説明

チタン鉱石選鉱用の耐火ライニング

本開示は、炉、特に回転炉床炉におけるチタン鉱石選鉱中に耐火物を劣化させる腐食に対する耐性を有する耐火物に関する。特に、本開示は、酸化チタンリッチな溶融スラグが形成されるチタン鉱石選鉱プロセスにおいて用いるための炉用の層状耐火ライニングであって:
(a)主要な割合のアルミナと小さい割合のジルコニアと含む第1層と、
(b)溶融スラグに対する耐性剤を含む第2層と、を含み、第2層は、スラグと第1層との間にある、層状耐火ライニングに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チタン鉱石の選鉱において用いられる炉用の層状耐火ライニングに関する。より詳細には、本開示は、主要な割合のアルミナと小さい割合のジルコニアとを含む、炉にライニングを施すための耐火物体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉄、二酸化チタン、および酸化金属不純物を含有するイルメナイトなどの低品位チタン鉱石を、チタンスラグなどの高レベルの酸化チタンおよび金属鉄を含有する生成物に選鉱するための回転炉床炉が説明されている。しかし、二酸化チタンおよび酸化金属不純物を含有する低品位鉱石を回転炉床炉における還元により選鉱することにより、加工上の難題が生じる可能性がある。特に、生成されるチタンリッチなスラグは、典型的には炉をライニングするために用いられる耐火材料に対して高い腐食性を有する可能性があるため、ライニングを劣化させ、その結果、耐火物を補修または交換するための生産休止時間を増加させてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スラグのフリーズライニングが耐火物と溶融スラグとの間の保護バリアとして作用する典型的なイルメナイト製錬プロセスとは異なり、回転炉床プロセスにおける溶融スラグは、耐火物と直接接触する可能性があるため、腐食に対する耐性を有する耐火物が不可欠である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、酸化チタンリッチおよび酸化鉄リッチな溶融スラグが形成されるチタン鉱石選鉱プロセスにおいて用いるための炉用の層状耐火ライニングであって、
(a)主要な(major)割合のアルミナと小さい(minor)割合のジルコニアと含む第1層と;
(b)溶融スラグならびにアルミナおよびジルコニアの耐性剤反応生成物を含む第2層と、を含み、第2層は、溶融スラグと第1層との間にある、層状耐火ライニングに関する。
【0005】
第2層は、選鉱プロセス中にその場で形成することが可能であり、または第2層は、第1層の表面にチタニア源、炭素源、およびバインダを含むペーストを塗布して表面上に被覆を形成し、被覆を溶融させることで被覆を第1層と反応させて第2層を形成することにより予備成形することが可能である。
【0006】
炉は、電気アーク炉または回転炉床炉であることが可能である。
【0007】
第1層は、第1層の全重量に対して約90〜約99重量%のアルミナおよび約1〜約10重量%のジルコニアを有するアルミナおよびジルコニアを含むことが可能である。より具体的には、アルミナは、第1層の全重量に対して約97重量%〜約98重量%の範囲であり、ジルコニアは、第1層の全重量に対して約1重量%〜約2重量%の範囲である。層状耐火ライニングは、さらに、カルシアおよびマグネシア、酸化イットリウム、酸化セリウム、またはそれらの混合物を含むことが可能である。
【0008】
別の態様において、本開示は、チタン鉱石選鉱プロセスにおいて用いるための炉の耐火物質(耐火物体)中に耐性剤を形成するための方法であって
(i)炭素ベースの材料およびチタン含有鉱石を含む集塊を形成するステップであって、集塊の炭素量は、上昇した温度において、酸化第二鉄を酸化第一鉄に還元し、酸化チタンおよび酸化鉄を含むスラグを形成するために十分なものである、ステップと、
(ii)集塊を移動炉床炉の炭素ベッド上に導入するステップであって、移動炉床炉は、主要な割合のアルミナと小さい割合のジルコニアと含む第1層を含む耐火ライニングを含む、ステップと
