説明

トランスミッションのオイル排出構造

【課題】 トランスミッションのケーシングの第2室に溜まったオイルを第1室にスムーズに排出することで、第2室に配置した回転体によるオイルの攪拌抵抗を低減するとともに、オイルへの気泡の混入を低減する。
【解決手段】 第1回転体17の下部外周面に対向する第2室55の第1壁面55aに該第1回転体17の外周面に向かって突出する第1リブ61を形成し、第1リブ61の第1回転体17の回転方向遅れ側に臨む隔壁52aに第1連通孔57を形成するとともに、第1リブ61の第1回転体17の回転方向進み側に臨む隔壁52aに第2連通孔58を形成したので、第1回転体17の外周面から回転方向進み側に飛散したオイルと、第2室55の第1壁面55aに向かって回転方向遅れ側から流下するオイルとを第1リブ61で遮って正面衝突しないようにし、オイルの攪拌による気泡の発生を防止しながら、第1リブ61の両側に捕捉したオイルをそれぞれ第1連通孔57および第2連通孔58を通して第1室にスムーズに排出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミッションケースの内部に隔壁を挟んで第1室および第2室を区画し、前記第1室内から前記隔壁を貫通して前記第2室内に延出する第1回転軸に第1回転体を設け、前記第1回転体の回転に伴ってその外周部から接線方向に飛散するオイルを、前記第1室の底部に形成したオイル溜めに排出するトランスミッションのオイル排出構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスミッションのケーシング3の内部をオイル戻し穴21を有する隔壁2によって第1の部屋4および第2の部屋5に仕切り、第2の部屋5の内部で回転するギヤ17が撥ね上げたオイルを、隔壁2に設けたオイル戻しリブ20でオイル戻し穴21に案内することで、第2の部屋5から第1の部屋4にオイルを戻すものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
またトランスミッションの主ケース670の内部に配置した区画壁部301により、回転するドラム691が収納される変速歯車収納部101と、ドラム691によって掻き上げられたオイルを捕捉して貯留するキャッチタンク350とを区画し、所定量のオイルをキャッチタンク350に貯留することで主ケース670のオイルの液面を適切に維持してギヤ等によるオイルの攪拌抵抗を低減するものが、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−118027号公報
【特許文献2】特開2009−168150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トランスミッションのケーシングを隔壁によって第1室および第2室に区画し、第2室に溜まったオイルを隔壁の連通孔から第1室に戻す場合、第2室の内部には、そこに配置された回転体から飛散するオイルの流れと、その内周壁面に沿って重力で流下するオイルの流れとが存在するため、これら二つのオイルの流れが相互に干渉しないように連通孔の位置を設定しないと、オイルが過度に攪拌されて気泡が発生したり、連通孔に向かうオイルのスムーズな流れが阻害されて第2室のオイルの液面が上昇し、攪拌抵抗が増加したりする可能性がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、トランスミッションのケーシングの第2室に溜まったオイルを第1室にスムーズに排出することで、第2室に配置した回転体によるオイルの攪拌抵抗を低減するとともに、オイルへの気泡の混入を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、ケーシングの内部に隔壁を挟んで第1室および第2室を区画し、前記第1室内から前記隔壁を貫通して前記第2室内に延出する第1回転軸に第1回転体を設け、前記第1回転体の回転に伴ってその外周部から接線方向に飛散するオイルを、前記第1室の底部に形成したオイル溜めに排出するトランスミッションのオイル排出構造において、前記第1回転体の下部外周面に対向する前記第2室の第1壁面に該第1回転体の外周面に