説明

ディスク駆動装置

【課題】ガス化した潤滑流体による影響を抑制し、信頼性を向上すると共に、長寿命化および大容量化が可能なディスク駆動装置を提供する。
【解決手段】ディスク駆動装置100は、ベース部材50と、ハブ部材10と、流体軸受ユニット30を備える。ベース部材50は、ヘッドユニットのヘッド部をハブ部材10に載置された記録ディスク200の記録面に臨ませつつ記録面の半径方向に往復移動可能にヘッドユニットを載置するヘッド可動領域部Bと、流体軸受ユニット30を収納するとともに当該流体軸受ユニット30に支持される回転体部Rの少なくとも一部を環囲するように収納する収納穴部302とを有すると共に、ヘッド可動領域部Bと収納穴部302との間には潤滑流体52が記録ディスク200側に向かって移動することを抑制する抑制壁300を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク駆動装置、特にディスク駆動装置の品質を向上する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDDなどのディスク駆動装置は、流体軸受ユニットを備えることにより回転精度が飛躍的に向上した。それに伴いディスク駆動装置は、一層の高密度・大容量化が求められるようになった。例えば磁気的にデータを記録するHDDでは、記録トラックを形成した記録ディスクを高速で回転させておき、磁気ヘッドがその記録トラック上を僅かな浮上隙間を介してトレースしながらデータのリード/ライトを実行する。このようなHDDを高密度・大容量化するためには記録トラックの幅を狭くする必要がある。そして、トラック幅の狭幅化に伴い、磁気ヘッドと記録ディスクとの隙間をさらに狭くする必要が生じている。その浮上隙間はデータのリード/ライト信頼性を考慮すると例えば、5nm以下の極狭にしたいという要求がある。
【0003】
多くのディスク駆動装置は記録ディスクを載置するためのハブ部材を備えている。ハブ部材は流体軸受ユニットを介してベース部材に支持されている。流体軸受ユニットはシャフトとこのシャフトを収納するシャフト収納部材とを含み、シャフトの外周面またはシャフト収納部材の内周面の少なくとも一方にラジアル動圧溝を形成している。流体軸受ユニットは、ラジアル動圧溝の形成空間に介在させた潤滑流体にて動圧を発生させることで軸受として機能する。なお、ハブ部材はシャフトの外周に結合されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−289646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ディスク駆動装置は流体軸受ユニットを介してベース部材に対してハブ部材がスムーズに回転できるように、ハブ部材とベース部材の間に隙間が形成されている。ところで、流体軸受ユニットに充填されている潤滑流体は、ディスク駆動装置の使用時間の経過に伴い微量であるが徐々に気液界面から気化してガスとなる。ガス化した潤滑流体は流体軸受ユニットやハブ部材、ベース部材等の間に形成された隙間を通って、ハブ部材が載置する記録ディスクや記録ディスクに対してデータのリード/ライトを行う記録再生ヘッドが存在する清浄空気領域に漏れ出すことがある。ハブ部材は記録ディスクを載置した状態で高速回転するので、そこで発生する気流によってガス化した潤滑流体はハブ部材の半径方向外側に拡散する。この状態でディスク駆動装置が長期間、例えば、数ヶ月から数年使用されると、潤滑流体のガス成分の一部が記録再生ヘッドの表面に付着して被膜を形成してしまう場合がある。このように記録再生ヘッドの表面に被膜が形成されると、その分だけ記録再生ヘッドと記録ディスクとの実質的な隙間が大きくなる。その結果、記録ディスクに対するデータの書き込みや読み出しのエラー頻度が高まる。つまり、ディスク駆動装置の使用可能期間である寿命が短くなる原因になることがある。また、ディスク駆動装置の大容量化を妨げる原因にもなる。