圧力制御ユニットとをさらに備えることを特徴とする、請求項2に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項4】
前記第1の衝突セルは、軸方向電界を生ぜしめることを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項5】
前記第1の衝突セルは、前記軸方向電界を生成するための多重極ロッドセットを備えることを特徴とする、請求項4に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項6】
前記軸方向電界を用いて、前記分析物イオンの運動エネルギーを変更するようにしたことを特徴とする、請求項4に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項7】
前記第1の衝突セルに接続され、該第1の衝突セルに制御可能なオフセット電圧を印加するための電圧制御ユニットをさらに備え、前記分析物イオンの運動エネルギーは、前記電圧制御ユニットを介して前記オフセット電圧を変更することによって調整されるようにしたことを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項8】
前記第1の衝突セルは、約0〜約500℃に加熱されることを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項9】
前記第1の衝突セル及び前記第2の衝突セルのうちの一方に結合される温度センサと、
該温度センサに接続される温度制御ユニットと、
前記第1の衝突セル及び前記第2の衝突セルのうちの一方に隣接し、前記温度制御ユニットに接続される加熱素子ユニットとをさらに備え、
前記温度制御ユニットは、前記温度センサからの信号を受信するとともに、前記加熱素子に信号を送信し、閉ループで、対応する前記衝突セル内の温度を調節することを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項10】
断片化が行われる前記第2の衝突セルに対して、前記温度センサが結合され、且つ前記加熱素子が隣接するようにしたことを特徴とする、請求項9に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項11】
前記第2の衝突セルに隣接する電子源と、
該電子源からの電子を前記第2の衝突セルに誘導するための手段とをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項12】
衝突セルと、
該衝突セルに隣接して配置される加熱素子とを備えることを特徴とするタンデム型質量分析計。
【請求項13】
前記衝突セル内の温度を測定するための温度センサと、
該温度センサ及び前記加熱素子に接続されるコントローラであって、前記温度センサからの測定値を受信するとともに、受信された該測定値に基づいて、設定温度に達するように前記加熱素子を制御するコントローラとをさらに備えることを特徴とする、請求項12に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項14】
前記コントローラは、前記衝突セル内の温度を、約0〜約500℃の範囲内の設定値に調整することを特徴とする、請求項13に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項15】
前記加熱素子は、前記衝突セルの外側表面に結合されることを特徴とする、請求項12に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項16】
前記加熱素子は、前記衝突セルを少なくとも部分的に取り囲む円筒形スリーブを含むことを特徴とする、請求項15に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項17】
タンデム型質量分析計であって、
分析物イオンを高い温度の衝突ガスで加熱する手段と、
前記高い温度で前記分析物イオンを断片化する手段とを備え、
前記分析物イオンの加熱によって与えられる内部エネルギーは、前記分析物イオンの内の大部分を断片化するには十分でない程度とされることを特徴とするタンデム型質量分析計。
【請求項18】
前記分析物イオンを高い温度まで加熱するための前記手段は、第1の衝突セルを含み、前記高い温度で前記分析物イオンを断片化するための前記手段は、前記第1の衝突セルから下流に位置する第2の衝突セルを含むことを特徴とする、請求項17に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項19】
前記分析物イオンを断片化するための前記手段は、衝突セルを含み、前記分析物イオンを高い温度まで加熱するための前記手段は、前記衝突セルに隣接して配置される加熱素子を含むことを特徴とする、請求項17に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項20】
前記加熱素子は、前記衝突セルの外側表面に結合されることを特徴とする、請求項19に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項21】
前記加熱素子は、前記衝突セルを取り囲む円筒形スリーブを含むことを特徴とする、請求項20に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項22】
前記高い温度をモニタするための手段と、
設定された高い温度に達するように加熱を制御するための手段とをさらに備えることを特徴とする、請求項17に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項23】
タンデム型質量分析計であって、
分析物イオンを生成するためのイオン源と、
該イオン源から下流に位置する第1の質量分析器と、
該第1の質量分析器から下流に位置する第1の衝突セルと、
該第1の衝突セルから下流に位置する第2の衝突セルと、
該第2の衝突セルから下流に位置する第2の質量分析器と、
該第2の質量分析器から下流に位置する検出器とを備え、
前記第1の衝突セルは、前記分析物イオンが前記第2の衝突セルに入る前に、前記分析物イオンの内部エネルギーを高めるようにしたことを特徴とするタンデム型質量分析計。
【請求項24】
前記第1の衝突セルは、約0〜約500℃の範囲内の温度を有する衝突ガスを含むことを特徴とする、請求項23に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項25】
前記第1の衝突セルに結合される衝突ガス圧力センサと、
該衝突ガス圧力センサに接続され、該衝突ガス圧力センサから受信される信号に応答して、前記第1の衝突セル内の前記衝突ガスの圧力を設定圧力に達するように制御するための衝突ガス圧力制御ユニットとをさらに備えることを特徴とする、請求項24に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項26】
前記第1の衝突セルは、軸方向電界を含むことを特徴とする、請求項23に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項27】
前記軸方向電界は交流であることを特徴とする、請求項26に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項28】
タンデム型質量分析計で断片化過程を制御する方法であって、
