説明

ディテント装置

【課題】誤った組付けを確実に防止できるディテント装置を提供し、さらに、ディテントスプリングの組込みが容易なディテント装置を提供する。
【解決手段】回動可能なディテントプレート12を収納するケース2と、先端部21aをディテントプレート12側に付勢するようケース2にボルト締結された締結部21bを有し、ディテントプレート12を特定位置に弾性的に保持するディテントスプリング21と、を備えたディテント装置において、ケース2が、ボルト締付け回転方向へのディテントスプリング21の回動を規制しディテントスプリング21を締付け回転方向の特定位置に位置決めする回り止め面部31aと、その回り止め面部31aからボルト19の軸方向のゆるみ側および回転方向に向かう傾斜方向に延在し、ディテントスプリング21を回り止め面部31aに係合するよう案内するガイド面部31bと、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディテント装置に関し、特にねじ締結によりケースに固定されるディテントスプリングを有するディテント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可動部材をその変位方向の特定の位置で弾性的に保持し、その位置の切換えを可能ならしめるディテント装置においては、その保持力を発生するとともに可動部材の作動位置の良好な切換え操作感を発生させるディテントスプリングが多用されている。
【0003】
従来のこの種のディテント装置としては、例えば自動変速機の複数の作動モード(変速レンジ)の選択位置、すなわちセレクトレバーの切換え位置を弾性的に保持するものがあり、この装置では、ディテントスプリングを変速機ケースに1本のボルトで締結し、その締結の際のディテントスプリングの回り止めのために、ディテントスプリングおよびスプリングカバーにそれぞれ変速機ケースの内壁面に当接する位置決め腕部を設けている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−154963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来のディテント装置にあっては、ディテントスプリングの位置決め腕部に当接する変速機ケースの内壁面が、ディテントスプリングの締付け回転方向における回り止め面部となることから、変速機ケースの内壁にディテントスプリングの着脱方向(ボルト軸線方向)と平行に延びる専用のリブを設けてそのリブにより回り止め面部を形成することで、回り止め面部の位置精度を確保していた。
【0005】
そのため、ディテントスプリングの取り付け側となるその専用リブの端部に段差ができてしまい、ディテントスプリングがその段差に引っ掛かり誤った組付け姿勢となっても、正常な組付け姿勢との差がわずかであるために見逃し易く、ディテントスプリングの誤った組付け作業を行ってしまう可能性があった。
【0006】
これに対し、例えばリブによる段差をなくすこともできるが、その場合、回り止め面部が局部的でなく広い面に及ぶことになり、その回り止め面部の位置精度確保が容易でないばかりか、ディテントスプリングの組込みまで難しくなってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、誤った組付けを確実に防止することができるディテント装置を提供することを目的とし、さらに、ディテントスプリングの組込みが容易なディテント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るディテント装置は、上記目的達成のため、(1)予め設定された変位方向に変位可能な可動部材を収納するケースと、前記可動部材に係合する先端部および該先端部を前記可動部材側に付勢するよう前記ケースにねじ締結部材により締結された締結部を有し、前記先端部から前記可動部材に加わる付勢力により前記可動部材を特定位置に弾性的に保持するディテントスプリングと、を備えたディテント装置において、前記ケースが、前記ねじ締結部材の締付け回転方向への前記ディテントスプリングの回動を規制し前記ディテントスプリングを前記締付け回転方向の特定の位置に位置決めする回り止め面部と、該回り止め面部から前記ねじ締結部材の軸方向のゆるみ側および前記ねじ締結部材の回転方向に向かう傾斜方向に延在し、前記ディテントスプリングを前記回り止め面部に係合するよう案内するガイド面部と、を有することを特徴とする。
【0009】
