説明

ターボ機関及びターボ機関のステータ及びロータを適合させるための方法

本発明は、内側が導入層(6)で被覆されたステータ(2)とステータ(2)内部に配置されたロータ(4)とを含むターボ機関(1)に関し、これによれば、ターボ機関(1)は、さらに、ステータ(2)の対称軸を中心とするロータ(10)の回転軸の平行変位及び回転用装置を含む。前記発明により、ステータ(2)とロータ(4)との間の隙間幅を減少することができ、これにより、ターボ機関(1)の費用対効果が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段によるターボ機関、及び請求項4の前段によるターボ機関のステータ及びロータを適合させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ機関のロータのブレードに及びステータの壁に被覆剤を塗布することが知られており、この被覆剤は研磨することでき、この構造は比較的複雑である。この被覆剤は、ロータ及びステータを適合させるために及びロータのロータブレードとステータの壁との間の隙間幅を減少させるために塗布される。
【0003】
特許文献1より、ターボ機関、より詳細にはロータとステータとを備えたガスタービンが知られている。ステータの壁は、導入層で被覆されている。その上、ロータのブレードには研磨層が設けられ、この中に研磨剤Al粒子又はSiC粒子が任意に埋め込まれており、ロータブレードチップの回転中に、これらが導入層を不均一に研磨磨耗させる。導入層の研磨磨耗により、研磨層内に任意に埋め込まれたAl粒子又はSiC粒子が壊れる。このことにより、ステータとロータブレードチップとの間の隙間幅が増加するので、この隙間幅に大きく依存するターボ機関の効果の度合いが、運転時間が長くなるにつれて減少し、したがって、研磨層の頻繁な再塗布が必要となる。研磨層を新しくするためには、ロータをステータから手間をかけて取り除いて、分解しなければならない。
【0004】
同様の設計が、特許文献2及び特許文献3に開示されている。
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1312760A2号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第19653217A1号明細書
【特許文献3】米国特許第5,185,217号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような現行技術から出発して、ステータとロータとの間の隙間幅が最小限に抑えられた、ターボ機関及びターボ機関内のステータ及びロータを適合させるための方法を実現する目的に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実現すべきターボ機関についての目的は請求項1の特徴によって解決され、実現すべき方法についての目的は、請求項4の特徴によって解決される。
【0008】
本発明による解決方法は、
−内側が導入被覆剤で被覆されたステータと、
−ステータ内部のロータとを含み、
−さらに、ステータの対称軸を中心とするロータの回転軸の平行変位及び回転用装置を含むターボ機関によって実現される。
【0009】
この設計は、ステータとロータとの間の隙間幅を減少させることにより、ターボ機関の効率が増加するという利点を有する。
【0010】
さらに、本発明によるターボ機関により、ロータのブレードによる導入層の磨耗がほぼ均一となることが確実となる。これは、ロータのブレードがステータに小さいモーメントを伝達するという利点を有する。この結果、ロータの曲がり及び圧縮が減少する。全体的に、発生する動的変形が、(これはロータのブレードに対して作用するものであるが、)眼に見えて減少する。
【0011】
ロータの回転軸の平行変位及び回転用装置は、改変を加えた従来の滑り軸受(滑り接触軸受)を使用して実現され得る。この種の滑り軸受は、内側が軸受層で被覆されたハウジング内で回転するシャフトを含む。軸受層とシャフトとの間には、一般に液体、通常は油で充填された、隙間、いわゆる軸受の遊びがある。隙間幅は、滑り軸受の使用目的により、50と500μmとの間、通常は100と300μmとの間で変化する。液体が一部分又は完全に取り除かれると、シャフト、及びそれと共にその回転軸が、ハウジングの対称軸に平行な遠心力によって変位する。より多くの液体が取り除かれると、これに対応して変位の度合いも増加する。
【0012】
本発明によるターボ機関について、基本的に、ロータがシャフト上に軸方向に対称に置かれ、改変を加えた滑り軸受が、ステータに対して軸方向に対称に位置決めされる。その後、シャフトは、ロータと共に回転し、導入層の一部をこすり落とす。その後に、ロータは、軸受の遊びを取り除くよう再び充填されることにより、再び中心に位置決めされ得る。