(iii)集塊を移動炉床炉において集塊を還元し溶融させるために十分な温度に加熱することで、耐火ライニングに接触する酸化チタンリッチな溶融スラグを生成し、スラグ、アルミナ、およびジルコニアの反応生成物である耐性剤を含む第2層を生成するステップと、を含み、第2層は、スラグと第1層との間に形成される、方法に関する。
【0009】
さらに別の態様において、本開示は、酸化チタンリッチな溶融スラグに対する耐性剤であって、主要な割合のアルミナと小さい割合のジルコニアと含む耐火ライニングの第1層と酸化チタンリッチな溶融スラグとの反応生成物を含み、酸化チタンリッチな溶融スラグの存在下におけるクラックを含む劣化に対する耐性を有する、耐性剤に関する。耐性剤は、スラグの酸化チタンと第1層のアルミナおよびジルコニアとの反応生成物であることが可能である。
【0010】
一実施形態において、本明細書中の開示は、組成または方法の基本的かつ新規性のある特性に実質的に影響しないいずれの要素または方法ステップを除外するものと解釈することが可能である。加えて、本開示は、本明細書中に明記しないいずれの要素または方法ステップを除外するものと解釈することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】チタンリッチな鉱石の還元ならびに鉄金属および高品位酸化チタンの生成用の回転炉床炉の上面図である。
【図2】本開示の方法の簡略化された概略図である。
【図3】比較例1のマグネシアベースの耐火物の写真である。
【図4】比較例2のアルミナベースの耐火物の写真である。
【図5】比較例3のアルミナベースの耐火物の写真である。
【図6】実施例4のアルミナベースの耐火物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
広く用いられているチタン鉱石選鉱方法の1つでは、酸化チタンを含有する鉱石が、二酸化チタン顔料の製造において用いるのに好適なより高濃度の酸化チタンを含有するスラグに炉内で転化される。本開示は、炉の少なくとも一部分にライニングを施すための耐火物質に関し、より詳細には、耐火物質は、チタン鉱石選鉱プロセスにおいて用いるための層状耐火ライニングを形成する。このプロセスのため、酸化チタンを含有する鉱石は、炭素ベースの材料およびチタン鉱石を含む集塊に形成される。集塊は、炉に供給され、スラグおよび他の反応生成物に転化される。集塊の炭素量は、上昇した温度において、酸化第二鉄を酸化第一鉄に還元し、酸化チタンおよび酸化第一鉄を含む溶融スラグを形成するために十分なものである。集塊は、移動炉床炉の炭素ベッド上に供給することが可能である。
【0013】
チタンリッチな溶融スラグの腐食特性に対する耐性を有する耐火物質について説明する。耐火物質は、アルミナ−ジルコニアを含む第1層を含む。より詳細には、耐火物質は、主要な割合のアルミナと小さい割合のジルコニアと含む。アルミナ対ジルコニア比は、式
xAl23:yZrO2
により表すことが可能であり、式中、xは、耐火物質の総重量に対して約90〜約99重量%の範囲であり、yは、耐火物質の総重量に対して約1〜約10重量%の範囲である。より詳細には、xは、耐火物質の総重量に対して約95〜約99重量%の範囲であり、yは、耐火物質の総重量に対して約1〜約5重量%の範囲である。さらに詳細には、耐火物質の総重量に対して、xは約97〜約98重量%であり、yは約1〜約2重量%である。耐火物質は、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の1つ以上の酸化物または元素周期表(Sargent−Welch Scientific Company、1979年)の第IVB族元素の酸化物などの耐火物質の耐腐食特性を害さない他の化合物を小さい割合で含有することが可能である。これらの化合物のいくつかは、耐火物の安定性を高め、それにより、スラグに接触してその性能に貢献し得る。例には、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、および酸化セリウム、ならびにそれらの混合物からなる群から選ばれたものがある。これらの酸化物の総量は、耐火物質の総重量に対して1重量%未満、より典型的には0.5重量%未満、典型的には約0.05重量%〜約1重量%、さらに典型的には約0.05重量%〜約0.5重量%であることが可能である。
