説明

ディスクブレーキ

【課題】1枚のパッドを複数のピストンで押圧する多ポット型ディスクブレーキを対象にして、制動時のノイズの抑制、操作感の向上、非制動時の引きずりトルクの低減を図ることを課題としている。
【解決手段】1枚のパッドを複数のピストンで押圧してディスクロータに摺接させるディスクブレーキにおいて、各ピストンの先端が接するリング状の被押圧部7のうち、隣り合う被押圧部が最も近接する部位が、被押圧部間を2等分する線CLを軸にして切り抜き部8により対称形状に除去されたシム6を、ピストンとパッドとの間に備えさせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、摩擦パッドの偏摩耗を抑制して制動時の操作感の向上、ノイズ(ブレーキ鳴き)の抑制、非制動時の引きずりトルクの低減などを図った車両用のディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキの従来例として、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。同文献に開示されたディスクブレーキは、キャリパに複数のシリンダが併設され、それぞれのシリンダに挿入された複数のピストンで1枚の摩擦パッド(以下では単にパッドと言う)を押圧してディスクロータに摺接させるいわゆる多ポット型のディスクブレーキである。
【0003】
ところで、ディスクブレーキにおいては、制動時のノイズや、燃費の悪化をきたす非制動時の引きずりトルクを低減するために、種々の対策が講じられている。例えば、前掲の特許文献1は、切欠きシムをパッドとそれを押圧するピストンとの間に介在することでディスクロータの回入側におけるパッド面圧(パッドの摩擦面がディスクロータに押付けられる圧力)やディスクロータの内外径側のパッド面圧を下げてブレーキ鳴きを抑制する方法を採っている。
【0004】
また、引きずりトルクの低減に関しては、下記特許文献2が開示しているような技術がある。その特許文献2が開示している技術は、浮動型ディスクブレーキを対象にしたものであって、ディスク軸方向スライド自在に支持されたキャリパを制動時にはディスクロータの傾きに追従して傾き可能となすことでパッドの偏摩耗を抑制し、また、非制動時にはキャリパの傾きが抑制されるようにして引きずりトルクの増大を防止している。
【特許文献1】特開2000−220669号公報
【特許文献2】特開平08−145088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多ポット型のディスクブレーキは、特許文献1が開示しているような対策を施しても制動時にノイズを発生することがある。また、特許文献1が開示しているような切欠きシムを使用しても制動時の操作感の悪化や、非制動時の引きずりトルクの助長を招くことがある。
【0006】
これらの不具合は、隣り合うピストンが近接して配置された多ポット型のディスクブレーキにおいて発生しやすい。発明者らは、複数のピストンが互いに接近しすぎていることがその不具合を発生させていると考えた。引きずりの原因やブレーキ鳴きの原因はいくつもあり、複数のピストンが互いに接近しすぎている場合のブレーキ鳴きや引きずりに対しては、特許文献1、2が開示している方法は有効性を期待できない。そこで、新たな対策を模索し、ピストンの中心間距離を変えずに上記の不具合に対応できる構造を見出した。
【0007】
この発明は、その構造を採用して多ポット型ディスクブレーキにおける制動時のノイズの抑制、操作感の向上、非制動時の引きずりトルクの低減を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明においては、ピストンに押圧されるリング状の被押圧部の一部に押圧力を伝わり難くする圧抜き部を設けてピストン併設方向中央部のパッド面圧を低下させるようにした。
具体的には、1枚のパッドを複数のピストンで押圧してディスクロータに摺接させるディスクブレーキにおいて、各ピストンの先端が接するリング状の被押圧部のうち、隣り合う被押圧部が最も近接する部位が、被押圧部間を2等分する線を軸にして対称形状に除去されたシムを、ピストンとパッドとの間に備えさせた。
【0009】
また、もうひとつの構造として、同一前提条件のディスクブレーキにおいて、パッドとして、パッド裏板に摩擦材の一部が入り込むモールド穴が設けられ、そのモールド穴が、各ピストンの先端から押圧力を受けるリング状の被押圧部のうち、隣り合う被押圧部が最も近接する部位に形成されたパッドを備えさせた。
【0010】
前者のディスクブレーキではシムの一部を除去した部分が圧抜き部として働き、また、後者のディスクブレーキではパッド裏板のモールド穴設置部が圧抜き部として働く。
【0011】
