チューブ基材及びその表面の改質方法
【課題】 優れた耐薬品性、撥水性、ガスバリヤ性を有するとともに、均一に膜形成されて基材との密着性に優れたフッ化炭素膜を具備するチューブ基材及びその表面改質方法を提供すること。
【解決手段】 チューブ基材1は、ポリエチレン等の有機物からなるチューブ本体2と、フッ素(F)と炭素(C)とを有してチューブ本体2の表面に配されるフッ化炭素膜3とを備えている。フッ化炭素膜3のフッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C比)が1.30よりも大きいものとされている。
【解決手段】 チューブ基材1は、ポリエチレン等の有機物からなるチューブ本体2と、フッ素(F)と炭素(C)とを有してチューブ本体2の表面に配されるフッ化炭素膜3とを備えている。フッ化炭素膜3のフッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C比)が1.30よりも大きいものとされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ基材及びその表面の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素含有カーボン層は、その表面エネルギーが低いという化学的安定性から耐熱性、耐薬品性、耐候性、摺動性、耐ガス透過性等に優れ、医療、化学、電子等の様々な分野で活用されている。
【0003】
このようなフッ素含有カーボン層を得るための処理技術として、プラスチック基材上にRFバイアス電圧を印加することによって、フッ素を含有するプラズマに特定のエネルギーを付加して、基材表面上をフッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C比)を0.85以上かつ1.30以下の成分を有するフッ化炭素層に改質して、耐久性の高い撥水、撥インク性表面を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、内視鏡部品であるチューブ基材にフッ素樹脂コートをする技術として、内視鏡基材表面にフッ素系粒子を主成分とした担体と溶媒との化学的な混合液を塗布し、その後、硬化させて薄膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
このフッ素樹脂コートは、使用した内視鏡を確実に消毒滅菌して感染症等を防止するために行うオートクレーブ滅菌(高圧滅菌)による水蒸気を透過防止するために行われている。
【0005】
しかしながら、例えば、上記特許文献1に記載の技術の場合、本来、バルク状のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が保有している耐熱性、耐薬品性、耐ガス透過性に比べて性能が低くなってしまう。また、基材表面とフッ化炭素膜との間の密着性が低く、剥離を生じてしまう。
また、上記特許文献2に記載の技術の場合、液体の表面張力等の影響によって均一な膜厚とする制御が困難であったり、微細な隙間の中にコーティング剤が入り込まないために均質な薄膜形成が困難である。
【特許文献1】特開平10−101829号公報
【特許文献2】特開2000−107122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、優れた耐薬品性、撥水性、ガスバリヤ性を有するとともに、均一に膜形成されて基材との密着性に優れたフッ化炭素膜を具備するチューブ基材及びその表面改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係るチューブ基材は、有機物からなるチューブ本体と、前記チューブ本体の表面に配されるフッ化炭素膜とを備え、該フッ化炭素膜のフッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体表面に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0009】
このチューブ基材及び表面改質方法は、フッ化炭素膜のF/C比が上記値とされてチューブ本体に形成されているので、フッ化炭素膜の性質をよりバルク状のフッ化炭素物に近づけることができ、チューブ基材表面の撥水性、ガスバリヤ性、耐薬品性、耐候性を高めることができる。
【0010】
また、本発明に係るチューブ基材は、前記チューブ基材であって、前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物のいずれか一つを有する単層膜を備えていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体表面に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物の何れか一つを有する単層膜を形成する工程と、前記単層膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0012】
このチューブ基材及び表面改質方法は、上記単層膜を介してフッ化炭素膜が配されているので、チューブ本体に対するフッ化炭素膜の密着性をより高めることができる。
【0013】
また、本発明に係るチューブ基材は、前記チューブ基材であって、前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、有機物と金属との混合膜を備えていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体表面に、有機物と金属との混合膜を形成する工程と、前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0015】
このチューブ基材及び表面改質方法は、上記混合膜を介してフッ化炭素膜が配されているので、混合膜とチューブ本体との密着性を高めることができ、チューブ本体に対するフッ化炭素膜の密着性をより高めることができる。
【0016】
また、本発明に係るチューブ基材は、前記チューブ基材であって、前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を備えていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体表面に、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を形成する工程と、前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0018】
このチューブ基材及び表面改質方法は、上記混合膜を介してフッ化炭素膜が配されているので、混合膜とフッ化炭素膜との密着性を高めることができ、チューブ本体に対するフッ化炭素膜の密着性をより高めることができる。
【0019】
また、本発明に係るチューブ基材は、前記チューブ基材であって、前記混合膜が、前記チューブ本体から径方向外方に向かって漸次前記フッ化炭素物に係るフッ素原子の含有量が多くされている傾斜膜であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、前記混合膜を作成する工程が、前記チューブ本体から径方向外方に向かって漸次前記フッ素原子の含有量を増やしながら傾斜膜を形成する工程であることを特徴とする。
【0021】
このチューブ基材及び表面改質方法は、フッ素原子の少ない傾斜膜の径方向内側はチューブ本体と密着しやすく、フッ素原子の多い傾斜膜の径方向外側はフッ化炭素膜と密着しやすくなり、密着性をそれぞれより高めることができる。
【0022】
また、本発明に係るチューブ基材は、前記チューブ基材であって、フッ素イオンまたはフッ化炭素イオンが注入された前記チューブ本体表面に、前記フッ化炭素膜が形成されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体の表面に、フッ素イオンまたはフッ化炭素イオンを注入する工程と、さらにフッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0024】
このチューブ基材及び表面改質方法は、チューブ本体に注入されたフッ素イオンまたはフッ化炭素イオンとフッ化炭素膜との結合性を高めることができ、チューブ本体に対するフッ化炭素膜の密着性をより高めることができる。
【0025】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体表面に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物の何れか一つを有する単層膜を形成する工程と、前記単層膜に、有機物と金属との混合膜、又は、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を形成する工程と、前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0026】
このチューブ基材及び表面改質方法は、単層膜に加えて混合膜を介してフッ化炭素膜が配されているので、単層膜とチューブ本体との密着性及び混合膜とフッ化炭素膜との密着性をそれぞれ高めることができ、チューブ本体に対するフッ化炭素膜の密着性をより高めることができる。
【0027】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、前記チューブ基材の表面改質方法であって、前記チューブ本体の表面をプラズマガスによって活性化させる工程を備えていることを特徴とする。
このチューブ基材の表面改質方法は、成膜の際に成膜材料との結合を容易にして密着性をより高めることができる。
【0028】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、前記チューブ基材の表面改質方法であって、前記チューブ本体への成膜を物理気相成長法及び化学気相成長法の少なくとも一つの方法によって行うことを特徴とする。
このチューブ基材の表面改質方法は、塗布により成膜する場合よりもチューブ基材に対して均一な膜厚を得ることができ、膜厚の均一性に優れたフッ化炭素膜を形成させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高い撥水性、ガスバリヤ性、耐薬品性、耐候性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明に係る第1の実施形態について、図1乃至図3を参照して説明する。
本実施形態に係るチューブ基材1は、図1に示すように、ポリエチレン等の有機物からなるチューブ本体2と、フッ素(F)と炭素(C)とを有してチューブ本体2の表面に配されるフッ化炭素膜3とを備えている。
フッ化炭素膜3のフッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C比)が1.30よりも大きいものとされている。
【0031】
このフッ化炭素膜3を成膜してチューブ基材1の表面を改質する方法について説明する。
この改質方法は、図2に示すように、チューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S11)と、スパッタリングによってチューブ本体2の表面にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S12)とを備えている。
【0032】
これらの工程を行う処理装置5は、図3に示すように、上記工程(S11)を行う表面処理室6と、上記工程(S12)を行う成膜処理室7と、両室間でチューブ本体2を移送する搬送機構8と、表面処理室6と成膜処理室7との間の開閉を行うゲートバルブ10とを有するチャンバ11と、これに電源供給するRF電源12とを備えている。
【0033】