この構成により、ディテントスプリングがケースに組み込まれる際にディテントスプリングが回り止め面部よりも締付け回転方向にずれて組み込まれたとしても、ディテントスプリングがガイド面部に係合して大きく傾くことから、作業者が組付け状態の誤りに気付き易い。また、ディテントスプリングがガイド面部に係合した状態でねじ締結部材の締付けがなされたとしても、その締付けに伴ってディテントスプリングがガイド面部に沿って回り止め面部に案内され、ディテントスプリングの回動が回り止め面部によって規制される状態に移行した後に、ねじ締結部材によるディテントスプリングのケースへの締結が完了する。したがって、誤った組付けを確実に防止することができるディテント装置となる。また、回り止め面部を単に長くするのに比べて軽量でかつ低コストにできる。
【0010】
上記(1)に記載のディテント装置においては、(2)前記ガイド面部が、前記回り止め面部から前記締付け回転方向に向かって前記傾斜方向に延在しているのが好ましい。
【0011】
この構成により、ケース側の開口がディテントスプリングを組み込む側で広がるようにケースの内壁が形成されることになり、ディテントスプリングのケースへの組込みが容易になる。
【0012】
上記(1)、(2)記載のディテント装置においては、(3)前記回り止め面部および前記ガイド面部が、前記ケースの内壁面から突出するリブによって形成されているのが好ましい。
【0013】
この構成により、回り止め面部の位置精度を容易に確保できる。
【0014】
上記(1)ないし(3)記載のディテント装置においては、(4)前記ディテントスプリングが、前記締結部から前記先端部に延びるスプリング部分と、前記締結部から前記回り止め面部に向かって延びる位置決め腕部と、によって構成されているのがよい。
【0015】
この構成により、ディテントスプリングの組付け時にスプリング部分にスプリング作動方向以外の大きな力が加わることがなく、スプリング特性を損なうおそれがないことに加えて、ディテントスプリングの取り扱いも容易となる。なお、組込み時の締結の前後でディテントスプリングの形状が大きく変化し、締結開始時にディテントスプリングの姿勢が傾くような場合には、その傾き方向と直交する方向、例えばスプリング部分の延在方向と直交する方向に前記位置決め腕部を延在させることにより、締結開始から締結完了までディテントスプリングを設定された回り止め位置に位置決めできる。
【0016】
上記(4)記載のディテント装置においては、(5)前記位置決め腕部が、前記締結部から前記回り止め面部に向かって延びる片持ち腕部および該片持ち腕部の自由端側で前記回り止め面部に近接する前記ねじ締結部材の軸線方向一方側に曲げ加工された曲げ端部を有するのがよい。
【0017】
この構成により、ディテントスプリングがケースに組み込まれる際に、ディテントスプリングの位置決め腕部の曲げ端部が最初に回り止め面部に係合し、組込み時の早い段階からガイド面部によるガイド作用が発揮されることになる。
【0018】
上記(4)または(5)記載のディテント装置においては、(6)前記ディテントスプリングが、板ばね材からなり、前記位置決め腕部が前記回り止め面部と直交する板面を有しているのがよい。
【0019】
この構成により、締付け時の位置決め腕部の撓みを抑え、所要の回り止め機能および位置決め機能を確保することができる。
【0020】
上記(1)〜(6)記載のディテント装置においては、(7)前記可動部材が、前記ケースに回動変位可能に支持され、前記ディテントスプリングが、前記可動部材への付勢力により、前記可動部材の前記特定位置からの回動変位を予め設定された保持トルクの範囲内で抑制するものであっても好ましい。
【0021】
この構成により、可動部材が特定の回転位置で回転を抑制され、可動部材の作動状態が的確に保持される。
【0022】
上記(7)記載のディテント装置においては、(8)前記ケースが、複数の変速モードに切換えられる車両用動力伝達装置の一部を構成し、前記ディテントスプリングが、前記可動部材を予め設定された複数の変速モード選択位置のうち任意の変速モード選択位置に保持するものであってもよい。
【0023】
