説明

テラヘルツ光検査装置

【課題】 被検査物群において検査対象物質を有する被検査物を特定する時間を短縮すること。
【解決手段】 テラヘルツ光検査装置100では、被検査物群Sにテラヘルツパルス光T1を照射し、被検査物群Sを透過したテラヘルツパルス光T2の電場強度の時間的変化を検出し、この検出データをフーリエ変換することによりスペクトルデータを測定する。スペクトル比較部22では、そのスペクトルデータをスペクトル記憶部23に記憶されている参照スペクトルデータと比較し、被検査物群S中に検査対象物質を有する被検査物があるか否かを判定し、検査対象物質を有する被検査物がある場合はその被検査物を特定し、分別部31へ仕分けのための制御信号を送出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ光を用いた検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ光は、概ね0.01×1012〜100×1012ヘルツ(0.01〜100THz)の周波数領域の光であり、その物質透過性を利用して、例えば封筒内の薬物の有無を開封せずに判定する検査装置に用いられている。この装置は、異なる2波長のテラヘルツ波を1つの被対象物(例えば、1通の郵便物)に照射して、被対象物の透過率を測定し、テラヘルツ波の吸収に波長依存性がある物質の有無を検出したり、イメージ化するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−108905号公報(第2頁、図3,5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常は、検査を受ける被対象物の大半は正常あるいは規格内であり、異常あるいは規格外が検出される割合は非常に小さい。特許文献1の装置は、1通の郵便物内の物質の有無を検出、判定するものであり、1通づつテラヘルツ光を照射して検査するために多大の検査時間を要するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明の請求項1による発明のテラヘルツ光検査装置は、複数の被検査物を重ね合わせて成る被検査物群を保持する保持手段と、被検査物群にテラヘルツ光を照射するテラヘルツ光照射手段と、被検査物群からのテラヘルツ光を検出するテラヘルツ光検出手段と、テラヘルツ光検出手段で検出した信号を処理してスペクトルデータを得る信号処理手段と、検査対象の物質のスペクトルデータを予め記憶する記憶手段と、信号処理して得られたスペクトルデータを記憶手段に記憶されているスペクトルデータと比較して比較結果を導き出すスペクトル比較手段と、保持手段から検査後の被検査物群を移送され、スペクトル比較手段の比較結果に基づいて被検査物群を前記検査対象の物質の有無により分別する分別手段とを備えることを特徴とする。
(2)請求項2による発明は、請求項1のテラヘルツ光検査装置において、テラヘルツ光検出手段は、被検査物群を透過した透過テラヘルツ光を検出し、記憶手段が予め記憶するデータは、検査対象の物質を透過した透過テラヘルツ光のスペクトルデータであることを特徴とする。
(3)請求項3による発明は、請求項1または2のテラヘルツ光検査装置において、被検査物群中に検査対象の物質を有する被検査物を特定するまで再検査を行うために、被検査物群を細分化する分割手段をさらに備えることを特徴とする。
(4)請求項4による発明のテラヘルツ光検査装置は、複数の被検査物を重ね合わせて成る被検査物群を保持する保持手段と、被検査物群にテラヘルツ光を垂直照射するテラヘルツ光照射手段と、被検査物群で垂直反射した反射テラヘルツ光を検出するテラヘルツ光検出手段と、テラヘルツ光検出手段で検出した信号を処理してスペクトルデータと反射波形データを得る信号処理手段と、検査対象の物質のスペクトルデータと反射波形データを予め記憶する記憶手段と、信号処理して得られたスペクトルデータ、反射波形データを記憶手段に記憶されているスペクトルデータ、反射波形データとそれぞれ比較して比較結果を導き出す比較手段と、保持手段から検査後の被検査物群を移送され、比較手段の比較結果に基づいて被検査物群中に検査対象の物質を有する被検査物を分別する分別手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数の被検査物を重ね合わせて成る被検査物群にテラヘルツ光を一括照射して検査するので、検査時間の短縮を図ることができる。また、請求項3または4の発明によれば、異常が発見されたときでも、被検査物を1つづつ検査するよりも短い検査時間で検査対象の物質を有する被検査物を特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明によるテラヘルツ光検査装置の実施の形態について、図1〜5を参照しながら説明する。
