説明

ディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法、およびディスクブレーキ装置

【課題】カシメ加工時にカシメ部を破断させることがなく、ガイドピンの垂直精度を高く保つディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法を提供する。
【解決手段】浮動型のディスクブレーキ装置におけるガイドピンの取り付け方法であって、ガイドピン30は、摺動穴に収容されるスライド部32とサポート22に形成された貫通孔26に圧入される基端部34と前記スライド部32と前記基端部34との間に配置されるフランジ部36と有し、基端部34の先端に断面V字形の溝40を設け、圧入治具60により貫通孔26に基端部34を圧入し、貫通して突出した基端部34の先端に、前記V字よりも先端角度を鈍角とし、かつ先端に丸みを持たせた凸部62aを有するカシメ治具62を押し当て、溝40を構成する壁部40bを外方向へ押し広げてカシメ部38を形成し、貫通孔26を形成したサポート22をフランジ部36とカシメ部38とで挟持させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法、およびディスクブレーキ装置に係り、特にガイドピンの取り付けにカシメ加工を用いる場合に好適なディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法、およびこれを利用してガイドピンを取り付けたディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浮動型のディスクブレーキ装置に用いられるガイドピンの固定は、サポートに対して形成されたネジ孔に、ガイドピンの一端側を螺合するという方法が一般的とされていた(例えば特許文献1参照)。しかし、螺合によりガイドピンの固定を行う場合、サポート側に設けた孔には、雌ネジを形成するためのタップ加工などが必要となり、このサポート側のネジ孔に螺合するガイドピンには、雌ネジに螺合する雄ネジを形成するためのダイス加工等が必要となる。このためディスクブレーキ装置を製造するための加工工程、組付け工程等がそれぞれ複雑なものとなっていた。
【0003】
このような実状に鑑みて提案されたのが、特許文献2に示されるようなガイドピンの取り付け方法である。特許文献2では、ガイドピンをカシメにより固定する方法が提案されている。すなわち、ガイドピンを固定部材に形成した貫通孔に挿入し、貫通して突出した端部側を押圧してカシメるというものである。具体的には、ガイドピンの構成として、ガイドピンとしての役割を担うスライド部と、貫通孔に嵌合される基端部と、前記スライド部と基端部とを隔てるフランジ部とを有し、基端部の先端にはカシメ構造を得るための凹部が形成されている。
【0004】
そして、このような構成のガイドピンの基端部を貫通孔に通し、貫通孔を貫通して突出した基端部の先端に、カシメ治具を押し当てることでカシメ部を形成し、フランジ部とカシメ部により固定部材を挟持するという構成をとるのである。そして特許文献2には、前記カシメ治具は断面を円環状とし、その先端外径部にはテーパが備えられ、先端部全体としては鋭角な形状が採られるように構成されている。このような構成とすることで、カシメ治具の先端外径側に形成されたテーパ部により、基端部の先端に形成された凹部の外周壁を外側へ押し広げることが可能となり、カシメ部を形成することができるのである。
【特許文献1】特開昭56−116929号公報
【特許文献2】特開2000−213570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されているような、カシメによるガイドピンの取り付け方法を用いれば、ディスクブレーキ装置の加工工程、組付け工程等の製造工程を簡略化することができ、ディスクブレーキ装置の製造に要するコストを削減することを実現することができる。
【0006】
しかし、特許文献2に開示されているようなカシメ方法では、図7(A)、(B)に示すように、カシメ治具1の先端1aが鋭角になっているため、治具先端部の強度が低く、先端部の欠けなどが生ずることがある。また、鋭角になっている先端部によりガイドピン2の基端部2aに形成された凹部3の外周壁3aを押圧して押し広げるため、外周壁3aの基端部に負担がかかり、カシメ部4が破断してしまうといった事態も生じえる。さらに、カシメ加工時の押圧力により圧入されたガイドピンが傾くといった問題も生じえる。
【0007】
