説明

ダイヤモンド被覆電極

【課題】耐腐蝕性が改良されたダイヤモンド被覆電極を提供すること。
【解決手段】本発明は、導電性ダイヤモンドで形成された被覆部を、少なくともその一方の面に有する基板(F)からなる電極で、該被覆部が、第1平均粒径を有する少なくとも1つの第1ダイヤモンド層(B、D)と、第2平均粒径を有する少なくとも1つの第2ダイヤモンド層(C、E)とからなり、該第1平均粒径が、第2平均粒径よりも大きく、第1ダイヤモンド層(B、D)が、第2ダイヤモンド層(C、E)で覆われている、電極に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ダイヤモンドで形成された被覆部を、少なくともその一方の面に有する基板からなる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
ドイツ特許公開第19911746号公報には、ダイヤモンド被覆電極の製法が開示されている。導電性基板上に、5nm〜100nmの範囲の平均粒径を有するダイヤモンドパウダーから形成される層が蒸着されている。このダイヤモンド層は、シード層として作用し、その上部には、通常1〜50μmの範囲の粒径を有するダイヤモンド層が化学蒸着(CVD)にて蒸着されている。
【0003】
ドイツ特許公開第69410576号公報から、このようなダイヤモンド被覆電極を廃水処理に用いることが既知である。しかしながら、実際のところ、このような電極の耐腐蝕性はそれ程高くないことが判明している。このことにより、基板からダイヤモンド層が分離してしまう結果となる。
【特許文献1】ドイツ特許公開第19911746号公報
【特許文献2】ドイツ特許公開第69410576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来技術における不都合な点を解消することである。本発明の目的は、耐腐蝕性が改良されたダイヤモンド被覆電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的は、請求項1の特徴によって達成される。有用な実施態様は、請求項2〜21の特徴に由来する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のダイヤモンド被覆電極は、耐腐蝕性が改良されたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明により、導電性ダイヤモンドで形成された被覆部を、少なくともその一方の面に有する基板からなる電極が提供される。かかる被覆部は、第1平均粒径を有する少なくとも1つの第1ダイヤモンド層と、第2平均粒径を有する少なくとも1つの第2ダイヤモンド層とからなり、かかる第1平均粒径は、第2平均粒径よりも大きく、第1層が第2層で覆われている。
【0008】
本電極は優れた耐腐蝕性を示す。第1ダイヤモンド層上に、より小さい平均粒径を有する第2ダイヤモンド層を蒸着させることにより、液体が被覆部内に浸透することを、効果的に防ぐことができる。第2ダイヤモンド層により、効果的なシールが形成され、かかるシールは、有利なことに、化学蒸着中に1つ又はそれ以上のパラメータを単に変更するだけで製造することができる。第1層は、粗粒子が付随する微粒子ベース層を有していてもよい。かかる粗粒子は、柱状構造を有していてもよい。
【0009】
本発明の実施態様によれば、第1平均粒径は、0.5μm〜25μmの範囲である。第2平均粒径は、1.0μm未満、好ましくは50〜200nmの範囲であることが有利である。前記第2平均粒径を有する第2ダイヤモンド層は、液体の浸透を防ぎ、下部に設けられた第1ダイヤモンド層を効果的に保護する。
【0010】
さらなる実施態様によれば、第2ダイヤモンド層の厚さは、第1ダイヤモンド層の厚さよりも小さい。第1ダイヤモンド層の厚さに対する第2ダイヤモンド層の厚さの比は、0.05〜0.99の範囲が有利であることが判明している。腐蝕に対して効果的にシールするためには、第2ダイヤモンド層を比較的小さい厚さで蒸着させることで充分である。この結果、腐蝕に対する効果的な保護に要するコストを、低く維持することができる。
【0011】
さらなる実施態様によれば、第1及び第2ダイヤモンド層は交互配列構造を形成する。かかる特徴により、耐腐蝕性はさらに増強する。特に、電気化学的攻撃によって生じる腐食に対し、優れた耐性を得ることができる。交互配列構造全体の厚さは、1〜200μmの範囲であればよい。かかる交互配列構造の厚さは、2〜25μmの範囲であることが好ましい。
【0012】
電極の外面を形成している最表ダイヤモンド層は、第2ダイヤモンド層であることが有利である。これにより、層数を最少とすることができ、同時に、腐蝕に対する優れた保護特性を得ることができる。