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガス化した潤滑流体による影響を抑制し、信頼性を向上すると共に、長寿命化および大容量化が可能なディスク駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のディスク駆動装置は、記録ディスクに対してデータの読み出しまたは書き込みの少なくとも一方を行うヘッドユニットが備えられるべきディスク駆動装置であって、ベース部材と、記録ディスクが載置されるべき回転体と、ベース部材に対して回転体を回転自在に支持する軸受ユニットであって、当該軸受ユニットの軸受部に充填される潤滑流体の気液界面と軸受ユニットの表面側とが連通している流体軸受ユニットと、を備える。ベース部材は、ヘッドユニットのヘッド部を回転体に載置されるべき記録ディスクの記録面に臨ませつつ記録面の半径方向に往復移動可能にヘッドユニットを載置するヘッド可動領域部と、流体軸受ユニットを収納するとともに当該流体軸受ユニットに支持される回転体の少なくとも一部を環囲するように収納する収納穴部とを有する。ヘッド可動領域部と収納穴部との間には潤滑流体が回転体に載置されるべき記録ディスク側に向かって移動することを抑制する抑制壁を有する。
【0008】
この態様によると、抑制壁は、ヘッド可動領域部と収納穴部との間で潤滑流体が記録ディスク側に向かって移動することを抑制するので、ヘッドユニットのヘッド部に潤滑流体が原因となる被膜が形成されることを容易に低減できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガス化した潤滑流体による影響を抑制し、信頼性を向上すると共に、長寿命化および大容量化が可能なディスク駆動装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のディスク駆動装置の内部構成を説明する説明図である。
【図2】図1のディスク駆動装置の軸受ユニットを中心とする内部構造を説明する断面図である。
【図3】本実施形態において、抑制壁を有するディスク駆動装置のベース部材の斜視図である。
【図4】抑制壁を持たないディスク駆動装置のベース部材の斜視図である。
【図5】本実施形態のディスク駆動装置における抑制壁を有するベース部材の部分断面図である。
【図6】本実施形態のディスク駆動装置におけるガス化した潤滑流体の移動経路の例と清浄空気領域への移動を抑制する様子を示す説明図である。
【図7】本実施形態のディスク駆動装置における抑制壁の内周面が捕捉構造体を有する例を説明する説明図である。
【図8】本実施形態のディスク駆動装置における抑制壁の内周面が気流誘導構造体を有する例を説明する断面図である。
【図9】本実施形態のディスク駆動装置における抑制壁の上面が気流誘導構造体を有する例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
図1は、本実施形態のディスク駆動装置100の内部構成を説明する説明図である。なお、図1は、内部構成を露出させるためにトップカバーを取り外した状態を示している。
【0013】
ディスク駆動装置100は、ベース部材50と、ハブ部材10と、磁気記録タイプの記録ディスク200と、データリード/ライト部8と、トップカバー(不図示)と、を備える。以降ベース部材50に対してハブ部材10が搭載される側(図1の紙面表側)を上側として、ベース部材50の長手方向を横方向として説明する。
【0014】
記録ディスク200は、ハブ部材10に載置され、ハブ部材10の回転駆動に伴って回転する。ベース部材50はアルミニウムの合金をダイカストにより成型して形成することができる。ベース部材50は、後述する流体軸受ユニットを介してハブ部材10を回転自在に支持する。ヘッドユニットを構成するデータリード/ライト部8は、記録再生ヘッド8aと、スイングアーム8bと、ピボットアセンブリ8cと、ボイスコイルモータ8dと、を含む。記録再生ヘッド8aは、スイングアーム8bの先端部に取り付けられ、記録ディスク200に磁気的にデータを記録し、記録ディスク200からデータを読み取る。ピボットアセンブリ8cは、スイングアーム8bをベース部材50に対してヘッド回転軸の周りに揺動自在に支持する。ボイスコイルモータ8dは、スイングアーム8bをヘッド回転軸の周りに揺動させ、記録再生ヘッド8aを記録ディスク200の記録面上の所望の位置に移動させる。データリード/ライト部8は、ヘッドの位置を制御する公知の技術を用いて構成される。なお、記録再生ヘッド8aは、記録ディスク200の半径方向に往復移動してデータの読み取りおよび書き込みの少なくとも一方が可能であればよく、本実施形態においては、記録再生ヘッド8aの往復移動とは揺動運動によるものや往復リニア運動によるものを含むものとする。上述したように、ベース部材50の開口部分(図1で示される部分)をトップカバーで覆うことにより記録ディスク200やデータリード/ライト部8、および図2で詳細に示す軸受けユニット等が配置されたベース部材50の内部空間を密閉状態にすることができる。
