説明

デリバリパイプ

【課題】パルセーションダンパを設けることなく燃料圧力の脈動を抑制し、直線部との継ぎ部の破損を防止すること。
【解決手段】デリバリパイプ1は、樹脂より成形され、内部に燃料通路2を有し、横断面形状が一つの直線部11と、一つの曲線部12と、直線部11と曲線部12との継ぎ部13とを含み、継ぎ部13の外観が突形状に形成される。樹脂にはガラス強化繊維が混合され、直線部11であって、燃料通路2の長手方向の端部に樹脂射出ゲートの対応部が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンの各気筒に対応して設けられる複数のインジェクタへ燃料を分配するデリバリパイプに係り、詳しくは、樹脂により成形されたデリバリパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンに設けられるデリバリパイプには、複数のインジェクタが取り付けられる。エンジン運転時には、これらのインジェクタから繰り返し燃料が噴射される。このとき、デリバリパイプの中では、各インジェクタの噴射により燃料圧力が脈動し、異なる圧力脈動が共振することで、燃料圧力がより大きな脈動となって変動することがある。このように燃料圧力の脈動が大きくなると、その影響を受けてインジェクタからの燃料噴射量が変動する。この結果、エンジンの空燃比制御が不安定となり、エンジン性能の低下を招いたり、エンジン停止を引き起こしたり、騒音を発生させたりするおそれがあった。
【0003】
そこで、デリバリパイプの中の燃料圧力の脈動を抑制するために、下記の特許文献1には、金属製のデリバリパイプにパルセーションダンパを設けることが記載されている。しかし、この場合は、パルセーションダンパの分だけデリバリパイプが大型化し、部品点数が増えるという問題があった。
【0004】
そこで、パルセーションダンパを設けることなく燃料圧力の脈動を抑制することのできるデリバリパイプが、下記に特許文献2に提案されている。このデリバリパイプは、樹脂より成形され、容積が100(cm3)以上で、横断面形状が直線部と曲線部を有する。直線部は、3次元で見ると、長手方向に延びる平板部をなし、可撓性を有する。従って、このデリバリパイプによれば、直線部(平板部)の可撓性を利用して燃料圧力の脈動を吸収し、その脈動を抑制させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−270523号公報
【特許文献2】特開平11−37380号公報
【特許文献3】特開平8−326622号公報
【特許文献4】特開2005−36781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献2に記載のデリバリパイプでは、直線部(平板部)が燃料圧力を受けて撓むときに、その直線部(平板部)と曲線部(曲板部)との継ぎ目の分部(継ぎ部)に応力集中が生じる。このため、最悪の場合、その継ぎ部でデリバリパイプが破損するおそれがあり、耐久性の点で問題があった。
【0007】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、パルセーションダンパを設けることなく燃料圧力の脈動を抑制すると共に、直線部との継ぎ部の破損を防止して耐久性を向上させることを可能としたデリバリパイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、樹脂より成形され、内部に燃料通路を有するデリバリパイプであって、横断面形状が少なくとも一つの直線部と、直線部との継ぎ部とを含み、継ぎ部の外観を突形状に形成したことを趣旨とする。
【0009】
上記発明の構成によれば、デリバリパイプが樹脂より成形され、横断面形状が少なくとも一つの直線部を含む。この直線部は、3次元で見れば、デリバリパイプの長手方向へ延びる平板部となる。従って、直線部(平板部)は、可撓性を有し、燃料圧力の脈動を受けたときに撓むことで、その脈動が吸収される。また、直線部(平板部)との継ぎ部の外観が突形状に形成される。この継ぎ部は、3次元で見れば、デリバリパイプの長手方向へ延びる突条部となる。従って、継ぎ部の外観が突形状をなすので、直線部(平板部)が燃料圧力を受けて撓むときの継ぎ部の応力集中が緩和される。
【0010】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、外観が突形状に形成された継ぎ部の内側に凹部を形成したことを趣旨とする。
