説明

ダンピング補正回路及びこれを備えたディジタルアンプ

【課題】負荷抵抗の変化による2次フィルタの周波数特性の変化を抑制する。
【解決手段】本願発明のダンピング補正回路は、オーディオ信号eSを変調するとともに、所定の利得で増幅する変調増幅部2と、低周波帯域を通過させる2次フィルタで構成される第1信号伝達部H1とを備えるディジタルアンプに適用され、低周波帯域では所定の利得を有しかつ高周波帯域では当該利得が所定の割合で減少する1次フィルタで構成される第2信号伝達部H2と、低周波帯域では上記利得を有しかつ高周波帯域では当該利得が第2信号伝達部H2とほぼ同一の割合で増加する伝達特性を有する第3信号伝達部H3と、第2信号伝達部H2の出力と第3信号伝達部H3の出力との差分を算出する差分算出部3と、低周波帯域では上記利得とは異なる利得を有しかつ高周波帯域では当該利得が所定の割合で増加する伝達特性を有する第4信号伝達部H4と、オーディオ信号eSと第4信号伝達部H4の出力とを加算して変調増幅部2の入力に帰還させる加算部1とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えばオーディオ信号をパルス幅変調(PWM)するパルス幅変調回路の出力におけるダンピングの変動を抑制するためのダンピング補正回路、及びこのダンピング補正回路を備えたディジタルアンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ディジタルアンプでは、例えば入力信号としてのオーディオ信号をその振幅に応じてパルス幅変調し、その変調信号を出力するパルス幅変調回路(例えば特許文献1参照)が用いられているものが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−320097号公報
【0004】
このディジタルアンプにおいては、上記パルス幅変調回路から出力される変調信号に基づいて所定の電源電圧をスイッチングするスイッチング回路が備えられ、スイッチング回路の出力段にパルス幅変調された電圧信号を元のアナログのオーディオ信号に復元させるための低域通過フィルタ(LPF)が備えられている。そして、復元されたオーディオ信号が負荷(例えばスピーカ)に出力される。
【0005】
図8は、上記ディジタルアンプの一例を示すブロック構成図である。このディジタルアンプは、オーディオ信号eSが入力されるパルス幅変調増幅回路51(以下、単に「変調増幅回路51」という。)と、LPF52とを備えている。このディジタルアンプによれば、オーディオ信号eSは、変調増幅回路51においてその振幅がパルス幅変調され、図示しないスイッチング素子によって所定の利得Avで増幅されるとともに、正負の電源電圧が交互にスイッチングされる。スイッチングされた増幅信号は、LPF52によって高周波成分が除去されて出力信号V0として負荷(図8に示すRに相当)に供給される。
【0006】
上記LPF52は、一般に、音声帯域での損失を最小化するために、図8に示すように、コイル(例えばインダクタL)、コンデンサ(例えばキャパシタC)及び負荷(例えばスピーカの抵抗R)を含む、減衰特性が−約12dB/octの2次フィルタで構成されている。以下、LPF52のことを2次フィルタ52という。
【0007】
ところで、ディジタルアンプに接続されるスピーカのインピーダンスは、例えば4Ω、6Ω又は8Ω等と多種多様である。一方、2次フィルタ52では、スピーカのインピーダンス(負荷抵抗)の変化によってフィルタの肩特性、いわゆるダンピングファクタ(制動係数)が大きく変化することが知られている。
【0008】
ここで、図8に示す2次フィルタ52の伝達関数F(s)は、下記に示す式1によって表すことができる。
【0009】
【数1】