【0015】
図2は、図1のディスク駆動装置100の軸受ユニットを中心とする内部構造を説明する線分A−Aにおける断面図である。
図2に示すように、本実施形態のディスク駆動装置100は、固定体部Sと、回転体部Rと、ラジアル動圧溝RB1,RB2と潤滑流体52とで構成されるラジアル流体動圧軸受部及びスラスト動圧溝SB1,SB2で構成されるスラスト流体動圧軸受部を含む流体軸受ユニット30と、これらの流体動圧軸受部を介して固定体部Sに対して回転体部Rを回転駆動する駆動ユニット32とにより構成されている。図2は、一例として記録ディスク200を支持するハブ部材10とシャフト34が一体となり回転する、いわゆるシャフト回転型のディスク駆動装置100の構造を示す。なお、ディスク駆動装置100を構成する部材は、機能的に固定体部S、流体軸受ユニット30、回転体部R、駆動ユニット32で分けられるグループのうち複数のグループに含まれるものがある。例えば、シャフト34は、回転体部Rに含まれると共に流体軸受ユニット30にも含まれる。
【0016】
固定体部Sは、ベース部材50、ステータコア36、コイル38、スリーブ40、カウンタープレート42を含んで構成されている。ステータコア36は、ベース部材50に形成された内筒部50aの外壁面に固着されている。スリーブ40は円筒状の部品であり、金属材料や導電性を有する樹脂材料で形成される。このスリーブ40の外周面は流体軸受ユニット30の外周面を形成している。流体軸受ユニット30は、ベース部材50の内筒部50aの内壁面で形成する軸受孔50bに例えば接着剤等で固定されている。スリーブ40の一方の端部には、円盤状のカウンタープレート42が固着され、記録ディスク200等が収納されるベース部材50の内部側を封止している。また、ベース部材50の内筒部50aの外周側には、記録ディスク200やデータリード/ライト部8が収納される清浄空気領域Aにガス化した潤滑流体52が移動することを抑制する抑制壁300が形成されている。抑制壁300の詳細は後述する。
【0017】
ベース部材50は、例えば、アルミダイキャストで製作された母材の表面にエポキシ樹脂コーティングを施した後に一部を切削加工するか、アルミ板をプレス加工して形成するか、鉄板をプレス加工後、ニッケルメッキを施して形成することができる。ステータコア36は、ケイ素鋼板等の磁性板材が複数枚積層された後、表面に電着塗装や粉体塗装等による絶縁コーディングを施して形成される。また、ステータコア36は、半径方向外方向に突出する複数の突極(図示せず)を有するリング状の部材であり、各突極にはコイル38が巻回されている。例えば、ディスク駆動装置100が3相駆動であれば突極数は9極とされる。なお、コイル38の巻き線端末は、ベース部材50の底面に配設されたFPC(図示せず)上に半田付けされる。
【0018】
回転体部Rは、ハブ部材10、シャフト34、フランジ44、マグネット46を含んで構成される。ハブ部材10は、略カップ形状の部材であり、中心孔10aと同心の外周円筒部10bと、外周円筒部10bの側方に外延する外延部10cとを有している。また外延部10cの下端側にはリング状で断面がL字形状のバックヨーク48が形成され、このバックヨーク48の内周側にリング状のマグネット46が固着されている。ハブ部材10は、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属を切削加工して形成することができる。なお。ハブ部材10は導電性樹脂を型成型や機械加工して形成することもできる。マグネット46は、例えばNd−Fe−B(ネオジウム−鉄−ボロン)系の材料で形成され表面には電着塗装やスプレー塗装などによる防錆処理が施されている。本実施形態において、マグネット46の内周側は例えば12極に着磁されている。
【0019】
