説明

テオフィリン含有徐放性製剤

【課題】従来品よりも少ないポリマーコーティング量で、さらに有機溶媒を使用せずに徐放化が可能な、高含量のテオフィリン含有徐放性製剤を提供することを課題とする。
【解決手段】テオフィリンの新規な塩形態及びそれを用いた徐放性製剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテオフィリンの新規な塩形態及びそれを用いた徐放性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
気管支喘息治療薬として用いられるテオフィリンは生物学的半減期が短いという問題点があるため徐放性製剤の要望が高く、徐放性を賦与した錠剤、顆粒剤及びドライシロップ剤が上市されている。
【0003】
その中で徐放性微粒子を用いた製剤はドライシロップ剤のコア技術として用いられており、特許文献1及び2にはセルロースアセテートブチレートポリマーを用いた製剤が、特許文献3にはエチルセルロースを用いた製剤が開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、テオフィリンをマグネシウム塩の溶液中で晶析させると球状微粒子が得られることが記載されている。
【0005】
上記特許文献1から3に記載の徐放性微粒子の製造には有機溶媒を使用する必要があり、環境への負荷および作業者の安全面を考えると最良の方法とはいえない。また、テオフィリンの1回投与量は100〜200mgと多いため、これらに記載の方法で水に溶けやすいテオフィリンを徐放化するには多量の添加剤が必要であった。
【0006】
さらに、非特許文献1では、テオフィリンの球状微粒子が得られることが記載されてはいるが、当該微粒子がテオフィリンのどのような塩形態を有するか否かについては詳細な記載はなく、さらに、この微粒子を使用した場合に徐放性製剤を製造する上でどのようなメリットがあるか否かについては一切記載されていない。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−109711号公報
【特許文献2】特開平8−231402号公報
【特許文献3】特開2001−106627号公報
【非特許文献1】第55回 コロイドおよび界面化学討論会における講演要旨集「喘息治療薬テオフィリン粒子の単分散化およびサイズ・形態制御」(講演番号1B01)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来品よりも少ないポリマーコーティング量で、さらに有機溶媒を使用せずに徐放化が可能な、高含量のテオフィリン含有徐放性製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、テオフィリンの新規な塩形態であるテオフィリンマグネシウム塩を見出し、さらに、当該テオフィリンマグネシウム塩を水不溶性ポリマーでコーティングすることにより、これまでよりも少ない量のポリマーで徐放化が可能であることを見出し本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち本発明の要旨は以下のとおりである。
1.テオフィリンマグネシウム塩。
2.図1の(a)に示す粉末X線回折パターンにおける特徴的ピークを有する前記1記載のテオフィリンマグネシウム塩。
3.図2の(a)に示す固体13C−NMRスペクトルにおけるケミカルシフトの特徴的ピークを有する前記1または2に記載のテオフィリンマグネシウム塩。
4.下記組成式(I)で示される前記1から3のいずれかに記載のテオフィリンマグネシウム塩。
Mg(C・4HO・・・(I)
5.球形結晶である前記1から4のいずれかに記載のテオフィリンマグネシウム塩。
6.無水テオフィリンを溶解し、マグネシウム塩の溶液を用いて再結晶することを特徴とする、前記1から5のいずれかに記載のテオフィリンマグネシウム塩の製造方法。
7.前記1から5のいずれかに記載のテオフィリンマグネシウム塩を含んでなる徐放性製剤。
8.水不溶性ポリマーを含む前記7記載の徐放性製剤。
9.徐放性製剤中における、テオフィリンマグネシウムと水不溶性ポリマーとの割合が、テオフィリンマグネシウム塩100重量部に対して水不溶性ポリマー10重量部を超える量から50重量部である前記8記載の徐放性製剤。
10.水不溶性ポリマーが、水分散タイプの水不溶性ポリマーである前記8または9のいずれかに記載の徐放性製剤。
11.水不溶性ポリマーが、1種以上のセルロース誘導体、(メタ)アクリル系重合体、ポリビニルアセテート及びポリビニルアセテートフタレートから選ばれる前記8から10のいずれかに記載の徐放性製剤。
12.水不溶性ポリマーが、1種以上のエチルセルロール、(メタ)アクリル系重合体及びポリビニルアセテートから選ばれる前記8から11のいずれかに記載の徐放性製剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明で得られるテオフィリンマグネシウム塩を用いることで、従来の方法よりも少ないポリマーコーティング量で、さらに有機溶媒を使用せずに徐放化が可能であり、高含量のテオフィリン含有徐放性製剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のテオフィリンマグネシウム塩は、例えば後述の実施例に記載のような方法、すなわち、日本薬局方に記載の無水テオフィリンの粉末を水酸化カリウムや水酸化ナトリウムの水溶液に溶解したものと、塩化マグネシウムや硫酸化マグネシウムの水溶液とを混合して析出した微粒子を吸引濾過後、室温で減圧乾燥して得られる。
【0013】
上記のようにして得られたテオフィリンマグネシウム塩は、図1の(a)に示す粉末X線回折(XRD)パターンにおける特徴的ピークを有し、図2の(a)に示す固体13C−NMR(SS−NMR)スペクトルにおけるケミカルシフトの特徴的ピークを有し、上記組成式(I)で示される、球形の結晶である。