【0011】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、継ぎ部の内側に凹部が形成されるので、継ぎ部の内側の周長が増し、応力集中が更に緩和される。
【0012】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、横断面形状が曲線部を更に含み、直線部を曲線部よりも肉薄に形成したことを趣旨とする。
【0013】
上記発明の構成によれば、請求項1又は2に記載の発明の作用に加え、曲線部は、3次元で見れば、デリバリパイプの長手方向へ延びる曲板部となる。そして、直線部(平板部)を曲線部(曲板部)よりも肉薄に形成したので、直線部(平板部)の可撓性が増す。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一つに記載の発明において、直線部を、外観が突形状に形成された継ぎ部の外側寄りに形成したことを趣旨とする。
【0015】
上記発明の構成によれば、請求項1乃至3の何れか一つに記載の発明の作用に加え、直線部(平板部)が継ぎ部の外側寄りに形成されるので、例えば、直線部(平板部)を他の部分よりも肉薄に形成することで、デリバリパイプを大きくすることなく、肉薄にした分だけ容積が増える。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の発明において、樹脂にはガラス強化繊維が混合され、直線部であって、燃料通路の長手方向の端部に樹脂射出ゲートの対応部を配置したことを趣旨とする。
【0017】
上記発明の構成によれば、請求項1乃至4の何れか一つに記載の発明の作用に加え、デリバリパイプの成形時に、樹脂射出ゲートから金型の中に樹脂が射出されることにより、樹脂と共にガラス強化繊維が直線部(平板部)の長手方向に沿って流れ、ガラス強化繊維の配向が直線部(平板部)の長手方向となる。
【0018】
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れか一つに記載の発明において、容積(VD(cm3))が、気筒当たりのエンジン排気量(VE(cm3))との関係から下記の式(1)の条件を満たすように設定したことを趣旨とする。
VD≧108*ln{(VE+150)/2.5}−544 …式(1)
【0019】
上記発明の構成によれば、請求項1乃至5の何れか一つに記載の発明の作用に加え、式(1)の条件でデリバリパイプの容積を設定することにより、一般的な排気量を有するエンジンに対して、燃料圧力に係る脈動幅を所定値以下にできる必要容積を80(cm3)まで下げられる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、パルセーションダンパを設けることなく燃料圧力の脈動を抑制することができ、直線部との継ぎ部の破損を防止して耐久性を向上させることができる。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、耐久性を更に向上させることができ、体積を増やすことなく燃料通路の容積を増大させることができる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、燃料圧力の脈動をより効果的に抑制することができる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の何れか一つの発明の効果に加え、燃料通路の容積を確保しながら小型化することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の何れか一つの発明の効果に加え、直線部の許容撓み量を増大させて容積変化を大きくすることができ、燃料圧力の脈動抑制効果を増大させることができる。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1乃至5の何れか一つの発明の効果に加え、燃料圧力の脈動抑制効果を得ながら小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態に係り、デリバリパイプを示す平面図。
【図2】同実施形態に係り、デリバリパイプを示す背面図。
【図3】同実施形態に係り、デリバリパイプを示す図1のA−A線断面図。
【図4】同実施形態に係り、デリバリパイプを示す図1のB−B線断面図。
【図5】同実施形態に係り、脈動測定方法を示す概略図。
【図6】同実施形態に係り、脈動測定結果を比較して示すタイムチャート。
【図7】同実施形態に係り、直線部のガラス強化繊維の配向とその部分の曲げ方向との関係を示す概略図。
