説明

ダイヤモンド構造体の製造方法及びダイヤモンド構造体

【課題】比較的深い溝、穴及び貫通孔が精度良くダイヤモンドに形成可能なダイヤモンド構造体の製造方法とダイヤモンド構造体とを提供すること。
【解決手段】積層体54に含まれる第2層58〜第5層64は、第1層56に対するウェットエッチングに対しエッチング耐性のある材料から成り、第5層64は、第2層58〜第4層62に対しドライエッチングが行われる場合、各ドライエッチングに対してエッチング耐性のある材料から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド構造体の製造方法と、ダイヤモンド構造体とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイヤモンドを切断し、又は、ダイヤモンドに溝、穴若しくは貫通孔を設けてダイヤモンド構造体を形成するには、レーザが主に用いられている。このようなレーザを用いたダイヤモンド加工法においては、(1)レーザ照射によって生じるグラファイト状の粉が加工面に付着する、(2)加工面がグラファイトとなり導電性を持つ、(3)加工面が20μm〜50μm程度の凹凸を有する、(4)加工面が垂直に加工されずに楔状となり使用有効面積をロスする(すなわち、1mm程度の幅と100μm程度の厚みとを有する基板から100μm程度の幅の複数の板を切り出す場合、10μm程度の切り代を伴って基板表面に対し垂直に切れるなら、この基板から9枚の板が切り出し可能であるが、基板表面に対し垂直に切れず、基板表面に対し例えば45度に切れる場合には、切り代は100μm程度になるので、5枚の板のみが切り出される。)、又は(5)10μm以下の加工精度(この場合、設計サイズに対する実際のサイズを想定している。実際には最終的に仕上がるサイズを勘案して設計サイズの大きさを調整するが、縮小率(拡大率)がばらつくことにより精度が生じる。基板表面に対し垂直に切れる場合、この精度は向上される。)の実現が困難、等の問題点があげられる。このような問題点を解決するるため、下記の非特許文献1、非特許文献2及び特許文献1に記載のようなRIE(Reactive Ion Etching)等を用いてダイヤモンドを加工する方法も検討されている。RIE等を用いてダイヤモンドを加工する場合、ダイヤモンド上にマスクをパターニングし、このパターニングされたマスクを用いてダイヤモンドをエッチングする。これにより、パターニングされたマスクの形状に沿ったダイヤモンド構造体が形成される。マスクの材料はダイヤモンドを加工する酸素雰囲気に対するエッチング耐性(所定のエッチング剤に対する耐性であり、以下同様。)を有している必要がある。マスクの材料のエッチング耐性がダイヤモンドのエッチング耐性よりも大きい程より深いエッチングが可能となる。
【非特許文献1】N.N.Efremow, M.W.Geis, D.C.Flanders, G.A.Lincoln and N.P.Economou: J.Vac.Sci.Technol. B3, p.416, (1985)
【非特許文献2】西林良樹、安藤豊、小橋宏司、目黒貴一、今井貴浩、平尾孝、尾浦憲治郎: New Diamond, Vol.17, No.3, p15 (2001)
【特許文献1】特開2005−135846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
マスクのパターニングには、フォトリソグラフィや電子線露光等を用いてパターニングされたレジストをマスク上に形成して用いるのが一般的である。そして、ドライエッチング又はウェットエッチングの何れかを用いてマスクのパターニングを行う。ドライエッチングによる方法はレジストのパターニングを精度良く転写できるので非常に有効な方法である。しかし、レジストのエッチング耐性には限界があり、深い溝、穴及び貫通孔をダイヤモンドに形成する際に有効な厚いマスクを形成するのは困難である。また、レジストの厚みを1μm以上に厚くする方法も考えられる。この場合には、電子線描画が困難になるので、フォトリソグラフィによるパターニングを用いることになる。しかし、フォトリソグラフィを用いてもレジストの厚みが大きくなると解像度は低下するので、それに伴いエッチングの精度も低下する。一方、ウェットエッチングの場合、レジストの厚みは小さいがエッチング耐性を有しているので、ドライエッチングの場合のようなマスクの厚みに対する限界が解消される。しかし、ウェットエッチングを長時間行うとエッチングの対象となっている箇所の周囲もエッチングされるのでエッチングの精度が低下する。以上のように、ドライエッチング又はウェットエッチングの何れを用いても、比較的深い溝、穴又は貫通孔が精度良く形成されたダイヤモンド構造体の製造は困難である。そこで本発明は、比較的深い溝、穴及び貫通孔が精度良くダイヤモンドに形成可能なダイヤモンド構造体の製造方法とこのダイヤモンド構造体とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、ダイヤモンド構造体の製造方法であって、ダイヤモンド基板上に複数の材料を積層することにより、該ダイヤモンド基板上に複数の層から成る積層体を形成する積層体形成工程と、マスクパターンを有するレジストを前記積層体上に形成するレジスト形成工程と、前記積層体を成す層毎に前記レジストを用いて該積層体をウェットエッチングすることにより、前記マスクパターンを有しており前記ダイヤモンド基板のエッチングに用いるためのマスクを形成するマスク形成工程と、前記マスクを用いて前記ダイヤモンド基板をエッチングすることにより、該ダイヤモンド基板を前記ダイヤモンド構造体に加工するダイヤモンド基板加工工程とを有しており、前記複数の層のうちの一層は、該複数の層のうち前記積層体形成工程において当該一層の形成前に形成される一又は複数の層がある場合、前記マスク形成工程において該一又は複数の層毎に行われる各ウェットエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成る、ことを特徴とする。
【0005】
従って、積層体を成す複数の層の各々にウェットエッチングを行う場合、エッチング済みの層は、後のウェットエッチングに対しエッチング耐性を有するため、後のウェットエッチング時にエッチングされにくい。よって、複数の層から成る比較的厚い積層体に対しても、マスクパターンの形状を保持できるエッチングが可能となる。
【0006】
また、本発明は、ダイヤモンド構造体の製造方法であって、ダイヤモンド基板上に複数の材料を積層することにより、該ダイヤモンド基板上に複数の層から成る積層体を形成する積層体形成工程と、マスクパターンを有するレジストを前記積層体上に形成するレジスト形成工程と、前記積層体を成す層毎に前記レジストを用いて該積層体をドライエッチングすることにより、前記マスクパターンを有しており前記ダイヤモンド基板のエッチングに用いるためのマスクを形成するマスク形成工程と、前記マスクを用いて前記ダイヤモンド基板をエッチングすることにより、該ダイヤモンド基板を前記ダイヤモンド構造体に加工するダイヤモンド基板加工工程とを有しており、前記複数の層のうち前記積層体形成工程において最後に形成される層は、該複数の層のうち当該最後に形成される層以外の一又は複数の層毎に前記マスク形成工程において行われる各ドライエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成る、ことを特徴とする。
