説明

デルフィニウムの花色交配法

本発明は、デルフィニウムの後代に特定の花色を遺伝させる花色交配法と、デルフィニウムの後代に二色系の花色を遺伝させる花色交配法を提供する。また、暖地で効率よく季節咲きさせる方法を提供し、萼片中の主要な内性色素の比率からデルフィニウムの花色を決定する方法を提供する。全色系花色のデルフィニウムを花粉親または種子親として他殖交配し、特定の花色を後代に遺伝させることができると共に、二色系の花色を後代に遺伝させることができることを見出した。デルフィニウムを約15℃の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗し、暖地において効率よく季節咲きさせる方法を見出した。デルフィニウムの花色と内生色素を分析し、デルフィニウムの花色を決定する数式を見出した。新規アントシアニンを主成分として含む紫色花または淡紫色花デルフィニウムの交配法を見出した。その新規アントシアニン色素の単離、精製方法を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の花色を有するデルフィニウムの種子を繁殖するための効率的な交配方法に関する。また、二色系の花色(ビカラー)を有するデルフィニウムの種子を繁殖するための効率的な交配方法に関する。より詳しくは、開花植物、すなわち、被子植物の花と、遺伝子形を改変するための処理である交配の方法とからなる新規植物またはそれらを得るための処理に関する。また、生殖交雑(sexual hybridization)の段階を含む育種過程(breeding process)において得られた植物やその一部を用いる方法である。さらにまた、新規植物(new plants)またはそれらを得るための方法であって、被子植物(angiosperms)などの花き類(flowering plants)に関する。
【背景技術】
【0002】
デルフィニウム(飛燕草、Delphinium)は、キンポウゲ科(Ranunculaceae)デルフィニウム属の草本植物である。世界に200種以上が存在し、その大部分は北半球のヨーロッパ、地中海沿岸、シベリア、カリフォルニアに分布する(非特許文献1、園芸植物大事典、小学館、348−350、1989)。
【0003】
デルフィニウムはヨーロッパで花壇用花卉(宿根草)として取り扱われていたが、20世紀初頭には欧米諸国で品種改良に成功し、現在は1年草として取り扱われている。アメリカでは大輪八重咲きのパシフィックジャイアント(Pacific Giant)系やドワーフブルーファウンテン(Dwarf Blue Fountain)系、イギリスとオランダでは一重で分枝の多いベラドンナ(Belladonna)系やピンクセンセーション(Pink Sensation)系などの品種群が作出された(非特許文献1;非特許文献2、朝日園芸百科03、朝日新聞社、204−206、1984)。
【0004】
日本国への導入は明治初期といわれ、最近になってようやくデルフィニウム種苗の供給、新品種改良を本格的に取り組むようになった。例えば、デルフィニウムの周年安定生産技術の開発(非特許文献3、上山茂文、農林水産総合技術センター暖地園芸センター園芸部、平成10年度成果発表、6ページ、1998)、暖地におけるデルフィニウムの促成栽培の技術確立(非特許文献4、中村 薫、宮崎県総農試研報、13−29、1995)など、生産方法の開発に力が注がれているが、中でも宮崎県農業試験場が育成した‘シリウス’をはじめとする品種群は暖地の促成栽培に適したF品種としては逸品である(非特許文献5、中村 広、宮崎県総農試研報、53−61、2001)。
【0005】
デルフィニウムは草丈約1.5m以上に成長し、花穂(花序)は約50花以上つけるものを良品としている。花穂は一見花弁のように思えるが、実は萼片であり、これが青、紫、桃、赤、黄、白に染まり、様々な花色をかもし出している(非特許文献6、朝日園芸百科06、朝日新聞社、202−204、1984)。
【0006】
萼片に含まれるアントシアニン色素について、青色萼片には過度にアシル化された、シアノデルフィン(cyanodelphin)が含まれていることが知られている(非特許文献7、Kondo、T.、Tetrahedron Lett.44:6375−6378、1991)。また、紫色の萼片にはアシル化アントシアニンであるヴィオルデルフィン(violdelphin)が含まれていることが明らかにされ、これらの色素がそれぞれの萼片が青色ならびに紫色に着色する本体であることが報告されている(非特許文献8、Kondo、T.、Chem.Lett.、137−138、1990)。
【0007】
花色は、光が花弁表面にあたり、花弁表皮細胞内に存在する色素類に吸収されなかった光が反射されることにより、人間の目に感知される。しかし、光、または色彩に対する感受性に個人差があるために、花色を明確に表現する手法が必要であるとされてきた(非特許文献9、Voss、D.H.:HortSci.、27:1256〜1260、1992)。
【0008】
花色(flower color)を測定する方法として、色彩計、または、色差計(colorimeter)を用い、CIELab表色系の座標にプロットする測定方法がある。これは、色の三属性(color attribute)、すなわち、色相(hue)、明度(brightness)、彩度(chroma)を三次元の立体空間座標系(three dimentional global color chart)、つまり、色立体として考えたもので、本空間中の色差(hue difference)は、肉眼で感知した色の差を正確に反映する(非特許文献10、Gonnet、J.F.:Food Chem.、63:409〜415、1998)。
【0009】
近年、デルフィニウムの花色と内生色素濃度(シアノデルフィン、cyanodelphin、やヴィオルデルフィン、violdelphin)との関係について報告した(非特許文献11、Hashimoto、F.、J.Soc.Hort.Sci.、69:428〜434、2000)。より詳しくは、デルフィニウムの萼片の花色を測色して、萼片から得られた内生色素との関係を述べ、花色をより正確に求めることができることを報告した。
【0010】
さらに、デルフィニウムの内生色素濃度(シアノデルフィン、cyanodelphin、やヴィオルデルフィン、violdelphin)は開花後、時間が経過するとともにそれらの萼片内の濃度が変化することを報告し、これらの生合成について述べた(非特許文献12、Hashimoto、F.、Biosci.Biotechnol.Biochem.、66:1652〜1659、2002)。より詳しくは、デルフィニウム萼片内から得られたチューリッパニン(tulipanin)を出発色素とし、これが時間とともにビスデアシルプラチコニン(bisdeacylplatyconin)、ヴィオルデルフィン(violdelphin)、シアノデルフィン(cyanodelphin)へ変化することを述べた。この生合成(biogenesis)は、アントシアニンの母核をなすアントシアニジンの生合成ではなく、アントシアニジンであるデルフィニジンに、配糖化並びにアシル化反応を誘導する生合成に関する。
【0011】
青色系デルフィニウム萼片の発色機構について、萼片上皮細胞の液胞中の金属アルミニウム(Al3+)の存在が重要で、シアノデルフィン(cyanodelphin)などとの助色素効果(コピグメント効果、copigmentation)を起こすことにより青色化(bluing)しているとの報告がある(非特許文献13、吉田久美、日本植物生理学会年会要旨、262、2002)。また、萼片上皮細胞をプロトプラスト化して、その液胞中の青色繊維状物質を調査し、青色化には金属イオンが関与していないことの報告がある(非特許文献14、吉田久美、日本農芸化学会年会要旨、263、2003)。さらに、青色系デルフィニウム萼片の発色機構を調査するために、萼片上皮細胞の液胞中のpHを測定し、約5.0程度であることの報告がある(非特許文献15、吉田久美、日本植物生理学会年会要旨、277、2001)。
【0012】
市販されているデルフィニウム品種について、二、四、六倍体の倍数性を有すると言われている。パシフィックジャイアント系の品種は四倍体である(非特許文献16、Legro、R.A.H.、Euphytica、10:1〜23、1961)。四倍体であるため他殖交配を行った場合、様々な花色を有する後代が得られ、特定の花色を後代に遺伝させる方法がなかったなどの問題点がある。その中で、二色系デルフィニウムとして‘ギネバー’が選抜されているが、これはメリクロン苗により継代され増殖されたもので、種子繁殖により増殖されるものではない(非特許文献5)。よって、交配により自由に二色系デルフィニウムの種子繁殖苗を得る事ができず、たくさんの二色系デルフィニウムを市場に提供できなかった問題点がある。
【0013】
デルフィニウムは冷涼地または高冷地でよく育ち、暖地では高温のため生育が悪い(非特許文献4)。その理由から、暖地では季咲き栽培は避けられている。したがって、暖地では促成栽培を行わなければ、デルフィニウムを効率よく栽培することができなかったなどの問題点がある。
【0014】
デルフィニウムの花色を正確に数値化できるようになったが(非特許文献11)、萼片の花色と萼片中の内生色素との関係が不明であったため、内生色素の蓄積からデルフィニウムの花色を決定することができなかったなどの問題点がある。
【0015】
その他、第26回国際園芸学会議(トロント、カナダ)の講演要旨には、トルコギキョウ花弁中の3種の主要アントシアニジンの遺伝の記載がある(非特許文献17、Uddin、A.F.M.J.:the XXVIth International Horticultural Congress and Exhibition、2002年、August 11−17、P.475−476)。
