説明

デング熱ウイルスの4種の血清型及び他のフラビウイルス属の予防的処置及び/又は治療的処置のための方法及びタンパク質

本発明は、医薬産業に関し、デング熱ウイルス1〜4型及び他のフラビウイルス属により起こる感染の予防及び/又は治療に使用できる広範囲の分子の開発に使用できる、Eタンパク質の表面の保存領域を示す。本発明はさらに、ワクチンとしての使用を意図した、デング熱ウイルスの4種の血清型及び他のフラビウイルス属の予防的処置及び/又は治療的処置のためのキメラタンパク質に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬産業の分野に関し、デング熱ウイルス血清型1〜4及び他のフラビウイルス属が原因である感染の予防及び/又は治療に用いる、広範囲な抗ウイルス分子を開発するために使用できる、Eタンパク質表面の保存領域について記載する。本発明は、デング熱ウイルスの4種の血清型及び、或いはまた他のフラビウイルス属の予防的処置及び/又は治療的処置のために有用な方法及びタンパク質について記載する。
【背景技術】
【0002】
デング熱ウイルス(DV)複合体はフラビウイルス科に属し、遺伝的及び抗原的に関連する4種の異なるウイルス又は血清型(DV1〜DV4)からなる。DVは、蚊、おもにネッタイシマカ(Aedes aegypti)を介して人に伝染する。感染は様々な臨床症状を起こし、無症状及び未分化型熱性症状などの良性症状から、デング出血熱(DHF)及び生命にかかわるデング熱ショック症候群(DSS)のようなより重篤な症状にまで及ぶ。より重篤な臨床症状は、通常2つの異なる血清型による連続感染を伴い(Halstead,S.B.「デング熱ウイルスの中和及び抗体依存性増強(Neutralization and antibody−dependent enhancement of dengue viruses」)Adv.Virus Res.60:421−67、421−467、2003、Hammon WMc.「フィリピン及びタイにおける小児の新型出血熱(New haemorragic fever in children in the Philippines and Thailand)」Trans Assoc Physicians 1960;73:140−155)、この所見は疫学的研究により裏付けられている(Kourl GP、Guzman MG、Bravo JR.「キューバのデング出血熱の解明2、積分解析(Why dengue hemorrhagic fever in Cuba? 2.An integral analysis)」Trans Roy Soc Trop Med Hyg 1987;72:821−823)。この現象は抗体依存性増強(ADE)の理論から説明され、これらの場合この理論はウイルス−抗体複合体は標的(単球)に進入することにより増加し、これらの細胞上に存在するFc受容体によって媒介されることで、ウイルスの感染性が増加すると主張している(Halstead SB.「デング熱の発症機序:分子生物学への挑戦(Pathogenesis of dengue:challenges to molecular biology)」Science 1988;239:476−481)。
【0003】
エンベロープ糖タンパク質(Eタンパク質)は、ウイルスのエンベロープの最も大きな構造タンパク質である。DEN2及びDEN3ウイルスに由来するEタンパク質の細胞外ドメイン断片の三次元構造は、X線回折技術により近年解明され(Modis,Y、Ogata,S.、Clements,D.& Harrison,S.C.「デング熱ウイルスのエンベロープ糖タンパク質のリガンド結合ポケット(A ligand−binding pocket in the dengue virus envelope glycoprotein)」Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 100、6986−6991、2003、Modis,Y.、Ogata,S.、Clements,D.、及びHarrison,S.C.「デング熱ウイルス3型のエンベロープ糖タンパク質の結晶構造における可変表面エピトープ(Variable Surface Epitopes in the Crystal Structure of Dengue Virus Type 3 Envelope Glycoprotein)」J.Virol.79、1223−1231、2005)、ダニ媒介性脳炎ウイルス(Tick−borne Encephalitis Virus)由来のEタンパク質の結晶構造との高度の構造類似性が示された(Rey,F.A.、Heinz,F.X.、Mandl,C.、Kunz,C.& Harrison,S.C.「2Å分解能におけるダニ媒介性脳炎ウイルス由来のエンベロープ糖タンパク質(The envelope glycoprotein from tick−borne encephalitis virus at 2 A resolution)」Nature 375、291−298、1995)。この構造類似性は、それらの配列相同性、6つのジスルフィド架橋の保存、及び他のフラビウイルス属においても機能的役割(抗原決定基の一部である、或いは突然変異の減衰又は回避に関与する、など)があらかじめ指定されている残基の配置の保存と一致する。
【0004】
タンパク質Eは、以下の3つの構造ドメインによって形成される:ドメインI、配列のN末端部分に位置するが、3D構造の中央ドメインを形成する;ドメインII、二量体化ドメインとしても周知であり、フラビウイルス属全体に高度に保存された融合ペプチドを含む;及びドメインIII、細胞受容体との相互作用に関与し、免疫グロブリン様のフォールディングを有する。
【0005】
タンパク質Eは、ウイルスのライフサイクルのいくつかの段階において、中心的役割を果たす多機能糖タンパク質である。このタンパク質は、ウイルス中和抗体の主要な標的であり、細胞受容体との相互作用を媒介し、ウイルス膜と細胞膜との融合を動作するエンジンである(Heinz,F.X.、及びS.L.Allison、2003、(「フラビウイルス属の構造及び膜融合(Flavivirus structure and membrane fusion)」Adv.Virus Res.59:63−97、Modis,Y.、S.Ogata、D.Clements、及びS.C.Harrison、2004、「膜融合後のデング熱ウイルスエンベロープタンパク質の構造(Structure of the dengue virus envelope protein after membrane fusion)Nature 427:313−319、Rey 2004、Chen,Y.、T.Maguire、R.E.Hileman、J.R.Fromm、J.D.Esko、R.J.Linhardt、及びR.M.Marks、1997、「標的細胞のヘパラン硫酸と結合したエンベロープタンパク質に依存するデング熱ウイルスの感染性(Dengue virus infectivity depends on envelope protein binding to target cell heparan sulfate)」Nat.Med.3:866−871、Navarro−Sanchez,E.、R.Altmeyer、A.Amara、O.Schwartz、F.Fieschi、J.L.Virelizier、F.Arenzana−Seisdedos、及びP.Despres、2003、「樹状細胞特異的ICAM3−グラビング非−インテグリンは、蚊の細胞に由来するデング熱ウイルスによるヒト樹状細胞の増殖感染に必須である(Dendritic−cell−specific ICAM3−grabbing non−integrin is essential for the productive infection of human dendritic cells by mosquito−cell−derived dengue viruses)」EMBO Rep.4:1−6、Tassaneetrithep,B.、T.H.Burgess、A.Granelli−Piperno、C.Trumpfheller、J.Finke、W.Sun、M.A.Eller、K.Pattanapanyasat、S.Sarasombath、D.L.Birx、R.M.Steinman、S.Schlesinger、及びM.A.Marovich、2003、「DC−SIGN(CD209)は、ヒト樹状細胞のデング熱ウイルス感染を媒介する(DC−SIGN(CD209)mediates dengue virus infection of human dendritic cells)」J.Exp.Med.197:823−829)。
【0006】
このタンパク質はウイルス膜に固定され、その機能は三次構造及び四次構造の両方における立体配座の変化に大きく関与する。ウイルスの形成の細胞内段階で、EはpreMタンパク質とのヘテロ二量体として見出される(Allison,S.L.、K.Stadler、C.W.Mandl、C.Kunz、及びF.X.Heinz、1995、「可溶性及び微粒子形態の組換えダニ媒介性脳炎ウイルスのタンパク質Eの合成及び分泌(Synthesis and secretion of recombinant tick−borne encephalitis virus protein E in soluble and particulate form)」J.Virol.69:5816−5820、Rice,C.M.1996、「フラビウイルス科:ウイルス及びそれらの複製(Fiaviviridae:the viruses and their replication)」、p.931−959、In B.N.Fields、D.N.Knipe、P.M.Howley、R.M.Chanock、J.L.Me/nick、T.P.Monath、B.Roizman、及びS.E.Straus(ed)、Virology、3rd ed.Lippincott−Raven、Philadelphia、Pa)。この段階の間、ビリオンは未成熟であると言われ、成熟細胞外ビリオンと比較した場合に、著しく低いインビボの感染性から明らかなように、膜融合の媒介には不完全である(Guirakhoo,F.、Heinz,F.X.、Mandl,C.W.、Holzmann,H.& Kunz,C.「フラビウイルス属の融合活性:成熟及び未成熟(含preM)なダニ媒介性脳炎ビリオン間の比較(Fusion activity of flaviviruses:comparison of mature and immature(prM containing)tick−borne encephalitis virions)」J.Gen.ViroL 72、1323−1329、1991、Guirakhoo,F.、Bolin,R.A.& Roehrig,J.T.「マーレーバレー脳炎ウイルスprMタンパク質は、ウイルス粒子に酸耐性を与え、E糖タンパク質のR2ドメイン内のエピトープの発現を変化させる(The Murray Valley encephalitis virus prM protein confers acid resistance to virus particles and alters the expression of epitopes within the R2 domain of E glycoprotein)」Virology 191、921−931、1992)。ヘテロ二量体の役割は、pHが酸性であるために膜融合過程を誘発できる細胞内コンパートメントを介してビリオンを運搬する間に、タンパク質Eが膜に結合することを防止することと仮定される。また、preMタンパク質は、タンパク質Eのフォールディング及び集合に関するシャペロンとして機能することも可能である(Lorenz,I.C.、Allison,S.L.、Heinz,F.X.& Helenius、「小胞体におけるダニ媒介性脳炎ウイルスのエンベロープタンパク質prM及びEのフォールディング及び二量体化(A.Folding and dimerization of tick−borne encephalitis virus envelope proteins prM and E in the endoplasmic reticulum)」J.Virol.76、5480−5491、2002)。ビリオンの細胞外への分泌の間、preMは宿主のプロテアーゼ(フューリン)によって酵素的にプロセシングされ、Eはホモ二量体として結合するために自由にされ、したがって成熟ビリオンの形成で終了するウイルスのエンベロープの再構成を誘発する(Stadler,K.、Allison,S.L.、Schalich,J.& Heinz,F.X.「フューリンによるダニ媒介性脳炎ウイルスのタンパク質分解活性(Proteolytic activation of tick−borne encephalitis virus by furin)」J.Virol.71、8475−8481、1997、Elshuber,S.、Allison,S.L.、Heinz,F.X.& Mandl,C.W.「タンパク質prMの切断は、ダニ媒介性脳炎ウイルスによるBHK−21細胞の感染に必要である(Cleavage of protein prM is necessary for infection of BHK−21 cells by tick−borne encephalitis virus)」J.Gen.Virol 84、183−191、2003)。成熟ビリオンの構造は、9.5Åの分解能で電子低温顕微鏡法によって決定され(Zhang W、Chipman PR、Corver J、Johnson PR、Zhang Y、Mukhopadhyay S、Baker TS、Strauss JH、Rossmann MG、Kuhn RJ、「低温顕微鏡法によるデング熱ウイルスの膜タンパク質ドメインの視覚化(Visualization of membrane protein domains by cryoelectron microscopy of dengue virus)」Nat Struct Biol.2003、10:907−12、Kuhn,R.J.ら「デング熱ウイルスの構造:フラビウイルス属の構成、成熟及び融合に関する推測(Structure of dengue virus:implications for flavivirus organization,maturation,and fusion)」Cell 108、717−725、2002)、未成熟ビリオンの構造は12.5Åの分解能で電子低温顕微鏡法によって決定された(Zhang,Y.ら「未成熟フラビウイルス粒子の構造(Structures of immature flavivirus particles)」EMBO J.22、2604−2613、2003)。これらのビリオンは、T=3の正20面体対称を有する。成熟ビリオンにおいて、タンパク質Eの二量体はウイルス膜に並行な面上にあり、その表面をほぼ完全に覆っている。成熟ビリオンは完全に感染性であり、ウイルスが細胞受容体と相互作用し、抗体が宿主によって誘発されるのはこの立体配座においてである。ひとたびウイルスが細胞受容体と結び付くと、ウイルスは受容体媒介エンドサイトーシスを介して内在化し、最終的にはエンドソームに達し、膜融合過程を開始するタンパク質Eの立体配座の変化が、エンドソームにおいて、弱酸性pHにより誘発される(Allison,S.L.ら「酸性pHにより誘発されるダニ媒介脳炎ウイルスエンベロープタンパク質のオリゴマー再構成(Oligomeric rearrangement of tick borne encephalitis virus envelope proteins induced by an acidic pH)」J.Viral.69、695−700、1995)。この過程において、タンパク質が二量体から三量体へ再構成される。タンパク質Eの融合後の構造が最近決定された(Modis,Y.、Ogata,S.、Clements,D.& Harrison,S.C.「膜融合後のデング熱ウイルスのエンベロープタンパク質の構造(Structure of the dengue virus envelope protein after membrane fusion)」Nature 427、313−319(2004))。Bressanelli,S.ら、「フラビウイルス属のエンベロープ糖タンパク質の低pH誘導性膜融合立体配座におけるその構造(Structure of a flavivirus envelope glycoprotein in its low−pH−induced membrane fusion conformation)」EMBO J.23、728−738(2004)では、三量体の形成が三次構造における重要な再構成に関与し、融合ペプチドを含むドメインIIの先端が膜と相互作用するにもかかわらず、単量体が平行に結合していることが示されている。結晶構造及び解明されたビリオン構造を同時に解析することにより、ウイルスのライフサイクルを通してタンパク質Eが再構成され、その三次及び四次構造並びにビリオン自体が著しく変化することが明らかになる。
【0007】
