説明

デシタビンの合成

β-リッチな保護デシタビンの製造方法で、保護2-デオキシ-リボフラノースと保護5-アザシトシンとを触媒の存在下でカップリングして、式Iの保護デシタビンを含有する反応混合物を形成する工程a)と、工程a)の反応混合物を塩基で急冷する工程とを有する。このようにして生成したβ-リッチな保護デシタビンは脱保護を行って、高収率、高純度でデシタビン製品を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願)
本願は、2009年10月2日に出願された米国特許出願第12/572,578号の優先権を主張するものであり、この出願の全内容を本願明細書に援用する。
(発明の背景)
(1.発明の分野)
【0002】
本願は、デシタビン (2'-デオキシ-5-アザシチジン、5-アザ-2'-デオキシシチジン、DAC、5-アザ-dC、デゾシチジン、4-アミノ-1-(2-デオキシ-β-D-エリスロ-ペントフラノシル)-1,3,5-トリアジン-2(1H)-オンとしても公知)の合成に関するもので、デシタビンは、骨髄異形成症候群(MDS)の治療においてとりわけ有用な活性医薬成分(API)である。
(2.関連技術の説明)
【0003】
数多くのデシタビン合成方法が開発されてきたが、これらの方法は概して効率が悪く、商業的な生産にはあまり好ましくなかった。5-アザシトシン環(s-トリアジン環)は炭水化物に共役する際、また、水系のワークアップで水分に曝されると、水で分解されやすく(中性、塩基性及び酸性条件下)、実際に、水性組成物、水性エマルジョン、水溶液は容易に加水分解してしまうことが大きな問題の1つである。この問題により、5-アザシトシン系ヌクレオシドの商業ベースでの製造は難しく、注目されている(1)(2)。デシタビンの合成におけるもう1つの問題は、ヌクレオシドそのものを形成する主要なグリコシル供与体(環状炭水化物)と核酸塩基とのカップリング反応において、アノマー選択性が不十分であったり、完全にアノマー選択性が欠如しているということである。ヌクレオシド類及び合成的に産生される保護基を有するヌクレオシド類似体は、α-及びβ-アノマー体のいずれの異性体の形でも存在するが、通常、生物学的用途ではβ‐アノマー体のみが所望される。アノマーのキラル中心の立体化学は、主要グリコシル供与体と核酸塩基とのカップリング反応で設定されるが、本発明の発明者らは、デシタビンの製造に使用できる特定の条件下で、キラル中心がエピマー化(異性化)することを発見した。
下記文献を参照のこと。
【0004】
(先行技術文献)
(1)J. A. Beisler, J. Med. Chem., 1978, 21, 204.
(2)L. D. Kissinger and N. L. Stemm, J. Chromatography, 1986, 353, 309-318.
(3)a) US3350388 (1967) and DE1922702 (1969), Sorm and Piskala (Ceskosl Ovenska Akademieved) and A. Piskala and F. Sorm, Nucl. Acid Chem., 1978, 1, 444-449.
; b) A. Piskala and F. Sorm, Collect. Czech. Chem. Commun. 1964, 29, 2060.
(4)M. W. Winkley and R. K. Robins, J. Org. Chem., 1970, 35, 491.
(5)Nucleic acids in chemistry and biology, Michael Blackburn, Michael Gait, David Loakes and David Williams (eds), Cambridge, UK. The Royal Society of Chemistry, 2006, Chapter 3, pp 84-85.
(6)J. Ben-Hatter and J. Jiricny, J. Org. Chem., 1986, 51, 3211-3213.
(7)DE2012888 (1971), Vorbruggen and Niedballa (Schering AG).
(8)U. Niedballa and H. Vorbruggen, J. Org. Chem., 1974, 39, 3672-3674.
(9)G. Gauberta, C. Mathe', J.-L. Imbacha, S. Erikssonb, S. Vincenzettic, D. Salvatoric, A. Vitac, G. Maurya, Eur. J. Med. Chem., 2000, 35 1011-1019.
(10)US4082911 (1978), Vorbruggen (Schering Aktiengesellschaft).
(11)CN101307084A (2008) J. R. Fan et. al.
上記の各文献の内容すべてを引用により本願明細書の記載に含むものとする。
【0005】
Piskala及びSorm(3a)は、1-β-配置を有する反応性N−グリコシルイソシアネート中間体を用いた、非常に詳細なデシタビン合成方法を教示している。この合成方法(スキーム1)は、ペルアシルグリコシルイソシアネートをS-アルキルイソチオウレアと反応させてペルアシルグリコシルイソチオウレアとし、これを高温(135℃)で脂肪酸のオルトエステルで濃縮(condensing)してヒドロキシ基で保護されたグリコシル-4-アルキルメルカプト-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-1,3,5-トリアジンを得た後、ナトリウムメトキシド(NaOMe)のメタノール(MeOH)溶液で脱保護を行い、更に、イオン交換樹脂を使って脱カチオン化を行うことを含む。その後、密閉された容器内で、この中間体を一晩アンモニア(NH3)のMeOH溶液でアミノ化する。イソシアネートを基準としてであるが、デシタビンの総括収率は約30%である。イソシアネートの保存はむずかしく、また、その使用は健康上危険な場合がある。このイソシアネート自体は、シアン酸銀との反応によりクロロシュガー(chlorosugar) 前駆体から生成される(3b)。また、この反応経路は、ICHクラスIの発癌性のある溶媒ベンゼンを使用することや、脱保護工程において加圧容器を必要とするなど、厄介な工程やスケールアップした工程(scale-up steps)に難点がある。
【0006】
【化1】

