説明

ディーゼルパティキュレートフィルタ

【課題】エンジン背圧の上昇を招くことなくDPFのパティキュレート捕集率を高めるとともに、該DPFに捕集したパティキュレートが着火燃焼し易くなるようにする。
【解決手段】DPFの排気ガスが通る通路6の壁面にアンカー層7が形成され、該アンカー層7に内部が空虚になった無機酸化物の殻を壊してなる破砕殻8が固定され、該破砕殻8の少なくとも端部がアンカー層7より突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中のパティキュレートを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルパティキュレートフィルタとして、コーディエライト、SiCその他のセラミックスで形成されたハニカム状のウォールフロータイプのフィルタや、三次元網目構造のセラミックフォームタイプのフィルタが知られている。
【0003】
ウォールフロータイプでは、パティキュレートの径がサブミクロン程度ないしはそれ以下であることから、その捕集率を高めるべく、壁の細孔通路径を20μm前後ないしはそれ以下とし、さらにハニカムのセル密度を300cpsi(1平方インチ(約6.54cm2)当たりのセル数)と高くすることがなされている。しかし、細孔通路径を小さくし或いはセル密度を高くすると、それだけ排気ガスに与える通路抵抗が大きくなってディーゼルエンジンの背圧が高くなり、エンジンの燃費が悪くなるという問題がある。
【0004】
一方、セラミックフォームタイプにおいても、ディーゼルエンジンの背圧が高くなることを避けるべく、三次元網目構造の気孔通路径は一般には500μm以上にされている。しかし、通路径が大きくなると、当然にパティキュレート捕集率が低くなる。
【0005】
このように、ディーゼルパティキュレートフィルタにおいては、通路径を細くして捕集率を高めるとエンジンの背圧が上昇するという関係になっている。そうして、一般には通路径を細くせずに捕集率を高めることは難しいことから、エンジンの背圧上昇を招くことなく捕集率を高めるために、フィルタ全体の容積を大きくせざるを得ない。その結果、フィルタの熱容量が大きくなることから、フィルタを再生する際のパティキュレートの着火燃焼性が悪くなり、再生に要する燃料が多くなるとともに、再生にも時間がかかり、また、再生温度を高める必要もあってフィルタの溶損を招き易くなる。
【0006】
これに対して、セラミックス中空球体の破砕片を焼結することによってセラミックフォームタイプのフィルタを形成することが知られている(特許文献1参照)。すなわち、これは、セラミックス中空球体をその球面部が残る程度に破砕し、その破砕片を焼結することによって、三次元網目構造の通路壁面に球面状の凹凸を形成し、パティキュレート捕集率を高めようとするものである。しかし、球面状凹凸による捕集率の向上にも限度がある。
【特許文献1】特開平7−60038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上述のウォールフロータイプやセラミックフォームタイプ、その他のディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、エンジン背圧の上昇を招くことなくパティキュレート捕集率を高めることによって、パティキュレートの排出防止と燃費の低減とを図ることにある。
【0008】
また、本発明の課題は、フィルタに捕集したパティキュレートが着火燃焼し易くなるようにして、フィルタ再生に要する燃料の低減を図るとともに、その再生時のフィルタの溶損を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような課題に対して、無機酸化物による中空殻を壊してなる破砕殻を上記従来技術とは異なる態様でパティキュレートの捕集に利用することにより、通路径を狭くしなくてもその捕集率を高めることができるようにした。
【0010】
すなわち、請求項1に係る発明は、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれるパティキュレートを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタであって、
上記排気ガスが通る通路の壁面にアンカー層が形成され、該アンカー層に内部が空虚になった無機酸化物の殻を壊してなる破砕殻が固定され、該破砕殻の少なくとも端部がアンカー層より突出していることを特徴とする。
【0011】