前者のディスクブレーキは、シムの指定部位の除去を一括して行なうこともできるが、その除去が、シムに切り抜き部を設けてなされ、かつ、被押圧部の各々について独立してなされた構造にすると好ましい。
【0012】
また、独立したその切り抜き部を、2箇所の端縁が前記被押圧部の中心を通る放射状ラインに沿い、かつ、2箇所の周縁のうち前記被押圧部の中心から遠い側の周縁が前記被押圧部の中心と同心の円弧をなす形状にしたものはより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
この発明のディスクブレーキは、各ピストンの先端が接するリング状の被押圧部のうち、隣り合う被押圧部が最も近接する部位に、圧抜き部となるシムの除去部やパッド裏板に設けるモールド穴が配置されており、被押圧部が最も近接する部位でのピストンによる押圧が他の部分に比べて極端に過剰になることが防止される。そのために、摩擦面の各部におけるパッド面圧のばらつきが減少して摩擦材の偏摩耗が抑制され、制動時のノイズの抑制、操作感の向上、非制動時の引きずりトルクの低減の効果がもたらされるようになる。
【0014】
隣り合うピストンの中心間距離が短いものは、パッドの摩擦材の摩耗がピストン併設方向両端よりも同方向中央部で大きくなって摩擦面が中凹状に変形し(パッドが押圧力で撓むことによってこのような現象が起こる)、その偏摩耗によるブレーキペダルのストローク増が操作感を悪化させ、さらに、制動時のノイズや非制動時の引きずりの原因になっていたと考えられる。
この発明のディスクブレーキは、隣り合うピストンの中心間距離が短くても、その距離を変えずにパッドの面圧分布を平均化することができ、それによる偏摩耗の抑制によって課題を解決することができる。
【0015】
なお、シムの指定部位の除去を、被押圧部の各々について独立して行なったディスクブレーキは、隣り合う切り抜き部間にシムのつなぎ部が確保されるため、切り抜き部の設置によるシムの強度低下が小さく、シムの耐久性低下が抑制される。独立した切り抜き部の端縁が被押圧部の中心を通る放射状ラインに沿い、かつ、2箇所の周縁のうち被押圧部の中心から遠い側の周縁が被押圧部の中心と同心の円弧をなすシムは、切り抜き部の面積を無駄に増加せずに必要部位の除去を行なうことができ、シムの強度維持の効果が特に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1は、この発明を適用したピストン対向型のディスクブレーキを示している。このディスクブレーキは、キャリパ1のインナー部1aとアウター部1bにそれぞれ複数のシリンダ2を形成し、そのシリンダ2に挿入したピストン3でディスクロータ5を間にして対向配置にした対のパッド(摩擦パッド)4を個別に押圧する。パッド4は、摩擦材4aとパッド裏板4bを組み合わせて構成されており、図示のピストン対向型のディスクブレーキでは、キャリパ1のインナー部1aとアウター部1b間に横架されるパッドピン10をパッド裏板4bに設けたピン穴(図示せず)に通してディスク軸方向スライド自在に支持される。
【0017】
例示のディスクブレーキは、キャリパ1が定位置に固定され、インナー側、アウター側とも1枚のパッド4がそれぞれ2個のピストン3に押圧されてディスクロータ5に摺接する。ピストン3とパッド4との間にはシム6を介在しており、そのシム6に、図2〜図4に示すような特徴を付与している。
【0018】
図2〜図4は、シム6を簡略化して示した。パッドに対する係止用の爪などを省いた図にしている。この図2〜図4の7は、隣り合う2つのピストン3,3の先端が接触するシムの被押圧部である。ピストン3は、中空のカップ状ピストンが用いられており、従って、被押圧部7はリング状をなす。その被押圧部7は、併設された2つのピストン3、3に対応して横一列に並んでおり、そのリング状の被押圧部のうち、隣り合う被押圧部7,7が最も近接する部位が、被押圧部7,7間を2等分する線CLを軸にして対称形状に除去されている。その除去は、シム6に切り抜き部8を設けることによって実現されている。
【0019】
図2のシム6は、隣り合う被押圧部7,7の指定部位の除去を1つの切り抜き部8によって一括して行なったものであり、除去部間にシムのつなぎ部が存在しない。これに対し、図3、図4のシム6は、切り抜き部8が隣り合う被押圧部7,7に対して個別に設けられ、指定部位の除去が独立してなされている。
【0020】
図3のシム6に設けた切り抜き部8は方形になっているが、図4のシム6に設けた切り抜き部8のほうが、隣り合う切り抜き部8,8間に残されるシムのつなぎ部6aの幅wを大きく確保することができ、シム6の強度維持と耐久性向上の効果に優れる。図4のシム6に設けた切り抜き部8は、2箇所の端縁8a、8aが被押圧部7の中心(ピストン中心)Oを通る放射状ラインRLに沿い、かつ、2箇所の周縁のうち被押圧部7の中心から遠い側の周縁8bが被押圧部7の中心Oと同心の円弧となる扇形形状をなしており、つなぎ部6aの幅wが切り抜き部8の両端側ほど大きくなっている。