【0007】
デシタビンの合成方法として別の可能な方法がWinkley及びRobins(4)により報告されている(スキーム2)。彼等の方法は、1-クロロシュガーと2-[(トリメチルシリル)アミノ]-4-[(トリメチルシリル)オキシ]-s-トリアジン(シリル 5-アザシトシン)との無触媒カップリングを利用するもので、これはSN2 メカニズムを介して進行するものと考えられる。所望のβ-アノマーの収率は非常に低く(総括収率7%)、1-クロロシュガーの合成に気体の塩化水素が必要であり、反応時間が長い(4〜5日)。また、加圧容器や複雑なカラムクロマトグラフィーや延々と続くワークアップ及び単離操作が必要である。また、1-ハロシュガー(1-halosugars)(ハロゲノース)は不安定である。この方法においてアロマー選択性が得られるという記載はない。
【0008】
【化2】

【0009】
Niedballa及びVorbruggen(7,8)はそれぞれ、デシタビンを含む保護ヌクレオシド(ブロックトヌクレオシド)の合成を教示しているが、この合成は、塩化スズを含むジクロロエタン(DCE)を利用して、シリル 5-アザシトシンと保護1-クロロシュガーとのカップリング反応を促進させるものである(スキーム3)。この著者らはアノマーリッチなクロロシュガー(α-アノマー)を使用したが、保護デシタビン異性体のアノマー混合物が形成された。この方法は、カップリング混合物の水系ワークアップ工程において、APIやエマルジョンからスズを除去することが難しいという問題がある。そのため、この方法は商業ベースでのデシタビンの製造に適しているとはいえない。5-アザシトシン環が水に反応しやすいため、エマルジョンが形成される方法はいずれも加水分解により生成物の収率及び純度が低くなる可能性がある。
Ben-Hatter及びJiricny(6)もまた、DCEでの塩化スズ触媒カップリング反応で1-クロロシュガーを使用している。反応しやすい5-アザシトシン環の加水分解の問題を回避するために、著者らはかわりにエフモック(Fmoc)ヒドロキシ保護基を使った。この保護基は、非水系弱塩基条件下で取り除くことができるからである。カップリング反応後にシリカゲルクロマトグラフィーを行い、Fmoc保護デシタビンの所望していないα-アノマーと所望のβ-アノマーとが1:0.9の混合物が生成され、1-クロロシュガーを基準として後者のβ-アノマーの収率は21%であった(スキーム3)。この方法の欠点は、保護デシタビンはアノマー混合物として単離されることにくわえ、所望のアノマーを得るためにはデシタビン粗生成物を分別結晶する必要があることである。
【0010】
【化3】

【0011】
Vorbruggen(10)は、ベンゼン、DCE又はMeCN中でのシリル化複素環式有機塩基(シトシン、ピリジン、トリアゾール及びピリミジンを含むが、5-アザシトシンは含まない)と保護された1-O-アシル、1-O-アルキル又は1-ハロ-糖類(即ち、リボース、デオキシリボース、アラビノース及びグルコース誘導体)とのカップリングにより保護ヌクレオシドを生成する一般的な方法を教示している(スキーム4)。デシタビンについて、 Vorbruggenでは具体的な記載はない。エステル化可能な鉱酸又はトリメチルシリルトリフレート(TMSOTf)、TMSOClO3及びTMSOSO2Fをはじめとする強スルホン酸のトリメチルシリル(TMS)エステル類でカップリングを促進する。塩化スズのかわりにこれらのシリルエステル触媒を使用するということは、スズ残留物のないAPIが製造可能であるという意味から、この分野の化学においては前進である。
【0012】
【化4】

【0013】
上記に示すごとく、2-デオキシ-リボース系ヌクレオシドの合成中に、C1(アノマー中心)の立体化学を調整することが課題である(5)。Maury等(9)の試みは、脱酸素による方法を利用してシリル 5-アザシトシンとテトラアシル保護リボフラノース糖との直接カップリング行い、デシタビンの鏡像異性体(ent-デシタビン)の合成を行う。下記スキーム5を参照する。具体的には、Maury等はノン-2-デオキシ-リボースヌクレオシド(non-2-deoxy-ribose nucleosides)を合成し(即ち、リボース系ヌクレオシドの合成)、その後、C2位置の脱酸素を行っている。この方法においては、ent-デシタビンの合成は、関与しているヌクレオシドのent-アザシチジンを経由して進行する。この方法の欠点は、非常に高価なMarkiewicz試薬(1,3-ジクロロ-1,1,3,3-テトライソプロピルジシロキサン)とトリス(トリメチルシリル)シランが、合成の脱酸素の段階で使用されることである。また、カラムクロマトグラフィーがほとんどの工程で使用された。高価な珪素系試薬を使用しなければならず、一般的なヌクレオシドの合成工程のほかに余分な合成工程が必要とされるため、この方法は工業規模においてはあまり興味をひくものではない。
【0014】
【化5】

【0015】
Fan等(11)は、シリル 5-アザシトシンと1-O-アセチル-3,5-ジ-O-(2-メトキシアセチル)-2-デオキシ-D-リボフラノースとを、理論量よりも多いTMSOTfの存在下、トルエン中で30〜35℃でカップリングさせ、アノマー混合物として保護デシタビンをわずか28%の収率で生成した(スキーム6)。保護デシタビンはナトリウムエトキシドを使って脱保護を行い、保護デシタビン基準に22%という低収率、更にはわずか6%という総括収率でデシタビンを得た。
【0016】
【化6】

