説明

チアゾリジンジオン誘導体およびその化合物を製造する方法

式(I):(式中、AはC1−C6炭化水素鎖を介して酸素原子と結合した環状基を表し、Rは水素もしくはC1−C4アルキルであり、そしてQは水素、または例えばアセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイル、ベンジル、もしくはトリチルなどのアミン保護基である)の化合物は、ピオグリタゾン、ロシグリタゾンおよびトログリタゾンなどのチアゾリジンジオン誘導体(式(II))を製造する際に有用である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピオグリタゾンなどのチアゾリジンジオン誘導体を製造する方法および前記方法において有用な化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
多数のチアゾリジンジオン誘導体もしくは「グリタゾン系」は、血糖降下活性および/または血中脂質低下活性を示すことが知られており、特に、糖尿病を治療する際に使用するために提案されてきた。より多くのよく知られている、および/または研究されたグリタゾン系の一部には、ピオグリタゾン、トログリタゾン、およびロシグリタゾンが含まれる。式(1):
【化1】

の化学的5−[[4−[2−(5−エチル−2−ピリジンイル)−エトキシ]フェニル]メチル]−2,4−チアゾリジンジオンであるピオグリタゾンは、市販認可された抗糖尿病薬である。塩酸塩としてのピオグリタゾン系を含む医薬組成物は、II型糖尿病を治療するために商標名ACTOS(登録商標)(Takeda Chemical Ind.)を付けて市販されている。
【0003】
ピオグリタゾンおよびその塩酸塩は、欧州特許第193256号および対応する米国特許第4,687,777号に開示されている。これらの特許では、ピオグリタゾンなどのグリタゾンは、チオ尿素を用いてα−ブロモ酸エステル(2)を環化するステップによって生成できる。結果として生じるイミノ−チアゾリジンジオン(3)は次に、対応するグリタゾンを生成するために加水分解される。ピオグリタゾンについては、この反応は次のように表すことができる。
【化2】

【0004】
出発α−ブロモ酸エステル(2)は、メーヤワイン(Meerwein)・アリール化によって調製できると教示されている。この方法は、対応するアニリン(4)を調製するステップ、臭化水素酸の存在下でそれをジアゾ化するステップ、および下記に示すように酸化第一銅による触媒作用下でジアゾ化生成物をアクリル酸エステル(5)と結合させるステップを含んでいる。
【化3】

【0005】
しかし、メーヤワイン・アリール化反応によってα−ブロモ酸エステルを生成するステップには問題がある可能性がある。この変換内の反応での順序は精密に制御されなければならない。さもなければ、反応中に生成したジアゾ化合物は、臭化物アニオンなどのまた別の求核基と反応して複雑な結果をもたらすであろう。このため、この反応は複雑な結果およびより低い化学収率を生じさせることが多い。
【0006】
さらに、出発アニリン誘導体(4)の調製は、特殊な装置を必要とする水素添加ステップを含んでおり、これはスケールアップする時点で困難を生じさせる。
【0007】
米国特許第4,287,200号および第4,481,141号に関連する欧州特許第0 008 203号は、可能性のある数種の方法によって形成できる追加の、すなわちピオグリタゾンではないグリタゾン系を開示している。欧州特許第193256号に記載された一般的スキームに加えて、2つ以上の合成経路が提案されている。ある技術は、企図されたグリタゾンを生成するために下記:
【化4】

に示した環化反応を含んでいる。しかし、出発チオシアノ化合物の生成については記載されていない。
【0008】
欧州特許第0 008 203号に言及された他の技術は、グリタゾンを生成するためにフェノール性酸素のアルキル化を介してチアゾリジン含有成分と置換アルキル成分とを結合するステップを含んでいる。ピオグリタゾンへ適用すると、この反応は下記:
【化5】

(式中、Xは適切な離脱基を表す)のように表すことができよう。しかし、そのようなピオグリタゾンを生成するアルキル化のための反応条件は明示的には開示されておらず、さらにその上、(9)のO−アルキル化の知られている一般的反応条件は低収率でしかピオグリタゾンを提供しないであろうと考えられる。詳細には、O−アルキル化のための化合物(9)の低い選択性は、側鎖N−アルキル化の望ましくない生成物を引き起こすと思われる。同様に、式(10)の化合物は、それらが、式(10A):
【化6】

のビニルピリジン化合物が形成されると、特に化合物(9)との求核基置換反応のために必要な条件下では、側鎖脱離反応に対して感受性である点で不安定である。化合物(9)のN−およびO−アルキル化の生成物の比率が近接していると、精製における問題を引き起こし、低い化学収率を引き起こす可能性がある。
【0009】
ピオグリタゾンなどのグリタゾン系を製造するためのまた別の方法を見いだすことは望ましいであろう。製造するのが安価および/または相当に容易な出発化合物からグリタゾンを製造するための方法を見いだすことは、さらに望ましいであろう。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、グリタゾン系、特にピオグリタゾンを製造するための新規方法の発見に基づいている。したがって、本発明の第一態様は、式(15):
【化7】

(式中、AはC1−C6炭化水素鎖を介して酸素原子と結合した環状基を表し、Rは水素もしくはC1−C4アルキルであり、そしてQは水素またはアミン保護基、好ましくはアセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイル、ベンジル、もしくはトリチルである)の化合物に関する。式(15)の好ましい化合物は、式(14):
【化8】

(式中、RおよびQは式(15)におけると同一の意味を有する)を有する。これらの化合物は、グリタゾン系、特にピオグリタゾンを製造する際に有用である。
【0011】
したがって、本発明のまた別の態様は式(15)の化合物を式(16):
【化9】

(式中、Aは上記に規定したとおりである)のグリタゾンへ変換させるステップを含む方法に関する。好ましい方法は、式(14)の化合物を式(1):
【化10】

のピオグリタゾンへ変換させるステップを含んでいる。好ましくは、Qは水素である、またはQがアミン保護基である場合は、この変換させるステップは一般に遊離アミノ基を提供するための脱保護ステップを含んでいる。一般に、式(14)の化合物をピオグリタゾンへ変換させるステップは、式(11A):
【化11】