本発明では、上記課題を解決し、カシメ加工時にカシメ部を破断させることがなく、カシメ加工後においても固定部に対するガイドピンの垂直精度を高く保つことのできるディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法、およびこの方法を採用して固定したガイドピンを有するディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法は、浮動型のディスクブレーキ装置にてサポートまたはキャリパに形成された摺動穴に収容されて前記キャリパのスライドをガイドするガイドピンの固定方法であって、前記ガイドピンは、前記摺動穴に収容されるスライド部と固定位置に形成された貫通孔に嵌合される基端部と前記スライド部と前記基端部とを隔てて前記基端部の挿入深さを規制するフランジ部とを有し、前記基端部の先端に断面V字形あるいは断面U字形の溝または凹部が設けられたものとし、嵌入治具により前記スライド部および前記フランジ部を支持しつつ前記貫通孔に対して前記基端部を垂直に嵌合し、前記嵌入治具による支持状態を維持したまま、前記貫通孔を貫通して突出した前記基端部の先端に、前記溝または凹部を構成するV字あるいはU字よりもテーパ角度を鈍角とし、かつ先端に丸みを持たせた凸部を有するカシメ治具を押し当て、前記溝または凹部を構成する壁部を外方向へ押し広げてカシメ部を形成し、前記貫通孔を形成した固定部材を前記フランジ部と前記カシメ部とで挟持させることを特徴とする。
【0009】
このような特徴を有するディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法において、前記カシメ治具は、前記凸部の周囲に前記固定部材と対向する平面を有するベース部とから成るものとし、前記凸部の押し当てにより、前記溝または凹部を外方向へ押し広げた後、前記押し広げられた壁部を前記ベース部により押し潰してカシメ部を形成するようにすると良い。
【0010】
また、上記特徴を有するディスクブレーキ装置のガイドピン固定方法では、前記固定部材に形成した貫通孔において前記基端部を突出させる側の開口部にざぐり穴を形成すると良い。
【0011】
さらに、上記特徴を有するディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法では、前記貫通孔に対して前記基端部を嵌合させた後、前記基端部の突出部分に環状部材を挿通させ、その後に前記カシメ治具の押し当てを行い、前記固定部材と前記環状部材とを前記フランジ部と前記カシメ部とで挟持させるようにしても良い。
また、本発明に係るディスクブレーキ装置は、上記のような方法により、ガイドピンを固定されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法によれば、カシメ加工時にカシメ部が破断する虞が無い。また、カシメ加工後のガイドピンの固定部材に対する垂直精度を向上させることができる。また、カシメ治具の形状に工夫を凝らすことにより、カシメ部の形成を、押し広げ、押し潰しといった二段階の工程で行うようにし、かつこれらの工程を一度の押圧で行うことを可能にすることで、ガイドピンの固着性を高めるとともに、ディスクブレーキ装置の生産性も向上させることが可能となる。また、固定部材にざぐり穴を設けた上でカシメ加工を行うようにすることで、ざぐり穴にカシメ部を埋め込ませることが可能となり、固定部材とガイドピンの一体性を高めることができる。さらに、サポートとカシメ部との間に環状部材を介在させるようにすることで、ガイドピンを取り外す際にサポート表面に傷をつけるといった虞を無くす事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法、およびディスクブレーキ装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態では、説明を簡単化するために、キャリパの摺動に使用されるピン(例えばガイドピンやロックピン)の総称としてガイドピンという表現を用いることとする。
【0014】
まず、図1を参照して、ガイドピンを固定するディスクブレーキ装置について説明する。なお、図1において、図1(A)はディスクブレーキ装置の平面概略図、図1(B)はディスクブレーキ装置の正面概略図である。また、本発明のガイドピンの固定方法は、4輪車用のディスクブレーキ装置にも、2輪車用のディスクブレーキ装置にも適用することができるが、図1には2輪車用のディスクブレーキ装置を例に挙げて説明をすることとする。
【0015】
図1に示すディスクブレーキ装置10は、以下に詳細を記すサポート22に設けられたガイドピン30に沿ってキャリパ12が移動する浮動型のディスクブレーキ装置である。本実施形態に係るディスクブレーキ装置10の構成を大別すると、サポート22とキャリパ12とに分けることができる。
