説明

ディーゼルエンジン用混合燃料及びその流動点降下方法

【課題】バイオディーゼルと軽油との混合燃料について、バイオディーゼルの製造に用いる油脂原料の脂肪酸組成に関わらず、低温流動性に優れたディーゼルエンジン用燃料を提供すること。
【解決手段】植物油をオゾン処理することにより得られる改質剤を、バイオディーゼルと軽油を少なくとも含有する混合燃料に対して、0.03〜2.0重量%含有するディーゼルエンジン用混合燃料とすることで、低温流動性に優れたディーゼルエンジン用混合燃料とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン用混合燃料及びその流動点降下方法に関する。より詳しくは、バイオディーゼルと軽油を含有する混合燃料、及びその流動点降下方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染防止や地球温暖化抑制等の観点から二酸化炭素(CO)排出を削減でき、硫黄酸化物(SOx)等排出ガス中の有害物質の発生が少ないディーゼルエンジン用燃料として、バイオディーゼルが注目されている。バイオディーゼルは、油脂原料として動植物油や廃食油等を用いて、前記油脂原料をメチルエステル化させること等により製造されている。
【0003】
バイオディーゼルは動植物油脂原料由来の燃料であるため、その使用により排出されるCOはカーボンニュートラルの考えによりカウントされず、CO排出を抑制できる。また、動植物油脂原料は硫黄をほとんど含有しないため、油脂原料から製造されるバイオディーゼルはSO発生を低く抑えることができる。このため、バイオディーゼルは環境に優しい燃料として有望である。
【0004】
バイオディーゼルの製造に用いる油脂原料のなかで適するものとして、菜種油やヒマワリ油等が挙げられる。菜種油やヒマワリ油由来のバイオディーゼルは、バイオディーゼルのなかでは比較的低温流動性が良く、低温流動性改善剤の添加効果も顕著に発揮されること等から、良好な油脂原料といえる。
【0005】
しかし、菜種油やヒマワリ油等を工業用として大量生産するにはコストが割高であるという問題がある。また、バイオディーゼル生産の増加に伴い植物油需要が拡大しており、特に欧州等での菜種油やヒマワリ油の需要が年々増加している。そのため、菜種油やヒマワリ油等だけでバイオディーゼルの需要をまかなうことは困難となりつつある。
【0006】
前記事情から、菜種油やヒマワリ油以外からもバイオディーゼルを製造する必要がある。菜種油やヒマワリ油以外に有望な原料油脂として、世界的に生産量の多いパーム油や大豆油、食用油として利用できないジェトロファ油等が挙げられる。米国農務省(USDA)の2006年度の発表によれば、油種別に見ると最も生産量が多いのはパーム油であり、次いで大豆油、菜種油、ヒマワリ油等と続いている。そこで、パーム油や大豆油等もバイオディーゼルの油脂原料として使用することが期待されている。なお、非特許文献1〜3には、世界各国のバイオディーゼルの現況が記載されている。
【0007】
しかし、バイオディーゼルは市販軽油に比して流動点がかなり高いという問題がある。この問題を解決すべく、バイオディーゼルの低温流動性を改善する方法として、脱ろう、低温流動性改善剤の添加、軽油との混合等の方法が挙げられる。例えば、ヒドロキシル基含有のポリアルキルアクリレートのコポリマー等を用いた低温流動性改善剤が開示されている(特許文献1参照)。これに関して、出願人は植物油にオゾン処理を行った低温流動性改善剤に関する発明を行ない、一定の改質効果があることを明らかにしている(特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特表2001−524578
【特許文献2】PCT国際公開 WO2005/033252号パンフレット。
【非特許文献1】松村正利著、「バイオディーゼル最前線」、工業調査会、2006年10月31日、p134−137,p192−199。
【非特許文献2】http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g30625d50j.pdf。
