説明

ダイカストマシン

【課題】小型にしてエネルギ効率が高く、かつ射出プランジャの前進速度を高精度に制御可能なダイカストマシンを提供する。
【解決手段】ダイカストマシンの射出用メカニズム10を、射出用サーボモータ12と、当該射出用サーボモータ12の回転力を直進運動に変換する射出用ボールねじ機構13と、当該射出用ボールねじ機構13を構成するねじ軸13aによりピストン体14aが駆動される圧油発生用油圧シリンダ14と、当該圧油発生用油圧シリンダ14と射出用油圧シリンダ1の前進用油室1aとをつなぐ管路15に備えられたチェック弁16とをもって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出プランジャの前進によって金属溶湯を金型キャビティ内に射出・充填するダイカストマシンに係り、特に、射出プランジャの駆動源の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンは、射出スリーブ内に注ぎ込まれた一定量の溶融金属材料を射出プランジャの前進動作によって金型キャビティ内に射出・充填し、所定形状の成形品を製造する成形機である。成形品の製造は、型閉じ、射出、増圧、型開き及びエジェクトの各工程を1ショット毎に繰り返すことにより行われる。
【0003】
ダイカストマシンの射出工程は、低速射出工程と高速射出工程とからなっており、高速射出工程においては、プラスチック射出成形機の射出速度よりも1桁程度も高速で、金型キャビティ内に金属溶湯を射出する必要がある。このため、従来においては、射出駆動源として、アキュムレータを含む大型の油圧駆動源が用いられており、射出駆動源として大型の油圧駆動源を用いていることから、型開閉駆動源及びエジェクト駆動源としても油圧駆動源が用いられている。この方式を油圧式といい、従来はこの油圧式がダイカストマシンの主流となっていた。
【0004】
油圧式のダイカストマシンには、アキュムレータと射出プランジャをピストン体とする油圧シリンダとをつなぐ油圧管路にロジック弁が備えられており、このロジック弁の開度を調整することにより、射出プランジャの前進速度、即ち金型キャビティ内への金属溶湯の射出速度を制御している(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−226448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ロジック弁は、その構造上、油漏れを完全に止めることが困難であるので、これを備えたダイカストマシンは、エネルギ効率が悪いという問題がある。また、油漏れに起因してロジック弁が発熱するため、ロジック弁の冷却設備が必要となり、ダイカストマシンが大型化するという問題もある。さらに、ロジック弁は、背面側に戻しばねが当接されたポペットと呼ばれる弁体の開度を調整することによって、射出プランジャの前進速度を制御する構成であるので、繰り返し安定性が悪く、経年変化もしやすいという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、小型にしてエネルギ効率が高く、かつ射出プランジャの前進速度を高精度に制御可能なダイカストマシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するため、射出プランジャが前後進可能に備えられた射出用油圧シリンダと、当該射出用油圧シリンダの前進用油室に圧油を供給する射出用メカニズムと、前記射出用油圧シリンダの前進用油室に増圧力を付与する増圧用メカニズムとを備えたダイカストマシンにおいて、前記射出用メカニズムは、射出用サーボモータと、当該射出用サーボモータの回転力を直進運動に変換する射出用ボールねじ機構と、当該射出用ボールねじ機構を構成するねじ軸によりピストン体が駆動される圧油発生用油圧シリンダと、当該圧油発生用油圧シリンダと前記射出用油圧シリンダの前進用油室とをつなぐ管路に備えられたチェック弁とを備えているという構成にした。
【0009】
