説明

ターボ機械におけるタービンの過速度を制限する装置

【課題】信頼性および迅速性の要件をいっそう十分に満たす、ターボ機械におけるタービンの過速度を制限する装置を提供する。
【解決手段】ターボ機械におけるタービンの過速度を制限する装置であって、タービンが、タービン軸に取り付けられたディスクから形成されかつ可動ブレードを担持するロータと、ロータのディスク間に配置された固定ブレードの段と、ロータの上流側ディスクの可動ブレードを剪断する手段とを備え、これらの手段が、タービンの固定ブレード段の周縁リムによって担持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン軸の破損の場合に、ターボジェットのようなターボ機械におけるタービンの過速度を制限する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械のタービン軸の破損は、実際には幸いにもきわめてまれであるが、タービン軸の不十分な取り付け、あるいは酸化からのタービン軸の不十分な保護のせいであり得る。
【0003】
タービンのロータをターボ機械のファンに連結するこの軸の破損の時点で、タービンの可動ブレードは、ターボ機械の燃焼室から発生するガスによってまだ回転駆動されているが、それらの回転の速度を制限していたファンから外れる。タービンは、その後、空転して「過速度」の状態になり、可動ブレードが過剰な応力を受けて、タービンの外側ケーシングが穿孔されるおそれと、このターボ機械が取り付けられた航空機の胴体が穿孔されるおそれに加えて、ロータの爆発が引き起こされることがある。従って、過速度を制限することは、ターボ機械において遵守されるべき主要な制約条件である。
【0004】
過速度を制限する知られている装置では、タービン軸の破損およびロータのブレードにおけるガスの圧力に起因する、タービンのロータの下流側変位を一般に使用する。
【0005】
タービンロータの機械式ブレーキについてすでに提案された装置は、ロータによって担持される手段を備え、この手段は、ロータにブレーキをかけるような方法でステータの対応する手段に当たるように構成され、タービン軸の破損の後にその下流側変位に従う。
【0006】
これらの装置には、それらの効率に対して不利に作用する、相対的に遅いという短所がある。
【0007】
ステータの案内ブレードを取り外し可能な方法であるいは枢動する方法で取り付けることによって、ロータが、タービン軸の破損の後にその下流側へ変位する間に、これらのブレードに当たるようになり、かつ、それらを破壊しそしてタービンの回転を減速するために、それらブレードを可動ブレードの通路にわたって枢動させることも、また提案されている。しかしながら、この知られている解決方法は、複雑であり費用のかかるものである。タービン軸の破損以外のことを引き起こす、これらの案内ブレードの枢動を防止する手段を設けることも必要である。
【0008】
さらにまた、知られている装置には、一般に、タービンの全体質量が増大し、かつ、その構成要素の空気力学的輪郭が変更されるという短所がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の特定の目的は、これらの問題に対して簡単で経済的かつ有効な解決方法を提供することと、従来技術の短所を防止することである。
【0010】
本発明の別の目的は、ターボ機械におけるタービンの過速度を制限する装置の信頼性および迅速性の要件を、いっそう十分に満たすことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために、ターボ機械におけるタービンの過速度を制限する装置であって、タービンが、タービン軸に取り付けられたディスクから形成されかつ可動ブレードを担持するロータと、ロータのディスク間に配置された固定ブレードの段と、タービン軸が破損した場合に、ロータのディスクのブレードを破壊する破壊手段とを備え、これらの破壊手段が、ロータの上流側ディスクと該ロータの次のディスクとの間に配置される固定ブレードの段によって固定されかつ担持され、かつタービン軸の破損に起因するロータの下流側への変位の開始時点で、ロータの上流側ディスクのブレードを剪断するように構成される、タービンの過速度を制限する装置が提案される。
【0012】
破壊されたブレードは、ロータの他のブレード上へ、また、タービンのステータの他のブレード上へ突出し、それらの破壊を引き起こし、ロータが過速度状態になるのが防止され、破壊されたブレードは、もはや機械的エネルギーでそれをもたらすことがない。
【0013】
タービンの固定ブレードの段によって形成された本発明による装置は、タービン内のガスの流れを変更することがなく、また、ターボ機械の性能を低減することがない。
【0014】
本発明による装置の剪断する手段は、固定されており、従って、従来技術における場合よりも製造しかつ組み込むことがいっそう容易である。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、剪断する手段は、固定ブレードの段の上流側周縁リムによって担持されるかあるいは形成されており、また、ブレード根元部に隣接している可動ブレードの薄い部分、すなわち「ストラット」に作用するように構成されている。
【0016】
可動ブレードのストラットは、一般に、ブレードのうちの最も脆い部分である。本発明による装置は、従って、タービン軸が破損した場合にできるだけ速くブレードを破壊するために、ブレードのこの部分の相対脆さを利用している。
【0017】