タンパク質Eは、ウイルス感染の間に産生される中和抗体の主要な標的である。単独の血清型による感染は、同種血清型のウイルスを中和する長寿命抗体を誘発する。感染後の数カ月間で、これらの抗体は異種の血清型もまた中和できるが、この活性は感染後約9カ月までに徐々に減衰する(Halstead S.B.「デング熱ウイルスの中和及び抗体依存性増強(Neutralization and antibody−dependent enhancement of dengue viruses)」Adv Virus Res.2003;60:421−67.Sabin,A.B.1952、「第2次世界大戦時のデング熱に関する調査(Research on dengue during World War II)」Am.J.Trop.Med.Hyg.1:30−50)。
【0008】
異なる血清型のウイルスと相互作用する場合、1種の血清型に対して産生された抗体は、一般に親和性の減少を示し、この現象は、DV血清型のタンパク質Eのアミノ酸配列における変化によって分子レベルで説明される。相互作用の親和性が十分に低いと中和を損なわせる抗体が生じる可能性があるが、それでもFc受容体を担持する細胞内にウイルスを容易に内在化するために十分な量がウイルス表面に結合できる(Halstead,S.B.、及びE.J.O’Rourke、1977、「デング熱ウイルス及び単核食細胞。1.非中和抗体による感染の増強(Dengue viruses and mononuclear phagocytes.1.Infection enhancement by non−neutralizing antibody)」J.Exp.Med.146:201−217、Littaua,R、I.Kurane、及びF.A.Ennis、1990、「ヒトIgG Fc受容体IIは、デング熱ウイルス感染の抗体依存性増強を媒介する(Human IgG Fc receptor II mediates antibody−dependent enhancement of dengue virus infection)」J.Immunol.144:3183−3186)。
【0009】
さらに二次感染の間、ナイーブB細胞と比較して既存のメモリーB細胞及び血漿細胞の活性化がより速いため、低親和性抗体集団の力価は、進入するDV血清型によって産生された新しい高親和性抗体の力価を上回る。二次感染からの回復期の抗体プロフィールは、一次DV感染の血清型によって大きく影響され、この事実はまさに「抗原原罪」として公知の現象の発現である(Halstead,S.B.、Rojanasuphot,S.、及びSangkawibha、N.1983、「デング熱における抗原原罪(Original antigenic sin in dengue)」Am.J.Trop.Med.Hyg.32:154−156)。
【0010】
一方、極めて強力な中和モノクロナール抗体(mAb)は、高希釈で免疫増幅を誘発できることが公知である(Brandt,W.E.、J.M.McCown、M.K.Gentry、及びP.K.Russell、1982、「フラビウイルス属の交差反応性決定基に対する抗体による、U−937ヒト単球細胞系におけるデング熱2型ウイルスの感染増強(Infection enhancement of dengue type 2 virus in the U−937 human monocyte cell line by antibodies to flavivirus cross−reactive determinants)」Infect.Immun.36:1036−1041、Halstead,S.B.、C.N.Venkateshan、M.K.Gentry、及びL.K.Larsen、1984、「モノクロナール抗体によるデング熱2型株の感染増強の多様性(Heterogeneity of infection enhancement of dengue 2 strains by monoclonal antibodies)」J.lmmunol.132:1529−1532、Morens,D.M.、S.B.Halstead、及びN.J.Marchette、1987、「デング熱ウイルス2型感染の抗体依存性増強のプロフィール(Profiles of antibody−dependent enhancement of dengue virus type 2 infection)」Microb.Pathog.3:231−237)。
【0011】
フラビウイルスタンパク質Eの抗原構造は、マウスmAbパネル及び競合アッセイ、ジスルフィド架橋の還元及びSDS処理などの手法に対する相互作用の感受性、タンパク質分解断片及び合成ペプチドに対する結合に関するアッセイ、ウイルスの中和又は赤血球凝集の阻害に関するアッセイ、エスケープ変異体の発生、血清検査などを含む、一連の生化学的分析及び生物学的分析を使用して、熱心に研究されてきた。(Heinz.T.、Roehrig,J.T.、Bolin,R.A.及びKelly,R.G.「デング熱2型ウイルスのエンベロープ糖タンパク質のモノクロナール抗体マッピング(Monoclonal Antibody Mapping of the Envelope Glycoprotein of the Dengue 2 Virus)」Jamaica、VIROLOGY 246、317−328、1998、Heinz,F.X.、及びRoehrig,J.T.(1990)、「ウイルスの免疫化学II。血清診断及びワクチンの基礎」中のフラビウイルス属(Flaviviruses.In“immunochemistry of Viruses.II.The Basis for Serodiagnosis and Vaccines”)」(M.H.V.Van Regenmortel及びA.R.Neurath、Eds)、pp.289−305、Elsevier、Amsterdam.Mandl,C.W、Guirakhoo,F.G.、Holzmann,H.、Heinz,F.X.、及びKunz,C.(1989)、「モデルとしてダニ媒介性脳炎ウイルスを使用した、フラビウイルス属エンベロープタンパク質Eの分子レベルの抗原構造(Antigenic structure of the flavivirus envelope protein E at the molecular level,using tick−borne encephalitis virus as a model)」J.Virol.63、564−571.I.L.Serafin及びJ.G.Aaskov.「モノクロナール抗体を使用した、デング熱2型及び3型ウイルスのエンベロープ(E)タンパク質のエピトープの特定(Identification of epitopes on the envelope(E)protein of dengue 2 and dengue 3 viruses using monoclonal antibodies)」Arch Virol(2001)146:2469−2479)。それぞれ3種の構造ドメインII、III及びIに相当する、3種の抗原ドメインA、B及びCが規定されている。特定のエピトープを認識する抗体は、普通非常によく似た機能的特徴を示す。ドメインA(構造ドメインIIに相当する)由来のエピトープの認識は、ジスルフィド架橋の還元により破壊され、これらのエピトープを認識するmAbが赤血球凝集、ウイルス感染の中和を阻害し、ウイルス媒介膜融合を阻害する。特に、デング熱ウイルスに関して規定されたエピトープA1は、グループ型特異性を有するmAbによって認識され、即ち、これらは異なるフラビウイルス属間で高度に交差反応性である。mAbs 4G2(抗−DV2)及び6B6C(抗−JEV)は、このエピトープを認識する。このエピトープへの結合は、未成熟ビリオン中で桁違いに減少し、成熟ビリオンの酸性pH処理によっても増強しない(Guirakhoo,F.、R.A.Bolin、及びJ.T.Roehrig、1992、「マーレーバレー脳炎ウイルスprMタンパク質は、ウイルス粒子に酸耐性を授け、E糖タンパク質のR2ドメイン内のエピトープの発現を変化させる(The Murray Valley encephalitis virus prM protein confers acid resistance to virus particles and alters the expression of epitopes within the R2 domain of E glycoprotein)」Virology 191:921−931)。
【0012】
ワクチン開発
DVに対する特定の処置法はなく、最も重篤な兆候が現在存在する。蚊の駆除はコストがかかり、あまり有効ではない。DHFにより起こる血液量減少を修正するために、体液の適切な管理に基づいて臨床的な処置を行うことにより死亡率が減少しているが、これらの処置は多くの発展途上国において未だに問題がある。DHFによる死者が年間推定30000人見積もられ、この疾患の罹患率及び関連コストは、公衆衛生支出の最優先目標を占める他の疾患の罹患率及び関連コストに匹敵する(Shepard DS、Suaya JA、Halstead SB、Nathan MB、Gubler DJ、Mahoney RT、Wang DN、Meltzer MI、「小児用デング熱ワクチンの費用対効果(Cost−effectiveness of a pediatric dengue vaccine)」Vaccine、2004、22(9−90):1275−80)。
【0013】
デング熱に対するいくつかのワクチン候補が、現在開発の異なる段階にある(Barrett,A.D.2001、「フラビウイルスワクチンの現状(Current status of flavivirus vaccines)」Ann.N.Y.Acad.Sci.951:262−271、Chang GJ、Kuno G、Purdy DE、Davis BS.2004「フラビウイルスワクチン開発の最近の進歩(Recent advancement in flavivirus vaccine development)」Expert Rev Vaccines、2004、3(2):199−220)。今までのところ試された戦略は、弱毒化生ワクチン、キメラウイルス、プラスミドDNA及びサブユニットワクチンを含む。4種の血清型由来の弱毒化株が、イヌ及びサルの腎臓初代培養細胞においてウイルスを増殖させる標準的な手順を使用して開発された(Bhamarapravati,N.、及びSutee、Y.2000、「生弱毒化四価デング熱ワクチン(Live attenuated tetravalent dengue vaccine)」Vaccine.18:44−47、Eckels,K.H.ら、2003、「イヌ腎臓初代培養細胞の継代によるデング熱ウイルス株の改良:候補ワクチンの調製及びサルの免疫化(Modification of dengue virus strains by passage in primary dog kidney cells:preparation of candidate vaccines and immunization of monkeys)」Am.J.Trop.Med.Hyg.69:12−16、Innis,B.L.、及びEckels,K.H.2003、「米国陸軍衛星研究資材コマンドによる生弱毒化四価デング熱ウイルスワクチンの開発における前進(Progress in development of a live−attenuated,tetravalent dengue virus vaccine by the United States Army Medical Research and Materiel Command)」Am.J.Trop.Med.Hyg.69:1−4)。この戦略の進歩は、動物モデル及びヒトのためのインビトロ弱毒化マーカーが足りないために制限されている。この同じ研究手段において、cDNAクローンを4種の血清型から得、その後処理を行い、理論的には有毒表現型への復帰変異の可能性を著しく減少する弱毒変異及び変化を導入する研究がある(Blaney,J.E.,Jr.、Manipon,G.G.、Murphy,B.R.、及びWhitehead,S.S.2003、「デング熱ウイルス4型の非構造タンパク質NS1、NS2、NS3及びNS5をコードする遺伝子の温度感受性突然変異は、マウスの脳において複製を制限する(Temperature sensitive mutations in the genes encoding the NS1,NS2A,NS3,and NS5 nonstructural proteins of dengue virus type 4 restrict replication in the brains of mice)」Arch.Virol.148:999−1006、Durbin,A.P.ら、2001、「3’非翻訳領域において30ヌクレオチドを削除した、生デング熱ウイルス4型ワクチン候補の、ヒトにおける弱毒化及び免疫原性(Attenuation and immunogenicity in humans of a live dengue virus type−4 vaccine candidate with a 30 nucleotide deletion in its 3’−untranslated region)」Am.J.Trop.Med.Hyg.65:405−413、Patent:Zeng L、Markoff L、WO0014245、1999)。
【0014】
別の戦略は、1種のデング熱血清型由来のpreM及びE構造タンパク質を、コア及び他の非構造タンパク質を提供する、黄熱病ウイルス(Yellow Fever Virus)(YFV)、デング熱ウイルス又は他のウイルスの弱毒化バックグランドに導入する、4種の血清型に関するキメラフラビウイルス変異体を作製している(Guirkhoo F、Arroyo J、Pugachev KVら「キメラ黄熱−デング熱ウイルス四価ワクチンのヒト以外の霊長類における構築、安全性及び免疫原性(Construction,safety,and immunogenicity in non−human primates of a chimeric yellow fever−dengue virus tetravalent vaccine)」J Virol 2001;75:7290−304、Huang CY、Butrapet S、Pierro DJら「デング熱1型ウイルスワクチンの有力候補としてのデング熱2型(ワクチン株PDK−53)/デング熱1型キメラウイルス(Chimeric dengue type 2(vaccine strain PDK−53)/dengue type 1 virus as a potential candidate dengue type 1 virus vaccine)」J Virol 2000;74:3020−28、Markoff L、Pang X、Houng HSら「サルにおいて弱毒化された高度免疫原性のデング熱1型宿主範囲限定突然変異ウイルスの誘導及び特徴付け(Derivation and characterization of a dengue 1 host range restricted mutant virus that is attenuated and highly immunogenic in monkeys)」J Virol 2002;76:3318−28、Patent:Stockmair及びschwan Hauesser、WO9813500、1998.Patent:Clark及びElbing:WO9837911、1998、Patent:Lai CJ、US6184024、1994)。
【0015】
一般的に生弱毒化ワクチンの潜在的利益についての多様な疑問が主張され、有毒な表現型への復帰変異、ウイルス性干渉及びゲノム間の組換えなどの現象の発生の可能性が述べられた(Seligman SJ、Gould EA 2004「生フラビウイルスワクチン:警告の理由(Live flavivirus vaccines:reasons for caution)」Lancet.363(9426):2073−5)。組換えタンパク質を発現するプラスミドDNAに基づくワクチン、並びに組換え抗原に基づくワクチンは、まだ開発の初期段階にある。(Chang,G.J.、Davis,B.S.、Hunt,A.R.、Holmes,D.A.、及びKuno,G.2001、「フラビウイルスDNAワクチン:現状及び可能性(Flavivirus DNA vaccines:current status and potential)」Ann.N.Y.Acad.Sol.951:272−285、Simmons,M.、Murphy,G.S.、Kochel,T.、Raviprakash,K.、及びHayes,C.G.2001、「デング熱2型DNA及びデング熱2型組換えサブユニットワクチンの組合せに対する抗体応答の特徴付け(Characterization of antibody responses to combinations of a dengue−2 DNA and dengue−2 recombinant subunit vaccine)」Am.J.Trop.Med.Hyg.65:420−426、Patent:Hawaii Biotech Group,Inc;WO9906068 1998、Feighny,R.、Borrous,J.及びPutnak R.「組換えバキュロウイルスを使用して作製されたデング熱2型ウイルスのエンベロープタンパク質は、ウイルスチャレンジからマウスを保護する(Dengue type−2 virus envelope protein made using recombinant baculovirus protects mice against virus challenge)」Am.J.Trop.Med.Hyg.1994、50(3)、322−328;Deubel,V.、Staropoli,I.、Megret,F.ら「親和性精製デング熱2型ウイルスのエンベロープ糖タンパク質が、マウスにおいて中和抗体及び防御免疫を誘導する(Affinity−purified dengue−2 virus envelope glycoprotein induces neutralising antibodies and protective immunity in mice)」Vaccine、1997、15、1946−1954)。