【図8】同実施形態に係り、曲げ方向に対する弾性率と撓み量比率の違いを示す表。
【図9】同実施形態に係り、気筒当たりのエンジン排気量とデリバリパイプの最小容積との関係を示すグラフ。
【図10】第2実施形態に係り、デリバリパイプを示す断面図。
【図11】第3実施形態に係り、デリバリパイプを示す断面図。
【図12】第4実施形態に係り、デリバリパイプを示す断面図。
【図13】第5実施形態に係り、デリバリパイプを示す断面図。
【図14】第6実施形態に係り、デリバリパイプを示す断面図。
【図15】第7実施形態に係り、デリバリパイプを示す平断面図。
【図16】同実施形態に係り、デリバリパイプを示す図15のC−C線断面図。
【図17】同実施形態に係り、図16との比較例を示すデリバリパイプの断面図。
【図18】同実施形態に係り、「R/T」と応力集中係数との関係を示すグラフ。
【図19】第8実施形態に係り、デリバリパイプを示す断面図。
【図20】第9実施形態に係り、デリバリパイプを示す断面図。
【図21】第10実施形態に係り、デリバリパイプを示す断面図。
【図22】第11実施形態に係り、デリバリパイプを示す断面図。
【図23】第12実施形態に係り、デリバリパイプを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1実施形態>
以下、本発明のデリバリパイプを具体化した第1実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
図1に、この実施形態のデリバリパイプ1を平面図により示す。図2に、同じくデリバリパイプ1を背面図により示す。図3に、同じくデリバリパイプ1を、図1のA−A線断面図により示す。図4に、同じくデリバリパイプ1を、図1のB−B線断面図により示す。
【0029】
図1〜3に示すように、このデリバリパイプ1は、樹脂により長尺な略筒形に成形され、内部に燃料通路2を有する。デリバリパイプ1の一端部には、燃料配管に接続される管継手3が一体に成形される。デリバリパイプ1の他端部には、キャップ4が溶着される。デリバリパイプ1の前面側には、その長手方向に沿って複数(この実施形態では3個)のソケット5が間隔を置いて一体に成形される。各ソケット5は、取付孔6を有する略円筒状をなす。各ソケット5には、インジェクタが取り付けられる。デリバリパイプ1の下面側には、その長手方向に沿って複数(この実施形態では2個)のブラケット7が間隔を置いて一体に成形される。各ブラケット7は、このデリバリパイプ1をエンジンにボルト等で固定するために使用される。
【0030】
図4に示すように、デリバリパイプ1は、その横断面形状が、一つの直線部11と、一つの曲線部12と、直線部11の両端と曲線部12との継ぎ目となる二つの継ぎ部13とを含む。この実施形態では、直線部11は、ブラケット7と対向する位置に形成されている。二つの継ぎ部13の外観は外方へ半球形に突形状に形成され、直線部11及び曲線部12の肉厚よりも大きい肉厚に形成される。デリバリパイプ1が長尺をなすことから、直線部11は、3次元で見れば、図1に示すように、デリバリパイプ1の長手方向へ延びる平板部21となっている。同様に曲線部12は、3次元で見れば、図2に示すように、デリバリパイプ1の長手方向へ延びる曲板部22となっている。同様に二つの継ぎ部13は、3次元で見れば、図1,2に示すように、デリバリパイプ1の長手方向へ延びる突条部23となっている。
【0031】
図1に示すように、デリバリパイプ1の直線部11(平板部21)であって、燃料通路2の長手方向の一端部には、このデリバリパイプ1を樹脂成形する金型に設けられた樹脂射出ゲートに対応するゲート対応部8が痕跡として残る。この実施形態では、デリバリパイプ1及びキャップ4の樹脂材料として、「PA66」や「PPA」等のナイロン樹脂が使用される。また、デリバリパイプ1の強度と、その直線部11(平板部21)の可撓性を高めるために、材料となるナイロン樹脂には、ガラス強化繊維が混合される。この実施形態では、ゲート対応部8が、直線部11(平板部21)の上であって、燃料通路2の長手方向の一端部に配置されることから、ナイロン樹脂の中で、ガラス強化繊維が直線部11(平板部21)の長手方向に沿って流れることとなる。この結果、ガラス強化繊維の配向が、直線部11(平板部21)の長手方向、すなわち図2における矢印F1の方向となる。
【0032】
