説明

トナーセット、二成分現像剤セット、現像装置、画像形成装置および画像形成方法

【課題】 地球環境保全に対して配慮され、白黒画像形成時のプロセス速度を速くした画像形成装置においても良好な定着性を示すトナーセットを提供する。
【解決手段】
白黒画像形成時のプロセス速度がカラー画像形成時のプロセス速度よりも速い画像形成装置に用いられるトナーセットにおいて、前記トナーセットは、少なくとも結着樹脂および着色剤を含んで構成されるブラックトナーおよびカラートナーを含み、結着樹脂は、L体とD体との共重合体であるポリ乳酸樹脂を含んで構成され、ブラックトナーは、カラートナーよりもポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が多くなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーセット、二成分現像剤セット、現像装置、画像形成装置および画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安全性、廃棄物処理および環境保全などの見地から、電子写真の分野においても様々な取り組みがなされている。
【0003】
従来のトナーは、結着樹脂としてスチレン−アクリル酸エステル系樹脂やポリエステル系樹脂が用いられるものが多く、熱定着時に人体への影響が懸念されるスチレンなどの揮発性ガスが発生してしまうという問題がある。特に、カラー画像形成装置や高速化に対応した画像形成装置を用いる場合には、トナー消費量が多くなるため、トナー用結着樹脂として、揮発性ガスに起因する臭気のない、より安全性の高いものを使用することが求められている。さらに、従来のトナーは、生分解性を有しないために廃棄物処理が困難であるという問題もある。
【0004】
また、現在は、トナーをはじめとする数多くの製品の原料物質が石油などの化石資源から製造されており、化石資源の使用を削減する取り組みは、化石資源の枯渇を防止する点において非常に重要である。
【0005】
上述のような問題を解決するために、トナー用結着樹脂として、生分解性を有する材料であるポリ乳酸樹脂を使用する技術が提案されている。
【0006】
たとえば、特許文献1では、バインダー樹脂(結着樹脂)として、ポリ乳酸を3官能以上の多価イソシアナートにより架橋して得られるウレタン化ポリエステル樹脂を使用する静電荷像現像用トナーについて開示されている。
【0007】
また特許文献2では、結着樹脂として、ポリ乳酸系生分解性樹脂とテルペンフェノール共重合体とをブレンドした樹脂を用いる電子写真用トナーについて開示されている。
【0008】
また、最近のカラー画像形成装置においては、使用頻度の高いブラックトナーを用いたモノクロ画像(以下、「白黒画像」と記す)を形成する際における印字効率を向上させるために、白黒画像形成時のプロセス速度をカラー画像形成時のプロセス速度よりも速くする技術が提案されており、このような画像形成装置に対応可能なトナーが要求されている。
【0009】
【特許文献1】特開平9−281746号公報
【特許文献2】特開2001−166537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1および特許文献2のトナーは、白黒画像形成時のプロセス速度を速くした画像形成装置に充分に対応できる構成ではなく、白黒画像形成時に定着不良が生じるおそれがある。
【0011】
また、特許文献1および特許文献2のトナーは、良好な生分解性を有するために長期保存安定性に劣るという問題もある。すなわち、高温高湿環境下に長時間放置されると、トナーが加水分解されて使用できなくなるおそれがある。さらに、上述の条件下において印字物を重ねた状態で放置しておいた場合には、軟化したトナーによって印字物同士が貼りついてしまうおそれがある。
【0012】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、地球環境保全に対して配慮され、白黒画像形成時のプロセス速度を速くした画像形成装置においても良好な定着性を示すトナーセット、二成分現像剤セット、現像装置、画像形成装置および画像形成方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、長期保存安定性に優れるトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ブラックトナーを用いて画像形成するときのプロセス速度がカラートナーを用いて画像形成するときのプロセス速度よりも速い画像形成装置に用いられるトナーセットであって、
少なくとも結着樹脂および着色剤を含んで構成されるブラックトナーおよびカラートナーを含み、
結着樹脂は、L体とD体との共重合体であるポリ乳酸樹脂を含んで構成され、
ブラックトナーは、カラートナーよりもポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が多いことを特徴とするトナーセットである。
【0014】
また本発明のトナーセットは、ブラックトナーは、カラートナーよりもポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が3モル%以上多いことを特徴とする。
【0015】
また本発明のトナーセットは、ポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が8モル%以下であることを特徴とする。
【0016】
また本発明のトナーセットは、ブラックトナーおよびカラートナーは、外添剤が、被覆率が50%以上120%未満となるように添加されることを特徴とする。
【0017】
また本発明のトナーセットは、外添剤は、疎水化度が40以上であることを特徴とする。
【0018】
また本発明は、前記トナーセットにおけるブラックトナーおよびカラートナーが、それぞれキャリアを含んで二成分現像剤を構成することを特徴とする二成分現像剤セットである。
【0019】
また本発明は、前記トナーセットにおけるブラックトナーを収容する現像手段と、前記トナーセットにおけるカラートナーを収容する現像手段とを含むことを特徴とする現像装置である。
【0020】
また本発明は、画像情報に応じた光で露光されることによって静電潜像が形成される像担持体と、像担持体にトナーを供給して静電潜像を現像する前記現像装置と、現像されて形成されるトナー像を記録媒体に転写させる転写装置と、記録媒体上のトナー像を加熱して定着させる定着装置とを備え、
ブラックトナーを用いて画像形成するときのプロセス速度が、カラートナーを用いて画像形成するときのプロセス速度よりも速いことを特徴とする画像形成装置である。
【0021】
また本発明の画像形成装置は、ブラックトナーを収容する現像手段と定着装置との離反距離は、カラートナーを収容する現像手段と定着装置との離反距離よりも長いことを特徴とする。
【0022】
また本発明は、前記トナーセットを用いて画像形成を行う画像形成方法であって、
ブラックトナーを用いて画像形成するときのプロセス速度を、カラートナーを用いて画像形成するときのプロセス速度よりも速くすることを特徴とする画像形成方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ブラックトナーを用いて画像形成するとき(以下、「白黒画像形成時」と記す場合がある)のプロセス速度がカラートナーを用いて画像形成するとき(以下、「カラー画像形成時」と記す場合がある)のプロセス速度よりも速い画像形成装置に用いられるトナーセットにおいて、前記トナーセットは、少なくとも結着樹脂および着色剤を含んで構成されるブラックトナーおよびカラートナーを含み、結着樹脂は、L体とD体との共重合体であるポリ乳酸樹脂を含んで構成される。
【0024】
このように、結着樹脂がポリ乳酸樹脂を含んで構成されることによって、安全性の高いブラックトナーおよびカラートナーを含むトナーセットを得ることができる。また、ポリ乳酸樹脂は生分解性を有するためトナーの廃棄処理が容易になる。さらに、ポリ乳酸樹脂は非化石資源由来の材料であるため、化石資源の使用を削減することができ、環境負荷を少なくできる。
【0025】
また、ブラックトナーは、カラートナーよりもポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が多い。このように、ブラックトナーにおけるポリ乳酸樹脂中のD体の含有量を、カラートナーにおける含有量よりも多くすることで、ブラックトナーの軟化点がカラートナーの軟化点よりも低くなるため、ブラックトナーはより低温で定着しやすくなる。したがって、プロセス速度が速められることで定着ニップ部における記録媒体の通過時間が短くなった白黒画像形成時においても、良好な定着性を得ることができ、白黒画像形成時の印字効率を向上させることができる。
【0026】
したがって、本発明のトナーセットは、地球環境保全に対して配慮され、白黒画像形成時のプロセス速度を速めた画像形成装置においても良好な定着性を示すことができる。
【0027】
また本発明によれば、ブラックトナーは、カラートナーよりもポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が3モル%以上多いことが好ましい。
【0028】
これによって、ブラックトナーの軟化点をカラートナーの軟化点よりも15℃以上低くすることができ、ブラックトナーはより一層低温で定着しやすくなる。したがって、プロセス速度が大幅に速められることで定着ニップ部における記録媒体の通過時間が大幅に短くなった白黒画像形成時においても、良好な定着性を得ることができ、白黒画像形成時の印字効率をより一層向上させることができる。
【0029】
さらに、前記白黒画像形成時において、定着温度を大幅に高く設定しなくても良好な定着性を得ることができるようになる。したがって、白黒画像形成時およびカラー画像形成時における定着温度の設定値の差を小さくすることができ、白黒画像を形成した後にカラー画像を形成した場合においても、カラートナーにおいて高温オフセットが生じることを防止することができる。
【0030】
また本発明によれば、ポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が8モル%以下であることが好ましい。これによって、高温高湿環境下におけるブラックトナーおよびカラートナーの保存安定性をより良好に保つことができる。
【0031】
また本発明によれば、ブラックトナーおよびカラートナーは、外添剤が、被覆率が50%以上120%未満となるように添加されることが好ましい。これにより、D体の含有量が比較的多いポリ乳酸樹脂を使用する本発明のトナーセットにおけるブラックトナーおよびカラートナーが、加水分解によって劣化することを防ぐことができる。
【0032】
また本発明によれば、外添剤は、疎水化度が40以上であることが好ましい。これにより、D体の含有量が比較的多いポリ乳酸樹脂を使用する本発明のトナーセットにおけるブラックトナーおよびカラートナーが、加水分解によって劣化することをより確実に防ぐことができる。
【0033】
また本発明によれば、本発明の二成分現像剤セットは、前記トナーセットにおけるブラックトナーおよびカラートナーが、それぞれキャリアを含んで二成分現像剤を構成するものである。これによって、地球環境保全に対して配慮され、白黒画像形成時のプロセス速度を速めた画像形成装置においても良好な定着性を示すことができる二成分現像剤セットを得ることができる。
【0034】
また本発明によれば、本発明の現像装置は、前記トナーセットにおけるブラックトナーを収容する現像手段と、前記トナーセットにおけるカラートナーを収容する現像手段とを含む。
【0035】
このように、本発明のトナーセットを用いて現像を行うことによって、地球環境保全に対して配慮され、白黒画像形成時のプロセス速度を速めた画像形成装置において白黒画像形成時の印字効率を向上させることができ、さらに良好な画像を形成できる現像装置を得ることができる。
【0036】
また本発明によれば、本発明の画像形成装置は、画像情報に応じた光で露光されることによって静電潜像が形成される像担持体と、像担持体にトナーを供給して静電潜像を現像する前記現像装置と、現像されて形成されるトナー像を記録媒体に転写させる転写装置と、記録媒体上のトナー像を加熱して定着させる定着装置とを備える。そして、ブラックトナーを用いて画像形成するときのプロセス速度が、カラートナーを用いて画像形成するときのプロセス速度よりも速くなるように構成される。
【0037】
このように、本発明の現像装置を備えることによって、より安全性を高くすることができるため、オフィス内においてユーザに近い位置に設置することができる画像形成装置を得ることができる。また、白黒画像形成時およびカラー画像形成時における定着温度の設定値の差を小さくすることができるため、白黒画像形成時における立ち上げ時間を短縮することができ、かつ白黒画像形成時において、高い印字効率で良好な画像を形成することができる。
【0038】
また本発明によれば、ブラックトナーを収容する現像手段と定着装置との離反距離は、カラートナーを収容する現像手段と定着装置との離反距離よりも長いことが好ましい。
【0039】
このように、軟化点の低いブラックトナーを収容する現像手段を、加熱手段を有する定着装置から離れた位置に設置することによって、ブラックトナーの保存安定性を良好な状態で長期に渡って維持することができる。
【0040】
また本発明によれば、本発明の画像形成方法は、前記トナーセットを用いて画像形成を行う画像形成方法であって、ブラックトナーを用いて画像形成するときのプロセス速度を、カラートナーを用いて画像形成するときのプロセス速度よりも速くする。これによって、プロセス速度が速められることで定着ニップ部における記録媒体の通過時間が短くなった白黒画像形成時においても、良好な定着性を得ることができ、白黒画像形成時の印字効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、ブラックトナーを用いて画像形成するとき(白黒画像形成時)のプロセス速度がカラートナーを用いて画像形成するとき(カラー画像形成時)のプロセス速度よりも速い画像形成装置に用いられるトナーセットであって、前記トナーセットは、少なくとも結着樹脂および着色剤を含んで構成されるブラックトナーおよびカラートナーを含み、結着樹脂は、L体とD体との共重合体であるポリ乳酸樹脂を含んで構成される。