〈第1の実施の形態〉
図1は、本発明の第1の実施の形態によるテラヘルツ光検査装置の構成を模式的に示す全体構成図である。テラヘルツ光検査装置100は、試料Sにテラヘルツパルス光を照射し、試料Sを透過したテラヘルツパルス光の電場強度の時間的変化を検出し、この検出データをフーリエ変換することによりスペクトルデータを算出し、そのスペクトルデータを参照スペクトルデータと比較して試料Sの異常の有無を分別するものである。参照スペクトルデータとは、検査対象物質に関するデータである。本発明では、試料Sは、複数個の被検査物から成る被検査物群、例えば封書の束であり、テラヘルツ光検査装置100は、算出されたスペクトルデータと参照スペクトルデータとが一致したときに封書の束の中に検査対象物質を内在する特徴ある封書が含まれていると判定する。また、通常、被検査物は、様々な種類の紙や、紙に使用される加工剤等の複数の物質から構成されるため、これらの物質の中にテラヘルツ帯に吸収を有する物質が含まれていれば、算出されたスペクトルデータは複数の物質の混合スペクトルとなる。このような混合スペクトルの場合には、検査対象物質のスペクトルデータの特徴的な吸収ピークまたは特徴的な吸収ピークの組合せが見出されたときに、検査対象物質を内在する特徴ある封書が含まれていると判定する。
【0008】
テラヘルツ光検査装置100は、パルス光L1を放射するレーザ光源1と、パルス光L1をパルス光L2,L3に分割するビームスプリッタ2と、テラヘルツパルス光T1を発生させるテラヘルツ光発生器3と、試料Sを保持するホルダー5と、被検査物群Sを透過した後のテラヘルツパルス光T2を検出するテラヘルツ光検出器7とを備える。また、テラヘルツ光測定装置100は、周知の時系列テラヘルツ光検出法によりテラヘルツ光を検出する目的で、テラヘルツ光検出器7へ導くパルス光L3の到達時間を変更する時間遅延装置10を備えている。時間遅延装置10は、可動ミラー10aと駆動部10bとを有し、可動ミラー10aは、図中、M方向に移動可能に構成されている。
【0009】
さらに、テラヘルツ光測定装置100は、電気信号系統として、信号処理部21、スペクトル比較部22およびスペクトル記憶部23を備え、物流系統として、分別部31、分割部32および待機部33を備える。信号処理部21は、テラヘルツ光検出器7に接続され、テラヘルツ光検出器7で検出された電場強度信号を処理する。この検出信号を処理することにより得られたデータを計測スペクトルデータと呼ぶ。スペクトル比較部22は、スペクトル記憶部23に記憶されている参照スペクトルデータを読み出し、信号処理部21からの計測スペクトルデータと比較し、比較結果に基づく制御信号を分別部31へ送出する。分別部31は、スペクトル比較部22からの制御信号により被検査物群Sを機械的に分別する。分割部32は、分別部31から受け渡された被検査物群Sを複数のグループに分割する。待機部33は、分割部32から受け渡された被検査物群Sをホルダー5へ搬送する時まで一時的に保持する。
【0010】
パルス光L1を放射するレーザ光源1としては、例えば、フェムト秒パルスレーザが用いられる。パルス光L1は、中心波長が近赤外領域のうちの780〜830nm程度、繰り返し周期が数kHzから100MHzのオーダー、パルス幅が10〜150fs程度の直線偏光のパルス光である。
【0011】
ビームスプリッタ2で分割された一方のパルス光L2は、テラヘルツ光発生器3へ入射する。テラヘルツ光発生器3は、光スイッチ素子およびバイアス回路を有する公知の装置であり、テラヘルツ光発生器3から発生するテラヘルツパルス光T1は、0.01×1012〜100×1012ヘルツ(0.01THz〜100THz)の周波数領域に含まれる光である。テラヘルツパルス光T1は、曲面鏡4でほぼ平行光束となり、被検査物群Sの所定面積の領域に入射する。被検査物群Sを透過したテラヘルツパルス光T2は、その透過領域の物性情報を含む光であり、曲面鏡6で反射された後にテラヘルツ光検出器7へ入射する。
【0012】
