説明

デファレンシャル装置のイニシャルトルク発生機構

【課題】デファレンシャル装置の皿ばねを用いたイニシャルトルク発生機構において、イニシャルトルクの安定性、皿ばねの密着回避を図る。
【解決手段】デファレンシャル装置1のピニオンシャフト6に設けたカム軸部61と左右のサイドギア4,5の内端面にばね受けスリーブ23L,Rの固定ばねシート21L,Rを当接させ、ばね受けスリーブ23L,Rの皿ばね装着体22L,Rに皿ばね24L,Rを装着し、さらに左右のサイドギア4,5の内端面に凹形状に形成した当接座面42,52に嵌合する移動ばねシート25L,Rを皿ばね装着体22L,Rに装着し、皿ばね24L,Rを固定ばねシート21L,Rと移動ばねシート25L,Rの間に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備されるデファレンシャル装置において、ピニオンギアに噛み合うサイドギアに対して予め軸方向に予圧を与えてイニシャルトルクを発生させるイニシャルトルク発生機構に係り、特にイニシャルトルクをデファレンシャルケースの外部から変更できる構成に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源からの駆動力を駆動輪に分配する車両に装備されたデファレンシャル装置としては、差動制限機構を備えたリミテッドスリップデファレンシャル装置(以下、LSDとする)と、差動制限機構を備えていないデファレンシャル装置(以下、オープンデファレンシャル装置とする)とがある。
【0003】
一般に、LSDにあっては、予圧機構により摩擦クラッチに予圧を与えてイニシャルトルクを発生させておき、車両の発進時や加速時に、駆動輪に対して均等な駆動トルクを即座に付与できるようにしている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1に記載の予圧機構は、ピニオンシャフトを挟んで車軸方向の両側に配置したサイドギアの内端面に接してプレッシャープレートを配置し、挿通されるピニオンシャフトと一体に軸回りに回転するスリーブと、前記プレッシャープレートとの間に皿ばねを配置した構成としている。前記スリーブの外周面は8角形に形成され、対向する2面を平行とした4組のカム面が形成されている。各組の2辺間は軸中心から互いに等距離に形成されていて、各組の軸間は互いに異なる距離に設定されている。
【0005】
したがって、前記ピニオンシャフトをその軸回りに回転すると、左右の皿ばねがそれぞれ当接する前記スリーブの外周面に形成された4組のカム面が順次切り替わり、皿ばねの変位量が調節される。このため、皿ばねがサイドギアを押す力が変更されるので、イニシャルトルクを変更可能となっている。
【0006】
また、前記オープンデファレンシャル装置においても、左右のサイドギアの間に予圧ばねを配置した構成がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−291777号公報
【特許文献2】米国特許明細書第7270026号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のデファレンシャル装置のイニシャルトルク発生機構は、皿ばねの小径側端面をカム面をなすスリーブの外周面に当接させた構成としているため、ピニオンシャフトをその軸回りに回転させ、一体に回転するスリーブのカム面を他のカム面に切り替えて予圧力の切り替えを行っている。
【0009】
前記スリーブの外周面には、対向する一対のカム面を複数組形成しており、これらの各組のカム面は、スリーブの軸中心からの距離が相互に異なっているため、各組のカム面の長さも異なり、例えば長さの異なる4辺の組のカム面が存在することになる。
【0010】
このため、皿ばねの小径側端面の外径を最小辺長さのカム面に合わせると、全てのカム面に対してはみ出ることなく皿ばねが当接するが、前記カム面との当たり面が小さいため、皿ばねを安定して撓ませ難く、皿ばねの小径側端面の外径がなるべく大きい方が望ましい。
【0011】
しかし、皿ばねの小径側端面を可能な限り大径にすると、カム面の辺長によっては皿ばねの小径側端面がカム面からはみ出る場合が生じ、皿ばねの撓みが不安定となる。
【0012】
