説明

ディスクブレーキ装置

【課題】駐車ブレーキ解除時の駐車ブレーキ機構の電動モータの戻し量を適切に調整する。
【解決手段】駐車ブレーキ作動時には、シリンダ36内に液圧を供給し、電動モータ49によって送りネジ44をロックナット40を前進させる方向に回転させ、ピストン38及びロックナット40に作用する液圧によってブレーキパッドを押圧する。そしてロックナット40によって制動状態を保持する。駐車ブレーキ解除時に、シリンダ36内の液圧を解除した後、ポート36Aを閉鎖してシリンダ内を密閉し、ブレーキ液によりロックナット40を拘束した状態で、電動モータ49によって送りネジ44をロックナット40の後退方向に回転させて、ストール電流に達したときに電動モータ49を停止することにより、電動モータの戻し量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駐車ブレーキ機構を備えた車両用のディスクブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用の液圧式ディスクブレーキにおいて、例えば特許文献1に記載されているように、液圧によって制動力を発生させた後、液圧を解除しても制動状態を保持することができる駐車ブレーキ機構を備えたものがある。特許文献1に記載されたものでは、液圧によってピストンを前進させ、ブレーキパッドをディスクロータに押圧して制動力を発生させ、この状態で電動モータによって駐車ブレーキ機構を作動させて、ピストンを制動位置で保持する。これにより、液圧を解除した後も制動状態を保持することができ、駐車ブレーキとして使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−177996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものでは、次のような問題がある。駐車ブレーキを解除する際、電動モータを駐車ブレーキ作動時とは逆方向に回転させてピストンを保持するナット部材を後退させる。このとき、電動モータの戻し位置を正確に決定する事が困難であり、戻し量が不足すると、通常の制動時に液圧によってナット部材が移動することによってブレーキフィーリングが低下し、また、戻し量が超過すると、駐車ブレーキ作動時の応答性が低下することなる。
【0005】
本発明は、駐車ブレーキ解除時に、駐車ブレーキ機構の電動モータの戻し量を適切に調整することができるブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係るディスクブレーキ装置は、ディスクロータを挟んでその両側に配置される一対のブレーキパッドと、シリンダと、該シリンダに挿入されたピストンとを備え、前記シリンダ内への液圧供給により前記ピストンを推進して、前記一対のブレーキパッドを前記ディスクロータに押圧して制動力を発生し、更に、前記シリンダ内への液圧供給により前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押圧するとき、電動モータを駆動源として作動し、前記シリンダからの液圧の解除後も機械的に前記ピストンを制動位置に保持する駐車ブレーキ機構と、前記シリンダに所定液圧を供給する液圧供給装置と、該液圧供給装置及び前記電動モータの作動を制御する駐車ブレーキ制御装置とを備え、
前記ピストンは、前記シリンダ内の液圧に対して、第1受圧面積を有する第1ピストン及び第2受圧面積を有する第2ピストンからなり、
前記駐車ブレーキ制御装置は、駐車ブレーキ解除時に、前記シリンダ内の所定液圧が解除された後に、前記第2ピストンを液圧によって拘束した状態で、前記電動モータに通電して該電動モータを前記駐車ブレーキ解除方向へ回転させ、前記電動モータが所定のストール電流値となったときに、該電動モータへの通電を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るディスクブレーキ装置によれば、駐車ブレーキ解除時に、駐車ブレーキ機構の電動モータの戻し量を適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るディスクブレーキ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1のディスクブレーキ装置の液圧発生源の構成を示す液圧回路図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るディスクブレーキ装置の駐車ブレーキ機構を備えたディスクブレーキの縦断面図である。