【0013】
さらなる実施態様によれば、ダイヤモンドは、その導電性を向上させるためにドーピングを含んでいる。かかるドーピングは、以下の物質:ホウ素及びチッ素の少なくとも1つからなる。ダイヤモンドに含まれるドーピングの量は、10ppm〜3000ppmの範囲、好ましくは100ppm〜1000ppmの範囲である。かかるドーピングは、ダイヤモンド被覆部に優れた電気抵抗を付与するのに好適である。
【0014】
第1ダイヤモンド層に含まれるドーピングの第1平均量は、第2ダイヤモンド層に含まれるドーピングの第2平均量と異なる。特に、第1平均量は第2平均量よりも少ない。さらに、最表ダイヤモンド層に含まれるドーピングの第3平均量を、かかる最表ダイヤモンド層と基板との間に設けられるダイヤモンド層の平均量よりも多くすることができる。前記特徴により、電極の電気特性、特にダイヤモンド被覆部の伝導性が向上する。ダイヤモンド及び/又は基板は、100Ωcm未満、好ましくは0.1Ωcm未満の電気抵抗を有する。
【0015】
さらなる実施態様によれば、最表ダイヤモンド層のダイヤモンド結晶の、表面上の領域単位の少なくとも30容量%、好ましくは少なくとも50容量%が、双晶である。この特徴により、ダイヤモンド被覆部の電気機械的耐性が増強される。化学蒸着において、例えば温度上昇といったパラメータを適宜選択することにより、容易に双晶を成長させることができる。さらに、最表ダイヤモンド層は疎水性又は親水性の表面を有していてよい。親水性の表面は、酸素雰囲気下で、蒸着したダイヤモンド被覆部をアニーリングすることにより得られる。最表ダイヤモンド層の疎水性の表面は、水素及び/又はメタンを含む雰囲気下で、ダイヤモンド被覆部をアニーリングすることにより得られる。
【0016】
基板が金属、好ましくは自己保護金属であるならば有利であることが判明している。「自己保護金属」とは、自身の表面上に、化学的又は電気化学的酸化によって隔離層が形成され、保護される金属のこという。かかる金属は、以下の金属:チタン、ニオブ、タンタル、アルミニウム、ジルコニウム、鋼及び、化学蒸着で用いられる雰囲気から鋼の鉄を分離し、ダイヤモンド層との共有結合を形成する層で被覆されている鋼から選択することができる。例えば、チタンホウ素チッ化物又はクロム炭化物からなる層が好適である。基板の厚さは、0.1〜20.0mmの範囲であることが有利である。
【0017】
本発明の有利な実施態様によれば、ダイヤモンド被覆部は基板の対向面に設けられる。これにより、電極の効果が著しく発現される。基板は角形、好ましくは長方形であればよく、この場合、例えば大型平面電極の製造が容易である。しかしながら、基板はまた、曲面を有していてもよい。基板は、チューブ、スラブ、ロッド又はプレートであってもよい。さらに基板は、エキスパンデッドメタルであってもよい。それは、1つ又はそれ以上のアパーチャーを有していてもよい。
【0018】
本発明の実施態様は、図面を参照しながら実施例によって説明することができるが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0019】
図1において、基板F上には、ナノ結晶ダイヤモンドパウダーによるシード層Aが蒸着している。基板Fは、チタン又は、チタンホウ素チッ化物もしくはクロム炭化物からなる層で被覆されている鋼であることが好ましい。このような層は、化学蒸着で用いられる雰囲気から鋼の鉄を分離し、ダイヤモンド層との共有結合を形成する。
【0020】
シード層Aは、厚さが0.5〜25μmの範囲の第1ダイヤモンド層Bで覆われている。成長方向における第1平均粒径は、0.5μmよりも大きいことが好ましい。かかる成長方向は、実質的に、基板Fの表面に対して垂直である。
【0021】
第1ダイヤモンド層Bは、第2ダイヤモンド層Cで覆われている。第2ダイヤモンド層Cの厚さは、第1ダイヤモンド層Bの厚さよりも小さいことが好ましい。第2平均粒径は、成長方向において0.5μmよりも小さいことが好ましい。
【0022】
図1に示されるように、第2ダイヤモンド層Cは、さらなる第1ダイヤモンド層Dで覆われている。このさらなる第1ダイヤモンド層Dは、さらなる第2ダイヤモンド層Eで覆われており、この第2ダイヤモンド層Eが最表ダイヤモンド層を形成している。
【0023】
第2ダイヤモンド層Cと比較して、さらなる第2ダイヤモンド層Eは、特別な特徴をいくつか有する。最表ダイヤモンド層Eの電気機械的耐性を増強するために、多量のダイヤモンド双晶が含まれていてもよい。その量は、表面上の領域単位の30〜60%又はそれ以上である。さらに、最表ダイヤモンド層Eには、ドーピング、好ましくはホウ素が、第1ダイヤモンド層B、D及び第2ダイヤモンド層Cよりも多量に含まれていてもよい。最後に、最表ダイヤモンド層Eの表面Sは、疎水性又は親水性を示す。
