説明

デジタルアンプ

【課題】起動時にブートストラップコンデンサの充電を簡単な制御で確実に行うデジタルアンプを提供すること。
【解決手段】デジタルアンプは、直列接続された2つのスイッチング部と、所定電圧の電源供給により動作して一方のスイッチング部を駆動する第1駆動部と、所定電圧より高い電圧の電源供給によって動作して他方のスイッチング部を駆動する第2駆動部とを有し、2つのスイッチング部を交互にオンオフすることによってデジタルパルス信号を増幅する増幅部と、第2駆動部に供給する電源をブートストラップするブートストラップコンデンサと、ブートストラップコンデンサの充電を制御するブートストラップ制御部とを備える。ブートストラップ制御部は、所定電圧にブートストラップコンデンサの出力電圧を加えたブート電圧が所定値未満であれば、ブートストラップコンデンサの充電を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起動時にブートストラップコンデンサを充電するデジタルアンプに関する。
【背景技術】
【0002】
D級アンプの出力段は、NchのMOSFET(以下、単に「FET」という)を上下2段に組み合わせて構成されている。図3は、D級アンプの出力段の構成を示す回路図である。図3に示すように、D級アンプでは、PWM(Pulse Width Modulation)回路101によって、例えばアナログオーディオ信号がデジタルパルス信号に変換される。デジタルパルス信号は、それぞれ上下2段に構成されたFET131a,131b及び駆動回路133a,133bを有する増幅回路103によって増幅された後、LC回路で構成された復調回路107によってアナログ信号に復号される。なお、当該D級アンプには、上段のFET131b用の駆動回路133bに供給する電源をブートストラップするためのブートストラップコンデンサCbが設けられている。
【0003】
増幅回路103は、上下2段のFET131a,131bを交互にオンオフすることによってデジタルパルス信号を増幅する。まず、下段(ローサイド側)のFET131aがオンして、上段(ハイサイド側)のFET131bがオフすると、増幅回路103の出力は−Vbとなり、ブートストラップコンデンサCbに蓄電される。次に、ローサイド側のFET131aがオフして、ハイサイド側のFET131bがオンする際には、ブートストラップコンデンサCbの電圧が加わった電源がハイサイド側の駆動回路133bに供給される。
【0004】
このように、ハイサイド側のFET131bを駆動する際には、駆動回路133bに供給する電源をブートストラップする必要がある。したがって、予めブートストラップコンデンサCbを充電するために、ローサイド側のFET131aからオンする必要がある。すなわち、当該D級アンプの起動時には、ローサイド側のFET131aからオンする必要がある。
【0005】
特許文献1には、スタートアップ前又は発振器から信号を転送する前にブートストラップコンデンサをプリチャージするブートストラップ回路を含むプリチャージ回路を有するドライバが開示されている。当該ドライバでは、タイミング回路が、ハイ側ドライバがドライブ信号を受け取る前にハイ側ドライバに給電するため、プリチャージ回路を制御するプリチャージタイミング信号を供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−33736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記説明した特許文献1のドライバにはタイミング回路が必要であり、かつ、プリチャージ回路の制御シーケンスが複雑である。
【0008】
本発明の目的は、起動時にブートストラップコンデンサの充電を簡単な制御で確実に行うことができるデジタルアンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のデジタルアンプは、アナログ信号をデジタルパルス信号に変換するデジタルパルス信号変換部と、直列接続された2つのスイッチング部、所定電圧の電源供給によって動作して前記2つのスイッチング部の一方を駆動する第1の駆動部、および前記所定電圧より高い電圧の電源供給によって動作して前記2つのスイッチング部の他方を駆動する第2の駆動部を有し、前記2つのスイッチング部を交互にオンオフすることによって前記デジタルパルス信号を増幅する増幅部と、前記第2の駆動部に供給する電源をブートストラップするブートストラップコンデンサと、前記ブートストラップコンデンサの充電を制御するブートストラップ制御部と、前記増幅部によって増幅されたデジタルパルス信号をアナログ信号に変換するアナログ信号変換部と、を備え、前記ブートストラップ制御部は、前記所定電圧に前記ブートストラップコンデンサの出力電圧を加えたブート電圧が所定値未満であれば、前記ブートストラップコンデンサの充電を行う構成を有している。
