説明

ダストシール及び密封構造

【課題】ダストの堆積による悪影響を抑制すると共に、ダストリップの強度の向上を図ったダストシール及び密封構造を提供する。
【解決手段】補強環31は、切り欠き内周面に嵌着される円筒部31aと、円筒部31aから大気側に突出し、かつ大気側に向かって縮径するテーパ部31bと、を有しており、シール本体32は、テーパ部31bの先端付近から大気側に向かって伸び、かつロッド表面に摺動自在に接触するダストリップ32bを備えており、ダストリップ32bの外周面とテーパ部31bの外周面が連続的に繋がっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械用の油圧シリンダに備えられるダストシール及び密封構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設機械用の油圧シリンダにおいては、ロッドとシリンダとの間の環状隙間を封止するために、複数のシールから構成されるシーリングシステムが用いられる。図4を参照して、従来例に係るシーリングシステムについて説明する。図4は従来例に係るシーリングシステムを用いた密封構造を示す模式的断面図である。
【0003】
シーリングシステム500は、相対的に往復移動を行うロッド200とシリンダ300との間の環状隙間を封止するために備えられる。かかるシーリングシステム500は、オイルの漏れを防ぐメインシール510と、油圧を緩衝させるバッファリング520と、ダストが密封領域内に侵入するのを防ぐダストシール530とを備えている。
【0004】
ダストシール530は、断面がL字状の金属製の補強環531と、補強環531に一体成形される弾性体製のシール本体532とを備えている。このシール本体532は、補強環531の内周側の端部付近から大気側(A)に向かって伸び、かつロッド200の表面に摺動自在に接触するダストリップ532aを備えている。
【0005】
建設機械におけるシリンダ300の取り付け構造によっては、ロッド200が鉛直方向に向かって伸びるように油圧シリンダが配置される。そのため、図4に示すように、ダストシール530が最も上部となるように、シーリングシステム500が配置される。これにより、ダストシール530におけるダストリップ532aは上方に向かって伸びた状態で、ロッド200の表面に接触した状態となり、かつダストリップ532aの根元の付近よりも外周側には略水平面となる領域Xが形成される。
【0006】
従って、微細な土砂などのダストが、この領域Xに降り積もり易く、ダストリップ532aの根元の付近にダストが堆積してしまい、悪影響を招く要因となっている。すなわち、ダストリップ532aの周囲は常時多くのダストに曝される環境下となるためダストが侵入し易くなってしまい、また、劣化が促進されてしまったり、堆積したダストによりダストリップ532aの動きに悪影響が出てシール機能が低下してしまったりする。
【0007】
また、上記従来例に係るダストシール530の場合、ダストリップ532aは、補強環531における内周側に向かって真っ直ぐに伸びる部分の先端付近から大気側(A)に向かって伸びるように構成されている。そのため、ダストリップ532aは補強環531によって十分に強度が高められていないため、小石が当たって変形してしまうなどの問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公昭63−2385号公報
【特許文献2】特開平9−287665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ダストの堆積による悪影響を抑制すると共に、ダストリップの強度の
向上を図ったダストシール及び密封構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0011】
すなわち、本発明のダストシールは、
建設機械用の油圧シリンダにおけるロッドとシリンダとの間の環状隙間を封止するシーリングシステムのうち大気に曝される位置に配置されるダストシールであって、
前記シリンダにおける大気側端部の内周側に形成された環状の切り欠き内周面に嵌着される補強環と、該補強環に一体成形される弾性体製のシール本体とを備えるダストシールにおいて、
前記補強環は、前記切り欠き内周面に嵌着される円筒部と、該円筒部から大気側に突出し、かつ大気側に向かって縮径するテーパ部と、を有しており、
前記シール本体は、前記テーパ部の先端付近から大気側に向かって伸び、かつ前記ロッド表面に摺動自在に接触するダストリップを備えており、