更に、この実施形態では、デリバリパイプ1の中の燃料圧力の脈動幅を所定値以下にするために、デリバリパイプ1の容積VDが必要容積となるように設定されている。脈動幅を所定値以下に設置する理由は、燃料圧力の脈動に起因してデリバリパイプ1で生じる音を、車室内で騒音として感じない低レベルにするためである。この実施形態では、容積VD(cm3)が、気筒当たりのエンジン排気量VE(cm3)との関係から下記の式(1)の条件を満たすように設定されている。
VD≧108*ln{(VE+150)/2.5}−544 …式(1)
【0033】
以上説明したこの実施形態のデリバリパイプ1によれば、樹脂より成形され、横断面形状が少なくとも一つの直線部11(平板部21)を含む。従って、直線部11(平板部21)は、可撓性を有し、燃料圧力の脈動を受けて撓むことで、その脈動が吸収される。この結果、このデリバリパイプ1によれば、パルセーションダンパを特に設けることなく、燃料圧力の脈動を抑制することができる。これにより、インジェクタからの燃料噴射量を安定させてエンジンの空燃比制御を安定させることができ、エンジン性能を確保することができ、デリバリパイプ1からの騒音発生を抑えることができる。
【0034】
ここで、本実施形態のデリバリパイプ1と従来(比較例)のデリバリパイプにつき、燃料圧力の脈動抑制効果を比較して説明する。図5に、脈動測定方法を概略図により示す。デリバリパイプ1には、4つのインジェクタ31が取り付けられる。デリバリパイプ1には、ホース32と鉄配管33を介して燃料タンク34から燃料が供給されるようになっている。燃料タンク34の中には、燃料を圧送する燃料ポンプ(図示略)が設けられる。ホース32と鉄配管33との間には、燃料圧力を測定する圧力センサ35が設けられる。そして、燃料タンク34からデリバリパイプ1へ燃料を圧送し、インジェクタ31から燃料を噴射させているときに、燃料圧力の挙動を圧力センサ35により測定した。
【0035】
図6に、本実施形態と比較例1及び2の脈動測定結果を比較してタイムチャートにより示す。図6(a)は、脈動抑制機構を持たないデリバリパイプを使用した「比較例1」に係る燃料圧力の脈動波形を示す。図6(b)は、パルセーションダンパを有するデリバリパイプを使用した「比較例2」に係る燃料圧力の脈動波形を示す。図6(c)は、本実施形態のデリバリパイプ1を使用した場合の燃料圧力の脈動波形を示す。図6(d)は、インジェクタ31の噴射パルスを示す。このタイムチャートから分かるように、インジェクタ31から1回分の燃料が噴射されると、最初に燃料圧力が一旦低下してから脈動が始まり、やがて脈動が収束する。比較例1では、脈動幅Wp1が比較的大きくなるのに対し、比較例2及び本実施形態では、脈動幅Wp2,Wp3が比較的小さくなることが分かる。本実施形態の脈動幅Wp3は、比較例2の脈動幅Wp2よりも若干大きくなるが、比較例1の脈動幅Wp1に比べて三分の一程度に小さくなることが分かる。本実施形態及び比較例2の脈動幅Wp2,Wp3のレベルは、両方ともエンジンの空燃比制御の安定化や騒音低減の効果として問題のないレベルである。つまり、この実施形態のデリバリパイプ1によれば、パルセーションダンパを有するデリバリパイプと同様に燃料圧力の脈動を有効に抑制できる効果が得られる。
【0036】
また、この実施形態のデリバリパイプ1によれば、直線部11(平板部21)と曲線部12(曲板部22)との継ぎ部13(突条部23)の外観が突形状に形成される。従って、継ぎ部13(突条部23)の外観が突形状をなすので、直線部11(平板部21)が燃料圧力を受けて撓むときの継ぎ部13(突条部23)の応力集中が緩和される。このため、継ぎ部13(突条部23)の破損を防止してデリバリパイプ1の耐久性を向上させることができる。
【0037】
更に、この実施形態のデリバリパイプ1によれば、成形時に樹脂射出ゲートから金型に樹脂が注入されるときに、樹脂と共にガラス強化繊維が直線部11(平板部21)の長手方向に沿って流れ、ガラス強化繊維の配向が直線部11(平板部21)の長手方向(図2の矢印F1の方向)となる。このため、デリバリパイプ1の直線部11(平板部21)の曲げ易い方向が、図7に矢印Fpで示すガラス強化繊維の配向Adと平行な方向よりも、同図7に矢印Fcで示すガラス強化繊維の配向Adと直交する方向となる。図7は、直線部11(平板部21)におけるガラス強化繊維の配向Adと、その部分の曲げ方向との関係を概略図により示す。図8に、曲げ方向の違いに対する、弾性率(MPa)と撓み量比率の違いを表に示す。この表から、「平行方向(Fp)」よりも「直交方向(Fc)」の曲げ方向の方が、弾性率が小さく、撓み量比率が大きいことが分かる。このことから、「直交方向(Fc)」の曲げ方向の方が、直線部11(平板部21)が曲がり易いことが分かる。このことから、直線部11(平板部21)の許容撓み量を増大させてデリバリパイプ1の容積変化を大きくすることができ、燃料圧力の脈動抑制効果を増大させることができる。