【0016】
上記の戦略に基づいたいくつかのワクチン候補は、動物モデルにおいて防御を示し、いくつかは臨床試験の初期段階において、安全且つ免疫原性であることが見出された。
【0017】
しかし、ワクチン開発の主要なハードルは、4種の血清型に対して同等に有効な防御を達成する必要性である。1種のデング熱血清型への感染により、ヒトでは同じ血清型に対して長寿免疫が誘導されることが認められる。しかし、わずか1種の血清型に対する免疫化は、他の血清型(異型免疫)に対してわずか2から9カ月までの短期間の防御を達成するにすぎない(Sabin,A.B.1952、「第2次世界大戦中のデング熱に関する調査(Research on dengue during World War II)」Am.J.Trop.Med.Hyg.1:30−50)。その上、特定の血清型に対する最適以下のレベルの防御により、ワクチン接種を受けた人が感作され、その血清型による後期感染において病理学的性質の異種免疫応答に付随する重篤な症状を発症する危険が増加する恐れがある(Rothman AL 2004「デング熱:防御対病理免疫の規定(Dengue:defining protective versus pathologic immunity)」J.Clin.Invest.113:946−951)。しかし、利用可能な生弱毒化ワクチン又は組換えサブユニットワクチンの有効な四価製剤の開発は困難な挑戦となり、複雑な反復投与免疫化スケジュールの使用を必要とする。
【0018】
抗体:受動免疫化
デング熱感染に対する防御のためにワクチンを使用するための1つの選択肢は、受動免疫のために中和抗体を使用することである。デング熱4型を中和する5H2(Men,R.、T.Yamashiro、A.P.Goncalvez、C.Wernly、D.J.Schofield、S.U.Emerson、R.H.Purcell、及びC.J.Lai.2004、「デング熱4型ウイルスの中和に非常に有効な、完全長ヒト化免疫グロブリンG1抗体のレパートリークローニング及び作製によるチンパンジーFab断片の特定(Identification of chimpanzee Fab fragments by repertoire cloning and production of a full−length humanized immune globulin G1 antibody that is highly efficient for neutralization of dengue type 4 virus)」J.Virol.78:4665−4674)、及び4種の血清型に対して交差中和する1A5(Goncalvez,A.P.、R.Men、C.Wernly、R.H.Purcell、及びC.J.Lai、2004、「デング熱1型及び2型ウイルスを効果的に交差中和する、チンパンジーFab断片及び派生ヒト化免疫グロブリンG1抗体(Chimpanzee Fab fragments and a derived humanized immunoglobulin G1 antibody that efficiently cross−neutralize dengue type 1 and type 2 viruses)」J.Virol.78:12910−12918)を含むヒト化チンパンジー抗体を、この目的のために得ている。
【0019】
ウイルス血症のレベルが疾患の重篤度を予測する上で重要であることを考慮に入れると、受動免疫の使用は、予防的手段及び治療的手段の両方にとって有用であり得る(Wang,W.K.D.Y.Chao、C.L.Kao、H.C.Wu、Y.C.Liu、C.M.Li、S.C.Lin、J.H.Huang、及びC.C.King、2003、「デング出血熱患者の解熱時における高レベルの血漿デング熱ウイルス量:発症に関する推測(High levels of plasma dengue viral load during defervescence in patients with dengue haemorrhagic fever.:implications for pathogenesis)」Virology 305:330−338、Vaughn,D.W.、Green,S.、Kalayanarooj,S.、Innis,B.L.、Nimmannitya,S.、Suntayakorn,S.、Endy,T.P.、Raengsakulrach,B.、Rothman,Al.、Ennis,F.A.及びNisalak,A.「デング熱ウイルス血症力価、抗体応答パターン及びウイルス血清型は疾患の重篤度と相関する(Dengue Viremia Titer,Antibody Response Pattern,and Virus Serotype Correlate with Disease Severity)」J.Infect.Dis.2000;181:2−9)。しかし、抗体の投与は潜在的な落とし穴と無縁ではない。抗体依存性増強(ADE)理論によれば、中和抗体の濃度が中和レベル以下に減少した場合、ウイルス−抗体免疫複合体はFc受容体を担持する細胞へのウイルスの進入を増幅でき、したがってウイルスの複製レベルが増加する。それ故、疾患の兆候がより重篤になるという危険に患者をさらすことを避けるために、抗体のレベルを高くする必要がある。
【0020】
考えられる1つの解決策は、受容体との相互作用が有意に減少するような方法でFcが修飾された抗体分子の獲得である。この意味で特に興味を引く戦略は、FCγR−I、FCγR−II及びFCγR−IIIとの相互作用に直接影響するが、FCRnとの相互作用には影響しないFcにおいて残基を変異させることである。後者は抗体の再生に関与しているため、インビボにおいて抗体の半減期の決定に極めて重要だからである。
【0021】
別の代替手段は、ADEを媒介できない中和抗体の特定である。これらの特徴を有する、少なくとも1種の抗体が記載されており(Patent:Bavarian Nordic Res.Inst.WO9915692、1998)、この抗体はインビボモデルにおいてAEDを媒介せずにDV2を中和する。しかし、他の血清型に対する類似の抗体の記載はなく、インビボモデルにおけるこの型の抗体の特徴についての利用可能なデータもない。さらなる障害は、利用可能な動物モデルが、ヒトにおける感染の経過及び特徴を忠実に再現しないという事実である。
【0022】
抗体の使用に関する別の戦略は、抗デング熱と抗赤血球補体受容体1抗体との二重特異性複合体の獲得である。これらのヘテロポリマーはウイルスを赤血球に結合させ、したがって血液から組織へのウイルス排除率が非常に増加せしめる(Hahn CS、French OG、Foley P、Martin EN、Taylor RP.2001、「受動ウイルス血症のサルのモデルにおいて、二重特異性モノクロナール抗体は、デング熱ウイルスが赤血球へ結合することを媒介する(Bispecific monoclonal antibodies mediate binding of dengue virus to erythrocytes in a monkey model of passive viremia)」J Immunol.2001 166:1057−65)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、デング熱ウイルスの4種の血清型及び他のフラビウイルス属に対する予防的処置及び/又は治療的処置のための有効な分子を、フラビウイルス属において高度に保存されたEタンパク質(「E」はエンベロープのE)表面の領域又はエピトープを前記分子の標的として使用することによって得る方法を示す。ワクチン設計のために使用すると、本発明は、Eタンパク質のこの領域に対する抗体応答を制限し、したがってこのタンパク質のさらなる可変領域に対する応答を除去することによって、4種のデング熱ウイルス血清型すべてに関して同等の中和効果及び防御効果の発生を可能にし、他の血清型による後期感染時の免疫増幅を導くことのできる、血清型又はサブ複合体に特異的な中和抗体を誘発できる。Eタンパク質の前記領域はトポグラフィー的エピトープであるため、本発明は、前述のエピトープを含むEタンパク質のサブドメインの正確なフォールディング及び分泌を確実にする、変異体及び安定化連結の設計を含む。予防的又は治療的目的の受動免疫化のための薬剤開発に使用する場合、本発明はさらに成熟フラビウイルスビリオンの表面上にあるこのエピトープの2つ、3つ又は多数の対称的なコピーと結合できる組換え分子を規定し、前記組換え分子は、ウイルス複製回路の早期段階においてビリオンによりなされる構造変化に干渉するより高い親和力及びよりよい潜在能力のため、天然の抗体及び/又はこれらのFAb断片より優れた中和特性及び防御特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
第1の態様において、本発明は上記のEタンパク質エピトープの抗原的特徴及び構造的特徴を再現する組換えタンパク質の設計を示す。前記組換えタンパク質の1つはデング熱ウイルスの4種の血清型すべてを中和でき、さらに他のフラビウイルス属も認識するマウスのモノクロナール抗体によって認識される。このキメラ組換えタンパク質による免疫化は4種のデング熱ウイルス血清型並びに他のフラビウイルス属を中和し、防御する抗体応答を誘導する。本発明は、フラビウイルス属に共通の中和エピトープを含むEタンパク質ドメインが、正確にフォールディングするような方法でキメラ組換えタンパク質を設計する方法を記載する。このエピトープは、天然にはトポグラフィー的であり、したがってその抗原性は分子の3D構造に依存する。本発明により得られた分子は、デング熱ウイルス及び他のフラビウイルス属に対するワクチン調製品の獲得、並びにこれらのタンパク質を含む診断体系の設計に関する医薬産業に使用できる。
【0025】
本発明の第2の態様は、デング熱ウイルスの4種の血清型及び他のフラビウイルス属に対する有力な中和プロフィールを有する他の組換えタンパク質の設計を示す。これらのタンパク質のアミノ酸配列は、結合ドメイン、スペーサーセグメント及び多量体化ドメインを含む。結合ドメインは、すべてのフラビウイルス属に全体に、高度に保存されたEタンパク質のエピトープに結合可能であり、結合ドメインは上記のこの発明の第1目的において述べたタンパク質中に含まれる。この態様の改変種において、結合ドメインは保存エピトープを認識する一本鎖抗体の断片である。スペーサーセグメントは、3〜20のアミノ酸長の配列で、好ましくは親水性、極性で短い側鎖を有する残基中に多く存在し、したがってスペーサーに高度の可動性を与える。これらのスペーサーは、結合ドメイン及び多量体化ドメインのフォールディングに干渉してはならず、さらに血清プロテアーゼによる切断に対して耐性でなければならない。
【0026】
本発明において述べる多量体化ドメインは、天然状態で好ましくは二量体又は三量体として会合したタンパク質又はタンパク質ドメインであるが、より高度な会合の四次構造も切り捨ててはいない。これらのドメインは、自己抗体誘導の可能性を避けるためにヒトの血清又は細胞外タンパク質から選択される。本発明において意図される多量体化ドメインの本質的な特性は、デング熱ウイルス感染の免疫増幅の抗体媒介過程に関与するFc受容体との間にどのような相互作用もないことである。多量体化ドメインの四次構造は、共有結合性又は非共有結合性相互作用に依存してよい。
【0027】
改変種の一つにおいて、多量体化ドメインは、二量体構造を安定化させる鎖内のジスルフィド架橋の形成を媒介するので、ヒンジ領域を含むヒト抗体由来のFc断片に基づく。これらのFc断片は、化学的又は酵素的脱クリコシル化のどちらかを経て、或いはバクテリア大腸菌(bacterium Escherichia coli)などの、タンパク質をグリコシル化しない宿主における産生を経て炭水化物鎖を欠いている。非グリコシル化Fcドメインは、高等真核生物由来の細胞においてもまた得られ、それらの配列は修正され、NXT/Sモチーフが除去されて提供される。非グリコシル化Fcドメインは、もはやインビトロで免疫増幅を媒介するFcγR受容体I〜IIIに結合できない。しかし、それらはFcRn受容体とは十分相互に作用する力を維持しているところ、これはインビボで長い半減期を得るための望ましい特性である。
【0028】
別の改変種においては、多量体化ドメインは、らせん形の、ヒト母系の三量体形成断片である。
【0029】
柔軟なスペーサーを介した結合ドメイン及び多量体化ドメインの連結により、フラビウイルス属の成熟ビリオンの20面体構造上で、キメラタンパク質が複数の隣接したEタンパク質単量体と同時に結合することが可能になる。このように、二量体タンパク質をもたらす[結合ドメイン]−[スペーサー]−[多量体化ドメイン]の配列改変種は、2つのEタンパク質単量体に同時に結合可能になる。同様に、改変種が三量体タンパク質をもたらす場合、3つの単量体が同時に結合することになる。
【0030】
本発明の第2の態様において記載したキメラタンパク質の中和力価は、FAb断片及びさらに完全抗体により達せられる力価より高い。これらの組換えタンパク質は、より高い親和力でビリオンと結合し、いくつかのE単量体の同時結合は、膜融合の過程において四次構造に必要な変化に干渉する。本発明の実施により得られる分子は、デング熱ウイルス及び他のフラビウイルスに対する予防的及び/又は治療的薬剤の獲得、並びに前記分子を含む診断体系の開発のために医薬産業に使用できる。
【0031】
ワクチンを目的としたキメラタンパク質の設計
有効なデング熱ワクチンは、4種のデング熱血清型に対する抗体応答の中和を誘導するものであるべきであるという見解は、現在認められている。しかし、ウイルスのエンベロープのE糖タンパク質は血清型の間で可変である。この配列可変性が、タンパク質に対する広範囲な抗体応答は同種の血清型に対しての中和であり、異種の血清型に対しての中和ではないことの原因であり、このように感染性免疫増強抗体が上昇する可能性が増加する。
【0032】
本発明は、デング熱ウイルスに対するサブユニットワクチンの設計を目的とした方法を示し、このサブユニットワクチンは、4種の血清型に対して均一に中和的及び防御的に免疫応答を誘導する。第1に設計はタンパク質の表面に露出したパッチ又はエピトープの特定に基づき、血清型の間でこれらはすべて又は非常に高度に保存されており、成熟ビリオンの表面上にもまた露出されている。タンパク質について残基の保存分析を実施して、露出し保存された残基のクラスタを特定できた。(図1及び2、表1)。クラスタの全表面積は、417Åであり、25残基に属する。この面積は、タンパク質−抗体相互作用に関与する結合表面に対応する標準値に匹敵する。エピトープはトポグラフィー的であり、タンパク質の一時構造では遠く離れて位置するが、3次元構造においては近くに位置する残基を含む。
【0033】
第2に本発明は、保存エピトープを含み、免疫系に提示される保存残基/可変残基の割合を最大にし、エピトープの三次元的構造の安定化を達成する組換えキメラタンパク質の、全Eタンパク質において出現するような同様の方法での設計を示す。2種の考えうるトポロジーを記載する:
B−L−C及びC−L−B、
ここで、Bはデング熱2型由来のE糖タンパク質のLeu237〜Val252のセグメントであり、CはLys64〜Thr120のセグメント、或いは他の血清型又は他のフラビウイルス属由来の相同セグメント、或いは上記セグメントのいずれかに関して80%を超える配列同一性を示す類似タンパク質配列である。フラビウイルス属の配列に相当する相同セグメントB及びCは、配列アライメントのコンピュータプログラムを使用して規定し、このプログラムはBLAST、FASTA y CLUSTALのように配列ペア又は多重配列を並べる(Altschul,S.F.、Gish,W.、Miller,W、Myers,E.W.& Lipman,D.J.1990、「ベーシックローカルアライメントサーチツール(Basic local alignment search tool)」J.Mol.Biol.215:403−410.Pearson WR、Lipman DJ.「生物学的配列比較のための改善されたツール(Improved tools for biological sequence comparison)」Proc Natl Acad Sci U S A.1988;85:2444−8、Higgins D.、Thompson J.、Gibson T.Thompson J.D.、Higgins D.G.、Gibson T.J.1994;「CLUSTAL W:配列の重み、位置特異的ギャップペナルティ及び重み行列法選択を介した進歩的多重配列アライメントの感度の改善(CLUSTAL W:improving the sensitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting,position−specific gap penalties and weight matrix choice)」Nucleic Acids Res.22:4673−4680)。これらの配列アライメントは、フラビウイルスの配列において相同残基(等価残基又は相当残基とも称する)の規定もまた可能にし、この相同残基は、デング熱2型由来の配列の特定の事例に関する、実施例1の表1に特定された高度に保存された残基に相当する。