前記質量分析計内の分析物イオンを高い温度まで加熱すること、及び
前記高い温度で前記分析物イオンを断片化することを含み、
前記分析物イオンを前記高い温度まで加熱して与えられる内部エネルギーは、前記分析物イオンの大部分の断片化を引き起こすのに十分でない程度とされることを特徴とする方法。
【請求項29】
前記分析物イオンを加熱することは、第1の衝突セルで実行され、前記断片化は、該第1の衝突セルから下流にある第2の衝突セルで実行されるようにしたことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記断片化、及び前記分析物イオンを加熱することは、ともに衝突セルで実行されることを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記高い温度をモニタすること、及び
設定された高い温度に達するように前記加熱するのを制御することをさらに含むことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の衝突セルで前記分析物イオンに軸方向電界をかけることをさらに含むことを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
電位勾配が生成される軸を有する多重極ロッドセットを用いて、前記軸方向電界を与えることをさらに含むことを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記軸方向電界は、交流であるようにしたことを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記第1の衝突セルの軸方向の端部に電位を与え、前記分析物イオンを閉じ込めるようにすることをさらに含むことを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記多重極ロッドセットに制御可能なオフセット電圧を印加することをさらに含み、
前記分析物イオンの運動エネルギーを、前記オフセット電圧を変更することによって調整することができるようにしたことを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記第1の衝突セル内の前記軸方向電界の大きさを制御することをさらに含み、
前記衝突セルの中を進行する前記分析物イオンの運動エネルギーは、前記軸方向電界の前記大きさを変更することによって調整することができるようにしたことを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記第2の衝突セル内に電子を導入することをさらに含み、
該電子は、前記第2の衝突セル内で前記分析物イオンの一部の前記断片化を引き起こすことを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項1】
タンデム型質量分析計であって、
内部エネルギーを有する分析物イオンを受け入れる第1の衝突セルと、
該第1の衝突セルの下流に配置される第2の衝突セルとを備え、
前記第1の衝突セルは、前記イオンが前記第2の衝突セルに入る前に、前記分析物イオンの前記内部エネルギーを、前記分析物イオンのうちの大部分を断片化するには十分でない程度に高めるようにしたことを特徴とするタンデム型質量分析計。
【請求項2】
前記第1の衝突セルは衝突ガスを含むことを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項3】
前記第1の衝突セルに結合される衝突ガス圧力センサと、
衝突ガス圧力バルブ及び前記衝突ガス圧力センサに接続され、前記第1の衝突セル内に必要とされる設定圧力を実現して前記分析物イオンの前記内部エネルギーを調整する衝突ガス圧力制御ユニットとをさらに備えることを特徴とする、請求項2に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項4】
前記第1の衝突セルは、軸方向電界を生ぜしめることを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項5】
前記第1の衝突セルは、前記軸方向電界を生成するための多重極ロッドセットを備えることを特徴とする、請求項4に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項6】
前記軸方向電界を用いて、前記分析物イオンの運動エネルギーを変更するようにしたことを特徴とする、請求項4に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項7】
前記第1の衝突セルに接続され、該第1の衝突セルに制御可能なオフセット電圧を印加するための電圧制御ユニットをさらに備え、前記分析物イオンの運動エネルギーは、前記電圧制御ユニットを介して前記オフセット電圧を変更することによって調整されるようにしたことを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項8】
前記第1の衝突セルは、約0〜約500℃に加熱されることを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項9】
前記第1の衝突セル及び前記第2の衝突セルのうちの一方に結合される温度センサと、
該温度センサに接続される温度制御ユニットと、
前記第1の衝突セル及び前記第2の衝突セルのうちの一方に隣接し、前記温度制御ユニットに接続される加熱素子ユニットとをさらに備え、
前記温度制御ユニットは、前記温度センサからの信号を受信するとともに、前記加熱素子に信号を送信し、閉ループで、対応する前記衝突セル内の温度を調節することを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項10】
断片化が行われる前記第2の衝突セルに対して、前記温度センサが結合され、且つ前記加熱素子が隣接するようにしたことを特徴とする、請求項9に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項11】
前記第2の衝突セルに隣接する電子源と、
該電子源からの電子を前記第2の衝突セルに誘導するための手段とをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項12】
衝突セルと、
該衝突セルに隣接して配置される加熱素子とを備えることを特徴とするタンデム型質量分析計。
【請求項13】
前記衝突セル内の温度を測定するための温度センサと、
該温度センサ及び前記加熱素子に接続されるコントローラであって、前記温度センサからの測定値を受信するとともに、受信された該測定値に基づいて、設定温度に達するように前記加熱素子を制御するコントローラとをさらに備えることを特徴とする、請求項12に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項14】
前記コントローラは、前記衝突セル内の温度を、約0〜約500℃の範囲内の設定値に調整することを特徴とする、請求項13に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項15】
前記加熱素子は、前記衝突セルの外側表面に結合されることを特徴とする、請求項12に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項16】