【0016】
前記サポート22は、前記キャリパ12を保持しつつ、ディスクブレーキ装置10全体を図示しない車両フレーム、2輪車においてはフロントフォーク等に固定するための部材である。本実施形態におけるサポート22は、平板状の鋼板(例えば金属板)から構成されており、いわゆる板金サポートと呼ばれるものである。サポート22には、当該サポート22を図示しない車両フレーム等に固定するためのネジ孔24と、詳細を後述するキャリパ12をディスクロータ50の図示しない回転軸の方向(矢印Aの示す方向)にスライドさせるためのガイドピン30を取り付けるための貫通孔26とが設けられている。
【0017】
前記キャリパ12は、シリンダ部14、ブリッジ部16、爪部18、および締結部20を基本的な構成要素とする。前記シリンダ部14は、外径のみを示すシリンダと内部に備える図示しないピストンとから構成される油圧機構であり、前記ピストンを動作させることで、図示しないブレーキパッドをディスクロータ50に押し付け、制動力を発生させる。前記爪部18は、ディスクロータ50を挟み込むようにして前記シリンダ部14と対向する位置に配置され、シリンダ部14のピストンによりディスクロータ50に付加される力(作用)を受けとめる反作用部である。したがって、爪部18のディスクロータ50側側面には、シリンダ部14と同様に、図示しないブレーキパッドが備えられることとなる。また、前記ブリッジ部16は、ディスクロータ50を跨いで前記シリンダ部14と前記爪部18とを接続するための要素である。さらに、前記締結部20は、キャリパ12を前記サポート22に保持させるための要素である。浮動型のディスクブレーキ装置10は、シリンダ部14のピストン(不図示)がディスクロータ50に押し付け力を作用させると、反作用部である爪部18との間隔を調整するために、キャリパ12自体がディスクロータ50の回転軸方向にスライドする。このスライドは、サポート22とキャリパ12とを繋ぐガイドピン30に沿ってなされるものであり、前記締結部20には、前記ガイドピン30を収容するための摺動穴20aが形成されている。
【0018】
上記のようなキャリパ12は、鋳造により形成されることが一般的であり、その部材としては種々選択することができるが、軽量で加工性の良いアルミ等が望ましい。
【0019】
本実施形態に係るガイドピン30は、スライド部32と基端部34、およびフランジ部36とを基本的な構成要素とする。前記スライド部32は、前記キャリパ12の締結部20に形成された摺動穴20aに収容されてキャリパ12のスライドをガイドする要素である。また、前記基端部34は、前記サポート22に形成された貫通孔26に圧入(または単に嵌入(嵌合))され、ガイドピン30を固定する要素である。また、前記フランジ部36は、前記スライド部32と前記基端部34との間に形成され、サポート22に形成された貫通孔26に対する基端部34の挿入深さを規制するための要素である。
【0020】
本実施形態のガイドピン30は、前記サポート22に形成された貫通孔26に圧入された基端部34の先端を押圧変形させて形成されたカシメ部38と、前記フランジ部36とにより前記サポート22を挟持することで固定されている。
【0021】
このため、サポート22に固定される前のガイドピン30は、前記基端部34の先端に、カシメ部38を形成するための溝40を設けている。当該部分を単なる凹部ではなく溝40とすることで、高い加工性を得ることができる。溝40の形状としては、図2に示すような断面V字形、あるいはU字形とすることが望ましい。そして、基端部34の長さは、前記サポート22を形成する金属板の厚みよりも若干長く形成し、好ましくは、サポート22に圧入した基端部34の先端のうち、前記溝40の最深部40aまでがサポート22から突出する程度の長さとすると良い。このような構成とすることにより、基端部34の先端を加工して形成するカシメ部38と、前記フランジ部36とにより、サポート22を挟み込んでガイドピン30を固定することが可能となる。また、ガイドピン30の構成材料としては、カシメ部38を形成する際の塑性変形が可能な部材であればよく、例えば従来より使用されているボロン鋼・炭素鋼等であれば良い。
【0022】
以下、上記のような構成のガイドピン30をサポート22に固定するための工程について説明する。なお、ガイドピン30の固定に際しては、サポート22に形成された貫通孔26に基端部34を圧入するための圧入治具(嵌入治具)60と、サポート22から突出させた基端部34の先端をカシメ加工するためのカシメ治具62とを使用する。