【0014】
特に、第1層は、シリカが存在しないものであることが可能である。
【0015】
耐火物質は、さらに、スラグに対する耐性剤を含む第2層を含む。耐性剤は、チタンリッチな溶融スラグに曝露された耐火物質の腐食を抑制することで、耐火物質におけるクラックの形成を防止することが可能である。耐性剤は、チタン鉱石の還元から形成される溶融スラグと、耐火物のアルミナおよびジルコニアとの反応生成物であることが可能である。また、第2層は、溶融スラグと第1層の耐火物の成分との他の反応生成物と、任意選択的に、第1層の1つ以上の未反応成分および未反応スラグとを含むことが可能である。第2層は、鉱石選鉱プロセス中に、溶融スラグと第1層との反応により形成することが可能である。より詳細には、第2層は、鉱石選鉱プロセス中に、第1層の成分と溶融スラグとの反応により形成することが可能である。さらに詳細には、第2層は、鉱石選鉱プロセス中に、第1層のアルミナおよびジルコニアと溶融スラグ中のチタン鉱石の還元生成物との反応により形成することが可能である。
【0016】
代替として、第2層は、予備成形ステップにおいて作製することが可能である。第2層の予備成形は、典型的には回転炉床炉において、イルメナイトなどのチタニア源と、石炭などの炭素源と、第1層に付着して第1層上に被覆を形成するチタニアおよび炭素源のペーストを作製するのに好適なバインダとを含むペーストを、耐火ライナの表面に塗布することにより達成することが可能である。バインダの量および種類は、プロセス条件に依存するが、耐火物分野の当業者には明らかであろう。次いで、炉を、被覆を溶融させ耐火物と反応させて第2層を形成するために十分な温度に加熱することが可能である。従って、第2層は、選鉱に先立って形成され、予備成形ステップにおいて作製されると考えることが可能である。このように、耐性剤は、上昇した温度、より詳細には鉱石選鉱を行うための温度において、第1層、より詳細には第1層の成分と、予備成形された第2層の成分との反応により、予備成形された第2層中に形成することが可能である。
【0017】
耐火物質は、れんが、タイル、または実質的に連続した層、より詳細には連続層の形態であることが可能である。耐火物質に好適な市販の耐火材料は、Milledgeville,GAのRath Refractories,Inc.により販売されているKorrath C98Zrである。C98Zr耐火物は、耐火物の全重量に対して97.7重量%のアルミナ、1.8重量%のジルコニア、0.2重量%の(マグネシア+カルシア)、0.1重量%のシリカ、および0.2重量%のアルカリ金属を含有する。
【0018】
典型的には、炉は、移動炉床炉であり、より典型的には回転炉床炉であることが可能である。しかし、電気アーク炉を用いることも可能である。
【0019】
図面、より詳細には図1を参照すると、充填物を還元するために回転炉床炉を用いることが可能である。典型的な産業用移動炉床炉の構成を有する炉10を用いることが可能である。回転炉床炉は、材料供給ゾーン12から回転可能な表面30を有する。
【0020】
炉床30は、材料供給ゾーンから第1のバーナゾーン14、第2のバーナゾーン16、および第3のバーナゾーン17により表される複数のバーナゾーンを通って回転する。バーナゾーンの少なくとも一部分には、反応ゾーンが広がっている。排出ゾーン18は、冷却板48および排出装置28を備える。炉の最高温度は、典型的には、第3のバーナゾーン17において到達される。本開示のプロセスの第1および第2の段階は、反応ゾーンにおいて行われる。表面30は、連続動作のため、反応ゾーンを通って排出ゾーン18から供給材料ゾーン12に反復的に回転可能である。バーナゾーンは、各々、複数の空気/燃料、酸素/燃料、または酸素富化バーナ22により点火され、炎20を発生させる。
【0021】