表面処理室6は、チャンバ11下方に配されて内部にガスを導入する第一ガス導入口13と、チャンバ上方に配され、内部に搬入されたチューブ本体2の貫通孔2Aを保持して図示しない回転機構によって中心軸回りにチューブ本体2を回転させる第一基材支持台15と、チャンバ11下方に配されてRF電源12からRFバイアス電圧が印加される第一RF電極16と、処理されたガスを表面処理室6から排出する第一排気系17とを備えている。
【0034】
成膜処理室7は、チャンバ11下方に配されて内部にガスを導入する第二ガス導入口18と、チャンバ11上方に配され、表面処理室6から移送されて内部に搬入されたチューブ本体2の貫通孔2Aを保持して図示しない回転機構によって中心軸回りにチューブ本体2を回転させる第二基材支持台20と、チャンバ11下方に配されてRF電源12からRFバイアス電圧が印加される第二RF電極21と、処理されたガスを成膜処理室7から排出する第二排気系22とを備えている。
第二基材支持台20には、図示しない加熱機構が配されてチューブ本体2を所望の温度に維持可能とされている。また、第二RF電極21には、成膜材料として例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材料からなるターゲット材23が載置されている。
【0035】
次に、上記各工程をこの処理装置5を用いて行う場合の作業内容について説明する。
まず、チューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S11)を行う。そのため、チューブ本体2を搬送機構8に搭載して表面処理室6に搬入し、貫通孔2Aを第一基材支持台15と嵌合する。
【0036】
表面処理室6内を排気して所定の真空度とした後、第一ガス導入口13からArガスを導入し、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を100Wの電力で投入して、Arガスをプラズマ化する。
この際、図示しない回転機構によって第一基材支持台15を軸回りに回転してチューブ基材1の表面に対してプラズマイオンが当接し、表面が均一に活性化される。これを例えば1分間行う。
【0037】
第一排気系17にて処理ガスを排気後、ゲートバルブ10を開けてチューブ本体2を搬送機構8によって表面処理室6から成膜処理室7に移送して第二基材支持台20に設置し、その後ゲートバルブ10を閉じる。
次に、フッ化炭素膜3を成膜する工程(S12)を行う。
予めポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるターゲット材23が配されて所定の真空度とされた成膜処理室7内にてチューブ本体2を図示しない加熱機構にて所望の温度に加熱する。そして、第二ガス導入口18からArガスを導入して、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を100Wの電力で投入して、Arガスをプラズマ化する。
【0038】
この際、ターゲット材23からの飛散粒子のフッ素原子数と炭素原子数との比であるF/C比が1.30よりも大きくなるように、Arガス流量を増減させて調整する。
このプラズマArがターゲット材23をスパッタすることによって、スパッタされた粒子がチューブ本体2に到達する。このとき、図示しない回転機構によってチューブ本体2が軸回りに回転しているので、表面に均一な膜厚にてフッ化炭素膜3が形成される。
こうして例えば5分間の処理を行って、500nmのフッ化炭素膜3が形成されたチューブ基材1を得る。
【0039】
このチューブ基材1及びこの表面改質方法によれば、フッ化炭素膜3のF/C比が上記値とされているので、チューブ基材1表面の撥水性、耐性を高めることができる。この際、成膜前にチューブ本体2の表面をプラズマによって活性化させているので、成膜の際にチューブ本体2と成膜材料との結合を容易にして密着性を高めることができる。
【0040】
次に、第2の実施形態について図4を参照しながら説明する。
なお、上述した第1の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第2の実施形態と第1の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材25が、チューブ本体2とフッ化炭素膜3との間に成膜されたSi膜(単層膜)26を備えているとした点である。
【0041】
第1の実施形態において使用する処理装置5を用いた場合の本実施形態に係るチューブ基材25の表面改質方法について、図3及び図5を参照しながら説明する。
本実施形態に係る表面改質方法は、第1の実施形態と同様にチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S21)と、チューブ本体2表面にSi膜26を成膜する工程(S22)と、Si膜26の表面に第1の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S23)とを備えている。
【0042】
まず、第1の実施形態に係る工程(S11)と同様に工程(S21)を行い、第一基材支持台15に設置したチューブ本体2の表面を活性化させる。
次に、Si膜26を成膜する工程(S22)に移行する。
Siからなるターゲット材を第二RF電極21に載置して所定の真空度とされた成膜処理室7内にてチューブ本体2を図示しない加熱機構にて所望の温度に加熱する。そして、第二ガス導入口18からArガス15sccmを導入して、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を100Wの電力で投入して、Arガスをプラズマ化する。
【0043】
この際、ターゲット材からスパッタされた粒子がチューブ本体2に到達する。このとき、図示しない回転機構によってチューブ本体2が軸回りに回転しているので、表面に均一な膜厚にてSi膜26が形成される。
こうして例えば4分間の処理を行って、500nmのSi膜26を成膜する。
【0044】
次に、搬送機構8によってSi膜26が成膜されたチューブ本体2を表面処理室6に移送し、第一基材支持台15に設置する。そして、再びチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S21)を例えば1分間実施する。
【0045】
そして、チューブ本体2を搬送機構8によって表面処理室6から再び成膜処理室7に移送して第二基材支持台20に設置する一方、Siからなるターゲット材をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材からなるターゲット材23に置き換えて、フッ化炭素膜3を成膜する工程(S23)に移行する。
まず、ターゲット材23を第二RF電極21に載置して、所定の真空度とされた成膜処理室7内にてチューブ本体2を図示しない加熱機構にて所望の温度に加熱する。そして、第1の実施形態に係る成膜工程(S12)と同様の方法によって、Si膜26の表面に均一な膜厚のフッ化炭素膜3を形成してチューブ基材25を得る。
【0046】
このチューブ基材25及びこの表面改質方法によれば、チューブ本体2とSi膜26及びSi膜26とフッ化炭素膜3との結合が強固であるので、Si膜26を介してチューブ本体2にフッ化炭素膜3を配することによって、チューブ本体2に対するフッ化炭素膜3の密着性をより高めることができる。
【0047】
次に、第3の実施形態について図6を参照しながら説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第3の実施形態と第2の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材30が、第2の実施形態に係るSi膜26の代わりに、チューブ本体2とフッ化炭素膜3との間に成膜されたSiC膜(単層膜)31を備えているとした点である。
【0048】
第1の実施形態において使用する処理装置5を用いた場合の本実施形態に係るチューブ基材30の表面改質方法について、図3及び図7を参照しながら説明する。
本実施形態に係る表面改質方法は、上記他の実施形態と同様にチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S31)と、チューブ本体2表面にSiC膜31を成膜する工程(S32)と、SiC膜31の表面に第1の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S33)とを備えている。
【0049】
まず、第1、第2の実施形態に係る工程(S11、S21)と同様に工程(S31)を行い、第一基材支持台15に設置したチューブ本体2の表面を活性化させる。
次に、SiC膜31を成膜する工程(S32)に移行する。
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材からなるターゲット材23をSiCからなるターゲット材に置き換えて第二RF電極21に載置して、所定の真空度とされた成膜処理室7内にてチューブ本体2を図示しない加熱機構にて所望の温度に加熱する。そして、第二ガス導入口18からArガスを導入し、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を100Wの電力で投入して、Arガスをプラズマ化する。
【0050】
この際、ターゲット材からスパッタされた粒子がチューブ本体2に到達する。このとき、図示しない回転機構によってチューブ本体2が軸回りに回転しているので、表面に均一な膜厚にてSiC膜31が形成される。
こうして例えば4分間の処理を行って、500nmのSiC膜31を成膜する。
【0051】
次に、搬送機構8によってSiC膜31が成膜されたチューブ本体2を表面処理室6に移送し、第一基材支持台15に設置する。そして、再びチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S31)を例えば1分間実施する。
【0052】
そして、チューブ本体2を搬送機構8によって表面処理室6から再び成膜処理室7に移送して第二基材支持台20に設置する一方、SiCからなるターゲット材をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材からなるターゲット材23に置き換えて、フッ化炭素膜3を成膜する工程(S33)に移行する。
そして、第2の実施形態に係る成膜工程(S23)と同様の方法によって、SiC膜31の表面に均一な膜厚のフッ化炭素膜3を形成してチューブ基材30を得る。
【0053】
このチューブ基材30及びこの表面改質方法によれば、SiC膜31を介してフッ化炭素膜3がチューブ本体2に配されているので、チューブ本体2に対するフッ化炭素膜3の密着性をより高めることができる。
【0054】
次に、第4の実施形態について説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第4の実施形態と第3の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材が、第3の実施形態に係るSiC膜31の代わりにSiN膜(単層膜)を備えているとした点である。
【0055】
このチューブ基材の表面改質方法は、図3に係る処理装置5を用いて行う第3の実施形態と同様の工程を有している。その際、第3の実施形態においてSiC材からなるターゲット材の代わりに、SiN材からなるターゲット材を用いて行う。
このチューブ基材及びこの表面改質方法によれば、第3の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0056】
次に、第5の実施形態について説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第5の実施形態と第2の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材が、第2の実施形態に係るSi膜26の代わりにポリエチレン膜(単層膜)を備えているとした点である。
【0057】
このチューブ基材の表面改質方法は、図3に係る処理装置5を用いて行う第2の実施形態と同様の工程を有している。その際、第2の実施形態においてSi材からなるターゲット材の代わりに、ポリエチレンバルク材からなるターゲット材を用いて行う。
