説明

チップホルダユニット及びホルダ

【課題】スクライビングホイールの保持位置を安定させ、スクライブラインの直線性を向上させることができるチップホルダユニットを提供すること。
【解決手段】スクライビングホイール30は円板状で中心に貫通孔を有し、円板外周部に沿ってV字形の稜線をなす刃先を有する。チップホルダ10はスクライビングホイールを挿入するための一定の幅を持つホルダ溝12とピン孔15,16を有し、ピン孔及びスクライビングホイールの貫通孔に挿入されたピン31によりホルダ溝内でスクライビングホイール30を回転自在に保持する。チップホルダ10には支持部の一方に貫通孔17、他方にねじ溝18を設け、調整ねじ23によりホルダ溝12とスクライビングホイール30との間隔を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性材料基板をスクライブするためのスクライビングホイールを保持するチップホルダユニット及びホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
脆性材料基板を所望の寸法にスクライブし、分断するためスクライブ装置が用いられる。スクライブ装置は、脆性材料基板と対向するスクライブヘッドにチップホルダユニットを備えている。図1は、従来のチップホルダユニットの側面図である。チップホルダユニット100は、チップホルダ110、スクライビングホイール120、及びピン130を有し、チップホルダにスクライビングホイールを取り付けたものである。
【0003】
図1に示すようにチップホルダ110の下部には、ホルダ溝111及びピン孔112が形成されている。スクライビングホイール120は円板状の部材であり、2つの円形の側面の中心を貫通する貫通孔を有し、スクライビングホイール120の外周部に沿ったV字形の刃を有する。V字形の刃先は、スクライビングホイール120の外周に沿った稜線を形成している。稜線の両側の傾斜面(外周辺部)は、通常、90〜160°の角度(収束角)で相互に交差し稜線を形成する。ピン130は円柱形の部材であり、スクライビングホイール120の貫通孔及びホルダ110のピン孔112に挿入されて、スクライビングホイール120を回転自在に保持するものである。
【0004】
チップホルダ100は、ピン130を用いてスクライビングホイール120をホルダ溝111内で保持し、図示しない軸押さえカバーにより保持している。このようなチップホルダユニットを備えるスクライブ装置として、特許文献1に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際特許公開 WO2007/063979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スクライビングホイールの厚さdは例えば0.65mm程度であり、公差は例えば−5〜15μmである。一方ホルダ溝の幅wはスクライビングホイールの厚さdに対応して例えば0.65mmであり、公差は0〜+20μmである。この公差によりスクライビングホイールとホルダ溝との間にはわずかのクリアランスが確保されている。このクリアランスにより、スクライビングホイールはホルダ溝内でピンの軸方向に公差の差に相当する分、例えば5〜35μm程度軸方向に移動することができる。しかしクリアランスが設けられているため、基板をスクライブしたときにスクライブラインの直線性が悪くなる場合があり、最大で約35μmのふらつきが生じる原因となっていた。
【0007】
この問題は、スクライビングホイールの厚さやホルダ溝の幅の公差をより小さくすれば解決されるが、実際にはこれらの公差を更に小さくすることは難しく、製造価格が上昇してしまうという問題点がある。また公差が小さすぎればスクライビングホイールをホルダ溝に挿入し難くなるという問題点も生じる。
【0008】