従って、排気ガス中のパティキュレートは、アンカー層に付着し堆積していくだけでなく、該アンカー層より突出している破砕殻に当たってこれに捕捉される(付着する)ことになり、それだけパティキュレートが捕集され易くなってその捕集率が高くなる。よって、当該捕集率を高めるためにフィルタの通路径を細くする必要がなく、エンジンの背圧上昇を抑制する上で、ひいてはエンジンの燃費増大を抑制する上で有利になる。
【0012】
また、上述の如く当該フィルタのパティキュレート捕集率が上記破砕殻によって高くなるから、フィルタ容積を小さくすることが可能になる。よって、それだけ当該フィルタの熱容量を小さくすることができ、排気ガス温度を高めてパティキュレートを燃焼させる際の、その着火性及び燃焼性が良くなり、フィルタ再生時間の短縮、再生に要する燃料の低減に有利になり、フィルタの溶損を避ける上でも有利になる。
【0013】
特に、破砕殻のアンカー層より突出している部分は、その熱容量が小さいことから、フィルタを再生すべく排気ガス温度を高めたとき、該排気ガスによって加熱されて温度が速やかに上昇する。そのため、当該破砕殻の突出部分に付着しているパティキュレートが着火燃焼し易く、フィルタの再生に有利になる。
【0014】
さらに、上記破砕殻の少なくとも端部がアンカー層より突出している状態にされていると、排気ガス中に含まれているアッシュもパティキュレート同様に捕捉することが可能になる。
【0015】
すなわち、例えば、アッシュの一種である硫酸カルシウム(CaSO4)は、エンジンオイル中に含まれているカルシウム(Ca)とイオウ(S)とが酸素や水分と反応することにより生成されるが、この他に、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、リン(P)等もアッシュの元となる成分として排気ガス中に含まれていることがある。このようなアッシュは、パティキュレートよりもその寸法が大きいことが知られ、フィルタに堆積すると目詰まりを起こす原因になるばかりでなく、硫酸塩、リン酸塩の化合物となっているところから、セラミックス材からなるパティキュレートフィルタに直接堆積すると、フィルタ自体の耐熱性の低下を招くことも知られている。
【0016】
しかし、本発明では、破砕殻がアンカー層より突出しているので、上記アッシュは破砕殻に引っ掛かって該破砕殻に捕捉され、つまり、アッシュがフィルタのアンカー層に直接堆積することが抑制される。従って、本発明によれば、アッシュによるフィルタの耐熱性低下を抑制するという効果も期待できる。
【0017】
上記破砕殻は、該破砕殻の端部のみがアンカー層に埋まって立ち上がっている状態、すなわち、該アンカー層から起立した状態に設けることが、排気ガス中のパティキュレートを捕捉する上で、ひいてはパティキュレートを捕集可能なフィルタ表面積を増大させて捕集率を高める上で有利になる。破砕殻を起立状態にするには、アンカー層を形成するための無機酸化物の粉末と破砕殻と水とを混合してなるスラリーをフィルタ基材にコーティングし、エアブラストによって余分なスラリーを吹き飛ばすとき、そのエア圧を調節すればよい。すなわち、少なくとも一部の破砕殻が起立状態になるように当該エア圧を調節し、その後、乾燥及び焼成を行なうようにすればよい。
【0018】
請求項2に係る発明は、請求項1において、
上記アンカー層及び破砕殻の少なくとも一方は、捕集したパティキュレートを燃焼させるための触媒金属を有することを特徴とする。
【0019】
従って、パティキュレートの着火・燃焼温度を当該触媒金属によって下げることができ、フィルタを効率良く再生する上で有利になる。特に破砕殻に触媒金属を設けた場合には、該破砕殻のアンカー層から突出した部分の温度が排気ガスの熱によって速やかに上昇するから、触媒金属と相俟って当該突出部分のパティキュレートを速やかに着火燃焼させることができる。そして、このようにフィルタの一部でパティキュレートの酸化燃焼が一旦始まると、その燃焼がアンカー層のパティキュレートにも広がっていくから、フィルタの早期再生に有利になる。
【0020】
上記触媒金属としては、貴金属が好ましく、中でもPtやPd、特にPtが好ましい。
【0021】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2において、
上記アンカー層及び破砕殻の少なくとも一方は、Ceを含有する酸化物を有することを特徴とする。
【0022】
