説明

ダッシュパネルのモジュール構造

【課題】組付時及び車両旋回走行時のいずれにおいても充分な剛性を確保することができるダッシュパネルのモジュール構造を得る。
【解決手段】ダッシュパネル10は略枠状に形成されており、空洞部14を塞ぐようにダッシュパネルモジュール部12がボルト32及びナット34で固定されるようになっている。ダッシュパネルモジュール部12の外周凸部26は断面コ字状に形成されており、この部分にボルト挿通孔30が形成されている。また、ダッシュパネルモジュール部12の上下のボルト挿通孔30を斜めに直線状に結ぶように断面コ字状の斜め凸部28が形成されている。上記外周凸部26によりモジュール搭載時の自重による撓みを防止でき、斜め凸部28により車両旋回走行時のせん断に対して引張抵抗を発揮して当該せん断変形を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枠状に形成されたダッシュパネルの枠内の空洞部を塞ぐように、予め車両部品が組付けられた状態の別体のダッシュパネルモジュール部を、締結具で締結固定するダッシュパネルのモジュール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボディー構造のモジュール化が進められている。例えば、ボルト締結によるダッシュパネルのモジュール構造の場合、ダッシュパネルを枠状に残して内側を空洞部とし、その空洞部に別体のダッシュパネルモジュール部をボルト締結により固定する構造が採られている(一例として特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7‐329831号公報
【特許文献2】特開2000‐229584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記ダッシュパネルのモジュール構造を採用した場合、以下の二点において改良の余地があった。
【0004】
まず第1に、車両の組立ライン上でダッシュパネルモジュール部の前後面に予めブレーキブースタやワイヤハーネス等の部品を組付けていくことになるが、その場合組付工程数の増加に伴い、組付時間が増加する。ワイヤハーネスは別としてもブレーキブースタ等は比較的重量物であるため、機械による自動搭載を実施する際に、自重でダッシュパネルモジュール部に撓みが生じる。
【0005】
第2に、車両が旋回運動をする際には、車両前後方向を軸としたねじれ変形が生じる。この点、従来のダッシュパネルは、せん断変形(車両正面視での菱形変形)に対して剛性を備えているが、モジュール構造化した場合、そのメリット(工程短縮によるコスト削減効果)を活かすため、通常はボルト締結点数をスポット溶接打点数よりも少なくする。従って、せん断変形に対する剛性が不充分になる傾向がある。なお、ボルト締結点数を増やせば剛性も高くなるが、その場合にはモジュール化した効果が減るため、有意義な手法とはいえない。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、組付時及び車両旋回走行時のいずれにおいても充分な剛性を確保することができるダッシュパネルのモジュール構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明に係るダッシュパネルのモジュール構造は、枠状に形成されたダッシュパネルの枠内の空洞部を塞ぐように、予め車両部品が組付けられた状態の別体のダッシュパネルモジュール部を、締結具で締結固定するダッシュパネルのモジュール構造であって、前記ダッシュパネルモジュール部の外周部に高剛性部を設定すると共に当該高剛性部に締結点を設定し、さらに、当該外周部の上縁側の締結点と下縁側の締結点とを斜めに直線状に結ぶ斜め補強部を設定した、ことを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の本発明に係るダッシュパネルのモジュール構造は、請求項1記載の発明において、前記高剛性部及び前記斜め補強部の断面形状をいずれも略コ字状にした、ことを特徴としている。
【0009】
請求項3記載の本発明に係るダッシュパネルのモジュール構造は、請求項1記載の発明において、前記斜め補強部の一部又は全部は、前記ダッシュパネルモジュール部の外周部の上縁側の締結点と下縁側の締結点とを斜めに直線状に結ぶように配置された別部品の補強部材によって構成されている、ことを特徴としている。
【0010】