(式中、Rは水素もしくはC1−C4アルキル基を表す)、式(2):
【化12】

(式中、Rは水素もしくはC1−C4アルキル基を表し、Yは好ましくは例えばブロモなどのハロゲンである離脱基を表す)、またはその両方の中間体化合物を生成するステップを含んでいる。
【0012】
本発明のまた別の態様では、式(14)の化合物は、式(12):
【化13】

(式中、Rは水素もしくはC1−C4アルキルであり、Qは水素もしくはアミン保護基である)の化合物を、式(10):
【化14】

(式中、Xは、式(14)の化合物を生成するための離脱基である)の化合物と反応させるステップによって製造できる。そのような方法は、安価な出発物質、特にチロシンによって式(14)の出発化合物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、グリタゾン系を製造するための新規の合成経路の発見およびその中で有用な新規の中間体に関する。一般に、この合成経路は、適切なアルキル化剤を用いてチロシンもしくは式(12)の保護されたチロシンをアルキル化して式(15)の化合物を生成するステップを含んでいる。このアミノ酸/エステル基は、次にそれによってグリタゾン(16)を生成するためにチアゾリジンジオン環へ変換される。この合成は下記:
【化15】

(式中、Rは水素もしくはC1−C4アルキルであり、Qは水素もしくはアミン保護基であり、Xは離脱基であり、そしてAは、アルキル化後にC1−C6炭化水素鎖を介して酸素原子と結合する環状基を表す)のように表すことができる。式(15)の化合物の変換は、必ずしも単独ステップでは実施されない。むしろ、上記のスキームは、各変換のために複数の反応ステップを含む可能性がある一般的アプローチである。
【0014】
現在では、チロシンもしくはその保護された誘導体を用いてO−アルキル化を実施するステップが、欧州特許第0 008 203号に示唆されたようなチアゾリジンジオンのO−アルキル化より高い収率/少数の副生成物を提供することが見いだされている。さらに、チロシンもしくはその保護された誘導体が出発物質、すなわち式(12)の化合物として使用されるので、ときには問題となるメーヤワイン・アリール化手順を回避できる。これは、グリタゾンを製造するためにより安価な出発物質をより安価な方法において使用できることを意味する。
【0015】
以下では、ピオグリタゾンが標的グリタゾンである好ましい実施形態を参照しながら本発明を説明する。しかし本発明はそれに限定されず、これらの技術および方法は適切な「A」基を選択することによって他のグリタゾン系へ同等に適用できることを理解されたい。
【0016】
本発明によると、式(12)の亜属である式(11)の化合物は、安価な市販で入手できるチロシン(6)から出発する方法によって調製できる。「チロシン」には、L−チロシン、D−チロシン、DL−チロシン、およびそれらの混合物が含まれる。例えば、チロシンはL−チロシンであってよい。この方法を下記のスキーム1に略述した。
スキーム1
【0017】
【化16】

【0018】
上記の式では、変量は下記のとおりである。
1は、分枝鎖を含むC1−C4アルキル基を表し、好ましくはメチル、エチル、もしくはイソプロピルである;
ZおよびZ2は、独立してアミン保護基を表す。好ましいアミン保護基は、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイル、ベンジル、トリチル、ベンジルオキシカルボニル、ホルミル、フェナシルスルホニル、および9−フルオレニルメトキシカルボニルである;および
Rは、水素、または分枝鎖を含むC1−C4アルキル基を表し、好ましくはメチル、エチル、もしくはイソプロピルである。
【0019】
上記のスキームでは、式「A−X」の亜属である化合物(10)は、下記の式:
【化17】

(式中、Xはハロゲン、メタンスルホニルオキシ基もしくはp−トルエンスルホニルオキシ基などの離脱基である)によって表される。明確にするために、「Et」はエチル基を表す。
【0020】
式(6)、(12A)および(12B)の化合物は、共通一般式(12):
【化18】

(式中、Rは上記に規定したとおりであり、Qは水素もしくはアミン保護基、Zである)によって表すことができる。
【0021】
式(13A)および(13B)の化合物は、共通一般式(13):
【化19】

(式中、RおよびZは上記に規定したとおりである)によって表すことができる。
【0022】
式(13A)、(13B)および(11)の化合物は、下記の一般式(14):
【化20】