前記ダストリップの外周面と前記テーパ部の外周面が連続的に繋がっていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の密封構造は、
建設機械用の油圧シリンダを構成するロッド及びシリンダと、
これらロッドとシリンダとの間の環状隙間を封止するシーリングシステムのうち大気に曝される位置に配置されるダストシールと、を備える密封構造であって、
前記ダストシールは、前記シリンダにおける大気側端部の内周側に形成された環状の切り欠き内周面に嵌着される補強環と、該補強環に一体成形される弾性体製のシール本体とを備える密封構造において、
前記補強環は、前記切り欠き内周面に嵌着される円筒部と、該円筒部から大気側に突出し、かつ大気側に向かって縮径するテーパ部と、を有しており、
前記シール本体は、前記テーパ部の先端付近から大気側に向かって伸び、かつ前記ロッド表面に摺動自在に接触するダストリップを備えており、
前記ダストリップの外周面と前記テーパ部の外周面が連続的に繋がっていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、ダストリップが最も上部となるように、シーリングシステムが配置されても、ダストは、ダストリップの外周面から補強環におけるテーパ部の外周面へと落下し易いので、ダストリップの外周面付近にダストが堆積してしまうことを抑制できる。また、ダストリップは、補強環におけるテーパ部の先端付近から大気側に向かって伸びる構成を採用しているので、ダストリップの強度は補強環のテーパ部によって十分高められる。
【0014】
また、前記ダストリップの外周面と前記テーパ部の外周面によって、略段差のないテーパ面が形成されるとよい。
【0015】
これにより、ダストは、ダストリップの外周面からテーパ部の外周面へとスムーズに落下する。
【0016】
前記シリンダにおける大気側端部の外周面は、前記切り欠きにおける大気側の端縁に繋がるテーパ面によって構成されており、該テーパ面と前記補強環におけるテーパ部の外周面により略段差のないテーパ面が形成されるとよい。
【0017】
これにより、補強環におけるテーパ部の外周面に沿って落下してきたダストは、更に、
シリンダにおける大気側端部の外周面へと落下する。
【0018】
また、前記シリンダには、大気側の端部の外周面を構成するテーパ面に沿って落下してきたダストを溜めるダスト溜め部が設けられていることも好適である。
【0019】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、ダストの堆積による悪影響を抑制すると共に、ダストリップの強度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は本発明の実施例1に係るシーリングシステムを用いた密封構造を示す模式的断面図である。
【図2】図2は本発明の実施例1に係るダストシールの一部破断断面図である。
【図3】図3は本発明の実施例2に係るシーリングシステムを用いた密封構造を示す模式的断面図である。
【図4】図4は従来例に係るシーリングシステムを用いた密封構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0023】
(実施例1)
図1及び図2を参照して、本発明の実施例1に係るダストシール及び密封構造について説明する。建設機械用の油圧シリンダにおいては、ロッドとシリンダとの間の環状隙間を封止するために、複数のシールから構成されるシーリングシステムが用いられる。
【0024】
<シーリングシステム>
特に、図1を参照して、本実施例に係るシーリングシステム全体の構成について説明する。シーリングシステム100は、相対的に往復移動を行うロッド200とシリンダ300との間の環状隙間を封止するために備えられる。かかるシーリングシステム100は、オイル漏れを防ぐメインシール10と、油圧を緩衝させるバッファリング20と、ダストが密封領域内に侵入するのを防ぐダストシール30とを備えている。
【0025】
本実施例に係るメインシール10は、弾性体製のU字パッキン11と樹脂製のバックアップリング12とから構成されており、シリンダ300における軸孔(ロッド200が挿通される孔)の内周面に形成された第1環状溝310に装着される。また、バッファリング20は、断面略U字状の弾性体製のバッファリング本体21と樹脂製のバックアップリング22とから構成される。このバッファリング20は、シリンダ300における軸孔の内周面であって、第1環状溝310よりも密封対象側(O)に形成された第2環状溝320に装着される。
