説明

デンドロビウム・クリソトキサム抽出物、及び老化防止剤としてのその化粧用途

【課題】活性剤としてのデンドロビウム・クリソトキサムのランからの少なくとも1種の抽出物、及び化粧用に許容できる少なくとも1種の添加剤を含む化粧用組成物の提供。
【解決手段】皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進するための、活性剤としての、デンドロビウム・クリソトキサムのランからの抽出物、及びミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOの発現及び/又は活性を阻害する、化粧用組成物。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、活性剤としてのデンドロビウム・クリソトキサム(Dendrobium chrysotoxum)のランからの少なくとも1種の抽出物、及び化粧用に許容できる少なくとも1種の添加剤を含み、特に、皮膚老化の徴候出現を予防又は遅延させ、その影響を遅らせる又は軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進するための、新規の化粧用組成物に関する。
【0002】
[現況技術]
皮膚老化は、皮膚の美しさ及び質を変えてしまう、皮膚固有の多数の変化、及び視覚的徴候の進行性の出現となって明らかになる。肌のきめは粗くなり、肌の染みが多数発生する。
【0003】
細胞レベルでは、老化は、構造タンパク質(コラーゲン、エラスチン)の合成を遅らせるなどの、生物学的メカニズムにおける進行性劣化をもたらす。
【0004】
1種のプログラム細胞死であるアポトーシスは、フラグメンテーションにより、遺伝的制御下で、身体から細胞を排除する能動的な生物学的過程である。
【0005】
この排除は、自然なものである場合も(組織における余剰な細胞)、又はさまざまなストレスによって誘導される場合もある。
【0006】
アポトーシスの生物学的カスケードは既知であり、これは、カスパーゼファミリーのプロテアーゼなどの多くのエフェクターを利用している。
【0007】
アポトーシス阻害剤(IAP)は既知であり、プロカスパーゼの活性化を阻止し、成熟カスパーゼの活性を阻害する機能を有しており、このため、アポトーシスの現象を遅らせる(Deverauxら、Genes Dev.13(1999)、pp.239−252)。
【0008】
IAPの1つとして、細胞のアポトーシスを制御すること及び細胞周期を調節することが同時に可能な、二機能性タンパク質のサバイビンが挙げられる。
【0009】
サバイビンは、ケラチノサイトの生存、及びアポトーシス現象を誘発できるストレスに対する該細胞の耐性のレギュレーターである。サバイビンは、表皮の更新及び再生に対するその能力も調節する。したがって、表皮の細胞源を保存し、効果的な細胞更新を維持することが可能になる(Dallaglioら、Experimental Dermatology、18(5)464−72)。
【0010】
サバイビンの産生は、アポトーシス中に遊離したミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLO(Second Mitochondrial Activator of Caspases又はDirect IAP Binding Protein with Low pI)によって厳重に制御される。
【0011】
29kDa前駆体の形態で合成されるこのタンパク質Smac/DIABLOは、ミトコンドリア位置シグナル(location signal)を有するN末端ドメインにより、ミトコンドリア中に転位する。この前駆体は次いで開裂し、23kDa成熟タンパク質を生じる(Zhangら、Acta Biochim.Biophys.Sin.2007、39(2)、108−116)。
【0012】
紫外線又はROSなどのフリーラジカルは、皮膚において、皮膚老化に関与する細胞ストレスを誘発することが既知である。
【0013】
紫外線又は活性酸素種(ROS)などの刺激に応答して、成熟ミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOが、細胞質ゾル内に放出され、そこでIAPの阻害剤として働く。これは、二量体の形態で、IAPに結合し、したがってカスパーゼの不活性化を阻止する(Kurita−Ochiai T.ら、J.Dent.Res.2010、89(7)、689−694)。
【0014】
同様に、これらの同じ刺激に応答して、細胞の寿命を延ばすサバイビンの過剰発現と同時に、Smac/DIABLOの産生の減少が実証された(Aziz MH.ら、Photochem.Photobiol.2005、81(1)、25−31)。
