説明

トルク伝達機構

【課題】ロータが回転軸よりも熱膨張係数の高い材料により形成されていても、幅広い温度域にて回転軸とロータとの間で必要なトルクを伝達することが可能なトルク伝達機構の提供。
【解決手段】回転軸11と、回転軸11と共に回転するロータ12と、を有し、回転軸11と前記ロータ12との間でトルクを伝達するトルク伝達機構10である。圧入により回転軸11と締結される締結体25が備えられ、ロータ12は連結部材20を介して締結体25に連結され、連結部材20はロータ12と締結体25との相対回転を規制する。締結体25はロータ12よりも熱膨張係数の低い材料により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転軸とロータとの間でトルクを伝達するトルク伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトルク伝達機構としては、例えば、特許文献1に開示された多段ドライポンプにおけるトルク伝達機構が存在する。
このトルク伝達機構は、多段ドライポンプが備えるロータと回転軸との間でトルクを伝達するようにしている。
ロータには軸孔が形成されており、この軸孔へ回転軸を圧入することにより、ロータと回転軸を締結する締結部が形成される。
【0003】
このトルク伝達機構では、回転軸の材料とロータの材料が互いに異なる材料により形成されている。
回転軸の材料はオーステナイト系材料により形成され、オーステナイト系材料は線膨張係数が小さい材料とされている。
ロータの材料はアルミニウムにより形成され、アルミニウムは比較的加工が容易な材料とされている。
このトルク伝達機構によれば、高温となっても回転軸の軸方向の熱膨張を抑えることができるとしている。
【0004】
別の従来技術としては、特許文献2に開示された水ポンプ装置におけるトルク伝達機構が存在する。
このトルク伝達機構では、軸体の外周面にプーリシートを圧入により締結し、プーリシートに対してプーリをボルトにより固定している。
このトルク伝達機構では、軸体とプーリシートとの間のトルク伝達は、回転軸とプーリシートとの締結部を通じて行われる。
プーリシートとプーリとの間ではボルトにせん断力が作用する。
プーリシートからプーリへのトルクの伝達は、このボルトに作用するせん断力を利用して行われる。
【特許文献1】特開2005−98210号公報
【特許文献2】特開2005−133849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された従来のトルク伝達機構では、ロータの熱膨張が回転軸の熱膨張よりも大きいことから、例えば、トルク伝達機構の使用環境時の温度差が250℃程度になると、ロータと回転軸の熱膨張差又は熱収縮差が過大となる。
ロータと回転軸の熱膨張差又は熱収縮差が過大となると、締結部におけるロータの塑性変形、あるいは、ロータと回転軸の締め付け不足が生じる。
ロータの塑性変形やロータと回転軸の締め付け不足は、ロータと回転軸との間で滑りを招き、必要なトルクを正常に伝達することができなくなる。
特に、回転軸及びロータの位相が常に一致するように、ロータと回転軸との間で滑りのない寸法管理が要求されるトルク伝達機構では、この従来技術を適用することはできない。
近年では、使用環境時の温度差が250℃程度を超える条件下でのトルク伝達機構の使用が要請されている。
【0006】
なお、特許文献2に開示されたトルク伝達機構では、軸体とプーリとの熱膨張差を課題としておらず、それに対する考慮はない。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、ロータが回転軸よりも熱膨張係数の高い材料により形成されていても、幅広い温度域にて回転軸とロータとの間で必要なトルクを伝達することが可能なトルク伝達機構の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明は、回転軸と、該回転軸と共に回転するロータと、を有し、前記回転軸と前記ロータとの間でトルクを伝達するトルク伝達機構において、圧入により前記回転軸と締結される締結体が備えられ、前記ロータは連結部材を介して前記締結体に連結され、前記連結部材は前記ロータと前記締結体との相対回転を規制し、前記締結体は前記ロータよりも熱膨張係数の低い材料により形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、連結部材によるロータと締結体との連結により、締結体とロータとの相対回転は不能である。