【0017】
このため、工業規模でデシタビンを高収率かつ高純度で生成するための、より簡単でより安価な方法へのニーズが依然として存在する。
(発明の概要)
本願の態様の1つによると、下記式(I):
【0018】
【化7】

【0019】
(式中、各R1はC1-C8アルキル基又はアリール基であり、R2及びR3はそれぞれ独立して水素又はSi(R4)3を表わし、R4は独立して置換していてもよいC1-C8アルキル基又はアリール基である)で示されるβ‐リッチな保護デシタビンの製造方法は、
a)式IIの保護2-デオキシ-リボフラノース:
【0020】
【化8】

【0021】
(式中、各R1は前記に定義したとおりであり、R5は、OR5が脱離基として挙動することを可能にする、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、フルオロアルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基をしめす)と、式IIIの保護5-アザシトシン:
【0022】
【化9】

【0023】
(式中、各R4は前記に定義したとおりである)とを、有機溶媒及び触媒の存在下でカップリングして、式Iの保護デシタビンを含有する反応混合物を形成する工程と、
b)有機溶媒に溶解可能な有機塩基で前記工程a)の反応混合物を急冷する(quench)工程とを有する。
カップリング反応は温度20〜-60℃で行うことが好ましく、約0℃で行うことがより好ましい。
前記触媒は、非金属系ルイス酸又はスルホン酸が好ましい。非金属系ルイス酸は、スルホン酸のトリアルキルシリルエステルが好ましい。スルホン酸のトリアルキルシリルエステルは、トリメチルシリルトリフルオロメチルスルホネート(TMSOTf)が好ましい。スルホン酸は、トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)が好ましい。
有機塩基はアミンが好ましく、第一アミンが更に好ましい。第一アミンはMeNH2又はEtNH2が好ましい。
有機溶媒はジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、アセトニトリル又はこれらの混合物が好ましい。
本願の実施形態の1つとして、保護デシタビンが下記式Iaの化合物であることが好ましい。
【0024】
【化10】

【0025】
(式中、R6は水素、アルキル、アルコキシ又はハロゲン化物である)
或いは、保護デシタビンが式Ibの化合物であることが好ましい。
【0026】
【化11】

【0027】
本願の別の態様によると、前記方法により製造されたβ-リッチな保護デシタビンは、更に脱保護を経て、最終APIデシタビン製品となってもよい。
【0028】
【化12】

【0029】
好適な実施形態として、本方法は、急冷した反応混合物を、水と混和しない有機溶媒で希釈し、塩基性水溶液で有機相を洗浄して有機相を水溶液から分離し、有機相を乾燥して水分を除去し、前記有機溶媒を蒸発させて乾燥固体の保護デシタビンとし、更に保護デシタビンを粉砕してもよい、単離工程を有していてもよい。
脱保護工程は、アルコキシド、アンモニア又はアミン等の求核性脱保護剤の存在下、アルコール溶媒中又はアルコール/補助溶剤の混合物中で行えばよい。アルコキシドは、ナトリウムメトキシドが好ましい。
本願の実施形態の1つとして、本方法は、β-リッチなデシタビンを有機溶媒で洗浄する工程を更に有していてもよい。有機溶媒としてはメタノールが好ましい。
本願の実施形態の1つとして、本方法は、β-リッチなデシタビンをアルコール溶液中又はアルコールとジメチルスルホキシド(DMSO)との混合物中で再結晶化する工程を有していてもよい。アルコールはメタノールが好ましい。
報告されている他の方法と比較すると、本願に記載した方法は以下の利点を有する。1)本願の方法にしたがって製造された保護前駆中間体及びデシタビン最終API製品は、重金属の残留物がない。2)本願の方法により製造された保護デシタビン中間体は、必要なβ-アノマーリッチであり、所望しないα-アノマーの相対量が少なく、保護デシタビンに多く含有されているβ-アノマーの脱保護を行うことにより、最終的なデシタビンAPI製品の収率が向上する。これに対して、文献に開示されている従来の合成方法では、保護デシタビン中間体が、通常、α‐アノマーとβ-アノマーのおよそ1:1の混合物として生成される。3)本願の方法は、ヒト向けのAPIの調製として工業規模で経済的に行うことができ、いずれの合成工程においてもクロマトグラフィーによる精製を必要としない。任意であるが再結晶化工程を1回用いてもよい。
【0030】
本発明を特徴づける様々な新規性の特徴については、本願の開示に添付し、開示の一部を形成する請求の範囲に詳細に記載する。本発明、本発明の操作効果、本発明の使用により達成される具体的な目的をさらによく理解するには、本発明の好適な実施形態が説明及び記載されている図面及び説明を参照すべきものである。
(本発明の好適な実施形態の詳細な説明)
以下に本発明の好適な実施形態を述べるが、これらは本発明の範囲を限定するために使うべきものではない。
本願明細書で使用の「リッチな」「β-リッチな保護デシタビン」又は「βリッチなデシタビン」とは、β-アノマーとα-アノマーの比が1:1より大きい、好ましくはこの2つのアノマーの比が2:1より大きい、更に好ましくは2.5:1より大きいことを意味する。
本発明者らは、アノマー形成の反応条件のもとで、また、ワークアップの過程の両方で、保護デシタビン前駆体における所望しないα-アノマーと所望のβ-アノマーとの比は変化するものであり、具体的にはカップリング反応で形成される炭水化物のC1キラル中心のエピ化により上記の比が変化することを発見した。更には、所望しないα-アノマーは、エピ化により形成されて増えることがわかった。α-アノマーは熱力学的には好ましい異性体であったため、本発明者らはこれを回避し、カップリング反応で最初に形成されたβ-アノマーの相対量及び絶対量を保持するための方法を考案しなければならなかった。
前記のごとく、カップリング反応により、所望のβ-アノマー化合物Iは所望しない下記α-アノマー化合物IVと一緒に得られる。
【0031】
【化13】

