説明

ダイヤモンド被覆軸受又はシール構造並びにその軸受又はシール構造を備えた流体機械

【課題】摩擦係数を低減し、耐摩耗性を向上させた軸受け構造またはシール構造を提供する。
【解決手段】可動部材と静止部材とを有する軸受又はシール構造において、前記可動部材2及び静止部材4の少なくとも一方の部材は熱膨張係数が8×10−6/℃以下の材料でつくられており、前記可動部材と静止部材の少なくとも一方の部材の前記部材同士の対向面側には、多結晶ダイヤモンドが被覆されている。他方の部材は、SiC焼結部材またはSiCで被覆された部材、炭化物系超硬合金材、AL2O3やZrO2などの酸化物系焼結部材、TiN材などの窒化物系材料が被覆された部材である。この軸受け構造およびシール構造を、ポンプ、タービン、圧縮機等の回転機械に搭載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性、低い摩擦係数が要求される軸受構造又はシール構造に関し、特にポンプ、タービン、コンプレッサー等の回転機械或いは液圧シリンダ等の直動機械に使用するのに適した軸受又はシール構造、並びにそのような軸受又はシール構造を備えた、ポンプ、タービン、コンプレッサー等の流体取り扱い機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポンプ、タービン、コンプレッサー等の回転機械或いは流体圧シリンダ等の直動(直線運動)機械用の軸受構造又はシール構造では、可動側である回転軸自身としての又はそれに取り付けられた可動部材と、その可動部材と対を成す静止側の軸受部材又はシール部材としての静止部材とを、金属材料、超硬合金、高分子材料又はセラミックス或いはそれらを組み合わせた材料で製造したものが多く使用されている。
【0003】
上記のような回転機械或いは直動機械において、近年、環境保全の観点から、オイルフリーのシール及び/又は軸受が利用されるようになってきた。また、回転機械の小型・高速・大容量化のニーズに伴い、軸受及びシールの使用条件が高速、大荷重へとますます苛酷なものになってきている。更に、液体水素ポンプ及び水素ガスコンプレッサーに搭載される軸受又はシールでは、極低粘性のプロセス流体中で使用されるため、耐摩耗性と同時に低摩擦性に優れた摺動材料が要求される。
空気、水素ガス、液体水素などのプロセス流体を取り扱う回転機械用軸受部材或いはシール部材では、従来の材料(例えば、超硬合金、SiCなど)は、固体間の滑り接触による熱衝撃破壊や熱疲労割れの発生等の問題点が指摘されている。また、従来材の摩擦摩耗特性を改善する目的で、浸炭又は窒化処理などの硬化処理或いは窒化物系又は酸化物系などのセラミックスコーティングを形成する手法も試みられているが、これらの表面処理では、改質層自体の硬度、耐摩耗性、摩擦性などの観点から、十分満足できる摺動材料でない。
【0004】
一方、近年耐摩耗性を要求される部材、例えば切削工具、の表面にダイヤモンド被膜を形成して耐摩耗性を向上させる技術も、例えば下記特許文献1に示されるように、提案されている。
ところで、耐摩耗性が要求される部材が切削工具のような場合には、ダイヤモンド被膜を構成するダイヤモンドの結晶がある程度以下の大きさに抑えておけば、特にその被膜の表面を滑らかに研磨する必要性はないが、軸受部材或いはシール部材の表面にダイヤモンド被膜を形成してその被膜の表面を摺動面とする場合には、摺動抵抗を小さくするために研磨するのが好ましい。しかしながら、ダイヤモンドは最も硬い材料であり、その被膜面を研磨することはコスト的に実用に即しない。
【0005】
【特許文献1】特開2002−142434
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、摩擦係数を低減し、しかも耐摩耗性を向上させた軸受構造又はシール構造を提供することを主目的とする。
本発明の他の目的は、可動部材及び静止部材からなるシール構造であって、互いに対向する面の少なくとも一方の面を多結晶ダイヤモンドで被覆して摩擦係数の低減、耐摩耗性の向上を図った軸受構造又はシール構造を提供することである。
本発明の別の目的は、可動部材及び静止部材からなるシール構造であって、互いに対向する面の少なくとも一方の面を多結晶ダイヤモンドで被覆し、そのダイヤモンド被覆の表面を更に他の材料で被覆して摩擦係数の低減、耐摩耗性の向上を図った軸受構造又はシール構造を提供することである。
本発明の他の目的は、上記ような軸受構造又はシール構造を備えた、ポンプ、タービン、コンプレッサー等の流体取り扱い機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、可動部材と静止部材とを有する軸受又はシール構造において、前記可動部材及び前記静止部材の少なくとも一方の部材は熱膨張係数が8×10−6/℃以下の材料でつくられており、前記材料でつくられた部材には、前記材料でつくられた部材と他方の部材の部材同士の対向面側に、多結晶ダイヤモンドが被覆されていることを特徴とするダイヤモンド被覆軸受又はシール構造が提供される。
上記発明において、前記多結晶ダイヤモンドが被覆されている部材の他方の部材は、SiC焼結部材又はSiCで被覆された部材であっても、タングステンカーバイド系、クロムカーバイド系又はチタンカーバイド系などの炭化物系超硬合金材でつくられていても、Al、ZrOなどの酸化物系焼結部材でつくられても、或いは、TiN材などの窒化物系材料が被覆されていてもよい。