【0010】
上式において、ω0は共振角周波数、Dは2次フィルタ52のダンピングファクタであり、上記のようにダンピングファクタは、インダクタL、キャパシタC及び負荷抵抗Rで表すことができる。
【0011】
図9は、負荷抵抗が変化した場合おける2次フィルタ52の周波数特性を示す図である。同図では、2次フィルタ52が最も平坦な特性となる最適な基準抵抗をR0とし、この基準抵抗R0に対しスピーカの負荷抵抗Rが増減された場合の2次フィルタ52の周波数特性の変化を表している。図9では、平坦特性のレベルが約30dBになっており、以下、このレベルを「基準レベル」という。
【0012】
同図によると、負荷抵抗Rが基準抵抗R0の約5倍になると、カットオフ周波数(約60kHz)付近において基準レベルに対し約11dBのピークが見られる。また、負荷抵抗Rが基準抵抗R0の約25倍では基準レベルに対し約23dBのピーク、同じく約125倍では基準レベルに対し約36dBのピークが見られる。さらに、図示していないが、2次フィルタ52では、無負荷(R0=∞)の場合は、カットオフ周波数においてLCの直列共振となり、上記したダンピングファクタはきわめて小さくなる。
【0013】
したがって、ダンピングファクタが不足している状態(アンダーダンピング)で、何らかの原因でピークを与える周波数成分(例えばカットオフ周波数近傍の周波数成分)を有する信号が入力されると、変調増幅回路51や2次フィルタ52に過大な電流が流れることになる。そのため、MOS−FET等のスイッチング素子が破損したり、2次フィルタ52を構成するコンデンサCが破損したり、インダクタLとしてのコイルが過熱したりするといった問題点が生じる。通常のアナログアンプでは、無負荷状態はアンプにとって最も低損失であり最も安全な状態であるが、ディジタルアンプでは、無負荷状態はアンプにとって不都合な状態である。
【0014】
そこで、ダンピングファクタが不足している状態を改善する方法として、例えば図10に示すように、抵抗R’とコンデンサC’とを直列接続したスナバー回路53を負荷Rに並列に挿入する方法が考えられる。
【0015】
しかしながら、この方法において、ダンピングファクタを増加させるようにするためには、スナバー回路53の時定数がある程度大きく、かつ抵抗値も比較的小さいものが必要となるが、そのようにすると、スナバー回路53の損失が増加し、大電力用のスナバー回路53が必要となるといった弊害が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本願発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、負荷抵抗の変化による2次フィルタの周波数特性の変化を抑制することのできるダンピング補正回路及びそれを適用したディジタルアンプを提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0018】
本願発明の第1の側面によって提供されるダンピング補正回路は、入力信号としてのオーディオ信号を変調するとともに、所定の利得で増幅する変調増幅手段と、前記変調増幅手段の出力端に接続され、所定の低周波帯域を通過させる2次フィルタで構成される第1のフィルタ手段とを備えるディジタルアンプに適用されるダンピング補正回路であって、前記変調増幅手段の出力端に接続され、前記所定の低周波帯域では1よりも小さい所定の利得を有し、かつ前記所定の低周波帯域よりも高帯域では当該利得が所定の割合で減少する1次フィルタで構成される第2のフィルタ手段と、前記第1のフィルタ手段の出力端に接続され、前記所定の低周波帯域では前記第2のフィルタ手段とほぼ同一の利得を有し、かつ前記所定の低周波帯域よりも高帯域では当該利得が前記第2のフィルタ手段とほぼ同一の割合で増加する伝達特性を有する第1の周波数特性補正手段と、前記第2のフィルタ手段の出力と前記第1の周波数特性補正手段の出力との差分を算出する差分算出手段と、前記差分算出手段の出力端に接続され、前記所定の低周波帯域では1よりも小さく前記第2のフィルタ手段の利得とは異なる所定の利得を有し、かつ前記所定の低周波数帯域よりも高帯域では当該利得が前記第1の周波数特性補正手段とほぼ同一の割合で増加する伝達特性を有する第2の周波数特性補正手段と、前記オーディオ信号と前記第2の周波数特性補正手段の出力とを加算又は減算して前記変調増幅手段の入力に帰還させる帰還手段と、を備えることを特徴としている(請求項1)。
【0019】
第1のフィルタ手段が、上述した従来のディジタルアンプのようにコイルLとコンデンサCのL型回路で構成され、負荷抵抗(例えばスピーカ)がL型回路のコンデンサCに並列に接続される構成の場合、ディジタルアンプの伝達関数に含まれるダンピングファクタDは、上述したようにD=(1/2R)√(L/C)となる。
【0020】
本願発明によれば、第1のフィルタ手段に加えて、第2のフィルタ手段、第1の周波数特性補正手段、差分算出手段、第2の周波数特性補正手段及び帰還手段で構成されるダンピング補正回路を備え、差分算出手段で第1のフィルタ手段及び第1の周波数特性補正手段を通過した信号と第2のフィルタ信号を通過した信号との差分の信号を生成し、その差分信号を第2の周波数特性補正手段を通過させた後にオーディオ信号に加算もしくは減算して変調増幅手段に入力させるようにしている。そのため、ダンピング補正回路を含むディジタルアンプ全体の伝達関数のダンピングファクタDxを、ダンピング補正回路を含まないディジタルアンプ全体の伝達関数のダンピングファクタDよりも小さくすることができる。
【0021】
より具体的には、変調増幅手段の利得をAv、第2のフィルタ手段と第1の周波数特性補正手段の利得をβ1(<1)、第2の周波数特性補正手段の利得をβ2(β1<β2<1)とすると、ダンピングファクタDxは、後に詳述するように、Dx=(1−Av・β1・β2)D+Av・β1・β2で表すことができる。したがって、(1−Av・β1・β2)が1よりも小さい適当な値になるように、Av、β1及びβ2を選択すれば、抵抗負荷Rが変化することに起因するダンピングファクタDxの変化量をダンピングファクタDよりも小さくすることができる。
【0022】