本発明は、このような従来のスクライブ装置において、スクライブラインの直線性を向上させるためになされたものであって、スクライビングホイールの保持位置を安定させ、直線性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明のチップホルダユニットは、円板状であって中心に貫通孔を有し、円板外周部に沿ってV字形の稜線をなす刃先を形成する2つの曲面を有するスクライビングホイールと、 互いに平行な対向する面を有する一対の支持部の間に前記スクライビングホイールを挿入するための一定の幅を持つホルダ溝、前記一対の支持部を同軸に貫通するピン孔、前記ピン孔を覆う少なくとも1つの軸押さえカバーを有するホルダと、前記ピン孔及び前記スクライビングホイールの貫通孔に挿入され、前記ホルダ溝内で前記スクライビングホイールを回転自在に保持するピンと、を具備するチップホルダユニットにおいて、前記ホルダの一対の支持部に同軸に形成され、支持部の一方に貫通孔、他方にねじ溝を有する間隔調整孔と、前記間隔調整孔の貫通孔より挿入され、前記ホルダ溝と前記スクライビングホイールとの間隔を調整する調整ねじと、を有するものである。
【0010】
ここで前記ホルダの一方の支持部に形成された第2のねじ溝と、前記第2のねじ溝に挿入され、前記一対の支持部のうち他方の支持部の内壁に接してホルダ溝の間隔を所定値以上に保つ締付防止ねじと、を有するようにしてもよい。
【0011】
ここで前記ピン孔は前記一対の支持部の下端中央に設けられ、前記間隔調整孔は前記ホルダの一対の支持部の中央の前記ピン孔の上部に形成されるようにしてもよい。
【0012】
ここで前記ホルダの一方の支持部の中央の前記ピン孔の上部に形成された第2のねじ溝と、前記第2のねじ溝に挿入され、前記一対の支持部のうち他方の支持部の内壁に接してホルダ溝の間隔を所定値以上に保つ締付防止ねじと、を有するようにしてもよい。
【0013】
ここで前記ピン孔の一方の径が支持部外周側で狭くされているようにしてもよい。
【0014】
この課題を解決するために、本発明のホルダは、互いに平行な対向する面を有する一対の支持部の間にスクライビングホイールを挿入するための一定の幅を持つホルダ溝と、前記一対の支持部を同軸に貫通するピン孔と、前記ピン孔を覆う少なくとも1つの軸押さえカバーを具備するホルダにおいて、前記ホルダの一対の支持部に同軸に形成され、支持部の一方に貫通孔、他方にねじ溝を有する間隔調整孔と、前記間隔調整孔の貫通孔より挿入され、前記ホルダ溝と前記スクライビングホイールとの間隔を調整する調整ねじと、を有するものである。
【0015】
ここで前記ホルダの一方の支持部に形成された第2のねじ溝と、前記第2のねじ溝に挿入され、前記一対の支持部のうち他方の支持部の内壁に接してホルダ溝の間隔を所定値以上に保つ締付防止ねじと、を有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
このような特徴を有する本発明によれば、スクライビングホイールを保持する位置を安定させることができ、脆性材料基板上に形成するスクライブラインの直線性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は従来のホルダユニットの構成を示す図である。
【図2】図2は本発明の第1の実施の形態によるチップホルダユニットの構成を示す正面図である。
【図3】図3は本発明の第1の実施の形態によるチップホルダの構成を示す正面図である。
【図4】図4は本発明の第1の実施の形態によるチップホルダの側面図である。
【図5】図5は本発明の第1の実施の形態によるチップホルダの断面図である。
【図6】図6は本発明の第1の実施の形態によるチップホルダユニットの側面図である。
【図7】図7は本発明の第2の実施の形態によるチップホルダユニットの構成を示す正面図である。
【図8】図8は本発明の第2の実施の形態によるチップホルダユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施の形態)
本発明の実施の形態によるチップホルダユニットについて図面を用いて説明する。図2はチップホルダユニットの正面図である。チップホルダユニット1はチップホルダ10とスクライビングホイール30を有しており、チップホルダ10の下端にスクライビングホイール30を回転自在に保持するものである。チップホルダ10は図3,図4,図5に示すように、下方が三角形状に形成された直方体状の部材であり、上部にチップホルダ10を固定するための貫通孔11を有している。チップホルダ10の下方には三角形状のホルダ溝12が下方を開放するように形成され、ホルダ溝12を挟むこの三角形状の部分を支持部13,14とする。チップホルダ10の支持部13,14の相対向する面はほぼ平行に形成され、ホルダ溝12の間隔wはスクライビングホイール30の幅よりわずかに大きくなるようにしておく。ホルダ溝12の幅は例えば約0.67mmとする。