【図4】図3のディスクブレーキのロックナット及び送りネジのネジ部を拡大して示す縦断面図である。
【図5】図1のディスクブレーキ装置の駐車ブレーキ制御装置による駐車ブレーキ機構の制御を示すタイムチャートである。
【図6】図1のディスクブレーキ装置の変形例における駐車ブレーキ制御装置による駐車ブレーキ機構の制御を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態に係るディスクブレーキ装置の概略構成を図1に示す。図1に示すように、ディスクブレーキ装置1は、自動車に搭載されるブレーキ装置であって、前二輪にそれぞれ装着されるディスクブレーキ2A、2Bと、後二輪にそれぞれ装着される駐車ブレーキ付のディスクブレーキ3A、3Bと、これらのディスクブレーキ2A、2B、3A、3Bに液圧を供給する液圧供給装置4と、液圧を発生させるマスタシリンダ5と、ディスクブレーキ3A、3Bの駐車ブレーキ制御を行なうための駐車ブレーキ制御装置6とを備えている。
【0010】
ディスクブレーキ2A、2B及び3A、3Bは、車輪と共に回転するディスクロータ7に対して、液圧によってピストンを前進させてブレーキパッド8を押付けることにより、制動力を発生させるものである。さらに、後二輪に装着されるディスクブレーキ3A、3Bは、液圧解除後も制動力を保持するための駐車ブレーキ機構9A、9Bを備えており、これについては、後に詳述する。ディスクブレーキ2A、2B及び3A、3Bには、供給液圧を検知する圧力センサ10A、10B、11A、11Bがそれぞれ接続されている。液圧供給装置4、駐車ブレーキ制御装置6、圧力センサ10A、10B、11A、11B等の各種センサ及び車載機器は、車載ネットワークシステム(CAN)によって相互に接続されており、各種信号の授受を行なうようになっている。
【0011】
マスタシリンダ5は、運転者によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生させ、このとき、倍力装置13によってブレーキペダル5の操作力を補助する。マスタシリンダ5には、ブレーキペダル12の操作(変位、踏力等)を検知するブレーキセンサ14が接続されている。また、マスタシリンダ5は、タンデム型であり、2系統の出力ポート5A、5Bが設けられている。
【0012】
液圧供給装置4は、運転者によるブレーキペダル12の操作に応じて、マスタシリンダ5で発生した液圧を各ディスクブレーキ2A、2B、3A、3Bに分配、供給して制動力を発生させる。また、液圧センサ10A、10B、11A、11B、ブレーキセンサ14等の各種センサ、車載機器等によって検出した車両情報に基づき、後述する液圧ポンプ29から各ディスクブレーキ2A、2B、3A、3Bに供給する液圧をECU(電子制御装置)4Aによって制御することにより、倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチロック制御、トラクション制御、車両安定化制御、坂道発進補助制御等のブレーキ制御を実行する。
【0013】
ここで、液圧供給装置4について、図2を参照して更に詳細に説明する。図2に示すように、液圧供給装置4は、マスタシリンダ5の一方の出力ポート5Aに接続されて左前輪及び右後輪のディスクブレーキ2A、3Bに液圧を供給する第1液圧系統と、他方の出力ポート5Bに接続されて右前輪及び左後輪のディスクブレーキ2B、3Aに液圧を供給する第2液圧系統との2系統の液圧回路を有している。第1液圧系統と第2液圧系統とは、同様な構造であるから、以下、第1系統についてのみ説明する。また、図2において、第2液圧系統の各構成要素には、第1液圧系統の対応する構成要素の符号に「´」を付す。
