説明

チタンシリサイドターゲットの製造方法

【課題】パーティクル発生の少ないTiSix膜を得るためのチタンシリサイドスパッタリングターゲットを提供すること。
【解決手段】薄膜形成用チタンシリサイドターゲットにおいて、ターゲット組成がTiSix(ここでx=2.0〜2.7)と表され、ターゲット中のW含有量が50ppm未満であり、かつW化合物の析出物を含まないことを特徴とするチタンシリサイドターゲットによって、パーティクル発生の少ないTiSix膜をスパッタリングによって得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI、VLSIなどの半導体デバイスにおける電極及びコンタクト材として用いられる薄膜形成用チタンシリサイドスパッタリングターゲットに関するものである。特には、パーティクル発生を大幅に低減することが可能なチタンシリサイドターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSI半導体デバイスの電極あるいは配線として従来はポリシリコンが用いられてきたが、LSI半導体デバイスの高集積化に伴い、抵抗による信号伝搬遅延が問題となっていた。
このためこれに代わる材料として高融点金属シリサイドが用いられるようになってきた。このような高融点金属シリサイド膜は、シリサイドターゲットをスパッタリングすることにより形成される。
スパッタリング用シリサイドターゲットとしては、シリコンと高融点金属のモル比xを2未満とすると成膜した際の膜応力が高く、剥離しやすいという理由から通常、シリコン/高融点金属のモル比が2を越えるシリサイドターゲットが用いられている。
このような高融点金属シリサイドの中でも特にチタンシリサイドが高集積VLSI用途に有用な材料として注目を浴びている。
【0003】
これまでチタンシリサイドターゲットについてはその純度を上げる目的でいろいろの方法がとられてきている。例えば特許文献1には、粉砕で汚染した金属不純物をその後の酸洗処理で除去し、金属不純物が10ppm以下、炭素50ppm以下、酸素500ppm以下、水素10ppm以下、窒素50ppm以下で純度99.99%以上のチタンシリサイドターゲットが示されている。
また、特許文献2では、チタンシリサイドを含む珪化物ターゲット材の酸素を低減する方法を開示している。しかし、上記2件の特許にはスパッタリング時のパーティクルを低減する必要性については記載していない。
【0004】
これまでチタンシリサイドターゲットに関するスパッタリング時のパーティクル発生を低減する目的では、「組織の微細化」「凝集Si相の除去」「粗大Si相の低減」「遊離Si相の面積率の低減」「表面の改善」等の試みがなされている。
例えば特許文献3ではチタンシリサイドを含むシリサイドターゲットにおいて、TiSi2 相の最大粒径20μm以下、遊離Si相の最大寸法50μm以下のものを開示し、組織の微細化がパーティクル発生に有効であることを示している。
また、特許文献4では凝集Siがパーティクル発生に深く関わるという知見に基づき、-100メッシュの合成シリサイド粉末を混合する方法を開示している。
さらには、特許文献5ではスパッタ面に現れる10μm以上の粗大Si相の存在量が10ケ/mm2 以下であるシリサイドターゲット(TiSiを含む)を開示している。特許文献6では、特許文献5に加えて、スパッタ面に現れるSi相の面積比率が23%以下であり、表面粗さが1μm以下であるチタンシリサイドターゲットを開示している。
しかしながら、上記のような努力にもかかわらず、チタンシリサイドターゲットのパーティクル発生の問題は未だに解決されておらず、実用化にとって大きな障害となっている。
【特許文献1】特開昭63−227771号
【特許文献2】特開昭61−108132号
【特許文献3】特開昭63−219580号
【特許文献4】特開昭64−39374号
【特許文献5】特開平5−1370号
【特許文献6】特開平6−272032号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来のチタンシリサイドターゲットでのパーティクル発生という欠点を解決し、スパッタリング時のパーティクル発生を低減させることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行い、チタンシリサイドターゲットのスパッタリング後のエロージョン面を詳細に観察することにより、パーティクル源として不純物W原子が大きな役割を果たしていることを突き止めた。