シャフト34は、ハブ部材10に形成された中心孔10aに一端が固定され、他端には、円盤状のフランジ44が固定されている。シャフト34は例えばステンレスなどの導電性を有する金属で形成することができる。フランジ44は、金属材料や導電性を有する樹脂材料で形成することができる。スリーブ40の一端には、フランジ44を収納するフランジ収納空間部40aが形成されている。したがって、スリーブ40は、フランジ44が固定されたシャフト34を円筒内壁面40b及びフランジ収納空間部40aで囲む空間で相対回転を許容しながら支持する。
【0020】
回転体部Rのフランジ44付きシャフト34が固定体部Sのスリーブ40の円筒内壁面40bに沿って挿入される。その結果、回転体部Rはラジアル動圧溝RB1,RB2と潤滑流体52で構成されるラジアル流体動圧軸受部及びスラスト動圧溝SB1、SB2と潤滑流体52で構成されるスラスト流体動圧軸受部を介して固定体部Sに回転自在に支持される。駆動ユニット32は、ステータコア36とコイル38とマグネット46とを含んで構成されている。このとき、バックヨーク48はステータコア36及びマグネット46と共に磁気回路を構成する。したがって、外部に設けられた駆動回路の制御により各コイル38に順次通電することにより、回転体部Rが回転駆動される。
【0021】
なお、本実施形態のハブ部材10の外周円筒部10bは、記録ディスク200の中心穴と係合すると共に、外延部10cが記録ディスク200を位置決め支持する。記録ディスク200の上面には図示を省略したクランパが載せられ、当該クランパがスクリュー(不図示)によってハブ部材10に固定される。これによって記録ディスク200がハブ部材10に一体的に固定され、ハブ部材10と共に回転可能となる。
【0022】
次に、流体軸受ユニット30について説明する。
流体軸受ユニット30は、シャフト34、フランジ44、スリーブ40及びカウンタープレート42とを含んで構成されている。スリーブ40の円筒内壁面40bとそれに対向するシャフト34の外周面はラジアル空間部を形成している。そして、スリーブ40の円筒内壁面40bとシャフト34の外周面の少なくとも一方にはラジアル方向の支持を行うための動圧を発生するラジアル動圧溝RB1、RB2が形成されている。ラジアル動圧溝RB1はハブ部材10から近い側に形成され、ラジアル動圧溝RB2はラジアル動圧溝RB1よりハブ部材10から遠い側に形成されている。ラジアル動圧溝RB1,RB2は、シャフト34の軸方向に離隔して配置された例えばヘリングボーン状またはスパイラル状の溝である。これらのラジアル動圧溝RB1、RB2の形成空間にはオイル等の潤滑流体52が充填されている。したがって、シャフト34が回転することにより潤滑流体52に圧力の高い部分が生る。その圧力によりシャフト34を周囲の壁面から離反させて、当該シャフト34をラジアル方向において実質的に非接触の回転状態とする。
【0023】
前述したように、シャフト34の下端には当該シャフト34と一体的に回転するフランジ44が固定されている。そして、スリーブ40の下面の中央部分にはフランジ44を回転自在に収納するフランジ収納空間部40aが形成されている。このフランジ収納空間部40aは、一端がカウンタープレート42により封止され、フランジ収納空間部40a及びそれに続くシャフト34の収納空間の気密を維持できるようになっている。
【0024】
フランジ44とスリーブ40の軸方向に対向する面の少なくとも一方にスラスト動圧溝SB1が形成され、フランジ44とカウンタープレート42の対向する面の少なくとも一方にはスラスト動圧溝SB2が形成され、潤滑流体52と協働してスラスト流体動圧軸受部を形成している。スラスト動圧溝SB1,SB2は、例えばスパイラル状またはヘリングボーン状に形成されてポンプインの動圧を発生させる。つまり、固定体部S側であるスリーブ40及びカウンタープレート42に対して回転体部R側であるフランジ44が回転することによりポンプインの動圧が発生する。その結果、発生した動圧により固定体部Sに対してフランジ44を含む回転体部Rが軸方向に所定の間隙をもって実質的に非接触の状態となり、ハブ部材26を含む回転体部Rが固定体部Sに対して非接触状態で支持される。
【0025】
