説明

チタン酸バリウム粉末の製造方法、チタン酸バリウム粉末および電子部品の製造方法

【課題】固相法において粒子径を40nm〜300nmで制御でき、かつ粒度分布もシャープで、結晶性及び異方性が高く、粒子内空孔(欠陥)が無いもしくは非常に少なくし、Ba/Tiも制御できるチタン酸バリウム粉末の製造方法、チタン酸バリウム粉末および電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法は、チタン水溶液とバリウム塩粉末を出発原料として、この出発原料を混合し、ゲル化するゲル化工程と、このゲル化した混合物を乾燥する乾燥工程と、この乾燥粉を熱処理してチタン酸バリウム粒子を生成する熱処理工程と、この熱処理粉からチタン酸バリウム粒子を分離する分離工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウム粉末の製造方法、チタン酸バリウム粉末および電子部品の製造方法に関し、さらに詳しくは、粒度分布がシャープで結晶性および異方性が高く、粒子内空孔(欠陥)が無いもしくは非常に少ないペロブスカイト型酸化物ナノ粒子(誘電体粒子)に関する。
【背景技術】
【0002】
固相法による酸化物粒子の合成技術は古くから開発されており、微粒子生成法としては化学的方法と物理的方法とに大別される。現在確立されている技術としては、化学的手法では晶析法が挙げられ、これは固相から新しい固相への相転移現象を利用するものである。物理的手法はビルトダウン法ともいい粉砕機で機械粉砕を繰り返し、粒子を微粉化する手法である。
【0003】
しかしながら、一般的に晶析法では結晶性が良い粒子が合成できるとされているが、ナノ粒子径への対応や、粒度分布がシャープなものを合成するには不向きであり、現在の薄層多層化が進んでいる積層セラミックコンデンサ(Multi Layered. Ceramic Capacitor:MLCC)の分野で利用されるチタン酸バリウムに求められる粒子径、粒度分布を満足させるチタン酸バリウムの合成手法の主流にはなっていない。
【0004】
また、機械的粉砕で微粒子化する固相法は、粉砕によるコンタミの問題、基材のチッピングの問題、ナノ粒子径までの粉砕が困難、粒度分布をシャープに粉砕できる技術が確立できていない等のデメリットがあり、微粉のチタン酸バリウムを作製する手法として用いられていない。
【0005】
また、固相反応以外には水熱合成法、シュウ酸塩法等がチタン酸バリウムの合成手法として用いられているが、水熱合成法では粒子内欠陥やポアの問題があり、MLCCの寿命特性を上げうるチタン酸バリウムの合成手法としては好ましくない。また、シュウ酸塩法は原料合成が液相法で、目的粉合成が固相法であり、粒子内欠陥やポアが比較的少なく、それぞれの利点を出してはいるが、粒度分布が悪い、結晶性が中庸といった状態であり、それぞれの欠点も出している。
【0006】
そのため、固相法の化学的手法で粒度分布がシャープでかつ、粒子径が40nm〜300nmのナノオーダーのものができれば、MLCC基材からの特性改善が見込まれ、様々なアプローチから固相法プロセスの改良が進められている。
【0007】
このような事情から、これらの課題を解決する為に、原料粉末である酸化チタンや炭酸バリウムの微粉を用いて仮焼きすることにより200nm程度のサブミクロンの粒子を得る方法や、原料粉末の配合と仮焼き条件(温度、雰囲気)を最適化することにより100nm程度の粒子を得るチタン酸バリウム粉末の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−2739号公報
【特許文献2】特開2008−115042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2に提案されているようなチタン酸バリウム粉末の製造方法では、固相法の化学的手法が抱える根本的な課題の解決法にはならず、粒度分布がシャープなものが作製できないといったことや、仮焼温度を下げて粒子径を小さくすると、結晶性や異方性が低下するといった不具合が発生し、固相法で行う利点が無くなってしまう。
【0010】
本発明では、上記問題点に鑑みてなされたものであって、固相法において粒子径を40nm〜300nmで制御でき、かつ粒度分布もシャープで、結晶性及び異方性が高く、粒子内空孔(欠陥)が無いもしくは非常に少なくし、Ba/Tiも制御できる、チタン酸バリウム粉末の製造方法、チタン酸バリウム粉末および電子部品の製造方法を提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法は、チタン水溶液とバリウム塩粉末を出発原料として、この出発原料を混合し、ゲル化するゲル化工程と、このゲル化した混合物を乾燥する乾燥工程と、この乾燥粉を熱処理してチタン酸バリウム粒子を生成する熱処理工程と、この熱処理粉からチタン酸バリウム粒子を分離する分離工程と、を有することを特徴とする。本発明によれば、ナノオーダーの粒子径で粒度分布がシャープで、結晶性、異方性が高く、粒子内ポア(欠陥)が存在しないチタン酸バリウム粉末を製造することができる。
【0012】
本発明においては、前記チタン水溶液は、水溶性チタン原料と酸性キレート剤の混合水溶液であることが好ましい。水溶性のTi原料を用い、さらにゲル化することによって、より均一な分散状態を乾燥段階まで維持することができる。また、酸性キレート剤を用いる事によって、水溶性チタン原料の析出を抑制し、バリウム塩粉末の混合時のチタン原料の加水分解を抑制することができる。
【0013】
本発明においては、前記バリウム塩粉末は、チタン原料に対してモル比で3倍以上混合することが好ましい。混合時のBa/Ti比は粒子径及び粒度分布に対する効果がある。Ba/Ti比が低いと(1以上2以下)、仮焼き時の熱拡散長が長くなり、チタン原料が凝集し粒成長反応が進行しやすくなり粒子が大きくなると共に、粒度分布が悪くなる。Ba/Ti比が高いと、反応前に生成するバリウム化合物の障壁が大きくなり、粒成長反応が進行しにくくなり粒子径が小さくなると共に、粒度分布が良くなる。そのため、Ba/Ti比を3倍以上とすることで、混合時のチタン酸バリウム粉末の粒子径及び粒度分布を好適に保つこができる。
【0014】
本発明においては、前記混合水溶液は、バリウム塩粉末が飽和溶解度に達した飽和水溶液であることが好ましい。混合水溶液中のバリウムの濃度は、粒子径及び粒度分布に対する効果がある。バリウムの濃度が薄いと、ゲル中の水に溶解しているバリウムの量が少ないので、熱処理時の熱拡散長が長くなり、チタン原料が凝集し粒成長反応が進行しやすくなり粒子が大きくなると共に、粒度分布が悪くなる。バリウムの濃度が飽和状態であると、ゲル中の水に溶解しているバリウムの量が最大となるので、反応前に生成するバリウム化合物の障壁が大きくなり、粒成長反応が進行しにくくなり粒子径が小さくなると共に、粒度分布が最も良くなる。そのため、混合水溶液中のバリウムを飽和状態とすることで、混合時のチタン酸バリウム粉末の粒子径及び粒度分布を好適に保つこができる。
【0015】
本発明においては、前記乾燥工程を経た乾燥粉は、バリウム塩粒子を主粒子とし、その中に1個以上のチタン酸化物が互いに接触せずに分散している状態であることが好ましい。乾燥工程によってバリウム塩粒子を主粒子とし、その中に1個以上のチタン酸化物が目的の大きさで、互いに接触せずに分散している状態を作り出す効果がある。バット乾燥のような方法では、ゲル中の水に溶解しているバリウムが、水分の蒸発とともに徐々に析出し、目的の状態の乾燥粉を得ることができなくなってしまうために好ましくない。バリウム塩粒子を主粒子とし、その中に1個以上のチタン酸化物の凝集体が目的の大きさで、互いに接触せずに分散している状態であることによって熱処理時のチタン酸バリウムのネッキングを抑えることができ、粒子径及び粒度分布を好適に保つことができる。