回転軸とロータとの間のトルクの伝達は、回転軸と締結体との間のトルクの伝達と、締結体とロータとの間のトルクの伝達と、により行われる。
回転軸と締結体との間では、圧入による回転軸と締結体との締結に基づきトルクが伝達される。
締結体とロータの間では、連結部材にせん断力が作用し、このせん断力を利用して、締結体とロータとの間でトルクが伝達される。
締結体がロータよりも熱膨張係数(線膨張係数)が低い材料により形成されているため、連結部材によるトルク伝達性能は温度変化の影響を受けにくい。
従って、本発明によれば、ロータが回転軸よりも熱膨張係数が高い材料により形成されていても、回転軸とロータとの間で必要なトルクを伝達することができる。
【0010】
また、本発明では、上記のトルク伝達機構において、前記締結体が一対備えられ、前記ロータは、前記回転軸の軸方向に対して一対の前記締結体の間に配置されるとともに、前記連結部材を介して前記締結体に夫々連結されてもよい。
【0011】
この場合、回転軸の軸方向において一対の締結体が配置され、ロータは一対の締結体の間に配置され、各締結体は連結部材にロータに連結される。
従って、本発明によれば、ロータの一方のみに締結体が連結される場合と比較して、軸方向におけるロータの重量バランスがよくなる。
【0012】
さらに、本発明は、上記のトルク伝達機構において、前記連結部材を挿入する複数の挿入孔が前記ロータ及び前記締結体に形成され、前記ロータ及び前記締結体のいずれか一方の挿入孔は、熱膨張差による前記ロータ及び前記締結体の半径方向への相対変位を許容する可動空間を備えてもよい。
【0013】
この場合、ロータと締結体は複数の連結部材により連結される。
連結部材はロータ及び締結体に設けられた複数の挿入孔に挿入される。
ロータ及び締結体のいずれか一方の挿入孔は可動空間を備え、可動空間は熱膨張差による前記ロータ及び前記締結体の半径方向への相対変位を許容する。
温度によっては、ロータと締結体との熱膨張差により、半径方向におけるロータと締結体の相対変位が生じる場合がある。
この場合、連結部材はロータと締結体の相対変位に応じて挿入孔の可動空間内を半径方向へ変位する。
他方の挿入孔は可動空間が備えられず、連結部材は他方の挿入孔に固定されている。
ロータと締結体の相対変位による半径方向のせん断力は連結部材に発生しない。
挿入孔内での連結部材の周方向への変位は規制される。
本発明によれば、熱膨張差によりロータと締結体の半径方向への相対変位が生じても、連結部材における半径方向のせん断力の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ロータが回転軸よりも熱膨張係数の高い材料により形成されていても、幅広い温度域にて回転軸とロータとの間で必要なトルクを伝達することが可能なトルク伝達機構を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係るトルク伝達機構を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るトルク伝達機構を示す縦断面図であり、図2はトルク伝達機構の要部を一部破断して示す分解斜視図である。
図3はトルク伝達機構の要部を拡大した拡大縦断面図であり、図3(a)は温度上昇時のスリーブとロータとの相対変位を示す図であり、図3(b)は温度下降時のスリーブとロータとの相対変位を示す図である。
図1に示すトルク伝達機構10は、水平に配置される回転軸11と、中心に回転軸11が挿通されるロータ12と、回転軸11及びロータ12と締結される締結体としての一対のスリーブ25と、ロータ12とスリーブ25とを連結する連結部材としての複数のピン20と、から構成されている。回転軸11の軸心を軸心Pとする。
説明の便宜上、図1の左方を一方、右方を他方とする。
【0016】
回転軸11は、軸受(図示せず)によりハウジング等の支持体(図示せず)に回転自在に水平に支持されている。
回転軸11の一方の端部は駆動源(図示せず)と接続されている。
この実施形態のトルク伝達機構10は、駆動源の駆動により回転軸11を回転させて、回転軸11からロータ12へトルクを伝達する機構である。