すなわち、Ceを含有する酸化物は、排気ガス中の酸素濃度が高いときにその酸素を吸蔵し、その酸素濃度が低下したときに吸蔵していた酸素を放出する酸素吸蔵能をもち、その放出される酸素は活性が高い。そうして、フィルタを再生するときは、エンジンの空燃比を燃料リッチ側に変化させたり、エンジンの膨張行程において燃料を気筒内に噴射するなど、燃料噴射制御によって排気ガス温度を高めることがなされるが、同時に排気ガスの酸素濃度が低下する。このとき、上記Ceを含有する酸化物より活性の高い酸素が放出されるから、パティキュレートの着火燃焼が促進されることになる。
【0023】
また、パティキュレートが着火して火種を生ずると、その着火のために酸素が使われて火種周りの酸素濃度が低下する。このとき、上記Ceを含有する酸化物より活性の高い酸素が放出されることにより、火種周りが酸素不足になることが防止され、その火種からパティキュレートの実質的な燃焼が始まり易くなる。
【0024】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記破砕殻は、CeとZrとを含有する複酸化物よりなり、該複酸化物の結晶格子又は原子間に、捕集したパティキュレートを燃焼させるための触媒金属が配置されていることを特徴とする。
【0025】
従って、上記破砕殻は酸素吸蔵能をもち、請求項3に係る発明と同じく、パティキュレートの着火燃焼を促進する上で有利になる。そうして、当該破砕殻はZrを含有するから耐熱性が高くなる。また、触媒金属は当該破砕殻を構成する複酸化物の結晶格子又は原子間に配置されているため、高温の排気ガスに晒されたときのシンタリングが防止され、長期間にわたってパティキュレートの燃焼に寄与することになる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように本発明によれば、フィルタの排気ガスが通る通路の壁面にアンカー層が形成され、該アンカー層に無機酸化物の中空殻を壊してなる破砕殻が固定され、該破砕殻の少なくとも端部がアンカー層より突出しているから、パティキュレートが捕集され易くなってその捕集率が高くなり、エンジンの背圧上昇の抑制、ひいてはエンジンの燃費増大を抑制する上で有利になり、しかも、パティキュレートの着火性及び燃焼性が良くなるから、フィルタの再生に有利になる。
【0027】
請求項2に係る発明によれば、さらに、上記アンカー層及び破砕殻の少なくとも一方は、捕集したパティキュレートを燃焼させるための触媒金属を有するから、パティキュレートの着火・燃焼温度を下げてその燃焼を促進することができ、フィルタの早期再生に有利になる。
【0028】
請求項3に係る発明によれば、さらに、上記アンカー層及び破砕殻の少なくとも一方は、Ceを含有する酸化物を有するから、該Ceを含有する酸化物がもつ酸素吸蔵能を利用して、パティキュレートの着火燃焼を促進することができ、フィルタの再生に有利になる。
【0029】
請求項4に係る発明によれば、さらに、上記破砕殻は、CeとZrとを含有する複酸化物よりなり、該複酸化物の結晶格子又は原子間に、捕集したパティキュレートを燃焼させるための触媒金属が配置されているから、パティキュレートの着火燃焼を促進する上で有利になるとともに、当該破砕殻の耐熱性が高くなり、さらに触媒金属のシンタリングが防止され、フィルタの再生機能を長期間にわたって維持する上で有利になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
<DPFの構造>
図1及び図2にディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFと略す。)1を模式的に示すように、このDPF1は、ハニカム構造をなしており、互いに平行に延びる多数のセル2,3を備えている。すなわち、DPF1は、下流端が栓4により閉塞された排気ガス流入セル2と、上流端が栓4により閉塞された排気ガス流出セル3とが前後左右に交互に設けられ、排気ガス流入セル2と排気ガス流出セル3とは薄肉の隔壁5を介して隔てられている。なお、図1においてハッチングを付した部分は下流端の栓4を示している。
【0032】
DPF1は、そのフィルタ本体が例えばコーディエライトやSiC焼結体のような多孔質のセラミックスによって形成されており、排気ガス流入セル2内に流入した排気ガスは図2において矢印で示したように周囲の隔壁5を通って隣接する排気ガス流出セル3内に流出する。すなわち、図3に示すように、隔壁5は排気ガス流入セル2と排気ガス流出セル3とを連通する微細な細孔通路6を有し、この細孔通路6を排気ガスが通る。
【0033】
図4に示すように、上記DPF1のフィルタ本体の上記排気ガス通路(排気ガス流入セル2、排気ガス流出セル3及び細孔通路6)の壁面にはアンカー層7が形成され、該アンカー層7に無機酸化物の中空殻を壊してなる破砕殻8が固定されて、該破砕殻8の一部がアンカー層7より通路内に突出している。
