説明

データキャリア構造及びその設置構造

【課題】 本発明は、従来のデータキャリアを利用した可撓性及び防水性に優れたラベル、特に金属等の導電性部材の表面に設置するラベルとして好適なデータキャリア構造及びその設置構造を提供することを可能にすることを目的としている。
【解決手段】 データキャリア1の両面を樹脂シート7,8で保護し、その樹脂シート7,8の外側に可撓性及び防水性を有する金属シート11,12を配置し、一方の金属シート11は通信側に配置されて該金属シート11を介してデータキャリア1が電磁誘導作用により外部との間で通信可能な厚さに形成され、他方の金属シート12とその内側の樹脂シート8との間に高透磁性及び可撓性を有する磁束遮蔽シート13が配置され、該金属シート12が導電性部材3への設置側に配置されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性部材の表面に設置される可撓性のデータキャリア構造及びその設置構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般機械、自転車やオートバイク等の輸送機械、橋梁等の屋外設備等の物体は、その管理、使用、メンテナンスに際して、その特性、若しくは仕様、製造者や製造年月日、メンテナンス履歴等の物体に関する固有の情報を使用、もしくは作業現場において迅速に入手する必要がある。
【0003】
そのため、従来から物体の表面に必要な情報を記載したラベルを貼着する方法が行われている。一般に用いられているラベルは必要な情報を印刷した紙片に粘着層を積層したものであり、物体の表面に貼着して取り付けるようになっている。このような紙ラベルは可撓性を有するため、自転車やオートバイクの車輪カバーやハンドル、または橋桁の金属管のような曲面上にも容易に貼着出来る利点がある。
【0004】
しかし、紙ラベルは年月の経過により次第に汚損が進むので、印刷された情報の判読が次第に困難になり、または物体表面から剥がれる等により消失しやすいという問題があった。特に屋外において使用される物体に貼着した紙ラベルでは、その傾向が大きい。更に紙ラベルには記載出来る情報量が少ないという問題もある。
【0005】
近年、このような紙ラベルの問題に鑑み、それ代わって多くの情報量が担持出来る安定なラベルとしてデータキャリア(若しくは、RFIDタグ(Radio Frequency IDentification TAG))を利用した電子ラベルが開発されている。
【0006】
図5は従来のデータキャリア1を利用した電子ラベル(以下、「データキャリア構造」という。)9を模式的に示した断面図である。尚、図5は理解を容易にするため、その厚さ方向の寸法を拡大して示している。従来のデータキャリア1を利用したデータキャリア構造9は、図5に示すように、全体が平面状に形成され、IC(Integrated Circuit)回路4に接続した円板状(円形)のアンテナコイル2を有し、全体が平面状に形成されたデータキャリア1と、その両外側面に例えばラミネートにより積層した薄い樹脂シート7,8により構成され、曲面上にも容易に貼着出来るように可撓性を有している。そしてデータキャリア1とリーダライタ等の通信装置6との間の電磁波通信は図5の点線で示す磁束Hにより行われる。
【0007】
しかし、従来のデータキャリア構造9は、両面の樹脂シート7,8が外部からの紫外線により徐々に劣化し、微細な亀裂やピンホール等が発生するという問題がある。これら微細な亀裂やピンホール等が発生すると防水性が低下し、外部から侵入する湿気または水分により内部のデータキャリア1が損傷を受けて通信不可能になることがある。
【0008】
それを解決するために、紫外線による劣化が内部まで進行する時間を長くするように厚い樹脂シート7,8を用いると、データキャリア構造9の可撓性が損なわれるという別の問題が発生する。更にこのデータキャリア構造9を金属等の導電性部材3の表面に設置すると、データキャリア1のアンテナコイル2を通るべき磁束Hが導電性部材3を通ってバイパスするので、その通信感度が低くなるという問題がある。
【0009】
一方、平板状のデータキャリア1が外部の腐食ガスや紫外線の影響を受けないように、その両面を2枚の薄い金属層で覆い、その金属層を介して電磁誘導作用によりリーダライタ等の通信装置6との間で電磁波通信を行う技術が特開2003−208588号公報(特許文献1)に記載されている。
【0010】