【非特許文献3】Werner Koerbritz “New Trends in Developing Biodiesel World-wide”, ASIA BIO-FUELS “Evaluating & Exploiting the Commercial Uses of Ethanol, Fuel Alcohol & Biodiesel” (2002)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、バイオディーゼル、特に飽和脂肪酸の多いバイオディーゼルの低温流動性を改善する方法には以下のような解決すべき課題があった。
【0010】
脱ろうによる方法は、冷却と結晶除去を何度も繰り返さなければならないために手間がかかり、また飽和脂肪酸の多いバイオディーゼルでは得られる収率も悪い点で問題となる。
【0011】
バイオディーゼル用の低温流動性改善剤については、菜種油のような不飽和脂肪酸を多く含有するバイオディーゼルにはある程度有効であるが、パーム油や大豆油等の飽和脂肪酸を多く含むバイオディーゼルには効果が低いという問題がある。
【0012】
バイオディーゼルの低温流動性は油脂原料の脂肪酸組成に影響を受けてしまう。例えば、菜種油やヒマワリ油は不飽和脂肪酸の多い油脂類であり、これらから製造したバイオディーゼルには前記オゾン処理改質剤による顕著な流動点降下作用等を得ることができる。しかし、大豆油やパーム油等のような飽和脂肪酸の多い油脂原料から製造したバイオディーゼルは、菜種油やヒマワリ油由来のバイオディーゼルに比して、低温流動性が更に悪い傾向がある。加えて、改質剤による流動点降下作用等の添加効果も低い。そのため、現在のところ、軽油と混合した混合燃料として使用する必要がある。
【0013】
このように、軽油との混合燃料とすることも、低温流動性を改善する方法の一つではある。化石燃料である軽油も低温では流動性が悪くなるとの問題があり、従来から化学合成された低温流動性改善剤が使用されてきた。このような改善剤を含む軽油にバイオディーゼルを混合することで、低温での流動性を確保することができる。しかし、軽油用の低温流動性改善剤は、バイオディーゼル、特に飽和脂肪酸を多く含むバイオディーゼルには有効ではないため、軽油中のバイオディーゼル量が多くなるについて、低温流動性が悪くなってしまう。従って、軽油と混合した混合燃料とするだけでは低温流動性を完全には改善できるわけではない。
【0014】
そこで、本発明は、バイオディーゼルと軽油の混合燃料について、バイオディーゼルの製造に用いる油脂原料の脂肪酸組成に関わらず、低温流動性に優れたディーゼルエンジン用混合燃料を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者らが先に発明した、化学合成ではなく植物油を原料としたオゾン処理改質剤について、不飽和脂肪酸を多く含有する油脂類由来のバイオディーゼルには低温流動性について優れた改善作用を得ることができるが、飽和脂肪酸を多く含有する油脂類由来のバイオディーゼルには所望の低温流動性の改善作用が得られないと思われていた。しかし、本願発明者らは、バイオディーゼルの供給量を拡大可能とするべく鋭意研究を重ねた結果、前記オゾン処理改質剤の添加量を0.03〜2.0重量%とすることで、飽和脂肪酸が高い油脂類由来のバイオディーゼルの混合燃料であっても優れた低温流動性が得られることを見出した。
【0016】
本発明では、まず、植物油をオゾン処理することにより得られる改質剤を、バイオディーゼルと軽油を少なくとも含有する混合燃料に対して、0.03〜2.0重量%含有するディーゼルエンジン用混合燃料を提供する。前記改質剤を、混合燃料に対して0.03〜2.0重量%含有させることで、バイオディーゼルと軽油を含む混合燃料において、バイオディーゼルを製造する油脂の脂肪酸組成に関わらず、低温流動性に優れた混合燃料とすることができる。なお、「植物油」とは、植物由来の油を少なくとも含有するあらゆる物質が含まれる。
【0017】