【0016】
本発明においては、前記熱処理工程によって、バリウム塩が塩基性のバリウム化合物になることが好ましい。前記熱処理工程によって、バリウム塩が塩基性のバリウム化合物になることによって、容易に余剰バリウムを溶解させることができる。
【0017】
前記熱処理工程における熱処理温度が、500℃以上800℃未満であることが好ましい。反応温度を高くすると結晶性炭酸バリウムができる為、バリウム化合物の変態によって、チタン化合物が移動、ネッキングしやすくなると共に、バリウム化合物のネッキング抑制の障壁効果がなくなり、粒子径も大きくなる。仮焼温度としては500℃以上800℃未満が好ましい。
【0018】
本発明においては、前記分離工程が、熱処理後の粉末と溶媒とを混合して、余剰分である未反応のバリウム化合物である塩基性バリウム塩を溶解し、熱処理後の熱処理粉から前記チタン酸バリウム粒子を分離する工程を有することが好ましい。この分離工程によって、好適に保たれた粒子径、粒度分布のチタン酸バリウムを得ることができる。
【0019】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るチタン酸バリウム粉末は、上記のいずれかに記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法によって製造されたチタン酸バリウム粉末が、ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸バリウム粒子の集合体であるチタン酸バリウム粉末であって、(100)面を主面として有し、前記ペロブスカイト型結晶構造におけるc軸の格子定数とa軸の格子定数との比を示すc/aが1.00以上であり、X線回折により観測される(111)ピークの半値幅が0.250以下であり、BET法による比表面積が3.3m2/g以上25m2/g以下であり、累積個数が10%となる粒子径をD10、累積個数が50%となる粒子径をD50および累積個数が90%となる粒子径をD90とした場合に、(D90−D10)/D50が2.0以下であることを特徴とする。本製造方法で得られたチタン酸バリウム粉末を用いることによって、高信頼性を有する薄層多層小型高容量の積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0020】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る電子部品の製造方法は、誘電体層と電極層とを有する電子部品を製造する方法であって、上記に記載のチタン酸バリウム粉末を含む焼成前誘電体層を形成する焼成前誘電体層形成工程と、前記焼成前誘電体層を焼成する焼成工程と、を有することを特徴とする。これにより、誘電体層には、本発明に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法を用いて得られたチタン酸バリウム粉末を用いて作製されるため、高信頼性を有する薄層多層小型高容量の電子部品を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、固相法において粒子径を40nm〜300nmで制御でき、かつ粒度分布もシャープで、結晶性及び異方性が高く、粒子内空孔(欠陥)が無いもしくは非常に少なくし、Ba/Tiも制御できるチタン酸バリウム粉末を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】図2は、Ba/Tiゲルの状態を模式的に示す図である。
【図3】図3は、乾燥後の混合物を示す断面模式図である。
【図4】図4は、熱処理後の熱処理粉を示す断面模式図である。
【図5】図5は、セラミックコンデンサの一実施形態を模式的に示す概念断面図である。
【図6】図6は、熱処理後の混合物のXRD結果を示す図である。
【図7】図7は、熱処理後の混合物から余剰バリウムを除去した試料のXRD結果を示す図である。
【図8】図8は、熱処理後の混合物のSEM写真である。
【図9】図9は、熱処理後の混合物から余剰バリウムを除去した試料のSEM写真である。
【図10】図10は、熱処理後の混合物から余剰バリウムを除去した試料の他のSEM写真である。
【図11】図11は、試料番号5のチタン酸バリウム粉末のTEM写真である。
【図12】図12は、試料番号25のXRDチャートを示す図である。
【図13】図13は、試料番号26のFE−SEMの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態(以下、実施形態という)及び実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための実施形態及び実施例により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態及び実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせても良いし、適宜選択して用いてもよい。
【0024】
<チタン酸バリウム粉末>
本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末は、ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸バリウム粒子の集合体であり、結晶構造中のAサイトをBaが占有し、BサイトをTiが占有している。本実施形態では、このAサイトを占有する原子とBサイトを占有する原子とのモル比を示すバリウム(Ba)/チタン(Ti)比が、好ましくは0.980以上1.010以下、より好ましくは0.990以上1.004以下の範囲にある。このBa/Ti比は、粉末の用途に応じて上記の範囲で調整されることが好ましい。本実施形態では、後述するチタン酸バリウム粉末の製造方法において、Ba/Ti比を調整することができる。
【0025】
また、上記ペロブスカイト型結晶構造は温度により変化し、キュリー点以下の常温においては正方晶系となり、キュリー点以上では立方晶系となる。立方晶系においては、各結晶軸(a軸、b軸、c軸)の格子定数は等しいが、正方晶系においては、一つの軸(c軸)の格子定数が、他の軸(a軸(=b軸))の格子定数よりも長くなっている。
【0026】
本実施形態では、チタン酸バリウムの粒子径を考慮すると、c軸の格子定数とa軸の格子定数との比を示すc/aが1.0045以上、好ましくは1.0070以上、より好ましくは1.0090以上である。このc/aはチタン酸バリウムの異方性の指標となり、高い誘電率が得られるという観点から、高い方が好ましい。
【0027】
なお、チタン酸バリウム粉末中の全てのチタン酸バリウム粒子のc/aが、上記の範囲を満足している必要はない。すなわち、例えばチタン酸バリウム粉末中に、正方晶系のチタン酸バリウム粒子と、立方晶系のチタン酸バリウム粒子とが共存していてもよく、チタン酸バリウム粉末全体として、c/aが上記の範囲にあればよい。
【0028】
本実施形態では、チタン酸バリウム粉末についてのX線回折により得られる(111)ピークの半値幅が0.25以下、好ましくは0より大きく0.200以下、さらに好ましくは0より大きく0.150以下である。この半値幅はチタン酸バリウムの結晶性の指標となり、粒成長の抑制や高い誘電率が得られるという観点から、小さい方が好ましい。