【0013】
本明細書に記載されている本発明によるターボ機関のさらなる利点は、従来のターボ機関と比較した場合に、ロータのブレードチップ上の研磨被覆を省くことができることである。それと共に、ブレードチップ上の研磨被覆剤の塗布及びこの摩擦被覆剤の仕上げ加工も、全体が導入被覆剤で被覆されたステータの壁と共にステータ内部のロータが自由回転することにより、省くことができる。
【0014】
作業又は工程ステップが節約されることに加えて、ターボ機関の本発明による設計は、構成部品を嵌合させる場合の配向について構成部品をそれ程分類する必要がないので、製造公差についてより頑強な設計となる。ステータの対称軸へのロータの回転軸の平行変位により、仕上げ公差、特にステータの内径及び/又はステータの壁の内側被覆の問題が補償され得る。
【0015】
本装置は、ロータの回転軸を変位させて、ロータが導入被覆剤で被覆されたステータの壁の内部に同心状に挿入され得るようにすることが好ましい。
【0016】
ここで、たとえば、導入被覆剤で被覆されたステータの壁の対称軸は、ステータハウジング内のステータ孔の対称軸からずれて平行に走っている。それと共に、基本的に、ロータの案内ブレードの回転によりロータ及びステータが自由回転するのに必要な構造空間が徐々に少なくなり、ロータブレードチップとステータとの間の、このようにして形成される隙間幅が最小のままに保たれる。このことにより、ターボ機関の経済的な操作が可能となる。
【0017】
本明細書においては、平行変位及び回転のための本発明による装置により、大きい製造公差を有するターボ機関構成部品及び非常に精密な完成構成部品の両方、特にステータハウジングの軸受とステータハウジング自体とを互いに組み合わせることができ、これにより、ターボ機関の効果の度合いが著しく悪影響を受けることないことが特に好ましい。
【0018】
代替形態として、平行変位及び回転用装置は、全体に内側が被覆されたステータ内部でロータを変位させ、ロータの回転軸が、ステータの対称軸からずれて平行に走っている、ステータの導入被覆剤で被覆された壁の対称軸に平行に変位し得る。この実施形態により、ステータ内部のロータの自由回転に必要な空間が円周方向に縮小又は徐々に少なくなることが可能となり、これにより、ステータの対称軸とステータの導入被覆剤で被覆された壁の対称軸との間の変位が、均等化又は補償され得る。
【0019】
本発明によるターボ機関の好ましい実施形態においては、ロータのブレードは、アルミニウム合金又は鉄合金又はコバルト合金又はニッケル合金を含み、ステータは、アルミニウム合金又は鋼鋳物を含む。
【0020】
ターボ機関内、特に動力装置内及びコンプレッサ内、及び排気ガスターボ過給機内において、ブレードは、非常に高い複雑な熱力学的負荷を受けやすい。さらに、高温で攻撃的な環境媒体は、ターボ機関のブレード及びステータハウジングの酸化及び腐食処理を必要とする。したがって、この場合、耐熱性及び耐クリープ性の鉄合金又はコバルト合金又はニッケル合金が、ターボ機関内のタービンホイールのブレードに用いられることが好ましい。低い熱機械的負荷により、コンプレッサのブレードは、アルミニウム合金又は鉄合金からなり得る。さらに、タービン及び/又はコンプレッサブレードが、金属複合材料から形成されることが考えられる。ステータハウジングについては、高い熱負荷により、鋼鋳物がタービンの区域内に用いられることが好ましい。コンプレッサハウジングのための冷たい燃焼用空気を吸い込み圧縮することによる熱負荷により、アルミニウム合金が用いられることがある。
【0021】
ターボ機関のさらなる実施形態においては、ステータの壁の導入被覆剤は、AlSi12又はNiCrAlを含む。
【0022】
この導入層又は被覆は、ロータブレードのこすり又は研磨工程後に、実質的に小さい溝を有する断面又は機械仕上げ面を呈し、回転するロータブレードチップとターボ機関のステータの固い壁との間の最小隙間幅を呈すという利点を有する。AlSi12の導入層と充填剤とを有するコンプレッサ側のステータの壁の被覆は、被覆材料がステータハウジングの基本材料に適応される熱膨張率を呈すという利点を有する。AlSi12層内に含まれる充填剤は、より高温で燃焼し、これにより、導入層の有孔率が増加する。ここで、AlSi12の導入層は、耐膨張性があり、ステータハウジングの基本材料に対して良好な粘着力を呈す。
【0023】
NiCrAlの導入層の高温許容性により、これは、高温負荷を受けるタービンの構成部品用の被覆材料として、及び熱応力の少ないコンプレッサ側において用いられ得る。NiCrAl導入層は、コンプレッサ側の導入材料と同様の又はこれに対応する充填材料を含む。コンプレッサ側及びタービン側の導入材料により、高度な効果が得られ、燃料消費量が減少する。