すなわち、W含有量が50ppmを越えるチタンシリサイドターゲットのエロージョン面にパーティクル源となっていると推定されるノジュール(10〜200μmの寸法の突起物)が多数観察され、このノジュールをEPMAで定性分析したところノジュールの頂上からW化合物が検出された。これはノジュールが異物であるW化合物を核として発生したものと推定させるに十分な証拠である。
さらに、ターゲットを研磨し、平滑面を出してから同じくEPMAでターゲット組織を観察したところ、明瞭なW化合物が確認された。この化合物はSiと共存しており、WSi2相であることが明らかである。これはチタンシリサイド中へ不純物として混入したW原子が遊離Si相と結合してできたWSi2相であり、不純物Wに起因するものである。
【0007】
ノジュールが一旦発生するとパーティクルが発生しやすいことは特開平5−33129号にW−Ti合金ターゲットの場合で示されており、ノジュールからのパーティクル発生メカニズムはW−Ti合金であってもチタンシリサイドであっても同じと考えられる。従って、パーティクルを低減するためにはW含有量を50ppm未満にする必要があることがわかった。
【0008】
さらに、Wと同様にMoの汚染も生じやすいが、しかし、本発明者らが詳細に調べた結果によると、Moは最大500ppm前後まで不純物として存在してもWとは異なり、MoSi2相が析出することはないことを確認した。むしろ実験室内ではMo含有量を1ppm以下に抑えたターゲットよりもパーティクル発生が少ないという結果が得られた。このMoの影響はメカニズム的に説明するまでには至っていないが、少なくとも悪影響はなく、むしろ良い結果なので、ある程度まで積極的に添加したターゲットも有用である。このような知見は本特許で初めて見いだされたものである。
【0009】
本発明は、上記のような知見に基づき、
1.薄膜形成用チタンシリサイドターゲットにおいて、ターゲット組成がTiSix(ここでx=2.0〜2.7)と表され、ターゲット中のW含有量が50ppm未満であり、かつW化合物の析出物を含まないことを特徴とするチタンシリサイドターゲット
【0010】
2.ターゲット中の不純物含有量が、Na≦0.1ppm、K≦0.1ppm、U≦1ppb、Th≦1ppb、Fe≦5ppm、Cr≦5ppm、Ni≦5ppm であることを特徴とする上記1に記載のチタンシリサイドターゲット
【0011】
3.ターゲット中のMo含有量が1〜500ppmであることを特徴とする上記1または2に記載のチタンシリサイドターゲットを提供するものである。
本発明により、チタンシリサイドのノジュール低減、ひいてはパーティクル低減のための適切な手段を講じることが可能となった。
【発明の効果】
【0012】
本発明のW含有量が50ppm以下であり、かつW化合物の析出物を含まないTiSix ターゲットによって、パーティクル発生の少ないTiSix膜をスパッタリングによって得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における薄膜形成用チタンシリサイドターゲットは、ターゲット組成をTiSixと表した場合に、x=2.0〜2.7の範囲となるものである。xが2以下の場合には、成膜した際の膜応力が高く、膜の剥離が生じやすいため好ましくない。
一方、xが2.7を越えると、電気抵抗が高くなるとともに、Si相の面積率増加に起因するパーティクル増加が顕著になるために好ましくない。
【0014】
チタンシリサイドターゲット中のW含有量は50ppm未満とする必要がある。W含有量が50ppm以上のチタンシリサイドターゲットの場合、チタンシリサイド中に不純物として混入したW原子が遊離Si相と結合してできたWSi2相が形成され、このWSi2相を核としてノジュールが発生し、一旦エロージョン面にノジュールが発生した場合、これがパーティクルの原因となるものと推定される。
従って、ノジュールの発生要因となるW含有量は50ppm未満とし、なおかつ、W化合物の析出物を含まないようにする必要がある。さらに、ターゲット中の不純物含有量は極力低減する必要があることは言うまでもない。
【0015】
Na,K などのアルカリ金属元素は特に拡散しやすく絶縁膜中を容易に移動し、MOS-LSI界面特性の劣化の原因となるため、0.1ppm 以下、好ましくは0.05ppm以下にすべきである。U,Th などの放射性元素は、α線を放出し半導体素子のソフトエラーの原因となるため、特に厳しく制限する必要があり、1ppb 以下、好ましくは0.5ppb 以下にするべきである。