また、上記発明において、前記多結晶ダイヤモンドが被覆されている部材には、前記多結晶ダイヤモンドの上層に、更にビッカース硬さHvが2000<Hv<8000の硬質炭素を被覆してもよい。
【0008】
請求項7に記載の発明によれば、請求項1ないし6のいずれかに記載のダイヤモンド被覆軸受又はシール構造が搭載された給水装置が提供される。
請求項8に記載の発明によれば、請求項1ないし6のいずれかに記載のダイヤモンド被覆軸受又はシール構造が搭載された先行待機運転対応立軸ポンプ装置が提供される。
請求項9に記載の発明によれば、請求項1ないし6のいずれかに記載のダイヤモンド被覆軸受又はシール部材が搭載された圧縮機が提供される。
請求項10に記載の発明によれば、可動部材と静止部材とを有し、純水又は超純水中で使用する軸受又はシール構造において、前記可動部材及び静止部材を形成する材料の対向する面の少なくとも一方の面は、多結晶ダイヤモンドで被覆されていることを特徴とする純水又は超純水中使用のダイヤモンド被覆軸受又はシール構造が提供される。
請求項10に記載の発明において、前記多結晶ダイヤモンドが被覆されている部材の他方の部材は、SiC焼結部材又はSiCで被覆された部材であっても、タングステンカーバイド系、クロムカーバイド系又はチタンカーバイド系などの炭化物系超硬合金材でつくられていても、Al、ZrOなどの酸化物系焼結部材でつくられても、或いは、TiN材などの窒化物系材料が被覆されていてもよい。
また、請求項10に記載の発明において、前記多結晶ダイヤモンドが被覆されている部材には、前記多結晶ダイヤモンドの上層に、更にビッカース硬さHvが2000<Hv<8000の硬質炭素を被覆してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
(1)軸受構造及びシール構造の摩擦係数の低減、耐摩耗性の向上を図ることができる。
(2)それらの軸受構造及び/又はシール構造を使用した流体機械の寿命を延ばすことができる。
(3)従来の組合せ材料では、空気中での起動及び停止に伴って、摺動面の損傷が起こるケースがあったが、本発明によれば、空気中での安定した動作ができる軸受及びシール部材を提供できる。
(4)プロセス流体の粘性が極端に低い水素ガス又は液体水素でも使用できる軸受又はシール部材を提供できる。
【発明の実施の形態】
【0010】
以下図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1において、本発明の一実施形態が滑り軸受(又はジャーナル軸受)式の軸受構造として示されている。軸受構造1は、可動部材としての回転軸2又はその外周に取り付けられたスリーブ3と、その回転部材を回転可能に支持する、静止部材としての軸受部材4とで構成されている。ここで言う可動部材には、回転軸2が一体の部材として形成されている場合は回転軸が対応し、回転軸2の外周に図示のようにスリーブが取り付けられている場合にはスリーブが該当する。可動部材としてのスリーブ3自体と、静止部材としての軸受部材4との少なくとも一方(本実施形態においては両方)が低熱膨張材料でつくられている。本実施形態によれば、スリーブ3の軸受部材4に面する対向面(ジャーナル面)5及び軸受部材4のスリーブに面する対向面6の両者に、図2に示されるように、多結晶のダイヤモンドの被膜7がそれぞれ形成されている。上記及び下記のダイヤモンドの被膜7は、多結晶ダイヤモンドを公知の化学蒸着法によって析出させることによって形成する。低熱膨張材料としては、熱膨張係数が10×10−6/℃以下0.5×10−6/℃以上の材料、好ましくは8×10−6/℃以下の材料、より好ましくは8×10−6/℃以下1×10−6/℃以上の材料である。このように形成されたダイヤモンドの被膜7の表面が、この実施形態では回転部材と静止部材とが摺動接触する摺動面となる。なお、上記実施例ではスリーブと軸受部材の両者の対向面にダイヤモンドの被膜を形成したが、片方のみでもよい。
【0011】
ダイヤモンドの合成法として、熱フィラメント化学蒸着(CVD)法、マイクロ波プラズマCVD法、高周波プラズマ法、直流放電プラズマ法、アーク放電プラズマジェット法、燃焼炎法などが挙げられる。このような気相合成方法における原料は、水素ガスにメタン、アルコール、アセチレン等の炭化水素を数%混合した混合ガスを使用する。プロセスによっては、水素ガスに一酸化炭素及び二酸化炭素等を混合したり、その他のガスを微量添加したりすることもある。これらの混合ガスに共通していることは、原料ガスの大部分が水素であり、この原料ガスをプラズマ化又は熱的に励起して活性化して使用することである。活性化された水素は、非ダイヤモンド炭素に対して強いエッチング作用があり、一方、ダイヤモンドに対してはほとんどエッチング作用がない。前述の気相合成法は、この選択的エッチング作用をうまく利用して、基材上における非ダイヤモンド成分の成長を抑え、ダイヤモンドのみを析出させることにより、ダイヤモンド膜を形成している。上記各方法はそれ自体公知であるから、その詳細な説明は省略する。
【0012】
円筒形状の軸受部材4(同様の形状のシール部材の場合も含む)の内周面への施工を対象とした場合には、比較的に施工対象形状の自由度が高いため、熱フィラメントCVD法が好適である。円筒の内側に複数本のフィラメントを等間隔で張り、内側面へのダイヤモンドを形成することができる。スリーブ3の外周(軸が一体ものとして形成されている場合はその外周)への成膜も熱フィラメントCVD法を用いて基板の外側に複数本のフィラメントを等間隔で張り、対象の基材表面にダイヤモンドを析出することが出来る。