【0015】
したがって、皮膚老化により効果的に対処するために、表皮の細胞中において、このタンパク質Smac/DIABLOの発現及び/又は活性を大幅に減らすことができる1種又は複数の他の活性剤を化粧品において利用できるようにすること、並びに紫外線又はフリーラジカルに誘発されるストレスに対する細胞反応性を改善し、細胞の寿命を促進するように、IAPがカスパーゼを阻害できるようにすることは特別に興味深い。
【0016】
しかし現在まで、化粧用途のそのような作用物質は、記載されていない。
【0017】
したがって、ラン抽出物、より具体的には、デンドロビウム・クリソトキサムのランの花の抽出物が、タンパク質smac/DIABLOの発現に対してそのような阻害効果を示すことを実証したことは、特に驚くべきことである。
【0018】
ランの中で、デンドロビウム属に属するいくつかの種は、中国伝統医学において既知である。しかし、使用されるのは茎又は葉の抽出物である(Gutierrez RMP、J.Med.Plant Res.、2010、4(8)、592−638)。
【0019】
特に、エリアニンは、デンドロビウム・クリソトキサムの茎の抽出物から単離されており(NGら、Life Science、2000、66(8)、709−23)、ラットにおいて抗酸化活性が実証されてきた化合物である。
【0020】
現在まで、デンドロビウム・クリソトキサムの花の抽出物については、特別な活性は何も実証されていない。
【0021】
[発明の目的]
本発明の主な目的は、特に、皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進することを意図した、新規の化粧用組成物を提供することであり、この活性は、特に、ミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOの発現及び/又は活性の阻害によって得られる。
【0022】
本発明の目的はまた、前記化粧用組成物を使用する美容ケア方法を提供することである。
【0023】
本発明の目的はまた、皮膚、特に表皮においてミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOの発現及び/又は活性を減少させる、植物由来の新規の抽出物を提供することである。
【0024】
最後に、本発明の目的は、工業規模、特に化粧品業界において使用できる、簡単で比較的低コストの解決法によって、技術的問題全体を解決することである。
【0025】
[発明の概要]
本発明の発明者らは、正常ヒトケラチノサイト(NHK)をデンドロビウム・クリソトキサム種のランの少なくとも1種の抽出物で処理することが、ミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOの発現及び/又は活性の著しい減少を誘発することを、今や実証した。
【0026】
前記タンパク質の発現及び/又は活性のこの阻害効果は、IAPによる、細胞アポトーシスの制限、及び細胞周期の調節を増強する。
【0027】
したがって、第1の態様によると、本発明は、前記抽出物を含む化粧用組成物、及び本発明による有効量の組成物を、関係している顔又は身体の皮膚の一部に塗布することを含むことを特徴とする、美容ケア方法又は皮膚科的ケア方法に関する。
【0028】
第2の態様によると、本発明は、皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進するための、特にミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLO(本発明の抽出物)の発現及び/又は活性を阻害するためのラン抽出物、特にデンドロビウム・クリソトキサム種のラン抽出物、並びに美容組成物又は皮膚科用組成物における活性剤としてのその使用に関する。
【0029】
[発明の説明]
本発明の第1の主題は、活性剤としてのデンドロビウム・クリソトキサムのランの花の少なくとも1種の抽出物、及び化粧用に許容できる少なくとも1種の添加剤を含む化粧用組成物に関する。
【0030】
化粧用組成物は、より具体的には、皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進することを意図している。
【0031】
本発明の抽出物は、ミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOの発現及び/又は活性を有利に阻害する。
【0032】
植物材料は、好ましくはデンドロビウム・クリソトキサムのランの花のみからなる。しかし、本発明は、本発明の抽出物と、好ましくは本発明の抽出物と同じ条件下で調製されたデンドロビウム・クリソトキサムのランの別の部分の任意の抽出物との組合せ、又はこれらの抽出物の1種から単離された化合物にも関する。