ビームスプリッタ2で分割された他方のパルス光L3は、ミラー8,9、可動ミラー10a、ミラー11,12,13を順次経由し、テラヘルツ光検出器8へ入射する。テラヘルツ光検出器7は、光スイッチ素子およびI/V変換回路を有する公知の装置であり、被検査物群Sを透過したテラヘルツパルス光T2の電場強度信号を光電流として検出する。テラヘルツパルス光T2の電場強度信号を検出するタイミングは、可動ミラー10aの移動による光路長の変化によって変更する。以上の検査により、被検査物群S全体の時系列波形データが得られる。前述したように、信号処理部21は、時系列波形データをフーリエ変換して計測スペクトルデータを演算する。ここまでの工程は、図2のフローチャートのステップS1に対応する。
【0013】
この後の工程は、図2のフローチャートを参照しながら説明する。ステップS2では、スペクトル比較部22により、被検査物群Sの計測スペクトルデータとスペクトル記憶部23に記憶されている参照スペクトルデータを比較する。計測スペクトルデータに参照スペクトルデータの特徴的な吸収ピークまたは吸収ピークの組合せが存在しない場合は、被検査物群Sには特徴がない、つまり検査対象物質を有する被検査物が存在しないと判定し、ステップS3へ移行し、すべての検査を終了する。そして、この被検査物群Sをホルダー5から分別部31へ移載し、問題のない群として外部へ搬出する。一方、特徴があると判定された場合は、ステップS4へ移行する。
【0014】
ステップS4では、被検査物群Sを分別部31を経由して分割部32へ移載し、被検査物群Sを複数のグループに分割する。今、被検査物群Sを3つのグループG1、G2、G3に分割したとする。3つのグループG1、G2、G3の少なくとも1つに異常な被検査物が含まれているはずである。
【0015】
ステップS5では、グループG1をホルダー5へ載置してステップS1と同様の検査をする。ステップS6では、グループG1の計測スペクトルデータと参照スペクトルデータを比較し、グループG1には特徴があるか否かを判定し、否定判定のときはステップS7へ移行する。
【0016】
ステップS7では、未検査のグループの有無をチェックし、無しの判定であればステップS9へ移行し検査を終了する。一方、未検査のグループが有るとの判定であれば、ステップS5へ戻る。すなわち、グループG1を検査しただけであれば、グループG2とG3が残っているので、次にグループG2をホルダー5へ載置してグループG1と同様の検査をする。さらに、グループG3についても同様である。
【0017】
もし、ステップS6でグループG1に特徴があると判定されたときは、ステップS8へ移行する。ステップS8では、グループG1に2つ以上の被検査物が含まれている場合は、特徴がある被検査物が特定できたと言えないから、ステップS4へ戻る。ステップS4では、グループG2をさらに細分化し、その細分化された各グループについて、特徴がある被検査物を特定するまで、ステップS4からステップS6までの工程を繰り返し行う。特徴がある被検査物を特定できたときは、ステップS9へ移行し、この被検査物をホルダー5から分別部31へ移載し、検査対象物質を有する被検査物を特定できたとして外部へ搬出する。なお、この繰り返し工程では、特徴がないと判定された細分化された各グループについては、ステップS7を経てステップS9へ移行し、検査を順次終了する。
【0018】
このように、グループG2とG3についてもグループG1と同様の検査を行い、同様に特徴の有無を判定する。グループG1、G2、G3、またはグループG1、G2、G3を細分化した各グループについて検査、判定がすべて終了したときに、所定初期個数の被検査物からなる被検査物群Sの検査が終了する。そして、特徴がある被検査物と、特徴がない被検査物群または被検査物単品とを分別部31により仕分けして外部に搬出する。
【0019】
この第1の実施の形態によるテラヘルツ光検査装置100を用いて、所定初期個数の被検査物からなる被検査物群Sにテラヘルツ光を照射して得られるスペクトルデータに基づいて、被検査物群S中に含まれる異常な被検査物を探し出すことができる。被検査物群中に異常な被検査物を認識したときのみ、その被検査物群を所定数のグループに細分化して検査をするという工程を繰り返すことにより、被検査物を1つづつ検査するよりも短い検査時間で検査対象物質を有する被検査物を特定することができる。
【0020】
〈第2の実施の形態〉
図3は、本発明の第2の実施の形態によるテラヘルツ光検査装置の構成を模式的に示す全体構成図である。この第2の実施の形態によるテラヘルツ光検査装置200が第1の実施の形態によるテラヘルツ光検査装置100と大きく異なる点は、テラヘルツ光学系と電気信号系統の2点である。すなわち、テラヘルツ光検査装置200は、透過光学系に代えて反射光学系を備えること、スペクトル比較部22およびスペクトル記憶部23に代えて比較部24および記憶部25を備えることである。
