説明

トリメリット酸トリアリル重合体、及びその重合体を含む光硬化性樹脂組成物とその用途

【課題】皮膜の硬化速度(乾燥性)、および皮膜強度に優れたトリメリット酸トリアリル重合体を含有する光硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】
重量平均分子量が30,000〜5,000,000であるトリメリット酸トリアリル重合体とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有することを特徴とする光照射により硬化可能な光硬化性樹脂組成物、並びにその樹脂組成物を含有するインキ、および塗料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリメリット酸トリアリル重合体、及びその重合体を含む光硬化可能な樹脂組成物、並びにその樹脂組成物を含んでなるインキ、塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光(例えば、紫外線)により硬化させる種々の樹脂組成物は、インキ、塗料などに使用されている。例えば、紫外線硬化タイプの印刷インキは、硬化速度が早く短時間で硬化できること、有機溶剤を使わないので揮発性有機化合物(VOC)による大気汚染などの環境負荷を低減することができること、省資源・省エネルギーであること等の点が高く評価され実用化が広がっている。具体的には、紫外線により硬化する印刷インキとしては、(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーあるいは(メタ)アクリレートオリゴマー、顔料、光重合開始剤、各種添加剤等を含む種々の組み合わせが提案されている。
【0003】
近年、印刷インキにおいて印刷の高速化がなされており、昨今の省資源、省エネルギーの観点からさらなる印刷速度の高速化が望まれている。高速印刷のためには、印刷された皮膜の硬化速度(乾燥性)を上げる必要があり、その手法としてエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の不飽和基濃度を高くした多官能モノマーを用いたり、高性能の光重合開始剤又は光増感剤などを用いる手法が用いられている(特許文献1)。しかしながら、化合物中の不飽和基濃度を高くした多官能モノマーを用いることで、皮膜の硬化速度を上げることは可能であるが、化合物の価格が高価となり工業的に実用的な方法とはいえない。また、高性能の光重合開始剤を用いる方法もコストが高くなるといった問題がある。よって、これらの手法以外の方法を用いて皮膜の硬化速度(乾燥性)に優れ、かつ皮膜強度の強い光硬化性樹脂組成物の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7―11166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、皮膜の硬化速度(乾燥性)、及び皮膜強度に優れた光硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有する光硬化性樹脂組成物において、重量平均分子量が30,000〜5,000,000であるトリメリット酸トリアリル重合体を光硬化性樹脂組成物に添加することで、皮膜の硬化速度(乾燥性)、および皮膜強度に優れた樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、
重量平均分子量が30,000〜5,000,000であるトリメリット酸トリアリル重合体である。
【0008】
さらに、本発明は、
上記のトリメリット酸トリアリル重合体とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有することを特徴とする光照射により硬化可能な光硬化性樹脂組成物である。さらに、本発明は、上記光硬化性樹脂組成物を含有するインキ及び塗料を提供する。
【0009】
項1.重量平均分子量が30,000〜5,000,000であるトリメリット酸トリアリル重合体。
項2.重量平均分子量が30,000〜5,000,000であるトリメリット酸トリアリル重合体とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有することを特徴とする光照射により硬化可能な光硬化性樹脂組成物。
項3.エチレン性不飽和二重結合を有する化合物が、脂肪族、脂環式または芳香族の(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、及びポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーから選択される1種以上である項2に記載の光硬化性樹脂組成物。
項4.さらに、光重合開始剤を含有する項2又は3に記載の光硬化性樹脂組成物。
項5.項2〜4のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を含んでなるインキ。
項6.項2〜4のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を含んでなる塗料。
項7.オーバープリントワニスである項6に記載の塗料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、重量平均分子量が30,000〜5,000,000であるトリメリット酸トリアリル重合体を、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有する光硬化性樹脂組成物に添加することにより、皮膜の硬化速度(乾燥性)、および皮膜強度に優れた光硬化性樹脂組成物が得られる。また、本発明の光硬化性樹脂組成物は、インキ、塗料に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
トリメリット酸トリアリル重合体