この構成により、ブートストラップコンデンサの充電を簡単な制御で確実に行うことができる。
【0010】
また、本発明のデジタルアンプにおいて、前記ブートストラップ制御部は、前記増幅部の出力電圧に対する前記ブート電圧を監視する監視部を有し、前記ブート電圧に応じて前記ブートストラップコンデンサへの電流経路を開閉する構成を有している。
この構成により、AC電源が一時的に低下したとき又はデジタルアンプがフルパワーで動作しているときに、ブート電圧が低下しても、ブートストラップコンデンサの再充電を自動で行うことができる。また、ブートストラップコンデンサへの充電が完了すれば、充電を停止できるため消費電力の低減も可能となる。なお、監視部は、例えば、実施の形態でのツェナーダイオードDzである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るデジタルアンプによれば、起動時にブートストラップコンデンサの充電を簡単な制御で確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る一実施形態のデジタルアンプの構成を示す回路図
【図2】ブート電圧Vbootが低下した際のブート電圧Vboot及びデジタルアンプの出力を示すグラフ
【図3】D級アンプの出力段の構成を示す回路図
【図4】本発明に係る他の実施形態のデジタルアンプの構成を示す回路図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る一実施形態のデジタルアンプの出力段の構成を示す回路図である。なお、図1では、図3と共通する構成要素には同じ参照符号が付されている。図1に示すデジタルアンプは、D級アンプであって、PWM(Pulse Width Modulation)回路101と、増幅回路103と、ブートストラップコンデンサCbと、ブートストラップ制御回路105と、復調回路107とを備える。本実施形態のデジタルアンプが図3に示したD級アンプと異なる点は、ブートストラップ制御回路105を備えたことである。なお、図1では、負荷としてスピーカ111がデジタルアンプの出力端109に接続されている。以下、本実施形態のデジタルアンプが備える各構成要素について説明する。
【0015】
PWM回路101は、図示しないマイクロフォンにより集音されたアナログオーディオ信号又は各種音源ソースからのアナログオーディオ信号をパルス幅変調してデジタルパルス信号に変換する。
【0016】
増幅回路103は、上下2段に直列接続されたFET131a,131bと、各FETを駆動する駆動回路133a,133bとを有する。下段(ローサイド側)の駆動回路133aは、ローサイド側のFET131aをスイッチング制御し、上段(ハイサイド側)の駆動回路133bは、ハイサイド側のFET131bをスイッチング制御する。増幅回路103は、これら上下2段のFET131を交互にオンオフすることによって、PWM回路101から出力されたデジタルパルス信号を増幅する。
【0017】
ローサイド側の駆動回路133aには、正電源Vcc(+Vcc)が供給される。正電源Vccは、駆動回路133aがFET131aをオン駆動するために必要な電圧であって、例えば、「−Vb+α」(V)である。なお、−Vbは負電源電圧であり、αは例えば+5〜+10(V)である。一方、ハイサイド側の駆動回路133bには、正電源Vb(+Vb)にブートストラップコンデンサCbの出力電圧を加えたブート電圧Vbootの電源が供給される。ハイサイド側のFET131bは、ブート電圧Vbootが「+Vb+α」(V)以上であればオン駆動する。
【0018】
ブートストラップコンデンサCbは、ハイサイド側の駆動回路133bに供給する電源をブートストラップするためのコンデンサである。なお、ブートストラップコンデンサCbの一端はハイサイド側の駆動回路133bに接続され、他端は増幅回路103の出力に接続されている。