【0019】
左右の支持部13,14の最下端には支持部13,14を夫々貫通するピン孔15,16が同軸に形成される。ピン孔15,16はホルダ溝12と垂直に交差しており、スクライビングホイール30のピンを保持する円形の貫通孔である。これらのピン孔の上部には支持部13側で内径がホルダ溝12側で小さく、外側で大きい貫通孔17が形成され、支持部14にはこれと同軸のねじ溝18が形成されており、これらを間隔調整孔とする。間隔調整孔はホルダ溝12の間隔wを微調整するものである。
【0020】
又図3に示すようにこのねじ溝の左側方には支持部14にねじ溝19が設けられる。支持部13にも同様のねじ溝(図示せず)が設けられている。これらのねじ溝は軸押さえカバー21,22を取付けてピンを脱落しないように保持するものである。軸押さえカバー21,22は図2に示すように一端が突出したワッシャ形状を有している。
【0021】
スクライビングホイール30は、例えば焼結ダイヤモンドで形成された、例えば厚さdが約0.65mmの円板状の部材であって、中心に貫通孔を有している。またスクライビングホイール30は、外周部に沿って稜線を形成するV字形の刃を有している。稜線の両側の傾斜面(外周辺部)は、通常、90〜160°の角度(収束角)で相互に交差し稜線を形成する。ピン31は、例えば、超硬合金等の金属、焼結ダイヤモンドで形成された円柱形の部材であって、一端が尖頭形状を有している。
【0022】
次にこの実施の形態によるチップホルダユニットの組立てについて説明する。まず図6に示すように貫通孔17より調整ねじ23を挿入し、ねじ溝18と噛合させる。この時点では調整ねじ23は締め込まないでおく。次に支持部13側より軸押さえカバー21をねじ24によって取付け、ピン孔15の一端を閉じる。次いでスクライビングホイール30をホルダ溝12内に挿入して保持し、ピン31を尖頭形状の部分からピン孔16、及びスクライビングホイール30の貫通孔、ピン孔15に挿入する。ピン31の尖頭形状の部分が、ピン孔15の一方の開口付近にある軸押さえカバー21と接するところまでピン31を挿入し、図7に示すように軸押さえカバー22をねじ25でねじ止めしてピン孔16の左端を閉じる。これによってピン31はピン孔から脱落することはなく、スクライビングホイール30はピン31に回転自在に保持される。
【0023】
このときチップホルダのホルダ溝12とスクライビングホイール30とは、前述したようにクリアランスにばらつきが生じている。このため間隔調整孔に挿入する調整ねじ23によってその間隔を調整する。調整ねじ23の調整については、スクライブしつつ調整ねじを徐々に締め付けていき、回転抵抗が増加し始める直前に設定することが考えられる。又あらかじめ製品状態のホルダ溝の幅w及びスクライビングホイール30の厚さdを測定しておき、所望の幅となるように平面にホルダ10をおいて上部よりねじで締め付け、所定寸法となるように設定してもよい。又スクライビングホイールを取付けた状態で調整ねじ23を締め付けが最大限可能な位置まで締め付け、所定角度又は所定回転数戻すことによって所望のクリアランスを設定するようにしてもよい。
【0024】
こうしてクリアランスを最適値、例えば2μmの間隔とすることができる。この状態でスクライブすれば、スクライビングホイール30はホルダ溝12内での位置が安定するので、スクライビングホイール30の進行方向に対する左右のぶれがほとんどなくなる。これによりスクライブしたときのスクライブラインの直線性を向上させることができる。
【0025】
尚この実施の形態ではピン孔15,16の両側より押さえカバー21,22を用いてピンを保持するようにしているが、一方のピン孔の径を支持部外周側で狭くしてピンを保持するようにしてもよい。
【0026】
(第2の実施の形態)
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。この実施の形態では図7に正面図、図8に断面図を示すように、ホルダの支持部14側の上部に更に第2のねじ溝26を形成すると共に、ホルダ溝をやや深くしたものであり、その他の構成は前述した第1の実施の形態と同様である。この実施の形態ではあらかじめねじ溝26より締付防止ねじ27を埋め込んでいき、支持部13の内壁に接触させ、支持部間のホルダ溝12の間隔が所定値以上に狭くなるように調整できないようにしている。こうすれば調整ねじ23での調整時に締め付けすぎることを防止することができる。
