説明

トイレ構造

【課題】一般的な住宅に、あらゆる場合を想定した介助用トイレを備えておくことは、無駄なスペースが多く、介助が必要な者がいない場合には、このようなトイレを積極的に採用する動機に乏しい。さらに、将来、介助が必要となるかもしれない場合に備えて、上記のようなトイレ構造を予め採用するとしても、介助が必要となるまでの間は不要な設備であり、トイレの利便性を低下させてしまうおそれがある。
【解決手段】本発明では、着座方向可変の便器を有する便器セットを提供する。該便器セットには便器本体変更機構が備えられ、便器本体の配置方向を変更することで着座方向を変更することができる。このため、介助が必要となるものが現れた場合に、その被介助者の身体の不自由な箇所に応じて便器の着座方向を変更することができ、あらゆる場合に対応可能な設備を予め設けておく必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器の配置方向が変更可能なトイレの構造の発明に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者や障害者に配慮したバリアフリーを徹底した住宅造りが重要となっている。特にトイレは、高齢者や障害者を介助する者にとって、限られたスペースでの介助が必要であり、便器の向き等により介助が非常に困難となる場合がある。例えば、図14に示す一般的なトイレ構造では、トイレ室内への入り口(1403)が便器(1401)の前面にあり、手摺(1402)等が備えられていた場合であっても、介助者が被介助者を便座に座らせるためには、被介助者を前から抱きかかえるようにした状態から便座へ降ろす必要がある。このため、介助者に非常に重量がかかるばかりか、被介助者も勢い良く便座に座り込んでしまい、臀部に大きな衝撃を受けてしまうおそれがある。このため、トイレ室内にて介助を行うためには、図15に示すように、トイレ室内への入り口(1503)が便器の側面にあることが望ましい。図15に示すトイレ構造では、被介助者の介助レベルにもよるが、被介助者は介助者の肩や手摺(1502)等をつかんで自らで便座(1501)へ座ることができる。しかし、図15に示すトイレ構造にも以下のような問題がある。
【0003】
例えば、右半身が自由に動かない場合には図15に示すトイレ構造であっても良いが、左半身が自由に動かない場合には、介助が余計に困難になる。すなわち、図15では、右半身が自由に動かない場合には、左手で手摺を握ることで左半身を支え、右半身は介助者に支えてもらうことで便座へ座ることができる。しかし、逆に左半身が自由に動かない場合には、図15のトイレ構造では、介助者は被介助者の左半身を支えることができず、図14に示すトイレ構造の場合と同様、被介助者は勢い良く便座へ座り込んでしまい、やはり臀部に大きな衝撃を受けてしまうおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1では、トイレ室内での便器の左右両外側及び前外側から介助ができるようにスペースが設けられたトイレ構造を開示している。特許文献1に記載のトイレ構造では、介助者は被介助者の左右両側及び前面から介助を行うことができるため、左又は右半身のどちらかが自由に動かない被介助者であっても、介助者は適切な位置で介助を行うことができる。
【特許文献1】特開2005−245500 図4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、とりわけ老人ホーム等の介護施設においては、上記のような便器の両側に十分なスペースを備えたトイレ構造を採用することも可能であるが、一般的な住宅においては、トイレ構造が占めるスペースが大きくなり過ぎてしまい、他の居室スペース等が占める面積が少なくなってしまう。また、新たに住居を建てる際に介助が必要となる者がいない場合には、予め上記のようなトイレ構造を積極的に採用する動機に乏しい。さらに、将来、介助が必要となるかもしれない場合に備えて、上記のようなトイレ構造を予め採用するとしても、介助が必要となるまでの間は不要な設備であり、逆に健常者にとってはトイレの利便性を低下させてしまうおそれがある。
【0006】
また、介助用に限らず、リフォーム時などにおいて、部屋のレイアウトの改変に伴い便器の向きの変更が必要となる場合がある。しかし、従来の便器は、床面や壁面に移動不能に直接固定されており、便器の向きを変える作業も大掛かりとなり、容易に行えるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するため、第一発明では、着座方向可変の便器を有する便器セットを提供する。また、第二発明では、第一発明に記載の便器セットであって、前記便器は、便座と便器本体とからなり、前記着座方向は、便座の配置方向を便器本体上で変更するための便座変更機構により可変とされる便器セットを提供する。また、第三発明では、第一発明に記載の便器セットであって、前記便器は、便座と便器本体とからなり、前記着座方向は、床面に対する便器本体の配置方向を変更するための便器本体変更機構により可変とされる便器セットを提供する。
