説明

データ通信方法及びデータ通信装置

【課題】演算回路やプログラムの規模の増大を抑制しつつ、共通の信号線で複数の情報を伝達することができるデータの通信方法を提供する。
【解決手段】パルスP1(周期信号F1)の周期により、速度情報を表す第1の物理情報を伝送するデータ通信方法において、パルスP1に基づき選択的に生成される当該パルスP1の周期を有する複数種類のパルスP1,P2により、パルスP2の連続する回数に基づいて第1の物理情報とは異なる第2の物理情報を伝送し、パルスP1への切り替えに基づいて第2の物理情報の伝送を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共通の信号線で複数種類の物理情報を伝送するデータ通信方法及びデータ通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ABS(anti lock braking system)や車両の安定制御装置等の車載システムでは、その制御を行うために、車輪の回転速度を測定する回転速度センサを利用している。回転速度センサは、車輪の近傍に配置され、その検出結果(回転速度情報)は信号線を用いて車載の制御装置へ伝送される。車輪の情報としては、回転速度情報の他、タイヤの空気圧等の情報もあり、これは空気圧センサ等によって検出される。近年、車両には多くのセンサが搭載され、その数は更に増加することが予想される。従って、各センサに対して個別に信号線を設けていては信号線の数が膨大となる。そこで、例えば、回転速度センサの信号線に空気圧センサの検出結果等の他の検出結果を重畳させるなど、共通の信号線で複数種類の物理情報を伝送する技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、回転速度センサによって供給されるデータと追加データとを共通の1本の信号線を経て伝送するための方法が提案されている。これは、パルス状の回転速度センサの信号をトリガとして、隣り合うパルス間に、シリアルビットデータを重畳させるものである。また、特許文献2には、車輪の回転に応じて出力される概ねデューティー比50%のパルス状の信号のハイ期間(ハイレベルの期間)において、シリアルビットデータを重畳させる方法が提案されている。これは、車輪の回転に応じて出力されるパルスの波高よりも大きく、該パルスよりも狭幅の重畳パルスにより、シリアルビットデータを表すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−505691号公報(第2頁、第1図等)
【特許文献2】特開2005−274310号公報(第[0055]−[0062]段落、第10図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、これらの方法は、回転速度センサの信号線に他の情報を重畳させることができる優れたものであるが、回転速度が速い場合には必要な情報を好適に重畳させることができなくなる可能性がある。これは、隣り合うパルス間の時間(周期)やパルスのハイ期間が短くなって、重畳可能なシリアルビットデータの生成が困難になる可能性があるためである。
【0006】
一方、スタートビットやエンドビット、パリティビットを設けることで、必要な情報(シリアルビットデータ)を複数の周期に分けて伝送することも可能である。しかしながら、このような方法を採用する場合、情報の送信側及び受信側の双方においてそれに見合った制御機能が必要になるため、演算回路やプログラムの規模を増大させる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、演算回路やプログラムの規模の増大を抑制しつつ、共通の信号線で複数種類の物理情報を伝送することができるデータ通信方法及びデータ通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、パルスの周期により、速度情報を表す第1の物理情報を伝送するデータ通信方法において、前記パルスに基づき選択的に生成される当該パルスの周期を有する複数種類のパルスにより、一の種類の前記パルスの連続する回数に基づいて前記第1の物理情報とは異なる第2の物理情報を伝送し、前記一の種類の前記パルスとは異なる他の種類の前記パルスへの切り替えに基づいて前記第2の物理情報の伝送を終了することを要旨とする。
【0009】
同構成によれば、前記第1の物理情報(速度情報)及び前記第2の物理情報は、前記パルス及び当該パルスの周期を有する複数種類の前記パルスを用いてそれぞれ伝送することができるため、それらの伝送を共通の1本の信号線で実現することができる。また、前記第2の物理情報は、基本的に前記一の種類の前記パルスの連続する回数を計数するのみで伝送することができるため、送信側及び受信側の双方において演算回路やプログラムなどの規模の増大を抑制することができる。
【0010】
なお、前記複数種類のパルスのうちの1種類のパルスは、元となる前記パルスと同一波形のパルス(即ち未処理のパルス)であってもよい。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のデータ通信方法において、前記複数種類のパルスは、元となる前記パルスのハイレベル又はローレベルの期間に他のパルスが重畳されることで生成されていることを要旨とする。
【0011】
同構成によれば、送信側では、元となる前記パルスのハイレベル又はローレベルの期間に他のパルスを重畳(合成)するのみの極めて簡易な方法で、前記複数種類のパルスを生成することができる。なお、受信側での前記複数種類のパルスの識別は、例えば他のパルスの重畳に際し変化する前記パルスの振幅を閾値判定することで容易に行うことができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のデータ通信方法において、前記複数種類のパルスは、元となる前記パルスのハイレベル又はローレベルの期間が変更されることで生成されていることを要旨とする。
【0013】
同構成によれば、送信側では、元となる前記パルスのハイレベル又はローレベルの期間(パルス幅)を変更するのみの極めて簡易な方法で、前記複数種類のパルスを生成することができる。なお、受信側での前記複数種類のパルスの識別は、例えば変更された前記パルスのハイレベル又はローレベルの期間を計時することで容易に行うことができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のデータ通信方法において、前記第2の物理情報は、前記他の種類の前記パルスが生成される時間が所定時間に達するごと又は前記他の種類の前記パルスの生成回数が所定回数に達するごとに繰り返し伝送されており、前記第2の物理情報は、前記他の種類の前記パルスが生成される前記所定時間内又は前記他の種類の前記パルスが生成される前記所定回数内に取得されることを要旨とする。
【0015】
