説明

デファレンシャル装置

【課題】一対のベアリングによって支持されたデフケースの剛性を保持することができ、かつワッシャの径方向への移動を規制することができるデファレンシャル装置を提供する。
【解決手段】軸方向両側を一対のベアリングで回転可能に支持され駆動力が入力されるデフケース3と、ピニオン5と、第1と第2のサイドギヤ7,9とからなる差動機構11と、差動機構11の差動を制限する多板クラッチ17と、デフケース3の側壁19と第1のサイドギヤ7との間に配置されたワッシャ23と、多板クラッチ17に予圧を付与する付勢部材27とを備えデファレンシャル装置1において、ワッシャ23を、付勢部材27の内径側に配置し、付勢部材27を、デフケース3に対して径方向への移動を規制し、ワッシャ23を、付勢部材27に対して径方向への移動を規制した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用されるデファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デファレンシャル装置としては、軸方向両側を一対のベアリングで回転可能に支持され駆動力が入力されるデフケースと、このデフケースに支承されて自転可能であると共にデフケースの回転によって公転するピニオンと、このピニオンと噛み合って相対回転可能な一対のサイドギヤとからなる差動機構と、デフケースと一対のサイドギヤとにそれぞれ一体回転可能に連結された複数のクラッチ板からなり差動機構の差動を制限する多板クラッチと、デフケースの両側壁と一対のサイドギヤとの間に配置されたワッシャと、多板クラッチに予圧を付与する付勢部材とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このデファレンシャル装置では、付勢部材が多板クラッチの複数のクラッチ板によって形成された空間内に配置されており、付勢部材の軸方向の配置スペースをクラッチ板の板厚内とすることができ、デファレンシャル装置を小型化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−177939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようなデファレンシャル装置では、デフケースの側壁とサイドギヤとの間に配置されたワッシャが、デフケースの側壁に形成された段差部によって径方向への移動が規制されている。
【0006】
しかしながら、デフケースにワッシャの径方向への移動を規制する段差部を設けてしまうと、デフケースの側壁の肉厚が減少してしまい、デフケースの剛性が低下する恐れがあった。
【0007】
また、デフケースの剛性を増加するために、デフケースの側壁の肉厚を増すことが考えられる。しかしながら、デフケースの軸方向両側は、一対のベアリングによって支持され、この一対のベアリングの軸方向間隔は、周辺部材との干渉などから予め所定間隔に決まっており、単純にデフケースの側壁の肉厚を増すことができなかった。
【0008】
そこで、この発明は、一対のベアリングによって支持されたデフケースの剛性を保持することができ、かつワッシャの径方向への移動を規制することができるデファレンシャル装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、軸方向両側を一対のベアリングで回転可能に支持され駆動力が入力されるデフケースと、このデフケースに支承されて自転可能であると共に前記デフケースの回転によって公転するピニオンと、このピニオンと噛み合って相対回転可能な第1と第2のサイドギヤとからなる差動機構と、前記デフケースと前記第1のサイドギヤとにそれぞれ一体回転可能に連結された複数のクラッチ板からなり前記差動機構の差動を制限する多板クラッチと、前記デフケースの側壁と前記第1のサイドギヤとの間に配置されたワッシャと、前記多板クラッチに予圧を付与する付勢部材とを備えたデファレンシャル装置であって、前記ワッシャは、前記付勢部材の内径側に配置され、前記ワッシャと前記付勢部材とのうちいずれか一方は、前記デフケースに対して径方向への移動が規制され、他方は、前記一方に対して径方向への移動が規制されていることを特徴とする。
【0010】