【0033】
本発明の抽出物は、当業者に既知のさまざまな抽出工程によって調製され得る。
【0034】
有利には、抽出物は、極性溶媒又は極性溶媒の混合物を用いて得られる。
【0035】
極性溶媒として、溶媒又は溶媒の混合物が、水、C〜Cアルコール、例えばエタノール、好ましくはグリセロール、ブチレングリコール及びプロピレングリコールから選択されるC〜Cグリコール、或いはそれらの任意の混合物からも有利に選択される。
【0036】
好ましい実施形態によると、C〜Cアルコールはエタノールである。
【0037】
特に、植物材料は、少なくとも50%v/vのエタノール及び100%v/vまでのエタノールを含む溶媒を用いて抽出され、必要な場合、残部は別の極性溶媒、特に水からなる。
【0038】
抽出は、還流下で高温、或いは室温で行ってもよい。
【0039】
本発明の好ましい変更形態によると、抽出は、上述したような極性溶媒又は極性溶媒の混合物中の植物材料を、室温で数時間浸軟することによって行われる。
【0040】
一変更形態によると、抽出物は乾燥抽出物であり、場合により溶解される。
【0041】
抽出ステップ自体に先立ち、植物材料を、乾燥及び/又は粉砕及び/又は脱脂しておいてもよい。
【0042】
抽出物の脱脂は、場合により、エタノール、メタノール或いはカプリル酸/カプリン酸トリグリセリド(ミグリオール812(Mygliol 812)(登録商標)、Huls AG)などの極性共溶媒を添加して、例えばC〜Cアルカンなどの非極性溶媒、或いはまた超臨界状態のCOを用いて行ってもよい。
【0043】
抽出は、本発明の抽出物の脱色又は精製の少なくとも1つの補足段階を任意選択で含むこともできる。
【0044】
抽出物の脱色は、例えば、前記抽出物を、抽出物の脱脂に使用したタイプの非極性溶媒で処理することでなし得る。
【0045】
抽出は、抽出溶媒を部分又は完全除去する段階によって完了され得る。
【0046】
第1のケースでは、抽出物は、有機溶媒をさほどの量含有しない水性濃縮物が得られるまで、通常濃縮され、第2のケースでは、乾燥残留物が得られるまで、通常濃縮される。
【0047】
代替として、抽出段階での生成物は、粉末の形態をとるように凍結乾燥又は噴霧され得る。
【0048】
本発明による化粧用組成物における活性剤として、抽出物は、乾燥状態で、或いは溶媒中の溶液若しくは懸濁液、又は抽出に使用したものと同一でも異なってもよい、化粧用に許容できる溶媒の混合物中の溶液若しくは懸濁液として使用される。
【0049】
化粧用組成物は、望ましい効果、特にミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOの発現及び/又は活性の阻害を実現するために、有効量の抽出物を含む。
【0050】
したがって組成物は、組成物の全重量に対して0.0001重量%〜1重量%、好ましくは0.001重量%〜0.01重量%の乾燥抽出物を好ましくは含む。
【0051】
本発明の抽出物の性質は、化粧用組成物において得る又は改善することもでき、その組成物中では、本発明の抽出物は、精製物質及び/又は抽出物、特に植物抽出物の形態をとり、本発明の前記抽出物と同様及び/又は補完的な美容効果を示す、化粧用に許容できる他の活性剤と組み合わされる。
【0052】
したがって組成物は、植物の1種又は複数の他の抽出物を含むことができ、デンドロビウム・クリソトキサムのラン若しくは別のランの別の部分の少なくとも1種の抽出物、又はそのような抽出物から精製した物質を有利に含むことができる。
【0053】
化粧用組成物は、サバイビンの発現を刺激する、フォルスコリンなどの1種若しくは複数の他の活性剤、又はこれらを含有する抽出物、特にコレウス・フォレスコリ(Coleus forskolii)の抽出物、或いはまた、イシクラゲ(Nostoc commune)、ツルハナモツヤクノキ(Butea frondosa)、ネオクロリス・オレオアブンダンス(Neochloris oleabundans)、セネデスムス・ジモルファス(Scenedesmus dimorphus)、ウコン(Curcuma longa)、サフラン(Crocus sativus)、ダニエリア・オリベリ(Daniellia oliveri)、レペチニア・カウレセンス(Lepechinia caulescens)、リムノフィラ・コンフェルタ(Limnophila conferta)、及びそれらの任意の混合物から選択される植物種より得られる植物抽出物も有利に含むことができる。
【0054】