【0032】
ワークアップの結果、R2及びR3はいずれも水素となる。
本発明の態様の1つは、カップリング反応混合物の有機塩基による急冷である。カップリング反応及び塩基による急冷終了後、反応系を水と混和しない有機溶媒で希釈してもよい。混合物の温度は周囲温度まで上昇する。その後、反応混合物を塩基性水溶液で洗浄し、有機相を乾燥して水分を除去してもよい。
上記のごとく、下記式Iで表わされる保護デシタビン化合物の調製方法は、
【0033】
【化14】

【0034】
下記式IIの保護2-デオキシ-リボースと
【0035】
【化15】

【0036】
下記式IIIの保護5-アザシトシンとをカップリングすることを含む。
【0037】
【化16】

【0038】
好ましくは、R4がメチルでR5がアセチルである。好適な実施形態では、ワークアップ後に単離された保護デシタビンが下記式Iaで表わされる化合物である。
【0039】
【化17】

【0040】
保護デシタビンが下記式Ibの化合物であることが更に好ましい。
【0041】
【化18】

【0042】
急冷前に、トリメチルシリル基が遊離ペンダントアミノ基に結合していてもよい。
R5はアセチルが好ましい。そのため、好適な実施形態では、保護デシタビンが、下記IIIaの(2-[(トリメチルシリル)アミノ]-4-[(トリメチルシリル)オキシ]-s-トリアジン)と、
【0043】
【化19】