【0008】
第四発明では、第三発明に記載の便器セットであって、前記便器本体変更機構は、排水を行う便器側排水管と、床面側排水管の接続領域を同軸に配置し、その軸を中心として便器側排水管を床面側排水管に対して回転固定自在とする接続手段を有する便器セットを提供する。第五発明では、第四発明に記載の便器セットであって、前記接続手段は、排水を行う便器側排水管と、前記便器側排水管の外径よりも大きい内径を有し、便器側排水管に接続される床面側排水管と、前記床面側排水管の外形よりも大きい内径を有し、複数の貫通孔が設けられた便器側排水管の側周壁と、前記側周壁の貫通孔を貫通し、床面側排水管へ当接して便器をボルト締め固定するボルト締め手段と、からなり、便器側排水管と床面側排水管とが略同軸関係を保ったままの状態で便器本体を回転させることにより、便器本体の配置方向を変更する手段であることを特徴とする便器セットを提供する。
【0009】
第六発明では、第三発明から第五発明のいずれか一に記載の便器セットを備えたトイレユニットであって、前記便器本体変更機構にて変更された便器本体の配置方向がいずれの方向へ向けて配置された場合であっても、介助者が被介助者を便座へ着座させるための介助ができる程度のスペースが便器本体側方に確保されたトイレユニットを提供する。第七発明では、前記スペースの全部又は一部は、間仕切りにて仕切開放自在とされていることを特徴とするトイレユニットを提供する。第八発明では、第六発明又は第七発明に記載のトイレユニットであって、ユニット壁面の一部には、便器の位置に応じて出入口を取付け取外し自在な出入口ユニットを複数設けたことを特徴とするトイレユニットを提供する。
【発明の効果】
【0010】
以上のような構成をとる本発明の便器セットでは、便器の着座方向が可変であり、利用者が利用し易い方向からの着座を可能とすることができる。このため、身体の不自由な人が着座する際であっても、身体の不自由な箇所に応じて着座方向を変更することができる。
【0011】
また、本発明のトイレユニットでは、着座方向を変更した場合であっても、建物の構造を大幅に変更することなく利用可能なトイレユニットを提供することができる。さらに、本発明のトイレユニットでは、介助が必要となる者が現れるまでは健常者用のトイレユニットとして利用することができ、介助が必要となる者が現れた後に容易に被介助者用のトイレユニットとすることができる。すなわち、健常者のみの場合には、被介助者用トイレユニットを形成するためのスペースを収納等に利用できるため、介助が必要となる者が現れる前までもスペースが無駄となることもないという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、図を用いて本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明はこれら実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。なお、実施形態1は主として請求項1、2について説明する。実施形態2は主として請求項3、4、5、6について説明する。実施形態3は主として請求項7、8について説明する。
≪実施形態1≫
【0013】
(実施形態1の概念)図1(a)、図1(b)は、本実施形態の便器セットの一例を説明するための図である。本実施形態の便器セットは、便座の配置方向を図1(a)から図1(b)に示すように変更することで着座方向を変更することができる便器セットである。
【0014】
(実施形態1の構成)本実施形態の便器セット(0100)は便座(0101)と、便器本体(0102)とからなり、便器本体は便座変更機構(0103)を有することを特徴とする。
【0015】
(実施形態1の構成の説明)「便器セット」(0100)とは、着座方向可変の便器を有するトイレ構造である。さらに、便器は、便座(0101)と便器本体(0102)とからなる。便器本体(0102)とは、便器の胴部をいい、大小便を受ける器を備えている。また、便器本体に流水を流すことで汚物を排水管へ排水する機能を有する。便座(0101)とは、便器本体に設けられ、直接利用者の臀部に接触する部分である。
【0016】