この内容を、特願2003−026598号(以下、特許文献1という)として出願し、トルコギキョウの花色遺伝型交配法(特許文献1の第0015段落)と記載した。「トルコギキョウの主要花色素である、3つのアントシアニジン:ペラルゴニジン(Pgn)、シアニジン(Cyn)、デルフィニジン(Dpn)の遺伝に着目し、自殖や正逆交雑を行い検討した結果、F〜F世代の色素表現型の分離から、新しい遺伝の法則を見出した。」、「色素前駆体のB環の水酸化に関与するフラボノイド3’−ヒドロキシラーゼ(F3’H)とフラボノイド3’、5’−ヒドロキシラーゼ(F3’、5’H)の酵素反応系には、H、H、H、Hの4つの複対立遺伝子が存在し、これらが3’位の水酸化、5’位の水酸化、3’、5’位の水酸化、および3’位と3’、5’位の水酸化を制御し、これらの組み合せによって花色表現型が決定されることを見出し、本発明を完成した。」という記載がある。
【0016】
特開平11−103704号明細書(以下、特許文献2という)には、組織培養苗により増殖して得られるメリクロン苗を用いて、その苗同士を交配してF種子を得る方法の記載がある。「二つの自殖系統デルフィニウムの選抜個体のうち、少なくとも一つを組織培養により増殖し、得られた一方のメリクロン苗と他方の自殖系統個体、または双方のメリクロン苗どうしを交配して、デルフィニウムF種子を得ることを特徴とするデルフィニウムF品種の作出方法。」という記載がある(特許文献2の請求項1)。
【0017】
特開平11−032604号明細書(以下、特許文献3という)には、種間交雑苗生産方法の記載がある。「本発明は、デルフィニウム属植物の種間交雑を行って得た種子の胚を摘出または胚の少なくとも一部を露出して、胚培養を行うことを特徴とするデルフィニウム属植物の種間交雑苗生産方法を要旨とするものである。」という記載がある(特許文献3の第0008段落)。
【0018】
米国特許第13010号明細書(以下、特許文献4という)には、デルフィニウムの新規園芸品種‘ドルチェヴィタ(Dolce Vita)’の記載がある。「八重の花を持ち、青色の二色系の花である。」という記載がある(特許文献4の第0010段落)。
【0019】
米国特許第14152号明細書(以下、特許文献5という)には、デルフィニウムの新規園芸品種‘デルガスタム(Delga Stam)’の記載がある。「本発明は、デルフィニウム属植物の新規園芸品種に関するものであって、植物学的にデルフィニウムの交雑品種であり」、「花色は青紫色/淡緑色の花を特徴とし、」という記載がある(特許文献5の第0004および第0011段落)。
【特許文献1】特願2003−026598号(第0015段落)
【特許文献2】特開平11−103704号公報(請求項1)
【特許文献3】特開平11−032604号公報(第0008段落)
【特許文献4】米国特許第13010号明細書(第0010段落)
【特許文献5】米国特許第14152号明細書(第0004および第0011段落)
【非特許文献1】「デルフィニウム属」、園芸植物大事典、小学館、1989年2月、P.348−350。
【非特許文献2】「デルフィニウム」、朝日園芸百科03、朝日新聞社、1984年6月、P.204−206。
【非特許文献3】上山茂文、「デルフィニウムの周年安定生産技術」、農林水産総合技術センター暖地園芸センター園芸部、平成10年度成果発表、1998年、6ページ。
【非特許文献4】中村 薫、他5名、「暖地におけるデルフィニウムの促成栽培の技術確立」、宮崎県総農試研報、1995年7月、P.13−29。
【非特許文献5】中村 広、他5名、「暖地の促成栽培に適したデルフィニウムF1品種‘シリウス’の育成と特性」、宮崎県総農試研報、2001年3月、P.53−61。
【非特許文献6】「デルフィニウム」、朝日園芸百科06、朝日新聞社、1984年9月、P.202−204。
【非特許文献7】Kondo、T.、他6名、「Structure of Cyanodelphin、a Tetra−p−hydroxybenzoated Anthocyanin from Blue Flower of Delphinium hybridum」、Tetrahedron Lett.、1991年、第44巻、P.6375−6378」。
【非特許文献8】Kondo、T.、他3名、「Structure of Violdelphin、an Anthocyanin from Violet Flower of Delphinium hybridum」、Chem.Lett.、1990年、P.137−138。
【非特許文献9】Voss、D.H.、「Colorimeter Measurement of Plant Color to the Royal Horticultural Society Colour Chart」、HortSci.、1992年、第27巻、P.1256〜1260。
【非特許文献10】Gonnet、J.F.、「Color Effects on Co−pigmentation of Anthocyanins revisited.1.A Colorimetric Definition Using the CIE LAB Scale」、Food Chem.、1998年、第63巻、P.409〜415。
【非特許文献11】Hashimoto、F.、他4名、「Characterization of Cyanic Flower Color of Delphinium Cultivars」、J.Soc.Hort.Sci.、2000年、第69巻、P.428〜434。
【非特許文献12】Hashimoto、F.、他5名、「Changes of Flower Coloration and Sepal Anthocyanins of Cyanic Delphinium Cultivars during Flowering」、Biosci.Biotechnol.Biochem.、2002年、第66巻、P.1652〜1659。
【非特許文献13】吉田久美、他5名、「青色デルフィニウム花弁の発色機構」、日本植物生理学会年会要旨、2002年、P.262。
【非特許文献14】吉田久美、他4名、「青色デルフィニウム花弁の発色機構2−液胞内青色物質の分析」、日本農芸化学会年会要旨、2003年、P.263。
【非特許文献15】吉田久美、他4名、「細胞内微小電極による花弁液胞pHの測定と花色」、日本植物生理学会年会要旨、2001年、P.277。
【非特許文献16】Legro、R.A.H.、「Species Hybrids in Delphinium」、Euphytica、1961年、第10巻、P.1〜23。
【非特許文献17】Uddin、A.F.M.J.、他2名、「Inheritance Model of Three Major Anthocyanidins in Eustoma grandiflorum Cultivars」、On−Site Program、the XXVIth International Horticultural Congress and Exhihibition、Toronto、Canada、2002年、August 11−17、P.475−476(S19−P−19)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、デルフィニウムは他殖性であり、自殖を繰り返すと自殖弱性を起こす。したがって、自殖によって特定の花色を持つ種子の繁殖が困難であったため、それらの特定の花色を持つ種子を維持することができなかったなどの問題点がある。また、デルフィニウムで他殖交配を行った場合、様々な花色を有する後代が得られ、特定の花色を後代に遺伝させることができなかったなどの問題点がある。
二色系デルフィニウムはメリクロン苗により継代され増殖させることができたが、種子繁殖ができなかったため、たくさんの二色系デルフィニウムを市場に提供できなかったなどの問題点がある。
【0021】
デルフィニウムは冷涼地または高冷地でよく育つが、暖地では高温のため生育が悪い。そのため暖地では促成栽培を行わなければ、デルフィニウムを効率よく生育させることができなかったなどの問題点がある。
デルフィニウムの花色を正確に数値化できるようになったが、萼片の花色と萼片中の内性色素との関係が不明であったため、萼片の内性色素の蓄積からデルフィニウムの花色を決定することができなかったなどの問題点がある。
また、デルフィニウムの萼片には化学構造が不明なアントシアニン色素を含み、これらを特徴とする紫色花のデルフィニウムを市場に提供できなかったなどの問題点がある。
【0022】
本発明の課題は、全色系デルフィニウムの他殖交配により特定の花色をもつ種子を得ることのできる方法を提供する。同時に、他殖交配することにより二色系の花色(ビカラー)をもつデルフィニウムの種子を得ることのできる交配方法を提供することである。また、本発明の別の課題は前記デルフィニウムを暖地で効率よく季節咲き栽培する方法を提供することである。
本発明の課題は、他殖交配により特定の花色をもつ種子を自由に得ることができる方法を提供することである。また、本発明の課題は、種子繁殖によるたくさんの二色系花色(ビカラー)のデルフィニウムを提供することである。
更に、本発明の課題は、新規アントシアニンを主成分として含む紫色花または淡紫色花デルフィニウムを提供することおよび、その新規アントシアニン色素の単離、精製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、全色系花色をもつデルフィニウムを花粉親または種子親として他殖交配し、特定の花色を後代に遺伝させることができることを見出した。
【0024】
さらに、デルフィニウムを花粉親または種子親として他殖交配し、二色系の花色(ビカラー)を後代に遺伝させることができることを見出した。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、全色系花色をもつデルフィニウムを花粉親または種子親として他殖交配し、特定の花色を後代に遺伝させることができることを見出した。
【0025】
また、前記したデルフィニウムを、15℃±1℃(14〜16℃、以下約15℃と言う)の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗することによって、デルフィニウムを効率よく(季節咲き)生育すること、特に暖地において効率よく(季節咲き)生育することが可能となった。
【0026】
本発明は、更にデルフィニウムの花色と内生色素を分析し、横軸を萼片中の内性色素の含量比とし、縦軸に花色を示す色相角度として得た数式1
【0027】
【数1】