【0042】
このように、結着樹脂がポリ乳酸樹脂を含んで構成されることによって、安全性の高いブラックトナーおよびカラートナーを含むトナーセットを得ることができる。また、ポリ乳酸樹脂は生分解性を有するためトナーの廃棄処理が容易になる。さらに、ポリ乳酸樹脂は非化石資源由来の材料であるため、化石資源の使用を削減することができ、環境負荷を少なくできる。
【0043】
また、ブラックトナーは、カラートナーよりもポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が多い。このように、ブラックトナーにおけるポリ乳酸樹脂中のD体の含有量を、カラートナーにおける含有量よりも多くすることで、ブラックトナーの軟化点がカラートナーの軟化点よりも低くなるため、ブラックトナーはより低温で定着しやすくなる。したがって、プロセス速度が速められることで定着ニップ部における記録媒体の通過時間が短くなった白黒画像形成時においても、良好な定着性を得ることができ、白黒画像形成時の印字効率を向上させることができる。
【0044】
したがって、本発明のトナーセットは、地球環境保全に対して配慮され、白黒画像形成時のプロセス速度を速めた画像形成装置においても良好な定着性を示すことができる。
【0045】
本明細書中において、ブラックトナーとは、後述するブラックトナー用着色剤を含んで構成されるトナーを示し、カラートナーとは、後述するカラートナー用着色剤を含んで構成されるトナーを示す。本実施形態においては、カラートナー用着色剤として、マゼンタトナー用着色剤、シアントナー用着色剤およびイエロートナー用着色剤を使用する。
【0046】
以下に、本発明のトナーセットを構成するブラックトナーおよびカラートナー(以下、単に「トナー」と記す場合がある)の製造方法について説明する。本発明のトナーセットを構成するトナーの製造方法は、たとえば、図1のフロー図に示されるトナーの製造方法である。図1は、本発明のトナーセットを構成するブラックトナーおよびカラートナーの製造方法における手順の一例を示すフロー図である。
【0047】
本発明のトナーセットを構成するトナーの製造方法は、図1に示すように、少なくとも結着樹脂および着色剤を混合して混合物を作製する前混合工程(ステップS1)と、混合物を溶融混練して溶融混練物を作製する溶融混練工程(ステップS2)と、溶融混練物を粉砕して粉砕物を作製する粉砕工程(ステップS3)と、粉砕物から過粉砕物や粗粉を除去する分級工程(ステップS4)とを含む。
【0048】
以下に、ステップS1〜ステップS4の各製造工程について詳細に説明する。ステップS0からステップS1に移行することで本発明のトナーセットを構成するトナーの製造が開始される。
【0049】
[前混合工程]
ステップS1の前混合工程では、少なくとも結着樹脂および着色剤を混合機によって乾式混合して混合物を作製する。混合物には、結着樹脂および着色剤の他に、その他のトナー添加成分が含有されていてもよい。その他のトナー添加成分としては、たとえば、離型剤や帯電制御剤などが挙げられる。
【0050】
乾式混合に用いられる混合機としては、公知のものを使用でき、たとえば、ヘンシェルミキサ(商品名:FMミキサ、三井鉱山株式会社製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)、メカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)などのヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、コスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)などが挙げられる。
【0051】
以下に、混合物に含まれる各トナー原料について説明する。
(a)結着樹脂
結着樹脂は、L体とD体との共重合体であるポリ乳酸樹脂を含んで構成される。ここで、L体およびD体とは、IUPAC命名法に基づくDL表記法によって示される、それぞれ立体配置の異なる光学異性体を示す。前記DL表記法とは、d−グリセルアルデヒドの立体配置を基準として、この立体配置を崩さずにできる化合物をD体とし、その鏡像異性体をL体と表記する命名法である。
【0052】
このように、結着樹脂がポリ乳酸樹脂を含んで構成されることによって、安全性の高いトナーを含むトナーセットを得ることができる。また、ポリ乳酸樹脂は生分解性を有するためトナーの廃棄処理が容易になる。さらに、ポリ乳酸樹脂は非化石資源由来の材料であるため、化石資源の使用を削減することができ、環境負荷を少なくできる。
【0053】
結着樹脂を構成するポリ乳酸樹脂は、主に乳酸成分を含む乳酸系ポリマーであって、詳しくは、ポリ乳酸ホモポリマー、または乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とのコポリマーが挙げられる。コモノマーとして用いられる他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸などが例示される。
【0054】
ポリ乳酸樹脂が、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とのコポリマーである場合、ポリ乳酸樹脂中の乳酸成分の含有量は、ポリ乳酸樹脂全量に対して80モル%以上であることが好ましい。
【0055】
ポリ乳酸樹脂としては、上述の乳酸系ポリマーの中でも、特にポリ乳酸ホモポリマーであることが好ましい。このように、結着樹脂がポリ乳酸ホモポリマーを含んで構成されることにより、地球環境保全に対してより一層配慮され、白黒画像形成時のプロセス速度を速めた画像形成装置においてもより一層良好な定着性を示すことができるトナーを得ることができる。
【0056】
これらのポリ乳酸樹脂は、L−乳酸(L体)、D−乳酸(D体)、ならびに他のヒドロキシカルボン酸のD体およびL体の中から必要とする構造のものを選んで原料とし、脱水縮重合することによって得ることができる。特には、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド、およびカプロラクトンなどから必要とする構造のものを選んで開環重合することによって得ることが好ましい。
【0057】
ポリ乳酸樹脂の原料であるラクチドには、L−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド、およびD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドでも用いることができる。
【0058】
ポリ乳酸樹脂の製造方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。たとえば、ポリ乳酸ホモポリマーの製造方法としては、乳酸の環状二量体であるラクチドを加熱溶融させて均一混合させた後、公知の重合触媒を使用して加熱開環重合させる方法や、加熱および減圧によって乳酸モノマーから直接脱水重縮合させる方法などが挙げられる。
【0059】
上述の重合反応に用いられる重合触媒としては、特に限定されるものではないが、公知の乳酸重合用触媒を用いることができる。たとえば、オクチル酸スズ、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズなどのスズ系化合物;粉末スズ、酸化スズ;亜鉛末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物;テトラプロピルチタネートなどのチタン系化合物;ジルコニウムイソプロポキシドなどのジルコニウム系化合物;三酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物;酸化ビスマス(III)などのビスマス系化合物;酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシドなどのアルミニウム系化合物などを挙げることができる。これらの重合触媒の使用量としては、たとえば開環重合を行う場合、ラクチドに対して0.001重量%〜5重量%程度である。重合反応は、上述の重合触媒の存在下、触媒種によって異なるが、通常100℃〜220℃の温度で行うことができる。
【0060】
ポリ乳酸樹脂中のL体とD体との共重合モル比としては、L体/D体=98/2〜92/8であることが好ましい。共重合モル比が上述の範囲内であることにより、より良好な保存安定性を得ることができる。
【0061】
L体とD体との共重合モル比は、たとえば、重合開始時において、原料であるL体およびD体の仕込み量(仕込み比)を調整することによって制御することができる。
【0062】
結着樹脂において、ブラックトナーは、カラートナーよりもポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が多くなるように構成され、特には3モル%以上多いことが好ましい。
【0063】
ポリ乳酸樹脂のうち、L体の含有量が100モル%近くを占めるポリ乳酸樹脂は結晶性を示す。このような結晶性のポリ乳酸樹脂に対してD体の含有量を増やしていくと、ポリ乳酸樹脂は非晶化の傾向を示すようになり、特に12モル%を超える場合には非晶性のポリ乳酸樹脂となる。非晶性のポリ乳酸樹脂は融点がなく、ガラス転移点も約50℃と低くなる。このように、D体の含有量を変えることにより非晶化の度合いを調整することでポリ乳酸樹脂の軟化点とガラス転移点を所望の温度に調整することができる。
【0064】
上述のように、ブラックトナーにおけるポリ乳酸樹脂中のD体の含有量を、カラートナーにおける含有量よりも多くすることで、ブラックトナーの軟化点がカラートナーの軟化点よりも低くなるため、ブラックトナーはより低温で定着しやすくなる。したがって、プロセス速度が速められることで定着ニップ部における記録媒体の通過時間が短くなった白黒画像形成時においても、良好な定着性を得ることができ、白黒画像形成時の印字効率を向上させることができる。
【0065】
また、ブラックトナーにおけるポリ乳酸樹脂中のD体の含有量を、カラートナーにおける含有量よりも3モル%以上多くすることで、ブラックトナーの軟化点をカラートナーの軟化点よりも15℃以上低くすることができ、ブラックトナーはより一層低温で定着しやすくなる。したがって、プロセス速度が大幅に速められることで定着ニップ部における記録媒体の通過時間が大幅に短くなった白黒画像形成時においても、良好な定着性を得ることができ、白黒画像形成時の印字効率をより一層向上させることができる。
【0066】
さらに、前記白黒画像形成時において、定着温度を大幅に高く設定しなくても、良好な定着性を得ることができるようになる。したがって、白黒画像形成時およびカラー画像形成時における定着温度の設定値の差を小さくすることができ、白黒画像を形成した後にカラー画像を形成した場合においても、カラートナーにおいて高温オフセットが生じることを防止することができる。
【0067】
一方、3モル%未満の場合には、カラートナーとブラックトナーとの軟化点の差が小さいために、白黒画像形成時のプロセス速度をカラー画像形成時と比べて大幅に速くすることができないおそれがある。そのため、使用頻度の高い白黒画像形成時の印字効率を向上させることができないおそれがある。また、この場合には、白黒画像形成時の定着温度の設定値を高くすることでプロセス速度を速くすることは可能であるが、その場合には定着装置周辺の機内温度が高くなってしまい、隣接するトナーカートリッジ内のトナーが融着するなどの重大な不具合が生じるおそれがある。
【0068】
また、結着樹脂におけるポリ乳酸樹脂中のD体の含有量は、8モル%以下であることが好ましい。これによって、高温高湿環境下におけるトナーの保存安定性をより良好に保つことができる。D体の含有量が8モル%を超えると、ポリ乳酸樹脂の加水分解の影響が顕著に現れるようになるため高温高湿環境下における保存安定性が急激に悪化してしまう。
【0069】
また、結着樹脂として、ポリ乳酸樹脂の他に、トナー用の公知の結着樹脂を1種以上併用してもよい。公知の結着樹脂としては、たとえば、ポリエステル系樹脂、ポリスチレンおよびスチレン−アクリル酸エステル共重合樹脂などのスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられ、また原料モノマー混合物に離型剤を混合し、重合反応させて得られる樹脂を用いてもよい。
【0070】
結着樹脂が、ポリ乳酸樹脂と上述の公知の結着樹脂とを含む場合には、上述の公知の結着樹脂は、結着樹脂に対して1重量%〜50重量%で含有されることが好ましい。
【0071】
なお、本実施形態では、カラートナーとしてマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを使用する。このように、カラートナーが複数ある場合における、カラートナー間のD体の含有量の関係としては、特に限定されるものではないが、全てのカラートナーにおけるD体含有量が等しくなるように構成されることが好ましい。
【0072】
(b)着色剤
着色剤としては、たとえば、マゼンタトナー用着色剤、シアントナー用着色剤およびイエロートナー用着色剤などのカラートナー用着色剤、ならびにブラックトナー用着色剤などが挙げられる。以下では、カラーインデックス(Color Index)を「C.I.」と略記する。
【0073】
マゼンタトナー用着色剤としては、たとえば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ソルベントレッド19、C.I.ソルベントレッド49、C.I.ソルベントレッド52、C.I.ベーシックレッド10、およびC.I.ディスパーズレッド15などが挙げられる。