【0034】
<DPFの製法>
−中空殻形成用複酸化物粉末の調製−
上記中空殻を形成する無機酸化物としての複酸化物粉末を調製する方法を説明する。
【0035】
まず、触媒金属(例えばPt)とCeとZrとを含む酸性溶液を調製する(出発原料調製ステップ)。この出発原料は、例えば各金属の硝酸塩の溶液を混合して調製することができる。必要に応じて、Ndを含ませたり、2種以上の触媒金属を含ませることができる。
【0036】
上記出発原料である酸性溶液を撹拌しながらに過剰のアンモニア水を素早く添加混合し、出発原料の全金属を金属水酸化物として共沈させ、非結晶性前駆体を得る(アンモニア共沈法による複合酸化物前駆体を調製するステップ)。上記共沈を生じた液を一昼夜放置し、上澄み液を除去して得られたケーキを遠心分離器にかけ、水洗する(沈殿分離ステップ)。上記水洗したケーキを150℃前後の温度に加熱して乾燥させる(乾燥ステップ)。乾燥したケーキを加熱焼成する(焼成ステップ)。この焼成は、当該ケーキを大気雰囲気において例えば400℃の温度に5時間保持した後、500℃の温度に2時間保持することにより行なう。得られた焼成物を粉砕する。
【0037】
以上により、中空殻形成用複酸化物粉末が得られる。この複酸化物は、上記触媒金属が出発原料である酸性溶液にCe等共に添加されているから、該触媒金属が結晶格子又は原子間に配置されたものになる。
【0038】
−中空殻の調製−
直径10〜15μm程度のポリビニルブチラール(PVB)の粉末を5%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液に入れて攪拌することにより、PVB溶液を作る。このPVB溶液に上記複酸化物粉末を添加して混合スラリーを調製する。PVB溶液と複酸化物粉末との比率は例えばPVB溶液を60質量%、複酸化物粉末を40質量%とする。
【0039】
上記混合スラリーを、ロート状滴下器具を用いて、KCl溶液を入れた容器内に滴下していくことにより、PVB粒子表面に複酸化物粉末がコーティングされた球状粒子を生成する。
【0040】
容器の底に堆積した球状粒子を取り出し、大気雰囲気において150℃の温度に2時間程度保持する乾燥処理、並びに大気雰囲気において500℃の温度に2時間程度保持する焼成処理を施す。この焼成により、PVBは熱分解して焼失し、上記複酸化物の球状中空殻が得られ、その直径は10〜15μm程度になる。
【0041】
−中空殻の破壊−
上記中空殻を破壊して球状曲面が残った破砕殻を得る。そのためには、中空殻の粉末を台の上に数mmの厚さに敷き、プレスで加圧して中空殻を破壊する。粒径の小さな中空殻は破壊されずに残るため、ふるいにかけて、破砕殻のみを採取する。
【0042】
なお、エアハンマー方式、ピン回転方式等の衝撃式破砕法を用いて上記中空殻を破壊するようにしてもよい。この場合、中空殻にはせん断応力がかかり難いため、粉砕状態或いは扁平状態にならず、球状曲面が残った破砕殻を得る上で有利になる。
【0043】
−コーティング−
上記破砕殻とγ−アルミナのような無機酸化物粉末と水とを混合してスラリーを調製し、該スラリーにフィルタ本体の排気ガス流入側の端面を浸漬して、その反対側、つまり排気ガス流出側の端面から当該スラリーを吸引することで、細孔通路の内部までスラリーを十分に行き渡らせる。その後、エアブローによって細孔通路内部に残存する余分なスラリーを吹き飛ばす。このとき、破砕殻はエア圧によって逆立てられ、少なくとも一部の破砕殻は起立状態になる。しかる後、大気雰囲気において150℃で2時間の乾燥及び500℃で2時間の焼成を行なうことにより、フィルタ本体の排気ガス通路2,3,6の壁面に上記無機酸化物粉末によって数μm厚のアンカー層7が形成され、該アンカー層7に破砕殻8が固定されて該破砕殻が部分的に通路側に突出してなるDPF1が得られる。
【0044】
<DPFサンプルの調製>
−実施例−
上述の複酸化物粉末の調製法によって触媒金属としてPtを含有させた複酸化物(CeZrPt)粉末を調製した。
【0045】
すなわち、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸第一セリウム及びジニトロジアミン白金硝酸溶液の所定量を混合し、水300mLを加えて室温で約1時間撹拌した。この混合溶液を80℃まで加熱昇温させた後、ガラス棒を用いて強く、素早く撹拌しつつ、別のビーカーに用意していた28%アンモニア水50mLを一気に加えて混合した。このアンモニア水の添加・混合は1秒以内に完了させた。アンモニア水の混合により白濁した溶液を一昼夜放置し、生成したケーキを遠心分離器にかけ、十分に水洗した。この水洗したケーキを約150℃の温度で乾燥させた後、400℃の温度に5時間保持し、次いで500℃の温度に2時間保持した後、これを粉砕した。得られた実施例に係る複酸化物は、Zrが50モル%、Ptが約4質量%である。