本実施形態の場合、ラジアル流体動圧軸受部及びスラスト流体動圧軸受部における間隙に充填された潤滑流体52は互いに共用される。スリーブ40の開放端側は、スリーブ40の内周とシャフト34の外周との隙間が外側に向かって徐々に拡がるようにしたキャピラリーシール部TSを構成している。ラジアル動圧溝RB1、RB2、スラスト動圧溝SB1,SB2を含む空間、キャピラリーシール部TSの途中までには潤滑流体52が満たされている。キャピラリーシール部TSは、毛細管現象により潤滑流体52が充填位置から外部へ漏出することを防止している。なお、キャピラリーシール部TSは、ハブ部材10がカバーの役割をするが、固定体部Sと回転体部Rとの間には隙間が存在するので、ガス化した潤滑流体52が特にヘッド可動領域側に移動することを抑制する抑制壁300が必要になる。
【0026】
図3は、ベース部材50の斜視図である。図3は、データリード/ライト部8や記録ディスク200(図1参照)が収納される清浄空気領域Aが露出した状態で示されている。清浄空気領域Aの中央領域には、流体軸受ユニット30に支持される回転体部Rの少なくとも一部を環囲するように収納する収納穴部302が形成されている。図3の場合、収納穴部302からベース部材50に形成された内筒部50aの先端側が見えている。この内筒部50aの内壁面には流体軸受ユニット30が収納され、外壁面にはステータコア36が固着されることになる。また、清浄空気領域Aには、データリード/ライト部8のボイスコイルモータ8d(図1参照)が配置され、図3にはその駆動軸8eが示されている。
【0027】
本実施形態のベース部材50の清浄空気領域Aは、データリード/ライト部8の記録再生ヘッド8aを回転体部Rの一部であるハブ部材10に載置されるべき記録ディスク200の記録面に臨ませつつ記録面の半径方向に往復移動可能に載置するヘッド可動領域部Bを含む。前述したように、潤滑流体52はディスク駆動装置100の使用時間の経過に伴い微量であるが徐々にキャピラリーシール部TSの気液界面から気化してガスとなる。このガス化した潤滑流体52が、回転体部Rとベース部材50の間の僅かな隙間を通って清浄空気領域A側、すなわちヘッド可動領域部B側に移動することを抑制するために抑制壁300が形成されている。言い換えれば、抑制壁300はヘッド可動領域部Bと収納穴部302との間にガス化した潤滑流体52が清浄空気領域A側に向かって移動することを抑制する機能を有する。ここで、抑制壁300が形成されていない比較構造を図4に示す。図4の場合、ヘッド可動領域部Bで移動する記録再生ヘッド8aが記録ディスク200の内周領域のぎりぎりまで接近できるように収納穴部302の一部が切り欠かれている。一方、本実施形態である図3の構造の場合、図4における切り欠き部に抑制壁300が形成されている。この抑制壁300は収納穴部302のうちヘッド可動領域部Bに対峙する部分だけに、この切り欠き部を実質的に塞ぐように例えば円弧形状で形成されている。この場合、抑制壁300は、収納穴部302と協働して駆動ユニット32の全部とハブ部材10の外延部10cの一部とを径方向で覆うように形成されることになる。別の実施例においては、抑制壁300は収納穴部302の内周の全周に形成されてもよい。このように、抑制壁300は、ヘッド可動領域部Bのうち少なくとも回転体部Rに臨む部分で、この回転体部Rの周囲に沿うように形成されている。なお、抑制壁300は、図3に示すように収納穴部302の一部に形成された部分を指す場合もあるし、収納穴部302の内壁面全てを含む部分を抑制壁300と呼ぶ場合もある。また、抑制壁300はベース部材50を形成するときに一体的に形成されてもよいし、別途抑制壁300を形成してベース部材50に固定してもよい。
【0028】
図5は、抑制壁300を含むベース部材50の部分断面図である。図5に示すように、抑制壁300は収納穴部302の壁面を記録ディスク200に向かって盛り上げたように一体形成した形状であり、回転体部R(例えばハブ部材10)を抑制壁300と収納穴部302の壁面とで連続的に環囲するように形成されている。抑制壁300の上面とそれに対向する記録ディスク200の記録面で定義される回転軸方向の隙間Gは抑制壁300の周方向について一定であることが望ましい。この隙間Gが狭すぎる場合、ディスク駆動装置100の使用時の振動や衝撃により記録ディスク200が抑制壁300と接触してしまう可能性が生じる。一方、隙間Gが広すぎるとディスク駆動装置100の回転軸方向の厚みが厚くなり、ディスク駆動装置100の薄型化、小型化を妨げる要因になってしまう。そこで、発明者らは、種々の実験の結果、隙間Gは、例えば、0.5mmから1.5mmであることが望ましいことを確認した。