次に、本発明では、前記バイオディーゼルは、飽和脂肪酸を10重量%以上含有する油脂から得られるバイオディーゼルであるディーゼルエンジン用混合燃料を提供する。特に、飽和脂肪酸の含有量が高い油脂類から製造したバイオディーゼルを含む混合燃料では特に低温流動性に改善の余地があるが、本発明ではこのような混合燃料であっても低温流動性に優れた混合燃料とすることができる。なお、「油脂」とは、動植物を問わず少なくとも油脂類を含有するあらゆる物質が含まれる。
【0018】
また、本発明は、植物油をオゾン処理することにより得られる改質剤を、バイオディーゼルと軽油を少なくとも含有する混合燃料に対して0.03〜2.0重量%含有させて流動点を降下させる方法を提供する。前記改質剤の添加濃度を0.03〜2.0重量%とすることで、バイオディーゼルを製造する油脂の脂肪酸組成に関わらず、前記混合燃料の流動点を効果的に低下させることができる。なお、「流動点」とは、試料を45℃に加熱後に試料を冷却したとき、試料が流動する最低温度をいう。また、流動点の測定は、JIS K 2269に準拠して行なうものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた低温流動性を有する混合燃料とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るディーゼルエンジン用混合燃料(以下、「混合燃料」という。)の好適な実施形態について説明する。なお、以下に示すのは本発明に係わる混合燃料の代表的な実施形態の例示にすぎず、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
本発明の混合燃料は、植物油をオゾン処理することに得られるディーゼルエンジン燃料用改質剤(以下、「オゾン処理改質剤」という。)を添加した燃料である。前記オゾン処理改質剤は、例えば、植物油をオゾン・酸素混合ガスで曝気させる等の方法でオゾン処理することにより製造できる。
【0022】
燃料改質剤の流動点降下作用は、燃料改質剤の原料となる植物油中の不飽和二重結合数と関係性があると考えられており、ヒマワリ油、亜麻仁油、菜種油、サフラワー油、トウモロコシ油、大豆油、綿実油等の不飽和二重結合の多い植物油を原料として用いたオゾン処理改質剤であることが望ましい。
【0023】
本発明において、混合燃料の流動点への効果作用については定かではないが、少なくとも、オゾン処理改質剤の中に含まれるトリグリセリドの不飽和二重結合におけるオゾニド形成の度合いが、作用機構に重要な影響を与えているのではないかと考えられる。
【0024】
従って、前記オゾン処理改質剤は人工的に合成された不飽和二重結合部位の多いトリグリセリドにオゾン処理を施すことでも得ることができる。本発明において使用可能な改質剤としては、例えば、PCT国際公開 WO2005/033252号パンフレットに記載された改質剤を挙げることができる。
【0025】
本発明によれば、バイオディーゼルと軽油の混合燃料に前記オゾン処理改質剤を0.03〜2.0重量%添加することで、バイオディーゼルの製造に用いる油脂原料の脂肪酸組成に関わらず、低温流動性に優れた混合燃料を得ることができる。即ち、本願発明者らは、単にオゾン処理改質剤を混合燃料に添加するのではなく、0.03〜2.0重量%という微量の添加濃度とすることで、意外にもバイオディーゼルと軽油の混合燃料の流動点が低下することを新規に見出し、この知見を基に本願発明を完成させた。
【0026】
前記バイオディーゼルの原料油脂の種類等については、特に限定されず、例えば、菜種油、ヒマワリ油、パーム油、大豆油等の植物油や、種々の動物油脂、廃食油等を用いることができる。即ち、不飽和脂肪酸の含有量が多い油脂類だけでなく、飽和脂肪酸の多い油脂類等も使用することができる。このように、本発明ではバイオディーゼルの油脂原料として幅広い種類の油脂類を使用できるため、近年のバイオディーゼルの需要増大にも対応することができる。
【0027】