【0038】
更に、この実施形態のデリバリパイプ1によれば、上記した式(1)の条件でデリバリパイプ1の容積を設定している。従って、このデリバリパイプ1を、一般的な排気量を有するエンジンに採用したときの、燃料圧力の脈動幅を所定値以下にできる必要容積を、「80(cm3)」まで下げられる。図9に、デリバリパイプが採用されるエンジンの気筒当たりのエンジン排気量と、デリバリパイプの中の燃料圧力の脈動幅を所定値以下にするために必要なデリバリパイプの最小容積との関係をグラフにより示す。図9において、各曲線L1,L2,L3は、各種デリバリパイプに係る特性曲線を示す。ここで、曲線L1は、横断面形状が円形(直線部を持たない)のアルミ製デリバリパイプに関する。曲線L2は、横断面形状が円形(直線部を持たない)の樹脂製デリバリパイプに関する。そして、曲線L3は、本実施形態の樹脂製デリバリパイプ1に関し、上記した式(1)の条件を満たす。図9から分かるように、各種エンジンの中で気筒当たりのエンジン排気量(VE)の最大値を「約660(cm3)」とすると、本実施形態に係る曲線L3によれば、デリバリパイプ1の最小容積(VD)を「80(cm3)」とすることができ、他の曲線L1,L3と比べて最も小さいことが分かる。このように、この実施形態のデリバリパイプ1によれば、燃料圧力の脈動抑制効果を得ながら、小型化を図ることができる。この場合、デリバリパイプ1の長手方向の大きさは、採用するエンジンにより決まることになる。従って、デリバリパイプ1の容積を小さくできることで、デリバリパイプ1を細くすることができる。
【0039】
<第2実施形態>
次に、本発明のデリバリパイプを具体化した第2実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0040】
なお、以下の説明において、前記第1実施形態と同等の構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
【0041】
図10に、この実施形態のデリバリパイプ1を断面図により示す。この断面図は、図4の断面図に準ずる。この実施形態は、第1実施形態の変形例であり、直線部11(平板部21)が、ソケット5と対向する背面側よりやや上方にずれて斜めに配置され、それに応じて曲線部12(曲板部22)及び継ぎ部13(突条部23)の配置が変わる点で第1実施形態と構成が異なる。
【0042】
従って、この実施形態のデリバリパイプ1でも、第1実施形態と同等の作用効果を得ることができる。
【0043】
<第3実施形態>
次に、本発明のデリバリパイプを具体化した第3実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0044】
図11に、この実施形態のデリバリパイプ1を図4に準ずる断面図により示す。この実施形態のデリバリパイプ1は、その横断面形状が、互いに直交するように配置された二つの直線部11(平板部21)と、一つの曲線部12(曲板部22)と、各直線部11(平板部21)と曲線部12(曲板部22)との三つの継ぎ部13(突条部23)とを含む。この実施形態で、一方の直線部11(平板部21)は、ソケット5と対向する位置、すなわち背面側に配置され、他方の直線部11(平板部21)は、上面側に配置される。また、各継ぎ部13は、横断面形状が略円形をなし、他の部分よりも厚肉に成形される。これらの点で、この実施形態は、前記各実施形態と構成が異なる。
【0045】
従って、この実施形態のデリバリパイプ1でも、第1実施形態と同等の作用効果を得ることができる。加えて、この実施形態では、二つの直線部11(平板部21)を有することから、直線部11(平板部21)が一つの場合に比べてデリバリパイプ1の容積変化を増大させることができ、その分、燃料圧力の脈動抑制効果を増大させることができる。
【0046】
<第4実施形態>
次に、本発明のデリバリパイプを具体化した第4実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0047】
図12に、この実施形態のデリバリパイプ1を図4に準ずる断面図により示す。この実施形態では、外観が突形状に形成された各継ぎ部13(突条部23)の内側に凹部14を形成した点で第3実施形態と構成が異なる。この凹部14は、継ぎ部13(突条部23)の外形に倣って略円形をなし、肉厚は直線部11及び曲線部12のそれと同じである。