また、特許文献1に記載のデファレンシャル装置のイニシャルトルク発生機構は、ピニオンシャフトにスリーブを外装しているため、皿ばねの装着スペース(車軸方向の長さ)がその分狭くなり、配置する皿ばねのばね長さが制限され、場合によっては皿ばねが密着する現象を招くおそれがある。
【0013】
本願発明の目的は、このような観点に鑑み為されたもので、イニシャルトルクを変更しても皿ばねを安定して撓ませることができ、また皿ばねの装着スペースを広く確保でき、しかも皿ばねを保持する機構を特別な構成を要することなく安定して支持でき、デファレンシャルケースの外側からイニシャルトルクの変更操作を可能とするデファレンシャル装置のイニシャルトルク発生機構を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的を実現するデファレンシャル装置のイニシャルトルク発生機構の構成は、デファレンシャルケースと、前記デファレンシャルケースと一体に回転し、車軸方向と直交方向に軸心を有して前記デファレンシャルケースに挿通されると共に、前記デファレンシャルケースに対して回転可能に支持されるピニオンシャフトと、前記デファレンシャルケース内で、前記ピニオンシャフトを挟んで左右に配置され、前記デファレンシャルケースに対して車軸方向に移動可能で、車軸回りに回転可能に支持された左右のサイドギアと、前記ピニオンシャフトに回転自在に装着され、前記左右のサイドギアと噛み合うピニオンギアと、を少なくとも備えたデファレンシャル装置において、前記ピニオンシャフトを挟んで前記左側のサイドギアとの間、および前記右側のサイドギアとの間にそれぞれ配置され、皿ばねのばね力によりイニシャルトルクを発生させる左右のイニシャルトルク発生部と、前記左右のイニシャルトルク発生部に対応して前記ピニオンシャフトの外周面に設けられ、前記ピニオンシャフトをその軸心回りに回転させることにより、前記左右のイニシャルトルク発生部の各皿ばねの撓み量を変更させるカム部と、を有し、前記左右の各イニシャルトルク発生部は、前記カム部に当接する固定ばねシートと、車軸方向に延びると共に一端に前記固定ばねシートが固定され、外径が前記サイドギアの内径よりも小径とした筒状の皿ばね装着体と、前記皿ばね装着体に装着される1又は複数の皿ばねと、前記皿ばね装着体に対して車軸方向に移動自在に装着され、前記皿ばねと前記サイドギアの内端面との間に配置された移動ばねシートと、を有することを特徴とする。
【0015】
上記した構成において、前記サイドギアの前端面には、前記移動ばねシートが嵌合する凹部の当接座面が形成されていることを特徴とする。
【0016】
上記したいずれかの構成において、前記ピニオンシャフトには、前記ピニオンシャフトの軸方向における前記固定ばねシートの位置決めを行う位置決め部を有することを特徴とする。
【0017】
上記したいずれかの構成において、前記カム部は、前記ピニオンシャフトの軸方向と直交する横断面で見て、対向する2面が平行な複数組のカム面を有する多角形に形成され、前記各組における軸中心から各面までのカム長さを等距離とし、前記各組の前記カム長さを異ならせたことを特徴とする。
【0018】
上記したいずれかの構成において、前記ピニオンシャフトの両端部は、記デファレンシャルケースの外周面から径方向外方に突出し、回転冶具が係合する係合部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、皿ばねを固定ばねシートと移動ばねシートとの間に配置して、カム面に固定ばねシートが面接触状態で当接しているため、ピニオンシャフトを回転して固定ばねシートとカム面との当接を変更しても、カム面に対して固定ばねシートが安定して当接し、所定のイニシャルトルクをサイドギアとデファレンシャル―ケースとの摩擦接触部に加えることができる。
【0020】
また、ピニオンシャフトにカム部を設けているため、カム部の軸径を大きくする必要もなく、逆にカム部の軸径を例えばピニオンギアを軸支する軸部の直径よりも小径にすることもできるため、車軸方向における皿ばねの配置スペースを長くできる。このため、皿ばねに設定される撓み量も大きなものが適用でき、皿ばねが圧着しない範囲内で皿ばねの撓み量、すなわちイニシャルトルクの変更最大トルクを設定することができる。