この構成により、動力伝達装置のケース内の任意の変速モード選択位置が的確に弾性的に保持されるとともに、適度の操作感が得られる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ディテントスプリングがケースに組み込まれる際にディテントスプリングが回り止め面部よりも締付け回転方向にずれて組み込まれたとしても、ディテントスプリングがガイド面部に係合して大きく傾くことで、作業者に組付け状態の誤りを気付かせ易く、仮に、ディテントスプリングがガイド面部に係合した状態でねじ締結部材の締付けがなされたとしても、その締付けに伴ってディテントスプリングがガイド面部に沿って回り止め面部に案内され、ディテントスプリングの回動が回り止め面部によって規制される状態に移行した後に、ねじ締結部材によるディテントスプリングのケースへの締結が完了するようにしているので、誤った組付けを確実に防止することができるディテント装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係るディテント装置を装着した車両用動力伝達装置の要部斜視図であり、図2は、一実施形態に係るディテント装置を用いた車両用動力伝達装置のシフトバイワイヤ機構部分を示すその部分破砕側面図、図3は図2のIII−III矢視断面図、図4は図2のIV−IV矢視断面図である。
【0027】
まず、構成について説明する。
【0028】
図1および図2に示すように、本実施形態のディテント装置10は、複数の変速モードに切換えられる車両用の動力伝達装置1内に設けられている。
【0029】
この動力伝達装置1は、少なくとも車両用変速機を構成するもので、詳細を図示しないが、トランスミッションケースの一部を構成するケース2内に変速機構である遊星歯車機構と、左右駆動軸の差動出力が可能なディファレンシャル機構とを収納し、さらに遊星歯車機構の入力要素を駆動するモータ型駆動手段を装着したトランスアクスルタイプとなっている。
【0030】
動力伝達装置1には、さらに運転者によってシフト操作されるシフトレバーと、そのシフト操作位置である選択レンジを検出するレンジ検出センサと、そのレンジ検出センサの検出情報に基づいて動力伝達装置1の作動を電子制御するECU(電子制御ユニット)とが装備されており、複数の走行レンジ(複数の前進レンジ(例えば、D、L、2)、後進レンジ(例えば、R))、ニュートラルレンジ(例えば、N)およびパーキングレンジ(例えば、P)のうち任意のレンジを、シフトレバーの操作によって選択できるようになっている。
【0031】
ここで、遊星歯車機構は、複数のギヤを一体化した出力側のカウンタードライブギヤの一部に図2に示すようなパーキングロックギヤ3を有している。なお、このような全体の概略構成については、例えば特開2005−83491号公報に記載されており、公知である。
【0032】
図2および図3に示すように、動力伝達装置1には、シフトレバーの操作によってパーキングレンジ(P)が選択されたときに、パーキングロックギヤ3をパーキングロックポール4によって機械的にロックし、シフトレバーのシフト操作によってパーキングレンジ(P)以外のレンジが選択されたときに、パーキングロックポール4によるパーキングロックギヤ3のロックを解除するパーキングロック機構5が付設されている。
【0033】
パーキングロック機構5は、ケース2に外装されたアクチュエータであるシフトバイワイヤモータ(以下、SBWモータという)11と、このSBWモータ11にスプライン結合されるシャフト部12aを介し、SBWモータ11によって回転操作されるディテントプレート12と、ディテントプレート12に連結棒13を介して揺動可能に連結されるとともにケース2内のガイド部14に係合するテーパ段付きカム15と、一端側でケース2に回動可能に支持され、他端側でテーパ段付きカム15に係合するパーキングロックポール4とを含んで構成されており、パーキングロックポール4はその中間部にパーキングロックギヤ3に係合および離脱可能なロックポール部4aを有している。
【0034】
ガイド部14は、テーパ段付きカム15がディテントプレート12によって図3中の上方側に駆動されるときにテーパ段付きカム15の円錐台形状のカム部15aに係合する傾斜ガイド面14aを有しており、テーパ段付きカム15が傾斜ガイド面14aに沿って図3中の上方側および左方側(軸方向一方側および径方向)に移動するとき、パーキングロックギヤ3がその他端側でパーキングロックギヤ3に接近するように駆動されるようになっている。また、テーパ段付きカム15が傾斜ガイド面14aに沿って図3中の下方側および右方側(軸方向他方側および径方向)に移動するとき、パーキングロックギヤ3がその他端側でパーキングロックギヤ3から離隔するように、パーキングロックギヤ3とガイド部14の間にも図示しない復帰ばねが介装されており、ケース2とディテントプレート12の間には捩り復帰ばね16が介装されている。
【0035】
