説明

テレフタル酸の製造方法

【課題】ピリジン環含有キレート樹脂塔を用いる触媒回収プロセスを有するテレフタル酸の製造方法において、高価な測定制御装置を用いずに、効率良く、回収触媒液の濃度変動を抑え、該回収触媒液を戻す触媒調合槽における触媒成分の濃度変動を小さくすることにより、液相酸化反応を安定化させ、品質の安定したテレフタル酸を得る方法を提供する。
【解決手段】液相酸化により得られた酸化反応スラリーを連続的多段階晶析にて冷却し、該冷却スラリーを固液分離操作にてテレフタル酸結晶と酸化反応母液とに分離し、得られた酸化反応母液の70〜98%をリサイクル母液として液相酸化の触媒調合槽に循環し、残りの酸化反応母液から触媒成分を回収する際に、回収触媒液槽を設置してキレート樹脂塔からの回収触媒液を1.5〜6時間滞留させた後、液相酸化反応系に循環する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸含有溶媒中、コバルト化合物、マンガン化合物及び臭素化合物からなる触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを用いてp−フェニレン化合物を液相酸化してテレフタル酸を製造する方法において、液相酸化反応系から連続的に排出される酸化反応母液より触媒成分をピリジン環含有キレート樹脂に吸着させて回収し、安定した濃度の触媒液を液相酸化反応系に循環する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸は、p−キシレン等のp−フェニレン化合物の液相酸化反応により製造され、通常、酢酸溶媒の存在下、コバルト、マンガン等の触媒、又はさらに臭素化合物、アセトアルデヒド等の促進剤を加えた触媒が用いられる。
かかる液相酸化反応により得られるテレフタル酸を含有する酸化反応スラリーは、通常、晶析操作により、低圧、低温のスラリーとされ、常圧に近い圧力の状態での固液分離操作によりテレフタル酸結晶のケーキが分離される。
一方、固液分離して得られた酸化反応母液には、触媒由来のコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンなどの有用な触媒成分が含まれており、これらの触媒成分を回収して循環使用することにより、製造コストを下げることが要求される。
【0003】
最も簡便な触媒成分の循環方法は、前記酸化反応母液をそのまま反応系に戻して再使用することであり、商業規模のテレフタル酸製造プロセスなどで行われている。
ところが、該酸化反応母液中には、液相酸化反応で副生する様々な有機不純物や装置の腐食に由来する無機不純物などが混在しており、該酸化反応母液をそのまま反応系に再使用すると、反応系におけるこれらの不純物の濃度が次第に高まり、一定量を超えると液相酸化反応に悪影響を与える。
テレフタル酸を製造する場合、該酸化反応母液を反応系に戻す割合は、通常、70〜98%であり、反応系に再使用しない2〜30%の酸化反応母液は、パージ母液として溶媒である酢酸を回収する工程へ送られる。
かかる酢酸回収工程へ送られる酸化反応母液から触媒成分を回収・再使用する方法として、ピリジン環含有キレート樹脂を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、触媒由来の重金属イオン及び臭化物イオンをピリジン環含有キレート樹脂に連続的に吸着させ、しかる後に含水酢酸を用いて、吸着した重金属イオン及び臭化物イオンを溶離させて回収触媒液が得られる。該プロセスは、吸着−溶離工程を繰り返し、複数のキレート樹脂塔を切り替えながら触媒成分の回収が行われる。
【0005】
この回収触媒液は、いったんキレート樹脂に吸着した触媒成分が溶離してキレート樹脂より溶出するために、吸着工程−溶離工程のサイクルの中で濃度変動を起こす。これはイオン交換樹脂や合成吸着材に吸着した成分が、溶出時に濃度のピークを持った溶出パターンを示すことと同様の現象である。
従って、程度の差はあるものの、常に濃度変動している回収触媒液を液相酸化反応系、より具体的には触媒調合槽に直接戻すと、例え回収触媒液を連続的に一定流量で送液したとしてもその中に含まれる触媒成分の量は変動しているため、触媒調合槽中の触媒濃度が変動することになる。
【0006】
このような液相酸化反応における触媒濃度の変動は、生成するテレフタル酸結晶の品質に直接影響を及ぼすので、種々の対策が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