Fe,Ni,Cr などの遷移金属元素は界面接合部のトラブルの原因となる。そのため、5ppm以下、好ましくは1ppm 以下にするべきである。従って、Na≦0.1ppm、K≦0.1ppm、U≦1ppb、Th≦1ppb、Fe≦5ppm、Cr≦5ppm、Ni≦5ppm とするのが好ましい。
【0016】
さらに、本発明のターゲット中のMo含有量は1〜500ppmとするのが好ましい。Moは最大500ppm前後まで不純物として存在してもWとは異なり、MoSi2相が析出することはない。むしろMo含有量を1ppm以下に抑えたターゲットよりもパーティクル発生が少なくなる。
この理由について、そのメカニズムを説明するまでには至っていないが、少なくとも他の悪影響はないため、最大500ppmであれば、ある程度まで積極的に添加することが有用である。
500ppmを越えると遊離Si相と結合しMoSi2 相を形成し、ノジュールの核となる恐れがあるため好ましくない。W原子の混入は、原料中に含まれているものの他、例えばチタンシリサイド粉末の製造工程における汚染で生じている可能性も大きい。
【0017】
チタンシリサイド以外にタングステンシリサイドも製造する場合、原料Si粉末中へのW汚染はタングステンシリサイドを製造する目的には特に問題にならないためにWで汚染されたSi粉末を使用することになる。
しかし、同様のSi粉末をチタンシリサイド製造用に使用するとW汚染が起こり、析出物からのパーティクル発生問題を引き起こす。
Si粉末へのW汚染は、粉砕の道具から引き起こされる。すなわちボールミル等の粉砕器具はシリサイドと同質材で内張りされる。WSi用のSi粉末はWSiで内張りされた粉砕器具で粉砕される。したがってSi中のW含有量は1000〜2000ppmと高くなるのが普通である。
【0018】
これを防止するにはTiまたはチタンシリサイドで内張りされた粉砕器具を用いて粉砕をすれば解決される。今までこれが実現されなかったのは、一つには経済的な理由からである。すなわちチタンシリサイドの需要があまり大きくなかったためにチタンシリサイド専用の粉砕器具を作製するコストメリットがなかったものである。
また、高純度のTiは柔らかいため、内張りとして使用すると消耗が激しく、通常、Tiを内張りとして用いることは行われなかった。また、Tiは軽いためにTi球では粉砕媒体としての能力が劣ることもTi製の粉砕媒体が用いられなかった理由である。
しかし、品質的な問題からTi内張りの粉砕器具を作製し、これを用いてSi及び合成塊の粉砕を行ったところ、最終製品中のW含有量を50ppm以下に抑えることができ、組織観察結果、W化合物の析出は認められなかった。
【実施例】
【0019】
以下、実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
高純度Ti製のボールミルポットにTi球を入れてポリSi塊を粉砕し、−350メッシュのSi粉末を得た。同様に高純度Ti製のボールミルポットにTi球を入れて高純度TiH2 の粉砕を行い−350メッシュのTiH2 粉末を得た。
この両者の粉末を混合し、真空中で加熱することにより脱水素反応とシリサイド合成反応を一挙に行い、TiSix(x=2.40)の合成塊を得た。このシリサイド塊を、高純度のTi製ボールミルで粉砕し、−200メッシュのシリサイド粉末を得た。
原料Si粉末中のW含有量、合成後のTiSix 中のW含有量はいずれも1ppm以下であった。またシリサイド粉末中のW以外の不純物元素含有量は以下の通りであった。
Na: 0.02ppm , K: 0.02ppm , U<0.1ppb , Th<0.1ppb ,Fe: 4ppm ,Ni: 2ppm ,Cr: 0.5ppm , Mo: 3ppmこのTiSix粉末よりホットプレス法により焼結体を作製し、機械加工によりφ300mm×6.35mmtのターゲットを作製し、スパッタリングを行いウエハー(6インチ径)上のパーティクルを測定したところ0.2μm以上の寸法のパーティクルが合計15ケであった。
ターゲットの不純物含有量はホットプレス前の粉末の値と全く同じであった。また、WSi2 などのW化合物の析出物は全く見られなかった。
【0020】
(実施例2)
高純度Mo製のボールミルポットにMo球を入れてポリSi塊を粉砕し、−350メッシュのSi粉末を得た。同様に高純度Mo製のボールミルポットにMo球を入れて高純度TiH2 の粉砕を行い−350メッシュのTiH2 粉末を得た。この両者の粉末を混合し、真空中で加熱することにより脱水素反応とシリサイド合成反応を一挙に行い、TiSix(x=2.40)の合成塊を得た。