【0028】
(式中、CD/VDはデルフィニウム萼片の内生色素の比率を示し、Hmaxは花色である最大色相角を示し、Kは最大色相角の2分の1になる場合の内生色素の比率を定数として示す)
を用い、デルフィニウムの花色を決定する方法を見出した。
【0029】
本発明のデルフィニウムの花色交配法は、デルフィニウムの花色を作出する花色交配の組み合わせを決定するものであって、花粉親または種子親の配偶子を行または列とする組合せ早見表を用いて、花色を想定することを特徴とする。
【0030】
本発明はまた、本発明のデルフィニウムの花色交配法により作出されたデルフィニウムの花色が、下記の式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素または式(II)で示すことができるアントシアニン色素(II)で発現することを特徴とするものを含む。
【0031】
【化1】

【0032】
【化2】

【0033】
これらの色素は新規若しくはデルフィニウムから単離されていない。従って、本発明は、本発明の方法により作出されたデルフィニウムこれらの色素を単離・精製する方法も含む。更に本発明は、式(I)で示される、3−O−(6−O−(α−L−rhamnosyl)−β−D−glucopyranosyl)−7−O−(3−O−β−D−glucopyranosyl−6−O−(4−O−(6−O−p−hydroxybenzoyl−β−D−glucopyranosyl)−p−hydroxybenzoyl)−β−D−glucopyranosyl)−delphinidinも包含する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ビカラーの花色をCIELab表色系座標にプロットした図である。(実施例5)
【図2】青色系の二色花(ビカラー・ブルー、B青)の生物の形態写真である。(実施例5)
【図3】淡青色系の二色花(ビカラーウイトブルー、B淡青)の生物の形態写真である。(実施例5)
【図4】パシフィックジャイアント(紫色)とブルーミラー(青色)の色相角(h)の経時的変化を示す図である。(実施例7)
【図5】パシフィックジャイアント(紫色)の萼片の主内生色素比(VD/TP)およびブルーミラー(青色)萼片の主内生色素比(CD/VD)に対する色相角(h)の関係を示す図である。(実施例7)
【図6】パシフィックジャイアント(紫色)の萼片の主内生色素比(VD/TP)の逆数およびブルーミラー(青色)萼片の主内生色素比(CD/VD)の逆数に対する色相角(h)の逆数の関係を示す図である。(実施例7)
【図7】パシフィックジャイアントを他殖交配して得たハイブリッド種子(Hybrid種子)と購入種子(店種)との生存率との比較を示す図である。(実施例10)
【図8】薄層クロマトグラフィーを示す図である。(実施例11)
【図9】薄層クロマトグラフィーを示す図である。(実施例11)
【図10】式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素の核磁気共鳴スペクトルで、異核化学シフト相関(HMQC)と同核シフト相関(H−H TOCOSY、矢印のついた曲線)を示す図である。(実施例12)
【図11】式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素の核磁気共鳴スペクトルで、プロトン(H)に相関する13炭素(13C)の遠距離相関(HMBC)を示す図である。(実施例12)
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明は、全色系花色をもつデルフィニウムを花粉親または種子親として他殖交配し、特定の花色を後代に遺伝させるデルフィニウムの花色交配法に関する。
【0036】
より詳しくは、パシフィックジャイアントについて、青色花と淡青色花を他殖交配することにより青色花を得ることができ、青色花と白色花を他殖交配することにより白色花を得ることができ、青色花と紫色花を、または、紫色花と淡紫色花を他殖交配することにより紫色花を得ることができ、淡紫色花と白色花を他殖交配することにより淡紫色花を得ることができる。
また、ブルースプリングスについて、青色花と淡紫色花を他殖交配することにより青色花と淡青色花を得ることができ、淡青色花と白色花を他殖交配することにより白色花を得ることができ、紫色花と淡紫色花を、または、淡紫色花と桃色花を他殖交配することにより紫色花を得ることができ、桃色花と赤桃色花を他殖交配することにより赤桃色花を得ることができる。
【0037】
さらに、デルフィニウムを花粉親または種子親として他殖交配し、二色系の花色(ビカラー)を後代に遺伝させることができることを見出した。より詳しくは、パシフィックジャイアントが淡青色花であって、ブルースプリングスが赤桃色花であって、パシフィックジャイアントとブルースプリングスを花粉親または種子親として交配し、萼片の外側が青色、萼片の内側が紫色の青色系の二色花(ビカラー・ブルー、B青)を得ることができる。
パシフィックジャイアントについて、淡青色花と淡紫色花を花粉親または種子親として他殖交配することにより二色花(ビカラー・ブルー、B青)、並びに、萼片の外側が淡青色、萼片の内側が淡紫色の二色花(ビカラー・ライトブルー、B淡青)を得ることができ、淡青色花と白色花を他殖交配することにより二色花(ビカラー・ブルー、B淡青)を得ることができる。
ブルースプリングスについて、青色花と赤桃色花を花粉親または種子親として他殖交配することにより二色花(ビカラー・ブルー、B青)を得ることができ、淡青色花と淡紫色花を他殖交配することにより二色花(ビカラー・ライトブルー、B淡青)を得ることができ、淡青色花と赤桃色花を他殖交配することにより二色花(ビカラー・ブルー、B青)を得ることができ、青色花と紫色花を他殖交配することによりビカラー・ブルーとビカラー・ライトブルーを得ることができ、青色花と白色花を他殖交配することによりビカラー・ブルーとビカラー・ライトブルーを得ることができる。
【0038】
このように、種々の全色系をもつデルフィニウムを他殖交配することにより特定の花色、特に二色系(ビカラー)の花色を後代に遺伝させることが可能となる。
【0039】
本発明の花色交配法に使用できるデルフィニウム(Delphinium)として、限定されるものではないが、例えば、D.cheilantum、D.cardinale、D.consolida、D.elatum、D.grandiflorum、D.nudicaule、D.zalil、D.tatsienense、D.parryi、D.trolliifolium、D.nuttallianum、D.virescens、D.tricorne、D.bicolor、D.barbeyi、D.dubium、D.anthriscifolium、D.lacostei、D.macrocentron、D.caeruleumが挙げられる。
【0040】
また、本発明の花色交配法に使用できる本発明のデルフィニウム品種(Delphinium hybridum)として、限定されるものではないが、例えば、ブラックナイト(Black Night)、ブルーバード(Blue Bird)、ゲラハド(Gelahad)、グウェナヴィア(Guenevere)、キングアーサー(King Arthur)、パーシヴァル(Percival)、サマースカイ(Summer Skies)、サー・ランスロット(Sir Lancelot)、ベイビードール(Baby Doll)、ブルーナイル(Blue Nile)、バターボール(Butterball)、パープルシェイド(Purple Shade)、ロナルドワッツ(Ronald Watts)、ドワーフ・パシフィック(Dwarf Pacific)、ドワーフ・デルフィニウム(Dwarf Delphinium)、リトル・デルフィニウム(Little Delphinium)、マジック・フォンテン(Magic Fountain)、スノーホワイト(Snow White)、ブルースプリングス(Blue Springs)、ベラドンナ(Blladonna)、ブルービー(Blue Bee)、メライミー(Moerheimii)、ピンクセンセーション(Pink Sensation)、ウェンディ(Wendy)、ユニバーシティ・ハイブリッド(University Hybrid)、プリンセス・カロライン(Princess Caroline)、ロイヤルレッド(Royal Red)、ロイヤルイエロー(Royal Yellow)、サマードリーム(Summer Dream)、サンキスト(Sunkist)、スカイロケット(Sky Rocket)、ビーバリーヒルズ・スカーレット(Beavery Hills Scarlet)、ビーバリーヒルズ・イエローシェード(Beavery Hills Yellow Shade)、ビーバリーヒルズ・サーモンシェード(Beavery Hills Salmon Shade)、スワンレイク(Swan Lake)、ブルーパール(Blue Pearl)が挙げられる。
【0041】
本発明はまた、このようにして交配したデルフィニウムを15℃±1℃の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗することによって効率よく(季節咲き)生育することが可能であることを見出した。特に、従来デルフィニウムを暖地において効率よく育成することが困難であったが、このような条件で発芽させることによってデルフィニウムを暖地でも効率よく育苗することが可能となった。
【0042】
より詳しくは、他殖交配させたデルフィニウムの(二色系の花色を含む)種子について、約15℃の温度下シャーレ内で発芽させ育苗し、一方では市販種子を同様の条件で育苗したものと比較し、最終生存(開花)率を調べたところ、市販種子は全播種数に対して0〜15%程度の生存(開花)率を与えたのに対して、他殖交配種子は約15〜28%と有意な生存(開花)率を与え、結果として他殖交配種子を約15℃の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗すると暖地栽培での生存(開花)率を上げることができる。
【0043】
本発明のデルフィニウムの花色交配法において花色を決定するに当たって、デルフィニウムの花色と内生色素を分析し、横軸を萼片中の内性色素の含量比とし、縦軸に花色を示す色相角度として得た数式1
【0044】
【数1】

【0045】
(式中、CD/VDはデルフィニウム萼片の内生色素の比率を示し、Hmaxは花色である最大色相角を示し、Kは最大色相角の2分の1になる場合の内生色素の比率を定数として示す)
を用いると、効率よく花色を決定することが可能であることが判った。
【0046】
デルフィニウムの花色は、開花後時間と共に変化する。このときの色相角(h)の逆数を縦軸にとる。花色に関わる主要色素は青色花および淡青色花の場合、時間の経過と共にヴィオルデルフィン(violdelphin、VD)からシアノデルフィン(cyanodelphin、CD)へと変わり、また、紫色花および淡紫色花の場合、チューリパニン(tulipanin、TP)からビオルデルフィン(VD)へと変わる。この主要な内生色素の、分子を変化前の主要色素濃度、分母を変化後の主要色素濃度とし、これらの濃度比の逆数を横軸とする。すなわち、青色花および淡青色花の主要な内生色素の濃度比は、シアノデルフィン濃度÷ビオルデルフィン濃度で求めることができる。これを[CD/VD]で示す。一方、紫色花および淡紫色花の主要な内生色素の濃度比は、ヴィオルデルフィン濃度÷チューリパニン濃度で求めることができる。これを[VD/TP]で示す。
縦軸に色相角(h)の逆数(マイナス値)をとり、横軸に主要な内生色素の濃度比の逆数をとると、この二つの関係を回帰直線式で示すことができ、したがって、数式1または数式2でこの関係を表すことができる。
【0047】
【数1】

【0048】
(式中、CD/VDはデルフィニウム萼片の主要内生色素の比率を示し、CDはシアノデルフィン、VDはヴィオルデルフィンであり、Hmaxは花色である最大色相角を示し、Kは最大色相角の2分の1になる場合の内生色素の比率を定数として示す)
【0049】
【数2】

