説明

データセンタ空調システム及びその管理方法

【課題】データセンタの空調機への電力供給が停止したときの、温度上昇による電子機器の破損のリスクを低減する。
【解決手段】電子機器140が格納されたラック121には、空調機110からの空気が吸気面121bから吸気され、排気面121cから暖気が排気される。ラック121の排気面121c側にはホットアイルキャップ130が設けられ、ラック121からの暖気は、排気経路を通って空調機110に送られる。空調機110への電力供給が停止したときには、その排気経路内のダクト200のパネル201を開放することで、停止した空調機110を経由してラック121に吸気される暖気の量を減らし、電子機器140の温度上昇を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーバ等の電子機器が収容されるデータセンタの空調システム、及びそのようなデータセンタの空調システムの管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーバ等の電子機器は、例えば、ラックに格納され、室内を空調する空調機を備えたデータセンタに収容される。ラックに格納されて稼働する電子機器は、ラックの所定面側から吸気される空気を利用して冷却され、その冷却の結果生じる暖気は、ラックの別の面側に排気される。従来、冷却効率向上の観点から、ラックの吸気面側(冷気通路(コールドアイル))又は排気面側(暖気通路(ホットアイル))にアイルキャップを設ける(アイルキャッピング)技術が知られている。
【0003】
このほか、室内全体を空調する空調機に加え、吸排気方向をラックと逆向きにして設置したラック型空調機と、コールドアイルやホットアイルに設置したファンとを用いて冷却を行う空調システム、電源遮断時用のバッテリを備えた空調システム等も知られている。また、室内を複数のエリアに分割し、エリア毎に給気量、排気量を制御する空調システム等も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−257718号公報
【特許文献2】特開平8−285343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子機器を格納するラックのホットアイル側にアイルキャップを設けるホットアイルキャッピング方式の空調システムを採用したデータセンタの場合、ラックからの排気は、ホットアイルから空調機に送られて空調機で空調され、空調された空気がコールドアイルに給気される。
【0006】
しかし、ホットアイルキャッピング方式では、停電等によって空調機への電力の供給が停止した場合、ラックからの排気がホットアイルから停止状態の空調機に送られる。停止状態の空調機に送られた排気は、所望の空調が行われずに空調機を経由し、電子機器を格納したラック付近まで達すると、ラック及びそれに格納された電子機器へと吸い込まれ得る。空調機で所望の空調が行われなかった空気が電子機器に吸い込まれると、電子機器の温度が上昇する可能性があり、そのような温度上昇が生じた場合、電子機器の破損のリスクが高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、空調機と、電子機器が格納され、前記空調機からの空気が吸気される吸気部、及び吸気された空気が排気される排気部を備えるラックと、前記排気部を囲うアイルキャップと、前記アイルキャップから前記空調機に通じる排気経路と、前記空調機への電力の供給が停止したときに、前記排気経路の一部を開放する開放装置と、を含むデータセンタ空調システムが提供される。更に、前記空調機への電力の供給が停止したときに、前記開放装置によって、前記排気経路の一部を開放するデータセンタ空調システムの管理方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、空調機への電力の供給が停止したときに、電子機器を格納するラックから空調機までの経路の一部を開放することで、ラックからの排気が停止状態の空調機を経由してラック及び電子機器に吸気される量を減少させることが可能になる。それにより、空調機への電力の供給が停止したときの電子機器の温度上昇を抑制することが可能になり、温度上昇による電子機器の破損のリスクを低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】データセンタの一例を模式的に示す図(その1)である。
【図2】データセンタの一例を模式的に示す図(その2)である。
【図3】電子機器の吸気最高温度の時間変化を示す図(その1)である。
【図4】電子機器の吸気最高温度の時間変化を示す図(その2)である。
【図5】ラック列吸気面側からのデータセンタ内の温度分布の一例を示す図である。
【図6】パネル開放装置の第1の例を示す図である。