【0034】
記載したトポロジーのいずれにおいても、Lは通常1個から10個の残基までの大きさのリンカー配列であり、その役割はキメラタンパク質のフォールディングを安定化させ、エピトープの3D構造が全Eタンパク質に表された構造に類似であり得るような方法で、セグメントB及びCを接続することである。キメラタンパク質のトポロジー改変種の両方に保存エピトープは完全に含まれるか、可変性がより大きい残りのEタンパク質は除かれる。キメラタンパク質は、エンベロープ糖タンパク質の構造ドメインIIのサブドメインに相当する。このサブドメインは、ドメインIIの先端に位置し、2つの逆平行のβシートによって構造的に合致し、互いに包み合っている。大きいβシートは3本のβ鎖からなり(セグメントC)、小さいβシートはβヘアピンループ(セグメントB)である
【0035】
サブドメインは、2つのジスルフィド架橋を含み、4か所で残りのE糖タンパク質と連結しているところ、これは保存エピトープのトポグラフィー的性質と一致する。しかし、サブドメインと残りのタンパク質の接触表面は184Åであり、これは溶媒が接触可能であるサブドメイン全表面のわずか12%にすぎない。この事実は、2つのトポロジーの変異体に関する上記の安定化連結又はリンカーを設計することによって、サブドメインの正確なフォールディングを達成することの実現可能性に一致する。本発明は、ビリオン表面に接触できず、したがって抗体との相互作用に関与しない残基を変異させることによって、キメラタンパク質の熱力学的安定性を増加させる可能性を含む。
【0036】
本発明の本質的に優れている点は、4種のデング熱血清型に対して有効な、ユニークなタンパク質鎖に基づいたサブユニットワクチンの開発が可能であるという考えである。組換えタンパク質の候補に基づいた現在のアプローチは、4種(各血清型に関して1種ずつ)の組換えエンベロープタンパク質の使用からなり、これらをワクチン製剤中に混合する(Patente:Hawaii Biotech Group,Inc;WO9906068、1998)。Eタンパク質断片もまた可能性のある候補として評価されているが、現在までの取り組みは、担体タンパク質との融合タンパク質として発現させたドメインIIIに集中している(Patente:Centro de Ingenieria Genetica y Biotecnologia;WO/2003/008571、Simmons M、Murphy GS、Hayes CG.Short report:「四価デング熱組換えタンパク質サブユニットワクチンにより免疫化したマウスの抗体反応(Antibody responses of mice immunized with a tetravalent dengue recombinant protein subunit vaccine)」Am J Trop Med Hyg.2001;65:159−61、Hermida L、Rodriguez R、Lazo L、Silva R、Zulueta A,Chinea G、Lopez C、Guzman MG、Guillen G.「P64k髄膜炎菌性タンパク質担体の構造に挿入されたデング熱2型エンベロープ断片は、マウスにおいてウイルスに対する機能的免疫応答が可能である(A dengue−2 Envelope fragment inserted within the structure of the P64k meningococcal protein carrier enables a functional immune response against the virus in mice)」J Virol Methods.2004 Jan;115(1):41−9)。ドメインIIIは、抗体応答の中和を誘導できるが、この応答は血清型特異的であり、したがってワクチン候補は4種の血清型由来の配列を含まなければならない。
【0037】
本発明の実施例1のキメラタンパク質PMEC1は、トポロジーB−L−Cに相当し、デング熱2型由来の断片B及びCの配列、並びに2つの残基Gly−Glyリンカー配列を伴う。キメラタンパク質PMEC1をコード化する遺伝子もまた記載する。プラスミドpET−sPMEC1−His6は、N末端でシグナルペプチドpelBと、C末端で6個のヒスチジンをコード化する配列と融合するタンパク質PMEC1をコード化する(配列番号12)。
【0038】
バクテリア大腸菌のペリプラズムに可溶なキメラタンパク質PMEC1を得た。拡張が容易な精製方法を、金属キレートクロマトグラフィー(IMAC)に基づいて開発し、これによりさらなる研究に適切な純粋タンパク質調製品を得ることができた。精製タンパク質を、質量分析法により分析し、PMEC1のアミノ酸配列から算出した理論値に相当する質量/zシグナルを得、2つのスルフィド架橋の形成を推測した。タンパク質PMEC1は、4種のデング熱ウイルス血清型に対して得られた高度免疫腹水により、及びmAb 4G2により、強く認識される。ジスルフィド架橋が正確に形成されることによってこのように認識されるということはタンパク質PMEC1が天然Eタンパク質の対応する領域が採る立体配座と同様の立体配座を有することを示唆している。
【0039】
キメラタンパク質PMEC1を用いてマウスを免疫化することによって、4種のデング熱血清型に対する高力価を特徴とする、中和応答及び防御応答を得た。
【0040】
さらにIHA検査を実施し、4種の血清型に対する陽性力価を得た。インビトロの中和試験において、4種の血清型に対する1:1280の力価を得た。最終的に、マウスにおいてプロテクションアッセイを実施し、80〜90%の動物が4種の血清型に対する防御を示した。
【0041】
mAb 4G2とEタンパク質とにより形成される複合体のモデリング
実施例8は、mAb 4G2とEタンパク質とにより形成される複合体の構造のモデリングを示す。この抗体は、4種のデング熱血清型及び他のフラビウイルス属を認識し、中和する。
【0042】
モデルを、CLUSPROタンパク質−タンパク質ドッキング法(http://structure.bu.edul/Projects/PPDocking/cluspro.html)を使用して得た。この研究において、FAb 4G2の結晶構造(PDBファイル 1uyw)並びにデング熱2型由来のEタンパク質の二量体構造に対応するPDBファイル1oan及び1oamを、インプットファイルとして使用した。表8は、Eタンパク質−Fabインターフェースの特徴的な表面パラメータに相当する値を示し、モデル化した複合体に関して算出された値は、結晶構造が解明されているタンパク質−抗体複合体に関して得られた通常の値と同様である(表9)。
【0043】
得られたモデルは、mAb 4G2により認識されたエピトープが、本発明において特定された高度に保存された領域を含むことを示す。表1は、予測された構造エピトープに一致する一連の残基(抗体に接触する残基)及びそれらの残基が高度に保存された表面パッチに属することを示す。モデルによれば、予測された構造エピトープ由来の残基の71%が高度保存領域に属する。
【0044】
その後、成熟ビリオンを基にした複合体モデルを、デング熱2型ウイルスの低温電子顕微鏡法により構造をあらかじめ予測したモデルとドッキングさせることによって得た。こうして、ビリオン表面上でmAb 4G2によって認識されたすべてのエピトープ(180コピー)がFAb鎖により塞がれたモデルが得られた。
【0045】
Eタンパク質二量体に結合したそれらFAbの重鎖のC末端間の原子間距離は、100Åである。二量体として会合していない、非対称ユニットの単量体に結合するFAbに関して計算された同じ距離は120及び80Åである。
【0046】
これらの距離は、IgG分子の配列及び構造に立体化学的に一致せず、mAb 4G2が一価の状態でウイルスに結合することを示唆する。
【0047】
この予測は、実施例12に示した結果により裏付けられ、FAb及びmAb 4G2が非常によく似た中和力価を有することを示す。この発見を他の抗ウイルス抗体に関して得られたデータと対比すると、それらの二価結合により中和能力が2〜3桁増加する(Drew PD、Moss MT、Pasieka TJ、Grose C、Harris WJ、Porter AJ、「gHに対する多量体ヒト化帯状疱疹ウイルス抗体断片は、ウイルスを中和するが、単量体断片は中和しない(Multimeric humanized varicella−zoster virus antibody fragments to gH neutralize virus while monomeric fragments do not)」J Gen Virol.2001;82:1959−63、Lantto J、Fletcher JM、Ohlin M、「二価抗体フォーマットは、糖タンパク質Bの抗原性ドメイン2を介したヒトサイトメガウイルスの中和に必要である(A divalent antibody format is required for neutralization of human cytomegalovirus via antigenic domain 2 on glycoprotein B)」J Gen Virol 2002;83:2001−5)。
【0048】
チンパンジー抗体1A5の場合と同様に、mAb 4G2のこのプロパティは多様な抗フラビウイルス抗体に共通であり得、Eタンパク質のドメインAにも位置するエピトープを認識する(Goncalvez AP、Men R、Wernly C、Purcell RH、Lai CJ、「デング熱1型及び2型ウイルスを効果的に交差中和する、チンパンジーFab断片及び派生ヒト化免疫グロブリンG1抗体(Chimpanzee Fab fragments and a derived humanized immunoglobulin G 1 antibody that efficiently cross−neutralize dengue type 1 and type 2 viruses)」J Virol.2004;78:12910−8)。一般的に、mAbとそのFAbとの中和能力のバランスはエピトープ、抗体の同一性及び複合体の立体化学の詳細に依存する。したがって、ドメインBに位置するエピトープを認識するmAb 4E11は、対応するFAbより50倍の中和能力である(Thullier,P.、P.Lafaye、F.Megret、V.Deubel、A.Jouan、及びJ.C.Mazie、1999、「組換えFabは、インビトロでデング熱ウイルスを中和する(A recombinant Fab neutralizes dengue virus in vitro)」J.BiotechnoL 69:183−190)。
【0049】
多価中和分子の設計
本発明は、ビリオン表面に高度に保存されたエピトープの2つ又は3つのコピーと同時に結合できる分子の設計及び開発を示す。ビリオンは、本発明に記載の保存エピトープ全180コピーを露出している。それらは、Eタンパク質二量体に対応する、90対のエピトープとして、又はビリオンの非対称ユニットに存在するEタンパク質の3コピーに一致する60のトリプレットとしてグループ化できた。本明細書中に記載の分子は、二価又は三価の結合ができ、ビリオンに対する改善された結合親和性及び本発明に記載の保存エピトープを認識する中和抗体と比較してより強力で多様な中和能力を示す。記載された分子は、4種のデング熱ウイルス血清型及び他のフラビウイルス属を中和し、したがってデング熱及び或いは他のフラビウイルス属の予防的及び/又は治療的処置に有用である。
【0050】
本発明の二価又は三価タンパク質分子の配列は、下記の式により表される:
[S]−[L]−[D]又は[S]−[L]−[T]
式中、Sは一本鎖個体断片(scFv)の配列であり、本発明に記載の保存エピトープを認識し、[L]は通常3〜20アミノ酸長のリンカー配列であり、[D]は二量体を形成するタンパク質配列又はその断片であり、[T]は三量体を形成するタンパク質又はその断片である。セグメント[D]および[T]は、ウイルス感染の免疫増強を媒介する能力があるFC受容体と相互作用しないタンパク質又はタンパク質ドメインである。このように、本発明の二価又は三価分子は中和濃度以下において、FC受容体を担った細胞のウイルス感染の増強を予防できる。したがって記載の分子は、ADE様効果を媒介する能力がないことを考慮すると、抗体と比較して優れている。さらに、これらの分子は、scFvと比較してより大きく、したがってインビボにおいてより長い半減期を有する。
【0051】
配列[D]及び[T]は、細胞外ヒトタンパク質、好ましくは血清由来のもの、に相当する。このようにすると、細胞内及び/又は異種タンパク質に対して出現し得る自己免疫応答の誘導を予防できる。
【0052】
一般的に、多価結合を生じ得る適切なリンカー配列を選択した場合、ドメイン[D]及び[T]はより大きなオリゴマーを形成できる多量体化ドメインにより置き換え可能である。
【0053】
設計された多量体化(二量体化及び三量体化を含む)により、断片の親和性を増加でき、それらの内在性の中和能力を改善できる。複数個所におけるウイルスの結合は、成熟ビリオンの構造をさらに安定化し、膜融合過程に伴う四次構造の変化を妨げる。さらに、分子サイズの増大は、インビボで半減期を向上させる。抗体Fv断片を含む、これらの組換えタンパク質は、集団発生を抑止するための、有効な治療的及び/又は予防的薬剤になり得る。
【0054】
本発明は、TB4G2と称するキメラタンパク質をコード化する遺伝子を示す。プラスミドpET−TB4G2−LHは、N末端でシグナルペプチドpelBに融合され、C末端で6個のヒスチジンをコード化する配列に融合される、タンパク質TB4G2をコード化する(配列番号16)。
【0055】
キメラタンパク質TB4G2は、N末端からC末端に以下の要素を含む:(a)mAb 4G2の軽鎖の可変ドメイン(配列番号25)、(b)柔軟なスペーサー配列(配列番号26)、(c)mAb 4G2の重鎖の可変ドメイン(配列番号27)、(d)15残基からなる柔軟なスペーサー配列(配列番号28)、(e)溶液中で分子の三量体化を可能にする、ヒト母系断片(配列番号51)。
【0056】
キメラタンパク質TB4G2は、トポロジー変異体[S]−[L]−[T]に相当し、[S]がmAb 4G2のscFv断片であり、[L]がGLY及びSER残基により構成される15残基からなるスペーサー配列であり、[T]は並行立体配座に並べられたαへリックスによるらせん形コイルドコイル三量体構造を形成するヒト母系三量体化ドメインである(Dames SA、Kammerer RA、Wiltscheck R、Engel J、Alexandrescu AT、「並行ホモ三量体コイルドコイルのNMR構造(NMR structure of a parallel homotrimeric coiled coil)」Nat Struct Biol.1998;5:687−91)。
【0057】
この母系断片は、へリックスのN末端に位置するシステイン間に形成されたジスルフィド架橋によって安定化された共有結合性三量体を形成する。シグナルペプチドpelBは、タンパク質TB4G2がペリプラズムに位置することを可能にし、それ故インビボで結合ドメイン及び三量体化ドメインのジスルフィド架橋の正確な形成を含む、正確なフォールディングを可能にする。
【0058】
ビリオンとFv4G2の間に形成される複合体のモデルによれば、非対称ユニットの3つのEタンパク質単量体に結合したFv断片に相当する、Fv重鎖のC末端間を測定した距離は、36、58及び70Åである。これら3つのC末端原子は、半径35Åの球形に外接し、これはスペーサーセグメント[L]がこの距離に匹敵する立体配座を採らなければならないことを示す。
【0059】
理論的には、伸長配座を採る15残基からなるセグメントは、N末端からC末端まで52Åの大きさを有する。しかし、このような立体配座は最も安定であるわけではなく、一般的にペプチドの構造的特性はそれらの配列によって決定される。GLY及びSERが多いペプチドは、本質的に柔軟であり、溶液中で複数の立体配座を採ることができる。実施例9に示したように、PRELUDEを使用したペプチドの立体配座の予測(Rooman MJ、Kocher JP、Wodak SJ、「7つの構造配置に基づくタンパク質骨格立体配座の予測。局所的相互作用の影響(Prediction of protein backbone conformation based on seven structure assignments.Influence of local interactions)」J Mol Biol.1991;221:961−79)により、配列[L](配列番号28)に関して予測された最も好ましい立体配座は、N末端とC末端との距離が約35Åに相当することが示される。この発見は、キメラタンパク質TB4G2のこの設計が、ビリオンの非対称ユニットに存在する3つのEタンパク質単量体に同時に結合することの達成能力に構造的に合っていることを指摘する。
【0060】
キメラタンパク質TB4G2をバクテリア大腸菌のペリプラズムに可溶な形態で得た。拡張が容易な精製方法を、金属キレートクロマトグラフィー(IMAC)に基づき開発し、この方法により純粋タンパク質調製品を得ることができた。精製したタンパク質を、SDS−PAGE電気泳動によって分析した。非還元条件下で処理した場合、還元条件下であらかじめ処理したタンパク質TB4G2は、単量体及び三量体の質量に相当するバンドに移行する。