即ち、特許文献2には、排ガス中のCO、CO2などの濃度を測定して、反応温度、原料供給速度、触媒濃度などを調節することが記載されており、特許文献3には反応器への供給液や循環母液中のマンガン濃度を自動分析計で測定し、その測定値に基づき触媒の供給量を制御し、マンガン濃度の変動係数を1.0%以下に維持することが記載されている。
上記の特許文献2に記載の方法では排ガス中のCO、CO2などの濃度を測定する煩雑な操作が必要であり、その結果を反応温度、原料供給速度、触媒濃度等にフィードバックするため、タイムラグによる品質の振れはまぬかれ得ない。
また、特許文献3に記載の方法ではマンガン濃度の自動測定装置が必要で操作も煩雑であり、触媒成分の変動を効率的に解消することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2008/072561号公報
【特許文献2】特開昭54−160330号公報
【特許文献3】特開平5−229988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ピリジン環含有キレート樹脂を用いる触媒回収プロセスを有するテレフタル酸の製造方法において、高価な測定制御装置を用いずに、効率良く回収触媒液の濃度変動を抑え、該回収触媒液を戻す触媒調合槽における触媒成分の濃度変動を小さくすることにより、液相酸化反応を安定化させ、品質の安定したテレフタル酸を得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ピリジン環含有キレート樹脂塔から溶出した回収触媒液を受け入れる回収触媒液槽を設け、該回収触媒液槽に一定量の回収触媒液を貯め、滞留した回収触媒液を連続的に触媒調合槽に循環する際に、回収触媒液槽での滞留時間を十分に取ることにより、該キレート樹脂塔から溶出した時点での触媒成分の濃度変動を緩和し、触媒調合槽出口における濃度変動を小さく抑えことができ、液相酸化反応系の触媒濃度が安定し、高品質のテレフタル酸を容易に得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち本発明は、以下のテレフタル酸の製造方法を提供する。
1.酢酸含有溶媒中、コバルト化合物、マンガン化合物及び臭素化合物を含む触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを用いてp−フェニレン化合物を液相酸化してテレフタル酸を製造する方法において、液相酸化により得られた酸化反応スラリーを連続的多段階晶析にて冷却し、該冷却スラリーを固液分離操作にてテレフタル酸結晶と酸化反応母液とに分離し、得られた酸化反応母液の70〜98%をリサイクル母液として液相酸化の触媒調合槽に循環し、残りの酸化反応母液をパージ母液として該パージ母液から触媒成分を回収する際に
(I)パージ母液をピリジン環含有キレート樹脂と接触させ、触媒に由来するコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンを吸着する工程(吸着工程)と、
(II)工程(I)により触媒成分を吸着したピリジン環含有キレート樹脂に含水酢酸又は水を接触させて、該触媒に由来するコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンを溶離して回収触媒液(A)を得る工程(溶離工程)を、
回分式により切り替え、
(III)回収触媒液(A)を回収触媒液槽で1.5〜6時間滞留させる工程
を有し、工程(III)からの回収触媒液(B)を、触媒調合槽を経て液相酸化反応系に循環することを特徴とするテレフタル酸の製造方法。
2.工程(III)からの回収触媒液(B)と、リサイクル母液を予めと混合して触媒調合槽に導入する上記1のテレフタル酸の製造方法。
3.工程(III)からの回収触媒液(B)を触媒調合槽に戻した際の、触媒調合槽出口でのコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンの各濃度の変動係数が全て5%以下である上記1又は2のテレフタル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、ピリジン環含有キレート樹脂塔から溶出した回収触媒液を受け入れる回収触媒液槽を設け、該回収触媒液槽に一定量の回収触媒液を貯め、滞留した回収触媒液を連続的に触媒調合槽に戻す際に、回収触媒液槽での滞留時間を十分に取ることにより、該キレート樹脂塔から溶出した時点でのバッチプロセスによる触媒成分の濃度変動を緩和し、触媒調合槽出口における濃度変動を小さく抑え、液相酸化反応に影響を及ぼさないようにすることができ、安定した品質のテレフタル酸を製造することができる。