【0021】
請求項2に係る発明によれば、当接座面に移動ばねシートが嵌合位置決めされるため、固定ばねシートと一体の皿ばね装着体が所定位置に保持されるため、左右のイニシャルトルク発生部を所定位置に取り付けるための特別な構造が不要となる。
【0022】
請求項3に係る発明によれば、組み付け時に固定ばねシートの位置決めが容易に行え、また固定ばねシートが位置決めされることにより、左右のイニシャルトルク発生部をより一層安定に保持できる。
【0023】
請求項4に係る発明によれば、ピニオンシャフトをその軸回りに外力を加えて回動させない限り、ピニオンシャフトが不用意に回転することがない。
【0024】
請求項5に係る発明によれば、デファレンシャルケースの外側からピニオンシャフトを容易に回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態を示すイニシャルトルク発生機構を備えたデファレンシャル装置を示す縦断面図。
【図2】図1のPーP矢視断面図。
【図3】図1、図2におけるイニシャルトルク発生機構を示す縦断面図。
【図4】図3のQーQ矢視断面図。
【図5】カム部の回転位置とイニシャルトルク変更の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0027】
図1は本発明の実施形態を示すイニシャルトルク発生機構を備えたデファレンシャル装置を示す縦断面図、図2は図1のAーA矢視断面図である。
【0028】
図1のデファレンシャル装置1は、LSD機能付きではなく、いわゆるオープンデファレンシャルといわれるタイプのものである。
【0029】
デファレンシャル装置1は、円筒形状のデファレンシャルケース2の空洞部3内に、左右一対のサイドギア4,5が車軸(不図示)の軸心L1の回りに回転自在に装着されている。なお、左右のサイドギア4,5には、それぞれ車軸(不図示)がスプライン結合し、軸方向へ移動可能で軸回りには回転不能としている。空洞部3は、デファレンシャルケース2の胴部を貫通するピニオンシャフト6の軸心L2を中心にして左右対称に形成されている。
【0030】
左右のサイドギア4,5は、外周部が段付き形状に形成され、小径の嵌合部40、50がデファレンシャルケース2の内周軸受け孔部2a、2bに回転自在に嵌合する。また、左右のサイドギア4,5は、軸心L1に沿って、段部41、51がデファレンシャルケース2の段部2c,2dに当接するまで、軸方向外方に向けて移動可能となっている。
【0031】
デファレンシャルケース2の胴部には、ピニオンシャフト6が抜き差し可能で軸心L2の回りに回転可能に嵌合するシャフト孔7が軸心L1を中心に対称に形成されている。ピニオンシャフト6は、軸心L1を中心に軸方向対称に形成されていて、ピニオンシャフト6には、空洞部3内で、軸心L1を中心にピニオンギア8,9が対称に回転自在に取り付けられている。ピニオンギア8,9は、それぞれ左右のサイドギア4,5に噛み合っている。
【0032】
左右のサイドギア4,5は、ピニオンシャフト6に対向する内端が、直径d1の凹状の当接座面42,52に形成されていて、この座面42,52よりも外方で左右のサイドギア4,5がピニオンギア8,9に噛み合っている。ピニオンギア8,9の内端面を軸心L1と平行に形成しているため、ピニオンギア8,9が左右のサイドギア4,5と噛み合った状態において、ピニオンギア8,9の内端面が左右のサイドギア4,5の座面42,52の位置まで入り込むことはない。
【0033】
本実施形態において、図3に詳細を示すように、ピニオンシャフト6と左サイドギア4との間で座面42の範囲内に左側イニシャルトルク発生部11を配置し、同様にピニオンシャフト6と右サイドギア5との間で座面52の範囲内に右側イニシャルトルク発生部12を配置している。なお、左側イニシャルトルク発生部11と右側イニシャルトルク発生部12は同じ構成としているため、左側イニシャルトルク発生部11の構成について説明し、右側イニシャルトルク発生部12の構成については省略する。なお、左側イニシャルトルク発生部11の構成部材を示す符号の末尾にはLを、右側イニシャルトルク発生部12の構成部材を示す符号の末尾にはRを付す。
【0034】