【0014】
液圧供給装置4は、マスタシリンダ5の出力ポート5Aに接続する主管路15を有し、主管路15は、第1主管路16及び第2主管路17の2つに分岐して、ディスクブレーキ2A、3Bにそれぞれ接続する。主管路15には、マスタシリンダ遮断制御弁18及び逆止弁19が並列に設けられている。マスタシリンダ遮断制御弁18は、主管路15を開閉する常開のソレノイドバルブであり、逆止弁19は、主管路15のマスタシリンダ5側からのブレーキ液の流れのみを許容する。第1主管路16には、増圧制御弁20及び逆止弁21が並列に設けられている。増圧制御弁20は、第1主管路16を開閉する常開のソレノイドバルブであり、逆止弁21は、第1主管路16のディスクブレーキ2A側からのブレーキ液の流れのみを許容する。第2主管路17には、増圧制御弁22及び逆止弁23が並列に設けられている。増圧制御弁22は、第2主管路17を開閉する常開のソレノイドバルブであり、逆止弁23は、第2主管路17のディスクブレーキ3B側からのブレーキ液の流れのみを許容する。
【0015】
液圧供給装置4は、ディスクブレーキ2A、3B側とリザーバ24とをそれぞれ接続する第1及び第2減圧管路25、26を有し、第1及び第2減圧管路25、26には、それぞれ減圧制御弁27、28が設けられている。減圧制御弁27、28は、第1及び第2減圧管路25、26をそれぞれ開閉する常閉のソレノイドバルブである。
【0016】
また、液圧供給装置4は、液圧源である液圧ポンプ29を備え、液圧ポンプ29の吐出側は、逆止弁30を介して主管路15のマスタシリンダ遮断弁18及び逆止弁19の下流側に接続され、吸込み側は、逆止弁31、32を介してリザーバ24に接続されている。液圧ポンプ29の吸込み側は、逆止弁31及び常閉のソレノイドバルブである開閉弁33を介して主管路15のマスタシリンダ遮断制御弁18及び逆止弁19の上流側に接続されている。
【0017】
これにより、通常は、運転者のブレーキ操作によってマスタシリンダ5で発生した液圧を主管路15及び第1、第2主管路16、17を介してディスクブレーキ2A、3Bに直接供給する。そして、例えばアンチロック制御等を実行する場合において、増圧制御弁20、22を閉じて、ディスクブレーキ2A、3Bの液圧を保持し、更に、減圧制御弁27、28を開いて、ディスクブレーキ2A、3Bの液圧をリザーバ24へ逃がして、ディスクブレーキ2A、3Bの液圧を減圧する。上記各制御弁18,18´,20,20´,22,22´,27,27´,28,28´、液圧ポンプ29、及び開閉弁33,33´はECU4Aに接続されており、ECU4Aによって制御されるようになっている。
【0018】
また、例えば車両安定化制御等を実行する際に、ディスクブレーキ2A、3Bに供給する液圧を増圧する場合は、マスタシリンダ遮断制御弁18を閉じ、液圧ポンプ29を作動させて、主管路15を介して液圧ポンプ29の液圧をディスクブレーキ2A、3Bに供給する。このとき、必要に応じて開閉弁33を開いてマスタシリンダ5側から液圧ポンプ29の吸込み側へブレーキ液を供給する。
【0019】
そして、各種センサ、車載機器等によって検出される車両情報に基づいて、ECU4Aが、マスタシリンダ遮断制御弁18、増圧制御弁20、22、減圧制御弁27、28、開閉弁33及び液圧ポンプ29の作動を制御して、ディスクブレーキ2A、3Bに供給する液圧を適宜、保持、減圧及び増圧することにより、倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチロック制御、トラクション制御、車両安定化制御、坂道発進補助制御等のブレーキ制御を実行するようになっている。
【0020】
駐車ブレーキ制御装置6は、液圧供給装置4のECU4A、ディスクブレーキ3A、3Bの駐車ブレーキ機構9A、9Bに備えられた後述する電動モータ49、及び駐車ブレーキスイッチ55に接続されている。そして、運転者の駐車ブレーキスイッチ55の操作により、液圧供給装置4のECU4A及び駐車ブレーキ機構9A、9Bの電動モータ49に制御信号を出力して、ディスクブレーキ3A、3Bのシリンダ36への液圧の供給及び電動モータ49の作動を制御して、駐車ブレーキの作動及び解除を実行する。