向かって突出する第1リブを形成し、前記第1リブの前記第1回転体の回転方向遅れ側に臨む前記隔壁に前記第2室を前記第1室に連通させる第1連通孔を形成するとともに、前記第1リブの前記第1回転体の回転方向進み側に臨む前記隔壁に前記第2室を前記第1室に連通させる第2連通孔を形成することを特徴とするトランスミッションのオイル排出構造が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記第1室内から前記隔壁を貫通して前記第2室内に延出する第2回転軸に第2回転体を設け、前記第2回転体の上部外周面に対向する位置から該第2回転体の回転方向進み側に向かって斜め下方に延びる第2壁面の端部から、前記第2回転体の外周面に向かって延びる第2リブを突設し、前記第2壁面および前記第2リブに挟まれた位置に臨む前記隔壁に前記第2室を前記第1室に連通させる第3連通孔を形成することを特徴とするトランスミッションのオイル排出構造が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記第1室内から前記隔壁を貫通して前記第2室内に延出する第2回転軸に第2回転体を設け、前記第2回転体の上部外周面に対向する位置から該第2回転体の回転方向遅れ側に向かって下方に延びる第3壁面の端部から、前記第2回転体の外周面に向かって延びる第3リブを突設し、前記第3壁面および前記第3リブに挟まれた位置に臨む前記隔壁に前記第2室を前記第1室に連通させる第4連通孔を形成することを特徴とするトランスミッションのオイル排出構造が提案される。
【0010】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項2または請求項3の構成に加えて、前記第1回転軸および前記第2回転軸の回転方向は同一であり、軸方向視で前記第1、第2回転軸の回転方向が反時計方向である場合には、前記第2回転軸は前記第1回転軸の右側上方に位置し、軸方向視で前記第1、第2回転軸の回転方向が時計方向である場合には、前記第2回転軸は前記第1回転軸の左側上方に位置することを特徴とするトランスミッションのオイル排出構造が提案される。
【0011】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項2〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、前記第2室の形状は、前記第1回転体および前記第2回転体の周囲を囲む小判形状ないしは楕円形状であることを特徴とするトランスミッションのオイル排出構造が提案される。
【0012】
尚、実施の形態の第1主入力軸13は本発明の第1回転軸に対応し、実施の形態の第2主入力軸14は本発明の第2回転軸に対応し、実施の形態の第1クラッチ17は本発明の第1回転体に対応し、実施の形態の第2クラッチ18は本発明の第2回転体に対応し、実施の形態のミッションケース52およびケースカバー53は本発明のケーシングに対応し、実施の形態のオイルパン56は本発明のオイル溜めに対応する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、第1回転軸に設けた第1回転体の下部外周面に対向する第2室の第1壁面に該第1回転体の外周面に向かって突出する第1リブを形成し、第1リブの第1回転体の回転方向遅れ側に臨む隔壁に第2室を第1室に連通させる第1連通孔を形成するとともに、第1リブの第1回転体の回転方向進み側に臨む隔壁に第2室を第1室に連通させる第2連通孔を形成したので、第1回転体の外周面から回転方向進み側に飛散したオイルと、第2室の第1壁面に向かって回転方向遅れ側から流下するオイルとを第1リブで遮って正面衝突しないようにし、オイルの攪拌による気泡の発生を防止しながら、第1リブの両側に捕捉したオイルをそれぞれ第1連通孔および第2連通孔を通して第1室にスムーズに排出することができる。