説明

チップトレイ成型用金型およびチップトレイ製造方法

【課題】チップトレイを成型する金型の強度を保持しつつ、チップトレイに狭小貫通穴を形成できる金型、または狭小貫通穴を形成できるチップトレイ成型方法を実現する。
【解決手段】本発明に係るコマ下型3は、チップトレイを成型する金型であって、チップトレイのチップ載置部の底面に貫通穴を形成する貫通穴形成突起2を備え、貫通穴形成突起2の底面には、長径と短径とがあり、貫通穴形成突起2は、底面から先端に行くにしたがって短径方向の幅が細くなっているので、形成する貫通穴を狭小にしたまま貫通穴形成突起を丈夫にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通穴を有するチップトレイを成型するチップトレイ成型用金型、および上記チップトレイ成型用金型を用いたチップトレイ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップ製造工程において、半導体ウェハ上に複数の半導体チップが一括して製造され、その後、半導体ウェハは切断され1つずつの半導体チップに個片化される。
【0003】
一般的に、個片化された半導体チップは、リードフレームに固定され、ワイヤーによってリードフレームと接続される。その後、半導体チップとワイヤー接続部分とが樹脂封止されて、基板またはパネル等に搭載するための半導体装置として提供される。
【0004】
一方、最近では、個片化された半導体チップにバンプを形成し、該バンプを介して半導体チップを基板またはパネル等に直接接続するものがある。製品の小型化のために、特に液晶ディスプレイ等の分野では、液晶ドライバとして半導体チップを基板またはパネル等に直接実装するものが多くなっている。そのため、個片化された半導体チップを、そのまま出荷または輸送する必要がある。半導体チップを輸送・保護するためには、個片化された半導体チップを収納する容器としてチップトレイが利用される。チップトレイは、一般にABS等の熱可塑性樹脂を金型を用いて射出成型することで製造される。
【0005】
図13は、従来のチップトレイを示す図である。図13(a)は、従来のチップトレイを示す平面図であり、図13(b)は、図13(a)の切断線A´−A´における断面図である。チップトレイ100は、その上面に半導体チップを載置するための長方形の凹部であるチップ載置部101を複数有する。チップ載置部101の大きさは、収納する半導体チップの大きさに合わせて決められている。また、各チップ載置部101の底面には、チップトレイ100の下面に貫通する貫通穴102が設けられている。この例では、1つのチップ載置部101につき、貫通穴102は3つ設けられている。半導体チップを搬送する場合、半導体チップはチップ載置部101に1つずつ載置される。
【0006】
チップトレイ100に収納して搬送する過程で、半導体チップに繊維屑または皮膚のかけら等の異物が付着することがある。半導体チップを基板またはパネル等に直接実装する場合、事前にこれらの異物を除去することが必要になる。一般に、エアブローを用いて半導体チップの表面に付着した異物を除去する方法が用いられている。
【0007】
図14は、チップトレイに半導体チップを固定する吸着用治具を示す斜視図である。吸着用治具103上に、複数の半導体チップ1を収納したチップトレイ100を搭載する。吸着用治具103には吸引管105が接続されている。また、吸着用治具103の上面には、ゴムパッキン104が設けられている。
【0008】
図15は、チップトレイを搭載した吸着用治具を示す断面図である。チップトレイ100の下面と吸着用治具103の上面は、ゴムパッキン104を介して密着している。また、全てのチップ載置部101に半導体チップ1が載置されている。吸引管105の流路は、ゴムパッキン104で囲まれた吸着用治具103の上面とチップトレイ100の下面との間の空間に繋がっている。この空間は、貫通穴102を介して半導体チップ1の下面まで繋がっている。そのため、吸引管105からエアを吸引することにより、半導体チップ1をチップ載置部101に吸着して固定することができる。これにより、チップトレイ100の上面にエアを吹き付けて半導体チップ1に付着した異物を除去することができる。この際、半導体チップ1はチップ載置部101に固定されているので、エアブローが半導体チップ1を飛散させることを防ぐことができる。なお、図15において、矢印は吸引またはエアブローによるエアの流れを示す。
【0009】
このように、チップ載置部に貫通穴を有し、半導体チップの吸着を可能にするチップトレイは、特許文献1および特許文献2に記載されている。
【0010】
図16は、従来のチップ載置部に貫通穴を有するチップトレイを射出成型する際に用いられる金型を示す斜視図である。コマ下型110には、チップトレイに貫通穴を形成するための貫通穴形成ピン120が複数形成されている。貫通穴形成ピン120は、円柱状であり、正確には抜き勾配を有するため円錐状である。
【0011】
図17は、従来のチップトレイを射出成型する際の組み合わせられた金型を示す断面図である。ベース下型112にコマ下型110が組み込まれ、ベース上型113にコマ上型111が組み込まれている。コマ下型110に設けられた貫通穴形成ピン120は、その先端がコマ上型111に密着しており、これにより、チップトレイにチップトレイの上面から下面に貫通する貫通穴が形成される。なお、チップトレイの上面は、コマ上型111側に成型される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実開平1−93737号公報(1989年6月20日公開)
【特許文献2】特開2004−119590号公報(2004年4月15日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来の構成では、以下のような問題を生じる。
【0014】
半導体チップを搭載する最終製品に対する小型化・軽量化の要請に応えて、半導体チップも狭小化・薄型化が進んでいる。特に液晶ドライバとして用いられる半導体チップは、基板またはパネルへ実装する際、小さい設置面積でありながら多数の電極に接続できるように、アスペクト比が大きい細長い長方形であることが多い。そのため、半導体チップを収納するチップトレイのチップ載置部も狭小化する必要がある。
【0015】
図18(a)は、従来のチップトレイのチップ載置部および載置された半導体チップの一例を示す平面図である。例えば、半導体チップ1の短辺のサイズが0.7mm(公差±0.05mm)であるとする。これに対応するチップ載置部101の短辺のサイズが0.8mm(公差±0.05mm)であるとする。それぞれの公差を考慮すると、半導体チップ1の短辺のサイズとチップ載置部101の短辺のサイズとの差が最も大きくなる場合、半導体チップ1の短辺のサイズは0.65mm、チップ載置部101の短辺のサイズは0.85mmとなり、半導体チップ1およびチップ載置部101の短辺のクリアランスは0.2mmとなる。半導体チップ1をチップ載置部101に収納および取り出しをするために、ある程度のクリアランスが必要である。
【0016】
ここで、チップ載置部101に形成された貫通穴102の径が大きいと、図18(a)に示すように、半導体チップ1がチップ載置部101の長辺の片側に寄った場合に、半導体チップ1が貫通穴102を覆うことができずに、貫通穴102の一部が露出してしまう。貫通穴102が露出すると、吸着用治具を用いて半導体チップ1を吸着して固定する力が弱まり、吸着不良が発生する可能性がある。吸着不良が発生すると、半導体チップ1に付着した異物をエアブローで除去することができない。
【0017】
吸着不良の発生を防ぐためには、チップ載置部101に形成された貫通穴102が、十分小さいものでなければならない。すなわち、チップ載置部101、半導体チップ1、および貫通穴102の大きさおよび位置の公差を考慮し、いずれの場合でも貫通穴102が半導体チップ1から露出しないよう貫通穴102を小さくしなければならない。
【0018】
図18(b)は、従来のチップトレイのチップ載置部および載置された半導体チップの一例を示す平面図である。上記の例で、貫通穴102がチップ載置部の長辺間の中心に形成されるとし径の公差を±0.05mmとすると、貫通穴102の径はφ0.4mm(公差±0.05)以下でなければならない。
【0019】
このような径の細い貫通穴102を形成するためには、図18(b)に示される貫通穴形成ピン120を、上記の例で言えばφ0.4mm以下の微細なピンとして形成する必要がある。しかしながら、このような細い貫通穴形成ピン120は非常にもろく、チップトレイの射出成型時において、貫通穴形成ピン120が流れ込む樹脂の圧力に耐えられず破損してしまう事故が多く発生する。その結果、チップトレイの成型に多大な時間およびコストの損失が生じる。