(式中、Rは上記に規定したとおりであり、Qは水素もしくはZである)によって表すことができる。
【0023】
変異体A:
この変異体は、適切な塩基の存在下で、適切な不活性溶媒中での化合物(10)(式中、Xは適切な離脱基である)によるチロシンの直接的O−アルキル化を含んでいる。例えば、適切な化合物(10)には、2−エチルピリジン−5−イルエチルメシレートもしくはトシレート、すなわち式(10)(式中、Xは各々メタンスルホニルオキシ基またはp−トルエンスルホニルオキシ基である)の化合物が含まれる。これらの化合物は知られている方法によって、例えば欧州特許第0 506 273号に示されている方法に類似する方法によって調製できる。
【0024】
この変異体におけるO−アルキル化反応の増加した選択性は、双極性非プロトン性溶媒中、例えばジメチルスルホキシド中で、適切な塩基(それによりチロシンはその塩基との対応する塩へ変換される)の存在下またはチロシンのカルボキシ基およびアミノ基とのキレート化合物を形成できる遷移金属塩、例えばニッケルもしくは銅塩の存在下において、縮合を実施することによって達成できる。チロシン塩がそのような溶媒中に中程度にしか溶解性ではないことは短所である。溶媒に水を添加すると溶解度が上昇するが、同様に望ましくないN−アルキル化の可能性も増加する。一般に、反応混合物中の最高に適切な含水量は約20%であるが、そのような混合物中のL−チロシンのナトリウム塩の溶解度はそれでもまだ4%未満である。
【0025】
適切な塩基の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物が含まれる。他の適切な塩基には、例えばフェニル、ベンジルもしくは少なくとも10個の炭素の脂肪族炭素鎖などの少なくとも1つの大きい置換基を有する塩基などの第4級水酸化アンモニウムが含まれる。そのような化合物は、双極性非プロトン性溶媒中でのチロシンの溶解度を増加させ(そこで、必要とされる水は少なくなる、または不要にさえなる)、化合物(10)の望ましくない脱離反応を触媒する可能性が小さくなる。適切な第4級水酸化アンモニウムの例は、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム(トリトンB)である。1つの実施形態では、チロシンがトリトンBのメタノール溶液中に溶解させられ、溶媒が蒸発させられ、そして残基がジメチルスルホキシド中に溶解させられる。この方法で、溶媒中のチロシン溶液の20%(w/V)以上の濃度を入手することが可能である。アルキル化反応は、チロシン溶液中において、2−エチルピリジン−5−イルエチルメシレートもしくはトシレートなどの式(10)の化合物を、それ自体、もしくはチロシン溶液と同一もしくは相違する溶媒中のいずれかで添加することによって実施できる。任意で、同一もしくは水酸化アルカリ金属塩などの相違する塩基の追加部分をこの溶液に添加することができる。アルキル化反応は、一般に周囲温度、すなわち20℃〜30℃で容易に進行するが、所望であればより高い温度を使用できる。
【0026】
変異体B:
この変異体では、変換方法は、保護基Zを用いてチロシンのアミノ基を保護して式(12A)の保護されたチロシンを生成するステップを含んでいる。第1ステップでは、チロシンのアミノ基が適切な保護剤を用いた反応によるアルキル化剤を用いて副反応に対して保護される。保護は、アセチル基などのアシル基によってであってよい。その他の適切な保護基Zは、ベンジル、トリチル、ベンゾイル、ベンジルオキシカルボニル、ホルミル、フェナシルスルホニル、および9−フルオレニルメトキシカルボニル基である。
【0027】
そこで、そのような保護剤の例は、N−アセチルチロシン(化合物(12A)、Z=アセチル基)などのN−アセチル化チロシンエステルを生成する無水酢酸である。N−アセチルチロシンは、チロシンの水性懸濁液を無水酢酸で処理し、溶媒を蒸発させ、そしてアセトンにより生成物を抽出することによって生成できる。任意で、粗生成物は、例えば1,4−ジオキサンもしくはテトラヒドロフランから再結晶化させることができる。
【0028】
保護された、例えばアセチル化されたチロシンは、次のステップにおいて2−エチルピリジン−5−イルエチル成分の起源、すなわち式(10)の化合物と結合させられる。そのような適切な化合物の例は、式(10)(式中、Xはメタンスルホニルオキシ基である)の化合物である2−エチルピリジン−5−イルエチルメシレートである。
【0029】
縮合反応は、有益にも、塩基、例えば炭酸カリウムもしくは有機アミンの存在下で、適切な溶媒中、例えば水、低級アルコール、もしくはジメチルホルムアミドなどの双極性非プロトン性溶媒中で両方の基質を接触させるステップによって実施される。有機アミンの例には、化合物(10)の望ましくない脱離反応を抑制するために低求核性を有する例えばエチルジイソプロピルアミンなどの有機アミンが含まれる。反応温度は、例えば約25℃〜50℃などの、周囲温度から溶媒の沸点までの温度である。反応の経過は、例えばTLCまたはHPLCによる適切な方法によって監視できる。
【0030】
最終ステップでは、このように入手された中間体(13A)は、アミノ基を遊離させるために脱保護される。脱保護反応の選択は、当技術においてよく知られるように保護基の性質に依存する。N−アセチル化の場合は、脱保護は酸、例えば塩酸を用いた加水分解によって実施することができる。
【0031】
変異体C:
この変異体では、変換方法は、適切な保護基Z1およびZ2を用いてチロシンのカルボキシ基およびアミノ基の両方を保護して式(12B)の保護されたチロシンを生成するステップを含んでいる。第1ステップでは、チロシンは従来型のエステル化反応によってエステル(化合物(6’)、式中、Z1は低級アルキル基もしくはベンジル基である)へ変換される。例えば、エステル化はエタノールを用いて実施でき、結果として生じる保護されたエステルはチロシンエチルエステル(化合物(6’)、Z1はエチルである)である。あるいは、エステル化はイソプロパノールを用いて実施でき、結果として生じる保護されたエステルはチロシンイソプロピルエステル(化合物(6’)、Z1=イソプロピル)である。チロシンエステル、特にチロシンエチルエステルもまた市販で入手できる。製造様式に依存して、それらは単離して次のステップにおいて遊離塩基もしくは酸付加塩(例、塩酸塩)として使用できる。チロシンエステルは有機溶媒中に溶解性であるので、その後の反応はチロシン自体は反応しない条件下で実施されてよい。
【0032】
第2ステップでは、チロシンエステルは、反応性アミノ基を保護する保護基Z2をもたらす適切な物質と反応する。チロシンエステルを保護するためのZ2基は、本質的に先行変異体において記載したZ基である。例えば、チロシンエチルエステルもしくはチロシンイソプロピルエステルのアセチル化は、塩基の存在下、例えばトリエチルアミンなどの有機塩基の存在下で、適切な不活性溶媒中、例えばジクロロメタンなどの塩素化炭化水素中での無水酢酸との反応によって実施できる。
【0033】
保護された、例えばアセチル化されたチロシンエステル(12B)は、次のステップにおいて2−エチルピリジン−5−イルエチル成分の起源、すなわち式(10)(式中、Xは適切な離脱基である)の化合物と結合させられる。この化合物の例は、上記で考察したように2−エチルピリジン−5−イルエチルメシレートである。
【0034】
保護されたチロシンエステルおよびピリジン化合物(10)の縮合は、両方の成分を塩基の存在下の不活性溶媒中で混合し、それらを適切な温度で反応させるステップによって実施できる。不活性溶媒は、例えばアルコール(例、エタノール)、炭化水素(例、トルエン)、およびそれらの混合物であってよい。塩基は、有機もしくは無機塩基、例えば炭酸カリウムであってよい。反応温度は、例えば約25℃〜110℃の、周囲温度から溶媒の沸点までの温度である。反応の経過は、例えばTLCまたはHPLCによる適切な方法によって監視できる。化合物(10)は、モル過剰で、例えば約5〜50%の過剰で装填することが推奨される。
【0035】
化合物(10)は、副エステル交換反応を受ける可能性があり、それによって式(13C):
【化21】