好ましくは、剪断する手段には、上流側方向に突出する軸方向寸法があり、この軸方向寸法は、剪断される可動ブレードの薄い部分の軸方向寸法の少なくとも一部に等しい。
【0018】
剪断する手段のこの軸方向寸法は、その極限破断強度に少なくとも等しい応力を受ける可動ブレードの非切断部分、すなわち非破壊部分について、十分なものでなければならない。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、剪断する手段は、固定ブレードの段の前記リムの周縁の周りに配置された、複数の鋸歯要素を備える。
【0020】
剪断する手段は、固定ブレードの段の1つ以上の環状セクタを有する一片に形成されているのが有利である。それら剪断する手段は、固定ブレードと同時に製造することができ、本発明による装置のコストを、従来技術による装置のコストと比較して著しく減少させる。
【0021】
剪断する手段は、破壊される可動ブレードの硬度よりも大きい硬度の材料から作られているのが有利である。それら剪断する手段は、また、破壊される可動ブレードの部分を、いっそう迅速にかついっそう効率よく磨耗させることができる研磨材料で、少なくとも部分的に覆われることもできる。
【0022】
本発明による装置は、ターボジェットにおける低圧タービンの過速度を制限するために特に構成されているが、排他的なものではない。
【0023】
本発明の他の利点および特徴は、添付図面を参照しながら非限定的な例によって与えられた次の説明を読むことで、明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
参照はまず、図1について行われるが、図1は、ターボジェットの低圧タービンの概略半図であって、タービンのロータの回転軸10を通過する平面における図である。
【0025】
低圧タービンのロータは、4つのディスク12、14、16、18を備え、これらディスクは、環状フランジ20によって互いに対して軸方向へ組み立てられ、かつ、ブレード根元部によって、例えばあり継ぎなどによって、それらの径方向内側端部で、ディスク12、14、16、18の外側周縁に取り付けられた個々のブレード22を担持する。ロータは、低圧タービンのロータのディスク14および16の環状フランジ20間で、環状フランジ28によって固定された駆動コーン26を介して、タービン軸24に連結されている。
【0026】
可動ブレード22の段の間には、適切な手段によって、それらの径方向外側端部で低圧タービンのケーシング31に取り付けられた、固定ブレード30の段がある。固定ブレード30は、周縁において端と端とを付けて配置された環状セクタ32によって、それらの径方向内側端部で互いに連結される。
【0027】
上流側周縁突出部および下流側周縁突出部、すなわちリム34は、環状セクタ32から軸方向に突出するよう形成される。これらのリム34は、タービンの上流側の燃焼室から生じて径方向外側から内側へ向かって流れる燃焼ガスの通過を制限すると共に、逆に径方向内側から外側へ向かって流れる低温空気の通過を制限するために、ロータディスク12、14、16、18のブレード22の上流側および下流側の他の周縁突出部すなわちリム36とともに障害物を構成している。
【0028】
本発明による低圧タービンの過速度を制限する装置は、固定ブレード30の第1の段すなわち上流段の上流側リム34によって担持されあるいは形成されており、かつその上に、上流側ディスク12のブレード22の根元部の一部は、タービン軸24の38での破損と、ロータのディスク12、14、16、18のブレード22に燃焼ガスによって及ぼされた圧力とに起因する、ロータの下流側変位の開始時点で当たるように構成される(図2)。
【0029】
固定ブレード30の第1の段の上流側リム34と、第1のディスク12のブレード22の根元部の前記一部との間の、軸方向間隙40(図1)は、ロータの他のディスク14、16、18と固定ブレード30の他の段との軸方向間隙よりも小さく、軸24が破損したときに、タービンのロータの下流側変位の間に、ロータとステータとの間の接触あるいは干渉が、このリム34とブレード根元部22の前記一部との間でまず起こる。
【0030】
図3および図4でいっそうよくわかるように、ブレードプレートとブレード根元部との間に構成されたブレードの部分は、下流側側部に径方向のリブすなわちストラット42を備え、これら径方向ストラット42は、典型的には、厚さが数ミリメートルであって、固定ブレードの第1の段の上流側周縁リム34の高さで径方向にある。このリム34によって、軸24が破損した場合に、第1の段の可動ブレード22のストラット42を剪断する手段が形成され、また、それは、必要であれば、この目的のために強化されることができる。上流側方向へ突出するその軸方向長さは、これらのブレードの破損を保証するためには、ブレード22の材料の極限破断強度に少なくとも等しいか、あるいはそれよりも大きい応力を、ストラット42の残り部分にかけて、ストラット42の十分な部分を切断することができなければならない。
【0031】
鋳造によって得られたリム34は、十分な強度を有するために厚さを過大寸法にすることができ、また、ストラット42を切断するその能力を改善するために機械加工されることができる。とりわけ、このリム34上に硬いおよび/または研磨材料(可動ブレード22の材料の硬度と等しいか、あるいはそれよりも大きい硬度を有している)の被膜を付着することができ、また、それは、図5に示されたように、鋳造によってあるいは機械加工によって鋸歯状に形成されることができる。
【0032】