【0020】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、破損しにくく、チップトレイに狭小貫通穴を形成できるチップトレイ成型用金型、または狭小貫通穴を形成できるチップトレイ成型方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係るチップトレイ成型用金型は、チップトレイを成型するチップトレイ成型用金型であって、上記課題を解決するために、上記チップトレイのチップ載置部の底面に貫通穴を形成する貫通穴形成突起を備え、上記貫通穴形成突起の底面には、長径と短径とがあり、上記貫通穴形成突起は、底面から先端にかけて短径方向の幅が狭くなっていくことを特徴としている。
【0022】
上記の構成によれば、貫通穴形成突起は、先端の短径方向の幅が狭くなっているので、チップトレイに狭小な貫通穴を形成することができる。また、貫通穴形成突起の長径方向の幅が短径方向の幅よりも大きいため、形成する貫通穴を狭小にしたまま貫通穴形成突起を丈夫にすることができる。したがって、貫通穴形成突起の破損を防ぐことができ、破損した場合に必要になるチップトレイ成型用金型の修理または改造等の生産上の損失を低減することができる。
【0023】
また、上記貫通穴形成突起の長径方向に沿った下部の側面は、上記貫通穴形成突起の長径方向に沿った上部の側面よりも、上記貫通穴形成突起の底面とのなす角が大きい構成としてもよい。
【0024】
上記の構成によれば、貫通穴形成突起の上部と下部とで底面に対する傾きを変化させることにより、貫通穴形成突起の下部の短径方向の幅をより大きく、上部の短径方向の幅をより狭くすることができる。よって、貫通穴形成突起の強度を向上させながら、チップトレイにさらに狭小な貫通穴を形成することができる。
【0025】
本発明に係るチップトレイ製造方法は、貫通穴形成突起を備えるチップトレイ成型用金型を用いてチップトレイを成型するチップトレイ製造方法であって、上記課題を解決するために、上記貫通穴形成突起の底面には、長径と短径とがあり、上記貫通穴形成突起は、底面から先端にかけて短径方向の幅が細くなっていっており、上記チップトレイ成型用金型を組み合わせた金型のキャビティ内に成型材を注入して、チップ載置部の底面に貫通穴を有するチップトレイを成型することを特徴としている。
【0026】
上記の構成によれば、貫通穴形成突起は、先端の短径方向の幅が狭くなっているので、チップトレイに狭小な貫通穴を形成することができる。また、貫通穴形成突起の長径方向の幅が短径方向の幅よりも大きいため、形成する貫通穴を狭小にしたまま貫通穴形成突起を丈夫にすることができる。よって、チップトレイ成型用金型の貫通穴形成突起が成型材の圧力によって破損しにくく、狭小な貫通穴を有するチップトレイを成型することができる。したがって、貫通穴形成突起の破損を防ぐことができ、破損した場合に必要になるチップトレイ成型用金型の修理または改造等の生産上の損失を低減することができる。
【0027】
また、上記キャビティ内には、上記貫通穴形成突起の長径方向から成型材を注入してもよい。
【0028】
上記の構成によれば、キャビティ内に成型材を注入する際に、流動する成型材によって貫通穴形成突起が受ける力は、主に貫通穴形成突起の長径方向の力になる。貫通穴形成突起は長径方向の幅が大きいため、流動する成型材の圧力によって破損しにくい。
【0029】
なお、上記チップトレイ成型用金型は以下の製造方法によって製造してもよい。チップトレイを成型するチップトレイ成型用金型の製造方法は、長径と短径とがあり、かつ底面から先端にかけて短径方向の幅が狭くなっていく貫通穴形成突起の先端側を削って、上記貫通穴形成突起の先端の短径方向の幅を所定の幅に形成する工程と、上記貫通穴形成突起の底面側を削って貫通穴形成突起の底面から先端までの高さを所定の高さに形成する工程と、上記貫通穴形成突起をチップトレイ成型用金型に接着する工程とを有している。
【0030】
上記の構成によれば、貫通穴形成突起の先端の短径方向の幅を調整しやすい。したがって、サイズの精度の良い貫通穴を形成することができるチップトレイ成型用金型を製作することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るチップトレイ成型用金型は、チップトレイを成型するチップトレイ成型用金型であって、上記チップトレイのチップ載置部の底面に貫通穴を形成する貫通穴形成突起を備え、上記貫通穴形成突起の底面には、長径と短径とがあり、上記貫通穴形成突起は、底面から先端にかけて短径方向の幅が狭くなっていくことを特徴としている。
【0032】