【0021】
図3を参照すると、テラヘルツ光検査装置200のテラヘルツ反射光学系には、曲面鏡4と被検査物群Sとの間に2つのワイヤーグリッド20a,20bが配置されている。また、電気信号系統には、信号処理部21、比較部24および記憶部25を備え、比較部24は、スペクトル比較部22と波形比較部24aとを有し、記憶部25は、スペクトル記憶部23と波形記憶部25aとを有する。さらに、物流系統として、分別部31のみを備える。
【0022】
テラヘルツパルス光T1は、曲面鏡4で反射してワイヤーグリッド20a,20bを順次通過して被検査物群Sの底面側に垂直入射する。ワイヤーグリッド20a,20bは、その透過軸に平行な偏光成分の光のみを透過する一種の偏光板であり、ワイヤーグリッド20aと20bとでは、透過軸が互いに角度45°ずれて配設されている。ワイヤーグリッド20aを透過したテラヘルツパルス光T1は、ワイヤーグリッド20bへ入射し、ワイヤーグリッド20bの透過軸に平行な偏光成分の光が被検査物群Sに到達する。被検査物群Sからの反射光であるテラヘルツパルス光T2は、被検査物群Sの各層、つまり個々の被検査物からの反射光の総計である。テラヘルツパルス光T2は、ワイヤーグリッド20bを透過してワイヤーグリッド20aへ入射し、ワイヤーグリッド20aの透過軸に垂直な偏光成分のみが反射してテラヘルツ光検出器7へ導かれる。この反射光学系では、被検査物群Sの吸収による損失などがなく100%反射とすると、ワイヤーグリッド20aを透過したテラヘルツパルス光T1の1/4の強度の光がテラヘルツ光検出器7へ導かれるように構成されている。なお、垂直入射光学系を構成するには、例えば、ワイヤーグリッド20a,20bの代わりにシリコン板などの半透鏡をワイヤーグリッド20aの位置に配置してもよい。
【0023】
この第2の実施の形態によるテラヘルツ光検査装置200を用いた検査では、測定で得られたスペクトルデータおよび時系列反射波形データ(以下、反射波形データと呼ぶ)をスペクトル記憶部23に記憶されている参照スペクトルデータおよび波形記憶部25aに記憶されている参照反射波形データとそれぞれ比較する。スペクトルデータおよび反射波形データの2つを用いることにより、それぞれ検査対象の物質の同定および被検査物群S中の目的物質を内在する被検査物の特定が可能となる。
【0024】
比較部24のスペクトル比較部22による計測スペクトルデータと参照スペクトルデータの比較については、第1の実施の形態で説明したものと同じなので説明を省略し、計測反射波形データと参照反射波形データの比較について図4を参照して説明する。
図4(a),(b)は、第2の実施の形態によるテラヘルツ光検査装置200を用いて得られた参照反射波形と計測反射波形をそれぞれ示すグラフである。このグラフでは、縦軸が電場強度、横軸が時間であり、図4(b)に示す計測反射波形は、被検査物群S中に検査対象物質を内在する被検査物がある場合の検査対象物質による反射波形である。図4(a)に示す参照反射波形は、ミラーのような反射物を被検査物群Sの底面(テラヘルツパルス光の入射側の表面)と同じ位置に置いた場合のミラー反射面による反射波形であり、予め記憶部25の波形記憶部25aに記憶されている。
【0025】
参照反射波形の主ピークP1が時刻t1で発生し、計測反射波形の主ピークP2が時刻t2で発生したとすると、遅延時間td(=t2−t1)から、検査対象物質を内在する被検査物の位置が特定できる。すなわち、検査対象物質を内在する被検査物の被検査物群Sの底面からの距離dを測定することができる。反射光の測定であるから、遅延時間tdの1/2に光速cを乗ずることにより、距離dが測定できる。検査対象物質を有する被検査物を特定したときは、特徴がある被検査物と、特徴がない被検査物群または被検査物単品とを分別部31により仕分けして外部に搬出する。なお、距離dは、図3に示す可動ミラー10aの位置情報(移動距離)から簡便に求めることもできる。
【0026】
この第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、検査対象の物質の同定および被検査物群Sにおける検査対象物質を内在する被検査物の特定が可能となり、被検査物群S中に含まれる特徴ある被検査物を探し出すことができる。被検査物の集合体である被検査物群Sを一括検査できるので、被検査物を1つづつ検査するよりも短い検査時間で特徴ある被検査物を特定することができる。