材料供給ゾーン12は、開口24および供給機構26を含み、それらにより、集塊が炉に充填される。少なくとも表面30の主要な割合に、炭素を含む層を配置することが可能であり、または全表面が炭素を含む層を含むことが可能であり、かかる層上に集塊が載置される。炭素を含む層は、いずれかの簡便な手段により、典型的には固体材料フィーダ34により、表面上に載置することが可能である。集塊は、表面30の幅に広がるレベラ29により表面上方の有用な高さにレベル調整することが可能である。集塊は、表面が炉を中心に各ゾーンを通って回転する際、供給機構により炉に連続的に供給される。回転速度は、可変速駆動装置を調整することにより制御される。
【0022】
本開示はまた、酸化チタンリッチな溶融スラグに対する耐性剤の形成にも関する。この方法では、炭素ベースの材料およびチタン鉱石を含む集塊が形成され、集塊の炭素量は、上昇した温度において、酸化第二鉄を酸化第一鉄に還元し、酸化チタンおよび酸化第一鉄を含む溶融スラグを形成するために十分なものであり、集塊が移動炉床炉の炭素ベッド上に導入され、移動炉床炉は、主要な割合で存在するアルミナと小さい割合のジルコニアとを含む第1層を含む耐火ライニングを含み、集塊が移動炉床炉において集塊を還元し溶融させるために十分な温度に加熱されることで、酸化チタンリッチおよび酸化鉄リッチな溶融スラグとスラグに対する耐性剤を含む第2層とが生成され、第2層は、スラグと第1層との間に形成される。
【0023】
酸化チタンおよび酸化鉄を含有する低品位鉱石を用いることが可能である。低品位鉱石中に存在するチタンは、通常は鉄と組み合わせられ、また他の金属の酸化物およびアルカリ土類元素も含有する複合酸化物として存在する。チタンは、通例、砂または硬岩堆積物のいずれかとして、イルメナイトとして見いだされる。イルメナイト砂などの低品位チタン鉱石は、砂の全重量に対して約45〜約65重量%の二酸化チタン、約30〜約50重量%の酸化鉄、および約5〜約10重量%の脈石を含有することが可能である。イルメナイトの岩堆積物は、岩堆積物の全重量に対して約45〜約50重量%の二酸化チタン、約45〜約50重量%の酸化鉄、および約5〜約10重量%の脈石を含有することが可能である。本開示の方法は、かかるチタン鉱石を用いることが可能である。
【0024】
回転炉床炉への充填物として有用な集塊は、鉱石と、酸化第二鉄から酸化第一鉄への還元が還元条件下で行われる第1段階の溶融に十分な量の炭素とを含む。炭素の正確な量は、鉱石の酸化鉄の含有量、詳細には酸化第二鉄の含有量に依存して変化する可能性がある。しかし、化学量論量(すなわち、鉱石中のすべての酸化鉄を金属鉄に還元するために十分な量)未満の炭素を用いることで、大半の酸化第一鉄が鉄金属に還元される第2段階の金属化前に集塊を溶融させることが可能である。軽度の金属化は、第1段階において行うことが可能であり、本開示の方法にとって支障を来たすことはない。
【0025】
炭素量についての言及は、炭素源を提供する材料の固定炭素分を意味する。固定炭素分は、試料を空気の不存在下で950℃に加熱して揮発性物質(典型的にはいくらかの炭素を含む)を除去することにより、石炭などの固体燃料の近成分析において決定される。950℃において残留する炭素が固定炭素分である。
【0026】
本開示の方法において用いることが可能で約30〜約50%の酸化鉄を含有する典型的な鉱石について、炭素量は、集塊の全重量に対して約0.5〜約8.0重量%、より典型的には約1.0〜約6.0重量%の範囲であることが可能である。イルメナイトおよび/またはイルメナイトを含有する砂について、炭素量は、集塊の全重量に対して約1.0〜約8.0重量%、より典型的には約2.0〜約6.0重量%の範囲であることが可能である。イルメナイトの岩堆積物について、炭素量は、集塊の全重量に対して約0.5〜約5.0重量%、より典型的には約1.0〜約3.0重量%の範囲であることが可能である。
【0027】
典型的には、集塊中の炭素量は、酸化第二鉄を還元するために十分であるが、集塊に対して約50%超の酸化第一鉄、より典型的には約20%超の酸化第一鉄を金属化するためには不十分である。
【0028】
集塊中で有用な炭素源は、石炭、コークス、木炭、および石油コークスなどを含むがそれらに限定されない任意の炭素質材料であることも可能である。
【0029】