このデファレンシャル装置では、ワッシャが付勢部材の内径側に配置され、ワッシャと付勢部材とのうちいずれか一方がデフケースに対して径方向への移動が規制され、他方が一方に対して径方向への移動が規制されているので、ワッシャの外径側に付勢部材が位置されており、ワッシャの径方向への移動を規制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一対のベアリングによって支持されたデフケースの剛性を保持することができ、かつワッシャの径方向への移動を規制することができるデファレンシャル装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係るデファレンシャル装置の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るデファレンシャル装置のデフケースのカバー部材をデフケースの内部側から見たときの側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るデファレンシャル装置のデフケースのケース部材をデフケースの外部側から見たときの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1〜図3を用いて本発明の実施の形態に係るデファレンシャル装置について説明する。
【0014】
本実施の形態に係るデファレンシャル装置1は、軸方向両側を一対のベアリング(不図示)で軸方向内側及び径方向に支持するS部にて回転可能に支持され駆動力が入力されるデフケース3と、このデフケース3に支承されて自転可能であると共にデフケース3の回転によって公転するピニオン5と、このピニオン5と噛み合って相対回転可能な第1と第2のサイドギヤとしての一対のサイドギヤ7,9とからなる差動機構11と、デフケース3と一対のサイドギヤ7,9とにそれぞれ一体回転可能に連結された複数のクラッチ板13,15からなり差動機構11の差動を制限する多板クラッチ17,17と、デフケース3の両側壁19,21と一対のサイドギヤ7,9との間に配置されたワッシャ23,25と、多板クラッチ17に予圧を付与する付勢部材27,27とを備えている。
【0015】
そして、ワッシャ23,25は、付勢部材27の内径側に配置され、付勢部材27は、デフケース3に対して径方向への移動が規制され、ワッシャ23,25は、付勢部材27に対して径方向への移動が規制されている。
【0016】
また、付勢部材27は、多板クラッチ17とデフケース3の側壁19,21との間に配置されている。
【0017】
なお、本発明のワッシャ23,25、付勢部材27,27及びデフケース3の両側壁19,21との関係は、左右それぞれを対称として発明の主要部を構成しているので、第1のサイドギヤ7と第2のサイドギヤ9とを分けて説明するのを省略する。当然ながら左右一方のみに発明の主要部を構成することもできる。
【0018】
さらに、付勢部材27は、デフケース3に形成された規制部29によって径方向への移動が規制され、ワッシャ23,25はそれらの外径が、付勢部材27の内径によって径方向への移動が規制されている。
【0019】
図1〜図3に示すように、差動機構11は、デフケース3と、ピニオンシャフト31と、ピニオン5と、一対のサイドギヤ7,9とを備えている。
【0020】
デフケース3は、ケース部材33とカバー部材35とからなり、両側壁19,21から軸方向両側に延設されたボス部37,39でそれぞれ一対のベアリング(不図示)を介してキャリア(不図示)に回転可能に支持されている。なお、この一対のベアリングは、軸方向間隔であるベアリングスパンを変更することは静止系部材であるキャリアの設計変更を伴うので、容易に変更することができず、予め所定の間隔が設定されている。このため、デフケース3の軸方向のサイズも、ベアリングスパンによって規定されている。
【0021】
このデフケース3には、動力伝達ギヤ(不図示)と噛み合うリングギヤ(不図示)が固定されるフランジ部41が設けられ、駆動力がデフケース3に入力されて回転駆動される。このようなデフケース3内には、ピニオンシャフト31とピニオン5と一対のサイドギヤ7,9と多板クラッチ17,17と一対の押圧部材43,45とが収容される。
【0022】
ピニオンシャフト31は、端部の周面部を押圧部材43,45の軸方向内側端に設けられ回転方向に傾斜形成されたカム溝44,46に係合して回転方向及び径方向に一体化され、一対の押圧部材43,45はそれぞれの外周部に設けられた凸部48,50をデフケース3の筒状内壁に軸方向に延設された係合部55,57に係合し、デフケース3と一体に回転駆動される。このピニオンシャフト31には、ピニオン5が支承されている。
【0023】
ピニオン5は、ピニオンシャフト31に支承され、かつピニオン5のギヤ背面は一対の押圧部材43,45に支持されてデフケース3の回転によって公転する。また、ピニオン5は、一対のサイドギヤ7,9に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギヤ7,9に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト31に自転可能に支持されている。このピニオン5は、一対のサイドギヤ7,9と噛み合いベベルギヤ式のギヤ組を構成している。