【0029】
本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末は、BET法により測定される比表面積が3.3m2/g以上25m2/g以下である。粉末の比表面積と平均粒子径とは反比例の関係にあり、上記の比表面積を粉末の平均粒子径に換算すると、平均粒子径は40nm以上300nm以下であり、任意に調整することができる。
【0030】
また、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末において、累積個数が10%となる粒子径をD10、累積個数が50%となる粒子径をD50、累積個数が90%となる粒子径をD90とすると、(D90−D10)/D50が2.0以下、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.5以下である。この(D90−D10)/D50は、D50を基準とした粒子径のバラツキを示しており、粒度分布がブロードであるかシャープであるかの指標となる。本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末は、D90とD10との差が小さく、シャープな粒度分布を有している。
【0031】
なお、粒子径を測定する方法としては特に制限されないが、本実施形態では、電界放射型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope;FE−SEM)や透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)などにより各粒子の粒子径を測定することが好ましい。
【0032】
以上より、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末は、結晶性および異方性が高く、ナノメートルオーダーの粒子径を持ち、シャープな粒度分布を有すると共に、粒子内空孔(欠陥)を低減し、Ba/Tiの制御された粉末である。
【0033】
このような特性を有するチタン酸バリウム粉末を原料として用いることで、例えば積層型の電子部品の誘電体層を薄層化した場合であっても、チタン酸バリウム粒子を層間に複数配置させることができ、高温負荷寿命など十分な信頼性を確保しつつ、高い比誘電率を有するセラミック電子部品を提供することができる。
【0034】
<チタン酸バリウム粉末の製造方法>
次に、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法の一例について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0035】
出発原料として、図1に示すように、チタン水溶液とキレート剤水溶液とBa塩とを準備する(原料準備工程:ステップS11)。本実施形態では、Ba塩としてBa塩粉末を用いる。
【0036】
チタン水溶液中のTi原料としては、水溶性のTi原料を用いる。水溶性のTi原料としては、塩化チタン溶液、塩化チタン水溶液、ペルオキシチタン酸水溶液が好ましいが、本実施形態においては、塩化チタン水溶液を用いる。本水溶液中のTi濃度は特に制限されないが、取り扱いの観点から、好ましくは10質量%以上20質量%以下である。濃度を低くしすぎるとチタン水溶液が不安定で、水酸化物の析出が発生するので好ましくない。
【0037】
Ba原料には水溶性バリウム塩を用いる。Ba塩としては、水溶性であれば特に制限されない。具体的には、塩化バリウム、硝酸バリウム、ギ酸バリウム、酢酸バリウム、乳酸バリウム、過塩素酸バリウム、フッ化バリウム、水酸化バリウム、シュウ酸バリウム、塩素酸バリウム、ヨウ素酸バリウム、ヨウ化バリウム、臭化バリウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。また、これらは組み合わせて用いてもよい。取り扱いの容易さや水への溶解性などの観点から、炭酸バリウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、酢酸バリウムがより好ましい。本実施形態では、酢酸バリウムを用いる。
【0038】
混合水溶液中のBa塩の濃度は、飽和水溶液状態にした。これは飽和状態にすることによって単位体積あたりのBaイオンの存在量を最大にして混合物中のTiの凝集を防ぐことを目的としている。
【0039】
キレート剤は水溶性Ti原料を安定化させるために用いられる。キレート剤としては、酸性キレート剤である必要があり、水溶液が酸性であるものであれば特に制限されない。酸性キレート剤を用いることによって、水溶性のTi原料の析出を抑制し、Ba塩水溶液の混合時のTi原料の加水分解を抑制することができる。アルカリ性のキレート剤を用いると、混合時にTiの水酸化物が析出してしまう為に用いることができない。カルボン酸系のキレート剤として、具体的には、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸などが挙げられる。本実施形態ではクエン酸を用いた。
【0040】
キレート剤水溶液の濃度はその水溶液の溶解度以下であれば特に制限されない。今回は50質量%のクエン酸水溶液を作製し用いた。
【0041】
次に、図1のフローチャートに示すように、上記で準備した塩化チタン水溶液とクエン酸水溶液を混合し、チタン/クエン酸水溶液を作製する(混合水溶液作製工程:ステップS12)。
【0042】
この水溶液を強撹拌しながら、そこへ酢酸バリウム粉末を混合し、ゲル化する(ゲル化工程:ステップS13)。図2は、Ba/Tiゲルの状態を模式的に示す図である。図2に示すように、水11中には、多数のバリウムイオン12とチタン化合物13とクエン酸14とが点在(分散)し、チタン化合物13とクエン酸14とは、水素結合(図2中、破線部分)で連結されている。水溶性のTi原料を用い、さらにゲル化することによって、より均一な分散状態を乾燥段階まで維持することができる。
【0043】
混合初期段階は水溶液であるチタン/クエン酸/バリウム水溶液も、滴下中期になりpHが上がってくると、Tiが水酸化物になって析出してくる。この水酸化物ゲルは水分を大量に含むために、大量のバリウムイオンを内包している。
【0044】
バリウム塩粉末の混合速度は特に制限されないが、本実施形態においては、全量を15分以上45分以下の間、供給することが好ましい。
【0045】
チタン/クエン酸/バリウムスラリー(ゲル)中のBaとTiとの混合比(Ba/Ti比)は好ましくは3以上10以下、より好ましくは3以上5以下である。すなわち、混合時のBa/Ti比は粒子径及び粒度分布に対する効果がある。Ba/Ti比が低いと(例えば、1以上2以下)と、仮焼き時の熱拡散長が長くなり、チタン原料が凝集し粒成長反応が進行しやすくなり粒子が大きくなると共に、粒度分布が悪くなる。また、Ba/Ti比が高い(例えば、5よりも大きい)と、反応前に生成するバリウム化合物の障壁が大きくなる。そこで、Ba/Ti比を上記範囲内とすることで、BaがTiよりも過剰に存在している状態でチタン水溶液からのチタン水酸化物を析出させる。これにより、熱拡散長が短くなり、粒子同士の融合がおこりにくくなり、粒度分布が良くなる。このようにすることで、チタン水酸化物ゲル中に大量のバリウムイオンを内包させ、また、水中にも大量のバリウムイオンが存在することで、後述する乾燥工程において、混合液の液体成分(分散媒および溶媒)が除去されると、Ba塩粒子中に、酸化チタン粒子が分散され、かつ酸化チタン粒子同士が接触していない状態の混合物を得ることができる。