【0021】
次に、駐車ブレーキ機構9A、9Bを備えたディスクブレーキ3A、3Bについて、図3及び4を参照して説明する。なお、ディスクブレーキ3A、3Bは、同一構造であるから、ここでは、ディスクブレーキ3として説明する。
【0022】
図3に示すように、ディスクブレーキ3は、キャリパ浮動型液圧ディスクブレーキであって、車輪とともに回転するディスクロータ7の両側に配置された一対のブレーキパッド8と、ディスクロータ7を跨ぐキャリパ35と、車両の非回転部分に固定されてブレーキパッド8及びキャリパ35をディスクロータ7の軸方向に沿って移動可能に支持するキャリア(図示せず)とを備えている。
【0023】
キャリパ35には、一方のブレーキパッド8に対向する部位にシリンダ36が設けられ、また、ディスクロータ7を跨いで他方のブレーキパッド8に対向する爪部37が形成されている。シリンダ36には、第1ピストンとしての有底円筒状のピストン38が、ロールバック機能を有するピストンシール39を介して摺動可能に挿入されている。
【0024】
ピストン38内には、第2ピストンとしてのロックナット40が、ロールバック機能を有するピストンシール41を介して摺動可能に挿入され、ロックナット40の後端部に形成された外側フランジ部42がピストン38の後端部に当接している。キャリパ35には、シリンダ36内に液圧を供給するためのポート36Aが設けられている。ロックナット40は、フランジ部42に取付けられた軸方向に延びるピン43をピストン38の側壁に挿入することによって回り止めされている。また、ピストン38は、キャリパ35に対して回り止めされている。ロックナット40には、送りネジ44の先端部がねじ込まれている。送りネジ44の後端部は、シリンダ36の底部を液密的かつ回転可能に挿入、貫通して、キャリパ35の後端部に取付けられた駆動機構45の内部まで延ばされている。送りネジ44は、その中間部に形成されたフランジ部46、スラストベアリング47及び固定ナット48によってシリンダ36の底部に支持されて、軸方向に固定されている。
【0025】
駆動機構45は、電動モータ49と、電動モータ49のシャフト50に取付けられたウォーム51及びウォーム51に噛合うウォームホイール52からなる減速機構とを組み合わせたものである。ウォームホイール52は、シリンダ36の底部を貫通して突出する送りネジ44の後端部に連結されている。これにより、電動モータ49の回転を減速して送りネジ44を回転駆動し、送りネジ44の回転によってロックナット40を前進、後退させることができる。また、電動モータ49の停止時には、ウォーム51とウォームホイール52との噛合いによって送りネジ44の回転がロックされることになる。
【0026】
図4に示すように、互いに螺合するロックナット40のネジ部53(雌ネジ)及び送りネジ44のネジ部54(雄ネジ)は、軸方向に一定の隙間δ(遊び)を有する台形ネジであり、また、非可逆ネジであって、ロックナット40と送りネジ44との間に軸方向の荷重が作用した場合、摩擦力によって回転がロックされ、これらの軸方向の移動が固定されるようになっている。なお、図4(A)は、送りネジ44に対してロックナット40が前進方向に変位した状態を示し、図4(B)は、送りネジ44に対してロックナット40が後退方向に変位した状態を示している。ネジ部53、54間の隙間δは、ピストン38の軸方向の移動によって生じるピストンシール39、41の撓み量よりも充分大きく設定されている。
【0027】
次にディスクブレーキ3の作動について説明する。
ディスクブレーキ3を車両走行中の制動を行うサービスブレーキとして使用する場合には、ポート36Aからシリンダ36に液圧が供給されると、ピストン38がピストンシール39及び41を撓ませながら前進して、一方のブレーキパッド8をディスクロータ7に押圧する。このとき、その反力によってキャリパ35が移動して爪部37が他方のブレーキパッド8をディスクロータ7に押圧して一対のブレーキパッド8によってディスクロータ7を挟み込むことで制動力を発生させる。シリンダ36の液圧が解除されると、ピストンシール39、41の弾性力によってピストン38が後退して制動が解除される。なお、ブレーキパッド8が摩耗した場合、ピストン38の前進時にピストンシール39、41との間に滑りが生じて、ピストン38が摩耗したブレーキパッド8に追従することにより、ブレーキパッド8の摩耗を補償してディスクロータ7とブレーキパッド8との隙間、いわゆるパッドクリアランスが変化しないようになっている。