上記のように可動部材としてのスリーブ3の対向面5及び静止部材としての軸受部材4(又はシール部材)の対向面6に、熱フィラメントCVD法によってダイヤモンドを被覆してその表面を摺動面とすると、後に詳述するように摩擦係数が小さく、良好な耐摩耗性を示すことから、摩擦摩耗特性に優れたシール又は軸受を提供できる。
【0013】
可動部材としてのスリーブ3及び静止部材としての軸受部材4(又はシール部材)の組み合わせからなる軸受構造(又はシール構造)において、前記スリーブ及び軸受部材(シール部材)の摺動面では、固体間のすべり接触が起こるため、表面の凹凸が存在すると、接触抵抗が大きくなる。そのため、摺動面の表面粗さが極力小さくすることが望ましい。一般に、ダイヤモンドを被覆する前に、基材表面をその面粗さRaが0.3μm以下になるまでラッピング又は研磨加工することが好ましい。一方、化学蒸着法で形成した多結晶ダイヤモンド被覆面の表面粗さは、結晶粒子径、膜厚、結晶配向性などに依存する。
本発明では、鋭意研究を進めた結果、摺動面の平均表面粗さが0.3μm以下が好まく、より好ましくは0.1μm以下であると、摩擦係数を小さく、耐摩耗性の向上を実現することを見出した。ダイヤモンド被覆面の平均表面粗さRaを0.3μm以下にする手段としては、以下の項目が挙げられる。
(1)ダイヤモンド結晶の平均粒子径が5μm以下であることが好ましい、より好ましくは、0.1μmであること、
(2)ダイヤモンドの膜厚が10μm以下が好ましい、より好ましくは5μm以下であること、
(3)ダイヤモンドの結晶粒子の結晶方位が(100)面に高配向していること。
【0014】
熱フィラメントCVD法では、成膜プロセス中の基板温度が800から1000℃となるため、基材としては、シリコン、窒化ケイ素、アルミナ及び炭化珪素等の無機材料並びにモリブデン及び白金等の高融点金属が使用される。また、成膜中の基板が高温であるため、基材とダイヤモンド膜との熱膨張係数の差が大きいと、基板変形量が大きくなる傾向がある。基板材料として、ダイヤモンドの熱膨張係数に近い材料を用いたとき、変形量及び漏れ量ともに小さく、優れたシール効果及び耐摩耗性が得られる。ダイヤモンドの熱膨張係数は、1.1×10−6/℃であるので、前記基板材料としては、熱膨張係数が8×10−6/℃以下であることが望ましい。なお、熱膨張係数が8×10−6/℃以下のものであれば、SiC、Siなどのセラミックス材料に限らず金属材料であってもよい。
前記ダイヤモンド被覆面の表面粗さを極力小さくすることが望ましい。平滑な表面を得るためには、ダイヤモンド被覆後に、研磨加工が要求されるが、超硬質材であるダイヤモンド被覆面を研磨することは、コスト高となるため、実用的でない。本発明では、多結晶ダイヤモンド被覆後に、硬質炭素膜を形成することで、ダイヤモンド砥粒で研磨による後加工も容易となる。あるいは、両方のコーティング面どうしをすり合わせることでごく微細な凹凸を除去することが可能である。除去後、すりあわせ面の摩擦抵抗が著しく低減されるので、理想的な平滑面を得ることが可能である。ここで、硬質炭素膜としては、ダイヤモンドより硬さが小さい非ダイヤモンド成分からなる炭素を複合化した膜又はダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon、以下「DLC」とする)又はグラファイト状カーボン等の材料を意味する。前記硬質炭素膜は、熱フィラメントCVD法或いはプラズマCVD法あるいはマルチアークイオンプレーティング法で作製することが出来る。熱フィラメント法では、メタン濃度を高めることで、容易に非ダイヤモンド成分の硬質炭素膜を形成することができる。
【0015】
本願の別の実施形態においては、図3に示されるように、メカニカルシール式のシール構造として示されている。シール構造10は回転軸11の外側に装着されたスリーブ12の外周に配置された可動部材としての環状の可動シール部材13と、静止部材としての環状の静止シール部材14とで構成されている。可動及び静止シール部材の少なくとも一方(この実施形態では両方)は、前記実施形態と同様に、低熱膨張材料でつくられ、その低熱膨張材料としては、熱膨張係数が10×10−6/℃以下0.5×10−6/℃以上の材料、好ましくは8×10−6/℃以下の材料、より好ましくは8×10−6/℃以下1×10−6/℃以上の材料である。
可動シール部材の対向面(又はシール面)15に上述のように形成された多結晶のダイヤモンドの被膜17及び静止シール部材14の対向面16に上述のように形成された多結晶のダイヤモンドの被膜17の一方(本実施形態では静止シール部材側のダイヤモンド被膜)の表面には硬質炭素材(ビッカース硬さHvが2000<Hv<6000)の被膜18が形成されている。この実施形態ではこの硬質炭素材の被膜の表面及びその硬質炭素材の被覆が形成されていないダイヤモンドの被膜の表面が、回転部材と静止部材とが摺動接触する摺動面となる。前記硬質炭素の被膜6の厚さは、好ましくは0.5μmないし20μm、より好ましくは0.5μmないし5μmである。その理由は、被膜の厚さが0.5μmより小さいと良好な耐摩耗性が得られないからであり、5μmより大きいと成膜法により硬質炭素膜自体の内部応力の値が大きくなり、膜が基板から剥離することもあるからである。
