説明

トラクションドライブ用液体組成物

【課題】トラクション係数が高く、低温流動性に優れ、粘度指数が高く、さらに境界潤滑性、安定性にも優れたトラクションドライブ用液体組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】(A)分子中に少なくとも一つのシクロアルキル基を有する脂環式化合物を主成分として含有し、(B)鉱油、合成油又はこれらの混合物を組成物全量基準で5〜30質量%、及び(C)粘度指数向上剤を組成物全量基準で1〜15質量%含むトラクションドライブ用液体組成物であり、前記(B)成分は100℃における動粘度が2.0〜8.0mm/sであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクションドライブ用液体組成物に関し、特には、トラクション特性、粘度温度特性、および低温流動性に優れ、さらに境界潤滑性にも優れたトラクションドライブ用液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ころがりすべり摩擦を利用した動力伝達機構には、フリクションドライブとトラクションドライブがある。フリクションドライブは、接触する固体間の摩擦力により動力を伝達するが、トラクションドライブは、動力を伝達する転動面間に油膜を形成させ、その油膜を介して力を伝える機構である。動力伝達を効率良く行うためには、高い接触圧力下で流動性を失い硬化する性質を有する液体(トラクションドライブ用液体組成物)を用いる必要がある。この硬化する性質が、せん断に対する抵抗力となり、動力伝達の効率を向上させる。転動体間の摩擦係数を、直接接触によるものと区別してトラクション係数と呼ぶが、このトラクション係数が高いことが、トラクションドライブ用液体組成物に必要な性能の1つである。
【0003】
トラクションドライブ装置を装備した各種車両、機器等は様々な環境で使用されるため、トラクションドライブ用液体組成物には、トラクション係数以外にも、気温の変化などがあった場合でも一定の油圧を供給できること、極寒地条件であっても十分な始動性を有すること(低温流動性に優れること)、装置のころがり疲労損傷を防ぐために高い温度であっても粘度が低くなり過ぎないこと等が要求される。
【0004】
トラクションドライブ用液体組成物は、これまでも種々提案されており、モンサント社のサントトラックなどに代表される、合成ナフテンと呼ばれる脂環式化合物が有名である。しかし、脂環式化合物はトラクション係数が高い点では優れているものの、粘度指数が低く、広い温度範囲で使用される場合には、粘度温度特性の面から適切ではない。特に、低温粘度が非常に高くなるため、低温時の始動性の面で課題があった。
【0005】
一方、実用化されているものの中には、ハード型(分岐型)アルキルベンゼンやポリブテン等、低温流動性に優れたものもある。しかし、これらはトラクション係数が合成ナフテンより低く、小型のトラクションドライブ装置では、充分な動力伝達は難しい。
【0006】
これらの課題を解決すべく、低温流動性に優れたトラクションドライブ用液体組成物は、これまでにも様々なものが報告されている。例えば、高温での粘度を必要以上に低下させずに低温粘度を下げるために、ナフテンにポリオルガノシロキサン(通称シリコーン油)を混合したトラクション流体が開示されている(特許文献1参照)。しかし、シリコーン油を混合すると、境界潤滑性が著しく低下し、摩耗量の増大を招く問題が起こる。
また、フェニル基或いはシクロヘキシル基を含んだポリオルガノシロキサン30〜100重量%と合成ナフテンとの混合物からなるトラクション液が開示されている(特許文献2参照)。このような組成とすることにより、粘度温度特性、低温流動性に優れたトラクション液が得られるとしている。また、特殊なシロキサン分子構成単位を有するポリオルガノシロキサンを用いたトラクション液が開示されている(特許文献3参照)。このものは、トラクション特性、粘度温度特性に優れているとしている。しかしながら、これらのものはいずれもシリコーン油の含有量が高すぎるため、トラクションドライブ液体組成物として必要となる添加剤の溶解性が劣る。更に特殊なシロキサン分子単位を持つものは−般に入手し難く、高価である。
さらに、α−アルキルスチレンの二量体水添物とジメチルシリコーンとを混合させたトラクションドライブ用液体組成物が開示されている(特許文献4参照)。このものは、低温流動性には優れるが、トラクション係数が不充分であり、また基材同士の相溶性の点で、混合できるジメチルシリコーンの粘度が低粘度のものに限られていた。
【0007】