【0061】
最終的に、タンパク質TB4G2の中和能力をmAb 4G2並びにその断片のFAb及び(FAb’)2と比較するために、BHK−21細胞において4種のデング熱ウイルス血清型に対する中和試験を実施した。タンパク質TB4G2は、4種の血清型に対して同様の中和力価を示し、抗体及びその断片と比較して2〜3オーダー強力であった。
【0062】
本発明は、MA4G2と称するキメラタンパク質をコード化する遺伝子(配列番号17)を示す。キメラタンパク質MA4G2(配列番号56)は、以下の要素をN末端からC末端までに含む:a)mAb 4G2の軽鎖の可変ドメイン(配列番号25)、(b)柔軟なスペーサー配列(配列番号26)、(c)mAb 4G2の重鎖の可変ドメイン(配列番号27)、(d)3残基(Gly−Gly−Gly)からなる柔軟なスペーサー配列、(e)ヒトIgG1免疫グロブリン分子のヒンジセグメント、CH2ドメイン及びCH3ドメイン。ヒトIgG1のCH2ドメインにおいて、タンパク質はASN297がGLNに変異している。
【0063】
キメラタンパク質MA4G2は、本発明中で規定されたトポロジー変異体[S]−[L]−[D]に相当し、[S]がmAb 4G2の一本鎖scFv断片であり、[L]が配列GLY−GLY−GLYの3残基のスペーサーセグメントであり、[D]はヒトIgG1免疫グロブリン分子のヒンジセグメント、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むセグメントである。ヒンジセグメントは2つの同一タンパク質鎖間の分子間ジスルフィド架橋の形成を媒介し、安定な二量体構造をもたらす。ヒトIgG1のCH2ドメインにおいて、ASN297がGLNへ変異することにより、真核生物におけるタンパク質のグリコシル化が妨げられ、FcγR I〜IIIへの結合を不可能にする。これらの受容体は、インビトロでADE現象を媒介する。このように、思いがけなく設計されたタンパク質であるmAb 4G2は、中和濃度以下においてADEを伴う危険がない。しかし、キメラタンパク質はFcRn受容体と相互作用する能力、インビボでより長い半減期を達成するために好ましい特性を、抗体分子に対する類似の手法で維持する。
【0064】
プラスミドpET−MA4G2−LH(配列番号20)は、N末端でシグナルペプチドpelB(配列番号24)に、C末端で6個のヒスチジンの尾部に融合された、タンパク質MA4G2をコード化する。シグナルペプチドpelBは、タンパク質MA4G2がペリプラズムに位置することを可能にし、ペリプラズムにおいて分子内ジスルフィド架橋(結合ドメイン、CH2及びCH3)及びヒンジセグメント間(分子間架橋)の正確な形成が起こる。ヒスチジン尾部により、金属キレートクロマトグラフィーによるタンパク質の精製が可能になる。
【0065】
タンパク質MA4G2とEタンパク質二量体とによって形成される複合体の3Dモデル(実施例9)、並びに中和試験の結果(実施例12)は、キメラタンパク質MA4G2が、成熟ビリオンの構造において二量体として会合する単量体に同時に結合するために適していることを示す。このように、二価性がタンパク質の生物活性の有意な増加をもたらす。
【0066】
本発明の本質的な側面は、本明細書中に記載の高度に保存されたEタンパク質の表面パッチに結合できる分子が、このタンパク質の生物学的機能に干渉し、このような分子がフラビウイルス属に対する幅広い抗ウイルス薬の潜在的な候補を構成するという発見にある。実施例12に示すように、scFvを含むmAb 4G2の断片は、全mAb 4G2と同等の中和活性を示し、抗ウイルス活性に二価性は必要ではないことを示す。これらの結果はさらに、断片の抗ウイルス活性はEタンパク質の生物活性への干渉に左右され、この干渉が前記のタンパク質の高度の保存された領域に結合することによって媒介されることを示す。さらに、フラビウイルス属に対する広範囲の抗ウイルス活性が観察された。したがって、これらの特性を有する抗ウイルス分子の特定のための興味深い方法は、タンパク質、ペプチド及び前記の高度の保存された表面領域に結合する薬剤様分子の特定を可能にする方法である。このような方法は、高度保存表面領域を認識する、mAb 4G2、その対応するFAb及び(Fab’)2断片又は本発明に記載のキメラタンパク質などの抗体が、Eタンパク質に結合することを遮断することに基づく方法である。それらの方法は、免疫酵素法、放射免疫測定、蛍光色素を用いた試験に基づくことができ、これらの試験はEタンパク質、ビリオン又は本明細書中に記載の、高度保存表面領域を示すキメラタンパク質に対する分子の結合を定量化できる。
【0067】
これらのアッセイは、コンビナトリアルケミストリーの方法によって生成したキメラ化合物を含む、キメラ化合物のライブラリのインビトロのスクリーニングを用いた、広範囲のフラビウイルス属に対して有効で強力な抗ウイルス分子の特定に有用であり得る。
【0068】
候補分子の特定は、コンピュータ支援ウイルススクリーニング法を使用して実施できた。これらの方法は、キメラ化合物の分子ドッキングのような、コンピュータを使用した手法に基づく。これらの方法を使用して、タンパク質に対するキメラ化合物の結合をモデル化し、相互作用の強さ又は結合エネルギーを定量化することが可能であり、これらはスコア関数を用いて、モデル化複合体の座標から予測又は算出される。
【0069】
分子ドッキングのコンピュータ手法の例は、プログラムGOLD(Jones,G.y cols.、1997、「柔軟なドッキングのための遺伝的アルゴリズムの開発及び検証(Development and validation of a genetic algorithm for flexible docking)」J.Mol.Biol.267、727−748)、DOCK(Kuntz,I.D.y cols.、1982「巨大分子−リガンドの相互作用に対する幾何学的アプローチ(A geometric approach to macromolecule−ligand interactions)」J.Mol.Biol.161、269−288)及びFLEXX(Olender,R.及びRosenfeld,R.、2001、「巨大ヴァーチャルコンビナトリアルライブラリにおける、活性基を含む分子の検索のための高速アルゴリズム(A fast algorithm for searching for molecules containing a pharmacophore in very large virtual combinatorial libraries)」J.Chem.Inf.Comput Sci.41、731−738)である。これらの方法は、ZINCデータベースのような、分子の大型ヴァーチャルライブラリ(Irwing,J.J.及びScoichet,B.K.、2005、「Zinc−ヴァーチャルスクリーニングのための市販化合物の無料データベース(Zinc − A free Database of commercially available compounds for virtual screening)」J.Chem.Inf.Model.45、177−182)が、どの分子が受容体タンパク質上の選択された活性部位に結合することが期待されるかをスクリーニングし、決定することを可能にする。本発明に関して、結合部位は前記の高度保存表領域である。PDBデータベースにおいて利用可能なEタンパク質の結晶構造が、原子座標のための情報源として使用でき、又は代替としてコンピュータモデルが使用でき、コンピュータモデルはホモロジーによるタンパク質のモデリングのような方法を用いて得られる。
【実施例】
【0070】
(実施例1)
キメラタンパク質PMECの設計
Eタンパク質の表面上の保存パッチを特定する目的で、CUNSURF法を使用して保存分析を実施した(「ConSurf:系統発生情報の表面マッピングによるタンパク質の機能的領域の特定(identification of functional regions in proteins by surface−mapping of phylogenetic information)」Glaser,F.、Pupko,T.、Paz,I.、Bell,R.E.、Bechor−Shental,D.、Martz,E.及びBen−Tal,N.;2003;Bioinformatics 19:163−164)。高度保存表面パッチはドメインIIの先端に見られ、これは4種のデング熱ウイルス血清型及び残りのフラビウイルス属にも保存されている(図1及び2)。
【0071】
高度保存表面パッチはトポグラフィー的エピトープを規定し、三次元構造において近くに位置するが、Eタンパク質の配列からは離れて位置する残基により適合する。この表面領域は、ドメインIIの端に位置する構造サブドメイン上に含まれ、Eタンパク質の2つの直系のセグメントであるLeu237〜Val262(セグメントB)及びLys64〜Thr120(セグメントC)により適合する。表1は、ビリオンの外面に位置し、したがって抗体との相互作用に接近可能な、サブドメインの残基のリストを示す。高度保存残基は、本発明により規定される領域又はエピトープを規定する。
【0072】
Eタンパク質のドメインIIの構造の検討により、サブドメインが構造的に独立した、ドメインのような特性を示すことが示される。残りのタンパク質に対する接触表面は184Åであり、これは溶媒が接触可能であるサブドメインの全表面積のわずか12%である。さらに、構造のこの部分がCATHデータベースにおいて構造ドメインとして規定された(CATH domain Isvb03、http://www.biochem.ucl.ac.uk/bsm/cath/cath.html)。
【0073】
【表1】

【0074】
独立してフォールディングされたサブドメインを得るために、まずユニークなポリペプチド鎖において2つのセグメントを接触させることが必要である。2種の考えられる連結又はトポロジーが可能である:
B−L−C y C−L−B
式中Lはリンカー又はスペーサーセグメントである。リンカーはサブドメインの三次元的構造に立体化学的に適合する必要があり、最良の場合キメラタンパク質の熱力学的安定性に安定化効果を提供する。残基のVal252及びLys64のα炭素間の距離は6.6Åであり、したがってトポロジーB−L−Cを1つ又は複数の残基のリンカーを使用して得られた。アンカーセグメントの構造に適合するターンを捜す、PDBデータベースによる考えられる連結ターンの構造分析(WHATIFプログラムパッケージのDGLOOPメニューのDGINSコマンド)は、2つの残基の連結が1つの残基による連結より一般的であることを示す。トポロジーC−L−Bの場合、残基のThr120及びLeu237のα炭素間の距離は11.1Åであり、3〜4残基又はそれを超える残基の連結に一致する。
【0075】
本発明のキメラタンパク質PMEC1(配列14)は、トポロジーB−L−Cに相当し、断片B及びCはデング熱2型ウイルス由来の配列及び2つの残基Gly−Glyのリンカー配列に相当する。
【0076】
B及びCセグメント配列はDEN2ウイルスに相当する配列のみではなく、限定するものではないがDEN1、DENS、DEN4を含む他のフラビウイルス属、日本脳炎ウイルス(Japanese Encephalitis virus)、ダニ媒介性脳炎ウイルス(Tick−born Encephalitis virus)、西ナイルウイルス(West Nile virus)、マリーバーレー脳炎ウイルス(Murray Valley Encephalitis virus)、セントルイス脳炎ウイルス(St Louis Encephalitis virus)、LANGAT ウイルス(LANGAT virus)、黄熱病ウイルス(Yellow Fever virus)、ポワッサンウイルス(Powassan virus)(配列29〜42)由来の相同配列から選択できるだろう。
【0077】
さらに、上記の方法により設計されたキメラタンパク質は、タンパク質の熱力学的安定性、又はフォールディング過程の効率を高める目的で、1個又は複数個の残基を変異させることができた。ビリオン表面及び抗体との相互作用に接近できない、表1に記載された残基を変異させることが可能であった。変異させやすい残基は、タンパク質の3D構造に埋もれている、及び/又は成熟ビリオンに存在するEタンパク質の3D/4D構造の側面又は内面に位置する残基である。
【0078】
変異させたタンパク質は、線状ファージライブラリのような実験的コンビナトリアル法によって得られた。タンパク質は、FOLDX、POPMUSIC及びRossetaのような理論的方法を使用して設計できた。
【0079】
配列43〜50は、複数位置で変異させたキメラタンパク質PMEC1の類似体に相当する。このタンパク質の三次元モデルは、良好なパッキング及び性質を示す。これらの変異はEタンパク質の保存サブドメインを認識する防御及び中和抗体との相互作用に影響を与えてはいけないという条件で、タンパク質の露出面における、特にデング熱血清型及び他のフラビウイルス属に厳重には保存されていない残基における変異もまた可能である。
【0080】
(実施例2)
プラスミドpET−sPMEC1の構築
タンパク質PMEC1(配列番号1)をコードする組換え遺伝子、DEN2ウイルス由来のEタンパク質(配列番号2)をコードする遺伝子を得るために、プラスミドp30−VD2に存在する、1409株、遺伝型ジャマイカ(Deubel V.、Kinney R.M.、Trent D.W.;「デング熱2型ウイルス、遺伝型ジャマイカの構造タンパク質のヌクレオチド配列及び推定アミノ酸配列(Nucleotide sequence and deduced amino acid sequence of the structural proteins of dengue type 2 virus、Jamaica genotype)」、Virology 155(2):365−377、1986)を使用した。この遺伝子は、配列番号3に示されるタンパク質をコードする。Agarwalらの方法を使用し(Agarwal KL、Buchi H、Caruthers MH、Gupta N、Khorana HG、Kumas A、Ohtsuka E、Rajbhandary UL、van de Sande JH、Sgaramella V、Weber H、Yamada T、「酵母由来のアラニン転移リボ核酸の遺伝子の全合成(Total synthesis of the Gene for an alanine transfer ribonucleic acid from yeast)」、1970、Nature 227、27−34)、ホスホアミダイド法によって固相で化学的に合成されたオリゴヌクレオチドから開始し(Beaucage SL、Caruthers MH、「デオキシリボ核酸ホスホアミダイド法:新規な一連の鍵がデオキシリボヌクレオチドの合成を媒介する(Deoxynucleoside phosphoramidites− A new class of key intermediates for deoxypolynucleotide synthesis)」、Tetrahedron Letters、1981、22、1859)、PMEC1タンパク質をコードする二本鎖DNA分子を得た(配列番号4)。このDNA分子の配列は以下の要素を有する:1)アミノ酸のメチオニン(M)をコードする開始コドンその後にアミノ酸アラニンをコードするコドン(A)(配列番号5)を含む、NcoI制限酵素の認識部位;2)デング熱2型ウイルス株ジャマイカ1409(配列番号6)のタンパク質Eに関する遺伝子の、709位から756位までの配列に相当し、配列番号7に示されるペプチド配列をコードする、配列番号3の237位から252位までに相当するターンに存在する断片;3)2つの連続するグリシンをコードするリンカーセグメント(配列番号8);4)配列番号2の190位から360位にわたる配列に相当する断片であり、配列番号9(配列番号3の64〜120位に相当する)に示されるペプチド配列をコードし、前記配列(配列番号10)の284〜289位に存在するNcoI制限部位を誘発するサイレント変異が導入される;及び5)アミノ酸ロイシン(L)及びグルタミン酸(E)をそれぞれコードする2つのコドンを含むXhoI制限酵素の認識部位(配列番号11)。この合成分子を、製造業者により指定された条件でNcoI及びXhoI制限酵素(Promega Benelux,b.v.、The Netherlands)を用いて消化し、製造業者により指定の条件でT4DNAリガーゼ(Promega Benelux,b.v.、The Netherlands)を使用して、あらかじめ完全に同じように消化したプラスミドpET22b(Novagen,Inc.、USA)に連結した。反応物を、Sambrookら(Sambrook J、Fritsch EF、Maniatis T、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular cloning:A laboratory manual)」New York、USA:Cold Spring Harbor Laboratory Press;1989)に従って、大腸菌株XL−1ブルー(Escherichia coil strain XL−1 Blue)(Bullock WO、Fernandez JM、Short JM.XL−lBlue:「βガラクトシダーゼ選択によるrecA大腸菌K12株の高性能プラスミド形質転換(A high efficiency plasmid transforming recA Escherichia coli K12 strain with beta−galactosidase selection)」Biotechniques 1987;5:376−8)に組み込み、選択培地で生き残ったコロニーに存在するプラスミドを制限分析によってスクリーニングした。得られた組換えプラスミドの1つをpET−sPMEC1と命名し(図4)、その配列(配列番号12)を、自動的サンガー配列決定を介して検証した。
