説明

ディスクブレーキ振動ダンパー

【課題】 円筒形部材(4)を含み、この部材の円筒形の周面(41)上に、ピストンの材料及び前記円筒形部材の材料に関して付着性を示す一層の柔軟な材料(5)が設けられた、ディスクブレーキ振動ダンパーに関する。
【解決手段】 円筒形部材(4)は、前記一層の柔軟な材料(5)がピストン(3)のキャビティの内壁(31)と接触した状態でピストンの軸線方向キャビティ(30)の内側に位置決めされるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輛用ブレーキ振動ダンパー、ブレーキピストン、及びこのようなダンパーを含むブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキを装着した車輛では、このような制動システムによって減速しなければならない各ホイールは、ホイールに固定されたブレーキディスクと、車輛のシャシーに固定された制動デバイスとを含む。制動デバイスは、摩擦によりディスクの回転運動を減速する。
【0003】
制動デバイスは、裏打ちプレートによって支持されたブレーキパッドをブレーキディスクの各側に備えている。各裏打ちプレートは、ディスクの平面に対して直角に移動でき、ヨーク内のハウジングで両端が案内される。
【0004】
制動を加える指令が、既知の方法で、ブレーキ流体で充填された液圧回路によって伝達される。通常は駆動位置に配置された制動制御装置によりピストンのシステムに作用を加え、制動力をブレーキパッドにブレーキ流体を介して伝達できる。
【0005】
ブレーキパッドは、ブレーキライニングをブレーキディスクに擦り付けるように作動し、制動中、ディスクをきつく掴み、その回転を減速する。
【0006】
しかしながらブレーキパッド等のブレーキライニングが、車輛のアクスルに固定されたブレーキディスク等の回転部材と接触し、そして、この回転部材が減速されるとき、振動が発生することがある。こうした振動は、いきなり強く制動を加える場合よりも穏やかに制動を行う場合の方が気になるものであり、煩わしい。これは、穏やかな制動は、比較的長い時間に亘って加えられ、比較的頻繁に行われ、そして車輛の運転者は、一般的には、車輛がどのような挙動を示すのか及び発生する騒音に注意するためである。更に、穏やかな制動は、一般的には、車輛が発生する騒音が通常は比較的小さい低速時に行われ、振動による騒音が遥かに知覚しやすい。
【0007】
こうした振動を制限するための試みが行われてきたにも関わらず、経験によれば、これらの振動をなくすことができなかった。そして、いずれにせよ、車輛が古くなり、部品が磨耗するに従って、常に、振動が発生し易くなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、一つの解決策は、車輛全体に亘って発生する、これらの振動及びこれらの振動の共振周波数を、減衰することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、従って、これらの振動を減衰するための手段を提供する。
【0010】
本発明は、従って、ブレーキパッドに軸線方向制動圧力を加えるようになったピストンを備える、ディスクブレーキ振動ダンパーに関する。本発明によるダンパーは、一層の柔軟な材料を円筒形周面上に備えた円筒形部材を含む。前記柔軟な材料は、ピストンの材料及び前記円筒形部材の材料に関して良好な付着性を示す。前記円筒形部材は、前記柔軟な材料の層がピストンのキャビティの内壁と接触した状態で、ピストンの軸線方向に延びるキャビティの内側に位置決めされるようになっている。
【0011】
有利には、前記柔軟な材料の層は、粘性材料で形成されている。
【0012】
一実施例によれば、粘性材料層は粘弾性材料で形成されている。
【0013】
一つの非限定的実施例によれば、前記円筒形部材は、円筒形リングとして形成される。
【0014】
本発明の別の実施例によれば、円筒形部材は、前記ピストンの前記キャビティ内で摺動し、このキャビティを気密封止する。
【0015】
有利には、前記円筒形部材は金属材料製である。
【0016】
別の実施例では、前記円筒形部材をプラスチックで形成してもよい。
【0017】
本発明は、更に、上文中に説明したダンパーをしようするブレーキピストンに関する。
【0018】
本発明は、更に、このダンパーを装着したブレーキピストンを用いる車輛用ディスクブ
レーキに関する。
【0019】
本発明の様々な目的及び特徴は、以下の説明及び添付図面で更に明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明によるディスクブレーキの一つの例示の実施例を示す。
【0021】
二つのブレーキパッド2及び2’が、一部だけが示してあるブレーキディスク1の各側に一つずつ設けられている。当該技術分野で周知のように、このブレーキディスクは車輛のホイールに固定されている。
【0022】
ブレーキパッド2及び2’は、ブレーキライニング裏打ちプレート22、22’に取り付けられたブレーキパッドライニング20及び20’を備えている。これらの裏打ちプレート22、22’は、ディスクの平面に対して直角に摺動できる。
【0023】