平滑な表面を得るためには、ダイヤモンド被覆後に、研磨加工が要求されるが、超硬質材であるダイヤモンド被覆面を研磨することは、コスト高となるため、実用的でない。本実施形態のように、一方の多結晶ダイヤモンドの被膜17の表面に硬質炭素材の被膜18を形成してその表面を摺動面とすることで、ダイヤモンド砥粒で研磨による後加工も容易となる。
ダイヤモンドライクカーボン又はグラファイト状カーボン等の合成法として、熱フィラメントCVD法、マイクロ波プラズマCVD法、高周波プラズマ法、直流放電プラズマ法、アーク方式イオンプレーティング法、スパッタリング蒸着法、イオン蒸着法などが挙げられる。化学蒸着法における原料として、炭素化合物を用いる。その原料の例としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の飽和炭化水素、エチレン、プロピレン、アセチレン、ブタジエン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素が挙げられる。アーク方式イオンプレーティング法、スパッタリング蒸着法などの物理蒸着法では、炭素のターゲット基板を使用する。上記各方法はそれ自体公知であるから、その詳細な説明は省略する。
DLC膜は、ダイヤモンドと同様の結合(sp3 )を含む非晶質カーボン膜であり、一般に硬く、摺動性に優れているとされ、軸受、シール等の高負荷の摺動部材の他、磁気記録媒体の保護膜のような軽負荷の摺動部材等、様々な製品への適用が期待されている。DLC膜と呼ばれる非晶質カーボン膜にはsp3 結合の割合が異なる等、様々な性質のものが含まれており、製法や成膜条件により、得られるDLC膜に違いがある。従来、DLC単層膜では、膜自体の剥離等で必ずしも十分な性能を有しないという問題点があった。本発明では、基板との密着性に優れた多結晶ダイヤモンド膜を一度形成して、その後、DLC膜を施工すると、耐摩耗性及び摺動性に優れた摺動材料を提供することができる。
なお、上記の硬質炭素材の被膜を、図1に示す軸受構造のダイヤモンドの被膜の表面に形成しても良いことはもちろんであり、また、図3のシール装置において、硬質炭素材の被膜を形成しなくてもよいことはもちろんである。
【0016】
更に別の実施形態において、図示しないが、軸受構造(又はシール構造)を構成する、前記両実施例に示す可動部材としてのスリーブ又は可動シール部材及び静止部材としての軸受部材(又は静止シール部材)の一方(例えばスリーブ又は可動シール部材)を上記実施形態と同じ低熱膨張材料でつくり、そのスリーブ又は可動シール部材の対向面(ジャーナル面又はシール面)に上述のように多結晶のダイヤモンドの被膜を形成する。一方、可動部材としてのスリーブ又は可動シール部材及び静止部材としての軸受部材(又は静止シール部材)の他方(例えば軸受部材(又は静止シール部材))をSiCの焼結材でつくるか、或いはその他の材料(例えば低熱膨張材料)でつくってその対向面をSiCの焼結材で被覆してもよい。この実施形態ではダイヤモンドの被膜の表面及びSiCの焼結材の表面が、可動部材と静止部材とが摺動接触する摺動面となる。
本発明の更に別の実施形態としては、ダイヤモンドの被膜が形成されない上記静止部材としての軸受部材(又は静止シール部材)(可動部材としてのスリーブ又は可動シールリングにダイヤモンドの被膜が形成されていない場合はスリーブ又は可動シールリング)をタングステンカーバイド系、クロムカーバイド系又はチタンカーバイド系の超硬合金部材でつくっても、Al焼結部材でつくっても、TiN材でつくっても、更には、別の材料でつくって対抗面をタングステンカーバイド系、クロムカーバイド系又はチタンカーバイド系の超硬合金部材、Al焼結部材又はTiN材の被膜でコーティングしてもよい。
【0017】
[実施例1]
熱フィラメントCVD法によるダイヤモンド被覆層を形成するための概念図を図5に示す。多結晶ダイヤモンド被覆層を形成する基材リング22は、Mo製の試料保持金具21に固定して配置される。この基材リング(以下単に基材)22に対向してフィラメント23が配置される。フィラメント23と基材22に原料となるメタン(CH)と水素(H)の混合ガスを導入し、フィラメントでの加熱により分解して基材上にダイヤモンドを析出させるものである。基材22の材料として焼結SiCを用い、該SiCを所定のリング形状に加工した後、被覆層を形成する面を表面粗さがRmax=0.1μm以内となるまでラッピング仕上げした。成膜実験前に、ダイヤモンド核生成密度を高める目的で、供試体のコーティング面をダイヤモンドパウダーでスクラッチ処理を行った。前記基材22の前記スクラッチ処理した表面に、表1−1に示す条件で多結晶ダイヤモンド被覆層を形成した。フィラメントにφ0.5mmのTa線を用いた。フィラメント温度は放射温度計で測定し、電圧調整器を使用して調整した。成膜は、ダイヤモンド目標被覆層厚が約1から10μmになるまで、実験を行った。
【表1−1】


基材22(材質:焼結SiC)の端面に形成した多結晶ダイヤモンド被覆層は、走査型電子顕微鏡(SEM) 、ラマン分光及びX線回折で評価した。熱フィラメントCVD法による成膜条件とその評価結果を表1−2に示す。ダイヤモンド被覆の表面をSEMで観察した結果を図6に示す。ダイヤモンド被覆表面を触針式表面粗さ計で測定した結果を図7に示す。また、ラマン分光及びX線回折で評価した結果をそれぞれ図8及び図9に示す。図8から、ダイヤモンドの1333cm−1付近に顕著なピークが認められた。