本発明に用いるトリメリット酸トリアリル重合体は、トリメリット酸トリアリルの単量体を重合して得られる重合体である。トリメリット酸トリアリル重合体の重量平均分子量は30,000〜5,000,000であることが好ましく、30,000〜2,500,000であることがより好ましく、30,000〜2,000,000であることがさらに好ましく、40,000〜1,500,000であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量が5,000,000を超えると光硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり、樹脂組成物を調整する際の作業効率が悪くなる。また、重量平均分子量30,000未満の重合体は、重合反応において、収率が低いため実用的ではない。
【0013】
本発明に用いるトリメリット酸トリアリルの単量体は、通常の合成方法で合成されたものを用いてもよく、市販されているものを用いてもよい。
【0014】
本発明におけるトリメリット酸トリアリル重合体の重合反応は、重合開始剤を用いて、通常の方法で行なうことができる。重合時の反応温度は60〜240℃、例えば80〜220℃であることが好ましい。反応時間は0.1〜100時間、例えば0.1〜30時間であることが好ましい。
【0015】
本発明の重合反応に用いる重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル等のアゾ開始剤、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド)、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル等の過酸化物開始剤、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン系、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン系、ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド等のリン系、チオキサントン等のイオウ系、ベンジル、9,10-フェナンスレンキノン等のジベンジル系の開始剤を例示することができる。
【0016】
本発明の重合反応に用いる重合開始剤の量は、トリメリット酸トリアリルの単量体100重量部に対して、1.0重量部以下であり、0.5重量部以下であることが好ましく、例えば0.001〜0.5重量部であることがより好ましい。
【0017】
光硬化性樹脂組成物
本発明の光硬化性樹脂組成物は、少なくとも上述したトリメリット酸トリアリル重合体、及びエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物である。
【0018】
本発明の光硬化性樹脂組成物中に用いるトリメリット酸トリアリル重合体とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の配合比(トリメリット酸トリアリル重合体:エチレン性不飽和二重結合を有する化合物)は、5:95〜95:5の範囲で適宜選択することができ、中でも光硬化性樹脂組成物の皮膜の硬化速度の点で、5:95〜60:40の範囲であることが好ましく、10:90〜50:50の範囲であることがより好ましく、15:85〜45:55の範囲であることがさらに好ましい。上記範囲であれば、光硬化を行なう際に十分な硬化速度が得られる。
【0019】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、トリメリット酸トリアリル重合体、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物以外に、必要に応じて、光重合開始剤、光開始助剤、安定剤(例えば、ハイドロキノン、メトキノン等の重合禁止剤)、顔料(例えば、フタロシアニンブルー、ジスアゾイエロー、カーミン6B、レーキッドC、カーボンブラック、チタンホワイト)等の着色剤、充填剤、粘度調整剤等の各種添加剤を本発明の効果に影響を与えないかぎり含有させてもよい。
【0020】
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物
本発明に用いられるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、光照射により硬化可能なものであれば、特に制限なく用いることができる。エチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、例えば1〜10個、特に2〜6個の炭素-炭素二重結合を有する化合物を用いることができる。
【0021】
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、脂肪族、脂環式または芳香族の(メタ)アクリレートモノマー、アリル型モノマー、ビニル型モノマーや、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーなどを例示することができる。また、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、2種以上の化合物を混合したものを用いることもできる。
【0022】
脂肪族(メタ)アクリレートモノマーのうち、単官能のタイプとしては、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN−置換アクリルアミド等を例示することができる。具体的には、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、メトキシプロピレングリコールアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレートである。
【0023】