【0007】
従って、積層体を成す複数の層の各々にドライエッチングを行う場合、レジスト形成工程において形成されたレジストがドライエッチングにより消滅しても、最初にドライエッチングされた層が、後のドライエッチングに対してレジストとして機能する。よって、複数の層から成る比較的厚い積層体に対しても、マスクパターンの形状を保持できるエッチングが可能となる。
【0008】
また、本発明は、ダイヤモンド構造体の製造方法であって、ダイヤモンド基板上に複数の材料を積層することにより、該ダイヤモンド基板上に複数の層から成る積層体を形成する積層体形成工程と、マスクパターンを有するレジストを前記積層体上に形成するレジスト形成工程と、前記積層体を成す層毎に前記レジストを用いて該積層体のウェットエッチング及びドライエッチングを行うことにより、前記マスクパターンを有しており前記ダイヤモンド基板のエッチングに用いるためのマスクを形成するマスク形成工程と、前記マスクを用いて前記ダイヤモンド基板をエッチングすることにより、該ダイヤモンド基板を前記ダイヤモンド構造体に加工するダイヤモンド基板加工工程とを有しており、前記複数の層のうちの一層は、前記積層体形成工程において当該一層の形成前に形成され且つ前記マスク形成工程においてウェットエッチングされる他の層が前記積層体に含まれる場合、当該ウェットエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成り、前記複数の層のうち前記積層体形成工程において最後に形成される層は、該複数の層のうち当該最後に形成される層以外であって且つ前記マスク形成工程においてドライエッチングされる他の層が含まれる場合、当該ドライエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成る、ことを特徴とする。
【0009】
従って、積層体を成す複数の層の各々にウェットエッチング及びドライエッチングを行う場合、エッチング済みの層は、後のウェットエッチングに対しエッチング耐性を有するため、後のウェットエッチング時にエッチングされにくく、レジスト形成工程において形成されたレジストがドライエッチングにより消滅しても、初めにドライエッチングされた層が、後のドライエッチングに対してレジストとして機能する。よって、複数の層から成る比較的厚い積層体に対しても、マスクパターンの形状を保持できるエッチングが可能となる。
【0010】
また、本発明は、深さ30マイクロメートル以上300マイクロメートル以下の溝または穴を含むダイヤモンド基板から成るダイヤモンド構造体であって、前記溝または前記穴の幅はその深さの1/100以上1/3以下であり、前記溝または前記穴の側面の粗さを表す凹凸の高低差はその深さの1/1000以上1/10以下である、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、30マイクロメートル以上3000マイクロメートル以下の厚みのダイヤモンド基板からなるダイヤモンド構造体であって、前記ダイヤモンド基板の側面の粗さを表す凹凸の高低差が、該ダイヤモンド基板の厚みの1/1000以上1/10以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、比較的深い溝、穴及び貫通孔が精度良くダイヤモンドに形成可能なダイヤモンド構造体の製造方法とダイヤモンド構造体とが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、可能な場合には、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
はじめに、ウェットエッチングを用いてダイヤモンド基板に対するマスクパターンを形成する場合のダイヤモンド構造体の製造方法について説明する。まず、ウェットエッチングを用いた本製造方法のコンセプトを説明する。ダイヤモンド基板を用意する(準備工程)。次に、ダイヤモンド基板上に複数の材料を積層することにより、このダイヤモンド基板上に複数の層から成る積層体を形成する(積層体形成工程)。次に、マスクパターンを有するレジストを積層体上に形成する(レジスト形成工程)。次に、積層体を成す層毎にレジストを用いてこの積層体をウェットエッチングすることにより、マスクパターンを有しておりダイヤモンド基板のエッチングに用いるためのマスクを形成する(マスク形成工程)。次に、マスクを用いてダイヤモンド基板をエッチングすることにより、該ダイヤモンド基板をダイヤモンド構造体に加工する(ダイヤモンド基板加工工程)。そして、複数の層のうちの一層は、これら複数の層のうち積層体形成工程においてこの一層の形成前に形成される一又は複数の層がある場合、マスク形成工程においてこの一又は複数の層毎に行われる各ウェットエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成る。
【0015】
以下、具体的に説明する。まず、ダイヤモンド基板2を用意する(準備工程)。準備工程の後、図1(A)に示すように、ダイヤモンド基板2上に積層体4を形成する。積層体4は、第1層6及び第2層8から構成される。第1層6はダイヤモンド基板2上に形成され、第2層8は第1層6上に形成されている。第1層6の材料をTi(チタン)とし、第2層8の材料をMo(モリブデン)とすることができる(積層体形成工程)。積層体形成工程の後、フォトリソグラフィを用いて、レジストにパターン(1〜3μm程度の幅のドットパターンや、1〜3μm程度の幅のラインパターンであり、以下同様。)を形成する(レジスト形成工程)。ここで、ドットパターンとは、単純な形状(三角形、四角形又は円形等)を意味するが、円形のバターンを想定している。また、一つだけでなく複数のパターンが配列されていてもよい。
【0016】
レジスト形成工程の後、レジスト10をマスクとしてMoから成る第2層8を、第1エッチング剤である王水を用いてウェットエッチングする。この場合、Tiから成る第1層6は王水に対しエッチング耐性を有する。第1層6は、このウェットエッチングによりレジスト10のパターンと略同形のパターンを有する第2マスク領域12となる。そして、第2層8に対するエッチングの完了後、第2エッチング剤であるBHF(バッファードフッ酸)を用いてTiから成る第1層6をウェットエッチングする。この場合、Moから成る第2層8は、BHFに対しエッチング耐性を有する。第2層8は、このウェットエッチングにより第2マスク領域12のパターン(レジスト10のパターン)と略同形のパターンを有する第1マスク領域14となる。以上のように第1層6及び第2層8に対するエッチングが完了すると、レジスト10のパターンと略同形の高精度にパターニングされたマスク16が形成される(図1(B)を参照)。マスク16は、第2マスク領域12及び第1マスク領域14を有しており、第1マスク領域14はダイヤモンド基板2上に形成され、第2マスク領域12は第1マスク領域14上に形成されている。第1層6は第2層8がエッチングされている間にはエッチングされにくいので、マスク16の断面の端部の幅L2(第2マスク領域12の断面の端部の幅であり、第1マスク領域14の断面の各端部の幅も同様。)はレジスト10の断面の幅L1と略同様となる(マスク形成工程)。マスク形成工程の後、マスク16を用いたダイヤモンド基板2に対するエッチング加工を、CF/O=1%のプラズマ中においてRIE装置を用いて行う(ダイヤモンド基板加工工程)。