【0014】
なお、従来知られた日本薬局方に記載の無水テオフィリンのXRDパターンにおける特徴的ピーク及びSS−NMRスペクトルにおけるケミカルシフトの特徴的ピークは、それぞれ図1の(b)及び図2の(b)で示され、本発明のテオフィリンマグネシウム塩とは異なる物質であることが明らかである。
【0015】
本発明においては、上記で得られたテオフィリンマグネシウム塩を水不溶性ポリマーでコーティングすることにより、これまでよりも少ない量のポリマーで徐放性製剤を得ることができる。すなわち、徐放性製剤中における、テオフィリンマグネシウムと水不溶性ポリマーとの割合は、テオフィリンマグネシウム塩100重量部に対して水不溶性ポリマー10重量部を超える量から50重量部であり、好ましくは、15〜50重量部、さらに好ましくは20〜40重量部である。
【0016】
本発明で用いる水不溶性ポリマーとしては、水分散タイプの水不溶性ポリマーが挙げられ、セルロース誘導体[例えば、エチルセルロース、セルロースアセテートフタレート]等]、(メタ)アクリル系重合体[例えば、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸コポリマー、メタクリル酸・アクリル酸メチル・メタクリル酸メチル等]、ポリビニルアセテート、ポリビニルアセテートフタレートが挙げられる。また、pHによって溶解性が変化しないという点から、エチルセルロース、(メタ)アクリル系重合体及びポリビニルアセテートが望ましい。
【0017】
エチルセルロースとしては、例えば、FMC社製、商品名AquacoatECD、Colorcon社製、商品名Sureleaseが例示され、(メタ)アクリル系重合体としては、degussa社製、商品名EudragitRS30D、商品名EudragitRL30D、商品名EudragitNE30Dが例示され、ポリビニルアセテートとしては、BASF社製、商品名KollicoatSR30Dが例示される。また本発明においては、これらの2種以上を混合して用いることも可能である。
【0018】
本発明の徐放性製剤は、上記で得られたテオフィリンマグネシウム塩の微粒子に、上記で挙げたような水不溶性ポリマーをコーティングすることにより得ることができ、得られるテオフィリン含有徐放性微粒子の平均粒子径は約20〜約300μmであり、約50〜約150μmにすることが望ましい。
上記で得られたテオフィリン含有徐放性微粒子を用いた製剤形態は特に限定されないが、例えば、ドライシロップ剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、坐剤等の形態である。
【0019】
これらの製剤は他の成分、例えば、賦形剤[例えば、結晶セルロース、コーンスターチなどのデンプン類、乳糖、粉糖、グラニュー糖、ブドウ糖、マンニトール、軽質無水ケイ酸、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ヒドロタルサイト等]、結合剤[例えば、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム末、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロース・カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、α化デンプン等]、崩壊剤[例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、架橋化ポリビニルピロリドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン類等]、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム等)、流動化剤(例えば、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸等)、界面活性剤(例えば、アルキル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンヒマシ油誘導体等の非イオン系界面活性剤等)、脂質(例えば、炭化水素、ワックス類、高級脂肪酸とその塩、高級アルコール、脂肪酸エステル、硬化油等)、着色剤(例えば、タール色素、カラメル、ベンガラ、酸化チタン等)、矯味剤[例えば、甘味剤(ショ糖、乳糖、マンニトール、キシリトール、サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビオシド等)、香料等]、湿潤剤[例えば、ポリエチレングリコール(マクロゴール)、グリセリン、プロピレングリコール等]、充填剤、増量剤、吸着剤、防腐剤などの保存剤、緩衝剤、耐電防止剤、崩壊延長剤等を含む最終製剤とすることができる。これらの成分は、特に最終製剤中の含量に制限はない。
【0020】
本発明のテオフィリン含有徐放性製剤は、ドライシロップ剤の形態で使用するのが好ましい。ドライシロップ剤は、少なくとも上記で得られたテオフィリン含有徐放性微粒子で構成すればよく、当該微粒子を造粒した顆粒状製剤であってもよい。造粒は、慣用の方法、例えば、本発明微粒子と賦形剤及び/又は結合剤等を用いて行うことができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明を何ら限定するものではない。
なお、実施例中溶出率は以下の条件で測定した。
試験方法:日本薬局方 第2法(パドル法)
試験液 :0.02%ポリソルベート80を添加した日本薬局方崩壊試験法第2液
試験条件:37℃、100rpm
試料 :テオフィリンとして100mg相当量
【0022】
実施例1
a)液:500mLのメスフラスコに水酸化カリウム22.4g、粉末状テオフィリン72.1gを入れ、精製水で溶解させて500mLとする。