そのため、負荷抵抗の変化による第1のフィルタ手段(2次フィルタ)の周波数特性の変化を少なくすることができる。したがって、無負荷時あるいは極めて軽負荷時に何らかの原因によって2次フィルタのカットオフ周波数付近の信号が入力された場合にも過電流が流れることがなく、例えば変調増幅手段に組み込まれるスイッチング素子の破損、2次フィルタを構成するコンデンサの破損、並びにコイルの過熱等を抑制することができる。
【0023】
本願発明のダンピング補正回路において、前記第1のフィルタ手段は、インダクタ、キャパシタ及び抵抗素子を含む2次のローパスフィルタで構成されており、前記第2のフィルタ手段は、前記インダクタ及びキャパシタによる共振周波数と略等しい周波数をカットオフ周波数とする1次のローパスフィルタで構成されており、前記第1の周波数特性補正手段は、前記共振周波数より高い周波数帯域では6dB/octで利得が増加する伝達特性を有し、前記第2の周波数特性補正手段は、前記共振周波数より高い周波数帯域では6dB/octで利得が増加する伝達特性を有するとよい(請求項2)。
【0024】
本願発明のダンピング補正回路において、前記第2の周波数特性補正手段は、前記所定の低周波帯域では1よりも小さく前記第2のフィルタ手段の利得とは異なる所定の利得を有し、かつ前記所定の低周波数帯域よりも高帯域では当該利得が前記第1の周波数特性補正手段とほぼ同一の割合で増加する伝達特性に代えて、1よりも小さく前記第2のフィルタ手段の利得とは異なる所定の利得でフラットな伝達特性を有するとよい(請求項3)。
【0025】
本願発明のダンピング補正回路において、前記変調増幅手段、前記第2のフィルタ手段及び前記差分算出手段で構成される第1の信号経路、並びに前記変調増幅手段、前記第1のフィルタ手段、前記第1の周波数特性補正手段及び前記差分算出手段前記で構成される第2の信号経路の各ループ利得は、オーディオ信号帯域においてそれぞれ等しく、かつ1以下であるとよい(請求項4)。
【0026】
本願発明の第2の側面によって提供されるディジタルアンプは、入力信号としてのオーディオ信号を変調するとともに、所定の利得で増幅する変調増幅手段と、前記変調増幅手段の出力のうち所定周波数の帯域を通過させる2次フィルタを構成する第1のフィルタ手段と、本願発明の第1の側面によって提供されるダンピング補正回路とを備えたことを特徴としている(請求項5)。
【0027】
この構成によれば、このディジタルアンプは、本願発明の第1の側面によって提供されるダンピング補正回路を備えているので、第1の側面によって提供されるダンピング補正回路と同様の作用効果を奏する。
【0028】
本願発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本願発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0030】
図1は、本願発明に係るダンピング補正回路が適用されるディジタルアンプのブロック構成図である。図2は、図1に示すディジタルアンプの詳細回路図である。
【0031】
図1によると、このディジタルアンプは、図略のオーディオ信号発生源に接続された加算部1と、パルス幅変調(PWM)増幅部2(以下、「変調増幅部2」という。)と、第1ないし第4信号伝達部H1,H2,H3,H4と、差分算出部3とによって大略構成されている。なお、本願発明の係るダンピング補正回路は、変調増幅部2及び第1信号伝達部H1を除く、加算部1と、第2ないし第4信号伝達部H2〜H4と、差分算出部3とによって構成される。また、図2では、負荷抵抗(例えばスピーカ)として抵抗Rが第1信号伝達部H1の構成要素として記載されている。
【0032】
このディジタルアンプによれば、オーディオ信号発生源(図略)から出力されたオーディオ信号eSは、変調増幅部2においてその振幅がパルス幅変調されるとともに、所定の利得Avで増幅される。変調増幅部2によって増幅された変調信号は、主として第1信号伝達部H1によって高周波成分が除去されて出力信号V0として負荷(例えばスピーカ)に供給される。
【0033】
本実施形態のダンピング補正回路は、変調増幅部2の出力が第1ないし第4信号伝達部H1〜H4等を介して変調増幅部2の前段に加算される帰還回路を構成している。この帰還回路としてのダンピング補正回路は、負荷抵抗Rの変化によるダンピングファクタの変動範囲を抑制するために、すなわち第1信号伝達部H1における周波数特性の変化を抑制するために設けられたものである。以下、詳述する。
【0034】
加算部1は、入力信号としてのオーディオ信号esと第4信号伝達部H4の出力(V4参照)とを加算するためのものである。より詳細には、加算部1は、図2に示すように、オーディオ信号esの振幅を制限する制限抵抗Rsと接続点aとによって構成される。加算部1の出力(V1参照)は、変調増幅部2に入力される。
【0035】
変調増幅部2は、加算部1の出力V1であるオーディオ信号esをPWM変調するとともに、所定の利得Avで増幅するものである。変調増幅部2は、図2に示すように、パルス幅変調回路21と、電力増幅用のスイッチング素子FET1及びFET2を駆動するための駆動回路22と、負帰還回路23とを備えている。スイッチング素子FET1,FET2は、例えばMOS−FETによって構成される。
【0036】
変調増幅部2では、パルス幅変調回路21によって変調された変調信号と、当該変調信号の逆位相の変調信号とに基づいて、駆動回路22によってスイッチング素子FET1及びFET2が交互にスイッチングされる。スイッチング素子FET1及びFET2によってスイッチングされかつ増幅された、変調増幅部2の出力(V2参照)は、第1信号伝達部H1及び第2信号伝達部H2にそれぞれ入力される。
【0037】
第1信号伝達部H1は、変調増幅部2の出力V2の高調波成分の通過を阻止するものであり、図2に示すように、コイルとしてのインダクタL、コンデンサとしてのキャパシタC及び負荷(スピーカ)としての抵抗Rを含む2次フィルタ(LPF)によって構成されている。
【0038】
第1信号伝達部H1の2次フィルタは、図3に示すように、インダクタLとキャパシタCとの共振周波数であるカットオフ角周波数ω0を有するとともに、減衰特性が−12dB/octの特性を有する。第1信号伝達部H1の伝達関数H1(s)は、式2で表すことができる。なお、図3では、ダンピングファクタDを変化させた場合の特性の変化傾向を示すために、2次フィルタについては3本の特性を描いている。
【0039】
【数2】