の副生成物が生成される。この副生成物は、従来型手段によって、例えばクロマトグラフィーによって所望の生成物(13B)から分離できるが、これは必ずしも必要としない。副生成物(13C)は、単離された生成物(13B)中に存在する場合は常に、同一の脱保護反応を受け同一生成物を産生するので次のステップに有害な影響を及ぼさない。この副生成物の量は、チロシンエステル(6’)中のエステル基の適正な選択によって減少させることができる。例えば、チロシンのイソプロピルエステルは、チロシンエチルエステルよりエステル交換反応に対して低感受性である。
【0036】
反応の生成物、すなわち式(13B)の化合物は、遊離アミノ基を遊離させるために最終ステップにおいて脱保護される。脱保護は、式(11)(式中、Rは水素もしくはZ1基である)の化合物を産生する完全もしくは部分的であってよい。脱保護の手段は、保護剤の選択に依存する。保護アセチル化(化合物(13B)中のZ2はアセチル基である)の場合は、脱保護は酸性加水分解によって、例えば塩酸を用いるステップによって達成される。したがって、この化合物のエステル基は脱保護中に加水分解することもできるが、エステル基はピオグリタゾンへのその後の変換中にも反応するのでこれは必要とされない。
【0037】
上記の変異体のいずれかによって、ピオグリタゾンを製造するための所望の化合物(11)が入手される。化合物(11)は、出発物質、N−保護化の方法、および脱保護条件に依存して、酸もしくはエステルであってよい。化合物(11)は、酸(R=H)、エステル(R=C1−C4アルキル基)、またはそれらの混合物であってよい。化合物(11)は、遊離塩基として、または適切な酸との酸付加塩として単離でき、後者は長期間の保存もしくは輸送のために有用である。化合物(11)は、知られている手段によって、例えば適切な溶媒からの再結晶化によって所望の純度まで精製できる。あるいは、それは単離せずに次のステップにおいて使用できる。
【0038】
式(13A)、(13B)、および(11)の化合物からなる式(14)の化合物は、ピオグリタゾンへ変換させることができる。この変換は、一般にチアゾリジンジオン環を生成するための環化するステップを含んでいる。式(14)の化合物を変換させるための、式(11)の化合物を生成するステップ、すなわち式(13A)もしくは(13B)の化合物が使用され、次にピオグリタゾンへの変換における初期ステップとしてアミン保護基が除去されるかどうかに基づく数種の経路を下記に示す。本発明は、それには限定されず、それによって式(14)の化合物が式(1)のピオグリタゾンへ変換されるいずれかの合成経路を含んでいる。
【化22】

スキーム2
【0039】
スキーム2の第1ステップでは、化合物(11)はニトロソ化剤と反応する。本明細書で使用するように、「ニトロソ化剤」は、反応のためにN=O成分を提供するいずれかの化合物または化合物の組み合わせである。従来型ニトロソ化剤には、亜硝酸、四酸化二窒素、亜硝酸アルキル(例、亜硝酸アミル)、またはハロゲン化ニトロシル(例、塩化ニトロシル)が含まれる。亜硝酸は、亜硝酸ナトリウムなどの金属亜硝酸塩から、および硝酸などの酸からインサイチューで生成できる。同様に、塩化ニトロシルは、例えば亜硝酸アルキルと金属ハロゲン化物との反応によってインサイチューで生成することもできる。
【0040】
ニトロソ化反応の生成物は高度に反応性であり、これはその後に単離する必要なく直ちに(すなわち、インサイチューで)反応することができる。ニトロソ化剤との反応のメカニズムは、正確には知られていない。理論によって結び付けることを望まなくても、ジアゾ化反応が推定されるが、隣接エステル基もまた不安定性環状アゾエステルを生成するための反応において作用することもできる。いずれかの事象において、ニトロソ化生成物は、スキーム2に示したようなピオグリタゾンをもたらす様々な中間体へ変換させることができる。
【0041】
例えば、変換は式(2)の化合物を生成するために酸H−Yとの反応を含むことができる。Yは離脱基を表し、他方Hは供与性の水素もしくはプロトンを表す。H−Yの例には、臭化水素酸などのハロゲン化水素酸、および式R’−SO2−OH(R’は、低級アルキル(例、メチル、エチル)、フェニル、またはトリル基、例えばメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、もしくはp−トルエンスルホン酸である)のアルキルスルホン酸もしくはアリールスルホン酸が含まれる。
【0042】
酸H−Yの存在下でのニトロソ化反応は、適切な不活性溶媒中、例えば水中で、そして−10℃〜20℃などの低温で実施できる。
【0043】
式(2)の上記の化合物は、いずれか適切な化学反応によってピオグリタゾンに変換させることができ、そのうちの2つはスキーム2に示されている。第1経路は欧州特許第0 008 293号における一般的教示に従っており、任意に反応混合物からの単離後に、式(2)の化合物とチオ尿素とを反応させるステップを含んでいる。チオ尿素の硫黄原子はY−基に置換し、カルボキシル基はチオ尿素のアミノ基と反応する。結果として、式(3)の化合物を入手するためにイミノチアゾロン環が形成される。そのような反応の条件は、式(2)の化合物がエステルである、すなわちR基がアルキルである場合において一般に知られている。これらの条件は、さらにまたRが水素(=酸)である式(2)の化合物にも適用できる。最終ステップでは、イミノ−チアゾリジンジオン(3)は、上述したように当分野において知られている加水分解の方法によってピオグリタゾンへ変換される。
【0044】
あるいは、式(2)の化合物は、不活性溶媒中でのイソチオシアン酸金属塩との反応によって式(11A)の化合物へ変換させることができる。好ましくは、式(2)の化合物は、Yがハロゲン、特にBrであり、金属がアルカリ金属であるがそれに限定されない化合物である。
【0045】
式(11a)の化合物が形成されると、その化合物は知られている技術によってピオグリタゾンを生成するために環化することができる。例えば、イソチオシアナト化合物(11A)は、触媒、典型的には酸性触媒の存在下などで、水性加水分解によってチアゾリジン−2,4−ジオン化合物に環化することができる。適切な酸には、塩化水素酸などのハロ水素酸、硫酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、およびp−トルエンスルホン酸などのアルキルスルホン酸もしくはアリールスルホン酸が含まれる。スルホン酸は、従来型の塩化水素酸または欧州特許第0 008 203号に提案された硫酸より実質的に高い収率および純度を提供する。水を含有する液体であるメタンスルホン酸は、さらにまた加水分解のための溶媒として機能できる。
【0046】
式(2)の化合物の形成とは独立して、式(11A)の化合物は、ロダン化水素(hydrogen rhodanide)との反応によってニトロソ化生成物から直接的に生成できる。ニトロソ化によるα−アミノ酸(11)のαロダン酸(11A)への変換は驚くべき特徴である。この直接的変換は、通常は、過剰のイソチオシアン酸金属塩、特にイソチオシアン酸アルカリ塩、例えばイソチオシアン酸リチウムを用いて、プロトン供与体、例えば酢酸などの酸の存在下で、エーテル溶媒中、例えばテトラヒドロフラン中に溶解させるステップによって実施される。ニトロソ化剤、特にアルキル亜硝酸塩、例えばイソアミル亜硝酸塩を用いた反応混合物の処理は、式(11)の化合物の(11A)への変換を引き起こす。好ましくは、この反応は周囲温度もしくは周囲温度近く、例えば15℃〜30℃で進行する。式(11A)の化合物は次に、上述の知られている技術によって環化して式(1)のピオグリタゾンを生成することができる。
【0047】
ピオグリタゾンは、いずれの変換経路によって生成されていても、塩基として単離できる、または医薬上許容される酸付加塩などの酸付加塩に変換することができる。そのような塩の例は、塩酸ピオグリタゾン、臭化水素酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、安息香酸塩、メシレート、およびトシレートである。
【0048】
ピオグリタゾンおよびその医薬上許容される塩は、貴重な医薬製剤である。それはピオグリタゾンおよび医薬上許容される担体もしくは希釈剤を含む様々な医薬組成物に使用できる。これらの組成物は、経口投与のために調製できる。単位製剤には、錠剤およびカプセル剤が含まれる。ピオグリタゾンを含む医薬組成物および最終製剤は、知られている方法によって製造できる。錠剤組成物は、混合、充填、および圧縮などの知られている混合方法によって、湿式造粒法、乾式造粒法、または直接圧縮法によって調製できる。
【0049】
錠剤もしくはカプセル剤などのピオグリタゾンを含む個別単位投与用組成物は、例えば2.5、5、10、15、20、30、もしくは45mgの量などの1から100mgまたは2から50mgの化合物を含有していてよい。そのような組成物は、通常は1日1回などの、1日1から3回摂取される。実際には、医師が、個々の患者にとって最も適合する実際投与量および投与レジメンを決定するであろう。
【0050】
ピオグリタゾンは、様々なタイプの高血糖症および糖尿病、特にII型糖尿病の管理において使用できる。本発明は、これらの障害のいずれか1つ以上を治療および/または予防するための薬剤の製造における本発明のピオグリタゾンの使用をさらにまた含んでいる。ピオグリタゾン組成物は、医学的用途において、例えば一定の形状の糖尿病の治療において、単独で、または他の抗糖尿病薬、例えばメトホルミンと組み合わせてのいずれかで使用できる。この組み合わせは、単一併用調製物の形状であってよい、または上記の物質を含有する薬物の別個の投与によってでよい。
【0051】
上記で言及したように、本発明はピオグリタゾンに限定されず、他のグリタゾンを製造するために使用できる。これに関して、欧州特許第0 008 203号または米国特許第6,288,096号によって含まれるいずれのグリタゾンも、本発明の方法によって;すなわち、チロシンまたは式(12A)もしくは(12B)の保護されたチロシンから製造できる。式(10)のアルキル化剤をまた別の適切な、一般には式A−Xの反応パートナーと置換するステップによって、式(11)および(13)の対応するアナログを入手し、そして次に上記に示したように所望のグリタゾン化合物へ変換させることができる。例えば、化合物(11)および(13)のアナログは、式(15):
【化23】