脂肪族(メタ)アクリレートモノマーのうち、多官能のタイプとしては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルキレンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;エチレンオキサイド,プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール等のテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパン等のテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール、エトキシ化ペンタエリスリトール等のペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール等のヘキサ(メタ)アクリレートを例示することができる。具体的には、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートである。
【0024】
脂環式(メタ)アクリレートモノマーのうち、単官能のタイプとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられ、具体的には、シクロヘキシルアクリレートである。多官能のタイプとしては、ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレートを例示することができ、具体的には、ジシクロペンタジエニルジアクリレートである。
【0025】
芳香族(メタ)アクリレートモノマーのうち、単官能のタイプとしては、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられ、具体的には、フェニルアクリレートである。多官能のタイプとしては、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート等を例示することができ、具体的には、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレートである。
【0026】
ビニル型モノマーとしては、スチレン、α―メチルスチレン、ジビニルベンゼン、N―ビニルピロリドン、酢酸ビニル、N―ビニルホルムアミド、N―ビニルカプロラクタム、アルキルビニルエーテル等を例示することができる。
【0027】
アリル型モノマーとしては、トリ(メタ)アリルイソシアヌレート等を例示でき、具体的には、トリメタリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートである。
【0028】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、エチレングリコール等のエーテルグリコールをジイソシアネートで鎖延長して、その両末端を(メタ)アクリレート化したポリエーテルウレタン(メタ)アクリレート、エーテルグリコールの代わりにポリエステルグリコールを用いたポリエステルウレタン(メタ)アクリレート、その他、カプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオール等を用いたものを例示することができる。
【0029】
エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化油型等のエポキシ基に(メタ)アクリル酸を反応せしめたものを例示することができる。
【0030】
ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーは、多塩基酸と多価アルコールを重縮合せしめて、水酸基またはカルボキシル基を有するポリエステルを得、ついで該ポリエステル中の水酸基と(メタ)アクリル酸とをエステル化し、あるいは該ポリエステル中のカルボキシル基と水酸基含有(メタ)アクリレートとをエステル化することにより得られるもの例示することができる。上記オリゴマーにおいて構造の基本となる部分、例としてポリウレタン(メタ)アクリレートの場合にはジオール成分の種類は、特に1種類に限定されるわけでは無く、異種のものを混合してもよい。
【0031】
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物として、脂肪族、脂環式または芳香族の(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーから選択される1種以上である化合物が好ましい。
中でも皮膜の硬化速度の点で、脂肪族(メタ)アクリレートモノマーの多官能のタイプとして、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;エチレンオキサイド,プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール等のテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパン等のテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール、エトキシ化ペンタエリスリトール等のペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール等のヘキサ(メタ)アクリレートがより好ましく、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートがさらに好ましい。
【0032】
その他添加剤