請求項1記載の本発明によれば、ダッシュパネルと別体で構成されたダッシュパネルモジュール部には、予め車両部品が組付けられる。この状態のダッシュパネルモジュール部がダッシュパネルの空洞部を塞ぐように機械で保持され、締結具で締結されることにより両者が一体化される。
【0011】
ここで、本発明では、ダッシュパネルモジュール部の外周部に高剛性部を設定すると共に当該高剛性部に締結点を設定したので、換言すれば、締結点が設定されるダッシュパネルモジュール部の外周部の剛性を高めたので、車両組立工場におけるモジュール搭載時に、例えばブレーキブースタ等の車両部品がダッシュパネルモジュール部に予め組付けられていても、その自重によってダッシュパネルモジュール部が撓むのを防止することができる。
【0012】
さらに、本発明では、ダッシュパネルモジュール部の外周部の上縁側の締結点と下縁側の締結点とを斜めに直線状に結ぶ斜め補強部を設定したので、上縁側と下縁側の締結点間の引張強度が高くなる。このため、締結点数を増やさなくても、車両の旋回走行時に、空洞部を有するがためにダッシュパネルに作用するせん断変形(車両正面視での菱形変形)に対して充分な抗力を発揮する。
【0013】
請求項2記載の本発明によれば、ダッシュパネルモジュール部の外周部に設定した高剛性部並びに当該外周部の上縁側及び下縁側の締結点間を斜めに直線状に結ぶ斜め補強部の断面形状を略コ字状にしたので、締結具の締結面と高剛性部の補強面及び斜め補強部の補強面との面一を確保することができる。
【0014】
請求項3記載の本発明によれば、ダッシュパネルモジュール部の外周部の上縁側の締結点及び下縁側の締結点間の別部品の補強部材を斜めに配置することで一部又は全部の斜め補強部を構成したので、補強部材の断面形状や板厚、配置の仕方等を適切に選択することにより、ダッシュパネルの引張強度を効果的に高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、請求項1記載のダッシュパネルのモジュール構造は、ダッシュパネルモジュール部の外周部に高剛性部を設定すると共に当該高剛性部に締結点を設定し、さらに、当該外周部の上縁側の締結点と下縁側の締結点とを斜めに直線状に結ぶ斜め補強部を設定したので、ダッシュパネルを外周部及び空洞部を塞ぐ部分の剛性を高めることができ、その結果、組付時及び車両旋回走行時のいずれにおいても充分な剛性を確保することができるという優れた効果を有する。
【0016】
請求項2記載の本発明に係るダッシュパネルのモジュール構造は、請求項1記載の発明において、高剛性部及び斜め補強部の断面形状をいずれも略コ字状にしたので、締結具の締結面と高剛性部の補強面及び斜め補強部の補強面との面一を確保することができ、その結果、ダッシュパネルモジュール部の外周部の上縁側及び下縁側の締結点間を結ぶ斜め方向の引張強度を少ない締結点数で効果的に高めることができるという優れた効果を有する。
【0017】
請求項3記載の本発明に係るダッシュパネルのモジュール構造は、請求項1記載の発明において、斜め補強部の一部又は全部を、ダッシュパネルモジュール部の外周部の上縁側の締結点と下縁側の締結点とを斜めに直線状に結ぶように配置された別部品の補強部材によって構成したので、ダッシュパネル及びダッシュパネルモジュール部の引張強度を効果的に高めることができ、その結果、車両旋回走行時のダッシュパネル及びダッシュパネルモジュール部のせん断変形を効果的に抑制することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1及び図2を用いて、本発明に係るダッシュパネルのモジュール構造の一実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
【0019】
図1には、本実施形態に係るダッシュパネルのモジュール構造の分解斜視図が示されている。なお、この図に描かれたダッシュパネル10及びダッシュパネルモジュール部12は、左ハンドル車の右半分(助手席側)である。
【0020】
この図に示されるように、ダッシュパネル10は全体としては略枠状に形成されており、枠内は空洞部14とされている。ダッシュパネル10の下縁部は、車両幅方向を長手方向として配置されたダッシュクロスメンバ16の上縁部にスポット溶接で結合されている。また、ダッシュパネル10の上縁部は、車両幅方向を長手方向として配置された図示しないカウルの下面にスポット溶接で結合されている。さらに、ダッシュパネル10の側部の下側には車両平面視でのタイヤの動き(旋回運動)を妨げないように曲面状に延長されており、その延長部18には車両前後方向を長手方向として配置されるフロントサイドメンバ20の後端部及びこれを補強するフロントサイドメンバリヤ22の後端部がスポット溶接により結合されている。