このチューブ基材及びこの表面改質方法によれば、第2の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0058】
次に、第6の実施形態について説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第6の実施形態と第3の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材が、第3の実施形態に係るSiC膜31の代わりにフッ化炭素物とSiとの混合膜を備えているとした点である。
【0059】
このチューブ基材の表面改質方法は、図3に係る処理装置5を用いて行う第3の実施形態と同様の工程を有している。その際、第3の実施形態におけるSiCからなるターゲット材の代わりに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材料とSiとの混合比が1:1とされるターゲット材を用いて行う。
このチューブ基材及びこの表面改質方法によれば、第3の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0060】
次に、第7の実施形態について図8を参照して説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第7の実施形態と第6の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材40が、第6の実施形態に係るフッ化炭素物とSiとの混合膜において、チューブ本体2から径方向外方に向かって漸次フッ素原子の含有量が多くされた傾斜膜41を備えているとした点である。
【0061】
第1の実施形態において使用する処理装置5を用いた場合の本実施形態に係るチューブ基材40の表面改質方法について、図3及び図9を参照しながら説明する。
本実施形態に係る表面改質方法は、上記他の実施形態と同様にチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S71)と、チューブ本体2表面に傾斜膜41を成膜する工程(S72)と、傾斜膜41の表面に上記他の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S73)とを備えている。
【0062】
第1乃至第3の実施形態に係る工程(S11、S21、S31)と同様に工程(S71)を行い、第一基材支持台15に設置したチューブ本体2の表面を活性化させた後、傾斜膜41を成膜する工程(S72)に移行する。
まず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材料とSiとの混合比が1:3とされるターゲット材を第二RF電極21に載置して、所定の真空度とされた成膜処理室7内にてチューブ本体2を図示しない加熱機構にて所望の温度に加熱する。そして、第二ガス導入口18からArガスを導入し、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を100Wの電力で投入して、Arガスをプラズマ化する。
【0063】
この際、ターゲット材からスパッタされた粒子がチューブ本体2に到達する。このとき、図示しない回転機構によってチューブ本体2が軸回りに回転しているので、チューブ本体2の表面に均一な膜厚にて傾斜膜41の一部が堆積する。
この処理を、例えば1分間行う。
【0064】
続いて、ターゲット材を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材料とSiとの混合比が1:2となるターゲット材に置き換えて、同様の処理を例えば1分間行って、よりフッ素原子の含有量が多い部分を傾斜膜41の一部として堆積させる。
【0065】
さらに、ターゲット材を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材料とSiとの混合比が1:1となるターゲット材に置き換えて、同様の処理を例えば1分間行って、チューブ本体2から最も径方向外方となる傾斜膜41の一部に、最もフッ素原子の含有量が多い部分を堆積させる。
【0066】
次に、搬送機構8によって傾斜膜41が成膜されたチューブ本体2を表面処理室6に移送し、第一基材支持台15に設置する。そして、再びチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S71)を行う。
そして、チューブ本体2を搬送機構8によって表面処理室6から再び成膜処理室7に移送して第二基材支持台20に設置する一方、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材のみからなるターゲット材23に置き換えて、フッ化炭素膜3を成膜する工程(S73)に移行する。
【0067】
そして、第2の実施形態に係る成膜工程(S23)と同様の方法によって、傾斜膜41の表面に均一な膜厚のフッ化炭素膜3を形成してチューブ基材40を得る。
このチューブ基材及びこの表面改質方法によれば、フッ素原子の少ない傾斜膜41の径方向内側はチューブ本体2と密着しやすく、フッ素原子の多い傾斜膜41の径方向外側はフッ化炭素膜3と密着しやすくなり、傾斜膜41がチューブ本体2、フッ化炭素膜3の双方と高い密着性を得ることができるため、チューブ本体2に対するフッ化炭素膜3の密着性をより一層高めることができる。
【0068】
次に、第8の実施形態について図10を参照して説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第8の実施形態と第7の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材50が、第2の実施形態に係るSi膜26を備えており、チューブ本体2表面にSi膜26が成膜された上に第7の実施形態に係る傾斜膜41が配されているとした点である。
【0069】
第1の実施形態において使用する処理装置5を用いた場合の本実施形態に係るチューブ基材50の表面改質方法について、図3及び図11を参照しながら説明する。
本実施形態に係る表面改質方法は、上記他の実施形態と同様にチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S81)と、第2の実施形態と同様にチューブ本体2表面にSi膜26を成膜する工程(S82)と、Si膜26の表面に第7の実施形態と同様に傾斜膜41を成膜する工程(S83)と、傾斜膜41の表面に第7の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S84)とを備えている。
【0070】
ここで、本実施形態では、Si膜26を成膜する工程(S82)を1分間実施して100nmのSi膜26を形成する。
なお、Si膜26を成膜する工程(S82)の後、傾斜膜41を成膜する工程(S83)に移行する際、及び、傾斜膜41を成膜する工程(S83)の後、フッ化炭素膜3を成膜する工程(S84)に移行する際に、プラズマガスによって表面を活性化させる工程(S81)をそれぞれ実施する。
【0071】
このチューブ基材及びこの表面改質方法によれば、チューブ本体2とSi膜26、Si膜26と傾斜膜41、傾斜膜41とフッ化炭素膜3との間でそれぞれ好適な密着性を得ることができる。従って、上記第2の実施形態に係るチューブ基材25及び第7の実施形態に係るチューブ基材50よりもさらにフッ化炭素膜3の密着性を高めることができる。
【0072】
次に、第9の実施形態について図12を参照して説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第9の実施形態と第1の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材60が、CxFyイオン(フッ化炭素イオン)61が注入されたチューブ本体2の表面にフッ化炭素膜3が形成されてなるものとした点である。
【0073】
第1の実施形態において使用する処理装置5を用いた場合の本実施形態に係るチューブ基材60の表面改質方法について、図3及び図13を参照しながら説明する。
本実施形態に係る表面改質方法は、チューブ本体2の表面にCxFyイオン61を注入する工程(S91)と、第1の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S92)とを備えている。
【0074】
まず、CxFyイオンを注入する工程(S91)を実施する。
チューブ本体2を搬送機構8に搭載して表面処理室6に搬入し、貫通孔2Aを第一基材支持台15と嵌合する。
表面処理室6内を所定の真空度とした後、第一ガス導入口13からC4F8ガスを導入し、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を1000Wの電力で投入して、C4F8ガスをプラズマ化する。
この際、図示しない回転機構によって第一基材支持台15を軸回りに回転してチューブ基材60の表面に対してCxFyプラズマイオンが衝突する。これを例えば5分間行い、チューブ本体2の表面にCxFyイオン61を注入する。
【0075】
第一排気系17にて処理ガスを排気後、ゲートバルブ10を開けてチューブ本体2を搬送機構8によって表面処理室6から成膜処理室7に移送して第二基材支持台20に設置し、その後ゲートバルブ10を閉じる。
次に、第1の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S92)を、例えば5分間実施して、500nmのフッ化炭素膜3が形成されたチューブ基材60を得る。
【0076】
このチューブ基材60及びこの表面改質方法によれば、チューブ本体2に注入されたCxFyイオン61とフッ化炭素膜3との結合性を高めることができ、チューブ本体2に対するフッ化炭素膜3の密着性をより高めることができる。
【0077】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記第8の実施形態では、チューブ本体2の上にSi膜26及び傾斜膜41が配され、さらにフッ化炭素膜3が配されたチューブ基材50としているが、傾斜膜41の代わりに、第3の実施形態に係るSiC膜31を成膜させても構わない。
【0078】
また、チューブ本体は、ポリエチレンからのみに限らず、ポリプロピレン、ポリブテン系のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、ケトン系樹脂、キシレン系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂、その他の合成樹脂等の有機物、若しくは、これらを組み合わせた有機物等であっても構わない。
【0079】
さらに、単層膜としてはSi膜26に限らず、Cr、Ti、Ni、Cu、Au等の金属膜、又は、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物の金属炭化膜、もしくは、金属窒化膜、もしくは、金属酸化膜であっても構わない。
【0080】
また、単層膜としてのポリエチレン膜の代わりに、ポリプロピレン、ポリブテン系のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、ケトン系樹脂、キシレン系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂、その他の合成樹脂等の有機膜であっても構わない。また、カルボニル基、ケトン基、水酸基等の反応性官能基を有する有機膜や、二重結合、三重結合を有するものであっても構わない。さらに、チューブ基材と同様、又は、類似の材料からなる有機膜であっても構わない。
【0081】