(式中、RおよびQは上記に規定したとおりである)によって表すことができる。式(15)の化合物は、式(14)について上述したように環化経路によって式(16):
【化24】

(上記の式中、「A」はC1−C6炭化水素鎖を介して酸素原子と結合した環状基を表す)のグリタゾンに変換させることができる。環状基は、特別には限定されず、一般には5〜12個の原子を有する置換および未置換芳香族および非芳香族環が含まれる。好ましくは、環状基の環部分はフェニル環;炭素原子である残りの環状原子とともに、窒素、酸素および硫黄原子から選択される1もしくは2個のヘテロ原子を有するピリジン環などの5−もしくは6−員環複素環;または炭素原子である残りの原子とともに、3個までの原子が窒素、酸素および硫黄原子から選択されるヘテロ原子であってよい8〜10個の原子を有する二環式環である。環部分は、ハロゲン、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、アミノ、アシル、スルホニル、スルフィニル、カルボキシル、アシルアミノ、およびそれらの組み合わせから選択される1つ以上の置換基を用いて置換できる。環状部分は、直接的に、またはカルボニル基もしくはアミノ基から選択される連結基によるどちらかで炭化水素鎖へ結合することができる。炭化水素鎖は、1から6個の炭素原子を有する飽和もしくは非飽和であってよい。さらに、鎖は上述したように連結基によって中断されてよい、および/またはC1−C4アルキル基を用いてアルキル置換されてよい。
【0052】
好ましい「A」基には、下記の式(a)〜(c):
【化25】