【0046】
上記複酸化物を用いて、上述の中空殻の調製法及び中空殻のプレス破壊法により、破砕殻を作った。図5は得られた破砕殻のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。この写真から、中空殻が壊れてなる破砕殻に球状曲面が残っていることがわかる。以下では、当該破砕殻をPtドープ破砕殻という。
【0047】
また、アンカー層を形成するためのγ−Al23にPt溶液を含浸させ乾燥及び焼成を行なうことにより、Ptを約4質量%担持したγ−Al23を得た。
【0048】
そうして、上記Ptドープ破砕殻とPt担持γ−Al23と水とを混合してスラリーを調製し、上述のコーティング法によってハニカム状フィルタ本体に担持させることにより、当該実施例に係るDPFサンプルを得た。このDPFサンプルは、Ptドープ破砕殻の担持量が25g/L(CeZr複酸化物分の担持量24g/L,Ptの担持量1g/L)、Pt担持γ−Al23の担持量が25g/L(γ−Al23の担持量24g/L,Ptの担持量1g/L)である。なお、「g/L」はフィルタ本体容積1L当たりの担持量を表す。
【0049】
−比較例1−
実施例と同じフィルタ本体に、γ−Al23(Pt担持なし)を実施例と同じ方法で50g/L担持させて比較例1のDPFサンプルとした。
【0050】
−比較例2−
実施例と同じフィルタ本体に、γ−Al23(Pt担持なし)とCeZr複酸化物(Zr;50モル%,Pt含有量ゼロ)とを各々の担持量が25g/Lとなるように混合して実施例と同じ方法で担持させて比較例2のDPFサンプルとした。
【0051】
−比較例3−
実施例と同じフィルタ本体に、γ−Al23(Pt担持なし)とCeZr複酸化物(Zr;50モル%,Pt含有量ゼロ)とを各々の担持量が24g/Lとなるように混合して実施例と同じ方法で担持させ、次いでPtを2g/L含浸担持させて比較例3のDPFサンプルとした。
【0052】
<実施例及び比較例1のパティキュレート捕集率>
実施例及び比較例1のDPFサンプルについて、図6に示す装置によってパティキュレート捕集率を調べた。
【0053】
すなわち、図6において、11はパティキュレートとしてのカーボン(煤)を入れた容器であり、この容器11の頂部にエアブロー管12が接続されているとともに、該頂部から延設されたカーボン送り管13の先端にDPFサンプル14を取り付けるようになっている。この装置の場合、エアブロー管12から供給されたエアによって容器11内に乱流を生じ、該容器11のカーボンが乱流に巻き込まれカーボン送り管13によってDPFサンプル14に供給される。DPFサンプル14によって捕捉されなかったカーボンはエアと共に該DPFサンプル14から排出される。
【0054】
測定は、実施例及び比較例1いずれも、セル密度及び壁の細孔通路径が異なる4種類のDPFサンプル(容積はいずれも55cm3)について行なった。容器11に入れるカーボン量は0.28g、エア流量はDPFサンプル14においてSV=120000h-1となるようにした。そうして、容器11のカーボンの全量をDPFサンプル14に供給したときの該サンプルの重量増加量からそのカーボン捕集量を求め、捕集率(カーボン捕集量/カーボン供給量)を算出した。結果は表1に示されている。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例は比較例1よりも捕集率が9〜15%高くなっており、破砕殻によってパティキュレートの捕捉性能が高くなっているということができる。また、実施例の場合、セル密度を200cpsiとしてセルの孔径を大きくし、さらに細孔通路径30μmと大きくしても、セル密度300cpsi、細孔通路径22μmの比較例1よりも捕集率が高くなっており、高い捕集率を得ながら、エンジンの背圧上昇を抑制することができることがわかる。
【0057】
なお、公知のDPFの捕集率は90%以上であると云われているのに、表1の捕集率はそれよりも低くなっている。これは、DPFによる捕集率は排気ガスが流れ始めた当初は低く、時間の経過とともに捕集率が漸次高くなって安定した捕集率を示すようになるところ、上記「90%以上」という数値は捕集性能が安定した後の捕集率であるのに対し、表1の値は、容器11のカーボンをフレッシュ状態のDPFサンプルに供給したときのトータルでの捕集率であり、捕集を開始した直後のカーボン捕捉性が低いときの捕集率が表1の値に反映されているためである。