【0044】
下記化合物IIaとのカップリングにより形成される。
【0045】
【化20】

【0046】
このカップリング反応により、所望のβ-アノマー化合物Ibは不要なα-アノマー化合物IVaとともに生成される。
【0047】
【化21】

【0048】
本発明者らは、所望しないα-アノマーIVと所望のβ-アノマーIとの比が、採用するカップリング条件及びワークアップ条件によって大きく変わることを発見した。塩基と保護2-デオキシ-リボフラノース化合物とのカップリング反応における選択性の欠如については、文献で十分に実証されている。しかしながら、デシタビン合成について十分に実証されていないことは、化合物Iのようなβ-アノマーの保護ヌクレオシドをα-アノマーに対して著しく又は大幅に多い量で生成するために利用できるプロトコルである。実際のところ、本発明者らは、所望しないα-アノマーIVaと所望のβ-アノマーIbとの比が、溶媒の選択、反応温度、化合物IIIaに対する化合物IIaの当量、反応濃度及び反応ワークアップの方法によって、1:0.6から1:2.6の違いがあることを、その研究段階で見出した。例えば、近似した反応条件のもとでは、ジクロロメタン(DCM)を溶媒として使う場合はアノマー選択性が良好となり(反応温度が約-40℃で、α-アノマーIVa:β-アノマーIbの比は1:2.6であった)、一方で、テトラヒドロフラン(THF)やトルエンを溶媒として使う場合は、選択性は低くなり(反応温度が約-40℃で、α-アノマーIVa:β-アノマーIbの比は1:0.6〜0.9)、β-アノマーIbの純度は低下した(HPLCによると、25〜35面積%であったのに対し、DCMを溶媒として使用した場合は>50面積%であった)。化合物IIaと化合物IIIaとのカップリングをDCM中で約20℃で行った場合、α-アノマーIVa:β-アノマーIbの比は1:1.3であった。実際に、化合物IIaとIIIaとのカップリングを1当量のTMSOTfを用いてDCM中で行った際の、反応温度とアノマー選択性との関係を考察した。-40℃で、α-アノマーIVa:β-アノマー Ibの比は1:2.6で、-15℃では1:1.9、2℃では1: 1.7、20℃で1:1.3であった。特に好ましくは、TMSOTfのようなトリアルキルシリルスルホン酸エステルを触媒として使用し、無水DCM中、20℃未満の温度でカップリング反応を行うことが好適である。TBSOTf等の他のシリルエステル系触媒も使用することができる。好適な温度は-40℃〜5℃であり、化合物IIと化合物IIIとのモル比1:1の混合物を、わずかに過剰(1.05当量)のTMSOTfを用いて反応させる。化合物IIに対して化合物IIIを過剰に使用した場合は、β-アノマーの選択性が低下した。α-アノマーに対してβ-アノマーの量を増加させるには、より希釈した条件が好ましいが、希釈度が高くなることは(例えば、1質量部の化合物IIに対して30体積部の溶媒)、工業規模においては好ましくない。そこで、1質量部の化合物IIaに対して約15体積部のDCMを使用することが工業規模では好ましい。
【0049】
予期せぬことであったが、様々な条件のなかで、カップリング反応混合物を有機塩基で冷却することが、β-アノマー:α-アノマーの高い比を得るのに有利であることを本発明者らは見出した。反応混合物を冷却しないままにした場合、α-アノマーの量が絶対的に増加し、β-アノマーの量が絶対的に低下して、所望しないα-アノマー:所望のβ-アノマーの比が上昇したことを本発明者らは発見した。いかなる理論で拘束しようとするものではないが、この比が変化するのは、主に、所望のβ-アノマーから所望しないα-アノマーへの異性体化によるものであって、β-アノマーの分解はほとんど原因となっていないことがわかった。
本発明者らは、カップリング反応終了後、カップリング反応混合物を冷却しないまま放置すると、β-アノマーの量は着実に減少しα-アノマーの量が増加することを予期せずして発見した。温度が上がると異性体化速度は上昇する。異性体化速度が相当速いと、キログラム単位以下の規模でさえもワークアップの前に反応を冷却しないでいると、β-アノマーの損失が著しくなることがわかった。この発見は自明なことでも、期待されていたことでもなかった。本発明者らのこの知見と、反応を終わらせるために塩基を添加するということを併せた結果、本発明者らは、他の方法よりもβ-アノマーを多く得ることができる方法の開発に成功した。
急冷に使用する有機塩基としては有機アミンが好ましい。更には、有機アミンとして、MeNH2又はEtNH2等の第一アミンがより好適である。この塩基による急冷工程は、標準的な水性塩基による急冷工程の前に行う。有機アミンの量は、式IIの2-デオキシ-リボフラノースに対しておよそ1モル等量が好ましい。有機アミン塩基の過剰が大きくなると、生成化合物Iの分解を助長する可能性がある。
有機可溶性塩基を使用することにより、反応直後に低温で冷却することができる。それに対して、NaHCO3等の水性塩基による冷却の場合は、NaHCO3水溶液から氷が形成されないようにするために温度を上げなければならない。更に、本発明者らは、カップリング反応をNaHCO3水溶液で急冷すると、生成物の混合物をDCMで事前に希釈することにより析出をおさえる必要があることがわかった。
【0050】
式IIの2-デオキシ-リボフラノースと式IIIの保護5-アザシトシンとのカップリング反応の終了後すぐに、反応温度と同様な温度で塩基を添加する。有機アミン塩基による急冷の前に反応系の温度を上昇させてしまうと、β-アノマー化合物Iの量が減少し、α-アノマー化合物IVの量が増加する。そのため、カップリング反応混合物への塩基の添加は、好ましくはカップリング反応の終了から30分以内、更に好ましくは5分以内、特に好ましくは反応終了直後に行う。反応混合物の温度上昇を招き、その結果著しい異性体化を引き起こしかねない発熱が産生されないように、添加速度をはかりながら供給するとよい。カップリング反応混合物への塩基の添加は、反応混合物の温度が20℃以下で行うことが好ましく、更に好ましくは約0℃で行う。
本願の実施形態の1つによると、好適な反応条件のもとで行った場合、カップリング反応により、α-アノマーとβ-アノマーとをモル比1.0:1.5以上、例えば1.0:2.0又は1.0:2.7といった高モル比で含有する生成混合物が得られるが、このモル比は採用する反応温度によって異なる。カップリング反応温度が低いほど、モル比が高くなり好ましい。さらに重要なことは、カップリング反応の温度は、α-アノマー:β-アノマーの比率が好適になるだけでなく、とりわけ、β-アノマーのHPLC純度がおよそ50%以上と高くなると同時に、製造プラントにおける簡便さと単位操作時間の短縮につながる。この目的のためには、反応最高温度を約0℃とし、カップリング反応終了直後にDCM可溶性塩基での急冷を行うことが好ましい。これにより、およそ3kgの製造規模で、化合物IIaを基準にβ-アノマー化合物Ibの単離収率は約40%まで上げることができる。β-アノマーリッチな化合物Iを得ることの利点の1つは、その後の脱保護工程が、β-アノマー基準に計算したときに、より高収率に進行してデシタビンを生成することである。更に、脱保護される前の保護デシタビンがβ-アノマーを多く含んでいれば、単離されたデシタビン粗生成物はβ-アノマーがリッチとなる。実験室規模の場合、α-アノマーとβ-アノマーが1:3の混合物である保護デシタビンを脱保護したときに、デシタビン粗生成物は1:105のα-アノマーとβ-アノマーとの混合物として単離された。α-アノマーとβ-アノマーが1:1.8の混合物である保護デシタビンが脱保護された場合、デシタビン粗生成物は1:59のα-アノマーとβ-アノマーとの混合物として単離された。保護混合物における比率が1:1.3の場合は、脱保護後の混合物では1:44であり、保護混合物における比率が1:1の場合は、α-アノマーとβ-アノマーが1:18のデシタビン粗生成物であった。
【0051】
カップリング反応及びアミン塩基での急冷の後、水とは不混和性の有機溶媒、好ましくはDCMで反応系を希釈してもよく、混合物の温度は周囲温度、好ましくは25℃まで上がる。更に、反応混合物をNaHCO3水溶液で洗浄し、有機相を乾燥させて水分を除去し、有機相に溶解されている保護デシタビンの加水分解が起こらないようにする。先に記載したように、保護デシタビン及びデシタビンは水の影響を受けやすい。
本発明者らは、単離した固形の化合物Iの品質や物理的特性及び水分が、次に行う化合物Iからデシタビンへの脱保護工程に特に関与していることを期せずして発見した。実際のところ、この脱保護工程が速やかに、かつ、一定して進行するプロトコルを開発することは困難であった。このようにNaOMeを含むMeOHを用いて化合物Iからアロイル保護基を取り除く脱保護の最中に起こった問題点(加水分解をはじめとする問題)により、Ben-Hatter及びJiricny[12]は、ヒドロキシ基の保護用としてアロイル保護基ではなくFmocを使ったデシタビンの合成方法を公表するに至った(即ち、Ben-Hatter及びJiricnyは、デシタビン合成では、加水分解が原因でアロイル保護基(化合物1においてR1はアリールである)の脱保護は困難と結論づけているように思われる。また、Fan等[11]の報告によると、保護デシタビンの脱保護で22%と収率が低いのは、おそらく、最高条件と保護デシタビンの品質とが確認されていないことによると考えられる。
【0052】
本願の実施形態の1つによると、NaHCO3水溶液での抽出は、シリル化ヌクレオ塩基からのケイ素残渣及び/又はTMSOTf触媒試薬の残渣が水性塩基により分解されるほどの十分な時間をかけて行うことが好ましい。さもなければ、特定できないケイ素系残渣により、次に行う脱保護工程が妨げられ、遅れる影響がでることがある。固形の化合物Iは更に乾燥させて単離を行い、その後の工程での分解を防ぐことが好ましい。この乾燥により、デシタビンの収率を高めることができる。
任意であるが、固形の化合物Iは、次の工程の前に粉砕して微細で均一な粉末にしてもよい。固形化合物Iの特性は、次の工程が速やかに完了するかどうかに密接に関与している。
更なる実施形態で、デシタビン粗生成物を調達するための保護デシタビンの脱保護は、乾燥した固形の保護デシタビンを使用することにより速やかに進行することがわかった。固形の保護デシタビンの特質、乾燥度及び物理的特性は、次の脱保護工程と密接に関与する。なぜならば、この脱保護は不均質な条件のもとでも、塩基性条件のもとでも行うことができるからである。α-アノマーとβ-アノマーの比が少なくとも1:1.5の保護デシタビンの脱保護を工業規模で行った場合、所望していないα-アノマーが簡単な濾過工程でほとんど取り除かれた(HPLC分析で判定した際にβ-アノマーに対して<1%)粗デシタビンが脱保護工程により簡便に提供される。
【0053】
保護デシタビンの脱保護は、合成したデシタビンを含む固体相と、MeOH等の有機溶媒で大方構成される液体相との混合物における不均一反応である。保護デシタビンのすべてではなく一部が液体相に溶解していると考えられる。言い換えるならば、スラリー中で反応が起こる。脱保護が完了すれば、固体相と液体相で構成される不均一な混合物は簡単に濾過される。先のカップリング工程で形成されている不要なα-アノマーをβ-アノマーから分離するのに余分で特別な処理工程は不要である。それは、デシタビンのα-アノマー異性体が液体相に溶解されたまま存在しているからである。回収した固体相は、主として、β-リッチなデシタビン粗生成物である(そのHPLC純度は非常に高く、一般的には約96%である)。濾液(即ち、「液体相」)には有機溶媒、「所望していないα-アノマー」(即ち、α-デシタビン)、更におそらくは、分解物質、保護デシタビンの一部、脱保護中間体の一部が含まれている。APIグレードのデシタビンは、本願の方法で生成されたデシタビン粗生成物からの結晶化により、HPLC純度99.7%以上で市場のデシタビン製品と同等な品質をもって得ることができる。
本方法の別の実施形態では、式I及び式IVの化合物の混合物に対し、
【0054】
【化22】