【0040】
ここで、ω0はカットオフ角周波数、Dはこのフィルタのダンピングファクタ(制動係数)をそれぞれ示す。図3に示すように、ダンピングファクタDが小さくなると、2次フィルタの肩特性が山状になり、逆に、ダンピングファクタDが大きくなると、2次フィルタの肩特性がなだらかになる。
【0041】
第2信号伝達部H2は、変調増幅部2の出力V2の高調波成分の通過を阻止するものであり、図2に示すように、複数の抵抗Ra,Rc,Re,キャパシタCpを含む1次ローパスフィルタ(LPF)によって構成されている。なお、抵抗Reは、抵抗Rb(後述)と抵抗Rcの差の抵抗値を有する。
【0042】
第2信号伝達部H2は、図3に示すように、低域(例えばカットオフ角周波数ω0以下の周波数帯域)における利得がほぼβ1(β1<1)であって、第1信号伝達部H1とほぼ同じ周波数のカットオフ角周波数ω0を有するとともに、減衰特性が−6dB/octの特性を有する。第2信号伝達部H2の伝達関数H2(s)は、式3で表すことができる。
【0043】
【数3】

【0044】
ここで、β1は低域における利得を示す。
【0045】
第3信号伝達部H3は、第1信号伝達部H1の出力の周波数特性を補正するものであり、抵抗Ra及びキャパシタCoの並列回路とそれに直列に接続された抵抗Rbを含む1次ハイパスフィルタ(HPF)によって構成されている。第3信号伝達部H3は、図3に示すように、低域(例えばカットオフ角周波数ω0以下の周波数帯域)における利得が第2信号伝達部H2と同じほぼβ1であって、低域側ターンオーバ角周波数ω0及び高域側ターンオーバ角周波数ωxをそれぞれ有する1次高域増強型階段特性を備えるものである。
【0046】
すなわち、第3信号伝達部H3は、第1及び第2信号伝達部H1,H2とは異なり、6dB/octの利得上昇特性を有する。より詳細には、第3信号伝達部H3は、低域側ターンオーバ角周波数ω0付近で利得が6dB/octで上昇し、高域側ターンオーバ角周波数ωx付近で利得が1となる階段状の周波数特性を有する。
【0047】
第3信号伝達部H3は、第1信号伝達部H1の出力の高周波成分を通過させることにより、上述した第2信号伝達部H2の出力との位相を照合させるためのものである。第3信号伝達部H3の伝達関数H3(s)は、式4で表すことができる。
【0048】
【数4】