b)液:500mLのメスフラスコに塩化マグネシウム・六水和物101.7gを入れ、精製水で溶解させて500mLとする。
a)液とb)液を混合して析出したテオフィリン球形微粒子を吸引ろ過した後、室温で減圧乾燥する。乾燥した微粒子を200−235メッシュの篩を用いて篩過し、平均粒子径約66μmの素微粒子を得る。
【0023】
得られた素微粒子と日本薬局方に記載の無水テオフィリンのXRDパターンを以下の測定条件で測定した。結果を図1に示す。図1中、本願発明の素微粒子の結果を(a)、無水テオフィリンの結果を(b)として示した。
(測定条件)
装置:XRD−6000(島津製作所)
X線:CuKα/40kV/40mA
走査範囲:2−40°(2θ)
【0024】
また、得られた素微粒子と日本薬局方に記載の無水テオフィリンのSS−NMRスペクトルを以下の測定条件で測定した。結果を図2に示す。図2中、(a)は本願発明の素微粒子の結果を、(b)は無水テオフィリンの結果を示す。
(測定条件)
装置:AVANCE400(BRUKER)
プローブ:7mmφ CP/MAS
測定法:TOSS法
MAS:6kHz
上記の結果より、本発明で得られた素微粒子は無水テオフィリンとは異なる物質であることが明らかである。
【0025】
実施例2
実施例1で得られた素微粒子60gをドラフトチューブ付き噴流層コーティング装置(Grow Max 140:ダルトン社製)に仕込み、クエン酸トリエチル2.4重量%、ステアリン酸カルシウム1.6重量%を含むAquacoatECDの16.0重量%水分散液を、固形分として対素微粒子15、20、25および30重量%まで噴霧した。コーティング後、対コーティング粒子1重量%の微粉砕タルクを粉添し、70℃で3時間キュアリングを行う。その後235−100メッシュの篩を用いて篩過し、平均粒子径がそれぞれ約72、72、74および76μmの徐放性微粒子を得る。得られた徐放性微粒子の溶出率を図3に示す。図3より、テオフィリンの放出制御が可能なことが明らかである。
【0026】
実施例3
実施例1で得られた素微粒子60gをドラフトチューブ付き噴流層コーティング装置(Grow Max 140:ダルトン社製)に仕込み、トリアセチン0.3重量%、タルク1.5重量%を含むKollicoatSR30Dの9.0重量%水分散液を、固形分として対素微粒子15、20、25および30重量%まで噴霧した。コーティング後、対コーティング粒子1重量%の微粉砕タルクを粉添し、50℃で20時間キュアリングを行う。その後235−100メッシュの篩を用いて篩過し、平均粒子径がそれぞれ約79、83、90および83μmの徐放性微粒子を得る。得られた徐放性微粒子の溶出率を図4に示す。図4より、テオフィリンの放出制御が可能なことが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】無水テオフィリンと本発明で得られたテオフィリンマグネシウム塩とのXRDパターンを示す図である。
【図2】無水テオフィリンと本発明で得られたテオフィリンマグネシウム塩とのSS−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例2で得られたテオフィリン含有徐放性微粒子の溶出率を示す図である。
【図4】実施例3で得られたテオフィリン含有徐放性微粒子の溶出率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テオフィリンマグネシウム塩。
【請求項2】
図1の(a)に示す粉末X線回折パターンにおける特徴的ピークを有する請求項1記載のテオフィリンマグネシウム塩。
【請求項3】
図2の(a)に示す固体13C−NMRスペクトルにおけるケミカルシフトの特徴的ピークを有する請求項1または2に記載のテオフィリンマグネシウム塩。
【請求項4】
下記組成式(I)で示される前記1から3のいずれかに記載のテオフィリンマグネシウム塩。
Mg(C・4HO・・・(I)
【請求項5】
球形結晶である請求項1から4のいずれかに記載のテオフィリンマグネシウム塩。
【請求項6】
無水テオフィリンを溶解し、マグネシウム塩の溶液を用いて再結晶することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のテオフィリンマグネシウム塩の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載のテオフィリンマグネシウム塩を含んでなる徐放性製剤。
【請求項8】
水不溶性ポリマーを含む請求項7記載の徐放性製剤。
【請求項9】
徐放性製剤中における、テオフィリンマグネシウムと水不溶性ポリマーとの割合が、テオフィリンマグネシウム塩100重量部に対して水不溶性ポリマー10重量部を超える量から50重量部である請求項8記載の徐放性製剤。
【請求項10】
水不溶性ポリマーが、水分散タイプの水不溶性ポリマーである請求項8または9のいずれかに記載の徐放性製剤。
【請求項11】
水不溶性ポリマーが、1種以上のセルロース誘導体、(メタ)アクリル系重合体、ポリビニルアセテート及びポリビニルアセテートフタレートから選ばれる請求項8から10のいずれかに記載の徐放性製剤。
【請求項12】
水不溶性ポリマーが、1種以上のエチルセルロール、(メタ)アクリル系重合体及びポリビニルアセテートから選ばれる請求項8から11のいずれかに記載の徐放性製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−117577(P2006−117577A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306290(P2004−306290)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】