【0017】
この実施形態のロータ12は、図2に示すように繭形の端面形状を有するロータであり、ロータ12はポンプロータとして適した形状を呈している。
ロータ12は回転軸11が挿通される軸孔14を備えている。
軸孔14はロータ12の中心を貫通して形成されており、軸孔14の孔径は回転軸11の軸径よりも大きく設定されている。
ロータ12は、外周を形成するロータ外周面13と、軸心P方向に対して垂直な一対の端面12A、12Bを備えている。
【0018】
一方の端面12Aには、スリーブ25を収容する収容空間部が形成されている。
収容空間部には、内周面をなすロータ内周面17Aと、底面をなすロータ底面18Aと、が備えられている。
ロータ内周面17Aは軸心Pと同心の内周面である。
ロータ底面18Aは軸心P方向に対して垂直な面である。
ロータ底面18Aには、軸孔14と平行に穿孔された4個のロータ側挿入孔19Aが形成されている。
ロータ側挿入孔19Aはピン20の一部が挿入される有底の挿入孔である。
ピン20はロータ12とスリーブ25を連結する連結部材に相当し、この実施形態のピン20はスプリングピンである。
【0019】
各ロータ側挿入孔19Aは、軸孔14の中心から等距離の位置に形成されている。
互いに隣り合うロータ側挿入孔19A間の距離は夫々等距離となっている。
ロータ側挿入孔19Aの横断面は長孔であり、各ロータ側挿入孔19Aは周方向の孔径よりも半径方向の孔径が長くなるように形成されている。
つまり、ロータ側挿入孔19Aは半径方向へピン20の変位を許容する可動空間Yを備えている。
可動空間Yの寸法はロータ側挿入孔19Aの長径の寸法により規定される。
長径の寸法はロータ12とスリーブ25との熱膨張係数の差に基づいて設定される。
ロータ12とスリーブ25の熱膨張の差が大きい場合にはこの寸法を大きく設定すればよい。
【0020】
ロータ12の他方の端面12Bには、スリーブ25を収容する収容空間部が形成されている。
収容空間部には、内周面をなすロータ内周面17Bと、底面をなすロータ底面18Bと、が備えられている。
ロータ内周面17Bは軸心Pと同心の内周面であり、ロータ底面18Bは軸心P方向に対して垂直な面である。
ロータ底面18Bには、軸孔14と平行に穿孔された4個のロータ側挿入孔19Bが形成されている。
ロータ側挿入孔19Bはピン20が挿入される有底の挿入孔である。
【0021】
各ロータ側挿入孔19Bは軸孔14から等距離の位置に形成されており、互いに隣り合うロータ側挿入孔19B間の各距離は等距離となっている。
ロータ側挿入孔19Bの横断面は長孔であり、各ロータ側挿入孔19Bは周方向の孔径よりも径方向の孔径が長くなるように形成されている。
ロータ側挿入孔19Bは半径方向へピン20の変位を許容する可動空間Yを備えている。
可動空間Yの寸法はロータ側挿入孔19Bの長径の寸法により規定される。
長径の寸法はロータ12とスリーブ25との熱膨張係数の差に基づいて設定される。
ロータ12とスリーブ25の熱膨張係数の差が大きい場合にはこの寸法を大きく設定すればよい。
【0022】
次に、締結体としてのスリーブ25について説明する。
この実施形態のスリーブ25は、回転軸11が圧入される軸孔としてのスリーブ孔26を備えている。
スリーブ孔26はスリーブ25の中心を貫通して形成されている。
スリーブ25は、外周を形成するスリーブ外周面27と、軸心Pと直角な一対の端面25A、25Bを備えている。
一方のスリーブ25は、端面25Bがロータ底面18Aと対向した状態でロータ12の端面12A側の収容空間部に収容されている。
他方のスリーブ25は、端面25Bがロータ底面18Bと対向した状態でロータ12の端面12B側の収容空間部に収容されている。
【0023】
スリーブ外周面27の直径はロータ内周面17A、17Bの直径よりも小さく設定されている。
スリーブ25の端面25Bには、スリーブ孔26に穿孔された4個のスリーブ側挿入孔28が形成されている。
スリーブ側挿入孔28はピン20の一部が挿入される有底の挿入孔である。
各スリーブ側挿入孔28はスリーブ孔26の中心から等距離の位置に形成されている。
互いに隣り合うスリーブ側挿入孔28間の距離は夫々等距離となっている。
スリーブ25における各スリーブ側挿入孔28の位置は、ロータ12におけるロータ側挿入孔19A、19Bの位置と夫々対応する。
スリーブ側挿入孔28の横断面は円形である。