【0049】
ここで、ωxは、高域側ターンオーバ角周波数ωxを示すが、この高域側ターンオーバ角周波数ωxは、低域側ターンオーバ角周波数ω0より充分大きいことが望ましい。第2及び第3信号伝達部H2,H3の各出力は、差分算出部3に入力される。
【0050】
差分算出部3は、第2及び第3信号伝達部H2,H3の各出力の差分を演算により取得するものである。差分算出部3は、図2に示すように、複数の抵抗Rb−Rc,Rcと比較回路31とによって構成されている。比較回路31の正極端子には第2信号伝達部H2の出力が入力され、負極端子には第3信号伝達部H3の出力が入力され、比較回路31によって第2及び第3信号伝達部H2,H3の各出力の差分が演算される。
【0051】
なお、図2における符号32で示す回路は、ハイインピーダンスを有するバッファである。差分算出部3の出力(V3参照)は、第4信号伝達部H4に入力される。
【0052】
第4信号伝達部H4は、第2及び第3信号伝達部H2,H3の差分出力の周波数特性を補正するものであり、抵抗Rd及びキャパシタCyの並列回路によって構成されている。第4信号伝達部H4は、図3に示すように、低域における利得がほぼβ2(β1<β2<1)であって、低域側ターンオーバ角周波数ω0及び高域側ターンオーバ角周波数ωyを有する1次高域増強型階段特性を備えるものである。
【0053】
すなわち、第4信号伝達部H4は、第3信号伝達部H3と同様に、6dB/octの利得上昇特性を有する。より詳細には、第4信号伝達部H4は、低域側ターンオーバ角周波数ω0付近で6dB/octで上昇し、第3信号伝達部H3と異なり、高域側ターンオーバ角周波数ωy付近でフラットとなる階段状の周波数特性を有する。第4信号伝達部H4の伝達関数H4(s)は、式5で表すことができる。
【0054】
【数5】

