説明

トラニラスト含有水性組成物

【課題】本発明の目的は、乾燥後の析出物発生が抑制されたトラニラスト含有水性組成物を提供することである。
【解決手段】本発明では、トラニラスト及び/又はその塩と、モノエタノールアミン及び/又はその塩とを含有する水性組成物において、クロルフェニラミン、プラノプロフェン、ピリドキシン、グリチルリチン酸、及び/又はそれらの塩を更に含有させることにより、該水性組成物が乾燥した場合の析出物発生を効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラニラスト及び/又はその塩を含有する水性組成物に関する。より詳細には、トラニラスト及び/又はその塩とモノエタノールアミン及び/又はその塩とを含有する水性組成物でありながら、乾燥後の析出物の発生が抑制された水性組成物に関する。また本発明は、トラニラスト及び/又はその塩とモノエタノールアミン及び/又はその塩とを含有する水性組成物が乾燥した場合の析出物発生を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トラニラスト(N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸)は、アレルギー反応によるケミカルメディエーターの遊離を抑制する作用を有し、各種アレルギー性疾患の治療剤として有用であることが知られている。
【0003】
トラニラストは水に難溶性であり、そのナトリウム塩もしくはカリウム塩などのアルカリ金属塩にしても水に極めて溶けにくく、通常の方法では安定な水溶液製剤を製造することが困難である。そこで、これまでに、トラニラストに対しポリビニルピロリドンを溶解補助剤として用い、必要に応じ塩基性物質を加えることにより澄明なトラニラスト水溶液が得られること(特許文献1)、さらにポリビニルピロリドンと塩基性物質と共にHLB10〜16の非イオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を含有させることで、溶解性がより飛躍的に向上したトラニラスト水溶液製剤が得られること(特許文献2)が検討されている。また、ポリビニルピロリドンを用いずに安定なトラニラスト水溶液を得る方法として、トロメタモール又はモノエタノールアミンを配合すること(特許文献3)も知られている。
【0004】
ところで、水性組成物は一般に開口部を備えた容器に充填されており、使用時に該開口部から水性組成物を出すことにより繰り返し使用されている。その際、開口部に付着した水性組成物が乾燥し析出物を発生させることがあり、様々な問題を引き起こすことが知られている。例えば、開口部における析出物の蓄積は、該開口部だけでなくその周辺、さらには蓋やキャップの内側にも付着し、使用者に不快な印象を与えるだけでなく、開口部の開閉を困難にする場合がある。また、とりわけ点眼剤の場合には、開口部である抽出口の口径が一般に小さいことが多く、ほんの僅かな析出物の付着であっても水性組成物の通路が塞がれて正確な液量が滴下されなくなる惧れがある。更に、点眼剤の抽出口に析出固形物が蓄積した場合、点眼する際に析出固形物が一緒に眼に入ってしまう危険性も懸念される。その他、眼粘膜に適用させる水性組成物の場合、適用後眼外へ漏出する液が乾燥して析出し、まぶたやまつ毛、眼の下などの目の周辺部位に白色固形物が付着したようになることから、外観、美容の観点からも問題である。
【0005】
しかしながらこれまで、トラニラスト及び/又はその塩を含有する水性組成物について、乾燥後の析出物発生については全く報告されておらず、当然ながらその析出物発生を抑制する手段についても一切検討されていない。
【0006】
一方、クロルフェニラミン、プラノプロフェン、ピリドキシン、グリチルリチン酸、及び/又はこれらの塩は、抗ヒスタミン作用や抗炎症作用の付与、又は栄養供給などを目的としてこれまでにも水性組成物に用いられている。しかし、これらの成分が水性組成物からの乾燥後の析出物発生を抑制する作用を有することはこれまで全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−294620号公報
【特許文献2】特開平2−264716号公報
【特許文献3】特許第3659801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は、トラニラスト及び/又はその塩を含有する水性組成物について種々検討を行っていたところ、全く予想していなかったことに、トラニラスト及び/又はその塩と共にモノエタノールアミン及び/又はその塩を配合した水性組成物が乾燥すると、白色固形物が著しく析出してしまうという新たな問題を確認した。このような著しい析出物の発生は、見た目に不快な印象を与えるだけでなく、該水性組成物を充填した容器の開口部周辺に析出固形物が付着・蓄積して弊害をもたらすおそれがある。また、水性組成物が点眼剤である場合には、細い抽出口が固形析出物で塞がれてしまうことにより正確な液量が滴下されなくなる惧れがあるのみならず、点眼時に眼内に入ってしまう危険性さえある。更に、使用時に適用部位周辺(例えば、まぶたやまつ毛、眼の下などの部位)で白色析出物の発生を生じさせる惧れもあり、外観・美観の観点からも問題である。
【0009】
そこで、本発明の目的は、トラニラスト及び/又はその塩と、モノエタノールアミン及び/又はその塩とを含有する水性組成物でありながら、乾燥後の析出物の発生が抑制された水性組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、トラニラスト及び/又はその塩と、モノエタノールアミン及び/又はその塩とを含有する水性組成物からの乾燥後の析出物発生を抑制する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、トラニラスト及び/又はその塩と、モノエタノールアミン及び/又はその塩とを含有する水性組成物に、クロルフェニラミン、プラノプロフェン、ピリドキシン、グリチルリチン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を更に含有させることにより、該水性組成物が乾燥した場合に生じる析出物発生を著しく抑制できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は下記に掲げる水性組成物を提供する。