【0019】
ブートストラップ制御回路105は、抵抗R1と、ツェナーダイオードDzと、ダーリントン接続されたトランジスタTr1,Tr2と、ダイオードD1と、抵抗R2とを有する。抵抗R1及びツェナーダイオードDzは、電源電圧(+Vb)の正電源と増幅回路103の出力の間で直列接続されている。また、抵抗R2、ダーリントン接続されたトランジスタTr1,Tr2及びダイオードD1は、電源電圧(+Vb)の正電源とブートストラップコンデンサCbの間で直列接続されている。さらに、図1に示すように、ツェナーダイオードDzのカソードは、1段目のトランジスタTr1のベースに接続されている。
【0020】
以下、本実施形態のデジタルアンプの起動時におけるブートストラップ制御回路105の動作について説明する。
本実施形態のデジタルアンプの起動時、ローサイド側のFET131aからオン駆動した場合、増幅回路103の出力電圧Voは−Vbとなる。このとき、ハイサイド側のFET131bはオフ状態であるため、ブートストラップコンデンサCbは、ブート電圧Vbootがしきい値「Vz−2Vbe−Vf」に到達するまで充電される(このときは、正電源(+Vcc)が十分に高い電圧になっていないため、正電源(+Vcc)からブートストラップコンデンサCbは充電されない。)。なお、Vzは、ツェナーダイオードDzのカソード側の電圧であって、正電源電圧(+Vb)から抵抗R1によって電圧降下した電圧である。Vbeは、トランジスタTr1,Tr2のベース・エミッタ間電圧である。Vfは、ダイオードD1の順方向電圧である。また、ブートストラップコンデンサCbの充電電流は、抵抗R2の抵抗値に依存する。
【0021】
やがて正電源(+Vcc)が十分に高い電圧になると、正電源(+Vcc)からブートストラップコンデンサCbが充電され、ブート電圧Vbootがしきい値「Vz−2Vbe−Vf」に到達すると、ダーリントン接続されたトランジスタTr1,Tr2はベース・エミッタ間電圧がVbe以下となってオフ状態となり、電源電圧(+Vb)の正電源からブートストラップコンデンサCbへの電流経路を遮断する。このように、ブート電圧Vbootがしきい値「Vz−2Vbe−Vf」に到達すると、ブートストラップコンデンサCbの充電は停止する。
【0022】
一方、本実施形態のデジタルアンプの起動時、ハイサイド側のFET131bからオン駆動する場合、ブートストラップコンデンサCbの出力電圧が十分ではなく、ブート電圧Vbootが「+Vb+α」(V)未満であると、ハイサイド側の駆動回路133bはFET131bをオン駆動できない。このとき、2つのFET131a,131bはどちらもオフ状態であり、増幅回路103の出力電圧Voは0(V)に近い値となる。したがって、ブートストラップコンデンサCbが「Vz−2Vbe−Vf」に満たないため充電される。その結果、ブート電圧Vbootが上がり、駆動回路133bがFET131bをオン駆動するために必要な電圧(+Vb+α)を出力できる状態になると、ハイサイド側のFET131bがオンする。但し、上記説明と同様に、ブートストラップコンデンサCbの充電は、ブート電圧Vbootが「Vz−2Vbe−Vf」に等しくなると停止する。
【0023】
復調回路107は、LC回路で構成され、増幅回路103によって増幅されたデジタルパルス信号を復調してアナログオーディオ信号に変換する。復調回路107によって変換されたアナログオーディオ信号は、出力端109を経てスピーカ111より出力される。
【0024】
以上説明したように、本実施形態のデジタルアンプによれば、当該デジタルアンプの起動時に、増幅回路103のハイサイド側のFET131bからオン駆動する場合であっても、起動直後からブートストラップコンデンサCbが充電されるためハイサイド側の駆動回路133bがFET131bをオン駆動することが可能となる。当該機能は、ブートストラップ制御回路105によって実現される。ブートストラップ制御回路105が行う制御は、ハイサイド側のFET131bからオン駆動する場合であっても、ローサイド側のFET131aからオン駆動する場合であっても、ブートストラップコンデンサCbの蓄電状態に応じて充電するといった簡単なものである。このように、当該デジタルアンプの起動時に、ブートストラップコンデンサの充電を簡単な制御で確実に行うことができる。その結果、デジタルアンプが確実に起動する。
【0025】