本構成においては、射出用サーボモータを所定の方向に回転すると、その回転力がボールねじ機構によってねじ軸の直進運動に変換され、圧油発生用油圧シリンダのピストン体が押圧されて、当該圧油発生用油圧シリンダ内の圧油がチェック弁を通って射出用油圧シリンダの前進用油室内に供給される。これにより、射出プランジャの前進速度が、圧油発生用油圧シリンダを構成するピストン体の移動速度に比例し、当該ピストン体の面積と射出プランジャの受圧面の面積との比に反比例するものとなり、所定の低速射出工程及び高速射出工程が実行される。また、高速射出工程の終了後に増圧用メカニズムを駆動することにより、射出プランジャの前進用油室に増圧力を付与することができ、これにより増圧工程を実行することができる。増圧工程においては、射出プランジャの前進用油室に作用する増圧力がチェック弁にて遮断されるので、圧油発生用油圧シリンダへの増圧力の作用が防止される。このように、本構成においては、射出用サーボモータの回転速度を制御することにより射出プランジャの前進速度を制御するので、ロジック弁の開度を制御することにより射出プランジャの前進速度を制御する場合に比べて、その制御を高精度に行うことができる。また、ロジック弁を用いないので、ロジック弁からの油漏れを生じることがなく、ダイカストマシンのエネルギ効率を向上することができる。さらには、油漏れを生じないことから、これに起因するロジック弁の発熱もありえず、ロジック弁の冷却設備を省略することができて、ダイカストマシンを小型化することができる。
【0010】
また本発明は、前記構成のダイカストマシンにおいて、前記増圧用メカニズムは、前記射出用油圧シリンダの前進用油室に対して一端が出入可能に配置されたねじ軸と、当該ねじ軸を螺合するナット体と、当該ナット体を回転駆動し、前記射出用油圧シリンダの前進用油室に対する前記ねじ軸の出入を行う増圧用サーボモータとを備えているという構成にした。
【0011】
本構成によると、増圧用サーボモータを所定に方向に回転すると、回転するナット体に螺合されたねじ軸の先端部が射出用油圧シリンダの前進用油室内に突出し、当該前進用油室の体積が減少する。その結果、当該前進用油室内の圧力が上昇し、所定の増圧工程が実行される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、射出用油圧シリンダの前進用油室に射出プランジャ前進用の圧油を供給する射出用メカニズムとして、射出用サーボモータと、当該射出用サーボモータの回転力を直進運動に変換する射出用ボールねじ機構と、当該射出用ボールねじ機構を構成するねじ軸によりピストン体が駆動される圧油発生用油圧シリンダと、当該圧油発生用油圧シリンダと前記射出用油圧シリンダの前進用油室とをつなぐ管路に備えられたチェック弁とを備えており、射出用サーボモータの回転速度を制御することにより射出プランジャの前進速度を制御するので、ロジック弁の開度を制御することにより射出プランジャの前進速度を制御する場合に比べて、その制御を高精度に行うことができる。また、ロジック弁を用いないので、ロジック弁からの油漏れに起因する不都合を解消することができて、ダイカストマシンの省エネルギ化及び小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係るダイカストマシンの射出・増圧系のメカニズムを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るダイカストマシンの一実施形態を、図1を用いて説明する。図1に示すように、実施形態に係るダイカストマシンは、射出用油圧シリンダ1と、これに付設された射出系メカニズム10及び増圧系メカニズム20と、これら射出系メカニズム10及び増圧系メカニズム20の駆動を制御するコントローラ30とから構成されている。
【0015】
射出用油圧シリンダ1は、シリンダ本体2内に射出プランジャ3を前後進可能に備えたもので、射出プランジャ3は、射出用油圧シリンダ1のピストン体を兼ねている。即ち、射出プランジャ3の先端部3aは、図示しない射出スリーブ内に挿入されており、前進することにより、射出スリーブ内に注ぎ込まれた一定量の溶融金属材料を金型キャビティ内に射出するようになっている。射出プランジャ3の前進動作は、射出用油圧シリンダ1の前進用油室1a内に、後述する射出系メカニズム10から供給される圧油を導入することによって行われ、射出プランジャの後退動作は、射出用油圧シリンダ1の後退用油室1b内に、補助ポンプ4から供給される圧油を導入することによって行われる。シリンダ本体2には、射出プランジャ3の移動位置を検出する位置センサ5が備えられると共に、前進用油室1a内の油圧を検出する油圧センサ6が備えられる。なお、図中の符号7は、油タンクを示している。
【0016】
射出系メカニズム10は、主として、所要の固定部11に設置された射出用サーボモータ12と、当該射出用サーボモータ12の回転力を直進運動に変換するねじ軸13a及びこれを螺合するナット体13bからなる射出用ボールねじ機構13と、ねじ軸13aによりピストン体14aが駆動される圧油発生用油圧シリンダ14と、当該圧油発生用油圧シリンダ14の吐出口と射出用油圧シリンダ1の前進用油室1aとをつなぐ管路15と、当該管路15に備えられたチェック弁16とから構成される。ナット体13bは、軸受17を介して固定部11に回転可能に取り付けられており、ベルト18を介して伝達される射出用サーボモータ12の回転力により回転駆動される。