【0024】
本発明のさらなる目的は、ターボ機関のステータ及びロータを適合させるための方法に関し、これに従って、導入層がステータの壁に塗布され、この導入層は、ロータにより少なくとも一部分腐食又は研磨され、ロータは、ステータの対称軸に平行にかつこれからずれている回転軸を中心として回転される。
【0025】
本発明による方法の利点は、本明細書においては、たとえば、ステータの壁の寸法、形状、及び位置、及び/又は導入層で被覆されたステータの壁の内径などの製造公差が、ロータブレードチップとステータハウジングとの間の隙間の大きさに対してそれ程重大な影響を及ぼさないことにある。このことにより、ロータの対称軸がステータの対称軸に対応するか又はこれに平行にかつこれからずれて走っているかどうかに関係なく、ターボ機関のステータ及びロータを容易に適合させることができるようになる。このため、本発明による方法により、ステータの導入層で被覆された壁に対する回転するロータの最適な配向が可能となる。
【0026】
さらにまた、ステータ及びロータを適合させるための方法により、ブレードチップ上の研磨層が不要となり、ブレードの質量を最小限に抑えることができる。ブレードの質量が減少すると、ロータの慣性も減少し、したがって負荷が変化する場合のロータの動特性が向上し、操作中にブレードに作用する質量の動的な力全体が減少する。
【0027】
本発明による方法の好ましい実施形態においては、ロータは、ステータに回転しながら挿入される。
【0028】
この実施形態は、回転軸を中心として回転するロータが回転対称面の壁を均一に研磨するか又は取り除くので、必要な構造又は設置空間のみが回転するロータによってでき、ターボ機関内の公差ができるという利点を有する。その円周全体に渡って壁の導入層を研磨する又は腐食させることにより、ロータブレードチップとステータとの間の最小の隙間幅が確立される。ステータ及びロータを適合させると、研磨により変化した導入被覆の表面がわずかに波立つように見えるようになり、導入表面を成形することができ、被覆工程後の導入層の被覆面の複雑な準備及び仕上げ加工の必要がなく、ロータのブレードチップの複雑な後処理の必要がなく、互いに組み込まれるターボ機関の構成部品の高価な組合せの必要がない。社内製造を減らすことにより、これらのターボ機関の製造、又は場合によっては組立てが、非常に効率的及び経済的になる。
【0029】
さらに、ロータは、ステータに逆回転して挿入され得る。「逆」という用語は、本明細書においては、回転するロータが、まず、ステータの内部に1〜2mmの距離に挿入され、導入層の材料のいくらかを取り除き、次いで、回転して約1〜2mm後退するという意味であり、導入層から取り除かれる、かつ多くの場合にロータのブレードチップに少なくとも一部分はりついている材料が、自然に離れ得る。そこで、回転するロータは、先の1〜2mmを超えて、ステータの内部に1〜2mmの距離に挿入され、その後再び後退する。前進と後退との間のこのような交代は、ロータがステータの所望の深さにある所望の厚さまで導入層を取り除くまで、非常に長く繰り返される。
【0030】
この実施形態は、一方では、ブレードに対する軸方向の負荷が減少し、他方では、より小さいロータブレードの負荷及びそれと共に減少するロータブレードの変形により、隙間幅が最小限に抑えられるという利点を有する。さらに、導入層上のトレッドパターンの形成が減少する。
【0031】
以下、例示的実施形態及び図により、本発明の主題をより詳細に記述する。本発明のさらなる特徴及び利点が、図及びこれに関連する記述より明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1に、特にステータ2とロータ4とを備えた排気ガスターボ過給機のコンプレッサ側の、本発明によるターボ機関1の例示的実施形態の一例(縮尺が合っていないが)が示されている。この実施形態においては、ステータ2は、導入層6で被覆された壁3を示している。ステータ2に、ロータ4が、ロータブレード5を備えたコンプレッサホイールとして挿入される。内側が導入層6で被覆されたステータ2とロータ4のロータブレード5との間の最小隙間幅7を作るために、ロータ4は、その回転軸10を中心として回転方向9に回転するステータ2に移動方向8に挿入される。ロータ4及びステータ2は、ステータ2の対称軸を中心としたロータ4の変位方向11の平行変位及び回転用の(本明細書にはそれ程詳細には示されていない)装置によって位置決めされる。
【0033】