【0046】
Ba/Ti比が、例えば、1以上2未満と小さすぎると、析出したチタン水酸化物に内包されるバリウムイオン量が少なくなるばかりか、水中に溶けているバリウムイオン量も少なくなり、乾燥後の混合物中の酸化チタン粒子間の距離が短くなり、後述する熱処理工程において生成するチタン酸バリウムのネッキングが生じやすい傾向にある。また、Ba/Ti比が大きすぎると、チタン濃度が薄くなり生産性が低下する。また洗浄時のコストが高くなり、大きなデメリットになる。
【0047】
また、複数のチタン酸化物粒子と複数のバリウム塩粒子とを含む混合物には、1個のバリウム塩粒子中に1個以上のチタン酸化物粒子が点在(分散)している。本実施形態では、塩化チタン水溶液とクエン酸水溶液とを混合した混合水溶液に酢酸バリウム粉末を混合してゲル化し、混合物であるチタン/クエン酸/バリウムスラリー(ゲル)を作製しているが、本実施形態においては、混合物を作製する方法は、特にこれに限定されるものではなく、他の方法により複数のチタン酸化物粒子と複数のバリウム塩粒子とを含む混合物を作製するようにしてもよい。
【0048】
バリウム塩粉末の混合終了後、3時間程度撹拌し、チタン/クエン酸/バリウムスラリー(ゲル)のpHを調整した(pH調整工程:ステップS14)。この撹拌時間は特に制限されないが、pHの安定化(ゲルの安定化)を図る観点から、1時間以上5時間以下行うことが好ましい。
【0049】
チタン/クエン酸/バリウムスラリー(ゲル)のpHは目的の粒子径によって調整する。チタン/クエン酸/バリウムスラリー(ゲル)のpHは、例えば、2以上5以下の間で制御することが好ましく、より好ましくは2以上4以下である。Ba/Tiの仕込み比によって、所望のpHにならない場合は塩酸、酢酸または酸性のキレート剤でチタン/クエン酸/バリウムスラリー(ゲル)のpHを調整することができる。本実施形態においては、塩酸を用いることが好ましい。このスラリーのpHによってバリウム塩粉末混合中期に発生するチタン水酸化物のゲル状態を制御でき、目的粉末の粒子径を制御することができる。すなわち、バリウム/チタンスラリー(ゲル)のpHはバリウム添加中に発生するチタンの核粒子の大きさを制御する因子であり、このpHの制御は所望の粒子径の誘電体粒子を得る為のパラメーターである。
【0050】
次に、チタン/クエン酸/バリウムスラリー(ゲル)から液体成分を除去し、乾燥する(乾燥工程:ステップS15)。液体成分を除去して乾燥する方法は均一にする必要があり、液体成分を除去して乾燥する方法としては、バリウムイオンを内包したチタン水酸化物ゲル、およびバリウムイオンから液体成分を均一に(急速に)除去できる方法であれば特に制限されず、たとえばスプレードライ、スラリードライ、フリーズドライ、噴霧熱分解装置などでの乾燥方法を用いることが可能である。乾燥工程は均一乾燥が目的であるため、瞬間乾燥が好ましい。ゆっくりした乾燥では、Ba塩の晶析が徐々に生じるため、均一なTi−Ba乾燥粉ができない。スプレードライヤーやスラリードライヤーが好適に用いることができる。また、仮焼も同時に行える噴霧熱分解装置やフリーズドライヤーも好適に用いることができる。また、コンタミレスの観点からスプレードライヤー、噴霧熱分解装置、フリーズドライヤーが好適である。フリーズドライヤーは瞬間凍結ができない溶液に用いることは好ましくない。よって、スプレードライヤーや噴霧熱分解装置を用いて乾燥させることが好ましい。
【0051】
本実施形態では、スプレードライにより乾燥させる。スプレードライを行うことにより、スラリー(ゲル)中の液体成分が瞬間的に均一に除去され、所定の径を有する粒子が得られる。このとき、チタン水酸化物ゲルに内包されたバリウムイオンは、その状態を維持したまま乾燥され、バリウムイオンはBa塩の形態となり、また、水中に溶けているバリウムイオンもBa塩の形態となり乾燥粒子を形成する。チタン水酸化物ゲルは乾燥工程(ステップS15)によって酸化チタンとなり、内包していたバリウムイオンが変化したBa塩によって乾燥粒子内により強く固定される。その結果、図3に示すように、Ba塩粒子15と酸化チタン粒子16とを含む乾燥粉(混合物)17が得られる。この乾燥粉(混合物)17には、Ba塩粒子15中に多数の酸化チタン粒子16が点在(分散)している。このスプレードライにより得られる乾燥粉17においては、酸化チタン粒子16の周囲はBa塩粒子15が付着しており、しかも、各酸化チタン粒子16は互いに接触していない状態である。
【0052】
乾燥粉17の粒子径は、本実施形態では、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以上30μm以下である。
【0053】
次に、図1のフローチャートに示すように、得られた乾燥粉を熱処理する(熱処理工程:ステップS16)。この熱処理工程(ステップS16)では、図3に示すように、まず、Ba塩粒子15から酸化バリウム(一部炭酸バリウム)が生じる反応が起こり、続いて、生成した酸化バリウム(一部炭酸バリウム)と酸化チタン粒子16との固相反応が生じチタン酸バリウム(BaTiO3)が生成する。
【0054】
ここで、上記で得られた乾燥粉17は、図3に示すように、粒子径がそろった酸化チタン粒子16がBa塩粒子15中に点在している状態となっている。したがって、酸化チタン粒子16と、生成した酸化バリウム(一部炭酸バリウム)とは面で接触することになり、乾燥粉17を熱処理すると、酸化チタン粒子16とBa塩粒子15との固相反応が全方位的に進行し、図4に示すように、熱処理粉18内には、チタン酸バリウム(BaTiO3)粒子19が生成する。しかも、チタン酸バリウム粒子19が生成しても、チタン酸バリウム粒子19間には酸化バリウム(一部炭酸バリウム)20が障壁として存在しているため、チタン酸バリウム粒子19同士が接触することはない。その結果、チタン酸バリウム粒子19の結合が抑制されるため、粒子径が小さい状態で維持されたチタン酸バリウム粒子19が得られる。
【0055】
また、乾燥後の混合物中に、酸化チタン(TiO2)粒子16以外のチタン酸化物粒子が存在している場合には、上記の熱処理工程において、チタン酸化物から二酸化チタンが生成する反応が起こる。
【0056】
熱処理工程(ステップS16)における熱処理温度(仮焼温度)は、好ましくは500℃以上800℃以下、より好ましくは650℃以上750℃以下であり、固相反応時の通常の熱処理温度よりも低くしている。本実施形態では、上述したように、固相反応が全方位的に進行し、しかも酸化チタン粒子の状態が不安定な為、熱処理温度を通常よりも低くしても十分かつ速やかに固相反応を進行させることができる。熱処理(仮焼)によって、Ba塩が酸化バリウムになり、また一部炭酸バリウムになり、チタニウム塩が酸化物になり、さらにTiとBaが反応してチタン酸バリウムになる。反応温度と雰囲気、仕込みのBa/Ti比によって、粒子径および粒度分布を制御することができる。
【0057】
熱処理温度(反応温度)が低すぎると、酸化チタンと酸化バリウム(一部炭酸バリウム)との固相反応が十分に進行せず、ペロブスカイト型チタン酸バリウムが十分に生成しない傾向にある。逆に、熱処理温度(反応温度)が高すぎると、Ba2TiO4のようなペロブスカイト構造以外の異相が発生してしまう。また、雰囲気の制御によって高温側での異相の発生を抑制することができるが、酸化バリウムが、完全に炭酸バリウムに変化し、その結晶化時のバリウム化合物の形状の変化により、酸化チタンまたは生成したペロブスカイト型チタン酸バリウムが移動、凝集しやすくなると共に、余剰Baの障壁効果が弱くなり、ネッキング粒子ができやすく、粒子径も大きくなり、目的の粒子径を得ることができない。