これにより、第2室に配置した第1回転体がオイルに浸からないようにして攪拌抵抗を低減することができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、第1室内から隔壁を貫通して第2室内に延出する第2回転軸に第2回転体を設け、第2回転体の上部外周面に対向する位置から該第2回転体の回転方向進み側に向かって斜め下方に延びる第2壁面の端部から、第2回転体の外周面に向かって延びる第2リブを突設し、第2壁面および第2リブに挟まれた位置に臨む隔壁に第2室を第1室に連通させる第3連通孔を形成したので、第2回転体から飛散したオイルと第1回転体から飛散したオイルとを第2リブで遮り、それらが衝突することを防止して気泡の発生を防止しながら、第2リブによって捕捉したオイルを第3連通孔を通して第1室にスムーズに排出することができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、第1室内から隔壁を貫通して第2室内に延出する第2回転軸に第2回転体を設け、第2回転体の上部外周面に対向する位置から該第2回転体の回転方向遅れ側に向かって下方に延びる第3壁面の端部から、第2回転体の外周面に向かって延びる第3リブを突設し、第3壁面および第3リブに挟まれた位置に臨む隔壁に第2室を第1室に連通させる第4連通孔を形成したので、第3壁面に付着して重力で流下するオイルと、第2回転体から飛散したオイルとを第3リブで遮り、それらが衝突しないようにして気泡の発生を防止しながら、第3リブによって捕捉したオイルを第4連通孔を通して第1室にスムーズに排出することができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、第1回転軸および第2回転軸の回転方向は同一であり、軸方向視で第1、第2回転軸の回転方向が反時計方向である場合には、第2回転軸は第1回転軸の右側上方に位置し、軸方向視で第1、第2回転軸の回転方向が時計方向である場合には、第2回転軸は第1回転軸の左側上方に位置するので、第2室の内周壁面の天井壁部分に付着したオイルが重力で流下する方向と、第1、第2回転体から接線方向に飛散したオイルの移動方向とが同じになり、第2室の内周壁面の天井壁部分に付着したオイルをスムーズに流して排出することができる。
【0017】
また請求項5の構成によれば、第2室の形状は、第1回転体および第2回転体の周囲を囲む小判形状ないしは楕円形状であるので、第1、第2回転体の外周面から飛散したオイルを直ちに第2室の内周壁面で受け止めて気泡の発生を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ツインクラッチ式トランスミッションのスケルトン図。
【図2】トランスミッションをエンジンと反対側から見た図(図5および図6の2−2線矢視図)。
【図3】図2から第1、第2クラッチを取り除いた図。
【図4】図5および図6の4−4線矢視図。
【図5】図2および図3の5−5線断面図。
【図6】図2および図3の6−6線断面図。
【図7】図2に対応する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図7に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
図1に示すように、自動車用のツインクラッチ式のトランスミッションTは、エンジンEのクランクシャフト11にトルクコンバータ12を介して同軸に接続された第1主入力軸13と、第1主入力軸13に対して平行に配置された第2主入力軸14とを備える。第1主入力軸13および第2主入力軸14の外周にはそれぞれ筒状の第1副入力軸15および第2副入力軸16が相対回転自在に嵌合しており、第1主入力軸13および第1副入力軸15は第1クラッチ17を介して結合可能であり、かつ第2主入力軸14および第2副入力軸16は第2クラッチ18を介して結合可能である。
【0021】
第1主入力軸13および第2主入力軸14と平行に出力軸19およびアイドル軸20が配置されており、第1主入力軸13に固設したドライブギヤ21がアイドル軸20に固設したアイドルギヤ22に噛合し、アイドルギヤ22は第2主入力軸14に固設したドリブンギヤ23に噛合する。従って、エンジンEの運転時に第1主入力軸13および第2主入力軸14は常時同方向に回転する。
【0022】