同構成によれば、前記他の種類の前記パルスが生成される前記所定時間内又は前記他の種類の前記パルスが生成される前記所定回数内に取得された前記第2の物理情報は、当該期間の経過ごとに繰り返し伝送されることで、前記第2の物理情報を間欠的に更新することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のデータ通信方法において、前記第2の物理情報は、複数種類から選択可能ないずれか一種類の物理情報であって、前記第2の物理情報の伝送に先立つ前記一の種類の前記パルスとは異なる他の種類の前記パルスの連続する回数に基づいて、前記複数種類から選択可能ないずれか一種類の物理情報の種類の選択情報を伝送することを要旨とする。
【0017】
同構成によれば、前記第2の物理情報の伝送に先立つ前記一の種類の前記パルスとは異なる他の種類の前記パルスの連続する回数に基づいて、前記物理情報の種類の選択情報が伝送されることで、当該選択情報に対応する一の種類の前記物理情報を前記第2の物理情報として伝送することができる。従って、前記第2の物理情報としての複数種類の前記物理情報を、共通の1本の信号線で選択的に伝送することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のデータ通信方法において、前記第2の物理情報の伝送終了後に切り替わる前記他の種類の前記パルスにより、その周期ごとの前記第2の物理情報の増減情報を伝送することを要旨とする。
【0019】
同構成によれば、前記第2の物理情報の伝送終了後に切り替わる前記他の種類の前記パルスにより、その周期ごとの前記第2の物理情報の増減情報が伝送されることで、これに先立って伝送された前記第2の物理情報を前記増減情報に基づいて増減補正することができる。このように、前記第2の物理情報の伝送終了後は、該第2の物理情報自体を再送する必要はなく、前記パルスの周期ごとに前記増減情報のみを伝送すればよいことから、送信側及び受信側の双方において演算回路やプログラムなどの規模の増大を更に抑制することができる。また、前記増減情報を、前記第1の物理情報等と共通の1本の信号線で伝送することができる。特に、前記第2の物理情報を表す前記一の種類の前記パルスの各回数の分解能を、前記増減情報を表す前記他の種類の前記パルスの各周期の分解能よりも大きく設定しておくことで、前記第2の物理情報をノミナル値に到達させるまでの時間をより短縮化することができる。一方、前記第2の物理情報の伝送終了後(ノミナル値への到達後)は、例えば前記増減情報に基づいて前記第2の物理情報をより細やかに増減補正することができる。
【0020】
なお、前記増減情報は、前周期までに伝送又は補正された前記第2の物理情報の維持(未補正)を表していてもよい。
請求項7に記載の発明は、速度センサから出力される検出信号に基づいて、速度情報を表す第1の物理情報に応じた周期を有するパルスを生成する周期信号生成部と、前記パルスに基づいて、当該パルスの周期を有する一の種類の前記パルスを前記第1の物理情報とは異なる第2の物理情報に応じた回数で連続的に生成し、前記一の種類の前記パルスとは異なる他の種類の前記パルスに切り替えて、信号線に出力する信号処理部とを備えたことを要旨とする。
【0021】
同構成によれば、前記信号線には前記複数種類のパルスのいずれか一種類のパルスが選択的に出力されることで、当該パルスの周期により、前記第1の物理情報(速度情報)が前記信号線を通じて伝送される。また、前記信号線には前記第2の物理情報に応じた回数で連続的に生成された前記一の種類の前記パルスが出力されることで、当該パルスの回数により、前記第2の物理情報が前記信号線を通じて伝送される。このように、前記第1の物理情報及び前記第2の物理情報の伝送を共通の1本の信号線で実現することができる。また、前記第2の物理情報は、基本的に前記一の種類の前記パルスの連続する回数を計数して前記信号線に出力するのみで伝送(送信)することができるため、送信側となる前記信号処理部(回路構成、プログラム等)の規模の増大を抑制することができる。同様に、受信側においても、基本的に前記信号線に出力された前記一の種類の前記パルスの連続する回数を計数するのみで前記第2の物理情報を受信することができるため、その演算回路やプログラムなどの規模の増大を抑制することができる。
【0022】
なお、前記複数種類のパルスのうちの1種類のパルスは、元となる前記パルスと同一波形のパルス(即ち未処理のパルス)であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、演算回路やプログラムの規模の増大を抑制しつつ、共通の信号線で複数種類の物理情報を伝送することができるデータ通信方法及びデータ通信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】マグネットロータ及びセンサ等の配置関係を示す側面図。
【図2】マグネットロータ及びセンサを示す正面図。
【図3】車輪の状態検出装置の構成例を模式的に示すブロック図。
【図4】検出信号をデジタルカウント値へ変換する方法の一例を示す説明図。
【図5】周期信号を生成する方法の一例を示す説明図。
【図6】第1の実施形態の出力信号の一例を示すタイムチャート。
【図7】第1の実施形態の出力信号の生成態様を示すフローチャート。
【図8】第2の実施形態の出力信号の一例を示すタイムチャート。
【図9】第2の実施形態の出力信号を示す波形例。
【図10】第2の実施形態の付加情報の補正態様の一例を示すタイムチャート。
【図11】第3の実施形態の出力信号を示す波形例。
【図12】第3の実施形態の周期信号を生成する方法を示す説明図。
【図13】第3の実施形態の出力信号の一例を示すタイムチャート。
【図14】変形形態の出力信号の一例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
以下、本発明を車両の車輪の回転状態等を検出する車輪の状態検出装置に適用した第1の実施形態について説明する。なお、この状態検出装置は、検出した車輪の回転状態等の情報をABSや横滑り防止装置(ESC:electronic stability control)などの制御を行うECU(electronic control units)に伝送するものである。
【0026】
図1及び図2に示すように、車両の車輪9には、その回転状態の検出に供される輪状のマグネットロータ8が一体回転するように固定されている。なお、マグネットロータ8は、車輪9に直接固定されていてもよいし、図1に示すように、車輪9を固定するシャフト7(回転軸)に固定されていてもよい。車輪9(マグネットロータ8)の回転を検出するための検出素子であるセンサ10は、ハブベアリング等、車輪9と共に回転しない車両側に取着されている。このセンサ10は、ホール素子やホール素子を備えたホールIC等の磁気検出センサであって、マグネットロータ8に対して所定の間隔Aを有して対向配置される。
【0027】
センサ10は、車輪9及びマグネットロータ8の回転に応じて正弦波状の交流の検出信号Sを出力する。図2に示すように、マグネットロータ8には、所定間隔でN極及びS極が交互に設けられており、NS両極がセンサ10を通過することによって交流の検出信号Sが出力される。マグネットロータ8がセンサ10を通過する速度によって検出信号Sの交流周波数が変化する。この周波数は、マグネットロータ8と一体回転する車輪9の回転速度の検出に供される。以上の磁気検出の原理については、公知であるので、詳細な説明は省略する。