【表1−2】

【0018】
[実施例2]
マイクロ波プラズマCVD法によるダイヤモンド被覆層を形成するための概念図を図10に示す。ダイヤモンド粒子が成長する核生成密度を高めるために、ダイヤモンド粉末を用いて、SiCの施工面をスクラッチ処理を行った。更にダイヤモンド粒子をアルコール中に混入させて、超音波によりダイヤモンド粒子で傷付処理をした。原料ガスとしてCH 、Hの混合ガスを用いた。ダイヤモンドの合成条件を表2−1に示す。
【表2−1】


基材(基材リング)22上に合成した多結晶ダイヤモンド被覆層を走査型電子顕微鏡(SEM) 、ラマン分光X線回折及び触針式表面粗さ計で評価した。成膜条件及びダイヤモンド被覆層の評価結果を表2−2に示す。ダイヤモンド被覆表面をSEMで観察した結果を図11に示す。グラファイトやアモルファスカーボンなどの結晶性を持たない非ダイヤモンド成分の混入といった質的な評価を行うためラマン分光分析(顕微ラマン法・スポット径1μm)を行った。ラマンスペクトルを図12に示す。図12から、ダイヤモンドの1333cm−1付近に顕著なピークが認められた。1500cm−1付近に若干のアモルファスカーボン及びグラファイトに起因するピークがあるが、比較的良質なダイヤモンドの生成が確認された。
【表2−2】

【0019】
[実施例3]
次に本発明の具体的実施形態について説明する。前述のように、軸受構造(又はシール構造)は、回転側となる可動部材(図1ないし図4に実施例では回転軸、スリーブ又は可動シール部材)と、及び固定側の静止部材(図1ないし図4に実施例では軸受部材又は静止シール部材)とで構成される。本発明の具体的実施形態では、この回転部材及び静止部材に表3−1に示すような材料の組み合せで軸受(又はシール)構造を構成した。表3−2は、表3−1の材料の組み合せで表3−3に示す試験条件で摩擦摩耗試験を行なった試験結果を示す。組合せ材料の摩擦摩耗特性を調べるため、軸受(又はシール)構造を図1ないし図4に示されるような構成にはせず、図13に示されるような概略構成を有する試験機に適した構成にした。上記構成において、表面に多結晶ダイヤモンド膜37を形成した基材33は回転軸32の先端に固定され、その回転軸32を中心に回転する。基材33の多結晶ダイヤモンド膜37の面に対向して、多結晶ダイヤモンド膜37を形成した静止リング34を配置している。ここで基材33はリング形状で、外径が10mmから50mm、静止リング34はリング形状で外径が12mmから60mmである。
上記構成の摩擦摩耗試験機を用い、室温、空気中で実験を行った。基材33のダイヤモンド被覆37の面に加わる面圧を0.1−1.0MPa、周速を0.2m/s及び走行距離を1000−5000mとし、この条件の下に摩擦係数を調べた。
本発明のものは摩擦係数が従来の比較例1に比べて低減しており、従来例より優れた摩擦特性を有することが分る。
【表3−1】


【表3−2】


【表3−3】

【0020】
[実施例4]
本発明を空気等の気体を一定圧力で需要端に提供することができるような遠心圧縮機用ドライガスシールに適用した具体的事例を説明する。所定の圧力と供給流量を得るための送風機として、遠心羽根車で流体に運動エネルギーを与え、これを下流側のディフューザにおいて圧縮するようにしたいわゆる遠心羽根車を2段以上重ねた多段遠心圧縮機が用いられる。図14は遠心圧縮機のドライガスシールの構成例を示す図である。同図において、シールハウジングに収容された回転軸42には軸スリーブ41が設けられている。そして、軸スリーブ41はキー41a、41aを介して回転リング43、43(メイティングリング)を保持している。各回転リング43に対向して固定すなわち静止リング44を設けている。回転リング43の基材にはSiC焼結材を用い、その表面(静止リングに対向する対向面)には、上記と同様、ダイヤモンドの薄膜をホットフィラメントCVD法で形成する。したがって、回転リングが静止リングと摺動接触する場合には、このダイヤモンドの被膜の表面が摺動面となる。また、図示は省略するが、回転リング43の摺動面には高圧側Hから低圧側Lに向けてスパイラル溝が形成されている。
各静止リング44はピン44aを介してシールリングリテーナ44bに接続されており、そのシールリングリテーナ44bは、シールハウジングに保持されかつそのシールハウジングとの間に設けられたスプリング49を介して回転リング側に押圧され、これにより、静止リング44も回転リング43に押し付けられている。
上記構成の非接触端面シールにおいて、回転軸42が回転することにより、回転リング43と静止リング44とが相対運動し、これにより、回転リング43に形成したスパイラル溝が高圧側Hの流体を巻き込んで、密封面に流体膜を形成する。この流体膜により密封面は非接触状態となり、回転リング43と静止リング44との間の密封面間にわずかな隙間が形成される。
ドライガスシールは、通常の運転モード、すなわちシールリングの外周速が2.4m/s以上のとき、シール端面間に動圧が発生して非接触状態となるが、始動から通常の運転モードに至る過程及び通常の運転モードから停止までの過程については、回転シールリングと固定シールリングの端面とが固体間接触する。したがって、摺動部材として、耐摩耗性、低摩擦性に優れた材料の組合せが要求される。本発明では、低熱膨張材料からなる可動部材及び静止部材の摺動面にダイヤモンド薄膜を形成し、これを組み合わせることにより、変形量、漏れ量が少なく、優れたシール性を有し、かつ低い摩擦係数と優れた耐摩耗性を有するシール部材を提供できるので、圧縮機用ドライガスシールのように、プロセスガス中で運転するような回転機械に適している。