集塊は、鉱石および炭素源を、任意選択的にバインダ材料とともに、混合し、混合物を通常は約100℃〜約200℃の範囲の温度で乾燥させられるペレット、ブリケット、押出物、または圧縮物に成形することにより形成することが可能である。供給成分を混合および成形することが可能な設備は、当業者に周知である。典型的には、集塊の平均径は、取り扱いの容易さのため約2〜約4cmの範囲である。
【0030】
任意選択的なバインダ材料は、ベントナイトまたは消石灰などの有機バインダまたは無機バインダであることが可能であるが、それらに限定されない。好適なバインダ量は、集塊の全重量に対して約0.5〜約5重量%、典型的には約1〜約3重量%の範囲である。
【0031】
いくつかの鉱石還元方法とは異なり、集塊の鉱石は、微細粉末に粉砕することなく用いることが可能である。しかし、鉱石は、集塊に形成される前に、約0.1〜約1mmの範囲の平均粒子サイズに圧砕および/または選別して、取り扱い上の問題を生じさせ得るいずれの大塊も分離することが可能である。例えば、岩堆積物が用いられるときは、それらを通常は圧砕および選別して平均サイズが約0.1〜約1mmの範囲の鉱石粒子を得る。
【0032】
集塊は、回転炉床炉に充填することが可能であり、かかる炉内で、第1段階の溶融に十分な温度に加熱されることで酸化第一鉄リッチな溶融スラグが生成される。典型的な方法において、集塊は、炭素質材料のベッド、典型的には石炭またはコークス粒子のベッド上に集塊を堆積させる供給シュートを通じて充填することが可能である。ベッドの厚さは、約1〜約5cmの範囲であることが可能である。
【0033】
第1段階の溶融に十分な移動炉床炉内部の温度は、約1300℃〜約1800℃、典型的には約1400℃〜約1750℃、より典型的には約1500℃〜約1700℃の範囲であることが可能である。具体的な温度は、鉱石の組成に依存する。溶融段階の期間は、約1分〜約5分の範囲であることが可能である。
【0034】
第1段階の溶融において、集塊の炭素含有量は、酸化第二鉄を酸化第一鉄に還元するために十分なものであるが、いずれの実質的な金属化を完了させるにも不十分なものであり、加えて、酸化第一鉄を鉄金属に完全に還元するために十分なものではない。
【0035】
第1段階の溶融の結果生じる酸化第一鉄リッチな溶融スラグは、還元条件下で炭素ベッドに接触する。この接触を通じ、酸化第一鉄は、第2段階の金属化においてさらに還元され、鉄金属生成物が生成される。
【0036】
第2段階の金属化における移動炉床炉内部の温度は、酸化第一鉄の金属化が行われる際にスラグを溶融状態に保つために十分に高いものである。この目的のために好適な炉床炉内部の温度は、約1500℃〜約1800℃、典型的には約1600℃〜約1750℃、より典型的には約1600℃〜約1700℃の範囲であることが可能である。要求される具体的な温度は、鉱石の組成に依存して変化する。
【0037】
大規模炉では、第1段階における炉内部の温度は、第2段階における温度よりも少なくとも約100℃低いものであることが可能である。
【0038】
第2段階の金属化の期間は、第1段階の溶融の期間よりも長くすることが可能であり、約5分〜約20分の範囲であることが可能である。第1段階中は、集塊に含有される炭素の存在下で酸化第二鉄の還元と溶融とが急速に行われる。対照的に、第2段階では、金属化中に十分な時間をかけて酸化第一鉄リッチな溶融スラグを炭素ベッド上に流れさせることで、大きい金属粒子の生成を増進することが可能であり、これは、溶融スラグの鉄液滴が合体してより大きい液滴となり、かかる液滴が冷却中にそのサイズを維持して固体金属粒子を形成するためである。
【0039】
第2段階の金属化が進行するにつれ、スラグの流動性が低下し、スラグのチタン濃度が増加する。スラグの流動性を維持するために十分な条件が、溶融スラグ中の鉄液滴が合体することを助け、容易に分離可能な大きい鉄粒子を形成することを容易にする。
【0040】
金属化が完了に近付くにつれ、スラグは固体化する。好ましくは、金属化は、集塊に対して少なくとも約90%が完了するまで、より好ましくは少なくとも約95%が完了するまで行われる。大顆粒の形態であることが可能な鉄金属は、費用対効果に優れた方法により固体スラグから容易く分離可能である。理想的には、鉄金属を分離するための機械的方法が用いられる。化学的浸出などの化学的方法は必要ない。加えて、集中的粉砕などのさらなる機械的分離方法も必要ない。