【0074】
シアントナー用着色剤としては、たとえば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ソルベントブルー55、C.I.ソルベントブルー70、C.I.ダイレクトブルー25、およびC.I.ダイレクトブルー86などが挙げられる。
【0075】
イエロートナー用着色剤としては、たとえば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー5、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー15、およびC.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185などの有機系顔料、黄色酸化鉄および黄土などの無機系顔料、C.I.アシッドイエロー1などのニトロ系染料、C.I.ソルベントイエロー2、C.I.ソルベントイエロー6、C.I.ソルベントイエロー14、C.I.ソルベントイエロー15、C.I.ソルベントイエロー19、およびC.I.ソルベントイエロー21などの油溶性染料などが挙げられる。
【0076】
ブラックトナー用着色剤としては、たとえば、チャンネルブラック、ローラーブラック、ディスクブラック、ガスファーネスブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、およびアセチレンブラックなどのカーボンブラックが挙げられる。これら各種カーボンブラックの中から、得ようとするトナーの設計特性に応じて、適切なカーボンブラックを適宜選択すればよい。
【0077】
これらの顔料以外にも、紅色顔料、緑色顔料などを使用できる。着色剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。また、同色系のものを2種以上用いることができ、異色系のものをそれぞれ1種または2種以上用いることもできる。
【0078】
着色剤は、マスターバッチとして使用されることが好ましい。着色剤のマスターバッチは、たとえば、合成樹脂の溶融物と着色剤とを混練することによって製造することができる。合成樹脂としては、トナーの結着樹脂と同種の樹脂またはトナーの結着樹脂に対して良好な相溶性を有する樹脂が使用される。合成樹脂と着色剤との使用割合は特に制限されないけれども、好ましくは合成樹脂100重量部に対して30重量部以上100重量部以下である。すなわち、マスターバッチに対して着色剤が23重量%以上50重量%以下含有されることが好ましい。マスターバッチは、たとえば粒径2mm〜3mm程度に造粒されて用いられる。
【0079】
本発明のトナーにおける着色剤の含有量は特に制限されないけれども、好ましくは結着樹脂100重量部に対して4重量部以上20重量部以下である。マスターバッチを用いる場合には、本発明のトナーにおける着色剤の含有量が上記範囲になるように、マスターバッチの使用量を調整することが好ましい。着色剤の含有量を上記範囲になるように用いることによって、充分な画像濃度を有し、発色性が高く画像品位に優れる良好な画像を形成することができる。着色剤の含有量が20重量部を超えると、着色剤のフィラー効果によって、トナーの弾性が上昇し、トナーの定着性が低下するおそれがある。
【0080】
(c)離型剤
離型剤は、トナーを記録媒体に定着させる際にトナーに離型性を付与するために添加される。したがって、離型剤を使用しない場合と比較して高温オフセット開始温度を高め、耐高温オフセット性を向上させることができる。また、トナーを定着させる際の加熱によって離型剤を溶融させて定着開始温度を低下させることで、低温定着性を向上させることができる。
【0081】
離型剤としては、特に限定されるものではなく公知のものを使用することができるけれども、たとえば、パラフィンワックスおよびその誘導体、ならびにマイクロクリスタリンワックスおよびその誘導体などの石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックスおよびその誘導体、ポリオレフィンワックスおよびその誘導体、低分子ポリプロピレンワックスおよびその誘導体、ならびにポリオレフィン系重合体ワックスおよびその誘導体などの炭化水素系合成ワックス、カルナバワックスおよびその誘導体、エステル系ワックスなどが挙げられる。
【0082】
離型剤の含有量は特に限定されず広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは結着樹脂100重量部に対して0.2重量部以上20重量部以下である。離型剤の含有量が20重量部を超えると、トナーが感光体などの像担持体の表面に皮膜(フィルム)状に融着するフィルミングと呼ばれる現象や、キャリアへのスペントが発生しやすくなるおそれがある。離型剤の含有量が0.2重量部未満であると、低温定着性および耐ホットオフセット性の向上効果などの離型剤の機能が充分に発揮されなくなるおそれがある。
【0083】
離型剤の融点(Tm)は、50℃以上150℃以下であることが好ましく、さらには、80℃以下であることが好ましい。融点が50℃未満であると、現像装置内において離型剤が溶融してトナー粒子同士が凝集したり、感光体表面へのフィルミングなどの不良を引き起こすおそれがある。融点が150℃を超えると、トナーを記録媒体に定着するときに離型剤が充分に溶出することができず、耐ホットオフセット性の向上効果が充分に発揮されないおそれがある。なお、本明細書において、融点(Tm)とは、示差走査熱量測定(
Differential Scanning Calorimetry:略称DSC)によって得られるDSC曲線の融解に相当する吸熱ピークの温度のことである。
【0084】
(d)帯電制御剤
帯電制御剤を含有させることによって、トナーに好ましい帯電性を付与することができる。帯電制御剤としては、正電荷制御用または負電荷制御用の帯電制御剤を使用できる。たとえば、ニグロシン染料、塩基性染料、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、アミノピリン、ピリミジン化合物、多核ポリアミノ化合物、アミノシラン、ニグロシン染料およびその誘導体、トリフェニルメタン誘導体、グアニジン塩、およびアミジン塩などの正電荷制御用の帯電制御剤と、たとえば、オイルブラックおよびスピロンブラックなどの油溶性染料、含金属アゾ化合物、アゾ錯体染料、ナフテン酸金属塩、サリチル酸およびその誘導体の金属錯体および金属塩(金属はクロム、亜鉛、ジルコニウムなど)、ホウ素化合物、脂肪酸石鹸、長鎖アルキルカルボン酸塩、ならびに樹脂酸石鹸などの負電荷制御用の帯電制御剤が挙げられる。
【0085】
帯電制御剤は1種を単独で使用でき、または2種以上を併用できる。帯電制御剤の使用量は、好ましくは結着樹脂100重量部に対して0.5重量部以上5重量部以下であり、より好ましくは結着樹脂100重量部に対して0.5重量部以上3重量部以下である。帯電制御剤が5重量部よりも多く含まれると、キャリアが汚染されてしまい、トナー飛散が発生するおそれがある。0.5重量部未満であると、トナーに充分な帯電特性を付与することができないおそれがある。
【0086】
なお、カラートナーにおいては無色の帯電制御剤を使用することが望ましく、たとえばサリチル酸およびその誘導体の金属錯体および金属塩を使用することが望ましい。
【0087】
[溶融混練工程]
ステップS2の溶融混練工程では、前混合工程で作製された混合物を溶融混練して溶融混練物を作製する。混合物の溶融混練は、結着樹脂の軟化点以上、熱分解温度未満の温度に加熱して行われ、結着樹脂を溶融または軟化させて結着樹脂中に結着樹脂以外の各トナー原料を分散させる。
【0088】
溶融混練に使用される混練機としては公知のものを使用でき、たとえば、ニーダ、二軸押出機、二本ロールミル、三本ロールミル、ラボブラストミルなどの一般的な混練機を用いることができる。このような混練機の具体例としては、たとえば、TEM−100B(商品名、東芝機械株式会社製)、PCM−65、PCM−65/87、PCM−30(以上いずれも商品名、株式会社池貝製)などの1軸または2軸のエクストルーダ、ニーデックス(商品名、三井鉱山株式会社製)などのオープンロール方式の混練機などが挙げられる。トナー原料の混合物は、複数の混練機を用いて溶融混練されても構わない。
【0089】
上述の混練機の中でも、特にはオープンロール型連続混練機を用いることが好ましい。オープンロール型連続混練機は、表面にらせん状の溝を有し、互いに内側方向に回転する加熱ロールおよび冷却ロールを備える。
【0090】
オープンロール型連続混練機によれば、前混合工程で得られたトナー原料の混合物は、スクリューフィーダーや振動フィーダーなどから構成される原料搬送供給装置によって、オープンロールの一側端の加熱ロール上より供給される。供給された混合物は、両オープンロール間の一端供給側に滞留して溶融される。そして溶融した結着樹脂などによりバンクが形成されるとともに、オープンロールの回転により対流が形成され、バンク内に供給された混合物が飲み込まれる。なお、バンクとは、完全に溶融した状態ではなく、溶融していない混合物の塊が数個のこぶを形成したような状態で存在する状態のことを示す。
【0091】
次いで、バンクにおいて、対流に飲み込まれた混合物がオープンロールの加熱と回転によって溶融され、結着樹脂は粘性を有する流体となる。そして、溶融した混合物が加熱ローラのオープンロール表面に巻き付き、オープンロールの回転により他端側(供給側と反対の端部側)へ移送されるうちに混合物が練り込まれて溶融混練物が作製される。
【0092】
オープンロール型連続混練機において、通常、混合物の溶融混練は低温で行われるため、結着樹脂の溶融が進まず、高粘性流体の結着樹脂が練り込まれて大きな圧縮力、せん断力が発生する。その圧縮力、せん断力により顔料、添加剤が微細化されるとともに、結着樹脂中に均一に分散されつつ、混合物が溶融混練される。そして作製された溶融混練物はオープンロールの他端排出側から排出されて冷却固化される。
【0093】
このように、オープンロール型連続混練機を用いて混合物を溶融混練することにより、従来の他の混練機を用いる場合よりもトナー原料の分散性がより一層向上する。したがって、一定の性能を安定して示すことのできるトナーを得ることができる。
【0094】
[粉砕工程]
ステップS3の粉砕工程では、溶融混練工程にて得られた溶融混練物を冷却して固化させた後、粉砕して粉砕物を作製する。すなわち、冷却固化された溶融混練物は、まずハンマーミルまたはカッティングミルなどによって、たとえば体積平均粒径100μm以上5mm以下程度の粗粉砕物に粗粉砕される。その後、得られた粗粉砕物は、たとえば体積平均粒径15μm以下の粉砕物にまでさらに微粉砕される。粗粉砕物の微粉砕には、たとえば、超音速ジェット気流を利用して粉砕するジェット式粉砕機、高速で回転する回転子(ロータ)と固定子(ライナ)との間に形成される空間に粗粉砕物を導入して粉砕する衝撃式粉砕機などを用いることができる。
【0095】
なお、冷却固化された溶融混練物は、ハンマーミルまたはカッティングミルなどによる粗粉砕を経ることなく、直接ジェット式粉砕機または衝撃式粉砕機などにより粉砕されてもよい。
【0096】
[分級工程]
ステップS4の分級工程では、粉砕工程にて作製された粉砕物から、分級機を用いることによって、過粉砕トナー粒子(以下、「過粉砕物」と記す場合がある)や粗大トナー粒子(以下、「粗粉」と記す場合がある)を除去する。過粉砕物や粗粉は、他のトナーの製造に再利用するために回収して使用することもできる。
【0097】
分級には、遠心力による分級や風力による分級によって過粉砕物や粗粉を除去できる公知の分級機を使用することができ、たとえば、旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)などを使用することができる。
【0098】
分級は分級条件を適宜調整して、分級後に得られるトナー粒子の体積平均粒径が3μm以上15μm以下となるように行われることが好ましい。特に高画質画像を得るためには、トナー粒子の体積平均粒径を3μm以上9μm以下とすることが好ましく、さらに画質の向上を図るためには、トナー粒子の体積平均粒径を5μm以上8μm以下とすることが好ましい。
【0099】
トナー粒子の体積平均粒径が3μm未満であると、トナーの粒径が小さくなり過ぎ、高帯電化および低流動化が起こるおそれがある。この高帯電化および低流動化が発生すると、像担持体である感光体にトナーを安定して供給することができなくなり、地肌かぶりおよび画像濃度の低下などが発生するおそれがある。トナー粒子の体積平均粒径が15μmを超えると、トナーの粒径が大きいので、高精細な画像を得ることができない。またトナーの粒径が大きくなることによって比表面積が減少し、トナーの帯電量が小さくなる。トナーの帯電量が小さくなると、トナーが感光体に安定して供給されず、トナー飛散による機内汚染が発生するおそれがある。なお、上述の調整すべき分級条件とは、たとえば、旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)における分級ロータの回転速度などである。
【0100】
上述のようにして製造されたトナー粒子には、たとえば、粉体流動性向上、摩擦帯電性向上、耐熱性向上、長期保存安定性改善、クリーニング特性改善および感光体表面磨耗特性制御などの機能を担う外添剤を添加してもよい。
【0101】
外添剤は、被覆率が50%以上120%未満となるように添加されることが好ましい。ここで、被覆率とは、下記式(1)によって求められる値Xのことである)。
X=(31/2/2π)×(dt/da)×(ρt/ρa)×Ca×100…(1)
X:被覆率
da:外添剤の平均粒子径
dt:トナーの個数平均粒子径
ρt:トナーの真比重
ρa:外添剤の真比重
Ca:外添剤重量/(外添剤重量+トナー重量)