キャリパ及びヨーク(これらのいずれも図示してない)が、ブレーキディスクの各側に位置決めされたアームを有する。当該技術分野で公知の一つの一般的なディスクブレーキシステムによれば、二つのブレーキパッド2、2’は、これらのブレーキパッドの各々をブレーキディスクの夫々の面10、10’に擦り付けることができるように、ブレーキディスクの各側のヨークに摺動可能に取り付けられている。
【0024】
図1では、パッド2は、ブレーキディスクの平面に対して直角にピストン3によって軸線方向に駆動され、ディスク1の面10と接触する。
【0025】
当該技術分野で公知のように、ブレーキパッド2、2’は、ディスクの平面に対して直角に、この平面に対して平行なまま移動し、ブレーキパッドライニング20がディスク1の面10に擦り付けられる。
【0026】
ブレーキパッド2の移動は、ピストン3が配置されたホイールシリンダによって行われる。ホイールシリンダは、車輛の液圧制動回路に連結されている。
【0027】
車輛のブレーキを作動すると、制動流体が制動回路のマスターシリンダ内で圧縮される。発生した圧力はホイールシリンダに伝達される。これには、ピストン3を駆動し、ピストン3の面32にブレーキパッド2に向かう力Fを発生する効果がある。
【0028】
本明細書中上文中に説明したディスクブレーキの種類では、及び一般的な使用では、ピストン3は、ブレーキパッドライニング20がディスクと接触するまで、ブレーキパッド2を駆動する。ブレーキパッド2及びブレーキパッドライニング20を介してディスクに当接した状態で、ピストンは、キャリパをピストンに向かって引っ張り、このキャリパは、他方のブレーキパッド2’及びブレーキパッドライニング20’とともに引っ張られる。このライニング20’は、ブレーキディスクの面10’と接触する。マスターシリンダ内の圧力が上昇すると力Fが増大し、二つのブレーキパッドライニング20、20’がディスクの面10及び10’に押し付けられることによって、ブレーキディスク1は、減速される。
【0029】
図1でわかるように、及び既知のように、制動システムの全体としての熱慣性を制限するためピストン3は中空である。これは、ブレーキパッドライニングとブレーキディスクとの摩擦によって、制動が行われるためである。従って、ブレーキパッドライニングは加熱され、この熱が、ブレーキライニング裏打ちプレート、キャリパ、及びホイールシリンダのピストンに伝わる。これらの様々な部品をできるだけ迅速に確実に冷却するのが有利である。これを行うため、これらの部品の熱慣性をできるだけ小さくするのが望ましい。ホイールシリンダのピストンに関し、一つの解決策は、ピストンの中央部分を中空にすることである。従って、ピストン3は、キャビティ30の周囲にあるその周囲部分を介して、ブレーキライニング裏打ちプレート21に作用する。
【0030】
例示の実施例によって、本発明による振動ダンパーを、上文中に説明したシステム等の制動システムへの適用について説明する。しかしながら、本発明によるダンパーは、ディスク1の各側で二つのピストンが互いに向き合って位置決めされた固定ブレーキで使用できるということを明瞭に理解しなければならない。
【0031】
主振動源はブレーキパッドライニングのところにあり、ブレーキシリンダのピストンは、振動伝達手段であるということがわかっている。本発明は、振動をできるだけその発生
源の近くで減衰することを提案する。これは、本発明が、ピストンとブレーキパッドとの間の振動ダンパーを提供しようとするものであるためである。
【0032】
本発明は、制動が指令されたとき、最初にブレーキパッドと接触するようになった減衰部材を提供する。
【0033】
この減衰部材の断面(その軸線に対して直角)は、ピストンのキャビティ30の断面と同様である。
【0034】
有利には、この減衰部材は、円筒形又は実質的に円筒形であり、ピストン3のキャビティ30内に図1に示すように位置決めされている。
【0035】
例えば、この減衰部材は、円筒形リング4の形態となっている。このリングの外壁41の直径は、ピストンのキャビティ30の内壁31の直径よりも小さい。
【0036】
リングの外壁41とキャビティの内壁31との間には、これらの二つの外壁41及び内壁31に、固着する(例えば、粘着する)材料(すなわち、固着部材)5が設けられている。更に、材料5は、有利には、弾性を有する。
【0037】
有利には、材料5は粘弾性材料である。例えば、ニトリルをベースとした材料であってもよい。
【0038】
減衰部材4は、制動が行われていない状態で、その面40がピストンの面33から距離dだけ突出しているように、キャビティ30内に位置決めされる。
【0039】
制動が指令されたとき、力Fがピストン3の面32に加わる。このピストンは、軸線方向左方に移動する(図1参照)。減衰部材は、パッドの面に軸線方向に押し付けられる。パッドのブレーキパッドライニング20が、ディスク1と接触する。軽い制動を開始する。制動力Fの増大に従って、ピストン3は左方に移動し続けるが、減衰部材はこれ以上移動できない。ピストン3は、従って、材料5の粘弾性により減衰部材4に対して移動する。ピストンの面33をパッドの面22から離間する距離dは、面33が面22と接触するまで減少する。ピストンは、次いで、パッド2に直接作用する。