【図7】パネル開放装置の第2の例を示す図である。
【図8】パネル開放装置の第3の例を示す図(その1)である。
【図9】パネル開放装置の第3の例を示す図(その2)である。
【図10】電子機器の吸気最高温度の時間変化を示す図(その3)である。
【図11】データセンタのレイアウトの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1及び図2はデータセンタの一例を模式的に示す図である。
ここで、図1は空調機への電力の供給が行われているとき(通電時)の状態を示す図、図2は空調機への電力の供給が停止したとき(停電時)の状態を示す図である。
【0011】
尚、空調機への電力の供給が停止したときとは、次のような場合がある。例えば、データセンタへの電力の供給が停止したことによって、データセンタ内の他の装置と共に、空調機に電力が供給されなくなってしまった場合がある。また、データセンタ内の他の装置(全部又は一部)には電力が供給されているが、何らかの理由で空調機には電力が供給されなくなってしまった場合がある。また、空調機への電力の供給が完全に停止してしまった場合のほか、空調機を安定に動作させることができない、停電を示すレベルまで電力の供給量が低下してしまった場合等も含まれる。
【0012】
まず図1を参照して通電時のデータセンタ100及びその空調システムについて説明する。
図1に示すデータセンタ100は、空調機110、ラック列120、及びホットアイルキャップ130を有している。
【0013】
データセンタ100には、支柱101の上に床パネル102を配置した二重床構造のフリーアクセスフロアが採用されており、その床上空間(室)103に、空調機110、ラック列120、及びホットアイルキャップ130が設置される。
【0014】
床下空間104は、ケーブル類の引き回しに利用されるほか、空調機110からの空気が入ってくるようになっている。床面の一部にはグリル105が設けられており、このグリル105を通して、床下空間104の空気を床上空間103に給気することができるようになっている。尚、勿論、床下空間104と床上空間103との間の空気の行き来は、このグリル105を介した経路に限るものではない。
【0015】
また、床上空間103の上には、天井106で仕切られた天井裏空間107が設けられており、この天井裏空間107は、後述するラック列120からの排気を空調機110まで送るための排気経路の一部として用いられる。
【0016】
空調機110は、データセンタ100の室内、主に床下空間104と床上空間103を空調する。図1及び図2には、空調機110として、室内機のみを図示し、室外機についてはその図示を省略している。尚、室内機には、蒸発器(熱交換器)及び送風器が設けられ、室外機には、圧縮器及び凝縮器(熱交換器)が設けられる。これらは冷媒配管で接続される。
【0017】
通電時の空調機110では、圧縮器で圧縮された高温高圧冷媒が、凝縮器に送られ、室外の空気との熱交換によって凝縮される。凝縮された低温低圧冷媒は、蒸発器に送られ、室内の空気(後述するラック列120からの排気)との熱交換によって蒸発される。この蒸発の際に冷却された空気が送風器で床下空間104に送り出される。蒸発器で蒸発された冷媒は、圧縮器に戻され、再び圧縮されて凝縮器へと送られる。
【0018】
ラック列120は、一列に並設された複数(ここでは一例として符号D〜Hの5つ)のラック121を含んでいる。各ラック121は、多段式となっており、各段121aにサーバ等の電子機器140を格納することができるようになっている。各ラック121は、所定の面が吸気を行うための吸気面121bとされ、別の面が排気を行うための排気面121cとされる。例えば、ラック121の、電子機器140の搬出入を行う前面(正面)が吸気面121bとされ、背面や上面、この例では背面が排気面121cとされる。複数のラック121は、各々の前面(吸気面121b)を同方向に向けて一列に並べられ、ラック列120とされる。
【0019】
ラック列120は、グリル105の位置に合わせて設置される(或いはラック列120の位置に合わせて床面にグリル105が設置される)。通電時には、上記のように、空調機110から空調された空気(冷気)が床下空間104に送り出される。空調機110から床下空間104に送り出された冷気は、グリル105を通してラック列120の吸気面121b側に供給される。ラック列120には、このようにグリル105を介して供給された冷気が吸気面121bから吸い込まれる。これにより、ラック列120の各ラック121に格納された電子機器140の冷却(過熱抑制)が行われ、電子機器140が安全に動作する温度に保たれるようになる。ラック列120の排気面121c側には、電子機器140に吸い込まれ、その冷却に用いられて放出された空気(暖気)が排気される。データセンタ100では、ラック列120の吸気面121b側がコールドアイル100b、排気面121c側がホットアイル100cとなる。