左側イニシャルトルク発生部11は、外径d2(d2<d1)のフランジ部(固定ばねシート)21Lに連設して、外径d3の円筒部からなる皿ばね装着体22Lが一体に形成されたばね受けスリーブ23Lと、皿ばね装着体22Lに装着される1又は複数枚の皿ばね24Lと、フランジ部21Lとの間に皿ばね24Lを挟むようにして皿ばね装着体22Lに軸心L1方向に沿って移動可能に差し込まれる外径d4(外径d1と同径あるいは僅かに小径)の円盤状に形成した移動ばねシート25Lとにより構成している。
【0035】
本実施形態において、左サイドギア4の内径d5は、ばね装着体22Lの外径d3よりも大径とし、左サイドギア4が移動ばねシート25Lと当接するが皿ばね装着体22Lとは非当接とし、皿ばね24Lの撓みにより発生するばね力を左サイドギア4に付与する。左サイドギア4に付与された皿ばね24Lの撓みにより発生したばね力は、左サイドギア4の段部41と、この段部41突き当たるデファレンシャルケース2の段部2cとの当接面に作用し、この当接面に摩擦力を発生させる。
【0036】
したがって、駆動時などにおいて左サイドギア4と右サイドギア5との間に差動回転が発生するような場合でも、デファレンシャルケース2と左サイドギア4との間に前記摩擦力に伴うイニシャルトルクが発生しているので、左右のサイドギア4,5の差動回転が抑えられ、デファレンシャルケース2と左右のサイドギア4,5とが一体に回転する。
【0037】
ピニオンシャフト6は、長さ方向中央部に、図4に示す横断面形状のカム部60が形成されたカム軸部61を備えており、このカム軸部61の両側に連設して、カム軸部61の外径よりも大径の位置決め段部62が形成されている。各位置決め段部62に連設して、ピニオンギア8,9を回転自在に軸支すると共に、シャフト孔7に挿通されるピニオンギア軸部63が形成され、さらにデファレンシャルケース2の胴部外周面にそれぞれ臨むように周溝64が形成されている。デファレンシャルケース2の外側からこれらの周溝64にスナップリング70を装着することで、ピニオンシャフト6がデファレンシャルケース6から抜け出るのを防止している。
【0038】
デファレンシャルケース2から径方向外方に突出するピニオンシャフト2の両端部は、横断面が8角形のイニシャルトルク表示部をなすと共に、イニシャルトルクを変更するためにピニオンシャフト2を回転させるために不図示のレンチ等の回転冶具と係合する係合軸部65が形成されている。
【0039】
カム軸部61のカム面60は、図4に示すように、非正8角形の横断面形状に形成され、軸心L2を中心として径方向に等距離隔てて対向する2面が平行な4組のカム面A,B,C,Dが形成されている。勿論、4組に限定されるものではなく、3組あるいは5組等であってもよい。
【0040】
第1カム面Aの軸心L2からの径方向距離をa、以下第2カム面Bの径方向距離をb、第3カム面Cの径方向距離をc、第4カム面Dの径方向距離をdとすると、a<b<c<dとしている。例えば、カム軸部61の直径を10.6mmとした場合、aを4.6mm、bを4.8mm、cを5.0mm、dを5.2mmとすることができる。
【0041】
カム軸部61のカム面60は、左右のばね受けスリーブ11,12の固定ばねシート21L、21Rに当接し、左右のばね受けスリーブ11,12の移動ばねシート25L,25Rは上述のように、左右のサイドギア4,5の当接座面42,52に当接している。
【0042】
なお、イニシャルトルクの発生により、駆動開始時などにおいて差動制限が働くが、左右のサイドギア4,5の差動回転を禁止するものではないため、左右のサイドギア4、5が作動回転する際は、移動ばねシート25L,25Rに対して左右のサイドギア4,5が回転することが望ましい。すなわち、皿ばね24L,25Rは移動ばねシート25R、25Lに対して線接触するのに対し、移動ばねシート25L,25Rは左右のサイドギア4,5の当接座面42,52に面接触しているため、応力集中がなくスムーズに回転することができる。
【0043】