従って、本発明によれば、高価な分析制御装置を用いずに、簡便な操作で、安定した品質のテレフタル酸を、効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、酢酸含有溶媒中、コバルト化合物、マンガン化合物及び臭素化合物を含む触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを用いてp−フェニレン化合物を液相酸化してテレフタル酸が製造され、液相酸化により得られた酸化反応スラリーを連続的多段階晶析にて冷却し、該冷却スラリーを固液分離操作にてテレフタル酸結晶と酸化反応母液とに分離し、得られた酸化反応母液の70〜98%をリサイクル母液として液相酸化の触媒調合槽に循環し、残りの酸化反応母液をパージ母液として該パージ母液から触媒成分を回収する際に、
(I)パージ母液をピリジン環含有キレート樹脂と接触させ、触媒に由来するコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンを吸着する工程と、
(II)工程(I)により触媒成分を吸着したピリジン環含有キレート樹脂に含水酢酸又は水を接触させて、触媒に由来するコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンを溶離して回収触媒液(A)を得る工程を、
回分式により一定時間毎切り替え、
(III)回収触媒液(A)を回収触媒液槽で1.5〜6時間滞留させる工程
を有し、工程(III)からの回収触媒液(B)を、触媒調合槽を経て液相酸化反応系に循環するものである。
【0013】
まず、本発明は、酢酸含有溶媒中、コバルト化合物、マンガン化合物及び臭素化合物を含む触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを用いてp−フェニレン化合物を液相酸化してテレフタル酸を製造する方法に関するものである。
本発明では、酢酸含有溶媒としては、水分1〜15質量%、好ましくは水分3〜13質量%の含水酢酸が使用される。p−フェニレン化合物としてはp−ジアルキルベンゼンを例示することができ、好ましくはp−キシレンである。
【0014】
p−フェニレン化合物の液相酸化に用いられる触媒は、コバルト化合物、マンガン化合物及び臭素化合物を含むものである。コバルト化合物及びマンガン化合物の他に、必要に応じてその他の重金属化合物、例えばニッケル化合物、セリウム化合物、ジルコニウム化合物などが添加される。これらのコバルト化合物、マンガン化合物及びその他の重金属化合物としては、各々その有機酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩などが例示されるが、特に酢酸塩及び臭化物が好適に用いられる。
【0015】
また臭素化合物としては、反応系で溶解し、臭化物イオンを発生するものであればいかなるものでもよく、臭化水素、臭化ナトリウム、臭化コバルトなどの無機臭素化合物、及びブロモ酢酸、テトラブロムエタンなどの有機臭素化合物が例示され、特に臭化水素(臭化水素酸を含む)、臭化コバルトまたは臭化マンガンが好適に用いられる。
【0016】
触媒調合槽は、溶媒である低級脂肪族カルボン酸、液相酸化原料であるp−フェニレン化合物、触媒である重金属化合物及び臭素化合物を混合する槽であり、触媒調合槽内における内液の均一化を図るために、内液を混合する攪拌機を備えていることが好ましい。ここで均一に調合された混合液(フィードミックスと呼ぶ)は連続的に液相酸化反応器に送液され、酸化剤として用いられる分子状酸素含有ガスと接触することにより液相酸化反応が行われる。
この触媒調合槽に供給される溶媒及び触媒として、リサイクル母液を使用することが好適に行われる。そしてマテリアルバランス上不足する溶媒や触媒は新規供給分として補給される。
【0017】
液相酸化反応の温度は160〜230℃、好ましくは180〜210℃の範囲である。反応温度を160℃以上とすることにより、反応中間体が多量に生成スラリー中に残存することがなく、230℃以下とすることにより含水酢酸溶媒の燃焼損失が大きくなることがない。液相酸化反応の圧力は、反応温度において反応系が液相を保持できる圧力であれば良く、通常0.8〜3.2MPaG、好ましくは1.0〜1.9MPaGである。
分子状酸素含有ガスとしては、空気、不活性ガス希釈された酸素、酸素富化空気等が用いられるが、設備面及びコスト面から通常は空気の使用が好ましい。
【0018】
酸化反応器で生成した粗テレフタル酸結晶を含む酸化反応スラリーは、先ず、連続的多段階晶析にて冷却されるが、好ましくは直列に連結された次の酸化反応器へ送られて、更に酸素含有ガスによって仕上げの後酸化反応を経た後、連続的多段階晶析、即ち直列に連結された2段以上の晶析槽を経由して落圧、冷却されて、固液分離工程へ送られる。晶析槽の段数は2〜3段とすることが好ましい。