第1副入力軸15には1速ドライブギヤ24、3速ドライブギヤ25、5速ドライブギヤ26および7速ドライブギヤ27が相対回転自在に支持されており、1速ドライブギヤ24および3速ドライブギヤ25は1速−3速シンクロ装置28を介して第1副入力軸15に選択的に結合可能であり、5速ドライブギヤ26および7速ドライブギヤ27は5速−7速シンクロ装置29を介して第1副入力軸15に選択的に結合可能である。
【0023】
第2副入力軸16には2速ドライブギヤ30、4速ドライブギヤ31、6速ドライブギヤ32および8速ドライブギヤ33が相対回転自在に支持されており、2速ドライブギヤ30および4速ドライブギヤ31は2速−4速シンクロ装置34を介して第2副入力軸16に選択的に結合可能であり、6速ドライブギヤ32および8速ドライブギヤ33は6速−8速シンクロ装置35を介して第2副入力軸16に選択的に結合可能である。
【0024】
出力軸19には1速−2速ドリブンギヤ36、3速−4速ドリブンギヤ37、5速−6速ドリブンギヤ38および7速−8速ドリブンギヤ39が固設されており、1速−2速ドリブンギヤ36は1速ドライブギヤ24および2速ドライブギヤ30に同時に噛合し、3速−4速ドリブンギヤ37は3速ドライブギヤ25および4速ドライブギヤ31に同時に噛合し、5速−6速ドリブンギヤ38は5速ドライブギヤ26および6速ドライブギヤ32に同時に噛合し、7速−8速ドリブンギヤ39は7速ドライブギヤ27および8速ドライブギヤ33に同時に噛合する。
【0025】
アイドル軸20には第2副入力軸16の1速ドライブギヤ24に噛合するリバースアイドルギヤ40が相対回転自在に支持されており、このリバースアイドルギヤ40はリバースクラッチ41を介してアイドル軸20に結合可能である。
【0026】
出力軸19に固設したファイナルドライブギヤ42がディファレンシャルギヤ43に固設したファイナルドリブンギヤ44に噛合しており、ディファレンシャルギヤ43から左右に延びる車軸45,45が左右の駆動輪W,Wに接続される。
【0027】
従って、1速−3速シンクロ装置28で1速ドライブギヤ24を第1副入力軸15に結合した状態で第1クラッチ17を係合すると、第1主入力軸13の回転が第1クラッチ17→第1副入力軸15→1速−3速シンクロ装置28→1速ドライブギヤ24→1速−2速ドリブンギヤ36→出力軸19→ファイナルドライブギヤ42→ファイナルドリブンギヤ44の経路でディファレンシャルギヤ43に伝達され、1速変速段が確立する。
【0028】
また2速−4速シンクロ装置34で2速ドライブギヤ30を第2副入力軸16に結合した状態で第2クラッチ18を係合すると、第2主入力軸14の回転が第2クラッチ18→第2副入力軸16→2速−4速シンクロ装置34→2速ドライブギヤ30→1速−2速ドリブンギヤ36→出力軸19→ファイナルドライブギヤ42→ファイナルドリブンギヤ44の経路でディファレンシャルギヤ43に伝達され、2速変速段が確立する。
【0029】
また1速−3速シンクロ装置28で3速ドライブギヤ25を第1副入力軸15に結合した状態で第1クラッチ17を係合すると、第1主入力軸13の回転が第1クラッチ17→第1副入力軸15→1速−3速シンクロ装置28→3速ドライブギヤ25→3速−4速ドリブンギヤ37→出力軸19→ファイナルドライブギヤ42→ファイナルドリブンギヤ44の経路でディファレンシャルギヤ43に伝達され、3速変速段が確立する。
【0030】
また2速−4速シンクロ装置34で4速ドライブギヤ31を第2副入力軸16に結合した状態で第2クラッチ18を係合すると、第2主入力軸14の回転が第2クラッチ18→第2副入力軸16→2速−4速シンクロ装置34→4速ドライブギヤ31→3速−4速ドリブンギヤ37→出力軸19→ファイナルドライブギヤ42→ファイナルドリブンギヤ44の経路でディファレンシャルギヤ43に伝達され、4速変速段が確立する。
【0031】
また5速−7速シンクロ装置29で5速ドライブギヤ26を第1副入力軸15に結合した状態で第1クラッチ17を係合すると、第1主入力軸13の回転が第1クラッチ17→第1副入力軸15→5速−7速シンクロ装置29→5速ドライブギヤ26→5速−6速ドリブンギヤ38→出力軸19→ファイナルドライブギヤ42→ファイナルドリブンギヤ44の経路でディファレンシャルギヤ43に伝達され、5速変速段が確立する。
【0032】