【0023】
前記圧入治具60は、図2に想像線で示すように、スライド部32を包み込み、あるいは挟み込み、フランジ部36を押圧可能な形状とされたものであり、例えば圧入(嵌入)角度が精度出しされた金型のようなものであると良い。このような構成の圧入治具60を用いてガイドピン30の基端部34をサポート22に形成された貫通孔26に圧入することで、サポート22に対するガイドピン30の垂直度を高い精度で出すことが可能となる。このため、サポート22に対してガイドピン30を垂直に圧入することが可能となる。また、前記カシメ治具62は、押圧面を平坦に形成されたブロック状、あるいは平板状のベース部62bと、先端を球状、すなわち先端にR(SR)を持たせて形成された凸部62aとより構成されている。前記凸部62aは、カシメ加工の際に、ガイドピン30の基端部34に形成された溝40に入り込み、カシメ加工の切っ掛けを作り出す役割を担う。このため、凸部62aに設けられる丸み(R)は、基端部34の溝40を押し広げられる程度に大きな(緩やかな)ものとすることが望ましい。
【0024】
ガイドピン30を固定する工程としては、まず、圧入治具60にガイドピン30をセットし、フランジ部36を押圧することでサポート22の貫通孔26に、基端部34を圧入する(図2(A)参照)。その後、圧入され、貫通孔26から突出した基端部34の先端に対して、カシメ治具62を押し当てる。カシメ治具62の先端部である凸部62aが基端部34に形成された溝40に押し当てられると、溝40を構成する壁部40bは、凸部62aの曲面に沿って外側へと押し広げられることとなる。壁部40bが押し広げられた状態から、さらにカシメ治具62を押し込むと、押し広げられた壁部40bに対してベース部62bの押圧面が接触することとなる。ベース部62bの押圧面は平坦に形成されているため、前記壁部40bはサポート22側へと押し潰されることとなる。ここで、凸部62aの先端は球状の丸みをおびた形状に形成されているため、基端部34に形成された溝40の深さ以上に押し込められることは無い。このため、カシメ治具62の押圧は、凸部62aの先端が溝40の最深部40aに到達すると終了する(図2(B)参照)。この後、カシメ治具62、圧入治具60をそれぞれ退避させることにより、サポート22に対するガイドピン30の固定が完了する(図2(C)参照)。
【0025】
このような方法でガイドピン30を固定することによれば、凸部62aにより押し広げられた壁部40bが、ベース部62bにより押し潰されることとなるため、カシメ部38の強度が増大することとなる。また、ガイドピン30におけるスライド部32側は、カシメ加工時においても圧入治具60により保持されているため、ガイドピン本体がカシメ治具62による押圧方向に押しやられることがない。このため、カシメ部38と基端部34との間に引張り応力が生ずることがなく、カシメ部38が破断することが無い。また本実施形態の場合、凸部62aは壁部40bを外側へ押し広げる力を作用させ、ベース部62bは押し広げられた壁部40bを押し潰す力を作用させる構造となるため、ガイドピン30本体に垂直応力が作用されることが無く、カシメ部38と基端部34との間に生ずる負荷を軽減することができる。さらに、一度のカシメ治具62の押し付けにより、壁部40bの押し広げと、壁部40bの押し潰しといった2つの工程を実施することができ、生産性を向上させることも可能となる。さらにまた、カシメ加工時にガイドピン30のスライド部32、を圧入治具60により保持する構成としているため、カシメ加工後のガイドピン30に高い垂直精度を持たせることが可能となる。
【0026】
また、本実施形態で使用するカシメ治具62は、先端が球状であるため、使用時の破損等に対する耐性が高い。なお、カシメ治具62における凸部62aの形状を球状としたが、先端に丸みを有し、テーパ各が基端部34に設けた溝よりも鈍角となるようなものであれば他の形状でも良い。また、凸部62aの形状は、球状と示唆したが、本実施形態における凸部62aの形状は、いわゆる蒲鉾形状であっても良い。
【0027】
次に、図3を参照して、本発明のディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法に係る第2の実施形態について説明する。本実施形態のディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法と、第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法との相違点は主に、サポートに形成する貫通孔の開口部の加工状態と、カシメ部を形成するためのカシメ治具の形状にある。なお、その他の構成等は上記実施形態と同様とするため、その機能を同様とする箇所には、符号に100を足した符号を図面に付してその詳細な説明は省略することとする。