【0102】
一般的に、本発明のトナーセットを構成するトナーに使用されるポリ乳酸樹脂は加水分解されやすく、特にD体の含有量が多くなるほど加水分解が進みやすくなる。そのため、表面積の大きい微粉体である前記トナーは上述の加水分解の影響を受けやすい。たとえば、高温高湿環境下においてD体含有量の多いポリ乳酸樹脂を使用したトナーを長時間放置した場合には、加水分解が生じてトナーの分子量が低下してトナーの劣化が生じ、これによってトナーの溶融温度が低下して定着不良が生じるおそれがある。
【0103】
上述の問題は、トナー粒子表面を外添剤で被覆してトナー粒子が直接高温高湿環境下にさらされることを防ぐことによって解消できる。
【0104】
外添剤の被覆率が50%以上120%未満であることによって、D体の含有量が比較的多いポリ乳酸樹脂を使用する本発明のトナーセットにおけるトナーが、加水分解によって劣化することを防ぐことができる。被覆率が50%未満であると、外添剤で被覆することによる効果が得られず、高温高湿環境下においてポリ乳酸樹脂の加水分解を防止できないおそれがある。また、120%以上であると、トナーから遊離する外添剤が増加し、キャリア汚染を引き起こしてトナーの帯電量が低下し、カブリなどの画質の低下を招くおそれがある。
【0105】
外添剤としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、シリカ微粒子、酸化シリカ微粒子、酸化チタン微粒子およびアルミナ微粒子などが挙げられる。
【0106】
これらの無機微粉末は、疎水化、帯電性コントロールなどの目的でシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シランカップリング剤、官能基を有するシランカップリング剤、その他の有機ケイ素化合物などの処理剤で処理されていることが好ましい。上述の外添剤は、1種を単独で使用でき、または2種以上を併用できる。
【0107】
上述のようにして処理された外添剤の疎水化度は、40以上であることが好ましい。外添剤の疎水化度が40以上であることによって、D体の含有量が比較的多いポリ乳酸樹脂を使用する本発明のトナーセットにおけるトナーが、加水分解によって劣化することをより確実に防ぐことができる。疎水化度が40未満であると、高温高湿環境下においてポリ乳酸樹脂の加水分解を防止できないおそれがある。
【0108】
ここで、疎水化度とは、200mLのビーカに純水50mLを入れ、さらに0.2gの外添剤を添加して緩やかに攪拌した状態で、先端が水中に浸漬されたビュレットからメタノールを加えていったときに、浮かんでいる外添剤が沈み始めるまでに必要としたメタノールの量(mL)で規定する値である。
【0109】
外添剤の添加量としては、トナーに必要な帯電量、外添剤を添加することによる感光体の摩耗に対する影響、トナーの環境特性などを考慮して、トナー粒子100重量部に対して5重量部以下が好適である。
【0110】
外添剤は、一次粒子の個数平均粒子径が7nm〜20nmであることが好ましい。このような粒径の外添剤を用いることによって、トナーを効果的に被覆でき、ポリ乳酸樹脂の加水分解を抑える効果が一層発揮されやすくなる。
【0111】
上述のようにして、トナー粒子に必要に応じて外添剤が外添されるブラックトナーとカラートナーとをそれぞれ製造し、これらを組み合わせたものを本発明のトナーセットとする。
【0112】
本発明のトナーセットを構成するブラックトナーおよびカラートナーは、そのまま一成分現像剤として使用することができ、またキャリアと混合して二成分現像剤として使用することができる。
【0113】
本発明の二成分現像剤セットは、本発明のトナーセットにおけるブラックトナーおよびカラートナーが、それぞれキャリアを含んで二成分現像剤を構成するものである。たとえば、カラートナーが、マゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーから構成される場合には、本発明の二成分現像剤セットは、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックからなる4種類の二成分現像剤を含んで構成される。
【0114】
キャリアとしては、磁性を有する粒子を使用することができる。磁性を有する粒子の具体例としては、たとえば、鉄、フェライトおよびマグネタイトなどの金属、これらの金属とアルミニウムまたは鉛などの金属との合金などが挙げられる。これらの中でも、フェライトが好ましい。
【0115】
また磁性を有する粒子に樹脂を被覆した樹脂被覆キャリア、または樹脂に磁性を有する粒子を分散させた樹脂分散型キャリアなどをキャリアとして用いてもよい。磁性を有する粒子を被覆する樹脂としては特に制限はないけれども、たとえば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、エステル系樹脂、およびフッ素含有重合体系樹脂などが挙げられる。また樹脂分散型キャリアに用いられる樹脂としても特に制限されないけれども、たとえば、スチレンアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、およびフェノール系樹脂などが挙げられる。
【0116】
キャリアの形状は、球形または扁平形状が好ましい。また、キャリアの体積平均粒子径は特に制限されないけれども、高画質化を考慮すると、好ましくは10μm〜100μm、さらに好ましくは50μm以下である。
【0117】
このように、キャリアの体積平均粒子径を50μm以下にすることにより、トナーとキャリアとの接触機会が増え、個々のトナー粒子の帯電も適正に制御できるために、非画像部カブリが発生せず、かつ高画質な画像を達成することができる。
【0118】
さらにキャリアの抵抗率は、好ましくは10Ω・cm以上、さらに好ましくは1012Ω・cm以上である。キャリアの抵抗率は、キャリアを0.50cmの断面積を有する容器に入れてタッピングした後、容器内に詰められた粒子に1kg/cmの荷重を掛け、荷重と底面電極との間に1000V/cmの電界が生ずる電圧を印加したときの電流値を読取ることから得られる値である。抵抗率が低いと、現像スリーブにバイアス電圧を印加した場合にキャリアに電荷が注入され、感光体にキャリア粒子が付着し易くなる。またバイアス電圧のブレークダウンが起こりやすくなる。
【0119】
キャリアの磁化強さ(最大磁化)は、好ましくは10emu/g〜60emu/g、さらに好ましくは15emu/g〜40emu/gである。磁化強さは現像ローラの磁束密度にもよるけれども、現像ローラの一般的な磁束密度の条件下においては、10emu/g未満であると磁気的な束縛力が働かず、キャリア飛散の原因となるおそれがある。また磁化強さが60emu/gを超えると、キャリアの穂立ちが高くなり過ぎる非接触現像では、像担持体と非接触状態を保つことが困難になる。また接触現像ではトナー像に掃き目が現れ易くなるおそれがある。
【0120】
二成分現像剤におけるトナーとキャリアとの使用割合は特に制限されず、トナーおよびキャリアの種類に応じて適宜選択できるけれども、樹脂被覆キャリア(密度5g/cm〜8g/cm)に例をとれば、現像剤中に、トナーが現像剤全量の2重量%〜30重量%、好ましくは2重量%〜20重量%含まれるように、トナーを用いればよい。また二成分現像剤において、トナーによるキャリアの被覆率は、40%〜80%であることが好ましい。
【0121】
このように、本発明の二成分現像剤セットは、本発明のトナーセットにおけるブラックトナーおよびカラートナーが、それぞれキャリアを含んで二成分現像剤を構成するものである。これによって、地球環境保全に対して配慮され、白黒画像形成時のプロセス速度を速めた画像形成装置においても良好な定着性を示すことができる二成分現像剤セットを得ることができる。
【0122】
[画像形成装置]
図2は、本発明の画像形成装置1の構成を模式的に示す断面図である。画像形成装置1は、複写機能、プリンタ機能およびファクシミリ機能を併せ持つ複合機であり、伝達される画像情報に応じて、記録媒体上にフルカラーまたはモノクロの画像を形成する。すなわち、画像形成装置1においては、コピアモード(複写モード)、プリンタモードおよびFAXモードという3種の印刷モードを有しており、図示しない操作部からの操作入力、パーソナルコンピュータ、携帯端末装置、情報記録記憶媒体、メモリ装置などを用いた外部機器からの印刷ジョブの受信などに応じて、図示しない制御部により、印刷モードが選択される。
【0123】
また画像形成装置1は、白黒画像形成時のプロセス速度が、カラー画像形成時のプロセス速度よりも速くなるように、プロセス速度が設定されている。ここでいうプロセス速度とは定着速度のことであり、白黒画像形成時の定着速度をVk(mm/s)とし、カラー画像形成時の定着速度をVc(mm/s)とした場合に、VkとVcが下記式(2)を満たすことが好ましい。
((Vk−Vc)/Vc)×100≧3 …(2)
【0124】
上記式(2)が導かれる理由について以下に説明する。本発明に使用されるトナーは、ポリ乳酸樹脂中のD体とL体の含有量を変えて軟化点を変えることで、カラートナーとブラックトナーとの溶融温度を変えている。L体の含有量が100モル%であるポリ乳酸樹脂を使用したトナーの溶融温度は175℃であるが、これに対してD体含有量を増やしていくと、溶融温度が定着温度として好適な温度である170℃以下であるトナーを得ることができる。溶融温度が変化してもトナーの比熱はほとんど変化しないため、たとえば、下記式(3)から、溶融温度が170℃のトナーの熱容量は、溶融温度が175℃のトナーの熱容量よりも約3%小さくなることがわかる。したがって、溶融温度が170℃のトナーを使用した場合、定着ニップ通過時間、すなわち定着速度を3%短くしても溶融温度が175℃のトナーと同様の定着強度を保つことができる。
((175−170)/175)×100≒3% …(3)
【0125】
以上のことから、溶融温度が170℃以下のトナーを使用した場合、VkとVcが下記式(2)を満たすことが言える。
【0126】
画像形成装置1は、トナー像形成手段2と、転写装置3と、定着装置4と、記録媒体供給手段5と、排出手段6とを含む。トナー像形成手段2を構成する各部材および転写装置3に含まれる一部の部材は、カラー画像情報に含まれるシアン(c)、マゼンタ(m)、イエロー(y)およびブラック(b)の各色の画像情報に対応するために、それぞれ4つずつ設けられる。ここでは、各色に応じて4つずつ設けられる各部材は、各色を表すアルファベットを参照符号の末尾に付して区別し、総称する場合は参照符号のみで表す。
【0127】
トナー像形成手段2は、感光体ドラム11と、帯電手段12と、露光ユニット13と、現像装置14と、クリーニングユニット15とを含む。帯電手段12、現像装置14およびクリーニングユニット15は、感光体ドラム11まわりに、この順序で配置される。帯電手段12は、現像装置14およびクリーニングユニット15よりも鉛直方向下方に配置される。
【0128】
感光体ドラム11は像担持体であり、図示しない駆動手段により、軸線回りに回転駆動可能に支持され、図示しない、導電性基体と、導電性基体の表面に形成される感光層とを含む。導電性基体は種々の形状を採ることができ、たとえば、円筒状、円柱状、薄膜シート状などが挙げられる。これらの中でも円筒状が好ましい。導電性基体は導電性材料によって形成される。導電性材料としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、アルミニウム、銅、真鍮、亜鉛、ニッケル、ステンレス鋼、クロム、モリブデン、バナジウム、インジウム、チタン、金、白金などの金属、これらの2種以上の合金、合成樹脂フィルム、金属フィルム、紙などのフィルム状基体にアルミニウム、アルミニウム合金、酸化スズ、金、酸化インジウムなどの1種または2種以上からなる導電性層を形成してなる導電性フィルム、少なくとも導電性粒子または導電性ポリマーを含有する樹脂組成物などが挙げられる。なお、導電性フィルムに用いられるフィルム状基体としては、合成樹脂フィルムが好ましく、ポリエステルフィルムが特に好ましい。また、導電性フィルムにおける導電性層の形成方法としては、蒸着、塗布などが好ましい。
【0129】
感光層は、たとえば、電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層とを積層することにより形成される。その際、導電性基体と電荷発生層または電荷輸送層との間には、下引き層を設けるのが好ましい。下引き層を設けることによって、導電性基体の表面に存在する傷および凹凸を被覆して、感光層表面を平滑化する、繰り返し使用時における感光層の帯電性の劣化を防止する、少なくとも低温または低湿環境下における感光層の帯電特性を向上させるといった利点が得られる。また最上層に感光体表面保護層を設けた耐久性の大きい三層構造の積層感光体であっても良い。
【0130】
電荷発生層は、光照射により電荷を発生する電荷発生物質を主成分とし、必要に応じて公知の結着樹脂、可塑剤、増感剤などを含有する。電荷発生物質としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ペリレンイミド、ペリレン酸無水物などのペリレン系顔料、キナクリドン、アントラキノンなどの多環キノン系顔料、金属および無金属フタロシアニン、ハロゲン化無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、スクエアリウム色素、アズレニウム色素、チアピリリウム色素、カルバゾール骨格、スチリルスチルベン骨格、トリフェニルアミン骨格、ジベンゾチオフェン骨格、オキサジアゾール骨格、フルオレノン骨格、ビススチルベン骨格、ジスチリルオキサジアゾール骨格またはジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料などが挙げられる。これらの中でも、無金属フタロシアニン顔料、オキソチタニルフタロシアニン顔料、少なくともフローレン環またはフルオレノン環を含有するビスアゾ顔料、芳香族アミンからなるビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料などは高い電荷発生能を有し、高感度の感光層を得るのに適する。電荷発生物質は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。電荷発生物質の含有量は特に制限はないけれども、電荷発生層中の結着樹脂100重量部に対して好ましくは5重量部〜500重量部、さらに好ましくは10重量部〜200重量部である。電荷発生層用の結着樹脂としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリカーボネート、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、ポリアミド、ポリエステルなどが挙げられる。電荷発生層用の結着樹脂は1種を単独で使用できまたは必要に応じて2種以上を併用できる。