【0058】
また、雰囲気によって仮焼温度プロットに対するカーボン残量が異なり、粒成長抑制効果やペロブスカイト相でない異相の発生を抑制する効果がある。
【0059】
熱処理工程(ステップS16)におけるその他の条件は、例えば以下のようにすればよい。昇温速度に特に指定はないが、例えばΔ300℃/時間で、熱処理温度での保持時間は好ましくは1時間以上9時間以下である。雰囲気は大気中、水蒸気、脱炭酸空気または減圧雰囲気とすることが挙げられる。
【0060】
熱処理後には、図4に示すように、酸化バリウム粒子(一部炭酸バリウムを含む)20中にチタン酸バリウム粒子19が点在している熱処理粉18が得られる。
【0061】
次に、熱処理後の熱処理粉18の余剰Baとして、酸化バリウム(一部炭酸バリウム)20を溶解し、熱処理後の熱処理粉18からチタン酸バリウム粒子19を分離する(溶解工程:ステップS17)。分離する方法としては、特に制限されず、物理的な方法であってもよいし、化学的な方法であってもよい。本実施形態では、熱処理後の混合物に溶解液を添加して、チタン酸バリウム粒子を分離する。
【0062】
具体的には、酸化バリウム(一部炭酸バリウム)は酸に溶解しやすく、チタン酸バリウムは酸に溶解しにくいため、熱処理後の熱処理粉18に、溶解液として、酸を添加することで、バリウム化合物のみが溶解し、チタン酸バリウム粒子19が得られることになる。
【0063】
本実施形態における、溶解工程(ステップS17)は、熱処理粉18をイオン交換水に懸濁させ強撹拌しているものに、pHを測定しながら酸を滴下する。余剰バリウムが溶解している段階では、酸を滴下しても、即座に中性領域のpHになるが、余剰バリウムが溶解すると、pHが4から5の弱酸領域で飽和する。その時点を洗浄の終点として規定した。pHが飽和した段階で24時間撹拌し、pHの変化が無いことを確認した。撹拌時間は特に制限されないが3時間以上24時間以下が好ましい。
【0064】
溶解に用いる酸としては、特に制限されないが、例えば、塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸、ギ酸、弗酸などが好ましい。なかでも、Baの再利用の観点から、酢酸を用いることが好ましい。本実施形態では酢酸を用いる。
【0065】
酸洗浄の効果によって、仮焼時のネッキングを防いでいた余剰のBa化合物を取り除くことができ、粒度分布のシャープなナノ粒子を得ることができる。
【0066】
余剰Baの溶解の制御はpHで行い、仮焼粉スラリーを強撹拌しながら、酸を滴下する。洗浄工程の終了の目安は、スラリーのpHが5から5.5で変化が無くなった段階であり、強酸側へpHを持っていくことは、誘電体粒子表面のBaも溶解させてしまうので好ましくない。また、溶解を効率的に行う為にボールミルで解砕を行いながら酸洗浄を行うこともできる。
【0067】
本実施形態においては、チタン酸バリウムのBa/Ti比が小さくなりすぎないように酸化バリウム(一部炭酸バリウム)20を溶解しているが、熱処理粉18の比表面積や酸溶解の条件を制御することにより、Ba/Ti比の範囲を調整することができる。
【0068】
上記のように洗浄して得られるスラリーは、吸引ろ過で固液分離し(固液分離工程:ステップS18)、水洗浄した後、130℃で2時間乾燥し、目的のBaTiO3粉末19を得る。
【0069】
以上より、チタン酸バリウム粒子の集合体であるチタン酸バリウム粉末と、酸化バリウム(一部炭酸バリウム)が溶解したバリウム塩水溶液とが得られる。この溶液は、図1に示すように、出発原料のバリウム源として再利用することができる。したがって、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法によれば、効率良くチタン酸バリウムを製造することができる。
【0070】
このように、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法によれば、酸性キレート剤によって安定化されたTiと、過飽和状態のBaを溶解させたチタン/クエン酸/バリウムスラリー(ゲル)を用い、さらにこのチタン/クエン酸/バリウムスラリー(ゲル)を均一に乾燥させ、熱処理することにより、チタン酸バリウム粉末(誘電体粒子)を作製することができる。チタン/クエン酸/バリウムスラリー(ゲル)中にBaを余剰に存在させることにより、目的粒子の粒成長を抑制し、粒度分布が良好なナノ粒子径のチタン酸バリウム粉末を得ることができる。さらに、チタン酸バリウム粉末は固相反応で合成されるため、高結晶性、高異方性であって、粒子内空孔(欠陥)が無いもしくは非常に少ないチタン酸バリウム粉末を作製することができる。
【0071】
すなわち、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法を用いることによって、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末を得ることができる。すなわち、チタン酸バリウム粉末の固相合成において、従来まで欠点とされていた粒子径を制御しつつ、良好な粒度分布を持ち、ナノ粒子化を可能とし、固相合成の利点である高結晶で粒子内ポア(欠陥)が無いもしくは非常に少ないチタン酸バリウム粉末を作製することができる。
【0072】
<セラミック電子部品>
上記のようにして得られたチタン酸バリウム粉末は、セラミック電子部品の一部を構成する誘電体層を形成する誘電体磁器組成物の誘電体材料として好適に用いられる。本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法を用いて得られたチタン酸バリウム粉末を用いて得られた誘電体磁器組成物を誘電体層として適用したセラミック電子部品の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、セラミック電子部品として積層型のセラミックコンデンサを用いた場合について説明する。
【0073】
図5は、セラミックコンデンサの一実施形態を模式的に示す概念断面図である。図5に示すように、セラミックコンデンサ30は、コンデンサ素子本体31と、コンデンサ素子本体31の両端部に各々形成された一対の端子電極(外部電極)32とを含む。コンデンサ素子本体31は、両端面並びに、上面と下面と両側面とを含む四方側面を有する直方体形状に形成される。コンデンサ素子本体31の大きさも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とする。なお、図5中、コンデンサ素子本体31の幅方向をXとし、厚さ方向をYとする。
【0074】