「便座変更機構」(0103)とは、便座の配置方向を便器本体上で変更するための機能を有する。便座変更機構は、便器本体(0102)と便座(0101)との間に設けられる。図1(a)では、便座変更機構(0103)として、円形のレールを用いている。便器本体側に円形のレールを配置し、便座側に該レール上をスライドするスライド機構を設けることで、便座を回転可能に便器本体に設置することができる。図1(a)に示す便座(0101)を矢印方向へ回転させると、図1(b)に示すように、レール上をスライドして便座が回転し、着座方向を変更することができる。このため、便器セットへの着座方向が着座に困難な方向である場合には、着座に適した方向へ便座を回転させて着座することができる。着座後は便座を元の位置に戻して排便を行っても良いし、便座を回転させたままの状態で排便を行っても良い。なお、便座の配置方向の変更を容易にするために、便座に配置方向を変更するための取っ手等を設けることとしても良い。このようにして便座の配置方向を可変とすることで、被介助者が便座へ着座する際に、介助者又は被介助者が利用し易い方向へ便座を配置することができる。また、介助が必要ではない者であっても、利用し易い便座方向に向けることができ、利便性を向上させることができる。
【0017】
(実施形態1の効果)以上のような構成をとる本実施形態の便器セットでは、便座の配置方向を便器本体上で変更することで、利用者が利用し易い方向からの着座を可能とすることができる。
【0018】
≪実施形態2≫
【0019】
(実施形態2の概要)図2から図7は本実施形態の便器セットの一例を説明するための図である。図2は、便器本体の配置方向を変更する前の状態を表す図、図3は便器本体の配置方向を変更した後の状態を表す図、図4乃至図7は便器本体変更機構の一例を表す図である。本実施形態の便器セットは、床面に対する便器本体の配置方向を変更することで着座方向を変更することができる便器セットである。
【0020】
(実施形態2の構成)本実施形態の便器セット(0200)は便座(0201)と、便器本体(0202)とからなり、便器本体は便器本体変更機構を有することを特徴とする。便器本体変更機構以外の構成については実施形態1で説明済みであるため、説明を省略する。
【0021】
(実施形態2の構成の説明)「便器本体変更機構」とは、床面に対する便器本体(0202)の配置方向を変更するための機能を有する。便器本体変更機構により、図2に示す便器本体(0202)の床面に対する配置方向を、図3(A)に示す便器本体(0302)のように垂直方向に変更することができる。このとき、便器本体に備え付けられている便座(0201)は、便器本体と一体となって移動するため、床面に対する便座の配置方向も同様に変更されることとなる。また、便器に付随するタンク(0203)やシャワートイレなどの操作盤等(0204)や、高齢者等が利用する手摺(0205)も同様に配置方向を変更することが望ましい。また、図3(B)に示すように、便器本体(0302)を45度方向に変更することとしても良い。この場合には、手摺は、便器の両側に設けることで、高齢者等に配慮した構造とすることができる。
【0022】
便器本体変更機構は、排水を行う便器側排水管と、床面側排水管の接続領域を同軸に配置し、その軸を中心として便器側排水管を床面側排水管に対して回転固定自在とする接続手段を有することが望ましい。図2に示す網掛部(0207)は便器側排水管と、床面側排水管の接続領域を示している。床面側排水管の位置を変更するためには、大掛かりな工事が必要となるため、床面側排水管の位置を変更することなく便器の配置方向を変更することが望ましい。便器側排水管と、床面側排水管の接続領域を同軸とし、その軸を中心として便器の配置方向を変更することで、便器からの排水特性には大きな影響を与えないで便器の着座方向を変更することができる。このため、図2に示す接続領域の軸を中心として図3(A)、図3(B)に示すように便器の配置方向を変更することが望ましい。なお、いずれの方向へ向けた場合にも、利用者が便器の利用中に頭部をぶつけたりすることの無いようなスペースを設けておくことが望ましい。
【0023】
図4(a)、図4(b)に便器本体変更機構(0402)の一例を示す。図4(a)は便器本体変更機構(0402)を有する便器本体(0401)を表す図、図4(b)は図4(a)に示す便器本体(0401)を床面に設置された床面側配水管(0405)に接続した場合の側方断面図である。なお、図4(b)の矢印は水の流れる方向を示している。
【0024】