【0024】
この実施形態では一対のスリーブ25がロータ12に連結されている。
一方のスリーブ25のスリーブ孔26への回転軸11の圧入により、スリーブ孔締結部SAが形成されている。
他方のスリーブ25のスリーブ孔26への回転軸11の圧入により、スリーブ孔締結部SBが形成されている。
スリーブ孔締結部SA、SBは所定の締め付け力によりスリーブ25と回転軸11を互いに締結する。
一対のスリーブ25、25の間にロータ12が配置されている。
【0025】
ロータ12とスリーブ25はピン20により連結されている。
ピン20の半分程度は、ロータ側挿入孔19A、19Bに挿入される部位であり、ピン20の残り半分の部位はスリーブ側挿入孔28に挿入される部位である。
ピン20が、径方向の拡張力を備えるスプリングピンであることから、ピン20のスリーブ側挿入孔28に挿入されている部位はスリーブ25に対して固定される。
ロータ側挿入孔19A、19Bは長孔であるから、ロータ側挿入孔19A、19Bに挿入されるピン20の部位は、周方向への変位が規制されるものの、半径方向への変位は可動空間Yの範囲で可能である。
ロータ12とスリーブ25を連結するピン20は、ロータ12とスリーブ25との相対回転を規制する。
回転軸11はロータ12の軸孔14に挿通されているが、ピン20によるロータ12とスリーブ25との連結と、軸孔14の孔径が回転軸11の軸径よりも若干大きく設定されていることとから、回転軸11はロータ12と接触しない。
【0026】
この実施形態では、回転軸11及びスリーブ25は鉄系金属材料により形成され、ロータ12はアルミ系金属材料により形成されている。
アルミ系金属材料は、鉄系金属材料よりも熱膨張係数が大きい材料である。
スリーブ25と回転軸11は熱膨張係数が同じ材料により形成されることから、温度変化による回転軸11とスリーブ25の熱膨張差は存在しない。
【0027】
次に、トルク伝達機構10の作用について説明する。
この実施形態のトルク伝達機構10では、回転軸11とロータ12との間のトルクの伝達は、回転軸11とスリーブ25との間のトルクの伝達と、スリーブ25とロータ12との間のトルクの伝達と、により行われる。
従って、トルクは回転軸11とロータ12との間では直接的に伝達されない。
【0028】
回転軸11とスリーブ25との間では、スリーブ孔締結部SA、SBを通じてトルクが伝達される。
同じ材料により形成される回転軸11とスリーブ25には、温度変化による熱膨張差が存在しない。
従って、スリーブ孔締結部SA、SBにおける締め付け力は温度変化により変動せず、スリーブ孔締結部SA、SBのトルク伝達性能は温度変化に関わらず不変である。
【0029】
回転軸11が回転されると、ロータ12とスリーブ25の間では、ピン20にせん断力が作用する。
このせん断力を利用してロータ12とスリーブ25の間でトルクが伝達される。
このため、ロータ12がスリーブ25よりも熱膨張係数が高い材料により形成されていても、ピン20によるトルク伝達性能は温度変化に関係なく不変である。
【0030】
ところで、スリーブ25は鉄系金属材料により形成され、ロータ12はアルミ系金属材料により形成されている。
例えば、温度が高くなると、ロータ12及びスリーブ25は熱膨張により夫々径を拡大する。
温度が上昇するにつれて、ロータ12とスリーブ25との熱膨張差は拡大し、ロータ12はスリーブ25よりも径の拡大の度合いが大きくなる。
ロータ12とスリーブ25の径の拡大の度合いの差は、ロータ12とスリーブ25の半径方向の相対変位を生じる。
ロータ側挿入孔19A、19Bの可動空間Yは、熱膨張差によるロータ12及びスリーブ25の半径方向への相対変位を許容する。
【0031】
温度が高くなる場合、ロータ12とスリーブ25の相対変位は、図3(a)に示すようになる。
このロータ12とスリーブ25の相対変位について、スリーブ25側からみると、ロータ12はスリーブ25に対して外周側へ向けて変位する。
図3(a)では常温時のロータ12の状態を二点鎖線により示し、温度上昇時のロータ12の状態を実線により示す。
温度上昇によるロータ12とスリーブ25との半径方向の相対変位が発生すると、ピン20は可動空間Yの軸孔14側へ変位する。
図示はしないが、ロータ側挿入孔19Bにおけるピン20も可動空間Yの軸孔14側へ変位する。
【0032】
温度が低くなると、ロータ12はスリーブ25よりも径の縮小の度合いが大きくなる。