【0017】
ここで、図2を参照して、単層の場合には高精度なマスクパターンが困難となる理由を説明する。図2(A)に示すように、ダイヤモンド基板2上に1種類の材料から成る積層体18(以下、単層であっても積層体という。)を形成し、そして、この積層体18上にレジスト10を形成した後に積層体18をウェットエッチングする場合には、積層体18の厚みが大きい程、図2(B)の図中符号Aに示す向きにエッチングが大きく進行する。このため、このエッチングにより形成されたマスク20の断面の端部の幅L3は、レジスト10のパターンの幅L1よりもマスク16の幅L2に比較して小さくなる(幅L3<幅L2)。従って、1種類の材料から成る単層の積層体18を用いた場合には、複数の層から成るマスク16の場合に可能となっている高精度なパターニングが困難となる。
【0018】
なお、第1層6及び第2層8の各材料は、互いに異なるエッチング耐性を有していればMo及びTiに限らない。例えば、第1層6及び第2層8の材料は、図3(A)に示す材料であってもよい。図3(A)に示す第1層6の材料は、Ti、SiO又はW(タングステン)であり、第2層8の材料は、Mo又はAuである。
【0019】
積層体を三層以上から構成すれば、より高い精度のパターニングが可能となる。この場合、この積層体を構成する各層の材料は互いに異なるエッチング耐性を有している。図1(C)に、三層から成る積層体22がダイヤモンド基板2上に形成されている様子を示す。積層体22を構成する三層は、第1層24、第2層26及び第3層28である。図3(B)に示すように、第1層24の材料をa−Siとし、第2層26の材料をTi又はSiOとし、第3層28の材料をMo又はAuとすることができる。第3層28に対する第1エッチング剤は王水であり、第2層26に対する第2エッチング剤はBHFであり、第1層24に対する第3エッチング剤はKOH(水酸化カリウム)である。図1(D)に示すように、積層体22に対するウェットエッチングの後、積層体22はマスク30となる。マスク30は、第1マスク領域32、第2マスク領域34及び第3マスク領域36を有する。第1マスク領域32は、ダイヤモンド基板2上に形成されており、第2マスク領域34は第1マスク領域32上に形成されており、第3マスク領域36は第2マスク領域34上に形成されている。第3層28は第2層26がエッチングされている間にはエッチングされにくく、第2層26は第1層24がエッチングされている間にはエッチングされにくいので、マスク30の断面の端部の幅L4(第3マスク領域36の断面の端部の幅であり、第1マスク領域32及び第2マスク領域34の断面の各端部の幅と同様。)はレジスト10の断面の幅L1と略同様となる。
【0020】
次に、ドライエッチングを用いてダイヤモンド基板に対するマスクパターンを形成する場合のダイヤモンド構造体の製造方法について説明する。ドライエッチングを用いて厚いマスクのパターンを形成する場合、マスクのパターン形成前にレジストが消滅する、という困難がある。レジストを単純に厚くすればこのような困難は解消できるが、パターンの精度低下を招く。そこで、レジスト10が通常の厚さ(例えば、200nm〜500nm程度)であってもドライエッチングを用いて厚いマスクを得るために、積層体を二層以上から成る構成とし、各層の材料は互いに異なるエッチング耐性を有しているものとする。
【0021】
まず、ドライエッチングを用いた本製造方法のコンセプトを説明する。ダイヤモンド基板を用意する(準備工程)。次に、ダイヤモンド基板上に複数の材料を積層することにより、このダイヤモンド基板上に複数の層から成る積層体を形成する(積層体形成工程)。次に、マスクパターンを有するレジストを積層体上に形成する(レジスト形成工程)。次に、積層体を成す層毎にレジストを用いてこの積層体をドライエッチングすることにより、マスクパターンを有しておりダイヤモンド基板のエッチングに用いるためのマスクを形成する(マスク形成工程)。次に、マスクを用いてダイヤモンド基板をエッチングすることにより、このダイヤモンド基板をダイヤモンド構造体に加工する(ダイヤモンド基板加工工程)。そして、複数の層のうち積層体形成工程において最後に形成される層は、この複数の層のうちこの最後に形成される層以外の一又は複数の層毎にマスク形成工程において行われる各ドライエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成る。
【0022】
以下、具体的に説明する。まず、ダイヤモンド基板2を用意する(準備工程)。準備工程の後、ダイヤモンド基板2上にMoを材料とする第1層を形成し、第1層上にAlを材料とする第2層を形成する(積層体形成工程)。積層体形成工程の後、高精度にパターニングされたレジスト10を第2層上に形成する(レジスト形成工程)。レジスト形成工程の後、Alから成る第2層を、Cl系ガスを用いてドライエッチングし、第2層に対するエッチングの完了後、Moから成る第1層を、SF系ガスを用いてドライエッチングする。第2層の材料であるAlはSF系ガスに対しエッチング耐性を有しているので、Moから成る第1層のエッチング時には第2層がレジストとして機能する。このため、レジスト10は、少なくとも第2層のエッチング時に機能しさえすればよい。第1層のエッチングによって第2層は若干目減りするが第1層のエッチングの方が第2層のエッチングより速く進むので、厚みの大きなマスクの高精度なパターニングがドライエッチングを用いて可能となる。この結果、レジスト10と略同様の精度(レジスト10の断面の幅と、マスクの断面の端部の幅とが略同様の大きさ)で、AlとMoとが積層された厚みの大きなマスクが形成される(マスク形成工程)。マスク形成工程の後、上記のようにして得られたマスクを用いたダイヤモンド基板2に対するエッチング加工を、CF/O=1%のプラズマ中においてRIE装置を用いて行う(ダイヤモンド基板加工工程)。
【0023】
なお、図3(C)に示すように、第2層の材料はTiでもよく、第1層の材料はWでもよい。また、第1層の材料はSiOでもよい。SiOを用いた場合、SiOだけではダイヤモンドへの垂直加工は困難であるが、金属と組み合わせて用いることにより垂直加工が可能になるので、有効である。
【0024】
また、マスクは上述のような二層から成る構成に限らず、三層から成る構成であってもよい。この場合、ダイヤモンド基板2上には第1層が形成され、第1層上には第2層が形成され、第2層上には第3層が形成される。そして、高精度にパターニングされたレジストが第3層上に形成される。第1層の材料は、第2層及び第3層のエッチング時にエッチングされにくいものであればよい。すなわち、第1層の材料は、第2層及び第3層に対する各エッチング剤に対しエッチング耐性を有する。第1層〜第3層の各材料を図3(D)に示す。また、エッチング剤はガスの種類が同一であっても、エッチング条件(ガス組成、圧力、パワー、温度及びエッチング方法)に応じてエッチング比が大きくなる場合には利用できる。