項1.(A)トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)モノエタノールアミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(C)クロルフェニラミン、プラノプロフェン、ピリドキシン、グリチルリチン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する水性組成物。
項2.(A)成分として、トラニラストを含有する、項1に記載の水性組成物。
項3.(A)成分を総量で、0.001〜10w/v%含有する、項1又は2に記載の水性組成物。
項4.(B)成分として、モノエタノールアミンを含有する、項1〜3のいずれかに記載の水性組成物。
項5.(B)成分を総量で、0.0001〜10w/v%含有する、項1〜4のいずれかに記載の水性組成物。
項6.(C)成分として、マレイン酸クロルフェニラミン、プラノプロフェン、塩酸ピリドキシン及びグリチルリチン酸二カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、項1〜5のいずれかに記載の水性組成物。
項7.(C)成分として、マレイン酸クロルフェニラミンを0.001〜1w/v%含有する、項1〜6のいずれかに記載の水性組成物。
項8.(C)成分として、プラノプロフェンを0.001〜1w/v%含有する、項1〜7のいずれかに記載の水性組成物。
項9.(C)成分として、塩酸ピリドキシンを0.0001〜1w/v%含有する、項1〜8のいずれかに記載の水性組成物。
項10.(C)成分として、グリチルリチン酸二カリウムを0.001〜10w/v%含有する項1〜9にいずれかに記載の水性組成物。
項11.更に、等張化剤を含有する、項1〜10のいずれかに記載の水性組成物。
項12.等張化剤として、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1〜11のいずれかに記載の水性組成物。
項13.pHが4.0〜9.5である、項1〜12のいずれかに記載の水性組成物。
項14.眼科用水性組成物である、項1〜13のいずれかに記載の水性組成物。
項15.点眼剤である、項1〜14のいずれかに記載の水性組成物。
【0012】
また、本発明は下記に掲げる、乾燥後の析出物の発生を抑制する方法をも包含する。
項16.(A)トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)モノエタノールアミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合する水性組成物に、更に(C)クロルフェニラミン、プラノプロフェン、ピリドキシン、グリチルリチン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、該水性組成物からの乾燥後の析出物発生を抑制する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、トラニラスト及び/又はその塩と、モノエタノールアミン及び/又はその塩とを含有する水性組成物において、クロルフェニラミン、プラノプロフェン、ピリドキシン、グリチルリチン酸、及び/又はそれらの塩を更に含有させることにより、該水性組成物が乾燥した場合の析出物発生を効果的に抑制することができる。従って、本発明により、トラニラスト及び/又はその塩とモノエタノールアミン及び/又はその塩とを含有する水性組成物を用いた場合に起こりうる、該水性組成物を充填した容器の開口部周辺における析出物の発生や、適用部位周辺に付着し発生する析出物を防ぐことができる。これらの効果は、トラニラスト及び/又はその塩とモノエタノールアミン及び/又はその塩とを含有する水性組成物を快適且つ安全に使用者が使用することを可能にするだけでなく、外観又は美容の観点からも大変優れた効果が期待できるものである。
【0014】
また、本発明の水性組成物に含まれるモノエタノールアミン及び/又はその塩は、水性組成物中でトラニラスト及び/又はその塩の溶解性及び安定性を向上させるので、本発明の水性組成物は、製造容易性及び保存安定性をも兼ね備えており、実用的観点からも極めて有益なものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】試験例1において、各試験液の乾燥後の状態を写真撮影したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.水性組成物
本発明の水性組成物は、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(A)成分と表記することもある)を含有する。
【0017】
トラニラストは、N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸とも称される公知化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0018】
トラニラストの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらのトラニラストの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0019】