ここで、図6を参照して特許文献1の電磁誘導作用による通信原理について説明する。データキャリア構造はデータキャリア1と、それを保護する金属層5を備え、データキャリア1は金属層5を介してリーダライタ(R/W)機等の通信装置6との間で通信を行う。
【0011】
例えば、通信装置6のアンテナコイルからからデータキャリア構造に読み込み信号を電磁波Hとして送信すると、その電磁波Hにより金属層5の内部に表皮電流Iが発生し、その表皮電流Iによりデータキャリア構造の内部に電磁波Hが発生する。
【0012】
即ち、通信装置6から送信された電磁波Hは金属層5を通しての電磁誘導作用によりデータキャリア1に電磁波Hを伝送することが出来る。逆にデータキャリア1のアンテナコイル2からの応答電磁波も金属層5を通しての電磁誘導作用により通信装置6に伝送される。
【0013】
通信に使用される電磁波の周波数は数百Hz〜数MHzの範囲で種々選択されるが、そのような高周波の電磁波が金属層5に照射されると前述のように金属層5中には表皮電流Iが発生するが、その表皮電流Iの厚さdは(πfμρ)の1/2乗に反比例することが分かっている。ここでfは電磁波の周波数、μは金属層5の誘電率、ρは金属層5の抵抗率である。
【0014】
そして、金属層5を通しての電磁誘導作用により通信を行うには金属層5の厚さtをt≦dとする必要があり、表皮電流Iの厚さdを一定とすれば、金属層5の厚さtの値がそれより小さいほど通信感度が向上することが分かった。
【0015】
しかし、金属層5の厚さtの値が小さいほど(即ち、金属層5が薄いほど)、その強度が低下し、ある限界に達すると、データキャリア1を保護する機能が果たせなくなる。そこで実用的な保護強度を達成しながら電磁誘導作用で通信可能とするには、表皮電流Iの厚さdを大きく出来る金属材料を適宜選択することで対応可能であることが判明した。
【0016】
更に別の技術として、導電性部材3の表面にデータキャリア1を設置する場合、磁束Hが導電性部材3側を通ることを防止するためにデータキャリア1と導電性部材3との間にアモルファス磁性シート等の高透磁性シートを配置することが特開2003−108966号公報(特許文献2)に記載されている。
【0017】
【特許文献1】特開2003−208588号公報
【特許文献2】特開2003−108966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、前述の特許文献1のデータキャリア構造も、それを金属等の導電性部材3の表面に設置するとデータキャリア1のアンテナコイル2を通るべき磁束Hが導電性部材3を通ってバイパスするので、その通信感度が低下するという問題がある。
【0019】
また、特許文献2の技術は、データキャリア構造の外側に高透磁性シートを配置したものであり、全体の防水性は考慮されていない。
【0020】
本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、従来のデータキャリアを利用した可撓性及び防水性に優れたラベル、特に金属等の導電性部材の表面に設置するラベルとして好適なデータキャリア構造及びその設置構造を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するための本発明に係るデータキャリア構造の第1の構成は、円板状のアンテナコイルを有するデータキャリアの両面をそれぞれ樹脂シートで保護した可撓性のデータキャリア構造において、前記各樹脂シートの外側に可撓性及び防水性を有する金属シートがそれぞれ配置され、その一方の金属シートが通信側とされ、他方の金属シートが導電性部材への設置側とされ、前記一方の金属シートは、それを介して前記データキャリアが電磁誘導作用により外部との間で通信可能な厚さに形成されており、前記他方の金属シートとその内側の樹脂シートとの間に高透磁性及び可撓性を有する磁束遮蔽シートが配置されていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係るデータキャリア構造の第2の構成は、前記第1の構成において、前記磁束遮蔽シートは、前記アンテナコイル面の少なくとも半分と重なるように配置されることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係るデータキャリア構造の第3の構成は、前記第1、第2の構成において、前記金属シートは、アルミニウムシートまたはステンレスシートにより構成されることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係るデータキャリア構造の第4の構成は、前記第3の構成において、前記アルミニウムシートの厚さは、0.01mm以上、且つ0.1mm以下の範囲であり、前記ステンレスシートの厚さは、0.01mm以上、且つ1.0mm以下の範囲であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係るデータキャリア構造の第5の構成は、前記第1〜第4の構成において、前記磁束遮蔽シートは、アモルファス磁性シートであることを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係るデータキャリア構造の第6の構成は、前記第1〜第5の構成において、前記各金属シートの外側に更に樹脂コーティング層または塗料層が形成されていることを特徴とする。
【0027】
また、本発明に係るデータキャリアの設置構造は、前述の第1〜第6のデータキャリア構造を導電性部材の表面に設置した構造であって、前記データキャリア構造は、前記他方の金属シート側が前記導電性部材の表面側になるようにして該導電性部材に設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るデータキャリア構造の第1の構成によれば、樹脂シートの両外側に配置した金属シートにより外部からの浸水を防止し、且つその内側の樹脂シートが紫外線で劣化することを阻止出来るので、外側の金属シートと内側の樹脂シートとの相乗効果によりデータキャリアの浸水等のよる損傷を確実に防止することが出来る。
【0029】
また、通信側の金属シートは、それを介してデータキャリアが前述した電磁誘導作用により外部との間で通信可能な厚さに形成されているので、データキャリアとしての通信機能が十分に確保出来る。
【0030】
また、導電性部材へ設置する側の金属シートとその内側の樹脂シートの間に高透磁性を有する磁束遮蔽シートを配置しているので、データキャリア構造を金属等の導電性部材の表面に設置した場合に、そのデータキャリアのアンテナコイルを通るべき磁束が導電性部材にバイパスして減少するのを防止出来る。しかも磁束遮蔽シートは防水性を有する金属シートの内側に配置されているので、例えばフェライト粉末の成形によって作られたアモルファス磁性シートを使用したとしても、それが湿気による劣化や機能低下を起こす恐れもない。
【0031】
また、本発明に係るデータキャリア構造の第2の構成によれば、上記データキャリア構造において、磁束遮蔽シートをアンテナコイル面の少なくとも半分と重なるように配置したことにより、磁束遮蔽シートの使用量を少なく出来、しかも後述する実験データから分かるように実用的な通信感度も十分に確保出来る。
【0032】
また、本発明に係るデータキャリア構造の第3の構成によれば、上記いずれかのデータキャリア構造において、金属シートをアルミニウムシートやステンレスシートにより構成したことにより、安価な材料で防水性や通信機能を十分に確保出来る。
【0033】
また、本発明に係るデータキャリア構造の第4の構成によれば、上記データキャリア構造において、上記アルミニウムシートの厚さを、0.01mm以上、且つ0.1mm以下の範囲に設定し、或いは上記ステンレスシートの厚さを、0.01mm以上、且つ1.0mm以下の範囲に設定することでデータキャリア構造を可撓性に保ち、且つ通信装置との間で電磁誘導作用による通信が可能である。
【0034】
また、本発明に係るデータキャリア構造の第5の構成によれば、上記いずれかのデータキャリア構造において、上記磁束遮蔽シートをアモルファス磁性シートとしたことにより、それが薄い層であっても導電性部材に対する十分な磁束遮蔽効果を発揮出来る。
【0035】
また、本発明に係るデータキャリア構造の第6の構成によれば、上記いずれかのデータキャリア構造において、上記各金属シートの外側に更に樹脂コーティング層または塗料層を形成することにより、金属シートの周囲に腐食性ガスが存在するような場合でも、腐食性ガスから金属シートを保護出来る。
【0036】
また、本発明に係るデータキャリア構造の設置構造によれば、上記データキャリア構造は他方の金属シート側が導電性部材の表面側になるようにして設置されているので、防水性及び実用的な通信感度を十分に確保出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
図により本発明に係るデータキャリア構造及びその設置構造の一実施形態を具体的に説明する。図1は本発明に係るデータキャリア構造を模式的に示す断面説明図、図2は図1のA−A断面説明図、図3は図1に示すIC回路のブロック図、図4は本発明に係るデータキャリア構造の通信実験の方法を説明する模式図である。