【0050】
この数式から最大色相角(Hmax)を得ることができる。最大色相角(Hmax)とは、デルフィニウムが開花にともない変化する花色が、開花後花色が熟して安定するときの、花色のCIELab表色系図上の色相角度である。また、数式1および数式2中Kとするものは濃度比定数を示し、これは最大色相角(Hmax)が2分の1になるときの萼片の主要な内生色素の濃度比である。これらの数式1および数式2からデルフィニウムの花色を決定する方法を見出した。
【0051】
青色系デルフィニウム(青色、淡青色、紫色、淡紫色のデルフィニウム)の萼片(花)を採集し、酢酸とメタノールを1対1で混合した溶液(50%酢酸−メタノール)でアントシアニン色素を抽出した。抽出液を綿栓でろ過した後、溶媒を減圧下、ロータリーエバポレーターで留去した。抽出残渣を5%酢酸水溶液に溶解し、オープンカラムクロマトグラフィーに付した。オープンカラムクロマトグラフィーの条件は、固定相にエムシーアイゲルCHP−20P(MCI gel CHP−20P、三菱化学株式会社、Mitsubishi Chemical Corporation)、セファデックスLH−20(Sephadex LH−20、ファルマシアバイオテック株式会社、Pharmacia Biotech)、クロマトレックスODS(Chromatorex ODS、富士シリシア化学株式会社、Fuji Silysia Chemical LTD.)を用い、移動層にA液として5%酢酸水溶液、B液として5%酢酸−メタノールを用い、A液からB液の含量を増やすことによって各種クロマトグラフィーを行った。また、固定相にセファデックスLH−20(Sephadex LH−20、ファルマシアファインケミカル株式会社)を用い、移動層にA液として5%酢酸水溶液、C液として5%酢酸−アセトンを用い、C液からA液の含量を増やすことによってクロマトグラフィーを行った。これらのオープンカラムクロマトグラフィーを繰り返し行うことによって、式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素と式(II)で示すことのできるアントシアニン色素を単離できることを見出した。
【0052】
前記したデルフィニウムを、15℃±1℃の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗することによって、デルフィニウムを効率よく(季節咲き)生育すること、特に暖地において効率よく(季節咲き)生育することが可能となった。
【0053】
自殖系淡紫色花パシフィックジャイアントの萼片アントシアニンを調査したところ、新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素とすることを見出した。青色花パシフィックジャイアントと淡紫色花パシフィックジャイアントを他殖交配することにより、新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含む紫色花パシフィックジャイアントおよび淡紫色花パシフィックジャイアントを得ることができる。青色花パシフィックジャイアントと白色花パシフィックジャイアントを他殖交配することにより、アントシアニン色素(II)を主要色素として含む紫色花パシフィックジャイアントを得ることができる。淡青色花パシフィックジャイアントと白色花パシフィックジャイアントを他殖交配することにより、新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含む淡紫色花パシフィックジャイアントを得ることができることを見出した。
【0054】
淡青色花ブルースプリングスと淡紫色花ブルースプリングスを他殖交配することにより、外側の萼片が新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含むブルースプリングスの二色花(ビカラー・ライトブルー、B淡青)を得ることができる。淡青色花ブルースプリングスと白色花ブルースプリングスを他殖交配することにより、内側の萼片が新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含むブルースプリングスの二色花(ビカラー・ブルー、B青)を得ることができる。淡紫色花パシフィックジャイアントと赤桃色花ブルースプリングスを他殖交配することにより、新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含む紫色花デルフィニウムの雑種品種を得ることができる。白色花パシフィックジャイアントと青色花ブルースプリングスを他殖交配することにより、新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含む淡紫色花デルフィニウムの雑種品種を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0055】
【化1】

【0056】
【化2】

【0057】
本発明のデルフィニウムの花色交配法は、全色系花色をもつデルフィニウムを花粉親または種子親として他殖交配し、特定の花色を後代に遺伝させる方法である。その方法には、デルフィニウムを花粉親または種子親として交配し、二色系の花色を後代に遺伝させる方法を含む。
【0058】
本発明は、前記したデルフィニウムの花色交配法により作出したデルフィニウムを15℃±1℃(14℃〜16℃)の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗することを特徴とするデルフィニウムの栽培方法を含む。
【0059】
本発明のデルフィニウムの花色交配法は、横軸を萼片中の内性色素の含量比[CD/VD]とし、縦軸に花色を示す色相角度として得た数式1、
【0060】
【数1】

【0061】
(式中、CD/VDはデルフィニウム萼片の主要内生色素の比率を示し、CDはシアノデルフィン、VDはヴィオルデルフィンであり、Hmaxは花色である最大色相角を示し、Kは最大色相角の2分の1になる場合の内生色素の比率を定数として示す)
を適用し、デルフィニウムの花色を決定する方法を含む。
【0062】
本発明のデルフィニウムの花色交配法は、前記数式1において、[CD/VD]を[VD/TP]
(式中、、[VD/TP]は、紫色花および淡紫色花の主要な内生色素の濃度比であって、ヴィオルデルフィン濃度VD÷チューリパニン濃度TPで求めることができる値である。)で示される数式を適用し、デルフィニウムの花色を決定する方法を含む。
【0063】
本発明のデルフィニウムの花色交配法は、デルフィニウムの花色を作出する花色交配の組み合わせを決定するものであって、花粉親または種子親の配偶子を行または列とする組合せ早見表を用いて、花色を想定することを特徴とする。
【0064】
本発明のデルフィニウムの花色交配法により作出されたデルフィニウムの花色が、下記の式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素で発現することを特徴とするものを含む。
【0065】
【化1】

【0066】
新規アントシアニン色素は、3−O−(6−O−(α−L−rhamnosyl)−β−D−glucopyranosyl)−7−O−(3−O−β−D−glucopyranosyl−6−O−(4−O−(6−O−p−hydroxybenzoyl−β−D−glucopyranosyl)−p−hydroxybenzoyl)−β−D−glucopyranosyl)−delphinidin(I)で示される。
【0067】
本発明のデルフィニウムの花色交配法により作出されたデルフィニウムの花色が、上記の式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素および/または下記の式(II)で示すことのできるアントシアニン色素で発現することを特徴とするものを含む。
【0068】
【化2】

【0069】
アントシアニン色素は、3−O−(6−O−(α−L−rhamnosyl)−β−D−glucopyranosyl)−7−O−(3−O−(3−O−(β−D−glucopyranosyl)−β−D−glucopyranosyl)−6−O−(4−O−(6−O−p−hydroxybenzoyl−β−D−glucopyranosyl)−p−hydroxybenzoyl)−β−D−glucopyranosyl)−delphinidin(II)で示される。
【0070】
本発明により、前記した新規アントシアニン色素(I)および/またはアントシアニン色素(II)をデルフィニウム萼片より単離、精製することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
【0072】
[約15℃の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗する栽培方法]
パシフィックジャイアントを1999年春に他殖交配し、F種子を得た。2000年8月中旬にF種子をシャーレ内に播種した。シャーレ内は予め脱脂綿を引き、種が半分沈む程度に水を吸わせた。種を播いたシャーレを約15℃の冷蔵庫に約7日〜10日暗黒条件下で発芽させた。発芽したものから順次セルトレイに移植した。移植したセルトレイを温室内で25〜32℃の高温度で育苗し、11月上旬にビニルハウスへ定植した。生育促進のため、12月下旬から暖房による加温をはじめ、ビニルハウス内の温度を約15℃に保温した。花芽分化促進のため、2001年1月中旬から4月下旬の開花期まで、電照による長日処理を行った。電照の条件は以下の通りである。畝からの高さ1.1m、9平米の広さに100ワット白熱球1個を割り当て、午後9時〜午前3時の6時間の間、照明した。シャーレ内に播種した種の数を数え、2001年4月〜5月に開花に至った株数を数え、生存(開花)率として算出した。
比較のため自殖した種子を同様に、シャーレ内に播種し、育苗して生存(開花)率を求めた。
この栽培方法を、2001年8月と2002年8月の合計3回繰り返し行い、2001年〜2003年に開花した株数を調査した。
一方、比較のため2001年8月と2002年8月の合計2回、購入種子をシャーレ内に播種し、前記した方法にてデルフィニウム市販種子を育苗して生存(開花)率を求めた。
さらに、ブルースプリングスについても同様の試験を行った。
さらにまた、パシフィックジャイアントとブルースプリングスを他殖交配し、F種子を得たものについても同様に試験調査を行った。その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1から明らかなように、他殖交配し得られたFからの実生苗がもっともよく生存したことがわかる。
実施例2
【0075】
パシフィックジャイアントを花粉親または種子親として他殖交配しF種子を得た。F種子を前記した約15℃の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗し、実生苗を栽培し、開花させ、後代の花色を調査した。その結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示すように、青色花と淡青色花を花粉親または種子親として他殖交配することにより青色花8個体と紫色花1個体を得た。青色花と白色花を他殖交配することにより半数以上の確率で白色花15個体を得た。青色花と紫色花を他殖交配することにより紫色花12個体、青色花1個体、二色花(ビカラー・ブルー)1個体を得た。紫色花と淡紫色花を他殖交配することにより紫色花9個体を得た。淡紫色花と白色花を他殖交配することにより淡紫色花10個体を得た。表2中カッコ内に示す値は、他殖交配で得られた各花色系統を総個体数で割った値の百分率を示す。
【0078】
表2に示すように、淡青色花と淡紫色花を花粉親または種子親として他殖交配することによりビカラー・ブルー1個体、ビカラー・ライトブルー7個体、白色花1個体を得た。淡青色花と白色花を他殖交配することによりビカラー・ライトブルー4個体と淡青色花4個体を得た。この早見表2より、後代に分離する花色を速やかに知ることができる。
実施例3
【0079】
ブルースプリングスを花粉親または種子親として他殖交配しF種子を得た。F種子を前記した約15℃の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗し、実生苗を栽培し、開花させ、後代の花色を調査した。その結果を表3に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
表3に示すように、青色花と淡紫色花を花粉親または種子親として他殖交配することにより青色花5個体と淡青色花7個体、紫色花1個体、ビカラー・ブルー2個体、ビカラー・ライトブルー8個体を得た。淡青色花と白色花を他殖交配することにより白色花11個体、淡紫色花3個体、淡青色花1個体、ビカラー・ライトブルー17個体を得た。紫色花と淡紫色花を花粉親または種子親として他殖交配することにより、紫色花6個体とビカラー・ブルー1個体を得た。淡紫色花と桃色花を他殖交配することにより紫色花11個体、淡紫色花2個体、ビカラー・ブルー1個体を得た。桃色花と赤桃色花を他殖交配することにより赤桃色花5個体を得た。表3中カッコ内に示す値は、他殖交配で得られた各花色系統を総個体数で割った値の百分率を示す。
【0082】
表3に示すように、青色花と赤桃色花を花粉親または種子親として他殖交配することにより、主としてビカラー・ブルー33個体を得た。淡青色花と淡紫色花を他殖交配することにより淡紫色花9個体とビカラー・ライトブルー13個体を得た。淡青色花と赤桃色花を他殖交配することによりビカラー・ブルー5個体を得た。青色花と紫色花を他殖交配することにより青色花2個体、ビカラー・ブルー6個体、ビカラー・ライトブルー2個体を得た。青色花と白色花を他殖交配することにより、淡青色花1個体、白色花1個体、ビカラー・ブルー3個体、ビカラー・ライトブルー8個体を得た。この早見表3より、後代に分離する花色を速やかに知ることができる。
実施例4
【0083】
パシフィックジャイアントとブルースプリングスを花粉親または種子親として他殖交配しF種子を得た。F種子を前記した約15℃の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗し、実生苗を栽培し、開花させ、後代の花色を調査した。その結果を表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
表4に示すように、パシフィックジャイアントが淡青色花であって、ブルースプリングスが赤桃色花であった場合、主としてビカラー・ブルー35個体を得た。この早見表4より、後代に分離する花色を速やかに知ることができる。表4中カッコ内に示す値は、他殖交配で得られた各花色系統を総個体数で割った値の百分率を示す。
実施例5
【0086】
青色系の二色花(ビカラー・ブルー、B青)と淡青色系の二色花(ビカラー・ライトブルー、B淡青)の花色を文献記載の方法で測色した(非特許文献11および12)。その結果を図1に示す。また、青色系の二色花(ビカラー・ブルー、B青)と淡青色系の二色花(ビカラー・ライトブルー、B淡青)の写真を図2および図3にそれぞれ示す。萼片の内側と外側の花色が明らかに異なることがわかる。萼片の内側の花色は、青色系の二色花(ビカラー・ブルー、B青)と淡青色系の二色花(ビカラー・ライトブルー、B淡青)はそれぞれ紫色〜淡紫色に分布し、回帰直線式(y=−0.627x−6.393)では相関係数0.842であり有意な関係があることがわかる。また、萼片の外側の花色は、青色系の二色花(ビカラー・ブルー、B青)と淡青色系の二色花(ビカラー・ライトブルー、B淡青)は図上それぞれ青紫色〜青色に分布し、回帰直線式(y=−0.721x−17.59)では相関係数0.904であり有意な関係があることがわかる。
実施例6
【0087】
青色系の二色花(ビカラー・ブルー、B青)と淡青色系の二色花(ビカラー・ライトブルー、B淡青)の内側と外側の萼片の色素組成を文献記載の方法で測定した(非特許文献11および12)。その結果を表5に示す。
【0088】
【表5】