本発明者らは、これらの課題を解決するため、分子中に少なくとも一つのシクロアルキル基を有する脂環式化合物を主成分として含有し、置換基がメチル基およびアリール基からなりメチル基のアリール基に対するモル比が0.2〜30であるポリオルガノシロキサンを組成物全量基準で1〜30質量%含有するトラクションドライブ用液体組成物を提案した(特許文献5参照)。分子中に少なくとも一つのシクロアルキル基を有する脂環式化合物は、高いトラクション係数を有するが、粘度指数が低く、低温における粘度が高い。一方、置換基がメチル基およびアリール基からなり、このメチル基のアリール基に対するモル比が0.2〜30であるポリオルガノシロキサン成分はトラクション係数が比較的低いが、低温流動性に優れる。この両者を混合すると、トラクション係数に相乗作用が見られ、しかも低温流動性を向上させることができることを見出した。これにより、トラクション係数、粘度温度特性、および低温流動性に優れたトラクションドライブ用液体組成物を提供することが可能となったものである。
【0008】
ただ、該発明においても、ポリオルガノシロキサンのようなシリコーン油を基油とした場合に、十分な境界潤滑性が必ずしも得られず、これを解決するために基油に添加剤を加えることが検討されたが、通常の添加剤の場合、多量に添加しなければ十分な境界潤滑性を得ることができず、多量に加えた場合には酸化安定性が悪化することがわかった。
【特許文献1】米国特許4190546号公報
【特許文献2】特開昭58−67793号公報
【特許文献3】特開昭60−135490号公報
【特許文献4】特開平5−255681号公報
【特許文献5】特開2001−342477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものである。つまり、本発明は、トラクション係数が高く、低温流動性に優れ、粘度指数が高く、さらに境界潤滑性、安定性にも優れたトラクションドライブ用液体組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、高いトラクション係数を有し、さらに優れた粘度温度特性、低温流動性を有すると同時に境界潤滑性、酸化安定性にも優れるトラクションドライブ用液体組成物を開発すべく鋭意研究を行った結果、分子中に少なくとも一つのシクロアルキル基を有する脂環式化合物を主成分とし、鉱油、合成油又はこれらの混合物を組成物全量基準で5〜30質量%含有し、粘度指数向上剤を組成物全量基準で1〜15質量%含むことで課題を達成することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、(A)分子中に少なくとも一つのシクロアルキル基を有する脂環式化合物を主成分として含有し、(B)鉱油、合成油又はこれらの混合物を組成物全量基準で5〜30質量%、及び(C)粘度指数向上剤を組成物全量基準で1〜15質量%含むことを特徴とするトラクションドライブ用液体組成物である。また、前記(B)成分は100℃における動粘度が2.0〜8.0mm/sであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のトラクションドライブ用液体組成物は、分子中に少なくとも一つのシクロアルキル基を有する脂環式化合物を主成分として含有し、
鉱油、合成油またはこれらの混合物を組成物全量基準で5〜30質量%、粘度指数向上剤を組成物全量基準で1〜15質量%含むことから、高いトラクション係数を有し、さらに優れた粘度温度特性、低温流動性を有すると同時に境界潤滑性、酸化安定性にも優れ、トラクションドライブ用液体組成物として有用であり、
優れた性能を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のトラクショシドライブ用液体組成物を詳細に説明する。
〔(A)成分の脂環式化合物〕
本発明のトラクションドライブ用液体組成物に主成分として用いる脂環式化合物は、分子中に少なくとも一つのシクロアルキル基、好ましくはシクロヘキシル基を有する化合物である。該脂環式化合物は、例えばα−アルキルスチレン二量体の水素化物などを挙げることができる。その好ましい例としては、1,2−ジシクロヘキシルプロパン、1,2−ジシクロヘキシル−2−メチルプロパン、2,3−ジシクロヘキシルブタン、2,3−ジシクロヘキシル−2−メチルブタン、2,3−ジシクロヘキシル−2,3−ジメチルブタン、1,3−ジシクロヘキシルブタン、1,3−ジシクロヘキシル−2−メチルブタン、1,3−ジシクロヘキシル−3−メチルブタン、2,4−ジシクロヘキシル−2,3−ジメチルブタン、2,4−ジシクロヘキシルペンタン、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン、2,4−ジシクロヘキシル−2,4−ジメチルペンタン、2,4−ジシクロヘキシル−2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルヘキサン、2,4−ジシクロヘキシル−4−メチルヘキサン、3,5−ジシクロヘキシル3−メチルヘプタン、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルヘプタン、4,6−ジシクロヘキシル−4−メチルヘプタン等が挙げられる。