【0041】
金属を分離するための典型的な方法は、圧砕、粉砕、選別、および磁気分離を含む。
【0042】
典型的には、プロセスの鉄顆粒の平均径は、約0.05〜約10mm、より典型的には約0.1〜約5mmの範囲である。
【0043】
典型的には、プロセスの固体スラグ生成物は、機械的に分離可能な金属鉄の分離後、固体スラグ生成物の全重量に対して約85%超の酸化チタン、より典型的には約87%超の酸化チタンを含む。用語「酸化チタン」は、TiO2、Ti35、およびTi23を意味する。また、固体スラグ生成物は、TiO、TiC、およびTiNの形態のより少量のチタンも含有することが可能である。固体スラグ生成物は、少量の残留金属鉄を含有することが可能である。残留金属鉄は、通常、直径約50ミクロン未満の金属鉄粒子の一部である。通常、残留金属鉄の量は、機械的に分離可能な金属鉄顆粒の機械的分離後、固体スラグ生成物の全重量に対して約6%未満、より典型的には約4%未満である。他の少量のFeOなどの不純物および他の酸化物が存在することが可能である。これらの他の不純物の量は、通常、固体スラグ生成物の全重量に対して8%未満、より典型的には6%未満である。
【0044】
移動炉床炉は、集塊を炭素ベッド上で少なくとも2つの高温ゾーンに曝露することが可能な任意の炉であることが可能である。好適な炉は、トンネル炉、チューブ炉、または回転炉床炉であることが可能である。本方法は、単一の炉構造を用いることが可能である。
【0045】
図2を参照すると、鉱石を混合ゾーン51に導入するプロセスが示されている。混合ゾーン51への導入に先立って、炭素をサイズリダクションゾーン50に導入することが可能であり、ゾーン51では、鉱石および炭素がオプションのバインダなどの添加剤とともに混合され、集塊に形成される。集塊は、回転炉床炉ゾーン52に導入され、かかるゾーンでは、集塊の酸化第二鉄が本明細書に記載のように還元および金属化される。図2に示す高温の生成物42は、任意の適当な手段により冷却される。冷却された生成物は、次いで、選別ゾーン53において選別され、次いで、粉砕ゾーン54において粉砕されることで、高品位酸化チタン生成物から鉄金属が分離される。また、再循環材料も分離し、混合ゾーン51に導入することが可能である。鉄金属生成物は、ブリケッティングゾーン55においてブリケットに形成することが可能であり、かかるゾーンから鉄金属生成物が引き出される。
【0046】
一実施形態において、本明細書中の開示は、組成または方法の基本的かつ新規性のある特性に実質的に影響しないいずれの要素または方法ステップを除外するものと解釈することが可能である。加えて、本発明は、本明細書中に明記しないいずれの要素または方法ステップを除外するものと解釈することが可能である。
【0047】
出願人は、すべての引用文献の全内容を本開示に具体的に組み込む。さらに、量、濃度、または他の値もしくはパラメータが範囲、好ましい範囲、または好ましい上限値および好ましい下限値のリストのいずれかとして与えられるときは、範囲が別々に開示されているかどうかに関わらず、任意の範囲上限または好ましい値および任意の範囲下限または好ましい値の任意の対から形成されるすべての範囲を具体的に開示するものと理解すべきである。本明細書中で数値の範囲が言及される場合、特に明記しない限り、範囲は、その端点ならびに範囲内のすべての整数および端数を含むことが意図される。本発明の範囲が、範囲を定義するときに言及される具体的な値に限定されることは意図していない。
【実施例】
【0048】
以下の例により本開示を説明する。特に明記しない限り、すべての部分、百分率、および割合は、重量に基づくものである。
【0049】
比較例1