【0089】
表5から、ビカラーの内側と外側の萼片の色素組成は同様であることがわかる。表5中の内生色素として、1はビスデアシルプラティコニン(bisdeacylplatyconin)、2はチューリパニン(tulipanin)、3はヴィオルデルフィン(violdelphin)、4はシアノデルフィン(cyanodelphin)を示す。表5中の内生色素として、cは未同定色素であるが、高速液体クロマトグラフィーによる分離は良好であった。色素aとbは、それぞれ式(I)で示すことのできる新規アントシアニンと式(II)で示すことのできるアントシアニンである。各色素の保持時間(retention time)は、1(9.1分)、2(15.9分)、3(31.6分)、色素a(I)(34.2分)、色素b(II)(34.7分)、色素c(51.6分)、4(58.5分)であった。
実施例7
【0090】
開花後の花色と萼片の内生色素を調査した。調査した時間は、開花直後から、開花後3、6、9、12、18、24、36、48、60、72、84、96、120時間目を調査した。デルフィニウム・パシフィックジャイアント(紫色)とブルーミラー(青色)の色相角度(h)の経時的(時間的)変化を図4に示す。パシフィックジャイアント(紫色)については、萼片の主要な内生色素であるチューリッパニン(tulipanin、TP)とヴィオルデルフィン(violdelphin、VD)の比率を横軸にとり、ブルーミラー(青色)については、萼片の主要な内生色素であるヴィオルデルフィン(violdelphin、VD)とシアノデルフィン(cyanodelphin、CD)の比率を横軸にとり、縦軸に色相角度(h)をとり、それらの関係を図5に示す。また、図5の縦軸と横軸にプロットしたものをそれぞれ逆数としてプロットしたものを図6に示した。
【0091】
図6から数式1と数式2を導いた。この結果から、萼片の主要な内生色素の比率と花色には数式1と数式2に示す関係があることがわかり、内生色素の比率から花色を決定できることがわかる。
【0092】
【数1】

【0093】
(式中、CD/VDはデルフィニウム萼片の主要内生色素の比率を示し、CDはシアノデルフィン、VDはヴィオルデルフィンであり、Hmaxは花色である最大色相角を示し、Kは最大色相角の2分の1になる場合の内生色素の比率を定数として示す)
【0094】
【数2】

【0095】
数式1および数式2の関係をもとに、ブルーミラー(青色)、パシフィックジャイアント(青色)、パシフィックジャイアント(淡青色)、パシフィックジャイアント(紫色)、パシフィックジャイアント(淡紫色)の開花後の花色と萼片の内生色素を調査した。調査した時間は、開花直後から、開花後3、6、9、12、18、24、36、48、60、72、84、96、120時間目を調査し、最大色相角(Hmax)とKを算出した。その結果を表6に示す。
【0096】
【表6】

【0097】
表6から、萼片の主要な内生色素の濃度比により最大色相角(Hmax)、すなわち成熟花序の花色を知ることができる。
実施例8
【0098】
開花後の萼片のpHを調査した。調査した時間は、開花直後から、開花後3、6、9、12、18、24、36、48、60、72、84、96、120時間目を調査した。その結果を表7に示す。
【0099】
【表7】

【0100】
表7から、萼片のpHは変化しないことがわかる。
実施例9
【0101】
[自殖系種子を約15℃の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗する栽培方法と自殖系種子を6月直播栽培で育苗する栽培方法との比較]
ベラドンナベラモーサム、ベラドンナカサブランカ、ブルーミラー、パシフィックジャイアント、ブルースプリングス、マジックフォンテンの購入種子を1999年春に自殖し、種子を得た。1999年8月中旬に自殖種子をシャーレ内に播種した。シャーレ内は予め脱脂綿を引き、種が半分沈む程度に水を吸わせた。種を播いたシャーレを約15℃の冷蔵庫に約7日〜10日暗黒条件下で発芽させた。発芽したものから順次セルトレイに移植した。移植したセルトレイを温室内で25〜32℃の高温度で育苗し、11月上旬にビニルハウスへ定植した。生育促進のため、12月下旬から暖房による加温をはじめ、ビニルハウス内の温度を約15℃に保温した。花芽分化促進のため、2000年1月中旬から4月下旬の開花期まで、電照による長日処理を行った。電照の条件は以下の通りである。畝からの高さ1.1m、9平米の広さに100ワット白熱球1個を割り当て、午後9時〜午前3時の6時間の間、照明した。シャーレ内に播種した種の数を数え、2000年4月〜5月に開花に至った株数を数え、生存(開花)率として算出した。この栽培方法を2000年、2001年に同様に繰り返し、2001年および2002年4月〜5月に開花に至った株数を数え、シャーレ播き種子の生存(開花)率として算出した(表8)。
【0102】
一方、比較のため自殖種子を1999年6月にセルトレイに直接播種し、以下前記した方法と同様に、温室内で25〜32℃の高温度で育苗し、11月上旬にビニルハウスへ定植した。生育促進のため、12月下旬から暖房による加温をはじめ、ビニルハウス内の温度を約15℃に保温した。花芽分化促進のため、2000年1月中旬から4月下旬の開花期まで、電照による長日処理を行った。電照の条件は以下の通りである。畝からの高さ1.1m、9平米の広さに100ワット白熱球1個を割り当て、午後9時〜午前3時の6時間の間、照明した。シャーレ内に播種した種の数を数え、2000年4月〜5月に開花に至った株数を数え、生存(開花)率として算出した。この栽培を2000年、2001年に同様に繰り返し、2001年および2002年4月〜5月に開花に至った株数を数え、直播き種子の生存(開花)率として算出した(表8)。
【0103】
【表8】