【0038】
図1及び図2において、本実施形態のデータキャリア構造10は、図5に示して前述したデータキャリア構造9を用い、その外側に新たな部材を積層したものである。即ち、従来のデータキャリア構造9をそのまま利用して本発明のデータキャリア構造10が構成される。
【0039】
本実施形態のデータキャリア構造10は、IC回路4に接続した円板状(円形)のアンテナコイル2を有するデータキャリア1と、その両面外側に例えばラミネートにより積層した可撓性を有する樹脂シート7,8を備えており、該樹脂シート7,8により可撓性のデータキャリア構造10が保護されている。
【0040】
樹脂シート7の外側には可撓性及び防水性を有する一方の金属シート11が接着剤により接着されて積層配置され、樹脂シート8の外側には高透磁性及び可撓性を有する磁束遮蔽シート13が粘着剤または接着剤により接着されて積層配置される。一方の金属シート11は通信装置6への通信側に配置され、該金属シート11を介してデータキャリア1が電磁誘導作用により外部との間で通信可能な厚さに形成される。
【0041】
更に磁束遮蔽シート13の外側には可撓性及び防水性を有する他方の金属シート12が接着剤により接着されて積層配置される。そして、他方の金属シート12は接着剤により樹脂シート8及び磁束遮蔽シート13と一体化される。他方の金属シート12は導電性部材3への設置側に配置される。
【0042】
尚、上記各接着剤は、例えば一方の金属シート11、他方の金属シート12、磁束遮蔽シート13等の裏面に予め設けられた剥離紙付きの接着剤を用いることが出来る。そして、このように構成されたデータキャリア構造10は全体として可撓性を有する。
【0043】
一方の金属シート11と他方の金属シート12は、例えば、その厚さが0.01mm以上、且つ0.1mm以下の範囲のアルミニウムシートまたはオーステナイト系(例えばSUS304)等のステンレスシートで構成出来る。
【0044】
アルミニウムシートは薄膜であれば通信可能であることが判明しており、その通信可能なアルミニウムシートの厚さの範囲は0.10mm以下であり、十分な可撓性及び防水性を発揮しつつ通信可能な更に好ましい範囲は、0.01mm以上、且つ0.06mm以下である。
【0045】
また、ステンレスシートにおける通信可能なステンレスシートの厚さの範囲は1.00mm以下であり、十分な可撓性及び防水性を発揮しつつ通信可能な更に好ましい範囲は、0.01mm以上、且つ0.05mm以下である。
【0046】
本実施形態のデータキャリア構造10の金属シート11,12としてアルミニウムシートを採用する場合には例えば厚さ30μm程度の市販のアルミ箔を用いることが出来る。
【0047】
アルミニウムやステンレス材料を用いると極めて薄いシート層が容易に製造出来、上記範囲のアルミニウムシートやステンレスシートの層はそれを介しての電磁誘導作用による通信を実用的な通信感度で行うことが出来る。
【0048】
磁束遮蔽シート13は、データキャリア構造10を金属等の導電性部材3の表面に接着剤等を介して設置する場合に、通信に用いる磁束Hが導電性部材3にバイパスすることを抑制してアンテナコイル2を効率良く貫通するために設けられる。
【0049】
本実施形態のデータキャリア構造10では、図2に示すように、磁束遮蔽シート13がアンテナコイル2のアンテナコイル面の略半分と重なるように配置されている。しかし磁束遮蔽シート13はアンテナコイル2のアンテナコイル面の少なくとも半分から全面までの範囲で重なるように配置することが出来、その重なり面積が大きくなるほど磁束遮蔽効果は大きくなる。
【0050】
本実施形態では、アンテナコイル2のアンテナコイル面の半分程度と磁束遮蔽シート13の端部表面は互いに平行して接近状態でオーバーラップして対向配置され、それによって磁束遮蔽シート13で吸収して補足した磁束Hをアンテナコイル2に効率良く伝達し、逆にアンテナコイル2で発生した磁束Hを磁束遮蔽シート13に効率良く伝達することが出来る。
【0051】
磁束遮蔽シート13は例えばアモルファス磁性シートを用いることが出来る。一般にアモルファス磁性シートの比透磁率は数万から数百万の範囲にあり、極めて比透磁率が高い。例えば米国のアライドケミカル社から市販されているFe―Ni―Mo―B−S系で比透磁率が80万のアモルファス磁性シートがあり、更に、類似組成でより高比透磁率のアモルファス磁性シートが日立金属(株)から市販されており、いずれも本発明のデータキャリア構造10の磁束遮蔽シート13として適用出来る。