【0020】
尚、データセンタ100には、停電時にも一定期間電子機器140の動作を継続させることができるよう、無停電電源装置が設けられている。
ホットアイルキャップ130は、ラック列120の各ラック121の排気面121c側に、排気面121cを囲うように、設置される。排気面121cからは、ラック121の吸気面121bから入り、中の電子機器140に吸い込まれて放出される暖気が排気される。ホットアイルキャップ130は、ラック121の排気面121cから排気される暖気を囲い込み、その暖気が床上空間103の温度を上昇させ、温度上昇した空気が吸気面121bから吸い込まれるのを抑制する。
【0021】
ホットアイルキャップ130は、天井裏空間107と連通するように設置されている。この天井裏空間107は、これにレタン107aで連通するダクト200で床上空間103の空調機110と連結されている。ホットアイルキャップ130で囲い込まれた暖気は、天井裏空間107に送られ、ダクト200を通って空調機110に送られる。通電時には、このようにホットアイルキャップ130、天井裏空間107及びダクト200を通って空調機110に送られる、ラック列120からの暖気が、空調機110で空調され、床下空間104及びグリル105を通ってラック列120に吸い込まれていく。
【0022】
次に、図2を参照して停電時のデータセンタ100及びその空調システムについて説明する。
まずデータセンタ100では、停電で空調機110への電力の供給が停止した場合、ラック列120の電子機器140の動作が、一定期間は無停電電源装置によって継続される。一方、空調機110の動作は、停電によって停止する。その場合、上記図1に示した状態のままでは、ラック列120から排気された暖気が、ホットアイルキャップ130、天井裏空間107及びダクト200を通って停止状態の空調機110に流入し、充分空調されずに床下空間104に供給されてしまうようになる。そのような空調が充分でない空気が、床下空間104からグリル105を介してラック列120の吸気面121bに吸い込まれ易くなるため、電子機器140が吸い込む空気の温度が上昇し、電子機器140が過熱により破損するリスクが高まってしまう。
【0023】
そこで、このデータセンタ100では、図2に示すように、停電時に、天井裏空間107と空調機110とを連結しているダクト200の前面のパネル201が開放されるようになっている。通電時にはダクトの200のパネルを閉鎖し、停電時にそのパネル201を開放する機構を設けることで、停電時の電子機器140の破損リスクを低減する。尚、このように停電時にダクト200のパネル201を開放する機構の詳細については後述する。
【0024】
データセンタ100では、空調機110への電力の供給が停止すると、ダクト200のパネル201が開放される。パネル201は、ホットアイルキャップ130から空調機110までの排気経路の途中に位置している。空調機110への電力の供給が停止した際、空調機110の手前に位置するパネル201を開放することで、ラック列120から排気された暖気は、空調機110に送られるほか、パネル201が開放された部分から床上空間103に放出される。そのため、ダクト200を通して空調機110に送られる、ラック列120からの暖気の量を、減少させることが可能になる。これにより、ラック列120から排気された暖気が、充分空調されずに空調機110から床下空間104に供給され、更にグリル105を介してラック列120の吸気面121bに吸い込まれるのを抑制し、電子機器140の過熱による破損のリスクを低減する。
【0025】
図3及び図4は電子機器の吸気最高温度の時間変化を示す図である。
ここで、図3には、停電時にダクト200のパネル201を開放しなかった場合(図1の状態のままとした場合)における、ラック列120の各ラック121(D〜H)に格納された電子機器140の吸気最高温度(吸気温度の最高値)の時間変化を例示している。図4には、停電時にダクト200のパネル201を開放した場合(図2の状態とした場合)における、ラック列120の各ラック121(D〜H)に格納された電子機器140の吸気最高温度の時間変化を例示している。
【0026】
停電で空調機110への電力の供給が停止すると、図3及び図4に示すように、D〜Hの各ラック121に格納された電子機器140の吸気最高温度の値は、停電から僅かな時間(10秒〜20秒程度)で上昇し始め、その後、時間の経過に伴って上昇していく。
【0027】
今、仮に電子機器140の許容温度が35℃であるとする。この場合、停電時にダクト200のパネル201を開放しないとすれば、図3より、停電から120秒程度までに電子機器140の冷却措置、例えばその時間内に空調機110への電力供給を復帰する等の措置を講じる必要がある。