【0025】
次に、ウェットエッチングとドライエッチングとを併用してダイヤモンド基板に対するマスクパターンを形成する場合のダイヤモンド構造体の製造方法について説明する。ウェットエッチングのみの場合に利用可能な積層体の材料やエッチング剤の種類は比較的少ないが、ウェットエッチングにドライエッチングを併用すれば、積層体の材料とエッチング剤との組み合わせのバリエーションが広がる。
【0026】
まず、ウェットエッチングとドライエッチングとを併用した本製造方法のコンセプトを説明する。ダイヤモンド基板を用意する(準備工程)。次に、ダイヤモンド基板上に複数の材料を積層することにより、このダイヤモンド基板上に複数の層から成る積層体を形成する(積層体形成工程)。次に、マスクパターンを有するレジストを積層体上に形成する(レジスト形成工程)。次に、積層体を成す層毎にレジストを用いてこの積層体のウェットエッチング及びドライエッチングを行うことにより、マスクパターンを有しておりダイヤモンド基板のエッチングに用いるためのマスクを形成する(マスク形成工程)。次に、マスクを用いてダイヤモンド基板をエッチングすることにより、このダイヤモンド基板をダイヤモンド構造体に加工する(ダイヤモンド基板加工工程)。そして、複数の層のうちの一層は、積層体形成工程においてこの一層の形成前に形成され且つマスク形成工程においてウェットエッチングされる他の層が積層体に含まれる場合、このウェットエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成り、複数の層のうち積層体形成工程において最後に形成される層は、この複数の層のうちこの最後に形成される層以外であって且つマスク形成工程においてドライエッチングされる他の層が含まれる場合、このドライエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成る。
【0027】
以下、具体的に説明する。まず、ダイヤモンド基板2を用意する(準備工程)。準備工程の後、図4(A)に示すように、ダイヤモンド基板2上に積層体38を形成する。積層体38は、ダイヤモンド基板2上に形成される第1層40と、第1層40上に形成される第2層42と、第2層42上に形成される第3層44とを有する。第1層40の材料はMoであり、第2層42の材料はTiであり、第3層44の材料はAuである(積層体形成工程)。積層体形成工程の後、高精度にパターニングされたレジスト10を積層体38上に形成する。レジスト10は、第3層44上に形成される(レジスト形成工程)。レジスト形成工程の後、Auから成る第3層44を、王水を用いてウェットエッチングする。Tiから成る第2層42は王水に対しエッチング耐性を有する。第3層44に対するエッチングの完了後、この第2層42をCl系ガスを用いてドライエッチングする。第3層44は、Cl系ガスに対しエッチング耐性を有するので、レジスト10が消滅した後も、第3層44がレジストの機能を発揮して第2層42のエッチングが可能となる。第2層42に対するエッチングの完了後、Moから成る第1層40をSF系ガスを用いてドライエッチングする。第3層44は、SF系ガスに対しエッチング耐性を有するので、レジスト10が消滅した後も、第3層44がレジストの機能を発揮して第1層40のエッチングが可能となる。以上のエッチングの後、積層体38は、図4(B)に示すように、マスク46となる。マスク46は、第1マスク領域48、第2マスク領域50及び第3マスク領域52を有する。第1マスク領域48はダイヤモンド基板2上に形成されており、第2マスク領域50は第1マスク領域48上に形成されており、第3マスク領域52は第2マスク領域50上に形成されている(マスク形成工程)。マスク形成工程の後、マスク46を用いたダイヤモンド基板2に対するエッチング加工を、CF/O=1%のプラズマ中においてRIE装置を用いて行う(ダイヤモンド基板加工工程)。
【0028】
なお、第1層40の材料をMoとし、第2層42の材料をAuとし、第3層44の材料をTiとしてもよい。この場合、Cl系ガスを用いてTiから成る第3層44をドライエッチングし、第3層44に対するエッチングの完了後に王水を用いてAuから成る第2層42をウェットエッチングし、第2層42に対するエッチングの完了後にCF系ガスを用いてMoから成る第1層40をドライエッチングする。Tiから成る第3層44は、王水及びCF系ガスに対しエッチング耐性を有するので、レジスト10が消滅した後も、第3層44がレジストの機能を発揮して第2層42及び第1層40のエッチングが可能となる。
【0029】
また、第1層40の材料をAuとし、第2層42の材料をSiとし、第3層44の材料をTiとしてもよい。この場合、Cl系ガスを用いてTiから成る第3層44をドライエッチングし、第3層44に対するエッチングの完了後にSF系ガスを用いてSiから成る第2層42をドライエッチングし、第2層42に対するエッチングの完了後に王水を用いてAuから成る第1層40をウェットエッチングする。Tiから成る第3層44は、SF系ガス及び王水に対しエッチング耐性を有するので、レジスト10が消滅した後も、第3層44がレジストの機能を発揮して第2層42及び第1層40のエッチングが可能となる。以上のように、第3層44がエッチング耐性を有するエッチング剤によって第1層40及び第2層42がエッチングされれば、ドライエッチングやウェットエッチングを第1層40〜第3層44のうち何れの層に用いるかについての制限はない。更に、例えば第3層をエッチングする場合、第1層は、この第3層のエッチングに用いるエッチング剤によりエッチングされる材料から成っていてもよい。これは、第3層をエッチングする場合、第2層がエッチング耐性を有していれば、第2層が第1層に対する保護膜となって、第1層は第3層のエッチングにより影響を受けないからである。また、図4(C)に示すように、ダイヤモンド基板2上に五層から成る積層体54を形成してもよい。
【0030】
積層体54は、第1層56、第2層58、第3層60、第4層62及び第5層64を有する。第1層56はダイヤモンド基板2上に形成され、第2層58は第1層56上に形成され、第3層60は第2層58上に形成され、第4層62は第3層60上に形成され、第5層64は第4層62上に形成される。第1層56の材料はAlであり、第2層58の材料はMoであり、第3層60の材料はSiOであり、第4層62の材料はTiであり、第5層64の材料はAuである。この場合、王水を用いてAuから成る第5層64をウェットエッチングし、第5層64に対するエッチングの完了後にCl系ガスを用いてTiから成る第4層62をドライエッチングし、第4層62に対するエッチングの完了後にCF系ガスを用いてSiOから成る第3層60をドライエッチングし、第3層60に対するエッチングの完了後にSF系ガスを用いてMoから成る第2層58をドライエッチングし、第2層58に対するエッチングの完了後にCl系ガスを用いてAlから成る第1層56をドライエッチングする。Auから成る第5層64は、Cl系ガス、CF系ガス及びSF系ガスに対しエッチング耐性を有するので、レジスト10が消滅した後も、第5層64がレジストの機能を発揮して第4層62〜第1層56のエッチングが可能となる。