【0052】
アモルファス磁性シートの特徴としては透磁率が高い、保磁力が小さい、鉄損が小さく、ヒステリシス損失、渦電流損失が少ない、磁歪を広い範囲で制御出来る、電気抵抗率が高く温度変化が小さい、熱膨張係数や剛性率の温度係数が小さいこと等がある。
【0053】
このような高比透磁率のアモルファス磁性シートは、その周囲に金属製の物体が接近する場合でも、データキャリア1のアンテナコイル2と導電性部材3との間を電磁的に遮蔽することが出来、導電性部材3へバイパスしようとする磁束Hを遮蔽して通信感度の低下を防止することが出来る。
【0054】
しかしながら、アモルファス磁性体の単位重量当たりの価格は現状では非常に高い。従って、アモルファス磁性体をシート状とすることで、少ない材料でも通信距離の拡大効果が高く、コスト的にも極めて有利である。
【0055】
また、アモルファス磁性シートは、例えば10μm〜50μm程度の厚さとすることにより、可撓性と実用上の強度の両者を満たすことが出来る。また、シート状であるため重量増加が極めて少なく、軽量化を図ることが出来、好ましい。
【0056】
アモルファス磁性シートは、アモルファス合金をシート状に形成したものであり、この非晶質合金は一般に超急冷法により靱性のある箔体に形成される。
【0057】
また、このアモルファス合金はフレーク状に形成することが出来る。このフレーク状に形成されたアモルファス合金は、例えば、株式会社リケン製のアモリシックシート(商品名)のようにシート状に形成される。
【0058】
即ち、このアモリシックシートは高透磁率コバルトアモルファス合金の笹の葉状フレークを絶縁フィルムに均一に分散し、サンドイッチ状に固定したシートである。また、フレーク状のアモルファス磁性体を散布した状態で、これをシート状に成形することにより構成した磁束遮蔽シート13を使用することでも良い。
【0059】
また、磁束遮蔽シート13としてフェライト系アモルファス磁性シートを採用することも出来る。フェライト系アモルファス磁性シートとしては、例えば日立金属製の商品名「ファイメットシート」、型式FT-3M、比透磁率100000、厚さ30μmが市販されており、フェライト系アモルファス磁性シートの厚さは可撓性を有する例えば18μm〜30μm程度の厚さ範囲とされる。
【0060】
図3において、アンテナコイル2は導線を空芯コイルに巻回して形成した同心円板状のアンテナコイルであり、4は記憶部となるメモリ4bを有する半導体ICチップ(制御チップ)からなるIC回路である。
【0061】
IC回路4は制御部となるCPU(中央演算装置)4a、書き込み可能な不揮発性記憶素子を有する記憶部となるメモリ4b、送受信部となる送受信機4c及び電力貯蔵用のコンデンサ4d等を有している。
【0062】
上記データキャリア1の送受信方法を図3により説明すると、先ずリーダライタ機等の通信装置6が最初のステップでデータキャリア1の呼び出し及び電力送信用の電磁波を送信すると、データキャリア1はその電磁波をアンテナコイル2と送受信回路からなる送受信機4cの同調作用により受信し、その電力をコンデンサ4dに貯蔵する。これによってデータキャリア1は作動状態になるので、次のステップでリーダライタ機からデータキャリア1に読み出し用の電磁波を送信する。
【0063】
電磁波はデータキャリア1のアンテナコイル2から送受信機4cを経てCPU4aに入力され、該CPU4aはそれに応じて必要な情報をメモリ4bから読み出し、その情報を送受信機4cからアンテナコイル2を経て電磁波としてリーダライタ機に送信する。リーダライタ機からデータキャリア1のメモリ4bにデータを書き込む場合も上記方法に準じて実行される。尚、これ等一連のステップは略瞬時に行われる。
【0064】
一般に電磁波は90度の位相差をもって交流的に伝播する電界と磁界により表すことが出来、その磁界とアンテナコイル2が鎖交することにより該アンテナコイル2に流れる電流(高周波電流)を利用して送受信が行われる。
【0065】
例えば、アンテナコイル2から電磁波が送信される場合は、アンテナコイル2に流れる高周波電流により高周波の磁界成分がアンテナコイル2の中心を通るループ(磁束Hループ)として分布し、この磁束H領域にリーダライタ機のアンテナコイルを置くと、リーダライタ機はデータキャリア1からの情報を受信出来る。
【0066】