特に、飽和脂肪酸の含有量が10重量%以上である油脂原料のバイオディーゼルは、低温流動性が不十分であり、軽油と混合した混合燃料であっても十分な低温流動性を得ることが困難であるが、本発明では、このような油脂であっても所望の効果を得ることができるため、飽和脂肪酸含有量が高い油脂類も使用することができる。即ち、かかる油脂等から得られるバイオディーゼルであっても、軽油と混合し、更にオゾン処理改質剤を0.03〜2.0重量%添加することで、実用可能な混合燃料として使用できる。
【0028】
飽和脂肪酸を10重量%以上含有する油脂としては、例えば、パーム油、大豆油、綿実油、コメ油、ジャトロファ油(ナンヨウアブラギリから採れる油)等が挙げられる。本発明によれば、このような飽和脂肪酸を10重量%以上含有する油脂から製造されるバイオディーゼルを含有する混合燃料においても、所望の流動点降下作用を得ることができる。
【0029】
本発明におけるオゾン処理改質剤の添加量の下限値については混合燃料に対して0.03重量%以上、好適には0.05重量%以上であることが望ましい。また、オゾン処理改質剤の添加量の上限値については2.0重量%以下、より好適には1.5重量%以下であることが望ましい。
【0030】
また、バイオディーゼルの製造方法等については特に限定されず、例えば、アルカリ触媒や酸触媒、リパーゼ酵素等でエステル交換反応を行うことにより製造することができる。例えば、バイオディーゼルとして普及しているメチルエステル化燃料(FAME)は、油脂等とメタノールのエステル交換反応によりメチルエステル化して精製したものである。
【0031】
本発明において、軽油の組成等については特に限定されず、例えば、市販の軽油をそのまま使用できる。前記軽油には軽油用流動点降下剤が含有されていてもよいし、含有されていなくてもよい。更に、前記軽油用流動点降下剤の種類についても特に限定されず、例えば、軽油用流動点降下剤入りの市販の軽油をそのまま混合して用いることもできる。前記軽油用流動点降下剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル系共重合体(EVA)等を含有していてもよい。また、本発明において、本発明の効果を阻害しない限り、軽油やバイオディーゼル以外の混合成分や、各種添加剤を用いることができる。
【0032】
また、本発明では、前記混合燃料に軽油用やバイオディーゼル用の化学合成添加剤等を別途添加しなくても、低温流動性に優れた混合燃料とすることができる。本発明において用いられるオゾン処理改質剤は、改質剤自体も硫黄をほとんど含有せず、植物油原料の再生可能な環境に優しい添加剤であるため、これを用いた本発明に係る混合燃料は、より環境に易しい混合燃料とすることができる。
【0033】
バイオディーゼルと軽油を少なくとも含有する混合燃料における流動点降下方法について説明する。前記オゾン処理改質剤の添加濃度を0.03〜2.0重量%とすることで、バイオディーゼルと軽油の混合燃料の流動点を降下させることができる。即ち、本発明によれば、市販軽油等にバイオディーゼルを混合することで流動点が上昇した混合燃料に対して、簡便にその流動点を降下させることができる。そして、本発明に係る混合燃料の流動点については、実用的なディーゼルエンジン用燃料とする観点から、−20℃以下となることが望ましい。
【0034】
このように、本発明に係る混合燃料、及び流動点降下方法によれば、バイオディーゼルの製造に用いる油脂原料の脂肪酸組成に関わらず、低温流動性に優れた混合燃料を得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明に係るバイオディーゼルと軽油の混合燃料が、低温流動性に優れていることを検証することを目的として実験を行った。
【0036】
<実験1>
「パーム油由来バイオディーゼルと軽油の混合燃料に対する流動点改善剤の効果」
【0037】
[使用した燃料等]
実験1では、飽和脂肪酸を10重量%以上含有する代表例としてパーム油を用いた。まず、バイオディーゼルとして、パーム油から製造したパーム油バイオディーゼルを製造した。2号軽油に製造したパーム油バイオディーゼルを5容量%混ぜた混合燃料に、オゾン処理改質剤と、化学合成された軽油用及びバイオディーゼル用流動点改善剤を添加し、混合燃料の低温流動性を改善する最良の方法を検討した。