【0131】
電荷発生層は、電荷発生物質および結着樹脂ならびに必要に応じて可塑剤、増感剤などのそれぞれ適量を、これらの成分を溶解または分散し得る適切な有機溶媒に溶解または分散して電荷発生層塗液を調製し、この電荷発生層塗液を導電性基体表面に塗布し、乾燥することにより形成できる。このようにして得られる電荷発生層の膜厚は特に制限されないが、好ましくは0.05μm〜5μm、さらに好ましくは0.1μm〜2.5μmである。
【0132】
電荷発生層の上に積層される電荷輸送層は、電荷発生物質から発生する電荷を受け入れて輸送する能力を有する電荷輸送物質および電荷輸送層用の結着樹脂を必須成分とし、必要に応じて公知の酸化防止剤、可塑剤、増感剤、潤滑剤などを含有する。電荷輸送物質としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリ−γ−カルバゾリルエチルグルタメートおよびその誘導体、ピレン−ホルムアルデヒ縮合物およびその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、9−(p−ジエチルアミノスチリル)アントラセン、1,1−ビス(4−ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、ピラゾリン誘導体、フェニルヒドラゾン類、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルアミン系化合物、テトラフェニルジアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、スチルベン系化合物、3−メチル−2−ベンゾチアゾリン環を有するアジン化合物などの電子供与性物質、フルオレノン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、インデノチオフェン誘導体、フェナンスレンキノン誘導体、インデノピリジン誘導体、チオキサントン誘導体、ベンゾ[c]シンノリン誘導体、フェナジンオキサイド誘導体、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、プロマニル、クロラニル、ベンゾキノンなどの電子受容性物質などが挙げられる。電荷輸送物質は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。電荷輸送物質の含有量は特に制限されないけれども、好ましくは電荷輸送物質中の結着樹脂100重量部に対して10重量部〜300重量部、さらに好ましくは30重量部〜150重量部である。電荷輸送層用の結着樹脂としては、この分野で常用されかつ電荷輸送物質を均一に分散できるものを使用でき、たとえば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリエステル、ポリケトン、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスルホン樹脂、これらの共重合樹脂などが挙げられる。これらの中でも、成膜性、得られる電荷輸送層の耐摩耗性、電気特性などを考慮すると、ビスフェノールZをモノマー成分として含有するポリカーボネート(以後「ビスフェノールZ型ポリカーボネート」と称す)、ビスフェノールZ型ポリカーボネートと他のポリカーボネートとの混合物などが好ましい。電荷輸送層用の結着樹脂は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0133】
電荷輸送層には、電荷輸送物質および電荷輸送層用の結着樹脂と共に、酸化防止剤が含まれるのが好ましい。酸化防止剤としてもこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ビタミンE、ハイドロキノン、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびそれらの誘導体、有機硫黄化合物、有機リン化合物などが挙げられる。酸化防止剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。酸化防止剤の含有量は特に制限されないけれども、電荷輸送層を構成する成分の合計量の0.01重量%〜10重量%、好ましくは0.05重量%〜5重量%である。電荷輸送層は、電荷輸送物質および結着樹脂ならびに必要に応じて酸化防止剤、可塑剤、増感剤などのそれぞれ適量を、これらの成分を溶解または分散し得る適切な有機溶媒に溶解または分散して電荷輸送層用塗液を調製し、この電荷輸送層用塗液を電荷発生層表面に塗布し、乾燥することにより形成できる。このようにして得られる電荷発生層の膜厚は特に制限されないが、好ましくは10μm〜50μm、さらに好ましくは15μm〜40μmである。なお、1つの層に、電荷発生物質と電荷輸送物質とが存在する感光層を形成することもできる。その場合、電荷発生物質および電荷輸送物質の種類、含有量、結着樹脂の種類、その他の添加剤などは、電荷発生層および電荷輸送層を別々に形成する場合と同様でよい。
【0134】
本実施の形態では、前述のような、電荷発生物質および電荷輸送物質を用いる有機感光層を形成してなる感光体ドラムを用いるけれども、それに代えて、シリコンなどを用いる無機感光層を形成してなる感光体ドラムを使用できる。
【0135】
帯電手段12は、感光体ドラム11を臨み、感光体ドラム11の長手方向に沿って感光体ドラム11表面から間隙を有して離隔するように配置され、感光体ドラム11表面を所定の極性および電位に帯電させる。帯電手段12には、帯電ブラシ型帯電器、チャージャー型帯電器、鋸歯型帯電器、イオン発生装置などを使用できる。本実施の形態では、帯電手段12は感光体ドラム11表面から離隔するように設けられるけれども、それに限定されない。たとえば、帯電手段12として帯電ローラを用い、帯電ローラと感光体ドラムとが圧接するように帯電ローラを配置しても良く、帯電ブラシ、磁気ブラシなどの接触帯電方式の帯電器を用いても良い。
【0136】
露光ユニット13は、露光ユニット13から出射される各色情報の光が、帯電手段12と現像手段14c,14m,14y,14bとの間を通過して感光体ドラム11の表面に照射されるように配置される。露光ユニット13は、画像情報を該ユニット内でc、m、y、bの各色情報の光に分岐し、帯電手段12によって一様な電位に帯電された感光体ドラム11表面を各色情報の光で露光し、その表面に静電潜像を形成する。露光ユニット13には、たとえば、レーザ照射部および複数の反射ミラーを備えるレーザスキャニングユニットを使用できる。他にもLEDアレイ、液晶シャッタと光源とを適宜組み合わせたユニットを用いてもよい。
【0137】
図3は、本発明の現像装置14を構成する現像手段14cの構成の一例を模式的に示す断面図である。本発明の現像装置14は、本発明のトナーセットにおけるブラックトナーまたはカラートナーを含む二成分現像剤を収容し、収容するトナーの色に応じて現像を行う複数の現像手段14c,14m,14y,14bを含んで構成される。現像手段14cはシアントナーを含む二成分現像剤を収容し、現像手段14mはマゼンタトナーを含む二成分現像剤を収容し、現像手段14yはイエロートナーを含む二成分現像剤を収容し、現像手段14bはブラックトナーを含む二成分現像剤を収容する。
【0138】
現像手段14c,14m,14y,14bは同様の構成を有しているため、以下、現像手段14c,14m,14y,14bを代表して現像手段14cの構成について説明する。
【0139】
現像手段14cは、現像槽20cとトナーホッパ21cとを含む。現像槽20cは感光体ドラム11c表面を臨むように配置され、感光体ドラム11cの表面に形成された静電潜像にトナーを供給して現像し、可視像であるトナー像を形成する容器状部材である。現像槽20cは、その内部空間にトナーを収容し、かつ現像ローラ201、供給ローラ202、撹拌ローラ203などのローラ部材またはスクリュー部材を収容して回転自在に支持する。現像槽20cの感光体ドラム11cを臨む側面には開口部が形成され、この開口部を介して感光体ドラム11cに対向する位置に現像ローラ201が回転駆動可能に設けられる。現像ローラ201は、感光体ドラム11cとの圧接部または最近接部において感光体11c表面の静電潜像にトナーを供給するローラ状部材である。トナーの供給に際しては、現像ローラ201表面にトナーの帯電電位とは逆極性の電位が現像バイアス電圧(以下単に「現像バイアス」とする)として印加される。これによって、現像ローラ201表面のトナーが静電潜像に円滑に供給される。さらに、現像バイアス値を変更することによって、静電潜像に供給されるトナー量(トナー付着量)を制御できる。供給ローラ202は現像ローラ201を臨んで回転駆動可能に設けられるローラ状部材であり、現像ローラ201周辺にトナーを供給する。攪拌ローラ203は供給ローラ202を臨んで回転駆動可能に設けられるローラ状部材であり、トナーホッパ21cから現像槽20c内に新たに供給されるトナーを供給ローラ202周辺に送給する。トナーホッパ21cは、その鉛直方向下部に設けられるトナー補給口(図示せず)と、現像槽20cの鉛直方向上部に設けられるトナー受入口(図示せず)とが連通するように設けられ、現像槽20cのトナー消費状況に応じてトナーを補給する。またトナーホッパ21cを用いず、各色トナーカートリッジから直接トナーを補給するよう構成しても構わない。
【0140】
画像形成装置1では、定着装置4側から後述する転写ベルトクリーニングユニット29方向に向かって、現像手段14c,14m,14y,14bがこの順に並ぶように設置される。
【0141】
このように、ブラックトナーを収容する現像手段14bと定着装置4との離反距離は、カラートナーを収容する現像手段14c,14m,14yそれぞれと定着装置4との離反距離よりも長くなるように構成されることが好ましい。
【0142】
このように、軟化点の低いブラックトナーを収容する現像手段14bを、加熱手段を有する定着装置4から離れた位置に設置することによって、ブラックトナーの保存安定性を良好な状態で長期に渡って維持することができる。
【0143】
このように、本発明の現像装置14は、本発明のトナーセットを用いて現像を行うことによって、地球環境保全に対して配慮され、また白黒画像形成時のプロセス速度を速めた画像形成装置1において、白黒画像形成時の印字効率を向上させることができ、さらに良好な画像を形成できる現像装置を得ることができる。
【0144】
クリーニングユニット15は、記録媒体にトナー像を転写した後に、感光体ドラム11の表面に残留するトナーを除去し、感光体ドラム11の表面を清浄化する。クリーニングユニット15には、たとえば、クリーニングブレードなどの板状部材が用いられる。なお、本発明の画像形成装置1においては、感光体ドラム11として、主に有機感光体ドラムが用いられ、有機感光体ドラムの表面は樹脂成分を主体とするものであるため、帯電装置によるコロナ放電によって発生するオゾンの化学的作用によって表面の劣化が進行しやすい。ところが、劣化した表面部分はクリーニングユニット15よる擦過作用を受けて摩耗し、徐々にではあるが確実に除去される。したがって、オゾンなどによる表面の劣化の問題が実際上解消され、長期間にわたって、帯電動作による帯電電位を安定に維持することができる。本実施の形態ではクリーニングユニット15を設けるけれども、それに限定されず、クリーニングユニット15を設けなくてもよい。
【0145】
トナー像形成手段2によれば、帯電手段12によって均一な帯電状態にある感光体ドラム11の表面に、露光ユニット13から画像情報に応じた信号光を照射して露光することによって静電潜像を形成し、これに現像装置14からトナーを供給して現像することでトナー像を形成し、このトナー像を中間転写ベルト25に転写した後に、感光体ドラム11表面に残留するトナーをクリーニングユニット15で除去する。この一連のトナー像形成動作が繰り返し実行される。
【0146】
転写装置3は、感光体ドラム11の上方に配置され、中間転写ベルト25と、駆動ローラ26と、従動ローラ27と、中間転写ローラ28(c、m、y、b)と、転写ベルトクリーニングユニット29、転写ローラ30とを含む。中間転写ベルト25は、駆動ローラ26と従動ローラ27とによって張架されてループ状の移動経路を形成する無端ベルト状部材であり、矢符Bの方向、すなわち感光体ドラム11と接する面が感光体ドラム11bから11cに向う方向に移動するように回転駆動する。
【0147】