【0024】
第1ダイヤモンド層B、D及び第2ダイヤモンド層C、Eの粒径は、雰囲気中のメタン含量を変更するか、及び/又は化学蒸着における温度を変化させるかによって、変更することができる。雰囲気中のメタン含量が少ないか、及び/又は高温であると、粒径の大きな粒子が蒸着し、逆にメタン含量が多いか、及び/又は低温であると、粒径の小さな粒子が蒸着する。高温とは、基板温度が850℃の範囲であり、低温とは、基板温度が750℃の範囲である。第1ダイヤモンド層B、Dは、通常、1000ppm未満の量のホウ素を含んでいる。第2ダイヤモンド層C、Eは、概ね、500ppmを超える量のホウ素を含んでいる。
【0025】
さらに、化学蒸着において適したパラメータを選択することにより、最速成長方向に対してテクスチャ構造を有するダイヤモンド粒子を生成することができる。第1ダイヤモンド層は、(100)面又は(110)面又は(111)面方向にテクスチャ構造を有するダイヤモンド粒子を含んでいることが好ましい。テクスチャ構造を有する第1ダイヤモンド層B、Dは、機械的強度及び耐腐蝕性に優れる。
【0026】
以下の表に、第1ダイヤモンド層B、D及び第2ダイヤモンド層C、Eに適した蒸着パラメータを例示する。
【0027】
【表1】

【表2】

【0028】
図2は、概略的に図1に示された電極と同様の電極の走査電子顕微鏡写真である。図2に示されるように、シード層Aの厚さは、約0.4μmである。第1ダイヤモンド層の厚さは、1.2μmの範囲である。第2ダイヤモンド層C及びさらなる第2ダイヤモンド層Eの厚さは、約1.8μmである。第2ダイヤモンド層Eとさらなる第2ダイヤモンド層Eとの間に挟まれた、さらなる第1ダイヤモンド層の厚さもまた、約1.8μmである。
【0029】
図3、4に、第1ダイヤモンド層B及び第2ダイヤモンド層Cの表面の3次元プロットを示す。かかるプロットは、原子間力顕微鏡(AFM)での記録写真から得られたデータに基づいて算出したものである。図3に示されるように、第1ダイヤモンド層は、200nmの範囲の表面粗さを有する。
【0030】
図4に示されるように、第2ダイヤモンド層Cは、粗さが約50nmの範囲といった、著しく滑らかな表面を有する。
【0031】
微粒子化された第2ダイヤモンド層C又はさらなる第2ダイヤモンド層Eを備えることにより、これらで覆われている第1ダイヤモンド層B又はさらなる第1ダイヤモンド層Dでは、液体の浸透が効果的に妨げられる。よって、本発明の電極において、耐腐蝕性が著しく増強する。
【0032】
図1、2に示されるように、第1ダイヤモンド層B、D及び第2ダイヤモンド層C、Eの交互配列構造が用いられる。このような交互配列構造により、電極の耐腐蝕性はさらに増強する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明による電極は、特に耐腐蝕性が要求される廃水等の処理に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】電極の概略断面図
【図2】電極の横断面の走査電子顕微鏡写真
【図3】第1ダイヤモンド層の表面の、第1の3次元プロット
【図4】第2ダイヤモンド層の、第2の3次元プロット
【符号の説明】
【0035】
A シード層
B 第1ダイヤモンド層
C 第2ダイヤモンド層
D さらなる第1ダイヤモンド層
E さらなる第2ダイヤモンド層又は最表層
F 基板
S 外面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ダイヤモンドで形成された被覆部を、少なくともその一方の面に有する基板(F)からなる電極であって、
前記被覆部が、第1平均粒径を有する少なくとも1つの第1ダイヤモンド層(B、D)と、第2平均粒径を有する少なくとも1つの第2ダイヤモンド層(C、E)とからなり、
前記第1平均粒径が、前記第2平均粒径よりも大きく、
前記第1ダイヤモンド層(B、D)が、前記第2ダイヤモンド層(C、E)で覆われている、電極。
【請求項2】
第1平均粒径が、0.5μm〜25μmの範囲である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
第2平均粒径が、1.0μm未満、好ましくは50〜200nmの範囲である、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項4】
第2ダイヤモンド層(C、E)の厚さが、第1ダイヤモンド層(B、D)の厚さよりも小さい、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項5】