コンデンサ素子本体31は、複数の誘電体層33と、複数(例えば100層程度)の内部電極34とを有している。コンデンサ素子本体31は、複数の誘電体層33と複数の内部電極34とを交互に積層して形成されている。コンデンサ素子本体31は、セラミックグリーンシート(未焼成セラミックシート)を複数枚積層し、セラミックグリーンシートの間に内部電極34となる所定パターンの導電性ペーストを含む積層体を加熱圧着して一体化して、切断し、脱脂し、焼成することにより得られる直方体状の焼結体である。誘電体層33と内部電極34との積層方向は、コンデンサ素子本体31の厚さ方向Yである。コンデンサ素子本体31は、両端面並びに、上面と下面と両側面とを含む四方側面を有する直方体形状に形成されている。なお、説明の都合上、図5では、誘電体層33および内部電極34の積層数を視認できる程度の数としているが、所望の電気特性に応じて、誘電体層33および内部電極34の積層数を適宜変更してもよい。積層数は、例えば、誘電体層33および内部電極34を、各々数十層としてもよく、100層から500層程度としてもよい。また、実際のコンデンサ素子本体31は、誘電体層33の層間を視認できない程度に一体化されていてもよい。
【0075】
誘電体層33は、本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法で製造されたチタン酸バリウムを含む誘電体磁器組成物で構成される。誘電体層33は、誘電体磁器組成物からなるセラミックグリーンシートを焼成して得られるものである。誘電体磁器組成物は、本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法で製造され、結晶性および異方性が高く、ナノメートルオーダーの粒子径を持ち、シャープな粒度分布を有するため、高温負荷寿命であり、高い誘電率を有する。また、誘電体磁器組成物は、副成分を含んでもよい。副成分としては、Si、Mn、Cr、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、NbおよびR(RはYなどの希土類元素の1種以上)の酸化物並びに焼成により酸化物になる化合物などが挙げられ、これらを一種類以上含有していてもよい。
【0076】
内部電極34は、一端がコンデンサ素子本体31の端面36a、36bの何れかから露出し、一方の外部電極32に接続され、他端は外部電極32と絶縁されている。対向する一対の外部電極32に各々接続している内部電極34同士が誘電体層33を介して交互に対向し、所定間隔を持って複数積層されている。
【0077】
内部電極34を構成する材料としては、積層型のセラミック電子部品の内部電極として通常用いられる導電性材料であれば用いることができ、例えば、Pd、Ag、Ni、これらの合金などを主成分とする導電性材料を含んだものなどが用いられる。
【0078】
外部電極32は、コンデンサ素子本体31の端面36a、36bと、上面37a、下面37bの一部を覆うように設けられている。外部電極32は、コンデンサ素子本体31の端面36a、36bで内部電極34と接続し、コンデンサ回路を構成している。外部電極32は、電子部品の外部電極として通常用いられる導電性材料であれば用いることができ、例えば、Ni、Pd、Ag、Au、Cu、Pt、Sn、Rh、Ru、Irなどの少なくとも1種またはそれらの合金を用いることができる。外部電極32は、外部電極32に含まれる導電性材料を含有する導電性ペーストをコンデンサ素子本体31の端面36a、36bに塗布して焼き付けることによって形成されている。また、外部電極32は、複数の金属電極層で構成されていてもよく、例えば、Cuめっき層を下地電極に、Niめっき層、Snめっき層を形成するようにしてもよい。
【0079】
セラミックコンデンサ30は、以下のようにして製造される。まず、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末を含む誘電体ペーストと、内部電極層用ペーストとを用いて、焼成前誘電体層と焼成前内部電極層とを形成する。続いて、焼成前誘電体層と焼成前内部電極層とが積層されたグリーンチップを作製し、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を経て形成された、焼結体で構成されるコンデンサ素子本体31に、外部電極32を形成して、積層セラミックコンデンサ30が製造される。
【0080】
このようにして製造された積層セラミックコンデンサ30は、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末を用いて製造されるため、一般的なチタン酸バリウム粉体を用いて製造されたものに比べ、高い高温負荷寿命を有すると共に、より高い比誘電率を有することから、信頼性の高い電子部品を提供することができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【実施例】
【0082】
以下、本実施形態に係る発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本実施形態に係る発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
<チタン酸バリウム粉末の作製>
[試料番号1〜22]
下記原料を用いて上述の図1に示すような本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の作製方法を用いてチタン酸バリウム粉末を作製した。
(チタン水溶液)
塩化チタン水溶液(商品名「塩化チタン水溶液」、和光純薬社製、16.5wt% as Ti)を用いた。
(キレート剤水溶液)
イオン交換水600gにクエン酸1水和物を740gを溶解させて作製した。
(バリウム塩)
酢酸バリウム(商品名「酢酸バリウム」、チカモチ製薬社製)を用いた。
(チタン/キレート剤水溶液)
上記キレート剤水溶液にチタン水溶液750gを混合し、作製した(5.9wt% as Ti)。
【0084】
(チタン/キレート剤水溶液へのバリウム塩粉末の混合)
上記チタン/キレート剤水溶液へバリウム塩粉末を混合した。混合量は各実施例によってBa/Tiモル比で3、5になるようにし、混合速度は全量を30分で行った。またバリウム塩粉末の混合は、チタン/キレート剤水溶液を350rpm以上の回転数で撹拌しながら行い溶解させた。
【0085】
(チタン/キレート/バリウムスラリーのpH調整)
チタン/キレート/バリウムスラリーの目的pHは各実施例によって2、3、4になるようにした。pH調整後3時間撹拌し水酸化チタンゲルを安定化した。
【0086】
(スプレードライ乾燥)
上記スラリーをビュッヒのB−290スプレードライヤーを用いてスプレー乾燥させた。スプレー乾燥条件は入り口温度220℃、出口温度110℃〜130℃(無制御)の条件で行った。原料水溶液の供給速度はスプレーのコーン状態がきれいな円錐状になるように、ガス供給量と液供給量を調節しながら行った。乾燥粉の粒子径は概100μm以下になる条件であった。
【0087】
(熱処理(仮焼))
熱処理は、大気中雰囲気において、熱処理温度は650℃〜750℃の範囲、昇温速度はΔ300℃/時間で、保持時間は1時間〜9時間で行った。
【0088】
(余剰バリウムの洗浄)
余剰バリウムの溶解は、仮焼粉をイオン交換水に30wt%になるように懸濁させ強撹拌しているものに、pHを測定しながら酢酸を滴下した。余剰バリウムが溶解している段階では、酸を滴下しても、即座に中性領域のpHになるが、余剰バリウムが溶解すると、pHが4から5の弱酸領域で飽和する。そこを洗浄の終点と規定した。pHが飽和した段階で3時間撹拌し、pHの変化が無いことを確認後、24時間撹拌した。
【0089】
(固液分離工程)
上記洗浄後スラリーを吸引ろ過で固液分離した後、水洗し、130℃で2時間乾燥させ、目的の粉末を得た。
【0090】
[試料番号23]
試料番号23は、Ba/Ti比を2にして、後の工程は上述と同様にして行った。
【0091】
[試料番号24]