また6速−8速シンクロ装置35で6速ドライブギヤ32を第2副入力軸16に結合した状態で第2クラッチ18を係合すると、第2主入力軸14の回転が第2クラッチ18→第2副入力軸16→6速−8速シンクロ装置35→6速ドライブギヤ32→5速−6速ドリブンギヤ38→出力軸19→ファイナルドライブギヤ42→ファイナルドリブンギヤ44の経路でディファレンシャルギヤ43に伝達され、6速変速段が確立する。
【0033】
また5速−7速シンクロ装置29で7速ドライブギヤ27を第1副入力軸15に結合した状態で第1クラッチ17を係合すると、第1主入力軸13の回転が第1クラッチ17→第1副入力軸15→5速−7速シンクロ装置29→7速ドライブギヤ27→7速−8速ドリブンギヤ39→出力軸19→ファイナルドライブギヤ42→ファイナルドリブンギヤ44の経路でディファレンシャルギヤ43に伝達され、7速変速段が確立する。
【0034】
また6速−8速シンクロ装置35で8速ドライブギヤ33を第2副入力軸16に結合した状態で第2クラッチ18を係合すると、第2主入力軸14の回転が第2クラッチ18→第2副入力軸16→6速−8速シンクロ装置35→8速ドライブギヤ33→7速−8速ドリブンギヤ39→出力軸19→ファイナルドライブギヤ42→ファイナルドリブンギヤ44の経路でディファレンシャルギヤ43に伝達され、8速変速段が確立する。
【0035】
またリバースクラッチ41を係合すると、第1主入力軸13の回転がドライブギヤ21→アイドルギヤ22→アイドル軸20→リバースクラッチ41→リバースアイドルギヤ40→1速ドライブギヤ24→1速−2速ドリブンギヤ36→出力軸19→ファイナルドライブギヤ42→ファイナルドリブンギヤ44の経路でディファレンシャルギヤ43に逆回転となって伝達され、リバース速変速段が確立する。
【0036】
次に、図2〜図7に基づいてトランスミッションTのケーシングの構造を説明する。
【0037】
トランスミッションTのケーシングは、エンジンブロックに結合されるトルクコンバータケース51と、トルクコンバータケース51に結合されるミッションケース52と、ミッションケース52に結合されるケースカバー53とで構成される。トルクコンバータケース51の内部には前記トルクコンバータ12(図5参照)が収納され、ミッションケース52の内部に形成された第1室54には前記各変速軸および前記各変速ギヤが収納され、トルクコンバータケース51の内部およびミッションケース52の内部に跨がるように前記ディファレンシャルギヤ43(図6参照)が収納され、ミッションケース52の内部およびケースカバー53の内部に跨がるように形成された第2室55には前記第1クラッチ17(図5参照)および第2クラッチ18が収納される。ミッションケース52の内部に形成された第1室54の底部には、オイルを貯留するオイルパン56(図5参照)が形成される。第1室54および第2室55は、ミッションケース52の隔壁52a(図5参照)によって仕切られている。
【0038】
図2は、ケースカバー53を取り外したトランスミッションTをエンジンEと反対側から軸方向に見たもので、ミッションケース52の隔壁52aにケースカバー53を取り付けるための小判形(陸上競技のトラック形)の割り面52bが形成されており、その割り面52bの内側に第2室55が区画されている。ミッションケース52の隔壁52aを貫通する第1主入力軸13、第2主入力軸14および出力軸19の軸端が第2室55内に延出しており、第1主入力軸13に第1クラッチ17が設けられ、第2主入力軸14に第2クラッチ18が設けられる。
【0039】
図2において、第1クラッチ17に対して第2クラッチ18は右上方に配置されており、それら第1クラッチ17および第2クラッチ18の外周を若干の隙間を介して囲むように第2室55が形成される。図2において、第1クラッチ17および第2クラッチ18の回転方向は共に反時計方向であり、また出力軸19の位置は第1主入力軸13の右側かつ第2主入力軸14の下側であり、アイドル軸20の位置は第1主入力軸13の上側かつ第2主入力軸14の左側である。ディファレンシャルギヤ43の位置は、第2室55から右下側に外れている。
【0040】