【0019】
液相酸化反応の例として、例えば、商業規模の装置を使い、含水酢酸中でp−キシレンを酢酸コバルト、酢酸マンガン、臭化水素酸の存在下、空気により、液相酸化して粗テレフタル酸スラリーを得、直列に連結された晶析槽へ導いて順次落圧、冷却するプロセスを挙げることができる。
【0020】
液相酸化反応の後、酸化反応スラリーを冷却して粗テレフタル酸結晶を分離する。この固液分離工程では、酸化反応で生成した粗テレフタル酸スラリーが固液分離機によって粗テレフタル酸結晶と酸化反応母液に分離される。この固液分離は通常大気圧下で行われる。固液分離温度に特段の制約はないが、通常は大気圧下における溶媒の沸点より低い温度、例えば50〜110℃の範囲で行われる。固液分離機の形式としては遠心分離機、遠心濾過機、真空濾過機などを挙げることができる。
【0021】
酸化反応母液には触媒由来のコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンなどの有用な触媒成分が含まれており、その70〜98%はリサイクル母液として液相酸化反応系へ循環使用されるが、残りの酸化反応母液(パージ母液)は、液相酸化反応に影響を与える反応副生物や装置由来の腐食金属の濃縮を避けるために系外に排出される。該パージ母液には溶媒である酢酸が含まれているので、通常は酢酸を回収する工程に送られる。
しかし、この該パージ母液中には有用な触媒成分も含まれており、本発明では工程(I)で、ピリジン環含有キレート樹脂と接触させ、触媒に由来するコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンを吸着し、触媒成分の回収を行う。
なお、リサイクル母液の割合は、70〜98%、好ましくは80〜95%とし、残りのパージ母液の全てをピリジン環含有キレート樹脂塔で処理することが好ましい。
【0022】
ここで、本発明で使用するピリジン環含有キレート樹脂とは、4−ビニルピリジンとジビニルベンゼンを主たる原料として重合して得られる、ピリジン環を有する陰イオン交換型のキレート樹脂のことである。また、キレート樹脂は、一般的に、金属イオンに配位して錯体を形成する配位子を持ち、水に不溶性の高分子基体であり、特定の金属イオンを選択的に吸着分離する機能を有するものであり、特にピリジン環を含有することで、重金属イオンを効率良く吸着するという利点を有する。このようなピリジン環含有キレート樹脂は市販されているものを使用してもよく、市販品としては、例えば「REILLEX(登録商標)425Polymer」(商品名、Vertellus社製)、「スミキレート(登録商標)CR−2」(商品名、住友ケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
このキレート樹脂を用いる方法は、主に吸着工程と溶離工程からなる。吸着工程はパージ母液をピリジン環含有キレート樹脂に接触させて触媒由来のコバルトイオン、マンガンイオンなどの重金属イオン及び臭化物イオンを吸着させる工程であり、溶離工程は該キレート樹脂に吸着した触媒成分を含水酢酸又は水を用いて溶離させる工程である。この吸着工程と溶離工程を繰り返すことにより、パージ母液中の触媒成分を回収することができる。
吸着工程と溶離工程における液と樹脂の接触は、液とキレート樹脂を同時に容器中に入れて吸着操作や溶離操作を行うバッチ方式、もしくは該キレート樹脂を塔に充填して液を供給する連続流通方式で行なわれる。ただし、系外にパージされるパージ母液は液相酸化反応工程から連続的に排出されるので、パージ母液と該キレート樹脂との接触は連続流通方式であることが好ましい。
【0024】
連続流通方式は、複数のキレート樹脂塔を用い、吸着工程と溶離工程を切り替えながら触媒成分を回収する方法であり、例えば2塔(仮にA塔とB塔と呼ぶ)の場合は、A塔が吸着工程の時はB塔が溶離工程であり、A塔に触媒成分が十分に吸着されたら(吸着容量を超えて破過する前)塔を切り替えてA塔が溶離工程、B塔が吸着工程となる。
このピリジン環含有キレート樹脂は吸着成分の溶離が比較的簡単であり、吸着と溶離に要する時間の関係は(1)式のようになる。
吸着工程時間≧溶離工程時間 (1)
よってパージ母液の吸着処理はA塔、B塔を切り替えながら連続的に行うことができる。
吸着時のパージ母液の供給速度は、空間速度(SV)で1.0〜10.0[1/hr]が好ましい。吸着工程時間は、ピリジン環含有キレート樹脂が破過する前であれば良く、1.0〜6.0[hr]が好ましい。また、溶離時の溶離液の供給速度は、空間速度(SV)で1.0〜10.0[1/hr]が好ましく、溶離工程時間は(1)式を満たしつつ、0.5〜6.0[hr]が好ましい。