【0028】
まず、サポート122に形成された貫通孔126について説明する。本実施形態では、ガイドピン130を固定するための貫通孔126の開口部にざぐり穴122aを設ける構成とした。ざぐり穴122aは、少なくともサポート122の他方の面、すなわち圧入した基端部134の先端が突出する側の面の開口部に設けるようにする。サポート122の開口部にざぐり穴122aを設けることにより、カシメ加工を行った際のカシメ部138が、前記ざぐり部122aに埋め込まれることとなり、サポート122との一体性を向上させることが可能となる。
【0029】
カシメ治具162の押し込みは、基端部134の先端に形成された溝140の最深部140aまでで停止するため、カシメ部138をざぐり穴122a内に埋め込ませるためには、少なくとも、前記溝140の最深部140aがざぐり穴122aの内部に位置する必要がある。このため、本実施形態に係るガイドピンの取り付け方法を実施する場合には、上記第1の実施形態に係るガイドピンの取り付け方法に使用するガイドピン30よりも、基端部134の長さを短くしたガイドピン130を採用することとなる。よって、本実施形態に係るガイドピンの取り付け方法によれば、ガイドピン130を製造するための材料コストを削減することができる。
【0030】
本実施形態に係るガイドピンの取り付け方法で使用するカシメ治具162は、図3に示すように、円錐形状の凸部162aと、円柱形状のベース部162bとから成る、いわゆるエンピツ形状のものである。なお、本実施形態におけるカシメ治具162も、凸部162aの先端に丸みを持たせるようにすることで、押圧時の破損等に対する耐性を高めるようにしている。また、本実施形態では、カシメ部138をざぐり穴122aに埋め込むように形成することより、カシメ治具162の凸部162aのテーパ角度と、ざぐり穴122aのテーパ角度とを近似させておくと良い。このような構成とすることで、押し広げられた溝140の壁部140bが、ざぐり穴122aに沿うような状態となってカシメ部138が形成されるからである。
【0031】
このような特徴を有する本実施形態に係るガイドピンの取り付け方法は次の通りである。まず、圧入治具160を用いてガイドピン130の基端部134を貫通孔126に圧入する(図3(A)参照)。その後、カシメ治具162を基端部134の先端に形成した溝140に押し当てることで、溝140の壁部140bを外側へ押し広げる。押し広げられた壁部140bはカシメ部138とされ、カシメ部138はサポート122の開口部に形成されたざぐり穴122aに埋め込まれるような状態にまで加工される(図3(B)参照)。
【0032】
上記のようなカシメ加工により、ガイドピン130は、フランジ部136とカシメ部138とによりサポート122を挟持することとなり、ガイドピン130の取り付けが完了する。取り付け完了後には、圧入治具160、カシメ治具162をそれぞれ退避させる(図3(C)参照)。
【0033】
上記第1、第2の実施形態では双方共、ガイドピンの基端部には溝を設け、これを加工してカシメ部とする旨を記載した。しかしながら、基端部には、図4(A)〜(C)に示すように、溝に替えて凹部141を設けるようにしても良い。凹部141の形状としては、その断面形状を上記実施形態の溝と同様に、V字形状、またはU字形状とする。このような形状とすることで、上記実施形態と同様な効果を得ることが可能となるからである。また、基端部134の先端に設ける溝を凹部141とすることによれば、その加工性は劣るものの、カシメ部138が貫通孔126の全周に亙って形成されることとなるため、ガイドピン130の取り付け強度、すなわち固着性が向上することとなる。
【0034】
次に、図5を参照して、本発明のディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法に係る第3の実施形態について説明する。本実施形態のディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法と、第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法との相違点は主に、カシメ部とサポートとの間に、リング状部材を介在させるようにしたことである。なお、その他の構成等は上記実施形態と同様とするため、その機能を同様とする箇所には、符号に200を足した符号を図面に付してその詳細な説明は省略することとする。