本発明に係るチップトレイ製造方法は、貫通穴形成突起を備えるチップトレイ成型用金型を用いてチップトレイを成型するチップトレイ製造方法であって、上記貫通穴形成突起の底面には、長径と短径とがあり、上記貫通穴形成突起は、底面から先端にかけて短径方向の幅が細くなっていっており、上記チップトレイ成型用金型を組み合わせた金型のキャビティ内に成型材を注入して、チップ載置部の底面に貫通穴を有するチップトレイを成型することを特徴としている。
【0033】
したがって、貫通穴形成突起の破損を防ぐことができ、破損した場合に必要になるチップトレイ成型用金型の修理または改造等の生産上の損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】一実施の形態の金型に設けられる貫通穴形成突起を示す斜視図である。
【図2】一実施の形態のコマ下型を示す斜視図である。
【図3】一実施の形態の、チップトレイを射出成型する際の組み合わせられた金型を示す断面図である。
【図4】図3の切断線A−Aでの断面図である。
【図5】(a)は、一実施の形態の金型によって成型されたチップトレイを示す平面図であり、(b)は、(a)の切断線D−Dでの断面矢視図である。
【図6】別の実施の形態の金型に設けられる貫通穴形成突起を示す斜視図である。
【図7】別の実施の形態の、チップトレイを射出成型する際の組み合わせられた金型を示す断面図である。
【図8】図7の切断線E−Eでの断面図である。
【図9】(a)は、別の実施の形態の金型によって成型されたチップトレイを示す平面図であり、(b)は、(a)の切断線F−Fでの断面矢視図である。
【図10】さらに別の実施の形態の金型に設けられる貫通穴形成突起を示す斜視図である。
【図11】さらに別の実施の形態の組み合わせられた金型を示す、貫通穴形成突起の短辺側の側面からみた断面図である。
【図12】さらに別の実施の形態の金型に設けられる貫通穴形成突起を示す斜視図である。
【図13】(a)は、従来のチップトレイを示す平面図であり、(b)は、(a)の切断線A´−A´における断面図である。
【図14】チップトレイに半導体チップを固定する吸着用治具を示す斜視図である。
【図15】チップトレイを搭載した吸着用治具を示す断面図である。
【図16】従来の、チップ載置部に貫通穴を有するチップトレイを射出成型する際に用いられる金型を示す斜視図である。
【図17】従来の、チップトレイを射出成型する際の組み合わせられた金型を示す断面図である。
【図18】(a)および(b)は、従来のチップトレイのチップ載置部および載置された半導体チップの一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0036】
〔実施の形態1〕
図1は、本実施の形態の金型に設けられる貫通穴形成突起を示す斜視図である。貫通穴形成突起2は、その底面がアスペクト比の大きい長方形である。また、貫通穴形成突起2は、底面の短辺側の側面から見た形状が三角形になっており、上部(先端)に行くにしたがって幅が細くなる形状になっている。また、貫通穴形成突起2は、底面の長辺側の側面から見た形状が上部の辺が短い台形になっている。言い換えると貫通穴形成突起2は、くさび形の突起である。
【0037】
図2は、チップトレイを成型する本実施の形態のコマ下型を示す斜視図である。コマ下型(金型)3の上面には、貫通穴形成突起2が複数並んで設けられている。なお、このコマ下型3は、貫通穴形成突起2を別部品として製作し、貫通穴形成突起2を溶接することで製作することができる。または、切削加工等により貫通穴形成突起2が形成されたコマ下型3を一体で製作することもできる。
【0038】
図3は、チップトレイを射出成型する際の組み合わせられた金型を示す断面図である。ベース下型5にコマ下型3が組み込まれ、ベース上型6にコマ上型4が組み込まれている。コマ下型3に設けられた貫通穴形成突起2は、その先端がコマ上型4に密着しており、これにより、チップトレイにチップトレイの上面から下面に貫通する貫通穴を形成することができる。なお、チップトレイの上面は、コマ上型4側に成型される。
【0039】
図4は、図3の切断線A−Aでの断面図である。コマ上型4には幅xの凸部7が形成されており、この凸部7は成型されるチップトレイの凹部であるチップ載置部に対応し、チップ載置部の幅(短辺の長さ)はxとなる。また、コマ上型4の凸部7にはV字型の溝8が形成されている。貫通穴形成突起2の先端は、コマ上型4のV字型の溝8に密着しており、コマ上型4のV字型の溝の幅xが、成型されるチップトレイの貫通穴のチップ載置部側における開口部の幅になる。言い換えれば、貫通穴形成突起2がコマ上型4と密着している部分の幅xが、成型されるチップトレイの貫通穴のチップ載置部側における開口部の幅になる。