このシリサイド塊を高純度のMo製ボールミルで粉砕し、−200メッシュのシリサイド粉末を得た。原料Si粉末中のW含有量、合成後のTiSix 中のW含有量はいずれも1ppm以下であった。−200メッシュのTiSix 粉末のW以外の不純物元素含有量は以下の通りであった。
Na: 0.02ppm , K: 0.02ppm , U<0.1ppb , Th<0.1ppb , Fe: 4ppm ,Ni 2ppm ,Cr: 0.5ppm , Mo: 450ppmこのTiSix粉末よりホットプレス法により焼結体を作製し、機械加工によりφ300mm×6.35mmtのターゲットを作製し、スパッタリングを行いウエハー(6インチ径)上のパーティクルを測定したところ0.2μm以上の寸法のパーティクルが合計13ケであった。
ターゲットの不純物含有量はホットプレス前の粉末の値と全く同じであった。また、WSi2 などのW化合物の析出物は全く見られなかった。
【0021】
(比較例1)
高純度Ti製のボールミルポットにW球を入れてポリSi塊を粉砕し、−350メッシュのSi粉末を得た。同様に高純度Ti製のボールミルポットにW球を入れて高純度TiH2 の粉砕を行い−350メッシュのTiH2 粉末を得た。
この両者の粉末を混合し、真空中で加熱することにより脱水素反応とシリサイド合成反応を一挙に行い、TiSix(x=2.40)の合成塊を得た。
このシリサイド塊を高純度のTi製ボールミルでW球を用いて粉砕し、−200メッシュのシリサイド粉末を得た。原料Si粉末中のW含有量は250ppm、合成後のTiSix 中のW含有量は130ppmであった。またシリサイド粉末中のW以外の不純物元素含有量は以下の通りであった。
Na: 0.02ppm , K: 0.02ppm , U<0.1ppb , Th<0.1ppb , Fe: 4ppm ,Ni: 2ppm ,Cr: 0.5ppm , Mo: 3ppmこのTiSix粉末よりホットプレス法により焼結体を作製し、機械加工によりφ300mm×6.35mmtのターゲットを作製し、スパッタリングを行ったところ周期的にパーティクルが増加する現象が発生し、ウエハー(6インチ径)上の、0.2μm以上の寸法のパーティクルは平均で180ケであった。
ターゲットのエロージョン面にはノジュールが多数発生していることが観察され、ターゲットの組織を観察したところ、図4のようにWSi2 相の析出物が観察され、WSi2 相起因のノジュールからパーティクルが発生したと推測された。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のW含有量が50ppm以下であり、かつW化合物の析出物を含まないTiSix ターゲットによって、パーティクル発生の少ないTiSix膜をスパッタリングによって得ることができるという効果を有するので、LSI、VLSIなどの半導体デバイスにおける電極及びコンタクト材等として用いられる薄膜形成用チタンシリサイドスパッタリングターゲットとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜形成用チタンシリサイドターゲットにおいて、ターゲット組成がTiSix(ここでx=2.0〜2.7)と表され、ターゲット中のW含有量が50ppm未満であり、かつW化合物の析出物を含まないことを特徴とするチタンシリサイドターゲット。
【請求項2】
ターゲット中の不純物含有量が、Na≦0.1ppm、K≦0.1ppm、U≦1ppb、Th≦1ppb、Fe≦5ppm、Cr≦5ppm、Ni≦5ppm であることを特徴とする請求項1に記載のチタンシリサイドターゲット。
【請求項3】
ターゲット中のMo含有量が1〜500ppmであることを特徴とする請求項1または2に記載のチタンシリサイドターゲット。

【公開番号】特開2008−174831(P2008−174831A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283505(P2007−283505)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【分割の表示】特願平9−219015の分割
【原出願日】平成9年7月31日(1997.7.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】