【0028】
ところで、車両の走行に伴って、車輪9には図1におけるシャフト7に沿った方向の力が印加され、矢印Bで示す回転ぶれが生じる。この回転ぶれによって、対向配置されるセンサ10とマグネットロータ8との間の所定の間隔Aに変化が生じる。その結果、センサ10の磁界の強さ又は磁束の大きさが変化するので、センサ10が出力する交流成分の検出信号Sの振幅(波高)が変化する。検出信号Sには、このような波高の変化の他、温度変化による直流成分の増減なども生じるので、車輪の状態検出装置は、正確に交流周波数を検出するべく、以下のような信号処理を行う。
【0029】
すなわち、図3に示すように、車輪の状態検出装置は、受取部1と、波高検出部2と、周期信号生成部としての周期信号生成部3と、信号処理部を構成する出力部4及び付加信号生成部5とを備えて構成される。受取部1は、車輪9(マグネットロータ8)の回転に応じて出力される検出信号Sを受け取る機能部である。回転センサ(センサ10)などのセンサから出力される検出信号Sは高インピーダンスの信号であることが多い。受取部1は、入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低いバッファ11を備えている。波高検出部2は、検出信号Sの波高を検出する機能部である。周期信号生成部3は、検出信号Sの波高(ピーク)に応じて設定される閾値(Th)に基づいて、検出信号Sの周期に応じた周期を有する周期信号F1を生成する機能部である。付加信号生成部5は、付加信号F3を生成する機能部である。出力部4は、周期信号F1及び付加信号F3を合成して1つの出力信号Fとして出力する機能部である。なお、本実施形態において、車輪の状態検出装置は、マイクロコンピュータなどを中核とする電子回路によって構成されており、上記した各機能部は、ハードウェア及びハードウェアとソフトウェアとの協働によって実現されている。
【0030】
初めに、波高検出部2及び周期信号生成部3の機能について詳述する。なお、以下では、検出信号SをA/D(アナログ/デジタル)変換してデジタル信号処理する場合を例として説明する。図4は検出信号Sをデジタルカウント値Dへ変換する方法の一例を示し、図5は、周期信号F1を生成する方法の一例を示す。上述したように、受取部1において検出信号Sはインピーダンス変換されており、この際、同時に信号の増幅処理等を施すことも可能である。従って、厳密には、波高検出部2では、受取部1が受け取る検出信号Sではなく、受取部1から出力される信号がA/D変換されることになるが、情報処理上の信号処理においては、受取部1の前後において同様の信号であると考えることができる。従って、以下、受取部1から出力される信号についても、検出信号Sと称して説明する。
【0031】
図3に示すように、波高検出部2は、A/D変換部21と、反転閾値設定部22と、コンパレータ23と、カウンタ24と、レジスタ25とを有して構成される。A/D変換部21は、検出信号Sを所定の条件に従ってA/D変換する機能部であって、A/Dコンバータを有して構成される。A/Dコンバータには、フラッシュ型、逐次比較型、積分型等の種々のタイプのものがあり、変換速度や変換精度等に応じて、適宜最適なものが選択される。また、A/Dコンバータの出力形態も、アナログの入力に対して絶対的な値をデジタル値として出力するものや、アナログの入力が所定量の変化をするごとにトリガ信号を出力するものなど、種々の形態のものがあり、適宜選択される。本実施形態においては、絶対的な値をデジタル値として出力するものではなく、所定量の変化(所定のステップ)ごとに、トリガ信号を出力するタイプのA/Dコンバータが用いられる場合を例として説明する。
【0032】
本実施形態において、このタイプのA/Dコンバータを用いるのは以下の対策のためである。つまり、センサ10の検出信号Sの振幅中心が揺れた場合、即ち、直流分のオフセットに変動が生じた場合であっても、検出信号Sの振幅(波高)に応じて適切な信号処理を可能とするためである。ただし、直流分のオフセットは、カップリングコンデンサや直流バイアス等を利用した別の信号処理回路によって解消させることも可能である。従って、絶対的な値をデジタル値として出力するタイプのA/Dコンバータを用いてもよい。
【0033】
A/D変換部21は、検出信号Sが所定量だけ変化するごとに、具体的には、振動する波形のピークP側に向かって所定量だけ変化するごとに、トリガ信号を出力する。振動する波形の波高のことを「ピーク・トゥ・ピーク(peak to peak)」と称するように、「波形のピークP」とは、波形の山側及び谷側の双方を指すものとする。図4に示すように、所定の反転閾値RよりもピークP側において、トリガ信号が出力され、このトリガ信号がカウンタ24において計数されて、デジタルカウント値Dとなる。図4において、正弦波状の検出信号Sに沿って、階段状に変化し5、6、7・・・24、25と値が付記されたものがデジタルカウント値Dである。
【0034】
検出信号SがピークPに達すると、ピークPに向かって検出信号Sが所定量だけ変化することがなくなる。従って、デジタルカウント値Dは、検出信号SのピークPの近傍において一定値が継続する状態となる。図4に示す例においては、デジタルカウント値Dが「25」において継続しており、デジタルカウント値Dのピーク値Dpとなっている。なお、カウンタ24がアップ・ダウン・カウンタであって、検出信号Sが一方向(一方のピークPの方向)及びその反対方向に所定量だけ変化した場合にそれぞれ異なるトリガ信号がA/D変換部21から出力される構成であれば、検出信号Sの波形に応じたデジタルカウント値Dを得ることが可能である。しかし、この場合には、ノイズ等により検出信号SがピークP以外の位置で増減した場合にも追従してしまう可能性が生じる。そこで、本実施形態においては、カウンタ24はアップ・カウンタとして構成される。そして、検出信号Sが逆方向(一方のピークPとは反対方向、即ち他方のピークPの方向)へ変化する際には、デジタルカウント値Dの複数カウント分に相当する所定の変化幅hを超えた場合に、一方のピークPを超えて反転したと判定されるように構成される。つまり、ヒステリシスが設定される。
【0035】
具体的には、反転閾値設定部22において、検出信号Sが該当のピークPを超えて反転したか否かを判定するための反転閾値Rが設定される。ここでは、反転閾値Rは、デジタルカウント値Dの5カウント分に当たる変化幅hを有して設定される。A/D変換部21は、最新のトリガ信号の出力時の検出信号Sのアナログ値(又はA/D変換閾値であるアナログ値)を反転閾値設定部22に出力する。反転閾値設定部22は、受け取った当該アナログ値に所定の変化幅h(ヒステリシス値)を反映して、反転閾値Rを設定する。検出信号Sが上昇しているとき(ピークPが山側のとき)には、当該アナログ値から上記変化幅h(ヒステリシス値)が減算されて、反転閾値Rが設定される。検出信号Sが下降しているとき(ピークPが谷側のとき)には、当該アナログ値に上記変化幅hが加算されて、反転閾値Rが設定される。