【0021】
なお、被押圧部7の一部分の除去は、適正除去範囲がブレーキの仕様によって異なるので、摩擦面の各部におけるパッド面圧の差ができるだけ小さく抑えられる範囲を求めてその部分を除去する。
【0022】
図5は、被押圧部7の一部で押圧力を伝わり難くする圧抜き部をパッド4に設けた例を示している。パッド4は、パッド裏板4bに貫通したモールド穴9を設けてそのモールド穴9に摩擦材4aの一部を入り込ませており、このようにすることで耐剪断力を高めることがなされている。そのモールド穴9は、一般的なパッドでは被押圧部7の内側領域に設けられている。
【0023】
これに対し、図5のパッド4は、パッド裏板4bのピストンに押圧されるリング状の被押圧部のうち、隣り合う被押圧部7、7が最も近接する部位にモールド穴9を設けており、モールド穴9を設けた部分ではピストンによる押圧力がパッド裏板4bに比べて剛性の極端に低い摩擦材4aに加えられる。これにより、モールド穴9を設けたパッドの中央部で押圧力が弱められ、中央部のパッド面圧が低下して面圧分布のばらつきが小さくなる。
この図5のパッド4を、例えば、図1のディスクブレーキに利用すると、圧抜き部を有するシムを設置したディスクブレーキと同様の効果をシム無しで得ることができ、経済効果が高まる。
【0024】
なお、以上の説明は、ピストン対向型ディスクブレーキを例に挙げて行なったが、この発明の適用対象には、前掲の特許文献1が示しているような浮動型ディスクブレーキも含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明のディスクブレーキの実施の形態を示す平面図
【図2】図1のディスクブレーキに採用するシムの第1の形態を示す正面図
【図3】図1のディスクブレーキに採用するシムの第2の形態を示す正面図
【図4】図1のディスクブレーキに採用するシムの第3の形態を示す正面図
【図5】(a)この発明のディスクブレーキに採用するパッドの一形態を示す背面図、(b)同上のパッドの断面図
【符号の説明】
【0026】
1 キャリパ
1a インナー部
1b アウター部
2 シリンダ
3 ピストン
4 パッド
4a 摩擦材
4b パッド裏板
5 ディスクロータ
6 シム
6a つなぎ部
7 被押圧部
8 切り抜き部
8a 端縁
8b 周縁
9 モールド穴
10 パッドピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の摩擦パッド(4)を複数のピストン(3)で押圧してディスクロータ(5)に摺接させるディスクブレーキにおいて、各ピストン(3)の先端が接するリング状の被押圧部(7)のうち、隣り合う被押圧部(7,7)が最も近接する部位が、隣り合う被押圧部間を2等分する線(CL)を軸にして対称形状に除去されたシム(6)を、ピストン(3)と摩擦パッド(4)との間に備えたことを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記被押圧部(7)の前記近接する部位の除去が、前記シム(6)に切り抜き部(8)を設けてなされ、かつ、各ピストン(3)に対応した被押圧部(7)の各々について独立してなされたことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記切り抜き部(8)を、2箇所の端縁(8a)が前記被押圧部(7)の中心(O)を通る放射状ライン(RL)に沿い、かつ、2箇所の周縁のうち前記被押圧部の中心(O)から遠い側の周縁(8b)が前記被押圧部の中心(O)と同心の円弧をなす形状にしたことを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
1枚の摩擦パッド(4)を複数のピストン(3)で押圧してディスクロータ(5)に摺接させるディスクブレーキにおいて、前記摩擦パッド(4)として、
パッド裏板(4b)に摩擦材(4a)の一部が入り込むモールド穴(9)が設けられ、そのモールド穴(9)が、各ピストン(3)の先端から押圧力を受けるリング状の被押圧部(7)のうち、隣り合う2個のピストン(3,3)が最も近接する部位に形成された摩擦パッド(4)を備えたことを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−174610(P2009−174610A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12681(P2008−12681)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】