【0028】
このとき、シリンダ36内の液圧は、ピストン38の第1受圧面積に作用すると共にロックナット40の第2受圧面積にも作用する。しかし、ロックナット40は、図4(A)に示すように、送りネジ44に対して前進方向に変位して隙間δを無くした拘束位置となっていることにより、前進方向の移動が阻止されるので、ピストン38が単独で前進することになる。これにより、ピストン38の受圧面積は、その全断面積から、ロックナット40の第2受圧面積を減じた第1受圧面積となるので、ピストン38の推力が小さく、前輪に対して荷重負荷の小さい後輪用に適した制動力を得ることができる。
【0029】
ディスクブレーキ3を駐車ブレーキとして使用する場合には、シリンダ36内に液圧を供給するとともに、電動モータ49によりロックナット40が前進する方向に送りネジ44を回転させる。これにより、ロックナット40のフランジ部42がピストン38の後端部に当接し、液圧を受けたピストン38及びロックナット40が一体となって前進し、ブレーキパッド8をディスクロータ7に押圧して制動力を発生させる。このとき、ピストン38は、その第1受圧面積にロックナット40の第2受圧面積が加わることになり、ピストン38の推力がサービスブレーキ時の推力よりも増大することになる。これにより、比較的小さな液圧で大きな制動力を得ることができ、駐車ブレーキ作動時の液圧源の負荷を軽減することができる。
【0030】
その後、シリンダ36への液圧が所定圧となったときに電動モータ49を停止させてからシリンダ36への液圧を解除する。このとき、ブレーキパッド8のディスクロータ7への押圧力の反力に対して、ロックナット40及び送りネジ44のネジ部53、54間の摩擦力及びウォーム51とウォームホイール52との噛合いにより、送りネジ44とロックナット40とが図4(B)に示す拘束状態で、送りネジ44の回転がロックされてロックナット40が軸方向に固定される。これにより、シリンダ36への液圧を解除し、電動モータ49への通電を停止しても、ピストン38を制動位置に保持することができ、駐車ブレーキとして制動力を保持することができる。
【0031】
駐車ブレーキを解除する場合は、シリンダ36に上記駐車ブレーキ作動時の所定圧よりも若干高い液圧を供給すると共に、電動モータ49を駐車ブレーキ作動時とは逆方向に回転させる。これにより、液圧の上昇によるピストン38の推力の増大により、ネジ部53、54間の摩擦力によるロックが解除され、送りネジ44が駐車ブレーキの作動時とは逆方向に回転してロックナット40が後退する。そして、シリンダ36の液圧を解除し、ピストン38及びロックナット40を後退させて、駐車ブレーキを解除する。
【0032】
次に、駐車ブレーキの作動時及び解除時の駐車ブレーキ制御装置6による液圧供給装置4のECU4Aへの制御信号の出力及び電動モータ49の制御、液圧供給装置4のECU4Aの液圧ポンプ29及び各制御弁の制御について、図5に示すタイムチャートを参照して説明する。図5は、駐車ブレーキスイッチ55、ロックナット40と送りネジ44とのネジ部53、54間の隙間δ、液圧ポンプ29によるディスクブレーキ3のシリンダ36への供給液圧、電動モータ49への通電電流、液圧供給装置4のマスタシリンダ遮断制御弁18の作動状態を示している。
【0033】