【0036】
反転閾値Rは、反転判定部として機能するコンパレータ23に入力される。コンパレータ23は、検出信号Sと反転閾値Rとを比較して、検出信号Sが該当のピークPを超えて反転したか否かを判定する。コンパレータ23からの判定出力を受け取ったカウンタ24は、デジタルカウント値Dのピーク値Dpをレジスタ25に転送して記憶させると共に、自身のデジタルカウント値Dをプリセットする。図4に示す例では、カウンタ24は、レジスタ25にデジタルカウント値Dのピーク値Dpとして「25」を記憶させると共に、自身のデジタルカウント値Dを「5」にプリセットする。プリセットされる値「5」は、上記変化幅hに対応するデジタルカウント値Dのステップ数である。
【0037】
コンパレータ23から判定出力を受けたA/D変換部21は、それ以降は、当該判定出力を受け取る前とは逆方向へ検出信号Sが所定量変化した場合に、トリガ信号を出力する。このトリガ信号により、カウンタ24はデジタルカウント値Dをインクリメントする。また、コンパレータ23からの判定出力を受けた反転閾値設定部22は、反転閾値Rを設定する際の演算方法を切り替える。即ち、反転閾値設定部22は、A/D変換部21から受け取る上記アナログ値に対して変化幅hを減算するか、加算するかの切り替えを行う。
【0038】
周期信号生成部3は、レジスタ25から最新のデジタルカウント値Dのピーク値Dpを取得して閾値Thを設定する。この閾値Thは、周期信号判定用の閾値であって、ピーク値Dpに対して所定の係数kを乗じることによって算出・設定される。なお、閾値Thがレジスタ25において算出・設定されて、周期信号生成部3が閾値Thをレジスタ25から取得する構成であってもよい。いずれにせよ、周期信号生成部3は閾値Thとカウンタ24から取得するデジタルカウント値Dとに基づいて周期信号F1の出力タイミングを決定する。本実施形態においては、この出力タイミングごとに、周期信号F1を反転させる。つまり、車輪9(マグネットロータ8)が等速で回転していれば、デューティー比50%となるようなパルス(矩形波)が、周期信号F1として生成される。ただし、周期信号生成部3は、必ずしも周期信号F1の波形を生成する必要はなく、パルス波形の変化点など、出力タイミングを決定すれば足りる。波形生成に関しては、出力部4において実施してもよい。
【0039】
以下、具体的な数値を用いて説明する。ここでは、理解を容易にするために周期信号生成部3で波形を生成する場合を例として説明する。図5における検出信号Sの左側の谷のピーク値Dpは「23」である。例えば、係数kが「0.8」の場合、閾値Thは「18」となる。ここでは、説明を容易にするために端数は切り捨てとする。この場合、カウンタ24から受け取るデジタルカウント値Dが「18」となると、周期信号生成部3は周期信号F1を生成する。このとき、周期信号F1の波高は、ローレベルである基準値Cから正方向へハイレベルである信号レベルPLへと変化する。また、図5における検出信号Sの山のピーク値Dpは「25」であり、閾値Thは「20」となる。この場合、カウンタ24から受け取るデジタルカウント値Dが「20」となると、周期信号生成部3は、上記と同様にして周期信号F1を生成する。このとき、周期信号F1の波高は、信号レベルPLから負方向へ基準値Cへと変化する。つまり、周期信号F1は、デジタルカウント値Dが閾値Thに達する度に反転して、検出信号Sの1周期において1つずつ生成される。このように、周期信号生成部3は、検出信号Sの波高(ピーク値Dp)に応じて設定される閾値Thに基づいて検出信号Sの周期に応じた(周期に比例する)周期を有する周期信号F1を生成する。周期信号F1は、その周期により、速度情報を表す第1の物理情報としての車輪9(マグネットロータ8)の回転速度情報を提供するものである。
【0040】
前記付加信号生成部5は、例えば空気圧センサや温度センサなどから第2の物理情報としての付加情報(空気圧情報や温度情報など)Xを受け取る。付加信号生成部5は、付加情報Xを周期信号F1の1回あたりに設定された分解能で除して回数n(=X/分解能)を演算・設定する。ここでは、説明を容易にするために端数は切り捨てとする。そして、付加信号生成部5は、周期信号F1の波高が信号レベルPLへと変化するタイミングに同期して、該周期信号F1のハイレベルの期間(パルス幅)に比べて十分に狭幅なパルス幅を有するパルス状の付加信号F3を生成する。付加信号生成部5は、前述の態様で設定された回数n分、前記周期信号F1の立ち上がりタイミングごとに、付加信号F3を連続的に生成する。また、付加信号生成部5は、回数n分だけ付加信号F3を連続的に生成した後は、所定時間Tdを経過するまで新たな付加信号F3の生成を停止する。この間、付加信号生成部5は、新たな付加情報Xを受け取る。所定時間Tdは、新たな付加情報Xを受け取るために十分な時間(例えば周期信号F1の通常の周期T(図5参照)の複数回分の時間)に設定されている。そして、付加信号生成部5は、所定時間Tdを経過した後(新たな付加情報Xを受け取った後)は、前述の態様でこのときの付加情報Xに応じた回数分だけ付加信号F3を連続的に生成する。つまり、付加信号生成部5は、新たな付加情報Xの受け取りと該付加情報Xに応じた回数分の付加信号F3の連続的な生成を交互に行っている。なお、付加信号F3は、付加信号生成部5において生成されるが、周期信号F1と同様に、付加信号生成部5が必ずしも付加信号F3を生成する必要はない。付加信号生成部5は、パルス波形の変化点などの出力タイミングを決定すれば足り、波形生成に関しては、出力部4において実施してもよい。
【0041】
前記出力部4は、周期信号生成部3で生成された周期信号F1及び付加信号生成部5で生成された付加信号F3を合成して出力信号Fを生成する。従って、図6のタイムチャートに示すように、本実施形態のデータ通信方法(通信プロトコル)では、付加信号F3の生成が停止される所定時間Td内では、周期信号F1がそのまま出力信号Fとして生成される。以下では、このタイプの出力信号Fを便宜的に第1種類のパルスP1ともいう。また、所定時間Tdの経過後は、当該所定時間Td内における新たな付加情報Xに応じた回数分だけ連続して、周期信号F1の立ち上がりに同期して付加信号F3の重畳された信号、即ち波高の嵩上げされた信号が出力信号Fとして生成される。以下では、このタイプの出力信号Fを便宜的に第2種類のパルスP2ともいう。なお、ここでは、周期信号F1がハイレベルのときに、付加信号F3がさらに高いレベルの信号として重畳される波形例を示しているが、波形例はこれに限定されるものではない。周期信号F1がローレベルのときに、付加信号F3がさらに低いレベルの信号として重畳されてもよい。
【0042】