中でも、トラクション性能や原料の入手性などの面から特に2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタンが好ましい。
【0014】
これらは、α−アルキルスチレンを二量化させ、さらに水素化することなどで得ることができる。二量化の条件および水素化の条件は、特に限定するものでない。例えば、米国特許第3925217号公報などに開示されている方法を用いて得ることができる。
【0015】
本発明においては、分子中に少なくとも一つのシクロアルキル基を有する上記の脂環式化合物を主成分とする。ここで、主成分とは、明確に濃度で規定できるものではないが、潤滑油に通常用いられる潤滑油基油がこれに該当する。例えば、通常、30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上含有する場合がこれに相当する。
【0016】
〔(B)成分の鉱油、合成油またはこれらの混合物〕
本発明では公知の鉱油及び/又は合成油を用いることができる。鉱油としては、例えば、公知の方法により、原油を原料として製造されたニュートラル油や、ブライストック、すなわち、常圧蒸留及び減圧蒸留で得られた油をフルフラールなどの溶剤で抽出処理し、得られたラフィネートを高圧下にて水素精製して硫黄分などの不純物を除去した油を、更にメチルエチルケトンなどの溶剤で脱蝋処理した溶剤脱蝋基油、また常圧蒸留及び減圧蒸留で得られた油を高圧下にて水素化分解し、減圧蒸留で分留した後に高圧下で水素化脱蝋した水素化分解基油、また常圧蒸留及び減圧蒸留で得られた油を高圧下で水素化脱蝋し、更に高圧下で水素化精製した水素化精製基油などを用いることができる。
また、合成油としては、公知の種々のものが使用可能であり、例えば、α−オレフィンオリゴマー、炭素数2〜16のオレフィンの(共)重合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリフェニル系炭化水素、各種エステル、すなわちネオペンチルグリコール,トリメチロールプロパン,ペンタエリスリトールなどの脂肪酸エステル、更にはその他のヒンダードエステルなどを用いることができる。
使用する鉱油及び/又は合成油の100℃における動粘度は2.0〜8.0mm/sの範囲であることが好ましく、特に好ましくは2.5〜5.0mm/sである。基油の100℃における動粘度が2.0mm/s未満の場合、接触面において十分な油膜を確保することができず、装置にピッチング等の疲労損傷が起こる可能性がある。一方、基油の100℃における動粘度が8.0mm/sを超える場合、十分な低温流動性を確保することができない。
また、基油の粘度指数は120以上であることが好ましい。基油の粘度指数が120以下の場合、温度による変化が大きくなる、もしくは粘度指数向上剤を多く配合する必要が出てくるため、好ましくはない。また、本発明において基油の粘度指数は高い程好ましいが、使用する基油の粘度指数は通常160以下である。
基油の配合量は好ましくは5〜40質量%、特に好ましくは5〜30質量%である。基油の配合量が5質量%未満の場合は、十分な低温流動性を確保することができず、40質量%を超える場合は、必要なトラクション係数が得られない。
【0017】
〔(C)成分の粘度指数向上剤〕
粘度指数向上剤としては、ポリアルキルメタクリレート系、アルキルメタクリレート−プロピレンコポリマー系、アルキルメタクリレート−エチレンコポリマー系、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン−プロピレンコポリマー系、スチレン−ブタジエンコポリマー系、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系の化合物等が挙げられる。これらのうち、平均分子量が10,000〜100,000のポリアルキルメタクリレート(PMA)が好適である。PMAの平均分子量が10,000未満の場合、粘度指数向上効果を十分に得るためには大量に配合する必要があり、その分合成ナフテンの占める割合が減少してトラクション係数の低下に繋がる。一方、PMAの平均分子量が100,000を超える場合、せん断安定性の低下に繋がる。また粘度指数向上剤の配合量は基油、及び目標とする組成物の粘度に合わせて配合するが、その量は2.0〜15.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0018】