最後に、化粧用組成物は、老化防止活性を有する物質、皮膚に対して脱色、美白又は透明化活性を有する物質、減量活性を有する物質、水分を補給する活性を有する物質、鎮静、鎮痛又は弛緩活性を有する物質、皮膚の微小循環を刺激して、肌つやの輝き、特に顔の輝きを改善する活性を有する物質、脂性皮膚のケアのための皮脂調節活性を有する物質、皮膚を洗浄又は浄化することを意図した物質、抗ラジカル活性を有する物質、及びそれらの任意の混合物の群から選択される、化粧用に許容できる他の活性剤を含むことができる。
【0055】
有利には、本発明の組成物は、顔料、着色剤、ポリマー、界面活性剤、粘性剤、香料、電解質、pH調整剤、抗酸化剤、保存料、及びそれらの任意の混合物から選択されてよい化粧用に許容できる少なくとも1種の添加剤を含む。
【0056】
化粧用組成物は、例えば、セラム、ローション、クリーム、ヒドロゲル好ましくはマスク、水中油型エマルション、無水組成物でもよく、或いはスティック、パッチの形態、又はリップスティック、マスカラ若しくはファンデーションタイプのメイクアップ製品の形態でもよい。
【0057】
本発明の抽出物及び組成物は、皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進するのに特に望ましい効果を示す。
【0058】
したがって本発明の第2の主題は、皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進することを意図した、活性剤としての、デンドロビウム・クリソトキサムのランの花の少なくとも1種の抽出物の化粧用組成物における使用に関する。
【0059】
有利には、抽出物又は組成物は、上記又は下記に定義される通りである。
【0060】
有利には、前記抽出物を含む組成物自体が、皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進することを意図している。
【0061】
本発明の第3の主題は、特に、皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進するための美容ケア方法に関し、上記に定義された有効量の化粧用組成物を、顔又は身体の皮膚の少なくとも一部に塗布することを含むことを特徴とする。
【0062】
有利には、化粧用組成物は、しわ若しくは小じわの存在、又は肌つやの輝き喪失などの視覚的老化の徴候、或いは皮膚の弾力及び/又は張りの喪失、皮膚の厚さの減少、及び/又は皮膚の乾き若しくは粗さの増大などの他の徴候を示す、身体又は顔の皮膚ゾーンに塗布される。
【0063】
本発明は、皮膚の内因性及び/又は外因性老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせるための組成物を調製するための、有効量のデンドロビウム・クリソトキサムのランの花の少なくとも1種の抽出物の使用にも関する。組成物は、しわ若しくは小じわの存在、又は肌つやの輝き喪失などの視覚的老化の徴候、或いは皮膚の弾力及び/又は張りの喪失、皮膚の厚さの減少、及び/又は皮膚の乾き若しくは粗さの増大などの他の徴候を示す個人の皮膚の少なくとも1つの領域へのとりわけ局所塗布によって、塗布することができる。組成物は、35歳過ぎ、40歳過ぎ、45歳過ぎ、50歳過ぎ、55歳過ぎ又は60歳過ぎさえの個人の皮膚に塗布することをとりわけ意図している。組成物は、成熟した肌に有利に塗布することができる。具体的には、顔及び/又は目の皮膚老化の徴候出現を予防又は遅延することを意図し得る。
【0064】
本発明の第4の主題は、ミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOの発現及び/又は活性を阻害するラン抽出物、特に、デンドロビウム・クリソトキサム種のラン抽出物に関する。
【0065】
抽出物は、有利には、上記で定義されたデンドロビウム・クリソトキサムの花の抽出物である。
【0066】
抽出物は、さらに有利には、上記に記載された極性溶媒又は極性溶媒の混合物を用いて得られる。
【0067】
好ましくは、前記抽出物は乾燥抽出物であり、場合により溶解される。
【0068】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、本発明の例示のためであるが、その範囲を限定せずに示す、抽出物調製、及び抽出物の性質を実証する試験の実施例、並びにそのような抽出物を使用する化粧用組成物の実施例に関して行う、後述の説明的記載に照らして、明確に明らかとなろう。
【0069】
実施例において、他に示さない限り、全ての百分率は重量で表され、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】正常ヒトケラチノサイト(NHK)を、実施例1で調製した抽出物(S−1〜S−4)の1種で処理した後に免疫酵素法によって測定し、溶媒対照(T−SO)及び陽性対照(T+)と比較した、ミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOの発現レベル(pg/μg総タンパク質で表す)を表す。示した百分率は、溶媒対照(T−SO)に対する百分率阻害に対応する。