なお、この第2の実施の形態のテラヘルツ光検査装置200でも、反射波形データを用いず、スペクトルデータのみを用いて被検査物群Sの検査を行ってもよい。
【0027】
次に、実施の形態の変形例を説明する。
図5は、第1の実施の形態の変形例であるテラヘルツイメージング検査装置の構成を模式的に示す全体構成図である。テラヘルツイメージング検査装置100Aは、被検査物群Sの2次元画像を取得し、予め記憶しておいた2次元画像と比較することにより、被検査物群S中に異常ある被検査物が含まれているか否かを検出する。
【0028】
テラヘルツイメージング検査装置100Aの光学系は、公知のものと同様であるので、簡単に説明する。被検査物群Sの2次元領域を透過したテラヘルツパルス光T2は、ビームスプリッタ16を介してZnTe結晶板17の2次元領域に結像する。この像はテラヘルツパルス光T2の電場強度分布に応じて形成される。この2次元領域に、ビームエキスパンダ14でビーム径を拡張したレーザパルス光L3(プローブ光)を偏光子15を介して照射すると、プローブ光L3には、2次元領域内の各部位の電場強度に応じた偏光状態の変化が生じる。このプローブ光L3による像を検光子18を介してCCDカメラ19で撮像し、画像処理部21Aで画像処理することにより被検査物群Sの2次元画像データ(計測2次元画像データ)が得られる。
【0029】
画像記憶部23Aには、検査対象物質を内在する被検査物またはその被検査物を含む被検査物群についての参照2次元画像データが記憶されており、画像比較部22Aは、参照2次元画像データを読み出し、画像処理部21Aからの計測2次元画像データと比較し、比較結果に基づく制御信号を分別部31へ送出する。分別部31、分割部32および待機部33の作用は、第1の実施の形態のテラヘルツ光検査装置100の場合と同じである。
【0030】
このテラヘルツイメージング検査装置100Aでも、テラヘルツ光検査装置100と同様の作用効果を奏する。さらに、テラヘルツイメージング検査装置100Aでは、被検査物または被検査物群Sのテラヘルツパルス光T2照射領域の各地点についての情報が2次元画像として得られるので、精度の高い検査が可能となる。
なお、第2の実施の形態のテラヘルツ光検査装置200にも、このようなイメージング装置の機能を付与することができる。
【0031】
また、第1および第2の実施の形態の変形例として、テラヘルツ光検査装置100,200に集光光学系を採用してもよい。例えば、第1の実施の形態のテラヘルツ光検査装置100では、被検査物群Sの所定領域を透過したテラヘルツパルス光T2は、その透過領域の物性情報を含む光であり、これを単一のテラヘルツ光検出器7で検出しているため、透過領域の各地点についての個々の情報が埋もれている。これに対し、テラヘルツパルス光T1を集光して被検査物群Sの一点に照射し、透過テラヘルツパルス光T2を検出すれば、被検査物群Sの一点からの情報が得られるので、精度の高い検査が可能となる。被検査物群Sへの照射地点を増やすためには、被検査物群Sの面方向に、集光光学系と被検査物群Sを相対的に走査するか、或いは、テラヘルツ光発生器3とテラヘルツ光検出器7の対を複数設け、複数の照射地点からの透過テラヘルツパルス光T2を同時に検出するように構成すればよい。
【0032】
透過測定の場合は、集光位置を被検査物群Sの厚さ方向へ移動させなくとも測定に支障はないが、検査対象物質の位置がテラヘルツパルス光T1の焦点位置と一致するときにSN比を向上できる場合があるので、厚さ方向へ移動させることで、より正確な検査ができる。一方、反射測定の場合は、特徴ある被検査物の位置によって反射テラヘルツパルス光が検出できないことが多いので、基本的には集光位置を被検査物群Sの厚さ方向へ移動しながら測定する。
【0033】
本発明は、上記の実施の形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、第2の実施の形態では、垂直入射の反射光学系を説明したが、テラヘルツパルス光T1の照射面積や被検査物群Sの厚さによっては斜め入射の反射光学系を用いることもできる。
また、上記の実施の形態では、テラヘルツ光源として光スイッチ素子を使用しているが、光スイッチ素子の代わりに、ZnTeなどのテラヘルツ光源、大口径光スイッチ素子などの面光源、その他各種の光源を用いてもよく、面光源と点検出器(光スイッチ素子など)を組み合わせて使用してもよい。さらに、スペクトルや波形を利用できないが、連続波光源と検出器を用いて特定のスペクトルの有無を検出するようにテラヘルツ光検査装置を構成してもよい。なお、図1,3,5では、パルス光L2とパルス光L3の光路長が異なって描かれているが、実際の装置では同じ光路長となるように構成している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るテラヘルツ光検査装置の構成を模式的に示す全体構成図である。