【0024】
一対のサイドギヤ7,9は、デフケース3内に相対回転可能に収容され、ピニオン5と噛み合っている。この一対のサイドギヤ7,9の内周側に形成されたスプライン形状の連結部47,49には、駆動軸(不図示)が一体回転可能に連結され、デフケース3に入力された駆動力を駆動軸に出力する。また、一対のサイドギヤ7,9の軸方向外側端面には、それぞれ径方向溝8,10が形成され、潤滑オイルによりワッシャ23,25の潤滑を行うと共に、多板クラッチ17と連結部47,49との間で潤滑オイルの流通を確保している。
【0025】
このような差動機構11のデフケース3の両側壁19,21と一対のサイドギヤ7,9の背面側との軸方向間には、差動機構11の作動を制限する多板クラッチ17がそれぞれ配置されている。
【0026】
多板クラッチ17は、複数の内側クラッチ板13と、複数の外側クラッチ板15とを備えている。複数の内側クラッチ板13は、一対のサイドギヤ7,9の背面側に形成された係合部51,53に軸方向移動可能で一対のサイドギヤ7,9と一体回転可能に係合されている。複数の外側クラッチ板15は、複数の内側クラッチ板13に対して軸方向に交互に配置され、デフケース3の内周に形成された係合部55,57に軸方向移動可能でデフケース3と一体回転可能に係合されている。
【0027】
この多板クラッチ17は、複数の内側クラッチ板13と複数の外側クラッチ板15とで構成された滑り摩擦を伴う摩擦クラッチとなっている。なお、この多板クラッチ17が位置するデフケース3の側壁19,21や回転方向の周壁には、デフケース3の内部に潤滑油を流入させる孔部59が複数設けられている。このような多板クラッチ17は、一対の押圧部材43,45によって断続操作され、差動機構11の差動を制限する。
【0028】
一対の押圧部材43,45は、ピニオン5の背面側とデフケース3との間に配置され、デフケース3の内周に形成された係合部55,57に凸部48,50が軸方向移動可能でデフケース3と一体回転可能に係合されている。この一対の押圧部材43,45は、凸部48,50がデフケース3からの駆動トルクを受け回転すると共に、カム溝44,46がピニオン5の端部周面との間でカム作用による軸方向両外側への推力を発生し、多板クラッチ17の接続方向にそれぞれ軸方向移動される。この一対の押圧部材43,45の軸方向移動により、多板クラッチ17が押圧されて接続され、差動機構11の差動が制限される。また、このような多板クラッチ17は、付勢部材27によって予圧が付与されている。
【0029】
付勢部材27は、環状に形成され内周に複数(実施例では6箇所)の凹部28が形成された皿バネからなり、多板クラッチ17とデフケース3の側壁19,21との間に配置されて多板クラッチ17に予圧を付与する。この付勢部材27の外径側には、デフケース3の両側壁19,21に形成された規制部29が位置され、付勢部材27の径方向への移動が規制されている。この規制部29は、皿バネの肉厚プラス所定の寸法分の軸方向深さを有しており、皿バネが撓んだ時に所定以上の撓みを規制し、皿バネによる付勢力を所定値までに制御している。
【0030】
なお、多板クラッチ17における複数のクラッチ板13,15の接続時の軸方向への移動規制は、デフケース3の両側壁19,21の内面によって行われている。このため、多板クラッチ17の接続時に付勢部材27が外側クラッチ板15によって過度に撓まされることがなく、多板クラッチ17に対する付勢部材27による予圧が安定化されている。このような付勢部材27の内径側には、ワッシャ23,25が配置されている。
【0031】
ワッシャ23,25は、一対のサイドギヤ7,9とデフケース3の両側壁19,21との軸方向間に配置され、サイドギヤ7,9とピニオン5との噛み合い反力によって発生するサイドギヤ7,9の軸方向への移動を受ける。このワッシャ23,25の外径側には、付勢部材27の内径が位置され、ワッシャ23,25の径方向への移動が規制されている。
【0032】
このように付勢部材27の径方向への移動をデフケース3の規制部29によって規制し、ワッシャ23,25の径方向への移動を付勢部材27の内径によって規制することにより、デフケース3の両側壁19,21の付勢部材27とワッシャ23,25とが位置する内面を面一(フラット面)とすることができ、両側壁19,21の肉厚が減じることを抑制することができる。このため、デフケース3が一対のベアリングのベアリングスパンによって規制を受けている場合でも、ワッシャ23,25の径方向への移動を規制しつつ、側壁19,21の肉厚を減じることを抑制してデフケース3の剛性を保持することができる。また、付勢部材27としての皿バネは、形成された凹部28に潤滑オイルを確保滞留させることができ、多板クラッチ17側への潤滑を行うと共に、ワッシャ23,25の外径と付勢部材27の内径との規制部位のこじり、噛み込みを防止し、適正な作動を助長させる。