【0021】
[実施例5]
本発明をマグネットポンプのスラスト軸受に適用した事例を説明する。図15は、前記ポンプの構成図を示す。この図において、50は隔壁板であり、該隔壁板50にはスラスト軸受を構成する静止部材54を固定し、該静止部材54に対向して羽根車51に固定されたスラスト軸受を構成する可動部材53を設けている。また、隔壁板50を介在させてマグネットカップリング55に固定された永久磁石56と羽根車51に固定された永久磁石57が対向している。マグネットカップリング55を回転させることにより、該回転力は永久磁石56と永久磁石57の問に作用する磁気吸引力又は磁気反発力で羽根車51に伝達され、羽根車51はスラスト方向をスラスト軸受に支持されて回転する。
上記スラスト軸受を構成する可動部材53及び静止部材54の摺動面に上記ダイヤモンド薄膜をホットフィラメントCVD法で形成する。スラスト軸受をこのように構成することにより、摩擦係数及びカーボンの比摩耗量が小さい優れた摩擦特性のスラスト軸受が構成できる。また、図示は省略するが、ラジアル軸受の可動部材及び静止部材の摺動面にダイヤモンド薄膜を形成し、同様な特徴を有するラジアル軸受が構成できる。
なお、上記実施例では、基材にSiC焼結材料を用いたが、本発明はそれに限定されるものではなく、金属材料、超硬合金、他のセラミックスを用いた場合でも全く同様な効果が期待できる。
本実施例では、給水ポンプの一例としてのマグネットポンプのスラスト軸受及びラジアル軸受への適用事例を示したが、本実施例に限定されるものでなく、例えば、給水ポンプのメカニカルシール部材への適用した場合も、前述のスラスト軸受と同様な組合せ材料を採用することで、同様な効果が期待できる。
ポンプ用軸受及びシール部材では、従来の組合せ材料として、SiC焼結材vs.SiC焼結部材或いはSiC焼結材vs.超硬合金などが採用されているが、摺動部に空気が巻き込まれた場合には、摩擦係数が大きくなり、摺動面が著しく損傷する可能性があった。本発明では、水中及び空気が巻き込まれた場合でも優れた耐摩耗性及び低摩擦性を示す組合せ材料を提供できる。
抵抗率10MΩcm以上で、微粒子・生菌・パイロジェン・溶存酸素などの不純物を極限まで除いた超純水で使用されるポンプの軸受あるいはシール部材では、従来の組合せ材料(SiC焼結材vs.SiC焼結材)を使用した場合、短時間で摺動面が著しく損傷される。その損傷メカニズムが不明であるが、通常の水道水で良好な摺動性を発揮するSiC焼結材でも、超純水中では使用できない。本発明では、あらゆる物質の中で、硬さが最も大きく、かつ化学的に安定した材料であるダイヤモンド膜を適用することで、後述する実施例の説明からも明らかなように、純水又は超純水中でも優れた摩擦摩耗特性が得られる。
【0022】
[実施例6]
本発明を先行待機運転対応立軸ポンプのラジアル軸受に適用した事例を説明する。
都市では建築物が密集しており、路面舗装も普及しているので、大雨の際には雨水が地面に浸透することなく排水ポンプ機場に一挙に流入してくる。一方エンジンで駆動する排水ポンプ機場の排水ポンプはその始動開始から始動完了までに時間を要するので、排水ポンプ機場の吸込水位が上昇してから排水ポンプを始動していたのでは排水が間に合わない。このため排水ポンプ機場では降水と同時にポンプを大気中で空のまま始動してその後流入してくる水を待つ先行待機運転を行うように対処している。従ってポンプは始動してから排水ポンプ機場の吸水槽内に水が流入してきて実際の排水を始めるまでは大気中でドライ運転することとなる。
図16はこの種の従来の先行待機運転ポンプを示す概略断面図である。同図に示すようにこの先行待機運転ポンプ100は、吊下げケーシング80の下部に吐出ケーシング81と羽根車87を収納した羽根車ケーシング82と吸込ベルマウス84とを取り付け、一方吊下げケーシング80の上部に湾曲する吐出ケーシング85を取り付け、これらポンプケーシングの内部に設置したシャフト86を吐出ケーシング85の上部から突出して図示しない駆動手段に連結して構成されている。ここで吐出ケーシング81内にはガイドベーン88が固定され、ガイドベーン88の中央にはケーシング89が取り付けられ、ケーシング89内にはシャフト86の軸受(下部軸受)91が取り付けられている。この軸受は水潤滑によるラジアル軸受である。一方シャフト86の吐出ケーシング85から外部に突出する部分には、内部の揚水が漏れ出ないようにするための軸封水部95が設けられており、更にその上部にはシャフト86の軸受(上部軸受)97が設けられている。この軸受は油潤滑によるラジアル・スラスト軸受である。
吸込ベルマウス84の羽根車の入口付近には貫通穴98を形成し、その貫通穴98に、上方に折れ曲がった吸入管99を接続させている。ポンプの動作によって液面のレベルが降下し、吸込ベルマウス径等によって決められる最低水位レベルに達すると、空気が吸入管を介して吸い込まれる。
先行待機運転対応立軸ポンプのように、気中と液中、気水混合状態でも運転するような回転機械の場合、ドライ運転(先行運転)時は、水潤滑による軸受(下部軸受)91を潤滑・冷却する水がないため、摩耗や発熱による損傷を起こすことがあった。上記問題点を解決するため本発明は、ポンプケーシング内に設置した羽根車を回転駆動するシャフトの軸受をポンプケーシングの上部とポンプケーシングの内部に設けた先行待機運転対応立軸ポンプにおいて、前記いずれかの軸受は、ダイヤモンド被覆したラジアル軸受である。