【0025】
ピリジン環含有キレート樹脂とパージ母液を接触させてパージ母液中に含まれる触媒成分(コバルトイオン、マンガンイオン、臭化物イオンなど)を該キレート樹脂に吸着させる際に、パージ母液のブロム比(パージ母液中の臭化物イオンの物質量/パージ母液中のコバルトイオンとマンガンイオンの合計物質量)を調整することが好ましい。これはブロム比が高い方が、コバルトイオンとマンガンイオンの吸着率が高く、且つ反応副生物であるカルボン酸類(フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸など)の吸着率が低下する傾向にあるためである。このブロム比としては、0.7〜3.5が好ましく、0.9〜3.0がさらに好ましい。特に吸着工程でパージ母液のブロム比を高くしておくことで、反応副生物であるカルボン酸類とコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンからなる触媒成分との分離を効率良く行なうことができる。ブロム比の調整方法としては、パージ母液に、例えば臭化水素酸等の、前記臭素化合物の水溶液をブロム源として添加する方法を挙げることができる。
【0026】
キレート樹脂を用いる触媒回収方法の溶離工程では、溶離液を供給しているキレート樹脂塔からの流出液を回収することになるが、流出液中に常に樹脂から溶出する触媒成分があるわけではなく、触媒成分が含まれる部分のみを回収触媒液として回収触媒液槽に送るようにする必要がある。これは水分濃度の高い溶離液由来の水分をできるだけ回収せず、水分を酸化反応系に持ち込まないためである。また、樹脂からの触媒成分の溶出はピークを持ったパターンを持ち、溶出中の触媒成分濃度は刻々と変動しており、有効な触媒成分を回収することが重要である。
【0027】
本発明において、工程(I)が吸着工程に相当し、酸化反応母液の残りをピリジン環含有キレート樹脂と接触させ、触媒に由来するコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンを吸着する。また、工程(II)が前記の溶離工程に相当し、溶離液として含水酢酸又は水を使用する。
また、このようなキレート樹脂塔を用いる触媒回収方法では、吸着工程の後、副生カルボン酸を回収する回収工程を設けることが好ましい。
即ち、前記吸着工程を経た後のピリジン環含有キレート樹脂に水分濃度1〜15質量%、好ましくは水分濃度1〜14質量%、より好ましくは水分濃度1〜9質量%の含水酢酸を接触させて副生カルボン酸混合物を選択的に溶離する回収工程を経た後、含水酢酸又は水を接触させて触媒由来の重金属イオン及び臭化物イオンを回収する溶離工程を経るようにすることが好ましい。工程(II)の溶離工程の前に回収工程を有することにより、ピリジン環含有キレート樹脂に他の有機不純物や金属不純物が殆ど吸着していないため、溶離液として水分濃度20質量%以上の含水酢酸、好ましくは水分濃度20〜70質量%、より好ましくは水分濃度25〜50質量%の含水酢酸をピリジン環含有キレート樹脂に接触させることによって、そのまま液相酸化反応に再使用可能なコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンなどを含有する含水酢酸、即ち「回収触媒液」が得られる。
【0028】
また、上記溶離工程を経たピリジン環含有キレート樹脂に、触媒成分の吸着効率の観点から、置換工程を設け、水分濃度1〜15質量%、好ましくは水分濃度1〜14質量%、より好ましくは水分濃度1〜9質量%の含水酢酸を置換液として接触させ、ピリジン環含有キレート樹脂を再生することが好ましい。こうして再生されるピリジン環含有キレート樹脂は吸着工程に再使用できる。
このような置換工程により、キレート樹脂の周りに存在する含水酢酸の水分濃度を置換液の水分濃度まで下げて、次の吸着工程にて重金属イオン及び臭化物イオンが速やかに吸着される状態になる。一方、該置換工程を設けない場合、溶離工程の直後は該キレート樹脂層の周りが高い水分濃度の含水酢酸で覆われているため、吸着工程における母液との接触初期において、触媒成分の吸着効率が悪くなり、触媒成分の回収率が低下し、経済的に不利となる。
さらにピリジン環含有キレート樹脂にコバルトイオン、マンガンイオン、臭化物イオンを吸着し易くするため、置換液としては水分濃度が1〜15質量%であり且つ臭化物イオンを1〜1000質量ppm含む含水酢酸を用いることがより好ましい。