本発明の水性組成物には、トラニラストとその塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、好ましくはトラニラストが用いられる。
【0020】
本発明の水性組成物において、(A)成分の配合割合については、(A)成分の種類、該水性組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、水性組成物の総量に対して、(A)成分が総量で0.001〜10w/v%、好ましくは0.01〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜1w/v%が例示される。
【0021】
本発明の水性組成物は、上記(A)成分に加えて、モノエタノールアミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(B)成分と表記することもある)を含有する。
【0022】
モノエタノールアミンは、2−アミノエタノールとも称される公知化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0023】
モノエタノールアミンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、オレイン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;金属塩等の各種の塩が挙げられる。これらのモノエタノールアミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本発明の水性組成物には、モノエタノールアミンとその塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、好ましくはモノエタノールアミンが用いられる。
【0025】
本発明の水性組成物において、(B)成分の配合割合については、(B)成分の種類、該水性組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、水性組成物の総量に対して、(B)成分が総量で0.0001w/v%以上10w/v%以下、好ましくは0.0001w/v%以上5w/v%以下、更に好ましくは0.0001w/v%以上0.3w/v%未満、特に好ましくは0.0001w/v%以上0.25w/v%以下、最も好ましくは0.05w/v%以上0.25w/v%以下が例示される。(A)成分と(B)成分の共存によって生じる乾燥後の析出物は、(B)成分の配合割合が小さくなるにつれてひどくなる傾向があることが確認されており、なかでも0.3w/v%未満、特に0.05w/v%以上0.25w/v%以下である場合に看過できない程度に顕著であったが、本発明によればこのような著しい析出物発生であっても効果的に抑制することができる。
【0026】
本発明の水性組成物における上記(A)成分及び(B)成分の比率は、これら両成分の各配合割合に応じて適宜設定されるが、一例として、上記(A)成分の総量100重量部に対して、上記(B)成分が総量で0.01重量部以上10000重量部以下、好ましくは0.01重量部以上5000重量部以下、更に好ましくは0.01重量部以上60重量部未満、特に好ましくは0.01重量部以上50重量部以下、最も好ましくは20重量部以上50重量部以下となる比率が例示される。(A)成分と(B)成分の共存によって生じる乾燥後の析出物は、(A)成分に対する(B)成分の比率が小さくなるにつれてひどくなる傾向があることが確認されており、なかでも60重量部未満、特に20重量部以上50重量部以下である場合に看過できない程度に顕著であったが、本発明によればこのような著しい析出物発生であっても効果的に抑制することができる。
【0027】
更に、本発明の水性組成物は、クロルフェニラミン、プラノプロフェン、ピリドキシン、グリチルリチン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(C)成分と表記することもある)を含有する。このように(C)成分を上記(A)及び(B)成分と共に水性組成物に配合することによって、該水性組成物を乾燥させた場合の析出物の発生を抑制することができる。
【0028】
(C)成分の内、クロルフェニラミンは、N,N-ジメチル-3-(2-ピリジニル)-3-(4-クロロフェニル)プロパン-1-アミンとも称される公知の化合物である。
【0029】
クロルフェニラミンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、マレイン酸塩、フマル酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;金属塩等の各種の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩、更に好ましくはマレイン酸塩(マレイン酸クロルフェニラミン)が挙げられる。これらのクロルフェニラミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0030】
また、クロルフェニラミン及びその塩は、水和物の形態であってもよく、更にd体、l体、dl体のいずれであってもよい。
【0031】
クロルフェニラミン及びその塩の中でも、上記(A)及び(B)成分を含有する水性組成物を乾燥させた場合の析出物発生をより効果的に抑制するという観点から、好ましくはクロルフェニラミンの塩、更に好ましくはマレイン酸クロルフェニラミンが挙げられる。
【0032】
(C)成分の内、プラノプロフェンは、α−メチル−5H−[1]ベンゾピラノ[2,3-b]ピリジン−7−酢酸とも称される公知化合物である。
【0033】
プラノプロフェンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、無機塩基との塩[例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等]や、有機塩基との塩[例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等との塩]等が挙げられる。これらのプラノプロフェンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0034】
プラノプロフェン及びその塩の中でも、上記(A)及び(B)成分を含有する水性組成物を乾燥させた場合の析出物発生をより効果的に抑制するという観点から、好ましくはプラノプロフェンが挙げられる。
【0035】
(C)成分の内、ピリドキシンは、5-ヒドロキシ-6-メチルピリジン-3,4-ジメタノールとも称される化合物である。ピリドキシン及びその塩は、水溶性ビタミンであるビタミンB6として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0036】
ピリドキシンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは無機酸塩及び/又は有機酸塩、より好ましくは無機酸塩、更に好ましくは塩酸塩及び/又はリン酸塩、特に好ましくは塩酸塩が挙げられる。これらのピリドキシンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0037】
これらのピリドキシン及びその塩の中でも、上記(A)及び(B)成分を含有する水性組成物を乾燥させた場合の析出物発生をより効果的に抑制するという観点から、好ましくはピリドキシン、及びその無機酸塩、より好ましくはピリドキシン、ピリドキシン塩酸塩、及びピリドキシンリン酸塩、更に好ましくはピリドキシン塩酸塩、及びピリドキシンリン酸塩、特に好ましくはピリドキシン塩酸塩(塩酸ピリドキシン)が挙げられる。
【0038】
(C)成分の内、グリチルリチン酸は、[(18β)-20β-カルボキシ-11-オキソ-30-ノルオレアナ-12-エン-3β-イル]2-O-β-D-グルコピラヌロノシル-α-D-グルコピラノシドウロン酸とも称される公知化合物である。
【0039】
また、グリチルリチン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではない。グリチルリチン酸の塩として、具体的には、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等;アンモニウム塩等が挙げられる。より具体的には、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸三カリウム等のアルカリ金属との塩;グリチルリチン酸モノアンモニウム等のアンモニウム塩等が例示される。これらの中でも、好ましくはグリチルリチン酸のアルカリ金属塩、更に好ましくはグリチルリチン酸二カリウムが挙げられる。これらのグリチルリチン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0040】
なお、本発明において、(C)成分として、グリチルリチン酸及び/又はその塩を使用する場合、グリチルリチン酸及び/又はその塩を含有する生薬(例えば、カンゾウ)を使用することもできる。
【0041】
グリチルリチン酸及びその塩の中でも、上記(A)及び(B)成分を含有する水性組成物を乾燥させた場合の析出物発生をより効果的に抑制するという観点から、好ましくはグリチルリチン酸の塩、更に好ましくはグリチルリチン酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはグリチルリチン酸二カリウムが挙げられる。
【0042】
これらの(C)の中でも、上記(A)及び(B)成分を含有する水性組成物を乾燥させた場合の析出物発生をより効果的に抑制するという観点から、好ましくはマレイン酸クロルフェニラミン、プラノプロフェン、塩酸ピリドキシン、及びグリチルリチン酸二カリウム;より好ましくはプラノプロフェン、塩酸ピリドキシン、及びグリチルリチン酸二カリウム;更に好ましくは塩酸ピリドキシン、及びグリチルリチン酸二カリウム、特に好ましくはグリチルリチン酸二カリウムが挙げられる。
【0043】
本発明において、(C)成分としては、クロルフェニラミン、プラノプロフェン、ピリドキシン、グリチルリチン酸、及びそれらの塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
本発明の水性組成物において、(C)成分の配合割合は併用する成分の種類、該水性組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、水性組成物の総量に対して、(C)成分が総量で0.0001〜10w/v%、好ましくは0.01〜0.5w/v%が例示される。より具体的には、(C)成分の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(C)成分がクロルフェニラミン及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜1w/v%、好ましくは0.005〜0.1w/v%、更に好ましくは0.01〜0.05w/v%;
(C)成分がプラノプロフェン及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜1w/v%、好ましくは0.005〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.1w/v%;
(C)成分がピリドキシン及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.0001〜1w/v%、好ましくは0.001〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.2w/v%;