ここで、ケース2内に回動可能に収納されるとともに、その基端側でケース2に軸支持されたディテントプレート12は、予め設定された回転方向(回動変位方向)に変位可能な可動部材となっており、このディテントプレート12には、シャフト部12aから離れた側にパーキングレンジ(P)に対応する凹部12bと、それに隣り合うレンジ、例えばニュートラルレンジ(N)に対応する凹部12cと、その他のレンジに対応する凹部12dとが、それぞれ形成されている。
【0036】
また、ディテントプレート12は、ディテントスプリング21によって、回動変位方向の特定位置、少なくともパーキングレンジ(P)に対応する回動位置と、それに隣り合うニュートラルレンジ(N)に対応する回動位置とで、それぞれその特定位置からの回動変位を予め設定された保持トルクの範囲内で抑制されるようになっている。
【0037】
ディテントスプリング21は、ローラ22を介してディテントプレート12の凹部12b〜12dのいずれかに係合する先端部21aと、その先端部21aをディテントプレート12側に付勢するようケース2に1本のボルト19(単一のねじ締結部材)により締結された締結部21bとを有しており、先端部21a側で予め設定された曲率半径をもって湾曲した板ばね材からなる。ディテントスプリング21の締結部21bを支持するケース2の雌ねじ穴形成部分2aの上面はその雌ねじ穴の中心軸線と直交している。
【0038】
また、ディテントスプリング21は、先端部21aが図3に示すようにディテントプレート12に係合した状態で、その先端部21aからディテントプレート12側に図3中の下方側に向かう押圧力を加えることができ、その押圧力によって、ディテントプレート12を特定位置に弾性的に保持するようになっている。
【0039】
すなわち、ディテントスプリング21は、ディテントプレート12に付勢力を加えることにより、ディテントプレート12の特定位置からの回動変位を予め設定された保持トルクの範囲内で抑制するようになっており、このディテントスプリング21からディテントプレート12への付勢力により、ディテントプレート12が予め設定された複数の変速モード選択位置のうち任意の変速モード選択位置に保持されるようになっている。そして、前述のケース2、ディテントプレート12、復帰ばね16、ボルト19、ディテントスプリング21およびローラ22および押え板23等によって、パーキングロック機構5の一部をなす本実施形態のディテント装置10が構成されている。
【0040】
一方、ケース2には、ボルト19の締付け回転方向(図2中の時計回り方向)へのディテントスプリング21の回動を規制してディテントスプリング21を締付け回転方向の特定の位置(図2中に示すディテントスプリング21の位置)に位置決めする回り止め面部31aと、その回り止め面部31aからボルト19の軸方向のゆるみ側(図3中の上方側)およびボルト19の回転方向一方側に向かう傾斜方向に延在し、ディテントスプリング21を回り止め面部31aに係合するよう案内するガイド面部31bと、がそれぞれ設けられている。また、ケース2のガイド面部31bは、回り止め面部31aから前述の締付け回転方向に向かって傾斜方向に延在しており、回り止め面部31aおよびガイド面部31bは、ケース2の内壁面、例えば高いリブ状壁部2rの側面から突出するリブ31によって形成されている。
【0041】
本実施形態においては、回り止め面部31aおよびガイド面部31bは、共に略一定の幅を有する帯状をなしており、その接合部分は湾曲面(一定の曲率半径を有する円弧断面の湾曲面)となっているが、ガイド面部31bの上端側ほど幅広くなっていてもよい。
【0042】
リブ31は、例えばケース2と一体で略台形の横断面を有する。このリブ31のうち少なくともディテントスプリング21の位置決め腕部21dと係合する回り止め面部31aの一部もしくは全部は、ボルト19(およびボルト19を締結するケース2側のボルト穴部分(図中に符号なし))の中心軸線と平行な直線を含む平面または曲面となっている。
【0043】
ガイド面部31bは、例えば図4に示すように回り止め面部31aに対して平坦な傾斜面であるが、湾曲面をなすものであってもよい。
【0044】
図4に示すようにガイド面部31bが回り止め面部31aに対して平坦な傾斜面である場合、ボルト19の中心軸線と平行な回り止め面部31aに対してガイド面部31bのなす傾斜角θは、45度以下となるように設定され、ディテントスプリング21に加わるボルト19の軸線方向の締付け側への押圧力が、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dをガイド面部31bに垂直に押し当てる分力に対し、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dをガイド面部31bに沿って回り止め面部31a側に摺動させ案内する相対的に大きな分力を生じさせるようになっている。