図4(b)に示す接続手段(0402)の一例では、排水を行う便器側排水管(0404)と、該便器側排水管(0404)の外径よりも大きい内径を有し、便器側排水管に接続される床面側排水管(0405)と、該床面側排水管(0405)の外形よりも大きい内径を有し、複数の貫通孔が設けられた便器側排水管の側周壁(0406)と、該側周壁の貫通孔を貫通し、床面側排水管へ当接して便器をボルト締め固定するボルト締め手段(0407)と、からなり、便器側排水管(0404)と床面側排水管(0405)とが略同軸関係を保ったままの状態で便器本体(0401)を回転させることにより、便器本体の配置方向を変更することができる。
【0025】
便器側排水管(0404)の外径よりも床面側排水管(0405)の内径を大きくすることで、便器側排水管から流出した排水は、こぼれることなく床面側排水管へ流入する。また、床面側排水管(0405)の外径よりも便器側排水管を覆う側周壁(0406)の内径を大きくすることで、床面側排水管を覆い隠すことができる。また、側周壁(0406)には図4(a)に示すような貫通孔(0403)を空けておき、該貫通孔にボルト(0407)を挿入して床面側排水管(0405)の外壁に圧着させることで、便器本体を床面側排水管に固定することができる。
【0026】
図5(a)、図5(b)は、便器本体変更機構(0502)の別の具体例を示す。図5(a)は便器本体変更機構(0502)を有する便器本体(0501)を表す図、図5(b)は図5(a)に示す便器本体を床面に設置された床面側配水管に接続した場合の側方断面図である。なお、図5(b)の矢印は水の流れる方向を示している。
【0027】
図5(a)に示す便器本体(0501)は、アンカープレート(0503)が設けられており、該アンカープレートを、ボルトなどを用いて床面に固定するための貫通孔(0504)を備えている。該アンカープレートには、便器側排水管から排水が流出する箇所に排水のための穴が空いており、便器側排水管から床面側排水管へ排水を流出させることができる。該便器本体には、便器本体変更機構として、便器側排水管の側周壁にベアリング(0502)が設けられている。該ベアリングは、回動可能であり、ベアリングにより便器本体の配置方向を変更することができる。図5(b)に示すように、前記アンカープレート(0503)の貫通孔(0504)にボルト(0505)を挿入して、アンカープレートをボルト締め固定することで便器を床面に固定することができる。なお、床面には、予めボルト受部を設けておく必要がある。便器本体変更機構としてのベアリング(0502)は便器側排水管(0506)と同軸とし、便器側排水管の側周壁(0507)の一部を形成するように設けることで流出する排水の排水特性に影響を与えることなく便器本体の配置方向を変更することができる。
【0028】
図6、図7は、便器本体変更機構の別の具体例を示す。図6は便器本体変更機構を有する便器を表す図、図7は図6に示す便器本体を床面に設置した場合の側方断面図である。図7(a)は床面側アンカープレートを示しており、図7(b)は床面側アンカープレートに便器側アンカープレートを固定した状態を示しており、図7(c)は、便器側アンカープレートのみを示す上面図である。
【0029】
図6に示す便器本体(0601)は、図5(a)と同様に便器本体にアンカープレート(0602)が設けられており、該アンカープレートをボルトなどで床面に固定することで便器本体を床面に固定することができる。該アンカープレートには、便器側排水管から排水が流出する箇所に排水のための穴が空いており、便器側排水管から床面側排水管へ排水を流出させることができる。図6に示す該アンカープレートの詳細な図を図7に示す。図7に示す例では、便器側には、便器本体(0701)に便器側アンカープレート(0702)が設けられ、床面には、便器側アンカープレートに対応して床面側アンカープレート(0703)が設けられる。そして、各アンカープレートを固定することで、便器本体を床面に固定することとしている。図7(c)に示すように、便器側アンカープレート(0702)は平面部分を正方形とし、点対称にアンカーボルトを挿入するための貫通孔(0707)を設ける。また、中央部には、便器本体からの排水を流出させるための穴(0704)を設けている。図7(a)に示すように、床面側アンカープレート(0703)には、便器側アンカープレートの貫通孔(0707)に対応するアンカーボルト(0705)を上方へ向けて突出させる。また、床面側アンカープレートにも便器本体から流出した排水を通すための穴(0706)が空けられている。なお、床面側アンカープレートは、別途アンカーボルトを用いて床面に固定するか、接着剤等を用いて予め床面に固定する。又は、床面側アンカープレートが床面の一部であっても良い。床面側アンカープレートはいずれかの手段により、床面に固着させる。
【0030】