【0017】
前進用油室1aにおける射出プランジャ3の受圧面積A1と、ピストン体14aの受圧面積A2とは、高速射出工程において要求される所要の速度で射出プランジャ3を移動できるように、その面積比A1/A2が調整される。即ち、射出プランジャ3は、圧油発生用油圧シリンダ14から射出用油圧シリンダ1の前進用油室1a内に供給される圧油によって前進され、その移動速度は、圧油発生用油圧シリンダ14を構成するピストン体14aの移動速度に比例し、前記面積比A1/A2に反比例する。したがって、面積比A1/A2を小さくするほど、射出プランジャ3を高速で前進できるので、使用する射出用サーボモータ12の性能を考慮し、射出プランジャ3を必要な前進速度で移動できるように、面積比A1/A2を設定する。なお、圧油発生用油圧シリンダ14の小型化を図るため、複数の射出用サーボモータ12を備え、これら複数の射出用サーボモータの合力で、射出用ボールねじ機構13を駆動する構成とすることも可能である。
【0018】
増圧系メカニズム20は、主として、射出用油圧シリンダ1の末端部に取り付けられた固定ブロック21と、当該固定ブロック21に設置された増圧用サーボモータ22と、当該増圧用サーボモータ22の回転力を直進運動に変換するねじ軸23a及びこれを螺合するナット体23bからなる増圧用ボールねじ機構23とから構成される。ねじ軸23aは、その一端部が、射出用油圧シリンダ1の端面に開設された貫通孔1cを貫通して、射出用油圧シリンダ1の前進用油室1a内に突出されている。また、ナット体23bは、軸受24を介して固定ブロック21に回転可能に取り付けられており、ベルト25を介して伝達される増圧用サーボモータ22の回転力により回転駆動される。
【0019】
以下、実施形態に係るダイカストマシンの動作について説明する。
【0020】
コントローラ30は、射出用油圧シリンダ1のシリンダ本体2に備えられた位置センサ5の出力信号S1及び油圧センサ6の出力信号S2に基づいて、射出用サーボモータ12及び増圧用サーボモータ22の駆動を制御する。即ち、コントローラ30には、予め、型閉じ工程、射出工程、増圧工程、型開き工程及びエジェクト工程の開始タイミングと停止タイミングとが記憶されており、射出工程の開始タイミングに至ったとき、コントローラ30は射出用サーボモータ12に低速射出信号S3を出力し、射出用サーボモータ12を低速射出工程用に設定された所定の回転速度で所定の方向に回転駆動する。射出用サーボモータ12の回転力は、ベルト18を介して射出用ボールねじ機構13のナット体13bに伝達され、ナット体13bを所定の方向に回転駆動して、これに螺合されたねじ軸13aを前進方向に移動する。これにより、圧油発生用油圧シリンダ14のピストン体14aが押圧され、圧油発生用油圧シリンダ14内に蓄えられた圧油が、チェック弁16を通って射出用油圧シリンダ1の前進用油室1a内に供給されるので、射出プランジャ3が、圧油発生用油圧シリンダ14を構成するピストン体14aの移動速度に比例し、当該ピストン体の面積A2と射出プランジャ3の受圧面の面積A1との比A1/A2に反比例する速度で前進し、所定の低速射出工程が実行される。このとき、射出用油圧シリンダ1の後退用油室1b内に貯えられていた圧油は、油タンク7に戻される。
【0021】
次いで、コントローラ30は、位置センサ5の出力信号S1から、高速射出工程の開始タイミングに至ったか否かを繰り返し判定し、高速射出工程の開始タイミングに至ったと判定したとき、射出用サーボモータ12に高速射出信号S4を出力して、射出用サーボモータ12の回転速度を高速射出工程用に設定された所定の回転速度に増速する。これにより、射出プランジャ3が高速で前進し、所定の高速射出工程が実行される。射出系メカニズム10を構成する各部の動作は、低速射出工程と同じである。低速射出工程及び高速射出工程は、位置センサ5の出力信号S1が、コントローラ30に予め設定された速度曲線に追従するように、射出用サーボモータ12の回転速度をフィードバック制御することにより行われる。
【0022】