そして、出力部4は、このように生成された出力信号F(パルスP1又はP2)を信号線Lに出力する。なお、既述のように、出力信号Fを構成する周期信号F1は、その周期により車輪9(マグネットロータ8)の回転速度情報を提供するものである。また、出力信号Fを構成する付加信号F3は、その連続する回数により付加情報Xを提供するものである。従って、送信側(車輪の状態検出装置)は、これら回転速度情報及び付加情報Xを共通の1本の信号線LでECUに伝送(送信)することになる。一方、受信側(ECU)は、信号線Lに出力された出力信号Fを入力することで、これら回転速度情報及び付加情報Xが伝送(受信)される。具体的には、ECUは、周期信号F1の波高よりも小さい所定閾値Th1と出力信号Fとを大小比較することで、該出力信号Fの立ち上がりタイミング、即ち出力信号F(パルスP1又はP2)の周期を取得する。そして、ECUは、この出力信号Fの周期により、車輪9(マグネットロータ8)の回転速度情報を取得する。あるいは、ECUは、周期信号F1の波高よりも大きく、且つ、付加信号F3分だけ嵩上げされた周期信号F1(即ちパルスP2)の波高よりも小さい所定閾値Th2と出力信号Fとを大小比較することで、付加信号F3の連続的に生成された回数nを計数・取得する。そして、ECUは、この付加信号F3の回数nに、1回あたりに設定された前述の分解能を乗ずることで、付加情報Xを取得する。
【0043】
次に、送信側(車輪の状態検出装置)における出力信号Fの生成制御態様について図7に示すフローチャートを参照して説明する。
既述のように、周期信号F1は、閾値Thとデジタルカウント値Dとに基づいて決定された出力タイミングごとに反転する。まず、周期信号F1がローレベル(基準値C)へと反転されると(S(ステップ)11)、付加情報Xに応じた回数分のパルスP2(付加信号F3分だけ嵩上げされた周期信号F1)の出力が終了してからの経過時間Tpが所定時間Td以上か否かが判断される(S12)。ここで、経過時間Tpが所定時間Td以上でないと判断されると、新たな付加情報Xを受け取るための時間内にあることから、通信フラグJが「0」に設定され(S13)、反対に、経過時間Tpが所定時間Td以上と判断されると、直前の所定時間Td内に受け取った新たな付加情報Xを伝送する必要があることから、通信フラグJが「1」に設定される(S14)。
【0044】
そして、周期信号F1がハイレベル(信号レベルPL)へと反転されると(S15)、通信フラグJが「1」か否かが判断される(S16)。ここで、通信フラグJが「1」ではないと判断されると、センサ値として所定時間Td内に受け取った新たな付加情報Xが設定され(S17)、更に該付加情報Xが前述の分解能で除されて回数nが演算・設定される(S18)。一方、S16で通信フラグJが「1」と判断されると、周期信号F1の立ち上がりタイミングに合わせて付加信号F3が出力される(S19)。そして、回数nから「1」を減じたものが新たな回数nとして設定され(S20)、更に当該回数nが「0」か否かが判断される(S21)。ここで、回数nが「0」と判断されると、S18で設定された回数n分の付加信号F3(パルスP2)の出力が終了したことから、経過時間Tpが「0」に設定(リセット)される(S22)。また、S21において回数nが「0」でないと判断され、あるいはS18又はS22の処理が完了すると、S11に戻って同様の処理が繰り返される。以上により、所定時間Td内において新たな付加情報Xに相当する回数nが演算・設定され、所定時間Tdの経過後に回数n分だけ連続してパルスP2(付加信号F3分だけ嵩上げされた周期信号F1)が信号線Lに出力される。これにより、回転速度情報及び付加情報Xが、送信側(車輪の状態検出装置)から共通の1本の信号線Lを通じて受信側(ECU)に伝送(送信)されることは既述のとおりである。
【0045】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、第1の物理情報(回転速度情報)及び第2の物理情報(付加情報X)は、周期信号F1(パルスP1)及び周期信号F1の周期を有する複数種類のパルスP1,P2を用いてそれぞれ伝送することができるため、それらの伝送を共通の1本の信号線Lで実現することができる。また、第2の物理情報は、基本的にパルスP2の連続する回数を計数するのみで伝送することができるため、送信側及び受信側の双方において演算回路やプログラムなどの規模の増大を抑制することができる。
【0046】
特に、センサ10の検出信号S(周期信号F1)を利用するものの、該検出信号Sの周期が変化するわけではないため、受信側(ECU)の回転速度情報の検出に係る処理回路自体は変更しなくてもよい。
【0047】
(2)本実施形態では、送信側では、元となるパルスP1(周期信号F1)のハイレベルの期間に他のパルス(付加信号F3)を重畳(合成)するのみの極めて簡易な方法で、複数種類のパルスP1,P2を生成することができる。なお、受信側での複数種類のパルスP1,P2の識別は、例えば他のパルス(付加信号F3)の重畳に際し変化するパルスP2の振幅を閾値判定することで容易に行うことができる。
【0048】
(3)本実施形態では、パルスP1が生成される所定時間Td内に取得された第2の物理情報(付加情報X)は、当該期間の経過ごとに繰り返し伝送されることで、第2の物理情報を間欠的に更新することができる。特に、所定時間Tdの管理(計時)によって自動的に付加情報Xの取得及びその伝送を繰り返すことができるため、送信側及び受信側の双方において小規模の回路等を追加するのみで実現することができる。
【0049】
(第2の実施形態)
以下、本発明を車輪の状態検出装置に適用した第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態は、基本的に初期値となる付加情報X(以下、便宜的に「付加情報Xs」ともいう)自体の伝送を電源オン後の1度のみとし、その後は周期信号F1の周期ごとの付加情報Xの増減情報のみを伝送して該付加情報Xを更新するようにしたことが前記第1の実施形態とは異なる構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0050】
図8は、本実施形態における出力信号Fを示すタイムチャートである。同図に示すように、本実施形態のデータ通信方法(通信プロトコル)では、車両の電源(イグニッションスイッチ)がオンされると、車輪9の回転の開始に伴い、出力信号Fとして周期信号F1の出力が開始される。通常、車両の電源オン後、車輪9の回転、即ち周期信号F1の出力が開始されるまでにある程度の時間差がある。本実施形態では、付加信号生成部5は、この時間差を利用して初期値となる付加情報Xsを受け取るとともに、周期信号F1の1回あたりに設定された分解能で除して回数n(=Xs/分解能)を演算・設定する。そして、付加信号生成部5は、付加情報Xsに応じた回数n分だけ連続して付加信号F3の生成を停止し、その後、付加信号F3の生成を開始・継続する。なお、付加信号F3の生成が停止される電源オン後の制御期間を「ラーニングモード」といい、その後の制御期間を「通常モード」という。
【0051】
従って、ラーニングモードでは、出力部4は、付加情報Xsに応じた回数n分だけ連続して、周期信号F1をそのまま出力信号Fとして生成・出力する。これにより、送信側(車輪の状態検出装置)は、前記第1の実施形態に準じて、回転速度情報及び付加情報Xsを共通の1本の信号線LでECUに伝送(送信)することになる。一方、受信側(ECU)は、信号線Lに出力された出力信号Fを入力することで、これら回転速度情報及び付加情報Xsが伝送(受信)される。