そして、床面側アンカープレート(0703)に設けられたアンカーボルト(0705)に、対応する便器側のアンカープレートの貫通孔(0707)を挿入し、図7(b)に示すように、アンカーボルトにナット等を螺合することで、床面側アンカープレートと便器側アンカープレートとを固定することができる。床面側アンカープレートは床面に固着されているため、床面側アンカープレートに固定された便器本体についても床面に固定されることとなる。
【0031】
便器本体の配置方向を変更する場合には、便器側アンカープレート(0702)を90度、180度、270度のいずれかの角度で回転させ、便器側アンカープレートの貫通孔(0707)に挿入する床面側アンカーボルト(0705)を変更する。このとき、便器側アンカープレートの貫通孔及び床面側アンカーボルトは点対称に配置されているため、便器側アンカープレートを回転させて配置しても、必ずいずれかの方向で固定することができる。なお、図7(c)に示す便器側アンカープレート(0702)では、4箇所の貫通孔(0707)を設けているため、便器本体を4方向のいずれかの方向へ向けて配置することができる。さらに点対称な貫通孔の数を増やすことで、便器本体の配置方向を微調整することができる。例えば、貫通孔の数を倍にして、便器側アンカープレートを45度、135度、225度、315度の角度で回転させることとしても良いし、さらに貫通孔の数を増やしても良い。
【0032】
以上の通り、便器本体の配置方向をいずれかの便器本体変更機構を用いて変更することができる。
【0033】
また、図2に示すように、本実施形態における便器セットを備えたトイレユニット(0200)では、前記便器本体変更機構にて変更された便器本体の配置方向がいずれの方向へ向けて配置された場合であっても、介助者が被介助者を便座へ着座させるための介助ができる程度のスペース(0208)が便器本体側方に確保されていることが望ましい。例えば、図2に示すトイレユニットでは、図3(A)、図3(B)に示すように便器の配置方向を変更した場合であっても、便器本体側方に介助者が被介助者を便座へ着座させるための介助ができる程度のスペース(0308)が確保されている。このように、予めトイレユニットのスペースに余裕を持たせておくことで、便器セットを方向転換した場合であっても、介助者が被介助者を介助するスペースが確保することができる。また、便座に着座した利用者にとっても、圧迫感なく排便を行うことができる。
【0034】
このように、トイレユニットの便器の着座方向を可変とすることで、介助の場面において次のような利点が得られる。例えば、図2に示すドア(0206)と便器(0202)、手摺(0205)との位置関係の場合、介助者は非介助者の右側に立ち、被介助者は左手で手摺等を握って便座へ着座することとなる。しかし、仮に被介助者の左半身が不自由な場合には、被介助者は左手で自身の体重を支えることができず、被介助者は介助者に全ての体重を委ねることとなり、手摺等が設置されているにも関わらず、これを利用できないがために介助者への負担が非常に大きくなってしまう。このような場合に、図3(A)に示すように便器本体(0302)の配置方向を変更して、便器の着座方向を90度変更する。すると、図3(A)に示す便器では、手摺(0305)を右手側へ配置することができるので、介助者は不自由である被介助者の左半身を支え、被介助者は右手で手摺を握って便座(0301)へ着座することができる。このように、便器本体の配置方向を手摺とともに変更することで、介助者への負担が大幅に低減されることとなる。なお、手摺は、いずれの壁面にも設置可能な長さの物を用いることが望ましい。また、手摺を設置する壁面には、便器がいずれの方向に向けられた場合であっても手摺を設置できるように、手摺設置用の補強部材などの下地を備えておくことが望ましい。
【0035】
(実施形態2の効果)以上のような構成をとる本発明の便器セットでは、便器本体の配置方向を変更することで便器の着座方向が可変であり、利用者が利用し易い方向からの着座を可能とすることができる。このため、身体の不自由な人が着座する際であっても、身体の不自由な箇所に応じて着座方向を変更することができる。
【0036】
また、本発明のトイレユニットでは、着座方向を変更した場合であっても、建物の構造を大幅に変更することなく利用可能なトイレユニットを提供することができる。
【0037】
≪実施形態3≫
【0038】
(実施形態3の概要)図8乃至図12は、本実施形態のトイレユニットの一例を説明するための図である。図8は一の間仕切りを有するトイレユニットを示しており、図9は二の間仕切りを有するトイレユニットを示している。図10は図8に示すトイレユニットにおいて、出入口を変更した場合のトイレユニットを示しており、図11は図8に示すトイレユニットにおいて、便器の着座方向を変更した場合を示している。図12及び図13は、本実施形態のトイレユニットを備えた住宅を例示している。