【0038】
[バイオディーゼルの作製]
まずバイオディーゼルは以下の手順で作製した。パーム油をメチルエステル化させてバイオディーゼルを得た。
メチルエステル化反応は、パーム油にメタノール(モル比;油:メタノール=1:10)と水酸化ナトリウム(対油重量0.5%)の混合液を添加し、60〜70℃の温度範囲内で1時間混合撹拌して反応させた。反応終了後、反応液を一晩静置してメチルエステル層を分離回収した。前記メチルエステル層は、遠心分離後、酸洗浄と水洗を行なった。そして、120℃に加熱して脱酸・脱水することでバイオディーゼルを精製した。
得られたパーム油バイオディーゼルの飽和脂肪酸量は44%であった。
【0039】
[オゾン処理改質剤]
燃料に添加するオゾン処理改質剤は、ひまわり油をオゾン処理することで作製した。ひまわり油50mLにオゾン・酸素混合ガス(オゾンガス濃度40g/Nm、ガス流量0.5L/min)を反応温度20〜40℃で曝気した。反応オゾン量が、0.14g−O/mL−oil、理論反応率100%に達したところで、オゾン曝気を止め反応を終了した。
【0040】
[軽油]
軽油は、極東石油工業(株)から、軽油用流動点改善剤を添加する前の2号軽油(流動点−4℃)と、添加後の冬季販売用軽油(流動点−25℃)の2種類を入手した。
【0041】
[試験方法]
2号軽油又は軽油用流動点改善剤入り冬季販売用軽油に、パーム油バイオディーゼルを5容量%混合し、混合燃料を作製した。
実施例1と2は、2号軽油又は冬季販売用軽油を使用した混合燃料にオゾン処理改質剤を添加した。比較例として、2号軽油混合燃料(比較例1)、比較例1の混合燃料にバイオディーゼル用化学合成流動点改善剤3種:CHIMEC社製6635(比較例2)、Clariant社製Dodiflow5305(比較例3)、Infineum社製R488(比較例4)をそれぞれ添加した。また、冬季販売用軽油混合燃料(比較例5)、比較例5の混合燃料に上記バイオディーゼル用化学合成流動点改善剤3種(比較例6〜8)をそれぞれ添加した。
各混合燃料の流動点を測定し、低温流動性を比較した。流動点降下測定は、JIS K 2269に準拠して行なった。分析機器は、田中科学機器製作株式会社 流動点・曇り点試験器 MPC101Aを使用した。その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
[考察]
2号軽油にパーム油バイオディーゼルを5容量%混ぜた混合燃料は、流動点が−8℃と高い(比較例1)。混合燃料に化学合成されたバイオディーゼル用流動点改善剤を添加すると(比較例2〜4)、混合燃料の流動点を−20℃前後まで低下させることができる。一方、オゾン処理改質剤を添加すると、比較例よりも更に−10℃以上混合燃料の流動点を低下させることが可能になる。
また、軽油用流動点改善剤を含む冬季販売用軽油(流動点−25℃)と5容量%パーム油バイオディーゼルの混合軽油では、流動点が−18℃となり、バイオディーゼルの混合により流動点が上昇した(比較例5)。これは、軽油用流動点改善剤が、パーム油バイオディーゼルとの混合燃料に対して効果が無いことを示す。この混合燃料に、化学合成されたバイオディーゼル用流動点改善剤(比較例6〜8)を添加すると、−25℃までしか流動点を降下させることができないが、オゾン処理改質剤を添加すると(実施例2)、更に流動点を降下させることができ、−30℃以下まで降下させることができた。これは、軽油用流動点改善剤が添加された冬季販売用軽油にバイオディーゼルを混合させた燃料に対しても、市販されている化学合成された流動点改善剤と比べてオゾン処理改質剤が非常に流動点を降下することに優れていることが分かる。
【0044】
以上より、本実施例の結果から、軽油用流動点改善剤の有無に関わらず、オゾン処理改質剤は軽油とパーム油バイオディーゼルの混合燃料に対する流動点降下作用に非常に優れており、他の化学合成流動点改善剤と比較しても非常に優れている。また、オゾン処理改質剤のみでも十分に流動点を降下させることが出来る。
【0045】
<実験2>