【0033】
このようなデファレンシャル装置1では、ワッシャ23,25が付勢部材27の内径側に配置され、付勢部材27がデフケース3に対して径方向への移動が規制され、ワッシャ23,25が付勢部材27に対して径方向への移動が規制されているので、ワッシャ23,25の外径側に付勢部材27が位置されており、ワッシャ23,25の外径側にデフケース3の側壁19,21が位置されることなく、ワッシャ23,25の径方向への移動を規制することができる。
【0034】
このため、デフケース3の側壁19,21にワッシャ23,25の径方向への移動を規制する段差部のようなデフケース3の肉厚を減じさせる規制部を設ける必要がなく、一対のベアリングによる規制があってもデフケース3の剛性を保持することができる。
【0035】
また、付勢部材27は、多板クラッチ17とデフケース3の側壁19,21との間に配置されているので、多板クラッチ17内に付勢部材27を配置させる構造と比較して、付勢部材27による多板クラッチ17への予圧の付与が安定し、多板クラッチ17の断続特性を安定化させることができる。本実施例においては、左右のワッシャ23,25と付勢部材27,27に対して本発明の特徴的構成を採用しているので、一対のベアリング間の限られた軸方向間隔内で差動装置のサイズと多板クラッチ17の必要な設定を確保した上で、デフケース3の両側壁の肉厚を確保することができる。
【0036】
さらに、付勢部材27は、デフケース3に形成された規制部29によって径方向への移動が規制され、ワッシャ23,25は、付勢部材27の内径によって径方向への移動が規制されているので、デフケース3に規制部29の他にワッシャ23,25の径方向への移動を規制する規制部を設ける必要がなく、デフケース3の構造を簡易化することができる。
【0037】
なお、本発明の実施の形態に係るデファレンシャル装置では、付勢部材がデフケースに対して径方向への移動が規制されているが、例えば、ワッシャの内径側が位置する部分のデフケースの側壁に突起などを設けて、ワッシャがデフケースに対して径方向への移動が規制される構造としてもよい。この場合には、付勢部材の内径側がワッシャの外径によって径方向への移動が規制される。
【符号の説明】
【0038】
1…デファレンシャル装置
3…デフケース
5…ピニオン
7,9…一対のサイドギヤ(第1,第2のサイドギヤ)
11…差動機構
13,15…クラッチ板
17…多板クラッチ
19,21…側壁
23,25…ワッシャ
27…付勢部材
29…規制部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向両側を一対のベアリングで回転可能に支持され駆動力が入力されるデフケースと、このデフケースに支承されて自転可能であると共に前記デフケースの回転によって公転するピニオンと、このピニオンと噛み合って相対回転可能な第1と第2のサイドギヤとからなる差動機構と、前記デフケースと前記第1のサイドギヤとにそれぞれ一体回転可能に連結された複数のクラッチ板からなり前記差動機構の差動を制限する多板クラッチと、前記デフケースの側壁と前記第1のサイドギヤとの間に配置されたワッシャと、前記多板クラッチに予圧を付与する付勢部材とを備えたデファレンシャル装置であって、
前記ワッシャは、前記付勢部材の内径側に配置され、前記ワッシャと前記付勢部材とのうちいずれか一方は、前記デフケースに対して径方向への移動が規制され、他方は、前記一方に対して径方向への移動が規制されていることを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項2】
請求項1記載のデファレンシャル装置であって、
前記付勢部材は、前記多板クラッチと前記デフケースの側壁との間に配置されていることを特徴とするデファレンシャル装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のデファレンシャル装置であって、
前記一方は前記付勢部材であり、この付勢部材は、前記デフケースに形成された規制部によって径方向への移動が規制され、前記ワッシャは、前記付勢部材の内径によって径方向への移動が規制されていることを特徴とするデファレンシャル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−72473(P2013−72473A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211005(P2011−211005)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】