【0055】
求核性脱保護剤を使って脱保護を行い、デシタビン粗生成物とする。保護デシタビン化合物Iの脱保護は、アルコキシド、アンモニア又はアミン等の求核性脱保護剤を含むアルコール系溶媒又はアルコール/補助溶剤混合物を使って行うことができる。アルコキシドとして、NaOMeが挙げられる。アミンはMeNH2が挙げられる。NaOMeは好適な脱保護剤である。脱保護工程は不均一な条件下で行うことが好ましい。これは、使用する保護デシタビンの品質が優れていること、例えば、材料が乾燥していること、固体が均質な安定性を有していることに依存する。
デシタビン粗生成物の不要なα-アノマーVは濾過により実質的に取り除かれ(例えば、HPLC分析で判定した際にデシタビンに対して1モル%未満)、脱保護工程によってデシタビン粗生成物は簡単に単離される。
【0056】
【化23】

【0057】
化合物Ibと化合物IVaの1.7〜2.4:1.0の混合物の脱保護を工業規模で行った際、デシタビン粗生成物中のα-アノマーVの量は、HPLC分析によるとデシタビンに対して1モル%未満であった。そのため、デシタビンからα-アノマーVを取り除くための分離精製工程は必要とされなかった。これは、本発明の利点の1つである。
【0058】
【化24】