【0040】
従って、制動を掛け始めたとき又は軽く制動を掛けたとき、ピストンは、減衰部材4を介して、ブレーキパッドに作用を加えるということがわかる。このとき、減衰部材4は、ブレーキパッドライニング20がディスク1と接触したときに発生する全ての振動を減衰及び/又は吸収する。減衰及び/又は吸収された振動は、具体的には、軸線方向に伝播される振動である。しかしながら、ディスクの平面と平行な振動もまた吸収される。
【0041】
制動指令が終了や停止したとき、力Fが減少する。ピストンは左方に移動したが、その面33がブレーキパッドの面22から距離dだけ離れたところにあるその休止位置に戻る。材料5の弾性のため、減衰部材4は左方に移動し、図1に示す位置に戻る。
【0042】
図2は、本発明による減衰部材4の実施例の変形例を示す。
【0043】
この減衰部材は、粘弾性材料5と協働することによりピストンのキャビティ30を不浸透性状態にシールできる面42を有する。この場合、制動が指令されたとき、キャビティ30内の空気が減衰部材4によって圧縮され、制動指令の終了時に減衰部材をその休止位置に戻すのに寄与する。
【0044】
非限定的実施例として、減衰部材4は、金属材料又はプラスチック材料で形成される。
【0045】
本発明は、更に、例えば図1及び図2に示す減衰部材を組み込んだホイール制動ピストンに関する。
【0046】
本発明は、更に、このようなホイール制動ピストンを備えたディスクブレーキに関する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、本発明による振動ダンパーを組み込んだディスクブレーキの一つの例示的な実施例の断面図である。
【図2】図2は、本発明による変形例の振動ダンパーを組み込んだディスクブレーキの一つの例示的な実施例の断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ブレーキディスク
2、2’ ブレーキパッド
3 ピストン
10、10’ 面
22、22’ ブレーキライニング裏打ちプレート
20、20’ ブレーキパッドライニング
32 面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキパッド(2)に軸線方向制動力(F)を加えるようになったピストン(3)を備えるディスクブレーキ振動ダンパーにおいて、
円筒形部材(4)を備えており、該円筒形部材(4)は、その円筒形周面(41)上に、柔軟な材料(5)の層が設けられており、前記材料は、前記ピストンの材料及び前記円筒形部材の材料に関して付着性を示し、
前記円筒形部材(4)は、前記柔軟な材料(5)の層が前記ピストン(3)の軸線方向に延びるキャビティの内壁(31)と接触した状態で、前記ピストンの軸線方向キャビティの内側に位置決めされるようになっており、
前記円筒形部材(4)は、前記ピストンの前記キャビティ(30)内で摺動し、このキャビティを気密封止する、ことを特徴とするディスクブレーキ振動ダンパー。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキ振動ダンパーにおいて、
前記ピストンの材料及び前記円筒形部材の材料に関して付着性を示す前記柔軟な材料(5)の層は、粘性材料で形成されている、ことを特徴とするディスクブレーキ振動ダンパー。
【請求項3】
請求項2に記載のディスクブレーキ振動ダンパーにおいて、
前記粘性材料(5)の層は、粘弾性材料で形成されている、ことを特徴とするディスクブレーキ振動ダンパー。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載のディスクブレーキ振動ダンパーにおいて、
前記円筒形部材(4)は、円筒形リングである、ことを特徴とするディスクブレーキ振動ダンパー。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれか一項に記載のディスクブレーキ振動ダンパーにおいて、
前記円筒形部材(4)は金属材料製である、ことを特徴とするディスクブレーキ振動ダンパー。
【請求項6】
請求項1乃至4のうちのいずれか一項に記載のディスクブレーキ振動ダンパーにおいて、
前記円筒形部材(4)はプラスチック製である、ことを特徴とするディスクブレーキ振動ダンパー。
【請求項7】
車輛ホイール制動ピストンであって、
請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載のダンパーを備えた、ことを特徴とする車輛ホイール制動ピストン。
【請求項8】
車輛用ディスクブレーキであって、
請求項7に記載のホイール制動ピストンを備えた、ことを特徴とする車輛用ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−115315(P2009−115315A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−284981(P2008−284981)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】