本例では、耐火物の全重量に対して92重量%のマグネシア、6重量%のアルミナ、1重量%のシリカ、および1重量%のカルシアを含有する耐火物(Moon Township,PAのANH Refractoriesにより販売されているMagnel HF)を用いた。幅50mm×長さ50mm×高さ40mmの耐火れんがに深さ15mmのキャビティをドリル加工してカップを形成した。混合物の全重量に対して92.5重量%のイルメナイトチタン含有鉱石(鉱石の全重量に対して約60重量%のTiO2を含有)、5.5重量%の瀝青炭、および2重量%のバインダからなる混合物をペレットに成形し、約110℃の温度で乾燥させた。乾燥したペレットは、直径約20mmであった。かかるペレットを、何らかの瀝青炭または無煙炭、冶金コークス、および石油コークス(スポンジコークス、ニードルコークス、ショットコークス、および流体コークスを含む)を含んでもよい炭素ベースの材料の薄層を含むカップ内に配置し、カップをボックス炉内に配置し、1700℃に15分間加熱し、かかる時間の間、カップのキャビティ内部におけるチタンリッチなスラグの生成を観察した。次いで、温度を4時間の間1735℃に上昇させた。カップを炉から除去し、冷却させた。図3は、カップの断面写真であり、耐火物へのスラグの侵入およびカップのクラックを示している。広範なクラックは、耐火物組成がチタニアリッチなスラグからの損傷に耐えられなかったことを示す。カップを光学顕微鏡法および走査型電子顕微鏡法/電子分散分光法を用いて確認したところ、耐火物中の酸化マグネシウム相がスラグと反応し、その結果、マグネシウムに加えチタンおよび鉄を含有する相に変態したことが判明した。耐火物の微細構造には、酸化マグネシウムの変態により生じたクラックが明らかであった。
【0050】
比較例2
本例は、用いられた耐火物が90重量%のアルミナ、9.2重量%のシリカ、0.1重量%のFe23、0.1%のTiO2、0.1重量%の(CaO+MgO)、0.2重量%のアルカリ金属を含有していたことを除き、比較例1と同じで行われた。残り(0.3重量%)は、製造者により明記されておらず、すべての百分率は、耐火物(Milledgeville,GAのRath Refractories,Inc.により販売されているKorrath C90)の全重量に対するものである。
【0051】
図4は、カップの断面写真であり、耐火物へのスラグの広範な侵入およびカップの側壁にも及ぶカップのクラックを示している。広範なクラックは、耐火物組成が還元プロセス中に形成されたチタニアリッチな溶融スラグからの損傷に耐えられなかったことを示す。
【0052】
比較例3
本例は、耐火物の全重量に対して99.6重量%のアルミナ、0.07重量%のSiO2、0.05重量%のFe23、0.03重量%のTiO2、0.1重量%の(CaO+MgO)、0.1重量%の(Na2O+K2O)を含有する耐火物が用いられたことを除き、比較例1と同じ手順で行われた。残り(0.05%)は、製造者(Milledgeville,GAのRath Refractories,Inc.)により明記されていなかった。
【0053】
カップを確認したところ、スラグが耐火物に侵入し、生成物層を形成していることが判明した。カップはまた、スラグにより侵入されたエリアとスラグにより侵入されなかったエリアとの間の界面を含む広範なクラックを有していた。広範なクラックは、耐火物組成が還元プロセス中に形成されたチタニアリッチな溶融スラグからの損傷に耐えられなかったことを示す。図5は、カップの断面写真であり、プロセスの結果生じたカップの損傷を示している。
【0054】
実施例4
本例は、耐火物質の全重量に対して97.7重量%のアルミナ、1.8重量%のジルコニア、0.2重量%の(マグネシア+カルシア)、0.1重量%のシリカ、および0.2重量%のアルカリ金属を含有する耐火物が用いられたことを除いて、比較例1と同じ手順で行われた。図6は、カップの断面写真であり、スラグが耐火物に侵入して生成物層を形成したが、カップ内にクラックの形跡が観測されなかったことを示している。
【0055】
カップを光学顕微鏡法および走査型電子顕微鏡法/電子分散分光法を用いて確認したところ、顕微鏡スケールでクラックの形跡は見付からなかった。カップに形成された生成物層の化学的組成を確認したところ、チタン酸アルミニウム、ジルコニア、未反応耐火材料、および未反応スラグの存在が判明した。クラックがないことは、耐火物組成が、炉の高温および還元プロセス中に形成されたチタニアリッチな溶融スラグへの曝露からの損傷に耐えることができたことを示す。
【0056】