【0045】
ディテントスプリング21は、具体的には、締結部21bから先端部21aまで延在するスプリング部分21cと、締結部21bの近傍(例えば、ボルト19による締結中心軸線よりスプリング部分21cから離れる側の近傍)から回り止め面部31aに向かってスプリング部分21cに対し略直交する方向に突出する位置決め腕部21dとから構成されており、ディテントスプリング21のスプリング部分21cは、締結部21b側を固定端とし、ローラ22を軸支持する二股の先端部21a側を自由端とする肩持ち梁状になっている。
【0046】
また、ディテントスプリング21の締結部21bには、座金機能を有する押え板23がその一端部23aでかしめ等により固定されており、押え板23の他端部23bはディテントスプリング21のスプリング部分21cの図3中の上面側で上方側に湾曲している。この押え板23の他端部23bは、ディテントスプリング21のスプリング部分21cがディテントプレート12によって図3中の上方側に押し上げられるとき、スプリング部分21cの曲げの支点あるいはその撓み曲線形状を規定するように幅方向全域で同一の曲率半径で湾曲、例えば円曲している。
【0047】
さらに、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dは、回り止め面部31aと直交する板面を有するとともに、締結部21bから回り止め面部31aに向かって延びる片持ち腕部21eと、その片持ち腕部21eの自由端側で回り止め面部に近接するボルト19の軸線方向一方側(図3中の下方側)に曲げ加工された曲げ端部21fとによって構成されている。
【0048】
ディテントスプリング21の曲げ端部21fは、ディテントスプリング21が図2に示す回り止め状態での回動変位方向の位置よりも締付け回転方向(図2中の時計回り方向)にずれて組み込まれるとき、その先端部分でガイド面部31bに係合するようになっており、その先端部両側縁が面取りされているかその先端縁部が略半円状になっている。
【0049】
次に、その作用について説明する。
【0050】
上述のように構成された本実施形態においては、ディテントスプリング21がボルト19による締結に先立ってケース2内に組み込まれる際、ディテントスプリング21が図2に示す回動方向位置よりも締付け回転方向(図2中の時計回り方向)に、あるいは逆方向にずれて組み込まれ得る。すなわち、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dが回り止め面部31aに達し得る深さ位置までケース2内に挿入されなかったり、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dが回り止め面部31aに達し得る深さ位置までケース2内に挿入されたものの、回り止め面部31aから締付け解除方向に離れていたりすることがある。
【0051】
いま、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dが回り止め面部31aよりも締付け回転方向にずれ、ガイド面部31bに係合した状態となっているとすると、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dの曲げ端部21fの先端がガイド面部31bに係合し、ディテントスプリング21は大きく傾いた状態となる。したがって、作業者は、ディテントスプリング21の組込み状態が誤っていることに気付き易い。
【0052】
それにも拘わらず、ここで、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dが回り止め面部31aよりも締付け回転方向にずれた状態で組み込まれ、ディテントスプリング21がガイド面部31bに係合した状態でボルト19の締付けが開始されたとする。
【0053】
このとき、そのボルト19の締付け開始に伴ってディテントスプリング21の位置決め腕部21dがガイド面部31bに沿って回り止め面部31aに係合するように案内され、ディテントスプリング21の回動が回り止め面部31aによって規制される状態に移行する。
【0054】