【0031】
上記エッチングの後、積層体54は、図4(D)に示すように、マスク66となる。マスク66は、第1マスク領域68、第2マスク領域70、第3マスク領域72、第4マスク領域74及び第5マスク領域76を有する。第1マスク領域68はダイヤモンド基板2上に形成されており、第2マスク領域70は第1マスク領域68上に形成されており、第3マスク領域72は第2マスク領域70上に形成されており、第4マスク領域74は第3マスク領域72上に形成されており、第5マスク領域76は第4マスク領域74上に形成されている。なお、積層体が二層の場合、第1層及び第2層の各材料は、図3(E)に示すものであってもよい。この場合、第2層をエッチングする際に用いる第1エッチング剤と、第1層をエッチングする際に用いる第2エッチング剤とを、図3(E)に示す。
【0032】
以上説明した実施形態によれば、二層以上から構成される積層体(例えば積層体4等)をダイヤモンド基板2上に形成することにより、厚みの大きいマスク(例えばマスク16等)のパターニングが高精度に行える。そして、マスクのエッチング耐性も向上される。また、レジスト10と積層体(例えば積層体4等)との密着性が長時間のエッチングで低減しても、積層体を構成する複数の層同士の密着性は維持できる。このため、これら複数の層がレジストの機能を発揮できるので積層体のエッチングが精度良く行える。このように、厚みの大きいマスク(例えばマスク16等)がダイヤモンド基板2上に高精度に形成できるので、ダイヤモンド基板2に対し高精度で比較的深いエッチングが可能となる。また、上述のマスクを用いれば、ダイヤモンド基板2を効率よく(切り代を少なく)エッチングにより切断できるので、20μm〜50μm角の多結晶ダイヤモンドチップが切り出し可能となる。
【0033】
これにより、例えば、30μm以上300μm以下の厚みのダイヤモンド基板2上の50μm角(L5)にデバイスが搭載されているような素子が分離できる。この素子の側面(エッチングにより形成された面であり、以下、エッチング面という。)の粗さを表す凹凸の高低差をこの素子の厚みの1/1000以上1/10以下に実現できる(図5(A)に示すダイヤモンド構造体78を参照)。また、例えば、10μm程度(更に、30μm以上300μm以下)の高さ(L6)と1μm程度(高さL6の1/100以上1/3以下)の幅(L7)とを有する凸部B1がダイヤモンド基板2に形成可能となる。この凸部B1の側面(エッチング面)の面粗さ(Ra)を表す凹凸の高低差をこの凸部B1の高さの1/1000以上1/10以下に実現できる(図5(B)及び図5(C)に示すダイヤモンド構造体80を参照)。また、例えば、10μm程度(更に、30μm以上300μm以下)の深さ(L8)と1μm程度(深さL8の1/100以上1/3以下)の幅(L9)とを有する溝B2がダイヤモンド基板2に形成可能となる。この溝B2のエッチング面の面粗さを表す凹凸の高低差はこの溝B2の深さの1/1000以上1/10以下に実現できる。(図5(D)及び図5(E)に示すダイヤモンド構造体82を参照)。また、例えば、10μm程度(更に、30μm以上300μm以下)の深さ(L10)と1μm程度(深さL10の1/100以上1/3以下)の幅(L11)とを有する貫通孔B3がダイヤモンド基板2に形成可能となる。この貫通孔B3のエッチング面の面粗さを表す凹凸の高低差はこの貫通孔B3の深さの1/1000以上1/10以下に実現できる(図5(F)及び図5(G)に示すダイヤモンド構造体84を参照)。ここで、図5(C)は、図5(B)に示すI−I線に沿ってとられたダイヤモンド基板2の断面図であり、図5(E)は、図5(D)に示すII−II線に沿ってとられたダイヤモンド基板2の断面図であり、図5(G)は、図5(F)に示すIII−III線に沿ってとられたダイヤモンド基板2の断面図である。
【0034】
従って、例えば、従来よりも高く尖鋭なダイヤモンドから成る電子エミッタの形成が可能となり、シングルチップの実用的な電子源が作製できる。更に、レーザを用いた場合に生じるグラファイトや切断機器を用いた場合等に生じる金属成分がエッチング面(エッチングにより形成されたダイヤモンドの面)に形成されないので、ダイヤモンド基板2の絶縁性が維持できる。また、カンチレバーに効率よく取り付けられるダイヤモンドプローブの作製も可能になり、ナノインプリントのような微小でなくとも、μmサイズ以上の金型にも応用できる。
【実施例1】
【0035】
(第1実施例)以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。まず、図6(A)及び図6(B)を参照して第1実施例について説明する。第1実施例は、ウェットエッチングにより形成した複数層から成るマスクを用いエッチング処理されたダイヤモンド基板2に対する試験結果である。はじめに、表面が平坦に(10nm以下の面粗さに)研磨された2インチ径のダイヤモンド基板2上に種々の積層体又は単層から成る膜を形成した。各積層体の第1層〜第3層の厚み(厚みの組み合わせ)は互いに異なる。
【0036】
詳細には、第1層〜第3層の三層から成る積層体、第1層及び第2層の二層から成る積層体(第3層の厚みがゼロの積層体)、第1層及び第3層の二層から成る積層体(第2層の厚みがゼロの積層体)、第2層及び第3層の二層から成る積層体(第1層の厚みがゼロの積層体)、第1層のみから成る膜(第2層及び第3層の各厚みはゼロ)、第2層のみから成る膜(第1層及び第3層の各厚みはゼロ)、そして、第3層のみから成る膜(第1層及び第2層の各厚みはゼロ)をダイヤモンド基板2上に形成した。積層体が第1層〜第3層の三層から成る場合、第1層はダイヤモンド基板2上に形成され、第2層は第1層上に形成され、第3層は第2層上に形成された。積層体が第1層及び第2層の二層から成る場合、第1層はダイヤモンド基板2上に形成され、第2層は第1層上に形成された。積層体が第1層及び第3層の二層から成る場合、第1層はダイヤモンド基板2上に形成され、第3層は第1層上に形成された。積層体が第2層及び第3層の二層から成る場合、第2層はダイヤモンド基板2上に形成され、第3層は第2層上に形成された。第1層のみから成る膜を用いた場合、第1層はダイヤモンド基板2上に形成された。第2層のみから成る膜を用いた場合、第2層はダイヤモンド基板2上に形成された。第3層のみから成る膜を用いた場合、第3層はダイヤモンド基板2上に形成された。
【0037】
図6(A)に示す実施例01〜実施例09及び図6(B)に示す実施例11〜実施例19の各積層体は、第1層〜第3層のうち少なくとも二層以上から成る。なお、比較例01〜比較例09及び比較例11〜比較例16の各膜は、比較例01及び比較例11を除いて第1層〜第3層のうち何れか一層のみから成る。比較例01及び比較例11の各膜は第1層及び第2層を有しているが、同一のエッチング剤によりエッチングされたので、単層からなる膜として扱っている。第1層の材料はTiであり、第2層の材料はSiOであり、第3層の材料はMoである。Tiから成る第1層とMoから成る第3層とはスパッタリング法を用いて成膜され、SiOから成る第2層はTEOSガスを用いたCVD法を用いて成膜された。