【0052】
一方、通常モードでは、初期値となる付加情報Xsの前記増減情報の伝送が開始される。すなわち、付加信号生成部5は、周期信号F1の前周期における付加情報Xと現周期における付加情報Xとの差分値(周期ごとの増減情報)に応じた付加信号F3を、周期信号F1の周期ごとに生成する。これにより、出力部4は、周期信号F1の周期ごとに、該周期信号F1に付加信号F3を合成した出力信号Fを生成する。なお、本実施形態では、前記差分値として「−1」、「±0」、「+1」の3値が割り当てられており、該差分値にその1単位当たりに設定された分解能を乗ずることで、通常モードにおける付加情報Xの増減量が求められる。換言すれば、通常モードにおいて、初期値となる付加情報Xsに、周期信号F1の周期ごとの増減量を積算していくことで、その都度、最新の付加情報Xとしての更新が可能となる。
【0053】
本実施形態では、通常モードにおいて1単位当たりの差分値に設定された分解能(例えば「1」)は、ラーニングモードにおいて周期信号F1の1回あたりに設定された分解能(例えば「5」)に比べて十分に小さく設定されている。これは、ラーニングモードにおいて、付加情報Xを初期値(Xs)へとより迅速に立ち上げるとともに、通常モードにおいて、より細やかに付加情報Xを更新(増減補正)するためである。
【0054】
図9は、周期信号F1に各差分値(−1、±0、+1)に応じた付加信号F3を合成した出力信号Fを示す波形図である。同図に示すように、付加信号F3は付加情報Xの差分値に応じて以下の3種類が生成され、それに応じて出力信号FもFa〜Fcの3種類の波形(パルス)に成形される。なお、ここでは、周期信号F1がハイレベルのときに、付加信号F3がさらに高いレベルの信号として重畳される波形例を示しているが、波形例はこれに限定されるものではない。周期信号F1がローレベルのときに、付加信号F3がさらに低いレベルの信号として重畳されてもよい。
【0055】
出力信号Faは、1パルスからなる付加信号F3が重畳されるケースである。この周期は、前周期に対して、付加情報Xを1単位相当減ずることを示す(差分値:「−1」)。出力信号Fbは、2パルスからなる付加信号F3が重畳されるケースである。例えば、付加信号F3の1パルスのパルス幅が50μsの場合、50μsの間隔をおいて2つのパルスが重畳される。この周期は、前周期に対して、付加情報Xの増減がないことを示す(差分値:「±0」)。出力信号Fcは、3パルスからなる付加信号F3が重畳されるケースである。出力信号Fbと同様、50μsの間隔をおいて3つのパルスが重畳される。この周期は、前周期に対して、付加情報Xを1単位相当増やすことを示す(差分値:「+1」)。
【0056】
例えば、図10のタイムチャートにおいて、時刻t1、t2、t5では付加信号F3のパルス数が「3」であり、付加情報Xは1単位相当増加される。時刻t3では付加信号F3のパルス数が「1」であり、付加情報Xは1単位相当減少される。時刻t4、t6では付加信号F3のパルス数が「2」であり、付加情報Xが維持される。
【0057】
従って、付加情報Xsの伝送後の累積の差分値SDは、通常モードにおける周期信号F1のパルス数(周期数)と、付加信号F3のパルス数とを用いて、下式(1)に従って計算することでその値を求めることができる。
【0058】
【数1】

ここで、ajは所定閾値Th1と交差したパルス数、即ち周期信号F1のパルス数であり、bjは所定閾値Th2と交差したパルス数、即ち付加情報Xの差分値を示す付加信号F3のパルス数である。出力信号Fを受け取ったECUは、各周期において累積の差分値SDを増減させてこれを更新してもよいし、所定の期間の経過後にまとめて演算して累積の差分値SDを求めてもよい。なお、初期値として伝送された付加情報Xsは、その後の累積の差分値SDに1単位当たりの分解能を乗じたものが加算されることで、最新の付加情報Xとして更新される。
【0059】
ここで、式(1)によれば、図10における各時刻t0〜t6において、累積の差分値SDは、以下の通りとなる。
時刻t0:0
時刻t1:1 = 3 − 2×1
時刻t2:2 = 6 − 2×2
時刻t3:1 = 7 − 2×3
時刻t4:1 = 9 − 2×4
時刻t5:2 =12 − 2×5
時刻t6:2 =14 − 2×6
なお、式(1)は、下式(2)のように解釈することもできる。
【0060】
【数2】

ここで、式(2)の右辺の第1項は、矩形波(出力信号F)の前周期までの累積の差分値SDを示している。例えば、図10における時刻t1〜t6を式(2)のnの可変域と考える。式(2)の右辺の第1項は、時刻t5において確定されている累積の差分値SD(=12)である。一方、式(2)の右辺の第2項は、時刻t5から時刻t6へ時間が経過したときの差分(=2)を示している。つまり、この通信プロトコルによれば、出力信号Fを受け取ったECUが、各周期において累積の差分値SDを増減させて更新することも可能であり、所定の期間の経過後にまとめて演算して累積の差分値SDを求めることも可能であることが一層よく理解できる。
【0061】
このように、矩形波(出力信号F)の各周期において、前周期までの累積の差分値SDに差分を加える(マイナスの値を含む)という簡単な演算で累積の差分値SDを更新可能であるので、出力信号Fを受け取るECUの演算負荷が軽減され、演算時間も短縮される。また、データを一時記憶するためのRAMなどの一時記憶手段の容量も抑制することが可能である。
【0062】
そして、いずれの態様で累積の差分値SDを求めるにしても、当該差分値SDに1単位当たりの分解能を乗じたものを初期値としての付加情報Xsに加算することで、最新の付加情報Xを求めることができる。
【0063】
以上詳述したように、本実施形態によれば、前記第1の実施形態における(1)(2)の効果に加えて以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、第2の物理情報(付加情報Xs)の伝送終了後(ラーニングモード後)に切り替わるパルス(出力信号Fa〜Fc)により、その周期ごとの第2の物理情報の増減情報(差分値)が伝送されることで、第2の物理情報を増減情報に基づいて増減補正することができる。このように、ラーニングモード後は、第2の物理情報自体を再送する必要はなく、パルスの周期ごとに増減情報のみを伝送すればよいことから、送信側及び受信側の双方において演算回路やプログラムなどの規模の増大を更に抑制することができる。また、増減情報を、第1の物理情報等と共通の1本の信号線Lで伝送することができる。特に、第2の物理情報を表すパルスP1の各回数の分解能を、増減情報を表す他の種類のパルス(出力信号Fa〜Fc)の各周期の分解能よりも大きく設定したことで、第2の物理情報をノミナル値に到達させるまでの時間をより短縮化することができる。一方、ラーニングモード後(ノミナル値への到達後)は、例えば増減情報に基づいて第2の物理情報をより細やかに増減補正することができる。