駐車ブレーキを作動させる場合は、図5に示す時刻t1で、駐車ブレーキスイッチ55が作動位置になると、駐車ブレーキ制御装置6からECU4Aへの液圧供給制御信号を出力する。この液圧供給制御信号によって液圧供給装置4のECU4Aは、マスタシリンダ遮断制御弁18を閉弁するとともに、液圧ポンプ29によってディスクブレーキ3のシリンダ36への液圧の供給を開始する。この液圧によってピストン38及びロックナット40が前進する。また、時刻t1で駐車ブレーキ制御装置6は、電動モータ49への通電を開始し、ロックナット40を前進させる方向に送りネジ44を回転させる。時刻t2で、液圧供給装置4のECU4Aは、シリンダ36内の液圧が駐車ブレーキ作動時の所定圧力に達したことを検出したとき、液圧ポンプ29による増圧を終了して、その液圧をマスタシリンダ遮断制御弁18の閉弁を維持することで保持しつつ、電動モータ49への通電を続行する。時刻t3で、送りネジ44がロックナット40に対して図4(B)の位置まで移動してロックナット40と送りネジ44とのネジ部53、54間の隙間δが最大となると、負荷の増大により電動モータ49の回転が停止する。このとき、駐車ブレーキ制御装置6は、電流検出手段56によって電動モータ49のストール電流を監視することにより、電動モータ49の回転停止を検知することができる。時刻t3から所定時間経過した時刻t4で、駐車ブレーキ制御装置6は、ストール電流が所定時間継続したことにより電動モータ49の回転停止を判断し、電動モータ49への通電を停止するとともに、液圧供給装置4のECU4Aへ液圧解除制御信号を出力する。この液圧解除制御信号によりECU4Aは、マスタシリンダ遮断制御弁18を開弁してシリンダ36の液圧を減圧する。そして、液圧が低下していき、時刻t5で液圧が完全に解除されることになる。ここで、シリンダ36の液圧の減圧を早めるために、減圧制御弁28と開閉弁33とを開弁して液圧ポンプ29を駆動するようにしてもよい。
【0034】
これにより、ディスクブレーキ3は、ピストン38を制動位置でロックして制動状態を保持し、駐車ブレーキとして作動する。
【0035】
次に、駐車ブレーキを解除する場合には、時刻t6で、駐車ブレーキスイッチ55が解除位置となると、駐車ブレーキ制御装置6からECU4Aへの液圧供給制御信号を出力する。この液圧供給制御信号によって液圧供給装置4のECU4Aは、マスタシリンダ遮断制御弁18を閉弁するとともに、液圧ポンプ29によってディスクブレーキ3のシリンダ36への液圧の供給を開始する。時刻t7で、シリンダ36内の液圧が解除時の所定液圧に達したとき、その液圧をマスタシリンダ遮断制御弁18の閉弁を維持することで保持する。解除時の所定液圧は作動時の所定液圧より若干大きいため、ロックナット40と送りネジ44とのネジ部53、54間の隙間δが最大ではなくなり、ネジ部53、54間の摩擦によるロックが解除される。この状態で、駐車ブレーキ制御装置6は、電動モータ49に通電して、ロックナット40を後退させる方向に送りネジ44を回転させる。時刻t8で、送りネジ44がロックナット40に対して図4(A)の位置まで移動してロックナット40と送りネジ44とのネジ部53、54間の隙間δが0となると、負荷の増大により電動モータ49の回転が停止する。駐車ブレーキ制御装置6は、電流検出手段56によって電動モータ49のストール電流を監視し、時刻t8から所定時間経過した時刻t9で、ストール電流が所定時間継続したことにより、電動モータ49の回転停止を判断し、電動モータ49への通電を停止するとともに、液圧供給装置4のECU4Aへ液圧解除制御信号を出力する。この液圧解除制御信号によりECU4Aは、マスタシリンダ遮断制御弁18を開弁してシリンダ36の液圧を減圧する。
【0036】
そして、液圧が低下し、時刻t10で、シリンダ36の液圧が完全に解除される。このとき、液圧の解除により、ピストン38とロックナット40とは、ピストンシール39、41の弾性力によってして後退することになる。したがって、ロックナット40と送りネジ44とのネジ部53、54間の隙間δが0の状態ではなくなってしまうので、このままの状態では、サービスブレーキ時に液圧によって隙間δ分だけロックナット40が移動してしまうため、ブレーキ中にブレーキパッド8への推力が変化して運転者に違和感を与えることになる。このため、シリンダ36の液圧が完全に解除された後に、ロックナット40と送りネジ44とのネジ部53、54間の隙間δを0の状態にするべく、電動モータ49を再度、作動させて、ロックナット40を後退させる方向に送りネジ44を回転させる必要がある。しかしながら、時刻t10おける隙間δは、ピストンシール39、41の弾性力に依存しているため、環境温度や解除時の所定圧力によって異なっており一定ではない。したがって、従来のように電動モータ49を一定時間回転させただけでは、隙間δが0にならずに上述のように運転者に違和感を与えてしまったり、隙間δを0とした後にロックナット40を後退させ過ぎて、次回の駐車ブレーキ作動時に駐車ブレーキ完了までに時間を要してしまうことになる。