中間転写ベルト25が、感光体ドラム11に接しながら感光体ドラム11を通過する際、中間転写ベルト25を介して感光体ドラム11に対向配置される中間転写ローラ28から、感光体ドラム11表面のトナーの帯電極性とは逆極性の転写バイアスが印加され、感光体ドラム11の表面に形成されたトナー像が中間転写ベルト25上へ転写される。フルカラー画像の場合、各感光体ドラム11で形成される各色のトナー像が、中間転写ベルト25上に順次重ねて転写されることによって、フルカラートナー像が形成される。駆動ローラ26は図示しない駆動手段によってその軸線回りに回転駆動可能に設けられ、その回転駆動によって、中間転写ベルト25を矢符B方向へ回転駆動させる。従動ローラ27は駆動ローラ26の回転駆動に従動回転可能に設けられ、中間転写ベルト25が弛まないように一定の張力を中間転写ベルト25に付与する。中間転写ローラ28は、中間転写ベルト25を介して感光体ドラム11に圧接し、かつ図示しない駆動手段によってその軸線回りに回転駆動可能に設けられる。中間転写ローラ28は、前述のように転写バイアスを印加する図示しない電源が接続され、感光体ドラム11表面のトナー像を中間転写ベルト25に転写する機能を有する。転写ベルトクリーニングユニット29は、中間転写ベルト25を介して従動ローラ27に対向し、中間転写ベルト25の外周面に接触するように設けられる。感光体ドラム11との接触によって中間転写ベルト25に付着するトナーは、記録媒体の裏面を汚染する原因となるので、転写ベルトクリーニングユニット29が中間転写ベルト25表面のトナーを除去し回収する。転写ローラ30は、中間転写ベルト25を介して駆動ローラ26に圧接し、図示しない駆動手段によって軸線回りに回転駆動可能に設けられる。転写ローラ30と駆動ローラ26との圧接部(転写ニップ部)において、中間転写ベルト25に担持されて搬送されて来るトナー像が、後述する記録媒体供給手段5から送給される記録媒体に転写される。トナー像を担持する記録媒体は、定着装置4に送給される。転写装置3によれば、感光体ドラム11と中間転写ローラ28との圧接部において感光体ドラム11から中間転写ベルト25に転写されるトナー像が、中間転写ベルト25の矢符B方向への回転駆動によって転写ニップ部に搬送され、そこで記録媒体に転写される。
【0148】
定着装置4は、転写装置3よりも記録媒体の搬送方向下流側に設けられ、定着ローラ31と加圧ローラ32とを含む。定着ローラ31は図示しない駆動手段によって回転駆動可能に設けられ、記録媒体に担持される未定着トナー像を構成するトナーを加熱して溶融させ、記録媒体に定着させる。定着ローラ31の内部には図示しない加熱手段が設けられる。加熱手段は、定着ローラ31表面が所定の温度(加熱温度)になるように定着ローラ31を加熱する。加熱手段には、たとえば、ヒータ、ハロゲンランプなどを使用できる。加熱手段は、後記する定着条件制御手段によって制御される。定着ローラ31表面近傍には温度検知センサが設けられ、定着ローラ31の表面温度を検知する。温度検知センサによる検知結果は、後記する制御手段の記憶部に書き込まれる。加圧ローラ32は定着ローラ31に圧接するように設けられ、加圧ローラ32の回転駆動に従動回転可能に支持される。加圧ローラ32は、定着ローラ31によってトナーが溶融して記録媒体に定着する際に、トナーと記録媒体とを押圧することによって、トナー像の記録媒体への定着を補助する。定着ローラ31と加圧ローラ32との圧接部が定着ニップ部である。定着装置4によれば、転写装置3においてトナー像が転写された記録媒体が、定着ローラ31と加圧ローラ32とによって挟持され、定着ニップ部を通過する際に、トナー像が加熱下に記録媒体に押圧されることによって、トナー像が記録媒体に定着され、画像が形成される。
【0149】
記録媒体供給手段5は、自動給紙トレイ35と、ピックアップローラ36と、搬送ローラ37と、レジストローラ38、手差給紙トレイ39を含む。自動給紙トレイ35は画像形成装置1の鉛直方向下部に設けられ、記録媒体を貯留する容器状部材である。記録媒体には、普通紙、カラーコピー用紙、オーバーヘッドプロジェクタ用シート、葉書などがある。ピックアップローラ36は、自動給紙トレイ35に貯留される記録媒体を1枚ずつ取り出し、用紙搬送路S1に送給する。搬送ローラ37は互いに圧接するように設けられる一対のローラ部材であり、記録媒体をレジストローラ38に向けて搬送する。レジストローラ38は互いに圧接するように設けられる一対のローラ部材であり、搬送ローラ37から送給される記録媒体を、中間転写ベルト25に担持されるトナー像が転写ニップ部に搬送されるのに同期して、転写ニップ部に送給する。手差給紙トレイ39は、手動動作によって記録媒体を画像形成装置1内に取り込む装置であり、手差給紙トレイ39から取り込まれる記録媒体は、搬送ローラ37によって用紙搬送路S2内を通過し、レジストローラ38に送給される。記録媒体供給手段5によれば、自動給紙トレイ35または手差給紙トレイ39から1枚ずつ供給される記録媒体を、中間転写ベルト25に担持されるトナー像が転写ニップ部に搬送されるのに同期して、転写ニップ部に送給する。
【0150】
排出手段6は、搬送ローラ37と、排出ローラ40と、排出トレイ41とを含む。搬送ローラ37は、用紙搬送方向において定着ニップ部よりも下流側に設けられ、定着装置4によって画像が定着された記録媒体を排出ローラ40に向けて搬送する。排出ローラ40は、画像が定着された記録媒体を、画像形成装置1の鉛直方向上面に設けられる排出トレイ41に排出する。排出トレイ41は、画像が定着された記録媒体を貯留する。
【0151】
画像形成装置1は、図示しない制御手段を含む。制御手段は、たとえば、画像形成装置1の内部空間における上部に設けられ、記憶部と演算部と制御部とを含む。制御手段の記憶部には、画像形成装置1の上面に配置される図示しない操作パネルを介する各種設定値、画像形成装置1内部の各所に配置される図示しないセンサなどからの検知結果、外部機器からの画像情報などが入力される。また、各種手段を実行するプログラムが書き込まれる。各種手段とは、たとえば、記録媒体判定手段、付着量制御手段、定着条件制御手段などである。記憶部には、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、リードオンリィメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、ハードディスクドライブ(HDD)などが挙げられる。外部機器には、画像情報の形成または取得が可能であり、かつ画像形成装置1に電気的に接続可能な電気・電子機器を使用でき、たとえば、コンピュータ、デジタルカメラ、テレビジョン受像機、ビデオレコーダ、DVD(Digital
Versatile Disc)レコーダ、HDDVD(High-Definition Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスクレコーダ、ファクシミリ装置、携帯端末装置などが挙げられる。演算部は、記憶部に書き込まれる各種データ(画像形成命令、検知結果、画像情報など)および各種手段のプログラムを取り出し、各種判定を行う。制御部は、演算部の判定結果に応じて該当装置に制御信号を送付し、動作制御を行う。制御部および演算部は中央処理装置(CPU、Central Processing Unit)を備えるマイクロコンピュータ、マイクロプロセッサなどによって実現される処理回路を含む。制御手段は、前述の処理回路とともに主電源を含み、電源は制御手段だけでなく、画像形成装置1内部における各装置にも電力を供給する。
【0152】
このように、本発明の画像形成装置1は、画像情報に応じた光で露光されることによって静電潜像が形成される感光体ドラム11と、感光体ドラム11にトナーを供給して静電潜像を現像する本発明の現像装置14と、現像されて形成されるトナー像を記録媒体に転写させる転写装置3と、記録媒体上のトナー像を加熱して定着させる定着装置4とを備える。そして、ブラックトナーを用いて画像形成するときのプロセス速度が、カラートナーを用いて画像形成するときのプロセス速度よりも速くなるように構成される。
【0153】
これにより、より安全性を高くすることができるため、オフィス内においてユーザに近い位置に設置することができる画像形成装置1を得ることができる。また、白黒画像形成時およびカラー画像形成時における定着温度の設定値の差を小さくすることができるため、白黒画像形成時における立ち上げ時間を短縮することができ、かつ白黒画像形成時において、高い印字効率で良好な画像を形成することができる。
【実施例】
【0154】
以下に本発明を実施例および比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り特に本実施例に限定されるものではない。
【0155】
[物性値測定方法]
実施例および比較例における各物性値は、以下に示すようにして測定した。
【0156】
(結着樹脂の軟化点(T1/2))
流動特性評価装置(商品名:フローテスターCFT−500C、株式会社島津製作所製)を用い、試料1gをシリンダに挿入し、ダイから押出されるように荷重10kgf/cm(0.980665MPa)を与えながら、昇温速度毎分6℃(6℃/min)で加熱し、ダイから試料の半分が流出したときの温度を軟化点(T1/2)として求めた。ダイには、口径1mm、長さ1mmのものを用いた。
【0157】
(離型剤の融点(Tm))
示差走査熱量計(商品名:DSC220、セイコー電子工業株式会社製)を用い、試料0.01gを昇温速度毎分10℃(10℃/min)で温度20℃から200℃まで昇温させ、次いで200℃から20℃まで急冷させる操作を2回繰り返してDSC曲線を得た。2回目の操作で得られたDSC曲線の融解に相当する吸熱ピークの頂点の温度を離型剤の融点(Tm)として求めた。
【0158】
(体積平均粒径(D50v))
電解液(商品名:ISOTON−II、ベックマン・コールター社製)50mLに、試料20mgおよびアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(分散剤、キシダ化学株式会社製)1mLを添加し、超音波分散器(商品名:UH−50、株式会社エスエムテー製)にて超音波周波数20kHzで3分間超音波分散処理したものを測定用試料とした。この測定用試料について、粒度分布測定装置(商品名:Multisizer3、ベックマン・コールター社製)を用い、アパーチャ径100μm、測定粒子数50000カウントの条件下に試料粒子の粒径の測定を行い、得られた測定結果から試料粒子の体積粒度分布を求め、求めた体積粒度分布から体積平均粒径D50V(μm)を算出した。なお、体積平均粒径D50V(μm)とは、累積体積分布における大粒径側からの累積体積が50%になる粒径のことを示す。
【0159】
(外添剤の被覆率)
外添剤の被覆率X(%)は下記式(1)により求めた。
X=(31/2 /2π)×(dt/da)×(ρt/ρa)×Ca×100…(1)
X:被覆率
da:外添剤の平均粒径
dt:トナーの個数平均粒径
ρt:トナーの真比重
ρa:外添剤の真比重
Ca:外添剤重量/(外添剤重量+トナー重量)
【0160】
(外添剤の平均粒径)
走査型電子顕微鏡(商品名:S−4300SE/N、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用し、拡大倍率50000倍で、視野を変えて100個の外添剤粒子を撮影し、画像解析によって一次粒子の粒径をそれぞれ測定した。得られた100個の測定値に基づいて平均粒径を算出した。
【0161】
(トナーの個数平均粒径)
電解液(商品名:ISOTON−II、ベックマン・コールター社製)50mLに、試料20mgおよびアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(分散剤、キシダ化学株式会社製)1mLを添加し、超音波分散器(商品名:UH−50、株式会社エスエムテー製)にて超音波周波数20kHzで3分間超音波分散処理したものを測定用試料とした。この測定用試料について、粒度分布測定装置(Multisizer3、ベックマン・コールター社製)を用い、アパーチャ径100μm、測定粒子数50000カウントの条件下に試料粒子の粒径の測定を行い、得られた測定結果から試料粒子の個数粒度分布を求め、得られた個数粒度分布からトナーの個数平均粒径を算出した。
【0162】
(外添剤の疎水化度)
200mLのビーカに純水50mLを入れ、さらに0.2gの外添剤を添加して緩やかに攪拌した状態で、先端が水中に浸漬されたビュレットからメタノールを加えていき、浮かんでいる外添剤が沈み始めるまでに必要としたメタノールの量(mL)を測定した。得られた測定結果の数値(mL)をそのまま疎水化度とした。
【0163】
(試験例1)
〔ポリ乳酸樹脂の製造〕
(ポリ乳酸樹脂Aの製造)
L−ラクチド9.1kg、D−ラクチド0.9kgを重合反応層に仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら加熱溶融させて均一に混合した。次いで、オクチル酸スズ1gを添加した後135℃に加熱し、20時間加熱開環重合させて、ポリ乳酸樹脂A(共重合モル比:L体/D体=91/9、軟化点(T1/2):125℃)を製造した。
【0164】
(ポリ乳酸樹脂Bの製造)
L−ラクチド9.2kg、D−ラクチド0.8kgを仕込み、オクチル酸スズ1gを添加後135℃に加熱した以外は、ポリ乳酸樹脂Aと同様にしてポリ乳酸樹脂B(共重合モル比:L体/D体=92/8、軟化点(T1/2):130℃)を製造した。
【0165】
(ポリ乳酸樹脂Cの製造)
L−ラクチド9.4kg、D−ラクチド0.6kgを仕込み、オクチル酸スズ1gを添加後140℃に加熱した以外は、ポリ乳酸樹脂Aと同様にしてポリ乳酸樹脂C(共重合モル比:L体/D体=94/6、軟化点(T1/2):145℃)を製造した。
【0166】
(ポリ乳酸樹脂Dの製造)
L−ラクチド9.5kg、D−ラクチド0.5kgを仕込み、オクチル酸スズ1gを添加後145℃に加熱した以外は、ポリ乳酸樹脂Aと同様にしてポリ乳酸樹脂D(共重合モル比:L体/D体=95/5、軟化点(T1/2):150℃)を製造した。
【0167】
(ポリ乳酸樹脂Eの製造)
L−ラクチド9.6kg、D−ラクチド0.4kgを仕込み、オクチル酸スズ1gを添加後140℃に加熱した以外は、ポリ乳酸樹脂Aと同様にしてポリ乳酸樹脂E(共重合モル比:L体/D体=96/4、軟化点(T1/2):155℃)を製造した。
【0168】
(ポリ乳酸樹脂Fの製造)