【0064】
(2)本実施形態では、ラーニングモードから通常モードへの移行は、パルスP1(周期信号F1)からパルス(出力信号Fa〜Fc)への切り替わりによって自動的に認識できるため、例えばこれらを区別するためのフラグなどを割愛することができる。
【0065】
(3)本実施形態では、パルスP1(周期信号F1)及びパルス(出力信号Fa〜Fc)の通信状の役割が互いに異なるため、これらの併用によって通信が阻害することはない。
【0066】
(第3の実施形態)
以下、本発明を車輪の状態検出装置に適用した第3の実施形態について説明する。なお、第3の実施形態は、付加情報Xの差分値に応じた出力信号F(周期信号、付加信号)の生成態様を変更したことが前記第2の実施形態とは異なる構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0067】
図11に示すように、本実施形態の周期信号F1は、前記第1の実施形態と同様に閾値Thとデジタルカウント値Dとに基づいて決定された出力タイミングでその波高が信号レベルPLへと変化しており、そのパルス幅は検出信号Sの周期Tに比べて十分に狭幅なパルス幅Wとなっている。そして、付加情報Xの差分値に応じて生成される付加信号F3aは以下の3種類となっており、それに応じて出力信号FもFa〜Fcの3種類の波形(パルス)に成形される。すなわち、付加信号F3aは、周期信号F1の波高が基準値Cへと切り替わるタイミングに合わせて該周期信号F1と間隔を空けることなくその波高と同一のレベル(信号レベルPL)の信号として重畳される。これにより、出力信号Fは、周期信号F1のパルス幅Wが見かけ上、拡幅されたパルス幅W1を有することになる。このパルス幅W1も、検出信号Sの周期Tに比べて十分に狭幅なパルス幅Wとなっている。なお、ここでは、周期信号F1の波高が基準値Cへと切り替わるタイミングに合わせて該周期信号F1と間隔を空けることなくその波高と同一のレベル(信号レベルPL)の信号として重畳される付加信号F3aの波形例を示しているが、これに限定されるものではない。例えば、周期信号F1の波高が基準値Cにあるときの間隔(パルス幅)が検出信号Sの周期Tに比べて十分に狭幅な場合、周期信号F1の波高が信号レベルPLへと切り替わるタイミングに合わせて該周期信号F1と間隔を空けることなくその波高と同一のレベル(基準値C)の信号として重畳される付加信号F3a(即ちパルスP1(周期信号F1)のローレベルの期間を変更する付加信号F3a)であってもよい。
【0068】
出力信号Faは、1パルスからなる付加信号F3aが重畳されるケースである。本実施形態において、付加信号F3の1パルスのパルス幅は、周期信号F1のパルス幅Wと同等である。従って、周期信号F1のパルス幅Wが50μsの場合、付加信号F3のパルス幅Wも50μsであり、周期信号F1(出力信号Fa)の見かけ上のパルス幅W1は2W(=100μs)となる。この周期は、前周期に対して、付加情報Xを1単位相当減ずることを示す(差分値:「−1」)。出力信号Fbは、2パルスからなる付加信号F3aが重畳されるケースである。この場合、50μsの付加信号F3が周期信号F1に対して間隔をおかずに2つ重畳されるので、周期信号F1(出力信号Fb)の見かけ上のパルス幅W1は3W(=150μs)となる。この周期は、前周期に対して、付加情報Xの増減がないことを示す(差分値:「±0」)。出力信号Fcは、3パルスからなる付加信号F3が重畳されるケースである。この場合、周期信号F1(出力信号Fc)の見かけ上のパルス幅W1は4W(=200μs)となる。この周期は、前周期に対して、付加情報Xを1単位相当増やすことを示す(差分値:「+1」)。
【0069】
ここで、本実施形態における周期信号F1の生成態様について説明する。図12は、周期信号F1を生成する方法の一例を示す。前記第1の実施形態と同様、周期信号F1は、閾値Thとデジタルカウント値Dとに基づいて決定された出力タイミング(ここでは、デジタルカウント値Dが「18」に達したタイミング)でその波高が信号レベルPLへと変化する。この周期信号F1は、検出信号Sの周期Tに比べて十分に狭幅なパルス幅Wを有する。以降、上述の態様で決定された出力タイミングで、周期信号F1の生成が繰り返される。なお、本実施形態では、検出信号Sが谷側から山側へ変化している際に周期信号F1が生成されるようにしているが、これに代えて、若しくはこれに加えて、検出信号Sが山側から谷側へ変化している際に同様に周期信号F1が生成されるようにしてもよい。特に、検出信号Sが山側から谷側へ変化している際にも周期信号F1を生成する場合、周期信号F1の周期は、検出信号Sの半周期(=T/2)となる。いずれにせよ、周期信号生成部3は、検出信号Sの波高(ピーク値Dp)に応じて設定される閾値Thに基づいて検出信号Sの周期に応じた(周期に比例する)周期を有する周期信号F1を生成する。周期信号F1(出力信号F)が、付加信号F3の重畳に関わらず、検出信号Sの周期に応じた周期を有することはいうまでもない。
【0070】
通常モードにおける累積の差分値SDの演算(式(1)参照)に係るajは、前記第1の実施形態と同様、所定閾値Th1と交差したパルス数、即ち周期信号F1のパルス数である。一方、bjは、周期信号F1の見かけ上のパルス幅W1により求められる。具体的には、「bj=(W1/W)−1」とすることにより、付加信号F3aのパルス数として求められる。
【0071】
そして、図13に示すように、ラーニングモードにおいて初期値となる付加情報Xsが伝送された後は、前記第1の実施形態と同様、通常モードにおいて周期信号F1の周期ごとの増減量を積算していくことで、その都度、最新の付加情報Xとしての更新が可能となる。
【0072】
以上詳述したように、本実施形態によれば、前記第2の実施形態と同様の効果に加えて以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、複数種類のパルス(出力信号Fa〜Fc)は、元となるパルスP1(周期信号F1)のハイレベルの期間(パルス幅W1)が変更されることで生成されている。従って、送信側では、元となるパルスP1のハイレベルの期間を変更するのみの極めて簡易な方法で、複数種類のパルスを生成することができる。なお、受信側での複数種類のパルス(出力信号Fa〜Fc)の識別は、例えば変更されたパルスのハイレベルの期間を計時することで容易に行うことができる。
【0073】
特に、元となるパルスP1のハイレベルの期間に他のパルスを重畳した場合のようにパルスの振幅(波高)が変化することがないため、複数種類のパルスを識別等するためにパルスの振幅を複数の閾値で判定する必要もなく、受信側(ECU)の回路構成をより簡易化することができる。具体的には、振幅(波高)を変化させるパルスP1,P2(図6参照)の場合、電流出力3種類、パルス数判定閾値2つ(所定閾値Th1,Th2)、マイコンのタイマー入力2個が必要になるのに対し、パルス幅を変化させるパルス(F1,Fa〜Fc:図11参照)の場合、電流出力2種類、パルス数判定閾値1つ(所定閾値Th1)、マイコンのタイマー入力1個が必要になり、受信側の回路構成に有利と推定される。