一方、ディテントスプリング21がケース2の雌ねじ穴形成部分2aの上面に載置されるように押し付けられるか、ボルト19の締付けが開始されるときに、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dが回り止め面部31aから締付け解除方向に離れている場合には、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dが回り止め面部31aに当接するまでディテントスプリング21が締付け回転方向に回動することになる。
【0055】
さらに、ディテントスプリング21がケース2の雌ねじ穴形成部分2aの上面に載置されるように押し付けられるか、ボルト19の締付けが開始されるときに、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dが回り止め面部31aに係合している場合には、ボルト19の締付け開始時からディテントスプリング21が回り止め面部31aによってその締付け回転方向の回動変位を規制されることになる。
【0056】
したがって、ディテントスプリング21がケース2にどのように組み込まれた場合であっても、ディテントスプリング21の誤った組込み時には作業者にそれが認識され易く、ボルト19の締付けがさらに進むときには、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dがガイド面部31bに沿って回り止め面部31aに確実に案内され、ボルト19の締付け回転方向へのディテントスプリング21の回動が回り止め面部31aによって確実に規制される。
【0057】
このように、仮にディテントスプリング21がガイド面部31bに係合した状態でボルト19の締付けがなされたとしても、その締付けに伴ってディテントスプリング21がガイド面部31bに沿って回り止め面部31aに確実に案内され、ディテントスプリング21の回動が回り止め面部31aによって規制される状態に移行した後に、ボルト19によるディテントスプリング21のケース2への締結が完了することになる。したがって、ディテント装置10においては、ディテントスプリング21の誤った組付けを確実に防止することができる。
【0058】
しかも、回り止めリブの端部に段差ができていた従来例と比較すると、ガイド面部31bを形成する分だけケース2の成形型を掘り込むだけでよく、リブ31を単に長く形成する場合に比べて、低コストに実施できるばかりでなく、ケース2の重量の増加も少なくて済む。
【0059】
また、本実施形態においては、ガイド面部31bが、回り止め面部31aから締付け回転方向に向かって傾斜方向に延在しているので、ケース2側の開口がディテントスプリング21を組み込む側で広がるようにケース2の内壁が形成されることになり、ディテントスプリング21のケース2への組込みが容易になるとともに、回り止め面部31aおよびガイド面部31bがケース2の内壁面から突出するリブ31によって形成されていることから、回り止め面部31aの位置精度を容易に確保できることになる。
【0060】
さらに、ディテントスプリング21が、その締結部21bから先端部21aに延びるスプリング部分21cと、締結部21bから回り止め面部31aに向かってスプリング部分21cに対し略直交する方向に延びる位置決め腕部21dと、によって構成されているので、ディテントスプリング21の組付け時にスプリング部分21c分にスプリング作動方向以外の大きな力が加わることがなく、スプリング特性を損なうおそれがないことに加えて、ディテントスプリング21の取り扱いも非常に容易なものとなり、しかも、締結開始から締結完了までディテントスプリング21を設定された回り止め位置に容易に位置決めできる。
【0061】
加えて、位置決め腕部21dが、締結部21bから回り止め面部31aに向かって延びる片持ち腕部21eと、その片持ち腕部21eの自由端側で回り止め面部31aに近接するボルト19の軸線方向一方側に曲げ加工された曲げ端部21fとを有するので、ディテントスプリング21がケース2に組み込まれるときに、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dの曲げ端部が最初に回り止め面部31aに係合することになり、組込み時の早い段階からガイド面部31bによるガイド作用が発揮されることになる。
【0062】
また、ディテントスプリング21が、板ばね材からなり、位置決め腕部21dが回り止め面部31aと直交する板面を有しているので、位置決め腕部21dの締付け回転方向へ曲げ剛性を大きくして締付け時の位置決め腕部21dの撓みを抑えることができ、所要の回り止め機能および位置決め機能を十分に確保することができる。
【0063】