【0035】
本実施形態に係るガイドピンの取り付け方法では、サポート222の貫通孔226に圧入して突出した基端部234の先端側に、環状の止め具であるリング状部材223をはめ込んだことを特徴としている。
【0036】
カシメ加工に際しては、圧入治具260を用いて貫通孔226にガイドピン230を圧入した後、貫通孔226から突出した基端部234の先端にリング状部材223をはめ込む(図5(A)参照)。リング状部材223の内径は、基端部234の外形と同等か、若干大きめとしておき、カシメ部238を形成した際、当該カシメ部238によりリング状部材223を押さえ込むことが可能な構成としておく。
【0037】
基端部234にリング状部材223をはめ込んだ後、カシメ治具262を凹部241に押し込み、凹部241を形成する壁部241bを外側へ押し広げることで、カシメ部238を形成する。これにより、サポート222とリング状部材223とが、合わせてフランジ部236とカシメ部238とによって挟持されることとなる。なお、カシメ治具262の押圧は、凸部262aが凹部241の最深部241aに達した後に終了する(図5(B)参照)。
この後に圧入治具260とカシメ治具262を退避させることによりカシメ加工が終了する(図5(C)参照)。
【0038】
カシメ加工によりガイドピンを固定した場合、ガイドピンを取り外すには、加工されたカシメ部を削り取る必要がある。通常、カシメ部とサポートとは密接しているため、カシメ部を削り取ろうとした場合には、カシメ部を削り取る治具(工具)とサポートとが接触してしまい、サポート表面に傷が付くといった事態が生じえる。これに対し、本実施形態のように、カシメ部238とサポート222との間に、リング状部材223を介在させることによれば、カシメ部238と密接しているのはリング状部材223となる。このため、カシメ部238を削り取る場合であっても、サポート222の表面にカシメ部238を削り取るための治具が接触するということは無く、サポート222の表面に傷が付くことも無い。
【0039】
なお、本実施形態で使用するカシメ治具262は、図5に示すような形状のものの他、第2の実施形態で使用したようなカシメ治具162であっても良い。
【0040】
なお、上記のような方法で取り付けられたガイドピンはいずれも、カシメ治具の接触部である溝または凹部が、カシメ部の中央に残留することとなる。このため、本実施形態に係る方法により取り付けられたガイドピンは、カシメ部の形状により特定することができる。
【0041】
上記実施形態ではいずれも、サポートに対してガイドピンを固定するタイプのディスクブレーキ装置を例に挙げて説明してきた。しかしながら、本発明のディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法は、図6(A)、(B)に示すような構成のディスクブレーキ装置に対しても適用可能である。
【0042】
本実施形態のディスクブレーキ装置も、サポートとキャリパとを基本とすることに変わりは無い。上記実施形態に示したディスクブレーキ装置との相違点は、サポートとキャリパのそれぞれの構成と、ガイドピンの取り付け箇所にある。よって、その機能を同一とする箇所には、図1に示す符号に対してaを足した符号を付することとする。
【0043】
具体的には、本実施形態のディスクブレーキ装置10aにおけるサポート22aは、鋳造により形成され、切削加工にて接合面等の形状が整えられている。そして、サポート22aには、当該サポート自体を車両等に固定するためのネジ孔24aの他に、ガイドピン30aを摺動させるための摺動穴22bが設けられている。
【0044】
前記キャリパ12aは、シリンダ部14a、ブリッジ部16a、および爪部18aを基本的な構成とする。前記シリンダ部14aは、鋳造等により形成されたシリンダ本体13と、このシリンダ本体13を固定するベース部材15とより構成される。なお、シリンダ本体13は、内部に図示しないピストンを有する。また、前記ベース部材15は、打ち抜き、あるいは切削加工された平板鋼板であり、詳細を後述するブリッジ部16aを固定するための貫通孔15aや、ガイドピン30aを取り付けるための貫通孔15bが設けられている。
【0045】
前記爪部18aは、鋼板を屈曲加工して形成されるブリッジ部16aと一体に形成されている。ディスクロータ50aを跨ぐようにしてブリッジ部16aを配置することで、前記爪部18aは、前記シリンダ部14aと対向する位置に配置されることとなる。なお、シリンダ部14a、ブリッジ部16a、爪部18aにおける各部の作用は上記実施形態と同じであるが、本実施形態の場合、シリンダ部14aのベース部材15に対して、ブリッジ部16および爪部18を構成する部材をボルト止めする構成をとっている。