【0104】
表8の結果、各種デルフィニウムの育苗、栽培について、シャーレ内で播種したものの方が生存率が高いことが分かる。
実施例10
【0105】
ハイブリッド種子と購入種子との生存率の比較を行った。ハイブリッド種子として、パシフィックジャイアントを他殖交配した9系統を用いた。栽培は共に、前記したシャーレ内で播種し、育苗し、生存(開花)率として算出した。その結果を図7に示す。ハイブリッド種子は9系統の平均値と標準偏差で示し、購入種子は5系統の平均値と標準偏差で示す。この結果、ハイブリッド種子が約22%の生存率を示したのに対し、購入種子は約5%程度に留まり、ハイブリッド種子が、より生存することが分かる(図7)。
実施例11
【0106】
[青色系デルフィニウムの萼片から色素(I)および(II)の抽出と単離、精製方法]
青色系デルフィニウム(青色、淡青色、紫色、淡紫色のデルフィニウム)の萼片(花)を採集した。生萼片の重量は11.6kgであった。これに酢酸とメタノールを1対1で混合した溶液(50%酢酸−メタノール)を加え、アントシアニン色素を抽出した。抽出液を綿栓でろ過した後、溶媒を減圧下、ロータリーエバポレーターで留去した。抽出残渣を5%酢酸水溶液に溶解し、オープンカラムクロマトグラフィーに付した。オープンカラムクロマトグラフィーの条件は、固定相にエムシーアイゲルCHP−20P(MCI gel CHP−20P、三菱化学株式会社、Mitsubishi Chemical Corporation)、セファデックスLH−20(Sephadex LH−20、ファルマシアバイオテック株式会社、Pharmacia Biotech)、クロマトレックスODS(Chromatorex ODS、富士シリシア化学株式会社、Fuji Silysia Chemical LTD.)を用い、移動層にA液として5%酢酸水溶液、B液として5%酢酸−メタノールを用い、A液からB液の含量を増やすことによって各種クロマトグラフィーを行った。また、固定相にセファデックスLH−20(Sephadex LH−20、ファルマシアファインケミカル株式会社)を用い、移動層にA液として5%酢酸水溶液、C液として5%酢酸−アセトン(アセトンに酢酸を5%量加えたもの)を用い、C液からA液の含量を増やすことによってクロマトグラフィーを行った。これらのオープンカラムクロマトグラフィーを繰り返し行うことによって、式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素(29.9mg)と式(II)で示すことのできるアントシアニン色素(62.4mg)を単離した。両者とも、紫色の粉末であった。加えて、キキョウ属植物(Campanula)より単離、構造決定された既知のアントシアニン色素であるモノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)(32.8mg)を単離した(Brandt、K.、Phyto chem.33:209−212、1993)。モノデアシルカンパニンがデルフィニウムの萼片(花)に含まれていることが初めて分かる。
【0107】
単離した前記の化合物の純度を検定するため、薄層クロマトグラフィー(Thin Layer Chromatography)を行った。用いた薄層は、アルミプレートに予めシリカゲルをコーティングしたもの(メルク社製、Merck、キーゼルゲル 60 F254アルミニウムプレート、Kieselgel 60 F254 aluminium plate)を用いた。薄層クロマトグラフィーの展開溶媒について、非特許文献12に記載の展開溶媒を用いた。この方法のように、展開溶媒のA液として、ベンゼン:ギ酸エチル:ギ酸の1:7:1の比率で混合した溶液と、B液として、ギ酸エチル:ギ酸:水の3:1:1の比率で混合した溶液を用いた。これらの溶液を、A液:B液の1:1の比率で混合した展開溶媒で多重展開(2回展開)した。その結果を図8に示す。また、A液:B液の1:3の比率で混合した展開溶媒で1回展開した。その結果を図9に示す。式(I)で示すことのできるアントシアニン色素と式(II)および(III)で示すことのできるアントシアニン色素が単一の色素であることが分かる。この図8、Yの結果より、非特許文献12に記載の展開溶媒であるA液とB液の、比率を変えることと、加えて、多重展開することによっても、これらが単一の色素であること知ることができる。図8、Y中、左から1はビスデアシルプラティコニン(bisdeacylplatyconin)、2はチューリパニン(tulipanin)、3はヴィオルデルフィン(violdelphin)、4はシアノデルフィン(cyanodelphin)を示す。式(III)で示すことのできるアントシアニン色素は、モノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)である。薄層クロマトグラフィーによるRfの値(色素が薄層を移動した距離に対して、展開溶媒が薄層を移動した距離で割った値)は、図8中、1(0.265)、2(0.645)、3(0.238)、4(0.110)、(I)(0.110)、(II)(0.034)、(III)(0.068)である。また、図9中では、1(0.373)、2(0.573)、3(0.403)、4(0.341)、(I)(0.268)、(II)(0.179)、(III)(0.202)である。
実施例12
【0108】
単離・精製した式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素のプロトン核磁気共鳴スペクトル(H−Nuclear magnetic resonance[NMR]spectrum)を測定した。測定装置は、JNM−ECA600型核磁気共鳴装置(JEOL JNM−ECA600 KS、日本電子データム株式会社、JEOL DATUM LTD.)を用いた。その結果は次の通りである。H−NMR(600MHz,CDOD+CFCOOD,9:1)δ:1.29(3H,d,J=6.1Hz,rha−6−CH),3.50−4.00(sugar−H),3.70(1H,m,glc[III]−H−6b),3.71(1H,m,3−O−glc−H−6b),3.90(1H,m,glc[I]−H−3),3.94(1H,m,glc[II]−H−6b),3.96(1H,m,glc[III]−H−6a),4.18(1H,br d,J=10.3Hz,3−O−glc−H−6a),4.26(1H,m,glc[I]−H−6b),4.28(1H,d,J=7.4Hz,glc[II]−H−1),4.61(1H,br d,J=9.6Hz,glc[II]−H−6a),4.71(1H,d,J=7.5Hz,glc[III]−H−1),4.88(1H,s,rha−H−1),5.14(1H,br d,J=11.6Hz,glc[I]−H−6a),5.38(1H,d,J=7.5Hz,glc[I]−H−1),5.45(1H,d,J=6.1Hz,3−O−glc−H−1),6.43(2H,d,J=8.2Hz,p−HBA[II]−H−3’,5’),6.64(1H,s,H−6),6.80(2H,d,J=8.9Hz,p−HBA[I]−H−3’,5’),7.14(1H,s,H−8),7.35(2H,d,J=8.1Hz,p−HBA[II]−H−2’,6’),7.79(2H,s,H−2’,6’),7.89(2H,d,J=8.2Hz,p−HBA[I]−H−2’,6’),8.61(1H,s,H−4).
【0109】
単離・精製した式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素の13C−核磁気共鳴スペクトル(13C−Nuclear magnetic resonance[NMR]spectrum)を測定した。測定装置は、JNM−ECA600型核磁気共鳴装置(JEOL JNM−ECA600KS、日本電子データム株式会社、JEOL DATUM LTD.)を用いた。その結果は次の通りである。13C−NMR(600MHz,CDOD+CFCOOD,9:1)δ:18.1(rha−C−6),62.7(glc[III]−C−6),66.0(glc[II]−C−6),66.3(glc[I]−C−6),68.0(3−O−glc−C−6),69.9(rha−C−5),71.0,71.4,71.7,71.9,72.7,72.8,73.7,74.1,74.4,74.6,74.8,75.6,75.9,77.7,77.9,78.0,78.1,78.3,87.4(glc[I]−C−3),94.8(C−8),100.3(3−O−glc−C−1),100.8(glc[II]−C−1),102.0(rha−C−1),103.5(glc[I]−C−1),104.8(C−6),105.4(glc[III]−C−1),113.4(C−10),113.7(C−2’,6’),116.2(p−HBA[II]−C−3’,5’),116.4(C−1’),117.3(p−HBA[I]−C−3’,5’),121.6(p−HBA[II]−C−1’),125.0(p−HBA[I]−C−1’),132.3(p−HBA[I]−C−2’,6’),132.4(p−HBA[II]−C−2’,6’),133.9(C−4),146.7(C−4’),147.2(C−3),147.8(C−3’,5’),156.3(C−9),158.1(C−5),162.4(p−HBA[I]−C−4’),163.2(p−HBA[II]−C−4’),163.7(C−2),166.5(p−HBA[I]−COO),167.6(p−HBA[II]−COO),168.1(C−7).
【0110】
式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素(1.1mg)の紫外部吸収スペクトル(Ultra Violet spectrum)を測定した。測定には、島津製作所株式会社の分光機器(UV−visible recording spectrometer、UV−2100)を用いた。その結果は次の通りである。測定溶媒はメタノールである。UV λ MeOH/max nm(log e):378s(3.11)、631(3.44)、705(3.30);+0.01%HCl:546(4.37);+AlCl:585(4.44)。
【0111】
高分解能質量分析計(positive−ion HR FAB−MS)を用いて式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素の質量を測定した。理論値は、C596935:1337.3620であり、測定値はm/z:1337.3934[M]であり、理論値と測定値が良く一致した。
【0112】
単離・精製した式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素のプロトン核磁気共鳴スペクトル(H−Nuclear magnetic resonance[NMR]spectrum)を測定した。核磁気共鳴スペクトルで、異核化学シフト相関(HMQC、heteronuclear multiple quantum coherence spectrum)の測定と、同核シフト相関(H−H TOCOSY、H−H total correlation spectroscopy)の測定を行った。測定装置は、JNM−ECA600型核磁気共鳴装置(JEOL JNM−ECA600KS、日本電子データム株式会社、JEOL DATUM LTD.)を用いた。その結果を図10に示す。図中の数字はプロトン(H)に対応する13炭素(13C)の帰属である。また、曲線の両側に矢印のついたものはH−H TOCOSYの相関関係にあることを示す。
【0113】
単離・精製した式(I)で示すことのできる新規アントシアニン色素のプロトン核磁気共鳴スペクトル(H−Nuclear magnetic resonance[NMR]spectrum)を測定した。核磁気共鳴スペクトルでプロトン(H)に対応する13炭素(13C)の遠距離相関(HMBC、heteronuclear multiple bond coherence spectrum)の測定を行った。測定装置は、JNM−ECA600型核磁気共鳴装置(JEOL JNM−ECA600KS、日本電子データム株式会社、JEOL DATUM LTD.)を用いた。その結果を図11に示す。図11中の数字は13炭素(13C)の帰属である。また、点曲線の両側に矢印のついたものはH−13C HMBCの相関関係にあることを示す。これらの結果から、新規アントシアニン色素の化学構造が式(I)であることが分かる。
【0114】
【化1】