本開示の例示的および好適な実施形態の説明は、本開示の範囲を限定することを意図していない。付帯の請求項の真の精神および範囲から逸脱することなく、様々な修正、代替の構成、および均等物を用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンリッチおよび酸化鉄リッチな溶融スラグが形成されるチタン鉱石選鉱プロセスにおいて用いるための、炉用の層状耐火ライニングであって、
(a)主要な割合のアルミナと小さい割合のジルコニアと含む第1層と
(b)前記溶融スラグおよび前記アルミナおよび前記ジルコニアの耐性剤反応生成物を含む第2層と、を含み、前記第2層は、前記溶融スラグと前記第1層との間にある、層状耐火ライニング。
【請求項2】
前記第2層は、前記選鉱プロセス中にその場で形成される、請求項1に記載の層状耐火ライニング。
【請求項3】
前記第2層は、前記第1層の表面に、チタニア源、炭素源、およびバインダを含むペーストを塗布してその上に被覆を形成し、前記被覆を溶融して前記被覆を前記第1層と反応させて第2層を形成することにより、予備成形される、請求項1に記載の層状耐火ライニング。
【請求項4】
前記炉は電気アーク炉である、請求項1に記載の層状耐火ライニング。
【請求項5】
前記炉は回転炉床炉である、請求項1に記載の層状耐火ライニング。
【請求項6】
前記第1層は、前記第1層の全重量に対して、約90〜約99重量%のアルミナおよび約1〜約10重量%のジルコニアを有するアルミナおよびジルコニアを含む、請求項1に記載の層状耐火ライニング。
【請求項7】
前記アルミナは、前記第1層の全重量に対して約97重量%〜約98重量%の範囲である、請求項6に記載の層状耐火ライニング。
【請求項8】
前記ジルコニアは、前記第1層の全重量に対して約1重量%〜約2重量%の範囲である、請求項6に記載の層状耐火ライニング。
【請求項9】
カルシアまたはマグネシアまたはそれらの混合物をさらに含む、請求項1に記載の層状耐火ライニング。
【請求項10】
酸化イットリウムまたは酸化セリウムまたはそれらの混合物をさらに含む、請求項1に記載の層状耐火ライニング。
【請求項11】
チタン鉱石選鉱プロセスにおいて用いるための炉の耐火物体中に耐性剤を形成するための方法であって、
(i)炭素ベースの材料およびチタン含有鉱石を含む集塊を形成するステップであって、前記集塊の炭素量は、上昇した温度において、酸化第二鉄を酸化第一鉄に還元し、酸化チタンおよび酸化鉄を含むスラグを形成するために十分なものである、ステップと、
(ii)前記集塊を移動炉床炉の炭素ベッド上に導入するステップであって、前記移動炉床炉は、主要な割合のアルミナと小さい割合のジルコニアと含む第1層を含む耐火ライニングを含む、ステップと、
(iii)前記集塊を前記移動炉床炉において前記集塊を還元し溶融させるために十分な温度に加熱することで、前記耐火ライニングに接触する酸化チタンリッチな溶融スラグを生成し、前記スラグ、前記アルミナ、および前記ジルコニアの反応生成物である耐性剤を含む第2層を生成するステップと、を含み、前記第2層は、前記スラグと前記第1層との間に形成される、方法。
【請求項12】
酸化チタンリッチな溶融スラグのための耐性剤であって、前記耐性剤は、主要な割合のアルミナと小さい割合のジルコニアと含む耐火ライニングの第1層と、前記酸化チタンリッチな溶融スラグとの反応生成物を含み、前記耐性剤は、酸化チタンリッチな溶融スラグの存在下におけるクラックを含む劣化に対する耐性を有する、耐性剤。
【請求項13】
前記耐性剤は、前記スラグの前記酸化チタンと前記第1層の前記アルミナおよびジルコニアとの反応生成物である、請求項12に記載の耐性剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−526201(P2012−526201A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509940(P2012−509940)
【出願日】平成22年5月5日(2010.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/033678
【国際公開番号】WO2010/129643
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】