【0055】
ここで、β2は低域における利得を示し、ωyは、高域側ターンオーバ角周波数を示すが、この高域側ターンオーバ角周波数ωyは、低域側ターンオーバ角周波数ω0より充分大きいことが望ましく、第3信号伝達部H3の高域側ターンオーバ角周波数ωxより大とされる。第4信号伝達部H4の出力(V4参照)は、加算器1に入力される。
【0056】
加算器1は、上述したように、オーディオ信号esと第4信号伝達部H4の出力(V4参照)とを加算するものである。
【0057】
上記のように、本実施形態では、2次フィルタとしての第1信号伝達部H1の出力である周波数特性を1次のHPFとしての第3信号伝達部H3で補正し、その第3信号伝達部H3の出力と、1次のLPFとしての第2信号伝達部H2の出力との差分を取得し、すなわち第1信号伝達部H1の肩特性付近の誤差分を取得し、それを変調増幅部2の入力にフィードバックすることにより、負荷抵抗Rの変化による第1信号伝達部H1の周波数特性の変化を少なくするようにしている。
【0058】
なお、図1に示すディジタルアンプの構成では、第2信号伝達部H2側の経路(図1のL1参照)が低域側ターンオーバ角周波数ω0以上で−6dB/octで減衰していくのに対し、第1信号伝達部H1→第3信号伝達部H3側の経路(図1のL2参照)は低域側ターンオーバ角周波数ω0から高域側ターンオーバ角周波数ωxの範囲では−6dB/octで減衰する。しかし、高域側ターンオーバ角周波数ωxを超える周波数では−12dB/octで減衰するので、高域側ターンオーバ角周波数ωx以上の周波数で誤差が生じることになる。
【0059】
この領域(高域側ターンオーバ角周波数ωx以上の周波数帯域)は、変調増幅部2のスイッチング周波数及びその高調波成分を多く含む帯域であり、スイッチングにともなうパルス成分が入力信号esに加わり、このパルス成分がジッタ発生の原因となる。そこで、図2に点線で示すように、第2信号伝達部H2の抵抗Rcに並列にコンデンサCxを設け、上記した両経路L1,L2の上記帯域における特性を混合するようにして、ジッタ発生の原因となるパルス成分を除去するようにしてもよい。
【0060】
次に、図1のブロック構成図において、出力電圧V0と入力電圧(オーディオ信号)eSとの関係を以下に示す。変調増幅部2の入力電圧V1は、入力電圧eSと第4信号伝達部H4の出力電圧V4との和であるので、式6が成立する。
【数6】

【0061】
変調増幅部2の利得はAvであるので、変調増幅部2の出力電圧V2は、式7で表すことができる。
【数7】

【0062】
第1信号伝達部H1の伝達関数をH1とすれば、出力電圧V0は式8で表すことができる。
【数8】

【0063】
第2及び第3信号伝達部H2,H3の伝達関数をそれぞれH2,H3とし、差分算出部3で第2信号伝達部H2が加算され、第3信号伝達部H3が減算されるので、第3信号伝達部H3の出力電圧V3は式9で表すことができる。
【数9】

【0064】
式8を変形するとV2=V0/H1であるので、これを式9に代入すると、式10が成立する。
【数10】

【0065】
第4信号伝達部H4の伝達関数をH4とすれば、第4信号伝達部H4の出力電圧V4は、式10を考慮して式11で表すことができる。
【数11】

【0066】
式7及び式8より、変調増幅部2の入力電圧V1は、式12で表すことができる。
【数12】

【0067】
さらに、式6及び式11より、式13が成立する。
【数13】

【0068】
式13を整理すると、出力電圧V0と入力電圧eSとの関係は、式14で表すことができる。
【数14】

【0069】
ここで、上記した第1ないし第4信号伝達部H1〜H4の伝達関数(式2〜式5参照)に基づいて、このディジタルアンプにおける総合伝達関数Hを算出すると、総合伝達関数H(s)は式15で表すことができる。
【0070】
【数15】

【0071】
式15において、高域側ターンオーバ角周波数ωx≫低域側ターンオーバ角周波数ω0及び高域側ターンオーバ角周波数ωy≫低域側ターンオーバ角周波数ω0であり、ω0付近までの周波数特性に注目すると、上記総合伝達関数H(s)は次式で近似することができる。
【0072】
【数16】