【0059】
脱保護剤としてNaOMeを使用する場合、好適な溶媒はアルコールである。使用可能な溶媒として、MeOHとイソプロパノールが挙げられる。アルコールとDMSOとの混合物も使用できる。最も好ましい溶媒系は、補助溶剤なしのMeOHである。なぜなら、この反応は不均一であり、生成されたデシタビン粗生成物は混合生成物中に濾過が可能な固形物として懸濁しており、一方で、所望されないアノマーVは液体相中に実質的には溶解されて存在しているため、デシタビン粗生成物は濾過により非常に簡便に単離されるからで、その後、アルコール(好ましくはMeOH)で洗浄して乾燥する。5.5〜6kgの工業規模での化合物IbとIVaとの混合物の脱保護の場合、HPLC純度が96%を超えるデシタビン粗生成物が収率58〜66%で提供される。
本願の別の実施形態では、アルコール系溶媒又はアルコール系混合溶媒又はアルコールと補助溶剤との混合物からデシタビン粗生成物を再結晶させ、APIグレードのデシタビンを得る。使用するアルコールとしてはMeOHやイソプロパノールが挙げられ、他の補助溶剤としてはDMSOが挙げられる。デシタビン粗生成物をMeOHで結晶化させると、HPLC純度が99.7〜99.9%の高純度のデシタビンを、キログラム単位の工業規模で、約65%の収率(デシタビン粗生成物基準)で回収することができる。
実施例
下記の実施例は、更に説明することだけを目的として記載するものであって、開示の発明を限定することを意図するものではない。
【0060】
実施例1
シリル 5-アザシトシン(IIIa)と保護2-デオキシ-D-リボフラノース (IIa)とのカップリングによる、保護デシタビン(Ib + IVa)の生成
1-O-アセチル-3,5-ジ-O-(4-クロロ-ベンゾイル)-2-デオキシ-D-リボフラノース(3.603kg、7.68mol)、2-[(トリメチルシリル)アミノ]-4-[(トリメチルシリル)オキシ]-s-トリアジン(1.970kg、7.68mol)及びジクロロメタン(71.6kg)を適切な反応器に充填し、混合物を0℃に冷却した。この溶液にTMSOTf(1.791kg、8.06mol)を0℃で添加し、5時間撹拌した。さらに、2Mメチルアミンを含むメタノール溶液(約3.95kg)を0℃で混合物に添加して、45分間撹拌した。この混合物をジクロロメタン(71.6kg)で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(39.8kg)を使って25℃で洗浄した。有機層を分子篩(36kg)を使って乾燥させた。分子篩を濾過し、ジクロロメタン (60.1kg)で洗浄した。有機層を35℃で蒸発乾固した。固形物を粉砕し、45℃で真空乾燥を行い、2.99kg(5.92mol)のHPLC純度52%の4-アミノ-1-[3,5-ジ-O-(4-クロロ-ベンゾイル)-2-デオキシ-β-D-リボフラノシル]-1H-[1,3,5]トリアジン-2-オン(化合物Ib)(1-O-アセチル-3,5-ジ-O-(4-クロロ-ベンゾイル)-2-デオキシ-D-リボフラノース基準で収率40%)と、4-アミノ-1-[3,5-ジ-O-(4-クロロ-ベンゾイル)-2-デオキシ-α-D-リボフラノシル]-1H-[1,3,5]トリアジン-2-オン(化合物IVa)混合物をHPLC純度27%で得た。α-アノマー:β-アノマー比は1.0:1.91であった。
【0061】
実施例2
保護デシタビン(Ib + IVa)の脱保護によるデシタビン粗生成物の調製
HPLC純度約50%の4-アミノ-1-[3,5-ジ-O-(4-クロロ-ベンゾイル)-2-デオキシ-β-D-リボフラノシル]-1H-[1,3,5]トリアジン-2-オンと4-アミノ-1-[3,5-ジ-O-(4-クロロ-ベンゾイル)-2-デオキシ-α-D-リボフラノシル]-1H-[1,3,5]トリアジン-2-オンとの混合物(6.15kg、12.17mol)、及び、メタノール(21.4kg)を約25℃で適切な反応器に充填した。30%ナトリウムメトキシドを含むメタノール溶液(0.61kg)を前記混合溶液に添加し、5時間撹拌した。固形物を濾取し、メタノール(3.3kg)で洗浄し、50℃で14時間乾燥して0.927kg(4.11mol)のデシタビン粗生成物を97.1%のHPLC純度で得た(4-アミノ-1-[3,5-ジ-O-(4-クロロ-ベンゾイル)-2-デオキシ-β-D-リボフラノシル]-1H-[1,3,5]トリアジン-2-オン(化合物Ib)を基準として収率は約67%)。
実施例3
デシタビン粗生成物の精製
デシタビン粗生成物(1.200kg、5.25mol)及びメタノール(86kg)を適切な反応器に充填した。この混合物を加熱還流し、デシタビン粗生成物を完全に溶解させた。活性炭素(24g)を64℃で混合溶液に添加し、1時間撹拌した。この混合物を64℃で濾過し、メタノール(24kg)で洗浄した。その後、濾液は適当な体積(90L)になるまで63℃で蒸留した。溶液を曇り点(56℃)まで冷却し、その温度で1時間保持した。さらにスラリーを5℃に冷却し、4時間撹拌した。固形物を濾取し、メタノール(2.8kg)で洗浄し、50℃で乾燥させて0.75kg(3.28mol)のデシタビンをHPLC純度99.7%で得た(デシタビン粗生成物基準で収率65%)。
【0062】
実施例4
デシタビン粗生成物の精製
デシタビン粗生成物(1.5g)を無水MeOH(29mL)中で30分間加熱還流した。この溶液にDMSO(9.3mL)をゆっくりと添加し、60〜65℃でほぼ完全に溶解状態となった。混合物を濾過し、濾液をゆっくり冷却した。スラリーを4℃で濾過し、濾過ケーキを3回MeOH (毎回3mL)で洗浄し、50℃で真空乾燥を行いHPLC純度が99.82%のデシタビン(0.9g)を得た。
実施例5
シリル 5-アザシトシン(IIIa)と保護2-デオキシ-D-リボフラノース (IIa)とのカップリングによる保護デシタビン(Ib + IVa)の生成
1-O-アセチル-3,5-ジ-O-(4-クロロ-ベンゾイル)-2-デオキシ-D-リボフラノース(5g、HPLC純度90%、9.9mmol当量)と DCM(50mL)と2-[(トリメチルシリル)アミノ]-4-[(トリメチルシリル)オキシ]-s-トリアジン(2.5g、9.9mmol)との混合物を約0℃まで冷却し、この溶液にTfOH(1.1g、6.9mmol)を添加した。約0℃でこの溶液を5時間撹拌した後、DCM(100mL)で希釈し、NaHCO3飽和水溶液(75mL)を20〜25℃で添加した。有機層を分離させ、無水MgSO4で乾燥させて濾過を行った。MgSO4をDCM(30mL)で洗浄し、濾液を集めて20〜40℃で減圧下で蒸発乾固を行い、HPLC純度37.4%の4-アミノ-1-[3,5-ジ-O-(4-クロロ-ベンゾイル)-2-デオキシ-β-D-リボフラノシル]-1H-[1,3,5]トリアジン-2-オン(化合物Ib)とHPLC純度29.0%の4-アミノ-1-[3,5-ジ-O-(4-クロロ-ベンゾイル)-2-デオキシ-α-D-リボフラノシル]-1H-[1,3,5]トリアジン-2-オン(化合物IVa)との混合物4.5gを得た。
【0063】
本発明について、特定のいくつかの実施形態を参照しながら記載及び説明したが、当該分野の当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、手順やプロトコルに対して様々な改作、変更、修正、置き換え、削除又は追加を行うことができるであろう。例えば、本願明細書で先に言及したような特定の反応条件以外の反応条件は、上記の発明の方法から化合物を調製するための試薬又は手順における変更の帰結として適用できる。そのため、本発明は以下の請求の範囲により定義され、この請求の範囲は相応なかぎり広く解釈されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式I:
【化1】