【0028】
データセンタ100には、このような停電時に稼働する自家発電設備を備えておくことができる。しかし、停電時にそのような自家発電設備で空調機110に電力を供給するようにしている場合でも、停電から自家発電設備による電力供給が行われるまでにはタイムラグが生じる。図3の例で、電子機器140の許容温度を35℃とした場合、停電から120秒程度までに自家発電設備による電力供給が開始されなければ、電子機器140の破損のリスクが高まることになる。
【0029】
これに対し、停電時にダクト200のパネル201を開放する場合には、図4より、電子機器140の許容温度を35℃とすれば、停電から145秒程度までに電子機器140の冷却措置が講じられればよいことになる。例えば、その時間内に自家発電設備による電力供給を開始するようにすればよい。このように、許容温度に達するまでの時間を延ばすことで、電子機器140の破損のリスクを低減することが可能になる。
【0030】
図5にラック列吸気面側からのデータセンタ内の温度分布の一例を示す。
停電開始(0秒)から同時刻(60秒、120秒、180秒)では、ダクト200のパネル201を開放する場合の方が、閉鎖したままの場合に比べ、パネル201の開放部分から暖気が放出される(X部)。その結果、床上空間103の温度が全体的に上昇する。しかし、停止状態の空調機110を経由して床下空間104に入った空気(Y1部)や、床下空間104からラック列120の吸気面121bに吸い込まれる空気(Y2部)の温度は、パネル201を開放する場合の方が、閉鎖したままの場合に比べ、より低くなる。データセンタ100では、このように停電時にダクト200のパネル201を開放することで、停止状態の空調機110を経由してラック列120に吸い込まれる暖気の量を減らし、電子機器140の過熱を抑制する。
【0031】
続いて、停電時にダクト200のパネル201を開放する機構(パネル開放装置)について説明する。
図6はパネル開放装置の第1の例を示す図である。
【0032】
図6に示すパネル開放装置300Aは、ダクト200本体に、モータ301に連動して回動する連動軸302が設けられており、この連動軸302に連結された折り畳み式のアーム303にパネル201が連結された構造を有している。ダクト200がパネル201で閉鎖されている状態(図6(A))からモータ301が駆動されると、連動軸302が回動し、アーム303が伸びて、パネル201が開放される(図6(B))。モータ301の駆動は、制御部304によって制御される。
【0033】
空調機110には、供給される電力をモニタするモニタ部305が取り付けられている。モニタ部305には、電力量計を用いることができるほか、電流センサ等を用いることもできる。
【0034】
このようなモニタ部305の出力(モニタ結果)が、制御部304に送られる。制御部304は、モニタ部305からの出力が、空調機110への電力の供給が停止したことを示す値である場合には、モータ301を駆動する制御を行い、上記のようなモータ301、連動軸302及びアーム303の動作でパネル201を開放する。パネル開放装置300Aには、停電時にこのようなパネル201の開閉が行えるように、モータ301、制御部304及びモニタ部305に電源を供給するバッテリ306が設けられる。
【0035】
尚、制御部304には、空調機110への電力の供給が停止(完全に停止、或いは空調機110が安定に動作しないレベルまで低下)したか否かを判定するための閾値を予め設定しておくことができる。制御部304は、その閾値と、モニタ部305からの出力とを比較し、出力が閾値を下回る場合に、モータ301を駆動するための駆動信号を生成し、その駆動信号を受けてモータ301が駆動される。制御部304の処理機能は、例えば、コンピュータ、或いはDSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)等の電子回路を用いて、実現することができる。
【0036】
図7はパネル開放装置の第2の例を示す図である。
図7に示すパネル開放装置300Bは、パネル201の下端部(固定端側)がダクト200本体に軸支され、パネル201の上端部(自由端側)に電磁石310が取り付けられた構造を有している。ダクト200本体の、パネル201が閉鎖されたときのその上端部の電磁石310に対応する位置にも同様に、電磁石311が取り付けられている。空調機110に電力が供給されている間は、これらの電磁石310,311にも通電が行われ、その間、パネル201は、電磁石310,311に働く引力によって、ダクト200本体に、ダクト200を閉鎖した状態で、固定される。
【0037】