【0026】
ダストシール30は、シリンダ300における大気側(A)の端部の内周側に形成された環状の切り欠き330に装着され、大気に曝される位置に配置される。
【0027】
<ダストシール>
特に、図2を参照して、本実施例に係るダストシール30について詳細に説明する。本実施例に係るダストシール30は、シリンダ300に設けられた切り欠き330の内周面に嵌着される補強環31と、補強環31に一体成形される弾性体製のシール本体32とから構成される。
【0028】
補強環31は、切り欠き330の内周面に嵌着(圧入)される円筒部31aと、円筒部31aから大気側(A)に突出し、かつ大気側(A)に向かって縮径するテーパ部31bとを有している(図1参照)。また、シール本体32は、補強環31の内周面に沿って設けられる略円筒部32aと、補強環31のテーパ部31bの先端付近から大気側(A)に向かって伸び、かつロッド200の表面に摺動自在に接触するダストリップ32bと、ダストリップ32bの根元付近から密封対象側(O)に向かって伸び、かつロッド200の表面に摺動自在に接触するオイルリップ32cとを備えている。なお、オイルリップ32cは、メインシール10から漏れ出してしまったオイルが大気側(A)に漏れ出してしまうことを抑制するために設けられている。
【0029】
そして、ダストシール30におけるダストリップ32bの外周面32b1と補強環31のテーパ部31bの外周面が連続的に繋がるように構成されている。より具体的には、ダストリップ32bの外周面32b1とテーパ部31bの外周面によって、略段差のないテーパ面が形成されるように構成されている。つまり、ダストリップ32bの外周面32b1のテーパ角度と、テーパ部31bの外周面のテーパ角度が同一となるように設計されており、かつこれらの接続部位における各々の外径が略同一となるように設計されている。なお、本実施例では、テーパ角度を約90°に設定している。
【0030】
<本実施例に係るダストシール及び密封構造の優れた点>
建設機械におけるシリンダ300の取り付け構造によっては、ロッド200が鉛直方向に向かって伸びるように油圧シリンダが配置される。そのため、図1に示すように、ダストシール30が最も上部となるように、シーリングシステム100が配置される。これにより、ダストシール30におけるダストリップ32bは上方に向かって伸びた状態で、ロッド200の表面に接触した状態となる。
【0031】
従って、上方から落下してきた微細な土砂などのダストは、ダストリップ32bの外周面32b1に当った後に、外周面32b1に沿って落下していく。ここで、本実施例に係るダストシール30においては、ダストリップ32bの外周面32b1と補強環31のテーパ部31bの外周面が連続的に繋がるように構成されている。そのため、ダストは、ダストリップ32bの外周面32b1から補強環31におけるテーパ部31bの外周面へと落下していく(図1中矢印参照)。従って、ダストリップ32bの外周面32b1の付近にダストが堆積してしまうことを抑制できる。
【0032】
また、本実施例においては、ダストリップ32bの外周面32b1とテーパ部31bの外周面によって、略段差のないテーパ面が形成されるように構成されているため、ダストリップ32bの外周面32b1からテーパ部31bの外周面へとダストをスムーズに落下させることができる。
【0033】
更に、ダストリップ32bは、補強環31におけるテーパ部31bの先端付近から大気側(A)に向かって伸びる構成を採用しているので、ダストリップ32bの強度は補強環31のテーパ部31bによって十分高められる。従って、ダストリップ32bに小石などが直接当たっても、ダストリップ32bの変形を抑制することができる。
【0034】
(実施例2)
図3には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、シリンダ側にもテ
ーパ面を設けることで、ダストを補強環のテーパ部よりも、更に落下させる構成を採用している。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0035】
本実施例においては、シリンダ300を除くシーリングシステム100等の構成は、上記実施例1と同一の構成である。本実施例におけるシリンダ300における大気側(A)の端部の外周面340は、切り欠き330における大気側の端縁に繋がるテーパ面によって構成されている。そして、このテーパ面と補強環31におけるテーパ部31bの外周面により略段差のないテーパ面が形成されるように構成されている。