試料番号24は、仮焼温度を800℃にしたもので、後の工程は上述と同様にして行った。
【0092】
[試料番号25]
試料番号25は、仮焼温度を450℃にし、仮焼保持時間を18時間にしたもので、後の工程は上述と同様にして行った。
【0093】
[試料番号26]
試料番号26は、仮焼保持時間を18時間にしたもので、後の工程は上述と同様にして行った。
【0094】
[試料番号27]
試料番号27は、仮焼雰囲気を二酸化炭素雰囲気にしたもので、後の工程は上述と同様にして行った。
【0095】
[試料番号28]
試料番号28は、pHを塩酸で調整して、チタン/バリウム/キレートをゲルではなく水溶液を作製し、後の工程は上述と同様にして行った。
【0096】
[試料番号29]
試料番号29は、酸性のチタニアゾル(TDK社製)に酢酸バリウム粉末を混合したスラリーを作製し、後の工程は上述と同様にして行った。
【0097】
[試料番号30]
試料番号30は、炭酸バリウム粉末と、BET比表面積が93m2/gである二酸化チタン粉末とをBa/Ti比が5になるように混合し、実施例と同様のスラリー濃度にして湿式粉砕してスラリーを作製し、後の工程は上述と同様にして行った。
【0098】
[試料番号31]
試料番号31は、イオン交換水を混合スラリー(ゲル)の倍量を追加し、Baを飽和溶解状態にしない状態のスラリーを作製し、後の工程は上述と同様にして行った。
【0099】
[試料番号32]
BET比表面積が26m2/gの炭酸バリウムとBET比表面積が50m2/gの酸化チタンを用意し、これらをBa/Tiが1.000となるように調整し、ボールミルで湿式混合を24時間おこなった。これをスプレードライヤーで乾燥させ、大気中で1100℃で熱処理した。得られた熱処理粉は乾式粉砕機にて粉砕して試料番号32の粉末を得た。
【0100】
[試料番号33]
BET比表面積が26m2/gの炭酸バリウムとBET比表面積が50m2/gの酸化チタンを用意し、これらをBa/Tiが1.050となるように調整し、ボールミルで湿式混合を48時間おこなった。これをスプレードライヤーで乾燥させ、5×102Paの真空雰囲気下にて850℃で熱処理して試料番号33の粉末を得た。
【0101】
各試料のBa/Ti比、pH、仮焼き条件(仮焼き温度、仮焼き保持時間、雰囲気)を表1に示す。
【0102】
<評価>
得られたチタン酸バリウム粉末を用いて、BET被表面積評価法(BET法)によりチタン酸バリウム粉末の被表面積と粒子径を測定した。また、X線回折測定(X-Ray Diffraction:XRD)を行い、測定により得られたX線回折強度からリートベルト法(Rietveld法、リートフェルト法)により解析し、c/a、ΔH(結晶性)、炭酸バリウム量を測定した。また、FE−SEMによりチタン酸バリウム粉末を観察し、チタン酸バリウム粉末の粒子径を測定し、粒度分布((D90−D10)/D50)を評価した。また、蛍光X線元素分析法(X-ray Fluorescence Analysis:XRF)によるBa/Ti比を測定した。また、TEMを用いてチタン酸バリウム粉末のポアの観察を行った。
【0103】
X線回折、粒度分布の測定条件は、下記に示す通りである。
【0104】
(X線回折)
X線回折は、X線源としてCu−Kα線を用い、その測定条件は、電圧45kV、電流40mAで、2θ=20°〜130°の範囲を、走査速度0.08deg/secとした。
【0105】
X線回折で得られた(111)のピークについて半値幅(ΔH)を評価した。本実施例では、粒子径と結晶性および異方性とを考慮して、c/aは1.0045以上を良好とし、半値幅(ΔH)は0.310以下を良好とし、炭酸バリウム量は3.2質量%以下を良好とした。
【0106】
(粒度分布)
得られた粉末を構成する一次粒子についてFE−SEM観察を行い、500個の粒子について観察し、その粒子径を測定した。そして、累積個数が10%となる粒子径をD10、累積個数が50%となる粒子径をD50および累積個数が90%となる粒子径をD90とした。得られたD10、D50およびD90から、(D90−D10)/D50を算出した。本実施例では、(D90−D10)/D50は2.0以下を良好とした。
【0107】
各試験結果を、表1、2に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
図6は、熱処理後の混合物のXRD結果を示す図である。図7は、熱処理後の混合物から余剰バリウムを除去した試料のXRD結果を示す図である。図6に示すように、熱処理後の混合物は、様々なバリウム塩の生成とチタン酸バリウムとが生成していることが確認できた。また、図7に示すように、熱処理後の混合物を溶解して得られたチタン酸バリウム粉末には、異相がほとんど含まれておらず、熱処理後の混合物から余剰バリウムが除去されていることが確認できた。
【0111】
また、図8は、熱処理後の混合物のSEM写真である。図9は、熱処理後の混合物から余剰バリウムを除去した試料のSEM写真であり、図10は、熱処理後の混合物から余剰バリウムを除去した試料の他のSEM写真である。図8に示すように、熱処理後の混合物は、チタン酸バリウム粉末が含まれているのが確認できるが、個々に分散されていない。一方、混合物から余剰バリウムを除去すると、図9、10に示すように、本発明に係る方法により製造されたチタン酸バリウム粉末は、角状の結晶であり結晶性の良さが確認され、かつ粒子径のバラツキが少ないことが視覚的に確認できた。
【0112】
また、試料番号5のチタン酸バリウム粉末のTEM写真を図11に示す。図11に示すように、本発明に係る方法により製造されたチタン酸バリウム粉末は粒子内ポアがないことが確認された。
【0113】
試料番号1〜8から、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法に係る粒子径の制御には仮焼き保持温度、仮焼き保持時間が効いていることが分かる。仮焼き保持時間が短く、仮焼保持温度が低いと、粒子径が小さくなるが、結晶性、異方性も悪くなることがわかる。
【0114】
試料番号1〜16から、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の製造方法により得られるチタン酸バリウム粉末の粒子径の制御にはBa/Ti比が効いていることが分かる。仕込みのBa/Ti比が大きい方が、仮焼き保持温度を高くしてもチタン酸バリウム粉末の粒子径が小さくでき、結晶性、異方性が高くなることが分かる。
【0115】
試料番号11〜13、試料番号17〜22から、ゲルスラリーのpHによって粒子径が制御できることが分かる。pHが高いと作製されたチタン酸バリウムの粒子径は小さくなりpHが低いと粒子径は大きくなることが分かる。
【0116】
表2より、試料番号23のように、Ba/Ti比が2になると、チタンゲル中のBa量が少なく、図3に示すような、バリウム塩粒子15中に多数の酸化チタン粒子16が点在(分散)している乾燥粉(混合物)17を得ることができず、酸化チタン粒子16の周囲はバリウム塩で被覆されている状態になっていなかった。そのため、BET比表面積が小さく、目的の粒子径のものが作製されない。
【0117】
表2より、試料番号24のように、仮焼温度が800℃以上となると、得られるチタン酸バリウム粒子の粒子径は、大きく所定の目的とする粒子径の範囲内にならなかった。これは、Ba塩の炭酸バリウム化が進行し、その結果Ba塩の密度の変化、結晶化により、仮焼き中の酸化チタン、生成したチタン酸バリウムが凝集し粒成長が進行したためといえる。
【0118】