【0058】
<カーボン燃焼速度>
実施例及び比較例1〜3の各DPFサンプル(セル密度;300cpsi,細孔通路径;22μm)について、大気雰囲気で900℃の温度に66時間保持するエージングを施した後、カーボンを10g/L捕集させた。しかる後、カーボンを含有しない模擬排気ガス(O2;10%,NO;500ppm,残りN2)を空間速度80000h-1で流しながらそのガス温度を上昇させていくことにより、各DPFサンプルに捕集されていたカーボンを燃焼させた。そうして、模擬排気ガス温度400℃及び600℃の各々におけるCO2濃度(カーボンの燃焼によって発生するCO2の濃度)を測定することにより、次式によってカーボン燃焼速度を求めた。
カーボン燃焼速度={(模擬排気ガスの流量×CO2濃度)/22.4}
×Cの質量数
【0059】
模擬排気ガス温度400℃での結果は図7に示し、600℃での結果を図8に示す。「Al23」は比較例1、「Al23+CeZr」は比較例2、「Al23+CeZr+Pt(2g/L)」は比較例3、「Al23+CeZr+Pt(2g/L)[破砕殻コート]」は実施例を表す。
【0060】
図7及び図8において、「Al23」のカーボン燃焼速度よりも「Al23+CeZr」のそれが高くなっているのは、CeZr複酸化物から放出される酸素が当該燃焼に寄与しているためであり、「Al23+CeZr+Pt(2g/L)」の方がさらに高くなっているのはPtが燃焼触媒として働いたためであり、実施例の「Al23+CeZr+Pt(2g/L)[破砕殻コート]」の方がさらに高くなっているのは破砕殻による効果である。すなわち、熱容量の小さな破砕殻に捕捉されているカーボンは着火燃焼し易く、その結果、カーボン燃焼速度が高くなっているものと認められる。
【0061】
なお、破砕殻は上述の複酸化物に限らず、γ−Al23など他の無機酸化物によって形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】DPFの正面図である。
【図2】DPFの縦断面図である。
【図3】DPFの排気ガス流入セルと排気ガス流出セルとを隔てる壁の拡大断面図である。
【図4】上記壁の一部を拡大した断面図である。
【図5】破砕殻のSEM写真である。
【図6】パティキュレート捕集率の測定装置を示す図である。
【図7】実施例及び比較例の400℃でのカーボン燃焼速度を示すグラフ図である。
【図8】実施例及び比較例の600℃でのカーボン燃焼速度を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0063】
1 DPF
2 排気ガス流入セル
3 排気ガス流出セル
4 栓
5 隔壁
6 細孔通路
7 アンカー層
8 破砕殻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれるパティキュレートを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタであって、
上記排気ガスが通る通路の壁面にアンカー層が形成され、該アンカー層に内部が空虚になった無機酸化物の殻を壊してなる破砕殻が固定され、該破砕殻の少なくとも端部がアンカー層より突出していることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項2】
請求項1において、
上記アンカー層及び破砕殻の少なくとも一方は、捕集したパティキュレートを燃焼させるための触媒金属を有することを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記アンカー層及び破砕殻の少なくとも一方は、Ceを含有する酸化物を有することを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記破砕殻は、CeとZrとを含有する複酸化物よりなり、該複酸化物の結晶格子又は原子間に、捕集したパティキュレートを燃焼させるための触媒金属が配置されていることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−63890(P2006−63890A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247262(P2004−247262)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】