【0040】
従来の円柱状の貫通穴形成ピンは、僅かな抜き勾配があるとしても貫通穴の幅xに合わせた太さになっていたので、狭小の貫通穴を形成しようとする場合、貫通穴形成ピンが同じように細いものになってしまい、強度が弱くなるという問題が発生していた。これに対して、本実施の形態の貫通穴形成突起2はくさび形をしており、貫通穴形成突起2の下部の幅が貫通穴の幅xに比べて太いために丈夫であり、流入する樹脂(成型材)の圧力による破損を防ぐことができる。また、図3、図4に示すように、貫通穴形成突起2は、長径(長辺方向の幅)が短径(短辺方向の幅)に比べて大きいために底面の面積が大きく、丈夫な構造をしている。そのため、貫通穴形成突起2は、流入する樹脂の圧力によって破損しにくい。また、コマ下型3の貫通穴形成突起2は従来の貫通穴形成ピンよりも丈夫なため、貫通穴形成突起2の先端を従来の貫通穴形成ピンの先端よりも細くし、形成する貫通穴の幅xをより狭小にすることができる。
【0041】
半導体チップがアスペクト比の大きい細長い形状に小型化し、チップトレイのチップ載置部も細長い形状になると、貫通穴を細くする必要が生じる。しかしながら、チップ載置部の長径はその短径に比べて大きいために、貫通穴の長径は、その短径程には細くしなくてもよいというチップトレイに特有の事情がある。また、チップ載置部の底面における貫通穴のサイズを小さくすればよく、チップトレイの底面における貫通穴のサイズは任意に設定できるというチップトレイに特有の事情がある。本願発明者は上記の特殊な事情に着目し、貫通穴形成突起2の底面のアスペクト比を大きくし、貫通穴形成突起2を底面が長方形のくさび形である丈夫な構造にすることに想到した。
【0042】
組み合わせた金型(コマ下型3、コマ上型4、ベース下型5、ベース上型6)のキャビティ内に熱した樹脂を流入し、その後冷却することで、貫通穴が形成されたチップトレイを成型することができる。ここで、金型のキャビティ内への樹脂の注入は、貫通穴形成突起2の長径方向に沿って行われることが好ましい。コマ下型3の貫通穴形成突起2は、図2に示す矢印Cの方向からの力よりも、矢印Bの方向からの力に対してより強い。そのため、矢印Bの方向に沿って樹脂を注入した方が矢印Cの方向に沿って樹脂を注入するよりも貫通穴形成突起2を破損させにくい。すなわち、樹脂の注入口は、貫通穴形成突起2の短辺の側面側に設けられていることが好ましい。
【0043】
図5(a)は、本実施の形態の金型によって成型されたチップトレイを示す平面図であり、図5(b)は、図5(a)の切断線D−Dでの断面矢視図である。チップトレイ30の上面には、半導体チップを載置するための長方形の凹部であるチップ載置部31が複数形成されている。また、各チップ載置部31の底面には、チップトレイ30の下面まで貫通しチップ載置部31の底面に平行な断面の形状が長方形である貫通穴32が形成されている。図5(b)に示すように、貫通穴32は、チップ載置部31の底面側では幅が小さく、チップトレイ30の下面側では幅が大きくなっている。
【0044】
半導体チップを搬送する場合、チップ載置部32には、それぞれ1つの半導体チップが載置される。また、図15に示す吸着用治具103を用いて、半導体チップをチップ載置部32に吸着し、エアブローによって半導体チップに付着した異物を除去することができる。本実施の形態の金型を用いて成型されたチップトレイ30は、狭小な貫通穴32を有するので、貫通穴32が半導体チップから露出することによる吸着不良の発生を抑制することができる。
【0045】
なお、本実施の形態では、貫通穴形成突起の底面の形状は長方形としたが、これに限らず、長径と短径とが異なる細長い楕円形等であってもよい。また、各チップ載置部に形成される貫通穴の数は1つに限らず、複数であってもよい。
【0046】
〔実施の形態2〕
次に、実施の形態2の金型について説明する。尚、説明の便宜上、以下では、実施の形態1との相違点のみについて説明する。また、実施の形態1と同じ機能を有する部材には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0047】