また、混合膜としては、SiC膜31、SiN膜、Siとフッ化炭素物との混合膜に限らず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン系のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、ケトン系樹脂、キシレン系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂、その他の合成樹脂等の有機物や、カルボニル基、ケトン基、水酸基等の反応性官能基を有する有機膜、二重結合、三重結合を有する有機物と、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物或いはフッ化炭素物との有機物−金属物或いは有機物−フッ化炭素物の混合膜であっても構わない。
【0082】
また、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物とフッ化物との混合膜、又は、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物の金属炭化膜、もしくは、金属窒化膜、もしくは、金属酸化膜とフッ化物との混合膜であっても構わない。
【0083】
また、混合膜として、上記単層膜、混合膜(有機物−金属物、有機物−フッ化物、金属物−フッ化物、金属炭化物―フッ化物、金属窒化物―フッ化物、金属酸化物―フッ化物)、傾斜膜の何れか一つの膜上にフッ化膜を形成させた積層膜中に、例えば、膜厚方向と平行に延びる柱状のカーボンナノチューブを形成させたものや、単層膜、混合膜、傾斜膜の何れか一つとフッ化膜との界面にフラーレンを形成させてこれら二つの膜に埋め込んだ構造のものであっても構わない。
【0084】
また、傾斜膜としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン系のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、ケトン系樹脂、キシレン系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂、その他の合成樹脂等の有機物や、カルボニル基、ケトン基、水酸基等の反応性官能基を有する有機膜、二重結合、三重結合を有する有機物とフッ化炭素物との傾斜膜であっても構わない。
【0085】
また、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物とフッ化物との傾斜膜、又は、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物の金属炭化膜、もしくは、金属窒化物、もしくは、金属酸化膜とフッ化物との傾斜膜であっても構わない。
【0086】
また、CxFyイオン61としては、C4F8ガスに基づくものに限らず、CF4、C2F6、C2F4、C2F10等のCxFy系ガスを用いて高電圧を印加し、CxFyイオン61を生成させても構わない。また、CxFyイオンでなく、F2ガスに基づくフッ素イオンを生成させても構わない。
【0087】
また、上記成膜におけるプラズマガスは、Arに限らず、N2等の不活性ガス、O2、H2、H2O、C2H4等の反応性ガスであっても構わない。
また、成膜法も、プラズマイオンに基づくスパッタリングに限らず、蒸着法、イオンプレーティング法等の他の物理気相成長法や、CVD法、大気圧CVD法等の化学気相成長法によるものでも構わない。
【実施例】
【0088】
上記実施形態にて成膜したフッ化炭素膜3の表面をX線光電子分光法(XPS)で観察して得られたスペクトル分析結果(数値はピーク強度)を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
C1SスペクトルにCF3、CF2、CFのピークが現れており、フッ化炭素膜3が好適に成膜されていることを確認することができた。
【0091】
ここで、図14に示すように、成膜時のArガス流量を変化させたときのフッ化炭素膜3表面のX線光電子分光法(XPS)での分析結果から、フッ化炭素膜3におけるF/C比が、Arガス流量が15sccmのときには1.47となり、200sccmと増加させた際には1.27を示し、Ar流量を増加させるにつれてF/C比が減少する。
【0092】
このように変化させた各F/C比におけるフッ化炭素膜3の接触角測定結果を図15に示す。接触角は、F/C比が1.47の場合には105度であるが、F/C比が減少するにつれて接触角も減少し、F/C比が1.3以下になると接触角は急激に減少する。即ち、F/C比が1.3よりも大きいほど優れた撥水性を得ることができる。
【0093】
また、上記各実施形態にて製造したチューブ基材と、比較例として第1及び第2の実施形態においてArガス流量を200sccmとしてフッ化炭素膜3のF/C比を1.27としたチューブ基材とに対して、密着試験とガス透過性試験を実施した。
密着試験は、セロハンテープ剥離を行った後に外観の剥離状態を顕微鏡により観察し、剥離が発生しなかったものを○、0.1mm以下の剥離が生じたものを△、0.1mm以上の剥離が発生したものを×とした。
また、ガス透過性試験は、オートクレーブ滅菌(高圧蒸気滅菌)処理を行った後に、膜の外見に異常が生じていないかを顕微鏡により観察した。試験前と同様の外観であるものを○、異常のあるものを×とした。それぞれの試験結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
密着試験については、何れも良好な試験結果を得ることができた。特に、単層膜や混合膜、傾斜膜等を中間に配した場合には、剥離が発生しなかった。
また、ガス透過性試験については、フッ化炭素膜のフッ素と炭素との原子数比(F/C比)が1.27の場合には、表面のフッ化炭素膜から水蒸気が透過したことによる膜の剥がれが生じていた。一方、本実施形態に係るF/C比が1.47のフッ化炭素膜3の場合には、単層膜や混合膜、傾斜膜等の有無にかかわらず試験前後において外観に異常がなく良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るチューブ基材の表面改質を行うための処理装置の構成をチューブ基材とともに示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図8】本発明の第7の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図9】本発明の第7の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図10】本発明の第8の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図11】本発明の第8の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図12】本発明の第9の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図13】本発明の第9の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図14】本発明の各実施形態に係るチューブ基材のフッ化炭素膜のフッ素原子数と炭素原子数との比とスパッタ時のArガス流量との関係を示すグラフである。
【図15】本発明の各実施形態に係るチューブ基材のフッ化炭素膜のフッ素原子数と炭素原子数との比とフッ化炭素膜の接触角との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0097】
1、25、30、40、50、60 チューブ基材
2 チューブ本体
3 フッ化炭素膜
26 Si膜(単層膜)
31 SiC膜(単層膜)
41 傾斜膜(混合膜)
61 CxFyイオン(フッ化炭素イオン)
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ基材及びその表面の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素含有カーボン層は、その表面エネルギーが低いという化学的安定性から耐熱性、耐薬品性、耐候性、摺動性、耐ガス透過性等に優れ、医療、化学、電子等の様々な分野で活用されている。
【0003】
このようなフッ素含有カーボン層を得るための処理技術として、プラスチック基材上にRFバイアス電圧を印加することによって、フッ素を含有するプラズマに特定のエネルギーを付加して、基材表面上をフッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C比)を0.85以上かつ1.30以下の成分を有するフッ化炭素層に改質して、耐久性の高い撥水、撥インク性表面を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、内視鏡部品であるチューブ基材にフッ素樹脂コートをする技術として、内視鏡基材表面にフッ素系粒子を主成分とした担体と溶媒との化学的な混合液を塗布し、その後、硬化させて薄膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
このフッ素樹脂コートは、使用した内視鏡を確実に消毒滅菌して感染症等を防止するために行うオートクレーブ滅菌(高圧滅菌)による水蒸気を透過防止するために行われている。
【0005】
しかしながら、例えば、上記特許文献1に記載の技術の場合、本来、バルク状のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が保有している耐熱性、耐薬品性、耐ガス透過性に比べて性能が低くなってしまう。また、基材表面とフッ化炭素膜との間の密着性が低く、剥離を生じてしまう。
また、上記特許文献2に記載の技術の場合、液体の表面張力等の影響によって均一な膜厚とする制御が困難であったり、微細な隙間の中にコーティング剤が入り込まないために均質な薄膜形成が困難である。
【特許文献1】特開平10−101829号公報
【特許文献2】特開2000−107122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、優れた耐薬品性、撥水性、ガスバリヤ性を有するとともに、均一に膜形成されて基材との密着性に優れたフッ化炭素膜を具備するチューブ基材及びその表面改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係るチューブ基材は、有機物からなるチューブ本体と、前記チューブ本体の表面に配されるフッ化炭素膜とを備え、該フッ化炭素膜のフッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体表面に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0009】
このチューブ基材及び表面改質方法は、フッ化炭素膜のF/C比が上記値とされてチューブ本体に形成されているので、フッ化炭素膜の性質をよりバルク状のフッ化炭素物に近づけることができ、チューブ基材表面の撥水性、ガスバリヤ性、耐薬品性、耐候性を高めることができる。
【0010】
また、本発明に係るチューブ基材は、前記チューブ基材であって、前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物のいずれか一つを有する単層膜を備えていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体表面に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物の何れか一つを有する単層膜を形成する工程と、前記単層膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0012】
このチューブ基材及び表面改質方法は、上記単層膜を介してフッ化炭素膜が配されているので、チューブ本体に対するフッ化炭素膜の密着性をより高めることができる。
【0013】