【0046】
このように、本発明のディスクブレーキ装置のガイドピン固定方法によるガイドピンの取り付けは、取り付け相手が平板部材であれば、キャリパ側に取り付ける場合であっても、サポート側に取り付ける場合であっても採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係るディスクブレーキ装置の概略構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係るガイドピン取り付け方法を説明するためのブロック図である。
【図3】第2の実施形態に係るガイドピン取り付け方法を説明するためのブロック図である。
【図4】第2の実施形態に係るガイドピン取り付け方法の変形例を説明するためのブロック図である。
【図5】第3の実施形態に係るガイドピン取り付け方法を説明するためのブロック図である。
【図6】本発明に係るディスクブレーキ装置の他の構成を示す概略図である。
【図7】従来のガイドピン取り付け方法を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10………ディスクブレーキ装置、12………キャリパ、14………シリンダ部、16………ブリッジ部、18………爪部、20………締結部、20a………摺動穴、22………サポート、24………ネジ孔、26………貫通孔、30………ガイドピン、32………スライド部、34………基端部、36………フランジ部、38………カシメ部、50………ディスクロータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮動型のディスクブレーキ装置にてサポートまたはキャリパに形成された摺動穴に収容されて前記キャリパのスライドをガイドするガイドピンの取り付け方法であって、
前記ガイドピンは、前記摺動穴に収容されるスライド部と固定位置に形成された貫通孔に嵌合される基端部と前記スライド部と前記基端部とを隔てて前記基端部の挿入深さを規制するフランジ部とを有し、前記基端部の先端に断面V字形あるいは断面U字形の溝または凹部が設けられたものとし、
嵌入治具により前記スライド部および前記フランジ部を支持しつつ前記貫通孔に対して前記基端部を垂直に嵌合し、
前記嵌入治具による支持状態を維持したまま、前記貫通孔を貫通して突出した前記基端部の先端に、前記溝または凹部を構成するV字あるいはU字よりもテーパ角度を鈍角とし、かつ先端に丸みを持たせた凸部を有するカシメ治具を押し当て、
前記溝または凹部を構成する壁部を外方向へ押し広げてカシメ部を形成し、前記貫通孔を形成した固定部材を前記フランジ部と前記カシメ部とで挟持させることを特徴とするディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法。
【請求項2】
前記カシメ治具は、前記凸部の周囲に前記固定部材と対向する平面を有するベース部とから成るものとし、
前記凸部の押し当てにより、前記溝または凹部を外方向へ押し広げた後、
前記押し広げられた壁部を前記ベース部により押し潰してカシメ部を形成することを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法。
【請求項3】
前記固定部材に形成した貫通孔において前記基端部を突出させる側の開口部にざぐり穴を形成したことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法。
【請求項4】
前記貫通孔に対して前記基端部を嵌合させた後、前記基端部の突出部分に環状部材を挿通させ、
その後に前記カシメ治具の押し当てを行い、
前記固定部材と前記環状部材とを前記フランジ部と前記カシメ部とで挟持させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のディスクブレーキ装置のガイドピン取り付け方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1に記載の方法により、ガイドピンを固定されたことを特徴とするディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−111500(P2008−111500A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295419(P2006−295419)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】