図3は、図2から第1主入力軸13、第1クラッチ17、第2主入力軸14、第2クラッチ18および出力軸19を取り除いた状態を示している。第2室55の内部に臨むミッションケース52の隔壁52aには、第2室55内のオイルを第1室54の底部のオイルパン56に戻すための第1〜第4連通孔57,58,59,60が形成される。
【0041】
図2、図3および模式図である図7に示すように、第1クラッチ17の下部外周面に対向する第2室55の第1壁面55a(図7参照)から、第1クラッチ17の下部外周面に向かって第1リブ61が上向きに突出しており、第1リブ61の第1クラッチ17の回転方向遅れ側に第1連通孔57が形成され、第1リブ61の第2クラッチ18の回転方向進み側に第2連通孔58が形成される。第1連通孔57および第2連通孔58はミッションケース52の内部の第1室54に開口する位置から、ミッションケース52の底壁部52cが下り傾斜で連なっており、そこから更にオイルパン56内に収納したストレーナ62の上面中央部まで水平に延びるリブ63が張り出している(図5および図6参照)。
【0042】
第2クラッチ18の上部外周面に対向する位置から該第2クラッチ18の回転方向進み側に向かって第2壁面55b(図7参照)が斜め下方に延びており、その第2壁面55bの下端部から第2クラッチ18の側部外周面に向かって第2リブ64が突出する。そして第2壁面55bおよび第2リブ64に挟まれた位置に臨む隔壁52aに、第2室55を第1室54に連通させる第3連通孔59が形成される。第3連通孔59はミッションケース52の内部に第1室54の上部に直接開口する(図5参照)。
【0043】
第2クラッチ18の上部外周面に対向する位置から該第2クラッチ18の回転方向遅れ側に向かって第3壁面55c(図7参照)が下方に延びており、その第3壁面55cの下端部から第2クラッチ18の側部外周面に向かって第3リブ65が突出する。そして第3壁面55cおよび第3リブ65に挟まれた位置に臨む隔壁52aに第2室55を第1室54に連通させる第4連通孔60が形成される。第4連通孔60がミッションケース52の内部の第1室54に開口する位置からディファレンシャルギヤ43に向かって、ミッションケース52の内壁面に下り傾斜で延びるV字状断面のオイル戻し通路66と、その下流端から下向きに延びる溝状のオイル戻し通路67とが形成される(図4および図6参照)。
【0044】
第1連通孔57に対する第1クラッチ17の回転方向遅れ側には、第1クラッチ17の外周面に沿って回転方向進み側に延びる第4リブ68が配置される。また第2連通孔58に対する第1クラッチ17の回転方向進み側には、第1クラッチ17の外周面に沿って延びる第5リブ69が配置される。
【0045】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0046】
図7に示すように、第1クラッチ17および第2クラッチ18は共に反時計方向に回転し、その外周面に付着したオイルは、破線矢印で示すように、回転方向進み側に向けて接線方向に飛散する。また第2室55の内周面に付着したオイルは重力で下方に流下するとともに、第1クラッチ17および第2クラッチ18の回転停止時には、その外周面に付着したオイルが重力で滴下する。
【0047】
第1、第2クラッチ17,18の外周面から接線方向に飛散したオイルは第2室55の内周壁面の全域に付着するが、その上側(天井側)の壁面に付着したオイルの一部は下側(床側)の壁面に滴下するため、下側の壁面に集まったオイルが該下側の壁面に沿って矢印a方向に流下する。一方、第1クラッチ17の外周面から接線方向に飛散したオイルは、第1クラッチ17の外周面に対向する第2室55の内周壁面に沿って矢印b方向に移動する。
【0048】
これらの逆方向に流れるオイルが第2室55の第1壁面55a上で衝突すると、オイルに気泡が発生するだけでなく、第1、第2連通孔57,58から第1室54のオイルパン56にスムーズに排出されなくなる問題があるが、第1、第2連通孔57,58の間に第1リブ61が設けられているため、矢印b方向に流れるオイルは第1リブ61の手前の第1連通孔57から第1室54に排出され、矢印a方向に流れるオイルは第1リブ61の手前の第2連通孔58から第1室54に排出されるため、第2室55から第1室54へのオイルの排出がスムーズに行われる。