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤を含有させてもよい。光硬化性樹脂組成物に含有される光重合開始剤としては、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン系、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン系、ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド等のリン系、チオキサントン等のイオウ系、ベンジル、9,10-フェナンスレンキノン等のジベンジル系を例示することができる。光重合開始剤の量は、トリメリット酸トリアリル重合体とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の配合量の合計を100重量部とした場合に対して、40重量部以下であり、0.1〜20重量部であることが好ましく、例えば0.5〜15重量部であることがより好ましい。
【0033】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光開始助剤(例えば、トリエタノールアミン等のアミン系光開始助剤)を併用してもよい。光開始助剤の量は、トリメリット酸トリアリル重合体とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の配合量の合計を100重量部とした場合に対して、20重量部以下であり、例えば0.5〜10重量部であることが好ましい。
【0034】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、安定剤を含んでいてもよい。安定剤の量は、トリメリット酸トリアリル重合体とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の配合量の合計を100重量部とした場合に対して、1重量部以下であり、例えば0.001〜0.5重量部であってもよい。着色剤の量は、トリメリット酸トリアリル重合体とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の配合量の合計を100重量部とした場合に対して、100重量部以下であり、例えば5〜80重量部であることが好ましい。
【0035】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、トリメリット酸トリアリル重合体、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物、必要に応じて、光重合開始剤、光開始助剤、添加剤(例えば、安定剤、顔料)等を混合することによって製造できる。本発明の光硬化性樹脂組成物は、光を照射することによって硬化する。光は、一般に紫外線である。
光硬化性樹脂組成物を硬化反応に用いる硬化装置、また、硬化条件は特に限定されず、通常の光硬化反応に用いられる方法であればよい。なお、硬化反応時のコンベア速度は、硬化後のコート面を指で触り、コート面に指紋が付かないコンベアスピード[(タックフリーコンベアスピード)という。(乾燥性がよいほど、タックフリーコンベアスピードの値が大きくなる)]で硬化させることが好ましい。
【0036】
本発明の光硬化性樹脂組成物の用途は特に限定されない。インキ(例えば、光硬化性平版用印刷インキ、シルクスクリーンインキ、グラビアインキなどの印刷インキ)、塗料(例えば、紙用、プラスチック用、金属用、木工用等の塗料、例示すれば、オーバープリントワニス)などの技術分野において使用することができる。
【0037】
例えば、インキの一般的作製方法は次のとおりである。エチレン性不飽和二重結合を有する化合物にトリメリット酸トリアリル重合体を40℃〜140℃の温度で攪拌しながら溶解させた後、必要に応じて、安定剤(特に、ハイドロキノン、メトキノン等の重合禁止剤)および/または光重合開始剤を添加して混合物を得る。この混合物に顔料を添加することにより、インキが得られる。また、オーバープリントワニスの作成は、顔料を使用しない以外は、インキと同様の手順により行える。
【0038】
本発明のトリメリット酸トリアリル重合体を、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有する光硬化性組成物に用いることで、従来課題であった皮膜の硬化速度(乾燥性)、および皮膜強度を改善できる。
【0039】
実施例
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(分析方法)
後述する製造例において、トリメリット酸トリアリル重合体の分析は下記に記載の方法を用いて行った。
【0041】
トリメリット酸トリアリル重合体の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)
重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)はGPCを用いて測定した。標準ポリスチレン換算の重量平均分子量の値である。
カラム:ShodexKF-806L、KF-804、KF-803、KF-802、KF-801を直列に接続
流速:1.0mL/min
温度:40℃
検出器:SPD−6A(UV波長254nm、ABSORB2.56)
試料:試料4mgをテトラヒドロフラン8mLに溶解させ測定用のサンプルとした。
【0042】
製造例1 トリメリット酸トリアリル重合体1の製造
500mLのセパラブルフラスコにトリメリット酸トリアリルの単量体150g、ジクミルパーオキサイド0.02mol/L(0.699g)を加え、120℃、75分加熱攪拌した。空冷にて40℃まで冷却後、フラスコにメタノール0.4kgを加え、重合体を沈殿させた。バス温度65℃で30分還流させ、得られた重合体から単量体の抽出を実施した。単量体抽出後に得られた重合体を50℃で12時間減圧乾燥し、重合体1として実施例1に用いた。(収量:30g,収率:20%,Mw=100万,Mw/Mn=30.0)。
【0043】
製造例2 トリメリット酸トリアリル重合体2の製造