なお、さらに本発明のトラクションドライブ用液体組成物は、その効果を損なわない範囲で、イソパラフィン系炭化水素油やアルキルベンゼンなどの炭化水素化合物を適宜配合することを妨げるものではない。
イソパラフィン系炭化水素油としては、α−オレフィンなどの重合体、あるいはその水素化物を用いることができる。重合の原料としては、炭素数が3以上のオレフィンが好ましく、特にブテン、ブチレンなどの2〜7量体が好ましい。また、これらのオレフィンは単独で重合させた重合体でも、数種のオレフィンを重合させた共重合体の形でも良い。数平均分子量100〜1,000であれば好適に使用できる。数平均分子量が100を切った場合、あるいは1,000を超えた場合は、所定の動粘度もしくは低温粘度が得られなくなることがある。
【0019】
アルキルベンゼンについても、公知の方法で製造したものが利用できる。アルキルベンゼンの製造方法を特に限定するものでないが、例えば、プロピレンの2〜6量体を、ベンゼン、トルエン、キシレン等と、塩化アルミニウム(あるいは、フッ化水素、硫酸)等の触媒を用いて、反応温度20〜150℃、反応圧力2×10〜1.1×10Paの範囲で反応させて合成し、最終的に、蒸留等により分離、精製して得ることができる。中でもアルキル基の炭素数が5〜20のアルキルベンゼンは、本発明の潤滑油の成分として好適である。アルキル基の炭素数がこの範囲を外れると、所定の動粘度、トラクション係数が得られなくなることがあるため好ましくない。
【0020】
上記のような構成成分を混合して得られるトラクションドライブ用液体組成物は、40℃における動粘度が20〜40mm/s、100℃における動粘度が3.5〜7.0mm/s、粘度指数が100〜250、−40℃におけるブルックフィールド(BF)粘度が、25,000〜200,000mPa・s程度であることが好ましい。
これらの粘度特性は、変速機に含まれるポンプなどの油圧機構を正常に作動させ、シール材からの漏れや、軸受けなどの損傷を防ぐために必要となる。これが、上記の範囲を外れるようになると、トラクションドライブ用液体組成物として使用することが難しくなる。
本発明のトラクションドライブ用液体組成物は、前記のような構成成分とすることで、好適な物理性状を得ることができたものである。これにより、低温流動性とトラクション係数を両立させたトラクションドライブ用液体組成物とすることができる。
【0021】
本発明のトラクションドライブ用液体組成物には、上記の成分の他に、本発明の目的が損なわれない範囲で、従来から潤滑油に用いられている、アルカリ土類金属系清浄剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、極圧剤、無灰系分散剤、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性剤、消泡剤などの添加剤を適宜添加することができる。
【0022】
アルカリ土類金属系清浄剤としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属を含有するもので、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートなどが挙げられる。摩擦調整剤としては脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族イミド、アルコール、エステル、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩など、摩耗防止剤としてはリン酸エステル、ジアルキルジチオリン酸亜鉛など、極圧剤としては硫化オレフィン、硫化油脂など、無灰系分散剤としてはポリアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニルコハク酸エステルおよびそれぞれのホウ酸変性物など、酸化防止剤としてはアミン系、フェノール系の酸化防止剤など、金属不活性剤としてはベンゾトリアゾールなど、防錆剤としてはアルケニルコハク酸エステルまたは部分エステルなど、消泡剤としてはケイ素化合物、エステル系消泡剤などがそれぞれ挙げられる。
これらはそれぞれコンポーネントで添加しても良いし、また、これらの混合物として販売されているパッケージを用いても良い。
【実施例】
【0023】