また、本発明に係るチューブ基材は、前記チューブ基材であって、前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、有機物と金属との混合膜を備えていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体表面に、有機物と金属との混合膜を形成する工程と、前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0015】
このチューブ基材及び表面改質方法は、上記混合膜を介してフッ化炭素膜が配されているので、混合膜とチューブ本体との密着性を高めることができ、チューブ本体に対するフッ化炭素膜の密着性をより高めることができる。
【0016】
また、本発明に係るチューブ基材は、前記チューブ基材であって、前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を備えていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体表面に、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を形成する工程と、前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0018】
このチューブ基材及び表面改質方法は、上記混合膜を介してフッ化炭素膜が配されているので、混合膜とフッ化炭素膜との密着性を高めることができ、チューブ本体に対するフッ化炭素膜の密着性をより高めることができる。
【0019】
また、本発明に係るチューブ基材は、前記チューブ基材であって、前記混合膜が、前記チューブ本体から径方向外方に向かって漸次前記フッ化炭素物に係るフッ素原子の含有量が多くされている傾斜膜であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、前記混合膜を作成する工程が、前記チューブ本体から径方向外方に向かって漸次前記フッ素原子の含有量を増やしながら傾斜膜を形成する工程であることを特徴とする。
【0021】
このチューブ基材及び表面改質方法は、フッ素原子の少ない傾斜膜の径方向内側はチューブ本体と密着しやすく、フッ素原子の多い傾斜膜の径方向外側はフッ化炭素膜と密着しやすくなり、密着性をそれぞれより高めることができる。
【0022】
また、本発明に係るチューブ基材は、前記チューブ基材であって、フッ素イオンまたはフッ化炭素イオンが注入された前記チューブ本体表面に、前記フッ化炭素膜が形成されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体の表面に、フッ素イオンまたはフッ化炭素イオンを注入する工程と、さらにフッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0024】
このチューブ基材及び表面改質方法は、チューブ本体に注入されたフッ素イオンまたはフッ化炭素イオンとフッ化炭素膜との結合性を高めることができ、チューブ本体に対するフッ化炭素膜の密着性をより高めることができる。
【0025】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、有機物からなるチューブ本体表面に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物の何れか一つを有する単層膜を形成する工程と、前記単層膜に、有機物と金属との混合膜、又は、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を形成する工程と、前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とする。
【0026】
このチューブ基材及び表面改質方法は、単層膜に加えて混合膜を介してフッ化炭素膜が配されているので、単層膜とチューブ本体との密着性及び混合膜とフッ化炭素膜との密着性をそれぞれ高めることができ、チューブ本体に対するフッ化炭素膜の密着性をより高めることができる。
【0027】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、前記チューブ基材の表面改質方法であって、前記チューブ本体の表面をプラズマガスによって活性化させる工程を備えていることを特徴とする。
このチューブ基材の表面改質方法は、成膜の際に成膜材料との結合を容易にして密着性をより高めることができる。
【0028】
また、本発明に係るチューブ基材の表面改質方法は、前記チューブ基材の表面改質方法であって、前記チューブ本体への成膜を物理気相成長法及び化学気相成長法の少なくとも一つの方法によって行うことを特徴とする。
このチューブ基材の表面改質方法は、塗布により成膜する場合よりもチューブ基材に対して均一な膜厚を得ることができ、膜厚の均一性に優れたフッ化炭素膜を形成させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高い撥水性、ガスバリヤ性、耐薬品性、耐候性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明に係る第1の実施形態について、図1乃至図3を参照して説明する。
本実施形態に係るチューブ基材1は、図1に示すように、ポリエチレン等の有機物からなるチューブ本体2と、フッ素(F)と炭素(C)とを有してチューブ本体2の表面に配されるフッ化炭素膜3とを備えている。
フッ化炭素膜3のフッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C比)が1.30よりも大きいものとされている。
【0031】
このフッ化炭素膜3を成膜してチューブ基材1の表面を改質する方法について説明する。
この改質方法は、図2に示すように、チューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S11)と、スパッタリングによってチューブ本体2の表面にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S12)とを備えている。
【0032】
これらの工程を行う処理装置5は、図3に示すように、上記工程(S11)を行う表面処理室6と、上記工程(S12)を行う成膜処理室7と、両室間でチューブ本体2を移送する搬送機構8と、表面処理室6と成膜処理室7との間の開閉を行うゲートバルブ10とを有するチャンバ11と、これに電源供給するRF電源12とを備えている。
【0033】
表面処理室6は、チャンバ11下方に配されて内部にガスを導入する第一ガス導入口13と、チャンバ上方に配され、内部に搬入されたチューブ本体2の貫通孔2Aを保持して図示しない回転機構によって中心軸回りにチューブ本体2を回転させる第一基材支持台15と、チャンバ11下方に配されてRF電源12からRFバイアス電圧が印加される第一RF電極16と、処理されたガスを表面処理室6から排出する第一排気系17とを備えている。
【0034】
成膜処理室7は、チャンバ11下方に配されて内部にガスを導入する第二ガス導入口18と、チャンバ11上方に配され、表面処理室6から移送されて内部に搬入されたチューブ本体2の貫通孔2Aを保持して図示しない回転機構によって中心軸回りにチューブ本体2を回転させる第二基材支持台20と、チャンバ11下方に配されてRF電源12からRFバイアス電圧が印加される第二RF電極21と、処理されたガスを成膜処理室7から排出する第二排気系22とを備えている。
第二基材支持台20には、図示しない加熱機構が配されてチューブ本体2を所望の温度に維持可能とされている。また、第二RF電極21には、成膜材料として例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材料からなるターゲット材23が載置されている。
【0035】
次に、上記各工程をこの処理装置5を用いて行う場合の作業内容について説明する。
まず、チューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S11)を行う。そのため、チューブ本体2を搬送機構8に搭載して表面処理室6に搬入し、貫通孔2Aを第一基材支持台15と嵌合する。
【0036】
表面処理室6内を排気して所定の真空度とした後、第一ガス導入口13からArガスを導入し、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を100Wの電力で投入して、Arガスをプラズマ化する。
この際、図示しない回転機構によって第一基材支持台15を軸回りに回転してチューブ基材1の表面に対してプラズマイオンが当接し、表面が均一に活性化される。これを例えば1分間行う。
【0037】
第一排気系17にて処理ガスを排気後、ゲートバルブ10を開けてチューブ本体2を搬送機構8によって表面処理室6から成膜処理室7に移送して第二基材支持台20に設置し、その後ゲートバルブ10を閉じる。
次に、フッ化炭素膜3を成膜する工程(S12)を行う。
予めポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるターゲット材23が配されて所定の真空度とされた成膜処理室7内にてチューブ本体2を図示しない加熱機構にて所望の温度に加熱する。そして、第二ガス導入口18からArガスを導入して、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を100Wの電力で投入して、Arガスをプラズマ化する。
【0038】
この際、ターゲット材23からの飛散粒子のフッ素原子数と炭素原子数との比であるF/C比が1.30よりも大きくなるように、Arガス流量を増減させて調整する。
このプラズマArがターゲット材23をスパッタすることによって、スパッタされた粒子がチューブ本体2に到達する。このとき、図示しない回転機構によってチューブ本体2が軸回りに回転しているので、表面に均一な膜厚にてフッ化炭素膜3が形成される。
こうして例えば5分間の処理を行って、500nmのフッ化炭素膜3が形成されたチューブ基材1を得る。
【0039】
このチューブ基材1及びこの表面改質方法によれば、フッ化炭素膜3のF/C比が上記値とされているので、チューブ基材1表面の撥水性、耐性を高めることができる。この際、成膜前にチューブ本体2の表面をプラズマによって活性化させているので、成膜の際にチューブ本体2と成膜材料との結合を容易にして密着性を高めることができる。
【0040】
次に、第2の実施形態について図4を参照しながら説明する。
なお、上述した第1の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第2の実施形態と第1の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材25が、チューブ本体2とフッ化炭素膜3との間に成膜されたSi膜(単層膜)26を備えているとした点である。
【0041】
第1の実施形態において使用する処理装置5を用いた場合の本実施形態に係るチューブ基材25の表面改質方法について、図3及び図5を参照しながら説明する。
本実施形態に係る表面改質方法は、第1の実施形態と同様にチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S21)と、チューブ本体2表面にSi膜26を成膜する工程(S22)と、Si膜26の表面に第1の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S23)とを備えている。
【0042】
まず、第1の実施形態に係る工程(S11)と同様に工程(S21)を行い、第一基材支持台15に設置したチューブ本体2の表面を活性化させる。
次に、Si膜26を成膜する工程(S22)に移行する。
Siからなるターゲット材を第二RF電極21に載置して所定の真空度とされた成膜処理室7内にてチューブ本体2を図示しない加熱機構にて所望の温度に加熱する。そして、第二ガス導入口18からArガス15sccmを導入して、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を100Wの電力で投入して、Arガスをプラズマ化する。
【0043】