(式中、各R1はC1-C8アルキル基又はアリール基であり、R2及びR3はそれぞれ独立して水素又はSi(R4)3を表わし、R4は独立して置換されていてもよいC1-C8アルキル基又はアリール基である)で表わされるβ-リッチな保護デシタビンの製造方法であって、
a)下記式II:
【化2】

(式中、各R1は前記定義の通りであり、R5は、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、フルオロアルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を示す)で表わされる保護2-デオキシ-リボフラノースと、下記式III:
【化3】

(式中、各R4は前記定義の通りである)で表わされる保護5-アザシトシンとを、有機溶媒及び触媒の存在下でカップリングして、式Iの前記保護デシタビンを含有する反応混合物を形成する工程と、
b)前記工程a)の反応混合物を、前記有機溶媒に可溶である有機塩基で急冷する工程とを有する、製造方法。
【請求項2】
前記カップリング反応が温度20〜-60℃で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記温度が約0℃である請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記触媒が非金属系ルイス酸又はスルホン酸である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記有機塩基がアミンである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記アミンが第一アミンである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、アセトニトリル及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記保護デシタビンが下記式Iaで表わされる化合物である、請求項1記載の方法。
【化4】

【請求項9】
前記保護デシタビンが下記式Ibで表わされる化合物である、請求項8記載の化合物。
【化5】

【請求項10】
β-リッチなデシタビンの製造方法であって、
【化6】

a)下記式II:
【化7】

(式中、各R1は前記に定義したとおりであり、R5はアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、フルオロアルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を示す)で表わされる保護2-デオキシ-リボフラノースと、下記式III:
【化8】

(式中、各R4は前記に定義したとおりである)で表わされる保護5-アザシトシンとを、有機溶媒及び触媒の存在下でカップリングして、式Iの保護デシタビンを含有する反応混合物を形成する工程と、
b)前記反応混合物を有機塩基で急冷する工程と、
c)前記保護デシタビンの脱保護を行い、β-リッチなデシタビンを得る工程とを有し、前記有機塩基が前記有機溶媒に対して可溶である、方法。
【請求項11】
前記工程b)の後、かつ、前記工程c)に先だって、乾燥した固形の保護デシタビンを単離する工程を更に有する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記単離の工程が、1)急冷した前記反応混合物を、水と混和しない有機溶媒で希釈して、前記保護デシタビンを含む有機相を得ることと、2)前記有機相を塩基性水溶液で洗浄することと、3)前記有機相を前記水溶液から分離することと、4)前記有機相を乾燥して水分を除去することと、5)前記有機溶媒を蒸発させて乾燥固体の保護デシタビンを得ることとを有する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記β-リッチなデシタビンを、アルコール系溶液又はアルコールとジメチルスルホキシド(DMSO)との混合物で再結晶化させる工程を更に有する、請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記保護デシタビンを乾燥粉砕する工程を更に有する、請求項10記載の方法。
【請求項15】
前記脱保護工程の終了後に、前記β-リッチなデシタビンを所望しないα-デシタビンから濾過により固形物として単離する、請求項10記載の方法。

【公表番号】特表2013−506665(P2013−506665A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532068(P2012−532068)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/023204
【国際公開番号】WO2011/040984
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(503345569)サイノファーム タイワン リミテッド (18)
【Fターム(参考)】