トルク伝達機構の使用が想定される最低温度(例えば、−40℃程度)に近づいた場合、ロータ12とスリーブ25の相対変位は、図3(b)に示すようになる。
このロータ12とスリーブ25の相対変位について、スリーブ25側からみると、ロータ12はスリーブ25に対して軸心P側へ向けて変位する。
図3(b)では常温時のロータ12の状態を二点鎖線により示し、温度下降時のロータ12を実線により示す。
温度下降によるロータ12とスリーブ25との半径方向の相対変位により、ピン20がロータ側挿入孔19A内の周側へ変位する。
図示はしないが、ロータ側挿入孔19Bにおけるピン20もロータ側挿入孔19B内の周側へ変位する。
温度変化に応じてロータ12とスリーブ25との半径方向の相対変位が生じても、ロータ12とスリーブ25の相対変位による半径方向のせん断力はピン20に発生しない。
なお、図3(a)及び図3(b)ではピン20の一部を破断して示す。
【0033】
実施形態に係るトルク伝達機構10によれば以下の作用効果を奏する。
(1)回転軸11とロータ12との間のトルクの伝達は、回転軸11とスリーブ25との間の締結によるトルクの伝達と、スリーブ25とロータ12との間のトルクの伝達と、により行われる。スリーブ25とロータ12の間では、ピン20にせん断力が作用し、このせん断力を利用して、ロータ12とスリーブ25との間でトルクが伝達される。これらの構成により、ロータ12が回転軸11よりも熱膨張係数が高い材料により形成されていても、ロータ12より熱膨張係数が低いスリーブ25によって、回転軸11とスリーブ25との間の熱膨張差が過大とならず、トルク伝達が可能である。特に回転軸11とスリーブ25を同じ熱膨張係数の材質で形成した場合は、熱膨張差の問題を有さない。ピン20によるトルク伝達性能は温度変化に関わらず不変である。従って、ロータ12がスリーブ25よりも熱膨張係数が高い材料により形成されていても、幅広い温度域にて回転軸11とロータ12との間で必要なトルクを伝達することができる。
【0034】
(2)ロータ12が回転軸11よりも熱膨張係数が高い材料により形成されているから、トルク伝達機構の使用が想定される最低温度(例えば、−40℃程度)に近づくと、ロータ12と回転軸11との間の熱収縮差が過大となる(回転軸11よりもロータ12の径の縮小の度合いが大きくなる)。これによって、従来では低温時に回転軸に圧入されるロータに塑性変形を生じていた。しかし、回転軸11に圧入されるスリーブ25の熱膨張係数はロータ12より低いため、回転軸11とスリーブ25との間では熱収縮差が過大とならず、回転軸11に圧入されるスリーブ25に塑性変形を招き難い。特に回転軸11とスリーブ25を同じ熱膨張係数の材質で形成した場合は、塑性変形の問題を有さない。
(3)回転軸11の軸方向において一対のスリーブ25が配置され、ロータ12は一対のスリーブ25の間に配置され、各スリーブ25はピン20によりロータ12に連結されるから、ロータ12の一方のみにスリーブ25が連結される場合と比較して、軸方向におけるロータ12の重量バランスがよくなる。
【0035】
(4)ロータ12とスリーブ25は複数のピン20により連結される。温度変化によって、ロータ12とスリーブ25との熱膨張差により、半径方向におけるロータ12とスリーブ25の相対変位が生じるが、ピン20はロータ12とスリーブ25の相対変位に応じてロータ側挿入孔19A、19Bの可動空間Y内を半径方向へ変位する。このため、ロータ12とスリーブ25との熱膨張差によるロータ12とスリーブ25の半径方向の相対変位が生じても、ピン20における半径方向のせん断力の発生を防止することができる。
(5)ピン20がスプリングピンであることから、スリーブ側挿入孔28に対するピン20の位置決めを確実に行うことができる。
【0036】
(別例)
次に、別例に係るトルク伝達機構について図4に基づいて説明する。
この別例に係るトルク伝達機構は、連結部材としてボルトを用いた例である。
別例に係る回転軸は上記の実施形態における回転軸と同一であり、別例に係るロータは上記の実施形態におけるロータと同様である。
別例に係るトルク伝達機構において、先の実施形態と共通又は類似する要素については先の実施形態の説明を援用し、符号を共通して使用する。
【0037】