実施例13
【0115】
単離・精製した式(II)で示すことのできるアントシアニン色素のプロトン核磁気共鳴スペクトル(H−Nuclear magnetic resonance[NMR]spectrum)を測定した。測定装置は、JNM−ECA600型核磁気共鳴装置(JEOL JNM−ECA600KS、日本電子データム株式会社、JEOL DATUM LTD.)を用いた。その結果は次の通りである。H−NMR(600MHz,CDOD+CFCOOD,9:1)δ:1.28(3H,d,J=6.1Hz,rha−6−CH),3.10−4.20(sugar−H),3.96(1H,m,glc[II]−H−6b),4.17(1H,br d,J=10.3Hz,3−O−glc−H−6a),4.27(1H,m,glc[I]−H−6b),4.58(1H,br s,glc[II]−H−1),4.59(1H,br s,glc[III]−H−1),4.62(1H,m,glc[II]−H−6a),4.78(1H,d,J=7.5Hz,glc[II]−H−1),4.86(1H,s,rha−H−1),5.39(1H,d,J=7.5Hz,3−O−glc−H−1),5.44(1H,br s,glc[I]−H−1),6.42(2H,d,J=8.2Hz,p−HBA[II]−H−3’,5’),6.62(1H,s,H−6),6.79(2H,d,J=8.2Hz,p−HBA[I]−H−3’,5’),7.09(1H,s,H−8),7.34(2H,d,J=8.2Hz,p−HBA[II]−H−2’,6’),7.75(2H,s,H−2’,6’),7.86(2H,d,J=8.2Hz,p−HBA[I]−H−2’,6’),8.58(1H,s,H−4).
【0116】
単離・精製した式(II)で示すことのできるアントシアニン色素の13C−核磁気共鳴スペクトル(13C−Nuclear magnetic resonance[NMR]spectrum)を測定した。測定装置は、JNM−ECA600型核磁気共鳴装置(JEOL JNM−ECA600KS、日本電子データム株式会社、JEOL DATUM LTD.)を用いた。その結果は次の通りである。13C−NMR(600MHz,CDOD+CFCOOD,9:1)δ:18.0(rha−C−6),62.6,62.7(glc[III,IV]−C−6),65.8(glc[II]−C−6),66.1(glc[I]−C−6),67.9(3−O−glc−C−6),69.8(rha−C−5),70.1,70.7,71.3,71.6,71.8,72.6,72.7,73.7,74.0,74.3,74.5,74.7,74.9,75.5,75.8,77.6,77.8(x2),77.9,78.0,78.1,87.0(glc[III]−C−3),87.6(glc[I]−C−3),94.6(C−8),100.2(glc[I]−C−1),100.6(glc[II]−C−1),101.9(rha−C−1,glc[IV]−C−1),103.3(3−O−glc−C−1),104.8(C−6),105.2(glc[III]−C−1),113.7(C−10,C−2’,6’),116.1(p−HBA[II]−C−3’,5’),116.3(C−1’),117.2(p−HBA[I]−C−3’,5’),121.5(p−HBA[II]−C−1’),124.8(p−HBA[I]−C−1’),132.2(p−HBA[II]−C−2’,6’),132.3(p−HBA[I]−C−2’,6’),133.0(C−4),146.6(C−4’),147.1(C−3),147.7(C−3’,5’),156.1(C−9),158.0(C−5),162.2(p−HBA[II]−C−4’),163.1(p−HBA[I]−C−4’),163.4(C−2),167.0(C−7),167.4(p−HBA[II]−COO),167.5(p−HBA[I]−COO).
【0117】
式(II)で示すことのできるアントシアニン色素(1.2mg)の紫外部吸収スペクトル(Ultra Violet spectrum)を測定した。測定には、島津製作所株式会社の分光機器(UV−visible recording spectrometer、UV−2100)を用いた。その結果は次の通りである。測定溶媒はメタノールである。UV λ MeOH/max nm(log e):577(2.79)、614(2.75);+0.01%HCl:546(4.62);+AlCl:583(4.75)。
【0118】
高分解能質量分析計(positive−ion HR FAB−MS)を用いて式(II)で示すことのできるアントシアニン色素の質量を測定した。理論値は、C657940:1499.4148であり、測定値はm/z:1499.4281[M]であり、理論値と測定値が良く一致した。
【0119】
これらの結果から、式(II)で示すことのできるアントシアニン色素の化学構造は、非特許文献7に記載の、シアノデルフィンを部分加水分解して得られたビスデアシルシアノデルフィン(bisdeacylcyanodelphin)と同一であることが分かる。この結果から、式(II)で示すことのできるアントシアニン色素が誘導体または合成品としてではなく、天然色素としてデルフィニウム萼片に含まれていることが初めて分かる。
【0120】
【化2】

実施例14
【0121】
単離・精製した式(III)で示すことのできるモノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)のプロトン核磁気共鳴スペクトル(H−Nuclear magnetic resonance[NMR]spectrum)を測定した。測定装置は、JNM−ECA600型核磁気共鳴装置(JEOL JNM−ECA600KS、日本電子データム株式会社、JEOL DATUMLTD.)を用いた。その結果は次の通りである。H−NMR(600MHz,CDOD+CFCOOD,9:1)δ:1.32(3H,d,J=6.1Hz,rha−6−CH),3.30−4.00(sugar−H),4.02(1H,br s,glc[II]−H−1),4.20(1H,br d,J=9.6Hz,3−O−glc−H−6a),4.31(1H,br t,J=11.6Hz,glc[I]−H−6b),4.61(1H,br d,J=9.6Hz,glc[II]−H−6a),4.91(1H,d,J=7.5Hz,glc[III]−H−1),4.95(1H,s,rha−H−1),4.99(1H,br d,J=10.3Hz,glc[I]−H−6a),5.32(1H,d,J=8.2Hz,3−O−glc−H−1),5.39(1H,d,J=7.5Hz,glc[I]−H−1),6.57(2H,d,J=8.9Hz,p−HBA[II]−H−3’,5’),6.67(1H,s,H−6),6.87(2H,d,J=8.9Hz,p−HBA[I]−H−3’,5’),7.19(1H,s,H−8),7.35(2H,d,J=8.2Hz,p−HBA[II]−H−2’,6’),7.88(2H,s,H−2’,6’),8.00(2H,d,J=8.9Hz,p−HBA[I]−H−2’,6’),8.48(1H,s,H−4).
【0122】
単離・精製した式(III)で示すことのできるモノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)の13C−核磁気共鳴スペクトル(13C−Nuclear magnetic resonance[NMR]spectrum)を測定した。測定装置は、JNM−ECA600型核磁気共鳴装置(JEOL JNM−ECA600KS、日本電子データム株式会社、JEOL DATUM LTD.)を用いた。その結果は次の通りである。13C−NMR(600MHz,CDOD+CFCOOD,9:1)δ:18.1(rha−C−6),62.3(glc[III]−C−6),66.5(glc[I]−C−6),66.6(glc[II]−C−6),67.8(3−O−glc−C−6),69.8,71.3,71.5,71.8,72.4,72.8(x2),74.0,74.2,74.4,74.5,74.7,74.8,76.0,77.6,77.9,78.0,78.1,78.2,78.3,94.2(C−8),100.0(glc[III]−C−1),101.0(glc[I,II]−C−1),101.8(rha−C−1),103.8(3−O−glc−C−1),105.6(C−6),113.8(C−10,C−2’,6’),116.3(p−HBA[II]−C−3’,5’),117.4(p−HBA[I]−C−3’,5’),119.4(C−1’),124.0(p−HBA[II]−C−1’),125.2(p−HBA[I]−C−1’),131.8(p−HBA[II]−C−2’,6’),132.2(p−HBA[I]−C−2’,6’),134.0(C−4),147.0(C−4’),147.3(C−3),147.9(C−3’,5’),156.3(C−9),157.8(C−5),162.0(p−HBA[II]−C−4’),162.5(p−HBA[I]−C−4’),163.4(C−2),167.0(p−HBA[II]−COO),167.1(C−7),167.6(p−HBA[I]−COO).
【0123】
既知アントシアニン色素(2.2mg)であるモノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)の紫外部吸収スペクトル(Ultra Violet spectrum)を測定した。測定には、島津製作所株式会社の分光機器(UV−visible recording spectrometer、UV−2100)を用いた。その結果は次の通りである。測定溶媒はメタノールである。UV λ MeOH/max nm(log e):526(2.86)、571(2.99)、620(2.88);+0.01%HCl:549(4.49);+AlCl:584(4.54)。
【0124】
高分解能質量分析計(positive−ion HR FAB−MS)を用いて既知アントシアニン色素であるモノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)の質量を測定した。理論値は、C596935:1337.3620であり、測定値はm/z:1337.3732[M]であり、理論値と測定値が良く一致した。
【0125】
これらの結果から、デルフィニウム萼片より単離されたアントシアニン色素(III)の化学構造は、文献(Brandt、K.、Phytochem.33:209−212、1993)に記載の、既知アントシアニン色素であるモノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)と同一であることが分かる。この結果から、式(III)で示すことのできるモノデアシルカンパニンがデルフィニウム萼片に含まれていることが初めて分かる。
【0126】
【化3】

実施例15
【0127】
前記した自殖系種子をシャーレ内で播種、育苗し、生育させた淡紫色花パシフィックジャイアントの萼片アントシアニンを調べた。その結果を表9に示す。新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素とすることが分かる。これまで紫色花のデルフィニウムはヴィオルデルフィン(violdelphin)を優性色素とすると言われていたが、この結果から、ヴィオルデルフィン(violdelphin)よりも萼片中含量の多いアントシアニン色素(II)を含む個体があることが分かる。表9中(III)で示すアントシアニン色素は、モノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)の濃度を示す。表9中の内生色素として、1はビスデアシルプラティコニン(bisdeacylplatyconin)、2はチューリパニン(tulipanin)、3はヴィオルデルフィン(violdelphin)、4はシアノデルフィン(cyanodelphin)を示す。
【0128】
【表9】

実施例16
【0129】
青色花パシフィックジャイアントと淡紫色花パシフィックジャイアントを他殖交配し、前記したシャーレ内で播種、育苗し、生育させた交雑パシフィックジャイアントの紫色花および淡紫色花の萼片アントシアニンを文献記載の方法で調べた(非特許文献11および12)。その結果を表10に示す。新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含む紫色花パシフィックジャイアントおよび淡紫色花パシフィックジャイアントが、交配によって得られることが分かる。また、市販種子の紫色花パシフィックジャイアントと花色、萼片アントシアニンを調べた。その結果、市販種子の紫色花に比べて、他殖交配によって得ることのできる紫色花パシフィックジャイアント(8個体)は、比較して明るい花色を有し、やや青みを帯びることを特徴とすることが分かる(表10)。表10中(III)で示すアントシアニン色素は、モノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)の濃度を示す。モノデアシルカンパニンの保持時間は19.1分であった。表10中の内生色素として、1はビスデアシルプラティコニン(bisdeacylplatyconin)、2はチューリパニン(tulipanin)、3はヴィオルデルフィン(violdelphin)、4はシアノデルフィン(cyanodelphin)を示す。表中の数値は、個体数の平均値の値を示す。
【0130】
【表10】