パネル201の上端部の電磁石310付近には、ワイヤ312の一端が取り付けられている。このワイヤ312は、ダクト200本体側面の電磁石311付近に掛けられた後、他端が、ダクト200本体側面のパネル201の下端部付近に設けられたモータ313に取り付けられている。モータ313が駆動されることで、ワイヤ312が巻き取られ、それにより、パネル201はその下端部を軸に回動され、上端部がダクト200本体側に持ち上げられる。
【0038】
モータ313の駆動は、位置センサ314及び制御部315を用いて制御される。位置センサ314は、ダクト200本体側に設けられた発光部(光照射部)314a、及びパネル201側に設けられた受光部(光検出部)314bを備える。制御部315は、モータ313の駆動と停止を切り換える回路を含み、光検出部314bからの出力に基づき、当該回路を用いてモータ313の駆動と停止を切り換える。
【0039】
パネル開放装置300Bでは、上記のように、空調機110に電力が供給されている間は、電磁石310,311でパネル201がダクト200本体に固定され、パネル201でダクト200が閉鎖された状態が維持される(図7(A))。一方、空調機110への電力の供給が停止した場合には、電磁石310,311への通電が切れ、パネル201とダクト200本体との固定が解除され、パネル201がその自重によって開放される(図7(B))。
【0040】
尚、その際は、パネル201が開放される分だけ予めワイヤ312をモータ313から繰り出しておいたり、パネル201の開放に伴ってワイヤ312がモータ313から繰り出されるようなモータ313を選択しておいたりすることができる。
【0041】
停電から復帰し、空調機110への電力の供給が再開されたときには、電磁石310,311、モータ313、位置センサ314及び制御部315に通電が開始される。通電が開始されると、制御部315によってモータ313が駆動され、ワイヤ312が巻き取られ、パネル201の上端部がダクト200本体側に持ち上げられていく。また、通電が開始されると、位置センサ314が作動し、光検出部314bの出力が制御部315に送られる。制御部315は、ダクト200本体側の光照射部314aの光が、持ち上げられていくパネル201側の光検出部314bで検出されたことを示す出力を、光検出部314bから受信すると、モータ313を停止する。モータ313の停止と共に、パネル201側とダクト200本体側に設けられた、通電状態の電磁石310,311に所定の引力が働き、モータ313の停止後は、電磁石310,311の引力でパネル201が持ち上げられ、ダクト200が閉鎖される。そして、通電の間、その閉鎖された状態が維持される(図7(A))。
【0042】
尚、このようにモータ313の停止後に電磁石310,311でパネル201が閉鎖されるように、位置センサ314の取り付け位置、電磁石310,311の性能等を設定しておけばよい。
【0043】
図8及び図9はパネル開放装置の第3の例を示す図である。
図8に示すパネル開放装置300Cは、図9に示すような、複数の電磁石321をワイヤ322で連結したもの(鎖)320を用いて、パネル201の開閉が行われる構造を有している。パネル201は、その下端部(固定端側)がダクト200本体に軸支され、ダクト200本体に開閉可能とされている。鎖320は、その一端がパネル201の上端部(自由端側)に取り付けられ、他端がダクト200本体に取り付けられている。
【0044】
鎖320は、電磁石321に通電が行われている場合には、ワイヤ322を介して隣接する電磁石321に引力が働いて縮んだ状態になる(図9(A))。一方、鎖320は、電磁石321に通電が行われていない場合には、ワイヤ322が伸びきった状態になる(図9(B))。電磁石321には、空調機110に電力が供給されている間、通電が行われるようになっている。
【0045】
パネル開放装置300Cでは、空調機110に電力が供給されている間は、電磁石321への通電で鎖320が縮んだ状態になっており(図9(A))、パネル201がダクト200本体に固定され、ダクト200が閉鎖された状態が維持される(図8(A))。一方、空調機110への電力の供給が停止した場合には、電磁石321への通電が切れ、パネル201とダクト200本体との固定が解除され、パネル201がその自重で開放され(図8(B))、鎖320は伸びた状態になる(図9(B))。停電から復帰し、空調機110への電力の供給が再開されたときには、再び電磁石321への通電で鎖320が縮んだ状態になり、パネル201でダクト200が閉鎖され、通電の間、その状態が維持される。
【0046】
尚、このような伸縮の過程で鎖320の電磁石321及びワイヤ322が絡まり合わないように、図9(C),(D)に示すように、鎖320の周囲を、ベローズ等、蛇腹状で伸縮性と柔軟性のある筒状部材330で覆うようにしてもよい。
【0047】