次に、図4、図5を参照してイニシャルトルクの変更操作とイニシャルトルクの変更を説明する。車軸方向に沿ってピニオンシャフト6を挟んで左右に配置されたばね受けスリーブ11,12の固定ばねシート21L,21Rは、カム軸部61のカム面60にそれぞれ皿ばね24L,24Rのばね力により当接している。図5において、(1)は、対向する一対の第1カム面Aが左右の固定ばねシート21L,21Rに当接した状態を示し、このときに固定ばねシート21L,21Rの内端面とピニオンシャフト6の軸中心L2の距離(以下、カム長さとする)がaである。この(1)に示す状態から、ピニオンシャフト6の係合軸部65をデファレンシャルケース2の外側から不図示の回転冶具で時計回り方向に回転すると、クリック感を伴って次の第2カム面Bに切り替わる。この第2カム面Bのカム長さは、b(b>a)であるため、固定ばねシート21L,21Rはさらに軸方向外方に移動し、皿ばね24L,24Rが撓む。したがって、左右のサイドギア4,5に加わるばね力が大きくなり、デファレンシャルケース2と左右のサイドギア4,5との摩擦接触によるイニシャルトルクが大きくなる。さらに、図5の(3)に示すように、カム長さc(c>b)の第3カム面Cが固定ばねシート21L,21Rと当接するので、さらに前記イニシャルトルクが大きくなる。図5の(1)に示すように、ピニオンシャフト6をさらに回転すると、カム長さd(d>c)の第4カム面Dが固定ばねシート21L,21Rに当接し、本実施形態では最も大きいイニシャルトルクを設定することができる。
【0044】
本実施形態において、ピニオンシャフト6において、カム軸部61の直径が最も小径であるため、皿ばね24L,24Rを配置する軸方向長さを長くすることができる。したがって、皿ばね24L,24Rの撓み量をその分多く設定することができ、イニシャルトルクの変更領域を大きく設定することができる。
【0045】
また、左右のばね受けスリーブ11、12の固定ばねシート21L,21Rがカム面60と直接接している。このため、辺長の長い第3カム面C,第4カム面Dに対して固定ばねシート21L,21Rは面接触し、安定して皿ばね24L,24Rのばね反力を支持することができる。また、固定ばねシート21L,21Rは軸方向において対向する位置決め段部62により、軸方向の移動が規制されるため、組み立て時の位置決めができると共に、イニシャルトルクの切り替えのためにピニオンシャフト6を回転させても、固定ばねシート21L,21Rは軸方向において対向する位置決め段部62により軸方向の移動が規制され、軸方向にずれることがない。
【0046】
また、左右のばね受けスリーブ11、12は、位置決め段部62により軸方向位置が位置決めされているものの、特に所定位置に取り付けるための構造を設けていないが、安定して所定位置に保持される。すなわち、左右のサイドギア4、5はデファレンシャルケース2の空洞部3内において、車軸方向に移動可能であるが、それ以外の移動は規制されている。このため、左右のサイドギア4,5の当接座面42,52に嵌合して当接する左右の移動ばねシート25L,25Rは車軸方向以外の移動が規制されることになる。そして、この車軸方向以外の移動が規制されている左右の移動ばねシート25L,25Rにばね装着体22L,22Rが嵌合しているので、ばね受けスリーブ21L,21Rは結果として車軸方向の移動以外が規制されることになり、所定位置に安定して保持されることになる。
【0047】
上記した実施形態は、いわゆるオープンデファレンシャル装置を例にしたが、差動制限機構を備えたいわゆるLSDにイニシャルトルクを複数段階に変更可能とする本実施形態のイニシャルトルク発生機構を適用することができる。
【0048】
LSDにおいては、左右のプレッシャーリング(プレッシャープレート)にピニオンシャフトをカム係合させて対向する左右のプレッシャーリングを軸方向に沿って移動可能(押圧力を変更可能)とすること、左右のサイドギアとデファレンシャルケースとの間に摩擦クラッチ板を配置することがオープンタイプのデファレンシャル装置と構成上の相違点である。しかし、左右のサイドギアに皿ばねの撓みを加えるタイプのLSDに本発明を適用できることは言うまでもない。
【0049】
なお、図1、図3では、皿ばねを2枚それぞれ装着した例をしめしているが、1枚あるいは3枚等の複数枚としてもよく、またばね定数の異なる複数枚の皿ばねの組み合わせとしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 デファレンシャル装置