以下、実施例および比較例に基づいてより本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例で使用したトラクションドライブ用液体組成物を、以下に示す各成分を用いて調製した。
【0024】
〔トラクションドライブ用流体組成物の調製〕
表1に示す配合割合(添加量は組成物全量基準での質量%)で、下記の成分を用いて、実施例及び比較例の組成物を調製した。
【0025】
〔(A)成分:分子中に少なくとも一つのシクロアルキル基を有する脂環式化合物〕
2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン
【0026】
〔(B)成分:鉱油、合成油又はこれらの混合物〕
B−1:水素化分解基油(100℃における動粘度:3.0mm/s、粘度指数:107)
B−2:水素化分解基油(100℃における動粘度:4.3mm/s、粘度指数:122)
B−3:水素化精製基油(100℃における動粘度:2.2mm/s、粘度指数:70)
【0027】
〔(C)成分:粘度指数向上剤〕
C−1:ポリアルキルメタクリレート(分散系、平均分子量:53,000)
C−2:ポリアルキルメタクリレート(非分散系、平均分子量:55,000)
【0028】
〔(D)成分:その他〕
ATFパッケージ(ホウ素分0.1質量%、窒素分2.5質量%、硫黄分1.1質量%、リン分0.2質量%、及びカルシウム分0.1質量%含有する金属系清浄剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、極圧剤、無灰系分散剤、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性剤、消泡剤からなる添加剤混合物)
【0029】
〔供試油(トラクショシドライブ用液体組成物)の調製〕
上記の(A)〜(D)の成分を用いて、表1上部に示す仕上がりの組成物全量に対する配合割合(質量%)で各成分をブレンドして実施例1〜3及び比較例1〜2の供試油(トラクショシドライブ用液体組成物)を調製した。なお、(D)成分のATFパッケージは全部の組成物に同じ割合(9.0質量%)で添加した。
このようにして得た、実施例1〜3及び比較例1〜2のトラクショシドライブ用液体組成物それぞれについて、動粘度と粘度指数を測定し、トラクショシドライブ用液体組成物としての性能を評価した。得られた測定・評価結果を表1下部に示す。
【0030】
〔測定・評価方法〕
前記の測定及び評価は、次の方法で行った。
・動粘度(40℃、100℃)、及び粘度指数:JIS K2283
・ブルックフィールド粘度(−40℃):ASTM D2983
・トラクション係数:四円筒試験機を用いて実施し、法線荷重に対する伝達された接線力の比をトラクション係数とした。なお、測定条件は以下のとおりである。
油温:40℃
法線荷重:360kgf
回転数:2400rpm(平均転がり速度:5.0m/s)
すべり率:2.2%
ローラ幅:1cm
【0031】
【表1】

【0032】
表1から分かるように、比較例1、2のトラクションドライブ用液体組成物は、いずれも致命的な欠陥を有している。(B)成分を配合しない比較例1についてはブルックフィールド粘度(−40℃)が280,000mPa・sと大き過ぎ、脂環式化合物を含まない比較例2についてはトラクション係数が低く、いずれもトラクションドライブ用液体組成物としては不適である。
これに対して、実施例1〜3は、40℃における動粘度が20〜40mm/s、100℃における動粘度が3.5〜7.0mm/s、粘度指数が100〜250、−40℃におけるブルックフィールド(BF)粘度が、25,000〜200,000mPa・sの範囲内にあり、トラクション係数も0.07〜0.09であり、トラクションドライブ用液体組成物として使用するに好適な特性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子中に少なくとも一つのシクロアルキル基を有する脂環式化合物を主成分として含有し、(B)鉱油、合成油またはこれらの混合物を組成物全量基準で5〜30質量%、及び(C)粘度指数向上剤を組成物全量基準で1〜15質量%含むことを特徴とするトラクショシドライブ用液体組成物。
【請求項2】
前記(B)成分の100℃における動粘度が2.0〜8.0mm/sであることを特徴とする請求項1に記載のトラクションドライブ用液体組成物。

【公開番号】特開2009−138068(P2009−138068A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314333(P2007−314333)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】