以上例示したようなパネル201の開放装置を用いることで、停電時に自動的に、ダクト200のパネル201を開放することができる。それにより、ラック列120からホットアイルキャップ130に排気された暖気が、停止状態の空調機110を経て、ラック列120の電子機器140に吸い込まれていってしまう量を抑えることができる。
【0048】
即ち、空調機110の手前でパネル201を開放することで、ホットアイルキャップ130からの暖気を床上空間103に放出し、停止状態の空調機110に入る暖気の量を減らす。開放されたパネル201の部分から床上空間103に放出された暖気は、床上空間103の冷気と混合される。そして、停止状態の空調機110に入る暖気の量が減ることで、床下空間104、グリル105を通ってラック列120の吸気面121bから吸い込まれる暖気の量を減らす。
【0049】
このようにしてラック列120の電子機器140に吸い込まれる暖気の量を抑えることで、電子機器140の温度上昇のスピードを抑え、電子機器140の過熱による破損のリスクを低減する。これにより、停電時の電子機器140、ひいてはそのデータの安全性を高めたデータセンタ100が実現される。
【0050】
尚、上記のようなデータセンタ100において、停電時に、ある電子機器140の稼働による負荷を、別の電子機器140に分配する、分配制御を行うようにしてもよい。例えば電子機器140がサーバである場合、サーバ仮想化技術を用い、一のサーバの負荷を他のサーバに分散する。この場合、各電子機器(サーバ)140の稼働による負荷(CPU(Central Processing Unit)稼働率等)を監視してその負荷に応じて電子機器140の稼働を制御する制御部が用いられる。この制御部の処理機能は、データセンタ100に設置した負荷分散装置141、或いはデータセンタ100の外部にインターネットを介して設置した負荷分散装置等を用いて実現することができる。
【0051】
停電が発生すると、ラック列120のうち、比較的空調機110に近いラック121(例えば図2のGやHのラック121)付近では、開放されたパネル201から排気された暖気の一部が床上空間103の冷気と混じり合う。そのため、このように空調機110から比較的に近いラック121には、比較的遠いラック121(例えば図2のDやEのラック121)に比べると、暖められた空気が吸い込まれ易く、従って、格納されている電子機器140の温度も上昇し易くなる。
【0052】
そこで、上記のような仮想化技術を用い、比較的空調機110に近いラック121に格納されている電子機器140の負担の一部又は全部を、比較的空調機110から遠いラックに格納されている電子機器140へと移動する。
【0053】
図10は負荷を移動させた場合における電子機器の吸気最高温度の時間変化を示す図である。
ここでは、Hのラック121に格納されている電子機器140の負荷の3分の2を、より遠いDのラック121に格納されている電子機器140へと移動している。また、Gのラック121に格納されている電子機器140の負荷の3分の1を、より遠いEのラック121に格納されている電子機器140へと移動している。図10には、このように負荷を移動させた場合における、各ラック121の電子機器140の、吸気最高温度の時間変化を例示している。
【0054】
停電で空調機110への電力の供給が停止すると、上記図4等と同様、この図10の場合にも、D〜Hの各ラック121に格納された電子機器140の吸気最高温度の値は、停電から僅かな時間で上昇し始め、その後、時間の経過に伴って上昇していく。仮に電子機器140の許容温度が35℃であるとすると、上記のように負荷を移動させた場合には、当該許容温度に到達するまでの時間が150秒を上回るようになり、負荷を移動させなかった場合(図4)に比べ、その時間を更に延ばすことができる。従って、停電時の電子機器140及びそのデータの安全性をより高めることが可能になる。
【0055】
尚、以上の説明では、ダクト200の前面のパネル201を開閉するようにしたが、ダクト200の側面のパネルを開閉するようにしてもよい。ダクト200のいずれのパネルを開閉するかは、ダクト200やラック列120の配置、パネルが開放されたとき暖気の放出方向等に基づいて設定してもよい。
【0056】
また、以上の説明では、ダクト200のパネル201を開閉するようにしたが、ホットアイルキャップ130から空調機110に通じる排気経路の一部であれば、上記のようなパネル201以外の部分(天井106の一部等)を開閉するようにしてもよい。このような部分を開放することによっても、上記同様の効果を得ることが可能である。
【0057】
また、以上の説明では、1列のラック列120とその排気面121cを囲うホットアイルキャップ130を例示したが、データセンタ100の床上空間103には、複数のラック列120及びホットアイルキャップ130が設置されていてもよい。
【0058】
図11はデータセンタのレイアウトの一例を示す図である。