隙間Gをこの範囲で設定すれば、上述の問題を生じることなくディスク駆動装置100を駆動できる。なお、他の構成部品との関係で、隙間Gが抑制壁300の周方向で部分的に異なってしまう場合も考えられるが、基本的には、抑制壁300がガス化した潤滑流体52の移動を抑制する機能を有すれば、隙間Gが部分的に異なってもよい。ただし、隙間Gが部分的に変化する場合、隙間Gの部分によって発生する空気圧にバラツキが生じるため、回転体部Rが振動する可能性が生じる。そのため、隙間Gは、一定であることが望ましい。また、抑制壁300の内周面とハブ部材10の外周面との隙間Lは、抑制壁300の内周面の全周についても空気圧のバラツキを低減する目的で一定であることが望ましい。
【0029】
図6は、本実施形態のディスク駆動装置100におけるガス化した潤滑流体52の移動経路の例と清浄空気領域A(ヘッド可動領域部B)への移動を抑制壁300が抑制する様子を示す説明図である。キャピラリーシール部TSの気液界面でガス化した潤滑流体52は、図6中矢印で示すように、回転体部Rの回転により発生する気流等により固定体部Sと回転体部Rとの間に形成されている隙間を通り移動する。例えば、ガス化した潤滑流体52は、スリーブ40とハブ部材10との隙間を移動する。さらに、ガス化した潤滑流体52は、駆動ユニット32の内部を通過する。この場合、隣接して配置されたコイル38同士の隙間やコイル38とハブ部材10との隙間、ステータコア36とマグネット46との隙間、マグネット46およびバックヨーク48とベース部材50との隙間、バックヨーク48とベース部材50との隙間を移動する。そして、最終的にハブ部材10と抑制壁300との隙間に至る。このとき、ガス化した潤滑流体52は、移動経路を形成する壁面に付着するが、特に、回転体部Rの回転による遠心力によって回転軸と直交する方向に発生する力により、収納穴部302の内周壁および抑制壁300の内周壁に効果的に衝突させることができる。つまり、収納穴部302の内周壁および抑制壁300によってガス化した潤滑流体52の多くは捕捉される。このように、清浄空気領域Aと流体軸受ユニット30や駆動ユニット32が収納された非清浄空気領域とを抑制壁300によって、隔てることにより、ガス化した潤滑流体52の流出を抑制できる。なお、回転体部Rの一部であるハブ部材10の外延部10cは、記録ディスク200を載置する載置座部として機能する。また、外延部10cの下面には、周状突出部となるバックヨーク48が固定されている。本実施形態の場合、この周状突出部と抑制壁300との隙間Mが載置座部と抑制壁300との隙間Lより狭くなるようにしている(図2参照)。つまり、外延部10cに対応する清浄空気領域Aに近いガス流路の出口より、この出口から遠い部分で流路を絞っている。その結果、抑制壁300におけるガス化した潤滑流体52の捕捉負担を軽減している。つまり、抑制壁300をガス化した潤滑流体52の最終捕捉ポイントとしている。このような構造にすることで、ガス化した潤滑流体52の流出を大幅に抑制できる。図2に示すように、抑制壁300とハブ部材10との間の隙間の距離をLとした場合、L=0.2〜0.4mmとしている。発明者らは、L=0.3mmとすると、良好な捕捉効果を得られるという実験結果を得ている。なお、図6に示すように、スリーブ40とハブ部材10との隙間およびバックヨーク48とベース部材50との隙間に比べ、駆動ユニット32が存在する空間の方が遙かに広い。そのため、ガス化した潤滑流体52は、一旦、駆動ユニット32の存在空間で留まり、その前後の狭い空間に流出し難くなる。この効果を向上させるために本実施形態のディスク駆動装置100においては、バックヨーク48の下端部の形状を外周方向、つまりベース部材50側に突出させて、データリード/ライト部8に遠い側のバックヨーク48とベース部材50との隙間を狭くしている。図2に示すように、バックヨーク48とベース部材50との間の隙間の距離をMとした場合、M=0.05〜0.2mmとしている。発明者らは、M=0.15mmとすると、良好な流出抑制効果を得られるという実験結果を得ている。つまり、常にM>Lになるようにベース部材50、バックヨーク48、ハブ部材10等の部品のサイズを設定することにより、ガス化した潤滑流体52の流出を大幅に抑制できる構造を形成している。
【0030】