この際、ターゲット材からスパッタされた粒子がチューブ本体2に到達する。このとき、図示しない回転機構によってチューブ本体2が軸回りに回転しているので、表面に均一な膜厚にてSi膜26が形成される。
こうして例えば4分間の処理を行って、500nmのSi膜26を成膜する。
【0044】
次に、搬送機構8によってSi膜26が成膜されたチューブ本体2を表面処理室6に移送し、第一基材支持台15に設置する。そして、再びチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S21)を例えば1分間実施する。
【0045】
そして、チューブ本体2を搬送機構8によって表面処理室6から再び成膜処理室7に移送して第二基材支持台20に設置する一方、Siからなるターゲット材をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材からなるターゲット材23に置き換えて、フッ化炭素膜3を成膜する工程(S23)に移行する。
まず、ターゲット材23を第二RF電極21に載置して、所定の真空度とされた成膜処理室7内にてチューブ本体2を図示しない加熱機構にて所望の温度に加熱する。そして、第1の実施形態に係る成膜工程(S12)と同様の方法によって、Si膜26の表面に均一な膜厚のフッ化炭素膜3を形成してチューブ基材25を得る。
【0046】
このチューブ基材25及びこの表面改質方法によれば、チューブ本体2とSi膜26及びSi膜26とフッ化炭素膜3との結合が強固であるので、Si膜26を介してチューブ本体2にフッ化炭素膜3を配することによって、チューブ本体2に対するフッ化炭素膜3の密着性をより高めることができる。
【0047】
次に、第3の実施形態について図6を参照しながら説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第3の実施形態と第2の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材30が、第2の実施形態に係るSi膜26の代わりに、チューブ本体2とフッ化炭素膜3との間に成膜されたSiC膜(単層膜)31を備えているとした点である。
【0048】
第1の実施形態において使用する処理装置5を用いた場合の本実施形態に係るチューブ基材30の表面改質方法について、図3及び図7を参照しながら説明する。
本実施形態に係る表面改質方法は、上記他の実施形態と同様にチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S31)と、チューブ本体2表面にSiC膜31を成膜する工程(S32)と、SiC膜31の表面に第1の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S33)とを備えている。
【0049】
まず、第1、第2の実施形態に係る工程(S11、S21)と同様に工程(S31)を行い、第一基材支持台15に設置したチューブ本体2の表面を活性化させる。
次に、SiC膜31を成膜する工程(S32)に移行する。
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材からなるターゲット材23をSiCからなるターゲット材に置き換えて第二RF電極21に載置して、所定の真空度とされた成膜処理室7内にてチューブ本体2を図示しない加熱機構にて所望の温度に加熱する。そして、第二ガス導入口18からArガスを導入し、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を100Wの電力で投入して、Arガスをプラズマ化する。
【0050】
この際、ターゲット材からスパッタされた粒子がチューブ本体2に到達する。このとき、図示しない回転機構によってチューブ本体2が軸回りに回転しているので、表面に均一な膜厚にてSiC膜31が形成される。
こうして例えば4分間の処理を行って、500nmのSiC膜31を成膜する。
【0051】
次に、搬送機構8によってSiC膜31が成膜されたチューブ本体2を表面処理室6に移送し、第一基材支持台15に設置する。そして、再びチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S31)を例えば1分間実施する。
【0052】
そして、チューブ本体2を搬送機構8によって表面処理室6から再び成膜処理室7に移送して第二基材支持台20に設置する一方、SiCからなるターゲット材をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材からなるターゲット材23に置き換えて、フッ化炭素膜3を成膜する工程(S33)に移行する。
そして、第2の実施形態に係る成膜工程(S23)と同様の方法によって、SiC膜31の表面に均一な膜厚のフッ化炭素膜3を形成してチューブ基材30を得る。
【0053】
このチューブ基材30及びこの表面改質方法によれば、SiC膜31を介してフッ化炭素膜3がチューブ本体2に配されているので、チューブ本体2に対するフッ化炭素膜3の密着性をより高めることができる。
【0054】
次に、第4の実施形態について説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第4の実施形態と第3の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材が、第3の実施形態に係るSiC膜31の代わりにSiN膜(単層膜)を備えているとした点である。
【0055】
このチューブ基材の表面改質方法は、図3に係る処理装置5を用いて行う第3の実施形態と同様の工程を有している。その際、第3の実施形態においてSiC材からなるターゲット材の代わりに、SiN材からなるターゲット材を用いて行う。
このチューブ基材及びこの表面改質方法によれば、第3の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0056】
次に、第5の実施形態について説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第5の実施形態と第2の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材が、第2の実施形態に係るSi膜26の代わりにポリエチレン膜(単層膜)を備えているとした点である。
【0057】
このチューブ基材の表面改質方法は、図3に係る処理装置5を用いて行う第2の実施形態と同様の工程を有している。その際、第2の実施形態においてSi材からなるターゲット材の代わりに、ポリエチレンバルク材からなるターゲット材を用いて行う。
このチューブ基材及びこの表面改質方法によれば、第2の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0058】
次に、第6の実施形態について説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第6の実施形態と第3の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材が、第3の実施形態に係るSiC膜31の代わりにフッ化炭素物とSiとの混合膜を備えているとした点である。
【0059】
このチューブ基材の表面改質方法は、図3に係る処理装置5を用いて行う第3の実施形態と同様の工程を有している。その際、第3の実施形態におけるSiCからなるターゲット材の代わりに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材料とSiとの混合比が1:1とされるターゲット材を用いて行う。
このチューブ基材及びこの表面改質方法によれば、第3の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0060】
次に、第7の実施形態について図8を参照して説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第7の実施形態と第6の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材40が、第6の実施形態に係るフッ化炭素物とSiとの混合膜において、チューブ本体2から径方向外方に向かって漸次フッ素原子の含有量が多くされた傾斜膜41を備えているとした点である。
【0061】
第1の実施形態において使用する処理装置5を用いた場合の本実施形態に係るチューブ基材40の表面改質方法について、図3及び図9を参照しながら説明する。
本実施形態に係る表面改質方法は、上記他の実施形態と同様にチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S71)と、チューブ本体2表面に傾斜膜41を成膜する工程(S72)と、傾斜膜41の表面に上記他の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S73)とを備えている。
【0062】
第1乃至第3の実施形態に係る工程(S11、S21、S31)と同様に工程(S71)を行い、第一基材支持台15に設置したチューブ本体2の表面を活性化させた後、傾斜膜41を成膜する工程(S72)に移行する。
まず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材料とSiとの混合比が1:3とされるターゲット材を第二RF電極21に載置して、所定の真空度とされた成膜処理室7内にてチューブ本体2を図示しない加熱機構にて所望の温度に加熱する。そして、第二ガス導入口18からArガスを導入し、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を100Wの電力で投入して、Arガスをプラズマ化する。
【0063】
この際、ターゲット材からスパッタされた粒子がチューブ本体2に到達する。このとき、図示しない回転機構によってチューブ本体2が軸回りに回転しているので、チューブ本体2の表面に均一な膜厚にて傾斜膜41の一部が堆積する。
この処理を、例えば1分間行う。
【0064】
続いて、ターゲット材を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材料とSiとの混合比が1:2となるターゲット材に置き換えて、同様の処理を例えば1分間行って、よりフッ素原子の含有量が多い部分を傾斜膜41の一部として堆積させる。
【0065】
さらに、ターゲット材を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材料とSiとの混合比が1:1となるターゲット材に置き換えて、同様の処理を例えば1分間行って、チューブ本体2から最も径方向外方となる傾斜膜41の一部に、最もフッ素原子の含有量が多い部分を堆積させる。
【0066】
次に、搬送機構8によって傾斜膜41が成膜されたチューブ本体2を表面処理室6に移送し、第一基材支持台15に設置する。そして、再びチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S71)を行う。
そして、チューブ本体2を搬送機構8によって表面処理室6から再び成膜処理室7に移送して第二基材支持台20に設置する一方、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バルク材のみからなるターゲット材23に置き換えて、フッ化炭素膜3を成膜する工程(S73)に移行する。
【0067】
そして、第2の実施形態に係る成膜工程(S23)と同様の方法によって、傾斜膜41の表面に均一な膜厚のフッ化炭素膜3を形成してチューブ基材40を得る。
このチューブ基材及びこの表面改質方法によれば、フッ素原子の少ない傾斜膜41の径方向内側はチューブ本体2と密着しやすく、フッ素原子の多い傾斜膜41の径方向外側はフッ化炭素膜3と密着しやすくなり、傾斜膜41がチューブ本体2、フッ化炭素膜3の双方と高い密着性を得ることができるため、チューブ本体2に対するフッ化炭素膜3の密着性をより一層高めることができる。
【0068】