【実施例】
【0071】
実施例1:デンドロビウム・クリソトキサムの花の抽出物の調製
本発明の抽出物の調製
4種類の抽出物、並びに比較に使える2種類の他の抽出物を、本発明に従って調製した。
抽出物S−1、S−2、S−3及びS−4の植物材料は、デンドロビウム・クリソトキサムのランの花からなるものであった。抽出物R及びGは、デンドロビウム・クリソトキサムのランの根又はグラマトフィラム(Grammatophyllum)sp.のランの葉から得た。
乾燥状態で粉砕された植物材料を、90/10v/vエタノール/水で、還流下で30分間、水性アルコール抽出に供し、抽出物S−1、R及びGを調製した。次いで抽出溶媒を除去し、乾燥抽出物を得た。
抽出溶媒及び温度条件を変更して上記の抽出を再現し、抽出物S−2、S−3及びS−4を得た。室温(AT)で16時間、或いは高温(溶媒還流)で少なくとも30分間の、2つの抽出温度を試験した。
調製した抽出物と、乾燥状態の粉砕された出発植物材料に対する乾燥抽出物の百分率(重量/重量)で表した、それらの対応する抽出収率を、下記に要約する。
【0072】
抽出物コード 抽出の種類 抽出収率
S−1 エタノール/水 90/10v/v−還流 23.1%
S−2 エタノール100%−還流 17.0%
S−3 エタノール/水 70/30v/v−AT 27.9%
S−4 エタノール/水 50/50v/v−AT 28.4%
R エタノール/水 90/10v/v−還流 14.7%
G エタノール/水 90/10v/v−還流 14.1%
【0073】
下記の実施例2の美容活性試験のために、乾燥抽出物を、溶媒1mLにつき12.5mgの抽出物の濃度でDMSO中に溶解した、各抽出物の原液を調製した。
【0074】
実施例2−正常ヒトケラチノサイト(NHK)における、タンパク質Smac/DIABLOの発現レベルの免疫酵素アッセイ
2.1−陽性対照及び抽出物の溶液の調製
フォルスコリンは、サバイビンの発現の既知のアクチベーターである(特許出願FR2932086の実施例1を参照のこと)。
下記の試験のために、最小で98重量%のフォルスコリンを含有するコレウス・フォレスコリの抽出物を、陽性対照として使用した。そのような抽出物は、粉末の形態で、例えばSIGMAから市販されている。
抽出物粉末をDMSO中に溶解し、約10−6Mのフォルスコリン濃度(モル質量=410.5)を得た。
このように調製した陽性対照の溶液を培地に添加して、千分の一の希釈液、すなわち約10−9Mに等しいフォルスコリン濃度を得た。
並行して、培地中に千分の一に希釈した溶媒対照(DMSO)を調製した。
試験した各抽出物(S−1〜S−4、R及びG)の原液を、ケラチノサイト培地中に希釈し、抽出物の最終濃度12.5μg/mLを得た。
【0075】
2.2−NHKの処理
培養したNHKを、ウェルあたり細胞50,000個の量で、48ウェルマイクロプレートの完全無血清培地(KSFMc、Gibco)中に播種した。
この最初の培養日は、D0に対応する。
NHKを24時間インキュベーション(37°C、5%CO)した後のD1に、処理段階を開始した。
培地を除去した後、これを、試験される抽出物又は陽性対照、或いは溶媒対照(T−SO)を含有する新しいKSFMc培地と交換した。各処理を3回行った。
16時間の処理、すなわち細胞周期の過程でサバイビンの発現ピークに対応する期間の後、NHKをハーフプレート上に溶解し、アッセイを行った(溶解バッファーを、Smac/DIABLOタンパク質アッセイキットに記載されるプロトコールに従って即席で調製した(下記を参照のこと))。他のハーフプレートをPBSですすぎ、次いで−20°Cで保存し、その中の総タンパク質を、570nmでの吸光度測定により、BCA法(BC Assay Kit、Uptima Interchim)に従った比色試験によってアッセイした。
【0076】
2.3アッセイ法
ケラチノサイトにより産生されたSmac/DIABLOのレベルは、Duoset Smac/DIABLO ELISAキット(R&D Systems)を用いて評価した。
発色団、ここではHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)に結合したストレプトアビジンの添加により、過酸化水素の存在下でのその基質(テトラメチルベンジジン)の添加によって、HRPの酵素活性の評価が可能になった。
硫酸により酵素反応を阻止した後、その濃度に比例する比色反応によってSmac/DIABLOの存在が明らかになった。
吸光度は、450nmの波長で測定可能であった。