上述したように、抑制壁300を設けることにより、ガス化した潤滑流体52のヘッド可動領域部B(清浄空気領域A)の流出を抑制可能となり、ガス化した潤滑流体52またはその一部の成分が、記録再生ヘッド8a等に付着することを抑制できる。その結果、記録再生ヘッド8aと記録ディスク200との実質的な隙間が変化してしまうことが軽減され、記録ディスク200へのデータの書き込みや読み出しのエラーの発生を低減できる。結果的に、ディスク駆動装置の使用可能期間である寿命を延ばすことができる。また、ディスク駆動装置の大容量化に寄与できる。
【0031】
図7は、抑制壁300の他の例を示す説明図であり、抑制壁300がガス化した潤滑流体52を捕捉する捕捉構造体304を有する例を示している。図7の場合、抑制壁300は、収納穴部302の切り欠き部および収納穴部302の内壁の全周面に形成されている例を示している。そして、捕捉構造体304は抑制壁300の内周面の全面に形成されている例を示しているが、抑制壁300の内周面のうち、ヘッド可動領域部Bに対峙する部分のみでもよい。捕捉構造体304は、例えば、多孔質フィルタとすることができる。多孔質とすることで捕捉構造体304の表面積を増大して、効率的にガス化した潤滑流体52を捕捉できる。多孔質フィルタは、抑制壁300の内周面と一体に形成してもよいし、別途形成した多孔質フィルタを表面に固定するものでもよい。また、捕捉構造体304は抑制壁300の壁面に複数の凹凸を形成して構成してもよい。凹凸形状は、例えば、収納穴部302を加工するときに同時に形成してもよし、別途追加工で形成してもよい。凹凸形状の場合も多孔質フィルタと同様に表面積を増加できると共に加工が容易であるため捕捉機能を高めつつ、製造コストの増加を抑制することができる。
【0032】
前述したように、ディスク駆動装置100の使用時には、固定体部Sに対して回転体部Rが回転するので、回転体部Rの回転による遠心力によりガス化した潤滑流体52は、周方向外側に強制的に移動させられて捕捉構造体304に衝突する。その結果、少なくとも抑制壁300の内周面に捕捉構造体304を形成しておくことにより、ガス化した潤滑流体52の捕捉が効率的にできる。
【0033】
本実施形態の抑制壁300は、図8、図9に示すように回転体部R、具体的にはハブ部材10、またはハブ部材10が載置する記録ディスク200の回転により生じる空気の流れを収納穴部302の内部側、つまり非清浄空気領域側に向けるための気流誘導体306を有してもよい。なお、図8、図9は、図7と同様に、ベース部材50の収納穴部302の内側全面に抑制壁300が形成されている例である。図8は、抑制壁300の円筒内周面に気流誘導体306が形成されている例で、例えば、スパイラル状の溝で構成できる。この場合のスパイラル状の溝の形成方向は、ディスク駆動装置100の正常使用時のハブ部材10の回転方向に応じて決定される。ハブ部材10が矢印M方向に回転することによりスパイラル溝306aによりガス化した潤滑流体52は、矢印D方向、つまりベース部材50の下方に誘導される。その結果、ガス化した潤滑流体52が清浄空気領域A側に流出する量をさらに低減できる。同様に、図9は、抑制壁300の上面、つまり、記録ディスク200の記録面と対向する面に形成された気流誘導体306の例である。この場合もハブ部材10が矢印M方向に回転することによりスパイラル溝306bによりガス化した潤滑流体52は、矢印E方向、つまり抑制壁300の内部側に誘導される。その結果、ガス化した潤滑流体52が清浄空気領域A側に流出する量をさらに低減できる。なお、気流誘導体306はスパイラル状の溝に限らず、突起やフィンでもよい。また傾斜面でもよい。
【0034】
ガス化した潤滑流体52が清浄空気領域A側に流出すると、記録ディスク200の記録面にも付着し、記録面の変色を招き品質低下の原因の一つになるが、上述したように、ガス化した潤滑流体52の流出を抑制することにより、記録ディスク200への影響も抑制できるという効果がある。
【0035】
なお、図3に示すように抑制壁300を形成することにより、図4に示すような記録ディスク200の内周側に抑制壁300を形成しない場合より記録再生ヘッド8a(図1参照)が、記録ディスクの内周に接近できない可能性がある。しかし、抑制壁300を記録ディスク200の非記録領域に対応して形成したり、記録ディスク200のトラック密度を向上させる等の容易な対策により接近できない分の記録量の減少を補うことができる。
【0036】