【0048】
従って、この実施形態のデリバリパイプ1でも、第3実施形態と同等の作用効果を得ることができる。加えて、この実施形態では、継ぎ部13(突条部23)の内側に凹部14が形成されるので、継ぎ部13(突条部23)の内側の周長が増し、応力集中が更に緩和される。この意味で、継ぎ部13(突条部23)の破損を防止してデリバリパイプ1の耐久性を更に向上させることができる。また、この実施形態では、凹部14を設けた分だけ、デリバリパイプ1の体積を増やすことなく燃料通路2の容積を増大させることができる。
【0049】
<第5実施形態>
次に、本発明のデリバリパイプを具体化した第5実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0050】
図13に、この実施形態のデリバリパイプ1を図4に準ずる断面図により示す。この実施形態では、第3実施形態の曲線部12(曲板部22)を直線部11(平板部21)に変えた点で第3実施形態と構成が異なる。
【0051】
従って、この実施形態のデリバリパイプ1でも、第3実施形態と同等の作用効果を得ることができる。加えて、この実施形態では、三つの直線部11(平板部21)を有することから、直線部11(平板部21)が二つの場合に比べて、デリバリパイプ1の容積変化を増大させることができ、その分、燃料圧力の脈動抑制効果を増大させることができる。
【0052】
<第6実施形態>
次に、本発明のデリバリパイプを具体化した第6実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0053】
図14に、この実施形態のデリバリパイプ1を図4に準ずる断面図により示す。この実施形態では、第4実施形態の曲線部12(曲板部22)を直線部11(平板部21)に変えた点で第4実施形態と構成が異なる。
【0054】
従って、この実施形態のデリバリパイプ1でも、第4実施形態と同等の作用効果を得ることができる。加えて、この実施形態では、三つの直線部11(平板部21)を有することから、直線部11(平板部21)が二つの場合に比べて、デリバリパイプ1の容積変化を増大させることができ、その分、燃料圧力の脈動抑制効果を増大させることができる。
【0055】
<第7実施形態>
次に、本発明のデリバリパイプを具体化した第7実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0056】
図15に、この実施形態のデリバリパイプ1を平断面図により示す。図16に、デリバリパイプ1を、図15のC−C線断面図により示す。図15に示すように、このデリバリパイプ1は、樹脂により長尺な略筒形に成形され、内部に燃料通路2を有する。デリバリパイプ1の一端部の背面側には、燃料配管に接続される管継手3が一体に成形される。同じく、デリバリパイプ1の一端部には、キャップ4が溶着される。デリバリパイプ1の前面側には、その長手方向に沿って複数(この実施形態では4個)のソケット5が間隔を置いて一体に成形される。各ソケット5は取付孔6を有する。
【0057】
図16に示すように、デリバリパイプ1は、その横断面形状が、略半円形状をなし、一つの直線部11と、一つの曲線部12と、直線部11と曲線部12との継ぎ部13とを含む。この実施形態で、直線部11は、ソケット5と対向する位置、すなわち背面側に配置される。二つの継ぎ部13の外観は半円形に突形状に形成され、直線部11及び曲線部12の肉厚よりも厚肉に形成される。デリバリパイプ1が長尺をなすことから、直線部11は、3次元で見れば、デリバリパイプ1の長手方向へ延びる平板部21となる。同様に曲線部12は、3次元で見れば、デリバリパイプ1の長手方向へ延びる曲板部22となる。同様に二つの継ぎ部13は、3次元で見れば、デリバリパイプ1の長手方向へ延びる突条部23となる。図17に、比較例として、直線部11と曲線部12との継ぎ部13の外観が突形状とならない場合を断面図により示す。
【0058】
この実施形態で、図16において、直線部11(平板部21)の肉厚Tと、継ぎ部13(突条部23)の内側の半径Rとを所定の関係で設定することにより、継ぎ部13(突条部23)の応力集中を抑えられることが分かっている。すなわち、肉厚Tに対する半径Rの比「R/T」を大きくすることで、継ぎ部13(突条部23)の応力集中を抑えることができる。例えば、肉厚Tを一定とした場合、半径Rを大きくするほど継ぎ部13(突条部23)の応力が小さくなる。図18に、「R/T」と応力集中係数との関係をグラフにより示す。このグラフにおいて、応力集中係数を「1.5」以下にするには、「R/T」を「0.8」以上にする必要がある。そうすると、肉厚Tを「2.5」で一定とした場合、応力集中係数を「1.5」以下にするためには、半径Rを「2.0」以上にする必要がある。