【0049】
また第1クラッチ17の外周面から矢印b方向に飛散したオイルが第2室55の内周壁面に強く衝突すると気泡が発生し易くなるが、この位置に第1クラッチ17の外周面に沿うように第4リブ68を設けたことで、前記下向きに飛散したオイルが重力で加速する前に第4リブ68に衝突させることで、気泡の発生を抑制することができる。また第1クラッチ17の外周面から矢印c方向に飛散するオイルが、第2室55の下側の壁面に沿って矢印a方向に流下するオイルと正面衝突すると、気泡が発生したりオイルの流れが滞ったりする問題があるが、第5リブ69によって矢印a方向のオイルの流れと矢印c方向のオイルの流れとを仕切り、上記問題を解消することができる。
【0050】
そして第1、第2連通孔57,58を第2室55側から第1室54側に通過したオイルは、ミッションケース52の底壁部52cおよびリブ63の上面を流れてストレーナ62の上面に落下し、そこからオイルパン56に戻される(図5参照)。
【0051】
第2クラッチ18の外周部から第2室55の第2壁面55bに沿って矢印d方向に飛散したオイルが、第1クラッチ17の外周面から飛散したオイルと衝突すると気泡が発生する可能性があるが、矢印d方向に飛散したオイルを第2リブ64によって捕捉することで、第1クラッチ17の外周面から飛散したオイルと衝突するのを防止して気泡の発生を抑制するとともに、第2リブ64で捕捉したオイルを第3連通孔59から第1室54に排出することができる。
【0052】
第3リブ65の機能は第1リブ61の機能と類似しており、第2室55の第3壁面55cに沿って重力で矢印e方向に流下するオイルと、第2クラッチ18の外周面から矢印f方向に飛散するオイルとが正面衝突しないように第3リブ65で遮ることで、衝突による気泡の発生を防止しながら、矢印e方向に流れるオイルを第3リブ65で捕捉して第4連通孔60に導き、第1室54にスムーズに排出することができる。
【0053】
第2室55から第4連通孔60を通過して第1室54に流入したオイルは、ミッションケース52の内壁面に設けたオイル戻し通路66,67を流れてディファレンシャルギヤ43に供給され、ディファレンシャルギヤ43を潤滑した後にオイルパン56に戻される(図6参照)。
【0054】
以上のように、本実施の形態によれば、第2室55のオイルを第1室54にスムーズに排出することが可能となり、第2室55に配置した第1クラッチ17および第2クラッチ18がオイルに浸からないようにしてオイルの攪拌抵抗を減少させることができる。また第2室55の形状は、第1クラッチ17および第2クラッチ18の周囲を囲む小判形であるので、第1、第2クラッチ17,18の外周面から飛散したオイルを直ちに第2室55の内周壁面で受け止めて気泡の発生を最小限に抑えることができる。
【0055】
また第1主入力軸13および第2主入力軸14の回転方向は図2および図7において共に反時計方向であり、第2主入力軸14は第1主入力軸13の右側上方に位置しているので、第2室55の内周壁面の天井壁部分に付着したオイルが重力で流下する方向と、第1、第2クラッチ17,18の外周面からのオイルの飛散方向(図7の矢印b方向あるいは矢印d方向)とが同じになるため、前記天井壁部分に付着したオイルをスムーズに流して第1連通孔57あるいは第3連通孔59から排出することができる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0057】
例えば、実施の形態の第2室55は二つの円弧部と二つの直線部とを有する小判形状であるが、第2室55は楕円形状であっても良い。
【0058】
また図2および図7に示す実施の形態では、第1主入力軸13および第2主入力軸14が共に反時計方向に回転するため、第2主入力軸14を第1主入力軸13の右側上方に配置しているが、第1主入力軸13および第2主入力軸14が共に時計方向に回転する場合には、第2主入力軸14を第1主入力軸13の左側上方に配置する必要がある。
【0059】
また本発明の第1、第2回転体は実施の形態のクラッチ17,18に限定されず、ギヤ等の回転体であっても良い。
【符号の説明】
【0060】
13 第1主入力軸(第1回転軸)
14 第2主入力軸(第2回転軸)