【0074】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・第2の物理情報は、複数種類の物理情報(例えば空気圧情報及び温度情報)から選択可能ないずれか一種類の物理情報であってもよい。この場合、一の種類の物理情報の伝送に先立って、当該物理情報の種類の選択情報を併せて伝送する必要がある。この選択情報は、第2の物理情報自体の伝送に係る一の種類のパルスとは異なる他の種類のパルスの連続する回数に基づいて伝送すればよい。
【0075】
以下、図14のタイムチャートに基づいて、2種類の物理情報X1,X2を選択的に(交互に)伝送する場合について説明する。なお、本変形形態のデータ通信方法(通信プロトコル)では、パルスP1の連続する回数に基づいて第2の物理情報(物理情報X1,X2)を伝送し、該第2の物理情報の伝送に先立つパルスP2の連続する回数に基づいて選択情報を伝送するものとする。具体的には、パルスP2が1回のときはその後に伝送される第2の物理情報が物理情報X1(例えば温度情報)であり、パルスP2が2回のときはその後に伝送される第2の物理情報が物理情報X2(例えば空気圧情報)であることを表すものとする。
【0076】
この場合、図14に示すように、パルスP2が1回であることに基づいて、その後の第2の物理情報が物理情報X1であることが選択情報として伝送される。そして、その後のパルスP1の連続する回数に基づいて当該物理情報X1が伝送される。続いて、パルスP2への切り替えに基づいて物理情報X1の伝送が終了されるとともに、該パルスP2が2回であることに基づいて、その後の第2の物理情報が物理情報X2であることが選択情報として伝送される。そして、その後のパルスP1の連続する回数に基づいて当該物理情報X2が伝送される。このように、第2の物理情報の伝送に先立つパルスP2の連続する回数に基づいて選択情報が伝送されることで、当該選択情報に対応する一の種類の物理情報(X1,X2)を第2の物理情報として伝送することができる。従って、第2の物理情報としての複数種類の物理情報を、共通の1本の信号線Lで選択的に伝送することができる。特に、複数種類の物理情報を2種類のパルスP1,P2のみを利用して選択的に伝送することができる。なお、複数種類の物理情報を交互に伝送するようにしてもよいし、一の種類の物理情報を重み付けして集中的に伝送するようにしてもよい。
【0077】
・前記第1の実施形態において、第2の物理情報(付加情報X)の新たな取得は、パルスP1が生成される所定回数内に行うようにしてもよい。このように変形しても、第2の物理情報を間欠的に更新することができる。
【0078】
・前記第1の実施形態において、パルスP2が生成される所定時間内等に付加情報Xを取得するとともに、その後のパルスP1の連続する回数に基づいて第2の物理情報(付加情報X)を伝送してもよい。
【0079】
・前記第1の実施形態において、付加情報Xの伝送に係るパルスとしては、例えばパルス幅の変更されたパルス(図11参照)であってもよい。
・前記第2及び第3の実施形態において、増減情報(出力信号Fa〜Fc)による付加情報Xsの更新が遅れ気味と推定される場合(例えば差分値が一定期間連続して「−1」又は「1」となる場合)には、現在の付加情報X(Xs)を伝送し直すようにしてもよい。
【0080】
・前記各実施形態において、第2の物理情報(付加情報X)としては、例えば山側及び谷側のピークP間の偏差に基づき推定される、車輪9に印加される横力であってもよい。
【符号の説明】
【0081】
X…付加情報(第2の物理情報)、X1,X2…物理情報(第2の物理情報)、L…信号線、3…周期信号生成部、4…出力部(信号処理部)、5…付加信号生成部(信号処理部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスの周期により、速度情報を表す第1の物理情報を伝送するデータ通信方法において、
前記パルスに基づき選択的に生成される当該パルスの周期を有する複数種類のパルスにより、一の種類の前記パルスの連続する回数に基づいて前記第1の物理情報とは異なる第2の物理情報を伝送し、前記一の種類の前記パルスとは異なる他の種類の前記パルスへの切り替えに基づいて前記第2の物理情報の伝送を終了することを特徴とするデータ通信方法。
【請求項2】
請求項1に記載のデータ通信方法において、
前記複数種類のパルスは、元となる前記パルスのハイレベル又はローレベルの期間に他のパルスが重畳されることで生成されていることを特徴とするデータ通信方法。
【請求項3】
請求項1に記載のデータ通信方法において、
前記複数種類のパルスは、元となる前記パルスのハイレベル又はローレベルの期間が変更されることで生成されていることを特徴とするデータ通信方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のデータ通信方法において、
前記第2の物理情報は、前記他の種類の前記パルスが生成される時間が所定時間に達するごと又は前記他の種類の前記パルスの生成回数が所定回数に達するごとに繰り返し伝送されており、
前記第2の物理情報は、前記他の種類の前記パルスが生成される前記所定時間内又は前記他の種類の前記パルスが生成される前記所定回数内に取得されることを特徴とするデータ通信方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のデータ通信方法において、
前記第2の物理情報は、複数種類から選択可能ないずれか一種類の物理情報であって、
前記第2の物理情報の伝送に先立つ前記一の種類の前記パルスとは異なる他の種類の前記パルスの連続する回数に基づいて、前記複数種類から選択可能ないずれか一種類の物理情報の種類の選択情報を伝送することを特徴とするデータ通信方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のデータ通信方法において、
前記第2の物理情報の伝送終了後に切り替わる前記他の種類の前記パルスにより、その周期ごとの前記第2の物理情報の増減情報を伝送することを特徴とするデータ通信方法。
【請求項7】
速度センサから出力される検出信号に基づいて、速度情報を表す第1の物理情報に応じた周期を有するパルスを生成する周期信号生成部と、
前記パルスに基づいて、当該パルスの周期を有する一の種類の前記パルスを前記第1の物理情報とは異なる第2の物理情報に応じた回数で連続的に生成し、前記一の種類の前記パルスとは異なる他の種類の前記パルスに切り替えて、信号線に出力する信号処理部とを備えたことを特徴とするデータ通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−53977(P2011−53977A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203002(P2009−203002)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】