同様にリーダライタ機から電磁波を送信する場合にも、データキャリア1のアンテナコイル2の周囲に磁界成分が分布し、それをアンテナコイル2が受信することになる。
【0067】
上記データキャリア構造10の電磁波通信に用いる周波数(通信周波数)は、この分野で使用されている数十kHz〜数百MHzの範囲、例えば慣用されている125kHz、13.56MHz等の周波数に適宜設定することが出来る。この周波数は例えばデータキャリア1の送受信機4cの共振周波数を適宜選択することにより簡単に設定出来る。
【0068】
金属シート11,12の外側には更に樹脂コーティング層または塗料層を形成することが出来る。
【0069】
このようなデータキャリア構造10を導電性部材3の表面に設置する場合には、他方の金属シート12側が導電性部材3の表面側になるようにして該導電性部材3に設置する。
【0070】
以下に図4に示す実験装置を用いて、本発明に係るデータキャリア構造10を導電性部材3の表面に配置した状態で、その通信距離を測定した実験結果について具体的に説明する。
【0071】
<実験の概要>
図4は実験方法を説明する模式的な図であり、導電性部材3の上に金属シート12、磁束遮蔽シート13を順次積載して配置し、その上にデータキャリア1を配置した。さらにデータキャリア1の上に金属シート11を配置した。
【0072】
データキャリア1は、円板状のアンテナコイル1とIC回路4との両側を可撓性の樹脂シート7,8で封止した構造を有し、周波数125kHzのASK(Amplitude Shift Keying;振幅偏移変調)の無線通信方式を採用し、全体の直径が30mmφ、厚さ0.6mmに構成したもの(株式会社ハネックスから市販されている商品名「Clear Disk Tag 30mm UNIQE)を使用した。
【0073】
導電性部材3は幅100mm、長さ200mm、厚さ0.5mmのアルミニウム板を使用し、金属シート11,12は縦50mm、横50mm、厚さ0.06mmのアルミニウムシートを使用し、磁束遮蔽シート13は縦25mm、横25mm、厚さ0.14mmの高透磁率のフェライト系アモルファス磁性シートを使用した。そして、これらデータキャリア1、金属シート11,12及び磁束遮蔽シート13により本発明のデータキャリア構造10の1例を模擬的に構成した。
【0074】
データキャリア1と通信装置6との間の通信距離を測定するために、図4に示すように、データキャリア1の中央部上方に通信装置6としてリーダライタ(株式会社ハネックス製、商品名「HX001」)の測定部6aを配置した。測定部6aは長さ28mm、直径9mmのフェライトアンテナ(フェライトロッドにアンテナコイルを巻回して構成したもの)であり、その軸方向をデータキャリア1のアンテナコイル面に垂直(図4の実線で示す測定部6a)に配置した垂直通信実験と、その軸方向をデータキャリア1のアンテナコイル面に平行(図4の点線で示す測定部6a)に配置した場合のそれぞれについて通信実験した。尚、通信距離はリーダライタによりデータキャリア1に記憶された情報内容を読み取ることができる距離をmm単位で測定した。
【0075】
<基礎実験>
先ず通信感度の基準を知るため、基礎実験を行った。基礎実験は図4における金属シート11及び磁束遮蔽シート13を取り除いた状態で行った。その結果、測定部6aを垂直配置(図4の実線で示す測定部6a)した場合の通信距離は17mmであり、測定部6aを水平配置(図4の点線で示す測定部6a)した場合の通信距離は10mmであった。
【0076】
<実施例1>
次に図4のように構成したデータキャリア構造10の通信距離を測定した。その結果、測定部6aを垂直配置(図4の実線で示す測定部6a)した場合の通信距離は18mmであり、測定部6aを水平配置(図4の点線で示す測定部6a)した場合の通信距離は12mmであった。
【0077】
<実施例2>
次に図4における磁束遮蔽シート13の左縁がデータキャリア1の中心線(円板状のアンテナコイル2の中心線)に一致するように右方にずらせた状態(即ち、図1及び図2に示す状態)で前記実施例1と同様に通信距離を測定した。その結果、測定部6aを垂直配置(図4の実線で示す測定部6a)した場合の通信距離は16mmであり、測定部6aを水平配置(図4の点線で示す測定部6a)した場合の通信距離は15mmであった。
【0078】
<比較例>
次に図4における磁束遮蔽シート13を取り除いた状態で前記実施例1と同様に通信距離を測定した。その結果、測定部6aを垂直配置(図4の実線で示す測定部6a)した場合の通信距離は12mmであり、測定部6aを水平配置(図4の点線で示す測定部6a)した場合の通信距離は3mmであった。