低熱膨張材料からなる可動部材及び静止部材の摺動面にダイヤモンド薄膜を形成し、これを組み合わせることにより、変形量、漏れ量が少なく、優れたシール性を有し、かつ低い摩擦係数と優れた耐摩耗性を有するシール又は軸受を提供できるので、先行待機運転対応立軸ポンプのように、気中でも液中でも運転するような回転機械に適している。
【0023】
上記実施例のような先行待機運転対応立軸ポンプを使用する場合、1台だけでなく、図17に示されるように、複数台100a、100b、100c(例えば、図17の実施形態では3台)並列に配置し、複数台の立軸ポンプのうち、少なくとも1台のポンプの羽根車の高さ位置を他の立軸ポンプの高さ位置と異ならせている。(複数台を全て位置をずらして設置してもよい。)このようにすることにより、水位が上昇するにつれて羽根車の高さ位置が最も低いポンプから順次排水を開始し、羽根車の高さ位置が最も高い位置のポンプは最も遅く排水を開始するようにすることができるので、急激な排水開始による吸水槽のサージ現象を緩和することができるとともに、電源設備の負荷の急激な変動も阻止することができる。
また逆に、排水が進んで水位が減少する場合でも急激な排水停止を阻止することができる。
【0024】
図18において、本発明の軸受構造及び/又はシール構造を適用できる給水装置の一例が概略的に示されている。この給水装置は圧力タンク式であり、図示のような受水タンク、ポンプ(揚水ポンプ)、圧力タンク(圧力水槽)及びそれらを連結する配管等の他に、図示しない揚水管、高置水槽、ポンプユニット、給水管等を備えている。給水ポンプは、使用目的に応じて適切なポンプを選定する。本発明の軸受構造又はシール構造をこのポンプに適用することによって、効率を向上させることができる。
【0025】
[実施例7]
次に本発明の更に別の具体的実施形態について説明する。前述の実施形態と同様に、軸受構造(又はシール構造)は、回転側となる可動部材(図1ないし図4に実施例では回転軸、スリーブ又は可動シール部材)と、及び固定側の静止部材(図1ないし図4に実施例では軸受部材又は静止シール部材)とで構成される。この具体的実施形態では、軸受構造(又はシール構造)が純水又は超純水中で使用される。この実施形態において、回転部材及び静止部材のそれぞれの基部はSiCで、焼結などによりつくられている。回転部材及び静止部材の基部の対抗面(回転部材の静止部材に面する面及び回転部材の静止部材に面する面)には多結晶ダイヤモンドの被覆がそれぞれ施される。ダイヤモンド被覆面の平均表面粗さについての条件及びそれを達成する手段は段落番号〔0013〕中で説明したのと同じである。また、多結晶ダイヤモンド被膜の厚さも前記実施例の値で良い。なお、回転部材及び静止部材の基部を構成する材料は上記の他に、炭化物系、窒化物系或いは酸化物系のセラミックスでもよい。
上記構成の軸受構造及びシール構造の摩擦摩耗性能を確かめるために、前記実施例3に関連した図13に示される摩擦摩耗試験装置を用い、室温、純水(比抵抗1.5MΩ・cm)中で実験を行った。CVDダイヤモンド被膜SiC材同士の押付面圧を3MPa、周速を0.5m/s、試験時間を60分とし、これらの条件下で摩擦係数を調べた。その結果を示すと図19のようになる。なお、本願において、純水とは比抵抗が1.0MΩ・cm以上で10MΩ・cmより小さい値を有する水を言い、超純水とは比抵抗10MΩ・cm以上の値を有する水を言う。
図19から明らかなように、本発明のこの実施形態の軸受構造及びシール構造では、実機の3倍以上の押付面圧を加えて運転しても摩擦係数μ=0.03と、安定した低摩擦性を示した。このように、純水でもダイヤモンド被膜材を適用することで、低摩擦係数を維持し優れた耐摩耗性を示す(図19の比摩耗量0.5mm/N・m×10−6以下は、表3−2の脚注2の、耐摩耗性の判定基準では、最大損傷深さh<1μm(◎)に相当する)ことを確認した。超純水に対しても優れた摩擦摩耗特性がえられるものと考えられる。
上記実施形態では静止部材及び可動部材の両方の対抗する面にダイヤモンド被膜形成した例を説明したが、どちらか一方の面のみにダイヤモンド被膜を形成するだけでもよい。
なお、試験時間は60分と短いが、その間CVDダイヤモンド被膜は互いに接触した状態で回転リングが固定リングに対して回転しているのに対して、実機のスラスト軸受けでは通常の運転時には滑り面に動圧が発生して滑り面間に流体膜が介在するため、滑り接触は起こらず、わずかに起動時及び動作停止時のそれぞれ数分以内滑り面が滑り接触するだけであると共に運転開始及び停止を頻繁に行うものでないので、60分の試験結果でも実機に適用可能な実験であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明による軸受構造及びシール構造は、ポンプ、タービン、圧縮機等の回転機械に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による軸受構造の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の部分Aの拡大断面図である。
【図3】本発明によるシール構造の一実施形態を示す断面図である。
【図4】図3の部分Bの拡大断面図である。
【図5】熱フィラメントCVD装置の概念図である。