【0059】
以上説明したこの実施形態のデリバリパイプ1によれば、第1実施形態と同等の作用効果を得ることができる。加えて、この実施形態では、上記したように直線部11(平板部21)の肉厚Tと、継ぎ部13(突条部23)の内側の半径Rとを所定の関係で設定したので、継ぎ部13(突条部23)の応力集中を、直線部11(平板部21)の肉厚Tに合わせて確実に低下させることができる。
【0060】
<第8実施形態>
次に、本発明のデリバリパイプを具体化した第8実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0061】
図19に、この実施形態のデリバリパイプ1を図16に準ずる断面図により示す。この実施形態では、第7実施形態の直線部11(平板部21)を曲線部12(曲板部22)よりも肉薄に形成した点で第7実施形態と構成が異なる。
【0062】
従って、この実施形態のデリバリパイプ1でも、第7実施形態と同等の作用効果を得ることができる。加えて、この実施形態では、直線部11(平板部21)を曲線部12(曲板部22)よりも肉薄に形成したので、直線部11(平板部21)の可撓性が増す。この意味で、第7実施形態に比べてデリバリパイプ1の容積変化を増大させることができ、その分、燃料圧力の脈動抑制効果を増大させることができる。
【0063】
<第9実施形態>
次に、本発明のデリバリパイプを具体化した第9実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0064】
図20に、この実施形態のデリバリパイプ1を図16に準ずる断面図により示す。この実施形態では、図20に2点鎖線で示す第8実施形態の直線部11(平板部23)を、図20に実線で示すように、外観が突形状に形成された継ぎ部13(突条部23)の外側寄りに形成した点で第8実施形態と構成が異なる。
【0065】
従って、この実施形態のデリバリパイプ1でも、第8実施形態と同等の作用効果を得ることができる。加えて、この実施形態では、直線部11(平板部21)を曲線部12(曲板部22)よりも肉薄に形成すると共に、直線部11(平板部21)が継ぎ部13(突条部23)の外側寄りに形成したので、デリバリパイプ1の外観を大きくすることなく、燃料通路2の容積が増える。このため、デリバリパイプ1につき、燃料通路2の容積を確保しながら小型化することができる。
【0066】
<第10実施形態>
次に、本発明のデリバリパイプを具体化した第10実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0067】
図21に、この実施形態のデリバリパイプ1を図16に準ずる断面図により示す。この実施形態では、外観が突形状に形成された各継ぎ部13(突条部23)の内側に凹部14を形成した点で第7実施形態と構成が異なる。この凹部14は、継ぎ部13(突条部23)の肉厚が、直線部11(平板部21)及び曲線部12(曲板部22)と同じになるように、継ぎ部13(突条部23)の外形に倣って湾曲する。
【0068】
従って、この実施形態のデリバリパイプ1でも、第7実施形態と同等の作用効果を得ることができる。加えて、この実施形態では、継ぎ部13(突条部23)の内側に凹部14が形成されるので、継ぎ部13(突条部23)の内側の周長が増し、応力集中が更に緩和される。この意味で、継ぎ部13(突条部23)の破損を防止し、デリバリパイプ1の耐久性を更に向上させることができる。更に、この実施形態では、凹部14を設けた分だけ、デリバリパイプ1の体積を増やすことなく燃料通路2の容積を増大させることができる。
【0069】
<第11実施形態>
次に、本発明のデリバリパイプを具体化した第11実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0070】
図22に、この実施形態のデリバリパイプ1を図16に準ずる断面図により示す。この実施形態では、直線部11(平板部21)を曲線部12(曲板部22)よりも、継ぎ部13(突条部23)から中間部にかけて徐々に肉薄に形成した点で第10実施形態と構成が異なる。
【0071】