(C)成分がグリチルリチン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜10w/v%、好ましくは0.01〜1w/v%、更に好ましくは0.05〜0.5w/v%。なお、グリチルリチン酸及び/又はその塩としてこれらを含有する生薬(例えば、カンゾウ)を使用する場合には、配合される生薬中のグリチルリチン酸及び/又はその塩の含有量が上記配合割合を満たすように設定される。
【0045】
また、本発明の水性組成物において、(A)成分に対する(C)成分の比率については、特に制限されるものではないが、上記(A)及び(B)成分を含有する水性組成物を乾燥させた場合の析出物発生をより効果的に抑制するという観点から、(A)成分の総量100重量部当たり、上記(C)成分の総量が0.01〜10000重量部、好ましくは1〜500重量部となる範囲が例示される。より具体的には、(A)成分の総量100重量部当たりの(C)成分の比率として、以下の範囲が例示される:
(C)成分がクロルフェニラミン及び/又はその塩の場合:通常0.1〜1000重量部、好ましくは0.5〜100重量部、更に好ましくは1〜50重量部;
(C)成分がプラノプロフェン及び/又はその塩の場合:通常0.1〜1000重量部、好ましくは0.5〜500重量部、更に好ましくは1〜100重量部;
(C)成分がピリドキシン及び/又はその塩の場合:通常0.01〜1000重量部、好ましくは0.1〜500重量部、更に好ましくは1〜200重量部;
(C)成分がグリチルリチン酸及び/又はその塩の場合:通常0.1〜10000重量部、好ましくは1〜1000重量部、更に好ましくは5〜500重量部。
【0046】
本発明の水性組成物は、更に等張化剤を含有することが好ましい。本発明の水性組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、多価アルコール(例えば、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ショ糖、ブドウ糖、乳糖、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、ポリデキストロース、デキストリン)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及び硫酸マグネシウム等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、乾燥後の析出物発生をより効果的に抑制するという観点から、多価アルコール、グリセリン、プロピレングリコール、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、及び塩化マグネシウムが好適であり、とりわけ、グリセリン、プロピレングリコール、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、及び塩化マグネシウムが好適である。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0047】
本発明の水性組成物に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該水性組成物の総量に対して、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜3w/v%となる割合が例示される。
【0048】
本発明の水性組成物は、更に緩衝剤を含有してもよい。本発明の水性組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);トリス緩衝剤として、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン又はその塩(塩酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0049】
上記緩衝剤の中でも、とりわけホウ酸緩衝剤及びリン酸緩衝剤は好適である。ホウ酸緩衝剤の好適な具体例として、ホウ酸とその塩の組み合わせ;好ましくはホウ酸と、ホウ酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩の組み合わせ;更に好ましくはホウ酸と、ホウ酸のアルカリ金属塩の組み合わせ;特に好ましくはホウ酸とホウ砂の組み合わせが例示される。リン酸緩衝剤の好適な具体例として、第一リン酸塩と第二リン酸塩の組合せ;好ましくは第一リン酸のアルカリ金属塩と第二リン酸のアルカリ金属塩の組合せ;更に好ましくはリン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムの組合せが例示される。
【0050】
本発明の水性組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該水性組成物の用途等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該水性組成物の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜2w/v%となる割合が例示される。
【0051】
本発明の水性組成物は、更に界面活性剤を含有してもよい。本発明の水性組成物に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0052】
本発明の水性組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類; POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明の水性組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。