【化26】

および
【化27】

の環状基が含まれる。
【0053】
式(16)(式中、「A」は式(a)である)は、ピオグリタゾンおよびその位置異性体に対応する。同様に、式(16)中において式(b)を用いるとロシグリタゾンに対応するが、式(c)を用いると式(16)はトログリタゾンに対応する。
本発明の化合物および方法は、市販で入手でき許容可能な収率および純度で安価なチロシンからピオグリタゾンを含むグリタゾン系の調製を可能にする。
上述した特許の各々は、参照して全体が本明細書に組み込まれる。以下では、本発明を下記の実施例によって詳細に例示する。これらの実施例は非限定的であり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0054】
[実施例]
調製法1
N−アセチル−L−チロシン(化合物(12A)、Z=アセチル)
L−チロシン18.1gを水100mLと混合し、この混合物を90〜95C℃へ加熱し、そして無水酢酸85mLを滴下法で2時間かけて添加した。淡黄色溶液を真空下で蒸発させて油性残留物28.5gを得て、アセトン100mLと混合し、数分間沸騰させ、そして未反応L−チロシンを濾過によって除去した。濾液を真空中で蒸発させ、1,4−ジオキサン60mL中に溶解させた。結果として生じた黄色溶液を攪拌して種晶を入れた。沈降した結晶を濾過し、自然乾燥させ(18.5g)、テトラヒドロフランから再結晶化させた。
【0055】
調製法2
N−アセチルチロシンエチルエステル(化合物(12B)、Z1=エチル、Z2=アセチル)
塩酸チロシンエチルエステル24.6gをジクロロメタン200mL中に溶解させた。冷却(氷水浴)下で、トリエチルアミン20.2gを添加し、その後に無水酢酸10.3gを緩徐に添加した。反応混合液を同一温度でさらに1時間攪拌した。水200mLを添加し、混合液を30分間攪拌した。結果として生じた層を分離した。詳細には、ジクロロメタン200mLを用いて水相を抽出した。有機相を結合し、硫酸ナトリウムの上方を通して乾燥させ、真空下で濃縮して油性生成物29.3gを得た。
【0056】
調製法3
2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エチルメタンスルホネート
2−(5−エチルピリジン−2−イル)エタノール30.2gをトルエン300mL中に溶解させた。氷水浴中での冷却下で、トリエチルアミン20.2gを添加し、その後メタンスルホニルクロリド22.9gを緩徐に添加した。添加の完了(30分間)後、反応混合液を約3℃で1時間攪拌した。反応混合液を2×100mLの水、食塩液50mLを用いて洗浄し、そして硫酸ナトリウムの上方に通して乾燥した。
【0057】
入手したトルエン溶液はその後の合成のために使用した。
【0058】
一部の場合には、下記で考察するように、溶液100mLを蒸発させて油性生成物(14.02g)を入手した。
【0059】
調製法4
L−チロシンイソプロピルエステル
L−チロシン60gをイソプロパノール420mL中に懸濁させ、気体状塩化水素を導入し、温度を緩徐に上昇させ、そしてこの混合液を還流させながら8時間加熱した。この反応混合液を減圧下で部分的に蒸発させ、濃縮溶液を5%炭酸水素ナトリウムおよび95%ジクロロメタンの混合液1200mL中に注入した。水60mLを用いてジクロロメタン相を2回抽出し、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、そして真空によって乾燥剤を除去した。濾液を真空下で濃縮した。沈降した結晶を真空によって収集した。ケーキを自然乾燥させて121〜124℃の融点を備える第1バッチ48gを得た。118〜123℃の融点を備える第2バッチ11.8gを濾液から入手した。L−チロシンイソプロピルエステルの収率は78%であった。
【0060】
調製法5
N−アセチル−L−チロシンイソプロピルエステル
イソプロピルL−チロシン2.0gを酢酸2mL中に懸濁させ、無水酢酸9mLを滴下法で添加した。結果として生じた固体を溶解させ、混合液を90℃で6時間加熱した。反応混合液を冷却し、水10mLを希釈し、炭酸水素ナトリウム0.5gを用いて中和した。この混合液は、ジクロロメタン10mLを用いて2回抽出した。ジクロロメタン抽出物を結合し、水酸化ナトリウム溶液、水を用いて洗浄し、真空下で蒸発させた。結果として生じた油をジエチルエーテルと一緒に攪拌した。結果として生じた結晶を濾過し、自然乾燥させて90〜92℃の融点を備える生成物1.3gを得た。収率は54%であった。生成物の構造はNMRによって確認した。
【実施例1】
【0061】
DMSO中のL−チロシンナトリウム塩のアルキル化による2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸(化合物(11)、式中、R=H)の調製。
L−チロシン10gを43mLの1M NaOH中に溶解させ、ジメチルスルホキシド245mLを添加し、その後に2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エチルメタンスルホネート14gを添加した(調製法3)。この反応混合液を72時間にわたり攪拌し、真空下で溶媒を除去し、残留物を水100mL中に溶解させた。この水溶液は6N塩酸を用いて中和した。沈降物を濾過し、水を用いて洗浄した。高温メタノール水溶液からの再結晶化により3.1gの2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸(R=H)が産生した。
【実施例2】
【0062】
DMSO中のL−チロシンリチウム塩のアルキル化による2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸(化合物(11)、式中、R=H)の調製。
L−チロシン14gを水酸化リチウム12gと水120mLの混合液中に溶解させた。次に、ジメチルスルホキシド400mLを添加し、その後にトルエン100mL中に23.5gの2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エチルメタンスルホネートを添加した(調製法3)。この反応混合液を周囲温度で48時間攪拌し、次にトルエン20mLを用いて5回抽出した。6N塩酸水溶液(1:1)を用いてジメチルスルホキシド相のpHを8へ調整した。この混合液を攪拌し、沈降物を濾過し(L−チロシンのリチウム塩8.9g)、高温エタノールを用いてケーキを洗浄した。エタノールを蒸発させ、残留物を濾液に添加した。塩酸を用いて濾液をpH2へ酸性化し、50℃の真空下で溶媒を除去した。残留物を水中に溶解させ、水酸化ナトリウムの25%水溶液を用いて中和した。沈降物を濾過によって除去して7.0gの固体を得た。収率は22%であった。
【実施例3】
【0063】
DMSO中のL−チロシンベンジルトリメチルアンモニウム塩のアルキル化による2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸(化合物(11)、式中、R=H)の調製。
L−チロシン10gをメタノール中の40%水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム25mLと混合した。この混合液を加熱し、真空下でメタノールを除去した。次にジメチルスルホキシド50mLを添加し、この混合液を全部の固体が溶解するまで加熱した(90℃)。この溶液を冷却するまで放置し、そして水素化ナトリウム3.0gを添加した。次に、ジメチルスルホキシド中の2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エチルメタンスルホネート2.3gの溶液(調製法3)および固体の水素化ナトリウム2.5gを少しずつ6時間の間に添加した。反応混合液を周囲温度で攪拌しながら一晩放置した。次にアセトン150mLを添加し、沈降物を濾過し、水50mL中に溶解させ、塩酸を用いて酸性化した。この溶液を酢酸エチルで抽出し、水相を水酸化ナトリウム溶液で中和した。沈降物を濾過し、エタノール200mLと混合し、濃塩酸8mLを用いて酸性化し、そして還流させながら30分間にわたり加熱した。未溶解固体は濾過によって除去した。濾液を真空下で濃縮して冷却させた。沈降した結晶を濾過により収集し、自然乾燥させて10.5gの2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸塩酸塩を得た。
【実施例4】
【0064】
L−チロシンキレート化合物のアルキル化による2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸(化合物(11)、式中、R=H)の調製。
L−チロシン10gを54mLの2M NaOH中に溶解させ、硫酸銅6.8gの水溶液30mLを添加した。この混合液を60℃へ10分間加熱し、12.6gの2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エチルメタンスルホネート(調製法3)を溶解させたトルエン溶液88mLを添加した。この混合液を加熱し、50℃で5時間維持した。この反応混合液を水で希釈し、酢酸エチル20mLを用いて2回抽出し、そして硫化ナトリウム2gを水相に添加した。褐色の沈降物を濾過し、6N塩酸を用いて濾液を酸性化した。真空下で水を除去し、残留物を高温メタノール水溶液と混合した。未溶解結晶を濾過によって除去し、生成物を冷却して濾液から結晶化させた。1.5gの2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸(化合物(11)、式中、R=H)を得た。
【実施例5】
【0065】
2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸。