キット内に提供されたSmac/DIABLOの標準原液の希釈に基づいて、標準範囲を作成した。
【0077】
2.4−NHK可溶化液におけるSmac/DIABLOタンパク質のアッセイの結果
結果を図1に示す。結果は、総タンパク質1μg当たりのSmac/DIABLOタンパク質のpg(pg/μg タンパク質)で示す。
【0078】
このタンパク質の産生阻害百分率を、処理なし(T−SO)の基準レベルに対して計算した。陽性対照はフォルスコリン(FSK)である。
【0079】
結論
試験した本発明の4種類の各抽出物は、陽性対照の効率を上回ることができる効率で、NHK中のミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOの発現の減少に有意な活性(S−1:−39%;S−2:−54%;S−3:−39%;S−4:−29%)を示した。
【0080】
対照的に、デンドロビウム・クリソトキサムの根抽出物及びグラマトフィラムsp.の葉抽出物は、Smac/DIABLOタンパク質の発現に対して有意な阻害効果を有していない。DMSO指標を用いたタンパク質濃度の差は、デンドロビウム・クリソトキサム根抽出物では−9%以下であり、グラマトフィラムsp.葉抽出物では−13%以下である。
【0081】
極性溶媒を使用する抽出工程によって得ることができる本発明の抽出物を、化粧用組成物中の老化防止活性剤として、特に、皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進するために製剤化した。
【0082】
実施例3−顔用の老化防止クリーム
この化粧用組成物中で活性剤として使用されるデンドロビウム・クリソトキサムの花の抽出物を、実施例1(抽出物S−1)の工程を再現することによって得た。
乾燥抽出物を、60/40v/vのグリセロール/水混合物中に2%w/wで溶解した。
この抽出物の溶液を、活性剤として下記の化粧用組成物(最終組成物に対して重量%で表した)の調製に使用した。
【0083】
A相
デンドロビウム・クリソトキサム抽出物の2%溶液 1
フェノキシエタノール 0.5
キサンタンガム 0.2
アクリレート/C20〜30アルキルアクリレートクロスポリマー 0.2
EDTA四ナトリウム 0.1
水 適量
適量:A相の化合物を溶解するのに十分な量
【0084】
B相
水素化ポリイソブテン 4
スクアラン 3
カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 3
ペンチレングリコール 3
ステアリン酸グリセリル 3
PEG−100ステアリン酸 2.5
蜜蝋 1.5
炭酸ジカプリリル 1.5
セチルアルコール 1
ステアリルアルコール 1
ジメチコン 1
【0085】
C相
水酸化ナトリウム 0.04
水 適量 100
適量100:100%の最終組成物に十分な量
【0086】
A相の添加剤を、水中に分散させ、次いで80°Cまで加熱した後、デンドロビウム・クリソトキサム抽出物の水−グリコール溶液を含む全ての他の化合物を溶解させた。
B相の化合物を85°Cまで加熱し、均一相を形成した。
Ystralミキサーを用いて、A相をB相中に乳化させた。
最後に、このようにして得られた水中油型エマルションを、水酸化ナトリウムの0.04%w/w溶液(C相)を用いて中和し、次いで冷却した。
得られた組成物は、顔の全体又は一部に塗布することを意図した老化防止クリームである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性剤としてのデンドロビウム・クリソトキサムのランの花の少なくとも1種の抽出物、及び化粧用に許容できる少なくとも1種の添加剤を含む化粧用組成物。
【請求項2】
前記抽出物が、ミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOの発現及び/又は活性を阻害することを特徴とする、請求項1に記載の化粧用組成物。
【請求項3】
前記抽出物が、水、C〜Cアルコール、好ましくはエタノール、好ましくはグリセロール、ブチレングリコール及びプロピレングリコールから選択されるC〜Cグリコール、或いはそれらの任意の混合物から有利に選択される極性溶媒又は極性溶媒の混合物を用いて得られることを特徴とする、請求項1又は2に記載の化粧用組成物。
【請求項4】
前記抽出物が、少なくとも50%v/vのエタノール及び100%v/vまでのエタノールを含む溶媒を用いて得られ、必要な場合、残部は別の極性溶媒、特に水からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化粧用組成物。
【請求項5】