【0038】
そして、フォトリソグラフィを用いてレジスト(TSMR)のパターンを各積層体上に形成した。その後、この各積層体を王水及びBHFを用いてウェットエッチングした。このエッチング処理の後、レジストのパターンと同様のパターンを有する複数層から成るマスクがダイヤモンド基板2上に形成された。この後、このマスクを用いたダイヤモンド基板2に対するエッチングを、RIE装置を用いてCF/O=1%の雰囲気のプラズマ中において行い、凸部を有するダイヤモンド構造体(図5(B)及び図5(C)を参照)を製造した。上述のダイヤモンド基板2に対するエッチング結果を図6(A)及び図6(B)にまとめた。なお、比較例01〜比較例09及び比較例11〜比較例16の各膜に対しても、王水及びBHFを用いたウェットエッチングが施された。
【0039】
以下、図6(A)を参照して説明する。図6(A)の「形成可能だった最小ドットサイズ」の項目は、ダイヤモンド基板2に対し形成可能なドットサイズ(このドットパターンとしては、円形を想定している。)が小さいほど精密な加工ができることを示している(以下同様)。すなわち、複数層から成る実施例01〜実施例03の各積層体は、同一の厚みを有する単層の比較例01〜比較例04の各膜よりも精度の高い加工が行えることがわかる(図6(A)の「形成可能だった最小ドットサイズ」の項目を参照)。複数層から成る実施例04及び実施例05の各積層体は、実施例01〜実施例03の各積層体に比較して厚みが大きく、精度の高い加工も行いにくくなっていたが(図6(A)の「形成可能だった最小ドットサイズ」の項目を参照)、比較的大きな高さの凸部が形成できる点で有効であった(図6(A)の「凸部」「高さ」の項目を参照)。単層の比較例05及び比較例06の各膜は、実施例01〜実施例03の各積層体に比較して厚みが大きく、実施例05の積層体の厚みと同程度であったが、実施例01〜実施例05及び比較例01〜比較例04の何れの場合よりも精度の高い加工は行いにくくなっていた(図6(A)の「形成可能だった最小ドットサイズ」の項目を参照)。以上により、実施例01〜実施例05のように複数層から成る積層体をマスクに用いた方が、比較例01〜比較例06のように単層の膜をマスクに用いた場合に比較して、ダイヤモンド基板2に対する精度の高い加工が行え、より細くて高い凸部が形成できた。
【0040】
また、実施例06〜実施例09は、実施例01〜実施例05に比較してより厚くエッチングした場合である。実施例06〜実施例09においては、高さ30μm以上の凸部が設けられたダイヤモンド基板から成るダイヤモンド構造体が製造された。この凸部の幅は凸部の高さの1/3以下であり、この凸部の側面の面粗さを表す凹凸の高低差はこの凸部の高さの1/10以下である。実施例06〜実施例09において用いられたエッチング方法は、実施例01〜実施例05において用いられたエッチング方法と同様である。比較例07〜比較例09に示すように、単層のマスクを用いた場合に形成可能な凸部の高さには20μm程度の限界があったが、実施例06〜実施例09に示すように、積層体のマスクを用いた場合には凸部の高さはこの20μmの限界を超え30μm以上であった。なお、凸部の高さが25μmを超えており、この凸部の幅がこの凸部の高さの1/3以下となるウェットエッチングの加工例ははじめてである。
【0041】
次に、図6(B)を参照して説明する。複数層から成る実施例11〜実施例13の各積層体は、同一の厚みを有する単層の比較例11〜比較例14の各膜よりも精度の高い加工が行えた(図6(B)の「形成可能だった最小穴サイズ」の項目を参照)。複数層から成る実施例14及び実施例15の各積層体は、厚みが大きく、精度の高い加工も行いにくくなっていたが(図6(B)の「形成可能だった最小穴サイズ」の項目を参照)、比較的大きな深さの穴が形成できる点で有効であった(図6(B)の「穴」「深さ」の項目を参照)。単層の比較例15及び比較例16の各膜は、実施例11〜実施例13の各積層体に比較して厚みが大きく、実施例15の積層体の厚みと同程度であったが、実施例11〜実施例15及び比較例11〜比較例14の何れの場合よりも精度の高い加工は行いにくくなっていた(図6(B)の「形成可能だった最小穴サイズ」の項目を参照)。以上により、実施例11〜実施例15のように複数層から成る積層体をマスクに用いた方が、比較例11〜比較例16のように単層の膜をマスクに用いた場合に比較して、ダイヤモンド基板2に対する精度の高い加工が行え、より細くて深い穴が形成できた。
【0042】
また、実施例16〜実施例19は、実施例11〜実施例15に比較してより厚くエッチングした場合である。実施例16〜実施例19においては、深さ30μm以上の穴が設けられたダイヤモンド基板から成るダイヤモンド構造体が製造された。この穴の幅は穴の深さの1/3以下であり、この穴の側面の面粗さを表す凹凸の高低差はこの穴の深さの1/10以下である。実施例16〜実施例19において用いられたエッチング方法は、実施例11〜実施例15において用いられたエッチング方法と同様である。比較例11〜比較例12に示すように、単層のマスクを用いた場合に形成可能な穴の深さは20μm程度の限界があったが、実施例16〜実施例19に示すように、積層体のマスクを用いた場合にはこの20μmの限界を超え30μm以上であった。なお、穴の深さが25μmを超えており、この穴の幅がこの穴の深さの1/3以下となるウェットエッチングの加工例ははじめてである。
【0043】
(第2実施例)次に、図7を参照して第2実施例について説明する。第2実施例は、ウェットエッチングとドライエッチングとによって形成された複数層又は単層から成るマスクを用いてエッチング処理されたダイヤモンド基板2に対する試験結果である。はじめに、表面が平坦に(10nm以下の面粗さに)研磨された2インチ径のダイヤモンド基板2上に種々の積層体及び膜を形成した。各積層体の第1層〜第3層の厚み(厚みの組み合わせ)は互いに異なる。詳細には、第1層〜第3層の三層から成る積層体、第2層及び第3層の二層から成る積層体(第1層の厚みがゼロの積層体)、第1層のみから成る膜(第2層及び第3層の各厚みはゼロ)、第2層のみから成る膜(第1層及び第3層の各厚みはゼロ)、そして、第3層のみから成る膜(第1層及び第2層の各厚みはゼロ)をダイヤモンド基板2上に形成した。積層体が第1層〜第3層の三層から成る場合、第1層はダイヤモンド基板2上に形成され、第2層は第1層上に形成され、第3層は第2層上に形成された。積層体が第2層及び第3層の二層から成る場合、第2層はダイヤモンド基板2上に形成され、第3層は第2層上に形成された。第1層のみから成る膜を用いた場合、第1層はダイヤモンド基板2上に形成された。第2層のみから成る膜を用いた場合、第2層はダイヤモンド基板2上に形成された。第3層のみから成る膜を用いた場合、第3層はダイヤモンド基板2上に形成された。
【0044】