2 デファレンシャルケース
2a、2b内周軸受け孔部
2c、2d 段部
3 空洞部
4,5 サイドギア
40、50 嵌合部
41,51 段部
42,52 当接座面
6 ピニオンシャフト
60 カム面 61 カム軸部 62 位置決め段部
63 ピニオンギア軸部 64 周溝 65係合軸部
7 シャフト孔
70 スナップリング
8,9 ピニオンギア
11、12 イニシャルトルク発生部
21L,21R フランジ部(固定ばねシート)
22L,22R 皿ばね装着体
23L,23R ばね受けスリーブ
24L,24R 皿ばね
25L.25R 移動ばねシート
A 第1カム面 B 第2カム面
C 第3カム面 D 第4カム面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
デファレンシャルケースと、
前記デファレンシャルケースと一体に回転し、車軸方向と直交方向に軸心を有して前記デファレンシャルケースに挿通されると共に、前記デファレンシャルケースに対して回転可能に支持されるピニオンシャフトと、
前記デファレンシャルケース内で、前記ピニオンシャフトを挟んで左右に配置され、前記デファレンシャルケースに対して車軸方向に移動可能で、車軸回りに回転可能に支持された左右のサイドギアと、
前記ピニオンシャフトに回転自在に装着され、前記左右のサイドギアと噛み合うピニオンギアと、
を少なくとも備えたデファレンシャル装置において、
前記ピニオンシャフトを挟んで前記左側のサイドギアとの間、および前記右側のサイドギアとの間にそれぞれ配置され、皿ばねのばね力によりイニシャルトルクを発生させる左右のイニシャルトルク発生部と、
前記左右のイニシャルトルク発生部に対応して前記ピニオンシャフトの外周面に設けられ、前記ピニオンシャフトをその軸心回りに回転させることにより、前記左右のイニシャルトルク発生部の各皿ばねの撓み量を変更させるカム部と、
を有し、
前記左右の各イニシャルトルク発生部は、前記カム部に当接する固定ばねシートと、車軸方向に延びると共に一端に前記固定ばねシートが固定され、外径が前記サイドギアの内径よりも小径とした筒状の皿ばね装着体と、前記皿ばね装着体に装着される1又は複数の皿ばねと、前記皿ばね装着体に対して車軸方向に移動自在に装着され、前記皿ばねと前記サイドギアの内端面との間に配置された移動ばねシートと、を有することを特徴とするデファレンシャル装置のイニシャルトルク発生機構。
【請求項2】
前記サイドギアの前端面には、前記移動ばねシートが嵌合する凹部の当接座面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のデファレンシャル装置のイニシャルトルク発生機構。
【請求項3】
前記ピニオンシャフトには、前記ピニオンシャフトの軸方向における前記固定ばねシートの位置決めを行う位置決め部を有することを特徴とする請求項1または2に記載のデファレンシャル装置のイニシャルトルク発生機構。
【請求項4】
前記カム部は、前記ピニオンシャフトの軸方向と直交する横断面で見て、対向する2面が平行な複数組のカム面を有する多角形に形成され、前記各組における軸中心から各面までのカム長さを等距離とし、前記各組の前記カム長さを異ならせたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のデファレンシャル装置のイニシャルトルク発生機構。
【請求項5】
前記ピニオンシャフトの両端部は、記デファレンシャルケースの外周面から径方向外方に突出し、回転冶具が係合する係合部が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のデファレンシャル装置のイニシャルトルク発生機構。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−185371(P2011−185371A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52013(P2010−52013)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(394016106)株式会社キャロッセ (18)
【Fターム(参考)】