図6は、本実施の形態の金型に設けられる貫通穴形成突起を示す斜視図である。貫通穴形成突起9は、その底面がアスペクト比の大きい長方形である。また、貫通穴形成突起9は、底面の短辺側の側面から見た形状が台形になっており、上方(先端側)に行くにしたがって細くなる形状になっている。また、貫通穴形成突起9は、底面の長辺側の側面から見た形状が上方の辺が短い台形になっている。貫通穴形成突起9の先端部は長方形の面を有する。すなわち、貫通穴形成突起9は、図1に示す貫通穴形成突起2の先端を削って平らにした形状をしている。先端が鋭利な貫通穴形成突起2は細い先端が破損しやすいのに比べ、先端が平らな貫通穴形成突起9は、先端部の破損等が生じにくい。
【0048】
ここで、貫通穴形成突起9は、図1に示すようなくさび形の貫通穴形成突起2の先端を削って製作することができる。削る高さを調整することにより、貫通穴形成突起9の先端の平面部を所望の幅(短径方向の幅)に形成することが容易にできる。すなわち、貫通穴形成突起9の先端の短径方向の幅を、精度よく細く加工することができる。その後、貫通穴形成突起9の底面側を削って、複数の貫通穴形成突起9の高さを所定の高さに揃える。高さが揃った貫通穴形成突起9をコマ下型(図示無し)の上面に溶接接着することにより、精度の良い貫通穴を形成することができる金型を製作することができる。
【0049】
図7は、チップトレイを射出成型する際の組み合わせられた金型を示す断面図である。コマ下型10の上面には、貫通穴形成突起9が複数設けられている。ベース下型5にコマ下型10が組み込まれ、ベース上型6にコマ上型11が組み込まれている。コマ下型10に設けられた貫通穴形成突起9は、その先端がコマ上型11に密着しており、これにより、チップトレイにチップトレイの上面から下面に貫通する貫通穴を形成することができる。なお、チップトレイの上面は、コマ上型11側に成型される。コマ上型11には凸部12が形成されており、この凸部12は成型されるチップトレイの凹部であるチップ載置部に対応する。本実施の形態では、各凸部12に対して2つの貫通穴形成突起9が密着しており、チップトレイの各チップ載置部に2つの貫通穴が形成される。
【0050】
図8は、図7の切断線E−Eでの断面図である。コマ上型11には幅xの凸部12が形成されており、この凸部12は成型されるチップトレイの凹部であるチップ載置部に対応し、チップ載置部の幅(短辺の長さ)はxとなる。貫通穴形成突起9の先端は、コマ上型12の凸部12に密着しており、貫通穴形成突起9の先端の幅(短辺の長さ)xが、成型されるチップトレイの貫通穴のチップ載置部側における開口部の幅(短辺の長さ)になる。言い換えれば、貫通穴形成突起9がコマ上型11と密着している部分の幅xが、成型されるチップトレイの貫通穴のチップ載置部側における開口部の幅になる。
【0051】
図9(a)は、本実施の形態の金型によって成型されたチップトレイを示す平面図であり、図9(b)は、図9(a)の切断線F−Fでの断面矢視図である。各チップ載置部31の底面には、チップトレイ33の下面まで貫通し、チップ載置部31の底面に平行な断面の形状が長方形である貫通穴34が2つ形成されている。チップ載置部31の底面に複数の貫通穴34が形成されていることで、図15に示す吸着用治具103を用いて半導体チップに吸着する際、半導体チップに均一に力が加わるため、吸着不良の発生を低減できる。また、図9(b)に示すように、貫通穴34は、チップ載置部31の底面側では幅が小さく、チップトレイ33の下面側では幅が大きくなっている。
【0052】
〔実施の形態3〕
次に、実施の形態3の金型について説明する。尚、説明の便宜上、以下では、実施の形態1との相違点のみについて説明する。また、実施の形態1と同じ機能を有する部材には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0053】
図10は、本実施の形態の金型に設けられる貫通穴形成突起を示す斜視図である。貫通穴形成突起13は、その底面がアスペクト比の大きい長方形である。また、貫通穴形成突起13は、底面の短辺側の側面から見た形状が五角形になっており、上方(先端側)に行くにしたがって細くなる形状になっている。また、貫通穴形成突起13は、底面の長辺側の側面から見た形状が上方の辺が短い台形になっている。すなわち、貫通穴形成突起13は、図1に示す貫通穴形成突起2の先端を削って短辺側の側面から見た先端部の角度をより大きくした形状をしている。貫通穴形成突起13の長辺に沿った側面は、上部と下部とで傾きが異なる。すなわち、貫通穴形成突起13の長径(長辺)方向に沿った下部の側面は、貫通穴形成突起13の長径方向に沿った上部の側面よりも、貫通穴形成突起の底面とのなす角が大きい。貫通穴形成突起13は、くさび形状の傾斜を2段階に分けることにより、図1に示す貫通穴形成突起2に比べて、同程度の強度を有しながらより狭小な貫通穴を形成することができる、または、より大きい強度を有しながら同程度の幅の貫通穴を形成することができる。