【0053】
また、本発明の水性組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明の水性組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、α−オレフィンスルホン酸等が例示される。本発明の水性組成物において、これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
本発明の水性組成物に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や量、該水性組成物の用途等に応じて適宜設定できる。界面活性剤の配合割合の一例として、水性組成物の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.3w/v%が例示される。
【0055】
本発明の水性組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されないが、pHがあまり高すぎない特定の範囲(pH7.5付近)になるにつれて、析出物の発生がひどくなる傾向があることも確認されている。然るに、本発明によれば、このような著しい析出物発生であっても効果的に抑制することができる。かかる観点に鑑みれば、本発明の水性組成物のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜9.0、より好ましくは、6.0〜8.5、更に好ましくは7.0〜8.0となる範囲が挙げられる。
【0056】
本発明の水性組成物は、更に必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は適用部位、剤型等により異なるが、通常0.7〜5.0、更に好ましくは0.9〜3.0、特に好ましくは1.0〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき、286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0057】
また、本発明の水性組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された各種医薬における有効成分が例示できる。具体的には、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、フマル酸ケトチフェン、イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、ペミロラストカリウム等。
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、アクリノール、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
アミノ酸類:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、グリチルレチン酸、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アズレンスルホン酸、アラントイン、トラネキサム酸、ε−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、インドメタシン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ブフェキサマク、フルフェナム酸ブチル、ベンダザック、ピロキシカム、ケトプロフェン、フェルビナク、紫根、セイヨウトチノキ、及びこれらの塩等。
【0058】
また、本発明の水性組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や製剤形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等。
糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
香料又は清涼化剤:例えば、メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
【0059】
本明細書において水性組成物とは、水を含有する組成物を意味し、通常は、組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上含有するものを意味する。本発明の水性組成物に含有される水は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであればよい。例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等を使用できる。これらの定義は第一五改正日本薬局方に基づく。
【0060】
本発明の水性組成物は、所望量の上記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分、必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製され、目的に応じて種々の製剤形態をとることができる。例えば、本発明の水性組成物の形態として、液剤、半固形剤(軟膏等)等が挙げられる。好ましくは液剤である。
【0061】