ロータ4の回転軸の平行変位及び回転用装置は、改変を加えた従来の滑り軸受からなる。滑り軸受は、内側が軸受層で被覆されたハウジング内で回転するシャフトを含む。軸受層とシャフトとの間に、油で充填された、200μmのリング状の隙間、いわゆる軸受の遊びがある。油が取り除かれて、最小量だけ軸受層に付着して残り、この結果、シャフト、及びこれと共に、その回転軸が、ハウジングの対称軸と平行な遠心力によって変位する。ここで、変位の度合いは、取り除かれた油の容積に対応する。
【0034】
この実施形態によれば、ロータ4は、シャフト上に軸方向に対称に置かれ、改変を加えた滑り軸受は、ステータ2に対して軸方向に対称に位置決めされる。その後、ロータを含むシャフトは、回転し、導入層6の一部を取り除く。その後に、ロータ4は、隙間つまり軸受の遊びを再び充填することによって中心に位置決めされ得る。
【0035】
(詳細には示されていない)装置を用いたステータ2内部のロータ4のこのような位置決めは、回転対称面において選択される材料の組合せに適している。ここで、排気ガスターボ過給機のコンプレッサ側のロータ4のロータブレード5、及びステータ2は、アルミニウム合金からなり、ステータ2の壁3は、充填剤としてAlSi12及びポリエステルの導入層6で被覆される。
【0036】
排気ターボ過給機の熱いタービン側の約1050℃の高温により、高温材料が用いられる。ロータのタービン側の案内ブレードはNi合金から作られ、ステータは鋳鋼から作られる。タービン側のステータの壁は、充填剤としてNiCrAl及びポリエステルの導入層で被覆される。
【0037】
図1に示されているように、ロータ4は、排気ガスターボ過給機のコンプレッサ側の、導入被覆剤6で内側が被覆されたステータ2に回転しながら挿入される。ここで、AlSi12の導入層6は、少なくとも一部分、位置決め中に研磨されるか又は取り除かれ、したがって、ロータ4は、ステータ2の軸に平行に変位する回転軸を中心として回転される。
【0038】
本発明は、排気ガスターボ過給機の上述した例に限定されるものではなく、固定ガスタービン及び動力装置にも適用され得る。さらに、熱いガス側の導入被覆が、充填剤を有するNiCrAlY、又はたとえばセラミックの又は別の耐熱性材料を含み得る可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ステータの内側が導入層で被覆されたターボ機関を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 ターボ機関
2 ステータ
3 壁
4 ロータ
5 ロータのロータブレード
6 導入層
7 隙間幅
8 ロータの移動方向
9 ロータの回転方向
10 ロータの回転軸
11 ロータの回転軸の変位方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側が導入層(6)で被覆されたステータ(2)と、
前記ステータ(2)の内部に配置されるロータ(4)とを含むターボ機関(1)であって、
さらに、前記ステータ(2)の対称軸を中心とする前記ロータ(10)の回転軸の平行変位及び回転用装置を含むことを特徴とするターボ機関(1)。
【請求項2】
前記ロータ(5)のロータブレードが、アルミニウム合金又は鉄合金又はコバルト合金又はニッケル合金を含み、前記ステータ(2)が、アルミニウム合金又は鋳鋼を含むことを特徴とする請求項1に記載のターボ機関(1)。
【請求項3】
前記導入層が、AlSi12又はNiCrAlを含むことを特徴とする請求項1或いは2に記載のターボ機関(1)。
【請求項4】
ターボ機関(1)のステータ(2)及びロータ(4)を適合させるための方法であり、
導入層(6)が前記ステータ(2)に塗布され、該導入層(6)が、前記ロータ(4)により少なくとも一部分磨耗又は研磨される方法であって、
前記ロータ(4)が、前記ステータ(2)の対称軸に平行に変位して回転する回転軸を中心として回転されることを特徴とする方法。
【請求項5】
前記ロータ(4)が、前記ステータ(2)に回転しながら挿入されることを特徴とする請求項4に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−508489(P2007−508489A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534614(P2006−534614)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010282
【国際公開番号】WO2005/038199
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(598051819)ダイムラークライスラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【Fターム(参考)】