【0054】
図11は、図4に対応する、本実施の形態の組み合わせられた金型を示す、貫通穴形成突起13の短辺側の側面からみた断面図である。コマ上型15の凸部16にはV字型の溝17が形成されている。貫通穴形成突起13の先端は、コマ上型15のV字型の溝17に密着しており、コマ上型15のV字型の溝の幅xが、成型されるチップトレイの貫通穴のチップ載置部側における開口部の幅になる。例えば、図4に示すV字型の溝の幅xと図11に示す溝の幅xとが同じである場合、図4に示す貫通穴形成突起2の底面の幅(底面の短辺の長さ)より図11に示す貫通穴形成突起13の底面の幅は大きい。また、図11に示す貫通穴形成突起13は、その上部においても図4に示す貫通穴形成突起2の対応する部分よりも幅が大きい。それゆえ、貫通穴形成突起13は、貫通穴形成突起2より大きい強度を有しながら同程度の幅の貫通穴を形成することができる。
【0055】
〔実施の形態4〕
次に、実施の形態4の金型について説明する。尚、説明の便宜上、以下では、実施の形態3との相違点のみについて説明する。
【0056】
図12は、本実施の形態の金型に設けられる貫通穴形成突起を示す斜視図である。貫通穴形成突起18は、図10に示す貫通穴形成突起13の先端を削って平らにした形状をしている。先端が鋭利な貫通穴形成突起13は細い先端が破損しやすいのに比べ、先端が平らな貫通穴形成突起18は、先端部の破損等が生じにくい。また、貫通穴形成突起18の長辺に沿った側面は、上部と下部とで傾きが異なる。すなわち、貫通穴形成突起18の長径(長辺)方向に沿った下部の側面は、貫通穴形成突起18の長径方向に沿った上部の側面よりも、貫通穴形成突起の底面とのなす角が大きい。貫通穴形成突起18は、貫通穴形成突起13と同様に、くさび形状の傾斜を2段階に分けることにより、図1に示す貫通穴形成突起2に比べて、同程度の強度を有しながらより狭小な貫通穴を形成することができる、または、より大きい強度を有しながら同程度の幅の貫通穴を形成することができる。
【0057】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、貫通穴を有するチップトレイの製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 半導体チップ
2、9、13、18 貫通穴形成突起
3、10、14 コマ下型(チップトレイ成型用金型)
4、11、15 コマ上型
5 ベース下型
6 ベース上型
7、12、16 凸部
8、17 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップトレイを成型するチップトレイ成型用金型であって、
上記チップトレイのチップ載置部の底面に貫通穴を形成する貫通穴形成突起を備え、
上記貫通穴形成突起の底面には、長径と短径とがあり、
上記貫通穴形成突起は、底面から先端にかけて短径方向の幅が狭くなっていくことを特徴とするチップトレイ成型用金型。
【請求項2】
上記貫通穴形成突起の長径方向に沿った下部の側面は、上記貫通穴形成突起の長径方向に沿った上部の側面よりも、上記貫通穴形成突起の底面とのなす角が大きいことを特徴とする請求項1に記載のチップトレイ成型用金型。
【請求項3】
貫通穴形成突起を備えるチップトレイ成型用金型を用いてチップトレイを成型するチップトレイ製造方法であって、
上記貫通穴形成突起の底面には、長径と短径とがあり、上記貫通穴形成突起は、底面から先端にかけて短径方向の幅が細くなっていっており、
上記チップトレイ成型用金型を組み合わせた金型のキャビティ内に成型材を注入して、チップ載置部の底面に貫通穴を有するチップトレイを成型することを特徴とするチップトレイ製造方法。
【請求項4】
上記キャビティ内には、上記貫通穴形成突起の長径方向から成型材を注入することを特徴とする請求項3に記載のチップトレイ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−258307(P2010−258307A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108443(P2009−108443)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】