500mLのセパラブルフラスコにトリメリット酸トリアリルの単量体150g、ジクミルパーオキサイド0.02mol/L(0.699g)を加え、120℃、70分加熱攪拌した。空冷にて40℃まで冷却後、フラスコにメタノール0.4kgを加え、重合体を沈殿させた。バス温度65℃で30分還流させ、得られた重合体から単量体の抽出を実施した。単量体抽出後に得られた重合体を50℃で12時間減圧乾燥し、重合体2として実施例2に用いた。(収量:27g,収率:18%,Mw=50万,Mw/Mn=23.0)。
【0044】
製造例3 トリメリット酸トリアリル重合体3の製造
500mLのセパラブルフラスコにトリメリット酸トリアリルの単量体150g、ジクミルパーオキサイド0.02mol/L(0.699g)を加え、120℃、60分加熱攪拌した。空冷にて40℃まで冷却後、フラスコにメタノール0.4kgを加え、重合体を沈殿させた。バス温度65℃で30分還流させ、得られた重合体から単量体の抽出を実施した。単量体抽出後に得られた重合体を50℃で12時間減圧乾燥し、重合体3として実施例3に用いた。(収量:23g,収率:15%,Mw=12万,Mw/Mn=7.0)。
【0045】
製造例4 トリメリット酸トリアリル重合体4の製造
500mLのセパラブルフラスコにトリメリット酸トリアリルの単量体150g、ジクミルパーオキサイド0.02mol/L(0.699g)を加え、120℃、30分加熱攪拌した。空冷にて40℃まで冷却後、フラスコにメタノール0.4kgを加え、重合体を沈殿させた。バス温度65℃で30分還流させ、得られた重合体から単量体の抽出を実施した。単量体抽出後に得られた重合体を50℃で12時間減圧乾燥し、重合体4として実施例4に用いた。(収量:12g,収率:8%,Mw=4万,Mw/Mn=5.0)。
【0046】
以下に実施例および比較例で用いた配合剤を示す。
※1 樹脂1;飽和ポリエステル樹脂(バイロン220、東洋紡績(株)製)
※2 アクリレートモノマー;ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート
※3 光重合開始剤;BASFジャパン(株)製 2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(Irgacure907)
※4 重合禁止剤;BASFジャパン(株)製 オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(Irganox1076)
【0047】
1)光硬化性樹脂組成物の調製
下記表1に示す配合により、各光硬化性樹脂組成物をアクリレートモノマー70重量部に製造例1〜4で製造した重合体1〜4、又は樹脂1をそれぞれ30重量部、重合禁止剤を0.3重量部加え、100℃に加熱しながら固体が完全に溶解するまで撹拌した。続いて、光重合開始剤を10重量部加え、完全に溶解させることで調製した。
【0048】

【0049】
2)硬化皮膜の作成
表1に示される各樹脂組成物を片アート紙にバーコーター(#2)でコートして、コンベア型紫外線硬化装置(アイグラフィックス(株)製、条件:出力60W/cmのメタルハライドランプ、照射距離10cm)を用いて、硬化皮膜を作成した。硬化皮膜の乾燥性は、硬化後コート面を指で触り、コート面に指紋が付かない状態であるタックフリー状態になる最も速いコンベアスピード(m/分)で各評価を実施した。
【0050】
3)硬化皮膜強度の評価方法
表1に示される各樹脂組成物をスライドガラス(松浪硝子工業(株)製 S9213)に1)の硬化皮膜の作成と同様の方法で硬化皮膜を作成した。JISK5600−5−4の引っかき硬度(鉛筆法)に準拠した方法で鉛筆硬度として評価した。
【0051】
実施例1〜4及び比較例1 硬化皮膜の乾燥性と皮膜強度の評価
上述した方法を用いて各樹脂組成物の硬化皮膜の乾燥性と皮膜強度の評価を行った。乾燥性及び皮膜強度の結果を下記表2に示す。
【0052】

【0053】
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有する光硬化性組成物において、トリメリット酸トリアリル重合体を光硬化性樹脂組成物に添加させることで、皮膜の硬化速度(乾燥性)、および皮膜強度の優れた樹脂組成物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、インキ(例えば、オフセットインキ)などに使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が30,000〜5,000,000であるトリメリット酸トリアリル重合体。
【請求項2】
重量平均分子量が30,000〜5,000,000であるトリメリット酸トリアリル重合体とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有することを特徴とする光照射により硬化可能な光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物が、脂肪族、脂環式または芳香族の(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、及びポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーから選択される1種以上である請求項2に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、光重合開始剤を含有する請求項2又は3に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を含んでなるインキ。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を含んでなる塗料。
【請求項7】
オーバープリントワニスである請求項6に記載の塗料。


【公開番号】特開2013−87209(P2013−87209A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229564(P2011−229564)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】