A. 2−アセチルアミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸(化合物(13A、式中、Z=アセチル)の調製。
N−アセチル−L−チロシン2.5gをイソプロパノール20mL中に溶解させ、N−エチルジイソプロピルアミン4mLを添加した。次に、トルエン16mLに溶解させた2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エチルメタンスルホネート2.1gの溶液を添加し、この反応混合液を還流させながら13時間かけて加熱した。イソプロパノールを真空下で部分的に除去し、残留物を水50mLで希釈し、トルエン5mLを用いて2回抽出した。6N塩酸を用いて水相を中和し、ジクロロメタンを用いて2回抽出した。ジクロロメタン抽出物を結合し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、次に真空下で蒸発させて油性生成物2.0gを得た。収率は69%であった。
【0066】
B. 実施例5Aのアルキル化生成物の塩酸を用いた脱アセチル化。
実施例5Aの油性生成物1.7gを3時間にわたり50mLの10%HClと一緒に還流させながら加熱した。この反応混合液を真空下で油へ濃縮して水10mL中へ溶解させ、アンモニウムを添加してpHを7.0へ調整した。沈降した結晶を濾過し、自然乾燥させて212〜217℃の融点を備える1.2gの中間体を得た。
【実施例6】
【0067】
2−アセチルアミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸(化合物(13A)、式中、Z=アセチル)塩酸塩の調製。
2.5gのN−アセチル−L−チロシン(調製法1)を炭酸カリウム1.0gおよび水1.2mLの溶液中に溶解させた。トルエン16mL中に溶解させた2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エチルメタンスルホネート2.35gの溶液を添加し、この反応混合液を3時間かけて50℃へ加熱した。次に、この反応混合液を酢酸エチルで2回抽出した。希塩酸を用いて水相を酸性化し、真空中で蒸発させた。この残留物を高温イソプロパノール30mLと一緒に加熱した。固体を濾過によって除去し、濾液を冷却した。沈降した結晶を濾過して1.8gの2−アセチルアミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸を得た。
【実施例7】
【0068】
2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸。
A. エチル−2−アセチルアミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸の調製。
N−アセチルチロシンエチルエステル29.34g(調製法2)、エタノール200mL、炭酸カリウム14.0g、および2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エチルメタンスルホネート(調製法3)のトルエン溶液200mLを攪拌しながら3時間にわたり還流させた。次に、炭酸カリウム14.0gおよび2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エチルメタンスルホネートのトルエン溶液50mLを添加し、さらに4時間還流を持続した。この混合液を水浴中で冷却させ、水100mLを冷却しながら添加した。この混合液を減圧下で約50%の容積へ濃縮し残留溶液を2×200mLの酢酸エチルで抽出した。有機相を濃縮して得られた油性生成物を次のステップにおいて直接使用した。
【0069】
B. 2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸への脱保護。
実施例7Aからの粗物質を370mLの10% HClと混合し、約100℃で4時間攪拌した。この混合液を減圧下で濃縮し(約50mLを除去した)、15%水酸化アンモニウムを添加することによって濃縮液を約7.0のpHへ中和した。分離した固体を濾過によって収集し、2×50mLの水を用いて洗浄した。乾燥後、粗生成物25gを入手した。
【実施例8】
【0070】
2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸。
A. イソプロピル−2−アセチルアミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸の調製。
イソプロピルN−アセチル−L−チロシン5.0gをイソプロパノール25mL中に溶解させ、炭酸カリウム3.5gを添加した。次に、トルエン17mL中に溶解した2.5gの2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エチルメタンスルホネート(調製法3)溶液を添加し、この反応混合液を還流させながら23時間かけて加熱した。次に、トルエン17mL中に溶解した調製法3のまた別の部分(2.5g)を添加し、この反応混合液を23時間かけて加熱した。この溶液を真空下で蒸発させた。20mLのトルエンを用いて残留物を2回抽出し、トルエン抽出物を真空下で蒸発させて油性生成物5.21gを得た。この油性生成物をジエチルエーテル10mL中に溶解させ、攪拌して結晶化させた。結果として生じた固体を濾過し、自然乾燥させて73〜81℃の融点を備える生成物4.5gを得た。収率は58%であった。
【0071】
B. 2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸への脱保護。
実施例8Aからの固体生成物1.0gを4時間にわたり50mLの10%HClを用いて還流させながら加熱した。この反応混合液を真空下で濃縮して得た1.2gの油を水50mL中に溶解させた。アンモニアを添加してpHを7.0へ調整した。沈降した結晶を濾過し、自然乾燥させて214〜217℃の融点を備える中間体0.40gを得た。
【実施例9】
【0072】
2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸からピオグリタゾンへの変換。
A. 2−ブロモ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸。
2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸2.0gを水30mL中に懸濁させた。この懸濁液に3.2gの47%HBr水溶液を攪拌しながら添加した。冷却(氷水浴)下で、亜硝酸ナトリウム水溶液1.4gの水溶液20mLを3時間以内に添加した。添加中に、アセトン20mLを少しずつ添加して、生成した粘性固体を溶解させた。さらに約3℃で1時間攪拌した後、この混合液を濃縮してアセトンを除去した。この濃縮液を3×50mLの酢酸エチルで抽出した。有機相を結合し、硫酸ナトリウムの上方を通して乾燥させ、蒸発させて粗生成物(2.14g)を得た。
【0073】
B. 塩酸ピオグリタゾン。
実施例9Aからの粗生成物2.14gをエタノール50mL中に溶解させた。チオ尿素760mgおよび酢酸ナトリウム820mgを添加した。この溶液を3時間にわたり還流させ、濃縮してエタノールの大部分を除去した。
【0074】
この残留物へ20mLの3N HClを添加し、この混合物を18時間還流させた。室温へ冷却した後、混合液を28%アンモニア水によって中和した。生成した固体を濾過によって収集し、2×10mLのエタノールを用いて洗浄した。これは灰色がかった固体1.12gを産生した。
【実施例10】
【0075】
2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸から2−チオシアナト−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸への変換。
2−アミノ−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸2.8gをテトラヒドロフラン30mL、酢酸5mL、およびチオシアン酸リチウム2.4gと混合した。次に、亜硝酸イソペンチル2.4mLを少しずつ4時間かけて添加した。この反応混合液を一晩攪拌した。結果として生じた溶液を真空下で蒸発させ、油性残留物を酢酸エチル40mLと一緒に環流下で加熱した。結果として生じた懸濁液を冷却するまで放置した。結晶を濾過によって分離して175〜178℃の融点を備える1.5gの生成物を得た。同一性はNMRおよびIRスペクトルによって確認した。
【実施例11】
【0076】
ピオグリタゾン(2−チオシアナト−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸から)。
2−チオシアナト−3−{4−[2−(5−エチル−ピリジン−2−イル)−エトキシ]−フェニル}−プロピオン酸0.50gをメタンスルホン酸10mL中に溶解させ、結果として生じた褐色溶液を一晩攪拌した。次に、この反応混合液を攪拌しながらクラッシュアイス上に注入し、炭酸水素ナトリウムを少しずつ添加してこの混合物を中和した。沈降した淡褐色の結晶を濾過し、乾燥させて生生成物0.70gを得て、これを塩化水素の12%エタノール溶液と混合することによってさらに精製した。未溶解部分を濾過し、重炭酸ナトリウムを用いて濾液を沈降させると、180〜184℃の融点を備えるピオグリタゾンの結晶が得られた。
【0077】
本発明を記載してきたが、当業者には、添付の特許請求の範囲によって規定した本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載した概念および実施形態の実際的実行においてまた別の変化および修飾を容易に加えられること、または本発明の実践によって学べることは明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(15):
【化1】