図7に示す実施例21の積層体は、第1層〜第3層のうち第2層及び第3層の二層から成り、実施例22及び実施例23の各積層体は、第1層〜第3層の三層からなる。なお、図7に示す比較例21〜比較例24の各積層体は、第1層〜第3層のうち何れか一層のみから成る。第1層の材料はTiであり、第2層の材料はSiOであり、第3層の材料はMoである。Tiから成る第1層とMoから成る第3層とはスパッタリング法を用いて成膜され、SiOから成る第2層はTEOSガスを用いたCVD法を用いて成膜された。
【0045】
そして、フォトリソグラフィを用いてレジスト(TSMR)のパターンを実施例21〜実施例25の各積層体上に形成した。その後、各積層体の第3層をウェットエッチングし、その下部(第2層更には第1層)をRIEを用いてドライエッチングした。SiOから成る第2層に対してはCFガスを用いてエッチングし、Tiから成る第1層に対してはClガスを用いてエッチングした。このエッチング処理の後、レジストのパターンと同様のパターンを有するマスクがダイヤモンド基板2上に形成された。この後、このマスクを用いたダイヤモンド基板2に対するエッチングを、RIE装置を用いてCF/O=1%の雰囲気のプラズマ中において行い、凸部を有するダイヤモンド構造体(図5(F)及び図5(G)を参照)を製造した。上述のダイヤモンド基板2に対するエッチング結果を図7にまとめた。なお、比較例24の膜に対してはウェットエッチングが施され、比較例21〜比較例23の各膜に対してはRIEを用いたドライエッチングが施された。
【0046】
以下、図7を参照して説明する。実施例21〜実施例23の各積層体と、比較例21及び比較例22の各膜とは、同一の厚みのレジストを用いて形成されたものである。実施例21〜実施例23の各積層体と、比較例21及び比較例22の各膜とは、同程度の精度の高い加工が行えたが(図7の「形成可能だった最小ドットサイズ」の項目を参照)、実施例21〜実施例23の各積層体の方が、比較例21及び比較例22の各膜よりも厚みが大きい。比較例23の膜は、実施例21〜実施例23の各積層体と同程度の厚みを有しているが、実施例21〜実施例23の各積層体の形成時に用いたレジストよりも更に厚いレジストを用いて形成された。この比較例23の膜は、実施例21〜実施例23の各積層体よりも低精度となっていた(図7の「形成可能だった最小ドットサイズ」の項目を参照)。比較例24はウェットエッチングが行われた第3層を厚くしたものであるが、比較例23と同様に低精度となっていた(図7の「形成可能だった最小ドットサイズ」の項目を参照)。従って、ウェットエッチングとドライエッチングとを併用した場合においても、実施例21〜実施例23のように複数層から成る積層体をマスクに用いた方が、比較例21〜比較例24のように単層の膜をマスクに用いた場合に比較して、ダイヤモンド基板2に対する精度の高い加工が行え、より細くて高い凸部が形成できた。また、凸部ではなく、第1実施例(図6(B))の場合と同様な穴をダイヤモンド基板2に形成した場合も検証したが、ウェットエッチングとドライエッチングとを併用した場合においても、実施例21〜実施例23のように複数層から成る積層体をマスクに用いた方が、比較例21〜比較例24のように単層の膜をマスクに用いた場合に比較して、ダイヤモンド基板2に対する精度の高い加工が行え、より細くて高い凸部が形成できた。
【0047】
また、実施例24及び実施例25は、実施例21〜実施例23に比較してより厚くエッチングした場合である。実施例24及び実施例25においては、高さ30μm以上の凸部が設けられたダイヤモンド基板から成るダイヤモンド構造体が製造された。この凸部の幅は高さの1/3以下であり、この凸部の側面の面粗さを表す凹凸の高低差はこの凸部の深さの1/10以下である。実施例24及び実施例25において用いられたエッチング方法は、実施例21〜実施例23において用いられたエッチング方法と同様である。比較例21〜比較例24に示すように、単層のマスクを用いた場合に形成可能な凸部の高さは20μm程度の限界があったが、実施例24及び実施例25に示すように、積層体のマスクを用いた場合には凸部の高さが50μm以上であり凸部の幅が凸部の高さの1/3以下であった。
【0048】
(第3実施例)次に、図8(A)〜図8(C)を参照して第3実施例について説明する。第3実施例は、ドライエッチングにより形成した複数層から成るマスクを用いてエッチング処理されたダイヤモンド基板2に対する試験結果である。第1層の材料はMoであり、第2層の材料はSiOであり、第3層の材料はTi(又はAl)である。第1層〜第3層に対しては、層毎に互いに異なるエッチング剤(ガス)を用いたRIEによってドライエッチングした。Moから成る第1層に対してはSF系ガスを用いてエッチングし、SiOから成る第2層に対してはCF系ガスを用いてエッチングし、Ti(又はAl)から成る第3層に対してはCl系ガスを用いてエッチングした。上述のダイヤモンド基板2に対するエッチング結果を図8(A)及び図8(B)にまとめた。
【0049】
なお、比較例21〜比較例23(図7を参照)及び比較例31〜比較例33の各膜も実施例31〜実施例34の各積層体と同様のエッチング処理が施された。図8(A)には、ダイヤモンド基板2上に凸部を形成した場合の結果が示されており、図8(B)にはダイヤモンド基板2に穴を形成した場合の結果が示されている。何れもほぼ同じ結果を得たが、比較例23と、この比較例23と同じ条件の比較例43とでは結果が若干異なっていた。図8(B)は、この結果を示している。Tiに換えてAlを第3層の材料に用いてもTiを用いた図8(A)に示す結果とほぼ同様の結果が得られた。この結果を図8(C)に示す。以上により、ドライエッチングを用いた場合においても、実施例31〜実施例34のような複数層から成る積層体をマスクに用いた方が、比較例21〜比較例23及び比較例31〜比較例33のように単層の膜をマスクを用いた場合に比較して、ダイヤモンド基板2に対する精度の高い加工が行え、より細くて高い凸部や、より細くて深い穴が形成できた。なお、実施例35及び実施例54においては、高さ30μm以上の凸部が設けられたダイヤモンド基板から成るダイヤモンド構造体が製造された。この凸部の幅は凸部の高さの1/3以下であり、この凸部の側面の面粗さを表す凹凸の高低差はこの凸部の高さの1/10以下である。
【0050】
(第4実施例)次に、図9(A)及び図9(B)を参照して第4実施例について説明する。第4実施例は、複数層から成るマスクを用いてエッチング処理されたダイヤモンド基板2に対する側面評価結果である。図9(A)に示す「D」はドライエッチングによりエッチング処理されたことを示しており、「W」はウェットエッチングによりエッチング処理されたことを示している。なお、単層の比較例61及び比較例62の各膜には、Cl系ガスを用いたRIEによるエッチング処理が施され、このエッチング処理によって得られたマスクを用いてダイヤモンド基板2に対しエッチングを行って凸部を形成する。実施例04及び実施例05、実施例21〜実施例23、実施例31〜実施例34、実施例51、比較例05、比較例23及び比較例22、並びに比較例61及び比較例62におけるエッチング面の状態(面粗さを表す凹凸の高低差)を、触針式の粗さ計を用いて測定した。図9(A)及び図9(B)にはこの測定結果が示されている。実施例04及び実施例05、実施例21〜実施例23、実施例31〜実施例34、並びに実施例51の凸部は、高さが10μm以上であり、且つ、エッチング面(凸部の側面)の垂直度がダイヤモンド基板2の表面に対して80度以上であり、且つ、エッチング面の面粗さを表す凹凸の高低差が1μm以下となっている。従って、比較的大きく、滑らかな表面を有しており、基板表面に対し略垂直なダイヤモンドの凸部がダイヤモンド基板2に形成できた。なお、実施例26、実施例36及び実施例52においては、高さ30μm以上の凸部が設けられたダイヤモンド基板から成るダイヤモンド構造体が製造できた。この凸部の幅は凸部の高さの1/3以下であり、この凸部の側面の面粗さを表す凹凸の高低差はこの凸部の高さの1/10以下である。