次に、第8の実施形態について図10を参照して説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第8の実施形態と第7の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材50が、第2の実施形態に係るSi膜26を備えており、チューブ本体2表面にSi膜26が成膜された上に第7の実施形態に係る傾斜膜41が配されているとした点である。
【0069】
第1の実施形態において使用する処理装置5を用いた場合の本実施形態に係るチューブ基材50の表面改質方法について、図3及び図11を参照しながら説明する。
本実施形態に係る表面改質方法は、上記他の実施形態と同様にチューブ本体2の表面をプラズマガスによって活性化させる工程(S81)と、第2の実施形態と同様にチューブ本体2表面にSi膜26を成膜する工程(S82)と、Si膜26の表面に第7の実施形態と同様に傾斜膜41を成膜する工程(S83)と、傾斜膜41の表面に第7の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S84)とを備えている。
【0070】
ここで、本実施形態では、Si膜26を成膜する工程(S82)を1分間実施して100nmのSi膜26を形成する。
なお、Si膜26を成膜する工程(S82)の後、傾斜膜41を成膜する工程(S83)に移行する際、及び、傾斜膜41を成膜する工程(S83)の後、フッ化炭素膜3を成膜する工程(S84)に移行する際に、プラズマガスによって表面を活性化させる工程(S81)をそれぞれ実施する。
【0071】
このチューブ基材及びこの表面改質方法によれば、チューブ本体2とSi膜26、Si膜26と傾斜膜41、傾斜膜41とフッ化炭素膜3との間でそれぞれ好適な密着性を得ることができる。従って、上記第2の実施形態に係るチューブ基材25及び第7の実施形態に係るチューブ基材50よりもさらにフッ化炭素膜3の密着性を高めることができる。
【0072】
次に、第9の実施形態について図12を参照して説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第9の実施形態と第1の実施形態との異なる点は、本実施形態に係るチューブ基材60が、CxFyイオン(フッ化炭素イオン)61が注入されたチューブ本体2の表面にフッ化炭素膜3が形成されてなるものとした点である。
【0073】
第1の実施形態において使用する処理装置5を用いた場合の本実施形態に係るチューブ基材60の表面改質方法について、図3及び図13を参照しながら説明する。
本実施形態に係る表面改質方法は、チューブ本体2の表面にCxFyイオン61を注入する工程(S91)と、第1の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S92)とを備えている。
【0074】
まず、CxFyイオンを注入する工程(S91)を実施する。
チューブ本体2を搬送機構8に搭載して表面処理室6に搬入し、貫通孔2Aを第一基材支持台15と嵌合する。
表面処理室6内を所定の真空度とした後、第一ガス導入口13からC4F8ガスを導入し、RF電源12から例えば13.56MHzのマイクロ波を1000Wの電力で投入して、C4F8ガスをプラズマ化する。
この際、図示しない回転機構によって第一基材支持台15を軸回りに回転してチューブ基材60の表面に対してCxFyプラズマイオンが衝突する。これを例えば5分間行い、チューブ本体2の表面にCxFyイオン61を注入する。
【0075】
第一排気系17にて処理ガスを排気後、ゲートバルブ10を開けてチューブ本体2を搬送機構8によって表面処理室6から成膜処理室7に移送して第二基材支持台20に設置し、その後ゲートバルブ10を閉じる。
次に、第1の実施形態と同様にフッ化炭素膜3を成膜する工程(S92)を、例えば5分間実施して、500nmのフッ化炭素膜3が形成されたチューブ基材60を得る。
【0076】
このチューブ基材60及びこの表面改質方法によれば、チューブ本体2に注入されたCxFyイオン61とフッ化炭素膜3との結合性を高めることができ、チューブ本体2に対するフッ化炭素膜3の密着性をより高めることができる。
【0077】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記第8の実施形態では、チューブ本体2の上にSi膜26及び傾斜膜41が配され、さらにフッ化炭素膜3が配されたチューブ基材50としているが、傾斜膜41の代わりに、第3の実施形態に係るSiC膜31を成膜させても構わない。
【0078】
また、チューブ本体は、ポリエチレンからのみに限らず、ポリプロピレン、ポリブテン系のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、ケトン系樹脂、キシレン系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂、その他の合成樹脂等の有機物、若しくは、これらを組み合わせた有機物等であっても構わない。
【0079】
さらに、単層膜としてはSi膜26に限らず、Cr、Ti、Ni、Cu、Au等の金属膜、又は、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物の金属炭化膜、もしくは、金属窒化膜、もしくは、金属酸化膜であっても構わない。
【0080】
また、単層膜としてのポリエチレン膜の代わりに、ポリプロピレン、ポリブテン系のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、ケトン系樹脂、キシレン系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂、その他の合成樹脂等の有機膜であっても構わない。また、カルボニル基、ケトン基、水酸基等の反応性官能基を有する有機膜や、二重結合、三重結合を有するものであっても構わない。さらに、チューブ基材と同様、又は、類似の材料からなる有機膜であっても構わない。
【0081】
また、混合膜としては、SiC膜31、SiN膜、Siとフッ化炭素物との混合膜に限らず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン系のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、ケトン系樹脂、キシレン系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂、その他の合成樹脂等の有機物や、カルボニル基、ケトン基、水酸基等の反応性官能基を有する有機膜、二重結合、三重結合を有する有機物と、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物或いはフッ化炭素物との有機物−金属物或いは有機物−フッ化炭素物の混合膜であっても構わない。
【0082】
また、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物とフッ化物との混合膜、又は、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物の金属炭化膜、もしくは、金属窒化膜、もしくは、金属酸化膜とフッ化物との混合膜であっても構わない。
【0083】
また、混合膜として、上記単層膜、混合膜(有機物−金属物、有機物−フッ化物、金属物−フッ化物、金属炭化物―フッ化物、金属窒化物―フッ化物、金属酸化物―フッ化物)、傾斜膜の何れか一つの膜上にフッ化膜を形成させた積層膜中に、例えば、膜厚方向と平行に延びる柱状のカーボンナノチューブを形成させたものや、単層膜、混合膜、傾斜膜の何れか一つとフッ化膜との界面にフラーレンを形成させてこれら二つの膜に埋め込んだ構造のものであっても構わない。
【0084】
また、傾斜膜としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン系のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、ケトン系樹脂、キシレン系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂、その他の合成樹脂等の有機物や、カルボニル基、ケトン基、水酸基等の反応性官能基を有する有機膜、二重結合、三重結合を有する有機物とフッ化炭素物との傾斜膜であっても構わない。
【0085】
また、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物とフッ化物との傾斜膜、又は、Cr、Ti、Si、Ni、Cu、Au等の金属物の金属炭化膜、もしくは、金属窒化物、もしくは、金属酸化膜とフッ化物との傾斜膜であっても構わない。
【0086】
また、CxFyイオン61としては、C4F8ガスに基づくものに限らず、CF4、C2F6、C2F4、C2F10等のCxFy系ガスを用いて高電圧を印加し、CxFyイオン61を生成させても構わない。また、CxFyイオンでなく、F2ガスに基づくフッ素イオンを生成させても構わない。
【0087】
また、上記成膜におけるプラズマガスは、Arに限らず、N2等の不活性ガス、O2、H2、H2O、C2H4等の反応性ガスであっても構わない。
また、成膜法も、プラズマイオンに基づくスパッタリングに限らず、蒸着法、イオンプレーティング法等の他の物理気相成長法や、CVD法、大気圧CVD法等の化学気相成長法によるものでも構わない。
【実施例】
【0088】
上記実施形態にて成膜したフッ化炭素膜3の表面をX線光電子分光法(XPS)で観察して得られたスペクトル分析結果(数値はピーク強度)を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
C1SスペクトルにCF3、CF2、CFのピークが現れており、フッ化炭素膜3が好適に成膜されていることを確認することができた。
【0091】
ここで、図14に示すように、成膜時のArガス流量を変化させたときのフッ化炭素膜3表面のX線光電子分光法(XPS)での分析結果から、フッ化炭素膜3におけるF/C比が、Arガス流量が15sccmのときには1.47となり、200sccmと増加させた際には1.27を示し、Ar流量を増加させるにつれてF/C比が減少する。
【0092】
このように変化させた各F/C比におけるフッ化炭素膜3の接触角測定結果を図15に示す。接触角は、F/C比が1.47の場合には105度であるが、F/C比が減少するにつれて接触角も減少し、F/C比が1.3以下になると接触角は急激に減少する。即ち、F/C比が1.3よりも大きいほど優れた撥水性を得ることができる。
【0093】
また、上記各実施形態にて製造したチューブ基材と、比較例として第1及び第2の実施形態においてArガス流量を200sccmとしてフッ化炭素膜3のF/C比を1.27としたチューブ基材とに対して、密着試験とガス透過性試験を実施した。
密着試験は、セロハンテープ剥離を行った後に外観の剥離状態を顕微鏡により観察し、剥離が発生しなかったものを○、0.1mm以下の剥離が生じたものを△、0.1mm以上の剥離が発生したものを×とした。
また、ガス透過性試験は、オートクレーブ滅菌(高圧蒸気滅菌)処理を行った後に、膜の外見に異常が生じていないかを顕微鏡により観察した。試験前と同様の外観であるものを○、異常のあるものを×とした。それぞれの試験結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
密着試験については、何れも良好な試験結果を得ることができた。特に、単層膜や混合膜、傾斜膜等を中間に配した場合には、剥離が発生しなかった。