なお、吸着工程で得られる母液残液、回収工程で得られる回収液及び上記の置換工程で使用した置換液から水を留去する際に蒸留塔のボトムから得られる回収酢酸(水分濃度4〜12質量%、臭化物イオン濃度1〜50質量ppm)を、置換液として用いることもできる。
【0029】
本発明は工程(III)で、触媒成分の濃度変動を小さくするため、該樹脂塔から流出する回収触媒液(A)を回収触媒液槽に一旦貯め、一定の滞留時間を保った後に触媒調合槽を経て液相酸化反応系に戻すものである。
回収触媒液槽の有効容積をV[m3]、回収触媒液(A)の流量をQ[m3/hr]とすると、回収触媒液槽における滞留時間T[hr]は(2)式のように定義される。
滞留時間:T=V/Q (2)
本発明での回収触媒液槽における回収触媒液の滞留時間は1.5〜6時間であり、好ましくは1.5〜4時間である。滞留時間を1.5時間以上とすることにより触媒成分の濃度変動を緩和し、触媒調合槽出口における濃度変動を小さく抑えことができる。
【0030】
溶離工程における該キレート樹脂塔からの流出液は、触媒成分が溶出している時は回収触媒液槽に送液されるが、前記の回収工程や置換工程などで触媒成分が溶出していない時の流出液は別に設置したパージ液槽に送液され、必要に応じて溶媒や副生カルボン酸の回収が行われる。また、触媒成分が溶出している時もその濃度は変動しているので本発明により回収触媒液槽を設置して一定の滞留時間とすることにより濃度変動を緩和する。
回収触媒液槽から液相酸化の触媒調合槽に送液される回収触媒液(B)は、液相酸化における触媒成分を安定化させるために特定量で連続的に液相酸化系に供給することが必要である。滞留時間を長くするには回収触媒液槽の有効容積を大きくする必要があり、これは設備投資額の増大につながるために限界がある。回収触媒液(B)の濃度変動を小さくするためには、ある程度の滞留時間を取ることが必要であり、これらのことを勘案すると、回収触媒液槽の滞留時間は1.5〜6時間の範囲が好ましい。
【0031】
溶離工程において該キレート樹脂塔より流出する回収触媒液(A)は、回収触媒液槽に送液され、所定の滞留時間を経てから濃度変動を抑えた回収触媒液(B)として液相酸化の触媒調合槽にリサイクルされる。滞留時間の調節は回収触媒液槽の液面の上げ下げにて行う。回収触媒液槽内における触媒組成の均一化を図るために、内液を混合する攪拌機を備えていることが好ましい。
回収触媒液(B)は通常は触媒調合槽に直接リサイクルされるが、リサイクル母液と予め混合して触媒調合槽にリサイクルすることも可能である。リサイクル母液と予め混合するとは、リサイクル母液が循環している配管に回収触媒液(B)を添加することであり、そのまま添加しても良いし、スタティックミキサー等の混合器を用いることも行われる。回収触媒液(B)をリサイクル母液と混合することにより触媒成分の濃度変動の振れ幅が小さくなり、触媒調合槽に戻した時の戻し口近傍での濃度変動を抑えることができる。
【0032】
回収触媒液の濃度変動に起因する液相酸化反応の状態変動を抑えるためには、濃度変動幅を管理することが必要となる。管理点としては回収触媒液槽や触媒調合槽が好適である。液相酸化反応に直接影響が出やすいという点では触媒調合槽が重要である。ここで実際に管理する触媒成分は重金属イオン及び/または臭化物イオンであり、具体的にはコバルトイオン濃度、マンガンイオン濃度、臭化物イオン濃度を対象として、それらの濃度変動の変動係数で管理することになる。
ここで、変動係数は(3)式のように定義される。
変動係数=(標準偏差/平均値)×100[%] (3)
コバルトイオン濃度、マンガンイオン濃度、臭化物イオン濃度の測定は、回収触媒液槽又は触媒調合槽において通常3回/日以上行い、測定数が15点以上で変動係数を管理することが好ましい。
触媒調合槽出口におけるコバルトイオン、マンガンイオン、臭化物イオンの各濃度の変動係数は全て5.0%以下であることが好ましく、より好ましくは3.0%以下である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例等により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、ピリジン環含有キレート樹脂の前処理、重金属イオン(コバルトイオン、マンガンイオン)の測定、および臭化物イオンの濃度の測定を次にように行った。
【0034】
<ピリジン環含有キレート樹脂の前処理>
ピリジン環含有キレート樹脂〔「REILLEX(登録商標)425Polymer」:商品名、Vertellus社製〕にHBr含有量が1.2質量%である臭化水素酸水溶液を通液させて該キレート樹脂を水溶媒(Br-形)とし、次いで含水率が7.0質量%である酢酸溶媒を通液させて該キレート樹脂を酢酸溶媒(Br-形)とした。
【0035】