【0051】
以上、好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施形態に係るダイヤモンド構造体の製造方法を説明するための断面図である。
【図2】従来のダイヤモンド構造体の製造方法を説明するための断面図である。
【図3】実施形態に係るダイヤモンド構造体の製造方法を説明するための表である。
【図4】実施形態に係るダイヤモンド構造体の製造方法を説明するための断面図である。
【図5】実施形態に係るダイヤモンド構造体を示す図である。
【図6】第1実施例を説明するための表である。
【図7】第2実施例を説明するための表である。
【図8】第3実施例を説明するための表である。
【図9】第4実施例を説明するための表である。
【符号の説明】
【0053】
2…ダイヤモンド基板、4,18,22,38,54…積層体、6,24,40,56…第1層、8,26,42,58…第2層、10…レジスト、12,34,50,70…第2マスク領域、14,32,48,68…第1マスク領域、16,20,30,46,66…マスク、28,44,60…第3層、62…第4層、64…第5層、36,52,72…第3マスク領域、74…第4マスク領域、76…第5マスク領域、78,80,82,84…ダイヤモンド構造体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド構造体の製造方法であって、
ダイヤモンド基板上に複数の材料を積層することにより、該ダイヤモンド基板上に複数の層から成る積層体を形成する積層体形成工程と、
マスクパターンを有するレジストを前記積層体上に形成するレジスト形成工程と、
前記積層体を成す層毎に前記レジストを用いて該積層体をウェットエッチングすることにより、前記マスクパターンを有しており前記ダイヤモンド基板のエッチングに用いるためのマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクを用いて前記ダイヤモンド基板をエッチングすることにより、該ダイヤモンド基板を前記ダイヤモンド構造体に加工するダイヤモンド基板加工工程と
を有しており、
前記複数の層のうちの一層は、該複数の層のうち前記積層体形成工程において当該一層の形成前に形成される一又は複数の層がある場合、前記マスク形成工程において該一又は複数の層毎に行われる各ウェットエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成る、ことを特徴とするダイヤモンド構造体の製造方法。
【請求項2】
ダイヤモンド構造体の製造方法であって、
ダイヤモンド基板上に複数の材料を積層することにより、該ダイヤモンド基板上に複数の層から成る積層体を形成する積層体形成工程と、
マスクパターンを有するレジストを前記積層体上に形成するレジスト形成工程と、
前記積層体を成す層毎に前記レジストを用いて該積層体をドライエッチングすることにより、前記マスクパターンを有しており前記ダイヤモンド基板のエッチングに用いるためのマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクを用いて前記ダイヤモンド基板をエッチングすることにより、該ダイヤモンド基板を前記ダイヤモンド構造体に加工するダイヤモンド基板加工工程と
を有しており、
前記複数の層のうち前記積層体形成工程において最後に形成される層は、該複数の層のうち当該最後に形成される層以外の一又は複数の層毎に前記マスク形成工程において行われる各ドライエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成る、ことを特徴とするダイヤモンド構造体の製造方法。
【請求項3】
ダイヤモンド構造体の製造方法であって、
ダイヤモンド基板上に複数の材料を積層することにより、該ダイヤモンド基板上に複数の層から成る積層体を形成する積層体形成工程と、
マスクパターンを有するレジストを前記積層体上に形成するレジスト形成工程と、
前記積層体を成す層毎に前記レジストを用いて該積層体のウェットエッチング及びドライエッチングを行うことにより、前記マスクパターンを有しており前記ダイヤモンド基板のエッチングに用いるためのマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクを用いて前記ダイヤモンド基板をエッチングすることにより、該ダイヤモンド基板を前記ダイヤモンド構造体に加工するダイヤモンド基板加工工程と
を有しており、
前記複数の層のうちの一層は、前記積層体形成工程において当該一層の形成前に形成され且つ前記マスク形成工程においてウェットエッチングされる他の層が前記積層体に含まれる場合、当該ウェットエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成り、
前記複数の層のうち前記積層体形成工程において最後に形成される層は、該複数の層のうち当該最後に形成される層以外であって且つ前記マスク形成工程においてドライエッチングされる他の層が含まれる場合、当該ドライエッチングに対しエッチング耐性を有する材料から成る、ことを特徴とするダイヤモンド構造体の製造方法。
【請求項4】
深さ30マイクロメートル以上300マイクロメートル以下の溝または穴を含むダイヤモンド基板から成るダイヤモンド構造体であって、
前記溝または前記穴の幅はその深さの1/100以上1/3以下であり、
前記溝または前記穴の側面の粗さを表す凹凸の高低差はその深さの1/1000以上1/10以下である、ことを特徴とするダイヤモンド構造体。
【請求項5】
30マイクロメートル以上3000マイクロメートル以下の厚みのダイヤモンド基板からなるダイヤモンド構造体であって、
前記ダイヤモンド基板の側面の粗さを表す凹凸の高低差が、該ダイヤモンド基板の厚みの1/1000以上1/10以下である、ことを特徴とするダイヤモンド構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−63155(P2008−63155A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239416(P2006−239416)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】