図4に示すように、この実施形態のロータ12は、回転軸11が挿通される軸孔14と、外周を形成するロータ外周面13と、一対の端面12A、12Bと、ロータ内周面17A、17Bと、ロータ底面18A、18Bを備えている点で、先の実施形態のロータ12と基本形態が類似する。
ロータ内周面17Aの端部には、軸心Pと直角なロータ底面18Aが形成されている。
ロータ内周面17Bの端部には、軸心Pと直角なロータ底面18Bが形成されている。
ロータ底面18Aには、軸孔14と平行に穿孔された挿入孔としてのボルト孔21Aが形成されている。
ロータ底面18Bには、軸孔14と平行に穿孔された挿入孔としてのボルト孔21Bが形成されている。
【0038】
ボルト孔21A、21Bは、ボルト22が螺入される有底のボルト孔である。
この実施形態のボルト22は、ロータ12とスリーブ35を連結する連結部材に相当する。
【0039】
ボルト孔21A及びボルト孔21Bは、図4において2個しか図示はされないが、夫々4個形成されている。
各ボルト孔21Aは軸孔14の中心から等距離の位置に形成されており、互いに隣り合うボルト孔21A間の距離は夫々等距離となっている。
各ボルト孔21Bは軸孔14の中心から等距離の位置に形成されており、互いに隣り合うボルト孔21B間の距離は夫々等距離となっている。
【0040】
次に、締結体としてのスリーブ35について説明する。
この実施形態のスリーブ35は、回転軸11が圧入される軸孔としてのスリーブ孔36を備えている。
スリーブ孔36はスリーブ35の中心を貫通して形成されている。
スリーブ35は、外周を形成するスリーブ外周面37と、軸心Pと一対の端面35A、35Bを備えている。
ロータ12において、ロータ内周面17A及びロータ底面18Aにより形成される収容空間部にスリーブ35が収容されている状態では、端面35Bはロータ底面18Aと対向する。
ロータ12において、ロータ内周面17B及びロータ底面18Bにより形成される収容空間部にスリーブ35が収容されている状態では、端面35Bはロータ底面18Bと対向する。
【0041】
スリーブ外周面37の直径はロータ内周面17A、17Bの直径よりも小さく設定されている。
スリーブ35の端面35Bには、軸方向に穿孔された4個のスリーブ側挿入孔38が形成されている。
スリーブ側挿入孔38は連結部材としてのボルト22が挿通される挿入孔である。
この実施形態のボルト22はキャップボルトである。
スリーブ側挿入孔38はボルト22の軸部が挿通される孔部のほかに、ボルト22の頭部を収容する凹部を備える。
各スリーブ側挿入孔38はスリーブ孔36の中心から等距離の位置に形成されており、互いに隣り合うスリーブ側挿入孔38間の距離は等距離である。
これらのスリーブ側挿入孔38はスリーブ孔36を中心に配置されている。
スリーブ35における各スリーブ側挿入孔38の形成位置は、ロータ12におけるボルト孔21A、21Bの形成位置と夫々対応する。
【0042】
スリーブ側挿入孔38の横断面は長孔であり、各スリーブ側挿入孔38は周方向の孔径よりも半径方向の孔径が長くなるように形成されている。
つまり、スリーブ側挿入孔38は半径方向へボルト22の変位を許容する可動空間Yを備えている。
可動空間Yの寸法はスリーブ側挿入孔38の長径の寸法により規定される。
この長径の寸法はロータ12とスリーブ35との熱膨張係数の差に基づいて設定される。
ロータ12とスリーブ35との熱膨張係数の差が大きい場合にはこの寸法を大きく設定すればよい。
【0043】
温度変化によりロータ12とスリーブ35との半径方向の相対変位が発生すると、ボルト22はスリーブ側挿入孔38における可動空間Yを変位する。
温度変化に応じてロータ12とスリーブ35との半径方向の相対変位が生じても、ロータ12とスリーブ35の相対変位による半径方向のせん断力はボルト22に発生しない。
この別例では、先の実施形態の作用効果(1)〜(4)とほぼ同等の作用効果を奏するほか、連結部材であるボルト22をスリーブ35の外部からロータ12のボルト孔21A、21Bへ螺入することができるので、トルク伝達機構30の組み付け作業が容易である。
【0044】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能である。
○上記の実施形態(別例を含む)では、回転軸とスリーブを同じ材料としたが、スリーブがロータよりも熱膨張係数の低い材料により形成されていれば、回転軸とスリーブの材料は異なってもよい。この場合、回転軸とスリーブの材料選択の自由度が高くなる。