<重金属イオンの濃度の測定>
以下の仕様の原子吸光分析装置を用いて、重金属イオンの濃度を測定した。
機種:偏光ゼーマン原子吸光光度計Z−2300(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
波長:コバルトイオン240.7nm、マンガンイオン279.6nm
フレーム:アセチレン−空気
測定方法:100mlガラス製容器にサンプルを電子天秤にて重量を計り適量入れ、精密分析用20質量%塩酸(定沸点、無鉄塩酸)約2ml及び純水を加えて測定対象の重金属イオンが約1ppmの濃度になるように電子天秤にて希釈サンプル重量を計って希釈する。0ppm、1ppm、2ppmの標準サンプルにより検量線を作成し、希釈サンプルの濃度を測定する。希釈サンプルの濃度に希釈倍率を掛けて重金属イオンの濃度を求める。
【0036】
<臭化物イオンの濃度の測定>
臭化物イオンの濃度は、以下の条件で測定した。
滴定装置:電位差自動滴定装置 AT−510(京都電子工業株式会社製)
滴定液:1/250規定硝酸銀水溶液
検出電極:複合ガラス電極:C−172、
銀電極:M−214
温度補償電極:T−111
測定方法:200mlビーカーにテフロン(登録商標)製攪拌子を入れ、サンプルを適量入れる(天秤にてサンプル重量を計る)。純水を加えてビーカー内の液量を約150mlとし、更に60質量%の硝酸を約2ml加える。上記自動滴定装置にて沈殿滴定を行い、臭化物イオン濃度を求める。
【0037】
<実施例1>
水分濃度9質量%の含水酢酸中で、p−キシレンをコバルトイオン500ppm、マンガンイオン300ppm及び臭化物イオン700ppmの存在下、空気により連続2段で液相酸化(反応温度200℃、反応圧力1.5MPaG)させることにより、粗テレフタル酸スラリー(テレフタル酸濃度34質量%、分散媒である含水酢酸の水分濃度11質量%)を得、直列に連結された2段の晶析槽へ導いて順次落圧して大気圧下の粗テレフタル酸スラリーとした。このスラリーを固液分離し、粗テレフタル酸ケーキと酸化反応母液を得た。また、触媒回収プロセスおよび回収触媒液(B)を用いる次回の液相酸化を行うのに十分な量の酸化反応母液を準備した。該酸化反応母液の触媒組成を表−1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
該酸化反応母液の90%を反応系へリサイクルし、リサイクルしない10%分のパージ母液を、セラミックフィルターを用いるクロスフロー濾過して、テレフタル酸を主成分とする微細結晶を除去して濾過液を得た。触媒回収工程における触媒成分の回収率を向上させるため、該濾過液に臭化水素酸水溶液を添加した。この臭素添加パージ母液の触媒成分の組成を表−2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
前記の前処理を行ったピリジン環含有キレート樹脂50[L]をガラス製二重管に充填したピリジン環含有キレート樹脂塔のジャケットに、80℃の熱水を循環させて、ピリジン環含有キレート樹脂を80℃に保温した。
上記の臭素添加パージ母液をピリジン環含有キレート樹脂塔の上部から下方へ流速125[L/hr]で120分間通液した[吸着工程]。
その後、水分濃度7.0質量%の含水酢酸を塔の上部から下方へ流速100[L/hr]で10分間通液した[回収工程]。
回収工程の後、水分濃度35.0質量%の含水酢酸を、塔の上部から下方へ流速90[L/hr]で100分間通液した[溶離工程]。
溶離工程が終了したら置換液(水分濃度7.0質量%の含水酢酸)を塔の上部から下方へ流速100[L/hr]で10分間通液した[置換工程]。
この吸着工程→回収工程→溶離工程→置換工程→(吸着工程)のサイクルを240分/1サイクルで繰り返した。
また、該キレート樹脂塔からの流出液は、溶離工程にて溶出する触媒成分を回収触媒液槽に回収する時間を110分、触媒成分の溶出がほとんどないために該キレート樹脂塔からの流出液をパージ液槽に送る時間を130分とした。
【0042】
溶離工程で得られた回収触媒液(A)を攪拌機付きの回収触媒液槽に送液した。送液される回収触媒液(A)の平均流量は90[L/hr]であり、回収触媒液槽の平均液面を50%(この時の平均有効容積180[L])とした。滞留時間は2[hr]となる。回収触媒液(A)の触媒成分の濃度変動幅を表−3に示す。触媒成分などの測定は24回/2時間行い、48点の濃度変動幅を示したものである。
【0043】
【表3】

【0044】
回収触媒液槽に2時間滞留させた後の回収触媒液(B)を予めリサイクル母液と共に混合して触媒調合槽へ送液し、液相酸化を行い、テレフタル酸を製造した。回収触媒液(B)の流量は回収触媒液(A)の平均流量と同じ90[L/hr]とした。この回収触媒液(B)の触媒組成の平均値を表−4に示す。触媒成分などの測定は24回/2時間行い、48点の濃度変動幅を示したものである。