従って、この実施形態のデリバリパイプ1でも、第10実施形態と同等の作用効果を得ることができる。加えて、この実施形態では、直線部11(平板部21)が、継ぎ部13(突条部23)から中間部にかけて徐々に肉薄に形成されるので、直線部11(平板部21)の可撓性が増す。この意味で、第10実施形態に比べてデリバリパイプ1の容積変化を増大させることができ、その分、燃料圧力の脈動抑制効果を増大させることができる。
【0072】
<第12実施形態>
次に、本発明のデリバリパイプを具体化した第12実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0073】
図23に、この実施形態のデリバリパイプ1を図16に準ずる断面図により示す。この実施形態では、継ぎ部13(突条部23)の内側の半径Rを第7実施形態のそれよりも大きくすると共に、直線部11(平板部21)を曲線部12(曲板部22)よりも、継ぎ部13(突条部23)から中間部にかけて徐々に肉薄に形成した点で第7実施形態と構成が異なる。
【0074】
従って、この実施形態のデリバリパイプ1でも、第7実施形態と同等の作用効果を得ることができる。加えて、この実施形態では、継ぎ部13(突条部23)の内側の半径Rを相対的に大きくしたので、上記した「R/T」の関係から応力集中係数が相対的に小さくなる。このため、継ぎ部13(突条部23)の応力集中を、相対的に低下させることができる。また、直線部11(平板部21)が、継ぎ部13(突条部23)から中間部にかけて徐々に肉薄に形成されるので、直線部11(平板部21)の可撓性が増す。この意味で、第7実施形態に比べてデリバリパイプ1の容積変化を増大させることができ、その分、燃料圧力の脈動抑制効果を増大させることができる。
【0075】
なお、この発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜に変更して実施することができる。
【0076】
例えば、デリバリパイプに設けられるソケットやブラケットの数を適宜増減したり、デリバリパイプの横断面形状を適宜変更したりすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
この発明は、エンジンの燃料供給装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 デリバリパイプ
2 燃料通路
8 ゲート対応部
11 直線部
12 曲線部
13 継ぎ部
14 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂より成形され、内部に燃料通路を有するデリバリパイプであって、
横断面形状が少なくとも一つの直線部と、前記直線部との継ぎ部とを含み、前記継ぎ部の外観を突形状に形成したことを特徴とするデリバリパイプ。
【請求項2】
外観が突形状に形成された前記継ぎ部の内側に凹部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のデリバリパイプ。
【請求項3】
前記横断面形状が曲線部を更に含み、前記直線部を前記曲線部よりも肉薄に形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のデリバリパイプ。
【請求項4】
前記直線部を、外観が突形状に形成された継ぎ部の外側寄りに形成したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載のデリバリパイプ。
【請求項5】
前記樹脂にはガラス強化繊維が混合され、前記直線部であって、前記燃料通路の長手方向の端部に樹脂射出ゲートの対応部を配置したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載のデリバリパイプ。
【請求項6】
容積(VD(cm3))が、気筒当たりのエンジン排気量(VE(cm3))との関係から下記の式(1)の条件を満たすように設定したことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載のデリバリパイプ。
VD≧108*ln{(VE+150)/2.5}−544 …式(1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−157819(P2011−157819A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17786(P2010−17786)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】