前記加熱素子は、前記衝突セルを少なくとも部分的に取り囲む円筒形スリーブを含むことを特徴とする、請求項15に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項17】
タンデム型質量分析計であって、
分析物イオンを高い温度の衝突ガスで加熱する手段と、
前記高い温度で前記分析物イオンを断片化する手段とを備え、
前記分析物イオンの加熱によって与えられる内部エネルギーは、前記分析物イオンの内の大部分を断片化するには十分でない程度とされることを特徴とするタンデム型質量分析計。
【請求項18】
前記分析物イオンを高い温度まで加熱するための前記手段は、第1の衝突セルを含み、前記高い温度で前記分析物イオンを断片化するための前記手段は、前記第1の衝突セルから下流に位置する第2の衝突セルを含むことを特徴とする、請求項17に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項19】
前記分析物イオンを断片化するための前記手段は、衝突セルを含み、前記分析物イオンを高い温度まで加熱するための前記手段は、前記衝突セルに隣接して配置される加熱素子を含むことを特徴とする、請求項17に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項20】
前記加熱素子は、前記衝突セルの外側表面に結合されることを特徴とする、請求項19に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項21】
前記加熱素子は、前記衝突セルを取り囲む円筒形スリーブを含むことを特徴とする、請求項20に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項22】
前記高い温度をモニタするための手段と、
設定された高い温度に達するように加熱を制御するための手段とをさらに備えることを特徴とする、請求項17に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項23】
タンデム型質量分析計であって、
分析物イオンを生成するためのイオン源と、
該イオン源から下流に位置する第1の質量分析器と、
該第1の質量分析器から下流に位置する第1の衝突セルと、
該第1の衝突セルから下流に位置する第2の衝突セルと、
該第2の衝突セルから下流に位置する第2の質量分析器と、
該第2の質量分析器から下流に位置する検出器とを備え、
前記第1の衝突セルは、前記分析物イオンが前記第2の衝突セルに入る前に、前記分析物イオンの内部エネルギーを高めるようにしたことを特徴とするタンデム型質量分析計。
【請求項24】
前記第1の衝突セルは、約0〜約500℃の範囲内の温度を有する衝突ガスを含むことを特徴とする、請求項23に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項25】
前記第1の衝突セルに結合される衝突ガス圧力センサと、
該衝突ガス圧力センサに接続され、該衝突ガス圧力センサから受信される信号に応答して、前記第1の衝突セル内の前記衝突ガスの圧力を設定圧力に達するように制御するための衝突ガス圧力制御ユニットとをさらに備えることを特徴とする、請求項24に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項26】
前記第1の衝突セルは、軸方向電界を含むことを特徴とする、請求項23に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項27】
前記軸方向電界は交流であることを特徴とする、請求項26に記載のタンデム型質量分析計。
【請求項28】
タンデム型質量分析計で断片化過程を制御する方法であって、
前記質量分析計内の分析物イオンを高い温度まで加熱すること、及び
前記高い温度で前記分析物イオンを断片化することを含み、
前記分析物イオンを前記高い温度まで加熱して与えられる内部エネルギーは、前記分析物イオンの大部分の断片化を引き起こすのに十分でない程度とされることを特徴とする方法。
【請求項29】
前記分析物イオンを加熱することは、第1の衝突セルで実行され、前記断片化は、該第1の衝突セルから下流にある第2の衝突セルで実行されるようにしたことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記断片化、及び前記分析物イオンを加熱することは、ともに衝突セルで実行されることを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記高い温度をモニタすること、及び
設定された高い温度に達するように前記加熱するのを制御することをさらに含むことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の衝突セルで前記分析物イオンに軸方向電界をかけることをさらに含むことを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
電位勾配が生成される軸を有する多重極ロッドセットを用いて、前記軸方向電界を与えることをさらに含むことを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記軸方向電界は、交流であるようにしたことを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記第1の衝突セルの軸方向の端部に電位を与え、前記分析物イオンを閉じ込めるようにすることをさらに含むことを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記多重極ロッドセットに制御可能なオフセット電圧を印加することをさらに含み、
前記分析物イオンの運動エネルギーを、前記オフセット電圧を変更することによって調整することができるようにしたことを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記第1の衝突セル内の前記軸方向電界の大きさを制御することをさらに含み、
前記衝突セルの中を進行する前記分析物イオンの運動エネルギーは、前記軸方向電界の前記大きさを変更することによって調整することができるようにしたことを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記第2の衝突セル内に電子を導入することをさらに含み、
該電子は、前記第2の衝突セル内で前記分析物イオンの一部の前記断片化を引き起こすことを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2007−173228(P2007−173228A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329124(P2006−329124)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】5301 Stevens Creek Boulevard Santa Clara California U.S.A.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】5301 Stevens Creek Boulevard Santa Clara California U.S.A.
【Fターム(参考)】
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