【0073】
なお、
【数17】

である。
【0074】
ここで、Dxは、本実施形態のディジタルアンプにおけるダンピングファクタである。また、式17におけるAv×β1×β2は、図1における変調増幅部2→第2信号伝達部H2→第4信号伝達部H4→変調増幅部2を介する経路L1の低域側ターンオーバ角周波数ω0以下の周波数に対するループ利得である。すなわち、式17は、第1信号伝達部H1単体におけるダンピングファクタである「D」が、ループ利得によって「Dx」に変更されることを意味している。
【0075】
図4は、ループ利得とダンピングファクタとの関係を示す図である。より詳細には、第1信号伝達部H1単体におけるダンピングファクタD(D=0.001〜2.0)をパラメータとして、本実施形態に係るダンピング補正回路のループ利得によってディジタルアンプとしてのダンピングファクタDxがどのように変化するかを示した図である。
【0076】
同図によれば、ループ利得の増加とともにダンピングファクタDの変化範囲が大幅に抑制されており、ループ利得が「1」に近づくにつれてダンピングファクタDxが「1」に収束していくのがわかる。また、元のダンピングファクタDが小さいほど、本実施形態におけるダンピングの補正効果が大きくなっていくのがわかる。
【0077】
図5は、本実施形態のダンピング補正回路を適用したときの負荷抵抗Rの変化に対する周波数特性を示す図であり、約0.13程度の比較的小さいループ利得の場合の周波数特性を示している。
【0078】
図9に示した、従来の2次LPFにおける負荷抵抗Rの変化に対する周波数特性と比較すると、負荷抵抗R=5R0のとき従来ではカットオフ周波数(約60kHz)付近において基準レベル(約30dB)に対して約11dBのピークが見られたが(図9参照)、本実施形態では約7dBに改善されている。また、負荷抵抗R=25R0のとき従来では基準レベルに対して約23dBのピークが見られたが(図9参照)、本実施形態では約12dBに改善されている。さらに、負荷抵抗R=125R0のとき従来では基準レベルに対して約36dBのピークが見られたが(図9参照)、本実施形態では約13dBに改善されている。
【0079】
このように、本実施形態のダンピング補正回路を適用した場合、元のダンピングファクタが小さい(周波数特性のピークが大きい)ほど著しい改善効果が表れていることがわかる。
【0080】
図6は、第1信号伝達部H1のインダクタLとしてのコイルに流れる電流の周波数特性を示す図であり、本実施形態のダンピング補正回路を適用した場合と、図8に示した、従来の2次LPFの場合とを比較したものである。
【0081】
同図では、同じ入力電圧であって負荷抵抗R=125R0にしたときのコイル(インダクタL)に流れる電流の周波数特性を比較している。ダンピング補正回路が適用されていない従来の2次フィルタにおいては、カットオフ周波数ω0付近において直列共振の影響で非常に大きな電流がコイルに流れている。それに対し、本実施形態に係るダンピング補正回路を適用した場合は、わずかな電流増加に抑制されていることがわかる。
【0082】
このように、本実施形態に係るディジタルアンプによれば、負荷抵抗Rの変化による2次フィルタ(第1信号伝達部H1)における周波数特性の変化を少なくすることができ、負荷抵抗Rの変化によるダンピングファクタの変動を抑制することができる。また、無負荷時あるいは極めて軽負荷時に何らかの原因によって2次フィルタ(第1信号伝達部H1)のカットオフ周波数ω0付近の信号が入力された場合にも過電流が流れることがなく、MOS−FET等のスイッチング素子の破損及び2次フィルタを構成するコンデンサCの破損、並びにインダクタLとしてのコイルの過熱等を抑制することができる。
【0083】
もちろん、この発明の範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、上記実施形態に示した回路構成は一例であり、同等の機能を有するものであれば、種々の回路を適用することができる。例えば図2にディジタルアンプの詳細回路図を示したが、本願発明はこの回路に限るものではない。
【0084】
また、例えば図7は、ディジタルアンプの変形例を示す図であるが、上記実施形態では第4信号伝達部H4の出力V4を加算部1に入力しているが、この構成に代えて、第4信号伝達部H4の出力V4を反転回路4によって位相反転して変調増幅部2のパルス幅変調回路21の負帰還側に加算するようにしてもよい。
【0085】
また、図1における第4信号伝達部H4は、上述したように周波数特性が階段状の特性であるものが好ましいが、これに限らず、フラットな周波数特性(例えば伝達関数が単なる利得β3)のものであってもよい。この場合、ループ利得を変更することでほぼ同様な効果を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本願発明に係るダンピング補正回路が適用されるディジタルアンプのブロック構成図である。