【0027】
尚この実施の形態ではねじ溝26及び締付防止ねじ27は夫々1つとしたが、複数であってもよい。
【0028】
本実施の形態によるチップホルダユニットは、自動的に脆性材料基板をスクライブする自動スクライブ装置に限らず、脆性材料基板を手切りする脆性材料切断用カッターに取り付けて用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、スクライブ中のスクライビングホイールの位置を安定させることができるので、スクライブを自動で行うスクライブ装置や、脆性材料基板を手切りする脆性材料切断用カッターに用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 チップホルダユニット
10 チップホルダ
11 貫通孔
12 ホルダ溝
13,14 支持部
15,16 ピン孔
23 調整ねじ
24,25 ねじ
26 ねじ溝
27 締付防止ねじ
30 スクライビングホイール
31 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状であって中心に貫通孔を有し、円板外周部に沿ってV字形の稜線をなす刃先を形成する2つの曲面を有するスクライビングホイールと、
互いに平行な対向する面を有する一対の支持部の間に前記スクライビングホイールを挿入するための一定の幅を持つホルダ溝、前記一対の支持部を同軸に貫通するピン孔、前記ピン孔を覆う少なくとも1つの軸押さえカバーを有するホルダと、
前記ピン孔及び前記スクライビングホイールの貫通孔に挿入され、前記ホルダ溝内で前記スクライビングホイールを回転自在に保持するピンと、を具備するチップホルダユニットにおいて、
前記ホルダの一対の支持部に同軸に形成され、支持部の一方に貫通孔、他方にねじ溝を有する間隔調整孔と、
前記間隔調整孔の貫通孔より挿入され、前記ホルダ溝と前記スクライビングホイールとの間隔を調整する調整ねじと、を有するチップホルダユニット。
【請求項2】
前記ホルダの一方の支持部に形成された第2のねじ溝と、
前記第2のねじ溝に挿入され、前記一対の支持部のうち他方の支持部の内壁に接してホルダ溝の間隔を所定値以上に保つ締付防止ねじと、を有する請求項1記載のチップホルダユニット。
【請求項3】
前記ピン孔は前記一対の支持部の下端中央に設けられ、前記間隔調整孔は前記ホルダの一対の支持部の中央の前記ピン孔の上部に形成される請求項1に記載のチップホルダユニット。
【請求項4】
前記ホルダの一方の支持部の中央の前記ピン孔の上部に形成された第2のねじ溝と、前記第2のねじ溝に挿入され、前記一対の支持部のうち他方の支持部の内壁に接してホルダ溝の間隔を所定値以上に保つ締付防止ねじと、を有する請求項3記載のチップホルダユニット。
【請求項5】
前記ピン孔の一方の径が支持部外周側で狭くされている請求項1〜4のいずれか1項に記載のチップホルダユニット。
【請求項6】
互いに平行な対向する面を有する一対の支持部の間にスクライビングホイールを挿入するための一定の幅を持つホルダ溝と、前記一対の支持部を同軸に貫通するピン孔と、前記ピン孔を覆う少なくとも1つの軸押さえカバーを具備するホルダにおいて、
前記ホルダの一対の支持部に同軸に形成され、支持部の一方に貫通孔、他方にねじ溝を有する間隔調整孔と、
前記間隔調整孔の貫通孔より挿入され、前記ホルダ溝と前記スクライビングホイールとの間隔を調整する調整ねじと、を有するホルダ。
【請求項7】
前記ホルダの一方の支持部に形成された第2のねじ溝と、
前記第2のねじ溝に挿入され、前記一対の支持部のうち他方の支持部の内壁に接してホルダ溝の間隔を所定値以上に保つ締付防止ねじと、を有する請求項6記載のホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−28181(P2013−28181A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−236394(P2012−236394)
【出願日】平成24年10月26日(2012.10.26)
【分割の表示】特願2009−248806(P2009−248806)の分割
【原出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】