【図6】ダイヤモンド被覆表面のSEM像であって、(a)は表3−1に示される具体的実施形態2のダイヤモンド被覆表面を示し、(b)は表3−1に示される具体的実施形態5のダイヤモンド被覆表面を示す図である。
【図7】ダイヤモンド被覆前後の触針式表面粗さ測定結果を示す図であって、(a)ダイヤモンド被覆前(SiC)の表面粗さを示し、(b)はダイヤモンド被覆後の表面粗さを示す図である。
【図8】表3−1に示される具体的実施形態1のダイヤモンド被覆層のラマンススペクトル図である。
【図9】X線回折パターンを示す図であって、(a)は表3−1に示される具体的実施形態2のX線回折パターンを示し、(b)は表3−1に示される具体的実施形態4のX線回折パターンを示す図である。
【図10】マイクロ波CVD装置の概念図である。
【図11】表3−1に示される具体的実施形態11のダイヤモンド被覆表面のSEM像を示す図である。
【図12】表3−1に示される具体的実施形態11のダイヤモンド被覆層のラマンスペクトルを示す図である。
【図13】摩擦磨耗試験部の概念図である。
【図14】本発明を適用した遠心圧縮機用の非接触端面シール装置の断面図である。
【図15】本発明を適用したスラスト軸受を備えるバレルドモータポンプを示す図である。
【図16】本発明の軸受構造を適用できる先行待機運転対応立軸ポンプを示す断面図である。
【図17】先行待機運転対応立軸ポンプを複数台並列に配置した状態を示す断面図である。
【図18】本発明の軸受構造及び/又はシール構造を適用できる給水装置を示す概略図である。
【図19】本発明の第7の実施例の実験により得た摩擦摩耗特性を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 軸受構造 2 回転軸
3 スリーブ 4 軸受部材
5、6 対向面 7 ダイヤモンドの被膜
10 シール構造 11 スリーブ
13 可動シール部材 14 静止シール部材
15、16 対向面 17 ダイヤモンドの被膜
18 硬質炭素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部材と静止部材とを有する軸受又はシール構造において、前記可動部材及び前記静止部材の少なくとも一方の部材は熱膨張係数が8×10−6/℃以下の材料でつくられており、前記材料でつくられた部材は、前記材料でつくられた部材と他方の部材の部材同士の対向面が、多結晶ダイヤモンドが被覆されていることを特徴とするダイヤモンド被覆軸受又はシール構造。
【請求項2】
前記多結晶ダイヤモンドが被覆されている部材の他方の部材は、SiC焼結部材又はSiCで被覆された部材であることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド被覆軸受又はシール構造。
【請求項3】
前記多結晶ダイヤモンドが被覆されている部材の他方の部材は、タングステンカーバイド系、クロムカーバイド系又はチタンカーバイド系などの炭化物系超硬合金材でつくられていることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド被覆軸受又はシール構造。
【請求項4】
前記多結晶ダイヤモンドが被覆されている部材の他方の部材は、Al、ZrOなどの酸化物系焼結部材でつくられていることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド被覆軸受又はシール構造。
【請求項5】
前記多結晶ダイヤモンドが被覆されている部材の他方の部材は、TiN材などの窒化物系材料が被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド被覆軸受又はシール構造。
【請求項6】
前記多結晶ダイヤモンドが被覆されている部材には、前記多結晶ダイヤモンドの上層に、更にビッカース硬さHvが2000<Hv<8000の硬質炭素を被覆したことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のダイヤモンド被覆軸受又はシール構造。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のダイヤモンド被覆軸受又はシール構造が搭載された給水装置。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載のダイヤモンド被覆軸受又はシール構造が搭載された先行待機運転対応立軸ポンプ装置。
【請求項9】
請求項1ないし6のいずれかに記載のダイヤモンド被覆軸受又はシール部材が搭載された圧縮機。
【請求項10】
可動部材と静止部材とを有し、純水又は超純水中で使用する軸受又はシール構造において、前記可動部材及び静止部材を形成する材料の対向する面の少なくとも一方の面は、多結晶ダイヤモンドで被覆されていることを特徴とする純水又は超純水中使用のダイヤモンド被覆軸受又はシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図6】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−275286(P2006−275286A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54318(P2006−54318)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】