第1ダイヤモンド層(B、D)の厚さに対する第2ダイヤモンド層(C、E)の厚さの比が、0.05〜0.99の範囲である、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項6】
第1ダイヤモンド層(B、D)と第2ダイヤモンド層(C、E)とが、交互配列構造を形成している、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項7】
交互配列構造全体の厚さが、1〜200μmの範囲である、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項8】
電極の外面(S)を形成している最表ダイヤモンド層(E)が、第2ダイヤモンド層である、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項9】
ダイヤモンドが、その導電性を向上させるドーピングを含んでいる、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項10】
ドーピングが、以下の物質:ホウ素及びチッ素の少なくとも1つからなる、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項11】
ダイヤモンドに含まれるドーピングの量が、10ppm〜3000ppmの範囲、好ましくは100ppm〜1000ppmの範囲である、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項12】
第1ダイヤモンド層(B、D)に含まれるドーピングの第1平均量が、第2ダイヤモンド層(C、E)に含まれるドーピングの第2平均量と異なる、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項13】
ドーピングの第1平均量が、ドーピングの第2平均量よりも少ない、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項14】
最表ダイヤモンド層(E)に含まれるドーピングの第3平均量が、該最表ダイヤモンド層(E)と基板(F)との間に設けられるダイヤモンド層(B、C、D)の平均量よりも多い、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項15】
ダイヤモンド及び/又は基板が、100Ωcm未満、好ましくは0.1Ωcm未満の電気抵抗を有する、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項16】
最表ダイヤモンド層(E)のダイヤモンド結晶の、表面上の領域単位の少なくとも30容量%、好ましくは少なくとも50容量%が、双晶である、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項17】
最表ダイヤモンド層(E)が、疎水性又は親水性の表面を有している、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項18】
基板(F)が、金属、好ましくは自己保護金属である、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項19】
金属が、以下の金属:チタン、ニオブ、タンタル、アルミニウム、ジルコニウム、鋼、及びチタンホウ素チッ化物又はクロム炭化物の層で被覆されている鋼から選ばれる、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項20】
基板(F)が、0.1〜20.0mmの範囲の厚さを有する、前記請求項の1つに記載の電極。
【請求項21】
基板(F)の対向面が、導電性ダイヤモンドで被覆されている、前記請求項の1つに記載の電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−538151(P2007−538151A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517045(P2007−517045)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005253
【国際公開番号】WO2005/113448
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(504394696)ディアッコン ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】DiaCCon GmbH
【Fターム(参考)】