【0081】
プラスミドpET−sPMEC1は、N末端でpelBリーダーペプチドに、C末端で6個のヒスチジンをコードする配列に融合されたタンパク質PMEC1をコードする(配列番号13)。この構成により、一方では、リーダーペプチドの切断を介した宿主におけるこのタンパク質のプロセシング、並びに一般的酸化条件によりPMEC1の正確なフォールディング及びジスルフィド架橋の形成が促進される、大腸菌のペリプラズムへの分泌が可能になり、さらに他方では固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)を介したこのタンパク質の精製を容易にすることができる(Sulkowski,E.(1985)「IMACによるタンパク質の精製(Purification of proteins by IMAC)」Trends Biotechnol 3、1−7)。PMEC1−His6と命名した、プロセシング及びペリプラズムへの分泌後のタンパク質の最終配列を、配列番号14に示した。
【0082】
(実施例3)
PMEC1−His6の発現及び精製
プラスミドpET−sPMEC1を大腸菌株BL21(DE3)(Studier,F.W.及びB.A.Moffatt、「クローン化遺伝子の直接的、選択的な高レベルの発現に対するバクテリオファージT7RNAポリメラーゼの使用(Use of bacteriophage T7 RNA polymerase to direct selective high−level expression of cloned genes)」J.Mol.Biol.189.1(1986):113−30)に組み込み、(Sambrook J、Fritsch EF、Maniafis T、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular cloning:A laboratory manual)」New York、USA:Cold Spring Harbor Laboratory Press;1989)、アンピシリン50μg/mlを添加した50mlのルリア−ベルターニ培地(LBA)の培養液に単一の、単離されたコロニーを接種し、350r.p.mで30℃において12時間成長させた。1LのLBA培地にこの培養液を接種し、620nmにおける開始吸光度(OD620)は0.05であり、次いで後期指数増殖期まで、28℃で8時間成長させた。この培養液を、その後イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を添加することによって誘導し、さらに5時間同じ条件で成長させた。
【0083】
上記のようにして得た培養液を、4℃において5000×gで30分間遠心分離にかけ、Ausubelらの方法(Ausubel,F.M.、Brent,R.、Kingston,R.E.、Moore,D.D.、Seidman,J.G.、Smith,J.A.及びStruhl,K(1989)in「分子生物学における現在のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、John Wiley & Sons、New York)を使用して、得られたバイオマスからペリプラズム画分を抽出した。この画分を、1000Daカットオフの膜を使用して、50mMリン酸緩衝液pH7/20mMイミダゾールに対して透析し、Ni−NTAアガロース(Qiagen Benelux B.V.、The Netherlands)を使用して、製造業者の使用説明書に従って、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(Sulkowski,E 1985、「IMACによるタンパク質の精製(Purification of proteins by IMAC)」Trends Biotechnol.3、1−7)によって透析物からタンパク質PMEC1−His6を得た。
【0084】
(実施例4)
キメラタンパク質PMEC1−His6の物理的及び化学的特徴付け
IMACにより精製されたPMEC1−His6の調製品は、SDS−PAGEにおいてこのタンパク質に関して予想される質量(およそ9500Da)に相当する見かけの質量まで移動した太いバンドを示し(図7)、調製品の精製度が高いことの証拠となった。同じ図は、還元し、カルバミドメチル化したPMEC1−His6(レーン2、図7A)に対応するバンドが、還元していない試料(レーン1、図7A)と比較した場合に、電気泳動での移動がわずかに減少していることを示す。この挙動は、システインが分子間ジスルフィド架橋に関与し、タンパク質が適切にフォールディングされたことを示す。
【0085】
PMEC1−His6の80μgアリコートを、C4 4.6×250mm(J.T.Baker、USA)の逆相HPLCカラムで分析した。クロマトグラフィーの作動は、2つのポンプとコントローラーとを取り付けた高圧クロマトグラフィー系を使用して、37℃において実施した。タンパク質の溶出は、10から60%(v/v)までの0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸中の線形勾配のアセトニトリルにより、流速0.8mL/分で、検出フィルターを226nmにセットして達成した。クロマトグラムは、単一のピークを示したため、調製品の均一性が高いことが裏付けられた(図7B)。
【0086】
RP−HPLCによるピークを、質量分析法により、さらに高い精度でタンパク質の分子質量を測定し、ジスルフィド架橋の酸化状態を確認する目的で分析した。スペクトルを、Z−スプレー電子噴霧イオン化源を取り付けた、オクタゴナルジオメトリQTOF−2TM(Micromass、UK)を用いたハイブリッドマススペクトロメーターで得た。得られたスペクトルを、MassLynx バージョン3.5(Micromass、UK)ソフトウェアアプリケーションを使用して処理した。PMEC1−His6調製品の主要な種類の質量スペクトルは、9219.51Daの分子質量を有し(図7C)、この値は遺伝子配列による予測値より0.05Da少ないだけである。この分析により、分子のシステイン残基はジスルフィド架橋に関わっており、N末端及びC末端の分解又は影響を受けやすいアミノ酸の修飾などの、望ましくない翻訳後の修飾の存在が消失したことが裏付けられた。
【0087】
(実施例5)
PMEC1の抗原的特徴
精製PMEC1タンパク質を、モノクロナールマウス抗体及びポリクロナールマウス抗体並びにデング熱反応性ヒト血清を使用してドットブロットにより特徴付けした(表2及び3)。陰性対照として、ヘキサヒスチジンタグに融合した、Den−2ウイルス(遺伝型ジャマイカ)のEタンパク質のドメインIIIにある、組換えタンパク質DIIIe2を用いた。PMEC1と異なり、DIIIe2はEタンパク質のより高度な配列可変領域に対応する。組換えドメインIIIは抗Den高度免疫腹水(HIAF)により強く認識され、同種血清型に顕著な特異性を示し、このドメインのジスルフィド結合の還元に関する反応性をほとんどなくしている。ドメインIIIに対する抗体反応性におけるこの血清型特異性は、さらにヒトの抗体応答においても発見されている。Mab 3H5もまた、試験の対照として含まれていた。Mab 4G2と異なり、3H5はDen−2のドメインIII内で血清型特異的エピトープを認識する。これらの2つのMabの反応性に還元剤を用いた処理によって、影響を受ける(Roehrig JT、Volpe KE、Squires J、Hunt AR、Davis BS、Chang GJ、「デング熱2型ウイルスのエンベロープ糖タンパク質のエピトープ発現に対するジスルフィド架橋の構築(Contribution of disulfide bridging to epitope expression of the dengue type 2 virus envelope glycoprotein)」J Virol.2004;78:2648−52)。
【0088】
【表2】

【0089】
PMEC1は、Denの4種の血清型に対して並びにMab 4G2に関して得られたHIAFによって認識された。評価された異なるフラビウイルス属に対して得られたHIAFの残りのうち、抗SLEが、抗DenのHIAFに対して得られた同じシグナル強度を有するPMEC1に最も高い反応性を示した。抗TBE及び抗YFのHIAFもまた、強度は前述のものより低いがPMEC1を認識した。異なるHIAFの反応性は、ウイルスのEタンパク質の天然構造と同様の立体配座でタンパク質が正確にフォールディングされたことを示す、PMEC1のジスルフィド結合の存在に強く依存した。
【0090】
PMEC1タンパク質を、異なる疫学的状態でDenに感染したことがある人間に由来する、ヒトの血清との反応性を介して、さらにドットブロットで特徴付けした。このアッセイにおいて、4種のウイルス血清型(即ち、Den1、Den2、Den3及びDen4)に一次感染した回復期にある患者からの血清も含んだ。Den2又はDen3に二次感染した個人由来の血清もまた使用した。ヒトの抗体は、同じ疫病に感染し、同様の臨床症状を経験し、同様の血清学的結果を有する3例の個人に由来する血清をプールとして用いた。各血清を、ウイルス性抗原及びPMEC1タンパク質に対するIgM抗体の存在に関して評価した。
【0091】
【表3】

【0092】
異なるウイルス血清型に感染した個人由来のヒト血清は、同等の強度を有するPMEC1を認識した。最も強いシグナルは、二次感染に苦しむ個人由来の血清で得られ、ELISAによっても、より高い抗ウイルス力価は一致した。
【0093】
(実施例6)
PMEC1タンパク質を用いた免疫化により得た抗体応答の特徴付け
80Balb/cマウスの一群に、腹腔内(i.p)経路で、フロインドアジュバントを用いて乳化した20μgの精製PMEC1を注入した。4回目の投与の後で、10匹のマウスを出血させ、さらなる血清学的分析のために血清を収集した。ELISAで測定した抗Den抗体力価は、ウイルスの4種の血清型と同様に高かった(表4)。同時に、誘発されたAbsの機能性を赤血球凝集の阻害(IHA)及びプラーク減少中和試験(PRNT)によって測定した。IHA試験において、抗PMEC1抗体は、4種のDen血清型に対して陽性の力価を得た(表5)。さらに、1/1280の中和力価を、4種のウイルスに対して得た(表6)。
【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
(実施例7)
プロテクションアッセイ
出血させた後に残った、PMEC1を用いて免疫化した動物をいくつかの群に分け、チャレンジ研究の実施に使用した。15匹の動物からなる4群に、i.c.注入によって、ウイルスの4種うちの1種の血清型の生神経適応株の100LD50を接種し、21日間観察した。10匹の動物からなる5番目の群には、ウイルスのチャレンジをしなかった。15匹の動物の群からなる陽性対照を、免疫化し、その後ウイルスの同じ血清型(即ち、Den1、Den2、Den3及びDen4)によりチャレンジした。15匹のマウスからなる別の4群を、それぞれ実験の陰性対照として用いた;これらの動物にはPBSを免疫原として与え、異なるウイルス血清型によりチャレンジした。PBSにより免疫化したマウスが、ウイルス接種後7〜11日で脳炎症状を発症し、21日までに死亡したのに対して、PMEC1により免疫化した動物群は、80%〜90%が生存した(表7)。ウイルスにより免疫化した群の動物は、100%防御された。
【0098】
【表7】

【0099】
(実施例8)
mAb 4G2とEタンパク質とにより形成された複合体の構造予測
抗原−抗体複合体の構造をモデリングするために、分子ドッキング研究を、mAb 4G2のFAb断片の結晶構造(1uyw)とデング熱2型ウイルス由来のエンベロープEタンパク質の2つの結晶構造(PDBファイル、1oan及び1oam)とを使用して実施した。可能性のある複合体構造の作成のための2つの異なるプログラム:DOT及びZDOCK(Mandell JG、Roberts VA、Pique ME、Kotlovyi V、Mitchell JC、Nelson E、Tsigelny I、Ten Eyck LF、(2001)「連続した静電気的及び幾何学的適性を使用したタンパク質ドッキング(Protein docking using continuum electrostatics and geometric fit)」Protein Eng 14:105−13、Chen R、Li L、Weng Z(2003)「ZDOCK:初期段階のタンパク質ドッキングアルゴリズム(ZDOCK:An Initial−stage Protein−Docking Algorithm.Proteins)」52:80−87)を含む、CLUSPRO法を予測のために使用した(http://nrc.bu.edu/cluster/、S.R.Comeau、D.W.Gatchell、S.Vajda、C.J.Camacho.「ClusPro:タンパク質複合体を予測するための自動的ドッキング及び識別の方法(ClusPro:an automated docking and discrimination method for the prediction of protein complexes)」(2004)Bioinformatics、20、45−50)。
【0100】
以下のパラメータを変えながら、全部で13の分子ドッキングシミュレーションを実施した:ドッキングプログラム(DOT又はZDOCK)、リガンド及び受容体の規定(Fv断片又はEタンパク質)、Eタンパク質の結晶構造(1oan又は1oam)、Eタンパク質の四次構造(単量体又は二量体)、Eタンパク質のFv断片又はN末端セグメント(1〜120残基)の結合部位に関与する解のフィルタリングの抑止の使用(DOTの魅力的なオプション)。図7は、シミュレーションの結果を要約したスキームを示す。それらの複合体は可能性のある解であると思われ、Eタンパク質のドメインIIに位置するエピトープを予測し、このエピトープはビリオン構造に従った抗体とも相互作用に接近可能であり、パラトープは抗体の高度可変領域である。ドメインIIのエピトープA1(mAb 4G2おり認識されるエピトープ)の位置は、実験データにより裏付けられ、同じエピトープに対する関連抗体がEタンパク質のアミノ酸1〜120にあるタンパク質分解断片を認識することもまた判定されている(Roehrig,J.T.,Bolin,R.A.及びKelly,R.G.「デング熱2型、ジャマイカのエンベロープ糖タンパク質のモノクロナール抗体マッピング(Monoclonal Antibody Mapping of the Envelope Glycoprotein of the Dengue 2 Virus、Jamaica)」1998、Virology 246:317−328)。
【0101】
6個の可能性のある解を得、これらは構造的に非常に似ていた。表8は、予測Eタンパク質−Fv複合体のインターフェースパラメータに対応する値を示し、予測複合体に関して算出された値は、結晶構造があらかじめ実験的に決定されているタンパク質−抗体複合体に関して算出された値と同様である(表9)。
【0102】
抗体に接触するEタンパク質の表面パッチは、タンパク質配列の4つのセグメントを含む。この発見は、エピトープのトポグラフィー的性質と一致し、その認識は、タンパク質の正確なフォールディングに依存し、ジスルフィド架橋の減少の影響を受けやすい。三次元モデルにより規定された構造エピトープは、フラビウイルス属に高度に保存された領域を含み、このことは、実施例5に示される抗体の広い交差反応性及びキメラタンパク質PMEC1の認識に一致する。該モデルはさらに、この抗体の中和機序がEタンパク質が膜に結合することへの干渉、及び/又は融合過程に伴う三量体化に関与することを示唆する。
【0103】
さらに、未成熟ビリオンの低温電子顕微鏡研究でのpreMに対応する電子密度から推論されるように、抗体により認識されるエピトープは、Eタンパク質とpreMとの相互作用に関与する領域に一致する。相互作用面の保存に関する進化的圧力により、Eタンパク質のこのエピトープが高度に保存されたことが説明可能であろう。しかも、このような変異は、pre−Mの表面上の同時変異が安定化されることによって補正されるべきであるから、この表面パッチのエスケープ変異体の出現は可能性が低い。実際に、この抗体に対して得られたエスケープ変異体は、ドメインIとIIの間のヒンジ領域に位置し、変異ウイルスは、高度の弱毒化を示し、膜に融合する能力を失う。このことは、フラビウイルス属に対する組換えワクチン候補としての、本発明のPMECキメラタンパク質の好ましいプロパティを構成する。
【0104】
