説明

ディファレンシャル

【課題】低コストに製造されるディファレンシャル、を提供する。
【解決手段】ディファレンシャルは、動力が入力されるリングギヤ21と、リングギヤ21が固定され、互いに組み合わされる分割ディファレンシャルケース31および分割ディファレンシャルケース36とを備える。リングギヤ21の内周部に分割ディファレンシャルケース31および分割ディファレンシャルケース36の一部がそれぞれ内接する。リングギヤ21の内周部に対する溶接により、リングギヤ21と、分割ディファレンシャルケース31および分割ディファレンシャルケース36とが結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、ディファレンシャルに関し、より特定的には、分割構造のディファレンシャルケースを有するディファレンシャルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のディファレンシャルに関して、たとえば、特開2008−161937号公報には、所要の精度の高強度部を有する一方で、接合部における所要の強度を維持することを目的とした溶接接合製品が開示されている(特許文献1)。特許文献1に溶接接合製品として開示されたディファレンシャル装置のデフケースは、溶融溶接によって互いに接合された第1デフケースおよび第2デフケースから構成されている。
【0003】
また、特開2007−170622号公報には、ボルト接合、螺着接合、ビーム溶接などの複雑または高コストの接合を不要とすることを目的としたトルク伝達部材の接合構造が開示されている(特許文献2)。また、特開平11−148548号公報には、製造コストを実質的に低減することを目的とした作動制限装置が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−161937号公報
【特許文献2】特開2007−170622号公報
【特許文献3】特開平11−148548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献に開示されるように、車両上には、車両の旋回時の左右車輪の回転速度を変え、かつ両輪に均等な駆動力を伝えるための装置としてディファレンシャルが搭載される。ディファレンシャルは、動力を伝達する複数のギヤと、ギヤを収容するディファレンシャルケースとを主要な構成部品としている。
【0006】
このディファレンシャルが作動制限装置(LSD:Limited Slip Differential)を備える場合などには、その構造上の理由から、ディファレンシャルケースが分割構造とされる。しかしながら、この場合、部品同士の溶接位置が増えることになるため、製造コストが増大する。
【0007】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、低コストに製造されるディファレンシャルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に従ったディファレンシャルは、動力が入力されるリングギヤと、リングギヤが固定され、互いに組み合わされる第1ディファレンシャルケースおよび第2ディファレンシャルケースとを備える。リングギヤの内周部に第1ディファレンシャルケースおよび第2ディファレンシャルケースの一部がそれぞれ内接する。リングギヤの内周部に対する溶接により、リングギヤと、第1ディファレンシャルケースおよび第2ディファレンシャルケースとが結合されている。
【0009】
このように構成されたディファレンシャルによれば、溶接箇所を少なくすることによって、ディファレンシャルを低コストに製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上に説明したように、この発明に従えば、低コストに製造されるディファレンシャルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態におけるディファレンシャルを示す背面図である。
【図2】図1中のII−II線上に沿ったディファレンシャルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0013】
図1は、この発明の実施の形態におけるディファレンシャルを示す背面図である。図2は、図1中のII−II線上に沿ったディファレンシャルを示す断面図である。
【0014】
図1および図2を参照して、まず、本実施の形態におけるディファレンシャル10の基本的な構造について説明すると、ディファレンシャル10は、動力が入力されるリングギヤ21と、リングギヤ21が固定され、互いに組み合わされる第1ディファレンシャルケースとしての分割ディファレンシャルケース31および第2ディファレンシャルケースとしての分割ディファレンシャルケース36とを備える。リングギヤ21の内周部に分割ディファレンシャルケース31および分割ディファレンシャルケース36の一部がそれぞれ内接する。リングギヤ21の内周部に対する溶接により、リングギヤ21と、分割ディファレンシャルケース31および分割ディファレンシャルケース36とが結合されている。
【0015】
続いて、本実施の形態におけるディファレンシャル10の構造について詳細に説明する。
【0016】
ディファレンシャル10は、車両の旋回時の左右車輪の回転速度を変え、かつ両輪に均等な駆動力を伝えるための装置として、車両に搭載されている。ディファレンシャル10は、仮想軸である中心軸101を中心に回転する図示しない左右のドライブシャフトの間に設けられている。ディファレンシャル10は、リングギヤ21、ディファレンシャルケース30、ピニオンギヤ26およびサイドギヤ27を有する。
【0017】