「パーム油又は大豆油由来のバイオディーゼルと軽油の混合燃料に対するオゾン処理改質剤の添加の効果」
【0046】
2号軽油にパーム油または大豆油バイオディーゼルを混ぜた混合燃料にオゾン処理改質剤を添加し、その効果を調べた。オゾン処理改質剤により混合燃料中のバイオディーゼルの割合をどこまで増加することが可能かを検討した。
【0047】
[軽油、バイオディーゼル、流動点改善剤]
軽油は、2号軽油を使用した。バイオディーゼルは、実験1と同様の手法で、パーム油と大豆油から作製した。得られたパーム油バイオディーゼルの飽和脂肪酸量は44%、大豆油バイオディーゼルが14%であった。また同様に、ひまわり油をオゾン処理し、オゾン処理改質剤を合成した。
【0048】
[試験方法]
各バイオディーゼルを5〜80容量%の割合で2号軽油に混合して、混合燃料を作製した。混合燃料にオゾン処理改質剤を添加し、実験1と同様に流動点を測定した。その結果を表2,3に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
[考察]
2号軽油にパーム油バイオディーゼルを混ぜた混合燃料について、混合燃料中のパーム油バイオディーゼルの比率を上げると、流動点は上昇した(比較例1,9〜11)。混合燃料の流動点改善剤として優れているオゾン処理改質剤を0.5重量%添加すると、パーム油バイオディーゼル10容量%混合燃料でも流動点を−30℃以下にすることができ(実施例3)、パーム油バイオディーゼル20容量%混合燃料でも流動点を−20℃に維持することができた(実施例4)。そして、パーム油バイオディーゼルを30容量%混合した燃料では、オゾン処理改質剤を添加しない混合燃料の流動点は−3℃であった(比較例11)のに対し、オゾン処理改質剤を添加した場合の流動点は−4℃となった(実施例5)。この結果から、オゾン処理改質剤により、2号軽油にパーム油バイオディーゼルを20容量%混ぜた混合燃料等でも、冬季での使用が可能であることが示唆された。
【0052】
また、大豆油バイオディーゼルの場合も、パーム油バイオディーゼル混合燃料と同様に、バイオディーゼルの混合比率を上げると流動点は上昇した(比較例12〜16)。そこに、オゾン処理改質剤を0.5重量%添加すると、大豆油バイオディーゼル40容量%混合燃料でも、流動点を−30℃付近に維持することができた(実施例6〜8)。大豆油バイオディーゼル60容量%混合燃料では、オゾン処理改質剤を添加しても流動点が−23℃まで下がり(実施例9)、80容量%混合燃料では、流動点が−12℃であった(実施例10)。この結果から、オゾン処理改質剤により、2号軽油に大豆油バイオディーゼルを60容量%混ぜた混合燃料等でも、冬季での使用が可能であることが示唆された。
【0053】
以上より、本実施例の結果によれば、飽和脂肪酸を多く含むため流動点が高く低温流動性の悪いパーム油や大豆油バイオディーゼルでも、軽油と混合し、オゾン処理改質剤を所定濃度添加するだけで劇的に流動点を低下させることができ、混合燃料中のバイオディーゼルの割合も上げることができた。これにより、例えば、冬季では通常不可能な割合までバイオディーゼル量を増加させても、使用を可能とすることも示唆された。
【0054】
<実験3>
「パーム油又は大豆油由来のバイオディーゼルと軽油の混合燃料に対するオゾン処理改質剤の下限添加量の検討」
【0055】
[使用した燃料等]
実験3では、軽油用流動点改善剤を含む冬季販売用軽油に、パーム油または大豆油バイオディーゼルを5容量%混ぜて混合燃料を作製した。この混合燃料にオゾン処理改質剤を添加し、その下限添加量を検討した。なお、試験に使用したパーム油または大豆油バイオディーゼル、オゾン処理改質剤は実験1と同様の方法で作製した。その結果を表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
[考察]
5容量%パーム油バイオディーゼルと冬季販売用軽油の混合燃料は、流動点が−18℃である(比較例5)。この混合燃料に、オゾン処理改質剤を0.05重量%添加すると、流動点がわずかに低下し、−19℃であった(実施例11)。オゾン処理改質剤を0.06重量%添加すると、流動点は更に−22℃まで下がり(実施例12)、0.2重量%添加すると−35℃まで低下することができた(実施例14)。