【0079】
本発明のデータキャリア構造10は導電性部材3の表面に配置した状態において、前記実施例1から明らかなように、データキャリア1の上側(通信側)に金属シート11が存在する場合でも、前記基礎実験と略同様な通信距離が得られる。また、前記実施例2の結果から、磁束遮蔽シート13をアンテナコイル2のアンテナコイル面の半分と重複させた場合でも、それほど通信距離が落ちないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のデータキャリア構造は以下の導電性部材、特にそれらの曲面上に好適に設置できる。(1)自転車、オートバイク等の輸送機械の金属製の車輪カバー、支柱、ハンドル等、(2)道路や施設に設置した金属製のポールや手すり等、(3)屋外に設置される水または液の処理装置、(4)屋外で使用される工事車両や工具等。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係るデータキャリア構造を模式的に示す断面説明図である。
【図2】図1のA−A断面説明図である。
【図3】図1に示すIC回路のブロック図である。
【図4】本発明に係るデータキャリア構造の通信実験の方法を説明する模式図である。
【図5】従来のデータキャリア構造の一例を説明する図である。
【図6】電磁誘導作用による通信原理について説明する模式図である。
【符号の説明】
【0082】
1…データキャリア
2…アンテナコイル
3…導電性部材
4…IC回路
4a…CPU
4b…メモリ
4c…送受信機
4d…コンデンサ
5…金属層
6…通信装置
6a…測定部
7,8…樹脂シート
9,10…データキャリア構造
11,12…金属シート
13…磁束遮蔽シート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状のアンテナコイルを有するデータキャリアの両面をそれぞれ樹脂シートで保護した可撓性のデータキャリア構造において、
前記各樹脂シートの外側に可撓性及び防水性を有する金属シートがそれぞれ配置され、その一方の金属シートが通信側とされ、他方の金属シートが導電性部材への設置側とされ、
前記一方の金属シートは、それを介して前記データキャリアが電磁誘導作用により外部との間で通信可能な厚さに形成されており、
前記他方の金属シートとその内側の樹脂シートとの間に高透磁性及び可撓性を有する磁束遮蔽シートが配置されていることを特徴とするデータキャリア構造。
【請求項2】
前記磁束遮蔽シートは、前記アンテナコイル面の少なくとも半分と重なるように配置されることを特徴とする請求項1に記載のデータキャリア構造。
【請求項3】
前記金属シートは、アルミニウムシートまたはステンレスシートにより構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のデータキャリア構造。
【請求項4】
前記アルミニウムシートの厚さは、0.01mm以上、且つ0.1mm以下の範囲であり、前記ステンレスシートの厚さは、0.01mm以上、且つ1.0mm以下の範囲であることを特徴とする請求項3に記載のデータキャリア構造。
【請求項5】
前記磁束遮蔽シートは、アモルファス磁性シートであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のデータキャリア構造。
【請求項6】
前記各金属シートの外側にさらに樹脂コーティング層または塗料層が形成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のデータキャリア構造。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のデータキャリア構造を導電性部材の表面に設置した構造であって、
前記データキャリア構造は、前記他方の金属シート側が前記導電性部材の表面側になるようにして該導電性部材に設置されていることを特徴とするデータキャリアの設置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−94568(P2007−94568A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280539(P2005−280539)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000120146)株式会社ハネックス (56)
【Fターム(参考)】