さらに、ディテントプレート12が、ケース2に回動変位可能に支持され、ディテントスプリング21がディテントプレート12への付勢力によってディテントプレート12の特定位置からの回動変位を予め設定された保持トルクの範囲内で抑制するので、ディテントプレート12が特定の回転位置で回転を抑制され、ディテントプレート12の作動状態が的確に保持される。
【0064】
また、本実施形態においては、ケース2が、車両用の動力伝達装置1の一部を構成し、ディテントスプリング21が、ディテントプレート12を予め設定された複数の変速モード選択位置のうち任意の変速モード選択位置に保持するので、動力伝達装置1のケース2内の任意の変速モード選択位置が的確に弾性的に保持されるとともに、モード切換え時に適度の操作感が得られる。
【0065】
このように、本実施形態のディテント装置10によれば、ディテントスプリング21がケース2に組み込まれる際に、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dが回り止め面部31aよりも締付け回転方向にずれて組み込まれたとしても、ディテントスプリング21がガイド面部31bによって回り止め面部31aに係合するよう案内され、ボルト19の締付けが進むときには、ボルト19の締付け回転方向へのディテントスプリング21の回動が回り止め面部31aによって規制されるようにし、また、ディテントスプリング21がガイド面部31bに係合した状態でボルト19の締付けが開始されたとしても、その締付けに伴ってディテントスプリング21がガイド面部31bに沿って回り止め面部31aに案内され、ディテントスプリング21の回動が回り止め面部31aによって規制される状態に移行した後に、ボルト19によるディテントスプリング21のケース2への締結が完了するようにしているので、誤った組付けを確実に防止することができる。
【0066】
なお、上述の実施形態においては、ディテントスプリング21がケース2側の回り止め面部31aに当接するようスプリング部分21cに対して略直交する方向に突出する位置決め腕部21dを有していたが、スプリング部分21cに対して略平行な方向に突出する位置決め腕部を有していてもよいし、ディテントスプリングのスプリング部自体をその基端部でケース側の回り止め面部に当接させることもできる。
【0067】
また、上述の実施形態においては、リブ31は、ケース2と一体で略台形の横断面を有するものとしたが、リブ31は必ずしもケース2と一体でなくてもよく、回り止め面部31aおよびガイド面部31bの幅方向両側縁部の面取り形状を大きくして略半円形状や略三角形の横断面を有するものとしてもよい。
【0068】
さらに、上述の実施形態におけるガイド面部31bは、図4に示すように回り止め面部31aに対して平坦な傾斜面であったが、湾曲面をなすものであってもよく、湾曲したガイド面部31bが凸面であってもよいし、凹面であってもよい。ただし、その場合、ガイド面部31bのいずれの高さにおいても、ボルト19の中心軸線と平行な回り止め面部31aに対して一方向に湾曲したガイド面部31b上の接線のなす傾斜角が45度以下となるようにガイド面部31bの傾斜面形状を設定し、ディテントスプリング21に加わるボルト19の軸線方向の締付け側への押圧力が、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dをガイド面部31bに沿って回り止め面部31aに摺動させ案内する相対的に大きな分力と、ディテントスプリング21の位置決め腕部21dをガイド面部31bに垂直に押し付ける相対的に小さな分力とを生じるようにしておくのがよい。
【0069】
以上説明したように、本発明に係るディテント装置は、ディテントスプリングがケースに組み込まれる際にディテントスプリングが回り止め面部よりも締付け回転方向にずれて組み込まれたとしても、ディテントスプリングがガイド面部によって回り止め面部に係合するよう案内され、ねじ締結部材により締結するときには、ねじ締結部材の締付け回転方向へのディテントスプリングの回動が回り止め面部によって規制されるようにし、また、ディテントスプリングがガイド面部に係合した状態でねじ締結部材の締付けがなされたとしても、その締付けに伴ってディテントスプリングがガイド面部に沿って回り止め面部に案内され、ディテントスプリングの回動が回り止め面部によって規制される状態に移行した後に、ねじ締結部材によるディテントスプリングのケースへの締結が完了するようにしているので、誤った組付けを確実に防止することができるディテント装置を提供することができるという効果を奏するものであり、ねじ締結によりケースに固定されるディテントスプリングを有するディテント装置全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態に係るディテント装置を装着した車両用動力伝達装置の要部斜視図である。