L−ラクチド9.7kg、D−ラクチド0.3kgを仕込み、オクチル酸スズ1gを添加後140℃に加熱した以外は、ポリ乳酸樹脂Aと同様にしてポリ乳酸樹脂F(共重合モル比:L体/D体=97/3、軟化点(T1/2):160℃)を製造した。
【0169】
(ポリ乳酸樹脂Gの製造)
L−ラクチド9.8kg、D−ラクチド0.2kgを仕込み、オクチル酸スズ1gを添加後150℃に加熱した以外は、ポリ乳酸樹脂Aと同様にしてポリ乳酸樹脂G(共重合モル比:L体/D体=98/2、軟化点(T1/2):165℃)を製造した。
【0170】
(ポリ乳酸樹脂Hの製造)
L−ラクチド9.9kg、D−ラクチド0.1kgを仕込み、オクチル酸スズ1gを添加後155℃に加熱した以外は、ポリ乳酸樹脂Aと同様にしてポリ乳酸樹脂H(共重合モル比:L体/D体=99/1、軟化点(T1/2):170℃)を製造した。
【0171】
ポリ乳酸樹脂A〜Hにおける、共重合モル比(L体/D体)、軟化点(T1/2)、および製造時の反応温度を表1に示す。
【0172】
【表1】

【0173】
〔トナーセットの製造〕
(実施例1)
[前混合工程および溶融混練工程]
〔マゼンタトナーの製造〕
ポリ乳酸樹脂G(結着樹脂)82.8重量%(100重量部)と、マスターバッチ(C.I.ピグメントレッド57:1(着色剤)を40重量%含有)12重量%(14.5重量部)と、パラフィンワックス(離型剤、商品名:HNP−11、日本精蝋株式会社製、融点:68℃)4.2重量%(5.1重量部)と、アルキルサリチル酸金属塩(帯電制御剤、商品名:BONTRON E−84、オリエント化学株式会社製)1重量%(1.2重量部)とをこの配合割合で含むトナーの原料を、ヘンシェルミキサ(商品名:FMミキサ、三井鉱山株式会社製)によって10分間混合して混合物を作製した。次いで、得られた混合物を二軸押出混練機(商品名:PCM−65、株式会社池貝製)にて溶融混練して溶融混練物を作製した。
【0174】
[粉砕工程]
前混合工程および溶融混練工程にて得られた溶融混練物を室温まで冷却して固化させた後、カッティングミル(商品名:VM−16、菱興産業株式会社製)で粗粉砕した。次いで、粗粉砕によって得られた粗粉砕物を、流動層型ジェット式粉砕機(商品名:カウンタジェットミル、ホソカワミクロン株式会社製)によって微粉砕し、粉砕物を作製した。
【0175】
[分級工程]
得られた粉砕物からロータリー式分級機(商品名:TSPセパレータ、ホソカワミクロン株式会社製)によって過粉砕トナー粒子を分級除去し、体積平均粒径6.5μmのトナー粒子を得た。
【0176】
次いで、得られたトナー粒子100重量部に対して、酸化シリカ微粒子(外添剤、商品名:R−972、日本アエロジル株式会社製、疎水化度:40)0.92重量部を添加して実施例1のマゼンタトナーを製造した。
【0177】
〔シアントナーの製造〕
前混合工程にて、C.I.ピグメントブルー15(着色剤)を40重量%含有するマスターバッチを使用した以外は、マゼンタトナーと同様にして実施例1のシアントナーを製造した。
【0178】
〔イエロートナーの製造〕
前混合工程にて、C.I.ピグメントイエロー17(着色剤)を40重量%含有するマスターバッチを使用した以外は、マゼンタトナーと同様にして実施例1のイエロートナーを製造した。
【0179】
〔ブラックトナーの製造〕
前混合工程にて、ポリ乳酸樹脂E(結着樹脂)71.1重量%(100重量部)と、カーボンブラック(着色剤)を30重量%含有するマスターバッチ23.7重量%(33.3重量部)とを使用した以外は、マゼンタトナーと同様にして実施例1のブラックトナーを製造した。
【0180】
なお、得られたマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナー(以下、単に「カラートナー」と記す)の体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は125℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は115℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は80%であった。
【0181】
(実施例2)
実施例1と同様にして、実施例2のマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを製造した。また、ポリ乳酸樹脂D(結着樹脂)を使用した以外は、実施例1のブラックトナーと同様にして実施例2のブラックトナーを製造した。
【0182】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は125℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.6μmであり、軟化点(T1/2)は110℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は80%であった。
【0183】
(実施例3)
ポリ乳酸樹脂H(結着樹脂)を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例3のマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを製造した。また、ポリ乳酸樹脂D(結着樹脂)を使用した以外は、実施例1のブラックトナーと同様にして実施例3のブラックトナーを製造した。
【0184】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.8μmであり、軟化点(T1/2)は130℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.6μmであり、軟化点(T1/2)は110℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は80%であった。
【0185】
(実施例4)
ポリ乳酸樹脂H(結着樹脂)を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例4のマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを製造した。また、ポリ乳酸樹脂C(結着樹脂)を使用した以外は、実施例1のブラックトナーと同様にして実施例4のブラックトナーを製造した。
【0186】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.8μmであり、軟化点(T1/2)は130℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.8μmであり、軟化点(T1/2)は115℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は80%であった。
【0187】
(実施例5)
ポリ乳酸樹脂D(結着樹脂)を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例5のマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを製造した。また、ポリ乳酸樹脂B(結着樹脂)を使用した以外は、実施例1のブラックトナーと同様にして実施例5のブラックトナーを製造した。
【0188】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.9μmであり、軟化点(T1/2)は110℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は105℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は80%であった。
【0189】
(実施例6)
酸化シリカ微粒子(外添剤、商品名:PM−30、株式会社トクヤマ製、疎水化度:62)0.2重量部を添加した以外は、実施例5と同様にして、実施例6のカラートナーおよびブラックトナーを製造した。
【0190】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.9μmであり、軟化点(T1/2)は110℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は105℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は30%であった。
【0191】
(実施例7)
酸化シリカ微粒子(外添剤、商品名:R−974、日本アエロジル株式会社製、疎水化度:40)0.45重量部を添加した以外は、実施例5と同様にして、実施例7のカラートナーおよびブラックトナーを製造した。
【0192】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.9μmであり、軟化点(T1/2)は110℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は105℃であった、なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は40%であった。
【0193】
(実施例8)
酸化シリカ微粒子(外添剤、商品名:RA200H、日本アエロジル株式会社製、疎水化度:35)0.58重量部を添加した以外は、実施例5と同様にして、実施例8のカラートナーおよびブラックトナーを製造した。
【0194】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.9μmであり、軟化点(T1/2)は110℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は105℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は50%であった。
【0195】
(実施例9)
酸化シリカ微粒子(外添剤、商品名:R−974、日本アエロジル株式会社製、疎水化度:40)0.58重量部を添加した以外は、実施例5と同様にして、実施例9のカラートナーおよびブラックトナーを製造した。
【0196】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.9μmであり、軟化点(T1/2)は110℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は105℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は50%であった。
【0197】
(実施例10)
酸化シリカ微粒子(外添剤、商品名:RA200H、日本アエロジル株式会社製、疎水化度:35)1.38重量部を添加した以外は、実施例5と同様にして、実施例10のカラートナーおよびブラックトナーを製造した。
【0198】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.9μmであり、軟化点(T1/2)は110℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は105℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は110%であった。
【0199】
(実施例11)
酸化シリカ微粒子(外添剤、商品名:Dm−20S、株式会社トクヤマ製、疎水化度:50)1.27重量部を添加した以外は、実施例5と同様にして、実施例11のカラートナーおよびブラックトナーを製造した。
【0200】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.9μmであり、軟化点(T1/2)は110℃であり、外添剤の被覆率は110%であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は105℃であり、外添剤の被覆率は110%であった。
【0201】
(実施例12)
得られたトナー粒子100重量部に対して、酸化シリカ微粒子(外添剤、商品名:R−974、日本アエロジル株式会社製、疎水化度:40)1.5重量部を添加した以外は、実施例5と同様にして、実施例12のカラートナーおよびブラックトナーを製造した。
【0202】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.9μmであり、軟化点(T1/2)は110℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は105℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は130%であった。
【0203】
(実施例13)
ポリ乳酸樹脂H(結着樹脂)を使用した以外は、実施例6と同様にして、実施例13のマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを製造した。また、ポリ乳酸樹脂A(結着樹脂)を使用した以外は、実施例6のブラックトナーと同様にして実施例13のブラックトナーを製造した。
【0204】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.8μmであり、軟化点(T1/2)は130℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.6μmであり、軟化点(T1/2)は110℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は50%であった。
【0205】
(比較例1)
ポリ乳酸樹脂G(結着樹脂)を使用した以外は、実施例7と同様にして比較例1のカラートナーおよびブラックトナーを製造した。