データセンタ100には、図11に示すように、複数のラック列120が並設されていてもよい。その場合、複数のラック列120は、隣接するラック列120の互いの吸気面121b同士、排気面121c同士が対向するように配置される。吸気面121b同士が対向する領域がコールドアイル100b、排気面121c同士が対向する領域がホットアイル100cとなる。
【0059】
各コールドアイル100bの床面にグリル105が設けられ、通電時には、上記のような床下空間104を経て、グリル105から空調機110で空調された冷気が給気される。各ホットアイル100cには、ホットアイルキャップ130が設置され、各ホットアイルキャップ130内の、ラック列120から排気された暖気が、上記のような天井裏空間107を経て、ダクト200を通って空調機110へと送られる。例えばこのようなダクト200にパネル201の開放装置を設け、停電時にその部分を開放させることで、各ラック列120の電子機器140に吸い込まれる暖気の量が抑えられ、電子機器140及びそのデータの安全性が高められるようになる。
【0060】
以上説明した実施の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) 空調機と、
電子機器が格納され、前記空調機からの空気が吸気される吸気部、及び吸気された空気が排気される排気部を備えるラックと、
前記排気部を囲うアイルキャップと、
前記アイルキャップから前記空調機に通じる排気経路と、
前記空調機への電力の供給が停止したときに、前記排気経路の一部を開放する開放装置と、
を含むことを特徴とするデータセンタ空調システム。
【0061】
(付記2) 前記開放装置は、
前記排気経路の一部に設けられたパネルと、
前記空調機への電力の供給状態に基づき、前記パネルの開閉を制御する開閉制御部と、
を含むことを特徴とする付記1に記載のデータセンタ空調システム。
【0062】
(付記3) 前記開閉制御部は、
前記パネルを開閉駆動する駆動部と、
前記空調機への電力の供給をモニタするモニタ部と、
前記モニタ部のモニタ結果に基づき、前記駆動部を制御する制御部と、
前記駆動部、前記モニタ部及び前記制御部に電源を供給するバッテリと、
を含むことを特徴とする付記2に記載のデータセンタ空調システム。
【0063】
(付記4) 前記開閉制御部は、
前記空調機と共に電力の供給を受け、
前記空調機に電力が供給されている間は、供給される電力で前記パネルが前記排気経路の一部を閉鎖した状態に固定され、
前記空調機への電力の供給が停止したときには、電力の供給停止によって前記パネルの固定が解除され、前記排気経路の一部が開放される、
ことを特徴とする付記2に記載のデータセンタ空調システム。
【0064】
(付記5) 天井裏空間を有し、
前記アイルキャップは、前記天井裏空間に連通し、
前記排気経路は、前記天井裏空間、及び前記天井裏空間と前記空調機とを連結するダクトを含み、
前記開放装置によって開放される前記排気経路の一部は、前記ダクトの一部である、
ことを特徴とする付記1乃至4のいずれかに記載のデータセンタ空調システム。
【0065】
(付記6) 前記ラックが配置される床下に床下空間を有し、
前記空調機からの空気は、前記床下空間に供給され、前記床下空間から前記ラックが配置される床上空間に供給されて、前記吸気部から吸気される、
ことを特徴とする付記1乃至5のいずれかに記載のデータセンタ空調システム。
【0066】
(付記7) 空調機と、
電子機器が格納され、前記空調機からの空気が吸気される吸気部、及び吸気された空気が排気される排気部を備えるラックと、
前記排気部を囲うアイルキャップと、
前記アイルキャップから前記空調機に通じる排気経路と、
前記空調機への電力の供給状態に基づき、前記排気経路の一部を開放する開放装置と、
を含むデータセンタ空調システムの管理方法であって、
前記空調機への電力の供給が停止したときに、前記開放装置によって、前記排気経路の一部を開放する、
ことを特徴とするデータセンタ空調システムの管理方法。
【0067】
(付記8) 前記開放装置は、
前記排気経路の一部に設けられたパネルと、
前記パネルの開閉を制御する開閉制御部と、
を含み、
前記空調機への電力の供給状態に基づき、前記開閉制御部によって、前記パネルを開閉する、
ことを特徴とする付記7に記載のデータセンタ空調システムの管理方法。
【0068】
(付記9) 前記データセンタ空調システムは、天井裏空間を有し、
前記アイルキャップは、前記天井裏空間に連通し、
前記排気経路は、前記天井裏空間、及び前記天井裏空間と前記空調機とを連結するダクトを含み、
前記開放装置によって開放される前記排気経路の一部は、前記ダクトの一部である、
ことを特徴とする付記7又は8に記載のデータセンタ空調システムの管理方法。
【0069】
(付記10) 前記データセンタ空調システムは、前記ラックが配置される床下に床下空間を有し、