その後、本発明者らは、成熟ビリオンの構造を基にして、FAb 4G2とEタンパク質との間の相互作用をモデル化した。この目的のもとに、本発明者らはあらかじめモデル化した複合体を、成熟ビリオンの低温電子顕微鏡による構造にドッキングさせた。モデルを得るために本発明者らは以下を使用した:1)低温電子顕微鏡により得られたビリオンの構造に対応するPDBファイル1THD、2)分子ドッキングによってあらかじめモデル化された、FAb 4G2とEタンパク質単量体とにより形成された複合体の座標、3)ファイル1THDに対応する正二十面体対称操作を、分子ドッキングによりあらかじめモデル化した複合体に適用した。
【0105】
このようにモデルを得、該モデルにおいて、ビリオン上に存在するmAb 4G2により認識されるエピトープのすべてのコピー(180)は、FAbにより占められている(図9)。
【0106】
【表8】

【0107】
FAb断片の重鎖のC末端残基間の距離の調査により、抗体の二価結合はビリオンの構造に大きな変化が起こらなければ不可能であることが示される。この観察は、等モル量のFAb及びmAbが非常によく似た中和力価を見せることを示す、実施例12において得た結果と一致する。この発見は、二価結合形態に期待される2〜3桁の増加とは対照をなす。
【0108】
【表9】

【0109】
(実施例9)
キメラタンパク質MA4G2(二価)及びTB4G2(三価)の設計
この実施例において、本発明者らは、成熟ビリオンにおいて提示されるEタンパク質単量体の2つ又は3つのコピーと同時に結合できる、mAb 4G2結合部位に関するキメラタンパク質の設計を示す。実施例8のモデリング研究は、ビリオンの非対称ユニットに位置するEタンパク質単量体に付随するFAbの重鎖のC末端残基を隔てる距離が、それぞれ80、100及び120Åであることを示す。これらの値は、大きすぎて抗体はビリオンに二価結合できない(図9)。異なる非対称ユニットに由来するEタンパク質単量体に結合するFabに対応するC末端残基間で算出された距離もまだ大きすぎる。しかし、非対称ユニットに結合したFv断片の重鎖のC末端残基間で算出された距離はそれぞれ36、58及び70Åである。これらの3つの原子は半径35Åの円に囲まれ10〜15残基のリンカーセグメントを介して三量体化ドメインに融合することによって三価の結合が可能であることを示す。
【0110】
同様に、Eタンパク質二量体に結合するFv断片の重鎖のC末端間の距離は、36Åであり、5〜10残基からなる小型のリンカーセグメントを用いて二量体化ドメインに融合することによって二価の結合が可能であることを示す。
【0111】
ミニ抗体型分子(二価結合)の設計
二価結合分子の例として、本発明者らは、キメラタンパク質MA4G2を設計した。その配列は、N末端からC末端までに以下のセグメントを含む:
1− scFv、VL−リンカー−VH型(配列番号25、26及び27)のmAb4G2の一本鎖Fv断片で、VLはmAb4G2の軽鎖の可変領域であり、VHは同じ抗体の重鎖の可変領域である。
2− GGG、3個のグリシン残基リンカーセグメント、
3− ヒンジ−CH2−CH3、ヒンジセグメント配列と、ヒトIgGI分子の定常ドメイン2及び3とに対応し、グリコシル化部位N297がグリシンに変異している(配列番号52)
【0112】
タンパク質MA4G2は、真核生物及び原核生物において発現でき、ヒンジ領域に位置するシステイン残基間の分子間ジスルフィド架橋の形成のため、二量体として会合し、こうして分子のC末端部分でヒトFCドメインを提示する。ヒンジ領域は、適切な空間と柔軟性を示し、それ故三個の残基のリンカー(GGG)は、scFvドメインとヒンジFCセグメントとの間の連結器として十分である。図10は、キメラタンパク質MA4G2とEタンパク質二量体により形成される複合体の3D構造のモデルを示し、ビリオンに対する二価結合の実現可能性を示す。
【0113】
グリコシル化部位での突然変異の存在により、真核生物において非グリコシル化FC担持分子を得ることができる。非グリコシル化FCドメインは、受容体FcγRI〜IIIに結合せず、インビトロで感染性免疫増強を媒介できる(Lund,J.、Takahashi,N.、Pound,J.D.、Goodall,M.、及びJefferis,R.1996、J.Immunol.157、4963−4969、Lund,J.、Takahashi,N.、Pound,J.D.、Goodall,M.、Nakagawa,H.、及びJefferis,R.1995、FASEB.J.9、115−119)。このように、元の抗体分子と異なり、設計されたタンパク質は中和濃度以下でADEを媒介する危険がない。さらに、キメラタンパク質は、天然抗体と同様に、インビボで長期の半減期を表すために望ましいFcRn受容体結合プロパティを維持する。
【0114】
キメラ三価タンパク質TB4G2
三価結合分子の例として、本発明者らはキメラタンパク質TB4G2を設計し、それらの配列を以下の構造として記載する。
scFv−リンカー−T
ここで、
1− scFv、VL−リンカー−VH型(配列番号25、26及び27)のmAb4G2の一本鎖Fv断片で、VLはmAb4G2の軽鎖の可変領域であり、VHは同じ抗体の重鎖の可変領域である、
2− リンカー、は(GGGS)GGG(配列番号28)の配列のリンカーセグメントである
3− Tは、ヒト母系らせん型三量体化ドメイン(配列番号51)。
【0115】
母系の三量体化ドメインは、並行コイルドコイル構造として三量体化されたαへリックスである。該三量体は、各単量体のN末端に近接して位置する2個のシステインにより形成される、6個の分子間ジスルフィド架橋を含む。この三量体らせん型構造は高度に安定しており、50℃においてdG=7kcal/molである(Wiltscheck R、Kammerer RA、Dames SA、Schulthess T、Blommers MJ、Engel J、Alexandrescu AT、「酸化及び還元形態の軟骨基質タンパク質由来のコイルドコイル三量体ドメインの異核NMR帰属及び二次構造(Heteronuclear NMR assignments and secondary structure of the coiled coil trimerization domain from cartilage matrix protein in oxidized and reduced forms)」Protein Sci.1997;6:1734−45)。ジスルフィド架橋により、非常に低い濃度でも共有結合により連結された三量体の四次構造が確保され、この三量体は非共有結合相互作用のみに基づく三量体に好ましく匹敵する。
【0116】
リンカーセグメントはアミノ酸のGly及びSerにより構成されており、非常に柔軟性がある。類似の構成のアミノ酸配列は、タンパク質工学においてリンカー配列として非常に多く使用されている。10個の残基からなるセグメントは、ビリオンに対する三価の結合に必要な35Åの空間を提供できるが、セグメントが十分に伸長した立体配座を採った場合にのみ当てはまる。溶液中でリンカーセグメントは、熱力学平衡状態において複数の立体配座を表すことができ、唯一の伸長配座を採ることは、有意なエントロピーエネルギーの損失を示唆する。リンカーセグメントの構造プロパティを調査するために、本発明者らは15残基の(GGGS)GGG配列の構造予測を、準備プログラムを使用して、実施した。この方法は、局所的相互作用を記載する統計ポテンシャルに基づき、ペプチド構造予測のためにあらかじめ使用されている。図11は、予測されたより好ましい立体配座に関する、エネルギー値対N末端とC末端との距離のプロットを示す。35Åの範囲に対応するエネルギー最小値及び最も伸長した立体配座(40Åを超える)は非常に好ましくない。したがって、計算結果は、リンカーセグメントとして選択された配列は三価の結合分子の設計に適切であることを示す。
【0117】
(実施例10)
抗体4G2由来の可変領域を有する、一本鎖抗体断片(scFv4G2)、三価分子(TB4G2)及び一本鎖ミニ抗体(MA4G2)をコードするプラスミドの獲得。
モノクロナール抗体4G2由来の可変領域を有する、一本鎖抗体断片、多量体タンパク質及び一本鎖ミニ抗体(MA4G2)を得るために、Agarwalらの方法(Agarwal KL、Btichi H、Caruthers MH、Gupta N、Khorana HG、Kumas A、Ohtsuka E、Rajbhandary UL、van de Sande JH、Sgaramella V、Weber H、Yamada T、「酵母由来のアラニン転移核酸に関する遺伝子の全合成(Total synthesis of the Gene for an alanine transfer ribonucleic acid from yeast)」、(1970)、Nature 227、27−34)を合成のために使用し、ホスホアミダイド化学(Beaucage SL、Caruthers MH、Deoxynucleoside phosphoramidites−「新規な一連の鍵がデオキシポリヌクレオチド合成を媒介する(A new class of key intermediates for deoxypolynucleotide synthesis)」、Tetrahedron Letters、(1981)、22、1859)を介して固相で合成したオリゴヌクレオチドから開始し、二本鎖DNA分子(配列番号15、配列番号16及び配列番号17)それぞれを制限酵素NcoI及びXhoI(Promega Benelux b.v.、The Netherlands)により、製造業者により指定された条件で消化した。各消化分子をその後T4DNAリガーゼ(Promega Benelux,b.v.、The Netherlands)を使用して、製造業者の指定した条件下で、あらかじめ同じ酵素で消化したプラスミドpET22b(Novagen,Inc.、USA)に連結した。連結物を大腸菌XL−1 Blue(Bullock WO、Fernandez JM、Short JM.XL−1 Blue:「βガラクトシダーゼ選択によるrecA大腸菌K12株の高性能プラスミド形質転換(A high efficiency plasmid transforming recA Escherichia coil K12 strain with beta−galactosidase selection)」Biotechniques 1987;5:376−8)に組み込み、Sambrookらにより記載された条件に従って(Sambrook J、Fritsch EF、Maniatis T、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular cloning:A laboratory manual)」New York、USA:Cold Spring Harbor Laboratory Press;1989)、選択培地で成長させて得られたコロニーに存在するプラスミドを、限定解析を使用してスクリーニングした。各形質転換からのいくつかの組換えプラスミドの配列を、自動的サンガーの配列決定によって検証し、各反応に関して予測配列と配列が一致する代表的分子を選択した。これらのプラスミドを、一本鎖抗体断片の発現に関してpET−scFv 4G2 LH(図5、配列18)、多量体化配列の発現に関してpETTB4G2 LH(図6A、配列番号19)及び抗体4G2由来の可変領域を担持する一本鎖ミニ抗体の発現に関してpET−MA4G2 LH(図6B、配列番号20)と命名した。
【0118】
これらのプラスミドは、イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)による誘導を介して、T7プロモーターの存在下で、前述の合成バンドによりコードされるタンパク質(配列番号15、配列番号16及び配列番号17)の大腸菌における発現に使用でき、それらの未成熟で、プロセシングされていない形態(配列番号21、配列番号22及び配列番号23)のそれぞれにおいて、以下の構成要素をN末端からC末端の方向に含む:非プロセシングタンパク質scFv 4G2 LHに関しては、a)pelBシグナルペプチド、(配列番号24)、b)Nco I部位の性質により導入されたアミノ酸M(メチオニン)及びA(アラニン)、c)モノクロナール抗体4G2の軽鎖の可変領域(配列番号25)、d)柔軟なスペーサー(リンカー)(配列番号26)、e)モノクロナール抗体4G2の重鎖の可変領域(配列番号27)、f)クローン化戦略により誘導されたアミノ酸L(ロイシン)及びE(グルタミン酸)、並びにg)6個のヒスチジンからなるC末端セグメント;非プロセシングタンパク質TB4G2 LHに関しては:a)pelBシグナルペプチド、(配列番号24)、b)Nco I部位の性質により導入されたアミノ酸M(メチオニン)及びA(アラニン)、c)モノクロナール抗体4G2の軽鎖の可変領域(配列番号25)、d)柔軟なスペーサー(リンカー)(配列番号26)、e)モノクロナール抗体4G2の重鎖の可変領域(配列番号27)、f)柔軟なスペーサー(リンカー)(配列番号28)、g)溶液中で三量体化できる分子プロパティを与えるヒト母系由来の断片(配列番号51)、h)クローン化戦略により誘導されたアミノ酸L(ロイシン)及びE(グルタミン酸)、並びにe)6個のヒスチジンからなるC末端セグメント;並びに非プロセシングMA4G2 LHタンパク質に関しては:a)pelBシグナルペプチド、(配列番号24)、b)Nco I部位の性質により導入されたアミノ酸M(メチオニン)及びA(アラニン)、c)モノクロナール抗体4G2の軽鎖の可変領域(配列番号25)、d)柔軟なスペーサー(リンカー)(配列番号26)、e)モノクロナール抗体4G2の重鎖の可変領域(配列番号27)、f)3個の連続したグリシン(G)からなる柔軟なスペーサー(リンカー)、g)ヒンジ並びにCH2及びCH3ドメインを含むIgG1ヒト免疫グロブリンの定常領域の断片であり、ヒンジのアミノ酸C(システイン)が変異生成によりS(セリン)に変化し、CH2ドメイン部位の潜在的グリコシル化部位が、N(アスパラギン)がQ(グルタミン)に変異することによって除去されている(配列番号52)、h)クローン化戦略により誘導されたアミノ酸L(ロイシン)及びE(グルタミン酸)、並びにe)6個のヒスチジンからなるC末端セグメント。
【0119】
これらの要素により、リーダーペプチドの切断、大腸菌ペリプラズムへの分泌を介したこれらのタンパク質(scFv 4G2、TB4G2及びMA4G2)のプロセシングが可能になり、この時一般的酸化条件によりそれらの正確なフォールディング及びジスルフィド架橋の形成が可能になり、さらに固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)を使用した精製が容易になる(Sulkowski,E.(1985)「IMACによるタンパク質の精製(Purification of proteins by IMAC)」、Trends Biotechnol.3、1−7)。翻訳後のプロセシング及び分泌の後の、scFv 4G2、TB4G2及びMA4G2の最終的な配列を、配列番号53、配列番号54及び配列番号55に示す。
【0120】
(実施例11)
scFv 4G2、TB4G2及びMA4G2の発現及び精製
プラスミドpET−scFv4G2 LH、pET−TB4G2 LH y pET−MA4G2から、それぞれscFv 4G2、TB4G2及びMA4G2を精製するために、以下に記載の方法を使用した:対応するプラスミドをSambrookらの指示(Sambrook J、Fritsch EF、Maniatis T、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular cloning:A laboratory manual)」New York、USA:Cold Spring Harbor Laboratory Press;1989)に従ってBL21(DE3)大腸菌株に組み込み(Studier,F.W.及びB.A.Moffatt.「クローン化した遺伝子の直接的、選択的高レベル発現のための、バクテリオファージT7RNAポリメラーゼの使用(Use of bacteriophage T7 RNA polymerase to direct selective high−level expression of cloned genes)」J.Mol.Biol.189.1(1986):113−30)、単離したコロニーを使用し、アンピシリン50μg/mlを添加したルリア−ベルターニ培地(LBA)の50ml培養液に接種し、350r.p.m.において30℃で12時間成長させた。この培養液を開始時の620nmによる吸光度(OD620)が0.05である1LのLBA培地に接種し、後期対数増殖期まで28℃で8時間成長させた。この培養液を、イソプロピルチオガラクシトシド(IPTG)を添加することにより誘導し、同じ条件下でさらに5時間成長させた。
【0121】
上記のように得た培養液を、5000×gにおいて4℃で30分間遠心分離機にかけ、Ausubelらの方法(Ausubel,F.M.、Brent,R.、Kingston,R.E.、Moore,D.D.、Seidman,J.G.、Smith,J.A.及びStruhl,K(1989)in Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York)を使用して得たバイオマスから、ペリプラズム画分を抽出した。この画分を、50mMのリン酸緩衝液pH7/20mMイミダゾールに対して、100Daカットオフの膜を使用して透析し、Ni−NTAアガロース(Qiagen Benelux B.V.、The Netherlands)を使用した固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(Sulkowski,E.1985、「IMACによるタンパク質の精製(Purification of proteins by IMAC)」Trends Biotechnol.3、1−7)によって、製造業者の指示に従って、透析物からタンパク質PMEC1−His6を得た。