上述した例では、シャフト回転型のディスク駆動装置100について説明したが、シャフト固定型のディスク駆動装置にも適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0037】
以上、実施形態に係るディスク駆動装置について説明した。これらの実施形態は例示であり、本発明の原理、応用を示しているにすぎないことはいうまでもない。実施形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能であり、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0038】
8 データリード/ライト部、 30 流体軸受ユニット、 50 ベース部材、 52 潤滑流体、 100 ディスク駆動装置、 200 記録ディスク、 300 抑制壁、 302 収納穴部、 B ヘッド可動領域部、 304 捕捉構造体、 306 気流誘導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ディスクに対してデータの読み出しまたは書き込みの少なくとも一方を行うヘッドユニットが備えられるべきディスク駆動装置であって、
ベース部材と、
前記記録ディスクが載置されるべき回転体と、
前記ベース部材に対して前記回転体を回転自在に支持する軸受ユニットであって、当該軸受ユニットの軸受部に充填される潤滑流体の気液界面と前記軸受ユニットの表面側とが連通している流体軸受ユニットと、
を備え、
前記ベース部材は、前記ヘッドユニットのヘッド部を前記回転体に載置されるべき前記記録ディスクの記録面に臨ませつつ前記記録面の半径方向に往復移動可能に前記ヘッドユニットを載置するヘッド可動領域部と、前記流体軸受ユニットを収納するとともに当該流体軸受ユニットに支持される前記回転体の少なくとも一部を環囲するように収納する収納穴部とを有し、
前記ヘッド可動領域部と前記収納穴部との間には前記潤滑流体が前記回転体に載置されるべき前記記録ディスク側に向かって移動することを抑制する抑制壁を有することを特徴とするディスク駆動装置。
【請求項2】
前記抑制壁は、前記ヘッド可動領域部のうち少なくとも前記回転体に臨む部分で、前記回転体の周囲に沿うように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のディスク駆動装置。
【請求項3】
前記抑制壁は、前記回転体の全周を連続的に環囲するように形成されるとともに、前記抑制壁と前記回転体との隙間が前記記録ディスクの回転軸方向ついて略一定であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のディスク駆動装置。
【請求項4】
前記抑制壁は、前記回転体の回転により発生する前記記録ディスク側に向かう気流により搬送される前記潤滑流体を含む空気と接触するように形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のディスク駆動装置。
【請求項5】
前記抑制壁は、前記潤滑流体を捕捉する捕捉構造を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のディスク駆動装置。
【請求項6】
前記捕捉構造は、多孔質フィルタであることを特徴とする請求項5に記載のディスク駆動装置。
【請求項7】
前記捕捉構造は、抑制壁面に形成された凹凸であることを特徴とする請求項5に記載のディスク駆動装置。
【請求項8】
前記抑制壁は、前記回転体または当該回転体が載置すべき前記記録ディスクの回転により生じる空気の流れを前記収納穴部の内部側に向けるための気流誘導構造を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のディスク駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−80542(P2013−80542A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220462(P2011−220462)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(508100033)アルファナテクノロジー株式会社 (100)
【Fターム(参考)】