前記空調機からの空気は、前記床下空間に供給され、前記床下空間から前記ラックが配置される床上空間に供給されて、前記吸気部から吸気される、
ことを特徴とする付記7乃至9のいずれかに記載のデータセンタ空調システムの管理方法。
【0070】
(付記11) 前記電子機器の稼働時の負荷を監視して前記電子機器の負荷を制御する負荷制御部により、前記空調機への電力の供給が停止したときに、開放される前記排気経路の一部から前記電子機器までの距離に基づき、前記電子機器の負荷を制御する、
ことを特徴とする付記7乃至10のいずれかに記載のデータセンタ空調システムの管理方法。
【0071】
(付記12) 他の電子機器が設けられている場合で、前記他の電子機器の方が、前記電子機器よりも、開放される前記排気経路の一部からの距離が遠い場合には、前記電子機器の負荷を、前記他の電子機器に分散する、
ことを特徴とする付記11に記載のデータセンタ空調システムの管理方法。
【符号の説明】
【0072】
100 データセンタ
100b コールドアイル
100c ホットアイル
101 支柱
102 床パネル
103 床上空間
104 床下空間
105 グリル
106 天井
107 天井裏空間
107a レタン
110 空調機
120 ラック列
121 ラック
121a 段
121b 吸気面
121c 排気面
130 ホットアイルキャップ
140 電子機器
141 負荷分散装置
200 ダクト
201 パネル
300A,300B,300C パネル開放装置
301,313 モータ
302 連動軸
303 アーム
304,315 制御部
305 モニタ部
306 バッテリ
310,311,321 電磁石
312,322 ワイヤ
314 位置センサ
314a 光照射部
314b 光検出部
320 鎖
330 筒状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機と、
電子機器が格納され、前記空調機からの空気が吸気される吸気部、及び吸気された空気が排気される排気部を備えるラックと、
前記排気部を囲うアイルキャップと、
前記アイルキャップから前記空調機に通じる排気経路と、
前記空調機への電力の供給が停止したときに、前記排気経路の一部を開放する開放装置と、
を含むことを特徴とするデータセンタ空調システム。
【請求項2】
前記開放装置は、
前記排気経路の一部に設けられたパネルと、
前記空調機への電力の供給状態に基づき、前記パネルの開閉を制御する開閉制御部と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のデータセンタ空調システム。
【請求項3】
前記開閉制御部は、
前記パネルを開閉駆動する駆動部と、
前記空調機への電力の供給をモニタするモニタ部と、
前記モニタ部のモニタ結果に基づき、前記駆動部を制御する制御部と、
前記駆動部、前記モニタ部及び前記制御部に電源を供給するバッテリと、
を含むことを特徴とする請求項2に記載のデータセンタ空調システム。
【請求項4】
前記開閉制御部は、
前記空調機と共に電力の供給を受け、
前記空調機に電力が供給されている間は、供給される電力で前記パネルが前記排気経路の一部を閉鎖した状態に固定され、
前記空調機への電力の供給が停止したときには、電力の供給停止によって前記パネルの固定が解除され、前記排気経路の一部が開放される、
ことを特徴とする請求項2に記載のデータセンタ空調システム。
【請求項5】
空調機と、
電子機器が格納され、前記空調機からの空気が吸気される吸気部、及び吸気された空気が排気される排気部を備えるラックと、
前記排気部を囲うアイルキャップと、
前記アイルキャップから前記空調機に通じる排気経路と、
前記空調機への電力の供給状態に基づき、前記排気経路の一部を開放する開放装置と、
を含むデータセンタ空調システムの管理方法であって、
前記空調機への電力の供給が停止したときに、前記開放装置によって、前記排気経路の一部を開放する、
ことを特徴とするデータセンタ空調システムの管理方法。
【請求項6】
前記電子機器の稼働時の負荷を監視して前記電子機器の負荷を制御する負荷制御部により、前記空調機への電力の供給が停止したときに、開放される前記排気経路の一部から前記電子機器までの距離に基づき、前記電子機器の負荷を制御する、
ことを特徴とする請求項5に記載のデータセンタ空調システムの管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−24508(P2013−24508A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161615(P2011−161615)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】