【0206】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.6μmであり、軟化点(T1/2)は125℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は125℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は40%であった。
【0207】
(比較例2)
ポリ乳酸樹脂F(結着樹脂)を使用した以外は、実施例12と同様にして、比較例2のマゼンタトナー、シアントナーおよびイエロートナーを製造した。また、ポリ乳酸樹脂G(結着樹脂)を使用した以外は、実施例12のブラックトナーと同様にして比較例2のブラックトナーを製造した。
【0208】
なお、得られたカラートナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は120℃であった。また、得られたブラックトナーの体積平均粒径(D50V)は6.7μmであり、軟化点(T1/2)は125℃であった。なお、カラートナーおよびブラックトナー共に外添剤の被覆率は130%であった。
【0209】
実施例1〜13および比較例1,2のトナーセットにおけるカラートナーおよびブラックトナー中の、ポリ乳酸樹脂の種類(表2中、単に「樹脂の種類」と記す)、ポリ乳酸樹脂中のD体含有量(表2中、括弧内に記す)、体積平均粒径(D50V)、軟化点(T1/2)、D体含有量および軟化点(T1/2)におけるブラックトナーとカラートナーとの差の値(表2中、「(ブラックトナー)−(カラートナー)」と記す)、ならびにカラートナーおよびブラックトナーにおける外添剤の疎水化度および被覆率を表2に示す。
【0210】
【表2】

【0211】
〔二成分現像剤の製造〕
キャリアとして、体積平均粒径45μmのフェライトコアキャリアを用いて、このキャリアに対する実施例1〜13および比較例1,2のトナー(カラートナーおよびブラックトナー)の被覆率がそれぞれ60%となるようにV型混合機(商品名:V−5、株式会社特寿工作所製)にて、トナーとキャリアとを20分間混合して二成分現像剤を製造した。
【0212】
[評価]
実施例1〜13および比較例1,2のトナーセット(カラートナーおよびブラックトナー)について、以下のようにして定着性、保存安定性、分子量変化および帯電安定性を評価した。
【0213】
〔定着性〕
カラー複合機(商品名:MX−7000N、シャープ株式会社製)を改造したものを用いて、記録媒体である記録用紙(商品名:PPC用紙SF−4AM3、シャープ株式会社製)に、縦20mm、横50mmの長方形状のベタ画像部を含むサンプル画像を、ベタ画像部における未定着状態でのトナーの記録用紙への付着量が0.5mg/cmになるように調整して未定着画像を作成した。得られた未定着画像の定着非オフセット域を、カラー複合機の定着部を用いて作製した外部定着器を用いて測定した。なお、定着プロセス速度は、カラー画像形成時には173mm/秒、白黒画像形成時には355mm/秒とし、定着ローラの温度を130℃から5℃刻みで上げて、カラー画像形成時においても白黒画像形成時においても低温オフセットも高温オフセットも起こらない温度域を定着非オフセット域とした。
【0214】
また、高温および低温オフセットの定義は、定着時にトナーが記録用紙に定着せずに定着ローラに付着したままローラが一周した後に記録用紙に付着することとした。
【0215】
なお、定着性評価に用いたカラー複合機では、現像手段14c,14m,14y,14bが、定着装置に近い側から順にこの順に並ぶように配置した。すなわち、ブラックトナーを収容する現像手段14bと定着装置との離反距離は、カラートナーを収容する現像手段14c,14m,14yそれぞれと定着装置との離反距離よりも長くなるように配置した。
【0216】
定着性の評価基準を以下に示す。
◎:定着非オフセット域が35℃以上である。
○:定着非オフセット域が25℃以上35℃未満である。
△:定着非オフセット域が15℃以上25℃未満である。
×:定着非オフセット域が15℃未満である。
【0217】
〔保存安定性〕
トナー10gを外径90mmのシャーレに入れて表面を均一に均した後、このシャーレを高温高湿環境下(55℃、85%RH)に144時間放置した。放置前後のトナーを用いて上述の定着性の評価を行い、放置前後のトナーの非オフセット域の中央の値の変化(差)をΔT℃とした。保存安定性の評価基準を以下に示す。
◎:ΔTが0℃である。
○:ΔTが0℃より大きく5℃未満である。
△:ΔTが5℃以上10℃未満である。
×:ΔTが10℃以上である。
【0218】
〔分子量変化〕
保存安定性評価時と同様にして、トナーを高温高湿環境下(50℃、85%RH)に144時間放置した。放置前後のトナーの重量平均分子量(Mw)を、GPC(Gel Permeation chromatography)(商品名:HLC−8220GPC、東ソー株式会社製)を用いて測定した。なお、測定は市販の単分散標準ポリスチレン(商品名:Shodex STANDARD Sシリーズ、昭和電工株式会社製)を標準として、以下の測定条件下で行った。
【0219】
(測定条件)
検出器:SHODEX RI−71S
溶剤:テトラヒドロフラン(THF)
カラム:KF−G+KF−807L×3+KF800D
流速:1.0mL/分
試料:0.25%THF溶液
【0220】
また、測定の信頼性は上記の測定条件で行ったポリスチレン試料(商品名:NBS706、重量平均分子量(Mw)=288,000、数平均分子量(Mn)=137,000、分子量分布指数(Mw/Mn)=2.11)の分子量分布指数(Mw/Mn)の値が、2.11±0.10となることにより確認した。
【0221】
分子量変化は、放置前のトナーの重量平均分子量Mw(0)および放置後のトナーの重量平均分子量Mw(144)から下記式(4)に基づいて求められる分子量変化率に基づいて評価した。分子量変化の評価基準を以下に示す。
分子量変化率=((Mw(0)−Mw(144))/Mw(0))×100(%)
…(4)
◎:分子量変化率が4%未満である
○:分子量変化率が4%以上7%未満である。
△:分子量変化率が7%以上10%未満である。
×:分子量変化率が10%以上である。
【0222】
〔帯電安定性〕
キャリア(シリコンコートフェライトコアキャリア)76gとトナー4gが入った100mLのポリエチレン容器をボールミル(商品名:Fine卓上ボールミル架台 MF−1、東京硝子器械株式会社製)を用いて172rpmで撹拌し、5分後と120分後の現像剤の帯電量を吸引式帯電量測定装置(商品名:210H−2A Q/M Meter、TREK社製)で測定した。
【0223】
5分後の帯電量をQ(5)(μC/g)、120分後の帯電量をQ(120)(μC/g)として、帯電量変化率を下記式(5)に基づいて求めた。
【0224】
帯電量変化率=((Q(5)−Q(120))/Q(5))×100(%)…(5)
帯電量変化率が小さいほど帯電安定性に優れることを示す。帯電安定性の評価基準は次のとおりである。
◎:帯電量変化率が5%未満である。
○:帯電量変化率が5%以上10%未満である。
△:帯電量変化率が10%以上15%未満である。
×:帯電量変化率が15%以上である。
【0225】
〔総合評価〕
総合評価の評価基準は次のとおりである。
◎:非常に良好。全ての評価結果に×および△がない。
○:良好。全ての評価結果に×がなく、△が1個である。
△:実使用上問題なし。全ての評価結果に×がなく、△が2個以上である。
×:不良。少なくともいずれか1つの評価結果に×がある。
【0226】
(試験例2)
(実施例14)
実施例4のトナーセットを用いて、試験例1と同様にして定着性、保存安定性、分子量変化および帯電安定性の評価を行った。
【0227】
なお、実施例14において、定着性評価に用いたカラー複合機では、現像手段14b,14c,14m,14yが、定着装置に近い側から順にこの順に並ぶように配置した。すなわち、ブラックトナーを収容する現像手段14bと定着装置との離反距離は、カラートナーを収容する現像手段14c,14m,14yそれぞれと定着装置との離反距離よりも短くなるように配置した。
【0228】
上述のようにして評価した、定着性、保存安定性、分子量変化および帯電安定性の評価結果、ならびに総合評価を表3に示す。
【0229】
【表3】

【0230】
表3に示した結果から、本発明における実施例1〜14のトナーセットは、比較例1,2のトナーセットと比較して以下のように優れていることが明らかである。
【0231】
実施例1〜14のトナーセットは、ブラックトナーにおけるポリ乳酸樹脂のD体の含有量が、カラートナーにおける含有量よりも多いために、定着性、保存安定性において良好な結果を示した。
【0232】
一方、比較例1のトナーセットは、ブラックトナーにおけるポリ乳酸樹脂のD体の含有量がカラートナーにおけると同じであったために、保存安定性および分子量変化が悪化した。
【0233】
比較例2のトナーセットは、ブラックトナーにおけるポリ乳酸樹脂のD体の含有量がカラートナーにおける含有量より少なかったために、定着性および帯電安定性が悪化した。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【図1】本発明のトナーセットを構成するブラックトナーおよびカラートナーの製造方法における手順の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明の画像形成装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の現像装置を構成する現像手段の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0235】
1 画像形成装置
2 トナー像形成手段
3 転写装置
4 定着装置
5 記録媒体供給手段
6 排出手段
11 感光体ドラム
12 帯電手段
13 露光ユニット
14 現像装置
15 クリーニングユニット
20 現像槽
21 トナーホッパ
25 中間転写ベルト
26 駆動ローラ
27 従動ローラ
28 中間転写ローラ
29 転写ベルトクリーニングユニット
30 転写ローラ
31 定着ローラ
32 加圧ローラ
35 自動給紙トレイ
36 ピックアップローラ
37 搬送ローラ
38 レジストローラ
39 手差給紙トレイ
40 排出ローラ
41 排出トレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラックトナーを用いて画像形成するときのプロセス速度がカラートナーを用いて画像形成するときのプロセス速度よりも速い画像形成装置に用いられるトナーセットであって、
少なくとも結着樹脂および着色剤を含んで構成されるブラックトナーおよびカラートナーを含み、
結着樹脂は、L体とD体との共重合体であるポリ乳酸樹脂を含んで構成され、
ブラックトナーは、カラートナーよりもポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が多いことを特徴とするトナーセット。
【請求項2】
ブラックトナーは、カラートナーよりもポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が3モル%以上多いことを特徴とする請求項1に記載のトナーセット。
【請求項3】
ポリ乳酸樹脂中のD体の含有量が8モル%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のトナーセット。
【請求項4】
ブラックトナーおよびカラートナーは、外添剤が、被覆率が50%以上120%未満となるように添加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のトナーセット。
【請求項5】
外添剤は、疎水化度が40以上であることを特徴とする請求項4に記載のトナーセット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のトナーセットにおけるブラックトナーおよびカラートナーが、それぞれキャリアを含んで二成分現像剤を構成することを特徴とする二成分現像剤セット。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のトナーセットにおける、ブラックトナーを収容する現像手段と、請求項1〜3のいずれか1つに記載のトナーセットにおける、カラートナーを収容する現像手段とを含むことを特徴とする現像装置。
【請求項8】
画像情報に応じた光で露光されることによって静電潜像が形成される像担持体と、像担持体にトナーを供給して静電潜像を現像する請求項7に記載の現像装置と、現像されて形成されるトナー像を記録媒体に転写させる転写装置と、記録媒体上のトナー像を加熱して定着させる定着装置とを備え、
ブラックトナーを用いて画像形成するときのプロセス速度が、カラートナーを用いて画像形成するときのプロセス速度よりも速いことを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
ブラックトナーを収容する現像手段と定着装置との離反距離は、カラートナーを収容する現像手段と定着装置との離反距離よりも長いことを特徴とする請求項8に記載の画像形成装置。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のトナーセットを用いて画像形成を行う画像形成方法であって、
ブラックトナーを用いて画像形成するときのプロセス速度を、カラートナーを用いて画像形成するときのプロセス速度よりも速くすることを特徴とする画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−162956(P2009−162956A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341457(P2007−341457)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】