【0045】
【表4】

【0046】
触媒調合槽出口の触媒組成および得られた粗テレフタル酸結晶の品質における標準偏差と変動係数を表−5に示す。なお、ここでいう品質とは、テレフタル酸をアルカリに溶解した溶液の波長340nmにおける吸光度(色相値、OD340と称す)と酸化反応中間体である4−カルボキシベンズアルデヒド(4−CBAと略す)含有量である。
【0047】
【表5】

【0048】
<実施例2>
回収触媒液槽の平均有効容積を360[L]とし、滞留時間を4[hr]とした以外は実施例1と同様に運転を行った。回収触媒液(B)の触媒組成変動幅を表−6に、触媒調合槽出口の触媒組成および得られた粗テレフタル酸結晶の品質における標準偏差と変動係数を表−7に示す。液相酸化反応、特に後酸化反応の酸素消費量に大きな変動は見られなかった。粗テレフタル酸結晶の品質にも変動は見られなかった。
【0049】
【表6】

【0050】
【表7】

【0051】
<比較例1>
回収触媒液槽の平均有効容積を90[L]とし、滞留時間を1[hr]とした以外は実施例1と同様に運転を行った。回収触媒液(B)の触媒組成変動幅を表−8に、触媒調合槽出口の触媒組成および得られた粗テレフタル酸結晶の品質における標準偏差と変動係数を表−9に示す。液相酸化反応、特に後酸化反応の酸素消費量に変動が見られた。また、粗テレフタル酸結晶の品質が大きく変動した。
【0052】
【表8】

【0053】
【表9】

【0054】
以上のように、限定された条件で触媒成分を回収・リサイクルすることにより、粗テレフタル酸結晶の品質である4−CBA含有量とOD340の変動係数を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、安定した品質のテレフタル酸を、容易に、効率良く、工業的に有利に製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸含有溶媒中、コバルト化合物、マンガン化合物及び臭素化合物を含む触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを用いてp−フェニレン化合物を液相酸化してテレフタル酸を製造する方法において、液相酸化により得られた酸化反応スラリーを連続的多段階晶析にて冷却し、該冷却スラリーを固液分離操作にてテレフタル酸結晶と酸化反応母液とに分離し、得られた酸化反応母液の70〜98%をリサイクル母液として液相酸化の触媒調合槽に循環し、残りの酸化反応母液をパージ母液として該パージ母液から触媒成分を回収する際に
(I)パージ母液をピリジン環含有キレート樹脂と接触させ、触媒に由来するコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンを吸着する工程(吸着工程)と、
(II)工程(I)により触媒成分を吸着したピリジン環含有キレート樹脂に含水酢酸又は水を接触させて、該触媒に由来するコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンを溶離して回収触媒液(A)を得る工程(溶離工程)を、
回分式により切り替え、
(III)回収触媒液(A)を回収触媒液槽で1.5〜6時間滞留させる工程
を有し、工程(III)からの回収触媒液(B)を、触媒調合槽を経て液相酸化反応系に循環することを特徴とするテレフタル酸の製造方法。
【請求項2】
工程(III)からの回収触媒液(B)と、リサイクル母液を予め混合して触媒調合槽に導入する請求項1に記載のテレフタル酸の製造方法。
【請求項3】
工程(III)からの回収触媒液(B)を触媒調合槽に戻した際の、触媒調合槽出口でのコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンの各濃度の変動係数が全て5%以下である請求項1又は2に記載のテレフタル酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−153611(P2012−153611A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11405(P2011−11405)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(592162324)水島アロマ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】