本発明の水性組成物の製剤形態としては、具体的には、点眼剤[但し、点眼剤にはコンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む]、人工涙液、洗眼剤[但し、洗眼剤にはコンタクトレンズ装用中に洗眼可能な洗眼剤を含む]、眼軟膏剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤等の眼科用組成物;点鼻剤、鼻洗浄液等の鼻腔用組成物;液剤、シロップ剤、エキス剤等の内服用組成物;口腔咽頭薬、含嗽薬(含嗽用剤)等の口腔用組成物;点耳薬;注射剤等の皮下投与用組成物等が挙げられる。乾燥されやすい条件で使用され、より高い析出物抑制効果が求められるという観点から、中でも好ましくは眼科用組成物であり、更に好ましくは点眼剤及び洗眼剤であり、特に好ましくは点眼剤である。
【0062】
また、本発明の水性組成物は、任意の開口部を備えた容器に充填して提供され得る。容器の形態は特に制限されないが、開口部が比較的小さい容器の場合には乾燥後に析出した固形物が目詰まりを起こし易いという問題がある。然るに、本発明によれば、乾燥後の固形物の析出を効果的に抑制できるので、このような目詰まりを気にする必要がない。かかる観点に鑑みると、本発明の水性組成物を充填する容器として、開口部の内径が、1.5〜3.0mm程度、更には1.7〜2.5mm程度に細い容器を好適な例として挙げることができる。また、このような開口部を備えた容器として、具体的には、点眼剤、洗眼剤、人工涙液、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤等の眼科用組成物を収容する容器;点鼻剤、鼻洗浄液等の鼻腔用組成物を収容する容器;点耳薬を収容する容器等が例示される。
【0063】
また、水性組成物を収容した容器の開口部(抽出口)の内壁に析出物が生じた場合、当該析出物が水性組成物と共に粘膜や皮膚に投与される畏れがある。特に、眼粘膜は、バリア機能が弱く、固形物による違和感や刺激を感受し易いため、眼科用水性組成物(特に点眼剤)の使用に当たり、析出した固形物が眼粘膜に適用されないことが強く求められている。そこで、従来、析出物が生じやすい水性組成物では、当該析出物が投与時に水性組成物に混入して適用されるのを防ぐ目的で、液体のみを通して固形物は通さないフィルターを抽出口に装着した容器が使用されることがある。一方、本発明によれば、乾燥後の固形析出物発生が効果的に抑制されるので、このようなフィルターを抽出口に備える容器を使用する必要が無く、より低コストの容器を使用することができる。かかる観点に鑑みれば、本発明の水性組成物(好ましくは眼科用水性組成物、特に点眼剤)である場合の一実施態様として、抽出口にフィルターを備えていない容器に充填して提供されることもできる。
【0064】
本発明の水性組成物は、上記(A)成分に基づいて抗アレルギー作用をも発揮できるので、アレルギー症状の予防乃至緩和剤としても有用である。また、本発明の水性組成物は、上記(C)成分に基づいて、角膜細胞の新陳代謝の効果的な促進等による疲れ目や眼精疲労の軽減作用、抗炎症作用に基づく外眼部及び前眼部の炎症性疾患(眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、強膜炎、上強膜炎、前眼部ブドウ膜炎、術後炎症)の対症療法としても有用である。
【0065】
2.水性組成物からの乾燥後の析出物発生を抑制する方法
前述するように、上記(A)及び(B)成分を含有する水性組成物を乾燥させた後に生じる析出物の発生を、上記(C)成分を併用することによって抑制することが可能になる。
【0066】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)モノエタノールアミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合する水性組成物に、更に(C)クロルフェニラミン、プラノプロフェン、ピリドキシン、グリチルリチン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、該水性組成物から乾燥後の析出物発生を抑制する方法をも提供する。
【0067】
なお、これらの方法において、使用する(A)〜(C)成分の種類や配合割合、その他に配合される成分の種類や配合割合、水性組成物の製剤形態や用途等については、前記「1.水性組成物」と同様である。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0069】
試験例1: 析出抑制試験
表1に従い、各試験液を調製した。各試験液100μLをスライドガラス上に塗布し、33℃で18時間静置した。18時間後の各試験液の状態について写真撮影を行い、また、以下の評価基準に従い析出量の程度を評価した。
<析出量の評価基準>
析出が非常に激しい : ++++
析出が激しい : +++
析出がある : ++
析出がわずかにある : +
析出が全く見られない : −
なお、上記評価基準の内、「+」は、実用上許容できる程度の析出量に相当し、上記評価基準の「++」〜「++++」は実用上許容できない程度の析出量に相当する。
【0070】
【表1】

【0071】
18時間後に、各試験液の状態を写真撮影したものが図1である。また、上記基準に従い18時間後の析出量の評価を行った結果を表1中に示した。結果、ポリビニルピロリドン又はモノエタノールアミンを単独で用いた場合、或いはポリビニルピロリドンにトラニラストを組合せた場合には白色固形物の析出は全く認められなかった(比較例2〜4)。なお別途、モノエタノールアミンの濃度を0.12w/v%にまで高めた以外は比較例3と同じ処方の試験液について同様の試験を行った場合にも、白色固形物の析出は全く見られないことが確認された。しかしながら、トラニラストとモノエタノールアミンを組み合せた比較例5では非常に激しい白色固形物の発生が観察された。一方、このトラニラストとモノエタノールアミンとを含有する水性組成物にマレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ピリドキシンもしくはグリチルリチン酸二カリウムを更に組み合わせた実施例1〜3では、白色析出物の析出は殆ど又は全く認められず、顕著な析出抑制効果が奏されることがわかった。