【0037】
本実施例においては、以下に説明する駐車ブレーキ制御装置6の制御により、電動モータ49の回転量(戻し量)を適切に調整するようにしている。時刻t10において、駐車ブレーキ制御装置6からECU4Aへの液圧供給制御信号を出力する。この液圧供給制御信号によってECU4Aは、液圧供給装置4の常開のマスタシリンダ遮断制御弁18に通電してこれらを閉じる。同時に、駐車ブレーキ制御装置6は、電動モータ49に通電して電動モータ49を駐車ブレーキ解除方向、すなわち送りネジ44をロックナット40が後退する方向に回転させる。このとき、マスタシリンダ遮断制御弁18及び増圧制御弁20を閉じることにより、ディスクブレーキ3のシリンダ36の内部が密閉された状態となり、シリンダ36内のブレーキ液によってロックナット40が拘束される。この状態で、電動モータ49が送りネジ44を回転させ、時刻t11で、送りネジ44が図4(A)の位置まで移動してロックナット40と送りネジ44とのネジ部53、54間の隙間δが0となると、ロックナット40は拘束されているため、後退することなく、負荷の増大によって電動モータ49の回転が停止する。時刻t12で、駐車ブレーキ制御装置6は、電流検出手段56により、ストール電流(所定のストール電流値)になったことを検知したとき、電動モータ49への通電を停止する。また、時刻t12で、駐車ブレーキ制御装置6は、液圧供給装置4のECU4Aへ液圧解除制御信号を出力する。この液圧解除制御信号によりECU4Aは、マスタシリンダ遮断制御弁18への通電を停止してこれを開く。
【0038】
このように、駐車ブレーキ解除時に、ロックナット40をブレーキ液により拘束した状態で送りネジ44を移動させるので、送りネジ44が図2(A)に示すロックナット40と送りネジ44とのネジ部53、54間の隙間δが0となる位置に達すると、液圧より拘束されたロックナット40によって送りネジ44の移動が阻止されて電動モータ49の回転が停止する。これをストール電流として検知して電動モータ49への通電を停止することにより、送りネジ44を過不足なく、また、ロックナット40を後退させることなく図2(A)に示す隙間δが0となる位置に戻すことができ、電動モータ49の戻し量を適切に調整することができる。したがって、隙間δが0にならずに運転者に違和感を与えてしまったり、隙間δを0とした後にロックナット40を後退させ過ぎて、次回の駐車ブレーキ作動時に駐車ブレーキ完了までに時間を要してしまうようなことを防止することができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、液圧供給装置4のマスタシリンダ遮断制御弁18及び増圧制御弁20を閉じることによって、シリンダ36の内部を密閉するようにしているが、マスタシリンダ5からディスクブレーキ3への管路の途中に他のバルブ手段を設けてシリンダ36のポート36Aを閉鎖することによってシリンダ36の内部を密閉するようにしてもよい。
【0040】
次に駐車ブレーキ制御装置6による駐車ブレーキ制御の変形例について図6に示すタイムチャートを参照して説明する。なお、上記実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0041】