【図2】図1に示すディジタルアンプの詳細回路図である。
【図3】第1ないし第4信号伝達部の周波数特性を示す図である。
【図4】ループ利得とダンピングファクタとの関係を示す図である。
【図5】本実施形態のダンピング補正回路を適用したときの負荷抵抗の変化に対する周波数特性を示す図である。
【図6】第1信号伝達部のインダクタとしてのコイルに流れる電流の周波数特性を示す図である。
【図7】ディジタルアンプの変形例を示す図である。
【図8】従来のディジタルアンプのブロック構成図である。
【図9】従来のディジタルアンプの変形例である。
【図10】従来の、負荷抵抗の変化に対する周波数特性を示す図である。
【符号の説明】
【0087】
1 加算部
2 変調増幅部
3 差分算出部
21 パルス幅変調回路
22 駆動回路
23 負帰還回路
31 比較回路
S オーディオ信号
FET1,FET2 スイッチング素子
1 第1信号伝達部
2 第2信号伝達部
3 第3信号伝達部
4 第4信号伝達部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号としてのオーディオ信号を変調するとともに、所定の利得で増幅する変調増幅手段と、前記変調増幅手段の出力端に接続され、所定の低周波帯域を通過させる2次フィルタで構成される第1のフィルタ手段とを備えるディジタルアンプに適用されるダンピング補正回路であって、
前記変調増幅手段の出力端に接続され、前記所定の低周波帯域では1よりも小さい所定の利得を有し、かつ前記所定の低周波帯域よりも高帯域では当該利得が所定の割合で減少する1次フィルタで構成される第2のフィルタ手段と、
前記第1のフィルタ手段の出力端に接続され、前記所定の低周波帯域では前記第2のフィルタ手段とほぼ同一の利得を有し、かつ前記所定の低周波帯域よりも高帯域では当該利得が前記第2のフィルタ手段とほぼ同一の割合で増加する伝達特性を有する第1の周波数特性補正手段と、
前記第2のフィルタ手段の出力と前記第1の周波数特性補正手段の出力との差分を算出する差分算出手段と、
前記差分算出手段の出力端に接続され、前記所定の低周波帯域では1よりも小さく前記第2のフィルタ手段の利得とは異なる所定の利得を有し、かつ前記所定の低周波数帯域よりも高帯域では当該利得が前記第1の周波数特性補正手段とほぼ同一の割合で増加する伝達特性を有する第2の周波数特性補正手段と、
前記オーディオ信号と前記第2の周波数特性補正手段の出力とを加算又は減算して前記変調増幅手段の入力に帰還させる帰還手段と、を備えることを特徴とするダンピング補正回路。
【請求項2】
前記第1のフィルタ手段は、インダクタ、キャパシタ及び抵抗素子を含む2次のローパスフィルタで構成されており、
前記第2のフィルタ手段は、前記インダクタ及びキャパシタによる共振周波数と略等しい周波数をカットオフ周波数とする1次のローパスフィルタで構成されており、
前記第1の周波数特性補正手段は、前記共振周波数より高い周波数帯域では6dB/octで利得が増加する伝達特性を有し、
前記第2の周波数特性補正手段は、前記共振周波数より高い周波数帯域では6dB/octで利得が増加する伝達特性を有する、請求項1に記載のダンピング補正回路。
【請求項3】
前記第2の周波数特性補正手段は、
前記所定の低周波帯域では1よりも小さく前記第2のフィルタ手段の利得とは異なる所定の利得を有し、かつ前記所定の低周波数帯域よりも高帯域では当該利得が前記第1の周波数特性補正手段とほぼ同一の割合で増加する伝達特性に代えて、
1よりも小さく前記第2のフィルタ手段の利得とは異なる所定の利得でフラットな伝達特性を有する、請求項1又は2に記載のダンピング補正回路。
【請求項4】
前記変調増幅手段、前記第2のフィルタ手段及び前記差分算出手段で構成される第1の信号経路、並びに前記変調増幅手段、前記第1のフィルタ手段、前記第1の周波数特性補正手段及び前記差分算出手段前記で構成される第2の信号経路の各ループ利得は、オーディオ信号帯域においてそれぞれ等しく、かつ1以下である、請求項1ないし3のいずれかに記載のダンピング補正回路。
【請求項5】
入力信号としてのオーディオ信号を変調するとともに、所定の利得で増幅する変調増幅手段と、
前記変調増幅手段の出力のうち所定周波数の帯域を通過させる2次フィルタを構成する第1のフィルタ手段と、
請求項1ないし請求項4に記載のダンピング補正回路とを備えたことを特徴とする、ディジタルアンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−218668(P2009−218668A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57547(P2008−57547)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】