組成物の全重量に対して0.0001重量%〜1重量%の乾燥抽出物、好ましくは0.001重量%〜0.01重量%の乾燥抽出物を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化粧用組成物。
【請求項6】
デンドロビウム・クリソトキサムのランの花の抽出物と、精製物質及び/又は抽出物、特に植物抽出物の形態をとる、化粧用に許容できる他の活性剤との組合せを含むこと特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化粧用組成物。
【請求項7】
デンドロビウム・クリソトキサムのラン若しくは別のランの別の部分の少なくとも1種の抽出物、又はそのような抽出物から精製した物質を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化粧用組成物。
【請求項8】
サバイビンの発現及び/又は活性を刺激する、フォルスコリンなどの1種若しくは複数の他の活性剤、又はこれらを含有する抽出物、特にコレウス・フォレスコリの抽出物、或いはまた、イシクラゲ、ツルハナモツヤクノキ、ネオクロリス・オレオアブンダンス、セネデスムス・ジモルファス、ウコン、サフラン、ダニエリア・オリベリ、レペチニア・カウレセンス、リムノフィラ・コンフェルタ、及びそれらの任意の混合物から選択される植物種より得られる植物抽出物を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化粧用組成物。
【請求項9】
許容できる化粧品添加剤が、顔料、着色剤、ポリマー、界面活性剤、レオロジー剤、香料、電解質、pH調整剤、抗酸化剤、保存料、及びそれらの混合物のいずれか1種の中から選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化粧用組成物。
【請求項10】
皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進することを意図した、活性剤としての、デンドロビウム・クリソトキサムのランの花の少なくとも1種の抽出物の化粧用組成物における使用。
【請求項11】
組成物自体が、皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進することを意図していることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
抽出物又は組成物が、請求項2〜8のいずれか一項に規定された通りであること特徴とする、請求項10又は11に記載の使用。
【請求項13】
特に、皮膚老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる若しくは軽減するか、或いは細胞又は組織寿命も促進するための美容ケアの方法であって、請求項1〜9のいずれか一項に記載の有効量の化粧用組成物を、顔又は身体の皮膚の少なくとも一部に塗布することを含む方法。
【請求項14】
前記化粧用組成物が、しわ若しくは小じわの存在、又は肌つやの輝き喪失などの視覚的老化の徴候、或いは皮膚の弾力及び/又は張りの喪失、皮膚の厚さの減少、及び/又は皮膚の乾き若しくは粗さの増大などの他の徴候を示す、身体又は顔の皮膚ゾーンに塗布されること特徴とする、請求項13に記載の美容ケアの方法。
【請求項15】
とりわけ、しわ若しくは小じわの存在、又は肌つやの輝き喪失などの視覚的老化の徴候、或いは皮膚の弾力及び/又は張りの喪失、皮膚の厚さの減少、及び/又は皮膚の乾き若しくは粗さの増大などの他の徴候を示す個人の皮膚の少なくとも1つの領域への局所塗布により、皮膚の内因性及び/又は外因性老化の徴候出現を予防若しくは遅延させ、又はその影響を遅らせる組成物を調製するための、デンドロビウム・クリソトキサムのランの花の少なくとも1種の抽出物の有効量の使用。
【請求項16】
個人が35歳過ぎである、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
ミトコンドリアタンパク質Smac/DIABLOの発現及び/又は活性を阻害する、特にデンドロビウム・クリソトキサム種のラン花抽出物。
【請求項18】
前記抽出物が、極性溶媒又は極性溶媒の混合物を用いて得られることを特徴とする、請求項17に記載のラン抽出物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−67098(P2012−67098A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−194093(P2011−194093)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(502189579)エルブイエムエイチ レシェルシェ (68)
【Fターム(参考)】