【0072】
試験例2: 析出抑制試験
表2に従い、各試験液を調製した。各試験液100μLをスライドガラス上に塗布し、33℃で18時間静置した。18時間後の各試験液の状態を観察し、以下の評価基準に従い析出量の程度を評価した。
<析出量の評価基準>
析出が非常に激しい : ++++
析出が激しい : +++
析出がある : ++
析出がわずかにある : +
析出が全く見られない : −
なお、上記評価基準の内、「+」は、実用上許容できる程度の析出量に相当し、上記評価基準の「++」〜「++++」は実用上許容できない程度の析出量に相当する。
【0073】
【表2】

【0074】
結果を表2中に示した。トラニラスト及びモノエタノールアミンを含有する比較例6では上記試験例1と同様に、非常に激しい白色固形物の析出発生が観察された。また、塩酸ピリドキシンやグリチルリチン酸二カリウムの量を変化させて用いた場合にも、顕著な析出抑制効果が奏されることがわかった(実施例4及び5)。さらに、プラノプロフェンを用いた場合にも、顕著な析出抑制効果が奏されることがわかった(実施例6)。
【0075】
また、溶解補助剤としてトロメタモールを使用した場合についても検討したところ、トロメタモールを使用した場合には、モノエタノールアミンを用いた場合に観察されたような白色固形物の析出は全く観察されなかった(比較例7)。従って、このような乾燥後の白色固形物の著しい析出は、トラニラスト及び/又はその塩に対して、モノエタノールアミン及び/又はその塩を組み合わせた場合に生じる特有の課題であることが確認された。
【0076】
試験例3: 析出抑制試験
表3に従い、各試験液を調製した。各試験液100μLをスライドガラス上に塗布し、50℃で24時間静置した。24時間後の各試験液の状態を観察し、以下の評価基準に従い析出量の程度を評価した。
<析出量の評価基準>
析出が非常に激しい : ++++
析出が激しい : +++
析出がある : ++
析出がわずかにある : +
析出が全く見られない : −
なお、上記評価基準の内、「+」は、実用上許容できる程度の析出量に相当し、上記評価基準の「++」〜「++++」は実用上許容できない程度の析出量に相当する。
【0077】
【表3】

【0078】
結果を表3中に示した。この結果、モノエタノールアミンの濃度を0.25w/v%に変更した場合でも、トラニラストとモノエタノールアミンの併用により激しい白色固形物の析出が観察され、かかる析出を、マレイン酸クロルフェニラミンやプラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウムなどにより顕著に抑制できることが認められた。
【0079】
試験例4: 析出抑制試験
表4に従い、各試験液を調製した。各試験液100μLをスライドガラス上に塗布し、33℃で18時間静置した。18時間後の各試験液の状態を観察し、以下の評価基準に従い析出量の程度を評価した。
<析出量の評価基準>
析出が非常に激しい : ++++
析出が激しい : +++
析出がある : ++
析出がわずかにある : +
析出が全く見られない : −
なお、上記評価基準の内、「+」は、実用上許容できる程度の析出量に相当し、上記評価基準の「++」〜「++++」は実用上許容できない程度の析出量に相当する。
【0080】
【表4】

【0081】
結果を表4中に示した。この結果、モノエタノールアミンの濃度を0.05w/v%に変更した場合でも、トラニラストとモノエタノールアミンの併用により激しい白色固形物の析出が観察され、かかる析出を、マレイン酸クロルフェニラミン、プラノプロフェン、塩酸ピリドキシン、又はグリチルリチン酸二カリウムにより顕著に抑制することができることが認められた。
【0082】
製剤例
表5に記載の処方で、点眼剤(実施例14−23)が調製される。
【0083】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)モノエタノールアミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(C)クロルフェニラミン、プラノプロフェン、ピリドキシン、グリチルリチン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する水性組成物。
【請求項2】
(C)成分として、マレイン酸クロルフェニラミン、プラノプロフェン、塩酸ピリドキシン、及びグリチルリチン酸二カリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
眼科用である、請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項4】
点眼剤である、請求項1〜3のいずれかに記載の水性組成物。
【請求項5】
(A)トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)モノエタノールアミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合する水性組成物に、更に(C)クロルフェニラミン、プラノプロフェン、ピリドキシン、グリチルリチン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、該水性組成物からの乾燥後の析出物発生を抑制する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−195559(P2011−195559A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126228(P2010−126228)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】