図6を参照して、本変形例では、時刻t1〜t9までは上記実施形態と同様の制御を実行する。そして、時刻t9で、電動モータ49の回転停止を判断したとき、電動モータ49への通電を停止するとともに、液圧供給装置4のECU4Aへ液圧解除制御信号を出力し、マスタシリンダ遮断制御弁18を開弁してシリンダ36の液圧を減圧する。時刻t10で、シリンダ36の液圧が所定液圧まで低下したとき、駐車ブレーキ制御装置6からECU4Aへの液圧供給制御信号を出力する。この液圧供給制御信号によってECU4Aは、液圧供給装置4の常開のマスタシリンダ遮断制御弁18に通電してこれらを閉じる。同時に、駐車ブレーキ制御装置6は、電動モータ49に通電して電動モータ49を駐車ブレーキ解除方向、すなわち送りネジ44をロックナット40が後退する方向に回転させる。このとき、マスタシリンダ遮断制御弁18及び増圧制御弁20を閉じることにより、ディスクブレーキ3のシリンダ36の内部が密閉された状態となり、シリンダ36内のブレーキ液によってロックナット40が拘束される。この状態で、電動モータ49が送りネジ44を回転させ、時刻t11で、送りネジ44が図4(A)の位置まで移動してロックナット40と送りネジ44とのネジ部53、54間の隙間δが0となると、ロックナット40は拘束されているため、後退することなく、負荷の増大によって電動モータ49の回転が停止する。
【0042】
そして、時刻t12で、駐車ブレーキ制御装置6は、電流検出手段56により、ストール電流(所定のストール電流値)になったことを検知したとき、電動モータ49への通電を停止する。また、液圧供給装置4のECU4Aへ液圧解除制御信号を出力する。この液圧解除制御信号によりECU4Aは、マスタシリンダ遮断制御弁18及び増圧制御弁20への通電を停止してこれらを開く。
【0043】
このようにして、駐車ブレーキ解除時に、ロックナット40を固定した状態で送りネジ44を移動させるので、送りネジ44が図4(A)に示す位置に達すると、固定されたロックナット40によって移動が拘束されて電動モータ49の回転が停止されることになり、送りネジ44を過不足なく確実に図4(A)に示す位置に戻すことができ、電動モータ49の戻し量を適切に調整することができる。したがって、隙間δが0にならずに運転者に違和感を与えてしまったり、隙間δを0とした後にロックナット40を後退させ過ぎて、次回の駐車ブレーキ作動時に駐車ブレーキ完了までに時間を要してしまうようなことを防止することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 ディスクブレーキ装置、 3 ディスクブレーキ、4 液圧供給装置、6 駐車ブレーキ制御装置、7 ディスクロータ、8 ブレーキパッド、9 駐車ブレーキ機構、36 シリンダ、38 ピストン(第1ピストン)、40 ロックナット(第2ピストン)、49 電動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータを挟んでその両側に配置される一対のブレーキパッドと、シリンダと、該シリンダに挿入されたピストンとを備え、前記シリンダ内への液圧供給により前記ピストンを推進して、前記一対のブレーキパッドを前記ディスクロータに押圧して制動力を発生し、更に、前記シリンダ内への液圧供給により前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押圧するとき、電動モータを駆動源として作動し、前記シリンダからの液圧の解除後も機械的に前記ピストンを制動位置に保持する駐車ブレーキ機構と、前記シリンダに所定液圧を供給する液圧供給装置と、該液圧供給装置及び前記電動モータの作動を制御する駐車ブレーキ制御装置とを備え、
前記ピストンは、前記シリンダ内の液圧に対して、第1受圧面積を有する第1ピストン及び第2受圧面積を有する第2ピストンからなり、
前記駐車ブレーキ制御装置は、駐車ブレーキ解除時に、前記シリンダ内の所定液圧を解除した後に、前記第2ピストンを液によって拘束した状態で、前記電動モータに通電して該電動モータを前記駐車ブレーキ解除方向へ回転させ、前記電動モータが所定のストール電流値となったときに、該電動モータへの通電を停止することを特徴とするディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−236656(P2010−236656A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86595(P2009−86595)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】