○上記の実施形態(別例を含む)では、ロータの端面形状を繭形としたが、ロータは繭形に限らずポンプロータとして適した形状としてもよい。例えば、ロータの端面形状を多葉形ロータとしてもよい。また、上記の実施形態(別例を含む)では、ロータの両端面側に締結体が設けられたが、締結体をロータのいずれか一方の端面に設けるようにしてもよい。
○上記の実施形態(別例を含む)では、ロータ内周面及びスリーブ外周面の軸方向と直角な横断面を円形としたが、ロータ内周面及びスリーブ外周面の横断面は円形に限定されず、例えば、多角形、楕円等、任意の形状であってもよい。
○ 上記の実施形態(別例を含む)では、可動空間を備える挿入孔をロータ又は締結体に形成するようにしたが、ロータ及び締結体に形成される挿入孔を横断面円形の挿入孔のみとしてもよい。この場合、熱膨張差によるロータと締結体の相対変位により連結部材にせん断力が作用するが、せん断力に耐える連結部材を用いる必要がある。
○ 上記の実施形態(別例を含む)では、スリーブ毎に4個の連結部材を用いたが、横断面円形の挿入孔のみ用いる場合、連結部材は少なくとも1個以上設けるようにすればよい。複数個の連結部材を設ける場合、必ずしもロータや締結体の軸孔から等距離となるように挿入孔を設ける必要はなく、ロータの回転バランスの条件に応じて適宜の位置に挿入孔を設けてもよい。
○ 可動空間を備える挿入孔を採用する場合、回転軸とロータの位相がずれないようにするため、3個以上の連結部材を使用することが必要となる。3個以上の連結部材を使用する場合、各連結部材との間の距離が等距離となるように軸孔を中心として配置することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態に係るトルク伝達機構を示す縦断面図である。
【図2】トルク伝達機構の要部を一部破断して示す分解斜視図である。
【図3】トルク伝達機構の要部を拡大した拡大縦断面図であり、図3(a)は温度上昇時のスリーブとロータとの相対変位を示す図であり、図3(b)は温度下降時のスリーブとロータとの相対変位を示す図である。
【図4】別例に係るトルク伝達機構を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0046】
10、30 トルク伝達機構
11 回転軸
12 ロータ
13 ロータ外周面
14 軸孔
17A、17B ロータ内周面
18A、18A ロータ底面
19A、19B ロータ側挿入孔
20 ピン
21A、21B ボルト孔
22 ボルト
25、35 スリーブ
28、38 スリーブ側挿入孔
SA SB スリーブ孔締結部
P 軸心
Y 可動空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、該回転軸と共に回転するロータと、を有し、前記回転軸と前記ロータとの間でトルクを伝達するトルク伝達機構において、
圧入により前記回転軸と締結される締結体が備えられ、
前記ロータは連結部材を介して前記締結体に連結され、
前記連結部材は前記ロータと前記締結体との相対回転を規制し、
前記締結体は前記ロータよりも熱膨張係数の低い材料により形成されていることを特徴とするトルク伝達機構。
【請求項2】
前記締結体が一対備えられ、前記ロータは、前記回転軸の軸方向に対して一対の前記締結体の間に配置されるとともに、前記連結部材を介して前記締結体に夫々連結されることを特徴とする請求項1記載のトルク伝達機構。
【請求項3】
前記連結部材を挿入する複数の挿入孔が前記ロータ及び前記締結体に形成され、前記ロータ及び前記締結体のいずれか一方の挿入孔は、熱膨張差による前記ロータ及び前記締結体の半径方向への相対変位を許容する可動空間を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のトルク伝達機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−287580(P2009−287580A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137357(P2008−137357)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】