この図において、固定ブレード30の段は、いくつかの周縁に並置された環状セクタ32を備え、その上流側リム34は、形状および方向が、固定ブレード30に対する可動ブレード22の回転の方向46によって決定される、複数の鋸歯44が形成されている。示された例では、鋸歯44それぞれは、タービンの軸10に実質的に平行であり、切断縁部50が取り付けられた縁部48を備え、これ切断縁部50は、周縁方向に延び、傾斜縁部52によって次の歯の基部へ連結される。
【0033】
本発明による装置は、次のように作用する。
【0034】
上流側ディスク12のブレード22のストラット42は、タービン軸24の破損に続くタービンのロータの下流側方向への変位の開始時点から、固定ブレード30の第1の段の上流側リム34に当接するようになる。ロータが、軸10の周りに回転し続けると、リム34に備えられあるいはリム34によって形成された剪断する手段が、図6に示されたように、ストラット42の一部を切除する。その後、ブレード22は、燃焼ガスの圧力と遠心力との作用のもとで、十分に脆くなり破断される(図7)。上流側ディスク12のブレード22の片は、ステータの固定ブレード30上に突出し、それらを、タービンの他の段の固定ブレードおよび可動ブレードと共に破壊する。
【0035】
タービンのロータの破壊は、きわめて迅速に、典型的には軸の破損の後における10分の1秒のオーダーの時間内に行われる。この破壊によって、タービンの過速度のおそれ、従って、タービンの爆発と、タービンのケーシングの穿孔と、航空機の胴体の穿孔とのおそれが排除される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による装置が装備されたターボジェットの低圧タービンの軸方向断面における部分概略図である。
【図2】タービンの軸が破断された、図1に示されたタービンの軸方向断面における部分概略図である。
【図3】図1の一部の拡大概略図であって、本発明によるタービンの過速度を制限する装置を図示している。
【図4】図3の線IV−IVに沿った断面図である。
【図5】図3の線V−Vに沿った断面図である。
【図6】本発明による装置の軸方向断面における概略図であって、上流側ディスクの可動ブレードの剪断の開始時点を図示している。
【図7】図6に対応している図であって、上流側ディスクの可動ブレードの破壊を図示している。
【符号の説明】
【0037】
10 軸
12、14、16、18 ディスク
20、28 環状フランジ
22 ブレード
24 タービン軸
26 駆動コーン
30 固定ブレード
31 ケーシング
34 リム
40 軸方向間隙
42 ストラット
44 鋸歯
48 縁部
50 切断縁部
52 傾斜縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボ機械におけるタービンの過速度を制限する装置であって、タービンが、タービン軸に取り付けられたディスクから形成されかつ可動ブレードを担持するロータと、ロータのディスク間に配置された固定ブレードの段と、タービン軸が破損した場合に、ロータのディスクのブレードを破壊する破壊手段とを備え、該破壊手段が、ロータの上流側ディスクと該ロータの次のディスクとの間に配置される固定ブレードの段によって、固定されかつ担持され、かつタービン軸の破損に起因するロータの下流側変位の開始時点で、ロータの上流側ディスクのブレードを剪断するように構成される、装置。
【請求項2】
剪断する手段が、固定ブレードの段の上流側周縁リムによって担持されあるいは形成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
剪断する手段が、前記リムの周縁の周りに配分された複数の鋸歯を備える、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
剪断する手段が、ブレードの根元部に隣接する可動ブレードの薄い部分すなわち「ストラット」に作用するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
剪断する手段が、上流側方向に突出している軸方向寸法を有し、該軸方向寸法が、剪断される可動ブレードの薄い部分の軸方向寸法の少なくとも一部に等しく、かつ可動ブレードの非切断部分すなわち非破壊部分がその極限破断強度に少なくとも等しい応力を受けるのに十分である、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
剪断する手段が、破壊される可動ブレードの硬度よりも大きい硬度の材料から作られる、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
剪断する手段が、研磨材料で少なくとも一部が被覆されている、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
剪断する手段が、機械加工によってあるいは鋳造によって製造される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
タービンが、ターボジェットの低圧タービンである、請求項1に記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−97682(P2006−97682A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−275039(P2005−275039)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【Fターム(参考)】