【0039】
(実施形態3の構成)本実施形態のトイレユニットは、間仕切り(0804)及び出入口ユニット(0804、0805)を有することを特徴とする。
【0040】
(実施形態3の構成の説明)「間仕切り」(0804)とは、居室空間を区画分けするための壁面を形成する部材である。本実施形態の間仕切りは、壁面の一部として完全に建物の構造に組み入れるのではなく、仕切り開放自在にトイレユニットのスペースに取り付ける。該間仕切りは、居住者が健常者のみの場合には、間仕切りを設置したままとすることで、通常のトイレ機能を提供しつつ、間仕切りで区切られた部分(0806)を収納等として利用することができる。そして、居住者に身体の不自由な者が現れた場合には、間仕切りを開放して、図10に示すように、介助スペース(1001)を備えたトイレユニットを提供することができる。また、本実施形態のトイレユニットには、実施形態2に記載の便器セットが用いられているため、図10の点線にて示すように、身体の不自由な箇所に応じて便器セットの着座方向を変更することができる。なお、図9に示すように、間仕切りは2枚以上を設置しても良い。これらのいずれか一又は二の間仕切りは必要に応じて取り外すことができる。
【0041】
「出入口ユニット」(0804、0805)とは、トイレのユニット壁面(0803)の一部に設けられ、便器の位置に応じて出入口を取付け取外し自在な出入口のユニットである。図8に示すトイレユニットでは、出入口ユニットが2つ設けられており、間仕切りの有無、便器の配置方向に応じていずれか一方の出入口ユニットを取り外して壁面とすることができる。なお、ユニット壁面とは、トイレユニットを構成する壁面である。ユニット壁面についても取付け取外し可能であり、取り外したユニット壁面に出入口ユニットを設置したり、出入口ユニットを取り外してユニット壁面を取り付けたりすることも可能である。例えば、図10に示すトイレユニットでは、図8に示すトイレユニットの出入口ユニットのうち、便器正面の出入口ユニット(0805)を取外し、ユニット壁面を取り付けている。また、図11(a)に示すトイレユニットでは、図8に示すトイレユニットから間仕切り(0802)を取外し、さらに、便器(0801)の配置方向を変更し、間仕切り側の出入口ユニット(0804)を取り外してユニット壁面を取り付けている。なお、図11(b)のように、さらに、出入口ユニットの位置を変更しても良い。なお、トイレユニットに設けられる手摺は、便器の位置に応じて、出入口の進入方向に対して突き当たる壁面に設けられていることが望ましい。また、図11(a)と図11(b)を比較すると、図11(b)に示すトイレユニットの方が、介助スペースと出入口が近く、介助しやすくなるという利点を有している。また、図9に示すトイレユニットでは、出入口ユニットが3つ存在しており、図8のトイレユニットと同様に、これらのいずれか一又は二の出入口ユニットを必要に応じて取り外すことができる。
【0042】
このように、間仕切り(0802)又は出入口ユニット(0804、0805)を一又は複数設けることで、被介助者の必要となる介助状況に応じたトイレユニットを容易に提供することができる。例えば、通常時は図8に示すトイレユニットであった場合に、右半身が不自由である被介助者が出現した場合には、図10に示すトイレユニットとすることで、被介助者は左手を利用して便座へ着座することができる。また、左半身が不自由である被介助者が出現した場合には、図11に示すトイレユニットとすることで、被介助者は右手を利用して便座へ着座することができる。すなわち、本実施形態のトイレユニットでは、介助が必要な状況に応じた適切なトイレユニットを提供することができる。
【0043】
図12は、本実施形態のトイレユニット(1201)を備えた住宅の間取り図を例示する。図12に示すように、トイレ時に介助が必要となる者がいない場合には、介助スペースを収納等として有効に利用することができ、上記の通り、介助が必要となる者が現れた場合に、介助の必要な状況に応じた介助スペースを備える適切なトイレユニットを提供することができる。
【0044】
図13(a)は、図12に示す住宅におけるトイレユニット周辺部分の異なる例を示した図である。図13(a)に示す住宅において、右半身が不自由な被介助者が現れた場合には、図13(b)に示すように、ユニット壁面を取り外すことのみで介助者用のトイレユニットとしても良いし、左半身が不自由な被介助者が現れた場合には、図13(c)に示すように、ユニット壁面を取外し、便器の着座方向を変更して介助者用のトイレユニットとしても良い。上記の場合、廊下部分も含めてトイレユニットが形成されることとなる。