【0021】
上記構成のダッシュパネル10には、車両後方側からダッシュパネルモジュール部12がボルト締めにより取り付けられて一体化されるようになっている。
【0022】
具体的に説明すると、ダッシュパネルモジュール部12はパネル状に形成されており、大きさ的には空洞部14よりも一回り大きく形成されている。そして、ダッシュパネルモジュール部12には略等脚台形状や三角形状の凹部24がダッシュパネルモジュール部12のプレス成形時に一体に形成されている。これにより、ダッシュパネルモジュール部12の外周部(即ち、上縁部12A、下縁部12B、左右の側縁部12C)に高剛性部としての所定幅の外周凸部26が形成されていると共に、ダッシュパネルモジュール部12の一般面に車両正面視でジグザグ形状の斜め補強部としての斜め凸部28が形成されている。なお、斜め凸部28の幅は外周凸部26の幅と略同一に設定されている。
【0023】
上記外周凸部26には、所定の間隔で締結点としてのボルト挿通孔30が形成されている。そして、斜め凸部28は、ダッシュパネルモジュール部12の上縁側のボルト挿通孔30と下縁側のボルト挿通孔30とが車両正面視において斜めに直線状に結ばれるように配置されている。
【0024】
図2に示されるように、外周凸部26の断面形状はコ字状に形成されており、当該断面形状とされることにより補強された底壁部26Aに上記ボルト挿通孔30が形成されている。つまり、補強面である底壁部26Aとボルト締結面とが面一になるように(つまり、補強面と締結面とが同一平面内に配置されるように)製作されている。この構成は、斜め凸部28についても同様である。
【0025】
上述したダッシュパネルモジュール部12の上縁部12A、下縁部12B、左右の側縁部12Cがダッシュパネル10の上縁取付座10A、下縁取付座10B、側縁取付座10Cに締結具としてのボルト32及びナット34で締結固定されている。そのため、ダッシュパネル10の上縁取付座10A、下縁取付座10B、側縁取付座10Cにも、締結点としてのボルト挿通孔36が形成されている。なお、図1では、ボルト挿通孔36を見せるためにナット34を通常のナットとして描いているが、通常はウエルドナットが使用される。
【0026】
(本実施形態の作用・効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0027】
ダッシュパネル10と別体で構成されたダッシュパネルモジュール部12には、予め図示しないブレーキブースタやワイヤーハーネス等の車両部品が組付けられる。この状態のダッシュパネルモジュール部12がダッシュパネル10の空洞部14を塞ぐように機械で保持され、ボルト32及びナット34で締結されることにより両者が一体化される。
【0028】
ここで、本実施形態では、ダッシュパネルモジュール部12の外周部(即ち、上縁部12A、下縁部12B、左右の側縁部12C)に所定幅の外周凸部26を形成し、当該外周凸部26の底壁部26Aに締結点であるボルト挿通孔30を設定したので、換言すれば、締結点が設定されるダッシュパネルモジュール部12の外周部の剛性を高めたので、車両組立工場におけるモジュール搭載時に、例えばブレーキブースタ等の車両部品がダッシュパネルモジュール部12に予め組付けられていても、その自重によってダッシュパネルモジュール部12が撓むのを防止することができる。従って、工場の組立ラインにおける自動組付作業を円滑に行うことができる。
【0029】
さらに、本実施形態では、ダッシュパネルモジュール部12の外周部の上縁側のボルト挿通孔30と下縁側のボルト挿通孔30とを斜めに直線状に結ぶ斜め凸部28を設定したので、上縁側と下縁側の締結点間の引張強度が高くなる。つまり、図1の矢印T方向の引張力が高くなり、一種のブレース効果が得られる。このため、締結点数を増やさなくても、車両の旋回走行時に、空洞部14を有するがためにダッシュパネル10に作用するせん断変形(車両正面視での菱形変形)に対して充分な抗力を発揮する。
【0030】
上記より、本実施形態に係るダッシュパネルのモジュール構造によれば、組付時及び車両旋回走行時のいずれにおいても充分な剛性を確保することができる。
【0031】