17 第1クラッチ(第1回転体)
18 第2クラッチ(第2回転体)
52 ミッションケース(ケーシング)
52a 隔壁
53 ケースカバー(ケーシング)
54 第1室
55 第2室
55a 第1壁面
55b 第2壁面
55c 第3壁面
56 オイルパン(オイル溜め)
57 第1連通孔
58 第2連通孔
59 第3連通孔
60 第4連通孔
61 第1リブ
64 第2リブ
65 第3リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(52,53)の内部に隔壁(52a)を挟んで第1室(54)および第2室(55)を区画し、前記第1室(54)内から前記隔壁(52a)を貫通して前記第2室(55)内に延出する第1回転軸(13)に第1回転体(17)を設け、前記第1回転体(17)の回転に伴ってその外周部から接線方向に飛散するオイルを、前記第1室(54)の底部に形成したオイル溜め(56)に排出するトランスミッションのオイル排出構造において、
前記第1回転体(17)の下部外周面に対向する前記第2室(55)の第1壁面(55a)に該第1回転体(17)の外周面に向かって突出する第1リブ(61)を形成し、前記第1リブ(61)の前記第1回転体(17)の回転方向遅れ側に臨む前記隔壁(52a)に前記第2室(55)を前記第1室(54)に連通させる第1連通孔(57)を形成するとともに、前記第1リブ(61)の前記第1回転体(17)の回転方向進み側に臨む前記隔壁(52a)に前記第2室(55)を前記第1室(54)に連通させる第2連通孔(58)を形成することを特徴とするトランスミッションのオイル排出構造。
【請求項2】
前記第1室(54)内から前記隔壁(52a)を貫通して前記第2室(55)内に延出する第2回転軸(14)に第2回転体(18)を設け、
前記第2回転体(18)の上部外周面に対向する位置から該第2回転体(18)の回転方向進み側に向かって斜め下方に延びる第2壁面(55b)の端部から、前記第2回転体(18)の外周面に向かって延びる第2リブ(64)を突設し、前記第2壁面(55b)および前記第2リブ(64)に挟まれた位置に臨む前記隔壁(52a)に前記第2室(55)を前記第1室(54)に連通させる第3連通孔(59)を形成することを特徴とする、請求項1に記載のトランスミッションのオイル排出構造。
【請求項3】
前記第1室(54)内から前記隔壁(52a)を貫通して前記第2室(55)内に延出する第2回転軸(14)に第2回転体(18)を設け、
前記第2回転体(18)の上部外周面に対向する位置から該第2回転体(18)の回転方向遅れ側に向かって下方に延びる第3壁面(55c)の端部から、前記第2回転体(18)の外周面に向かって延びる第3リブ(65)を突設し、前記第3壁面(55c)および前記第3リブ(65)に挟まれた位置に臨む前記隔壁(52a)に前記第2室(55)を前記第1室(54)に連通させる第4連通孔(60)を形成することを特徴とする、請求項1に記載のトランスミッションのオイル排出構造。
【請求項4】
前記第1回転軸(13)および前記第2回転軸(14)の回転方向は同一であり、軸方向視で前記第1、第2回転軸(13,14)の回転方向が反時計方向である場合には、前記第2回転軸(14)は前記第1回転軸(13)の右側上方に位置し、軸方向視で前記第1、第2回転軸(13,14)の回転方向が時計方向である場合には、前記第2回転軸(14)は前記第1回転軸(13)の左側上方に位置することを特徴とする、請求項2または請求項3に記載のトランスミッションのオイル排出構造。
【請求項5】
前記第2室(55)の形状は、前記第1回転体(17)および前記第2回転体(18)の周囲を囲む小判形状ないしは楕円形状であることを特徴とする、請求項2〜請求項4の何れか1項に記載のトランスミッションのオイル排出構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−241756(P2012−241756A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110423(P2011−110423)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】