実施例17
【0131】
青色花パシフィックジャイアントと白色花パシフィックジャイアントを他殖交配し、前記したシャーレ内で播種、育苗し、生育させた交雑パシフィックジャイアントの紫色花の萼片アントシアニンを文献記載の方法で調べた(非特許文献11および12)。その結果を表11に示す。アントシアニン色素(II)を主要色素として含む紫色花パシフィックジャイアントを得ることができることを見出した。表11中(III)で示すアントシアニン色素は、モノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)の濃度を示す。表11中の内生色素として、1はビスデアシルプラティコニン(bisdeacylplatyconin)、2はチューリパニン(tulipanin)、3はヴィオルデルフィン(violdelphin)、4はシアノデルフィン(cyanodelphin)を示す。
【0132】
【表11】

実施例18
【0133】
淡青色花パシフィックジャイアントと白色花パシフィックジャイアントを他殖交配し、前記したシャーレ内で播種、育苗し、生育させた交雑パシフィックジャイアントの紫色花の萼片アントシアニンを文献記載の方法で調べた(非特許文献11および12)。その結果を表12に示す。新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含む紫色花パシフィックジャイアントが他殖交配によって得られることが分かる。表12中(III)で示すアントシアニン色素は、モノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)の濃度を示す。表12中の内生色素として、1はビスデアシルプラティコニン(bisdeacylplatyconin)、2はチューリパニン(tulipanin)、3はヴィオルデルフィン(violdelphin)、4はシアノデルフィン(cyanodelphin)を示す。
【0134】
【表12】

実施例19
【0135】
淡青色花ブルースプリングスと淡紫色花ブルースプリングスを他殖交配し、前記したシャーレ内で播種、育苗し、生育させた交雑二色系パシフィックジャイアント(ビカラー・ライトブルー、B淡青)の萼片アントシアニンを文献記載の方法で調べた(非特許文献11および12)。その結果を表13に示す。外側の萼片が新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含むブルースプリングスの二色花(ビカラー・ライトブルー、B淡青)を得られることが分かる。表13中(III)で示すアントシアニン色素は、モノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)の濃度を示す。表13中の内生色素として、1はビスデアシルプラティコニン(bisdeacylplatyconin)、2はチューリパニン(tulipanin)、3はヴィオルデルフィン(violdelphin)、4はシアノデルフィン(cyanodelphin)を示す。
【0136】
【表13】

実施例20
【0137】
淡青色花ブルースプリングスと白色花ブルースプリングスを他殖交配し、前記したシャーレ内で播種、育苗し、生育させた交雑二色系パシフィックジャイアント(ビカラー・ブルー、B青)の萼片アントシアニンを文献記載の方法で調べた(非特許文献11および12)。その結果を表14に示す。内側の萼片が新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含む青色花ブルースプリングスの二色花(ビカラー・ブルー、B青)を得られることが分かる。表14中(III)で示すアントシアニン色素は、モノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)の濃度を示す。表14中の内生色素として、1はビスデアシルプラティコニン(bisdeacylplatyconin)、2はチューリパニン(tulipanin)、3はヴィオルデルフィン(violdelphin)、4はシアノデルフィン(cyanodelphin)を示す。
【0138】
【表14】

実施例21
【0139】
淡紫色花パシフィックジャイアントと赤桃色花ブルースプリングスを他殖交配し、前記したシャーレ内で播種、育苗し、生育させた交雑品種の萼片アントシアニンを文献記載の方法で調べた(非特許文献11および12)。その結果を表15に示す。新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含む紫色花デルフィニウムの雑種品種を得られることが分かる。表15中(III)で示すアントシアニン色素は、モノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)の濃度を示す。表15中の内生色素として、1はビスデアシルプラティコニン(bisdeacylplatyconin)、2はチューリパニン(tulipanin)、3はヴィオルデルフィン(violdelphin)、4はシアノデルフィン(cyanodelphin)を示す。
【0140】
【表15】

実施例22
【0141】
白色花パシフィックジャイアントと青色花ブルースプリングスを他殖交配し、前記したシャーレ内で播種、育苗し、生育させた交雑品種の萼片アントシアニンを文献記載の方法で調べた(非特許文献11および12)。その結果を表16に示す。新規アントシアニン色素(I)を含み、かつアントシアニン色素(II)を主要色素として含む淡紫色花デルフィニウムの雑種品種を得られることが分かる。表16中(III)で示すアントシアニン色素は、モノデアシルカンパニン(monodeacylcampanin)の濃度を示す。表16中の内生色素として、1はビスデアシルプラティコニン(bisdeacylplatyconin)、2はチューリパニン(tulipanin)、3はヴィオルデルフィン(violdelphin)、4はシアノデルフィン(cyanodelphin)を示す。
【表16】

【0142】
これらの実施例から、本発明のデルフィニウムの花色交配法が優れた、特定の花色を後代に遺伝させるデルフィニウム、二色系のデルフィニウム、新規アントシアニンで花色を発現するデルフィニウム、を作出する方法であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0143】
デルフィニウムは他殖性であり、自殖を繰り返すと自殖弱性を起こすことから自殖による種子の繁殖が困難であったが、デルフィニウムで他殖交配を行った場合にも、特定の花色を後代に遺伝させることができるようになった。
二色系デルフィニウムはメリクロン苗によってのみ継代と増殖が可能で、種子繁殖することはできなかったが、他殖交配により自由に二色系デルフィニウムの種子繁殖苗を得る事ができるようになり、たくさんの二色系デルフィニウムを市場に提供できるようになった。
【0144】
デルフィニウムは冷涼地または高冷地でよく生育し、暖地では高温のため栽培効率が悪く、暖地では促成栽培を行わなければ、デルフィニウムを効率よく栽培することができなかったが、他殖交配したデルフィニウムを約15℃の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗すると、暖地で効率よく(季節咲き)栽培することができるようになった。
デルフィニウムの萼片の花色と萼片中の内性色素との関係が不明であったが、萼片中の主要な内性色素の比率からデルフィニウムの花色を決定することができるようになった。
【0145】
本発明により、全色系デルフィニウムを他殖交配し特定の花色をもつ種子を得ることのできる方法を提供する。同時に、他殖交配により二色系の花色をもつデルフィニウムの種子を得ることのできる交配方法を提供する。また、前記デルフィニウムを暖地で効率よく季節咲きさせる栽培方法を提供する。
本発明により、種子繁殖による二色系の花色をもつデルフィニウムを提供できる。
本発明によりデルフィニウムより新規のアントシアニジン色素を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全色系花色をもつデルフィニウムを花粉親または種子親として他殖交配し、特定の花色を後代に遺伝させるデルフィニウムの花色交配法。
【請求項2】
前記特定の花色が、二色系の花色である請求項1に記載のデルフィニウムの花色交配法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のデルフィニウムの花色交配法により作出したデルフィニウムを15℃±1℃の温度下シャーレ内で発芽させる条件で育苗することを特徴とするデルフィニウムを栽培する方法。
【請求項4】
横軸を萼片中の内性色素の含量比[CV/VD]とし、縦軸に花色を示す色相角度として得た数式1
【数1】

(式中、CD/VDはデルフィニウム萼片の主要内生色素の比率を示し、CDはシアノデルフィン、VDはヴィオルデルフィンであり、Hmaxは花色である最大色相角を示し、Kは最大色相角の2分の1になる場合の内生色素の比率を定数として示す)
を適用し、デルフィニウムの花色を決定する方法。
【請求項5】
前記数式1において、[CD/VD]を[VD/TP]
(式中、[VD/TP]は、紫色花および淡紫色花の主要な内生色素の濃度比であって、ヴィオルデルフィン濃度VD÷チューリパニン濃度TPで求めることができる値である。)で示される数式を適用することを特徴とする請求項4に記載のデルフィニウムの花色を決定する方法。
【請求項6】
デルフィニウムの花色を作出する花色交配の組み合わせを決定するものであって、花粉親または種子親の配偶子を行または列とする組合せ早見表を用いて、花色を想定することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のデルフィニウムの花色交配法。
【請求項7】
前記デルフィニウムの花色を予め検出したアントシアニン色素に基づいて決定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のデルフィニウムの花色交配法。
【請求項8】
検出したアントシアニン色素が下記式(I):
【化1】

で示される新規のアントシアニン色素、3−O−(6−O−(α−L−rhamnosyl)−β−D−glucopyranosyl)−7−O−(3−O−β−D−glucopyranosyl−6−O−(4−O−(6−O−p−hydroxybenzoyl−β−D−glucopyranosyl)−p−hydroxybenzoyl)−β−D−glucopyranosyl)−delphinidinである請求項7に記載のデルフィニウムの花色交配法。
【請求項9】
検出したアントシアニン色素が下記の式(II):
【化2】

で示される3−O−(6−O−(α−L−rhamnosyl)−β−D−glucopyranosyl)−7−O−(3−O−(3−O−(β−D−glucopyranosyl)−β−D−glucopyranosyl)−6−O−(4−O−(6−O−p−hydroxybenzoyl−β−D−glucopyranosyl)−p−hydroxybenzoyl)−β−D−glucopyranosyl)−delphinidin(II)である請求項7に記載のデルフィニウムの花色交配法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載のデルフィニウムの花色交配法により得られたデルフィニウムの萼片からアントシアニン色素(I)、アントシアニン色素(II)または両者をデルフィニウム萼片より単離し、精製することを特徴とするアントシアニン色素の抽出方法。
【請求項11】
式(I):
【化1】

で示される新規化合物3−O−(6−O−(α−L−rhamnosyl)−β−D−glucopyranosyl)−7−O−(3−O−β−D−glucopyranosyl−6−O−(4−O−(6−O−p−hydroxybenzoyl−β−D−glucopyranosyl)−p−hydroxybenzoyl)−β−D−glucopyranosyl)−delphinidin。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【国際公開番号】WO2005/027622
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514008(P2005−514008)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011979
【国際出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(302068210)
【出願人】(302068209)
【Fターム(参考)】