【0058】
また、大豆油バイオディーゼルと冬季販売用軽油の混合燃料の流動点は、−25℃であった(比較例17)。この混合燃料に、オゾン処理改質剤を0.03重量%添加すると、流動点がわずかに低下し、−26℃であった(実施例15)。オゾン処理改質剤を0.04重量%添加すると、流動点は更に−28℃まで下がり(実施例16)、0.05重量%添加すると−30℃まで低下することができた(実施例17)。
【0059】
以上より、本実験結果から、本発明の混合燃料中のオゾン処理改質剤の下限添加量は、大豆油バイオディーゼルと冬季販売用軽油の混合燃料での結果から、0.03重量%以上、好ましくは0.05重量%以上であることが示された。
【0060】
<実験4>
「パーム油又は大豆油由来のバイオディーゼルと軽油の混合燃料に対するオゾン処理改質剤の上限添加量の検討」
【0061】
[使用した燃料等]
実験4では、2号軽油に、パーム油または大豆油バイオディーゼルを5容量%混ぜて混合燃料を作製した。この混合燃料にオゾン処理改質剤を添加し、その上限添加量を検討した。なお、試験に使用したパーム油または大豆油バイオディーゼル、オゾン処理改質剤は実験1と同様の方法で作製した。その結果を表5に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
[考察]
5%パーム油バイオディーゼルと2号軽油の混合燃料は、流動点が−8℃である(比較例1)。この混合燃料に、オゾン処理改質剤を0.5重量%添加すると、流動点は最も降下し、−34℃であった(実施例1)。オゾン処理改質剤を1.0重量%添加すると、流動点は−21℃になり(実施例18)、1.5重量%添加すると−19℃まで上がった(実施例19)。
【0064】
また、大豆油バイオディーゼルと2号軽油の混合燃料の流動点は、−5℃であった(比較例12)。この混合燃料に、オゾン処理改質剤を0.5重量%添加すると、流動点は最も降下し、−33℃であった(実施例6)。オゾン処理改質剤を2.0重量%添加すると、流動点は−22℃まで上がり(実施例22)、1.5重量%添加した場合は−19℃(実施例23)となった。
【0065】
実用的なディーゼルエンジン用燃料とする観点から、流動点は−20℃以下になることが望ましい。以上より、本実験結果から、本発明の混合燃料中のオゾン処理改質剤の下限添加量は、大豆油バイオディーゼルと2号軽油の混合燃料での結果から、2.0重量%以下、好ましくは1.5重量%以下であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係るディーゼルエンジン用混合燃料は、車両や各種エンジン等に使用する燃料として幅広く使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油をオゾン処理することにより得られる改質剤を、バイオディーゼルと軽油を少なくとも含有する混合燃料に対して、0.03〜2.0重量%以下含有するディーゼルエンジン用混合燃料。
【請求項2】
前記バイオディーゼルは、飽和脂肪酸を10重量%以上含有する油脂から得られることを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジン用混合燃料。
【請求項3】
植物油をオゾン処理することにより得られる改質剤を、バイオディーゼルと軽油を少なくとも含有する混合燃料に対して、0.03〜2.0重量%含有させて流動点を降下させる方法。

【公開番号】特開2008−266487(P2008−266487A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112823(P2007−112823)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(504334795)サンケァフューエルス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】