図12は、試料番号25のXRDチャートを示す図である。図12に示すように、仮焼温度を450℃以下にすると、チタン酸バリウムが生成しなかった。
【0119】
表2より、試料番号26のように、仮焼保持時間が18時間にすると、得られるチタン酸バリウム粒子がネッキングし、粒度分布が悪くなってしまった。これは、Ba塩の炭酸バリウム化が進行し、その結果Ba塩の密度の変化、結晶化により、酸化チタンが凝集してしまうからといえる。
【0120】
また、試料番号26のFE−SEMの写真を図13に示す。図13に示すように、仮焼保持時間を18時間として製造されたチタン酸バリウム粉末は、結晶性も悪く、粒子径のバラツキが大きく、酸化チタンが凝集していたことが視覚的に確認できた。
【0121】
表2より、試料番号27のように、仮焼雰囲気を二酸化炭素雰囲気にすると、Ba塩の酸化バリウム化が進行せず、完全に炭酸バリウムになってしまった。その結果、スプレードライ後の球状バリウム塩から針状の炭酸バリウムに変態し、その変態時に酸化チタンが凝集してしまった。その結果として、得られるチタン酸バリウム粒子が一気に粒成長してしまい、目的の粒度分布、粒子径にならなかった。
【0122】
表2より、試料番号28のように、ゲル工程を経ずに水溶液の状態で乾燥工程を経ると、チタン原料が凝集した。これは、チタン原料の水素結合ネットワークが形成されていないため、乾燥時にバリウムとチタンが分離乾燥してしまうためといえる。
【0123】
表2より、試料番号29のように、試料番号29の方法では、チタニアゾルに酢酸バリウム粉末を混合するときに、チタニア粒子が凝集してしまった。また、酸化チタンを出発原料にしているため、低温での反応性が低かった。
【0124】
表2より、試料番号30の方法で原料を準備すると、800℃以下のような低い仮焼き温度範囲では、チタン酸バリウム粒子が完全に生成せず、未反応の酸化チタンが残ってしまった。これは、粉末混合での仮焼より、BaとTi原料が点で接しており、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末の作製方法のように、チタン酸バリウム粒子が酸化チタンと面で接触していない。そのため、原料が拡散反応する温度まで上げないと、完全に反応しない。そのためチタン酸バリウムが完全に生成しなかったものと思われる。
【0125】
表2より、試料番号31の方法で原料を準備すると、粒子径が大きいチタン酸バリウムとなった。これは、チタン濃度が薄まりゲル化しないことや、Ba濃度が薄まり乾燥粉中のTi間のBa障壁が薄くなり、乾燥粉表面のBa塩の厚みが厚くなるためであるといえる。
【0126】
表2より、試料番号32の方法で原料を準備すると、粒度分布が悪くなった。これはBa/Tiの仕込み量が1であること。熱処理温度が高いことによって、強固なネッキング粒子ができており、これを乾式粉砕でBET比表面積を調整しているためであると考えられる。また、試料番号33の方法で原料を準備し、熱処理を施すと粒度分布が悪く、異方性も低くなった。これは、Ba/Tiの仕込み量が1.05であるために、本発明で得られるBaの壁の効果がないためであると考えられる。
【符号の説明】
【0127】
11 水
12 バリウムイオン
13 チタン化合物
14 クエン酸
15 バリウム塩粒子
16 酸化チタン粒子
17 乾燥粉(混合物)
18 熱処理粉
19 チタン酸バリウム(BaTiO3)粒子
20 酸化バリウム(一部炭酸バリウム)
30 セラミックコンデンサ
31 コンデンサ素子本体
32 端子電極(外部電極)
33 誘電体層
34 内部電極
36a、36b 端面
37a 上面
37b 下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン水溶液とバリウム塩粉末を出発原料として、この出発原料を混合し、ゲル化するゲル化工程と、
このゲル化した混合物を乾燥する乾燥工程と、
この乾燥粉を熱処理してチタン酸バリウム粒子を生成する熱処理工程と、
この熱処理粉からチタン酸バリウム粒子を分離する分離工程と、
を有することを特徴とするチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項2】
前記チタン水溶液は、水溶性チタン原料と酸性キレート剤の混合水溶液であることを特徴とする請求項1に記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項3】
前記バリウム塩粉末は、チタン原料に対してモル比で3倍以上混合することを特徴とする請求項1または2に記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項4】
前記混合水溶液は、バリウム塩粉末が飽和溶解度に達した飽和水溶液であることを特徴とする請求項2に記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥工程を経た乾燥粉は、バリウム塩粒子を主粒子とし、その中に1個以上のチタン酸化物が互いに接触せずに分散している状態であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程によって、バリウム塩が塩基性のバリウム化合物になることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理工程における熱処理温度が、500℃以上から800℃未満であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項8】
前記分離工程が、熱処理後の粉末と溶媒とを混合して、余剰分である未反応のバリウム化合物である塩基性バリウム塩を溶解し、熱処理後の熱処理粉から前記チタン酸バリウム粒子を分離する工程を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8に記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法によって製造されたチタン酸バリウム粉末が、ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸バリウム粒子の集合体であるチタン酸バリウム粉末であって、
(100)面を主面として有し、前記ペロブスカイト型結晶構造におけるc軸の格子定数とa軸の格子定数との比を示すc/aが1.0045以上であり、X線回折により観測される(111)ピークの半値幅が0.25以下であり、BET法による比表面積が3.3m2/g以上25m2/g以下であり、累積個数が10%となる粒子径をD10、累積個数が50%となる粒子径をD50および累積個数が90%となる粒子径をD90とした場合に、(D90−D10)/D50が2.0以下であることを特徴とするチタン酸バリウム粉末。
【請求項10】
誘電体層と電極層とを有する電子部品を製造する方法であって、
請求項9に記載のチタン酸バリウム粉末を含む焼成前誘電体層を形成する焼成前誘電体層形成工程と、
前記焼成前誘電体層を焼成する焼成工程と、
を有することを特徴とする電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−211046(P2012−211046A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77520(P2011−77520)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】