ブートストラップコンデンサCbが十分に充電され、デジタルアンプが起動した後も上記説明した充電が継続して行われると、ローサイド側のFET131aがオン駆動している期間、無駄に電力が消費される。しかし、本実施形態では、ブートストラップコンデンサCbが充電されることによってブート電圧Vbootが所定値(Vz−2Vbe−Vf)まで上がると、ブートストラップ制御回路105は充電を停止する。したがって、デジタルアンプの消費電力を低減できる。
【0026】
AC電源が一時的に低下したとき又はデジタルアンプがフルパワーで動作しているときには、図2に示すように、ブート電圧Vbootが低下する。本実施形態では、ブート電圧Vbootが所定値を下回ると、ブートストラップ制御回路105はブートストラップコンデンサCbの充電を再び行う。こうして充電されたブートストラップコンデンサCbの出力電圧がブート電圧Vbootの低下を補うことができる。
【0027】
なお、上記実施形態では、増幅回路103が上下2段に構成されたFET131a,131bを有するが、バイポーラトランジスタ又はIGBTであっても良い。
【0028】
なお、上記実施形態では、ハイサイド側の駆動回路133bに対してブートストラップコンデンサCb及びブートストラップ制御回路105を設けたが、図4に示すように、ローサイド側に同様の手段を設けても良い。この場合、起動時に、ローサイド側の駆動回路133aに供給する正電源(+Vcc)の電圧が十分でない場合であっても、確実に起動できる。なお、図4に示した電圧検出手段(ツェナーダイオードDzに対応)は、点線で示したように、ローサイド側の駆動回路133aに供給される電圧を検出しても良い。
【0029】
また、上記実施形態では、デジタルアンプがPWM回路101および復調回路107を含むものとして説明したが、これらをまとめて、または個別にデジタルアンプとは別体のものとして構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、起動時にブートストラップコンデンサを充電するデジタルアンプ等として有用である。
【符号の説明】
【0031】
101 PWM回路
103 増幅回路
105 ブートストラップ制御回路
107 復調回路
131a,131b FET
133a,133b 駆動回路
Cb ブートストラップコンデンサ
R1,R2 抵抗
Dz ツェナーダイオード
Tr1,Tr2 トランジスタ
D1 ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ信号をデジタルパルス信号に変換するデジタルパルス信号変換部と、
直列接続された2つのスイッチング部、所定電圧の電源供給によって動作して前記2つのスイッチング部の一方を駆動する第1の駆動部、および前記所定電圧より高い電圧の電源供給によって動作して前記2つのスイッチング部の他方を駆動する第2の駆動部を有し、前記2つのスイッチング部を交互にオンオフすることによって前記デジタルパルス信号を増幅する増幅部と、
前記第2の駆動部に供給する電源をブートストラップするブートストラップコンデンサと、
前記ブートストラップコンデンサの充電を制御するブートストラップ制御部と
前記増幅部によって増幅されたデジタルパルス信号をアナログ信号に変換するアナログ信号変換部とを備え、
前記ブートストラップ制御部は、前記所定電圧に前記ブートストラップコンデンサの出力電圧を加えたブート電圧が所定値未満であれば、前記ブートストラップコンデンサの充電を行うことを特徴とするデジタルアンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のデジタルアンプであって、
前記ブートストラップ制御部は、
前記増幅部の出力電圧に対する前記ブート電圧を監視する監視部を有し、
前記ブート電圧に応じて前記ブートストラップコンデンサへの電流経路を開閉することを特徴とするデジタルアンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−166346(P2011−166346A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25289(P2010−25289)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(000116068)ローランド株式会社 (175)
【Fターム(参考)】