【0036】
従って、本実施例に係る密封構造によれば、補強環31におけるテーパ部31bの外周面に沿って落下してきたダストは、更に、シリンダ300における大気側端部の外周面340へと落下する(図3中、矢印参照)。これにより、ダストリップ32bの外周面32b1の付近にダストが堆積してしまうことを実施例1に比べてより一層抑制することが可能となる。
【0037】
また、シリンダ300に、大気側の端部の外周面340を構成するテーパ面に沿って落下してきたダストを溜めるダスト溜め部350を設けてもよい。
【符号の説明】
【0038】
10 メインシール
11 U字パッキン
12 バックアップリング
20 バッファリング
21 バッファリング本体
22 バックアップリング
30 ダストシール
31 補強環
31a 円筒部
31b テーパ部
32 シール本体
32a 略円筒部
32b ダストリップ
32b1 外周面
32c オイルリップ
100 シーリングシステム
200 ロッド
300 シリンダ
310 第1環状溝
320 第2環状溝
330 切り欠き
340 外周面
350 ダスト溜め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械用の油圧シリンダにおけるロッドとシリンダとの間の環状隙間を封止するシーリングシステムのうち大気に曝される位置に配置されるダストシールであって、
前記シリンダにおける大気側端部の内周側に形成された環状の切り欠き内周面に嵌着される補強環と、該補強環に一体成形される弾性体製のシール本体とを備えるダストシールにおいて、
前記補強環は、前記切り欠き内周面に嵌着される円筒部と、該円筒部から大気側に突出し、かつ大気側に向かって縮径するテーパ部と、を有しており、
前記シール本体は、前記テーパ部の先端付近から大気側に向かって伸び、かつ前記ロッド表面に摺動自在に接触するダストリップを備えており、
前記ダストリップの外周面と前記テーパ部の外周面が連続的に繋がっていることを特徴とするダストシール。
【請求項2】
前記ダストリップの外周面と前記テーパ部の外周面によって、略段差のないテーパ面が形成されることを特徴とする請求項1に記載のダストシール。
【請求項3】
前記シリンダにおける大気側端部の外周面は、前記切り欠きにおける大気側の端縁に繋がるテーパ面によって構成されており、該テーパ面と前記補強環におけるテーパ部の外周面により略段差のないテーパ面が形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のダストシール。
【請求項4】
建設機械用の油圧シリンダを構成するロッド及びシリンダと、
これらロッドとシリンダとの間の環状隙間を封止するシーリングシステムのうち大気に曝される位置に配置されるダストシールと、を備える密封構造であって、
前記ダストシールは、前記シリンダにおける大気側端部の内周側に形成された環状の切り欠き内周面に嵌着される補強環と、該補強環に一体成形される弾性体製のシール本体とを備える密封構造において、
前記補強環は、前記切り欠き内周面に嵌着される円筒部と、該円筒部から大気側に突出し、かつ大気側に向かって縮径するテーパ部と、を有しており、
前記シール本体は、前記テーパ部の先端付近から大気側に向かって伸び、かつ前記ロッド表面に摺動自在に接触するダストリップを備えており、
前記ダストリップの外周面と前記テーパ部の外周面が連続的に繋がっていることを特徴とする密封構造。
【請求項5】
前記ダストリップの外周面と前記テーパ部の外周面によって、略段差のないテーパ面が形成されることを特徴とする請求項4に記載の密封構造。
【請求項6】
前記シリンダにおける大気側端部の外周面は、前記切り欠きにおける大気側の端縁に繋がるテーパ面によって構成されており、該テーパ面と前記補強環におけるテーパ部の外周面により略段差のないテーパ面が形成されることを特徴とする請求項4または5に記載の密封構造。
【請求項7】
前記シリンダには、大気側の端部の外周面を構成するテーパ面に沿って落下してきたダストを溜めるダスト溜め部が設けられていることを特徴とする請求項6に記載の密封構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−96526(P2013−96526A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241093(P2011−241093)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】