また、本実施形態に係るダッシュパネルのモジュール構造では、ダッシュパネルモジュール部12の外周部に設定した外周凸部26並びに当該外周凸部26の上縁側及び下縁側のボルト挿通孔30間を斜めに直線状に結ぶ斜め凸部28の断面形状を略コ字状にしたので、ボルト32及びナット34の締結面と外周凸部26の補強面(底壁部26A)及び斜め凸部28の補強面との面一を確保することができる。その結果、本実施形態によれば、
ダッシュパネルモジュール部12の外周部の上縁側及び下縁側のボルト挿通孔30間を結ぶ斜め方向の引張強度を少ない締結点数で効果的に高めることができる。
【0032】
(実施形態の補足説明)
なお、上述した本実施形態では、斜め補強部としての斜め凸部28をダッシュパネルモジュール部12と一体に形成したが、これに限らず、図3に示されるように、別体で構成した断面形状がコ字状とされた補強部材40を斜め方向に取り付ける構成を採ってもよい。例えば、ダッシュパネルモジュール部12の中央部側の部分の斜め凸部28に替えて図3に示されるような断面コ字状の補強部材40をV字状やM字状、W字状等に配置してボルト32及びナット34で固定してもよいし、すべての斜め凸部28に替えて補強部材40をジグザグ形状に配置する構成を採ってもよい。さらに、斜め凸部28をそのまま残した上で別体の補強部材40を更に重ねて補強効果を高めるようにしてもよい。
【0033】
なお、補強部材40の長手方向の両端部には、ボルト挿通孔30、36と重合するボルト挿通孔42が形成されている。
【0034】
上記構成によれば、補強部材40の断面形状や板厚、配置の仕方等を適切に選択することにより、ダッシュパネル10の引張強度を効果的に高めることができる。その結果、車両旋回走行時のダッシュパネル10及びダッシュパネルモジュール部12のせん断変形を効果的に抑制することができる。
【0035】
また、上述した本実施形態では、外周凸部26及び斜め凸部28を断面コ字状に形成したが、これに限らず、他の断面形状を採用してもよい。例えば、外周凸部の外側の端末部の形状を半円形状にしたり、折り返したりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態に係るダッシュパネルのモジュール構造の分解斜視図である。
【図2】図1に示されるダッシュパネルモジュール部の外周凸部の断面形状を示す図1の2‐2線断面図である。
【図3】斜め凸部の変形例に係る補強部材を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
10 ダッシュパネル
12 ダッシュパネルモジュール部
12A 上縁部(外周部)
12B 下縁部(外周部)
12C 側縁部(外周部)
14 空洞部
26 外周凸部(高剛性部)
28 斜め凸部(斜め補強部)
30 ボルト挿通孔(締結点)
32 ボルト
34 ナット
36 ボルト挿通孔(締結点)
40 補強部材
42 ボルト挿通孔(締結点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠状に形成されたダッシュパネルの枠内の空洞部を塞ぐように、予め車両部品が組付けられた状態の別体のダッシュパネルモジュール部を、締結具で締結固定するダッシュパネルのモジュール構造であって、
前記ダッシュパネルモジュール部の外周部に高剛性部を設定すると共に当該高剛性部に締結点を設定し、
さらに、当該外周部の上縁側の締結点と下縁側の締結点とを斜めに直線状に結ぶ斜め補強部を設定した、
ことを特徴とするダッシュパネルのモジュール構造。
【請求項2】
前記高剛性部及び前記斜め補強部の断面形状をいずれも略コ字状にした、
ことを特徴とする請求項1記載のダッシュパネルのモジュール構造。
【請求項3】
前記斜め補強部の一部又は全部は、前記ダッシュパネルモジュール部の外周部の上縁側の締結点と下縁側の締結点とを斜めに直線状に結ぶように配置された別部品の補強部材によって構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のダッシュパネルのモジュール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−142933(P2006−142933A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334356(P2004−334356)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】