また、ガス透過性試験については、フッ化炭素膜のフッ素と炭素との原子数比(F/C比)が1.27の場合には、表面のフッ化炭素膜から水蒸気が透過したことによる膜の剥がれが生じていた。一方、本実施形態に係るF/C比が1.47のフッ化炭素膜3の場合には、単層膜や混合膜、傾斜膜等の有無にかかわらず試験前後において外観に異常がなく良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るチューブ基材の表面改質を行うための処理装置の構成をチューブ基材とともに示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図8】本発明の第7の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図9】本発明の第7の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図10】本発明の第8の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図11】本発明の第8の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図12】本発明の第9の実施形態に係るチューブ基材を示す断面図である。
【図13】本発明の第9の実施形態に係るチューブ基材の表面改質方法を示す工程図である。
【図14】本発明の各実施形態に係るチューブ基材のフッ化炭素膜のフッ素原子数と炭素原子数との比とスパッタ時のArガス流量との関係を示すグラフである。
【図15】本発明の各実施形態に係るチューブ基材のフッ化炭素膜のフッ素原子数と炭素原子数との比とフッ化炭素膜の接触角との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0097】
1、25、30、40、50、60 チューブ基材
2 チューブ本体
3 フッ化炭素膜
26 Si膜(単層膜)
31 SiC膜(単層膜)
41 傾斜膜(混合膜)
61 CxFyイオン(フッ化炭素イオン)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物からなるチューブ本体と、
前記チューブ本体の表面に配されるフッ化炭素膜とを備え、
該フッ化炭素膜のフッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C)が1.30よりも大きいことを特徴とするチューブ基材。
【請求項2】
前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物のいずれか一つを有する単層膜を備えていることを特徴とする請求項1に記載のチューブ基材。
【請求項3】
前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、有機物と金属との混合膜を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のチューブ基材。
【請求項4】
前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のチューブ基材。
【請求項5】
前記混合膜が、前記チューブ本体から径方向外方に向かって漸次前記フッ化炭素物に係るフッ素原子の含有量が多くされている傾斜膜であることを特徴とする請求項4に記載のチューブ基材。
【請求項6】
フッ素イオンまたはフッ化炭素イオンが注入された前記チューブ本体表面に、前記フッ化炭素膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチューブ基材。
【請求項7】
有機物からなるチューブ本体表面に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C)が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項8】
有機物からなるチューブ本体表面に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物の何れか一つを有する単層膜を形成する工程と、
前記単層膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C)が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項9】
有機物からなるチューブ本体表面に、有機物と金属との混合膜を形成する工程と、
前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C)が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項10】
有機物からなるチューブ本体表面に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物の何れか一つを有する単層膜を形成する工程と、
前記単層膜に、有機物と金属との混合膜を形成する工程と、
前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項11】
有機物からなるチューブ本体表面に、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を形成する工程と、
前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C)が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項12】
有機物からなるチューブ本体表面に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物の何れか一つを有する単層膜を形成する工程と、
前記単層膜に、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を形成する工程と、
前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項13】
前記混合膜を作成する工程が、前記チューブ本体から径方向外方に向かって漸次前記フッ素原子の含有量を増やしながら傾斜膜を形成する工程であることを特徴とする請求項11又は12に記載のチューブ基材表面の改質方法。
【請求項14】
有機物からなるチューブ本体の表面に、フッ素イオンまたはフッ化炭素イオンを注入する工程と、
さらにフッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項15】
前記チューブ本体の表面をプラズマガスによって活性化させる工程を備えていることを特徴とする請求項7から14の何れか一つに記載のチューブ基材表面の改質方法。
【請求項16】
前記チューブ本体への成膜を物理気相成長法及び化学気相成長法の少なくとも一つの方法によって行うことを特徴とする請求項7から15の何れか一つに記載のチューブ基材表面の改質方法。
【請求項1】
有機物からなるチューブ本体と、
前記チューブ本体の表面に配されるフッ化炭素膜とを備え、
該フッ化炭素膜のフッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C)が1.30よりも大きいことを特徴とするチューブ基材。
【請求項2】
前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物のいずれか一つを有する単層膜を備えていることを特徴とする請求項1に記載のチューブ基材。
【請求項3】
前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、有機物と金属との混合膜を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のチューブ基材。
【請求項4】
前記チューブ本体と前記フッ化炭素膜との間に、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のチューブ基材。
【請求項5】
前記混合膜が、前記チューブ本体から径方向外方に向かって漸次前記フッ化炭素物に係るフッ素原子の含有量が多くされている傾斜膜であることを特徴とする請求項4に記載のチューブ基材。
【請求項6】
フッ素イオンまたはフッ化炭素イオンが注入された前記チューブ本体表面に、前記フッ化炭素膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチューブ基材。
【請求項7】
有機物からなるチューブ本体表面に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C)が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項8】
有機物からなるチューブ本体表面に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物の何れか一つを有する単層膜を形成する工程と、
前記単層膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C)が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項9】
有機物からなるチューブ本体表面に、有機物と金属との混合膜を形成する工程と、
前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C)が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項10】
有機物からなるチューブ本体表面に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物の何れか一つを有する単層膜を形成する工程と、
前記単層膜に、有機物と金属との混合膜を形成する工程と、
前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項11】
有機物からなるチューブ本体表面に、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を形成する工程と、
前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比(F/C)が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項12】
有機物からなるチューブ本体表面に、有機物、金属、金属炭化物、金属窒化物、金属酸化物の何れか一つを有する単層膜を形成する工程と、
前記単層膜に、金属若しくは金属炭化物若しくは金属窒化物若しくは金属酸化物の何れか一つとフッ化炭素物との混合膜を形成する工程と、
前記混合膜に、フッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項13】
前記混合膜を作成する工程が、前記チューブ本体から径方向外方に向かって漸次前記フッ素原子の含有量を増やしながら傾斜膜を形成する工程であることを特徴とする請求項11又は12に記載のチューブ基材表面の改質方法。
【請求項14】
有機物からなるチューブ本体の表面に、フッ素イオンまたはフッ化炭素イオンを注入する工程と、
さらにフッ素(F)と炭素(C)との原子数比が1.30よりも大きくされたフッ化炭素膜を形成する工程を備えていることを特徴とするチューブ基材表面の改質方法。
【請求項15】
前記チューブ本体の表面をプラズマガスによって活性化させる工程を備えていることを特徴とする請求項7から14の何れか一つに記載のチューブ基材表面の改質方法。
【請求項16】
前記チューブ本体への成膜を物理気相成長法及び化学気相成長法の少なくとも一つの方法によって行うことを特徴とする請求項7から15の何れか一つに記載のチューブ基材表面の改質方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−347116(P2006−347116A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179239(P2005−179239)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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