【図2】一実施形態に係るディテント装置を用いた車両用動力伝達装置のシフトバイワイヤ機構部分を示すその部分破砕側面図である。
【図3】図2のIII−III矢視断面図である。
【図4】図2のIV−IV矢視断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 動力伝達装置
2 ケース
2a 雌ねじ穴形成部分(スプリング取付け部)
3 パーキングロックギヤ
4 パーキングロックポール
5 パーキングロック機構
10 ディテント装置
11 SBWモータ(シフトバイワイヤモータ)
12 ディテントプレート(可動部材、回動部材)
12a シャフト部
12b、12c、12d 凹部
19 ボルト(ねじ締結部材)
21 ディテントスプリング
21a 先端部
21b 締結部
21c スプリング部分
21d 位置決め腕部
21e 片持ち腕部
21f 曲げ端部
22 ローラ
23 押え板
31 リブ
31a 回り止め面部
31b ガイド面部
θ 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された変位方向に変位可能な可動部材を収納するケースと、
前記可動部材に係合する先端部および該先端部を前記可動部材側に付勢するよう前記ケースにねじ締結部材により締結された締結部を有し、前記先端部から前記可動部材に加わる付勢力により前記可動部材を特定位置に弾性的に保持するディテントスプリングと、を備えたディテント装置において、
前記ケースが、前記ねじ締結部材の締付け回転方向への前記ディテントスプリングの回動を規制し前記ディテントスプリングを前記締付け回転方向の特定の位置に位置決めする回り止め面部と、該回り止め面部から前記ねじ締結部材の軸方向のゆるみ側および前記ねじ締結部材の回転方向に向かう傾斜方向に延在し、前記ディテントスプリングを前記回り止め面部に係合するよう案内するガイド面部と、を有することを特徴とするディテント装置。
【請求項2】
前記ガイド面部が、前記回り止め面部から前記締付け回転方向に向かって前記傾斜方向に延在していることを特徴とする請求項1に記載のディテント装置。
【請求項3】
前記回り止め面部および前記ガイド面部が、前記ケースの内壁面から突出するリブによって形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のディテント装置。
【請求項4】
前記ディテントスプリングが、前記締結部から前記先端部に延びるスプリング部分と、前記締結部から前記回り止め面部に向かって延びる位置決め腕部と、によって構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちいずれか1の請求項に記載のディテント装置。
【請求項5】
前記位置決め腕部が、前記締結部から前記回り止め面部に向かって延びる片持ち腕部および該片持ち腕部の自由端側で前記回り止め面部に近接する前記ねじ締結部材の軸線方向一方側に曲げ加工された曲げ端部を有することを特徴とする請求項4に記載のディテント装置。
【請求項6】
前記ディテントスプリングが、板ばね材からなり、前記位置決め腕部が前記回り止め面部と直交する板面を有していることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のディテント装置。
【請求項7】
前記可動部材が、前記ケースに回動変位可能に支持され、
前記ディテントスプリングが、前記可動部材への付勢力により、前記可動部材の前記特定位置からの回動変位を予め設定された保持トルクの範囲内で抑制することを特徴とする請求項1ないし請求項6のうちいずれか1の請求項に記載のディテント装置。
【請求項8】
前記ケースが、複数の変速モードに切換えられる車両用動力伝達装置の一部を構成し、
前記ディテントスプリングが、前記可動部材を予め設定された複数の変速モード選択位置のうち任意の変速モード選択位置に保持することを特徴とする請求項7に記載のディテント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−257385(P2009−257385A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104882(P2008−104882)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】