リングギヤ21は、ディファレンシャルケース30の外周上に設けられている。リングギヤ21は、図示しないドライブピニオンに噛み合うように設けられている。ドライブピニオンの回転がリングギヤ21に入力されることによって、リングギヤ21およびディファレンシャルケース30が一体となって、中心軸101を中心に回転する。
【0018】
ディファレンシャルケース30には、ピニオンギヤ26が設けられ、図示しない左右のドライブシャフトには、それぞれサイドギヤ27が設けられている。ピニオンギヤ26およびサイドギヤ27は、ディファレンシャルケース30の内部に収容されている。ディファレンシャルケース30は、ピニオンギヤ26およびサイドギヤ27の噛み合いによって、車両旋回時の左右のドライブシャフトの回転速度を変えながら両輪に均等な回転トルクを伝達する。
【0019】
このような構成を備えるディファレンシャル10において、本実施の形態では、ディファレンシャルケース30が、分割ディファレンシャルケース31と、分割ディファレンシャルケース31に組み合わされる分割ディファレンシャルケース36とから構成されている。
【0020】
分割ディファレンシャルケース31には、左ドライブシャフトが挿入される孔31hが形成されている。分割ディファレンシャルケース36には、右ドライブシャフトが挿入される孔36hが形成されている。分割ディファレンシャルケース31および分割ディファレンシャルケース36は、概ね、ピニオンギヤ26を中心に車両の左右両側に分かれて設けられている。
【0021】
中心軸101の軸方向(図1に示す方向)から見て、分割ディファレンシャルケース31には、中心軸101を中心にその半径方向に延びる複数の延出部33が形成されている。複数の延出部33は、周方向に間隔を隔てて形成されており、隣接する延出部33間には、凹部32が形成されている。
【0022】
一方、分割ディファレンシャルケース36には、中心軸101の軸方向に突出する複数の突出部37が形成されている。複数の突出部37は、凹部32が形成された位相位置に対応して、周方向に間隔を隔てて形成されている。分割ディファレンシャルケース31と分割ディファレンシャルケース36とは、突出部37が凹部32に嵌装される形態により互いに組み合わされている。
【0023】
分割ディファレンシャルケース31は、延出部33の外周に形成される外周面31aを有する。分割ディファレンシャルケース36は、突出部37の外周に形成される外周面36aを有する。外周面31aと外周面36aとは、中心軸101を中心とする周方向に連続して連なるように形成されている。リングギヤ21は、内周面21cを有する。リングギヤ21は、外周面31aおよび外周面36aと、内周面21cとが接触するように、分割ディファレンシャルケース31および分割ディファレンシャルケース36の外周上に嵌め合わされている。
【0024】
外周面31aと内周面21cとの間に設けられた溶接部41(図1中の2点鎖線201で囲まれた範囲、4箇所)によって、分割ディファレンシャルケース31とリングギヤ21とが固定されている。外周面36aと内周面21cとの間に設けられた溶接部42(図1中の2点鎖線202で囲まれた範囲、4箇所)によって、分割ディファレンシャルケース36とリングギヤ21とが固定されている。分割ディファレンシャルケース31と分割ディファレンシャルケース36とは、双方がリングギヤ21に溶接される構造によって、互いに結合されている。
【0025】
このように構成された、この発明の実施の形態におけるディファレンシャル10によれば、分割ディファレンシャルケース31と分割ディファレンシャルケース36との溶接を省略することが可能となり、溶接箇所を低減することができる。すなわち、本実施の形態では、リングギヤ21の内周面21cに沿って実施される1回の溶接工程により、リングギヤ21、分割ディファレンシャルケース31および分割ディファレンシャルケース36の結合が完了する。これにより、ディファレンシャル10の製造コストを低く抑えることができる。また、ディファレンシャルケース30を鋳造品ではなく鍛造品により成形が可能となるため、溶接の強度を向上させることができる。結果、ディファレンシャル10の品質を十分に確保することができる。
【0026】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明は、主に、分割構造のディファレンシャルケースを有するディファレンシャルに適用される。
【符号の説明】
【0028】
10 ディファレンシャル、21 リングギヤ、26 ピニオンギヤ、27 サイドギヤ、30 ディファレンシャルケース、31,36 分割ディファレンシャルケース、32 凹部、33 延出部、37 突出部、41,42 溶接部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力が入力されるリングギヤと、
前記リングギヤが固定され、互いに組み合わされる第1ディファレンシャルケースおよび第2ディファレンシャルケースとを備え、
前記リングギヤの内周部に前記第1ディファレンシャルケースおよび前記第2ディファレンシャルケースの一部がそれぞれ内接し、
前記リングギヤの内周部に対する溶接により、前記リングギヤと、前記第1ディファレンシャルケースおよび前記第2ディファレンシャルケースとが結合されている、ディファレンシャル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−159859(P2010−159859A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3777(P2009−3777)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】