次いで、コントローラ30は、位置センサ5の出力信号S1から、増圧工程の開始タイミングに至ったか否かを繰り返し判定し、増圧工程の開始タイミングに至ったと判定したとき、増圧用サーボモータ22に増圧信号S5を出力して、増圧用サーボモータ22を回転駆動する。増圧用サーボモータ22の回転力は、ベルト25を介して増圧用ボールねじ機構23のナット体23bに伝達され、ナット体23bを所定の方向に回転駆動して、これに螺合されたねじ軸23aを前進方向に移動する。これにより、ねじ軸23aの先端部が射出用油圧シリンダ1の前進用油室1a内に突出し、当該前進用油室1aの体積が減少するので、前進用油室1a内の圧力が上昇し、所定の増圧工程が実行される。増圧工程は、油圧センサ6の出力信号S2が、コントローラ30に予め設定された圧力曲線に追従するように、増圧用サーボモータ22の回転速度をフィードバック制御することにより行われる。なお、増圧工程においては、前進用油室1a内の油圧が、圧油発生用油圧シリンダ14内の油圧よりも高くなるため、チェック弁16が自動的に遮断され、圧油発生用油圧シリンダ14への増圧力の漏れが防止される。
【0023】
さらに、コントローラ30は、増圧工程の停止タイミングに至ったとき、射出用サーボモータ12を逆回転して、圧力発生用油圧シリンダ14のピストン体14aを初期位置に戻すと共に、増圧用サーボモータ22を逆回転して、ねじ軸23aを初期位置に戻す。このときには、補助ポンプ4を駆動して、射出用油圧シリンダ1の後退用油室1b及び圧力発生用油圧シリンダ14に所要の作動油を供給する。これにより、ピストン体14a及びねじ軸23aの初期位置への復帰が容易になる。
【0024】
このように、本実施形態に係るダイカストマシンは、射出用サーボモータ12の回転速度を制御することによって射出プランジャ3の前進速度を制御するので、ロジック弁の開度を制御することにより射出プランジャの前進速度を制御する場合に比べて、その制御を高精度に行うことができる。また、ロジック弁を用いないので、ロジック弁からの油漏れを生じることがなく、ダイカストマシンのエネルギ効率を向上することができる。さらには、油漏れを生じないことから、これに起因するロジック弁の発熱もありえず、ロジック弁の冷却設備を省略することができて、ダイカストマシンを小型化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、ダイカストマシンに利用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 射出用油圧シリンダ
1a 前進用油室
1b 後退用油室
2 シリンダ本体
3 射出プランジャ
4 補助ポンプ
5 位置センサ
6 油圧センサ
7 油タンク
10 射出系メカニズム
11 固定部
12 射出用サーボモータ
13 射出用ボールねじ機構
13a ねじ軸
13b ナット体
14 圧油発生用油圧シリンダ
14a ピストン体
15 管路
16 チェック弁
17 軸受
18 ベルト
20 増圧系メカニズム
21 固定ブロック
22 増圧用サーボモータ
23 増圧用ボールねじ機構
23a ねじ軸
23b ナット体
24 軸受
25 ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出プランジャが前後進可能に備えられた射出用油圧シリンダと、当該射出用油圧シリンダの前進用油室に圧油を供給する射出用メカニズムと、前記射出用油圧シリンダの前進用油室に増圧力を付与する増圧用メカニズムとを備えたダイカストマシンにおいて、
前記射出用メカニズムは、射出用サーボモータと、当該射出用サーボモータの回転力を直進運動に変換する射出用ボールねじ機構と、当該射出用ボールねじ機構を構成するねじ軸によりピストン体が駆動される圧油発生用油圧シリンダと、当該圧油発生用油圧シリンダと前記射出用油圧シリンダの前進用油室とをつなぐ管路に備えられたチェック弁とを備えていることを特徴とするダイカストマシン。
【請求項2】
前記増圧用メカニズムは、前記射出用油圧シリンダの前進用油室に対して一端が出入可能に配置されたねじ軸と、当該ねじ軸を螺合するナット体と、当該ナット体を回転駆動し、前記射出用油圧シリンダの前進用油室に対する前記ねじ軸の出入を行う増圧用サーボモータとを備えていることを特徴とする請求項1に記載のダイカストマシン。

【図1】
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【公開番号】特開2012−55935(P2012−55935A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202124(P2010−202124)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000222587)東洋機械金属株式会社 (299)
【Fターム(参考)】