【図2】第1の実施の形態に係るテラヘルツ光検査装置による検査工程を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るテラヘルツ光検査装置の構成を模式的に示す全体構成図である。
【図4】第2の実施の形態に係るテラヘルツ光検査装置を用いて得られた反射波形を示すグラフであり、(a)は参照反射波形、(b)は計測反射波形である。
【図5】本実施の形態の変形例であるテラヘルツイメージング検査装置の構成を模式的に示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0035】
1:レーザ光源 2:ビームスプリッタ
3:テラヘルツ光発生器 5:ホルダー
7:テラヘルツ光検出器 10:時間遅延装置
21:信号処理部 22:スペクトル比較部
23:スペクトル記憶部 24a:波形比較部
25a:波形記憶部 31:分別部
32:分割部 33:待機部
100,200:テラヘルツ光検査装置 S:試料(被検査物群)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被検査物を重ね合わせて成る被検査物群を保持する保持手段と、
前記被検査物群にテラヘルツ光を照射するテラヘルツ光照射手段と、
前記被検査物群からのテラヘルツ光を検出するテラヘルツ光検出手段と、
前記テラヘルツ光検出手段で検出した信号を処理してスペクトルデータを得る信号処理手段と、
検査対象の物質のスペクトルデータを予め記憶する記憶手段と、
前記信号処理して得られたスペクトルデータを前記記憶手段に記憶されているスペクトルデータと比較して比較結果を導き出すスペクトル比較手段と、
前記保持手段から検査後の前記被検査物群を移送され、前記スペクトル比較手段の比較結果に基づいて前記被検査物群を前記検査対象の物質の有無により分別する分別手段とを備えることを特徴とするテラヘルツ光検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のテラヘルツ光検査装置において、
前記テラヘルツ光検出手段は、前記被検査物群を透過した透過テラヘルツ光を検出し、
前記記憶手段が予め記憶するデータは、前記検査対象の物質を透過した透過テラヘルツ光のスペクトルデータであることを特徴とするテラヘルツ光検査装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のテラヘルツ光検査装置において、
前記被検査物群中に前記検査対象の物質を有する被検査物を特定するまで再検査を行うために、前記被検査物群を細分化する分割手段をさらに備えることを特徴とするテラヘルツ光検査装置。
【請求項4】
複数の被検査物を重ね合わせて成る被検査物群を保持する保持手段と、
前記被検査物群にテラヘルツ光を垂直照射するテラヘルツ光照射手段と、
前記被検査物群で垂直反射した反射テラヘルツ光を検出するテラヘルツ光検出手段と、
前記テラヘルツ光検出手段で検出した信号を処理してスペクトルデータと反射波形データを得る信号処理手段と、
検査対象の物質のスペクトルデータと反射波形データを予め記憶する記憶手段と、
前記信号処理して得られたスペクトルデータ、反射波形データを前記記憶手段に記憶されているスペクトルデータ、反射波形データとそれぞれ比較して比較結果を導き出す比較手段と、
前記保持手段から検査後の前記被検査物群を移送され、前記比較手段の比較結果に基づいて前記被検査物群中に前記検査対象の物質を有する被検査物を分別する分別手段とを備えることを特徴とするテラヘルツ光検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−275867(P2006−275867A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97331(P2005−97331)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(592171153)株式会社栃木ニコン (34)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】