【0122】
(実施例12)
MAG4G2タンパク質及びTB4G2タンパク質によるウイルス感染の中和
MA4G2 y TB4G2キメラタンパク質の生物活性の特徴付けを、BHK−21細胞においてプラーク減少中和試験を使用して実施した(表10)。この同じアッセイを用いて、キメラタンパク質とMab 4G2、そのFab及びFab2断片並びにscFv4G2との生物活性を比較した(表10)。
【0123】
Fab及びFab2断片は、Mab 4G2をパパイン及びペプシンで消化することによって得た。プロテアーゼ消化の後で、Fab及びFab2を、固定化タンパク質Aを用いたアフィニティクロマトグラフィーにより、Fc断片から分離した。Fab及びFab2のイソ型を、イオン交換クロマトグラフィーによってさらに精製した。中和力価を、ウイルスプラーク数が50%減少する分子希釈として規定した。異なる分子の希釈は、試験で等モル濃度を得るために調整した。
【0124】
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】フラビウイルス属のEタンパク質の表面残基に対応する保存プロフィールを表した図である。保存はグレースケール値で表され、フラビウイルス属の配列の中でより高い保存を示す残基ほど濃く表される。ドメインIIの高度保存表面パッチを丸で囲んである。保存値を、プログラムCONSURFを使用し、SWISSPROTデータベースで利用可能なそれらのフラビウイルス属配列の多重配列アライメントを考慮して、算出した。保存値は、Pymolを使用してタンパク質表面にマッピングした。
【図2】デング熱ウイルス由来のEタンパク質の表面残基に対応する保存プロフィールを表した図である。保存はグレースケール値で表され、フラビウイルス属の配列の中でより高い保存を示す残基ほど濃く表される。ドメインIIの高度保存表面パッチを丸で囲んである。保存値を、プログラムCONSURFを使用し、SWISSPROTデータベースで利用可能な4種のデング熱ウイルス血清型に対応する配列の多重配列アライメントを考慮して、算出した。保存値は、Pymolを使用してタンパク質表面にマッピングした。
【図3】キメラタンパク質PMEC1の三次元構造モデルの図である。Bは、デング熱2型ウイルスのE糖タンパク質のセグメントLeu237−Val252であり、CはセグメントLys64−Thr126である。Lは2つの残基からなるリンカーセグメントである。タンパク質の3Dモデルは、WHATIFプログラムパッケージを使用して得、図形はPymolを使用して作成した。
【図4】プラスミドpET−sPMEC1の図である。
【図5】プラスミドpET−scFv 4G2 LHの図である。
【図6A】プラスミドpET−TB4G2 LHの図である。
【図6B】プラスミドpET−MA4G2 LHの図である。
【図7】キメラタンパク質PMEC1−His6の物理化学的特徴を示した図である。A:固定化金属アフィニティクロマトグラフィーにより精製したタンパク質(レーン1)及び還元し、カルバミドメチル化したタンパク質(レーン2)のSDS−PAGE電気泳動である。B:タンパク質のRP−C4逆相クロマトグラフィー分析であり、矢印は主要ピークの位置を示す。C:逆相クロマトグラフィーにより収集した主要ピークに対応する質量スペクトルである。
【図8】mAb 4G2のFv断片とデング熱2型由来のEタンパク質とにより形成される複合体の構造を予測するために実施した、分子ドッキング(CLUSPROプログラムを使用)の13のコンピュータシミュレーションで得られた結果の略図である。カラムは、各シミュレーションで得られた初めの30の解(クラスタ)の構造的特性をグレースケールで示した。解は、3つの特性を表す。第1のプロパティは、結合に関与するEタンパク質のドメイン(それぞれドメインII、I及びIIIに対応する明るいグレーから濃いグレーまで)を示す。2つの色は、2つのドメインへの同時結合を意味する。L及びTは、ドメインI及びIIIに接触するリンカーを含むエピトープ又は融合ペプチド(ドメインIIの先端)をそれぞれ意味する。第2の特性は、3色で表され、白はビリオンの内面への結合を意味し、グレーはビリオンの側面への結合及び黒はビリオンの外面への結合を意味する。第3の場合は、抗体の結合はビリオンの構造の大きな構造変化に依存しないという、生物学的に関連した仮定である。第3の特性は抗体パラトープに対応し、グレーは結合が抗体のCDRを含むことを意味し(関連する解)、白は結合がCDRを含まないことを示す(関連しない解)。利用可能な実験データと一致する解を、矢印を使用して示した。それらの特性は明るいグレー−黒−グレーの色に対応する。図の上端に位置する初めの2列は、シミュレーションに使用したリガンド及び受容体の規定を示し、シミュレーションに使用したEタンパク質の結晶構造に対応するPDBファイルの識別子を含む。各シミュレーションに使用したタンパク質−タンパク質ドッキングプログラム(dot又はzdock)は各カラムの下に示す。
【図9】デング熱2型ウイルス由来の成熟ビリオンとFAb 4G2の180コピーとで形成される複合体のモデリングの図である。モデルは、FAb4G2−Eタンパク質複合体のあらかじめ予測した構造を、低温電子顕微鏡法により得た成熟ビリオンの構造にドッキングさせることによって得た(1THD)。非対称ユニットに見出されたEタンパク質の3つの単量体に結合したFAbの重鎖のC末端間の距離を算出した。
【図10】キメラタンパク質MA4G2とEタンパク質二量体とによって形成された複合体のコンピュータモデルの図である。図はプログラムPymolを使用して得た。
【図11】ペプチド配列(GGGS)GGGに相当する、配座異性体安定性の予測の図である。配座異性体のエネルギーをN末端とC末端との間の距離の関数として示す。予測は、プログラムPRELUDEwp使用して実施した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成熟ビリオン上に露出していることを特徴とし、フラビウイルス属の間で共有されるエピトープを示し、デング熱ウイルス1〜4型及び他のフラビウイルス属による感染の予防及び/又は治療のための広範囲な分子の開発に使用できるトポグラフィー的及び高度保存的領域。
【請求項2】
デング熱ウイルス2型由来のEタンパク質又は他のフラビウイルス属由来の対応するエピトープの以下の残基:ASN67、THR69、THR70、SER72、ARG73、CYS74、LEU82、GLU84、GLU85、ASP87、VAL97、ARG99、GLY100、TRP101、GLY102、ASN103、GLY104、CYS105、GLYl06、MET118、HIS244、LYS246、LYS247、GLN248、VAL252により規定される、フラビウイルス属のエンベロープ由来のタンパク質Eのエピトープである、請求項1に記載のトポグラフィー的及び高度保存的領域。
【請求項3】
以下のフラビウイルス属:西ナイルウイルス(West Nile Virus)、セントルイス脳炎ウイルス(St.Louis Encephalitis Virus)、デング熱1型(Dengue1)、デング熱2型(Dengue2)、デング熱3型(Dengue3)、デング熱4型(Dengue4)、日本脳炎ウイルス(Japanese Encephalitis Virus)、クンジンウイルス(Kunjin Virus)、キャサヌール森林病ウイルス(Kyasanur Forest Disease Virus)、ダニ媒介性脳炎ウイルス(Tick−borne Encephalitis Virus)、マリーバレーウイルス(Murray Valley Virus)、LANGATウイルス(LANGAT virus)、跳躍病ウイルス(Louping Ill Virus)及びポワッサンウイルス(Powassan virus)のEタンパク質の表面上に露出していることを特徴とする、請求項1及び2に記載のトポグラフィー的領域。
【請求項4】
デング熱ウイルス1〜4型及び他のフラビウイルス属による感染の予防及び/又は治療に有用であり、請求項1から3までに記載のトポグラフィー的領域に基づき、請求項1に記載の分子により免疫化された個人において、デング熱ウイルスの4種の血清型及び他のフラビウイルス属と交差反応する中和抗体の応答を誘導する能力を特徴とする、請求項1に記載の分子。
【請求項5】
配列番号14及び29から50までの組換えタンパク質又はキメラペプチドである、請求項4に記載の分子。
【請求項6】
一次構造が配列A−B−L−Cにより規定され、Aは0から30個のアミノ酸からなるペプチド配列であり、Bはデング熱ウイルス2型由来のタンパク質EのLeu237〜Val252断片の配列、或いはデング熱ウイルス1,3,4型又は他の任意のフラビウイルス属由来の相同配列であり、Lは安定化リンカーとして作用する3から10個のアミノ酸からなる配列であり、Cはデング熱ウイルス2型由来のタンパク質EのLys64〜Thrl20断片の配列、或いはデング熱ウイルス1、3、4型又は他の任意のフラビウイルス属由来の相同配列である、請求項4に記載のタンパク質分子。
【請求項7】
一次構造が配列A−C−L−Bにより規定され、Aは0から30個のアミノ酸からなるペプチド配列であり、Bはデング熱ウイルス2型由来のタンパク質EのLeu237〜Val252断片の配列、或いはデング熱ウイルス1、3、4型又は他の任意のフラビウイルス属由来の相同配列であり、Lは安定化リンカーとして作用する3から10個のアミノ酸からなる配列であり、Cはデング熱ウイルス2型由来のタンパク質EのLys64〜Thrl20断片の配列、或いはデング熱ウイルス1、3、4型又は他の任意のフラビウイルス属由来の相同配列である、請求項4に記載のタンパク質分子。
【請求項8】
Aが細菌性シグナルペプチドである、請求項6及び7に記載のタンパク質。
【請求項9】
Aが酵母又は哺乳動物のシグナルペプチドである、請求項6及び7に記載のタンパク質。
【請求項10】
請求項4から9までに記載の分子により形成されること、及びN末端又はC末端の、予防効果又は治療効果を増強させ、並びに/或いはその精製及び/又はその検出を容易にする1つ又は複数のペプチド又はタンパク質断片との融合を特徴とする、合成又は組換えの融合タンパク質。
【請求項11】
N末端又はC末端の融合相手が、ヘルパーT細胞エピトープを含む1つ又は複数のペプチド又はタンパク質断片である、請求項10に記載の組換え又は合成の融合タンパク質。
【請求項12】
N末端又はC末端の融合相手が、ヒスチジンタグである、請求項10に記載の組換え又は合成の融合タンパク質。
【請求項13】
請求項4から12までに記載のタンパク質をコードする核酸。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸を含む原核生物又は真核生物の宿主細胞。
【請求項15】
請求項4から12までに記載の1種又は複数種のタンパク質を含み、デング熱ウイルス1〜4型と交差反応性である中和抗体又は防御抗体の免疫応答を、受入れ生物に誘導できることを特徴とする医薬組成物。
【請求項16】
請求項4から12までに記載の1種又は複数種のタンパク質を含み、他のフラビウイルスと交差反応性である中和抗体及び防御抗体の免疫応答を、受入れ生物に誘導できることを特徴とする医薬組成物。
【請求項17】
デング熱ウイルス1〜4型及び他のフラビウイルス属と交差反応性である、中和抗体及び防御抗体の免疫応答を、請求項4から12までに記載のタンパク質をコードする遺伝子を含む生きたベクター又は裸DNAの使用に基づき、受入れ生物に誘導できることを特徴とする医薬組成物。
【請求項18】
抗フラビウイルス抗体の検出用診断薬として有用な、請求項5から12までに記載の合成又は組換えのタンパク質分子又はペプチド分子。
【請求項19】
デング熱ウイルス1〜4及び他のフラビウイルス属による感染の予防及び/又は処置に有用であり、請求項1から3までに記載のトポグラフィー的領域に基づき、ウイルスと前記トポグラフィー的領域との相互作用によるウイルス感染を予防又は弱毒化する能力を特徴とする、請求項1に記載の分子。
【請求項20】
ヒト抗体又は他の種において産生される抗体である、請求項19に記載の分子。
【請求項21】
異なるフラビウイルス属に交差反応性であり、ウイルス感染を中和する、請求項20に記載の抗体。
【請求項22】
デング熱ウイルス1〜4及び他のフラビウイルス属による感染の予防及び/又は処置に使用され、前記抗体の組換え又はタンパク質分解断片である、請求項19から21までに記載の分子。
【請求項23】
前記抗体の組換え一本鎖Fv断片(scFv)である、請求項22に記載の分子。
【請求項24】
成熟ビリオンに多価結合する分子として会合する能力を、前記分子に授けるタンパク質配列に、スペーサーを伴って又は伴わずに連結していることを特徴とする、請求項23に記載の分子。
【請求項25】
請求項24に記載の分子であって、前記分子に連結したタンパク質配列が、スペーサー並びに、ヒト免疫グロブリンのヒンジ、CH2及びCH3領域(配列番号55及び56に指定される配列を有する)を含む分子。
【請求項26】
請求項24に記載の分子であって、前記分子に連結したタンパク質配列が、スペーサー及び三量体化ドメイン(配列番号54に指定された配列を有する)を含む分子。
【請求項27】
請求項18から26までに記載のタンパク質をコードする核酸。
【請求項28】
請求項27に記載の核酸を含む原核生物又は真核生物の宿主細胞。
【請求項29】
請求項18から26までに記載の1種又は複数種のタンパク質を含み、デング熱ウイルス1〜4型による感染を予防又は弱毒化できることを特徴とする医薬組成物。
【請求項30】
請求項18から26までに記載の1種又は複数種のタンパク質を含み、他のフラビウイルス属による感染を予防又は弱毒化できることを特徴とする医薬組成物。
【請求項31】
フラビウイルス属の検出用診断薬として有用な、請求項18から26までに記載の合成又は組換えのタンパク質分子又はペプチド分子。
【請求項32】
フラビウイルス属に対する広範囲の治療用候補として有用な分子であって、該分子が請求項1から3までに記載のタンパク質Eの領域又は保存エピトープに接触することを含む方法により特定され、この接触又は結合により、広範囲の治療用候補であることが示される、分子。
【請求項33】
以下の種類の化合物:タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物質及び小型分子より選択される、請求項32に記載の分子。
【請求項34】
前記分子が化合物のライブラリに含まれている、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記化合物のライブラリがコンビナトリアル法により作成されている、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
接触が、インビトロ試験によって測定される、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
アッセイを、請求項19から24までに記載の分子の、請求項1から3までに記載の保存領域への結合を遮断することによって実施する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項19から24までに記載の分子の、請求項4から7までに記載のタンパク質分子への結合を遮断することによって実施される、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
結合を、インビボアッセイにより測定する、請求項32に記載の方法。
【請求項40】
コンピュータ支援法であり、以下を含む、請求項32に記載の方法:1)請求項1から3までに記載のタンパク質Eの高度保存領域を形成する残基に対応する原子座標であり、タンパク質構造データベースを利用できるか、又はコンピュータ手段によりモデル化されるかもしくは実験的に決定されるもの、2)実験的に決定されたか、又はコンピュータ手段によりモデル化された、分子の原子座標、3)この分子が請求項1から3までに記載の高度保存領域に接触できるかどうかを判定できる分子ドッキングのコンピュータ手法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図11】
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【公表番号】特表2009−524581(P2009−524581A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541574(P2008−541574)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【国際出願番号】PCT/CU2006/000015
【国際公開番号】WO2007/059715
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】