【0045】
(実施形態3の効果)本発明のトイレユニットでは、間仕切り又は出入口ユニットを設けることで、被介助者の介助状況に応じた適切なトイレユニットを提供することができる。さらに、本発明のトイレユニットでは、介助が必要となる者が現れるまでは健常者用のトイレユニットとして利用することができ、介助が必要となる者が現れた後に容易に被介助者用のトイレユニットとすることができる。すなわち、健常者のみの場合には、被介助者用トイレユニットを形成するためのスペースを収納等に利用できるため、介助が必要となる者が現れる前までもスペースが無駄となることもないという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施形態1の便器セットを例示する図
【図2】実施形態2の便器セット及びトイレユニットを例示する図
【図3】便器本体の配置方向を変更した便器セットを例示する図
【図4】便器本体変更機構を例示する図(1)
【図5】便器本体変更機構を例示する図(2)
【図6】便器本体変更機構を例示する図(3)
【図7】便器本体変更機構を例示する図(4)
【図8】実施形態3のトイレユニットを例示する図(1)
【図9】実施形態3のトイレユニットを例示する図(2)
【図10】間仕切りを開放した場合のトイレユニットを例示する図(1)
【図11】間仕切りを開放した場合のトイレユニットを例示する図(2)
【図12】実施形態3のトイレユニットを備えた住宅の間取り図を例示する図
【図13】実施形態3のトイレユニットを備えた住宅の異なる形態を例示する図
【図14】従来技術におけるトイレ構造を示す図(1)
【図15】従来技術におけるトイレ構造を示す図(2)
【符号の説明】
【0047】
0200 トイレユニット
0201 便座
0202 便器本体
0203 タンク
0204 操作盤
0205 手摺
0206 ドア
0207 接続領域
0208 介助スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座方向可変の便器を有する便器セット。
【請求項2】
前記便器は、便座と便器本体とからなり、
前記着座方向は、便座の配置方向を便器本体上で変更するための便座変更機構により可変とされる請求項1に記載の便器セット。
【請求項3】
前記便器は、便座と便器本体とからなり、
前記着座方向は、床面に対する便器本体の配置方向を変更するための便器本体変更機構により可変とされる請求項1に記載の便器セット。
【請求項4】
前記便器本体変更機構は、
排水を行う便器側排水管と、床面側排水管の接続領域を同軸に配置し、その軸を中心として便器側排水管を床面側排水管に対して回転固定自在とする接続手段を有する請求項3に記載の便器セット。
【請求項5】
前記接続手段は、
排水を行う便器側排水管と、
前記便器側排水管の外径よりも大きい内径を有し、便器側排水管に接続される床面側排水管と、
前記床面側排水管の外形よりも大きい内径を有し、複数の貫通孔が設けられた便器側排水管の側周壁と、
前記側周壁の貫通孔を貫通し、床面側排水管へ当接して便器をボルト締め固定するボルト締め手段と、
からなり、便器側排水管と床面側排水管とが略同軸関係を保ったままの状態で便器本体を回転させることにより、便器本体の配置方向を変更する手段であることを特徴とする請求項3に記載の便器セット。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか一に記載の便器セットを備えたトイレユニットであって、
前記便器本体変更機構にて変更された便器本体の配置方向がいずれの方向へ向けて配置された場合であっても、介助者が被介助者を便座へ着座させるための介助ができる程度のスペースが便器本体側方に確保されたトイレユニット。
【請求項7】
前記スペースの全部又は一部は、間仕切りにて仕切開放自在とされていることを特徴とする請求項6に記載のトイレユニット。
【請求項8】
ユニット壁面の一部には、便器の位置に応じて出入口を取付け取外し自在な出入口ユニットを複数設けたことを特徴とする請求項6又は7に記載のトイレユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−38415(P2008−38415A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212657(P2006−212657)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000114086)ミサワホーム株式会社 (288)
【Fターム(参考)】