式中、AはC1−C6炭化水素鎖を介して酸素原子と結合した環状基を表し、好ましくは以下の式(a)〜(c)で表され、
【化2】

式(15)中、Rは水素もしくはC1−C4アルキル、好ましくはエチルであり、そしてQは水素、または好ましくはアセチル、トリフルオロアセチル、ベンゾイル、ベンジル、およびトリチルからなる群から選択されるアミン保護基、最も好ましくはアセチルである化合物。
【請求項2】
式(14):
【化3】

を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の式(15):
【化4】

の化合物を変換させて式(16):
【化5】

(式中、Aは請求項1に規定したとおりである)のグリタゾンを生成するステップを含む方法。
【請求項4】
請求項2に規定した式(14):
【化6】

の化合物を式(1):
【化7】

のピオグリタゾンへ変換させるステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記変換させるステップが、式(11A)
【化8】

(式中、Rは請求項1に記載したとおりである)の中間体を生成するステップと、および式(11A)の前記化合物を環化して式(1)の前記ピオグリタゾンを生成するステップと、を含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記環化するステップが、式(11A)の前記化合物の水性加水分解を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記環化するステップがアルキルスルホン酸もしくはアリールスルホン酸によって触媒される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記変換させるステップが、式(2):
【化9】

(式中、Yは離脱基、好ましくはハロゲンを表し、そしてRは請求項1に規定したとおりである)の中間体を生成するステップと、および式(2)の前記化合物を式(1)の前記ピオグリタゾンへ変換させるステップと、を含む、請求項3〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
式(2)の前記化合物を式(1)の前記ピオグリタゾンへ前記変換させるステップが、
式(2)の前記化合物をチオ尿素と反応させて式(3):
【化10】

の化合物を生成するステップと;および
式(3)の前記化合物を加水分解して式(1)の前記ピオグリタゾンを生成するステップと、を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
式(10)の化合物を式(12)の化合物と反応させて式(14)の前記化合物を生成するステップをさらに含み、式(10)が、
【化11】

(式中、Xは、好ましくはハロゲン、メタンスルホニルオキシ基もしくはp−トルエンスルホニルオキシ基である離脱基である)であり、そして式(12)が、
【化12】

(式中、RおよびQは請求項1に記載したとおりである)であり、化合物(12)が任意でチロシンもしくはその保護された誘導体である、請求項4〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
Qが前記式(12)および(14)の化合物中のアミン保護基である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
式(14)の前記化合物をピオグリタゾンへ前記変換させるステップが、式(14)の前記化合物中で前記アミン保護基を脱保護して式(11):
【化13】

の化合物を入手するステップを含む、請求項4〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
式(2)または(11A)の前記化合物を生成するステップが、ニトロソ化生成物を生成するためにニトロソ化剤を用いて式(14)の前記化合物をニトロソ化するステップを含み、式(2)の前記化合物を入手する際に、前記ニトロソ化生成物が好ましくは式H・Yの酸と反応させられ、そして式(11A)の前記化合物を入手する際に、前記ニトロソ化生成物が好ましくはロダン化水素と反応させられる、請求項5または8に記載の方法。
【請求項14】
請求項4〜13のいずれかに記載の方法によって入手できる式(1)の化合物。
【請求項15】
請求項5〜13のいずれかによって任意で入手できる式(11A)の化合物。
【請求項16】
請求項8〜13のいずれかによって任意で入手できる式(2)の化合物。
【請求項17】
請求項9〜13のいずれかによって任意で入手できる式(3)の化合物。
【請求項18】
請求項3によって任意で入手できる式(16)の化合物。
【請求項19】
請求項12によって任意で入手できる式(11)の化合物。

【公表番号】特表2007−502847(P2007−502847A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529780(P2006−529780)
【出願日】平成16年5月11日(2004.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005026
【国際公開番号】WO2004/101560
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(500415715)シントン・ベスローテン・フェンノートシャップ (10)
【Fターム(参考)】